説明

マクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤、抗腫瘍剤ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品

【課題】食経験を有し、安全性の高いアスコフィラム・ノドサム由来のアスコフィランを有効成分とする新規な生理活性物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品を提供する。
【解決手段】褐藻の一種であるアスコフィラム・ノドサムから抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする硫酸化多糖であるアスコフィランを有効成分として含み、マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(i−NOS)の産生誘導能、肉腫等の固形ガンに対する抗腫瘍活性等を有する免疫賦活物質、ならびにこの免疫賦活物質を含み免疫賦活活性を有する医薬組成物、抗腫瘍剤、ならびにこれらを含む食品、飼料、および化粧品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含むマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤、抗腫瘍剤ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品に関する。
なお、「マクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤」とは、マクロファージからの一酸化窒素(NO)の産生を促進する作用を有する物質または組成物を意味し、「抗腫瘍剤」とは、腫瘍細胞を殺傷、またはその増殖を抑制する活性、およびガンに罹患した動物を延命させる活性のいずれか一方または双方を有する物質または組成物を意味する。
【背景技術】
【0002】
ガンは日本人の死亡原因の約三分の一を占めており、ガンによる死亡者数は年々増加している。現在、医療現場で行われている主なガン治療は、外科的治療(手術による病巣の摘出)、化学療法、および放射線治療である。しかし、抗ガン剤を用いた化学療法では、免疫細胞が障害を受けるため患者の免疫力が低下するという問題点があった。
【0003】
一方、免疫機能の異常がガンの発症リスクを高めることが最近の研究で明らかになってきた。さらに、日常生活におけるストレスによる免疫機能の低下がガンのみならず様々な疾病を引き起こす可能性についても明らかにされつつある。このような状況を受けて、ガンを始めとする疾病の予防および治療の観点から、副作用の少ない抗ガン剤、抗腫瘍作用を有する食品、および健康食品に関する研究開発が盛んに行われるようになっている。さらに、近年における医薬品や食品への安全志向の高まりを受けて、天然物、とりわけ植物や海藻由来の成分を有効成分とする抗腫瘍剤や免疫賦活剤が注目されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、抗腫瘍作用を有する物質として、コンブを枯草菌で発酵させたものにマウスEhrlich結節腫瘍に対する増殖抑制作用が存在することが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、ワカメの胞子葉から得られた多糖体にマウス腹皮内でのMeth−A腫瘍細胞の増殖抑制作用が存在することが開示されている。
【0006】
特許文献3には、スジメの抽出物にマウスの腹側部皮下の腫瘍に対する増殖抑制作用が存在することが開示されている。
【0007】
また、特許文献4には、マクロファージの一酸化窒素産生亢進作用を有する物質として、ベニバナボロギクの抽出物が開示されている。さらに、特許文献5には、アルギニンを全アミノ酸に対して10〜30重量%配合したアミノ酸組成物が開示されている。
【0008】
褐藻類の一種であるアスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)は、北欧の海岸一帯に繁殖し、2mの長さにまで成長する大型の海藻であり、家畜の飼料やアルギン酸の抽出原料として用いられてきたが、近年は健康食品の原料としても用いられている(非特許文献1参照)。
【0009】
本発明者らは、アスコフィラム・ノドサムに含まれるアスコフィランと呼ばれる多糖類には、リンパ腫細胞(ヒト組織球性リンパ腫U937細胞(ATCC番号CRL1593.2))に対するアポトーシス誘導能や、マクロファージに対するG−CSF(Granulocyte Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー刺激因子)産出誘導能、TNF−α(Tumor necrosis factor:腫瘍壊死因子)産出誘導能を有することを見いだした(特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−320257号公報
【特許文献2】特開2002−012552号公報
【特許文献3】特開2004−215506号公報
【特許文献4】特開2008−105960号公報
【特許文献5】特開平9−110686号公報
【特許文献6】特開2008−120707号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】A.T.クリチェリー(Critchley)、大野著、「世界の海藻資源(Seaweed Resources of the world)」、国際協力事業団出版、1998年、p.205−209
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、アスコフィランについては、上記のアポトーシス誘導能、G−CSFおよびTNF−α産生誘導能以外の生理活性が未解明であり、抗腫瘍活性についてもリンパ腫細胞に対するものしか見いだされていないのが現状であった。
【0013】
本発明はかかる課題に鑑みてなされたもので、食経験を有し、安全性の高いアスコフィラム・ノドサム由来のアスコフィランを有効成分とする新規な生理活性物質ならびにそれを含む医薬組成物、食品、飼料、および化粧品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、アスコフィランの薬理活性についてさらに検討を重ねた結果、マクロファージからの一酸化窒素(NO)の産生を促進する活性を見いだし、かつ、アスコフィランがリンパ腫細胞のみならず固形ガンに対する抗腫瘍活性を有することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0015】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、下記の(1)〜(3)に記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
(1) アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含むマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
(2) 前記アスコフィランの硫酸基含量が18〜22質量%であり、ウロン酸含量が18〜22質量%である上記(1)記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
(3) マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(i−NOS)の産生誘導能を有する上記(1)または(2)記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
【0016】
本発明の第2の態様は、下記の(4)〜(6)に記載の抗腫瘍剤を提供することにより上記課題を解決するものである。
(4) アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含む抗腫瘍剤。
(5) 前記アスコフィランの硫酸基含量が18〜22質量%であり、ウロン酸含量が18〜22質量%である上記(4)記載の抗腫瘍剤。
(6) 肉腫に対する抗腫瘍活性を有する上記(4)または(5)記載の抗腫瘍剤。
【0017】
アスコフィラン(ascophyllan)とは、アスコフィラム・ノドサムに含まれる特有の硫酸化多糖の一種で、その完全な構造は解明されていないが、電気泳動パターンの相違、その部分加水分解物の構造が3−O−D−キシロシル−L−フコースである点、および構成糖としてL−フコース以外にD−キシロース、およびD−グルクロン酸が含まれる点において、フコイダン等の他の海藻由来硫酸化多糖と区別される(たとえば、Larsen B, Proc. Int. Seaweed Symp. 5th, p.287-294, 1965参照)。
【0018】
なお、本発明において、「アスコフィラン」とは、後述の方法によりアスコフィラム・ノドサムより抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする任意の硫酸化多糖を意味する。また、本発明における「硫酸基含量」とは、後述する硫酸バリウムによる比濁法により測定された硫酸基含量をいい、「ウロン酸含量」とは、後述するカルバゾール硫酸法により測定されたウロン酸含量をいう。
【0019】
本発明の第3の態様は、
(7) 本発明の第1の態様に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または本発明の第2の態様に係る抗腫瘍剤を含む医薬組成物を提供するものである。
【0020】
本発明の第4の態様は、
(8) 本発明の第1の態様に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または本発明の第2の態様に係る抗腫瘍剤を含む食品を提供するものである。
【0021】
本発明の第5の態様は、
(9) 本発明の第1の態様に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または本発明の第2の態様に係る抗腫瘍剤を含む飼料を提供するものである。
【0022】
本発明の第6の態様は、
(10) 本発明の第1の態様に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または本発明の第2の態様に係る抗腫瘍剤を含む化粧品を提供するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明により提供されるマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤は、食品原料としても利用された実績を有するアスコフィラム・ノドサムから抽出されたアスコフィランを有効成分として含んでいる。そのため、アスコフィランに由来するマクロファージからの一酸化窒素産生促進能を有する医薬組成物、食品、飼料、および化粧品の原料として安全に用いることができる。
また、マクロファージからの抗腫瘍剤は、抗腫瘍活性、特に治療が困難な肉腫に対する抗腫瘍活性を有している。
【0024】
本発明により提供される医薬組成物、食品、飼料および化粧品は、第1の発明に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤を含み、マクロファージからの一酸化窒素の産生を促進する活性または抗腫瘍活性を有するので、ガン等の疾患の治療薬の有効成分、機能性食品、機能性飼料および機能性化粧品等の有効成分として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】アスコフィランの添加後、RAW264.7細胞からのNOの産出量の経時変化を表すグラフである。
【図2】アスコフィランの添加量、RAW264.7細胞からにおけるiNOS mRNAの発現レベルの経時変化を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
続いて、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
本発明の第一の実施の形態に係るマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤(以下、「NO産生亢進剤」と略称する。)は、褐藻の一種であるアスコフィラム・ノドサムから抽出されたアスコフィランを有効成分として含んでいる。
【0027】
抽出原料であるアスコフィラム・ノドサムとしては、任意の産地のものを用いることができる。なお、生のままの藻体は水分および塩分含量が高いため、水洗により塩分を除去した藻体を乾燥し、粉末化したものを抽出原料として用いることが好ましい。
抽出原料として用いられるアスコフィラム・ノドサム乾燥粉末の平均的な組成は、蛋白質5〜10%、炭水化物45〜60%、灰分17〜20%、脂質2〜4%、水分10〜12%である。なお、前処理として、アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末を酸水溶液で処理し、酸可溶分を除去しておいてもよい。
【0028】
アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末からのアスコフィランの抽出は、アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末の10〜100倍(質量比)の水を用いて行う。アスコフィラム・ノドサム乾燥粉末を加えた水を室温で12〜24時間撹拌すると、アスコフィランがアルギン酸等とともに水中に抽出される。必要ならば、水を新たに加え、100℃でさらに12〜24時間抽出を行ってもよい。このようにして得られる粗抽出物は、他の多糖(フコイダン等)、蛋白質、炭水化物、脂質、灰分、ミネラル、色素、ポリフェノール等を含んでいるが、いずれも人体および動物に対して何ら害を及ぼさないため、そのままNO産生亢進剤、あるいはそれを含む食品や飼料に添加することができる。
【0029】
特に、医薬用途や化粧品用途に用いるために純度の高いアスコフィランが必要となる場合等には、以下に述べるような方法で精製を行うことができる。抽出液に含まれる主な不純物であるアルギン酸は、塩酸等を加えて抽出液のpHを低下させ、生成した沈殿をろ過することにより除去することができる。あるいは、アルギン酸リアーゼを添加し、アルギン酸のみを選択的に加水分解し、アルギン酸の加水分解物を透析により除去してもよい。抽出液にエタノールを添加すると得られる沈殿を水に溶解し、透析により脱塩した後凍結乾燥すると、ほぼ純粋なアスコフィランが得られる。さらに精製が必要な場合は、水−エタノールから再沈殿を行ってもよい。
【0030】
硫酸基およびD−グルクロン酸基を含み、ポリアニオンであるアスコフィランは、水溶性および免疫賦活活性を阻害しない任意のカチオンと塩を形成していてもよい。そのようなカチオンの一例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
【0031】
NO産生亢進剤の有効成分として用いることのできるアスコフィランは、アスコフィラム・ノドサムより抽出され、L−フコースおよびD−キシロースの他にD−グルクロン酸を主な構成成分とする任意の硫酸化多糖であればよく、分子量等に特に制限はない。硫酸基含量およびウロン酸含量についても特に制限はないが、硫酸バリウムによる比濁法で測定された硫酸基含量が18〜22重量%であるものが好ましく、また、カルバゾール硫酸法で測定されたウロン酸含量が18〜22重量%であるものが好ましい。
【0032】
NO産生亢進剤を担体等と混合することにより医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、例えば、成人1日当り0.1〜2000mgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。また、上記の用量を一度で投与してもよいが、複数回に分けて投与してもよい。
【0033】
経口投与製剤として調製する場合は、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、コーティング剤、液剤、懸濁剤等の形態に調製することができ、非経口投与製剤にする場合には、注射剤、点滴剤、座薬等の形態に調製することができる。製剤化には、任意の公知の方法を用いることができる。例えば、アスコフィランと、医薬用途に許容される担体または希釈剤、安定剤、およびその他の所望の添加剤を配合して、上記の所望の剤形とすることができる。
【0034】
NO産生亢進剤を含む食品としては、アスコフィランをそのまま食品として調製したもの、他の食品に添加したもの、あるいは、カプセル、錠剤等、食品または健康食品に通常用いられる任意の形態をとることができる。
食品中に配合して摂取あるいは投与する場合には、適宜、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、用途に応じて、粉末、顆粒、錠剤等の形に成形することができる。また、適宜、食品原料中に混合して食品を調製し、免疫賦活活性を有する機能性食品として製品化することによって摂取することができる。
【0035】
NO産生亢進剤を含む飼料としては、アスコフィランをそのまま調製したもの、あるいは飼料に配合したもの等、様々な形態をとることができる。
飼料中に混合して、家畜などの動物に投与する場合には、予め飼料の原料中に混合して、機能性を付与した飼料として調製することができる。また、飼料に添加して投与することもできる。すなわち、アスコフィランを有効成分として含むNO産生亢進剤は、豚、鶏、牛、馬、羊等の家畜や、魚類、ペット(犬、猫、鳥)等の飼料に添加することにより、安全かつ免疫賦活活性を有する機能性飼料として用いることができる。
【0036】
NO産生亢進剤を含む化粧品としては、アスコフィランを化粧水、クリームに配合したもの等、様々な形態をとることができる。
化粧品等に配合して投与するには、適宜液状あるいはクリーム状化粧品中に混合して機能性化粧品等として調製することができる。その場合、化粧品等の調製に際してよく知られている、可溶化剤、安定剤、乳化剤等を用いることができる。
【0037】
本発明の第二の実施の形態に係る抗腫瘍剤(以下「抗腫瘍剤」と略称する。)は、アスコフィラム・ノドサムから抽出されたアスコフィランを有効成分として含んでいる。有効成分としてのアスコフィラン、その製造および精製方法、ならびにそれを含む食品、飼料、および化粧品については、本発明の第一の実施の形態に係るNO産生亢進剤の場合と同様であるため、ここでは詳しい説明を省略する。
【0038】
抗腫瘍剤は、上述のマクロファージからの一酸化窒素の産生を促進する活性に加え、G−CSF(Granulocyte
Colony Stimulating Factor:顆粒球コロニー刺激因子)の産生を誘導する活性、TNF−α(Tumor necrosis factor:腫瘍壊死因子)の産生を誘導する活性、および腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する活性等を併せ持っており、これらの作用により、腫瘍の増殖を抑制したり、細胞死を誘導したりすることにより、抗腫瘍活性を発現できる。抗腫瘍剤は、白血病等に加え、従来化学療法による治療が困難であった肉腫等の固形ガンに対しても抗腫瘍活性を有している。
【0039】
抗腫瘍剤を担体等と混合することにより医薬組成物として用いることができる。医薬組成物のヒトあるいは動物に対する投与形態としては、経口、経直腸、非経口(例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与など)等が挙げられ、投与量は、医薬組成物の製剤形態、投与方法、使用目的およびこれに適用される投与対象の年齢、体重、症状によって適宜設定され一義的に決定することは困難であるが、ヒトの場合、一般には製剤中に含有される有効成分の量で、例えば、成人1日当り5〜100mg/kg、好ましくは10〜50mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。また、上記の用量を一度で投与してもよいが、複数回に分けて投与してもよい。
【0040】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
実施例1:アスコフィランの抽出
アスコフィランの抽出は、ラーセン(Larsen)らの方法(Acta Chemica Scandinavica,vol. 20, p.219-230, 1966)を用いて行った。
20gのアスコフィラム・ノドサム乾燥粉末を、500mLの0.2N塩酸中に入れ、一晩攪拌した。固形物をろ取し、再度0.2N塩酸を加えて4時間攪拌した後、固形物をろ取した。得られた固形物を蒸留水1000mL中に入れ攪拌後、NaOH溶液で中和した。その後、20℃において20時間攪拌し、ろ過により抽出液と固形物に分離した。得られた固形物を再度蒸留水1000mL中に入れ、攪拌しながら100℃で2時間抽出を行った。抽出後、ろ過により抽出液と固形物に分離した。2回分の抽出液を混合し、0.2N塩酸でpH1.3に調整した。一夜静置後、沈殿したアルギン酸をろ去した。NaOH溶液でろ液を中和後、エバポレーターを用いて濃縮した。得られた濃縮液を透析し、中和によって生成した塩を除去した。
脱塩後、溶液を100mLまで濃縮し、0.13Mリン酸緩衝溶液(pH7.5)50mLを加えた。この溶液に、3%w/vとなるように塩化ナトリウムを、次いでアルギン酸リアーゼを添加し、30℃で20時間反応させて残存するアルギン酸を分解した。加熱失活により酵素反応を停止し、アルギン酸分解物を透析により除去した。
こうして得られた水溶液に1M塩化ナトリウム水溶液30mLおよびエタノール180mLを滴下し、一夜静置した。その後、遠心分離により沈殿と上清に分離した。得られた沈殿を1%(w/v)になるように蒸留水に溶解し、1/5容の0.8M塩化ナトリウム水溶液、および6/5容のエタノールを滴下した。一夜静置した後、遠心分離により沈殿と上清に分離した。得られた沈殿物を水に溶解し、透析後、凍結乾燥を行うことにより、アスコフィラン0.85gを得た。
【0041】
実施例2:アスコフィランの組成分析
(1)糖組成の分析
アスコフィラン中の糖組成の分析は、安野らの方法(Biosci. Biotechnol.
Biochem. vol. 63, p.1353-1359, 1999)を用いて行った。
反応用試験管に、アスコフィラン水溶液を10μLおよび8Mトリフルオロ酢酸水溶液10μLを加え、密栓後、ボルテックスミキサーで攪拌し、遠心により溶液を試験管の底に集めた。100℃で3時間加水分解後、空冷し、遠心により溶液を試験管の底に集めた。蓋を外し、溶液を蒸発乾固させた後、2−プロパノール40μLを加え、攪拌した。溶媒を再度蒸発させ、乾固した試料の入った反応用試験管にピリジン/メタノール(10/90、v/v)40μLを加え攪拌後、さらに、無水酢酸10μLを加え、攪拌した。溶液の汚染を防ぐために試験管にアルミホイルを被せ、室温で30分間放置した。その後、溶液を蒸発乾固させ、純水10μL、ABEE(4−アミノ安息香酸エチルエステル)化試薬(生化学工業株式会社カタログNo.400871)40μLを加え密栓した。攪拌後、遠心して溶液を試験管の底に集め、80℃で60分間反応させた。空冷後、遠心して溶液を試験管の底に集めた。蓋を外し、純水200μLおよびクロロホルム200μLを加えた。密栓後激しく攪拌し、遠心分離した。水層(上層)を回収し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析に供した。
【0042】
HPLC分析の条件は、下記のとおりである。
カラム:
ホーネンパックC18(生化学工業株式会社カタログNo.800445、カラム長75mm×内径4.6mm)
溶離液:
A 0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)/アセトニトリル(93/7、v/v)
B 0.02%トリフルオロ酢酸/アセトニトリル(50/50、v/v)
溶離時間0〜50分は溶離液A、50〜55分は溶離液B、55〜75分は溶離液Aを用いて溶離を行った。
流速:1mL/min
検出法:UV(305nm)
【0043】
アスコフィランの糖組成分析の結果を表1に示した。なお、表1において、「Gal」、「Man」、「Glc」、「Xyl」、「Fuc」はそれぞれ、D−ガラクトース、D−マンノース、D−グルコース、D−キシロース、L−フコースを表し、糖組成は、L−フコースに対するモル比として記載した。
【0044】
【表1】

【0045】
文献(Larsen B, Proc. Int. Seaweed Symp.5th, p.287-294,
1965)には、アスコフィランに含まれるL−フコースとD−キシロースのモル比が1:1.1であることが報告されているが、今回の組成分析でも同様の結果が得られた。
また、オキナワモズク由来フコイダン、およびガゴメコンブ由来フコイダンの糖組成分析も同時に行ったが、これらのフコイダンは硫酸化L−フコースを主成分とする多糖(フカン)であり、アスコフィランとは明らかに異なる糖組成を有している。
【0046】
(2)硫酸基含量の定量
硫酸基含量の定量は、ドジソン(Dodgson)らの方法(硫酸バリウムによる比濁法)(Biochem. J., Vol. 84, p.106-110, 1962)を用いて行った。
アスコフィラン粉末5mgを試験管に採取し、2mLの1N塩酸を加えた。窒素雰囲気下で、試験管を封管し、110℃で5時間加水分解を行った。試験管を開封後、加水分解溶液0.2mLを採取し、3%トリクロロ酢酸水溶液3.8mLと混合した。さらに、BaCl−ゼラチン溶液1mLを加えて調製した試料溶液、およびBaClを含まないゼラチン溶液を添加したブランク溶液を15分間静置後、吸光光度計を用いて360nmの吸光度を測定し、試料溶液とブランク溶液の吸光度の差を求めた。濃度既知の硫酸カリウム水溶液を用いて作成した検量線に基づき、アスコフィランに含まれる硫酸基の含量を算出した結果、18.9%という定量値を得た。
【0047】
(3)ウロン酸含量の定量
ウロン酸含量の定量は、ビター(T. Bitter)とミューア(H. N. Muir)により改良されたカルバゾール硫酸法を用いて行った。
アスコフィラン水溶液0.5mLを試験管に採取し、硫酸試薬2.5mLを滴下した。混合溶液をよく攪拌した後、沸騰水浴中で10分間加熱した。室温まで冷却した後、カルバゾール試薬0.1mLを加えて混合し、さらに沸騰水浴中で15分間加熱した。室温まで冷却後、530nmの吸光度を測定した。濃度既知のグルクロン酸水溶液を用いて作成した検量線に基づき、アスコフィランに含まれるウロン酸含量を算出した結果、20.5%という定量値を得た。
【0048】
実施例3:アスコフィランのマウスに対する抗腫瘍活性の検討
5週齢のddy系雄性マウス(九動株式会社、体重約25g)を購入し、3日間以上、給水、給餌して馴致させた後、小動物実験室にて飼育した。その後、生理食塩水に溶解したアスコフィランを、4時間以内に、12.5、25、50mg/kg/dayの濃度で7日間連続腹腔内投与した。8日目に腹腔内に肉腫細胞(Sarcoma180細胞、JCRB9089)を、1頭あたり1×10個播種した。この日を移植0日目とし、移植後の平均生存日数および35日経過後の生存数について調べた。結果は、下記の表2に示すとおりであった。
【0049】
【表2】

【0050】
生存日数は、アスコフィラン投与群ではコントロール群に比べ、増加していた。また35日後でも生存している個体がいた。このことからアスコフィランの投与により肉腫によるマウスの死亡が妨げられたと考えられる。
【0051】
実施例4:アスコフィランのRAW264.7細胞に対する一酸化窒素(NO)産生亢進能の測定
(1)RAW264.7細胞の培養
マクロファージ細胞として、マウス単球由来細胞株RAW264.7(ATCC番号TIB-71)を使用した。RAW264.7細胞の培養培地としては、ペニシリン(100units/mL)、およびストレプトマイシン(100μg/mL)を添加した、10%FBS(ウシ胎児血清)含有D−MEM培地を使用した。継代操作は、常法にしたがって行った。まず、フラスコ中の培地を除き、氷冷したPBSで1回洗浄し、セルスクレーパー(Falcon)で底面から付着している細胞を剥離し、培地を加えて細胞を分散させ、再びCOインキュベーターで培養を行った。こうして得られた細胞培養液を、25cmフラスコ中で培養した。培養は5%CO、37℃の条件下でインキュベーターにおいて行った。
【0052】
(2)アスコフィランのRAW264.7細胞への添加
(1)に記載の方法により25cmフラスコで培養したRAW264.7細胞を回収し、12ウェルプレートに、ウェルあたりの細胞数が1×10個となるよう播種し、前培養した。5%CO、37℃の条件下で1日培養し、細胞がウェルの底面に付着していることを確認した後、培地を除き、培養培地に溶解したアスコフィラン溶液(100μg/mL)後、培養上清中のNOを細胞より産生されたNOとして、経時的に解析した。培養上清中のNOの定量にはグリース法を用いた。培養上清とグリース試薬を1:2(培養上清:Griess試薬)で混合し、20分後、吸光度計(Multiskan spectrumn、Thermo electron)により吸光度(550nm)を測定した。なお既知のNaNO(同仁化学)を用い、検量線を作成した。
【0053】
図1に示すように、アスコフィランを添加すると経時的にNO2量が増加することが確認された。このことから、アスコフィランがマクロファージの一酸化窒素産生を亢進する作用を有することが確認された。
【0054】
(3)アスコフィランの添加がiNOSの発現量に及ぼす影響の検討
PrimeScript 1st
strand cDNA Synthesis Kit(タカラバイオ)を用いたAGPC変法により、RAW264.7細胞から抽出した全RNAよりFirst strand cDNAを得た。得られたcDNAをPCRにて下に示す特異的なプライマーおよびTaq DNA polymerase(タカラバイオ)を用いて増幅することにより、mRNA発現量を半定量化した。
【0055】
RT−PCR解析に使用したプライマー配列は下記のとおりである。
forward: 5’CAA CCA
GTA TTA TGG CTC CT‐3’
reverse : 5’GTG ACA
GCC CGG TCT TTC CA‐3’
【0056】
図2(各バンドの下の数字は、経過時間を示す。単位:時間)に示すように、アスコフィランを添加すると経時的にiNOS mRNAの発現量が増加していた。このことからアスコフィランはiNOSの発現を誘導することによってマクロファージの一酸化窒素産生を誘導する可能性が示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含むことを特徴とするマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
【請求項2】
前記アスコフィランの硫酸基含量が18〜22質量%であり、ウロン酸含量が18〜22質量%であることを特徴とする請求項1記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
【請求項3】
マクロファージにおける誘導型一酸化窒素合成酵素(i−NOS)の産生誘導能を有することを特徴とする請求項1または2記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤。
【請求項4】
アスコフィラム・ノドサム(Ascophyllum nodosum)から抽出されるアスコフィラン(ascophyllan)を有効成分として含むことを特徴とする抗腫瘍剤。
【請求項5】
前記アスコフィランの硫酸基含量が18〜22質量%であり、ウロン酸含量が18〜22質量%であることを特徴とする請求項4記載の抗腫瘍剤。
【請求項6】
肉腫に対する抗腫瘍活性を有することを特徴とする請求項4または5記載の抗腫瘍剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または請求項4〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤を含む医薬組成物。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または請求項4〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤を含む食品。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または請求項4〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤を含む飼料。
【請求項10】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のマクロファージからの一酸化窒素産生亢進剤または請求項4〜6のいずれか1項に記載の抗腫瘍剤を含む化粧品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153612(P2012−153612A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11458(P2011−11458)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【出願人】(000251130)林兼産業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】