説明

マウント構造

【課題】マウント用のボルトに十分な強度を持たせつつ、衝突時にマウントしている付加構造物の脱落を可能とするマウント構造を提供する。
【解決手段】車体衝突の際に、パワートレーン10がマウントメンバ2に向けて移動可能となっている。マウントメンバ2は、車体パネル4にボルト3を介して車体に支持されている。車体パネル4にナット5が当接して固定されていると共に、ボルト3の軸部は、車体パネルから離れる方向に延びる。そして、車体衝突の際の衝撃力を、ボルトの軸部の側面に入力することで、ナット5に上下方向のモーメントを作用させて車体パネル4を面外方向に破断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加構造物を車体に支持させる際のマウント構造であって、車体衝突時の挙動に特徴を有するマウント構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体衝突時の挙動を考慮して、車体にエンジンをマウントするマウント構造としては、たとえば特許文献1に記載されているものがある。この特許文献1に記載されている構造は、モノコック構造の車体後部に、弾性体を介してエンジンをマウント用のボルトで締結することで当該エンジンを搭載すると共に、車体に車両前端からエンジン搭載部に亘って延在するサブフレームを、フレームマウントを介して取り付け、該サブフレームの後部に車体に対するサブフレームの後方への相対移動でエンジンを後方に突き動かす突き押し部を設けている。
そして、車体衝突時に、エンジンに大きな衝突エネルギーが入力されると、上記マウント用のボルトの軸部を破断することで、エンジンを脱落する構成が開示されている(段落番号0011,0012参照)。
【特許文献1】特開平08-244647号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エンジンマウントの締結部(マウント用のボルト及びナット)の強度は、パワートレーン(エンジン+トランスミッション)により発生する静的荷重、動的荷重の支持から要求される強度や、車両の静粛性のために必要十分な剛性等から決定されるため、上記マウント用のボルトを、必ずしも衝突時の衝突入力で破断される強度以下に設定することができないなど、上記従来の構成を採用するには制限がある。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、マウント用のボルトに十分な強度を持たせつつ、衝突時にマウントしている付加構造物の脱落を可能とするマウント構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、本発明は、車体に対し軸部材を介して付加構造物を支持するマウント構造において、
上記軸部材は、車体の取付け面に当接して当該取付け面へ一体的に固定される固定部、及びその固定部に連続し当該取付け面から離れる方向に延びる軸部を備え、
車体衝突の際の衝撃力を、上記取付け面から上下方向のオフセットした位置で、上記軸部の側面に入力することで、上記固定部に上下方向のモーメントを作用させて当該固定部が当接する取付け面を面外方向に破断可能とすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、マウント用の軸部材に十分な強度を持たせつつ、衝突の際に車体にマウントしている付加構造物を脱落することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は本実施形態を説明する概要平面図、図2は拡大側面図である。
図1に示すように、左右に対をなして車両前後方向に延びる左右のサイドメンバ1(車体)間に、付加構造物を構成するマウントメンバ2が架け渡されている。すなわち、車両幅方向に延在するマウントメンバ2の左右両端部がそれぞれ、2本のマウント用のボルト3、33によってサイドメンバ1に支持されている。
【0007】
車体へのマウントメンバ2のマウント構造は、図2及び図3に示すように、サイドメンバ1の取付け面(以下、車体パネル4と呼ぶ)に下側側からマウントメンバ2を当接しボルト締結によって、上記車体パネル4の下側にマウントメンバ2がボルト3、33を介して支持されている。すなわち、マウントメンバ2及び車体パネル4に同軸に挿通孔が開口していると共に、車体パネル4の上面にナット5が溶着等によって固定されている。そして、下側からマウントボルト3が両挿通孔を貫通し上記ナット5に螺合することで、マウントメンバ2は、マウントボルト3を介して車体に支持される。
【0008】
本実施形態では、前側の取付け点について、図3のように、上記車体パネル4よりも下側に位置するボルト3の頭部3aとマウントメンバ2下面との間に、介在物として、筒部材6及び衝突干渉部材7が介装されている。
すなわち、上記筒部材6は、図3に示すように、軸を上下に向けたキャップ状の筒部材であって、ボルト3の軸部3bを貫通させ、上端面をマウントメンバ2下面に当接すると共に、下端面を衝突干渉部材7を介してボルト3の頭部3aに当接することで、車体パネル4から下方にボルト3の軸部3bが突出した状態とし、車体パネル4に対しボルト3の頭部3aを下方にオフセットさせている。さらに、上記筒部材6の下端とボルト3の頭部3aとの間に衝突干渉部材7が介挿されている。この衝突干渉部材7は、車幅方向に延びる干渉部本体7aと、その干渉部本体7aの両側に連続してそれぞれ後方に延びる足部7bとから構成され、該足部7bに開口した挿通孔を介して上記のようにボルト3の軸部3bにおける頭部3a側に取り付けられる。これによって、衝突干渉部材7は、車体パネル4から下方に所定量だけオフセットした位置でボルト3の軸部3bの側面から車両前後方向前方に突出した状態になっている。
【0009】
ここで、上記ボルト3及びナット5は軸部材を構成している。
さらに、上記車体を構成する左右のサイドメンバ1の間にエンジン及びトランスミッションからなるパワートレーン10が配置され、その後端部が図1のように上記マウントメンバ2の中央部に弾性支持されている。このとき、トランスミッションの下部が、図2に示すように、車両前後方向において、上記衝突干渉部材7の干渉部本体7aと所定間隔を開けて対向配置するように設定されている。
なお、本実施形態は、図4のように、車室の前側にパワートレーン10が配置される場合、つまりエンジン10aが前置きの車両である。また、パワートレーン10の前側についても直接若しくは別のマウント部材などを介して車体に弾性支持されている。
【0010】
次に、上記構成の動作や作用・効果について説明する。
車両前方の障害物に車両が衝突すると、不図示の車体前側の車体部分(エンジンルームなど)が変形して上記衝突エネルギーの一部を吸収すると共に、衝突エネルギーによって、パワートレーン10が車両前後方向後方に移動する。
【0011】
パワートレーン10が後方に移動するにつれてトランスミッションが衝突干渉部材7に衝突し、図5のように、衝突干渉部材7を介してボルト3の頭部3a側の軸部3bの側面を後方に押す。これによって、ボルト3には車体パネル4との取付け点を支点とし、その支点にあるナット5に対し衝突干渉部材7の取付け位置(車体パネル4)までのオフセット量(筒部材6の長さ分)を腕としたモーメントが作用し、パワートレーン10が後方(車室側)に移動するほど、ナット5外縁の角から車体パネル4に対して面外方向(上下方向)の荷重が作用し、もって車体パネル4を上下方向に破断する。これによって、パワートレーン10が後方に向かうほど、マウントメンバ2における左右取付け点の支持力が弱くなり、マウントメンバ2が脱落しやすくなる。続けて、パワートレーン10が後方へ移動若しくはパワートレーン10が直接マウントメンバ2の中央部に衝突することで、マウントメンバ2が脱落する。マウントメンバ2が脱落するとパワートレーン10の後部も下方に落下し、パワートレーン10は斜め下方に向けて移動するようになって、当該車両前後方向後方に向かうパワートレーン10が、車室側に向かうことを回避できる。また、パワートレーン10が脱落することで、車体が受け持つのは車体の重量による衝突エネルギーだけになる。
【0012】
以上のように、本実施形態では、マウント用のボルト3の軸部3bを破断することなく付加構造物であるマウントメンバ2を脱落可能とすることが出来る。すなわち、マウント用のボルト3、33の強度は、パワートレーン10により発生する静的荷重、動的荷重の要件からきまる十分な強度を確保したまま、衝突入力により付加構造物を車体から脱落させることが可能となる。
【0013】
しかも、車体パネル4から下方にオフセットした位置にボルト3の軸部3bに衝突干渉部材7を、トランスミッション10b側(パワートレーン10側)に向けて前方に張り出させて近づけて配置するという簡単な構造によって、衝突力を、車体パネル4との取付け点を支点としたモーメントに変換させることが可能となる。
また、本実施形態の衝突干渉部材7は、車幅方向に延在して、左右のボルト3間に架設、つまり左右のサイドメンバ1を連結する構造となるので、車体剛性を補強するという効果がある。
【0014】
また、上記実施形態では、ボルト3と一体になって車体の車体パネル4に当接するナット5について、図3に示すように、車両前後方向に角部つまり鋭角部5aを配置するように設定している。上記鋭角部5aは、例えば、車体パネル4との当接部に有ればよい。上記のように車両前方からの衝突の際に、ボルト3の軸部3bに車両前後方向の荷重が衝突干渉部材7を介して入力されることで、車体パネル4に対するナット5の荷重の押し付けは車両前後方向の端部で大きくなるが、ナット5の車両前後方向端部に鋭角部5aを設けることで車体パネル4は、同じ衝突時の荷重であっても、鋭角部5aに応力集中が発生して破断しやすくなる。
【0015】
また、上記実施形態では、ボルト3に衝突干渉部材7を設けた場合を例示しているが、衝突干渉部材7をトランスミッション10b側に設けても良い。すなわち、図6〜図9に示すように、マウント用のボルト3の頭部3aを、筒部材6を介して車体パネル4の下面に当接することで、ボルト3の頭部3aを車体パネル4から下方にオフセットさせておき、トランスミッション10bに対し、上記ボルト3の軸部3bと車両前後方向で対向するように、車幅方向外方に且つ後方に張り出す張出部からなる衝突干渉部材20を設ける。この場合も上記実施形態と同様な作用・効果を得ることが出来る。
【0016】
次に、第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記実施形態と同様な部品等については同一の符号を付して説明する。
図10〜図13は、第2実施形態のマウント構造を説明する図である。
本実施形態では、マウントメンバ2の左右両端部、及び衝突干渉部材7の左右両端部を、それぞれ2本のボルト3で締結すると共に、車体に対しボルト3を介してマウントメンバ2を弾性支持させる構造を採用する。
【0017】
すなわち、マウントメンバ2に設ける挿通孔を、筒部材6が遊挿可能な大径の孔とし、筒部材6の上端面を直接車体パネル4の下面に当接すると共に、筒部材6とマウントメンバ2との間に、筒状の弾性体からなるブッシュ21を配置したものである。そのブッシュ21の外径面には、上記マウントメンバ2の挿入孔を嵌め込む環状溝が周方向に沿って設けられ、その環状溝にマウントメンバ2を嵌め込むことで、マウントメンバ2は、ブッシュ21、筒状部材、及びボルト3を介して車体側部材の車体パネル4に支持された構造となる。
【0018】
本実施形態では、車体パネル4の上下の面をナット5と筒上部材の上端面とで挟み込むことで、ボルト3は車体パネル4に固定された状態となっている。
その他については、上記第1実施形態と同様である。
本実施形態でも、衝突干渉部材7に車両後方に向かう衝突力が入力されると、左右の各2本のボルト3軸部3bの頭部3a側の側面が後方に押されることで、ナット5位置に上下方向のモーメントが作用してナット5が当接している車体パネル4が上下に破断してマウント部材が衝突時に脱落しやすくなる。また、このとき、ナット5に対し車両前後方向に向く鋭角部5aを設けておくことで、衝突力を左右それぞれ2本のボルト3に入力する構成であっても、ナット5によって車体パネル4が破断しやすくなる。
また、本実施形態では、パワートレーン10の後部を弾性支持するマウントメンバ2がブッシュ21を介して車体に弾性支持されることで、当該マウントメンバ2が支持するパワートレーン10の振動が車体に伝達することを回避できる結果、実施形態1に比べて騒音振動を大幅に低減することが出来る。
【0019】
また、前述の背景技術に開示した従来技術では、付加構造物自身の変位により、付加構造物と車体の連結点に加わる力でマウントボルト3を破断して付加構造物を脱落する構造になっているため、付加構造物と車体の間に弾性体を介装すると、付加構造物の変位がマウントボルト3に伝達される効率が低下する結果、マウントボルト3を破断させにくいという問題があり、従来技術では、付加構造物を弾性支持することが困難である。これに対して、本実施形態では、衝突入力付加装置を利用してマウントボルト3に加わる力を、直接マウントボルト3と車体との連結部にモーメントとして作用させる構造になっているため、付加構造物を車体に弾性支持しても、ボルト3と車体の車体パネル4とを固定すれば、車体パネル4を破断させる効率は低下しない。
【0020】
ここで、上記各実施形態では、パワートレーンが前置きで且つ前方からの衝突の対応を考慮したものであるが、パワートレーンが車室よりも後方を後置きで且つ後方からの衝突を考慮する場合には、パワートレーンの前側をマウントするためのマウントメンバに対して、上記構造を採用すればよい。
また、上記実施形態では、ボルトの軸部側面に衝突時の荷重を入力する部品(衝突時変位部品)としてパワートレーン自体を挙げているが、別の部品であっても良い。例えば、車体に支持され且つ車両前後方向に延在して衝突時に変形してエネルギー吸収を行うサブメンバ等を衝突時変位部品としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造を示す平面図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造を説明する側面図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造を説明する分解斜視図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係るパワートレーンを示す側面図である。
【図5】本発明に基づく第1実施形態に係る作用を説明する側面図である。
【図6】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造の別例を示す側面図である。
【図7】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造の別例を示す平面図である。
【図8】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造の別例を示す斜視図である。
【図9】本発明に基づく第1実施形態に係るマウント構造の別例を説明する分解斜視図である。
【図10】本発明に基づく第2実施形態に係るマウント構造を示す平面図である。
【図11】本発明に基づく第2実施形態に係るマウント構造を示す断面側面図である。
【図12】本発明に基づく第2実施形態に係るナットを示す平面図である。
【図13】本発明に基づく第2実施形態に係るマウント構造を説明する分解斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 サイドメンバ(車体)
2 マウントメンバ(付加構造物)
3 マウント用のボルト
3a 頭部
3b 軸部
4 車体パネル(取付け面)
5 ナット
5a 鋭角部
6 筒部材
7 衝突干渉部材
10 パワートレーン(衝突時変位部品)
10b トランスミッション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対し軸部材を介して付加構造物を支持するマウント構造において、
上記軸部材は、車体の取付け面に当接して当該取付け面へ一体的に固定される固定部、及びその固定部に連続し当該取付け面から離れる方向に延びる軸部を備え、
車体衝突の際の衝撃力を、上記取付け面から上下方向にオフセットした位置で、上記軸部の側面に入力することで、上記固定部に上下方向のモーメントを作用させて当該固定部が当接する取付け面を面外方向に破断可能とすることを特徴とするマウント構造。
【請求項2】
車体衝突の際に、車両幅方向から見て、上記付加構造物に向けて移動する衝突時変位部品を備える車両に採用されるマウント構造において、
車体衝突の際に、上記移動する衝突時変位部品から上記軸部の側面に衝撃力を入力することで、上記固定部が当接する取付け面に対し面外方向の荷重を負荷することを特徴とする請求項1に記載したマウント構造。
【請求項3】
上記軸部に支持されると共に上記衝突時変位部品に向けて突出し且つ当該衝突時変位部品の移動方向で該衝突時変位部品と所定の間隙を開けて対向する衝突干渉部材を備えることを特徴とする請求項2に記載したマウント構造。
【請求項4】
上記付加構造物は、車幅方向左右に位置する車体のサイドメンバにそれぞれ上記軸部材を介して支持されることで、その左右のサイドメンバ間に横架され、
上記衝突干渉部材は、車両幅方向に延在し、その両端部がそれぞれ軸部材の軸部側面に固定されていることを特徴とする請求項3に記載したマウント構造。
【請求項5】
上記衝突時変位部品は、パワートレーンであり、且つ上記左右のサイドメンバ間に配置されることを特徴とする請求項4に記載したマウント構造。
【請求項6】
上記衝突時変位部品から軸部に向けて突出し該衝突時変位部品の移動方向で上記軸部側面と所定の間隙を開けて対向する衝突干渉部材を備えることを特徴とする請求項2に記載したマウント構造。
【請求項7】
上記取付け面に当接する固定部は、1又は2以上の鋭角部を備え、そのうちの少なくとも1つの鋭角部は、衝撃が入力された際に衝突時変位部品の移動方向若しくはその反対方向に向いていることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載したマウント構造。
【請求項8】
付加構造物は、車体に対し弾性体を介挿した状態で支持されていることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載したマウント構造。
【請求項9】
上記付加構造物は、上記衝突時変位部品を弾性支持することを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載したマウント構造。
【請求項10】
上記付加構造物は、パワートレーンを支持することを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載したマウント構造。
【請求項11】
上記付加構造物は、車室の前側に配置されると共に、パワートレーンの後部を支持することを特徴とする請求項10に記載したマウント構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−30560(P2007−30560A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213099(P2005−213099)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】