説明

マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池

【課題】マグネシウム二次電池用途として充放電可能で、また、マグネシウム二次電池の特性向上を図ることができるマグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池を提供する。
【解決手段】マグネシウム二次電池用正極活物質は、組成式Mg(M1-0.5xx)SiO4、又は、Mg1.03-0.5x(M0.97-xx)SiO4、で表され、前記Mが、Mn、Co、Ni、及びFeから選ばれる少なくとも1種を含み、前記組成式において0.01≦x≦0.20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化や都市温暖化などの多様な環境問題が顕在化し、化石燃料代替として二次電池、特にリチウムイオン二次電池の需要が急増してきている。リチウムイオン二次電池は、従来の鉛二次電池やニッケル−カドミウム二次電池などに比べ軽量で容量も大きいため携帯電話やノート型パーソナルコンピューターなどの電子機器の電源として広く用いられている。最近では、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、電動二輪車等の電池としても利用される。
しかしながら、リチウムイオン二次電池の原料であるリチウムは、埋蔵地域の偏在や、昨今の需要増加に伴う価格高騰が懸念される。また、リチウムイオンは1価であることから、容量やエネルギー密度には原理的に限界がある。電気自動車等の用途では、二次電池のさらなる高容量化や高エネルギー密度化が要望されており、リチウムイオン二次電池より高容量化や高エネルギー密度化が原理的に望める2価の金属イオンを用いた二次電池の開発が期待されている。
マグネシムは、資源的に豊富で、リチウムに比べはるかに安価である。また、金属マグネシウムはイオン化傾向が比較的大きく、酸化還元反応によって取り出しうる単位体積あたりの電気量が大きい。しかも電池に用いた場合に高い安全性が期待できる。従って、マグネシウム二次電池は、リチウムイオン二次電池の欠点を補うことができる電池である。この例のように、金属マグネシウムおよびマグネシウムイオンは、それぞれ、電気化学デバイスにおける電極活物質、および電解液における電荷キャリアとして非常に有望な材料である。
マグネシウム二次電池の構成材料の中で正極材料に関しては、マグネシウムイオンを含む酸化物が考えられる。
非特許文献1には、Mg1.03Mn0.97SiO4を正極活物質として用いるマグネシウム二次電池が提案されているが、実用的な二次電池に対する要求特性を満足するものではなく、リチウムイオン二次電池と比べ遅れをとっている。
一方、非特許文献2には、二次電池の正極材料としてではないが、層状の構造を持つマグネシウムコバルトシリケートに関する研究成果が発表されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Z. Feng , J.Yang , Y. NuLi , J. Wang J. Power Sources 184, (2008) 604-609.
【非特許文献2】R. Rinaldi , G.D.Gatta , G. Artioli , K.S. Knight , C.A. Geiger Phys Chem Minerals 32, (2005) 655-664.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マグネシウム二次電池の正極材料としては、マグネシウムイオンを含む複合酸化物が考えられ、マグネシウムイオンが挿入脱離できる複合酸化物が有望であるが、これまでマグネシウムイオンの挿入脱離が確認できた例は、非特許文献1に示された複合酸化物に限られる。しかも、上述のように、実用的な二次電池の正極材料としては、まだ不十分な性能である。
非特許文献2には、マグネシウムイオンを含む複合酸化物としてマグネシウムコバルトシリケートが挙げられているが、マグネシウムイオンが挿入脱離できる可能性については何も示唆されておらず、その具体的用途すら示されていない。すなわち非特許文献2には電池材料として用いる可能性や電池特性等に関して何等示唆されていない。
このように、マグネシウムイオンを含む複合酸化物は、結晶構造解析等で数多く知られているが、無限に近い数多くのマグネシウムイオンを含む複合酸化物の中からマグネシウムイオンの挿入脱離が可能で、かつ正極材料としてマグネシウムイオンを容易に挿入脱離できる複合酸化物を見出した例はない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、マグネシウム二次電池用途として充放電可能で、また、高容量で、マグネシウム二次電池の特性向上を図ることができるマグネシウム二次電池用正極活物質及びマグネシウム二次電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明によれば、組成式Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4、又は、Mg1.03-0.5x(M0.97-xx)SiO4、で表され、
前記Mが、Mn、Co、Ni、及びFeから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記組成式において0.01≦x≦0.20であることを特徴とするマグネシウム二次電池用正極活物質が提供される。
【0006】
請求項2の発明によれば、前記正極活物質が、階層多孔構造であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質が提供される。
【0007】
請求項3の発明によれば、請求項1又は2に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質を備えたことを特徴とするマグネシウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マグネシウム二次電池用途として充放電可能で、また、高容量で、マグネシウム二次電池の特性向上を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係るマグネシウム二次電池用正極活物質について説明する。
本発明のマグネシウム二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質と言う)は、マグネシウム二次電池の正極の正極材料一つとして使用される。正極は、一般的には、上記正極活物質と導電性助剤と結着剤を含む。また、正極は、前記3つの材料を分散媒でスラリー状としたペーストを、コーターにより正極集電体に塗布した後、分散媒を揮発させて正極集電体(一般的には金属箔)上に製造される。
【0010】
本発明者らは、組成式Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4、又は、Mg1.03-0.5x(M0.97-xx)SiO4、で表される複合酸化物で、前記MにMn、Co、Ni、及びFeのいずれか1つが含まれ、前記組成式において、0.01≦x≦0.20であると、マグネシウムイオンの挿入脱離が容易にできてマグネシウム二次電池用正極活物質として極めて優れたものになることを見出した。よって、本発明に係る正極活物質は、組成式Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4、又は、Mg1.03-0.5x(M0.97-xx)SiO4で表され、前記Mが、Mn、Co、Ni、及びFeから選ばれる少なくとも1種を含み、前記組成式において、0.01≦x≦0.20である。これらMn、Co、Ni及びFeのうち、より高電位が得られ、より高いエネルギー密度の正極活物質という観点では、Co、Niを含むものが好ましい。また、特に、低価格(低コスト)の正極活物質という観点では、Fe、Mnを含むものが好ましい。
また、前記Mは、Mn、Co、Ni、Feの2つ以上を同時に含むものであってもよい。更に、前記4つの金属元素以外の金属元素で一部置換されていてもよい。
なお本発明は、上記組成式において結晶欠陥等の存在による若干の組成変動も許容される。
【0011】
本発明に係る正極活物質は、3次元階層的な多孔質構造(以下、「階層多孔構造」と称する)であるのがより好ましい。このような階層多孔構造では、電荷移動が効率的になるとともに電解質が浸透しやすくなる。つまり、孔壁の厚さがナノサイズである階層多孔構造では、イオンの拡散距離がナノスケールとなり小さくなるので、拡散分極を低減でき、充放電が高いレートで行うことができるようになる。また、比較的大きな比表面積になるので、電極/電解質接合部となる界面の面積が増加し、その界面における電荷移動反応も容易に起こる。さらに、階層多孔構造の1つの階層が逆オパール構造であると、規則正しく精密なチャンネル(トンネル)が形成できるので更に好ましい。このような孔構造であると、電解質の浸透経路の曲がりやねじれが最小限にでき、イオン枯渇領域や濃縮領域が生じるのを抑制することができる。その結果、高い反応速度(高レート)のときに電池性能が低下することもない。さらに、連続的に繋がった骨格構造であるので、電気伝導性にも優れたものとなり、Mg2+に対して優れた電気化学的インターカーレーション(イオンの挿入)やイオンの脱離ができ、より高いレートのサイクル容量を有する。
【0012】
また、本発明に係る正極活物質は、マグネシウム二次電池用として使用するので、リチウムイオン二次電池と比べて高電荷の用途で高いエネルギー密度を有する二次電池とすることができる。また、リチウムよりも安価で安全なマグネシウムを原料としている点でも好ましい。
【0013】
次に、本発明のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法について説明する。
製造方法としては、例えば、固相法(固相反応法)、テンプレート法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法等が挙げられる。特に、テンプレート法は、階層多孔構造を形成し易い点で好ましい。以下では、テンプレート法、固相法について説明する。
[テンプレート法]
《前駆体溶液の調製》
前駆体溶液の原料としては、水又は有機溶媒に溶解や分散する構成元素の金属塩や酸化物等が使用できる。例えば、Mg、M(Mn、Co、Ni、及びFe)原料に関しては、塩化物、硝酸塩、有機酸塩(酢酸塩、シュウ酸塩等)、アセチルアセトナート、アルコキシド、炭酸塩等が挙げられる。Si原料に関しては、シリカ粉末、コロイダルシリカ、アルコキシド(テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等、これらのオリゴマー等)等が挙げられる。Mを置換するバナジウムVの原料に関しては、オキシ三塩化バナジウム、有機塩(酢酸塩、シュウ酸塩等)、アセチルアセトナート、アルコキシド等が挙げられる。
上記原料を所定の組成となるように水又は有機溶媒に溶解して前駆体溶液を調製する。
【0014】
《テンプレートの形成》
加熱すると熱分解して除去できる有機樹脂の粉末であって、前記溶媒に溶解しない有機樹脂の粉末をテンプレートとして使用できる。前記有機樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フェノール樹脂等が挙げられる。有機樹脂の粉末を構成する粒子がテンプレートとなるので、階層多孔構造の1つの階層が粒子のサイズで決まってくる。また、逆オパール構造を形成するには、前記粒子は単分散球状粒子であるのが好ましい。
前記有機樹脂の粉末や球状粒子は、市販の有機樹脂を使用することができる。また、合成して使用することもできる。例えば、ポリスチレン樹脂は、様々なサイズの球状粒子が市販されているので、適宜選択して使用することができるが、次のようにして合成して使用することもできる。
ポリスチレン樹脂は、スチレンを重合させて合成できる。前記重合には、ラジカル重合のほかにアニオン重合、カチオン重合を利用することができる。例えば、スチレンモノマーをペルオキソ二硫酸カリウムをラジカル開始剤としてラジカル重合させてポリスチレン樹脂の粉末を作製することができる。単分散球のポリスチレンとするには、ポリビニルピロリドンを水に溶解し、更にペルオキソ二硫酸カリウムとスチレンを添加し、この溶液を加熱することで重合する。
【0015】
《正極活物質の製造》
前述の前駆体溶液に、前述のテンプレートとする有機樹脂の粉末を添加してよく撹拌する。前記混合溶液をオートクレーブに入れて撹拌せずに100〜200℃で10h〜100h加熱する。前記オートクレーブ処理後、固形物を乾燥し、仮焼(calcination:焼成、又は熱処理と言うこともある)してテンプレートを熱分解して除去することで階層多孔構造を形成することができる。
仮焼温度としては、テンプレートにする有機樹脂が熱分解する温度であり、有機樹脂の種類によって適宜設定すればよい。一般的には、300℃〜700℃であり、階層多孔構造を形成させ易いという観点から、350℃〜700℃が好ましい。階層多孔構造は、仮焼温度を調整することで制御できる。階層多孔構造はより高温で仮焼すると粒成長によって崩壊する場合があるため、700℃以下が好ましい。また、300℃未満では、前駆体が分解し始めない場合があることから、300℃以上が好ましい。
【0016】
[固相法]
固相法で用いる原料は、例えば、酸化マグネシウムMgO、炭酸マンガン(II)、ニ酸化ケイ素、酸化バナジウム(V2O5)等の前記金属酸化物を構成する元素を含む化合物を用いる。前記原料粉末を所定の組成となるように秤量して混合し、更に、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類の炭素材を加えて混合する。ここで、炭素材は、還元剤及び炭素源として加えるものである。炭素材は、酸化バナジウムに対してモル比C/V2O5で1以上5以下加える。前記混合には、湿式混合法や乾式混合法等が用いられる。得られた混合物を焼成して所定組成の酸化物を合成する。焼成して得られる酸化物粉末は、必要に応じて粉砕される。未反応物が残っている場合には、粉砕後、更に焼成することもある。
前記混合粉末の焼成には、不活性雰囲気又は還元雰囲気で700〜1400℃の温度で5〜72時間焼成することで作製できる。
【0017】
次に、本発明に係るマグネシウム二次電池について説明する。
マグネシウム二次電池は、図示しないが、正極と、負極とがセパレータによって隔離されている。正極の正極集電体と負極の負極集電体とによって囲まれた電池室に電解液(電解質)が充填されている。また、正極及び負極に外部回路を接続して二次電池として使用されている。
【0018】
正極は、上述の正極活物質と、導電性助剤と、結着剤を分散媒でスラリー状としたペーストを、コーターにより正極集電体に塗布した後、分散媒を揮発させて製造される。
前記導電性助剤としては、実質上、化学的に安定な電子伝導性材料であれば特に限定されない。例えば、天然黒鉛(鱗片状黒鉛など)、人造黒鉛などのグラファイト類;アセチレンブラック;ケッチェンブラック;チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなどのカーボンブラック類;炭素繊維;などの炭素材料の他、金属繊維などの導電性繊維類;フッ化カーボン;アルミニウムなどの金属粉末類;酸化亜鉛;チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリフェニレン誘導体などの有機導電性材料;などが挙げられ、これらを1種単独で用いてもよく、2種以上を同時に使用しても構わない。これらの中でも、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックといった炭素材料が特に好ましい。前記導電助材は、通常、正極全量中の1〜25質量%程度の割合で用いられる。
前記結着剤(結合剤やバインダーとも呼ばれる。)は、活物質や導電助剤を結着する役割を担うものである。結着剤としては、二次電池の電解質及びその溶媒に対して、化学的および電気化学的に安定なものが好ましい。結着剤としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体などのフッ素樹脂;スチレンブタジエンゴム(SBR);エチレン−アクリル酸共重合体または該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−メタクリル酸共重合体または該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−アクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNaイオン架橋体;エチレン−メタクリル酸メチル共重合体または該共重合体のNaイオン架橋体;カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。また、これらを併用することもできる。これらの材料の中でも、PVDF、PTFEが特に好ましい。前記結着剤は、通常、正極全量中の1〜20質量%程度の割合で用いられる。
分散媒としては、水や有機溶媒が使用できる。ペーストが形成でき、集電体に塗布した後、蒸発除去できるものが分散剤として好ましい。
正極集電体としては、通常、導電性金属箔が使用されで、例えば、銅製、ステンレス鋼(SUS)製、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の箔を用いることができる。その厚みは、5μm〜50μmとすることができる。
【0019】
負極の活物質としては、例えば、金属マグネシウムが挙げられる。金属マグネシウムは、純粋な金属マグネシウムでも、マグネシウム合金を用いても良い。負極活物質のエネルギー容量を大きくすることができる点で純粋な金属マグネシウムが好ましい。また、充放電の繰り返しに対して負極を安定化させるなど、エネルギー容量以外の電池性能を向上させる点ではマグネシウム合金が好ましい。
前記負極活物質は、負極集電体に接触するように配置されている。負極集電体としては、金属箔を使用することができ、例えば、銅、ニッケル、チタン単体またはこれらの合金、またはステンレスの箔が挙げられる。
【0020】
セパレータとしては、ポリエチレングリコール等からなるものが挙げられる。セパレータは、正極と負極とが直接接触しないように両極間に配置されている。
前記セパレータは、イオン透過度が大きく、所定の機械的強度を持ち、絶縁性の薄膜であれば良く、材質として、オレフィン系ポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、ポリイミド、ナイロン、ガラス繊維、アルミナ繊維が用いられ、形態として、不織布、織布、微孔性フィルムが用いられる。特に、材質として、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレンとポリエチレンの混合体、ポリプロピレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体、ポリエチレンとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の混合体が好ましく、形態として微孔性フィルムであるものが好ましい。特に、孔径が0.01〜1μm、厚みが5〜50μmの微孔性フィルムが好ましい。これらの微孔性フィルムは単独の膜であっても、微孔の形状や密度等や材質等の性質の異なる2層以上からなる複合フィルムであっても良い。例えば、ポリエチレンフィルムとポリプロピレンフィルムを張り合わせた複合フィルムを挙げることができる。
電解液としては、一般に電解質(支持塩)と非水溶媒から構成される。マグネシウム二次電池における支持塩はマグネシウム塩が主として用いられる。
【0021】
本発明に係るマグネシウム二次電池では、組成式Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4の場合、充電時には正極で下記反応式
正極:Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4 →Mg1-0.5x-y(M1-xx)SiO4 + yMg2+ + 2e
に従って、正極活物質からマグネシウムイオンが脱離するとともにMイオンの価数が大きくなって電子を集電体を通じて外部回路に放出する。一方、マグネシウムイオンは、電解液中に溶け出し、電解液中を拡散して負極側へ移動する。この時、負極では下記反応式
負極: Mg2+ 2e → Mg
に従って、負極活物質として、外部回路を経由して集電体に集まった電子によってマグネシウムイオンが還元されて金属マグネシウムが析出する。
放電時には、前記反応の逆反応がそれぞれの電極で起こる。負極では、下記の反応式
負極:Mg → Mg2+ + 2e-
に従って、負極活物質である金属マグネシウム或いはその合金が酸化され、負極集電体を通じて外部回路に電子を放出する。この反応で生じたマグネシウムイオンは、電解液中に
溶け出し、電解液中を拡散して、正極側へ移動する。
正極へ移動したマグネシウムイオンは、正極活物質である階層多孔構造内を拡散し、正極活物質に吸蔵(挿入)される。このとき、
正極:Mg1-0.5x-y(M1-xx)SiO4 + yMg2+ + 2e → Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4
の反応が起こり、Mg2+イオンが吸蔵されるとともに、Mイオンの価数が小さく変化して正極集電体を通じて外部回路から電子を取り込む。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれに限定されるものではない。
(1)実施例1
[テンプレート法による正極材料の製造]
《前駆体溶液の調整》
原料には、酢酸マグネシウムMg(CH3COO)2・4H2O、酢酸マンガンMn(CH3COO)2・4H2O、酢酸コバルトCo(CH3COO)2・4H2O、酢酸鉄Fe(CH3COO)3、酢酸ニッケルNi(CH3COO)2・2H2O、ニ酸化ケイ素SiO2(15~20nm径のコロイダルシリカ)、バナジウムオキシイソプロポキシドVO(iOC3H7)3を用いた。得られる組成が表1に記載された通りになるように、前記原料を純水に溶解し、濃度が1mol/Lの混合溶液を調製した。尚、バナジウムオキシイソプロポキシドは、アセト酢酸エチルで化学改質して使用した。
【0023】
《テンプレートの形成》
ポリビニルピロリゾン4.2g(Mw=30,000)をイオン交換水300mlに撹拌して溶解し、更に過硫酸カリウム(0.14g)とスチレン31.5mLを添加した。得られた混合溶液を室温で1時間アルゴンガスを通して脱酸素し、その後、70℃に加温し、アルゴン雰囲気で24時間かけて重合した。その後、30分間遠心分離し、合成した単分散のポリスチレン(PS)球状粉末をコロイド結晶に配列し、50℃で24時間乾燥した。更に、PS球を100℃で10分熱処理して強度を高め、乾燥したテンプレートを得た。
得られたテンプレートは、光学的回折によって起こるオパール状の反射が見られたことで、テンプレートが密充填六方晶配列となっていることを確認した。
【0024】
《正極活物質の製造》
上記テンプレート1gに対し、前駆体溶液10mLを加えて混合し、PS球状粉末の隙間に原料が浸透するのを促進するために、前記混合物を6時間撹拌し、その後、オートクレーブに入れて120℃で24時間加熱した。得られた析出物を濾過し、100℃で乾燥し、その後、有機物を熱分解するために、管状炉に入れて空気中2℃/minの昇温速度で500℃で3時間焼成した。その後、完全に有機残留物を除去するため、更に表1中の雰囲気で800℃で6時間、焼成し、室温まで冷却した。その結果、表1に記載の試料1-1〜1-17を得た。
得られた各試料についてXRD(X‐ray diffraction)を行い、回折パターンが表1中に記載した組成のものであることを確認した。また各試料中のV含有量については、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析にて測定した。
【0025】
[評価]
上記各試料を正極活物質とする二次電池の放電容量を以下の手順で評価した。
試料1-1〜1-17を正極電極、金属マグネシウムを負極に用い、非水電解液を用いて試作電池を作製した。
正極は、次のようにして作製した。試料1-1〜1-17の粉末、super-P炭素粉末及びポリビニリデンフルオライドを70:20:10の質量比で混合し、N−メチル−2−ピロリジノンを分散剤としてスラリーを調製した。前記スラリーを銅箔の集電体に塗布した後、真空中4h100℃で乾燥して正極を作製した。負極には、金属マグネシウム板を用いた。また、電解液は、0.25 mol/L Mg(AlCl2EtBu)2/THFの電解質溶液を使用した。前記電解質溶液は、MgBu2溶液(1mol/Lヘキサン)とAlCl2Et溶液(0.9mol/Lヘプタン)を1:2の比で室温で混合し、すると白色固体沈殿物が直ぐに形成される。48時間撹拌後、ヘキサンとヘプタンを完全に蒸発除去し、高純度テトラヒドロフランを添加して0.25mol/L溶液を調製した。この全ての作業は、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。セパレータには、ポリエチレン(PE)ろ紙を使用した。
以上の正極、負極、電解質溶液、セパレータを用いてCR2016型コイン電池をアルゴングローブボックス内で組み立てた。
この電池を試料毎に各5個作製し、25℃の恒温槽でそれぞれ充放電試験を行い、0.01Cの放電曲線から放電容量を求めた。5個のセルの最大値と最小値を除いた3個のセルの平均値を取り、バナジウムを添加していない基準試料の放電容量の値を基準として、それよりも大きな値(放電容量が向上したもの)を「○」、同じ又は小さな値(放電容量が向上しなかったもの)を「×」とした。その結果を下記表1に示した。
【0026】
表1の結果より、MサイトをVで置換し、その置換量xが0.01〜0.20である場合には、無置換の試料に比べて放電容量が向上した。0.01未満であると、Vの効果が見られず、無置換試料と同じ放電容量となった。0.20を超えると、無置換試料よりも低い放電容量となった。
【0027】
【表1】

【0028】
(2)実施例2
原料として、酸化マグネシウムMgO、炭酸マンガンMnCO3、酸化コバルトCoO、酢酸鉄Fe(CH3COO)2、酸化ニッケルNiO、ニ酸化ケイ素SiO2、酸化バナジウムV2O5を用いて、固相反応法で、下記表2の組成欄に記載されている各試料を調製した。ここで、還元剤及び炭素源として、アセチレンブラックを用いた。アセチレンブラックは、C/V2O5モル比で2とした。
得られる組成が表2に記載された通りになるように、上記各原料を組合せて秤量し、ボールミルで12時間混合した。それぞれ得られた混合物を表2の雰囲気下で350℃5hの予備加熱を行った後、表2の温度と雰囲気下で24時間焼成を行った。その結果、表2に記載の試料2-1〜2-20を得た。得られた各試料のV含有量については、実施例1と同様に測定した。また、各試料の残留炭素は4〜5wt%であった。
【0029】
上記各試料を正極活物質とする二次電池の放電容量は、実施例1の手順で評価した。
MサイトをVで置換し、その置換量xが0.01〜0.20である場合には、無置換の試料に比べて放電容量が向上した。0.01未満であると、Vの効果が見られず、無置換試料と同じ放電容量となった。0.20を超えると、無置換試料よりも低い放電容量となった。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Mg1-0.5x(M1-xx)SiO4、又は、Mg1.03-0.5x(M0.97-xx)SiO4、で表され、
前記Mが、Mn、Co、Ni、及びFeから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記組成式において0.01≦x≦0.20であることを特徴とするマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記正極活物質が、階層多孔構造であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質を備えたことを特徴とするマグネシウム二次電池。

【公開番号】特開2013−69604(P2013−69604A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208491(P2011−208491)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000186762)昭栄化学工業株式会社 (55)
【Fターム(参考)】