説明

マグネシウム合金を基材とするめっき物

【目的】マグネシウム合金からなる基材が腐蝕せず、しかもマグネシウム合金からなる基材上に金属めっき膜を設けて金属光沢を付与しためっき物を提供するものである。
【構成】本発明のめっき物は、マグネシウム合金からなる基材上にプライマー層を設け、前記プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む塗膜層を設け、前記塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属膜を設けためっき物であって、前記プライマー層は、厚みが10〜50μmであり、前記塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記合成樹脂の質量比は、1:10ないし1:150の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金を基材とするめっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パソコンや携帯電話の筐体や部品として、軽量で強度に優れるマグネシウム合金が多用されている。しかし、マグネシウム合金は腐蝕し易いため、腐蝕を防止するための表面処理が不可欠であった。そこで、表面処理として特許文献1のような水分散性エポキシ樹脂を含有する塗料を塗装する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2006−239622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、マグネシウム合金に特許文献1のような表面処理を施すと、金属めっきによる金属光沢を付与することが出来なかった。
【0004】
そこで本発明は、マグネシウム合金からなる基材が腐蝕せず、しかもマグネシウム合金からなる基材上に金属めっき膜を設けて金属光沢を付与しためっき物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のめっき物は、マグネシウム合金からなる基材上にプライマー層を設け、前記プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む塗膜層を設け、前記塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属膜を設けためっき物であって、前記プライマー層は、厚みが10〜50μmであり、前記塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記合成樹脂の質量比は、1:10ないし1:150の範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明のめっき物は、マグネシウム合金からなる基材が腐蝕せず、しかもマグネシウム合金からなる基材上に金属めっき膜を設けて金属光沢を付与することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
更に詳細に本発明を説明する。本発明のめっき物は、マグネシウム合金からなる基材上にプライマー層を設け、前記プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む塗膜層を設け、前記塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属膜を設けためっき物であって、前記プライマー層は、厚みが10〜50μmであり、前記塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記合成樹脂の質量比は、1:10ないし1:150の範囲である。
【0008】
本発明に使用する基材は、マグネシウム合金であり、基材の形態は特に限定されず、例えば、ダイキャスト法やチクソモールド法等により成形された成形品、圧延板等の板状物の何れの形態も含まれる。なお、マグネシウム合金からなる基材を、パソコンや携帯電話等の筐体や部品として使用する場合には、厚みが0.5〜3mmの薄い成形品として使用することが出来る。
【0009】
本発明のプライマー層は、合成樹脂を含む塗料をマグネシウム合金からなる基材に塗布し、必要に応じて乾燥等を行うことにより形成することが出来る。合成樹脂としては、ポリ塩化ビニルやポリ塩化プロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、カルボン酸基含有樹脂、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0010】
前記プライマー塗料には、合成樹脂に加えて、溶媒を含み得る。前記プライマー塗料に含み得る溶媒としては、合成樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されない。前記プライマー塗料に含み得る溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0011】
更に、前記プライマー塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、インキバインダ、無機系化合物を加えることも可能である。
【0012】
前記プライマー塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター、フローコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
【0013】
プライマー層の厚さは、10ないし50μmとなるようにする。厚さが10μm未満であると、そのプライマー層上に還元性高分子微粒子及び合成樹脂からなる塗膜層を設けたとしても、無電解めっき工程においてマグネシウム合金からなる基材が溶解(腐蝕)してしまう。厚さが50μmを超えると、塗料の乾燥に時間が掛かるため塗膜の乾燥・硬化不足を招き塗膜強度が低下する。その結果、剥離強度(ピール強度)が低下する。
【0014】
本発明の導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む塗膜層は、プライマー層上に還元性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料を塗布して塗膜層を形成するか、又は、プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料を塗布し、該導電性高分子微粒子を脱ドープ処理して塗膜層を形成する。すなわち、無電解めっきを行う前の塗膜層は、還元性の高分子微粒子及び合成樹脂を含む状態にしておく必要があり、プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料を塗布した場合には、その導電性高分子微粒子を脱ドープして還元性の高分子微粒子と合成樹脂を含む状態にしておく必要がある。そして、例えば、プライマー層上に形成された還元性高分子微粒子を含む塗膜層上に、パラジウム等の触媒金属を還元・吸着させ、該パラジウム等の触媒金属が吸着された塗膜層上に金属めっき膜を形成することにより製造されるが、この際の、パラジウム等の触媒金属の還元及び高分子微粒子への吸着は、例えば、ポリピロールの場合、下図で示される状態になると考えられる。
【化1】

即ち、還元性の高分子微粒子(ポリピロール)がパラジウムイオンを還元することにより、高分子微粒子上にパラジウム(金属)が吸着されるが、これにより、高分子微粒子(ポリピロール)はイオン化される、即ち、パラジウムによりドーピングされた状態となり、結果として導電性を発現する。したがって、該塗膜層上に無電解めっき法により金属膜を設けて得られた本発明のめっき物の塗膜層は、結果的に導電性高分子微粒子と合成樹脂とを含む塗膜層となる。
【0015】
前記還元性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料に使用する還元性高分子微粒子は、0.01S/cm未満の導電率を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。また、還元性高分子微粒子としては、0.01S/cm以下が好ましく、より好ましくは0.005S/cm以下の導電率を有する高分子微粒子が好ましい。還元性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる還元性高分子微粒子を使用することもできる。
【0016】
前記導電性高分子微粒子及び合成樹脂樹脂を含む下地塗料に使用する導電性高分子微粒子としては、導電性を有するπ−共役二重結合を有する高分子であれば特に限定されないが、例えば、ポリアセチレン、ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリチオフェン及びそれらの各種誘導体が挙げられ、好ましくは、ポリピロールが挙げられる。導電性高分子微粒子は、π−共役二重結合を有するモノマーから合成して使用する事ができるが、市販で入手できる導電性高分子微粒子を使用することもできる。
【0017】
前記還元性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料及び導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む下地塗料に使用する合成樹脂としては、ポリ塩化ビニルやポリ塩化プロピレン等の塩素化ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリブタジエン、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、カルボン酸基含有樹脂、炭化水素樹脂、ケトン樹脂、フェノキシ樹脂、ポリアミド、エチルセルロース、酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂等が挙げられる。
【0018】
本発明の塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記合成樹脂の質量比は、1:10ないし1:150の範囲となる。前記質量比において、1:10よりも合成樹脂の比率が低くなると、塗膜層とプライマー層間の密着性が弱くなるため塗膜層で材料破壊が起き、結果として剥離強度が低下する。1:150よりも合成樹脂の比率が高くなると、金属めっきの析出が悪くなる。
【0019】
前記下地塗料には、導電性又は還元性の高分子微粒子及び合成樹脂に加えて、溶媒を含み得る。前記下地塗料に含み得る溶媒としては、前記合成樹脂を溶解することができるものであれば特に限定されないが、プライマー層を大きく溶解するものは好ましくない。但し、プライマー層を大きく溶解する溶媒であっても、他の低溶解性の溶媒と混合することにより、溶解性を低下させて使用することが可能である。前記下地塗料に含み得る溶媒としては、例えば、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類、トルエン等の芳香族溶媒、メチルエチルケトン等のケトン類、シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素類、n−オクタン等の鎖状飽和炭化水素類、メタノール、エタノール、n−オクタノール等の鎖状飽和アルコール類、安息香酸メチル等の芳香族エステル類、ジエチルエーテル等の脂肪族エーテル類及びこれらの混合物等が挙げられる。尚、導電性又は還元性の高分子微粒子として、予め有機溶媒に分散された分散液を使用する場合は、分散液に使用されている有機溶媒を下地塗料の溶媒の一部又は全部として使用することができる。
【0020】
更に、前記下地塗料は用途や塗布対象物等の必要に応じて、分散安定剤、増粘剤、顔料、染料、無機物等の充填剤を加えることも可能である。
【0021】
本発明のプライマー層上への前記下地塗料の塗布方法は、特に限定されず、例えば、スプレー、スクリーン印刷機、グラビア印刷機、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、オフセット印刷機、ディッピング、スピンコーター、ロールコーター、フローコーター等を用いて、印刷またはコーティングすることができる。乾燥条件も特に限定されず、室温、又は加熱条件下で行うことができる。
【0022】
形成される塗膜層の厚さは、0.1μmないし20μmの範囲とするのが好ましい。塗膜層の厚さを薄くし過ぎると、塗膜層を均一に形成することが困難となる場合があるため、塗膜層の厚さは0.1μm以上とするのが好ましい。また、塗膜層の膜厚を厚くしても、例えば、20μmを超えても塗膜強度を維持することは可能であるものの、塗膜層を厚くし過ぎると、合成樹脂の種類や配合割合等によっては、塗膜強度が低下する場合があるため、塗膜層の厚さは20μm以下とするのが好ましい。
【0023】
導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層は、微粒子を還元性とするために脱ドープ処理が行われる。脱ドープ処理としては、還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム等の水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等のアルキルアミンボラン、及び、ヒドラジン等を含む溶液で処理して還元する方法、又は、アルカリ性溶液で処理する方法が挙げられる。
【0024】
操作性及び経済性の観点からアルカリ性溶液で処理するのが好ましい。導電性高分子微粒子を用いて形成された層は、緩和な条件下で短時間のアルカリ処理により脱ドープを達成することが可能である。例えば、1M 水酸化ナトリウム水溶液中で、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃の温度で、1ないし30分間、好ましくは3ないし10分間処理される。上記の脱ドープ処理により、導電性の高分子微粒子を用いて形成された塗膜層中の高分子微粒子は還元されて、還元性高分子微粒子となる。
【0025】
上記のようにして製造された、還元性の高分子微粒子を含む塗膜層が形成されたマグネシウム合金からなる基材を無電解めっき法によりめっき物とするが、該無電解めっき法は、通常知られた方法に従って行うことができる。即ち、前記基材を塩化パラジウム等の触媒金属を付着させるための触媒液に浸漬した後、水洗等を行い、無電解めっき浴に浸漬することによりめっき物を得ることができる。
【0026】
触媒液は、無電解めっきに対する触媒活性を有する貴金属(触媒金属)を含む溶液であり、触媒金属としては、パラジウム、金、白金、ロジウム等が挙げられ、これら金属は単体でも化合物でもよく、触媒金属を含む安定性の点からパラジウム化合物が好ましく、その中でも塩化パラジウムが特に好ましい。好ましい、具体的な触媒液としては、0.05%塩化パラジウム−0.005%塩酸水溶液(pH3)が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、0.1ないし20分、好ましくは、1ないし10分である。 上記の操作により、塗膜中の還元性高分子微粒子は、結果的に、導電性高分子微粒子となる。
【0027】
上記で処理された基材は、金属を析出させるためのめっき液に浸され、これにより無電解めっき膜が形成される。めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば、特に限定されない。即ち、無電解めっきに使用できる金属、銅、金、銀、ニッケル等、全て適用することができるが、銅が好ましい。無電解銅めっき浴の具体例としては、例えば、ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)社製)等が挙げられる。処理温度は、20ないし50℃、好ましくは30ないし40℃であり、処理時間は、1ないし30分、好ましくは、5ないし15分である。得られためっき物は、使用したプライマー層若しくは塗膜層中の合成樹脂の融点より低い温度において、数時間以上、例えば、2時間以上養生するのが好ましい。上記の方法により、煩雑なエッチング処理等を行うことなく、薄くて平滑性に優れ、且つ密着性に優れる金属めっき膜が形成されためっき物を製造することができる。尚、上記めっき物は、マグネシウム合金からなる基材、プライマー層、塗膜層(導電性の高分子微粒子+合成樹脂)及び金属めっき膜から構成される4層構造となる。
【0028】
以下に、前記下地塗料に使用され得る導電性又は還元性の高分子微粒子を製造するための具体的な方法を記載する。
【0029】
(1)還元性高分子微粒子の製造方法
還元性高分子微粒子は、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0030】
π−共役二重結合を有するモノマーとしては、還元性高分子を製造するために使用されるモノマーであれば特に限定されないが、例えば、ピロール、N−メチルピロール、N−エチルピロール、N−フェニルピロール、N−ナフチルピロール、N−メチル−3−メチルピロール、N−メチル−3−エチルピロール、N−フェニル−3−メチルピロール、N−フェニル−3−エチルピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−n−ブチルピロール、3−メトキシピロール、3−エトキシピロール、3−n−プロポキシピロール、3−n−ブトキシピロール、3−フェニルピロール、3−トルイルピロール、3−ナフチルピロール、3−フェノキシピロール、3−メチルフェノキシピロール、3−アミノピロール、3−ジメチルアミノピロール、3−ジエチルアミノピロール、3−ジフェニルアミノピロール、3−メチルフェニルアミノピロール及び3−フェニルナフチルアミノピロール等のピロール誘導体、アニリン、o−クロロアニリン、m−クロロアニリン、p−クロロアニリン、o−メトキシアニリン、m−メトキシアニリン、p−メトキシアニリン、o−エトキシアニリン、m−エトキシアニリン、p−エトキシアニリン、o−メチルアニリン、m−メチルアニリン及びp−メチルアニリン等のアニリン誘導体、チオフェン、3−メチルチオフェン、3−n−ブチルチオフェン、3−n−ペンチルチオフェン、3−n−ヘキシルチオフェン、3−n−ヘプチルチオフェン、3−n−オクチルチオフェン、3−n−ノニルチオフェン、3−n−デシルチオフェン、3−n−ウンデシルチオフェン、3−n−ドデシルチオフェン、3−メトキシチオフェン、3−ナフトキシチオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等のチオフェン誘導体が挙げられ、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0031】
また前記製造に用いるアニオン系界面活性剤としては、種々のものが使用できるが、疎水性末端を複数有するもの(例えば、疎水基に分岐構造を有するものや、疎水基を複数有するもの)が好ましい。このような疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤を使用することにより、安定したミセルを形成させることができ、重合後において水相と有機溶媒相との分離がスムーズであり、有機溶媒相に分散した還元性高分子微粒子が入手し易い。疎水性末端を複数有するアニオン系界面活性剤の中でも、スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム(疎水性末端4つ)、スルホコハク酸ジ−2−エチルオクチルナトリウム(疎水性末端4つ)および分岐鎖型アルキルベンゼンスルホン酸塩(疎水性末端2つ)が好適に使用できる。
【0032】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.05mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.005mol〜0.03molである。0.05mol以上では添加したアニオン性界面活性剤がドーパントとして作用し、得られる微粒子は導電性を発現するため、これを用いて無電解めっきを行うためには脱ドープの工程が必要となる。
【0033】
ノニオン系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、アルキルグルコシド類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンソルビダン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類が挙げられる。これらを一種類または複数混ぜて使用してもよい。特に安定的にO/W型エマルションを形成するものが好ましい。
【0034】
反応系中でのノニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し、アニオン系界面活性剤と足して0.2mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.05〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では重合後において、水相と有機溶媒相との分離が困難になり、有機溶媒相にある還元性高分子微粒子を得る事ができなくなる事から好ましくない。
【0035】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびπ−共役二重結合を有するモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した還元性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0036】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0037】
前記製造で使用する酸化剤としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸およびクロロスルホン酸のような無機酸、アルキルベンゼンスルホン酸およびアルキルナフタレンスルホン酸のような有機酸、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムおよび過酸化水素のような過酸化物が使用できる。これらは単独で使用しても、二種類以上を併用してもよい。塩化第二鉄等のルイス酸でもπ−共役二重結合を有するモノマーを重合できるが、生成した粒子が凝集し、微分散できない場合がある。特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。
【0038】
反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、ポリマー微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集してポリマー微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0039】
前記ポリマー微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳
化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合させる工程、
(d)有機相を分液しポリマー微粒子を回収する工程。
【0040】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0041】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子を入手することができる。
【0042】
上記の製造法により得られるポリマー微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体のポリマーよりなり、そしてアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径を有し、有機溶媒中で分散可能であることである。ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。得られたポリマー微粒子の導電率は0.01S/cm未満であり、好ましくは、0.005S/cm以下である。
【0043】
こうして得られた有機溶媒に分散した還元性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の還元性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0044】
(2)導電性高分子微粒子の製造方法
使用する導電性高分子微粒子は、例えば、有機溶媒と水とアニオン系界面活性剤とを混合撹拌してなるO/W型の乳化液中に、π−共役二重結合を有するモノマーを添加し、該モノマーを酸化重合することにより製造することができる。
【0045】
π−共役二重結合を有するモノマー及びアニオン系界面活性剤としては還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、好ましくは、ピロール、アニリン、チオフェン及び3,4−エチレンジオキシチオフェン等が挙げられ、より好ましくはピロールが挙げられる。
【0046】
反応系中でのアニオン系界面活性剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対し0.2mol未満であることが好ましく、さらに好ましくは0.05mol〜0.15molである。0.05mol未満では収率や分散安定性が低下し、一方、0.2mol以上では得られた導電性高分子微粒子に導電性の湿度依存性が生じてしまう場合がある。
【0047】
前記製造において乳化液の有機相を形成する有機溶媒は疎水性であることが好ましい。なかでも、芳香族系の有機溶媒であるトルエンやキシレンは、O/W型エマルションの安定性およびモノマーとの親和性の観点から好ましい。両性溶媒でもπ−共役二重結合を有するモノマーの重合を行うことはできるが、生成した導電性高分子微粒子を回収する際の有機相と水相との分離が困難になる。
【0048】
乳化液における有機相と水相との割合は、水相が75体積%以上であることが好ましい。水相が20体積%以下ではπ−共役二重結合を有するモノマーの溶解量が少なくなり、生産効率が悪くなる。
【0049】
前記製造で使用する酸化剤としては、還元性微粒子の製造の際に例示したものと同様のものが挙げられるが、特に好ましい酸化剤は、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩である。反応系中での酸化剤の量は、π−共役二重結合を有するモノマー1molに対して0.1mol以上、0.8mol以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.2〜0.6molである。0.1mol未満ではモノマーの重合度が低下し、導電性高分子微粒子を分液回収することが困難になり、一方、0.8mol以上では凝集して導電性高分子微粒子の粒径が大きくなり、分散安定性が悪化する。
【0050】
前記導電性高分子微粒子の製造方法は、例えば以下のような工程で行われる:
(a)アニオン系界面活性剤、有機溶媒および水を混合攪拌し乳化液を調製する工程、
(b)π−共役二重結合を有するモノマーを乳化液中に分散させる工程、
(c)モノマーを酸化重合しアニオン系界面活性剤にポリマー微粒子を接触吸着させる工
程、
(d)有機相を分液し導電性高分子微粒子を回収する工程。
【0051】
前記各工程は、当業者に既知である手段を利用して行うことができる。例えば、乳化液の調製時に行う混合攪拌は、特に限定されないが、例えばマグネットスターラー、攪拌機、ホモジナイザー等を適宜選択して行うことができる。また重合温度は0〜25℃で、好ましくは20℃以下である。重合温度が25℃を越えると副反応が起こるので好ましくない。
【0052】
酸化重合反応が停止されると、反応系は有機相と水相の二相に分かれるが、この際に未反応のモノマー、酸化剤および塩は水相中に溶解して残存する。ここで有機相を分液回収し、イオン交換水で数回洗浄すると、有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子を入手することができる。
【0053】
上記の製造法により得られる導電性高分子微粒子は、主としてπ−共役二重結合を有するモノマー誘導体よりなり、そしてアニオン系界面活性剤を含む微粒子である。そしてその特徴は、微細な粒径と、有機溶媒中で分散可能であることである。ポリマー微粒子は球形の微粒子となるが、その平均粒径は、10〜100nmとするのが好ましい。上記のように平均粒径の小さな微粒子にすることで、微粒子の表面積が極めて大きくなり、同一質量の微粒子でも、脱ドープ処理して還元性とした際に、より多くの触媒金属を吸着できるようになり、それにより塗膜層の薄膜化が可能となる。
【0054】
また、導電性高分子微粒子の製造方法は、特開2008−214401号公報に記載されている方法により製造してもよい。
【0055】
こうして得られた有機溶媒に分散した導電性高分子微粒子は、そのままで、濃縮して、又は乾燥させて塗料の導電性高分子微粒子成分として使用することができる。
【0056】
なお、本発明のマグネシウム合金からなる基材は、プライマー層との密着性を阻害しない範囲であれば、例えば陽極酸化処理やその他の化成処理を行ってもよい。また、プライマー層は、マグネシウム合金からなる基材の腐蝕をより防止するために、合成樹脂の他に導電性又は還元性の高分子微粒子を含有してもよい。その際、導電性又は還元性の高分子微粒子は合成樹脂1質量部に対して0.2質量部以下となるように添加すると、電気化学腐蝕が進み難いので好ましい。
【実施例】
【0057】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0058】
製造例1:導電性ポリピロール微粒子(分散液)の調製
スルホコハク酸ジ−2−エチルヘキシルナトリウム1.5mmolをイオン交換水100mLに溶解し、次いでピロールモノマー21.2mmolを加え、30分攪拌した後、0.2M過硫酸アンモニウム水溶液50mL(6mmol相当)を加え、20分間反応を行った。次いでトルエン25mLを添加し、4時間撹拌した。反応終了後、有機層を回収し、イオン交換水で数回洗浄して、トルエン中に分散した導電性微粒子分散液を得て、トルエンにて導電性微粒子の固形分濃度0.6%に調整した。なお、導電性微粒子分散液中の導電性微粒子の粒子径は、平均20nmであった。
【0059】
製造例2:下地塗料の調製
製造例1で調製した導電性ポリピロール微粒子(分散液)の量、合成樹脂1ないし4(それぞれA1ないしA4に対応する))の量及び種類、並びに溶媒の量及び種類を表3の記載の通りに添加混合することにより、実施例1ないし8及び比較例1ないし5に使用した下地塗料を調製した。尚、プライマー塗料としては、合成樹脂3ないし4(それぞれA3ないしA4に対応する)を使用した。また、表3に記載の合成樹脂A1ないしA4の詳細を表1に纏めた。
【0060】
【表1】

*1:東亜合成(株)製、*2:荒川化学工業(株)製、
*3:武蔵塗料(株)製、*4:日本製紙ケミカル(株)製
【0061】
実施例1:めっき物の製造
<プライマー層の形成>
マグネシウム合金基材(三協マテリアル(株)社製 AZ−31)のプレート(厚さ0.8mm、幅×長さ5cm×5cm)を合成樹脂3(プライマー塗料)にディッピングし、150℃の熱風で30分間乾燥させることにより厚みが25μmのプライマー層を形成した。
<塗膜層の形成>
プライマー層が形成されたマグネシウム合金基材を製造例2で調製した下地塗料(組成は表3の実施例1に記載)にディッピングし、150℃の熱風で30分間乾燥させることにより厚みが0.2μmの塗膜層を形成した。
<無電解めっき法によるめっき物の製造>
上記で製造した塗膜層が形成されたマグネシウム合金基材を、1M水酸化ナトリウム水溶液中に、35℃で5分間浸漬後、洗浄水で洗浄することにより、導電性高分子微粒子を還元性とした。
【0062】
次に、上記処理がなされた基材を、0.02%塩化パラジウム−0.01%塩酸水溶液中に35℃で5分間浸漬後、洗浄水で水洗した。
次に、該基材を無電解銅めっき浴 ATSアドカッパーIW浴(奥野製薬工業(株)製)に浸漬して、35℃で10分間浸漬し銅めっきを施し、洗浄水で水洗した後、水分を乾燥させて実施例1のめっき物を製造した。
【0063】
実施例2ないし8:めっき物の製造
表3に実施例2ないし8として記載されたプライマー塗料及び下地塗料をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2ないし8のめっき物を製造した。
【0064】
比較例1:めっき物の製造
プライマー塗料を用いなっかった(すなわち、プライマー層を設けなかった)以外は、実施例1と同様の操作を行い、比較例1のめっき物を製造した。
【0065】
比較例2ないし5:めっき物の製造
表3に比較例2ないし5として記載されたプライマー塗料及び下地塗料をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様の操作を行うことにより、比較例2ないし5のめっき物を製造
した。
【0066】
【表2】

*1:実施例1ないし8、及び比較例2ないし5にて得られためっき物の上に、電気めっきにより銅めっき膜を形成し、さらに銅めっき上にクロムめっき膜を形成した後、JIS H8502に準じて試験を行った。そして、噴霧時間240時間後の表面を目視にて確認した。尚、比較例1と6は、めっき物が得られなかったため、中性塩水噴霧試験を評価出来なかった。
【0067】
【表3】

尚、表3中において、合成樹脂の種類A1ないしA4は、表1中で示されたものを表す。
【0068】
<結果>
実施例1ないし8のめっき物は、めっき析出性に優れ、且つ密着性に優れる(高い剥離強度を有する)金属めっき膜が形成されためっき物であった。その上、中性塩水噴霧試験においても耐腐蝕性に優れるめっき物であった。
【0069】
比較例1のめっき物は、プライマー層を設けなかったため、無電解めっき工程で基材が溶解したため、諸物性の評価が出来なかった。
【0070】
比較例2のめっき物は、プライマー層の厚みが7μmであったため、中性塩水噴霧試験において、マグネシウム合金からなる基材が腐蝕している箇所があり、めっきが剥がれるという×の評価であった。
【0071】
比較例3のめっき物は、プライマー層の厚みを60μmであったため、剥離強度において、セロハンテープで若干剥がれるという△の評価であった。
【0072】
比較例4のめっき物は、下地塗料におけるポリピロールと合成樹脂との質量比が、1/10よりもポリマーの比率が低い1/5であったため、剥離強度において、セロハンテープで簡単に剥がれるという×の評価であった。
【0073】
比較例5のめっき物は、下地塗料におけるポリピロールと合成樹脂との質量比が、1/1150よりもポリマーの比率が高い1/160であったため、めっき析出性において、部分的にめっきが析出しないという△の評価であった
【0074】
比較例6のめっき物は、下地塗料においてポリピロールを用いなかったため、めっき析出性について×という評価であった。また、めっき析出性が×であったため、剥離強度および中性塩水噴霧試験の評価が出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる基材上にプライマー層を設け、
前記プライマー層上に導電性高分子微粒子及び合成樹脂を含む塗膜層を設け、
前記塗膜層上に無電解めっき法により形成された金属膜を設けためっき物であって、
前記プライマー層は、厚みが10〜50μmであり、
前記塗膜層における前記導電性高分子微粒子と前記合成樹脂の質量比は、1:10ないし1:150の範囲であることを特徴とするめっき物。

【公開番号】特開2010−121180(P2010−121180A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296186(P2008−296186)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000000077)アキレス株式会社 (402)
【Fターム(参考)】