説明

マグネシウム合金部材

【課題】金属質感が高いマグネシウム合金部材を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金からなる基材と、この基材の上に形成された被覆層とを具えるマグネシウム合金部材であり、上記基材は、その表面の少なくとも一部に、金属質感が得られるように、微細な凹凸加工が施された表面加工部を具え、上記被覆層は、透明である。この部材は、表面加工部を具えることで金属質感を効果的に高められる。また、この部材は、被覆層を具えることで防食性に優れると共に、被覆層が透明であることで、表面加工部による金属質感を感じ易い。上記凹凸加工は、ヘアライン加工、ダイヤカット加工などが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金からなる基材上に被覆層を具えるマグネシウム合金部材に関するものである。特に、金属質感が高いマグネシウム合金部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウムに種々の添加元素を含有したマグネシウム合金が、携帯電話やノートパソコンといった携帯電気機器類の筐体や自動車部品などの部材の材料に利用されてきている。マグネシウム合金は、活性な金属であるため、上記部材の表面には、防食を目的とした表面処理が施される(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
また、マグネシウム合金は、六方晶の結晶構造(hcp構造)を有するため常温での塑性加工性に乏しいことから、上記筐体などのマグネシウム合金部材は、ダイカスト法やチクソモールド法による鋳造材が主流である。最近、ASTM規格におけるAZ31合金からなる板材にプレス加工を施して、上記筐体を形成することが検討されている。また、特許文献3は、ASTM規格におけるAZ91合金相当の合金からなり、プレス加工性に優れる板材を提案している。
【0004】
【特許文献1】特開2002-285361号公報
【特許文献2】特開2004-149911号公報
【特許文献3】特開2007-98470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今、上記筐体といったマグネシウム合金部材に対して、金属質感を高めて高級感などを増すことが要求されている。しかし、特許文献1,2は、金属光沢を損わない表面処理剤を提案しているものの、金属質感を高めることについて検討されていない。また、特許文献3も金属質感を高めることについて言及されていない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、金属質感が高いマグネシウム合金部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、マグネシウム合金からなる基材表面の少なくとも一部に、金属質感を高める加工が施された表面加工部を有することで上記目的を達成する。具体的には、本発明マグネシウム合金部材は、マグネシウム合金からなる基材と、この基材の上に形成された被覆層とを具えており、上記基材は、その表面の少なくとも一部に、金属質感が得られるように、微細な凹凸加工が施された表面加工部を有する。また、上記被覆層は、透明である。
【0008】
本発明マグネシウム合金部材は、上記表面加工部を具えることで、金属質感を効果的に高められる。また、本発明部材は、被覆層を具えることで、十分な防食性を有することができる。特に、この被覆層が透明であることで外部からの光が被覆層を透過して上記表面加工部で乱反射し易く、どの方向から見ても金属質感を感じ易い。従って、本発明部材は、所望の防食性を有しながら、金属質感が高く、意匠性に優れる。以下、本発明をより詳細に説明する。
【0009】
<基材>
《組成》
本発明部材の基材を構成するマグネシウム合金は、Mgに添加元素を含有した種々の組成のもの(残部:Mg及び不純物)が利用でき、特に限定されない。例えば、Mg-Al系、Mg-Zn系、Mg-RE(希土類元素)系、Y添加合金などが挙げられる。特に、Alを含有するMg-Al系合金は、耐食性が高く好ましい。Mg-Al系合金としては、例えば、ASTM規格におけるAZ系合金(Mg-Al-Zn系合金、Zn:0.2〜1.5質量%)、AM系合金(Mg-Al-Mn系合金、Mn:0.15〜0.5質量%)、AS系合金(Mg-Al-Si系合金、Si:0.6〜1.4質量%)、Mg-Al-RE(希土類元素)系合金、これらMg-Al系合金に更にBi,Sn,Pb,Ca,及びBeからなる群から選択される1種以上の元素を添加した合金などが挙げられる。Alの含有量は、1.0質量%以上11質量%以下が好ましく、Al量が多くなるに従って耐食性や強度といった機械的特性に優れるが、多過ぎると塑性加工性が低下し易いため、耐食性、機械的特性及び成形性を考慮すると、8質量%以上11質量%以下がより好ましい。特に、Alを8〜11質量%、Znを0.2〜1.5質量%含有するMg-Al系合金、代表的にはAZ80,AZ91が好適に利用できる。これらの合金は、微細な凹凸加工を施した後にも基材表面が変色し難く、金属光沢などの金属質感が得られ易く好ましい。
【0010】
《形態》
基材は、代表的には、鋳造材を圧延した圧延材、この圧延材に更に熱処理やレベラー加工、研磨加工などを施した加工材、これら圧延材や加工材に更にプレス加工や曲げ加工、鍛造加工といった塑性加工を施した塑性加工材が挙げられる。圧延やプレス加工などの塑性加工が施された基材は、結晶粒径が細かく、鋳造材よりも強度といった機械的特性に優れるだけでなく、引け巣や空隙(ポア)といった内部欠陥や表面欠陥が少なく、良好な表面性状を有する。また、圧延材は、鋳造材に比べて表面欠陥が少ないことから、被覆層の形成前に、欠陥のパテ埋め(欠陥補正)を低減できる、或いは行わなくてもよく、また、欠陥補正の不十分による不良品の発生を低減できるため、製品歩留まりの向上に寄与することができる。以下、鋳造条件及び圧延条件を説明する。
【0011】
《製造方法》
[鋳造条件]
鋳造材は、双ロール法といった連続鋳造法、特に、WO/2006/003899に記載の鋳造方法で製造することが好ましい。連続鋳造法は、急冷凝固が可能であるため、酸化物や偏析などを低減でき、圧延といった塑性加工性に優れる鋳造材が得られる。また、この鋳造材に圧延を施すことで、その後のプレス加工などの塑性加工に悪影響を及ぼすような欠陥、例えば、粒径10μm以上といった粗大な晶析出物を消滅させられる。特に、AZ系合金では、Al量が多くなるほど晶析出物が生成され易い傾向にあるが、上記連続鋳造材に圧延を施すことで、合金組成にかかわらず上記欠陥が少ない圧延材が得られる。得られた鋳造材には、組成を均質化するための熱処理(溶体化処理、加熱温度:380〜420℃、加熱時間:60〜600分)や時効処理などを施してもよい。特に、AZ系合金の場合、Alの含有量が高いものは長時間溶体化を行うことが好ましい。鋳造材の大きさは特に問わないが、厚過ぎると偏析が生じ易いため、10mm以下が好ましい。
【0012】
[圧延条件]
圧延は、加工対象の加熱温度を200〜400℃、圧延ロールの加熱温度を150〜250℃、1パスあたりの圧下率を10〜50%の条件で複数パス行うことが好ましい。また、所望の厚さの圧延材が得られるように、上記各条件を適宜組み合わせることが好ましい。上記各温度、及び1パスあたりの圧下率、パス数の条件を適宜組み合わせることで、例えば、圧延前の板厚が3〜8mmの加工対象を1mm以下、具体的には0.2mmの厚さまで圧延することが可能である。公知の条件、例えば、特許文献3に開示される制御圧延などを利用してもよい。
【0013】
圧延加工途中に中間熱処理(加熱温度:250〜350℃、加熱時間:20〜60分)を行って、この熱処理までの加工により加工対象に導入された歪みや残留応力、集合組織などを除去、軽減すると、その後の圧延で不用意な割れや歪み、変形を防止して、より円滑に圧延できて好ましい。また、最終の圧延後に最終熱処理を施すと、強度に優れる圧延材が得られて好ましい。最終熱処理前の圧延材は、加工歪みを十分に蓄積した結晶組織を有しており、最終熱処理により微細な再結晶組織となることで強度を向上できる。また、このような再結晶組織を有する最終熱処理後の圧延材は、プレス加工時の加熱により、結晶粒が粗大化し難い。最終熱処理の加熱温度は、例えば、AZ系合金の場合、Al量が高いほど、温度を高めることが好ましく、Al量が8〜11質量%の場合、300〜340℃、加熱時間:10〜30分が好ましい。これらの熱処理において、温度が高過ぎたり、時間が長過ぎると、結晶粒が粗大化し過ぎて、プレス加工などの塑性加工性を低下させる。
【0014】
上記圧延が施された圧延材は、結晶粒径のばらつきが小さく、鋳造時の偏析(例えば、Mg17Al12といった金属間化合物)や内部欠陥、表面欠陥などが少ないことから、高い塑性加工性を有し、加工中の亀裂や割れの発生が効果的に低減され、優れた表面性状を有する。
【0015】
[圧延後塑性加工前の予備加工]
得られた圧延材には、圧延材のうねりや結晶粒の配向などを矯正するためのレベラー加工や圧延材の表面を平滑化するための研磨加工を施すことが好ましい。レベラー加工は、例えば圧延材をローラーレベラーに通すことで行い、研磨加工は、湿式ベルト式研磨が代表的である。砥粒は♯240以上が好ましく、更に♯320以上、特に♯600が好ましい。上記予備加工が施された圧延材や、この圧延材にプレス加工といった塑性加工を施した塑性加工材は、後述の凹凸加工を均一的に施し易い。
【0016】
[塑性加工]
プレス加工、深絞り加工、鍛造加工、ブロー加工、曲げ加工といった塑性加工は、圧延材の組織が再結晶化して、圧延材の機械的特性が大きく変化しないような温度範囲、具体的には250℃以下の温度、特に200〜250℃の温間で行うことが好ましい。このような温度の圧延材に塑性加工を行うと、塑性変形していない箇所の結晶粒の大きさがほとんど変化しないため、この箇所の強度は、塑性加工の前後で変化し難く、高強度を維持することができ、高強度な塑性加工材が得られる。
【0017】
上記塑性加工は、後述する凹凸加工の加工前、同凹凸加工の加工後、後述する被覆層形成前、同形成後のいずれの段階で行ってもよい。
【0018】
塑性加工後に熱処理を施して、塑性加工により導入された歪みや残留応力の除去、機械的特性の向上を図ってもよい。熱処理条件は、加熱温度:100〜450℃、加熱時間:5分〜40時間程度が挙げられる。
【0019】
《表面加工部》
本発明部材は、上記基材表面の少なくとも一部に、微細な凹凸加工が施された表面加工部を具えることを特徴の一つとする。この凹凸加工は、金属質感を高めることに寄与する加工であり、具体的には、切削加工、研削加工、吹き付け加工及び酸を用いた腐食加工の少なくとも1種が挙げられる。より具体的には、ヘアライン加工、ダイヤカット加工、スピンカット加工、ショットブラスト加工、及びエッチング加工の少なくとも1種が挙げられる。本発明部材は、これらの加工のうち1種でもよいし、複数種を組み合わせた凹凸加工が施されていてもよい。
【0020】
微細な凹凸とは、具体的には、表面粗さがRmax(最大高さ:最低位置から最高位置までの距離)で1μm以上200μm以下のものが挙げられる。上記範囲を満たす凹凸を有すると、本発明部材に向けられた外部からの光が本発明部材の表面で乱反射することで、本発明部材をどの方向から見ても金属質感を十分に感じることができる。1μm未満の比較的平滑な状態では、実質的に鏡面加工が施された状態と同様に優れた金属光沢が得られるものの、金属質感を高め難く、200μm超の荒れた状態では、金属質感が得られ難い。表面粗さがRmaxで1μm以上50μm以下がより好ましい。なお、基材と被覆層との密着性を高めるために基材を粗面化することがあるが、この粗面化は、金属光沢を損なわない程度に行われるものであり、金属質感が高められないと考えられる。
【0021】
上記表面加工部は、基材表面の一部のみでもよいし、本発明部材に表裏がある場合、表側(片面側全面)だけでもよいし、全体(表裏全面)に及んでいてもよい。但し、凹凸加工後に上記塑性加工を行うと、塑性加工により凹凸が潰されて金属質感が低下する恐れがあるときには、凹凸加工を上記塑性加工後に行うことが好ましい。特に表面加工部が片面或いは表裏全面に及ぶ場合、塑性加工により凹凸が潰される可能性が高まるため、凹凸加工を上記塑性加工後に行うことが好ましい。或いは、上記塑性加工時の潤滑剤などを工夫し、表面加工部の凹凸が潰れないように塑性加工を行う場合、凹凸加工後に塑性加工を行うこともできる。例えば、凹凸加工が施された素材を、テフロン(登録商標)といったフッ素樹脂製シートに挟んでプレス加工などを行うことが挙げられる。このような塑性加工を行うと、塑性加工後に得られる部材の表面形状は、塑性加工前の素材の表面形状をほぼそのまま維持できる。従って、例えば、素材として、その全面に凹凸加工が施されたものを用いることで、基材全面が表面加工部である部材を容易に製造できる。
【0022】
<被覆層>
本発明部材は、その表面に透明な被覆層を具えることを特徴の一つとする。透明な被覆層を基材上に具えることで、基材表面に設けられた表面加工部を目視にて確認し易く、金属質感を感じ易い。被覆層は、有色透明でもよいが無色透明であると、基材の地金自体の色合いや風合いをも感じられ、金属質感をより感じ易いと考えられる。なお、透明とは、基材が目視にて確認できる程度を言う。
【0023】
被覆層は、少なくとも防食性を有することが好ましく、更に装飾性を具えると商品価値を高められて好ましい。例えば、被覆層は、防食性を有する防食層と、保護や装飾などに機能する塗装層とを具える多層構造とすることが挙げられる。防食層は、基材側に、塗装層は、防食層の上に配する。
【0024】
上記防食層は、所望の防食性を有するものであれば特に問わない。代表的には、防食処理(化成処理又は陽極酸化処理)により形成されたものが挙げられる。上記防食処理を行うと、基材表面のマグネシウムが酸化して、マグネシウムの酸化物が生成され、この酸化物からなる層が防食層として機能する。この防食層は、プレス加工といった塑性加工前に形成してもよいし、塑性加工後に形成してもよい。塑性加工前に防食層を具えると、塑性加工時にこの層が潤滑剤として機能する傾向がある。更に、この防食層は、微細なクラック(ひび)が生じた状態であるため、クラックに塗装層の構成材料が入り込むことで、塗装層との密着性が高く好ましい。
【0025】
上記防食層は、表面抵抗率が小さいと、具体的には、0.2Ω・cm以下であると、本発明部材が電子機器筐体である場合、接地をとることができて好ましい。表面抵抗率を小さくするには、例えば、被覆層の厚さを薄くすることが挙げられる。防食層の厚さが2μm以下であると、低抵抗の層になり易い。また、上記防食層は、厚さを2μm以下、特に0.5μm以下と薄くすると、透明感が得られ易い。なお、上記筐体などにおいて接地をとる面(筐体の裏面であることが多い)は、装飾性が求められないことが多いため、塗装層を設けず防食層のみとしてもよい。防食層のみとする箇所(例えば、表面抵抗が低いことが望まれる箇所)には、適宜マスキングなどを行って所望の箇所にのみ塗装層を形成するとよい。
【0026】
また、防食層は、特許文献1に記載されるような透明な表面処理剤を用いて形成することができる。
【0027】
上記塗装層は、透明であり、かつ防食層との密着性に優れ、ある程度耐食性や表面硬度に優れるものであれば特に問わない。例えば、透明のアクリル樹脂などの樹脂を用いた公知のクリア塗装や透明のフッ素樹脂を利用することができる。上記樹脂などを利用して塗装層を形成するには、湿式法(浸漬法、スプレー塗装、電着塗装など)、乾式(PVD法、CVD法)のいずれを利用してもよい。本発明部材は、このような透明な塗装層を具えることで、金属質感を高められると共に、商品価値をも高められる。塗装層は、塑性加工により損傷する恐れがある場合、塑性加工後に形成することが好ましい。また、塗装層は、表面加工部における金属質感の良好な表出性や製造のし易さなどを考慮すると、厚さが30μm以下であることが好ましい。塗装層の厚さが厚くなると、外部からの光の反射光が干渉し合い、表面加工部のシャープさがぼやけて金属質感が薄くなる恐れがある。
【発明の効果】
【0028】
本発明マグネシウム合金部材は、金属質感が高く、商品価値を高められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
[試験例1]
マグネシウム合金からなる基材と、その表面を被覆する被覆層とを具えるプレス成形体を作製し、外観についてパネル試験を行った。
【0030】
基材は、以下のように作製する。Mg-9.0%Al-1.0%Zn(全て質量%)の組成(AZ91合金相当の組成)を有する双ロール連続鋳造法により得られた厚さ5.0mmの圧延板を用意する。鋳造はWO/2006/003899に記載の条件で行う。圧延は、加工対象(圧延対象)の加熱温度を200〜400℃、圧延ロールの加熱温度150〜250℃、1パスあたりの圧下率を10〜50%の条件で複数パス行い、厚さが0.5mmの圧延板を作製する。得られた圧延材にレベラー加工、研磨加工を順に施し、所望の大きさに切断した切断片に温間プレス加工を施して、箱状のプレス材を得る。プレス加工は直方体状の凹部を有するダイに、この凹部を覆うように上記切断片を配置して、直方体状のパンチを押し付けることで行う。パンチは60×90mmの直方体状で、切断片に当接する四つ角は所定の丸みを有する。また、上記ダイ及びパンチにはヒーターと熱電対が埋め込まれており、プレス時の温度を所望の温度に調節可能な構成としている。ここでは、200〜300℃に加熱している。
【0031】
なお、圧延途中に中間熱処理を施したり、圧延後に最終熱処理を施して、熱処理前までの圧延により導入された歪みなどを除去してもよい。また、鋳造材に溶体化処理を行ってから圧延を施してもよい。
【0032】
(試験材1-A)
得られた箱状のプレス材において、突出した側の表面全面(約60×90mm)に、加工半径:50mm、深さ:0.02mm(20μm)、ピッチ:0.05mmのダイヤカット加工を施す。この加工は、市販のダイヤカット加工機で行う。この工程により、突出した側の表面全面がダイヤカット加工による表面加工部である基材(プレス材(塑性加工材))が得られる。
【0033】
上記基材に、下地処理を行って多層の被覆層(防食層、塗装層)を形成して、表面加工部を有する基材と被覆層とを具えるマグネシウム合金部材が得られる。下地処理は、脱脂→酸エッチング→脱スマット→表面調整という手順で行う。その後、化成処理→乾燥を行い、防食層(厚さ:約0.5μm)を形成する。脱脂から乾燥までの各工程間には水洗いを行う。塗装層(厚さ:約20μm)の形成は、スプレー塗布→焼付けという手順で行う。塗装層は、基材の外表面側(箱の外側)のみ形成し、内表面側(箱の内側)には形成していない。そのため、内表面側には、塗装層形成前にマスキングを行う。以下、各工程を詳しく説明する(各溶液の濃度は質量%を示す)。この工程により得られたものを試験材1-Aとする。なお、基材表面に欠陥があった場合、適宜パテ埋めと研磨とを行ってもよい。
【0034】
脱脂:10%KOHとノニオン系界面活性剤0.2%溶液の攪拌下、60℃、10分
酸エッチング:5%有機リン酸溶液の攪拌下、40℃、1分
脱スマット:10%KOH溶液の超音波攪拌下、60℃、5分
表面調整:pH8に調整した炭酸水溶液の攪拌下、60℃×5分
化成処理:10%リン酸を主成分とするA社製P系処理液+1%KOHを処理液として使用し、攪拌下、30℃、2分
乾燥:150℃、5分
スプレー塗布:無色透明なアクリル系塗料をスプレー塗布
焼付け:150℃、10分
【0035】
(試験材1-B)
得られた箱状のプレス材に上記ダイヤカット加工を行わない以外の点は、同様にして基材及び被覆層を形成した試料を試験材1-Bとする。
【0036】
得られた試験材1-A,1-Bについて、任意の10人を対象としてパネルテストを実施したところ、10人中9人が試験材1-Aの方が金属質感が高く、意匠性に優れるという回答が得られた。この結果から、基材の表面にダイヤカット加工が施された表面加工部を有し、透明な被覆層を具えるマグネシウム合金部材は、金属質感が高められていることがわかる。なお、パネルテストの対象は、パソコンや携帯電話などのマグネシウム合金部材を用いる製品のターゲット層(例えば、20歳代パソコン好きのグループなど)に応じて選ぶこともできる。以下の試験例についても同様である。
【0037】
[試験例2]
試験例1の試験材1-Aのダイヤカット加工をヘアライン加工に変更した以外の点は、試験材1-Aと同様に作製した試料を試験材2-Aとし、外観についてパネル試験を行った。
【0038】
この試験では、表面粗さがRmax(最大高さ)で10μmであるヘアライン加工を行った。得られた試験材2-Aと、試験例1で作製した試験材1-B(ヘアライン加工やダイヤカット加工を施していないもの)とについて、任意の10人を対象としてパネルテストを実施したところ、10人中8人が試験材2-Aの方が金属質感が高く、意匠性に優れるという回答が得られた。この結果から、基材の表面にヘアライン加工が施された表面加工部を有し、透明な被覆層を具えるマグネシウム合金部材は、金属質感が高められていることがわかる。
【0039】
[試験例3]
試験例1の試験材1-Aにおける塗装層の構成材料を変更した以外の点は、試験材1-Aと同様に作製した試料を試験材3-Aとし、外観についてパネル試験を行った。
【0040】
この試験では、基材に上記試験例1と同様の手順で下地処理及び防食層の形成を行い、その後、無色透明なフッ素樹脂(スミフロン:住友電気工業株式会社登録商標)を塗布して乾燥させる。この工程により、厚さ25μmの透明な塗装層を具える試験材3-Aが得られる。
【0041】
得られた試験材3-Aと、試験例1で作製した試験材1-B(ヘアライン加工やダイヤカット加工を施していないもの)とについて、任意の10人を対象としてパネルテストを実施したところ、10人中9人が試験材3-Aの方が金属質感が高く、意匠性に優れるという回答が得られた。
【0042】
[試験例4]
試験例1の試験材1-Aのダイヤカット加工をエッチング加工に変更した以外の点は、試験材1-Aと同様に作製した試料を試験材4-1A,4-2Aとし、外観についてパネル試験を行った。
【0043】
試験材4-1Aのエッチング加工による表面加工部は、以下のように形成した。箱状のプレス材の表面にレジストを塗布した後、所定の模様のマスクを載せて露光し、光硬化していない部分を溶剤で剥離して所定の模様をパターニングした。その後、イオンミリング装置でプレス材(素材)が露出している部分に深さ10μmのドライエッチングを施し、最後にレジストを除去して、プレス材の突出した側の表面(約60×90mm)に所定の模様の凹凸を設けた。
【0044】
試験材4-2Aのエッチング加工による表面加工部は、以下のように形成した。箱状のプレス材の表面にスクリーン印刷で所定の模様を印刷後、印刷していない部分を酸により深さ20μmのエッチングを施し、最後に印刷部分を除去して、プレス材の突出した側の表面(約60×90mm)に所定の模様の凹凸を設けた。
【0045】
得られた試験材4-1A,4-2Aと試験例1で作製した試験材1-B(エッチング加工などの凹凸加工を施していないもの)とについて、任意の10人を対象としてパネルテストを実施した。その結果、10人中7人が試験材4-1Aの方が金属質感が高く、意匠性に優れるという回答が得られた。また、10人中8人が試験材4-2Aの方が金属質感が高く、意匠性に優れるという回答が得られた。
【0046】
なお、上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、上述した構成に限定されるものではない。例えば、マグネシウム合金の組成、鋳造、圧延、及び塑性加工の条件、鋳造後及び圧延後の板厚、凹凸加工の形成方法、形成条件、被覆層の形成材料、形成方法などを適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明マグネシウム合金部材は、金属質感が高いため、携帯電気機器類の筐体といった意匠性に優れることが望まれる分野に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなる基材と、この基材の上に形成された被覆層とを具えるマグネシウム合金部材であって、
前記基材は、その表面の少なくとも一部に、金属質感が得られるように、微細な凹凸加工が施された表面加工部を具え、
前記被覆層は、透明であることを特徴とするマグネシウム合金部材。
【請求項2】
前記基材は、Mg-Al系マグネシウム合金からなる圧延材で構成され、Alを8質量%以上11質量%以下含有することを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項3】
前記基材は、前記圧延材にプレス加工が施されたプレス材であることを特徴とする請求項2に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項4】
前記凹凸加工は、切削加工、研削加工、吹き付け加工及び酸を用いた腐食加工の少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項5】
前記凹凸加工は、ヘアライン加工、ダイヤカット加工、スピンカット加工、ショットブラスト加工、及びエッチング加工の少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項6】
前記表面加工部における表面粗さがRmaxで1μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項7】
前記被覆層は、基材側に配される防食層と、防食層の上に配される塗装層とを具えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項8】
前記防食層は、マグネシウムの酸化物を含むことを特徴とする請求項7に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項9】
前記防食層は、その厚さが2μm以下である(但し、0μmを除く)ことを特徴とする請求項7又は8に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項10】
前記塗装層は、その厚さが30μm以下である(但し、0μmを除く)ことを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。
【請求項11】
前記塗装層は、透明な樹脂からなることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載のマグネシウム合金部材。

【公開番号】特開2009−120877(P2009−120877A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293690(P2007−293690)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】