説明

マグネシウム複合材およびその製造方法

【課題】各種産業分野における機器、装置部材の軽量化・高強度化やその他マグネシウム金属の特長を有する接合力の強いマグネシウム複合材料の提供。
【解決手段】純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とを、火薬、ガス、レーザー又は電気・電磁気を利用することによって高速度で衝突させて、純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とがその界面で金属冶金的に接合したマグネシウム複合材を得る。該他の金属は、純アルミニウム、アルミニウム合金、純チタン、チタン合金、純鉄、炭素鋼、SUS、純Ni、Ni基合金、純銅、銅合金、純Zr、Zr合金、Ta、Mo、Nb、W、銀、金および白金から選ばれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造用部材、機能用部材及び異材継手部材に適したマグネシウム複合材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金(以下マグネシウム金属と記す)は、実用金属の中で最も軽く、比強度・比剛性も高いといった構造用部材としての優れた特長や放熱性・電磁波シールド性・振動吸収性・リサイクル性・寸法変化性・切削性・耐くぼみ性が優れているといった高付加価値的な特長を有しているため、各種構造用途や機能材料用途あるいは継手用途への活用が期待されている。特に輸送機器分野の自動車産業や産業機器分野のロボット産業あるいは電子機器分野においては、主に軽量化を目的とした本材料の開発が近年益々盛んになってきている。
【0003】
しかしマグネシウム金属は前述の優れた性能を持っている反面、耐食性が悪く、結晶構造が六方晶のため冷間における塑性加工が困難であり、沸点が低く且表面張力が低いために溶融をともなう接合が非常に難しく、また熱膨張係数が大きいため一般的な溶融を伴う接合方法では接合後に大きな熱変形を発生するといった問題がある。特にマグネシウム金属と他金属の接合に関しては、前述した課題以外にマグネシウム金属と接合させる異種金属との界面に金属間化合物や合金層発生の問題もあり、マグネシウム金属と他金属との複合材は未だ工業化まで到達していない。
【0004】
特許文献1にはマグネシウムにアルミニウムを接合させた複合材についての記載があるが、その製造方法は直接的な接合ではなく、材料を銀や銅を中間材として積層した後にマンドレル法で押し出したり、冷間加工で圧着したりしてクラッド材を製造するというものである。
【0005】
特許文献2には、マグネシウムにアルミニウムを被覆してなる複合材についての記載があるが、その接合方法は加熱によって拡散接合するというものである。
特許文献3には、マグネシウム合金とアルミニウム合金とを接合させてなる複合材についての記載があるが、これは一方の材料を空隙部を有する軽量構造体とし、接合面に熱硬化性接着剤等の接着剤を接合面に塗布した後加熱接着するか、接着剤を用いずに加圧下で加熱して固相接合するというものである。
【0006】
【特許文献1】特願平5−115879号公報
【特許文献2】特願2001−390409号公報
【特許文献3】特願2002−365377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マグネシウム金属のもつ軽量・高比強度・高比剛性・放熱性・振動吸収性・電磁波シールド性・リサイクル性・寸法変化性・切削性・耐くぼみ性といった各種長所を活かし、かつ耐腐食性、難塑性変形、難溶接性、難接合性を改善・制御することで各種産業分野における機器・装置の軽量化や強度向上あるいはマグネシウム金属のその他特長を有する接合力の強いマグネシウム複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、マグネシウム金属を他の金属と高速度で衝突させることによってマグネシウム金属の特長を活かし、かつ短所を改善・制御した接合力の強い複合材を製造することができることを見出し、本発明をなすにいたった。
すなわち、本発明は次に記載する通りの構成を有する。
【0009】
(1)純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とを高速度で衝突させることによって得られた、純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とがその界面で金属冶金的に接合してなる材料。
(2)前記他の金属が、純アルミニウム、アルミニウム合金、純チタン、チタン合金、純鉄、炭素鋼、SUS、純Ni、Ni合金、純銅、銅合金、純Zr、Zr合金、Ta、Mo、Nb、W、銀、金および白金よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記(1)に記載のマグネシウム複合材。
(3)純マグネシウムまたはマグネシウム合金と前記他の金属にて構成される3層以上の複合材であることを特徴とする請求項1または2記載のマグネシウム複合材。
(4)構造用部材、機能用部材又は異種金属同士の継手材として使用されることを特徴とする上記(1)〜(3)に記載のマグネシウム複合材。
【0010】
(5)板状、帯状、リング状、パイプ状、ロッド状の形状をした材料において、該材料の全体あるいはその一部が上記(1)〜(3)に記載のマグネシウム複合材からなることを特徴とするマグネシウム複合材。
(6)化学プラント機器・設備、発電プラント機器・設備、輸送機器・設備、電子機器・設備及び産業用・商業用・一般家庭用ロボットよりなる群から選ばれる一種の部品・部材として用いられることを特徴とする上記(1)〜(5)に記載のマグネシウム複合材。
(7)火薬、ガス、レーザー又は電気・電磁気を利用することによって純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とを高速度で衝突させることを特徴とする上記(1)〜(6)に記載のマグネシウム複合材の製造方法。
(8)純マグネシウムまたはマグネシウム合金を母材あるいは中間材とし、他の金属を高速度で衝突させることを特徴とする請求項(1)〜(6)のいずれかに記載のマグネシウム複合材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマグネシウム複合材は、マグネシウムの特長を活かし、かつ短所を改善・制御したものである。
本発明のマグネシウム複合材を用いることにより、装置又は機器類の軽量化や高強度化をすることが可能となる。またこの複合材を継手とすることで、同種材料同士の接合が可能となり、異材溶接による溶接不良要因をなくすことができる。またマグネシム金属そのものがもつ放熱性・電磁波シールド性・振動吸収性・リサイクル性・寸法変化性・切削性・耐くぼみ性といった特長を活かした用途への適用も可能になる。特に本発明の複合材は接合力が非常に高く、また広い面積の複合材の製作も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明において「高速で衝突させる」における「高速」とは、材料衝突時の速度が10m/sec以上の速度であり、好ましくは100m/sec以上の速度である。
また本発明において用いる火薬としては、ニトログリセリン、ニトログリコール、ニトロセルロース、PETN(ペンタエリスリトールテトラナイトレート)、TNT(トリニトロトルエン)、シクロトリメチレントリニトラミン、シクロテトラメチレンテトラニトラミン、硝酸アンモニウム、硝酸カリウムといった物質を有する火薬類を挙げることができ、それらを爆発させることで発生する衝撃波あるいはガス膨張力を利用し材料を高速で飛翔させることができる。
【0013】
また本発明において用いるガスとしては、アジ化ナトリウム、硝酸アンモニウム系といったガス膨張剤から発生するガスを用いることができ、ガス膨張剤のガス膨張力を利用して材料を高速で飛翔させることができる。
【0014】
レーザーとしては高出力のレーザーを用いることができ、高出力レーザーを直接材料に照射し材料を飛翔させるかあるいは内部が高圧力になっている容器の一端をレーザーで瞬間的に破壊することで、高圧の気体を急激に膨張させて衝撃波を発生させることで材料を高速で飛翔させることができる。
【0015】
電気・電磁気とは、電気による電磁場、電磁力のことであり、コイルに電流を流すことで発生する磁束と材料内部に生じる渦電流と電磁力を利用して材料を高速度で飛翔させることができる。
【0016】
また合せ材とは火薬、ガス、レーザー、電気、電磁気の力が最初に作用する複合材を構成する1つの金属層のことであり、母材とは合せ材の下に配置された合せ材の衝突を受ける金属層である。但し3層以上を同時に接合させる場合は、合せ材と母材の間に配置される金属層が中間材となり、この中間材が母材と同じように合せ材の衝突を受ける金属層になる。爆発圧着では、合せ材が最も大きな塑性変形を受け、ついで中間材、母材となる。中間材も合せ材の衝突と同時に接合を開始し、塑性変形をしながら母材に衝突するが、合せ材以下の変形量であり、かつ合せ材と接合していることで中間材の変形特性を制御することができる。
【0017】
マグネシウム金属は冷間加工において塑性変形が困難な材料であるため、爆発圧着においては変形量が少ない母材として用い、接合させたい他の金属を合せ材として高速度で衝突させることが好ましく、3層以上を同時に接合させる場合は、マグネシウム金属を塑性変形量の少ない母材あるいは中間材とすることが好ましい。中間材においては前述した通り母材より大きな塑性変形をするためマグネシウム金属には適しにくい環境であるが、3層の場合には、中間材にしたマグネシウムが合せ材と接合した状態で変形するために、マグネシウム材の破壊が抑制され、かつ変形状態も合せ材に準じるため接合しやすい衝突環境になると考えられる。またマグネシウム金属の母材および中間材の厚みは1mm以上が好ましく、3mm以上が更に好ましい。
【0018】
また、接合させる2種類の金属層あるいは3種類以上の金属層の間には不活性ガスを充填することが好ましい。これは、金属層間に存在する反応性ガスを減少させることで、接合させる両金属の一方あるいは両方と反応性ガスが反応することを防止し良好な接合界面にするためであり、また不活性ガスによるメタルジェットの排出を抑制するためである。不活性ガスとしては、Ar、He、N等を挙げることができ、これらのガスを単独でまたは混合ガスとしても使用することができる。
また本発明の複合材は接合強度が強いため、熱間圧延等により薄板あるいは箔状に加工することもできる。
【0019】
本発明の方法を実施するための装置の一例を図1および図2で説明する。
図1は板状のマグネシウム母材5の上部に支持物4を介して板状のアルミニウム合せ材3をセットし、アルミニウム合せ材3の上に、硝酸アンモニウム系爆薬1をセットする。その爆薬の任意の1点に雷管2をセットし起爆させることでアルミニウムをマグネシウム合金に高速で衝突させる。接合させたい材料の間には、不活性ガスを充填しても良いし、しなくても良い。またそれぞれの材料は平行でも良いし、ある程度の傾斜を持っていてもよい。また複合材の接合界面は波状の凹凸を形成することが好ましい。波の形成により接合面積が増加かつ界面近傍が加工硬化し、材料による熱膨張の差の吸収や接合強さの向上により安定した物性になる。波の高さは10〜500μmが好ましく、50〜300μmが更に好ましい。
図2は3層の材料を同時に接合させる装置で、図1の装置に金属層を更に1層多く配置したものである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は以下の実施例に示されたものに限定されるものではない。
【0021】
[実施例1]
本実施例では、図1に示した装置を用いて板状のマグネシウム合金とアルミニウム合金を接合させた。接合条件(爆着条件)は表1に示す条件とし、合せ材としてアルミニウム合金、母材としてマグネシウム合金を用いて両者を爆発圧着した。その結果、光学顕微鏡の接合界面観察では良好な接合状態であり、またJISG0601に準じたせん断試験では87N/mmの強い接合力を有するものであった。
【0022】
【表1】

【0023】
[実施例2]
本実施例では、図1に示した装置を用いて板状のステンレス鋼とマグネシウム合金を接合させた。接合条件(爆着条件)は表2に示す条件とし、合せ材としてステンレス鋼、母材としてマグネシウム合金を用いて両者を爆発圧着した。その結果、光学顕微鏡の接合界面観察では良好な接合状態であり、またJISG0601に準じたせん断試験では126N/mm、133N/mmの強い接合強度を有するものであった。
【0024】
【表2】

【0025】
[実施例3]
本実施例では、図1に示した装置を用いて板状の純チタンとマグネシウム合金を接合させた。接合条件(爆着条件)は表3に示す条件とし、合せ材として純チタン、母材としてマグネシウム合金を用いて両者を爆発圧着した。その結果、光学顕微鏡の接合界面観察では良好な接合状態であり、またJISG0601に準じたせん断試験では117N/mm、156N/mmの強い接合強度を有するものであった。
【0026】
【表3】

【0027】
[実施例4]
本実施例では、図1に示した装置を用いて板状のステンレス鋼とマグネシウム合金を接合させた。接合条件(爆着条件)は表4に示す条件とし、合せ材としてステンレス鋼、母材としてマグネシウム合金を用いて両者を爆発圧着した。その結果、光学顕微鏡の接合界面観察では良好な接合状態であり、またJISG0601に準じたせん断試験では151N/mm、156N/mmの強い接合強度を有するものであり、またJISG0601に準じたウラ曲げ試験(5T、180度曲げ)においても、図3に示すように割れ・剥離および欠陥指示模様も全く認められず良好な結果であった。
【0028】
【表4】

【0029】
[実施例5]
本実施例では、図2に示した装置を用いて板状のマグネシウム合金の両面に純チタンを接合させた。接合条件(爆着条件)は表5に示す条件とし、合せ材として純チタン、中間材としてマグネシウム合金、母材として純チタンを用いて3層を同時に爆発圧着した。その結果、マグネシム合金での割れはほとんど認められず、光学顕微鏡の接合界面観察でも良好な接合状態であり、また超音波探傷試験においても外周部以外は良好な接合状態であった。
【0030】
【表5】

【0031】
[実施例6]
本実施例では、図1に示した装置を用いて板状のマグネシウム合金とステンレス鋼を接合させた。接合条件(爆着条件)は表6に示す条件とし、合せ材としてマグネシウム合金、母材としてステンレス鋼を用いて両者を爆発圧着した。その結果、マグネシウム合金表面全体に若干の割れが見られたが、光学顕微鏡の接合界面観察および超音波探傷試験では良好な接合状態であり、爆発圧着による接合は可能であることは確認出来た。
【0032】
【表6】

【0033】
[比較例1]
新潟県工業技術総合研究所発行の工業技術研究報告書 No.32 2003 P131〜137(平成15年10月)に掲載の論文「マグネシウム合金を中心としたエコマテリアルの接合技術の開発」における、マグネシウム合金(AZ31B)材同士のレーザー重ね接合体試験内容を表7に示す。このマグネシウム同士の接合体における引張せん断強さは約50MPaである。
【0034】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0035】
低比重・高比強度・高比剛性であるマグネシウム金属の特長を有するマグネシウム複合材により、装置又は機器類の軽量化や高強度化が可能となる。またこの複合材を継手とすることで、同種材料同士の接合が可能となり、異材溶接による溶接不良要因をなくすことができる。またマグネシム金属そのものがもつ放熱性・電磁波シールド性・振動吸収性・リサイクル性・寸法変化性・切削性・耐くぼみ性といった特長を活かした用途への適用も可能になる。特に本特許の複合材は接合力が非常に高く、また広い面積の複合材の製作も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の実施例で用いた製造装置の模式図である。
【図2】本発明の実施例で用いた製造装置の模式図である。
【図3】本発明の実施例4で得たサンプルについて曲げ試験をした結果を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 爆薬
2 雷管
3 合せ材
4 支持物
5 母材
6 母材(中間材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とを高速度で衝突させることによって得られた、純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とがその界面で金属冶金的に接合してなるマグネシウム複合材。
【請求項2】
前記他の金属が、純アルミニウム、アルミニウム合金、純チタン、チタン合金、純鉄、炭素鋼、SUS、純Ni、Ni合金、純銅、銅合金、純Zr、Zr合金、Ta、Mo、Nb、W、銀、金および白金よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム複合材。
【請求項3】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金と前記他の金属にて構成される3層以上の複合材であることを特徴とする請求項1または2記載のマグネシウム複合材。
【請求項4】
構造用部材、機能用部材又は異種金属同士の継手材として使用されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム複合材。
【請求項5】
板状、帯状、リング状、パイプ状、ロッド状の形状をした材料において、該材料の全体あるいはその一部が請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム複合材からなることを特徴とするマグネシウム複合材。
【請求項6】
化学プラント機器・設備、発電プラント機器・設備、輸送機器・設備、電子機器・設備及び産業用・商業用・一般家庭用ロボットよりなる群から選ばれる一種の部品・部材として用いられることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のマグネシウム複合材。
【請求項7】
火薬、ガス、レーザー又は電気・電磁気を利用することによって純マグネシウムまたはマグネシウム合金と他の金属とを高速度で衝突させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマグネシウム複合材の製造方法。
【請求項8】
純マグネシウムまたはマグネシウム合金を母材あるいは中間材とし、他の金属を高速度で衝突させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のマグネシウム複合材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−15018(P2007−15018A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108250(P2006−108250)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】