説明

マグネシウムシリコン合金の製造方法

【課題】溶成工程や粉砕成型工程を経ることなく高純度のマグネシウムシリコン合金および製造方法を提供すること。
【解決手段】粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を所定比で焼結型内に充填し、この粉末を所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結するマグネシウムシリコン合金の製造方法および、この製造方法によって得られた品質が良好で且つ緻密なマグネシウムシリサイド(Mg2Si)である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば熱電素子などに用いられるマグネシウムシリコン合金の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のマグネシウムシリコン合金の製造方法として、大気側に緩衝キャビティを有する黒鉛容器の溶解室内に、塊状のMg及び該Mgと化合物を形成するSiを収容するとともに、ドーパント元素としてAl及びZnを複合添加し、前記緩衝キャビティ内に不活性ガスを置換した状態で、前記黒鉛容器をMg2Si化合物の融点以上でMgの沸点以下の温度範囲に一定時間保持することにより化合物融液若しくは合金融液を生成させ、該化合物融液若しくは合金融液を冷却してインゴットを作製し、該インゴットを粉砕して作製したMg2Si原料粉末を焼結することを特徴とする熱電材料の製造方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−128235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし乍ら、このような従来のマグネシウムシリコン合金の製造方法では、塊状のMgと粒径が1〜5mmのSi粒子及びドーパント粉末原料を加熱冷却してMg2Siのインゴットが溶成され、このインゴットを粉砕した粉末を焼結して成型するため、インゴットの溶成と粉砕成型が別工程になってしまった。
それにより、工程数が多くて製造に時間を要するとともに、長時間の熱処理も必要になることから、エネルギーの消費量も多くなって、大量生産に不向きでコスト高になるという問題があった。
さらに、溶成工程に用いる加熱炉など設備が必要になるため、製造設備が高価になってコスト高になるという問題もあった。
【0005】
本発明は、このような問題に対処することを課題とするものであり、溶成工程や粉砕成型工程を経ることなく高純度のマグネシウムシリコン合金を生産すること、などを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するために本発明は、原料として粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を所定比で焼結型内に充填する充填工程と、前記焼結型内に充填された前記粉末を所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結する焼結工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
前述した特徴を有する本発明は、粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を所定比で焼結型内に充填し、この粉末を所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結することにより、品質が良好で且つ緻密なマグネシウムシリサイド(Mg2Si)が得られるので、溶成工程や粉砕成型工程を経ることなく高純度のマグネシウムシリコン合金を生産することができる。
その結果、溶成工程や粉砕成型工程が必要な従来の方法に比べ、工程数が減少して製造時間を短縮化できるとともに、溶成工程や粉砕成型に必要なエネルギーも削減できてコストの低減化が図れ、より大量に生産することが可能となる。
さらに、溶成工程や粉砕成型工程に用いる製造設備が必要ないから更なるコストの低減化も図れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。
本発明の実施形態に係るマグネシウムシリコン合金の製造方法は、粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を所定比で焼結型内に充填する充填工程と、前記焼結型内に充填された前記粉末を加圧しながら加熱して焼結する焼結工程とを含んでいる。
【0009】
前記充填工程では、原料として粒径が500μm以下の平均粒径を有するマグネシウム粉と、粒径が100μm以下の平均粒径を有するシリコン粉などが用意され、これらを所望量ずつ混合してから焼結型内に充填するか、又はマグネシウム粉とシリコン粉を所望量ずつ前記焼結型内に充填してから混合する。
詳しくは、マグネシウム粉として平均粒径が10〜400μmのものを使用することが好ましい。シリコン粉としては、平均粒径が0.1〜100μmのものを使用することが好ましい。
マグネシウム粉とシリコン粉の混合比率は、モル比でMg:Si=2:1である。
【0010】
前記焼結工程では、前記焼結型内に充填された前記混合粉末を、例えばパルス通電焼結装置やホットプレス装置などを用いて、所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結することにより、マグネシウムシリサイド(Mg2Si)を作製している。
【0011】
パルス通電焼結装置とは、前記焼結型内の前記混合粉体に例えば数百アンペアから数千アンペアの直流パルス電流を流し、粒子間の放電や焼結型のジュール熱による直接発熱で焼結する装置であり、直流パルス通電焼結装置とも呼ばれている。
パルス通電焼結装置の一例としては、チャンバー内に設置されている焼結型と、この焼結型内に充填される前記混合粉体を加圧するための加圧機構と、前記混合粉体に直流パルス電流を流すための電極とを備えている。この電極を介して電源から前記混合粉体に直流パルス電流を流すことにより、前記混合粉体の粒子間にプラズマ放電が生起されて、粒子間で加熱焼結を行う。
【0012】
前記加圧機構による前記混合粉末の加圧量としては、例えば5MPa以上で50MPa以下の範囲、好ましくは30〜50MPaに圧力制御することが好ましい。
前記電極による前記混合粉末の加熱温度としては、例えば500℃以上で800℃以下の範囲、好ましくは600〜800℃に温度制御することが好ましい。
さらに、前記焼結型の焼結環境としては、例えば10Pa以下に減圧するか、若しくは不活性ガス中で焼結することが好ましい。
【0013】
このような本発明の実施形態に係るマグネシウムシリコン合金の製造方法によると、前記充填工程で粒径500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を焼結型内に混合充填し、前記焼結工程で前記焼結型内に充填された前記混合粉末を所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結している。
実験によれば、パルス通電焼結装置又はホットプレス装置のいずれか一方を使用しても、1プロセスでマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の焼結体が得られた。
また、粒径500μmよりも大きなマグネシウム粉と粒径が100μmよりも大きなのシリコン粉を同様に加圧・加熱しても、1プロセスでマグネシウムシリサイド(Mg2Si)の焼結体を得ることができなかった。
したがって、前述した特許文献1では不可欠であった溶成工程や粉砕成型工程を省略しても、高純度のマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を生産することができる。
【0014】
さらに、パルス通電焼結装置やホットプレス装置などを用いて、前記混合粉末を5〜50MPaに加圧しながら前記混合粉末を500〜800℃の範囲内で加熱焼結した場合には、高純度のマグネシウムシリサイド(Mg2Si)を確実に生産することができるという利点がある。
特に、シリコン粉として、Siのインゴットからウエハを切断分離する際に排出される、その平均粒径が0.1〜10μmの切りくずを使用した場合には、例えばボールミルや遊星ボールミルなどの粉砕機を使用する必要がないため、容易にしかも安価で得られるとともに、原料として廃材を有効利用できるから環境に優しく経済的であるという利点がある。
これと同様に、マグネシウム粉して、Mgの成型品を作製する際に排出される、その平均粒径が100〜500μmの切りくずを使用した場合には、粉砕機が必要ないとともに原料として廃材を有効利用できるから環境に優しく経済的であるという利点がある。
【0015】
また、前記充填工程で、前記原料となる粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉からなる混合粉末に、例えばMnやCoなどのドープ材(ドーパント)を微量添加することも可能である。
すなわち、ドープ材が添加された前記混合粉末を加圧しながら加熱焼結すると、前記焼結体にp/n接合が直接成形される。
それにより、工程を増やすことなくp型又はn型半導体を生産することができるという利点がある。
【0016】
さらに、前記焼結体の表面に例えばMnやCoなどのドープ材を、例えば塗布などにより積層してから熱処理することも可能である。
すなわち、前記焼結体の表面にドープ材を塗布した後に熱処理すると、n型又はp型半導体が形成される。
それにより、p型又はn型半導体を生産することができるという利点がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として粒径が500μm以下のマグネシウム粉と粒径が100μm以下のシリコン粉を所定比で焼結型内に充填する充填工程と、
前記焼結型内に充填された前記粉末を所定圧力以上に加圧しながら所定温度で加熱して焼結する焼結工程とを含むことを特徴とするマグネシウムシリコン合金の製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程では、前記粉末を5〜50MPaに加圧しながら500〜800℃の範囲内で加熱焼結したことを特徴とする請求項1記載のマグネシウムシリコン合金。

【公開番号】特開2013−7103(P2013−7103A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141135(P2011−141135)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000214928)直江津電子工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】