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マイトゲン活性化蛋白質キナーゼリン酸化に基づくアルツハイマー病診断
説明

マイトゲン活性化蛋白質キナーゼリン酸化に基づくアルツハイマー病診断

【課題】ヒト皮膚繊維芽細胞における、アミロイド前駆体蛋白質の蛋白質分解、アミロイド蛋白質βの分泌、および/またはtau蛋白質のリン酸化をインビトロで減らすための方法を提供する。
【解決手段】ヒト皮膚繊維芽細胞における、アミロイド前駆体蛋白質の蛋白質分解、アミロイド蛋白質βの分泌、および/またはtau蛋白質のリン酸化をインビトロで減らすための方法であって,細胞を、コントロール細胞のレベルにまでリン酸化の減少に効果的なMAPKリン酸化のインヒビターと接触させることを含み、前記インヒビターがビスインドリルマレイミド-1(BiSM-1)、蛋白質ホスファターゼ1(PP1)、または2−アミノエトキシジフェニルボラートである方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[発明の背景]
本発明は、アルツハイマー病(「AD」)を診断する及びスクリーニングする試験を提供する。前記試験の例には、前記細胞をブラジキニンなどのアゴニストまたはイノシトール 1,4,5-三リン酸(IP3)レセプターを刺激する他の因子で刺激した後に、年齢が適合するコントロールから採取した細胞と比較したAD患者から採取した皮膚繊維芽細胞中の細胞外シグナル制御キナーゼタイプ1もしくは2(「Erk1/2」)の異常に増強したリン酸化を、検出することが含まれる。リン酸化の増強は、リン酸化された蛋白質に特異的な抗体用いたウエスタンブロット、または他の類似するアプローチにより測定し得る。
【0002】
アルツハイマー病 (AD)の早期発病が、細胞内のカルシウムホメオスタシスを混乱させること、およびAD脳の興奮性の毒性および神経細胞死に寄与する酸化的ストレスのレベルを増加させることを、これまでに蓄積された証拠は指摘している(Putney, 2000; Yoo et al., 2000; Sheehan et al., 1997)。ブラジキニン レセプターの活性化およびK チャンネルの不活性化に応答して、AD脳および末梢細胞の細胞内Ca2+レベルの上昇が増強されることをいくつかの研究は報告している(Ito et al., 1994;Etcheberrigaray et al., 1994; Hirashima, et al., 1996 ; Gibson et al., 1996; Etcheberrigaray et al., 1998)。アミロイド前駆体蛋白質 (APP)、プレセニリン1およびプレセニリン2(その変異がADの発病と関連する)などの重要な蛋白質が、IP3 レセプター (IP3R)およびリアノジン レセプター (RYR-)双方が媒介する細胞内のCa2+ ホメオスタシスの調節不全を誘導することが報告されている(Yoo et al., 2000; Leissring et al., 1999; 2000; Mattson et al., 2000; Barrow et al., 2000)。サイトゾルの Ca2+ 濃度の変化は、ADの病態生理学に寄与すると考えられ、これにはプラーク形成、神経原繊維錯綜(neurfibrillay tangles)の形成に関与するtau 蛋白質の過剰リン酸化、および細胞死におけるニューロンの一般的な脆弱性の増強に関与し神経毒である42 アミノ酸β-アミロイドペプチド (APβ)の産生の増大が含まれる。
【0003】
ブラジキニン (BK)は強力な血管作用性ノナペプチド(vasoactive nonapeptide)であり、このペプチドは様々な炎症状態の過程で産生される。BKは、特定の細胞膜BKレセプターに結合しそしてこれを活性化し、これにより「マイトジェン活性化蛋白質キナーゼ」(MAPK ;以下を参照のこと)として知られる蛋白質のリン酸化に至る細胞内イベントのカスケードが惹起される。蛋白質のリン酸化(Ser、ThrまたはTyr残基へのリン酸基の付加)は、蛋白質キナーゼとして知られる多くの酵素により共同的(collectively)に媒介される反応である。
【0004】
リン酸化は、通常は蛋白質の機能を修飾し、そして大抵は蛋白質を活性化する。
【0005】
リン酸化はホメオスタシスにおいて一時的なプロセスであることが要求され、これは基質を脱リン酸化するホスファターゼ酵素により反転(reversed)される。リン酸化または脱リン酸化における如何なる異常によっても、生化学的経路および複数の細胞機能が崩壊する。かかる崩壊が、ある種の脳の病気の基礎となる可能性がある。
【0006】
BKに応答する細胞内のCa2+レベルの増大は、少なくとも「タイプ2」BKレセプター (BKb2R)(G-蛋白質共役レセプター)により媒介される。BKによるBKb2Rの刺激によってホスホリパーゼ C (PLC)が活性化され、細胞内のCa2+レベルの制御および蛋白質キナーゼ C (PKC)の活性化に関与するセカンド・メッセンジャーであるジアシルグリセロール(DAG)およびイノシトール 1,4,5-三リン酸 (IP3)の産生を生じる。PLC/リン脂質/PKC経路は、MAPK 経路を活性化するRas シグナリング 経路とも相互作用する。MAPK(またはMAP キナーゼ)は、「マイトジェン活性化蛋白質キナーゼ」と称される酵素ファミリーを意味し、そのうちの重要なメンバーは、「細胞外シグナル制御キナーゼ」タイプ1または2 (「Erk1/2」)である(Berridge, 1984 ; Bassa et al., 1999)。Erk1/2は、複数のシグナル伝達経路からのシグナルを受けとる。そしてErk1/2は、環状アデノシン1リン酸 (cAMP)応答因子結合蛋白質(CREB)を含む多くの転写因子を介した遺伝子発現の制御により細胞増殖および分化を生じる経路の一部を構成するものである。
【0007】
Erk1/2は、tau 蛋白質のSer262およびSer356を含む複数のSer/Thr部位(tauの微小管結合領域中に存在する)をリン酸化する(Reynolds et al., 2000)。
【0008】
Ser262のリン酸化は、微小管を会合させ且つ安定化させるtauの能力を顕著に損なわせる(compromises)(Biernat et al., 1993; Lu et al., 1993)。酸化的ストレスの増大、アミロイド前駆体蛋白質 (APP)の異常発現、およびAPβへの暴露は、MAPKの活性化(McDonald et al., 1998; ElcinciおよびShea, 1999; Grant et al., 1999)およびtauリン酸化の増強(Greenberg et al., 1994)を生じる。
【0009】
ヤング等(Young LT et al., Neurosci Lett, 1988, 94 : 198-202)は、ADを罹患していた10被験者および年齢が適合したコントロール10個体を検死解剖(autopsied)して採取した脳のIP3 レセプター結合部位を調査した。頭頂部(parietal)の皮質および海馬において[H]-IP3結合が50〜70%損失していたが、前頭部(frontal)、後頭部(occipital)および側頭部(temporal)の皮質、尾状核(caudate)或いは扁桃(amygdala)において変化は観察されなかった。スキャッチャード分析により、親和性の変化というよりむしろレセプター密度の減少が確認された。また、多くの神経伝達物質、ホルモンおよび成長因子は、膜レセプター部位で作用してホスファチジルイノシトール 4,5二リン酸 (PIP2)のホスホジエステラーゼ加水分解を刺激し、コメッセンジャー(comessengers)であるIP3およびジアシルグリセロール (DAG)を産生する。DAGはPKCを刺激し、一方IP3は特異的なレセプターを活性化して細胞内のカルシウム(おそらく小胞体からの)の放出を生じると当初推定された。
【0010】
早期の報告は、肝臓および副腎のミクロソーム並びに透過化処理された(permeabilized)好中球および肝臓細胞に結合した32P-IP3を検出した。Solomon Snyderのグループが、初めてIP3 レセプターを特定(localize)し、分離し、分析し、そして後にクローン化した。Worley PF等(Worley PF et al., Nature 1987; 325: 159-161)は、Hおよび32P標識したIP3に対する高親和性で選択的な結合サイトが脳(末梢組織で観察されたよりも100〜300倍高いレベル)に存在することを示した。これらのレセプタは生理学的に関連性があると考えられ、なぜならIP3 結合部位での様々なミオイノシトール(myoinositol)アナログの効力(potencies)がミクロソームからのカルシウム放出におけるそれらの効力に対応するからである。脳のオートラジオグラムは、IP3 レセプターが不連続的(discrete)で不均質(heterogeneous)に局在することを示した。1988年にこのグループ(Supattapone S et al., JBiol Chem, 1988,263: 1530-1534)は、ラット小脳からIP3 レセプターを可溶化し、均質に精製し、そしてその特性を調査した。精製したレセプターは、電気泳動において260 kDaのMrを有する1つの蛋白質バンドを呈する球状蛋白質であった。
【0011】
レビュー中でSnyder等(Cell Calcium, 1989,10: 337-342)は、精製したレセプター 蛋白質に対する抗血清を用いた免疫組織化学研究により、シナプス領域(synaptic areas)に及び核膜と密接に関連した領域に出現する粗面小胞体の細区画(subdivision)にレセプターが局在化していることを示している。IP3 レセプター 蛋白質は、cAMP依存性蛋白質キナーゼにより選択的にリン酸化された。このリン酸化により、脳膜からのカルシウム放出におけるIP3の効力が10倍減少した。Ferris CD等( Proc Natl Acad Sci USA, 1991 88 : 2232-2235)は、リポゾーム(蛋白質キナーゼを阻害し得る界面活性剤を除くため)中に再構成した精製レセプター 蛋白質を用いてIP3 レセプターのリン酸化を研究した。IP3 レセプターは、蛋白質キナーゼ C (PKC)およびCaM キナーゼ IIにより、同様に蛋白質キナーゼ A (PKA)により化学量論的にリン酸化された。IP3 レセプターは、付加的に作用する3つの酵素により触媒され、異なるペプチド配列に関係するリン酸化により制御される。Ca2+およびDAG(イノシトール リン脂質のターンオーバーの間に形成される)は、(1)Ca2+およびDAGにより刺激されたPKCによって、並びに(2)Ca2+を要求するCaM キナーゼ IIによるリン酸化によって、IP3 レセプターを制御する。Chadwick CC 等(Proc Natl Acad Sci USA, 1990 87: 2132-2136)は、平滑筋からのIP3 レセプター(224 kDaのMrを有する単一ポリペプチドのオリゴマーであった)の分離を記載している。Furuichi T等( FEBS Lett, 1990 267: 85-88)は、マウス組織中のIP3 レセプター mRNAの分布を調査した。その濃度は、小脳組織中で最大であった。IP3 レセプター mRNAは、他の脳組織:胸腺、心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、および子宮に中等度の量が存在していた。IP3 レセプター mRNAは、骨格筋および精巣組織で少量観察された。インサイチューハイブリダイゼーションに基づいて調査したところ、顕著な量のIP3 レセプター mRNAが、動脈、細気管支(bronchioles)、卵管および子宮などの平滑筋細胞に局在していた。Ferris CD 等( JBiol Chem, 1992,267: 7036-704)は、精製し、そして再構成したIP3 レセプター中のセリン自己リン酸化を実証し、そして特定のペプチド 基質に対してIP3 レセプターのセリン蛋白質キナーゼ活性を見つけた。実験者は、IP3 レセプター 蛋白質とリン酸化活性とが、同じ分子中に備わっていると結論した。Ross CA 等(Proc Natl Acad Sci USA, 1992,89: 4265-4269)は、マウスの胎盤cDNAライブラリーから、3つのIP3R cDNAs(IP3R-II,-III, および-IVと称される)をクローン化した。3つ全てが、元々クローン化されていた小脳のIP3R-Iの膜貫通ドメイン M7およびM8に対して高い相同性を示しており、多様性は主に細胞質ドメインに認められている。一般的に3つの付加的なIP3RsのmRNAのレベルは、IP3R-Iのものよりも実質的に低かったが、胃腸路では例外的に匹敵するレベルであった。
【0012】
小脳のプルキンエ細胞は、少なくとも2つ、もしかしたら3つの別個のIP3Rsを発現しており、この事実は単一細胞内におけるIP3作用の異質性を示唆している。Sharp AH(Neuroscience, 1993,53: 927-42)は、免疫組織化学的な手法を用いてラットの脳および脊髄におけるIP3 レセプター分布を詳細に調査した。IP3 レセプターは、CNS全体をとおした広い分布領域(嗅球、視床核および脊髄の後角を含む)において、脳室周囲器官群(circumventricular organs)並びに最後野(postrema)、脈絡叢(choroid plexus)、下口角器官(subcommisural organ)、松果腺(pineal gland)および下垂体(pituitary)などの神経内分泌構造(neuroendocrine structures)中の、ニューロン細胞、繊維(fibers)および終端(terminals)に存在している。ホスホイノシチド・セカンド・メッセンジャー系により媒介されるCa2+ 放出は、多様な生理学的プロセスのコントロールに重要である。リンパ球(T細胞)におけるIP3 レセプターの研究(Snyderのグループによる)によって、これらのレセプターが形質膜に局在していたことが見つけられた。
【0013】
T細胞レセプターとCD3との複合体のキャッピング(シグナル伝達に関連する)は、IP3 レセプターのキャッピングを伴うものであった。T細胞上のIP3 レセプターは、増殖応答を開始するCa2+の侵入に働くように思われる(Khan, AA et al., Science, 1992,257: 815-818)。
【0014】
更にIP3に関してWilcox RA 等( Trends Pharfyaacol Scz, 1998,19: 467475)は、レセプターが媒介するPLCの活性化(IP3を産生する)が哺乳類系に遍在するシグナリング経路であることを記載している。3つのIP3 レセプター サブタイプ単量体のファミリーは、機能的な四量体を形成し、この四量体がIP3エフェクターとして作用して、細胞区画間のCa2+イオンの移動を可能にするリガンドゲートチャンネルが供給される。IP3 レセプターは主に小胞体膜に局在(その領域に限られないが)するので、IP3はCa2+を細胞内貯蔵から動員して様々な生理学的および病理生理学的な現象に影響するセカンド・メッセンジャーであると考えられる。Patel S 等( Cell Calcium, 1999,25: 247-264)は、IP3 レセプターの分子特性に関する総説を記載している。
【0015】
Ca2+結合サイトおよびCa2+カルモジュリン結合ドメインが、タイプ I IP3 レセプター内にマップされた、そして精製した小脳の IP3 レセプターをもちいた研究は、第二のCa2+ 非依存性のカルモジュリン結合ドメインの存在を示唆するものであった。IP3 レセプターの過剰発現により、細胞内に存在する個々のIP3 レセプターアイソフォームの制御を、またIP3依存性Ca2+シグナルの発生において彼等が担う役割を理解する手がかりが見出された。IP3 レセプターは、増殖およびアポトーシスなどの細胞プロセスに関与し得る。Abdel-Latif AA.〔 Exp Biol Med (Maywood) 2001 Mar ; 226 (3) : 153-63〕は、非血管および血管の平滑筋の双方を用いた実験から、サイクリック・ヌクレオチド(cAMPおよびcGMPの各々に対応する蛋白質キナーゼを介した)、およびアゴニスト誘導性の収縮に関与するCa2+依存性およびCa2+非依存性シグナリング経路の間のクロストークに関する証拠に関して概観している。これらには、PKC、MAPキナーゼおよびRhoキナーゼを含むIP3- Ca2+-CaM-ミオシン軽鎖 キナーゼ (MLCK)経路並びにCa2+非依存性経路が含まれる。Mikoshiba K 等〔 Sci STKE 2000 Sep 26; 2000 (51): P〕は、IP3 レセプターにより細胞内貯蔵からのカルシウム放出が制御されること、およびストア感受性(store-operated)カルシウムチャネルを介した細胞外環境からのカルシウム流入とこの放出機構との関連性を記載している。彼等は、細胞内および形質膜カルシウムチャネルの機能的および物理的な連結(coupling)のモデルを開示した。
【0016】
ADが重篤な脳障害および記憶喪失を生じることが周知であるが、病理学的変化は体の他の部分でも明らかであり、そしてその変化を細胞レベルで検出することが可能である。皮膚の深層に横たわっている皮膚繊維芽細胞は、AD傷害に特徴的な細胞上の及び分子的な異常を呈している。皮膚繊維芽細胞は容易に取得され、そして診断の目的で培養される(2000年8月22日に公開された米国特許6,107,050、「アルツハイマー病に関する診断検査」、この文献は本明細書中に参照によって援用される)。しかしながら、より単純で、より経済的で、正確、且つ信頼性の高いアルツハイマー病を診断するための方法が必要とされている。
【0017】
細胞内Ca2+ 放出のアクチベータの異なる効果を測定できることは、例えば米国特許 6,107,050(Alkon等)に記載されている。健常な及びアルツハイマーの細胞タイプの双方は、貯蔵(storage)からのカルシウム放出を呈しているが、しかしアルツハイマーの細胞はより多量の放出を呈する。Ca2+放出を測定するための既知の方法には、(i) 蛍光指示物質、吸光度指示物質またはCa2+「パッチ・クランプ」電極、および他の手段が含まれ、そしてかかる方法は診断の目的で使用し得る。しかしながら、ための、診断、研究、および臨床目的のためのより効果的なIP3R アクチベータの異なる効果を測定する技術が渇望されている。
【発明の概要】
【0018】
本発明は、患者のアルツハイマー病を診断する方法を提供し、この方法は、前記患者の細胞を該細胞中の指示蛋白質のリン酸化を刺激する化合物で活性化することと、その後にリン酸化した前記指示蛋白質の異常な上昇レベルの存在または非存在を検出することと、を含み、かかる上昇レベルの存在がアルツハイマー病が陽性であるとの診断を示す方法である。
【0019】
前記診断方法は、前記患者の細胞をアクチベータ化合物で刺激することと、その後に規定時間で前記患者の細胞中の指示蛋白質のリン酸化レベルを測定することと、および刺激なしの基礎リン酸化レベルと刺激され異常に上昇したレベルとの比較値を決定することと、を含む。
【0020】
本発明は、被験者のアルツハイマー病を診断する方法を提供し、該方法は:
(a)前記被験者の細胞の指示蛋白質のリン酸化の基礎レベルを測定することと;
(b)前記被験者の細胞をアクチベータ化合物と接触させることと(ここで、前記アクチベータおよび前記指示蛋白質は次ぎのように選択される、即ち、前記アクチベータが前記被験者の細胞中の前記指示蛋白質の異なる活性化したリン酸化応答を、前記接触が開始された後の規定時間に、非アルツハイマーコントロール被験者の細胞における活性化したリン酸化応答と比べて、惹起(elicits)するように選択される);
(c)前記被験者細胞中の前記指示蛋白質の活性化したリン酸化レベルを、接触開始後の規定時間に測定することと;および
(d)工程(a)の基礎リン酸化レベルと、工程(c)で決定した活性化したリン酸化レベルとの比率を計算することと;および
(e)前記規定時間にアルツハイマー病細胞であると判明している細胞およびアルツハイマー病細胞ではないと判明している細胞から測定した予め決定した活性リン酸化比率(activated phosphorylation ratios)と、工程 (d)で計算された比率とを比較することと;を含み、
前記計算された比率と前記アルツハイマー病細胞であると判明している細胞に関して予め決定した比率とを対比して統計学的差異がないならば、前記診断は陽性と判定され、および/または前記計算された比率と前記アルツハイマー病細胞ではないと判明している細胞に関して予め決定した比率とを対比して統計学的差異がないならば、前記診断は陰性と判定される方法である。
【0021】
本発明は、更に被験者のアルツハイマー病を診断する方法を提供し、該方法は、前記被験者の細胞において、
指示物質であるカルシウム シグナリング 経路 蛋白質(この蛋白質のリン酸化が前記細胞におけるIP-3R感受性のCa2+ 上昇に関連する)のバックグランドリン酸化レベルを測定することと;
前記被験者の細胞をIP3R アゴニスト(このアゴニストは、アルツハイマー被験者細胞の前記指示蛋白質のリン酸化レベルにおいて、非アルツハイマーコントロール細胞における前記レベルと比べて異なる応答を惹起する)と接触させることにより刺激することと;その後に、
接触させた細胞における前記指示蛋白質の応答リン酸化レベルを測定することと;並びに
前記指示蛋白質の前記応答リン酸化レベルが、前記バックグランドレベルと対比させて、アルツハイマー被験者に又は健常コントロールに由来することが判明している細胞の前記応答レベルに匹敵するかどうかを決定することと、を含む方法である。
【0022】
前記方法は、最初に細胞の培養物における前記指示蛋白質の前記バックグランドリン酸化レベルを測定することと、次に前記培養物に前記IP3R アゴニストを添加することと、および前記応答リン酸化レベルを測定することと、を含んでいてもよい。或いは、前記方法は、細胞の第一アリクウォットの前記バックグランドレベルを測定することと、前記細胞の同様のアリクウォットを刺激することと、および前記アリクウォットにおける前記応答レベルを測定することと、を含んでいてもよい。
【0023】
前記アクチベータ 化合物は、ブラジキニン(bradykinin)、ボンベシン(bombesin)、コレシストキニン(cholecystokinin)、トロンビン、プロスタグランジン F、およびバソプレシンからなる群から選択されるIP3-R アゴニストであってもよい。
【0024】
前記細胞は、繊維芽細胞、口内粘膜細胞(buccal mucosal)、ニューロン、および血液細胞からなる群から選択されてもよい。
【0025】
本発明による被験者のアルツハイマー病を診断する方法は、
(a)前記被験者から細胞を取得することと;
(b)前記細胞の指示蛋白質のリン酸化の基礎レベルを測定することと;
(c)前記細胞と前記指示蛋白質のリン酸化のアクチベータとを接触させることと;
(d)前記接触の開始後の規定時間に前記細胞の指示蛋白質のリン酸化レベルを測定することと;および
(e) 工程(b)で測定した前記レベルに対する工程(d)で測定した前記レベルの第1比率を計算することと、そして、前記第1比率を、予め決定された、アルツハイマー病細胞と判明した細胞から前記規定時間に取得された前記レベルの第2比率およびアルツハイマー病細胞ではないと判明した細胞から前記規定時間に取得された前記レベルの第3比率、と比較することと;を含み、
(i)工程 (e)の前記第1比率と予め決定した第2比率との間に統計学的差異がないならば、前記診断は陽性と判定され、および(ii)工程 (e)の前記第1比率と予め決定した第3比率との間に統計学的差異がないならば、前記診断は陰性と判定される方法である。工程 (d)の規定時間は、工程 (e)の第2比率および第3比率の間の差異が最大となる時間であってもよい。
【0026】
発明の方法において、前記の測定することは、崩壊した細胞の免疫アッセイを含んでいてもよく、および前記被験者細胞をリン酸化指示蛋白質に特異的な抗体と接触させてもよく、これにより前記抗体が前記指示蛋白質に結合することが可能となり、そして前記指示蛋白質に結合した前記抗体が検出される。前記免疫アッセイは、ラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、ケミルミネッセンス アッセイ、免疫組織化学 アッセイ、ドットブロット アッセイ、またはスロットブロット アッセイであってもよい。
【0027】
更なる発明の被験者のアルツハイマー病を診断する方法は:
(a)前記被験者の細胞を、希釈剤中の化合物とインキュベートすることと(ここで、前記化合物はカルシウム シグナリング 経路が媒介する指示蛋白質のリン酸化を刺激し、これによって刺激された細胞が産生される);
(b)工程 (a)の前に、同時に又は後に、前記被験者の同じタイプの細胞を、コントロール 化合物と又は前記希釈剤とインキュベートし、これにより非刺激コントロール細胞を産生することと;
(c)前記刺激された細胞のリン酸化指示蛋白質のレベルを、前記非刺激コントロール細胞のリン酸化指示蛋白質のレベルと比較することと、を含み、
前記非刺激細胞と比べて前記刺激された細胞のリン酸化指示蛋白質の前記レベルの増加が、アルツハイマー病の存在を示す方法である。
【0028】
比較する工程 (c)は、次ぎの工程、即ち:
(i)前記刺激および/または前記非刺激細胞からの蛋白質サンプルを、前記リン酸化指示蛋白質を認識する抗体と、接触させることと;並びに
(ii)前記抗体の前記指示蛋白質に対する結合を検出することと、を含んでいてもよい。
【0029】
前記方法は、更に、前記刺激および/または前記非刺激細胞からの蛋白質サンプルを、前記指示蛋白質の非リン酸化型を認識する抗体と接触させることと、並びに前記の抗体と非リン酸化指示蛋白質との結合を検出することと、並びに蛋白質の前記レベルをノルマライズすることと、を含んでいてもよい。比較する工程は、更に、前記刺激した及び前記非刺激の細胞から蛋白質サンプルを取得する工程を含んでいてもよい。
【0030】
被験者におけるアルツハイマー病の存在を診断する方法は、次ぎの工程、即ち:
a)前記被験者の細胞を、指示蛋白質のリン酸化を増加させるアクチベータ化合物で刺激することと、および
b)刺激された細胞における非リン酸化指示蛋白質およびリン酸化指示蛋白質のレベルを、前記被験者の同じタイプの非刺激細胞における非リン酸化指示蛋白質およびリン酸化指示蛋白質のレベルと比較することと、を含んでいてもよく、
ここで、刺激された細胞におけるリン酸化指示蛋白質の非刺激細胞と比べた際の相対的レベルの増加が、アルツハイマー病の存在を示す方法である。
【0031】
本発明は、被験者のアルツハイマー病を診断する方法を提供する。該方法は、
前記被験者の細胞を、イノシトール 1,4,5-三リン酸 (IP3) レセプターを介した細胞内のカルシウム放出を惹起する薬剤と接触させることと、
前記の接触させる工程後の1以上のタイムポイントで前記被験者細胞のMAPK蛋白質のリン酸化量を測定することと、並びに
1以上のタイムポイントでの前記被験者の細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化量を、非アルツハイマーコントロール被験者の細胞に前記薬剤を接触させた後に同じタイムポイントで測定した前記リン酸化量と比較することと、
を含み、
前記被験者細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化の前記コントロール細胞と比較した増加が、アルツハイマー病の診断となる方法である。
【0032】
本発明の方法において、前記薬剤は、ブラジキニン若しくはブラジキニン レセプター アゴニスト、またはボンベシンであってもよく、またIP3が媒介するCa2+ 放出を誘導するアゴニストであってもよい。
【0033】
前記リン酸化量は、前記接触させる工程の後の1タイムポイントで測定されてもよい。本発明によると、前記の測定することには、前記接触させる工程の後の第1タイムポイントで前記被験者細胞の第1アリクウォットにおけるリン酸化量を測定することと、および前記接触させる工程の後の第2タイムポイントで前記被験者細胞の第2アリクウォットにおけるリン酸化量を測定することと、が含まれてもよい。前記タイムポイントは、細胞タイプ、アクチベータ、および指示蛋白質のいくつかの組み合わせに関して、約0.5分間以下, 1分間, 2分間, 2.5分間, 5分間, 10分間, 20分間, 30分間, 45分間, 若しくは1時間、又はそれ以上であってもよい。
【0034】
前記細胞は、典型的には皮膚の繊維芽細胞などの末梢組織である。
【0035】
本発明の方法における前記測定する工程は、随意的にインビトロで前記被験者細胞のライセートにおけるリン酸化を検出することを含み、またゲル電気泳動、抗リン酸化MAPK 抗体 および/または抗レギュラーMAPK 蛋白質抗体を用いた、ウエスタンブロッティングを含んでいてもよい。
【0036】
増加したリン酸化は、1タイムポイントにおけるリン酸化蛋白質の量の上昇、またはリン酸化蛋白質の持続時間の増加であってもよい。
【0037】
前記方法は、前記被験者がアルツハイマー病の臨床徴候が欠失している被験者の診断に効果的である。
【0038】
本発明によれば、前記方法は、更に前記被験者細胞を蛋白質キナーゼ C活性のインヒビター、PI-3 キナーゼ活性のインヒビター、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性のインヒビター、IP-3 レセプターのインヒビターおよび蛋白質ホスファターゼのインヒビターからなる群から選択される1以上の インヒビターと接触させることを含んでいてもよい。また、本発明の特に際立った態様を特徴付けると、前記方法は、前記被験者細胞を、蛋白質キナーゼ C活性、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性、PI-3 キナーゼ活性、および IP-3 レセプターのインヒビターからなる群から選択されるインヒビターと接触させることにより阻害される増加したリン酸化を有することで特徴付けられる。かかる方法において、前記インヒビターは、BiSM-1, PP1,および2−アミノエトキシジフェニルボラート(2-aminoethoxydiphenyl borate)からなる群から選択されてもよい。
【0039】
本発明は、更に化合物をスクリーニングしてアルツハイマー病の治療に又は予防に有用な化合物を同定する、化合物をスクリーニングするための方法を提供する。該方法は、
AD 被験者の試験細胞を、前記接触させる工程の前、途中、または後に、スクリーニングする化合物と接触させることと、前記試験細胞を、イノシトール 1,4,5-三リン酸 (IP3) レセプターを介した細胞内のカルシウム 放出を惹起する薬剤で刺激することと、
前記試験細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化量を、前記試験細胞を刺激した後の1以上の タイムポイントで測定することと、
前記1以上のタイムポイントでの前記試験細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化量を、前記化合物と接触させなかったAD 被験者のコントロール細胞における同じ1以上の タイムポイントでのリン酸化量と比較することと、を含む。
【0040】
前記方法は、更にリード化合物として増加したリン酸化を阻害する又は阻止する化合物を承認(accepting)することと、および増加したリン酸化を阻害しない又は阻止しない化合物を棄却(rejecting)することと、を含んでいてもよい。本発明の全ての方法について、前記薬剤はブラジキニンまたはブラジキニン レセプター アゴニストであってもよく、また前記MAPK 蛋白質はErk1/2であってもよい。前記方法は、前記接触させる工程の後の1タイムポイントで前記リン酸化量を測定することを含んでいてもよい。
【0041】
更なる態様は、刺激応答アッセイ(stimulus-response assay)においてアクチベータ 化合物として有用な化合物のスクリーニング方法を提供する。該方法は、
AD細胞およびコントロール細胞の指示蛋白質のリン酸化における前記化合物の効果を測定することと、コントロール細胞と比べて、AD細胞において前記指示蛋白質のリン酸化の量および/または持続時間を増加させる化合物を選択することと、を含む。
【0042】
本発明の別態様は、抗リン酸化MAPK 蛋白質抗体およびブラジキニンを含む、アルツハイマー病のための診断検査キットである。
【0043】
一態様は、アルツハイマー患者のための薬物療法(medication)を選択するための方法を提供する。該方法は、
可能性のある治療化合物(therapeutic compound)を選択することと、
前記可能性のある治療化合物を前記患者に投与することと、そして後に、
前記細胞を前記指示蛋白質のリン酸化を刺激する化合物で活性化した後に、前記患者の細胞のリン酸化指示蛋白質の異常に上昇したレベルの存在または非存在を検出することと、を含み、
かかる上昇したレベルの存在が前記可能性のある治療化合物が前記患者に対して効果がないことを示し、且つかかる上昇したレベルの非存在が前記可能性のある治療化合物が前記患者に対して治療上有用であることを示す、方法である。前記方法は、更に前記被験者のアルツハイマー病を、前記患者に治療上有用であることが示された化合物を投与することにより治療すること又は予防することを含んでいてもよい。
【0044】
本発明は、効果的な量の医薬(medicament)を投与することを含む、被験者のアルツハイマー病の治療する又は予防するための方法を提供する。前記医薬は、
(a)コントロール細胞と比べて前記被験者の細胞のMAPK 蛋白質の異常に上昇したリン酸化を阻害する若しくは阻止する;および/または
(b)前記MAPK 蛋白質の異常に上昇したリン酸化により生じたイベントを阻害する;医薬である。
【0045】
前記医薬は、Erk1/2 リン酸化を阻害し得る。そしてこの医薬は蛋白質キナーゼ C活性の、src 蛋白質チロシンキナーゼ活性の、又はIP-3 レセプターのインヒビターであってもよい。前記インヒビターは、BiSM-1, PP1, および 2ABPからなる群から選択されてもよい。
【0046】
特に、本発明は、被験者のアルツハイマー病を診断するための方法を提供する。該方法は、
(a)前記被験者の及び非アルツハイマーコントロール被験者の皮膚繊維芽細胞を、効果的なリン酸化刺激濃度のブラジキニンと接触させることと、
(b)前記被験者細胞のリン酸化されたErk1/2量を、2分、5分、10分、20分、および30分からなる群から選択される1以上の タイムポイントで、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと;
(c)非アルツハイマーコントロール被験者の細胞のリン酸化Erk1/2量を、(b)と同じタイムポイント(若しくは複数のタイムポイント)で、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと(ここで、工程(b)および(c)の前記リン酸化Erk1/3量は、前記細胞に存在する蛋白質量に対してノルマライズされる);
(d) 前記タイムポイントで前記被験者細胞のリン酸化Erk1/2量と前記コントロール細胞のリン酸化Erk1/2量とを比較することと;を含み、
1以上の前記タイムポイントで前記被験者細胞のリン酸化Erk1/2量の前記コントロール細胞と比較した増加が、アルツハイマー病の診断となる方法である。
【0047】
前記方法は、前記被験者細胞を蛋白質キナーゼ C活性のインヒビターBiSM-l、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性のインヒビターPP1 ; 及びIP-3 レセプターのインヒビター2−アミノエトキシジフェニルボラートからなる群から選択される1以上の インヒビターと接触させることと(ここで、前記コントロール細胞と比較した前記被験者細胞におけるリン酸化Erk1/2量の前記ブラジキニン誘導性の増加は、前記インヒビターにより減少する)、を更に含んでいてもよい。
【0048】
本発明の更なる態様は、化合物をスクリーニングしてアルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物を同定するための方法を提供する。該方法は、次ぎの工程、即ち:
(a)AD 被験者の試験皮膚繊維芽細胞を、スクリーニングする化合物と接触させることと;
(b)前記被験者のコントロール 皮膚繊維芽細胞を前記化合物に対するコントロール 薬剤と接触させることと或いは前記コントロール 繊維芽細胞を非存在下で又は前記化合物もしくは前記コントロール 薬剤の何れかの存在下でインキュベーションすることと;
(c)工程 (a)および(b)の前、途中、または後に、前記試験および前記コントロール 繊維芽細胞を、効果的なリン酸化刺激濃度のブラジキニンで刺激することと、
(d)前記試験および前記コントロール 繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量を、2分間、5分間、10分間、20分間、および30分間からなる群から選択される1以上の タイムポイントで、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと(ここで、前記リン酸化Erk1/3量は、前記試験およびコントロール 繊維芽細胞に存在する蛋白質量に対してノルマライズされる);
(e)前記試験繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量と前記コントロール 繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量とを比較して、前記化合物が前記コントロール細胞と比較して前記試験細胞におけるErk1/2リン酸化のブラジキニン誘導性の増加を阻害するか又は阻止するかどうかを決定することと;を含み、
前記増加したリン酸化を阻害する又は阻止する化合物は、アルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物であると同定される方法である。
【0049】
本発明の方法は、ヒト細胞の、アミロイド前駆体蛋白質の蛋白質分解、アミロイド 蛋白質βの分泌、および/または tau 蛋白質のリン酸化を減らすための方法であって(ここで、前記細胞はコントロール ヒト細胞と比較してIP3 レセプターが媒介するMAPK 蛋白質のリン酸化が増加しており)、前記細胞を、前記コントロール細胞のレベルにまでリン酸化の減少に効果的なMAPKリン酸化のインヒビターと接触させることを含む方法である。
【0050】
本明細書中に列挙される本発明の構成要件は、当業者に明白な特定の態様の記載において、組み合わされるか又は除外されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1(1A1, 1A2および1B)は、Erk1/2のBK刺激による活性化のタイムコースを示す図である。 AD細胞および年齢が適合した正常なコントロールの細胞(「AC」)を、10 nM BKで異なる時間処理し、そして反応を実施例に記載のように停止させた。各細胞株のコントロールに同容量のPBSを添加した。最上段のイメージは、ADおよびAC細胞の活性化したErk1/2 (P-Erk1/2)に対する代表的なウエスタンブロットである。各サンプルの平均密度を、蛋白質総量に対してノルマライズした。これは、抗レギュラーMAP キナーゼ抗体 (R-Erk1/2)を用いて決定された。11の非依存性細胞株の値の統計学的な有意差を独立ステューデントT検定により評価した。結果を下部のグラフに要約して示した。
【図2】図2(2Aおよび2B)は、BK 刺激後のADとAC細胞との間のErk1/2のリン酸化を比較したスキャッタープロットである。
【0052】
2Aは、BK 刺激10分後のADとAC細胞との間のErk1/2のリン酸化を比較したスキャッタープロットである。20個体のAD患者および22個体の年齢が適合した コントロールの細胞をBKで処理し、そして図1の解説部分の記載のように処理した。活性化したErk1/2およびトータルのErk1/2を、適切な抗体でウエスタンブロッティングすることによって検出した。結果を処理し、そして図1に関して記載されたように分析した。2Bは、各々ランダムに選択された細胞株に関する3つの独立した反復実験から得られたBK刺激によるErk1/2 リン酸化を示している。
【図3】図3(3A1, 3A2,3B1および3B2)は、ヒト 繊維芽細胞における活性化したErk1/2の免疫細胞化学染色を示す顕微鏡写真である。 AD患者および年齢が適合した コントロールの繊維芽細胞を、カバーグラス(glass cover slips)上で培養し、そして10 nM BKで10分間刺激した。活性化したErk1/2を抗リン酸化Erk1/Erk2 抗体で検出した。AC細胞(最上部のイメージ)にBK処理の前後で明らかな差が認められなかったことを結果は示している。しかしながら、AD細胞において、高度に増強した免疫蛍光 シグナル(下右イメージ、3B2)が、BK処理した細胞で認められた(10分)。
【図4】図4(4A1, 4A2,4B1,4B2,4C1,4C2,4D1および4D2)は、Erk1/2のBK刺激による活性化における異なるインヒビターの効果を示す図である。 AD患者および年齢が適合した コントロールの繊維芽細胞を、37℃の温度条件において、50μM 2APBで30分間(図4A)、5μM BiSm-1で15分間(図4B); 10μM PP1で15分間(図4C)および5μM LY294002で15分間(図4D)、別々にプレインキュベートした。各細胞株の第2のフラスコを、同容量のDMSOビヒクルとインキュベートした。インキュベーション終了時、反応停止前に細胞を10 nM BKで5分間処理した。活性化型および通常(レギュラー)型のErk1/2を、次に上記の2つの抗体でウエスタンブロットして検出した。左のパネルは代表的なウエスタンブロットを示し、そして右はADおよびAC双方から得られた11 細胞株の結果を要約したグラフを示す(** p < 0.001; *p < 0.05)。
【図5】図5(5A, 5B1, 5B2, 5C1および5C2)は、BK 刺激後のCREBのリン酸化および量の変化を示す図である。 ACおよびAD細胞を10 nM BKで5または10分間処理した。リン酸化したCREB (P-CREB)を、ウエスタンブロット上で抗リン酸化CREB-Ser133 抗体を用いて測定した。P-CREBの平均密度を、抗レギュラーCREB抗体を用いて測定したCREBの総量に対してノルマライズし、そして統計分析を行った。5Aは、処理後5および10分でのBK誘導によるCREB リン酸化を示している。5Bは、BK処理後10分での代表的なP-CREBのブロットを示している。5Cは、CREB総量が10分間のBK処理後に有意に減ったことを示している。
【図6】図6(6A1, 6A2,6B1,6B2,6C1および6C2)は、CREBのBK刺激によるリン酸化における異なるインヒビターの効果を示す図である。 10 nM BKで10分間インキュベーションする前に、ACおよびAD細胞を37℃の温度条件下で15分間、5μM BiSM-1 (6A)、10μM PP1 (6B)、または5μM Ly294002 (6C)でプレインキュベートした。ノルマライゼーションを図5A〜5Cと同様に実施し、統計学的な有意差を二元配置ANOVA分析により評価した(** p < 0.0001 ; * < 0.05)。
【図7】図7(7Aおよび7B)は、ヒト 皮膚繊維芽細胞におけるBKb2 レセプターの分布を示す顕微鏡写真である。 繊維芽細胞を、抗BKb2 レセプター 抗体と、次にフルオレセインラベルした 二次抗体とインキュベートした。最上部パネルは、前記細胞の微分干渉コントラスト(DIC;differential interference contrast)によるイメージを示し、そして下部パネルは、繊維芽細胞におけるBK b2 レセプターの免疫蛍光を示す。
【図8】図8は、ハンティングトン痴呆 (HD)に罹患した個体から採取した繊維芽細胞のErk1/2のリン酸化におけるブラジキニンの効果を示す図である(N=4およびP=0.39、t検定)。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[発明の詳細説明]
本発明によれば、アクチベータ、またはIP3媒介の細胞内のカルシウム 放出を刺激する薬剤は、前記背景に記載されたようなIP3 レセプター及び関連する経路についての公開された情報に基づいて、当業者が本明細書中に記載される方法を用いて同定できるものである。
【0054】
刺激/非刺激処理後のリン酸化レベルの異常に上昇したレベル又は比率は、ある規定時間で非アルツハイマー病細胞であると判明している細胞に対して予め決定されたレベルを超えたものを意味しており、アルツハイマー病細胞の特徴であり且つ非アルツハイマー病細胞の特徴ではない統計学的に有意な量で提示される。
【0055】
指示蛋白質、又はMAPK 蛋白質という用語は、一般的に本明細書中で相互に変換可能なな用語であり、アクチベータ 化合物の投与に応答するカルシウム シグナリング 経路の一部としてリン酸化される蛋白質を意味しており、そのリン酸化の程度はコントロール細胞よりもAD細胞において明らかに高い。前記指示蛋白質は、その蛋白質のリン酸化が前記細胞におけるIP3R-感受性 Ca2+ 上昇と関連しているカルシウム シグナリング 経路の蛋白質であってもよい。指示蛋白質/MAPK 蛋白質は、Erk1/2などのIP3Rが媒介するカルシウム 放出に応答してリン酸化されるものを含む。
【0056】
細胞の活性化又は刺激とは、インタクト細胞がインビトロで前記アクチベータと接触させられることを意味しており、典型的には前記アクチベータ 化合物を含有している溶液を添加することにより実施されるか、または当業者に既知の別の様式により実施される。
【0057】
アクチベータ 化合物は、ヒト細胞への導入に際して、前記指示蛋白質のリン酸化を刺激するものである。アクチベータ 化合物は、前記指示蛋白質のリン酸化レベルに関して、非アルツハイマー被験者のコントロール細胞の前記レベルと比べてアルツハイマー被験者の細胞において異なる応答を惹起する。アクチベータ 化合物は、細胞培養培地中に導入された場合に効果的である。アクチベータ 化合物をIP3R アゴニストと称してもよく、なぜならそれらは直接的に又は間接的にIP3Rが媒介する細胞内のCa2+上昇を誘導するからである。
【0058】
指示蛋白質のリン酸化レベルは、リン酸化指示蛋白質(および随意的に非リン酸化指示蛋白質)の量を測定することと、並びに解析されるサンプルにおける指示蛋白質の全量に対する前記リン酸化蛋白質量をノルマライズすることと、により一般的に決定される。計算された応答リン酸化レベルおよび基礎の若しくはバックグランドのリン酸化レベルは、それゆえ特定時間(given time)での前記指示蛋白質の絶対量の差によって影響されない。
【0059】
識別可能タイムポイント(discriminatory time point)、または前記細胞を前記アクチベータ 化合物で刺激した後の規定時間は、AD細胞と判明した細胞の及びコントロール細胞と判明した細胞の指示蛋白質のリン酸化レベル間を較正して統計学的に有意な差が認められるように選択される。前記の差は、前記規定時間で最大であってもよいが、これは必須ではなく、試験の他のパラメーターに依存するものである。
【0060】
任意の特定のアクチベータ 化合物に対し、有限数(finite number)の適切な 指示蛋白質が存在し、その逆も同様である。本発明によれば、前記アクチベータ 化合物および指示蛋白質の組み合わせは、次のように選択される。即ち、前記アクチベータが、前記細胞を前記アクチベータと接触させる工程後の規定時間で、アルツハイマー被験者の細胞における前記指示蛋白質のリン酸化レベルにおいて、健常 コントロール細胞の前記レベルと比べて異なる応答を惹起するように前記組み合わせが選択される。当業者は、そのような異なるリン酸化が生じるかどうかを決定することにより、適切な 指示蛋白質およびアクチベータ 化合物を選択しえる。一連の指示蛋白質およびアクチベータ 化合物を選択して、次に前記アッセイ パラメーターが、識別可能タイムポイント、前記蛋白質およびアクチベータの適切な濃度、前記リン酸化蛋白質もしくは非リン酸化蛋白質に対する適切な 抗体、或いは他の検出手段等に関して最適化されてもよい。
【0061】
基礎リン酸化レベルに対する活性化したリン酸化レベルの比率の計算は、当然ながら反対に計算してもよい。即ち、便宜上、我々は判明したレベルよりも高い活性化/基礎の比率を指標として使用しているが、前記比率の分子および分母を反転させることにより、活性化していないリン酸化という視点で観察したレベルが判明したレベルよりも低いと考えられる場合に同じ結果が得られることは当業者に自明である。従って、前記比率の計算が本明細書中に一様式(one way)において記載される場合、それには逆に計算することをも含まれることは当業者に自明である。また、本明細書中に記載されるような比率の計算は有用な比較数(comparative numbers)を提供するのに有益であるが、リン酸化レベルの活性化と基礎との間の及び試験被験者とコントロール 被験者との間の絶対差(absolute differences)の計算もまた本発明にしたがって用いられ、この計算も有効であろう。
【0062】
規定の又は識別可能な時間で、アルツハイマー病細胞および非アルツハイマー病細胞と判明した細胞に関して予め決定した比率が、チャートに記載されるか又は診断の結果を決定し得るコンピュータデータベースに入力される。従って、実際には診断の試験が実施され、活性化/基礎 リン酸化比率が計算され、そしてその計算された比率がアルツハイマー病細胞と判明した細胞に関して予め決定された比率と同じか又はそれを超える場合、診断は陽性である。前記の計算された比率が、非アルツハイマー病細胞と判明した細胞に関して予め決定した比率よりも低い場合、診断は陰性である。
【0063】
本発明は、BK 刺激に対するMAP キナーゼ (MAPK) 蛋白質の応答の測定を含むADのための診断試験を提供する。AD細胞における応答は、年齢が適合したコントロール(痴呆に関連する疾患を含む、他の疾患を罹患した被験者を含んでいてもよい)の細胞における応答と比較される。好適な態様において、前記試験は、前記細胞をBKで刺激した後にAD (家族性および非家族性 タイプの双方の)の存在を診断する試験であって、皮膚繊維芽細胞におけるErkl/Erk2の異常に高いリン酸化の検出に基づく試験である。リン酸化の評価は、ウエスタンブロッティングまたは他のアプローチによるものであってもよい。
【0064】
リン酸化は生化学的な反応であって、その反応においてリン酸基が蛋白質のSer, ThrまたはTyr残基に付加され、そしてリン酸化は蛋白質キナーゼ 酵素によって触媒される。
【0065】
リン酸化は、通常は標的 蛋白質の機能を修飾し、典型的には活性化を生じる。細胞の恒常性機構の一部として、リン酸化は、ホスファターゼと称される他の酵素により元に戻るごく一時的なプロセスである。前記の反応(リン酸化 vs. 脱リン酸化)の何れかの側において異常性が存在することにより、細胞機能が崩壊させられる可能性がある。
【0066】
これらの崩壊が、様々な脳疾患の基礎的な土台(fundamental underpinnings)である可能性がある。
【0067】
本発明にしたがって、カルシウム シグナリング 経路 モジュレーターに応答する指示蛋白質の上昇したリン酸化を生じさせる異常なリン酸化活性が、診断を解析中のAD患者において検出される。前記異常は、健常 患者の細胞における前記レベルに対して、特定のタイムでリン酸化が増加または減少することである。
【0068】
任意の末梢組織(即ち、中枢神経系の外側)におけるAD特異的な差の検出は、ADの早期診断のための並びに薬剤開発のための治療上の標的をスクリーニングする及び同定するための経済的な試験の基礎として利用される。従って、本発明は、ADの存在または非存在を検出するための方法、試薬、およびキットを提供する。
【0069】
MAPK 酵素は、細胞外シグナルを細胞核へ伝達することにおいて中心的な役割を担っており、遺伝子発現をコントロールする。それらは、ADの病因において重要な事項である、微小管関連蛋白質tauのリン酸化の制御に並びにβアミロイド 蛋白質の産生および分泌にも関与している。本発明によると、MAPK Erk1/2の異常に長期化したリン酸化が、年齢が適合した コントロールと比較した場合にBKによる刺激に応答してAD 繊維芽細胞中で生じ、そして検出される。
【0070】
本発明の発明者はBKによる刺激で最初の試験を実施したが、BKは細胞のIP3 レセプターの刺激を達成する一様式を代表していることを理解すべきである。従って、本明細書中のBKに関する記載は、他の適切な アクチベータまたは刺激化合物を含むと解釈される。この刺激は、ADの特性である増大したErk1/2 リン酸化を生じる共通のステップとして働く。実際、IP3 レセプターの阻害がBK刺激によるErk1/2リン酸化を全面的に無効化することが観察された。
【0071】
Erk1/2 リン酸化のAD特異的な増加は、AD細胞におけるPKCおよびMAP キナーゼ キナーゼ(MAPK/Erk キナーゼまたはMEKとしても知られる)アイソフォームの遺伝子の増強発現に、同様に微小管関連蛋白質tauおよびMAPKを脱リン酸化するホスファターゼ1、2A、および2Bをコードする遺伝子の減弱発現に関連していた。AD細胞における遺伝子発現の変更は、蛋白質キナーゼとホスファターゼとの間の活性バランスを変化させ、このことによりAD特異的な長期化したErk1/2活性化に、同様にAD脳で神経原繊維錯綜を形成するtauの過剰リン酸化に影響し得る。皮膚繊維芽細胞におけるこれらのErk1/2 異常活性の検出は、脳での類似する変化を反映しており、それゆえこの検出によりADの早期の病理生理学的な診断がなされる。
【0072】
従って、本発明によれば、BK 刺激は、AD 繊維芽細胞においてErk1/2リン酸化の異常に長期化した増加を生じ、IP3 レセプターが媒介するCa2+ 放出に依存した変化を生じる。IP3 キナーゼは、非AD コントロール細胞をBK刺激した際のErk1/2 リン酸化に関与しているように思われるが、AD細胞におけるErk1/2のこのリン酸化はIP3 キナーゼ-非依存性である。
【0073】
Erk1/2 リン酸化におけるAD特異的な増加は、IP3が媒介するCa放出に続くものであった。蛋白質キナーゼ C (PKC)および非レセプター 蛋白質チロシンキナーゼ (PTK) c-Srcは、Erk1/2活性化の上流のシグナリング 経路に関与しており、これはPKC インヒビター ビスインドリルマレイミド−1およびc-Src インヒビター(PP1)の双方がBK刺激によるErk1/2 リン酸化を完全に無効化するとの結果により示されている。PI-3 キナーゼ、LY924002が、コントロール非AD細胞中のBK刺激によるErk1/2 リン酸化を部分的に阻害したが、AD細胞においては如何なる効果も示していない。このことは、BK誘導によるErk1/2 リン酸化がPI-3 キナーゼに非依存性のシグナリング 経路に関与しているだろうことを示唆している。
【0074】
cAMP応答因子結合蛋白質(CREB)の活性化(Ser-133のリン酸化の増加として測定される)も、BK 刺激後に観察された。Erk1/2 リン酸化と類似して、BK誘導によるCREB リン酸化は、ACおよびAD細胞の双方でPKCおよびc-srcのインヒビターによって完全に阻害された。AC細胞(AD細胞ではなく)におけるCREB リン酸化のみが、IP-3 キナーゼ インヒビター LY-294002により部分的に阻害された。
【0075】
異常に増強し且つ長期化した Erk1/2のリン酸化及び活性化を生じる、AD細胞におけるBKに応答したシグナリング 経路の撹乱(derangement)が、遺伝子転写、APP (アミロイド前駆体蛋白質)プロセッシングおよびtau 蛋白質リン酸化などの細胞作用(これらの全てはADの病因の基礎に存在する)を順番に混乱(perturb)させることをこれらの結果は示唆している。これらの経路における変化を理解することは、ADの顕著な特徴(hallmark)である早期の物忘れを解明する助けとなるかもしれない。加えて、末梢組織のAD特異的な差を検出することにより、(1)ADの早期診断のための効率的な手段、および(2)薬開発の治療上の標的を同定するための生化学的基礎、が提供される。
【0076】
上述の事項、および同じ細胞は異なる外部メッセージをエンコード(encode)するために異なる組み合わせの細胞内Ca2+放出メッセンジャーを使用するだろうとの理由を考慮すると、IP3 レセプターを刺激してカルシウムの内部ストアの放出を生じることが可能な任意の薬剤が、本発明の試験に使用でき、そしてAD細胞の増加したErk1/2 リン酸化特性の誘導物質である可能性がある。また、BKはかかる薬剤の1つであるが、他のBK レセプター アゴニストも同様に有用である。また、IP3 レセプターに対するリガンドである分子も、使用し得る。IP3 レセプターは、ATP, カルシウム, 並びに蛋白質キナーゼ A, 蛋白質キナーゼ C, およびCa2+ カルモジュリン依存性 蛋白質キナーゼ II (CaM キナーゼ II)によるリン酸化により制御されるので、ATPの又はこれらキナーゼのレベルを若しくは活性を調節する薬剤は、類似する効果を達成させることが可能であり且つ本発明におけるBKの代用となることが可能である。
【0077】
かかる薬剤の1つは、14 アミノ酸ペプチドであるボンベシン(Anastasi A. et al., Arch Biochem Biophys, 1972,148: 443-446; Woodruff GN et al., Ann N Y Acad Sci, 1996, 780 : 223-243)、又はその生物学的に活性なアナログ若しくは断片(Rivier JE et al., Biochemistry, 1978, 17: 1766-71; Orloff MS et al., peptides, 1984 5: 865-70; Walsh, JH et al., peptides, 1985, 6 Suppl 3: 63-68)である。もう一つは、コレシソキニンである。ボンベシンおよびコレシトキニンが誘導するIP3およびIP3 レセプターを介したカルシウムシグナリングに関しては、例えば、文献(Cook SJ et al., Biochem J, 1990,265: 617-620 Schulz I et al., Biol Chem, 1999,380: 903-908 ; Burdakov D, et al., Curr Biol, 2000,10: 993-996)を参照のこと。試験は皮膚繊維芽細胞を用いて本明細書中に例示されるが、取得し、そして処理するのにより便利な他の細胞が、本発明の試験に使用される。従って、血液細胞(好ましくは、リンパ球またはモノサイト)が末梢血から容易に調製され、そして本発明にしたがって使用される。当業者は、適切な タイムポイントおよび実験条件を較正して、適切な 指示蛋白質およびアクチベータ 化合物を用いて、かかる細胞に基づく診断方法を得ることが可能である。
【0078】
本発明の発明者等は、重要な酵素であるMAPK〔マイトゲン活性化蛋白質キナーゼ (MAP キナーゼ)を意味している〕の活性が、年齢が適合した コントロールの細胞と比較して、アルツハイマー病 皮膚繊維芽細胞中で異常に長期化したインターバルで刺激されていたことを発見した。以下に記載する実施例は、Erk1/2のリン酸化が、BKでの刺激に際してAD 繊維芽細胞中で長期化していたことを示している。IP3 レセプターが媒介するCa2+ 放出、並びにPKCおよび非レセプター 蛋白質チロシンキナーゼ (PTK) c-Srcの活性は、このErk1/2 リン酸化に必須である。IP3 キナーゼはAC細胞のBK刺激によるErk1/2 リン酸化に関与すると思われるが、AD細胞の同じリン酸化はIP3 キナーゼ非依存性である。
【0079】
本発明によれば、細胞は、IP3 レセプターを刺激して細胞内のカルシウムを放出する薬剤で刺激される;かかる薬剤の例は、BKおよびそのアナログである。
【0080】
BKは強力なノナペプチドであり、これは特異的なBK レセプターに結合し、そしてこれを活性化し、順番に細胞内の分子イベントのカスケードを惹起する。このイベントには、IP3 レセプターの刺激およびMAPK 蛋白質のリン酸化が含まれる。リン酸化は生化学的反応であり、この反応においてリン酸基が蛋白質に結合する。この反応は、蛋白質キナーゼと称される酵素によって開始される;これにより普通は標的 蛋白質の機能が修飾され、そして通常は蛋白質の活性化を生じる。細胞はその機能に関してバランスのとれたシステムを維持することが要求される。故にリン酸化はほんの一時的なプロセスであり、これはホスファターゼと称される別の酵素で元に戻される必要がある。
【0081】
前記の反応(リン酸化 vs. 脱リン酸化)の何れかの側において異常性が存在することにより、分子ネットワークの統合性を壊し、そして細胞機能を崩壊させる。これらの崩壊が、様々な脳疾患の基礎的な土台(fundamental underpinnings)である可能性がある。
【0082】
このようにAD 繊維芽細胞においてMAPKリン酸化が長期間持続することは、これらの細胞において本酵素の活性が異常に増強したことを示している。このAD特異的な効果は、他の異常な細胞の及び酵素的な活性に関連するように思われる。長期化したMAPK リン酸化は、IP3 レセプターにより媒介される細胞内の特定の貯蔵部位からの過剰なCa2+ 放出に対して二次的(secondary)なものであった。
【0083】
MAPKリン酸化がPI3 キナーゼ活性に部分的に依存性であり、そしてPI3 キナーゼ依存性の機構がAD細胞中のMAPKリン酸化に関与していることが示された。
【0084】
AD細胞における遺伝子発現プロファイルを年齢が適合した コントロール細胞と比較した際に、本発明の発明者等は、PKCおよびMEKの発現がAD細胞において増加していたことを見出した。PKC及びMEKの双方は、MAPKリン酸化を触媒する上流の分子である。また、本発明の発明者等は、MAPKを脱リン酸化するいくつかのホスファターゼの発現の減少をも見出した。それ故、不均衡(即ち、AD細胞において診断上有用な差の原因であるMAPK リン酸化を制御する酵素の量および活性が組み合わされた変化)は、MAPK リン酸化を長期化させる。
【0085】
本発明は、ADにおいて異常に増強した MAPK活性を最初に発見した発明である。
【0086】
MAPKファミリーの酵素は、細胞膜から核への細胞シグナリングにおける決定的なステップを担っている。それらは、細胞表面で作用する様々なシグナル(例えば、マイトゲン)により刺激され、そして細胞分裂(マイトーシス)を生じる。このプロセスは損傷または病気によって傷害を受けた細胞の成長および発生、同様に交換および/または修復に必要とされる。
【0087】
また、MAPKは、学習および記憶形成などの機能の基礎であるニューロンのシグナル伝達において重要な役割を担っている。また、MAPKは、脳細胞においてアミロイドペプチドβAPの分泌およびtau 蛋白質のリン酸化を制御する。神経細胞外側でのβAPの蓄積、およびtauの過剰リン酸化は、ニューロンに対して毒性が高く、それぞれプラークおよび神経原繊維錯綜(NFT)を生じる。実際、これらはAD脳における2つの特徴的な病理学的な特性である。
【0088】
本発明によると、異常に増強した MAPK活性は、異常なアミロイドプロセシングおよびtau 蛋白質機能に影響する。この結果は、ADの病理生理学と同様に脳における正常な記憶形成に関する分子的理解の基礎に新たな見識を提供する。この後者を理解することにより、前記疾患の予防および治療のための新規分子標的の同定を達成することが期待される。
【0089】
現時点の実用において、本発明の結果は、迅速な臨床診断の重要性を示す結果である。なぜなら(a) 皮膚繊維芽細胞が、家族性および非家族性双方で、ADの特徴的なMAPK活性の変化を提示し、(b) 皮膚繊維芽細胞は、大変簡単に取得され(脳組織と比べて)、皮膚繊維芽細胞で実施したMAPKに基づく診断試験は、ADの早期診断のための単純で且つ経済的な試験を提供する。
【0090】
本発明による新たなる発見は、「過剰なカルシウム シグナリングがBK刺激されたAD 繊維芽細胞において検出可能であった(Ito et al., 1994; Gibson et at., 1996; Etcheberrigaray, et al., 1998)」という他者により見出された知見と整合性がある発見である。
【0091】
[例1]
本研究は、52〜67歳の範囲のAD患者20個体の皮膚繊維芽細胞および年齢が適合した コントロール22個体の皮膚繊維芽細胞を使用した。サンプルのいくつかは、以前に保存された細胞であったが、他の細胞はヒト皮膚から新たに採取され、そして培養された。
【0092】
<材料および方法>
家族性 (FAD)および非家族性 (nFAD) AD患者の皮膚繊維芽細胞並びに年齢が適合した コントロール(AC)の保存された皮膚繊維芽細胞は、Coriell Institute for Medical Researchから購入した。培養液は、ウシ胎児血清(FBS ; Bio Fluids)を添加したダルベッコ・モディファイド・イーグルス培地(DMEM; Gibco BRL)を使用した。ブラジキニン、ジフェニルボリックアシッド2−アミノエチルエステル (2ABP;diphenylboric acid 2-aminoethyl ester)、プロテアーゼ及びホスファターゼ インヒビター カクテルはシグマ社から;ビスインドリルマレイミド(BiSM-1;ビスインドリルマレイミド-1)及びLY29400はAlexis社から;PP1はビショップ博士(Dr Anthony Bishop, Princeton University)から入手した。抗リン酸化Erk1/2、抗リン酸化CREB、および抗CREB 抗体はCell シグナルing Technology社から入手した。抗Erk1/2 抗体は、Upstate Biotechnology社から入手した。4-20% SDS-ミニゲルは、Invertrogene Novexから入手した。ニトロセルロース膜は、Schleicher & Schuellより入手した。全てのSDS電気泳動試薬は、バイオラッド社から入手した。スーパーシグナルケミルミネッセント基質キットは、ピアス社から入手した。
【0093】
[ACおよびAD 繊維芽細胞の培養]
家族性 (FAD)および非家族性 (nFAD) 両方のタイプを含むアルツハイマー病患者の、並びに年齢が適合した コントロール(AC)の保存された繊維芽細胞を、DMEM + 10% FBSと共にT-25/T75フラスコ中で維持および継代した。前記細胞を52〜67歳の範囲の被験者から採取した(80%以上のサンプルは男性から採取した)。前記細胞を継代6〜17の間に使用した。
【0094】
[バイオプシーにより新たに採取した繊維芽細胞のプロセシングおよび培養]
新規に取得した皮膚組織からの繊維芽細胞の採取と培養は以下のように実施した。nFAD患者および年齢が適合した コントロールからパンチバイオプシー皮膚組織を、Copper Ridge Institute (Sykesville, MD)およびJohns Hopkins Hospital (Baltimore, MD)で資格のある担当者が許可されたプロトコールにしたがって採取した。サンプルを1x PBS中に配置し、そして輸送用培地に入れてプロセシングを行う研究室へと輸送した。組織を、輸送用培地から取り出し、PBSでリンスし、そして1mmの外植片に切断した。外植片を、45% FBS並びに100 U/ml ペニシリン及び100 U/ml ストレプトマイシン (Pen/Strep)を含有する3 mlのバイオプシー培地を入れた通気処置(vented)T-25フラスコの成長表面(growth surface)上に個別に移した。前記組織を、10% FBSを含有している2 mlのバイオプシー培地の添加前に24時間37℃で培養した。前記培地を、48時間後に、10% FBSおよびPen/Strepを含有している標準の培養培地5 mlで置換した。前記細胞を、次に上記のように継代し、そして維持した。
【0095】
[繊維芽細胞の異なる薬理学的薬剤による処理]
繊維芽細胞をBK、および様々なインヒビターで処理した。これらには、IP3 レセプター インヒビター、ジフェニルボリックアシッド 2-アミノエチルエステル(2ABP)、蛋白質キナーゼ C インヒビター ビスインドリルマレイミド I (BiSM-1)、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ インヒビター PP1、およびPI3 キナーゼ インヒビター LY294002が含まれる。
【0096】
保存された ACおよびAD 繊維芽細胞を、それらを血清フリーのDMEM中で一晩「飢餓させる」前に80〜100%コンフルエンスにまで成長させた。細胞を、異なるインターバルで37℃で10 nM BKで処理して、BK効果に対するタイムコースを設定した。同じ容量のPBSを、各系の細胞のコントロール フラスコに添加した。反応を、培地を除いて、迅速に事前に冷やしたPBSでリンスして、そして前記フラスコをドライアイス/エタノール上に移して、停止させた。
【0097】
新鮮なバイオプシー 組織から採取した細胞を、最適濃度のBK(0.1 nM)で10分間37℃でインキュベートした。
【0098】
阻害実験のために、細胞を次に示す濃度のインヒビターとインターバルとで37℃でプレインキュベートした、即ち;2ABP (50 μMで30 min); PP1 (10 μMで15 min); Ly294002 (5 μMで15 min);およびBiSM-1 (5 μMで15 min)である。パラレルコントロール フラスコを同一容量のDMSOビヒクルとインキュベートした。このインキュベーションの終了時に、記載の濃度の同じインヒビターを添加し、そしてすぐにBKを10 nMの終濃度まで添加した。BK (10 nM)を、DMSO コントロールにも添加した。基礎コントロール()には、BKおよびインヒビターが添加されていない細胞を使用した。5分間37℃でのインキュベーション後、反応を上記のように停止した。
【0099】
細胞ライセートを様々な群の細胞から調製した。フラスコをドライアイス/エタノールから水へと移動させた。各フラスコに1 mlの溶解用緩衝液〔10 mM Tris pH 7.4, 150 mM NaCl, 1 mM EDTA, 1 mM EGTA, pH8, 0.5% NP-40,1% Triton X-100,1% プロテアーゼ インヒビター カクテル (シグマ社),セリン/スレオニン(Ser/Thr) ホスファターゼ インヒビターおよびチロシン (Tyr) ホスファターゼ インヒビターの1% カクテル(シグマ社)〕を添加した。低温室内に設置したエンドツーエンドシェーカー上で30分間揺動させた後、細胞を各フラスコから細胞スクレーパーで採取した。細胞を超音波破砕し、5分間5000 rpmで遠心分離し、そして上清のサンプルをウエスタンブロッティングに供試した。
【0100】
[ウエスタンブロッティング]
細胞ライセートを、等容量の2X SDSサンプルバッファー中で10分間沸騰させた。各サンプルの蛋白質を、4〜20%のミニグラジエントゲル上で分離し、そしてニトロセルロース 膜上に転写した。リン酸化したErk1/2を、スーパーシグナル ECL 検出キットを用い抗リン酸化Erk1/2で検出した。Erk1/2の総量に対するリン酸化Erk1/2量をノルマライズするために、前記抗体でブロットした同じ膜をストリッピングバッファー(62.5 mM Tris-HCl pH6.7,2% SDS および 100 mM 2-メルカプトエタノール)で60℃で45分間ストリップした。0.01% Tween-20を含有している10 mM PBS(pH 7.4)で洗浄した後(3x 10分)、前記膜を抗非リン酸化Erk1/2 抗体でブロットした。これによってゲル中にロードしたErk1/2の総量を計算することが可能である。
【0101】
CREBを同様の方法を用いて検出した。
【0102】
[データ分析]
リン酸化および非リン酸化Erk1/2(またはCREB)から生じたシグナルを、フジフィルムLAS-1000プラススキャナーでスキャンした。各蛋白質バンドの平均光学濃度を、NIHイメージソフトウエアを用いて測定した。リン酸化Erk1/2シグナルの値を、Erk1/2の総シグナル対してそれぞれノルマライズした。ノルマライズ後、処理細胞から取得したデータを、基礎コントロールのパーセンテージへと変換し、そして統計分析に供試した。
【0103】
[免疫細胞化学]
繊維芽細胞を、0.02 mg %ポリリジンでコートしたカバーガラスの表面で成長させた。上記のようにBKでの処理後、細胞を冷PBSで迅速にリンスし、4% ホルムアルデヒド(PBS中)で室温で15分間固定し、PBSで3回(それぞれ5分間)洗浄し、そして0.1% TritonX-100(PBS中)で室温で30分間孔をあけた。10%の通常のウマ血清(PBS中)で室温で30分間インキュベート後、細胞を抗リン酸化Erk1/2 抗体 (1: 200)で4℃で一晩インキュベートした。カバーガラスをPBSで3回洗浄し、そしてフルオレセインラベルした 抗マウス IgG, 1: 200 (Vector Lab)を添加し、そして室温で60分間インキュベートさせた。PBSによる3回の洗浄、そしてベクタシールド(Vector Lab)によるシーリングに続き、細胞中の免疫染色シグナルを蛍光顕微鏡で観察した。蛍光シグナルの強度を、バイオラッドクオンティティーワン(R)ソフトウエア(バイオラッド社)で測定した。繊維芽細胞中のBK レセプターの局在観察のために、モノクローナル 抗 BK B2 抗体を正常な繊維芽細胞に適用し、次にCY5結合抗マウス IgGとインキュベーションし、そして前記細胞を蛍光顕微鏡で観察した。
【0104】
<結果>
[ACおよびAD細胞のErk1/2のBK刺激による活性化]
BKは、コントロール 被験者のヒト 皮膚繊維芽細胞中で顕著であるが、一時的なErk1/2のリン酸化を惹起させた(図1)。リン酸化のピークは、刺激に後の約2.5分で生じ、その後Erk1/2のリン酸化は衰退し、そして刺激後の10分までにコントロールレベルまで戻った。BK処理後の20分で、Erk1/2のリン酸化は、コントロールの68%であった(図1)。しかしながら、ADを有する被験者の細胞では、Erk1/2の増加したリン酸化レベルが、著しく長期化した期間にわたって維持されていた(図1)。
【0105】
差は、5分(p < 0.01)で統計学的に有意(ステューデントのt検定)であり、10分(p < 0.0001)で最大の相違(divergence)が生じた。このADおよびAC細胞の間の差は、BK 刺激後の20分(P = 0.002)で有意のままであった。
【0106】
図2は、BK誘導によるErk1/2 リン酸化を、AD患者の及び年齢が適合した コントロールの新鮮な組織 サンプルから、同様にADおよびAC群の保存された細胞株から採取された皮膚繊維芽細胞において刺激後10分で検査した試験結果を示している。AD 繊維芽細胞におけるErk1/2 リン酸化は、年齢が適合した コントロールと比較して一貫して上昇していた(図2A)。同様に、細胞株のBK刺激によるErk1/2 リン酸化は、図2Bに示されるようにAD細胞株において上昇していることが再現され、この結果は3つの独立した反復実験(ランダムに選択されたACおよびAD系からの)により示された。
【0107】
繊維芽細胞を抗P-Erk1/2 抗体で免疫染色した場合、リン酸化したErk1/2の増加レベルが、BK処理の10分後に、AD細胞で観察されたが、AC細胞では観察されなかった(図3)。これらの増強したシグナルは、核傍領域(para-nuclear area)に集中していた(図3、下部右パネル)。
【0108】
[BK誘導によるErk1/2 リン酸化におけるIP3 レセプター インヒビター 2ABPの効果]
BKは、IP3-感受性ストアからのCa2+ 放出を刺激する(Cruzblanca et al., 1998;Pascale et al., 1999)。本研究では、BK誘導Erk1/2 リン酸化における、Ca2+ 放出(IP3 レセプターからの)の関与を調査した。2ABP(IP-3Rの強力な膜透過型インヒビター)の添加は、ACおよびAD細胞双方のBK刺激によるErk1/2 リン酸化を完全に無効化した(図4A)。二元配置ANOVAにより、処理効果が高度に有意(F1,36 = 187.4, p < 0.0001)であったことが示された。この結果は、Erk1/2のリン酸化およびその後の分子カスケードが、前記細胞におけるIP-3R-感受性 Ca2+ 上昇の下流であることを証明している。
【0109】
[BK誘導によるErk1/2 リン酸化におけるPKC インヒビター BiSM-1の効果]
この実験において、ACおよびAD細胞をBKの前に特異的なPKC インヒビター BiSM-1とプレインキュベートした。図4Bに示されるように、BK刺激によるErk1/2のリン酸化は、再度無効化された(ACおよびAD細胞双方ににおいて)。二元配置ANOVAは、有意な処理効果を示した。この結果は、PKC 活性が、ACおよびAD細胞双方におけるErk1/2のBK刺激による活性化に必要とされることを示している。
【0110】
[BK刺激によるErk1/2リン酸化におけるC-src 蛋白質チロシンキナーゼ インヒビター(PP1)の効果]
非レセプター PTKであるC-srcがBKによるErk1/2の活性化に関与しているかどうかを試験するために、ACおよびAD細胞をBK前に10μM PP1でプレインキュベートした。上記の2ABPおよびBiSM-1と同様に、PP1はBK誘導によるErk1/2 リン酸化を完全に阻害した(図4C)。二元配置ANOVAは、有意な処理効果(F1,40 = 234; p < 0.0001)を示した。この結果は、それ故にC-src PTK 活性もBKによるErk1/2の活性化に関与していたことを示している。
【0111】
[BK誘導によるErk1/2 リン酸化におけるPI3 キナーゼ インヒビター(LY294002)の効果]
PI3 キナーゼ活性がBK刺激によるErk1/2 活性化に関与しているかどうかを試験するためこの研究が実施された。繊維芽細胞をBK前に5μM LY294002とインキュベートした。
【0112】
IP-3R、PCKおよびC-srcのインヒビターの効果とは対照的に、LY294002はAC細胞のErk1/2 リン酸化の中等度(しかし有意に)阻害を生じたが(図4D)、一方それは、AD細胞のBK刺激によるErk1/2のリン酸化阻害には失敗した(図4D)。二元配置ANOVAは、有意な処理効果(F1,20=136.2, p < 0.001)およびグループ効果(group effects)(F1,20=11.55 ; p < 0.05)を示した。この結果は、PI3 キナーゼ活性が、AD患者細胞においてBK誘導Erk1/2 リン酸化に関与していないことを示唆している。
【0113】
[サイクリックAMP応答因子結合蛋白質(CREB)の活性化におけるBKの効果]
CREBの活性化におけるBKの効果(通常はErk1/2の下流)を試験した。図5に示されるように、10 nM BKは、ACおよびAD細胞双方において、高度に有意なCREBのリン酸化を誘導した。増加したリン酸化は、BK 刺激後5分程度で検出され、そして10分で更に増加した(図5A)。二元配置ANOVAは、有意な時間効果を示した(F1,28=14.09, p < 0.001)が、グループ効果は示さなかった。図5Bは、ACおよびAD細胞において、BK処理後の10分で同様に上昇したCREB リン酸化を示している。BK処理は、10分でCREB 蛋白質総量の著しい減少化をも生じた(図5C)(p < 0.001)。要約すると、ACおよびAD細胞の間の総CREBのBK誘導によるCREB リン酸化または減少化において有意差はなかった。
【0114】
[BKで誘導したCREB リン酸化におけるPKC、C-src、およびPI3 キナーゼ インヒビターの効果]
繊維芽細胞をPKC インヒビターであるBiSM-1で治療することにより、BK刺激によるCREB リン酸化を完全に無効化した(図6A)。二元配置ANOVAは、有意な処理効果 (F1,30=53.76, p < 0.0001)を示したが、グループ効果を示されなかった。同様に、c-src インヒビター PP1は、BK刺激によるCREB リン酸化を阻害した(図6B)。これらの結果は、この場合もPKCおよびc-srcの双方が、BKがErk1/2およびCREB双方を活性化するシグナリング 経路に関与していることを示している。PI3 キナーゼ インヒビターであるLY294002は、Erk1/2での効果と同様に、ACにおいてCREB リン酸化を部分的に阻害したが、AD細胞におけるCREB リン酸化に如何なる効果も有していなかった(図6C)。二元配置ANOVAは、有意な処理効果 (F1,30 = 36.23 ; p < 0.0001)およびグループ効果(F1,30=4.7 ; p < 0.05)を示した。
【0115】
[繊維芽細胞におけるBK B2 レセプターの発現]
BKに応答して増強したErk1/2およびCREBのリン酸化が、AD細胞上で発現されるBK レセプターの数の増加によるものかどうかを試験するために、ADおよびコントロール AC細胞中のBK レセプター発現を、タイプ 2 BK レセプター (BKb2R)に特異的な抗体を用いたウエスタンブロットにより測定した。レセプター発現に関して有意差は認められなかった。
【0116】
免疫蛍光染色により、BK2bRが、繊維芽細胞の細胞質、核、および核傍領域に存在することが実証された(図7)。しかしながら、BKb2Rの強度または分布パターンの何れかにおいて明確な差は、ADとAC細胞との間で観察されなかった。
【0117】
<実験結果の考察>
繊維芽細胞をADおよび他の遺伝疾患の有用なモデルとして使用した、なぜならこれらの細胞(全身に局在する)は、脳の疾患に関連する遺伝的な異常を提示する可能性があるからである。BK レセプターの刺激がAD 繊維芽細胞のMAPK 経路に異常 シグナル伝達を生じさせるという証拠を本研究は提供した。BKは、最も強力な内在性で疼痛性(algesic)の前炎症物質の1つである。BKは、疾患、損傷およびCNS同様に末梢の炎症において必要な重要な機能を担っている。本研究において、BK 刺激は、IP3 レセプターを介したCa2+ 放出に依存する様式で、AD細胞中のErk1/2 リン酸化を増強させ及び長期化させた。この結果は、上昇したIP3感受性 Ca2+ 放出が、BK 刺激後にAD 皮膚繊維芽細胞において検出されたという以前の報告(Gibson et al., 1996; Etcheberrigaray et al., 1998)と整合性のある結果である。しかしながら、このAD Erk1/2の長期化したリン酸化は、BKb2 レセプターまたはErk1/2の増加した発現によるものではなかった。これはこれら2つの蛋白質の発現または濃度が、コントロールとAD細胞とで差がなかったことから確かめられた。ADのBK レセプター および/または IP3 レセプターの特性または感受性に対する特異的な他の変化、加えて、このシグナル伝達 経路に関わる他の分子の変化をも除外することはできない。
【0118】
BK2bRの活性化は、PLC系の活性化を刺激し、これにより順に細胞内のCa2+の上昇を伴ってPKC 活性化を誘導する。加えて、いくつかのG 蛋白質共役レセプター(「GPCRs」)がc-src PTK活性を刺激することが知られており、これも細胞シグナリングの重要な中間媒介因子(中間媒介因子)としてErk1/2の活性化に参加する可能性がある。本研究は、BK刺激によるErk1/2 リン酸化において、PKCおよびc-src PTK双方の関与を試験した。このリン酸化がPKCインヒビター(BiSM-l)およびc-src インヒビター(PP1)により無効化されるとの事実は、複数の上流の蛋白質キナーゼが集合することによりErk1/2 活性が制御されることを示している。IP3 レセプター インヒビターである2ABPと同様に、BiSM-1およびPP1の双方は、同様にADおよびコントロール細胞のErk1/2 リン酸化を無効化した。従って、ADに関連したErk1/2 リン酸化の増強が、上昇したPKCまたはc-src PTKの活性によるものではないであろう。
【0119】
AD特異的なErk1/2 リン酸化の増強の根底に存在しているシグナリング 経路を解析するため、本発明の発明者等は、PI-3 キナーゼ(GPCRs によるErk1/2 活性化に関与する別の酵素)の関与を試験した。様々な系に関する試験に基づくと、GPCR 刺激後のPI-3 キナーゼの活性化は、PKC(Rasの下流でc-src PTKと関係している)の活性化に依存している。特異的なPI-3 キナーゼ インヒビター LY294002は、コントロール 繊維芽細胞中でBK誘導によるErk1/2 リン酸化の中等度の阻害を生じたが、AD細胞で効果はなかった。これは、PI-3 キナーゼが正常な繊維芽細胞のBK-活性化によるErk1/2 リン酸化に部分的に寄与するが、AD細胞のErk1/2 リン酸化はこの酵素非依存性であるように思われることを示唆している。
【0120】
Erk1/2/MAPKの主要な効果は、転写因子を制御することにより遺伝子発現を活性化することである。CREB活性化は、本研究においても観察された(Ser133のリン酸化)。コントロール細胞におけるErk1/2のリン酸化とは異なり(BK処理後に10分未満の時間持続する)、高度にリン酸化したCREBがBK処理後10分で、ADおよびコントロール細胞の双方に存在していた。このことはCREB 活性化が異なるタイムコースで生じることを示唆している。PKC、c-srcおよびPI3 キナーゼのインヒビターは、Erk1/2 リン酸化の阻害と同様な様式でCREBリン酸化を阻害する。これは、CREB 活性化が同じシグナル 経路により制御されることを示唆している。PP1はBK刺激によるCREB リン酸化を完全に阻害するが、コントロール細胞(図6B)におけるCREB 蛋白質の発現増加を生じ、これはおそらく正常な補償的フィードバック機構の存在を反映した結果であろう。PP1のこの効果は、AD細胞で観察されていなく、これはCREB発現の制御がADでは損なわれているだろうことを示唆している。
【0121】
本試験結果は、図6に要約されるように、ADの病因がMAPKに関連する分子カスケードの撹乱を引き起こすという結果を支持する証拠を提供する。他者による最近の研究結果は、学習および記憶などのニューロンの柔軟性(neuronal plasticity)に関連する脳機能にとってMAPKが重要であること示唆している。Erkは、tau 蛋白質をSer262およびSer356を含む複数のSer/Thr 部位でリン酸化する(Reynolds et al., 2000)、この領域はtauの微小管結合領域中に存在する。Ser262のリン酸化は、微小管を会合させ且つ安定化させるtauの機能を著しく損なわせる。MAPKが関与する損傷したシグナリング 経路により、細胞は多くの他の蛋白質の異常発現を誘導して細胞外および細胞内のシグナルに応答し得る。
【0122】
MAPK リン酸化の増強または長期化などの分子シグナリングにおける異常の全体徴候(Systemic manifestations)は、大きく行動/認識に影響するCNSの異常性(例えば、物忘れ)に反映している可能性がある。従って、簡単に入手できる末梢部位に見出される細胞(皮膚繊維芽細胞が例である)における、MAPKおよびそれに関連するシグナリング 経路におけるAD特異的な異常の検出は、ADの早期診断のための手段と同様に薬剤開発の治療標的を同定するための効率的で且つ信頼性のある手段を提供する。
【0123】
[例2]
ハンティングトン痴呆(HD;Huntington's dementia)に罹患した個体の皮膚繊維芽細胞を用いて、BK刺激したErk1/2 活性の長期化がAD特異的であるかどうかを試験して決定した。図8は、繊維芽細胞のErk1/2のリン酸化におけるブラジキニンの効果を示している(N=4およびP=0.39, t 検定)。HD細胞を、10分間10 nM BKで処理した。図8は、HD細胞を10分間10 nM BKで処理した場合、Erk1/2のリン酸化レベルが年齢適合コントロールのレベルと差がなかったことを示しており、これはErk1/2 活性のBK刺激による増強がハンティングトン痴呆には存在しないことを示唆している。従って、本発明によるアルツハイマー病のためのMAP キナーゼ アッセイは、ハンティングトン痴呆に関して陰性の診断を提示しており、この結果は前記アッセイがアルツハイマーに特異的であることを示している。
【0124】
本発明の好適な態様の記載中には、本発明を明確に説明するために特定の専門用語が使用される。しかしながら、本発明は、そのように選択された前記の特定の専門用語に限定されない。各々の特定の構成要素は、類似する目的を達成するために類似する様式で実施される、全ての技術的に均等なものを含む。
【0125】
上記に記載された本発明の態様は、本発明の範囲内で上記技術を考慮して当業者に適するように、修飾されるか又は変化する、また構成要素が付加されるか又は削除される。本明細書中で参照した各々の参照文献は、各々の文献が個別に参照によって援用されるように、参照によって援用される。
【参照文献】
【0126】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のアルツハイマー病を診断するための方法であって、該方法は:
(a)前記被験者の細胞の指示蛋白質のリン酸化の基礎レベルを測定することと;
(b)前記被験者の細胞をアクチベータ化合物と接触させることと(前記アクチベータおよび前記指示蛋白質は次ぎのように選択される、即ち、前記アクチベータが前記被験者の細胞中の前記指示蛋白質の異なる活性化したリン酸化応答を、前記接触開始後の規定時間に、非アルツハイマーコントロール被験者の細胞における活性化したリン酸化応答と比べて、惹起するように選択される);
(c)前記被験者細胞中の前記指示蛋白質の活性化したリン酸化レベルを、接触開始後の規定時間に測定することと;および
(d)工程(a)の基礎リン酸化レベルと、工程(c)で決定した活性化したリン酸化レベルとの比率を計算することと;および
(e)前記規定時間にアルツハイマー病細胞であると判明している細胞およびアルツハイマー病細胞ではないと判明している細胞から測定した予め決定した活性リン酸化比率と、工程 (d)で計算された比率とを比較することと;を含み、
前記計算された比率と前記アルツハイマー病細胞であると判明している細胞に関して予め決定した比率とを比べて統計学的に差異がないならば、前記診断は陽性と判定され、および/または前記計算された比率と前記非アルツハイマー病細胞と判明している細胞に関して予め決定した比率とを比べて統計学的差異がないならば、前記診断は陰性と判定される方法。
【請求項2】
被験者のアルツハイマー病を診断する方法であって、該方法は:
(a)前記被験者の細胞において、指示物質であるカルシウム シグナリング 経路 蛋白質(この蛋白質のリン酸化は前記細胞におけるIP-3R感受性のCa2+ 上昇に関連する)のバックグランドのリン酸化レベルを測定することと;
(b)前記被験者細胞をIP3R アゴニスト(アルツハイマー被験者細胞の前記指示蛋白質のリン酸化レベルにおいて、非アルツハイマーコントロール細胞における前記レベルと比べて異なる応答を惹起する)と接触させることにより刺激することと;
(c)その後に、接触させた細胞における前記指示蛋白質の応答リン酸化レベルを測定することと;並びに
(d)前記バックグランドレベルと対比させた前記指示蛋白質の前記応答リン酸化レベルが、アルツハイマー被験者に又は健常コントロールに由来することが判明している細胞の前記応答レベルに匹敵するかどうかを決定することと;
を含む方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、最初に細胞の培養物における前記指示蛋白質のバックグランドリン酸化レベルを測定することと、次に前記培養物に前記IP3R アゴニストを添加することと、および前記応答リン酸化レベルを測定することと、を含む方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、細胞の第一アリクウォットにおける前記バックグランドレベルを測定することと、前記細胞の同様のアリクウォットを刺激することと、および前記アリクウォットにおける前記応答レベルを測定することと、を含む方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法であって、前記測定が免疫アッセイを含む方法。
【請求項6】
請求項2に記載の方法であって、前記測定が崩壊した細胞の免疫アッセイを含む方法。
【請求項7】
請求項2に記載の方法であって、前記IP3-Rアゴニストが、ブラジキニン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジン F、およびバソプレシンからなる群から選択される方法。
【請求項8】
請求項2に記載の方法であって、前記細胞が繊維芽細胞、口内粘膜細胞、ニューロン、および血液細胞からなる群から選択される方法。
【請求項9】
被験者のアルツハイマー病を診断する方法であって、該方法は:
(a)前記被験者から細胞を取得することと;
(b)前記細胞の指示蛋白質のリン酸化の基礎レベルを測定することと;
(c)前記細胞と前記指示蛋白質のリン酸化のアクチベータとを接触させることと;
(d)前記接触の開始後の規定時間に前記細胞の指示蛋白質のリン酸化レベルを測定することと;および
(e)工程(b)で測定した前記レベルに対する工程(d)で測定した前記レベルの第1比率を計算することと、そして前記第1比率を、予め決定された、アルツハイマー病細胞と判明した細胞から前記規定時間に取得された前記レベルの第2比率および非アルツハイマー病細胞と判明した細胞から前記規定時間に取得された前記レベルの第3比率、と比較することと;を含み、
(i)工程(e)の前記第1比率と予め決定した第2比率との間に統計学的差異がないならば、前記診断は陽性と判定され、および(ii)工程(e)の前記第1比率と予め決定した第3比率との間に統計学的差異がないならば、前記診断は陰性と判定される方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、工程(d)の規定時間が、工程(e)の第2比率と第3比率との間の差異が最大となる時間である方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記アクチベータが、ブラジキニン、ボンベシン、コレシストキニン、トロンビン、プロスタグランジン F2αおよびバソプレシンからなる群から選択される方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記測定が免疫アッセイで実施され、且つ前記被験者細胞をリン酸化指示蛋白質に特異的な抗体と接触させ、これにより前記抗体が前記指示蛋白質に結合することが可能となり、そして前記指示蛋白質に結合した前記抗体が検出される方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記免疫アッセイがラジオイムノアッセイ、ウエスタンブロットアッセイ、免疫蛍光アッセイ、酵素免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、ケミルミネッセンスアッセイ、免疫組織化学アッセイ、ドットブロットアッセイ、またはスロットブロットアッセイである方法。
【請求項14】
被験者のアルツハイマー病を診断するための方法であって、該方法は次ぎの工程:
(a)前記被験者細胞を、希釈剤中の化合物とインキュベートすることと(ここで、前記化合物はカルシウムシグナリング経路が媒介する指示蛋白質のリン酸化を刺激し、これによって刺激された細胞が産生される);
(b)工程(a)の前に、同時に又は後に、前記被験者の同じタイプの細胞をコントロール化合物と又は前記希釈剤とインキュベートし、これにより非刺激コントロール細胞を産生することと;
(c)前記刺激された細胞のリン酸化指示蛋白質のレベルを前記非刺激コントロール細胞のリン酸化指示蛋白質のレベルと比較することと;を含み、
前記非刺激細胞と比べて前記刺激された細胞のリン酸化指示蛋白質の前記レベルの増加が、アルツハイマー病の存在を示す方法である。
【請求項15】
請求項14に記載の方法であって、前記比較する工程(c)が、次ぎの工程:
(i)前記刺激および/または前記非刺激細胞からの蛋白質サンプルを前記リン酸化指示蛋白質を認識する抗体と接触させることと;および
(ii)前記抗体の前記指示蛋白質に対する結合を検出することと;
を含む方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、更に前記刺激および/または前記非刺激細胞からの蛋白質サンプルを前記指示蛋白質の非リン酸化形態を認識する抗体と接触させることと、並びに前記抗体と非リン酸化指示蛋白質との結合を検出することと、を含む方法。
【請求項17】
請求項14に記載の方法であって、前記比較する工程が、更に前記刺激および前記非刺激細胞から蛋白質サンプルを取得する工程を含む方法。
【請求項18】
被験者のアルツハイマー病を診断する方法であって、該方法は:
前記被験者細胞を、イノシトール 1,4,5-三リン酸(IP3)レセプターを介した細胞内のカルシウム放出を惹起する薬剤と接触させることと、
前記の接触させる工程後の1以上のタイムポイントで前記被験者細胞のMAPK蛋白質のリン酸化量を測定することと、並びに
1以上のタイムポイントでの前記被験者の細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化量を、非アルツハイマーコントロール被験者の細胞に前記薬剤を接触させた後に同じタイムポイントで測定した前記リン酸化量と比較することと、を含み、
前記被験者細胞におけるMAPK 蛋白質のリン酸化の前記コントロール細胞と比較した増加が、アルツハイマー病の診断となる方法。
【請求項19】
請求項18に記載の方法であって、前記薬剤がブラジキニンまたはブラジキニンレセプターアゴニストである方法。
【請求項20】
請求項18に記載の方法であって、前記薬剤がボンベシンである方法。
【請求項21】
請求項18に記載の方法であって、前記アゴニストがIP3媒介Ca2+ 放出を誘導するものである方法。
【請求項22】
請求項18に記載の方法であって、前記MAPK蛋白質がErk1/2である方法。
【請求項23】
請求項18に記載の方法であって、前記リン酸化量が前記接触させる工程後の1タイムポイントで測定される方法。
【請求項24】
請求項18に記載の方法であって、前記測定することが、
前記接触させる工程の後の第1タイムポイントで前記被験者細胞の第1アリクウォットにおけるリン酸化量を測定することと、および
前記接触させる工程の後の第2タイムポイントで前記被験者細胞の第2アリクウォットにおけるリン酸化量を測定することと、
を含む方法。
【請求項25】
請求項18に記載の方法であって、前記タイムポイントが、1以上の約0.5分、1分、2分、2.5分、5分、10分、20分、および30分から選択される方法。
【請求項26】
請求項18に記載の方法であって、前記細胞が末梢組織に由来する方法。
【請求項27】
請求項18に記載の方法であって、前記細胞が皮膚繊維芽細胞である方法。
【請求項28】
請求項18に記載の方法であって、前記測定する工程が前記被験者細胞のライセートにおけるリン酸化を検出することを含む方法。
【請求項29】
請求項18に記載の方法であって、前記測定する工程がインビトロで実行される方法。
【請求項30】
請求項18に記載の方法であって、前記測定する工程がゲル電気泳動を含む方法。
【請求項31】
請求項18に記載の方法であって、前記測定する工程がウエスタンブロッティングを含む方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法であって、前記ウエスタンブロッティングが抗リン酸化MAP キナーゼ 抗体を使用することを含む方法。
【請求項33】
請求項18に記載の方法であって、前記リン酸化の増加が1タイムポイントにおけるリン酸化蛋白質の量の上昇である方法。
【請求項34】
請求項18に記載の方法であって、前記リン酸化の増加がリン酸化蛋白質の持続時間の増加である方法。
【請求項35】
請求項18に記載の方法であって、前記被験者がアルツハイマー病の臨床徴候を欠失している方法。
【請求項36】
請求項18に記載の方法であって、前記被験者細胞を、蛋白質キナーゼ C活性のインヒビター、PI-3 キナーゼ活性のインヒビター、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性のインヒビター、IP-3 レセプターのインヒビターおよび蛋白質ホスファターゼのインヒビターからなる群から選択される1以上のインヒビターと接触させることを更に含む方法。
【請求項37】
請求項18に記載の方法であって、前記リン酸化の増加が、前記被験者細胞を蛋白質キナーゼC活性の、C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性の、PI-3 キナーゼ活性の、およびIP-3 レセプターのインヒビターからなる群から選択されるインヒビターと接触させることによって阻害される方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法であって、前記インヒビターがBiSM-1、PP1、および2−アミノエトキシジフェニルボラートからなる群から選択される方法。
【請求項39】
化合物をスクリーニングしてアルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物を同定するための方法であって:
AD被験者の試験細胞を、前記接触させる工程の前、途中、または後に、スクリーニングする化合物と接触させることと、前記試験細胞を、イノシトール 1,4,5-三リン酸 (IP3) レセプターを介した細胞内のカルシウム放出を惹起する薬剤で刺激することと、
前記試験細胞におけるMAPK蛋白質のリン酸化量を、前記試験細胞を刺激した後の1以上の タイムポイントで測定することと、
前記1以上のタイムポイントでの前記試験細胞におけるMAPK蛋白質のリン酸化量を、前記化合物と接触させなかったAD被験者のコントロール細胞における同じ1以上のタイムポイントでのリン酸化量と比較することと、並びに増加したリン酸化を阻害または阻止する化合物をリード化合物として承認することと、並びに増加したリン酸化を阻害または阻止しない化合物を棄却することと、
を含む方法。
【請求項40】
請求項38に記載の方法であって、前記薬剤がブラジキニンまたはブラジキニンレセプターアゴニストである方法。
【請求項41】
請求項38に記載の方法であって、前記MAPK蛋白質がErk1/2である方法。
【請求項42】
請求項38に記載の方法であって、前記接触させる工程の後の1タイムポイントで前記リン酸化量を測定することを含む方法。
【請求項43】
請求項38に記載の方法であって、前記細胞が皮膚繊維芽細胞である方法。
【請求項44】
請求項38に記載の方法であって、前記測定する工程が前記被験者細胞のライセート中のリン酸化を検出することを含む方法。
【請求項45】
刺激応答アッセイにおけるアクチベータ 化合物としての有用性に関して化合物をスクリーニングするための方法であって:
AD細胞およびコントロール細胞の指示蛋白質のリン酸化における前記化合物の効果を測定することと、並びにコントロール細胞と比べて、AD細胞において前記指示蛋白質のリン酸化の量および/または持続時間を増加させる化合物を選択することと、を含む方法。
【請求項46】
アルツハイマー病の診断用試験キットであって、抗リン酸化MAPK 蛋白質抗体およびブラジキニンを含むキット。
【請求項47】
アルツハイマー患者のための薬物療法を選択するための方法であって、
可能性のある治療化合物を選択することと、
前記可能性のある治療化合物を前記患者に投与することと、その後に
前記細胞を前記指示蛋白質のリン酸化を刺激する化合物で活性化した後に、前記患者の細胞のリン酸化指示蛋白質の異常に上昇したレベルの存在または非存在を検出することと、を含み、
かかる上昇したレベルの存在が前記可能性のある治療化合物が前記患者に対して効果がないことを示し、且つかかる上昇したレベルの非存在が前記可能性のある治療化合物が前記患者に対して治療上有用であることを示す方法。
【請求項48】
請求項47に記載の方法であって、更に前記被験者のアルツハイマー病を、前記患者に治療上有用であることが示された化合物を投与することにより治療すること又は予防することを含む方法。
【請求項49】
効果的な量の医薬を投与することを含む、被験者のアルツハイマー病を治療する又は予防するための方法であって、前記医薬が、
(a)コントロール細胞と比べて前記被験者の細胞のMAPK 蛋白質の異常に上昇したリン酸化を阻害する若しくは阻止する;および/または
(b)前記MAPK 蛋白質の異常に上昇したリン酸化により生じたイベントを阻害する;方法。
【請求項50】
請求項49に記載の方法であって、前記医薬がErk1/2 リン酸化を阻害する方法。
【請求項51】
請求項49に記載の方法であって、前記医薬が蛋白質キナーゼ C活性の、src 蛋白質チロシンキナーゼ活性の、又はIP-3 レセプターのインヒビターである方法。
【請求項52】
請求項37に記載の方法であって、前記インヒビターがBiSM-l、PP1、および2ABPからなる群から選択される方法。
【請求項53】
被験者のアルツハイマー病を診断するための方法であって、
(a)前記被験者の及び非アルツハイマーコントロール被験者の皮膚繊維芽細胞を、効果的なリン酸化刺激濃度のブラジキニンと接触させることと;
(b)前記被験者細胞のリン酸化Erk1/2量を、2分、5分、10分、20分、および30分からなる群から選択される1以上のタイムポイントで、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと;
(c)非アルツハイマーコントロール被験者の細胞におけるリン酸化Erk1/2量を、(b)と同じタイムポイント(若しくは複数のタイムポイント)で、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと;(ここで、工程(b)および(c)の前記リン酸化Erk1/2量は、前記細胞に存在する蛋白質量に対してノルマライズされる);
(d) 前記タイムポイントで前記被験者細胞のリン酸化Erk1/2量と前記コントロール細胞のリン酸化Erk1/2量とを比較することと;を含み、
1以上の前記タイムポイントで前記被験者細胞のリン酸化Erk1/2量の前記コントロール細胞と比較した増加が、アルツハイマー病の診断となる方法。
【請求項54】
請求項53に記載の方法であって、更に前記被験者細胞を、
(a)蛋白質キナーゼ C活性のインヒビター BiSM-l;
(b)C-src 蛋白質チロシンキナーゼ活性のインヒビター PP 1;および
(c)IP-3 レセプターのインヒビター 2−アミノエトキシジフェニルボラート;
からなる群から選択される1以上のインヒビターと接触させることと、を含み、
前記コントロール細胞と比較した前記被験者細胞におけるリン酸化Erk1/2量の前記ブラジキニン誘導性の増加が、前記インヒビターにより減少する方法。
【請求項55】
被験者におけるアルツハイマー病の存在を診断するための方法であって、次ぎの工程:
a)前記被験者細胞を、指示蛋白質のリン酸化を増加させるアクチベータ化合物で刺激することと、および
b)刺激された細胞における非リン酸化指示蛋白質およびリン酸化指示蛋白質のレベルを、前記被験者の同じタイプの非刺激細胞における非リン酸化指示蛋白質およびリン酸化指示蛋白質のレベルと比較することと、を含み、
刺激された細胞におけるリン酸化指示蛋白質の非刺激細胞と比べた際の相対的レベルの増加が、アルツハイマー病の存在を示す方法。
【請求項56】
化合物をスクリーニングしてアルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物を同定するための方法であって、
(a)AD 被験者の試験皮膚繊維芽細胞をスクリーニングする化合物と接触させることと;
(b)前記被験者のコントロール 皮膚繊維芽細胞を前記化合物に対するコントロール 薬剤と接触させることと或いは前記コントロール 繊維芽細胞を非存在下で又は前記化合物もしくは前記コントロール 薬剤の何れかの存在下でインキュベーションすることと;
(c)工程 (a)および(b)の前、途中、または後に、前記試験および前記コントロール 繊維芽細胞を、効果的なリン酸化刺激濃度のブラジキニンで刺激することと、
(d)前記試験および前記コントロール 繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量を、2分、5分、10分、20分、および30分からなる群から選択される1以上の タイムポイントで、リン酸化Erk1/2に特異的な抗体を用いたウエスタンブロッティングにより測定することと(ここで、前記リン酸化Erk1/3量は、前記試験およびコントロール 繊維芽細胞に存在する蛋白質量に対してノルマライズされる);
(e)前記試験繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量と前記コントロール 繊維芽細胞におけるリン酸化Erk1/2量とを比較して、前記化合物が前記コントロール細胞と比較して前記試験細胞におけるErk1/2リン酸化のブラジキニン誘導性の増加を阻害するか又は阻止するかどうかを決定することと;を含み、
前記増加したリン酸化を阻害する又は阻止する化合物が、アルツハイマー病の治療または予防に有用な化合物であると同定される方法。
【請求項57】
ヒト細胞における、アミロイド前駆体蛋白質の蛋白質分解、アミロイド 蛋白質βの分泌、および/またはtau 蛋白質のリン酸化を減らすための方法であって(ここで、前記細胞はコントロール ヒト細胞と比較してIP3 レセプターが媒介するMAPK 蛋白質のリン酸化が増加しており)、前記細胞を、前記コントロール細胞のレベルにまでリン酸化の減少に効果的なMAPKリン酸化のインヒビターと接触させることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−78330(P2013−78330A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−268633(P2012−268633)
【出願日】平成24年12月7日(2012.12.7)
【分割の表示】特願2008−286869(P2008−286869)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(503310224)ブランシェット・ロックフェラー・ニューロサイエンスィズ・インスティテュート (25)
【Fターム(参考)】