説明

マクロライド化合物の新規製造法

【課題】医薬として有用なマクロライド化合物のより効率的かつ高収率で、コストダウンが図れ、安定して供給できるような製造方法の提供。
【解決手段】マクロライド化合物(例えばタクロリムス)、を原料として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を溶媒とするか、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いるWacker酸化を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マクロライド化合物の工業的製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本明細書中、式(II)で示される化合物は、神経保護剤(特許文献1)、神経栄養剤(特許文献2)、軟骨細胞分化促進剤(特許文献3)及び勃起障害治療剤(特許文献4)として有用な化合物である。化合物(IIa)は、免疫抑制剤として有用であるタクロリムス(Tacrolimus)(化合物(Ia))をWacker酸化して得られる(特許文献5)ことが知られている。タクロリムスは高価な醗酵生産物であるので、収率が製造コストに与える影響は大きい。しかしながら、特許文献5の実施例記載の方法は、収率が60%程度であること、精製にカラムクロマトグラフィーを用いていることなど、コスト面、作業面から工業的な製法としては採用することはできないものである。詳細に反応を検討すると、反応段階で2つの不純物(不純物A及びB)が生成するので、工業的なスケールで実施可能な分離・精製法を検討した。不純物Aはアルミナにより、不純物Bは合成吸着剤により除けることが明らかになったが、2つの精製工程が必要であること、アルミナによる精製では化合物(II)由来と思われる新たな不純物Cが生成するので、さらに収率が低下することなどの問題点があった。更に、本反応においては触媒として用いる重金属のパラジウムを除去するために、アルミナなどによる精製が必要であった。
【0003】
一方で、Wacker酸化は、オレフィンの酸化に用いられる反応であり、末端オレフィンの酸化では、アルデヒドよりもケトンが選択的に得られる反応として知られている(非特許文献1)。溶媒としてはジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、酢酸、アルコール、エーテルなどが水との混合溶媒として幅広く用いられる。中でもDMFは一般的に用いられる溶媒であり、化合物(II)もDMFを溶媒に用いて得られている(特許文献5)。DMFを用いた場合、選択的な酸化反応によりケトンが90%以上の高い収率で得られている例もある(非特許文献2及び3)。しかしながら、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた選択的なケトン合成については1例が知られているのみであり(非特許文献4)、DMFなどと比べて特に優れているなどの記載もない。
【0004】
【特許文献1】国際公開第WO01/05385号パンフレット
【特許文献2】国際公開第WO02/053159号パンフレット
【特許文献3】国際公開第WO2004/078167号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2005/067928号パンフレット
【特許文献5】国際公開第WO89/05304号パンフレット
【非特許文献1】「シンセシス(Synthesis)」1984年,p369−384
【非特許文献2】「テトラヘドロン・レターズ(Tetrahedron Letters)」1994年,35巻,35号,p6499−6502
【非特許文献3】「アンゲヴァンテ・ヘミー(Angewante Chemie)」1994年,106巻,21号,p2296−2298
【非特許文献4】「ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリー(Journal of Organic Chemistry)」1991年,56巻,p6447−6458
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、マクロライド化合物の新規で優れた工業的製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、医薬として有用な化合物(II)を、より効率的かつ高収率で、コストダウンが図れ、安定して供給できるような製造方法について、鋭意検討した結果なされたものである。即ち、本発明者らは、化合物(I)を原料としてWacker酸化を行う際に、1)溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を溶媒とするか、2)触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いることで、上記目的が達成されることを見出し本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、以下の通りである。
(1)式(I)
【0008】
【化3】

で表される化合物、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩をWacker酸化反応により、式(II)
【0009】
【化4】

で表される化合物、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩を製造する方法において、溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いるか、又は、触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いることを特徴とする化合物(II)、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩の製造方法。
(2)溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いる(1)に記載の製造方法。
(3)触媒として、Pd(CH3CO22、Pd(CF3CO22、PdCl2(CH3CN)2、PdCl2、PdCl2・2DMSO、PdCl2(PhCN)2、PdCl2(Ph3P)2、Pd(BF42(CH3CN)4、パラジウム(II)/カーボン又はパラジウム(II)モンモリロナイトを用いる(1)又は(2)に記載の製造方法。
【0010】
(4)触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いる(1)に記載の製造方法。
(5)溶媒にジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いる(4)に記載の製造方法。
(6)触媒として、PdCl2・2DMSOを用いる(5)に記載の製造方法。
(7)ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、水、酢酸、アルコール、エーテル、N−メチルピロリドン、又はヘキサメチルホスホリックトリアミドから選択される1種又は2種以上の溶媒との混合溶媒を用いる(3)又は(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明者らは、化合物(I)からWacker酸化により化合物(II)を製造する方法において、溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いるか、又は、触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いることで、反応選択性が向上し、化合物(II)の生成率も向上することを見出した。その結果、不純物が減少し、残存パラジウムも水洗により除けるようになったため、アルミナ精製工程が不要となり、コスト面、作業面で優れた工業的製法となった。
【0012】
また、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を溶媒とする場合、反応速度が遅くなるデメリットがあるが、本発明者らは、N−メチルピロリドン等との混合溶媒とすることにより、生成率などに影響を与えず、反応時間が短縮できることも見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
化合物(I)の好ましい態様としては、化合物(Ia)
【0014】
【化5】

を挙げることができる。
化合物(II)の好ましい態様としては、化合物(IIa)
【0015】
【化6】

を挙げることができる。
【0016】
以下、本発明における各基の定義について説明する。
【0017】
「Wacker酸化」とは、酸素を酸化剤としたパラジウム及び銅触媒によるエチレンのアセトアルデヒドへの酸化反応、及び末端アルケンのアルデヒドまたはケトンへの酸化反応をいう。通常は内部アルケンは反応性に乏しく、末端アルケンのみを選択的に酸化することが可能である。反応機構としては、アルケンの酸化はパラジウムが、パラジウムの酸化は銅が、銅の酸化は酸素分子が行うことにより、触媒サイクルが機能する。酸化剤としての酸素分子の代わりに次亜塩素酸、再酸化剤としての銅の代わりに、ベンゾキノンや過酸化水素等を用いることもできるが、触媒サイクルを機能させることができる酸化剤、再酸化剤であればこれらに限定されない。パラジウム及び銅の種類は特に限定されず、1価又は2価のいずれでもよい。反応溶媒としては、通常は水溶液が用いられるが、特に限定されない。非特許文献1に記載の反応条件、酸化剤、再酸化剤、溶媒などを適宜用いることもできる。
【0018】
「ジアルキルスルホキシド類」、「アルキルフェニルスルホキシド類」の「アルキル基」としては、直鎖であっても分岐状であってもよい。好適な具体例としては、例えば、メチル、エチル、1−プロピル、イソプロピル、1−ブチル、イソブチル、tert−ブチル、sec−ブチル、1−ペンチル、イソペンチル、sec−ペンチル、tert−ペンチル、メチルブチル、1,1−ジメチルプロピル、1−ヘキシル、1−メチルペンチル、2−メチルペンチル、3−メチルペンチル、4−メチルペンチル、1−エチルブチル、2−エチルブチル、3−エチルブチル、1,1−ジメチルブチル、2,2−ジメチルブチル、3,3−ジメチルブチル、1−エチル−1−メチルプロピル等が挙げられる。中でも、メチル、エチルが好適であり、メチルが更に好適である。
【0019】
「ジアリールスルホキシド類」、「アルキルアリールスルホキシド類」の「アリール」としては、フェニル、ナフチル、ペンタレニル等のC6-10アリールが挙げられ、中でも特にフェニルが好適である。
【0020】
「ジアルキルスルホキシド類」とは、2つの同一の又は異なるアルキル基で置換されたスルホキシドを意味する。好適にはDMSO、ジエチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジブチルスルホキシドを挙げることができ、より好適には、DMSOを挙げることができる。
「アルキルアリールスルホキシド類」とは、アルキル基とアリール基で置換されたスルホキシドを意味し、好適には、メチルフェニルスルホキシド、エチルフェニルスルホキシドを挙げることができ、より好適には、メチルフェニルスルホキシドを挙げることができる。
「ジアリールスルホキシド類」とは、2つのアリール基で置換されたスルホキシドを意味し、好適には「ジフェニルスルホキシド」を挙げることができる。
【0021】
「ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体」とは、例えば、PdCl2・2DMSOが挙げられる。
【0022】
パラジウム(II)/カーボン又はパラジウム(II)モンモリロナイト中の「パラジウム(II)」とは、2価のパラジウムを意味する。例えば、パラジウム(II)カーボンには、Pd(OH)2/カーボンが含まれる。
【0023】
式(I)並びに(II)の本発明化合物は1以上の不斉中心を有し得、その場合にはエナンチオマーまたはジアステレオマーとして存在することがある。本発明には、これらの混合物と分離した個々のアイソマーの両方が含まれるものとする。
【0024】
式(I) 並びに(II)の本発明化合物は幾何異性体として存在し得、本発明にはこれらの混合物と分離した個々の幾何異性体の両方が含まれるものとする。
【0025】
式(I)並びに(II)の本発明化合物は常法により塩にすることができる。化合物(I)並びに(II)の好適な塩は薬学的に許容される塩であり、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等)やアルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩やマグネシウム塩等)のような金属塩、アンモニウム塩、有機塩基塩(例えば、トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩等)、有機酸塩(酢酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ギ酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩等)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素塩、硫酸塩、リン酸塩等)、アミノ酸塩(アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等)などを挙げることができる。従って、本発明は、式(I)並びに(II)で示される化合物又はその薬学的に許容される塩の全てを包含するものである。
【0026】
式(I)並びに(II)の化合物は、水和物、薬学的に許容可能な各種溶媒和物も形成し得る。これら水和物、溶媒和物も本発明に含まれる。
【0027】
また、本発明には、生物学研究に有用な式(I)並びに(II)の化合物の放射性標識誘導体も含まれる。
【0028】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0029】
【化7】

本製法では、(I)のマクロライド化合物の末端オレフィンをWacker酸化して、ケトンを有する化合物(II)を製造する。詳細な反応条件や反応剤の選択については、非特許文献1等の公知技術を参考にして、適宜選択してもよい。
【0030】
この反応で使用される溶媒としては、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類が挙げられる。これらに水を加えた混合溶媒が好ましく、DMSO、ジフェニルスルホキシド、ジブチルスルホキシド、及びメチルフェニルスルホキシド各々と水との混合溶媒が更に好ましく、DMSOと水との混合溶媒が更に好ましい。ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類と水との混合溶媒に、更に1種若しくは2種以上の、反応に悪影響を及ぼさず化合物(I)および化合物(II)に適した溶媒を加えた混合溶媒も用いることができる。「更に1種若しくは2種以上の、反応に悪影響を及ぼさず化合物(I)および化合物(II)に適した溶媒」がDMF、ジメチルアセトアミド、酢酸、アルコール、エーテル、N−メチルピロリドン又はヘキサメチルホスホリックトリアミドから選択される混合溶媒が好ましく、DMF及びN−メチルピロリドンから選択される上記混合溶媒が更に好ましく、DMF、DMSO及び水の混合溶媒、又は、N−メチルピロリドン、DMSO及び水の混合溶媒が最も好ましい。
【0031】
混合比は特に限定されないが、例えば3種類の混合溶媒の場合には、水1に対して、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類などのスルホキシド類を0.1乃至2倍量、「反応に悪影響を及ぼさず化合物(I)および化合物(II)に適した溶媒」を5乃至50倍量用いるのが好ましい。
【0032】
パラジウム触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体反応を用いる場合には、反応に悪影響を及ぼさない溶媒であり、化合物(I)および化合物(II)に適した溶媒が選択されるが、例えば、DMF、ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸;メタノール、エタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;N−メチルピロリドン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド、DMSO等が挙げられる。これらの溶媒は、水との混合溶媒として、又はさらに他の溶媒との混合溶媒として使用してもよい。
【0033】
混合比は特に限定されないが、例えば水1に対してN−メチルピロリドンを5乃至50倍量用いるのが好ましい。
【0034】
溶媒量は、特に限定されないが、全体量として化合物(I)1gに対して3乃至10mlが好ましい。
【0035】
この反応で用いられるパラジウム触媒としては、溶媒としてジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類が用いられている場合には特に限定されないが、例えばPd(CH3CO22、Pd(CF3CO22、PdCl2(CH3CN)2、PdCl2、PdCl2・2DMSO、PdCl2(PhCN)2、PdCl2(Ph3P)2、Pd(BF42(CH3CN)4、パラジウム(II)/カーボン又はパラジウム(II)モンモリロナイトなどを挙げることができる。パラジウム触媒の量は、原料である化合物の1モルに対して通常0.01乃至1.00モル、好ましくは、0.20乃至0.30モルであるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体としては、例えばPdCl2・2DMSOが挙げられる。これらのスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体の量は、原料である化合物の1モルに対して通常は0.01乃至1.00モル、好ましくは、0.20乃至0.30モルであるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
酸化剤としては、Wacker酸化に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、空気、酸素ガス、次亜塩素酸等を挙げることができ、空気、酸素ガスが好ましい。空気、酸素ガスは、通常、反応液に直接吹き込むことにより供給される。
【0038】
再酸化剤としては、Wacker酸化に用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、銅、ベンゾキノン、過酸化水素等を用いることができる。1価又は2価の銅又は1,4−ベンゾキノンが好ましく、CuCl、CuCl2、Cu(CH3COO)2、CuBrが更に好ましい。再酸化剤の量は、原料である化合物の1モルに対して通常は0.01乃至3.00モル、好ましくは、0.20乃至0.30モルであるであるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
反応温度は、通常0乃至50℃で行われ、20乃至40℃が好ましいが、これらに限定されるものではない。
圧力は、通常は常圧下で行われるが、加圧下でも行うことができる。
【0040】
尚、反応終了後、必要に応じて、公知の精製手段、すなわち、再結晶、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等の手段により精製することができる。また、化合物の同定は、NMRスペクトル分析、マススペクトル分析、IRスペクトル分析、元素分析、融点測定等により行うことができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例を挙げて詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、純度換算収率とは、原料および生成物の物量に、純度を乗じることにより算出された正味の化合物の量を用いて算出した収率を意味する。
実施例1(Ex.1)
(1R,9S,12S,13R,14S,17R,18E,21S,23S,24R,25S,27R)−1,14−ジヒドロキシ−12−{(E)−2−〔(1R,3R,4R)−4−ヒドロキシ−3−メトキシシクロヘキシル〕−1−メチルビニル}−23,25−ジメトキシ−13,19,21,27−テトラメチル−17−(2−オキソプロピル)−11,28−ジオキサ−4−アザトリシクロ〔22.3.1.04,9〕オクタコス−18−エン−2,3,10,16−テトラオン(化合物(IIa)) の合成
【0042】
【化8】

【0043】
N−メチルピロリドン中(350ml)、化合物(Ia)水和物(70g)を室温にて溶解し、この溶解液にDMSO(35ml)、PdCl2(3.8g)、CuCl(2.1g)および水(7ml)を同温度にて加えた。30℃で9時間攪拌して反応混合物に空気流を徐々に透過させた。次いで反応混合物を酢酸エチル(630ml)にて希釈し、希塩酸水溶液、重曹水および塩水にて洗浄し、真空中で140mlに濃縮して油状物質を得た、この油状物質を合成吸着剤(ダイヤイオン(登録商標)HP20SS)420mlを充填したカラムにて精製した(溶出 アセトン:水=1:1)。望みのフラクションの溶液をアセトンが留去されなくなるまで真空中で濃縮し、濃縮液に酢酸エチル700mlを加えて分液した。分液上層を真空中で140mlまで濃縮した後、34℃の水2100ml中に添加、同温度で1時間攪拌した。液を濾過し、水210mlにて洗浄後、減圧乾燥して標記化合物(IIa)58.2g(純度換算収率79.2%)を得た。
【0044】
実施例2(Ex.2)
N−メチルピロリドンの代わりにDMSOを用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。反応後の処理は行わなかった。
【0045】
実施例3(Ex.3)
1)DMSOを添加せず、2)PdCl2の代わりに、PdCl2(DMSO)2を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法で反応を行った。反応後の処理は行わなかった。
【0046】
比較例1(Re.1)
N−メチルピロリドン中(150L)に化合物(Ia)水和物(30.0Kg)を室温にて溶解し、この溶解液にPdCl2(1.6Kg)、CuCl(0.9Kg)および水(1.3L)を同温度にて加えた。20乃至29℃で22時間攪拌して反応混合物に空気流を徐々に透過させた。次いで反応混合物を酢酸エチル(270L)にて希釈し、希塩酸水溶液、重曹水および塩水にて洗浄し、真空中で180Lまで濃縮した。この濃縮液をアルミナ樹脂300Lを充填したカラムにて精製した(溶出:酢酸エチル)。フラクションの溶液を30Lまで真空中で濃縮し、油状物質を得た。この油状物質を合成吸着剤(ダイヤイオン(登録商標)HP20SS)210Lを充填したカラムにて精製した(溶出:含水メタノール溶液)。フラクションの溶液をメタノールが留去されなくなるまで真空中で濃縮し、濃縮液に酢酸エチル300Lを加えて分液した。分液上層を真空中で油状になるまで濃縮した後、30℃の水900L中に添加、同温度で1.5時間攪拌した。液を濾過し、水90Lにて洗浄後、減圧乾燥して標記化合物(IIa)15.08Kg(純度換算収率47.9%)を得た。
【0047】
比較例2(Re.2)
N−メチルピロリドンの代わりにDMFを用いた以外は、比較例1と同様の方法で反応を行った。反応後の処理は行わなかった。
【0048】
結果を以下の表1に示す。
【表1】

RA:反応終了時 AP:アルミナ精製終了時 HP:HP20SS精製終了時
Y:純度換算収率(%)
A,B:純度換算収率を算出する際に測定した不純物A、BのHPLC面積百分率の値(%)
−:未測定
×:アルミナ精製不要
N.D.:検出されず
【0049】
実施例1は、化合物(IIa)の生成率が90%以上の高い値を示し、不純物Aの生成が非常に少ないため、アルミナ精製工程を省略でき、合成吸着樹脂による精製を行っても、約80%の高収率で化合物(IIa)を得ることができた。一方で、比較例1は、反応時の化合物(IIa)の生成率では実施例と10%程度の差しかないが、不純物Aの生成が多いので、アルミナ精製工程が必要となり、最終的な化合物(IIa)収率は、50%未満であった。
【0050】
HPLC測定条件
充填カラム :XTerra RP18(登録商標)(Waters社製)
粒子径 5μm, 内径 4.6mm, 長さ 150mm
移動相 :リン酸塩緩衝液(pH8.0)(55%)/アセトニトリル(45%)
リン酸塩緩衝液(pH8.0)は、リン酸水素二カリウム17.42gを水1Lに溶かした後、10%リン酸を加えてpHを8.0に調整して作成した。
流速 :0.9mL/min
検出波長 :220nm
カラム温度 :58℃
注入量 :10μL
【0051】
保持時間
化合物(IIa):約12.5分
化合物(Ia):約26分
不純物A:約11分
不純物B:約28分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

で表される化合物、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩をWacker酸化反応により、式(II)
【化2】

で表される化合物、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩を製造する方法において、溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いるか、又は、触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いることを特徴とする化合物(II)、その溶媒和物またはその製薬学的に許容できる塩の製造方法。
【請求項2】
溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
触媒として、Pd(CH3CO22、Pd(CF3CO22、PdCl2(CH3CN)2、PdCl2、PdCl2・2DMSO、PdCl2(PhCN)2、PdCl2(Ph3P)2、Pd(BF42(CH3CN)4、パラジウム(II)/カーボン又はパラジウム(II)モンモリロナイトを用いる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
触媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を配位子として含むパラジウム錯体を用いることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
溶媒として、ジアルキルスルホキシド類、アルキルアリールスルホキシド類又はジアリールスルホキシド類を用いる請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
触媒として、PdCl2・2DMSOを用いる請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
水、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、酢酸、アルコール、エーテル、N−メチルピロリドン、又はヘキサメチルホスホリックトリアミドから選択される1種又は2種以上の溶媒との混合溶媒を用いる請求項3又は6に記載の製造方法。