説明

マグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物

【課題】例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統に好適に使用されるマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食を効果的に抑制することができる不凍液/冷却液組成物を提供すること。
【解決手段】分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統を構成するマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制効果に優れたマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統には、アルミニウム、アルミニウム合金、鋳鉄、鋼、黄銅、はんだ、銅などの金属が使用されている。これらの金属は、水あるいは空気との接触により腐食を生じる。このため、冷却系統に適用される不凍液/冷却液組成物中に金属腐食防止剤を含ませることで、これらの金属の腐食防止が図られていた。
【0003】
近年、省資源、省エネルギーの目的で自動車の軽量化が図られている。この流れの中で、エンジンの冷却系統を構成する部品材料についても、軽量化を目的とした再検討がなされるようになり、実用金属中最も比重が軽く、しかもリサイクル性にも優れるマグネシウムまたはマグネシウム合金が脚光を浴びている。
【0004】
ところが、マグネシウムまたはマグネシウム合金は、実用金属中最も標準電極電位が卑であり、水溶液中での腐食を効果的に抑制することは困難とされていた。
【0005】
最近になって、マグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食防止に効果的な化合物を用いた組成物が提案されるに至っている。例えばフッ化物はマグネシウムの防錆剤として知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1には、このフッ化物またはフルオロカルボン酸にカルボン酸を加えた組成を含む冷却液組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、マグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食防止に効果的な化合物として、カルボン酸アミドやスルホン酸アミドを用いた冷却液組成物も提案されている(特許文献2参照)。
【0008】
これらの化合物を含む冷却液組成物は、いずれもマグネシウムに対して腐食軽減効果を有するものの、エンジン等の冷却系統に適用するには不十分であり、より高い腐食抑制効果を有する組成物が求められていた。
【非特許文献1】SAE Technical Paper Series 850418
【特許文献1】特表2002−527619
【特許文献2】特表2004−506091
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、マグネシウムまたはマグネシウム合金により構成されたエンジン等の冷却系統に適用するに十分な腐食抑制効果を有する不凍液/冷却液組成物につき、鋭意研究を重ねた結果、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤が、マグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制にきわめて有効であることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、冷却系統を構成するマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制効果に優れる不凍液/冷却液組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を含有することを特徴とするマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物をその要旨とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不凍液/冷却液組成物は、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を含有することから、冷却系統を構成するマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物(以下、単に不凍液/冷却液組成物という)をさらに詳しく説明する。本発明の不凍液/冷却液組成物は、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を含有することを最大の特徴としている。
【0014】
本発明の不凍液/冷却液組成物に含まれる界面活性剤とは、分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を云い、この界面活性剤には、例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統を循環する不凍液/冷却液中において、該冷却系統を構成するマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食を効果的に抑制する働きがある。また界面活性剤は、アルミニウム又はアルミニウム合金の腐食を抑制する機能もあることから、冷却系統がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成されている場合、又は、冷却系統がマグネシウムまたはマグネシウム合金とアルミニウム又はアルミニウム合金とによって構成されている場合にも、これらの金属に対して優れた腐食抑制効果を発揮することになる。
【0015】
上記界面活性剤の中でも、疎水基としてパーフルオロアルキル基を持つものは、マグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制効果が顕著であり、かつ取り扱い性及び入手容易性に優れている。
【0016】
このような界面活性剤の好ましい具体例としては、スルホン酸塩、カルボン酸塩、ジルカルボン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸塩エステル、スルホニングリシンカリウム塩、4級アンモニウム塩、スルホンアミド、アクリレート共重合体、ポリオキシエチレンエーテル、ベタインなどを挙げることができる。
【0017】
また、本発明の不凍液/冷却液組成物は、上記界面活性剤とともにフッ化物を併用した形態を採ることもできる。フッ化物は、それ自体でもマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制効果は有している。しかし、界面活性剤と併用することで、マグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制効果が飛躍的に高まり、界面活性剤の持つ腐食抑制効果をも凌ぐ優れた腐食抑制効果を発揮するようになる。
【0018】
フッ化物としては、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、およびフッ化リチウムなどを使用することができる。
【0019】
また、本発明の不凍液/冷却液組成物は、上述の界面活性剤をマグネシウムまたはマグネシウム合金の腐食抑制剤として含有するベースとしては、例えば水、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0020】
アルコール類としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
【0021】
グリコール類としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ヘキシレングリコールの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
【0022】
グリコールエーテル類としては、例えばエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテルの中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物からなるものを挙げることができる。
【0023】
本発明の不凍液/冷却液組成物における界面活性剤の含有量は、マグネシウムまたはマグネシウム合金に対する十分な腐食抑制効果を確保するため、ベース100質量%に対して、0.0001〜20質量%の範囲とすることが望ましい。この範囲よりも界面活性剤の含有量が少ない場合、マグネシウムまたはマグネシウム合金に対する十分な腐食抑制効果を得ることができず、この範囲よりも界面活性剤の含有量が多い場合には、範囲を上回る分だけの効果が期待できず、不経済となるからである。
【0024】
また、本発明の不凍液/冷却液組成物において、上述の界面活性剤とフッ化物とを併用する場合、フッ化物の含有量としては、ベース100質量%に対して、0.01〜5質量%の範囲が好ましい。この範囲よりもフッ化物の含有量が0.01質量%よりも少ない場合、界面活性剤との相乗効果が期待できず、マグネシウムまたはマグネシウム合金に対する十分な腐食抑制効果を得ることができなくなる。フッ化物の含有量が5質量%よりも多い場合には、範囲を上回る分だけの効果が期待できず、不経済となる。
【0025】
また、本発明に係る不凍液/冷却液組成物には、芳香族一塩基酸、芳香族二塩基酸、脂肪族一塩基酸、脂肪族二塩基酸、及びそれらの塩の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を含ませることができる。
【0026】
芳香族一塩基酸及びそれらの塩としては、安息香酸、ニトロ安息香酸、ヒドロキシ安息香酸などの安息香酸類、p−トルイル酸、p−エチル安息香酸、p−プロピル安息香酸、p−イソプロピル安息香酸、p−tertブチル安息香酸などのアルキル安息香酸、一般式RO−C64−COOH(RはC1〜C5のアルキル基)で表されるアルコキシ安息香酸、一般式R−C64−CH=COOH(RはC1〜C5のアルキル基またはアルコキシ基)で表されるケイ皮酸、アルキルケイ皮酸、アルコキシケイ皮酸、又はそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩を挙げることができる。中でも、安息香酸、p−トルイル酸、及びp−tertブチル安息香酸は、アルミ系又は鉄系金属の腐食防止性能に優れており、これらの少なくとも1種が含まれていることが望ましい。
【0027】
また、芳香族二塩基酸及びそれらの塩としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸或いはそれらのアルカリ金属塩やアンモニウム塩などを挙げることができる。
【0028】
上記芳香族一塩基酸又は芳香族二塩基酸の含有量としては、0.1〜10質量%の範囲が望ましい。これら芳香族一塩基酸又は芳香族二塩基酸の含有量が0.1質量%よりも少ない場合、アルミ系又は鉄系金属に対する十分な腐食防止効果が期待できず、10質量%よりも多い場合には、10質量%を越えた分だけの効果が得られないため、不経済となる。
【0029】
脂肪族一塩基酸及びそれらの塩としては、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸、ステアリン酸及びそれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩などを挙げることができる。
【0030】
脂肪族二塩基酸及びそれらの塩としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピペリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸、ドデカン2酸、ブラシル酸、およびタプチン酸、あるいはそれらのアルカリ金属塩、アミン塩、アンモニウム塩などを挙げることができる。中でもスベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン2酸およびドデカン2酸は、上記性能に優れるという点でより好ましい。
【0031】
上記脂肪族一塩基酸、脂肪族二塩基酸及びそれらの塩は、0.1〜10質量%の範囲で含まれているのが望ましい。脂肪族一塩基酸、脂肪族二塩基酸及びそれらの塩の含有量が、0.1質量%を下回る場合、アルミ系又は鉄系金属に対する十分な腐食防止効果が発揮されず、10質量%を上回る場合には、上回る分だけの効果がなく、不経済となる。
【0032】
また、本発明に係る不凍液/冷却液組成物には、トリアゾール類及びチアゾール類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物を含ませることができる。トリアゾール類の具体例としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、4−フェニル−1、2、3−トリアゾール、2−ナフトトリアゾールおよび4−ニトロベンゾトリアゾールなどを挙げることができ、その中でも、特にベンゾトリアゾールやトリルトリアゾールが望ましい。またチアゾール類としては、ベンゾチアゾールやメルカプトベンゾチアゾールなどを挙げることができる。
【0033】
これらトリアゾール類又はチアゾール類の添加により黄銅や銅などの銅系金属の腐食防止効果の改善が計られる。トリアゾール類の含有量としては0.01〜1.0質量%の範囲が好ましく、チアゾール類の含有量としては0.01〜1.0質量%の範囲が好ましい。
【0034】
尚、本発明に係る不凍液/冷却液組成物には、上記成分のほかに消泡剤や着色剤、従来公知の腐食防止剤を含ませたりすることもできる。従来公知の腐食防止剤としては、リン酸又はその塩、ケイ酸塩、硝酸塩、亜硝酸塩、ホウ酸塩、モリブテン酸塩、及びアミン塩のいずれか1種、若しくは2種以上の混合物を挙げることができる。
【0035】
尚、本発明は、下記実施例に限定されるものではなく、「特許請求の範囲」に記載された範囲で自由に変更して実施することができる。
【実施例】
【0036】
下記表1には、好ましい組成物の例として、エチレングリコールとイオン交換水をベースとし、このベース中にパーフルオロアルキル基・親水基・親油基含有のオリゴマーからなる界面活性剤Aを含んだ実施例1及び2、ベース中にパーフルオロブチルスルホン酸塩からなる界面活性剤Bを含んだ実施例3及び4、また比較として、ベース中に界面活性剤を含まないベースのみからなる比較例を示し、上記実施例1〜4、並びに比較例の各サンプルにつき、浸漬試験及び金属腐食試験を行い、外観の変色の有無並びに各金属の質量変化を確認した。浸漬試験の結果を表2に示し、金属腐食試験の結果を表3に示した。
【0037】
浸漬試験は、各サンプルの温度を100℃に設定し、このサンプル中にマグネシウム合金(AZ91D)からなる試験片を24時間浸漬し、浸漬後の試験片表面に黒変があったかどうかを確認することで行った。腐食が生じたとき、試験片表面には水酸化マグネシウムが生成し、試験片表面が黒色に変色する。
【0038】
金属腐食試験は、JIS K 2234 金属腐食性の規定に準拠して行い、この金属試験片には、マグネシウム合金(AZ91D)を使用した。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

表2及び表3から明らかなように、ベースのみからなる比較例の場合、黒変し、+2.28mg/cm2という質量変化があったのに対し、ベース中に界面活性剤を含む実施例1〜3では、いずれも変色無し、或いは変色が生じてはいるものの、その程度は中度軽度であり、実施例2及び4の例では、質量変化も+0.15mg/cm2または0.80mg/cm2という結果であり、試験片の腐食が抑制されたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、例えばエンジン等の内燃機関の冷却系統、特にはマグネシウム及びマグネシウム合金によって構成される冷却系統に好適に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤を含有することを特徴とするマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項2】
分子内に少なくとも1個のフッ素原子を持つ界面活性剤とともにフッ化物を含有することを特徴とする請求項1記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項3】
界面活性剤が疎水基としてパーフルオロアルキル基を持つことを特徴とする請求項1又は2のいずれかに記載の記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項4】
界面活性剤が、スルホン酸塩、カルボン酸塩、ジルカルボン酸塩、ホスホン酸塩、リン酸塩エステル、スルホニングリシンカリウム塩、4級アンモニウム塩、スルホンアミド、アクリレート共重合体、ポリオキシエチレンエーテル、ベタインの中から選ばれる1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項5】
フッ化物が、フッ化水素、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム、及びフッ化リチウムの中から選ばれるいずれか1種若しくは2種以上であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項6】
水、アルコール類、グリコール類、及びグリコールエーテル類の中から選ばれる1種若しくは2種以上の混合物をベースとすることを特徴とする請求項1〜5記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項7】
界面活性剤の含有量が、ベース100質量%に対して0.0001〜20質量%であることを特徴とする請求項1〜6に記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項8】
フッ素化合物の含有量が、ベース100質量%に対して0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項9】
芳香族一塩基酸、芳香族二塩基酸、脂肪族一塩基酸、脂肪族二塩基酸およびそれらの塩の中から選ばれる1種若しくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。
【請求項10】
トリアゾール類又はチアゾール類の中から選ばれる1種若しくは2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のマグネシウムまたはマグネシウム合金用不凍液/冷却液組成物。

【公開番号】特開2007−269830(P2007−269830A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93611(P2006−93611)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】