説明

マウンティングカップのクリンチ部の構造

【課題】カール部と缶ビードとの間に確実にガスケットを保持することができて、ガスケットのはみ出しが生じることがなく、かつ、より確実なシールを得られるマウンティングカップのクリンチ部の構造を提供する
【解決手段】マウンティングカップ1の外周壁6の上端部に内周縁で連接されている中心線2周りのカール部7と上端部でカール部7の外周縁に連接されているカール部裾部8とを有し、
カール部7を内周縁から外周縁にかけて半径の異なる複数の曲面で構成し、
カール部の内面を単一半径で構成する仮想曲面27と内側部分の曲面25、外側部分の曲面26の一方または両方の曲面との間にガスケット34の一部分が入り込むことが可能な空所31が形成されている

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエアゾール容器用のマウンティングカップにおけるガスケットを保持して缶ビードとクリンチするクリンチ部の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エアゾール容器は缶胴内に内容物を加圧状態で充填して構成されていて、内容物を噴出する場合にはマウンティングカップに保持されたバルブステムを押してバルブを開き、ノズルから内容液を噴出させる。
【0003】
マウンティングカップはバルブを装着した状態で缶胴頂部の缶ビードにクリンチして缶ビードとの間をガスケットによりシールしている。すなわち、ノズルを装着した従来のマウンティングカップ101は図5に示すように、そのカール部分のシール部位となるカール部107にガスケット34を挿入させて容器本体の缶ビード14にクリンチして固定することによって容器本体との密封を図っている。
【0004】
エアゾール缶の口部は缶胴の上端に直接に缶ビードを形成する場合と、缶ビードを予め天蓋に形成し、この天蓋を缶胴の上端に巻締める形式のものとがある。
【0005】
ガスケットは平らな円環状に形成されていて、マウンティングカップ101を一周する状態でマウンティングカップのカール部107に挿入される。マウンティングカップのカール部に予め挿入されたガスケットは、挿入位置がずれた状態でクリンチしたり、あるいはクリンチの際に位置がずれると、はみ出し部分110や脱落が起こり、外観不良や、密封不良を起こすおそれがある。そこで、クリンチの際に位置ずれが生じないガスケットの保持技術の開発が必要である。
【0006】
【特許文献1】米国特許NO.5052577
【特許文献2】米国特許NO.5226573
【0007】
ガスケットの保持技術としては、クリンチング用のカール部を曲面でなく平面にしてガスケットをカール部に挿入し缶胴の缶ビードとの間のシールをする形式のマウンティングカップシール構造も開発されて来ており、そのようなシール構造としては、特許文献1及び特許文献2に記載したものがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されたシール構造はマウンティングカップのカール部の天面を水平の平らな面にしてガスケットを天面に密接するようにして挿入し、ガスケットがクリンチの際に半径方向の内外にずれるのを防止し、かつ缶ビードとマウンティングカップの側壁との間の隙間を小さくしたものである。
【0009】
しかるにこの特許文献1の技術は、平らなカール部の天面にガスケットが面接触してガスケットのはみ出しを防ぐ効果を持つものであるが、これにクリンチする缶ビードが円筒状であるので、ガスケットの押圧力が線状に高くなってガスケット全体に均等に行きわたらない状態が発生しやすい。
【0010】
また、特許文献2に記載されたシール構造はマウンティングカップのカール部の天面を水平な面にしてガスケットを天面に密接するようにして挿入し、ガスケットがクリンチの際に内外にずれるのを防止するとともに、缶ビードとマウンティングカップの側壁との間に隙間を設けてマウンティングカップの挿入を容易にし、この隙間を後工程のクリンチの際にガスケットの変形部分で埋めるものである。
【0011】
しかるに特許文献2の技術もマウンティングカップのカール部の天面が平面であり、マウンティングカップの内周壁も直円筒であるので、ガスケット全体に均等に押圧力が行きわたらない点は特許文献1の場合と同じである。
【0012】
このようなことから、カール部と缶ビードとの間に確実にガスケットを保持することができて、ガスケットのはみ出しが生ずることがなく、かつガスケットの挿入についての作業性のよいマウンティングカップのカール部の構造を開発することが望まれている。
【0013】
この発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、カール部と缶ビードとの間に確実にガスケットを保持することができて、ガスケットのはみ出しが生ずることがなく、かつ、より確実なシールを得られるウンティングカップのクリンチ部の構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的に対応してこの発明のマウンティングカップのクリンチ部のガスケット保持部の構造は、缶ビードとクリンチングするマウンティングカップのガスケットを保持するクリンチ部の構造であって、
前記マウンティングカップの中心線周りの外周壁と前記外周壁の上端部に内周縁で連接されている前記中心線周りのカール部と上端部で前記カール部の外周縁に連接されている前記中心線周りのカール部裾部とを有し、
前記カール部の内面を前記内周縁寄りの内側部分および前記外周縁寄りの外側部分のそれぞれの曲面を含めて構成し、
前記カール部の内面を単一半径で構成する仮想曲面と前記内側部分および/または外側部分の曲面との間に前記ガスケットの一部分が入り込むことが可能な空所が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載された発明では、カール部の内面は半径の異なる複数の曲面で構成され、仮想曲面と内側部分および/または外側部分の曲面との間にガスケットが入り込み得る空間が準備されるので、ガスケットを収容してはみ出しを防ぐことができる。
【0016】
請求項2に記載された発明によれば、仮想曲面の半径よりも内側部分および/または外側部分の曲面の半径を小さく構成することによりガスケットを収容する空間を容易に形成することができる。
【0017】
請求項3に記載された発明によれば、内側部分と外側部分の曲面の半径を相違させるので、ガスケットを収容する空間の大きさ、形状が内外で相違することになり、その結果ガスケットのはみ出しを良好に防ぐことができる。
【0018】
請求項4に記載された発明によれば、マウンティングカップのカール部に接続する外周壁の上部分と下部分のうち、下部分の外径を小さくし、上部分の外径を大きくしてあり、ガスケットは下から小さな外径の外周壁に挿入して嵌め込むので、充分な余裕の隙間があって容易に挿入することができるので、作業性が向上する。
【0019】
外周壁の上部分は大径であるので、円環状のガスケットの内周面との間にほとんど隙がなく、カール部内におけるガスケットの正確な位置決めが可能である。
【0020】
本発明によれば、カール部内面の主要部分は缶ビード形状に対応した曲面からなるので、クリンチ工程で缶ビードから圧縮を受けたガスケットは内面に均等に分布し得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、この発明の詳細を実施の最良の形態を示す図面について説明する。
【0022】
図1において1はマウンティングカップを示しており、マウンティングカップ1は中心線2周りに中心側から周辺側にかけて頂板部3、内周壁4、環状底部5、外周壁6、カール部7及びカール部裾部8を備えている。内容物を注出するためのバルブステム11が頂板部3の穴12内に配置される。
【0023】
図2において、符号13はエアゾール容器のマウンティングカップ1のクリンチ部を示しており、クリンチ加工前のマウンティングカップ1とマウンティングカップ1がクリンチする缶ビード14が示されている。缶ビード14は缶胴の上端に直接に形成される場合と、缶ビード14を予め天蓋15に形成し、この天蓋15を缶胴の上端に巻締める場合とがある。この実施形態では天蓋15の上端に缶ビード14が形成される例である。
【0024】
マウンティングカップ1のクリンチ部13はマウンティングカップ1の中心線2周りの外周壁6と中心線2周りのカール部裾部8と中心線2周りのカール部7とで構成している。
【0025】
外周壁6の上端18はカール部7の内周縁21に連続し、カール部裾部8の上端22はカール部7の外周縁23に連続している。
【0026】
図3に示すように外周壁6はカール部7寄りの上部分16と上部分16の下に連続する下部分17とからなっているが、両者の外径は異なっていて、上部分16の外径Duが下部分17の外径Ddよりも大きい(Du >Dd)。
カール部7の内面は中心線2周りを一周する曲面でその中心線2を含む平面における断面形状が内周縁21から外周縁23にわたって全体として曲線をなす曲面であるが、その曲面はマウンティングカップ1の半径方向の部分部分で半径の異なる複数の曲面の集合として構成されている。
【0027】
この実施例では内周縁21寄りの内側部分の曲面25の半径はriであり、外周縁23寄りの外側部分の曲面26の半径はroであり、さらに内側部分25と外側部分26の間が中間部分の曲面24で構成される。こうしてカール部7の内面28は全体として曲線をなす曲面であるが、その曲面は2つの曲面または必要に応じてそれ以上の複数の曲面で構成されている。この実施例では曲面24、半径riの曲面26及び半径roの曲面26の三種類の曲面で構成されている。
【0028】
その結果、カール部7の内面を単一半径Rで構成した時の仮想曲面27と内側部分の曲面25との間にガスケットの一部分が入り込むことが可能な空所31が形成される。この空所31を形成するために、内側部分の曲面25の半径riが仮想曲面27の半径Rより小さく(ri<R)構成される等によって実現する。
【0029】
空所31の形成の他に、カール部7の外周縁23寄りの部分についても必要に応じて空所を形成してもよい。外周縁寄りに空所を形成する場合には、仮想曲面27と外側部分の曲面26との間に空所を形成する。
【0030】
この外側よりの空所の形成は外側部分の曲面26の半径roが仮想曲面27の半径Rより小さく(ro<R)構成される等によって実現する。この内外の空所を共に形成する場合には、内側部分の曲面25の半径riと外側部分の曲面24の半径roの大きさを相違させ(ri≠ro)た方がガスケットをカール部7内に位置ずれなく保持するのに有効である。
【0031】
このように構成されたマウンティングカップを缶ビード14にクリンチする場合の操作及びマウンティングカップの挙動は次の通りである。
【0032】
まず、図2に示すように、ガスケット34をマウンティングカップ1のカール部7に挿入する。
【0033】
ガスケット34は穴35、内周面36、外周面37、上平面38、下平面41を持つ円環状をなしているので、穴35を外周壁6の下端から嵌め入れる。外周壁6の下部分17は上部分16よりも小径であるので容易に嵌め入れることができる。
【0034】
下部分17に嵌めたガスケット34を上に押し進めると大径の上半分16に達するので、ガスケット34の内周面36と上部分16との間に隙間がなくなり、ガスケット34は正確に位置決めされた状態となって、カール部7内に挿入される(図2〜図3参照)。
【0035】
カール部7内にガスケット34が挿入されたマウンティングカップ1は、缶ビード14上へ載置される。この時も、外周壁6の下部分17が小径であるため缶ビード14の内周への挿入が容易であるとともに、大径である外周壁6の上部分16と缶ビード14との間のクリアランスが小さいためマウンティングカップ1と缶ビード14との軸ずれが起こりにくくなり、軸ずれの修正の際にガスケット34が動くことを防止できる。
載置されたマウンティングカップ1は、次にクリンチング加工において天蓋15の缶ビード14にクリンチされる(図4参照)。
【0036】
このクリンチによりガスケット34はカール部7と缶ビード14との間に圧縮されるが、カール部7の内周縁21の近傍に空所31を形成し、及び/又はカール部7の外周縁23の近傍に空所を形成する場合も、同様にその形成された空所にガスケットの一部分が入り込み、これがガスケットのずれに対するアンカーとして作用し、ガスケットのずれを阻止し、ガスケットをカール部7と缶ビード14との間に保持する。
【0037】
このように構成されたマウンティングカップ1ではカール部分の中心線2に垂直な半径方向の内外周縁に形成する曲面の半径を相違させるので、ガスケットを収容する空間の大きさ、形状が内外で相違することになり、その結果ガスケットのはみ出しを良好に防ぐことができる。また、カール部の主要部分を缶ビード形状に対応した曲面で構成するので、ガスケットを広い面積で均一に押圧することができ、より確実なシールを得ることができる。
【0038】
マウンティングカップのガスケットずれ防止のための好適な寸法関係を種々探求したところ、次の寸法関係において顕著な効果があった。
(1)カール部の内面の形状について
・仮想曲面27は、概ね従来のカール部形状に相当するが、本願の内側部分の曲面25の半径riは、仮想曲面27の半径Rの40〜80%にするのがよい。
【0039】
・具体的数値としては、現行製品のカール部成形工具形状がR=1.6mmに対し、 半径riの好適範囲は 0.6mm≦R≦1.3mm である。
【0040】
・外側部分に空所を形成しない場合、外側部分の曲面26の半径roは従来と同様(ro≒R)にしておけば、缶ビード14への装着性に影響しないので好ましい。
【0041】
・カール部裾部8の上端、(=カール部7の外周縁23)、外側部分である半径roの曲面26、内側部分である半径riの曲面25、外周壁6の上端(=カール部7の内周縁21)のそれぞれのあいだは、さらに適宜の曲面または平面でなめらかに繋ぐようにしてもよい。上述の実施形態では、曲面26と曲面25の間を中間部分の曲面24で繋いでいる。
(2)缶ビード内径とのクリアランスについて
・缶ビードの内径に対して、対応する位置のクリアランスをなるべく小さく、より具体的には0.05〜0.20mm程度、より好適には0.05〜0.10mm程度にするのがよい。
【0042】
内周縁21寄りの内側部分の曲面25(半径ri)は、その外側の終端が内周縁21から測って70〜90°、の範囲(θi)に位置するように形成するのがよく、外周縁23寄りの外側部分の曲面26(半径ro)は、その内側の終端が曲面25より外側で、外周縁23から測って45°以上(θo)に位置するように形成するのがよい。
【0043】
以上の説明から明らかな通り、この発明によればカール部と缶ビードとの間に確実にガスケットを保持することができて、ガスケットのはみ出しが生ずることがなく、かつ、ガスケットの挿入についての作業性のよいマウンティングカップを得ることができる。
(実施例1)
板厚0.3mmのぶりき板を使用して
内側部分の曲面の半径ri=1.0mm
外側部分の曲面の半径ro=1.6mm
外周壁の上部分の直径Du=25.3mm
外周壁の下部分の直径Dd=25.0mm
とした図2の形状のマウンティングカップを作製し、ガスケットとバルブステムを装着した。
缶ビード内径が1インチ(25.4mm)のエアゾール缶本体に噴射剤を充填すると共に作製したマウンティングカップをクリンチ、密封した。この際、ガスケットのはみ出しが起こりやすくなるように通常よりクリンチ荷重を高くした。クリンチ部からの噴射剤の漏れは皆無であった。クリンチ後のカール部裾部下端を真横から目視で観察し、ガスケットのはみ出しが見られたものについて、大中小の3段階で評価した。
以上のクリンチ試験を100缶実施した結果を表1に示す。
(比較例1)
実施例1と同じぶりき板を使用して、
カール部内面の半径=1.6mm(単一半径の曲面)、
外周壁の直径=25.0mm(段差なし)
の従来形状のマウンティングカップを作製し、実施例1と同様に通常よりクリンチ荷重を高くしてクリンチ試験を100缶実施した。クリンチ部からの噴射剤の漏れは皆無であった。評価結果を表1に示す。
表1

【0044】
但し、この発明の技術的範囲はこの実施例のものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】マウンティングカップの縦断面図
【図2】図1におけるA部拡大図
【図3】この発明のクリンチ工程前のクリンチ部の縦断面部分拡大図
【図4】この発明のクリンチ工程後のクリンチ部の縦断面部分拡大図
【図5】従来のクリンチ部の縦断面部分拡大図
【符号の説明】
【0046】
1 マウンティングカップ
2 中心線
3 頂板部
4 内周壁
5 環状底部
6 外周壁
7 カール部
8 カール部裾部
11 バルブステム
12 穴
13 クリンチ部
14 缶ビード
15 天蓋
16 上部分
17 下部分
18 外周壁の上端
21 内周縁
22 カール部裾部の上端
23 外周縁
24 中間部分の曲面
25 内側部分の曲面
26 外側部分の曲面
27 仮想曲面
28 カール部の内面
31 空所
34 ガスケット
35 穴
36 内周面
37 外周面
38 上平面
41 下平面
101 マウンティングカップ
107 カール部
110 はみ出し部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
缶ビードとクリンチングするマウンティングカップのガスケットを保持するクリンチ部の構造であって、
前記マウンティングカップの中心線周りの外周壁と前記外周壁の上端部に内周縁で連接されている前記中心線周りのカール部と上端部で前記カール部の外周縁に連接されている前記中心線周りのカール部裾部とを有し、
前記カール部の内面を前記内周縁寄りの内側部分および前記外周縁寄りの外側部分のそれぞれの曲面を含めて構成し、
前記カール部の内面を単一半径で構成する仮想曲面と前記内側部分および/または外側部分の曲面との間に前記ガスケットの一部分が入り込むことが可能な空所が形成されていることを特徴とするマウンティングカップのクリンチ部の構造。
【請求項2】
前記内側部分および/または前記外側部分の曲面の半径を前記仮想曲面の半径よりも小さく構成したことを特徴とする請求項1記載のマウンティングカップのクリンチ部の構造

【請求項3】
前記外側部分の曲面の半径と内側部分の曲面の半径を相違させて形成したことを特徴とする請求項1記載のマウンティングカップのクリンチ部の構造。
【請求項4】
前記外周壁の前記カール部寄りの上部分と前記上部分の下に連続する下部分のうちの前記上部分の外径を前記下部分の外径よりも大きくし、前記上部分と前記缶ビードとのクリアランスを小さくしたことを特徴とする請求項1記載のマウンティングカップのクリンチ部の構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262964(P2009−262964A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115234(P2008−115234)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【出願人】(000222129)東洋エアゾール工業株式会社 (77)
【Fターム(参考)】