説明

マグネシウム−シリコン系熱電変換材料およびその製造方法

【課題】高い強度を有するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】
また本発明によれば、原料として少なくとも金属Mgと金属SiとSiOを使用し、これらを混合した状態で、真空もしくは不活性雰囲気中、450〜1000℃で熱処理するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法が提供される。
さらに本発明によれば、Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定において、MgO相に起因する2θ=42.0°〜44.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ia)とMgSi相に起因する2θ=39.0°〜41.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ib)との強度比(Ia/Ib)が0.6以下(0を含まない)であるマグネシウム−シリコン系熱電変換材料が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム−シリコン系熱電変換材料およびその製造方法に関し、特に、マグネシウムシリサイド(MgSi)のマトリックス中に少なくともMgO相が分散した複合材料およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、排熱回収によるエネルギーの有効利用が注目されている。その中で熱電変換材料を用いた熱電変換素子を用い、排熱により発電し、電気エネルギーとして回収する方法が提案されている。熱電変換材料としては、従来よりBi−Te系、Co−Sb系、Zn−Sb系、Pb−Te系、Ag−Sb−Ge−Te系等が約200〜800℃の排熱を利用する用途で開発、一部実用化されている。しかしながら、これらの熱電変換材料に使用する元素は毒性やコストの面で様々な問題を有している。そのため、MgSi等シリサイド系の熱電変換材料は、毒性がないこと、資源が豊富で安価であることから、その活用が検討されている。
【0003】
MgSiの融点は1085℃であるところ、Mgの沸点は1097℃であり、MgとSiを溶解してMgSiを作製する場合、Mgの蒸発が問題となる。そこで従来より、Mgの融点以上に加熱し、Si粉末と反応させる固相−液相反応を用い、MgSi粉末を得る方法が研究されている。(特許文献1、2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−54009号公報
【特許文献2】特開2002−285274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1および2で開示された製造方法によると、得られるMgSiは粉末状となり、さらに焼結工程が必要になるか、塊状で得られても熱電変換素子として使用に耐える十分な密度および強度を有していない。
【0006】
本発明の課題は、高い密度および強度を有するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料を提供することにある。
本発明の別の課題は、本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造に適した効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
また本発明によれば、原料として少なくとも金属Mgと金属SiとSiOを使用し、これらを混合した状態で、真空もしくは不活性雰囲気中、450〜1000℃で熱処理するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法が提供される。
さらに本発明によれば、Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定において、MgO相に起因する2θ=42.0°〜44.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ia)とMgSi相に起因する2θ=39.0°〜41.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ib)との強度比(Ia/Ib)が0.6以下(0を含まない)であるマグネシウム−シリコン系熱電変換材料が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料は高い密度および強度を有する。本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法は、本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造に適した効率的な製造方法であって、MgSiの合成と同時に密度の大きいマグネシウム−シリコン系熱電変換材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料のSEM像の写しである。(200倍)
【図2】実施例1のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料のSEM像の写しである。(1000倍)
【図3】実施例1のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織のMgマッピング像の写しである。
【図4】実施例1のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織のSiマッピング像の写しである。
【図5】実施例1のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織の酸素マッピング像の写しである。
【図6】実施例3のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料のSEM像の写しである。(200倍)
【図7】実施例3のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料のSEM像の写しである。(1000倍)
【図8】実施例3のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織のMgマッピング像の写しである。
【図9】実施例3のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織のSiマッピング像の写しである。
【図10】実施例3のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の断面組織の酸素マッピング像の写しである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法は、原料として少なくとも金属Mgと金属SiとSiOを使用し、これらを混合した状態で、真空もしくは不活性雰囲気中、450〜1000℃で熱処理する。450℃以上に加熱することにより金属Mgは金属Siと反応し、MgSiを生成する。また、金属MgはSiOを還元し、自身は酸化され、金属SiとMgOを生成する。還元されて生成した金属Siも金属Mgと反応しMgSiを生成する。SiOと金属Mgの反応を利用することで、生成するMgSiとMgOの粒子間に強固な結合が生じることから、密度および強度の高いマグネシウム−シリコン系熱電変換材料を得ることができる。金属Mgの蒸発を防ぐためには、なるべく低い温度で熱処理を行うことが好ましいが、十分に反応を進行するために500〜750℃程度で行うことが好ましい。未反応の金属Mgが残留すると耐酸化性が著しく低下する。熱処理時間は通常1分〜3時間程度で行う。
【0011】
金属Mgは酸化しやすいため、熱処理を行う雰囲気は真空または不活性雰囲気で行うことが好ましい。さらに好ましくは不活性雰囲気で加圧した雰囲気にする。この場合、金属Mgの酸化を防ぐと同時に蒸発も抑制できる。
【0012】
金属Mgと金属Si、SiOの反応は、いわゆる液相−固相反応で進行する。したがって、金属Mgと金属Si、SiOは密に接触した状態であることが好ましい。さらに好ましくは予めボールミル等を使用して均一な混合状態としておく。また、原料を混合した後、プレス成形を行い、原料の密度を高くしておくことも有効である。金属Mg、金属Si、SiOは粉末形態のものを用いることが好ましい。また、生成するMgO相は原料のSiOの形態を継承する。得られるマグネシウム−シリコン系熱電変換材料中のMgO相の粒径が小さく、分散している場合、電子伝導率を低下させることなく、熱伝導率を小さくできる傾向にある。したがって、原料に使用するSiOの平均粉末粒径は可能な限り小さい方が好ましく、工業生産上は0.1〜100μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10μmである。一方、生成するMgSi相は、主に原料の金属Siの形態を承継する。MgSi相の粒径は小さい方が熱伝導率を小さくできる傾向にある。したがって原料に使用する金属Siの平均粉末粒径は可能な限り小さい方が好ましく、工業生産上は0.1〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10μmである。ここでの平均粉末粒径とは、SEMによる観察像でランダムに選択した粉末の最長径とその最長径に垂直な線分で定められる短径との平均値を算出し、50個以上について同様にして算出した値の平均値とした。
【0013】
原料に使用する金属Mg、金属Si、SiOの純度は高い方が好ましい。通常は99.9%以上の純度のものが使用できる。また、n型またはp型の特性を改善するため、ドーパントとしてB、Al、Ga、In、P、As、Sb、Bi、Li、Na、K、Ag、Cu、等から選択される少なくとも1種の元素を添加することができる。当然ながらドーパントもなるべく高純度の原料を使用することが好ましく、その添加量は通常5原子%以下である。
【0014】
熱処理は、雰囲気制御が可能な通常の熱処理炉で行うことができる。金属Mgの蒸発を抑制し、金属Mgと金属SiおよびSiOとの反応を進行させ、密度および強度の高いマグネシウム−シリコン系熱電変換材料を得るために、炉内を大気圧以上に加圧して行うことが好ましい。さらに好ましくは、ホットプレス法、熱間等方圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)、熱間圧延法、熱間押出法等加圧もしくは塑性加工を行いながら熱処理する。これらの方法で行うと、前述したSiOの反応を利用した効果とあいまって、密度および強度の高いマグネシウム−シリコン系熱電変換材料を得ることができる。
【0015】
原料の金属SiとSiOの混合比は、(金属Siのモル数)/(SiOのモル数)が1以上であることが好ましい。さらに好ましくは混合比が2以上、最も好ましくは3以上である。混合比を1以上とすることで生成するMgO相または残留するSiOの量を適当な範囲に制御することで、熱電特性と強度を有するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料が得られる。
【0016】
原料の金属Mgと金属SiおよびSiOの混合比は、(金属Mgのモル数)/((金属Siのモル数)+2×(SiOのモル数))が1.8〜2.2であることが好ましい。熱処理時に溶融した金属MgとSiOとの反応は、2Mg+SiO→2MgO+Siである。したがって、SiO1モルの還元に金属Mgは2モル消費される。この混合比が2.0の場合、原料中のMgとSi(金属SiおよびSiO中のSiの合計量)がすべてMgSiの合成に消費される場合の理論量である。この場合、金属Mgが残留しにくいため好ましい。ただし、金属Mgの蒸発を完全に抑えることは困難であるため、予め蒸発量に相当する金属Mgを増量しておくことが好ましい。したがって、この混合比は、2.0〜2.2の間で適宜調整することが最も好ましい。
【0017】
本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料は、Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定において、MgO相に起因する2θ=42.0°〜44.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ia)とMgSi相に起因する2θ=39.0°〜41.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ib)との強度比(Ia/Ib)が0.6以下(0を含まない)である。本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料は、MgSi相を主相とし、副相として少なくともMgO相を含有する。Ia/Ibが0.6以下の場合、熱電特性と強度を両立できる。Ia/Ibは、0.2以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.1以下である。
【0018】
前述の通り、マグネシウム−シリコン系熱電変換材料中のMgO相の粒径が小さく、分散している場合、電子伝導率を低下させることなく、熱伝導率を小さくできる傾向にある。したがって、本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料中のMgO相の平均粒径は可能な限り小さい方が好ましく、工業生産上は0.1〜100μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10μmである。また、マグネシウム−シリコン系熱電変換材料中のMgSi相の粒径は小さい方が熱伝導率を小さくできる傾向にある。したがって、本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料中のMgSi相の平均粒径は可能な限り小さい方が好ましく、工業生産上は0.1〜50μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.1〜10μmである。ここでの平均粒径とは、EPMAでMgO相、MgSi相を確認後、SEMによる観察像でランダムに選択したMgO相、MgSi相の最長径とその最長径に垂直な線分で定められる短径との平均値を算出し、50個以上について同様にして算出した値の平均値とした。
【0019】
前述の通り、本発明のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料はn型またはp型の特性を改善するため、ドーパントとしてB、Al、Ga、In、P、As、Sb、Bi、Li、Na、K、Ag、Cu、等から選択される少なくとも1種の元素を含有することができる。その含有量は通常5原子%以下である。
【実施例】
【0020】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
実施例1
原料として、金属Mg粉末(平均粉末粒径125μm)、金属Si粉末(平均粉末粒径43μm)、SiO2粉末(平均粉末粒径49μm)をそれぞれ2.62g(0.108mol)、0.51g(0.018mol)、1.08g(0.018mol)((金属Siのモル数)/(SiO2のモル数)=1、(金属Mgのモル数)/((金属Siのモル数)+2×(SiOのモル数))=2)秤量し、乳鉢にて5分間混合した。混合した原料をΦ20のダイスに入れて、10tの圧力でプレスし、ペレット形状とした。得られたペレットを熱処理炉にてアルゴン雰囲気下、700℃で1時間熱処理した。その後室温まで炉冷し、ペレットを回収した。ペレットはMgSiに特有の青紫色であった。ペレットをマイクロカッターで切断して、ペレットの断面をCu−Kα線をX線源に使用し、X線解回折測定を行ったところMgSiとMgOの回折パターンによく一致した。MgO相に起因する2θ=42.0°〜44.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ia)とMgSi相に起因する2θ=39.0°〜41.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ib)との強度比(Ia/Ib)は、0.53であった。
次いで、ペレットの断面をEPMAにて観察した。図1〜5に、それぞれ100倍のSEM像、1000倍のSEM像、Mgのマッピング像、Siのマッピング像、酸素のマッピング像を示した。これらから、MgSi相をマトリックスとし、MgO相が存在する組織を有することがわかった。MgO相の形状は、原料のSiO粉末と同様であった。SEM像よりランダムに50個のMgO相とMgSi相をそれぞれ選択し、平均結晶粒径を測定したところ、MgO相は53μm、MgSi相は43μmであった。また、ペレットの断面をSEMで観察した際のボイドの量を◎(なし)、○(少ない)、△(多い)の三段階で評価したところ○であった。
【0021】
実施例2〜4
原料の金属Mg粉末、金属Si粉末、SiO粉末の配合を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示した。図6〜10に、それぞれ実施例3で熱処理後に回収したペレットの断面の100倍のSEM像、1000倍のSEM像、Mgのマッピング像、Siのマッピング像、酸素のマッピング像を示した。
【0022】
実施例5
原料として、金属Si粉末(平均粉末粒径2μm)、SiO粉末(平均粉末粒径3μm)を使用し、ペレットをホットプレスにてアルゴン雰囲気下、10MPaの圧力で700℃、30分間熱処理した以外は、実施例1と同様にして行った。結果を表1に示す。
【0023】
比較例1
原料として、SiO粉末を用いず、金属Mg粉末、金属Si粉末の配合を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして行った。熱処理後、ペレットは粉末化した。
結果を表1に示す。
比較例2
原料の金属Mg粉末、金属Si粉末、SiO粉末の配合を表1のように変更した以外は実施例1と同様にして行った。結果を表1に示した。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として少なくとも金属Mgと金属SiとSiOを使用し、これらを混合した状態で、真空もしくは不活性雰囲気中、450〜1000℃で熱処理するマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法。
【請求項2】
原料として粉末形態の金属Si、SiOを使用することを特徴とする請求項1記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法。
【請求項3】
熱処理をホットプレス法、熱間等方圧プレス法(HIP)、放電プラズマ焼結法(SPS)、熱間圧延法、熱間押出法、熱間鍛造法で行うことを特徴とする請求項1または2記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法。
【請求項4】
原料の金属SiとSiOの混合比は、(金属Siのモル数)/(SiOのモル数)が1以上であることを特徴とする請求項1〜3記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法。
【請求項5】
原料の金属Mgと金属SiおよびSiOの混合比は、(金属Mgのモル数)/((金属Siのモル数)+2×(SiOのモル数))が1.8〜2.2であることを特徴とする請求項1〜4記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料の製造方法。
【請求項6】
Cu−Kα線をX線源とするX線回折測定において、MgO相に起因する2θ=42.0°〜44.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ia)とMgSi相に起因する2θ=39.0°〜41.0°の範囲に現れる最強ピーク強度(Ib)との強度比(Ia/Ib)が0.6(0を含まない)であるマグネシウム−シリコン系熱電変換材料。
【請求項7】
MgO相の平均粒径が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項6記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料。
【請求項8】
MgSi相の平均粒径が0.1〜50μmであることを特徴とする請求項6または7記載のマグネシウム−シリコン系熱電変換材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−249742(P2011−249742A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136571(P2010−136571)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【出願人】(000176660)株式会社三徳 (22)
【Fターム(参考)】