説明

マグネシウムシリサイド、熱電変換材料、焼結体、熱電変換素子用焼結体、熱電変換素子、及び熱電変換モジュール

【課題】マグネシウムシリサイドとの相性が良好なドーパントを含有する新規な材料を提供する。
【解決手段】マグネシウムシリサイドにドープするドーパントとして、Co、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnを用いる。本発明のマグネシウムシリサイドに含まれるドーパントの量は特に限定されないが、上記のドーパントの含有量は、原子量比で0.10〜2.00at%であることが好ましい。また、本発明のマグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体は、熱電変換素子として好ましく用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムシリサイド、熱電変換材料、焼結体、熱電変換素子用焼結体、熱電変換素子、及び熱電変換モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の高まりに応じて、各種のエネルギーを効率的に利用する様々な手段が検討されている。特に、産業廃棄物の増加等に伴って、これらを焼却する際に生じる廃熱の有効利用が課題となっている。例えば大型廃棄物焼却施設では、廃熱により高圧の蒸気を発生させ、この蒸気により蒸気タービンを回転させて発電することにより廃熱回収が行われている。しかし、廃棄物焼却施設の大多数を占める中型・小型廃棄物焼却施設では、廃熱の排出量が少ないため、蒸気タービン等により発電する廃熱の回収方法は採用できていない。
【0003】
このような中型・小型の廃棄物焼却施設において採用することが可能な廃熱を利用した発電方法としては、例えば、ゼーベック効果或いはペルチェ効果を利用して可逆的に熱電変換を行う熱電変換材料・熱電変換素子・熱電変換モジュールを用いる方法が提案されている。
【0004】
例えば、環境負荷が少ないマグネシウムシリサイド(MgSi)が熱電変換材料として研究されている(例えば特許文献1〜2、非特許文献1〜3を参照)。
【0005】
ところで、熱電変換材料が特定のドーパントを含有すれば、熱電変換材料を焼結してなる熱電変換素子の性能を高められる。具体的には、熱電変換材料がドーパントを含有することで、焼結体の熱伝導率が低下したり、電気伝導率が向上したり、ゼーベック係数が向上したりする結果、熱電変換素子の熱電変換性能を高めることができる。
【0006】
したがって、上記マグネシウムシリサイドを用いる熱電変換材料において、マグネシウムシリサイドと相性の良いドーパントが明らかになれば、これらのドーパントの単独又は複数での使用は、マグネシウムシリサイドの焼結体から構成される熱電変換素子の性能指数Zを高めたり、特別な性質を熱電変換素子に付与したりする可能性を広げる。ここで、特別な性質としては、例えば、マグネシウムシリサイドにSbをドープすることで熱電変換素子に付与される高温耐久性が挙げられる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−314805号公報
【特許文献2】特開2002−285274号公報
【特許文献3】国際公開第2011/002035号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Semiconducting Properties of Mg2Si Single Crystals Physical Review Vol.109,No.6,March 15,1958,p.1909−1915
【非特許文献2】Seebeck Effect In Mg2Si Single Crystals J.Phys.Chem.Solids Program Press 1962.Vol.23,pp.601−610
【非特許文献3】Bulk Crystals Growth of Mg2Si by the vertical Bridgman method Science Direct Thin Solid Films 461(2004)86−89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的はマグネシウムシリサイドとの相性が良好なドーパントを含有する新規な材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、Co、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnが、マグネシウムシリサイドとの相性が良好なドーパントであることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には本発明は以下のものを提供する。
【0011】
[1] Co、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnから選択される少なくとも一種をドーパントとして含むマグネシウムシリサイド。
【0012】
[2] 前記ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含む[1]に記載のマグネシウムシリサイド。
【0013】
[3] [1]又は[2]に記載のマグネシウムシリサイドから構成される熱電変換材料。
【0014】
[4] [1]又は[2]に記載のマグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体。
【0015】
[5] [4]に記載の焼結体から構成される熱電変換素子用焼結体。
【0016】
[6] 熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、前記熱電変換部が[5]に記載の熱電変換素子用焼結体を用いて製造される熱電変換素子。
【0017】
[7] [6]に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マグネシウムシリサイドとの相性が良好なドーパントを含有する新規な材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図2】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図3】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図4】熱電変換モジュールの一例を示す図である。
【図5】焼結装置の一例を示す図である。
【図6】焼結体のゼーベック係数の評価結果を示す図である。
【図7】焼結体の電気伝導率の評価結果を示す図である。
【図8】焼結体のパワーファクターの評価結果を示す図である。
【図9】焼結体の熱伝導率の評価結果を示す図である。
【図10】焼結体の無次元性能指数の評価結果を示す図である。
【図11】焼結体の高温耐久性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0021】
<マグネシウムシリサイド>
本発明のマグネシウムシリサイドは、MgとSiとの原子量比がおよそ2:1の化合物であり、ドーパントとしてCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnから選択される少なくとも一種を含む。Co、Nb、Nd、Sm、Ta、Znはマグネシウムシリサイドとの相性が良好であり、これらのドーパントを含むマグネシウムシリサイドから構成される熱電変換材料を焼結して熱電変換素子とすれば、熱電変換素子の電気伝導率が向上したり、熱伝導率が低下したりする。このため、これらのドーパントの単独又は複数での使用は、熱電変換素子の無次元性能指数ZTを高めたり、特別な性質を熱電変換素子に付与したりする可能性を広げる。なお、本発明は、公知のドーパントであるSb等とCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnとを組み合わせて使用することを排除しない。
【0022】
熱電変換素子に付与可能な特別な性質としては、高温耐久性、安全性等が挙げられる。Nb、Nd、Sm、Ta、Znをドーパントとして含有すれば、熱電変換素子は、高温耐久性が高まる。また、Co、Nb、Nd、Sm、Ta、Znは毒性が低く、これらをドーパントとして含有してもマグネシウムシリサイドの安全性が低下する問題は生じない。
【0023】
Co、Nb、Nd、Sm、Ta、Znの中でも、Co、Nb、Smは熱電変換素子の熱伝導率を低下させる効果が高く、また、Taは電気伝導率を向上させる効果が高い。また、Znは熱伝導率を低下させる効果が高い。そして、これらのドーパントを含有しても、ゼーベック係数の絶対値の低下による熱電変換素子の性能低下の問題が無い。
【0024】
本発明のマグネシウムシリサイドにおける、ドーパントの含有量は特に限定されないが、原子量比で0.10〜2.00at%であることが好ましい。なお、複数のドーパントが使用される場合には、全てのドーパントの合計含有量が上記の範囲内であることが好ましい。
【0025】
本発明で用いられるマグネシウムシリサイドの製造方法は特に限定されないが、例えば、溶融合成法、メカニカルアロイ法を採用することができる。
【0026】
溶融合成法は、Mg、Si、ドーパントを混合して組成原料を得る混合工程と、この組成原料を加熱溶融する加熱溶融工程とを有する。
【0027】
組成原料を得るためのMgについて、その種類は特に限定されないが、純度の高いものが好ましい。純度が高いMgとは、99.5%程度以上の純度を有するMgを指す。
【0028】
組成原料を得るためのSiについて、その種類は特に限定されず、シリコンスラッジの表面の酸化膜を除去したものも使用可能であるが、高純度シリコンの使用が好ましい。ここで、高純度シリコンとは、純度が99.9999%以上のもので、半導体や太陽電池等のシリコン製品の製造に用いられるものである。高純度シリコンとしては、具体的に、LSI用高純度シリコン原料、太陽電池用高純度シリコン原料、高純度金属シリコン、高純度シリコンインゴット、高純度シリコンウエハ等を挙げることができる。
【0029】
混合工程においては、MgとSiとドーパントとを混合して、MgとSiとの原子量比がおよそ2:1であり、ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含む組成原料を調製する。
【0030】
加熱溶融工程においては、例えば、混合工程にて得た組成原料を還元雰囲気下且つ好ましくは減圧下において、Mgの融点を超えSiの融点を下回る温度条件下で熱処理してマグネシウムシリサイドを溶融合成する。ここで、「還元雰囲気下」とは、特に水素ガスを5体積%以上含み、必要に応じてその他の成分として、不活性化ガスを含む雰囲気を指す。かかる還元雰囲気下で加熱溶融工程を行うことにより、MgとSiとを確実に反応させてマグネシウムシリサイドを合成することができる。また、加熱溶融工程における圧力条件としては、大気圧でもよいが、1.33×10−3Pa〜大気圧が好ましく、安全性を考慮すれば、例えば0.08MPa程度の減圧条件或いは真空条件で行うことが好ましい。また、加熱溶融工程における加熱条件としては、700℃以上1410℃未満、好ましくは1085℃以上1410℃未満で、例えば3時間程度熱処理することができる。ここで、熱処理の時間は、例えば2〜10時間である。熱処理を長時間のものとすることにより、得られるマグネシウムシリサイドをより均一化することができる。また、昇温条件としては、例えば、150℃に達するまでは150〜250℃/hの昇温条件、1100℃に達するまでは350〜450℃/hの昇温条件を挙げることができ、熱処理後の降温条件としては、900〜1000℃/hの降温条件を挙げることができる。
【0031】
続いて、メカニカルアロイ法について説明する。メカニカルアロイ法によりマグネシウムシリサイドを製造する際の原料は特に限定されず、上記の溶融合成法で説明したMg、Siを利用できる。原料の粉末の大きさは特に限定されないが、一般的には数十ミクロンから数ミリである。MgとSiとドーパントとの原子比を上記溶融合成法の場合と同様に調整して、これらの原料に対して機械的合金化処理を施す。
【0032】
機械的合金化処理には乾式の粉砕機が利用でき、具体的には、振動型ボールミル、遊星型ボールミル、転動型ボールミル、アトライター等が利用できる。機械的合金化処理時の雰囲気は粉末の酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気や減圧雰囲気が好ましい。
【0033】
処理時間は特に限定されないが、50〜300時間が好ましい。50時間より短いと各元素の混合状態が不十分であり、微細混合には至っていない可能性がある。また300時間を超えると機械的合金化処理時に粉末の酸化或いは窒化が起こり、熱電材料の性能劣化をもたらす酸化物や窒化物が生成する。さらに、機械的合金化時の圧力伝達媒体としては、鋼球、セラミックス球、超硬球等の一般的な粉砕球が利用できる。
【0034】
上記の機械的合金化処理により合金化したマグネシウムシリサイドを得ることができる。なお、メカニカルアロイ法により得られるマグネシウムシリサイドは、通常、数マイクロメートル以下の微細な粉末状である。
【0035】
<焼結体の製法>
本発明の焼結体は、上記マグネシウムシリサイドを焼結してなる。焼結されるマグネシウムシリサイドの形状は、微細で、狭い粒度分布を有することが好ましい。ここで、微細とは、例えば、数マイクロメートル以下である。また、粉末化する方法は特に限定されず、一般的な方法を採用できる。
【0036】
焼結の条件は、特に限定されないが、本発明の焼結体を熱電変換素子に用いる場合、グラファイト製の焼結用冶具内、真空又は減圧雰囲気下、焼結圧力5〜60MPa、焼結温度600〜1000℃、加圧圧縮焼結法で焼結する条件が好ましい。
【0037】
焼結圧力が5MPa未満である場合、理論密度の約70%以上の十分な密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。一方、焼結圧力が60MPaを超える場合、コストの面で好ましくなく、実用的でない。また、焼結温度が600℃未満では、粒子同士が接触する面の少なくとも一部が融着して焼成され理論密度の70%から理論密度に近い密度を有する焼結体を得ることが難しくなり、得られた試料が強度的に実用に供することができないものとなるおそれがある。また、焼結温度が1000℃を超える場合には、温度が高すぎるために試料の損傷が生じるばかりでなく、場合によってはMgが急激に蒸気となって、飛散するおそれがある。
【0038】
また、焼結工程において、空気が存在する場合は、窒素やアルゴン等の不活性ガスを使用した雰囲気下で焼結することが好ましい。
【0039】
焼結工程において、加圧圧縮焼結法を採用する場合、ホットプレス焼結法(HP)、熱間等方圧焼結法(HIP)、及び放電プラズマ焼結法を採用することができる。これらの中でも、放電プラズマ焼結法が好ましい。
【0040】
放電プラズマ焼結法は、直流パルス通電法を用いた加圧圧縮焼結法の一種で、パルス大電流を種々の材料に通電することによって加熱・焼結する方法であり、原理的には金属・グラファイト等の導電性材料に電流を流し、ジュール加熱により材料を加工・処理する方法である。
【0041】
このようにして得られた焼結体は、高い物理的強度を有し、且つ安定して高い熱電変換性能を発揮できる焼結体となる。したがって、本発明の焼結体は熱電変換素子用焼結体として好ましく用いることができる。
【0042】
<熱電変換素子>
本発明に係る熱電変換素子は、熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、この熱電変換部が本発明の焼結体を用いて製造されるものである。
【0043】
[熱電変換部]
熱電変換部は、ワイヤーソー等を用いて、焼結体から、所望の大きさになるように切り出されたものである。なお、切り出しは、後述する方法で焼結体に電極を形成した後で行うことが好ましい。
【0044】
この熱電変換部は、通常、1種類の本発明の熱電変換材料を用いて製造されるが、複数種類の本発明の熱電変換材料を用いて複層構造を有する熱電変換部としてもよい。複層構造を有する熱電変換部は、焼結前に複数種類の本発明の熱電変換材料を所望の順序で積層した後、焼結することにより製造することができる。複数種類の本発明の熱電変換材料としては、ドーパントが異なる熱電変換材料の組み合わせであってもよく、ドーパントの含有量が異なるドーパントを含む熱伝変換材料の組み合わせであってもよい。或いは、上記本発明の熱電変換材料と従来公知の熱電変換材料との組み合わせであってもよい。ただし、マグネシウムシリサイド同士を組み合わせる方が、膨張係数の違い等によって積層界面が劣化することがないため好ましい。
【0045】
[電極]
上記第1電極及び第2電極の形成方法は特に限定されず、焼結体に対して電極を形成する方法であってもよいし、本発明の焼結体を得るための、上記マグネシウムシリサイドの焼結時に電極を同時に形成する方法であってもよい。
【0046】
焼結体に対して電極を形成する方法としては、メッキ法等が例示される。そして、メッキ法を採用する場合、無電界ニッケルメッキにより電極を形成することが好ましい。また、メッキ法により電極を形成する前の焼結体の表面に、メッキを行うのに支障となる凹凸がある場合には、研磨して平滑にすることが好ましい。
【0047】
このようにして得られたメッキ層付きの焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットすることで、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が得られる。
【0048】
また、マグネシウムシリサイドの焼結時に電極を形成する方法としては、加圧圧縮焼結法が挙げられる。加圧圧縮焼結法とは、電極材料、マグネシウムシリサイド、電極材料をこの順で積層し、加圧圧縮焼結することにより、両端に電極が形成された焼結体を得る方法である。このようにして製造された焼結体を、ワイヤーソーやブレードソーのような切断機で所定の大きさにカットすることで、第1電極、熱電変換部、及び第2電極からなる熱電変換素子が得られる。
【0049】
<熱電変換モジュール>
本発明に係る熱電変換モジュールは、上記のような本発明に係る熱電変換素子を備えるものである。
【0050】
熱電変換モジュールの一例としては、例えば図1及び図2に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明に係るマグネシウムシリサイドから得られたn型半導体及びp型半導体の少なくとも一方がそれぞれn型熱電変換部101、p型熱電変換部102の熱電変換材料として用いられる。並置されたn型熱電変換部101及びp型熱電変換部102の上端部には電極1015、1025が、下端部には電極1016、1026がそれぞれ設けられる。そして、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の上端部にそれぞれ設けられた電極1015,1025が接続されて一体化された電極を形成すると共に、n型熱電変換部及びp型熱電変換部の下端部にそれぞれ設けられた電極1016,1026は分離されて構成される。
【0051】
図1に示す熱電変換モジュールにおいては、電極1015,1025の側を加熱し、電極1016,1026の側から放熱することで、電極1015,1025と、電極1016,1026との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、熱励起されたキャリアによってp型熱電変換部102がn型熱電変換部101よりも高電位となる。このとき、電極1016と電極1026との間に負荷として抵抗3を接続することで、p型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと電流が流れる。
【0052】
図2に示す熱電変換モジュールにおいては、直流電源4によってp型熱電変換部102からn型熱電変換部101へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において吸熱作用が生じ、電極1016,1026において発熱作用が生じる。また、n型熱電変換部101からp型熱電変換部102へと直流電流を流すことで、電極1015,1025において発熱作用が生じ、電極1016,1026において吸熱作用が生じる。
【0053】
また、熱電変換モジュールの他の例としては、例えば図3及び図4に示すようなものが挙げられる。この熱電変換モジュールでは、本発明のマグネシウムシリサイドから得られたn型半導体がn型熱電変換部103の熱電変換材料として用いられる。n型熱電変換部103の上端部には電極1035が、下端部には電極1036がそれぞれ設けられる。
【0054】
図3に示す熱電変換モジュールにおいては、電極1035側を加熱し、電極1036側から放熱することで、電極1035と電極1036との間に正の温度差(Th−Tc)が生じ、電極1035側が電極1036側よりも高電位となる。このとき、電極1035と電極1036との間に負荷として抵抗3を接続することで、電極1035側から電極1036側へと電流が流れる。
【0055】
図4に示す熱電変換モジュールにおいては、直流電源4によって電極1036側からn型熱電変換部103を経て電極1035側へと直流電流を流すことで、電極1035において吸熱作用が生じ、電極1036において発熱作用が生じる。また、直流電源4によって電極1035側からn型熱電変換部103を経て電極1036へと直流電流を流すことで、電極1035において発熱作用が生じ、電極1036において吸熱作用が生じる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
高純度シリコンと、Mgと、Coとを混合し、組成原料(66at%Mg、33at%Si、1at%Co)を得た。なお、高純度シリコンとしては、MEMC Electronic Materials社製で、純度が99.9999999%の半導体グレード、大きさが直径4mm以下の粒状のものを用いた。また、Mgとしては、日本サーモケミカル社製で、純度が99.93%、大きさが1.4mm×0.5mmのマグネシウム片を用いた。また、Coとしては、(株)高純度化学研究所製で、純度が99%、大きさが直径5μm以下の粒状のものを用いた。
【0058】
上記組成原料を、Al製の溶融ルツボ(日本化学陶業社製、内径34mm、外径40mm、高さ150mm;蓋部は直径40mm、厚さ2.5mm)に投入した。溶融ルツボの開口部の辺縁と、蓋部とを密着させて、加熱炉内に静置し、加熱炉の外部からセラミック棒を介して、3kg/cmとなるようにおもりで加圧した。
【0059】
次いで、加熱炉の内部を、ロータリーポンプで5Pa以下となるまで減圧し、次いで拡散ポンプで1.33×10−2Paとなるまで減圧した。この状態で、加熱炉内を200℃/hで150℃に達するまで加熱し、150℃で1時間保持して組成原料を乾燥させた。この際、加熱炉内には、水素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを充填し、水素ガスの分圧を0.005MPa、アルゴンガスの分圧を0.052MPaとした。
【0060】
その後、400℃/hで1105℃に達するまで加熱し、1105℃で3時間保持した。その後、100℃/hで900℃にまで冷却し、1000℃/hで室温にまで冷却することでCoがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
【0061】
上記マグネシウムシリサイドを、陶製乳鉢を用いて粒径がおよそ75μmになるまで粉砕し、75μmの篩に通した粉末を得た。そして、図5に示すように、内径15mmのグラファイトダイ10と、グラファイト製パンチ11a,11bとで囲まれた空間に、粉砕したマグネシウムシリサイド1.0gを仕込んだ。粉末の上下端には、パンチにマグネシウムシリサイドが固着することを防止するためにカーボンペーパーを挟んだ。その後、放電プラズマ焼結装置(ELENIX社製、「PAS−III−Es」)を用いて真空雰囲気下で焼結を行った。焼結条件は下記のとおりである。
焼結温度:910℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×1min40sec(〜500℃)
35℃/min×11min(500〜885℃)
10℃/min×2min30sec(885〜910℃)
0℃/min×5min(910℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0062】
焼結後、付着したカーボンペーパーをサンドペーパーで除去し、Coがドープされたマグネシウムシリサイドの焼結体を得た。なお、得られた焼結体の形状は、円柱状(上面及び底面が直径15mmの円、高さが10mm)である。
【0063】
<実施例2>
CoをNb((株)高純度化学研究所製で、純度が99.9%、大きさが直径300μmm以下の粒状)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、Nbがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
【0064】
<実施例3>
CoをSm((株)高純度化学研究所製で、純度が99.9%、削り状で、直径がおよそ5〜10mmの削り状Smの塊)に変更した以外は実施例1と同様の方法で、Smがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
【0065】
<実施例4>
CoをZn((株)高純度化学研究所製で、純度が99.9%、削り状で、直径がおよそ5〜10mmの削り状Smの塊)に変更し、放電プラズマ焼結装置による焼結の際の条件を下記の条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で、Ndがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
焼結温度:870℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×1min40sec(〜500℃)
35℃/min×10min(500〜850℃)
10℃/min×2min(850〜870℃)
0℃/min×5min(870℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0066】
<実施例5>
NdをTa((株)高純度化学研究所製で、純度が99.9%、大きさが直径45μm以下の粒状)に変更した以外は実施例4と同様の方法で、Taがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
【0067】
<実施例6>
CoをZn((株)高純度化学研究所製で、純度が99.9%、大きさが直径150μm以下の粒状)に変更し、放電プラズマ焼結装置による焼結の際の条件を下記の条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で、Znがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
焼結温度:870℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×4min(800〜840℃)
0℃/min×5min(840℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0068】
<参考例1>
CoをSb(エレクトロニクス エンド マテリアルズ コーポレーション社製で、純度が99.9999%、大きさが直径5mm以下の粒状)に変更し、放電プラズマ焼結装置による焼結の際の条件を下記の条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で、Sbがドープされたマグネシウムシリサイドを得た。
焼結温度:850℃
圧力:30.0MPa
昇温レート:300℃/min×2min(〜600℃)
100℃/min×2min(600〜800℃)
10℃/min×5min(800〜850℃)
0℃/min×5min(850℃)
冷却条件:真空放冷
雰囲気:Ar 60Pa(冷却時は真空)
【0069】
<評価1>
実施例1〜6のマグネシウムシリサイドの焼結体について、光学顕微鏡等による観察を以下の方法で行った。
【0070】
ワイヤーソーCS−203(ムサシノ電子)を用いて、焼結体を直径に沿って切断した。切断された焼結体の上記断面を、自動研磨機MA−150(ムサシノ電子)を用いて鏡面加工し、加工面を光学顕微鏡で観察した(倍率200倍)。
【0071】
上記光学顕微鏡による観察で確認されたMgSiではない部分を電子線マイクロアナライザーで分析し、マグネシウムシリサイドがドーパントを含有していることを確認した。また、MgSiではない部分には未反応のSi、微量のAlが含まれていた。
【0072】
<評価2>
実施例1〜6、参考例1のマグネシウムシリサイドの焼結体について、ゼーベック係数、電気伝導率の測定を、ゼーベック係数測定装置(ULVAC−RIKO ZEM−2)を用いて、以下の方法で行った。
【0073】
各焼結体から厚さ2mm、高さ8mm、幅2mmの試料を切り出した。試料の上端及び下端をニッケル電極で挟み込み、横から温度差測定用熱電対(プローブ)を接触させた。測定温度は50℃から600℃までとし、50℃刻みで測定を行った。また、測定雰囲気はHe雰囲気とし、電極間の温度差は30℃に調整した。
【0074】
試料と試料に接触している各プローブとの間に発生する熱起電力と温度を読み取り、このプローブ間の起電力差をその温度差で割ることでゼーベック係数を算出した。結果を図6に示した。
【0075】
図6の結果から、ドーパントとしてCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は、ドーパントとしてSbを含むマグネシウムシリサイドの焼結体と比較して、ゼーベック係数の絶対値が高いことが確認された。
【0076】
上下電極とプローブを用いた四端子法によって抵抗値を測定し、プローブ間の距離と試料の断面積から抵抗率を算出し、その逆数から電気伝導率を算出した。結果を図7に示した。
【0077】
図7の結果から、ドーパントとしてCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnを含むマグネシウムシリサイドの焼結体の中で、Taを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は電気伝導率を高める効果が高いことが確認された。
【0078】
上記のようにして導出したゼーベック係数と電気伝導率とからパワーファクター(PF)を算出した。結果を図8に示した。
【0079】
図8の結果から、ドーパントとしてTaを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は、パワーファクターが高いことが確認された。
【0080】
<評価3>
実施例1〜6、参考例1のマグネシウムシリサイドの焼結体について、熱伝導率の測定を、レーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(アルバック理工社製、「TC・7000H」)を用いて、以下の方法で行った。
【0081】
各焼結体から高さ2mm、縦8mm、横2mmの試料を切り出した。試料の表面を軽く研磨し、8mm×8mmの一方の面に銀ペーストを用いて、R熱電対を試料の隅に接着した。
【0082】
先ず、比熱が既知の標準サンプル(サファイア)を用いて吸収熱量を測定した。続いて、サファイアの取り外し、上記試料をセットして吸収熱量を測定した。
【0083】
熱拡散率測定のために、R熱電対を有する一方の面にはグラファイトスプレーによる黒化処理を均一に行った。なお、黒化処理の際、銀ペーストにグラファイトスプレーがかからないようにマスキングをした。
【0084】
熱拡散率を50℃、100℃、200℃、300℃から600℃まで50℃刻みで測定し、熱拡散率、比熱、密度から熱伝導率を求めた。結果を図9に示した。
【0085】
図9の結果から、ドーパントとしてCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnを含むマグネシウムシリサイドの焼結体の中で、Znを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は熱伝導率を高める効果が高いことが確認された。
【0086】
<評価4>
上記のゼーベック係数、電気伝導率、熱伝導率を用いて、無次元性能指数(ZT)を算出した。結果を図10に示した。
【0087】
図10の結果から、ドーパントとしてCo、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は、ドーパントとしてSbを含む焼結体と比較して、やや無次元性能指数が低いことが確認された。
【0088】
<評価5>
実施例2〜6、参考例1のマグネシウムシリサイドの焼結体について、高温耐久性を以下の方法で評価した。
【0089】
各焼結体から、10mm×10mm×2mmの試料を切り出し、この試料の10mm×10mmの面積の面の一方に対して、自動研磨機MA−150(ムサシノ電気株式会社製)で処理を行い、この面の酸化膜を取り除いた。
【0090】
次いで、酸化膜が取り除かれた面を測定面とし、四端子測定装置K−503RS(株式会社共和理研製)を用いて、試料の抵抗を測定した。ここで、測定面に接触する4本のプローブの間隔は1mmとした。測定の際の電流の条件は30mAまでとした。
【0091】
上記のようにして導出した抵抗値に補正係数を掛けることで、抵抗率を算出した。補正係数はw×C×Fで表され、wは試料の厚み、Cは4.2209(測定面が10mm×10mm、プローブの間隔が1mmから導出)である。また、Fと厚み/プローブ間隔との関係を表1に示した。
【表1】

【0092】
抵抗率を算出した後、大気中、600℃に保った環状炉に試料を入れた。1時間経過後、環状炉から試料を取り出し、測定面を研磨して、上記と同様の方法で抵抗率を導出した。5時間経過後、10時間経過後、50時間経過後、100時間経過後についても同様に、抵抗率の導出を行った。なお、抵抗率の導出にあたっては測定面の研磨を行うため、試料の厚みが薄くなるので、表1に記載の補正係数を使用した。抵抗率評価結果を図11に示した。
【0093】
図11の結果から、ドーパントとしてNb、Nd、Sm、Ta及びZnを含むマグネシウムシリサイドの焼結体は、ドーパントとしてSbを含む焼結体と同等の高温耐久性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0094】
101 n型熱電変換部
1015,1016 電極
102 p型熱電変換部
1025,1026 電極
103 n型熱電変換部
1035,1036 電極
3 負荷
4 直流電源
10 グラファイトダイ
11a,11b グラファイト製パンチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co、Nb、Nd、Sm、Ta及びZnから選択される少なくとも一種をドーパントとして含むマグネシウムシリサイド。
【請求項2】
前記ドーパントを原子量比で0.10〜2.00at%含む請求項1に記載のマグネシウムシリサイド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネシウムシリサイドから構成される熱電変換材料。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のマグネシウムシリサイドを焼結してなる焼結体。
【請求項5】
請求項4に記載の焼結体から構成される熱電変換素子用焼結体。
【請求項6】
熱電変換部と、該熱電変換部に設けられた第1電極及び第2電極とを備え、
前記熱電変換部が請求項5に記載の熱電変換素子用焼結体を用いて製造される熱電変換素子。
【請求項7】
請求項6に記載の熱電変換素子を備える熱電変換モジュール。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−73960(P2013−73960A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209774(P2011−209774)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【出願人】(591054864)ユニオンマテリアル株式会社 (13)
【出願人】(591172526)昭和KDE株式会社 (17)
【Fターム(参考)】