説明

マグネシウム合金部材

【課題】 耐食性を有するとともに化成処理及び塗装膜形成後もマグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持し、環境への負荷の小さい新規マグネシウム合金を提供することである。
【解決手段】 ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金からなる基体と、前記基体の表面に形成される化成皮膜とを備え、前記化成皮膜はCaとPとを含有し濃度比Ca/Pが0.7以下であることを特徴とするマグネシウム合金部材である。濃度比Ca/Pを0.7以下とすることにより化成皮膜を実質的に透明にすることができ、マグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持したマグネシウム合金部材を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電製品や自動車部品などにおいて使用されるマグネシウム合金部材に関するものであり、特に表面処理により優れた耐食性を有しながら素材自体の持つ金属感のある色調を維持することのできるマグネシウム合金部材に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムは、その密度が1.8g/cm3と現在実用化されている金属材料の中で最も密度が小さい材料であり、一般に金属の軽量化材料として各種用途に広く使用されているアルミニウムの密度2.7g/cm3と比較しても2/3と小さい。このため、マグネシウム合金はアルミニウム合金に代わる軽量化材料として近年注目され、幅広い分野において使用されつつある。
【0003】
ところが、マグネシウム及びその合金は非常に錆びやすい性質を持っているため実用化するには耐食性を改善する必要がある。一方で、カメラや携帯用音楽プレーヤー等の家電製品、携帯電話機等の小形通信機器、ノート型あるいはモバイル型パソコン等の小型事務機器、その他多くの用途、特に携帯用の機器の筐体においては小型化・軽量化の要求に加えて美観も重要視されている。そのため、軽量化、長期の耐食性および美観を付与することを目的として様々な表面処理方法が検討されている。一例としてマグネシウム合金の表面に化成処理膜を形成して耐食性を付与し、更にその上に塗装膜を形成して耐候性と着色を付与する表面処理方法が実施されている。
【0004】
特許文献1では、耐食性に優れるとともに色彩を有しつつリサイクルが容易なマグネシウム合金成形品を提供することを目的とし、マグネシウム合金成形体と、前記マグネシウム合金成形体の表面に形成されたアルミニウム層と、前記アルミニウム層の表面に形成された化成皮膜層と、前記化成皮膜層の表面に形成された透明塗装膜とからなるマグネシウム合金成形品を開示している。特許文献1のマグネシウム合金成形品において、色彩は化成皮膜層に生じる干渉色によって得られる。干渉色を生ずる化成皮膜層を得るには、アルミナなどの透明な皮膜を形成するとともにその厚さを可視光波長の1/4以上になるように調節する。そして、化成皮膜層の厚さを種々の厚さに変えることによって所望の色彩が得られるとしている。そしてこの干渉色は、前記アルミニウム層の表面で反射する光と化成皮膜層の表面で反射する光とが干渉して干渉色として色彩が視認されるものとしている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−161376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
携帯用の機器の筐体においては美観も重要視され前述のようにして色彩が施されるのであるが、化成処理及び塗装膜形成後もマグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持したいという要望がある。金属感のある色調は特定の色彩より重厚感や高級感に富むからである。これを実現するには化成皮膜層と塗装膜の何れもが透明でなければならないが、従来の形成方法によって得られる化成皮膜層は色彩を有しており素材自体の持つ金属感を残すことが困難であった。また、従来の化成皮膜はCrやMn等の環境への負荷の大きい元素が使われてきた。
【0007】
従って本発明の目的は、耐食性を有するとともに化成処理及び塗装膜形成後もマグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持し、環境への負荷の小さい新規マグネシウム合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は鋭意研究の結果、従来の化成皮膜の形成方法によっても特定の条件下で化成処理を行うと透明な化成皮膜層が得られ、マグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持できることを知見した。
【0009】
即ち、本願第一の発明は、ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金からなる基体と、前記基体の表面に形成される化成皮膜とを備え、前記化成皮膜はCaとPとを含有し濃度比Ca/Pが0.7以下であることを特徴とするマグネシウム合金部材である。
【0010】
本発明で濃度比Ca/Pを0.7以下とすることにより化成皮膜を実質的に透明にすることができ、化成皮膜がもつ耐食性の改善効果とともにマグネシウム合金素材自体が持つ金属感のある色調を維持したマグネシウム合金部材を得ることができる。
【0011】
本願第二の発明は、ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金からなる基体と、前記基体の表面に形成される化成皮膜と、前記化成皮膜の表面に形成される塗装皮膜とを備え、前記化成皮膜はCaとPとを含有し濃度比Ca/Pが0.7以下であることを特徴とするマグネシウム合金部材である。
【0012】
本発明で濃度比Ca/Pを0.7以下とすることにより化成皮膜を実質的に透明にし、かつその上に透明な塗装皮膜を形成することでマグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持したマグネシウム合金部材を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
上述のように、本発明のマグネシウム合金部材によれば、環境への負荷の小さいCaとPにより耐食性の改善とともに化成処理及び塗装膜形成後もマグネシウム合金素材自体の持つ金属感のある色調を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金の化学成分は重量%でAl2.5〜3.5,Zn0.50〜1.5,Mn0.2以上,Fe0.03以下,Si0.10以下,Cu0.10以下,Ni0.005以下,Ca0.04以下,残部Mgである。
【0015】
マグネシウム合金部材に化成処理皮膜が形成されるメカニズムは必ずしも明らかではないが発明者は次のように推定している。

このことから化成皮膜の主成分は(nMgmCa)(POと考えられ、この皮膜のCa量とP量を制御することにより本発明のマグネシウム合金部材が得られると考えている。
【0016】
次に本発明を実施例によって具体的に説明するが、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
[マグネシウム合金基体]
マグネシウム合金材からなるタテ25mm×ヨコ25mm×厚さ1mmの基体を準備した。
[前処理]
マグネシウム合金基体に前処理として脱脂および水洗をおこなった。
[化成処理液]
燐酸を3.26ml/l、硝酸カルシウムを2.58g/l含有する水溶液を室温で作製して化成処理液とした。これを標準の化成処理液とした。
[化成処理条件]
前処理を施したマグネシウム合金基体を23±1℃の化成処理液に60秒間浸漬して化成皮膜を形成させた後、水洗、乾燥させた。
[化成皮膜分析]
皮膜の組成はSEM/EDX分析を行った。耐食性の評価は塩水噴霧試験を行い単位面積(cm)あたりの錆の発生個数が7未満を合格としそれ以上を不合格とした。得られた化成皮膜が透明であるか否かは目視により評価した。
【0017】
本発明のマグネシウム合金部材の化成皮膜のCaとPの濃度比Ca/Pは以下の様に定義される。マグネシウム合金部材より走査電子顕微鏡用試料を作成し、SEM(Scanning Electron Microscope)/EDX(Energy-Dispersive X-ray Analyzer)により、加速電圧10KVで、化成処理面をEDXで、基体と化成皮膜の主成分であるMg、Al、P、O、CaのX線強度を測定し、100%に規格化した数値を化成処理面の組成とした。このようにして求めたCa量をP量で除して化成皮膜のCaとPの濃度比Ca/Pとした。
【実施例】
【0018】
AZ31マグネシウム合金からなる基体を準備した。化成処理液は標準液と燐酸濃度または硝酸カルシウム濃度を変えた処理液を使用した。また、錆発生の比較の基準としてAZ31素材ままの評価も行った。化成処理条件と化成皮膜の評価結果を表1に纏めた。さらに化成皮膜中のCa濃度と錆個数の関係を図1に、化成皮膜中のP濃度と錆個数の関係を図2に、化成皮膜中の濃度比Ca/Pと錆個数の関係を図3にそれぞれ示した。図1,2から膜中CaとP濃度が高いと錆の発生数が減る傾向にあることがわかる。図3から膜中の濃度比Ca/Pが小さいほど錆の発生数が減る傾向にあることがわかる。またCa/Pが0.7を超えると化成皮膜に着色が認められるようになるため本発明ではCa/Pの上限を0.7とする。
【比較例】
【0019】
AZ91マグネシウム合金からなる基体を準備した。化成処理液は標準液と硝酸カルシウム濃度を5倍にした処理液を使用した。また、錆発生の比較の基準としてAZ91素材ままの評価も行った。化成処理条件と化成皮膜の評価結果を表1に纏めた。燐酸カルシウム化成皮膜を形成すると耐食性は向上するものの何れの皮膜にも着色が認められた。
【0020】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、携帯用機器の筐体や部品などにおいて使用されるマグネシウム合金部材に関するものであり、特に表面処理により優れた耐食性を有しながら素材自体の持つ金属感のある色調を維持することのできるマグネシウム合金部材を提供するものである。また、マグネシウム部材は自動車の軽量化に寄与することから自動車部品への適用に向けた研究がおこなわれている。自動車部品の多くは人目に触れることは無いため色調は問題にされないが、ホイール等のように外部に露出する部品では金属感のある色調が求められるものもある。この様な自動車部品には本発明のマグネシウム合金部材を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】化成皮膜中のCa濃度と錆個数の関係を示すグラフである。
【図2】化成皮膜中のP濃度と錆個数の関係を示すグラフである。
【図3】化成皮膜中の濃度比Ca/Pと錆個数の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金からなる基体と、前記基体の表面に形成される化成皮膜とを備え、前記化成皮膜はCaとPとを含有し濃度比Ca/Pが0.7以下であることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項2】
前記化成皮膜が実質的に透明である請求項1記載のマグネシウム合金部材。
【請求項3】
ASTM合金記号のAZ31又はAZ31Bで規定されるマグネシウム合金からなる基体と、前記基体の表面に形成される化成皮膜と、前記化成皮膜の表面に形成される塗装皮膜とを備え、前記化成皮膜はCaとPとを含有し濃度比Ca/Pが0.7以下であることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項4】
前記化成皮膜と前記塗装皮膜とが実質的に透明である請求項3記載のマグネシウム合金部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−69414(P2008−69414A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−249786(P2006−249786)
【出願日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】