説明

マグネシウム合金部材の製造方法

【課題】防食層を具え、プレス加工が施されたマグネシウム合金部材を生産性よく製造可能なマグネシウム合金部材の製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金からなる長尺な圧延板が巻き取られた圧延コイル材を巻き戻して、素材板100を前処理機構20に導入し、得られた前処理板(表面調整板103)を化成処理機構30に導入し、前処理に引き続いて前処理板に防食処理を施す。得られた防食処理板(化成処理板104)を巻き取ることなくプレス機構40に導入し、防食処理に引き続いて化成処理板104に順送プレス加工を施し、マグネシウム合金部材10を製造する。板材に防食処理を施すことで、防食処理が容易に行える上に、防食処理に連続して順送プレス加工を行うことで、プレス材を防食処理用治具に配置する工程などが不要であり、防食層を具え、かつプレス加工が施されたマグネシウム合金部材10を生産性よく製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス加工が施されてなるマグネシウム合金部材の製造方法に関するものである。特に、化成層や陽極酸化層といった防食層や塗装層を具えるマグネシウム合金部材を生産性よく製造可能な製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軽量で比強度、比剛性に優れるマグネシウム合金が、携帯電話やノート型パーソナルコンピュータといった携帯用電気・電子機器類の筐体や自動車部品などの各種の部材の構成材料に利用されてきている。
【0003】
マグネシウム合金からなる部材は、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材(ASTM規格のAZ91合金)が主流である。近年、ASTM規格のAZ31合金に代表される展伸用マグネシウム合金からなる板にプレス加工を施した部材が使用されつつある。特許文献1は、ASTM規格におけるAZ91合金相当のマグネシウム合金を双ロール連続鋳造法により製造した鋳造板に圧延を施し、この圧延板にプレス加工を施したプレス加工部材を開示している。
【0004】
上記プレス加工部材に、脱脂→酸エッチング→脱スマット→表面調整といった前処理を行った後、化成処理といった防食処理を施して防食層を形成することで(特許文献1の明細書0033,0034)、プレス加工部材の耐食性を高められる。また、防食層の上に塗装層を形成することで(特許文献1の明細書0033)、耐食性を更に高めたり、商品価値を高められる。マグネシウム合金に対する防食処理には、上記化成処理の他、陽極酸化処理がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-120877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、防食層や更に塗装層を具えるマグネシウム合金部材を製造する場合、工程数が多くて効率が悪く、生産性を向上することが望まれている。
【0007】
上述のように、所定の形状にプレス成形した後、防食層を形成したり、更に防食層の上に塗装層を形成したりする場合、プレス加工部材ごとにそれぞれ、上記前処理、防食処理、適宜塗装を施す必要があり、煩雑である。また、一度に前処理や防食処理が施せるように治具を用いる場合、種々の形状のプレス加工部材を治具に配置することに手間がかかる。その他、長尺な圧延材を用意して、適宜な大きさに切断した板材にプレス成形を行う場合、切断工程が必要である。このように工程数が多く、生産性に劣る。
【0008】
そこで、本発明の目的は、化成層などの防食層を具えるマグネシウム合金部材を生産性よく製造可能なマグネシウム合金部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ダイカスト材やチクソモールド材に比較して、圧延材といった塑性加工材は、鋳造時の欠陥が低減されたり、結晶が微細化されたりすることで、同一の組成であっても、強度や靭性などの機械的特性により優れる。また、双ロール連続鋳造法といった連続鋳造法により製造された鋳造材に圧延を施すことで、長尺な圧延板を製造できる。そこで、本発明は、この長尺な圧延板を素材に利用するものの、この素材からプレス加工部材を作製した後防食処理を行うのではなく、長尺な圧延板に順次防食処理を施し、そのまま連続してプレス加工を施すことで、上記目的を達成する。
【0010】
本発明は、マグネシウム合金からなる板材にプレス加工を施して、マグネシウム合金部材を製造する方法に係るものであり、以下の準備工程、防食工程、成形工程を具える。
準備工程:長尺な圧延板が巻き取られた圧延コイル材を準備する工程
防食工程:上記圧延コイル材を巻き戻して上記圧延板に防食処理を施し、防食処理板を作製する工程
成形工程:上記防食処理板を巻き取ることなく、上記防食処理に引き続いて上記防食処理板に順送プレス加工を施し、マグネシウム合金部材を作製する工程
【0011】
上記構成によれば、素材となるコイル材を巻き戻し、最終的に巻き取るなどして素材板を走行させることで、素材板に連続して防食処理及びプレス加工を容易に施すことができる。また、上記構成によれば、防食処理からプレス加工までの間に巻き取り作業が無く、防食処理からプレス加工までを一続きとしてプレス加工部材を作製する。そのため、プレス加工部材ごとに防食処理を施していた製造方法と比較して、上述した治具への配置工程などを省略でき、上記本発明製造方法は作業効率が良い。従って、本発明製造方法は、プレス加工が施され、かつ防食層を具えるマグネシウム合金部材を生産性良く製造できる。特に、上記構成は、防食処理が施される素材がリブなどの突起や曲がり箇所を有する凹凸形状、立体形状のものではなく、実質的に平面で構成される板材といった単純形状である。そのため、当該素材が長尺材や広幅材であっても、防食処理を容易に、かつ連続的に施せる。このように本発明製造方法は、上記マグネシウム合金部材の量産に寄与することができ、かつ、作業効率の向上により、コストの低減も図ることができると期待される。
【0012】
更に、本発明製造方法により得られたマグネシウム合金部材は、圧延板にプレス加工が施された塑性加工部材であることから、ダイカスト材やチクソモールド材と比較して、強度や靭性といった機械的特性に優れる。また、このマグネシウム合金部材は、防食層を具えることで、耐食性にも優れる。
【0013】
本発明の一形態として、上記成形工程では、上記防食処理板の両面に潤滑シートを配置した状態で上記順送プレス加工を施す形態が挙げられる。
【0014】
上記形態によれば、曲げ半径が小さいなどの比較的強加工を行う場合であっても、潤滑シートが存在することでひびや割れが発生し難く、成型性に優れ、マグネシウム合金の母材の焼付きなどを防止することができる。かつ、この潤滑シートにより防食層も十分に保護できるため、曲げ加工部分であっても、マグネシウム合金の母材や防食層にキズがつき難く、プレス加工性に優れる。特に、潤滑シートも連続した長尺材とし、防食処理板の走行に合わせて当該潤滑シートも走行する構成とすると、防食処理板における成形領域に容易に、かつ確実に潤滑シートを配置でき、作業効率がよい。なお、曲げ半径が大きい場合などで潤滑シートを利用しなくても成型可能な場合は、潤滑シートを使用しなくてもよい。
【0015】
上記防食処理には、化成処理及び陽極酸化処理のいずれも利用することができる。即ち、本発明の一形態として、上記防食処理が化成処理である形態、陽極酸化処理である形態が挙げられる。
【0016】
本発明の一形態として、上記防食処理板を巻き取ることなく、その少なくとも一面に塗装を施し、塗装板を作製する塗装工程を具える形態が挙げられる。そして、上記成形工程では、上記塗装板を巻き取ることなく、上記塗装に引き続いて上記塗装板に上記順送プレス加工を施す。
【0017】
上記形態によれば、防食層に加えて塗装層を具えるマグネシウム合金部材が得られる。得られたマグネシウム合金部材は、塗装層により耐食性がより高められる上に、装飾性や意匠性にも優れる。そして、上記構成によれば、防食処理に引き続いて塗装をも行うことで、作業効率が更によい上に、防食処理から塗装までの時間が短いことから介在物などが生じ難く、防食層と塗装層とを強固に密着できる。また、塗装を施す対象が板材といった単純形状であることで、容易にかつ精度良く塗装を施せる。更に、塗装板にプレス加工を施すことで、塗装層が防食層の保護層として機能することで、プレス時に防食層が損傷、剥離することを効果的に防止できる。ここで、上述のように防食処理後にプレス加工を行うと、加工条件によっては、防食層にキズなどが生じたり、このキズにより剥離したりする恐れがある。このキズ防止として潤滑剤を利用することが考えられるが、潤滑剤を残したまま塗装を行うと、防食層と塗装層との密着性が低下する恐れがある。塗装前に脱脂を行い、潤滑剤を除去することが考えられるが、この脱脂により、防食層が損傷することがある。これに対し、上記構成によれば、防食層の上に連続して塗装層を形成することで、防食層と塗装層との間に潤滑剤が介在したり、脱脂により防食層が除去される恐れが無い。潤滑剤に代えて、上述した潤滑シートを利用すれば、プレスの加工条件によらず、安定してプレス加工を行うことができる上に、潤滑剤の塗布及び脱脂といった工程を省略できる。また、プレス時に防食層及び塗装層の双方を潤滑シートにより保護できる。
【0018】
本発明の一形態として、上記圧延コイル材を巻き戻して、上記圧延板にその表面を調整する前処理を施し、前処理板を作製する前処理工程を具える形態が挙げられる。そして、上記防食工程では、上記前処理板を巻き取ることなく、上記前処理に引き続いて上記前処理板に上記防食処理を施す。
【0019】
上記構成によれば、脱脂、酸エッチング、脱スマット及び表面調整といった前処理をも連続して施すことで、作業効率が更によい上に、表面性状に優れる素材(前処理板)に直ちに防食処理を施すことができ、マグネシウム合金の母材と防食層とを強固に密着できる。また、前処理→防食処理→適宜塗装までの工程において、素材を巻き取らないことで、素材に巻き癖が付かず、実質的に平坦な状態を維持したまま、素材をプレス加工に供することができる。従って、上記構成によれば、連続する長尺な素材に対して、精度良くプレス加工を施すことができる。
【0020】
本発明の一形態として、上記圧延板の少なくとも一面に、ヘアライン加工、ダイヤカット加工、ショットブラスト加工、スピンカット加工、及びエッチング加工から選択される少なくとも1種の表面加工が施された形態が挙げられる。
【0021】
上記構成によれば、意匠性や金属質感が高く、かつ防食層を具えることで耐食性に優れるマグネシウム合金部材が得られる。特に、この形態では、意匠性や金属質感を損なわないように透明な防食層を形成可能な処理液や透明な塗装層を形成可能な塗装材を選択することが好ましい。
【0022】
本発明の一形態として、上記圧延コイル材を巻き戻して、上記圧延板に機械的研磨を施し、研磨板を作製する研削工程を具える形態が挙げられる。そして、上記防食工程では、上記研磨板を巻き取ることなく、上記機械的研磨に引き続いて上記研磨板に上記防食処理を施す。
【0023】
ここで、化成層は、マグネシウム合金中のマグネシウム成分と化成処理液とが反応して形成されるものであり、陽極酸化層は、処理液に浸漬させたマグネシウム合金を陽極として通電することで、マグネシウム合金中のマグネシウム成分と処理液中の酸素とが反応して形成される酸化物などからなるものである。このため、化成層や陽極酸化層の形成にあたり、素材表面にマグネシウム合金母材が露出している必要がある。即ち、防食処理前に、脱脂や酸エッチングといった前処理を施して、素材表面に形成された酸化膜や圧延時に用いた潤滑剤などを除去して母材を表出する、即ち、マグネシウム合金の新生面を生成する必要がある。上記構成によれば、上記脱脂などの前処理に代えて、機械的研磨により、マグネシウム合金の新生面を生成するため、上記前処理を行う場合と比較して、工程数の低減や工程時間の短縮、ライン長の短縮を図ることができ、生産性に更に優れる。機械的研磨は、特に、湿式ベルト研磨とすると、研削時に生じた研削粉の飛散を効果的に防止できる上に、素材板が長尺材や広幅材であっても、連続して、かつ容易に研削を施せるため、作業効率がよい。また、この構成も、上述した前処理を行う形態と同様に機械的研磨→防食処理→適宜塗装までの工程で素材を巻き取らず、素材が実質的に平坦な状態に維持されるため、精度良くプレス加工を施すことができる。
【0024】
上記研削工程を具える形態として、上記研削工程と上記防食工程との間に、上記研磨板の少なくとも一面にヘアライン加工、ダイヤカット加工、ショットブラスト加工、及びスピンカット加工から選択される少なくとも1種の表面加工を行う加工工程を具える形態が挙げられる。
【0025】
上記表面加工はいずれも、新生面を形成することができる。従って、上記形態によれば、研削工程により形成された新生面を損なうことなく、或いは新たな新生面を形成することで、次の防食工程で防食層を良好に形成することができる。そのため、上記形態によれば、意匠性や金属質感が高く、かつ防食層を具えることで耐食性に優れるマグネシウム合金部材が得られる。この形態も、意匠性や金属質感を損なわないように透明な防食層や透明な塗装層を形成することが好ましい。
【0026】
本発明製造方法は、種々の元素を添加元素とするマグネシウム合金(残部Mg及び不純物)に適用できると期待される。特に、添加元素の濃度が高い合金、具体的には合計含有量が7.3質量%以上であるマグネシウム合金は、添加元素の種類にもよるが、強度や硬度といった機械的特性、耐食性、難燃性、耐熱性といった種々の特性に優れる。従って、本発明製造方法によれば、種々の組成のマグネシウム合金からなり、上記各特性に優れるマグネシウム合金部材を製造できる。
【0027】
具体的な添加元素は、Al,Zn,Mn,Si,Be,Ca,Sr,Y,Cu,Ag,Sn,Li,Zr,Ce,Ni,Au及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。不純物は、例えば、Feなどが挙げられる。
【0028】
特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性に優れる上に、強度、耐塑性変形性といった機械的特性にも優れる。Alの含有量が多いほど上記効果が高い傾向にあり、4.5質量%以上、更に7質量%、特に、7.3質量%以上が好ましい。但し、Alの含有量が12質量%を超えると塑性加工性の低下を招くことから、上限は12質量%、更に11質量%が好ましい。Al以外の各元素の含有量は、合計で0.01質量%以上10質量%以下、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下が挙げられる。
【0029】
Mg-Al系合金のより具体的な組成は、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2質量%〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15質量%〜0.5質量%)、AS系合金(Mg-Al-Si系合金、Si:0.01質量%〜20質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金、AX系合金(Mg-Al-Ca系合金、Ca:0.2質量%〜6.0質量%)、AJ系合金(Mg-Al-Sr系合金、Sr:0.2質量%〜7.0質量%)などが挙げられる。
【0030】
本発明の一形態として、上記マグネシウム合金がAlを8.3質量%以上9.5質量%以下含有する形態が挙げられる。
【0031】
Alを7.3質量%以上12質量%以下含有する形態、特にAlを8.3質量%〜9.5質量%含有する形態は、強度に優れる上に耐食性にも優れる。Alを8.3質量%〜9.5質量%含有する合金として、更にZnを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg-Al-Zn系合金、代表的にはAZ91合金が挙げられる。
【0032】
その他、Y,Ce,Ca,及び希土類元素(Y,Ceを除く)から選択される少なくとも1種の元素を合計0.001質量%以上、好ましくは合計0.1質量%以上5質量%以下含有し、残部がMg及び不純物からなるマグネシウム合金は、耐熱性、難燃性に優れる。希土類元素を含有する場合、その合計含有量は0.1質量%以上が好ましく、特に、Yを含有する場合、その含有量は0.5質量%以上が好ましい。
【発明の効果】
【0033】
本発明マグネシウム合金部材の製造方法は、防食層を具えるマグネシウム合金部材を生産性よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、実施形態1に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する概略工程図である。
【図2】図2は、マグネシウム合金部材の一例を示す概略斜視図である。
【図3】図3は、実施形態2に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する概略工程図であり、成形工程のみを示す。
【図4】図4は、矩形箱状体となるようにプレス加工をマグネシウム合金板に施した場合の曲げ半径R2と絞り深さDとの関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施形態3に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する概略工程図であり、研削工程及び防食工程のみを示す。
【図6】図6は、実施形態4に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する概略工程図であり、防食工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[実施形態1]
以下、図1を参照して、実施形態1に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する。この製造方法は、防食層として化成層を具え、プレス加工が施されたマグネシウム合金部材10を製造する方法に係るものである。この製造方法は、マグネシウム合金からなる長尺な圧延板が巻き取られた圧延コイル材を素材として用意し、この圧延コイル材を巻き戻した素材板100(圧延板)を走行させて、以下の各工程に連続して移行する。具体的には、素材板100を化成処理機構30に搬送し、防食処理(化成処理)を施して防食処理板(化成処理板104)を作製し、この化成処理板104をプレス機構40に搬送して順送プレス加工を施して、マグネシウム合金部材10を作製する。そして、この製造方法は、化成処理板104を巻き取ることなく、防食処理に引き続いて順送プレス加工を施すことを最大の特徴とする。また、実施形態1の製造方法では、防食処理前に素材板100を前処理機構20に導入して前処理を施し、この前処理に引き続いて防食処理を行う。以下、素材板100をまず説明し、その後、各工程をより詳しく説明する。
【0036】
(素材板)
素材板100に利用する圧延コイル材は、例えば、以下のようにして得られる。双ロール連続鋳造法といった連続鋳造法により長尺なマグネシウム合金鋳造板を作製して巻き取り、この巻き取った鋳造コイル材を巻き戻して、鋳造板に少なくとも1パスの圧延(代表的には温間圧延)を施して長尺な圧延板を作製し、この圧延板を巻き取る。
【0037】
急冷凝固が可能な連続鋳造法を利用することで、酸化物や偏析などを低減できる上に、割れの起点になり得る10μm超といった粗大な晶析出物の生成を抑制できる。特に、双ロール連続鋳造法は、剛性及び熱伝導性に優れ、かつ偏析が少ない鋳造板を形成し易い。
【0038】
上記鋳造板の厚さ、幅、及び長さは、適宜選択することができる。例えば、厚さが10mm以下、更に7mm以下、特に5mm以下であると、偏析などが存在し難く、強度に優れる。また、長さが30m以上、更に50m以上、とりわけ100m以上といった長尺な鋳造板や、幅が100mm以上、更に200mm以上、とりわけ250mm以上といった広幅な鋳造板を圧延板の素材とすると、長尺な圧延板や広幅な圧延板を作製でき、この圧延板を巻き取った圧延コイル材は、プレス加工部材といった塑性加工部材(2次加工材)の素材に好適に利用できる。なお、鋳造コイル材の内径が小さい場合、鋳造板を巻き取る直前で150℃以上に加熱した状態で巻き取ると、割れが生じることなく巻き取ることができて好ましい。また、圧延前に、鋳造板の両縁部(幅方向の両側部)をトリミングしておくと、鋳造板の両縁部に割れが生じている場合でも、その割れが圧延時に進展することを防止できる。圧延板にもトリミングを施してもよい。
【0039】
上記圧延は、上記鋳造板を含む素材を150℃以上400℃以下に加熱して行う温間圧延を含むことが好ましい。上記温度範囲で素材を加熱することで、素材の塑性加工性を高められ、1パスあたりの圧下率を例えば、10%〜50%程度に高めても割れが生じ難い。また、上記温度範囲とすることで、素材表面の焼付きなどによる劣化の抑制、圧延ロールの熱劣化の抑制を図ることができる。上記素材の加熱温度は、350℃以下、更に300℃以下、とりわけ280℃以下が好ましい。素材だけでなく圧延ロールも加熱したり、特開2007-098470号公報に開示される制御圧延、その他公知の条件などを利用して、圧延することができる。なお、上記鋳造板に溶体化処理(例えば、加熱温度:350℃〜420℃、保持時間:1時間〜40時間)を施してから、圧延を施してもよい。
【0040】
上記温間圧延を含む圧延は、1パスでも複数パス行ってもよい。複数パスの圧延を行うことで、厚さが薄い圧延板が得られる上に、圧延板を構成する組織の平均結晶粒径を小さくしたり(例えば、10μm以下、好ましくは5μm以下)、プレス加工といった塑性加工性を高められる。所望の厚さの圧延板が得られるように、パス数、各パスの圧下率、及び総圧下率を適宜選択することができる。
【0041】
複数パスの圧延を行う場合、パス間に中間熱処理を行って、この中間熱処理までの塑性加工(主として圧延)により素材に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減すると、その後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延を行える。中間熱処理は、例えば、加熱温度:150℃〜350℃、保持時間:0.5時間〜3時間が挙げられる。
【0042】
上記圧延板の厚さ、幅、及び長さは、適宜選択することができる。特に、圧延板の厚さは0.1mm以上2.0mm以下であると、プレス加工性に優れて好ましく、0.3mm〜1.2mmが利用し易い。また、長さが50m以上、更に100m以上、とりわけ200m以上といった長尺材とすることで、プレス加工部材を連続的に製造可能である。更に、幅が100mm以上、更に200mm以上、とりわけ250mm以上といった広幅材とすることで、大型なプレス加工部材を連続的に製造可能である。従って、このような長尺材や、更に広幅材を巻き取った圧延コイル材は、上記プレス加工部材の量産に好適に利用することができる。
【0043】
上記圧延は、潤滑剤を適宜利用すると、圧延時の摩擦抵抗を低減でき、素材の焼き付きなどを防止して、圧延を施し易い。
【0044】
上記圧延後、圧延板に矯正処理を施して巻き取ったコイル材を素材板100に利用することができる。この矯正処理は、特に、圧延板を100℃〜300℃、好ましくは150℃以上280℃以下に加熱して行うことが好ましい。矯正処理は、例えば、圧延板を加熱可能な加熱炉と、加熱された圧延板に連続的に曲げ(歪)を付与するために複数のロールが上下に対向して千鳥状に配置されたロール部とを具えるロールレベラ装置を好適に利用できる。このような温間矯正を施した矯正板は、プレス加工といった塑性加工時に動的再結晶化が生じ、塑性加工性に優れる。
【0045】
なお、素材板100の表裏面のいずれか一方にのみ防食層を具える形態とする場合、防食層の形成が不要な面にマスキングを適宜施し、前処理液や防食処理液が接触しないようにすることができる。
【0046】
また、上記圧延後や矯正処理後に、素材板の表裏面の少なくとも一面にヘアライン加工、ダイヤカット加工、ショットブラスト加工、スピンカット加工、及びエッチング加工から選択される少なくとも1種の表面加工を施すことができる。即ち、素材板100として、上記表面加工を具えるものを利用できる。このような素材板を利用することで、金属質感が高く、意匠性に優れるマグネシウム合金部材が得られる。
【0047】
(繰出しドラム/巻取りドラム)
上記圧延コイル材は、繰出しドラム50に配置されて素材板100を繰り出す。ここでは、この素材板100に適宜な処理を施した化成処理板104から最終的に得られるマグネシウム合金部材10を打ち抜いた残り(マグネシウム合金部材10を抜き取ることで、複数の窓部が設けられた状態となった帯状材(スクラップ105))を巻取りドラム(図示せず)で巻き取る構成としている。繰出しドラム50及び巻取りドラムがモータなどの動力源により回転することで、素材板100〜化成処理板104〜スクラップ105は、両ドラム間を走行する。この走行速度が素材板100(=前処理板(後述)=化成処理板104=スクラップ105)の搬送速度(ライン速度)となる。スクラップ105を巻き取らない構成とすることもできる。この場合、ラインの適宜な箇所に素材板100などの搬送を促す送り出しローラなどを配置することで、素材板100(=前処理板(後述)=化成処理板104=スクラップ105)を走行させることができる。また、スクラップ105は、マグネシウム合金部材10を打ち抜いた後、或いは打ち抜きと同時に適宜切断されるように後述する成形金型を構成してもよい。本例のように巻き取る構成とすると、スクラップ105に形成された窓部によりマグネシウム合金部材10を押すことで搬送できる。
【0048】
(前処理機構)
繰出しドラム50から巻き戻された素材板100は、前処理機構20に移行される。前処理機構20は、素材板100に脱脂処理を施す脱脂槽21と、脱脂された脱脂板101に第一の表面調整として酸エッチング処理を施す第一表面調整槽22と、表面調整されたエッチング板102に第二の表面調整として脱スマット処理及び表面調整処理を施す第二表面調整槽23とを具える。第二表面調整槽23を通過した表面調整板103が化成処理機構30に導入される最終的な前処理板となる。上記各処理は、各板100,101,102のいずれも巻き取ることなく、順次連続して施される。
【0049】
各槽:脱脂槽21,第一表面調整槽22,第二表面調整槽23には、上記各処理に使用する処理液が適宜充填され、走行する各板:素材板100,脱脂板101,エッチング板102が浸漬される。各槽21,22,23は、各板100,101,102が各処理液に十分に接触して、所定の処理が十分に施されるために必要な液量を貯留可能な大きさを有する。この大きさは、各板100,101,102を浸漬する長さ、搬送速度、処理液の種類などの浸漬時間に関与するパラメータを考慮して適宜選択することができる。例えば、浸漬長さを長くする、即ち、各槽21,22,23における各板100,101,102の走行方向に沿った長さを長くする場合、搬送速度を速めても、所定の浸漬時間を十分に確保できる。或いは、浸漬長さを短くする、即ち、各槽21,22,23における上記長さを短くする場合、搬送速度を比較的遅くすることで、所定の浸漬時間を十分に確保できる。或いは、搬送速度及び各板100,101,102に加わる張力を調整して、各槽21,22,23内で各板100,101,102が撓むようにして、所定の浸漬時間を確保できるようにしてもよい。各板100,101,102を撓ませるには、例えば、各槽21,22,23の前後の少なくとも一方にピンチロール(図示せず)を配置して各板100,101,102を挟むことが挙げられる。ピンチロールにより各板100,101,102を挟持することで、繰出しドラム50や巻取りドラム、プレス機構40などによる張力が、各板100,101,102において各槽21,22,23に導入される領域に加わり難くすること(或いは加わらないようにすること)ができ、各板100,101,102を所望の量だけ撓ませることができる。
【0050】
各槽21,22,23に超音波撹拌装置などの液体撹拌手段を具える形態としたり、ヒータなどの加熱手段及びその制御手段を具える形態とすることができる。液体撹拌手段を具えることで各板:素材板100,脱脂板101,エッチング板102が各処理液に均一的に接触でき、加熱手段を具えることで、各処理液を所定の温度に容易に保持できる。この点は、後述する化成処理機構30についても同様である。
【0051】
図1に示す例では、各槽21,22,23の下流側に各処理液を洗浄するための洗浄液を排出する洗浄ノズル25,26,27を配置している。洗浄工程を設けることで、次工程に移行するにあたり、その前の工程の処理液が各板:脱脂板101,エッチング板102,表面調整板103に残存し難く、各板101,102,103が処理液に過剰に接触することを防止できる。洗浄ノズル25,26,27はそれぞれ一対ずつ具え、各板101,102,103を挟むように対向配置される。洗浄液には、例えば、水を利用することができる(この点は、後述する防食処理後の洗浄液も同様である)。洗浄液も適宜温度を選択することができる。一つの処理に対して、温度が異なる洗浄液をかける形態とすることもできる。
【0052】
(化成処理機構)
最終的な前処理板:表面調整板103も巻き取られることなくそのまま化成処理機構30に移行される。化成処理機構30は、化成処理液が充填され、走行する表面調整板103がこの化成処理液に浸漬される処理槽31と、処理槽31から引き出された化成処理板104を乾燥する乾燥手段32とを具える。
【0053】
処理槽31は、前処理板(表面調整板103)が化成処理液に十分に接触して、所望の厚さの化成層が形成されるために必要な液量を貯留可能な大きさを有する。この大きさは、上述した前処理工程と同様に、前処理板を浸漬する長さ、搬送速度、化成処理液の種類などの浸漬時間に関与するパラメータを考慮して適宜選択できる。上述のように浸漬時間に応じて、浸漬長さや搬送速度を調整したり、前処理板を適宜撓ませたりすることができる。
【0054】
化成処理液は、P(リン)系液、P-Mn(リン-マンガン)系液、Cr(クロム)系液が代表的であり、公知の化成処理液を利用できる。特に、P系液は、CrやMnを実質的に含まず、環境保全の面から利用し易い。P系液を用いた場合、化成層は、例えば、主としてリン酸塩から構成される。素材板100として、上述したヘアライン加工などの表面加工が施されたものを利用する場合、透明(有色でも無色でもよい)な化成層が形成されるように処理液を選択すると、金属質感に優れるマグネシウム合金部材が得られて好ましい。
【0055】
その他、化成処理機構30は、前処理工程と同様に、処理槽31の下流側に、化成処理液を洗浄するための洗浄手段、例えば、洗浄ノズルや洗浄液を貯留する洗浄液槽(図示せず)を配置した形態とすることができる。この形態により、処理対象に付着した化成処理液を除去することができる。
【0056】
乾燥手段32は、化成処理板104に付着している上記洗浄液などを乾燥させるためのものである。この乾燥手段32は、例えば、適宜な温度の風(温風など)を吹き出すファンやエアブローノズルなどを利用できる。更に、上記洗浄液などの液体を払拭する吸液ロールを乾燥手段32の上流側に具える形態とすると、化成処理液などの液体をより確実に除去でき、これらの液体の付着に起因する表面性状の劣化を抑制できる。従って、払拭手段や乾燥手段32を具える形態は、表面性状により優れる化成処理板104を製造できる。
【0057】
(プレス機構)
化成処理板104は、巻き取られることなくそのままプレス機構40に移行される。プレス機構40は、所望のプレス加工部材を成形する順送プレス装置であり、例えば、適宜な形状のプレス加工を施す塑性加工部と、化成処理板104からマグネシウム合金部材(プレス加工部材)10とスクラップ105とを最終的に切り離す最終打ち抜き加工部とを具える。図1では、塑性加工部のみを示す。塑性加工部は、化成処理板104を成形する上金型41及び下金型42を有する成形金型と、成形時に化成処理板104においてプレス加工部材を成形する領域(以下、成形領域と呼ぶ)以外を支持する支持部43と、金型の開閉動作(ここでは上下方向の移動)をガイドする複数のガイドピン(図示せず)とを具える。成形金型は、少なくとも一つ具える。一般的な順送プレス装置では、複数の成形金型が素材の走行方向に沿って多段に一体に具える成形金型ブロックを具え、走行する素材に各成形金型により少しずつ成形を行って、最終成形体を形成する。また、上流側の成形金型は、素材の成形領域と成形領域以外の箇所とを、連結箇所を残して切り離す打ち抜き加工を行う初期打ち抜き金型を具える。このような順送プレス装置は、所望の成形が可能な適宜な装置を利用することができる。ここでは、塑性加工部が少なくとも、上記初期打ち抜き金型及び一つの成形金型を有するものを利用する。
【0058】
プレス加工は、200℃〜300℃の温度域で行うと、素材の塑性加工性を高められて、塑性加工を行い易い。例えば、上記塑性加工部の成形金型に加熱手段を具えておき、成形金型を加熱することで化成処理板104を加熱したり、上記塑性加工部の成形金型の上流に加熱部を具えて、この加熱部により化成処理板104を加熱して成形金型に送られるようにしたり、プレス機構40の上流に加熱手段を具えて、この加熱手段により化成処理板104を加熱したり、上述した乾燥手段32として、温風を吹き付けるものを利用して乾燥と共に化成処理板104を加熱したりすることが挙げられる。
【0059】
ここでは、プレス加工部材は、図2に示すような天板(或いは底面)が矩形状の箱体である。ここで、本発明者らは、Alを8.3質量%以上9.5質量%以下含有するマグネシウム合金からなる圧延板(厚さ:0.6mm)を用いて、潤滑剤を塗布することなくプレス加工により成形可能な形状について調べた。その結果、天板の角部の曲げ半径R1は、10mm以上、天板と側壁とがつくる角部の曲げ半径R2は、5mm以上、側壁の長さ(絞り深さD)は3mm以下が好ましいとの知見を得た。そこで、ここでは、曲げ半径R1:10mm以上、曲げ半径R2:5mm以上、絞り深さD:3mm以下の範囲で適宜選択した寸法の箱体を形成する。潤滑剤を利用しないことで、プレス加工後のマグネシウム合金部材10に潤滑剤を除去するための脱脂処理や洗浄などの工程が不要であり、生産性に優れる。
【0060】
その他、プレス機構40の上流側には、プレス機構40に導入される化成処理板104の直進性を高めるために走行ガイドなどを設けることができる。
【0061】
プレス機構40の下流側には、図示しない巻取りドラムを具え、マグネシウム合金部材10が切り離されたスクラップ105を巻き取る。この巻き取りによって走行するスクラップ105の窓部内に存在するプレス加工部材10は、上述のようにこの窓部に押されて巻取りドラム側に順次搬送される。従って、巻取りドラムの直前に、プレス加工部材の回収箇所を設けておくことで、マグネシウム合金部材10を容易に回収することができる。
【0062】
〔試験例1〕
上述した実施形態1の本発明マグネシウム合金部材の製造方法に基づいて、マグネシウム合金部材を作製した。
【0063】
この試験では、AZ91合金相当の組成(Mg-8.7%Al-0.65%Zn(全て質量%))のマグネシウム合金の溶湯を用意して、双ロール連続鋳造機により、厚さ4mmの鋳造板を連続して作製して、一旦巻き取り、鋳造コイル材を作製した。この鋳造コイル材をバッチ炉に装入して400℃×24時間の溶体化処理を施した。得られた固溶コイル材を巻き戻して、以下の条件で複数パスの圧延を施して巻き取り、厚さ0.6mm、幅250mm、長さ800mの圧延コイル材を作製した。ここでは、更に、得られた圧延コイル材を巻き戻して、ロールレベラ装置に装入して温間矯正(板温度:150℃〜280℃)を施した後、巻き取った矯正コイル材を用意した。
【0064】
[圧延条件]
圧下率:5%/パス〜40%/パス
素材の加熱温度:250℃〜280℃
ロール温度:100℃〜250℃
【0065】
上記温間矯正を施した圧延コイル材(矯正コイル材)を繰出しドラム50に配置して巻き戻し、素材板100(ここでは、温間矯正が施された圧延板)に前処理(脱脂、酸エッチング、脱スマット及び表面調整)を順に施した。ここでは、脱脂処理液、エッチング液、脱スマット及び表面調整液のいずれも、市販品(ミリオン化学株式会社製の薬液)を用意した。そして、用いた薬液に応じて、素材板100の脱脂処理液の浸漬時間、脱脂板101の酸エッチング液の浸漬時間、エッチング板102の脱スマット及び表面調整液の浸漬時間を設定し、当該設定時間となるように脱脂槽21,第一表面調整槽22,第二表面調整槽23の大きさや搬送速度などを調整した。また、各処理後、洗浄ノズル25,26,27からの流水洗浄(室温)が適宜行われるように各槽間の距離や搬送速度を調整した。
【0066】
得られた前処理板(表面調整板103)を巻き取らず、引き続いて、防食処理を施した。ここでは、防食処理液として、市販品(ミリオン化学株式会社製の化成処理薬液)を用い、リン酸塩を主成分とする化成層を形成した。また、ここでは、用いた薬液に応じて、前処理板の浸漬時間を設定し、当該設定時間となるように、処理槽31の大きさ、搬送速度などを調整した。
【0067】
処理槽31に前処理板(表面調整板103)を浸漬後、処理槽31を通過した化成処理板104を流水洗浄(室温)により洗浄し、乾燥手段32により、温風(80℃〜100℃程度)を吹きかけて洗浄液などを乾燥させた。得られた化成処理板104に引き続いて順送プレスを施し、化成層を具える矩形箱状のマグネシウム合金部材10を2000個作製した(曲げ半径R1:12mm、曲げ半径R2:7mm、絞り深さ:2.5mm)。
【0068】
得られたマグネシウム合金部材10はいずれも、化成層が損傷したり剥離することが無く(目視確認)、マグネシウム合金の母材に密着しており、かつ当該母材に割れなどが生じることがなく(目視確認)、精度良く成形されていた。
【0069】
<効果>
本発明製造方法は、防食処理を施す対象が板といった平易な形状であるため、当該対象が長尺であったり広幅であっても、防食処理(ここでは化成処理)を容易に施すことができる。かつ、本発明製造方法は、上記防食処理に引き続いて順送プレスを施すことで、プレス材に前処理や防食処理などを施すにあたり治具に配置する工程や長尺なコイル材を別途切断する工程などを省略でき、防食層(ここでは化成層)を具えるマグネシウム合金部材を生産性よく製造できる。また、防食処理と順送プレスとの間で巻き取りを行わないことで、素材に巻き癖が付かず、防食処理後プレス加工前に巻き癖を矯正する工程が不要であり、作業効率の向上を図ることができる上に、直進性に優れる素材にプレス加工を施すことができるため、高精度にプレス加工を行える。従って、得られたマグネシウム合金部材は、防食層を具えることで防食性に優れる上に、寸法精度にも優れる。
【0070】
特に、実施形態1の製造方法では、防食処理の前処理をも連続して施す構成とすることで、マグネシウム合金の母材と防食層との密着性に優れる。また、前処理工程での巻取作業や巻き癖の矯正作業が不要であり、この点からも、実施形態1の製造方法は、作業効率の向上を図ることができる。
【0071】
なお、上述した圧延コイル材を用意して巻き戻した素材板に上述した前処理を順次施して巻き取り、この巻き取った前処理コイル材を巻き戻して、上述のように防食処理、順送プレスを順次施すことができる。この形態では、前処理と防食処理及び順送プレスとを同一ラインとしないことで、ライン長を短くすることができる。
【0072】
[実施形態2]
以下、図3を参照して、実施形態2に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する。この製造方法は、基本的構成は実施形態1の製造方法と同様であり、マグネシウム合金からなる圧延コイル材を巻き戻した素材板に、適宜前処理、防食処理、順送プレスを連続して施し、防食層を具え、プレス加工が施されたマグネシウム合金部材を製造する方法に係る。実施形態2の製造方法では、プレス機構40に導入した防食処理板(ここでは化成処理板104)にプレス加工を施すにあたり、化成処理板104の両面に潤滑シート61,62を配置する点が異なる。以下、この相違点を詳細に説明し、実施形態1と重複する構成及び効果の詳細な説明は省略する。
【0073】
潤滑シート61,62は、化成処理板104にプレス加工を施す際、成型性の向上、素材の焼付きの防止、化成層の損傷の防止などを目的に配置される帯状材である。潤滑シート61,62には、ポリテトラフルオロエチレンといったフッ素樹脂からなり、潤滑性に優れる材料からなるものが好適に利用できる。このような潤滑シートは、曲げ半径R1:10mm未満、曲げ半径R2:5mm未満、絞り深さD:3mm超といった比較的強加工を行う場合に好適に利用できる。ここで、本発明者らがポリテトラフルオロエチレンからなる潤滑シート(厚さ:50μm)を用いて調べたところ、実施形態1と同様に厚さt:0.6mmの圧延板では、曲げ半径R1:2mmまで、曲げ半径R2:0.9mmまで、絞り深さDは図4に示すハッチング領域内までのプレス加工が可能であった。図4は、図2に示す矩形状の箱体における曲げ半径R2と絞り深さDとの関係を示し、ハッチング領域は、割れなどが生じることなくプレス加工が可能な領域を示す。曲げ半径R2が小さいほど、強加工を意味する。図4に示すように曲げ半径R2を大きくするほど、絞り深さDを大きくできることが分かる。特に、2度押しする場合(順送プレス装置として、上述した成形金型を2段具えるものを利用する場合)は、曲げ半径R2:0.2mmまでのプレス加工が可能であった。従って、このような曲げ半径が小さかったり、絞り深さが大きかったりする形状のプレス加工部材を成形する場合、潤滑シートを好適に利用できる。
【0074】
潤滑シート61,62の厚さは、20μm〜100μm程度が利用し易い。20μm未満と薄過ぎると、プレス加工時に破断する恐れがあり、100μm超と厚過ぎると、成形金型と化成処理板104との間の隙間を大きくする必要があり、プレス加工部材の寸法精度の低下を招く恐れがある。潤滑シート61,62の幅は、化成処理板104の幅以上であると、化成処理板104の成形領域を十分に覆うことができて好ましい。潤滑シート61,62は、化成処理板104の成形領域を少なくとも覆うことができる程度の大きさを有するものを利用する。
【0075】
潤滑シート61,62はそれぞれ、繰出しボビン65,66に巻き付けておき、繰出しボビン65,66を巻き戻すことで、潤滑シート61,62を繰り出し、化成処理板104の成形領域を覆う構成が挙げられる。かつ、化成処理板104の成形領域からプレス加工部材が打ち抜かれるときに同時に潤滑シート61,62における上記成形領域を覆う箇所が打ち抜かれ、その残り(スクラップ105と同様に、複数の窓部が設けられた状態となった帯状材。以下、残部と呼ぶ)を巻取りボビン67,68で巻き取る構成が挙げられる。繰出しボビン65,66の繰り出し及び巻取りボビン67,68の巻き取りにより、潤滑シート61,62は、繰出しボビン65,66と巻取りボビン67,68との間を走行できる上に、潤滑シート61,62の残部が成形金型に残存したり、プレス時に巻き込まれることを効果的に防止できる。
【0076】
実施形態2の製造方法では、プレス機構40の上流側に繰出しボビン65,66を配置し、プレス機構40の下流側に巻取りボビン67,68を配置するとよい。
【0077】
上記構成によれば、潤滑剤を用いることなく、曲げ半径が小さいマグネシウム合金部材や絞り深さが大きいマグネシウム合金部材を精度よく成形できる。また、上記構成によれば、潤滑剤を用いた場合のように潤滑剤の除去工程が不要である上に、潤滑剤の除去時に防食層(ここでは化成層。後述する陽極酸化層も含む)や後述する塗装層などを損傷することがない。更に、上記構成によれば、潤滑シートにより、防食層や後述する塗装層をプレス加工時に保護できるため、プレス加工時に防食層や塗装層が損傷することを効果的に防止できる。
【0078】
〔試験例2〕
上述した実施形態2の本発明マグネシウム合金部材の製造方法に基づいて、マグネシウム合金部材を作製した。
【0079】
この試験では、上述した試験例1で用意した圧延コイル材(Mg-8.7%Al-0.65%Zn(全て質量%)、厚さ0.6mm、幅250mm、長さ800m)に防食処理工程までの各工程を試験例1と同様に行って同様の防食処理板(ここでは化成処理板)を作製した。この化成処理板に順送プレスを施すにあたり、潤滑シートとしてポリテトラフルオロエチレンシート(厚さ:50μm、幅:250mm)を用意し、一対の潤滑シートで化成処理板の表裏を挟んだ状態でプレス加工を行う構成とした。潤滑シートが化成処理板の搬送速度に対応した速度で供給されるように、繰出しボビン及び巻取りボビンの回転速度を調整した。また、プレス条件は、曲げ半径R1:2mm、曲げ半径R2:0.9mm、絞り深さ:5mmとし、試験例1よりも強加工を行った。
【0080】
その結果、2000個の矩形箱状のマグネシウム合金部材を作製したが、いずれのマグネシウム合金部材も、防食層が損傷したり剥離することが無く(目視確認)、マグネシウム合金の母材に密着しており、かつ当該母材に割れなどが生じることがなく(目視確認)、精度良く成形されていた。
【0081】
[実施形態3]
以下、図5を参照して、実施形態3に係るマグネシウム合金部材の製造方法を説明する。この製造方法は、実施形態1の製造方法と同様にマグネシウム合金からなる圧延コイル材を巻き戻した素材板に、防食処理(ここでは化成処理板)、順送プレスを連続して施し、防食層(ここでは化成層)を具え、プレス加工が施されたマグネシウム合金部材を製造する方法に係る。実施形態3の製造方法では、脱脂・酸エッチング・脱スマット及び表面調整といった前処理に代えて、素材板100に機械的研磨を施す点が異なる。以下、この相違点を詳細に説明し、実施形態1と重複する構成及び効果の詳細な説明は省略する。
【0082】
実施形態3の製造方法は、繰出しドラム50から巻き戻された素材板100に研削機構70により機械的研磨を施して、研磨板110を作製し、研磨板110を巻き取ることなく、研磨板110を化成処理機構30に導入する。化成処理工程以降の各工程は、実施形態1,2と同様である。
【0083】
(研削機構)
研削機構70は、機械的研磨として、湿式ベルト研磨を行う構成を具える。ここでは、研削機構70は、素材板100の表裏面を研削するために対向配置される一対の研削ベルト71と、各研削ベルト71が掛け渡されるコンタクトロール72及び遊動ロール73とを具える。
【0084】
研削ベルト71は、適宜な粒度の砥粒を具える無限軌道である。上記粒度(メッシュサイズ)は、適宜選択することができ、大きいほど、表面が平滑な研磨板を製造できる。粒度は、例えば、♯320以上、更に♯400以上、特に♯600以上を好適に利用することができる。
【0085】
図5に示す例では、素材板100の表裏を挟むように配置される一対の研削ベルト71の組を素材板100の走行方向に沿って複数組(ここでは2組)配置した例を示す。このように複数組の研削ベルト71を配置する場合、走行方向上流側(図5では左側)の研削ベルト71に砥粒が粗いもの(粒度が小さいもの)を利用し、走行方向下流側(図5では右側)の研削ベルト71に砥粒が細かいもの(粒度が大きいもの)を利用すると、酸化膜や潤滑剤、表面欠陥の除去を十分に行って新生面を生成し易い上に、研磨板110の表面を平滑にすることができる。研磨板110の表面の酸化膜や潤滑剤、表面欠陥などの除去を行うことで、次工程で防食層を均一的な厚さに斑無く形成し易い。
【0086】
研削ベルト71の回転方向は、素材板100の走行方向と同じ方向(ダウンカット)、走行方向と逆方向(アップカット)のいずれも利用可能である。表面粗さを低減する場合、ダウンカットが好ましく、研削量を多くする場合、研削効率が高いアップカットが好ましい。図5に示す例では、ダウンカットの場合を示す。
【0087】
また、研削機構70は、研削ベルト71や素材板100などに研削液を噴射するスプレーノズル(図示せず)を具えており、研削時、湿式研削が行える構成である。研削液はマグネシウム合金と反応し難い、適宜なものを利用できる。
【0088】
上記研削ベルト71は、コンタクトロール72をモータなどの動力源で回転する主動ロールとし、遊動ロール73を従動ロールとし、コンタクトロール72が回転することで、回転する。また、素材板100を挟んで対向配置される両コンタクトロール72は、同期して回転する。
【0089】
素材板100の表裏は、回転する研削ベルト71によりそれぞれ研削される。対向配置される各研削ベルト71は、素材板100の厚さ方向(図5では上下方向)に移動可能な構成であり、コンタクトロール72を素材板100に近接離反するように移動させることで、研削量を増減できる。研削量は、粒度や回転速度などに応じて、適宜選択することができる。
【0090】
また、図5に示す研削機構70は、洗浄ノズル75を具える。洗浄ノズル75は、研削ベルト71の下流側(図5では右側)に配置させて、研削粉や研削液を洗浄する洗浄液を排出する。この洗浄液により、走行する研磨板110の表面に付着する研削粉や研削液を洗い流すことができる。研削工程と防食処理工程との間に洗浄工程を具えて、研削粉や研削液が研磨板110に残存しないようにすることで、次工程で防食層を精度よく形成できる。
【0091】
ここでは、研磨板110を洗浄した後、この洗浄液を積極的に乾燥させることはせず、研磨板110に洗浄液が付着したまま、次工程に移行する。本発明製造方法では、各工程を連続的に実施することで、上記洗浄液が付着した時間を非常に短時間(例えば、1分間以内)とすることができ、上述のように洗浄液が付着した状態で防食処理工程に移行しても、実質的に問題ない。また、洗浄液に純水を利用することで、洗浄液が防食処理液に混合されることによる不具合を低減できる。なお、処理液の濃度を管理しておき、適宜交換などすることで、実質的に問題なく使用できる。
【0092】
上記構成によれば、研削工程後、時間を空けずに直ちに研磨板110に防食処理を施すことで、研磨板の表面に酸化膜が形成されることを抑制し、かつ防食層を形成できる。このように、実施形態1の製造方法における前処理工程に代えて研削工程を具えることで、ライン長の短縮、作業時間の短縮を図ることができ、実施形態3の製造方法は、防食層を具えるプレス加工部材を生産性よく製造できる。また、工程数を低減することで、各工程に必要な設備も不要にでき、実施形態3の製造方法は、製造コストの低減にも寄与することができる。
【0093】
上記実施形態3の変形例として、以下の構成が挙げられる。
上記実施形態3では、複数組の研削ベルトを具えて、走行方向に沿って多段に研削を行う形態を説明したが、1組の研削ベルトのみを具える形態とすることができる。この場合、粒度が小さいもの(粗粒のもの)を用いると、酸化膜や潤滑剤などを十分に除去して、新生面を確実に生成できて好ましい。
【0094】
上記実施形態3では、素材板100の表裏面の双方を研削して、研磨板110の両面に防食層を形成する形態を説明したが、表裏面のいずれか一方の面にのみ防食層を形成する形態とすることができる。この場合、対向配置される一対の研削ベルト71のうち、一方をビリーロールに変更し、素材板100の一方の面が研削されないようにするとよい。また、この形態では、圧延後巻き取る前において、或いは、圧延後上述の矯正処理を行う場合は当該矯正処理後巻き取る前において、防食層の形成が不要な面にマスキングを適宜施し、防食処理液が接触しないようにすることができる。
【0095】
上記実施形態3では、圧延コイル材や矯正コイル材を巻き戻して研削以降の工程に移行する形態を説明したが、圧延工程や矯正工程から研削工程に連続して移行する形態とすることができる。より具体的には、例えば、圧延を1パスのみとする場合や仕上げ圧延から研削、仕上げ圧延から矯正を介して研削を連続して施す形態とすることが挙げられる。
【0096】
上記実施形態3では、研磨板に連続して防食処理を施したが、防食処理を施す前に、当該研磨板にヘアライン加工などの表面加工を施すことができる。より具体的には、研削機構70の下流側に適宜な表面加工手段(図示せず)を配置して、研削後洗浄された研磨板110の所望の領域(一面でも両面でもよい。また、各面の全面でも一部でもよい)に適宜な表面加工を施した後、防食処理を施す。
【0097】
上記表面加工が施された箇所は、当該表面加工により新生面が形成され、当該表面加工が施されない箇所が存在する場合も当該表面加工前の研削により新生面を形成されていることから、研削後直ちに表面加工を施し、かつ表面加工後に引き続いて防食処理を施すことで、防食層を良好に形成することができる。また、上記表面加工により表面が荒らされた状態となることで、防食層との密着性にも優れると期待される。更に、研磨板に上記表面加工を施す、即ち、加工対象が平坦で表面性状に優れる状態であるため、高精度に表面加工を施すことができる。特に、研削後洗浄を行う場合、より高精度に表面加工を行える。従って、この形態の製造方法により得られたマグネシウム合金部材は、その一面又は両面に上記表面加工が施されていることで、意匠性に優れ、金属質感が高い上に、耐食性にも優れる。
【0098】
上記表面加工の種類によっては加工時に素材の走行速度や張力を調整することが望まれる場合がある。この場合、例えば、上述のように素材を適宜撓ませたり、素材において加工箇所の上流側及び下流側の少なくとも一方にピンチロールを配置したりするとよい。更に、上記表面加工は、湿式で行うと、切削などで生じた粉末の飛散を効果的に防止できて好ましい。また、上記表面加工後、適宜洗浄や洗浄液の乾燥を行うと、切削などで生じた粉末を十分に除去できて好ましい。
【0099】
[実施形態4]
上記実施形態1では、防食処理として化成処理を施す場合を説明した。その他、陽極酸化処理を施すことができる。実施形態4の製造方法も基本的構成は実施形態1と同様であり、主たる相違点は防食処理方法にあるため、ここでは防食処理方法を詳細に説明する。
【0100】
実施形態4は、防食処理機構として、例えば、図6に示す陽極酸化処理機構80を具える。図6に示す陽極酸化処理機構80は、陽極酸化処理液が充填され、走行する研磨板110がこの処理液に浸漬される処理槽81と、走行する研磨板110を陽極、対極84を負極として通電する電源82と、電源82に接続され、研磨板110が接することで研磨板110を通電するコンダクタロール83と、処理槽81内に配置されて研磨板110の進行を促すシンクロール85と、上記処理液を洗浄する洗浄液が充填され、処理槽81から引き出された素材がこの洗浄液に浸漬される洗浄槽86,87と、洗浄液を乾燥させる乾燥手段88とを具える。また、この例では、余分な処理液や洗浄液を除去するためのリングロール89を各槽81,86,87の下流側に適宜配置している。更に、この例では、洗浄槽86,87内にもシンクロール85を配置して、各槽86,87内に素材(陽極酸化処理板106)を導入し易くすると共に、各槽86,87内の下流側に適宜送りローラを配置して、陽極酸化処理板106の走行を促すようにしている。なお、この例では、洗浄槽86,87を複数具える例を示すが、一つでもよい。洗浄液や乾燥手段88は実施形態1と同様のものが利用できる。
【0101】
走行する研磨板110において処理槽81に導入された箇所は、当該箇所の上流側及び下流側がコンダクタロール83に接触することで陽極として通電され、その表面に主として酸化物を形成することができる。即ち、連続して陽極酸化処理板106を製造することができる。また、得られた陽極酸化処理板106は、洗浄槽86,87に導入されて十分に洗浄されるため、処理液が過度に付着することが無い。得られた陽極酸化処理板106を巻き取ることなくプレス機構に移行して、引き続いて順送プレスを施す。
【0102】
[実施形態5]
上述した実施形態1〜4では、防食処理板(化成処理板又は陽極酸化処理板)に順送プレスを施す形態を説明した。その他、実施形態5の製造方法として、防食処理板の少なくとも一面に塗装を施し、得られた塗装板に順送プレス加工を施す構成が挙げられる。
【0103】
塗装材は、プレス加工時の曲げや絞りなどの変形に追従可能な伸びを有するもの(プレス加工時に割れなどが生じないもの)や、凹みなどの変形可能な柔軟性を有するものを好適に利用することができる。具体的には、ポリエステル系、高分子ポリエステル系、エポキシ系、ウレタン系、及びアクリル系の樹脂から選択される1種以上の樹脂が挙げられる。或いは、ポリテトラフルオロエチレンといったフッ素樹脂を利用することができる。これらの変形能に優れる塗装材を利用することで、例えば、曲げ半径R1:10mm以上、曲げ半径R2:5mm以上、絞り深さD:3mm以下の範囲で適宜選択した寸法の矩形箱体を形成するにあたり、割れや剥離などすることなく、プレス加工を行える。また、透明でも不透明でも所望のものを利用することができる。
【0104】
この形態では、上記各実施形態で説明した防食処理機構(化成処理機構又は陽極酸化処理機構)とプレス機構との間に塗装機構を具えておく。塗装方法は、ローラ塗装やスプレー塗装、電着塗装が挙げられる。塗装機構は、例えば、塗装材を塗布するローラ部やスプレー部と、塗装材を焼付け・乾燥する定着部とを具えるものが挙げられる。電着塗装を行う場合、例えば、実施形態4で説明した陽極酸化処理機構80において、処理槽81を電着塗装槽とすることで、塗装を容易に施せる。例えば、アニオン電着塗装の場合、防食処理板を陽極、対極を負極として通電するとよい。電着塗装にあたり、処理槽81内の処理液を変更する以外の構成は、上述した陽極処理機構80の構成を利用することができる。そして、上記各実施形態で説明したように防食処理板を作製して塗装機構に移行し、走行する防食処理板の少なくとも一面に塗装層を形成する。得られた塗装板を巻き取ることなくプレス機構に移行して、引き続いて順送プレスを施す。なお、塗装後にも適宜洗浄や洗浄液の乾燥を行うと、表面性状により優れる塗装板が得られて好ましい。
【0105】
上記構成によれば、一面又は両面に防食層に加えて塗装層をも具えるマグネシウム合金部材を生産性良く製造することができる。また、防食処理に引き続いて塗装をも行なうことで、防食層と塗装層との密着性に優れる。特に、実施形態3で説明したように、順送プレスにあたり、潤滑シートを配置することで、プレス時に防食層及び塗装層を保護して、損傷を効果的に防止できる上に、所望の形状のプレス加工材を精度良く成形できる。この実施形態5の製造方法により得られたマグネシウム合金部材は、塗装層を具えることで、耐食性により優れる上に、意匠性にも優れる。
【0106】
なお、上述した実施の形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、マグネシウム合金の組成(添加元素の種類、含有量)、素材となる圧延板の厚さ・幅・長さ、防食処理液の種類、プレス加工の条件などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明マグネシウム合金部材の製造方法は、プレス加工が施されてなるマグネシウム合金部材、例えば、携帯用や小型な電気・電子機器類の筐体といった各種の電気・電子機器類の構成部材、自動車や航空機といった輸送機器の構成部材に利用されるマグネシウム合金部材の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0108】
10 マグネシウム合金部材
20 前処理機構 21 脱脂槽 22 第一表面調整槽 23 第二表面調整槽
25,26,27 洗浄ノズル
30 化成処理機構 31 処理槽 32 乾燥手段
40 プレス機構 41 上金型 42 下金型 43 支持部
50 繰出しドラム
61,62 潤滑シート 65,66 繰出しボビン 67,68 巻取りボビン
70 研削機構 71 研削ベルト 72 コンタクトロール 73 遊動ロール
75 洗浄ノズル
80 陽極酸化処理機構 81 処理槽 82 電源 83 コンダクタロール
84 対極 85 シンクロール 86,87 洗浄槽 88 乾燥手段
89 リングロール
100 素材板 101 脱脂板 102 エッチング板 103 表面調整板
104 化成処理板 105 スクラップ 106 陽極酸化処理板
110 研磨板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる板材にプレス加工を施して、マグネシウム合金部材を製造するマグネシウム合金部材の製造方法であって、
長尺な圧延板が巻き取られた圧延コイル材を準備する準備工程と、
前記圧延コイル材を巻き戻して前記圧延板に防食処理を施し、防食処理板を作製する防食工程と、
前記防食処理板を巻き取ることなく、前記防食処理に引き続いて前記防食処理板に順送プレス加工を施し、マグネシウム合金部材を作製する成形工程とを具えることを特徴とするマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項2】
前記防食処理は、化成処理であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項3】
前記成形工程では、前記防食処理板の両面に潤滑シートを配置した状態で前記順送プレス加工を施すことを特徴とする請求項1又は2に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項4】
前記防食処理板を巻き取ることなく、その少なくとも一面に塗装を施し、塗装板を作製する塗装工程を具え、
前記成形工程では、前記塗装板を巻き取ることなく、前記塗装に引き続いて前記塗装板に前記順送プレス加工を施すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項5】
前記圧延コイル材を巻き戻して、前記圧延板にその表面を調整する前処理を施し、前処理板を作製する前処理工程を具え、
前記防食工程では、前記前処理板を巻き取ることなく、前記前処理に引き続いて前記前処理板に前記防食処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項6】
前記圧延板の少なくとも一面に、ヘアライン加工、ダイヤカット加工、ショットブラスト加工、スピンカット加工、及びエッチング加工から選択される少なくとも1種の表面加工が施されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項7】
前記圧延コイル材を巻き戻して、前記圧延板に機械的研磨を施し、研磨板を作製する研削工程を具え、
前記防食工程では、前記研磨板を巻き取ることなく、前記機械的研磨に引き続いて前記研磨板に前記防食処理を施すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項8】
前記研削工程と前記防食工程との間に、前記研磨板の少なくとも一面にヘアライン加工、ダイヤカット加工、ショットブラスト加工、及びスピンカット加工から選択される少なくとも1種の表面加工を行う加工工程を具えることを特徴とする請求項7に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。
【請求項9】
前記マグネシウム合金は、Alを8.3質量%以上9.5質量%以下含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−107284(P2012−107284A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256304(P2010−256304)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】