説明

マイナスイオン発生ポリエステル繊維及びそれを用いたマイナスイオン発生製品の製造方法

【課題】保温性に富みかつ高いマイナスイオン発生材料をポリエステル繊維にトルマリン、半導体物質、放射性物質等の異物を混入することなく、ポリエステル繊維のもつ特性を利用してマイナスイオンを発生し、従来のものに較べマイナスイオン発生能力が高く、且つ長期間にわたって、その能力が低下することなく持続する保温性に富んだマイナスイオン発生繊維を提供する。
【解決手段】質量平均分子量100万〜300万の超高分子量のポリ−γ−グルタミン酸で被覆処理された極細ポリエステル繊維と未処理極細ポリエステル繊維とを含む混合繊維とからなる。繊維長が短く、極細ポリエステル繊維の集合とすることにより、形成される無数の微細な空間中の移動を著しく阻害された熱伝導性の低い空気のために高い保温性を与え、かつ未処理ポリエステル繊維は負に帯電されて接触或いは摩擦により多くのマイナスイオンを発生するポリエステル繊維とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイナスイオン発生ポリエステル繊維及びそれを用いたマイナスイオン発生製品の製造方法に関し、さらに詳しくいえば、優れた保温性に加えて、マイナスイオンを発生する新規なポリエステル繊維及びそれを用いたマイナスイオン発生製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マイナスイオンは人間の健康を維持するうえで主要な役割をはたし、癒しの効果を与えることから、以前より注目され、これまでにも人工的にこれを発生させるための多くの材料や方法が提案されている。特に、近年、電子を用いる治療医学の急速な進歩により、マイナスイオンの人体への作用機序が解明された結果、マイナスイオンの発生源である電子が、健康阻害の原因となっている活性酸素の体内での生成を阻害することが明らかになり、マイナスイオンについての関心は益々高まりつつある。
【0003】
このマイナスイオンの利用方法の1つとして、マイナスイオンを発生する機能をもつ繊維で、衣料品や布団カバーを作製する方法が知られており、このような繊維として、これまでに超微粒状トルマリンをアルカリセルロースに混練し、紡糸して製造した帯電性レーヨン繊維がある(特許文献1参照)。しかしながら、トルマリンのようなマイナスイオンを発生する無機物微粒子を繊維原料中に練り込んで紡糸するには、0.8μm以下の粒径にまで微粉化しなければならず、これには乾式粉砕と湿式粉砕とを併用するなどの特殊な技術を必要とする。また、微粒子を混入した原料を紡糸すると紡糸ノズルが損傷しやすいなどの不都合を生じる。
【0004】
また、ポリエステル繊維を用いるものも知られている(特許文献2参照)。しかし、ポリエステル繊維を用いる場合、溶融粘度の異なる二種のポリエステル繊維が偏心的に複合する構造や、ポリエステル繊維が平均細孔半径が20nm程度の細孔を持つような構造を採らなければならず、極めて複雑で、かつコストが高くなる。
【0005】
さらに、セルロース系繊維と2種以上のポリエステル系サイドバイサイド型又は芯鞘型複合繊維からなるマイナスイオンを発生する複合編成物も知られている(特許文献3参照)。しかし、これも構造が複雑である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−327207号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献2】特開2005−68565号公報(特許請求の範囲その他)
【特許文献3】特開2004−124348号公報(特許請求の範囲その他)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明の目的は、トルマリン、半導体物質、放射性物質等の異物を繊維に混入することなく、しかも従来に較べてマイナスイオン発生能力が高く、長期にわたってその能力が低下することなく、且つ保温性に富んだマイナスイオン発生ポリエステル繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、繊維長の短い極細ポリエステル繊維が保温性に富む特性を有し、利用されているのに加えて、極細ポリエステル繊維の物性を変えることなく、表面特性のみを変える手段について、鋭意研究を行った結果、極細ポリエステル繊維の表面に超高分子量のポリ‐γ‐グルタミン酸の超薄膜を架橋剤を用いて被覆固着させ、これを未被覆処理の極細ポリエステル繊維と混合し相互に接触又は摩擦させることにより、大量のマイナスイオンを発生することを見出し、本発明をなすにいたった。
【0009】
即ち、本発明は、質量平均分子量100万〜300万の超高分子量のポリ−γ−グルタミン酸により被覆処理されたポリエステル繊維(A)と未処理のポリエステル繊維(B)とを含む混合ポリエステル繊維とからなり、未被覆処理ポリエステル繊維が負に帯電されていることを特徴とするマイナスイオン発生ポリエステル繊維を提供するものである。
本発明においては、前記ポリエステル繊維(A)および前記ポリエステル繊維(B)の外径が5μ〜14μで、かつ長さが5mm〜10mmであることが好ましい。また、前記ポリエステル繊維(A)の被覆処理が二官能エポキシ化合物を架橋剤として用いて行われていることが好ましい。さらに、前記ポリエステル繊維(A)100質量部に対する超高分子量ポリ−γ−グルタミン酸の被覆割合が0.001〜0.3質量部の範囲にあることが好ましい。さらにまた、前記ポリエステル繊維(A)と前記ポリエステル繊維(B)との混合割合が質量比で80:20ないし10:90であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、製織した通気性を有する細繊度織物、通気性を有する樹脂加工した織物、または立体キルティング加工を施した集合袋構造物に、前記マイナスイオン発生ポリエステル繊維を充填し、防寒外衣、寝具、寝袋等を形成することを特徴とするマイナスイオン発生製品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、複雑な構造とすることなく、従来知られているマイナスイオン発生材料、例えばトルマリンを練り込んだビスコース繊維からなる繊維布のマイナスイオン発生量に比べ著しく大きい発生量を示す上に、長期間にわたって持続するという効果がある。また、保温性にも優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マイナスイオンを定量するために用いられるゲルディエン法に基づく空気イオンの測定装置の原理を説明するための説明図である。
【図2】図1における外筒1への印加電圧と内筒2に流れる電流との関係を示すグラフである。
【図3】測定装置の全体構造を示す側面略解図である。
【図4】ポリ−γ−グルタミン酸の加工被覆分率とマイナスイオンの発生量との関係を示すグラフである。
【図5】混合わた中のポリ−γ−グルタミン酸被覆極細ポリエステル繊維わた分率と、マイナスイオン発生量との関係を示すグラフである。
【図6】極細ポリエステル繊維径とマイナスイオン発生量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明のマイナスイオン発生ポリエステル繊維は表面特性の異なる2種のポリエステル繊維(A)および(B)から構成されている。すなわち、一方のポリ−γ−グルタミン酸被覆のポリエステル繊維(A)は表面の帯電系列が上位のポリアミド構造をとり、他方は帯電系列が下位にある未被覆処理のポリエステル繊維(B)であり、これらの組み合わせのため、両繊維がブレンドされ接触或いは摩擦により未処理のポリエステル繊維(B)上には多量の負の電荷を生じる。更に、ポリ‐γ‐グルタミン酸を被覆処理したポリエステル繊維(A)は実測値として繊維径が10.4ミクロンの繊維の場合は22℃±2℃、関係湿度69%±2%の環境下において、12.4%の水を保持しており、未処理のポリエステル繊維(B)上に生じた負のイオンに効果的に水が作用し、高いマイナスイオン発生能力を示す結果となる。
【0014】
本発明に使用し得るポリエステル繊維は極細ポリエステル繊維用グレードのポリエステルポリマーを使用し、通常の紡糸機にて、細繊度用のノズルを使用して好適に製造することができる。繊維表面積が大なることにより、繊維間の接触ないし摩擦する面積が大となって、マイナスイオンの発生能力が大となり、且つ繊維間に動きの束縛された空気の量が大となって保温効果も大となるために、可能な限り細繊度であることが好ましく、特に好ましくは5〜14ミクロンの範囲内の繊維度が適当である。極細ポリエステル繊維として、例えば、下記の実施例で使用した1.7dTex×51mm(径13ミクロン)、1.1dTex×38mm(径10.4ミクロン)、0.8dTex×35mm(径8.9ミクロン)、および0.23dTex×35mm(径4.8ミクロン)等を好適に挙げることができる。
【0015】
極細ポリエステル繊維(A)および(B)の使用にあたっては、用途に応じた形態の織布にキルティングによりえられた空間中に空気流により充填し、また繊維の構造が保温性が大であるように、繊維長を好ましくは5mm〜10mm、より好ましくは6mm〜8mmの範囲内とすることが適当である。このようにすることで、例えば、製織した通気性を有する細繊度織物、通気性を有する樹脂加工した織物、または立体キルティング加工を施した集合袋構造物に、前記マイナスイオン発生ポリエステル繊維を充填し、防寒外衣、寝具、寝袋等を形成することができる。
【0016】
極細ポリエステル繊維表面を被覆するポリ−γ−グルタミン酸としては、納豆の粘性物質中より分離されたバチルス(Bacillus)属の菌により、グルタミン酸を重合して得られる質量平均分子量100万〜300万の超高分子量のものを用いることが必要である。極細ポリエステル繊維の表面に高強度の被覆を施すためには、質量平均分子量が150万以上のものを用いるのが好ましい。
【0017】
また、工業的に製造する場合には、小麦、大豆などを原料として作る豆腐、納豆、醤油などの製造工程で生じる廃棄物を原料として用いるのが好ましい。極細ポリエステル繊維にポリ−γ−グルタミン酸を均一かつ強固な薄膜状に被覆するには、架橋剤として二官能性エポキシ化合物を用いることが好ましい。二官能性エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルベンゼン、ジグリシジルシクロヘキサン、ジグリシジル尿素などがある。
【0018】
二官能性エポキシ化合物の使用量は、極細ポリエステル繊維の質量に対し、好ましくは0.001〜0.1質量%の範囲内とする。また、極細ポリエステル繊維とポリ−γ−グルタミン酸の使用割合は、極細ポリエステル繊維100質量部当り、好ましくは0.001〜0.3質量部、より好ましくは0.003〜0.1質量部の範囲内とする。
【0019】
本発明のマイナスイオン発生繊維を製造するには、所定量のポリ−γ−グルタミン酸を含む水溶液に極細ポリエステル繊維を浸漬し、ポリ−γ−グルタミン酸を極細ポリエステル繊維に十分に吸着させたのち、ろ過により水を除去する。
次いで、このポリ−γ−グルタミン酸を吸着した極細ポリエステル繊維を、例えば、プラスチックパイプに巻き付けて、架橋剤を含む弱酸性に調整した液中に浸漬し、40〜60℃に保持したのち、80℃まで昇温して架橋反応を行わせ、最終90℃まで昇温し、反応を終了する。この反応時間は、通常、2〜4時間程度である。この際の液性の調整は、例えば、酢酸、プロピオン酸のような有機酸、塩酸、硫酸、リン酸などの無機酸によりpH4〜4.5に調節することにより行われる。架橋反応終了後、極細ポリエステル繊維を取り出し、水洗したのち、80〜100℃で乾燥する。
このようにして、質量平均分子量100万〜300万の超高分子量ポリ−γ−グルタミン酸により被覆された極細ポリエステル繊維が形成される。
尚、上記架橋反応において、二官能性エポキシ化合物は、ポリ−γ−グルタミン酸のカルボキシル基との間でβ−ヒドロキシエステル結合が形成される。
【0020】
本発明のマイナスイオン発生繊維は、上記のようにして得たポリ−γ−グルタミン酸被覆極細ポリエステル繊維(A)と未処理の極細ポリエステル繊維(B)とを混合することにより製造される。そして、これらの繊維成分を接触させ機械的に摩擦を加えると、混合繊維中の未処理の極細ポリエステル繊維(B)上に帯電により生じた負電荷により、ポリ−γ−グルタミン酸を被覆したポリエステル繊維(A)の保持する水分が作用し、マイナスイオンが発生する。
【0021】
本発明のマイナスイオン発生繊維におけるポリ−γ−グルタミン酸被覆極細ポリエステル繊維(A)と未処理極細ポリエステル繊維(B)との混合割合は、質量比で好ましくは80:20ないし10:90、より好ましくは60:40ないし15:85の範囲である。
【0022】
本発明の保温性の高いマイナスイオン発生ポリエステル繊維材料より発生するマイナスイオンは、例えば、ゲルディエン法原理に基づいて製作された空気イオン測定装置を用いることにより容易に測定することができる。
図1は、この測定装置の説明図であって、これはたがいに電気的に絶縁された外筒(印加電圧筒)1と内筒(集電極円筒)2から構成されている。そして、この外筒1は直流電源4に、内筒2はエレクトロメーター3にそれぞれ接続している。この外筒1と内筒2の間隙に、軸方向に空気イオンを含む空気を一定流速で通しながら、外筒1に負電流を印加すると、円筒間を通過する空気中のマイナスイオンは内筒2に捕捉され、外筒1への印加電圧を高めていくと、内筒2に流れる電流は次第に増大する。そして、P点を通過するイオンがすべてT点で捕捉可能な印加電圧下では、内筒間に入ってくるイオンはすべて内筒2に捕捉され、印加電圧がこれ以上になると内筒2に流れる電流は一定値となる。
【0023】
図2は、外筒1への印加電圧と内筒2に流れる電流との関係を示すグラフである。この図2において印加電圧とともに増大する内筒2に流れる電流(オーム電流)は、ある時点で印加電圧を上げても内筒2に流れる電流が一定値を示し飽和する(飽和電流)。
また、すべてのマイナスイオンが捕捉されるイオンの移動度すなわち臨界移動度をkcとすると、このkcは次の式(1)で示される。
kc=[F/(4π・aV)] (1)
ただし、F:空気流の流量(cm/sec)
V:印加電圧(ボルト)
a:装置定数
【0024】
また、飽和電流において一定時間に流れた平均電流から、マイナスイオン数密度[D]は次式(2)で与えられる。
[D]=Is/(e・F) (2)
上式において、Is:飽和電流量域において、一定時間に流れた平均電流(アンペア/秒)
[D]:マイナスイオン数密度(個/cm
ただし、e:1個の電子の荷電量(1.6×10−17クーロン/秒)
【0025】
式(2)のIsの値は、一定時間t秒に内筒2に蓄積される荷電量Q(クーロン)より次式(3)に従って求めることができる。
Is=(Q/t) (3)
【0026】
そして、ゲルディエン法空気イオン測定装置から得られる測定値を式(2)に代入することにより、上記の式に基づいてマイナスイオン数密度を求めることができる。この測定に際しては、予めマイナスイオンを測定しようとする試料を40℃で2時間乾燥したのち、12時間デシケーターに保管する。
【0027】
図3は、マイナスイオン測定装置の全体構造を示す側面略解図であり、この装置を用いてマイナスイオンを測定する場合には、上記の試料を試料筒6に装入し、吸引機9を作動させ、一定量の空気を装置内に流し、試料上を通過させる。試料上を通過した空気は、外筒1と内筒2の間を通り、排気口10より排出される。空気量が定常状態に達したならば、外筒1に以下に示すサイクルで電圧をt秒間印加する。なお、5は絶縁板、7は空気流入口、8は流量計を示す。3はエレクトロメーター、4は直流電源である。
0→40V→0→60V→0→80V→0→100V→0→120V→0→140V→0→160V
【0028】
このようにして繰り返し電圧を印加し、このt秒間に蓄積された荷電量Q(クーロン)を測定する。
そして、式(3)により内筒2に流れる電流Iを計算し、あらかじめ作成された電流Iと加電圧との関係グラフより飽和電流値Isを求め、式(2)に従い、マイナスイオン数密度[D]を計算する。
【実施例】
【0029】
次に、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0030】
参考例
極細ポリエステル繊維1.1dTex×38mm(外径10.4ミクロン)100g、質量平均分子量300万のポリ−γ−グルタミン酸(福岡醸造協同組合製)を当該極細ポリエステル繊維の質量に基づき0.03質量%の割合で含有する水溶液1.5リットル中に、40℃において1時間浸漬し、極細ポリエステル繊維にポリ−γ−グルタミン酸を吸着させた後、風乾した。このようにして、ポリ−γ−グルタミン酸を被覆させた極細ポリエステル繊維を外径10mmのプラスチックパイプに巻き付けた。次いで、これを、酢酸によりpH4.5に調節したエチレングリコールジグリシジルエーテル(東京化成工業社製特級試薬)の1質量%水溶液3リットル中に浸漬し、1時間、40℃に加熱した後、80℃に昇温して2時間反応させた。次いで、処理したポリエステル繊維を取り出し、水洗後、乾燥し、5〜10mm前後の長さにカットして、ポリ−γ−グルタミン酸0.01質量%で均一に被覆された極細ポリエステル繊維のサンプルを製造した。
次に、ポリ−γ−グルタミン酸の極細ポリエステル繊維1.1dTex×38mmに対する量を変えて、同様に処理することにより、それぞれ0.03質量%、0.06質量%、及び0.09質量%のポリ−γ−グルタミン酸で被覆された極細ポリエステル繊維のサンプルを製造した。
【0031】
実施例1
極細ポリエステル繊維1.1dTex×38mmを長さ10mm前後の長さにカットしたわた状の繊維200gと、参考例で得たポリ−γ−グルタミン酸が被覆された1.1dTex×38mm極細ポリエステル繊維の10mm前後の長さにカットしたわた状の繊維86gとをポリエチレン製の袋の中で空気により混合した。次いで、このわた状の混合物286gのうち、極細ポリエステル繊維で織った布を用いてキルティングにより独立した箱型の袋(ボックス)の中に混合わたの約10gを空気流を用いて詰め込み、入口をキルティングによりシールした。独立した箱型の袋(ボックス)内で2種類の繊維は自由に動き、接触又は摩擦によりマイナスイオンを発生するために好都合の条件とした。
【0032】
このようにして得られた1つのボックスは常法により乾燥、保存後、ゲルディエン法による空気イオン測定装置の試料筒に入れ、外部より試料に2.01リットル/分の空気を流した。この空気が測定装置の二重円筒の間を通過するとき、外筒への印加電圧(V)に対応して、内筒に流れる電流値(I)を求め、飽和電流値(Is)より(2)式を用いマイナスイオン数密度−[D]を得た。
【0033】
なお、測定値は流過する空気の25℃、関係湿度30%で求めた標準試料を同一日の温度、湿度が近い時刻帯に測定し、この値より補正を行った。
このようにして得た結果を下記の表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
また、この際の極細ポリエステル繊維に対するポリ−γ−グルタミン酸の被覆割合(加工被覆分率)[P]とマイナスイオン数密度−[D]との関係をプロットすることにより図4に示すグラフを得た。
【0036】
表1から分るように、超高分子量のポリ−γ−グルタミン酸を架橋反応剤として、エチレングリコールジグリシジルエーテルを用い、極細ポリエステル繊維(1.1dTex×38mm)に被覆固着した繊維と、未処理の同一の極細ポリエステル繊維との混合繊維からなる集合構造体は、ポリ−γ−グルタミン酸を全く使用しない単一の極細ポリエステル繊維の単独の繊維集合体に比べて、著しく多くのマイナスイオンを発生した。そして、極細ポリエステル繊維に被覆処理するポリ−γ−グルタミン酸の割合が0.01〜0.03質量%と極めて少ない量でもこの効果が発現するのは、ポリ−γ−グルタミン酸の薄膜が極細ポリエステル繊維の表面を覆うことにより、極細ポリエステル繊維の水に対する親和性の増大及び帯電系列の上位への変化から極細ポリエステル繊維との摩擦帯電性の増加方向への大きな変化があったことによるものと考えられる。
【0037】
実施例2〜6
参考例で得たポリ−γ−グルタミン酸を0.03質量%で被覆した極細ポリエステル繊維のわた(1.1dTex×38mm)と、同一種の、未被覆処理の極細ポリエステル繊維のわたとを混合し、質量比20:80(実施例2)、30:70(実施例3)、40:60(実施例4)、60:40(実施例5)、80:20(実施例6)の割合で夫々混合したわたを用い、実施例1と同様にして混合わた10gを極細ポリエステル繊維の平織り織物のボックスキルティング袋の中に充填した繊維集合体を作製した。これを常法により乾燥、貯蔵後、ゲルディエン法によりマイナスイオン数密度を実施例1と同様にして測定し、その結果を下記の表2に示す。
【0038】
なお、比較のためにポリ−γ−グルタミン酸0.03%被覆極細ポリエステル繊維わたの繊維集合体(比較例1)、未被覆の極細ポリエステル繊維わたの繊維集合体(比較例2)及び市販の粉末トルマリンを混練したビスコース繊維単独(比較例3)についての同様の測定結果も併記した。
【0039】
【表2】

【0040】
表2に基づき、混合わたのマイナスイオン数密度−[D]と、ポリ−γ−グルタミン酸被覆わたと未被覆わたの混合割合(質量比)との関係をプロットしたグラフを図5に示す。
【0041】
図5に示すように混合繊維わた中におけるポリ−γ−グルタミン酸未被覆極細繊維わたの割合が20質量%〜80質量%の間では高いマイナスイオンの発生が認められ、未被覆ポリエステル繊維上に生じたマイナスの荷電はスムースにマイナスイオンに変換することを示している。極細ポリエステル繊維の割合が20質量%以下で生ずるマイナスイオン発生の急速の低下は、未被覆ポリエステル繊維わた上に生じた負の荷電に作用する水の供給が不足しており、また逆に被覆ポリエステル繊維わたが80質量%以上においては、被覆わたにより静電気防止機能が働き、ともにマイナスイオンの生成が低下することを示している。
【0042】
実施例7〜9
混合繊維わた中の極細ポリエステル繊維の径のマイナスイオン発生に及ぼす効果を求めるため、1.7dTex×51mm(径13ミクロン)、1.1dTex×38mm(径10.4ミクロン)、0.8dTex×35mm(径8.9ミクロン)、0.23dTex×35mm(径4.8ミクロン)の4種の繊維について、参考例に示した方法により、それぞれの極細ポリエステル繊維に対し、0.03%質量ポリ−γ−グルタミン酸を被覆処理し、10mmにカットしたわたを製造した。次にそれぞれの被覆したわたの繊維の繊度に対応した未被覆のポリエステル繊維について、実施例1と同じ方法で10mmにカットし両者を混合し、キルティングボックス中に約10g充填し、4種類の試料を作成し、ゲルディエン法により発生するマイナスイオン数密度を測定した。これら実施例7〜9の内容を下記の表3に、また、実施例7〜9について求めたマイナスイオン数密度を下記の表4に夫々示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
表3及び表4に基づき、混合ポリエステル繊維わたの繊維径のマイナスイオン発生に及ぼす影響を図6に示す。
【0046】
図6に示すように極細ポリエステル繊維の径が10ミクロン前後において、これより大になると急激にマイナスイオン発生量が低下を示している。この低下は、一定量の繊維集合体中の繊維表面積の減少に基づく繊維相互の接触や摩擦の減少に起因している。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、極細ポリエステル繊維の一部を使用し、この繊維の表面を超高分子量のポリ−γ−グルタミン酸を超薄膜状に被覆後、不溶化し、次いで短く切断してわた状化し、残りの繊維は同様に短く切断し、わた状化後、両者を混合することにより、保温性に富みかつ大量のマイナスイオンを発生する繊維を提供するものである。この繊維を立体キルティングにより形成されたボックス型の袋を有する繊維織物に充填することにより、防寒衣、寝具、寝袋等として利用することは、人間を寒さから守り、かつ健康保持に重要な働きをなすことから、広く使用されることが予想される。原料としての極細ポリエステル繊維が新しい付加価値の高い製品として大量に消費され、繊維、高分子産業に対して大きな貢献が予想される。
【符号の説明】
【0048】
1 外筒
2 内筒
3 エレクトロメーター
4 直流電源
5 絶縁板
6 試料筒
7 空気流入口
8 流量計
9 吸引機
10 空気排気口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量100万〜300万の超高分子量のポリ−γ−グルタミン酸により被覆処理されたポリエステル繊維(A)と未処理のポリエステル繊維(B)とを含む混合ポリエステル繊維とからなり、未被覆処理ポリエステル繊維が負に帯電されていることを特徴とするマイナスイオン発生ポリエステル繊維。
【請求項2】
前記ポリエステル繊維(A)および前記ポリエステル繊維(B)の外径が5μ〜14μで、かつ長さが5mm〜10mmである請求項1記載のマイナスイオン発生ポリエステル繊維。
【請求項3】
前記ポリエステル繊維(A)の被覆処理が二官能エポキシ化合物を架橋剤として用いて行われている請求項1又は2記載のマイナスイオン発生ポリエステル繊維。
【請求項4】
前記ポリエステル繊維(A)100質量部に対する超高分子量ポリ−γ−グルタミン酸の被覆割合が0.001〜0.3質量部の範囲にある請求項1ないし3のうちいずれか1項記載のマイナスイオン発生ポリエステル繊維。
【請求項5】
前記ポリエステル繊維(A)と前記ポリエステル繊維(B)との混合割合が質量比で80:20ないし10:90である請求項1ないし4のうちいずれか1項記載のマイナスイオン発生ポリエステル繊維。
【請求項6】
製織した通気性を有する細繊度織物、通気性を有する樹脂加工した織物、または立体キルティング加工を施した集合袋構造物に、請求項1ないし5のうちいずれか1項記載のマイナスイオン発生ポリエステル繊維を充填し、防寒外衣、寝具、寝袋等を形成することを特徴とするマイナスイオン発生製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−136809(P2012−136809A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−291141(P2010−291141)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【特許番号】特許第4824125号(P4824125)
【特許公報発行日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(511001688)宏和実業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】