マグネトロンスパッタ装置及び電子部品の製造方法
【課題】膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜に調節可能とする。
【解決手段】非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、ターゲットTから放出させたスパッタ粒子を基板S上に付着させて膜を形成する。非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、処理室11が形成された真空容器10と、処理室11内に配設され、基板Sを保持する基板保持部2と、処理室11内に配設され、ターゲットTを保持すると共にターゲットTの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極3と、基板Sに電圧を印加するバイポーラパルス電源15と、マグネトロン電極3を介してターゲットTに電圧を印加する可変直流電源17とを備えている。バイポーラパルス電源15は、基板Sに対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加する。
【解決手段】非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、ターゲットTから放出させたスパッタ粒子を基板S上に付着させて膜を形成する。非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、処理室11が形成された真空容器10と、処理室11内に配設され、基板Sを保持する基板保持部2と、処理室11内に配設され、ターゲットTを保持すると共にターゲットTの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極3と、基板Sに電圧を印加するバイポーラパルス電源15と、マグネトロン電極3を介してターゲットTに電圧を印加する可変直流電源17とを備えている。バイポーラパルス電源15は、基板Sに対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタを利用した電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、マグネトロン放電を利用してスパッタリングを行う、いわゆるマグネトロンスパッタ装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたマグネトロンスパッタ装置では、内部に気密な処理室が形成された容器内に、基板を保持する基板保持部と、ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、基板とターゲットとの間に設けられた高周波コイルとが設けられている。さらに、容器の外周部には、容器の軸方向におけるターゲットと高周波コイルとの間の位置に、容器の内側に向かって磁力線を出す外部永久磁石が配設されている。このマグネトロンスパッタ装置は、容器の外周に設けた外部永久磁石によって、マグネトロン電極による磁界をターゲット表面に押さえつけて、ターゲット表面の磁界を強くしている。こうすることで、ターゲット表面におけるイオン密度を向上させて、スパッタ粒子を活発に放出させている。さらに、ターゲットと基板との間に高周波コイルを設けることによって高周波コイル内にプラズマを生成すると共に、外部永久磁石からの磁力線に該高周波コイルを貫通させることによって高周波コイル内を通過するスパッタ粒子と電子との衝突頻度を高め、スパッタ粒子のイオン化を促進している。そして、基板に負の電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板に付着させている。
【特許文献1】特開2006−307243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されたマグネトロンスパッタ装置では、基板に負の電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板に付着させている。しかしながら、かかる構成では、基板に成膜される膜の結晶配向性や結晶粒度等を制御するために、基板側でできることは、該基板に印加している負の電圧の電圧値を調節することだけである。すなわち、負の電圧の電圧値を調節することでしか、基板に成膜される膜の結晶配向性や結晶粒度等を制御することができない。
【0005】
ここで、膜の結晶配向性の向上や結晶粒度の拡大が望まれているのはもちろんであるが、場合によっては、膜の結晶配向性を所望の状態にしたり、結晶粒度をできる限り大きくというわけではなく、所望の大きさにしたりすることが望まれる場合もある。つまり、膜の結晶配向性や結晶粒度等を柔軟に制御することが望まれている。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜に調節可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示するマグネトロンスパッタ装置は、ターゲットから放出させた粒子を基板上に付着させて膜を形成するためのマグネトロンスパッタ装置であって、内部に気密な処理室が形成された容器と、前記処理室内に配設され、前記基板を保持する基板保持部と、前記処理室内に配設され、前記ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、前記基板に電圧を印加する基板側電源と、前記マグネトロン電極を介して前記ターゲットに電圧を印加するターゲット側電源とを備え、前記基板側電源は、前記基板に対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加するものとする。
【0008】
また、ここに開示する電子部品の製造方法は、基板にマグネトロンスパッタによって膜を形成してなる電子部品の製造方法であって、ターゲットに電界と磁界とを作用させてマグネトロン放電を行わせると共に、基板に負の電圧と正の電圧とを交互に印加するものとする。
【発明の効果】
【0009】
ここに開示されたマグネトロンスパッタ装置によれば、負の電圧及び正の電圧それぞれの諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性及び結晶粒度等を適宜に調節することができる。
【0010】
ここに開示された電子部品の製造方法によれば、負の電圧及び正の電圧それぞれの諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜に調節した基板よりなる電子部品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態に係る非平衡マグネトロンスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【0013】
非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、真空容器10と、真空容器10内の上部に配設されて基板Sを保持する基板保持部2と、真空容器10の底部を構成すると共にターゲットTを保持するマグネトロン電極3と、マグネトロン電極3の近傍位置において真空容器10の外周を囲むように設けられたソレノイドコイル4と、真空容器10内においてターゲットTと基板Sとの間に設けられたRFコイル5とを備えている。この非平衡マグネトロンスパッタ装置1がマグネトロンスパッタ装置を構成する。
【0014】
真空容器10は、概略円筒状の容器であって、その内部に処理室11を形成している。真空容器10には、Ar等のスパッタガスを処理室11に供給するための供給ポート12と、処理室11から排気すると共に処理室11内を所定の減圧雰囲気に設定するための排気ポート13とが設けられている。処理室11は、排気ポート13からの排気されることで所定の真空状態にした後、供給ポート12からスパッタガスが供給されて所定の圧力に設定されている。
【0015】
基板保持部2は、概略円盤形状をしていて、表面が保護層で被覆された導電性材料で構成されている。この基板保持部2は、下面において基板Sを保持するように構成されている。この基板Sは絶縁体で構成されている。
【0016】
基板保持部2には、ローパスフィルタ14を介して、バイポーラパルス電源15が接続されている。バイポーラパルス電源15は、負電圧パルスと正電圧パルスとを交互に出力する。詳しくは、バイポーラパルス電源15は、所定の負の電圧値を有し且つ所定の時間幅の負電圧パルスと、所定の正の電圧値を有し且つ所定の時間幅の正電圧パルスとを1セットのパルス電圧として、該パルス電圧を連続的に出力する。このバイポーラパルス電圧は、負電圧パルスの電圧値の絶対値の方が正電圧パルスの電圧値の絶対値よりも大きい。また、バイポーラパルス電圧は、負電圧パルスの時間幅の方が正電圧パルスの時間幅よりも長い。このバイポーラパルス電源15が基板側電源を構成する。
【0017】
マグネトロン電極3は、概略円盤形状をしていて、表面が保護層で被覆された導電性材料で構成されている。このマグネトロン電極3は、磁石を内蔵していると共に、上面においてターゲットTを保持するように構成されている。ターゲットTは、基板保持部2に保持された基板Sと対向する状態で保持される。詳しくは、マグネトロン電極3には、中央に第1磁石31がS極をターゲットTに向けた状態で配設され、該第1磁石31を囲むようにして複数の第2磁石32,32,…がN極をターゲットTに向けた状態で配設されている。本実施形態では、4つの第2磁石32,32,…が、第1磁石31を中心とする円周上に互いに略90°の間隔を空けて配置されている。このように構成されたマグネトロン電極3においては、第2磁石32,32,…のN極から出た磁力線がターゲットTを裏側から表側に貫通して、第1磁石31が位置するターゲットTの中央に向かって湾曲しながら、最終的には、ターゲットTを表側から裏側に貫通して第1磁石31へ入射する。
【0018】
マグネトロン電極3には、ローパスフィルタ16を介して可変直流電源17が接続されている。この可変直流電源17がターゲット側電源を構成する。
【0019】
ソレノイドコイル4は、基板Sの中心とターゲットTの中心とを結ぶ軸X方向において、ターゲットTの表面近傍の位置(少なくとも、基板SよりはターゲットTに近接した位置)に配設されている。ソレノイドコイル4には、可変直流電源41が接続されている。ソレノイドコイル4に所定の直流電流を供給することによって、磁力線が真空容器10の内方へ向かう磁界が形成される。このソレノイドコイル4が外部磁界形成部を構成する。
【0020】
RFコイル5は、ソレノイドコイル4の近傍であって、ソレノイドコイル4よりも基板S側に配設されている。RFコイル5は、基板Sの中心とターゲットTの中心とを結ぶ軸X回りに巻回されている。
【0021】
RFコイル5の一端には、マッチング回路18を介して高周波電源19が接続されている。尚、RFコイル5の他端には何も接続されていないが、アースや高周波電源に接続されるようにしてもよい。
【0022】
このように構成された非平衡マグネトロンスパッタ装置1の動作について説明する。
【0023】
まず、前記処理室11内にスパッタガスを供給すると共に所定の圧力に設定する。そして、前記バイポーラパルス電源15、可変直流電源17、高周波電源19及び可変直流電源41をそれぞれオン状態にする。
【0024】
すると、基板保持部2及びマグネトロン電極3の近傍にはそれぞれ電界が形成される。
【0025】
また、ターゲットTの表面には、第1磁石31及び第2磁石32,32,…によって磁界が形成される。詳しくは、ターゲットTの径方向外側に位置する第2磁石32,32,…のN極から出た磁力線は、ターゲットTの表面近傍において湾曲しながらターゲットTの中央に位置する第1磁石31のS極へ向かう。
【0026】
このとき、ソレノイドコイル4によっても磁界が形成されている。詳しくは、ソレノイドコイル4から真空容器10の中央に向かって磁力線が出ており、この磁力線はターゲットTの中央に位置する第1磁石31のS極に入射する。その結果、ターゲットTの表面において第2磁石32,32,…から第1磁石31へ向かう磁力線が、ソレノイドコイル4からの磁力線によってターゲットT表面に押し付けられることになる。その結果、ターゲットT表面における磁界がターゲットT表面の広い範囲で強くなる。
【0027】
これにより、ターゲットT表面近傍において、スパッタガスと電子との衝突頻度が高くなり、ターゲットT表面近傍におけるイオン密度が高くなる。そして、プラズマ化したガスイオンは、陰極であるターゲットTに引き寄せられ、ターゲットTに衝突する。この衝突によって、ターゲットTからスパッタ粒子が放出される。前述の如く、ターゲットT表面近傍におけるイオン密度が高いため、スパッタ粒子が活発に放出される。
【0028】
ここで、ソレノイドコイル4からの磁力線は、第1磁石31へ向かうだけでなく、他の方向にも分散する。本実施形態では、ソレノイドコイル4からの磁力線のうち一部は、RFコイル5内を通って基板S側へ向かう。ここで、RFコイル5には高周波電源19から高周波電力が供給されており、RFコイル5では放電が起こっている。その結果、RFコイル5から放電により発生した電子がRFコイル5内を貫通する磁力線に捕捉され、該磁力線回りを回転運動することになる。そして、このRFコイル5内をスパッタ粒子が通過すると、スパッタ粒子と電子との衝突が促進され、より多くのスパッタ粒子がイオン化する。
【0029】
ここで、基板Sには、バイポーラパルス電源15からバイポーラパルス電圧が印加されており、基板Sに負電圧パルスが印加されているときには、イオン化されたスパッタ粒子が基板Sに引きつけられ、該基板Sに堆積していく。イオン化されたスパッタ粒子が堆積していくと、基板Sは正に帯電していくが、基板Sに正電圧パルスが周期的に印加されることによって基板Sに電子が引き込まれ、基板Sの帯電が打ち消される。その結果、基板Sのチャージアップを防止することができる。こうして、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板Sに引きつけつつ、周期的に基板Sに正の電圧を印加して基板Sの帯電を打ち消すことができ、スパッタ粒子を基板Sに堆積させ続けることができる。つまり、正電圧パルスの電圧値及び時間幅は、基板Sへの帯電を中和できる程度の阿智に設定されている。そして、このときのバイポーラパルス電圧における、負の電圧パルスの大きさ及び時間幅、並びに正の電圧パルスの大きさ及び時間幅を調節することによって、基板Sに形成される膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜、調節することができる。
【0030】
このようにして、結晶配向性を向上させ且つ結晶粒度を大きくした膜が形成された基板Sからなる電子部品を製造することができる。
【0031】
以下に、非平衡マグネトロンスパッタ装置1を用い、バイポーラパルス電源15からのバイポーラパルス電圧の仕様を変化させると共に、ソレノイドコイル4による磁束密度を変化させることによって、実際に得られた薄膜について説明する。
【0032】
基板Sには、(100)の結晶方位を持ったP型のシリコンであって、その表面に厚さ約100nmの熱酸化膜を形成したものを用いた。ターゲットTには、Cuを、スパッタガスには、Ar(純度6N)を用いた。Arガス流量を1sccmとして、真空容器10内の最終到達圧力を所定の圧力にした。
【0033】
RFコイル5は、3回巻回して形成した。そして、RFコイル5には、13.56MHzの高周波電圧を高周波電源19から印加した。このときの高周波電力は、30Wである。
【0034】
ターゲットTには、可変直流電源17によって0.7kWの電力を供給した。
【0035】
基板Sには、バイポーラパルス電源15によって60Hzのバイポーラパルス電圧を印加した。
【0036】
そして、バイポーラパルス電圧の電圧値(最大値,最小値)Vs及びデューティ比を種々変化させると共に、ソレノイドコイル4に供給する直流電圧を種々変化させて、Cu薄膜を作成した。Cu薄膜は、膜厚が500nmとなるように形成した。膜厚は、水晶振動子式膜厚計及び多重干渉法により測定した。
【0037】
そして、結晶構造を、X線回折法(WRD,CuKα)により評価すると共に、表面構造を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観測した。
【0038】
ソレノイドコイル4の中央における垂直磁束密度Bcを変化させたときの、RFコイル5の内側でターゲットTの表面から60mmの位置におけるターゲットTと垂直方向の磁束密度をテスラメータを用いて測定した。その結果を図2に示す。図2からわかるように、ターゲットT上の広範囲において比較的均一な磁場のまま垂直磁束密度の制御が可能であることがわかる。
【0039】
図3〜5に、バイポーラパルス電圧の電圧値Vs、デューティ比及びソレノイドコイル4の中央における垂直磁束密度Bcを種々変化させることによって得られたCu薄膜のX線回折パターンを示す。尚、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsは、括弧内の前の数値が最大値(即ち、正電圧パルスの電圧値)を、後の数字が最小値(即ち、負電圧パルスの電圧値)を表す。例えば、Vs=(+1,−100)Vは、正電圧パルスの電圧値が1Vで、負電圧パルスの電圧値が−100Vのバイポーラパルス電圧であることを表している。また、デューティ比は、1つの正電圧パルスと1つの負電圧パルスとの合計の時間幅を1周期として、1周期に対する正電圧パルスの時間幅の比を表す。尚、バイポーラパルス電圧の周波数は、前述の如く、60Hzである。
【0040】
図3から、X線回折パターンがバイポーラパルス電圧の電圧値Vsによって著しく変化することがわかる。電圧値Vs=(+1,−100)Vのときに、結晶性が最も向上したCu薄膜が得られた。
【0041】
図4では、デューティ比が20のときに、結晶性が最も向上したCu薄膜が得られた。これは、デューティ比が20%では、イオンによる基板Sの照射が最も効率的に行われ、結晶性の向上を助長したものと考えられる。さらに、基板Sへの電子の過剰流入は結晶性へ悪影響を与えることが示唆される。
【0042】
そこで、図5では、バイポーラパルス電圧の電圧値Vs=(+1,−100)Vで、デューティ比が20%の条件のもと、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを変化させてCu薄膜を作製した。
【0043】
図5では、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcを増加させることによって、結晶性が向上することがわかる。これは、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを増加させることによって、基板S上におけるイオン化率が上昇して、基板Sへのイオン入射量が増加し、イオン照射自身による表面拡散が著しくなり、結晶性が向上したものと考えられる。ただし、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcが4mT(図4(C)参照)や8mTのときと比べて、12mTのときには結晶性が劣化している。つまり、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcを大きくすることで結晶性が向上するものの、垂直磁束密度Bcをあまり大きくすることは好ましくない。
【0044】
続いて、前記のようにして得られたCu薄膜のAFM像(視野範囲1μm×1μm)を図6〜8に、平均表面粒径を測定した結果を図9〜11に示す。
【0045】
バイポーラパルス電圧のデューティ比が20%で、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcが4mTの状態で、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsを変化させると、図6からわかるように、電圧値Vsの最小値を小さくするほど、表面粒径が大きくなっていることがわかる。図9に示すように、電圧値Vs=(+1,−60)Vのときの平均表面粒径は約64.1nmで、電圧値Vs=(+1,−80)Vのときの平均表面粒径は約94.4nmで、電圧値Vs=(+1,−100)Vのときの平均表面粒径は約116.0nmであった。このことから、電圧値Vsの増加に伴い基板Sに入射するイオンによる表面拡散が助長されたと考えられる。
【0046】
また、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsが(+1,−100)Vで、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcが4mTの状態で、バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させると、図7からわかるように、デューティ比を低下させるほど、表面粒径が大きくなっていることがわかる。図10に示すように、デューティ比が50%のときの平均粒径は約35.0nmで、デューティ比が33%のときの平均粒径は約55.2nmで、デューティ比が20%のときの平均粒径は約116.0nmであった。このことから、基板Sへの電子の過剰流入は、粒径成長に悪影響を与えることが示唆される。
【0047】
さらに、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsが(+1,−100)Vで、そのデューティ比が20%の状態で、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを変化させると、図8からわかるように、表面粒径が変化することがわかる。図11に示すように、垂直磁束密度Bcが0mTのときの平均粒径は約26.9nmで、垂直磁束密度Bcが8mTのときの平均粒径は約202.0nmで、垂直磁束密度Bcが12mTのときの平均粒径は約196.0nmであった。このことから、垂直磁束密度Bcを増加することによって、基本的には、基板S上におけるイオン化率が上昇して、基板Sへのイオン入射量が増加し、それにより、イオン照射自身による表面拡散が著しくなって粒径が大きく成長するものと考えられる。ただし、垂直磁束密度Bcを大きくすればするほど、表面粒径が大きくなるわけではない。
【0048】
このように、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsの最小値を小さくし、バイポーラパルス電圧のデューティ比を小さくし(即ち、負の電圧を印加する時間を長くし)、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを大きくすることによって、結晶配向性が良好で且つ表面粒径が大きな薄膜を形成することができる。また、これらバイポーラパルス電圧の電圧値Vs、バイポーラパルス電圧のデューティ比及びソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcの少なくとも1つを適宜に調節することによって、基板Sに形成される膜の結晶配向性及び表面粒径を適宜に調節することができる。
【0049】
ここで、基板Sに直流電圧を印加する構成と、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成とを比較すべく、それぞれの構成で成膜されたCu薄膜のX線回折パターンを図12に、AFM像(視野範囲1μm×1μm)を図13に示す。
【0050】
基板Sに直流電圧を印加する構成においては、直流電圧の電圧値を−100Vとし、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを4mTとした。基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成においては、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsを(+1,−120)V、デューティ比を20%とし、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを4mTと8mTとで変化させた。
【0051】
基板Sに直流電圧を印加する構成では、図12(A)からわかるように、結晶配向性を示す強度分布において複数のピークを有している。それに対して、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成では、図12(B)、(C)からわかるように、結晶配向性を示す強度分布においてピークは1つだけとなっている。また、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、図13からわかるように、基板Sに直流電圧を印加する構成と比較して、結晶粒度が大きくなっていることがわかる。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、非平衡マグネトロンスパッタ装置1において基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、結晶配向性が良好で且つ結晶粒度の大きな膜を基板S上に形成することができる。また、バイポーラパルス電圧の、負電圧パルスの電圧値やその時間幅、正電圧パルスの電圧値やその時間幅等、様々な諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性や結晶粒度を適宜に調節することができる。
【0053】
特に、基板Sが絶縁体である場合には、イオン化したスパッタ粒子の基板Sへの体積による基板Sのチャージアップを防止することができるため、結晶配向性が良好で且つ結晶粒度の大きな膜を形成することができる。すなわち、従来のように基板Sに直流のバイアス電圧を印加する構成では、基板Sを絶縁体で構成した場合、スパッタ粒子を基板S上に付着させて成膜を行うことはできるものの、結晶配向性があまり良くなく、結晶粒度も小さい。それに対して、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、基板Sの帯電を中和することができると共に、バイポーラパルス電圧の前述の様々な諸元を適宜設定することによって、結晶配向性を向上させて、結晶粒度を大きくすることができると共に、結晶配向性や結晶粒度を適宜に調節することができる。
【0054】
また、バイポーラパルス電圧において、負電圧パルスの時間幅を正電圧パルスの時間幅よりも長くすることによって、基板Sに引き込まれるイオン化されたスパッタ粒子の量を基板Sに引き込まれる電子の量よりも多くすることができるため、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0055】
さらに、バイポーラパルス電圧において、負電圧パルスの最小値の絶対値を正電圧パルスの最大値の絶対値よりも大きくすることによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板Sに引き込む際のエネルギを電子を基板Sに引き込む際のエネルギよりも大きくすることができるため、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0056】
また、非平衡マグネトロンスパッタ装置1においては、RFコイル5を設けることによって、スパッタ粒子のイオン化を促進することができるため、基板Sへのバイポーラパルス電圧の印加と相俟って、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0057】
さらにまた、非平衡マグネトロンスパッタ装置1においては、ソレノイドコイル4を設けることによって、ターゲットT表面におけるイオン密度とRFコイル5内のイオン密度を向上させることができる。
【0058】
《その他の実施形態》
本発明は、実施形態について、以下のような構成としてもよい。すなわち、前記実施形態では、基板Sに印加する電圧としてバイポーラパルス電圧を採用しているがこれに限られるものではない。例えば、負の電圧及び正の電圧が正弦波形状であってもよい。つまり、基板Sに印加する電圧は、負の電圧と正の電圧とを交互に印加する電圧であればよく、その電圧波形は任意の形状とすることができる。
【0059】
また、基板Sの材質はシリコンに限られるものではない。基板Sは、導電体であってもよい。また、ターゲットTやスパッタガスも前記実施形態に限られるものではない。
【0060】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタを利用した電子部品の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態に係る非平衡マグネトロンスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【図2】ターゲット表面から60mmの位置におけるターゲットと垂直方向の磁束密度を示す図である。
【図3】バイポーラパルス電圧の電圧値を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は電圧値が(+1,−60)Vのとき、(B)は電圧値が(+1,−80)Vのとき、(C)は電圧値が(+1,−100)Vのときを示す。
【図4】バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)はデューティ比が50%のとき、(B)はデューティ比が33%のとき、(C)はデューティ比が20%のときを示す。
【図5】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は垂直磁束密度が0mTのとき、(B)は垂直磁束密度が8mTのとき、(C)は垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図6】バイポーラパルス電圧の電圧値を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は電圧値が(+1,−60)Vのとき、(B)は電圧値が(+1,−80)Vのとき、(C)は電圧値が(+1,−100)Vのときを示す。
【図7】バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)はデューティ比が50%のとき、(B)はデューティ比が33%のとき、(C)はデューティ比が20%のときを示す。
【図8】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は垂直磁束密度が0mTのとき、(B)は垂直磁束密度が8mTのとき、(C)は垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図9】バイポーラパルス電圧の最小値とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図10】バイポーラパルス電圧のデューティ比とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図11】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図12】基板に印加する電圧を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は電圧値−100Vの直流電圧を印加したとき、(B)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が8mTのとき、(C)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図13】基板に印加する電圧を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は電圧値−100Vの直流電圧を印加し且つソレノイドコイルによる垂直磁束密度が4mTのとき、(B)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が4mTのとき、(C)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が8mTのときを示す。
【符号の説明】
【0063】
1 非平衡マグネトロンスパッタ装置(マグネトロンスパッタ装置)
10 容器
11 処理室
15 バイポーラ電源(基板側電源)
17 可変直流電源(ターゲット側電源)
2 基板保持部
3 マグネトロン電極
4 ソレノイドコイル(外部磁界形成部)
5 RFコイル(コイル)
S 基板
T ターゲット
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタを利用した電子部品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、マグネトロン放電を利用してスパッタリングを行う、いわゆるマグネトロンスパッタ装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたマグネトロンスパッタ装置では、内部に気密な処理室が形成された容器内に、基板を保持する基板保持部と、ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、基板とターゲットとの間に設けられた高周波コイルとが設けられている。さらに、容器の外周部には、容器の軸方向におけるターゲットと高周波コイルとの間の位置に、容器の内側に向かって磁力線を出す外部永久磁石が配設されている。このマグネトロンスパッタ装置は、容器の外周に設けた外部永久磁石によって、マグネトロン電極による磁界をターゲット表面に押さえつけて、ターゲット表面の磁界を強くしている。こうすることで、ターゲット表面におけるイオン密度を向上させて、スパッタ粒子を活発に放出させている。さらに、ターゲットと基板との間に高周波コイルを設けることによって高周波コイル内にプラズマを生成すると共に、外部永久磁石からの磁力線に該高周波コイルを貫通させることによって高周波コイル内を通過するスパッタ粒子と電子との衝突頻度を高め、スパッタ粒子のイオン化を促進している。そして、基板に負の電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板に付着させている。
【特許文献1】特開2006−307243号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に開示されたマグネトロンスパッタ装置では、基板に負の電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板に付着させている。しかしながら、かかる構成では、基板に成膜される膜の結晶配向性や結晶粒度等を制御するために、基板側でできることは、該基板に印加している負の電圧の電圧値を調節することだけである。すなわち、負の電圧の電圧値を調節することでしか、基板に成膜される膜の結晶配向性や結晶粒度等を制御することができない。
【0005】
ここで、膜の結晶配向性の向上や結晶粒度の拡大が望まれているのはもちろんであるが、場合によっては、膜の結晶配向性を所望の状態にしたり、結晶粒度をできる限り大きくというわけではなく、所望の大きさにしたりすることが望まれる場合もある。つまり、膜の結晶配向性や結晶粒度等を柔軟に制御することが望まれている。
【0006】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜に調節可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示するマグネトロンスパッタ装置は、ターゲットから放出させた粒子を基板上に付着させて膜を形成するためのマグネトロンスパッタ装置であって、内部に気密な処理室が形成された容器と、前記処理室内に配設され、前記基板を保持する基板保持部と、前記処理室内に配設され、前記ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、前記基板に電圧を印加する基板側電源と、前記マグネトロン電極を介して前記ターゲットに電圧を印加するターゲット側電源とを備え、前記基板側電源は、前記基板に対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加するものとする。
【0008】
また、ここに開示する電子部品の製造方法は、基板にマグネトロンスパッタによって膜を形成してなる電子部品の製造方法であって、ターゲットに電界と磁界とを作用させてマグネトロン放電を行わせると共に、基板に負の電圧と正の電圧とを交互に印加するものとする。
【発明の効果】
【0009】
ここに開示されたマグネトロンスパッタ装置によれば、負の電圧及び正の電圧それぞれの諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性及び結晶粒度等を適宜に調節することができる。
【0010】
ここに開示された電子部品の製造方法によれば、負の電圧及び正の電圧それぞれの諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜に調節した基板よりなる電子部品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態に係る非平衡マグネトロンスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【0013】
非平衡マグネトロンスパッタ装置1は、真空容器10と、真空容器10内の上部に配設されて基板Sを保持する基板保持部2と、真空容器10の底部を構成すると共にターゲットTを保持するマグネトロン電極3と、マグネトロン電極3の近傍位置において真空容器10の外周を囲むように設けられたソレノイドコイル4と、真空容器10内においてターゲットTと基板Sとの間に設けられたRFコイル5とを備えている。この非平衡マグネトロンスパッタ装置1がマグネトロンスパッタ装置を構成する。
【0014】
真空容器10は、概略円筒状の容器であって、その内部に処理室11を形成している。真空容器10には、Ar等のスパッタガスを処理室11に供給するための供給ポート12と、処理室11から排気すると共に処理室11内を所定の減圧雰囲気に設定するための排気ポート13とが設けられている。処理室11は、排気ポート13からの排気されることで所定の真空状態にした後、供給ポート12からスパッタガスが供給されて所定の圧力に設定されている。
【0015】
基板保持部2は、概略円盤形状をしていて、表面が保護層で被覆された導電性材料で構成されている。この基板保持部2は、下面において基板Sを保持するように構成されている。この基板Sは絶縁体で構成されている。
【0016】
基板保持部2には、ローパスフィルタ14を介して、バイポーラパルス電源15が接続されている。バイポーラパルス電源15は、負電圧パルスと正電圧パルスとを交互に出力する。詳しくは、バイポーラパルス電源15は、所定の負の電圧値を有し且つ所定の時間幅の負電圧パルスと、所定の正の電圧値を有し且つ所定の時間幅の正電圧パルスとを1セットのパルス電圧として、該パルス電圧を連続的に出力する。このバイポーラパルス電圧は、負電圧パルスの電圧値の絶対値の方が正電圧パルスの電圧値の絶対値よりも大きい。また、バイポーラパルス電圧は、負電圧パルスの時間幅の方が正電圧パルスの時間幅よりも長い。このバイポーラパルス電源15が基板側電源を構成する。
【0017】
マグネトロン電極3は、概略円盤形状をしていて、表面が保護層で被覆された導電性材料で構成されている。このマグネトロン電極3は、磁石を内蔵していると共に、上面においてターゲットTを保持するように構成されている。ターゲットTは、基板保持部2に保持された基板Sと対向する状態で保持される。詳しくは、マグネトロン電極3には、中央に第1磁石31がS極をターゲットTに向けた状態で配設され、該第1磁石31を囲むようにして複数の第2磁石32,32,…がN極をターゲットTに向けた状態で配設されている。本実施形態では、4つの第2磁石32,32,…が、第1磁石31を中心とする円周上に互いに略90°の間隔を空けて配置されている。このように構成されたマグネトロン電極3においては、第2磁石32,32,…のN極から出た磁力線がターゲットTを裏側から表側に貫通して、第1磁石31が位置するターゲットTの中央に向かって湾曲しながら、最終的には、ターゲットTを表側から裏側に貫通して第1磁石31へ入射する。
【0018】
マグネトロン電極3には、ローパスフィルタ16を介して可変直流電源17が接続されている。この可変直流電源17がターゲット側電源を構成する。
【0019】
ソレノイドコイル4は、基板Sの中心とターゲットTの中心とを結ぶ軸X方向において、ターゲットTの表面近傍の位置(少なくとも、基板SよりはターゲットTに近接した位置)に配設されている。ソレノイドコイル4には、可変直流電源41が接続されている。ソレノイドコイル4に所定の直流電流を供給することによって、磁力線が真空容器10の内方へ向かう磁界が形成される。このソレノイドコイル4が外部磁界形成部を構成する。
【0020】
RFコイル5は、ソレノイドコイル4の近傍であって、ソレノイドコイル4よりも基板S側に配設されている。RFコイル5は、基板Sの中心とターゲットTの中心とを結ぶ軸X回りに巻回されている。
【0021】
RFコイル5の一端には、マッチング回路18を介して高周波電源19が接続されている。尚、RFコイル5の他端には何も接続されていないが、アースや高周波電源に接続されるようにしてもよい。
【0022】
このように構成された非平衡マグネトロンスパッタ装置1の動作について説明する。
【0023】
まず、前記処理室11内にスパッタガスを供給すると共に所定の圧力に設定する。そして、前記バイポーラパルス電源15、可変直流電源17、高周波電源19及び可変直流電源41をそれぞれオン状態にする。
【0024】
すると、基板保持部2及びマグネトロン電極3の近傍にはそれぞれ電界が形成される。
【0025】
また、ターゲットTの表面には、第1磁石31及び第2磁石32,32,…によって磁界が形成される。詳しくは、ターゲットTの径方向外側に位置する第2磁石32,32,…のN極から出た磁力線は、ターゲットTの表面近傍において湾曲しながらターゲットTの中央に位置する第1磁石31のS極へ向かう。
【0026】
このとき、ソレノイドコイル4によっても磁界が形成されている。詳しくは、ソレノイドコイル4から真空容器10の中央に向かって磁力線が出ており、この磁力線はターゲットTの中央に位置する第1磁石31のS極に入射する。その結果、ターゲットTの表面において第2磁石32,32,…から第1磁石31へ向かう磁力線が、ソレノイドコイル4からの磁力線によってターゲットT表面に押し付けられることになる。その結果、ターゲットT表面における磁界がターゲットT表面の広い範囲で強くなる。
【0027】
これにより、ターゲットT表面近傍において、スパッタガスと電子との衝突頻度が高くなり、ターゲットT表面近傍におけるイオン密度が高くなる。そして、プラズマ化したガスイオンは、陰極であるターゲットTに引き寄せられ、ターゲットTに衝突する。この衝突によって、ターゲットTからスパッタ粒子が放出される。前述の如く、ターゲットT表面近傍におけるイオン密度が高いため、スパッタ粒子が活発に放出される。
【0028】
ここで、ソレノイドコイル4からの磁力線は、第1磁石31へ向かうだけでなく、他の方向にも分散する。本実施形態では、ソレノイドコイル4からの磁力線のうち一部は、RFコイル5内を通って基板S側へ向かう。ここで、RFコイル5には高周波電源19から高周波電力が供給されており、RFコイル5では放電が起こっている。その結果、RFコイル5から放電により発生した電子がRFコイル5内を貫通する磁力線に捕捉され、該磁力線回りを回転運動することになる。そして、このRFコイル5内をスパッタ粒子が通過すると、スパッタ粒子と電子との衝突が促進され、より多くのスパッタ粒子がイオン化する。
【0029】
ここで、基板Sには、バイポーラパルス電源15からバイポーラパルス電圧が印加されており、基板Sに負電圧パルスが印加されているときには、イオン化されたスパッタ粒子が基板Sに引きつけられ、該基板Sに堆積していく。イオン化されたスパッタ粒子が堆積していくと、基板Sは正に帯電していくが、基板Sに正電圧パルスが周期的に印加されることによって基板Sに電子が引き込まれ、基板Sの帯電が打ち消される。その結果、基板Sのチャージアップを防止することができる。こうして、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板Sに引きつけつつ、周期的に基板Sに正の電圧を印加して基板Sの帯電を打ち消すことができ、スパッタ粒子を基板Sに堆積させ続けることができる。つまり、正電圧パルスの電圧値及び時間幅は、基板Sへの帯電を中和できる程度の阿智に設定されている。そして、このときのバイポーラパルス電圧における、負の電圧パルスの大きさ及び時間幅、並びに正の電圧パルスの大きさ及び時間幅を調節することによって、基板Sに形成される膜の結晶配向性及び結晶粒度を適宜、調節することができる。
【0030】
このようにして、結晶配向性を向上させ且つ結晶粒度を大きくした膜が形成された基板Sからなる電子部品を製造することができる。
【0031】
以下に、非平衡マグネトロンスパッタ装置1を用い、バイポーラパルス電源15からのバイポーラパルス電圧の仕様を変化させると共に、ソレノイドコイル4による磁束密度を変化させることによって、実際に得られた薄膜について説明する。
【0032】
基板Sには、(100)の結晶方位を持ったP型のシリコンであって、その表面に厚さ約100nmの熱酸化膜を形成したものを用いた。ターゲットTには、Cuを、スパッタガスには、Ar(純度6N)を用いた。Arガス流量を1sccmとして、真空容器10内の最終到達圧力を所定の圧力にした。
【0033】
RFコイル5は、3回巻回して形成した。そして、RFコイル5には、13.56MHzの高周波電圧を高周波電源19から印加した。このときの高周波電力は、30Wである。
【0034】
ターゲットTには、可変直流電源17によって0.7kWの電力を供給した。
【0035】
基板Sには、バイポーラパルス電源15によって60Hzのバイポーラパルス電圧を印加した。
【0036】
そして、バイポーラパルス電圧の電圧値(最大値,最小値)Vs及びデューティ比を種々変化させると共に、ソレノイドコイル4に供給する直流電圧を種々変化させて、Cu薄膜を作成した。Cu薄膜は、膜厚が500nmとなるように形成した。膜厚は、水晶振動子式膜厚計及び多重干渉法により測定した。
【0037】
そして、結晶構造を、X線回折法(WRD,CuKα)により評価すると共に、表面構造を、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観測した。
【0038】
ソレノイドコイル4の中央における垂直磁束密度Bcを変化させたときの、RFコイル5の内側でターゲットTの表面から60mmの位置におけるターゲットTと垂直方向の磁束密度をテスラメータを用いて測定した。その結果を図2に示す。図2からわかるように、ターゲットT上の広範囲において比較的均一な磁場のまま垂直磁束密度の制御が可能であることがわかる。
【0039】
図3〜5に、バイポーラパルス電圧の電圧値Vs、デューティ比及びソレノイドコイル4の中央における垂直磁束密度Bcを種々変化させることによって得られたCu薄膜のX線回折パターンを示す。尚、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsは、括弧内の前の数値が最大値(即ち、正電圧パルスの電圧値)を、後の数字が最小値(即ち、負電圧パルスの電圧値)を表す。例えば、Vs=(+1,−100)Vは、正電圧パルスの電圧値が1Vで、負電圧パルスの電圧値が−100Vのバイポーラパルス電圧であることを表している。また、デューティ比は、1つの正電圧パルスと1つの負電圧パルスとの合計の時間幅を1周期として、1周期に対する正電圧パルスの時間幅の比を表す。尚、バイポーラパルス電圧の周波数は、前述の如く、60Hzである。
【0040】
図3から、X線回折パターンがバイポーラパルス電圧の電圧値Vsによって著しく変化することがわかる。電圧値Vs=(+1,−100)Vのときに、結晶性が最も向上したCu薄膜が得られた。
【0041】
図4では、デューティ比が20のときに、結晶性が最も向上したCu薄膜が得られた。これは、デューティ比が20%では、イオンによる基板Sの照射が最も効率的に行われ、結晶性の向上を助長したものと考えられる。さらに、基板Sへの電子の過剰流入は結晶性へ悪影響を与えることが示唆される。
【0042】
そこで、図5では、バイポーラパルス電圧の電圧値Vs=(+1,−100)Vで、デューティ比が20%の条件のもと、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを変化させてCu薄膜を作製した。
【0043】
図5では、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcを増加させることによって、結晶性が向上することがわかる。これは、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを増加させることによって、基板S上におけるイオン化率が上昇して、基板Sへのイオン入射量が増加し、イオン照射自身による表面拡散が著しくなり、結晶性が向上したものと考えられる。ただし、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcが4mT(図4(C)参照)や8mTのときと比べて、12mTのときには結晶性が劣化している。つまり、ソレノイドコイル4の垂直磁束密度Bcを大きくすることで結晶性が向上するものの、垂直磁束密度Bcをあまり大きくすることは好ましくない。
【0044】
続いて、前記のようにして得られたCu薄膜のAFM像(視野範囲1μm×1μm)を図6〜8に、平均表面粒径を測定した結果を図9〜11に示す。
【0045】
バイポーラパルス電圧のデューティ比が20%で、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcが4mTの状態で、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsを変化させると、図6からわかるように、電圧値Vsの最小値を小さくするほど、表面粒径が大きくなっていることがわかる。図9に示すように、電圧値Vs=(+1,−60)Vのときの平均表面粒径は約64.1nmで、電圧値Vs=(+1,−80)Vのときの平均表面粒径は約94.4nmで、電圧値Vs=(+1,−100)Vのときの平均表面粒径は約116.0nmであった。このことから、電圧値Vsの増加に伴い基板Sに入射するイオンによる表面拡散が助長されたと考えられる。
【0046】
また、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsが(+1,−100)Vで、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcが4mTの状態で、バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させると、図7からわかるように、デューティ比を低下させるほど、表面粒径が大きくなっていることがわかる。図10に示すように、デューティ比が50%のときの平均粒径は約35.0nmで、デューティ比が33%のときの平均粒径は約55.2nmで、デューティ比が20%のときの平均粒径は約116.0nmであった。このことから、基板Sへの電子の過剰流入は、粒径成長に悪影響を与えることが示唆される。
【0047】
さらに、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsが(+1,−100)Vで、そのデューティ比が20%の状態で、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを変化させると、図8からわかるように、表面粒径が変化することがわかる。図11に示すように、垂直磁束密度Bcが0mTのときの平均粒径は約26.9nmで、垂直磁束密度Bcが8mTのときの平均粒径は約202.0nmで、垂直磁束密度Bcが12mTのときの平均粒径は約196.0nmであった。このことから、垂直磁束密度Bcを増加することによって、基本的には、基板S上におけるイオン化率が上昇して、基板Sへのイオン入射量が増加し、それにより、イオン照射自身による表面拡散が著しくなって粒径が大きく成長するものと考えられる。ただし、垂直磁束密度Bcを大きくすればするほど、表面粒径が大きくなるわけではない。
【0048】
このように、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsの最小値を小さくし、バイポーラパルス電圧のデューティ比を小さくし(即ち、負の電圧を印加する時間を長くし)、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを大きくすることによって、結晶配向性が良好で且つ表面粒径が大きな薄膜を形成することができる。また、これらバイポーラパルス電圧の電圧値Vs、バイポーラパルス電圧のデューティ比及びソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcの少なくとも1つを適宜に調節することによって、基板Sに形成される膜の結晶配向性及び表面粒径を適宜に調節することができる。
【0049】
ここで、基板Sに直流電圧を印加する構成と、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成とを比較すべく、それぞれの構成で成膜されたCu薄膜のX線回折パターンを図12に、AFM像(視野範囲1μm×1μm)を図13に示す。
【0050】
基板Sに直流電圧を印加する構成においては、直流電圧の電圧値を−100Vとし、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを4mTとした。基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成においては、バイポーラパルス電圧の電圧値Vsを(+1,−120)V、デューティ比を20%とし、ソレノイドコイル4による垂直磁束密度Bcを4mTと8mTとで変化させた。
【0051】
基板Sに直流電圧を印加する構成では、図12(A)からわかるように、結晶配向性を示す強度分布において複数のピークを有している。それに対して、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加する構成では、図12(B)、(C)からわかるように、結晶配向性を示す強度分布においてピークは1つだけとなっている。また、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、図13からわかるように、基板Sに直流電圧を印加する構成と比較して、結晶粒度が大きくなっていることがわかる。
【0052】
したがって、本実施形態によれば、非平衡マグネトロンスパッタ装置1において基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、結晶配向性が良好で且つ結晶粒度の大きな膜を基板S上に形成することができる。また、バイポーラパルス電圧の、負電圧パルスの電圧値やその時間幅、正電圧パルスの電圧値やその時間幅等、様々な諸元を適宜設定することによって、膜の結晶配向性や結晶粒度を適宜に調節することができる。
【0053】
特に、基板Sが絶縁体である場合には、イオン化したスパッタ粒子の基板Sへの体積による基板Sのチャージアップを防止することができるため、結晶配向性が良好で且つ結晶粒度の大きな膜を形成することができる。すなわち、従来のように基板Sに直流のバイアス電圧を印加する構成では、基板Sを絶縁体で構成した場合、スパッタ粒子を基板S上に付着させて成膜を行うことはできるものの、結晶配向性があまり良くなく、結晶粒度も小さい。それに対して、基板Sにバイポーラパルス電圧を印加することによって、基板Sの帯電を中和することができると共に、バイポーラパルス電圧の前述の様々な諸元を適宜設定することによって、結晶配向性を向上させて、結晶粒度を大きくすることができると共に、結晶配向性や結晶粒度を適宜に調節することができる。
【0054】
また、バイポーラパルス電圧において、負電圧パルスの時間幅を正電圧パルスの時間幅よりも長くすることによって、基板Sに引き込まれるイオン化されたスパッタ粒子の量を基板Sに引き込まれる電子の量よりも多くすることができるため、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0055】
さらに、バイポーラパルス電圧において、負電圧パルスの最小値の絶対値を正電圧パルスの最大値の絶対値よりも大きくすることによって、イオン化されたスパッタ粒子を基板Sに引き込む際のエネルギを電子を基板Sに引き込む際のエネルギよりも大きくすることができるため、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0056】
また、非平衡マグネトロンスパッタ装置1においては、RFコイル5を設けることによって、スパッタ粒子のイオン化を促進することができるため、基板Sへのバイポーラパルス電圧の印加と相俟って、膜の結晶配向性をより向上させると共に結晶粒度をより大きくすることができる。
【0057】
さらにまた、非平衡マグネトロンスパッタ装置1においては、ソレノイドコイル4を設けることによって、ターゲットT表面におけるイオン密度とRFコイル5内のイオン密度を向上させることができる。
【0058】
《その他の実施形態》
本発明は、実施形態について、以下のような構成としてもよい。すなわち、前記実施形態では、基板Sに印加する電圧としてバイポーラパルス電圧を採用しているがこれに限られるものではない。例えば、負の電圧及び正の電圧が正弦波形状であってもよい。つまり、基板Sに印加する電圧は、負の電圧と正の電圧とを交互に印加する電圧であればよく、その電圧波形は任意の形状とすることができる。
【0059】
また、基板Sの材質はシリコンに限られるものではない。基板Sは、導電体であってもよい。また、ターゲットTやスパッタガスも前記実施形態に限られるものではない。
【0060】
尚、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
以上説明したように、本発明は、マグネトロンスパッタ装置及びマグネトロンスパッタを利用した電子部品の製造方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施形態に係る非平衡マグネトロンスパッタ装置の構成を示す概略図である。
【図2】ターゲット表面から60mmの位置におけるターゲットと垂直方向の磁束密度を示す図である。
【図3】バイポーラパルス電圧の電圧値を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は電圧値が(+1,−60)Vのとき、(B)は電圧値が(+1,−80)Vのとき、(C)は電圧値が(+1,−100)Vのときを示す。
【図4】バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)はデューティ比が50%のとき、(B)はデューティ比が33%のとき、(C)はデューティ比が20%のときを示す。
【図5】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は垂直磁束密度が0mTのとき、(B)は垂直磁束密度が8mTのとき、(C)は垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図6】バイポーラパルス電圧の電圧値を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は電圧値が(+1,−60)Vのとき、(B)は電圧値が(+1,−80)Vのとき、(C)は電圧値が(+1,−100)Vのときを示す。
【図7】バイポーラパルス電圧のデューティ比を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)はデューティ比が50%のとき、(B)はデューティ比が33%のとき、(C)はデューティ比が20%のときを示す。
【図8】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は垂直磁束密度が0mTのとき、(B)は垂直磁束密度が8mTのとき、(C)は垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図9】バイポーラパルス電圧の最小値とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図10】バイポーラパルス電圧のデューティ比とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図11】ソレノイドコイルによる垂直磁束密度とCu薄膜の平均表面粒径との関係を示すグラフである。
【図12】基板に印加する電圧を変化させたときのCu薄膜のX線回折パターンを示す図であって、(A)は電圧値−100Vの直流電圧を印加したとき、(B)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が8mTのとき、(C)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が12mTのときを示す。
【図13】基板に印加する電圧を変化させたときのCu薄膜のAFM像を示す図であって、(A)は電圧値−100Vの直流電圧を印加し且つソレノイドコイルによる垂直磁束密度が4mTのとき、(B)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が4mTのとき、(C)はバイポーラパルス電圧の電圧値が(+1,−120)Vでソレノイドコイルによる垂直磁束密度が8mTのときを示す。
【符号の説明】
【0063】
1 非平衡マグネトロンスパッタ装置(マグネトロンスパッタ装置)
10 容器
11 処理室
15 バイポーラ電源(基板側電源)
17 可変直流電源(ターゲット側電源)
2 基板保持部
3 マグネトロン電極
4 ソレノイドコイル(外部磁界形成部)
5 RFコイル(コイル)
S 基板
T ターゲット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターゲットから放出させた粒子を基板上に付着させて膜を形成するためのマグネトロンスパッタ装置であって、
内部に気密な処理室が形成された容器と、
前記処理室内に配設され、前記基板を保持する基板保持部と、
前記処理室内に配設され、前記ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、
前記基板に電圧を印加する基板側電源と、
前記マグネトロン電極を介して前記ターゲットに電圧を印加するターゲット側電源とを備え、
前記基板側電源は、前記基板に対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加することを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板側電源は、負の電圧を印加する時間の方が正の電圧を印加する時間よりも長いことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板側電源は、負の電圧の最小値の絶対値の方が正の電圧の最大値の絶対値よりも大きいことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板と前記ターゲットとの間において、該基板と該ターゲットとを結ぶ方向に延びる軸回りに巻回されたコイルと、
前記コイルに高周波電力を供給する高周波電源とをさらに備えることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットと前記コイルとの間において、前記マグネトロン電極からの磁力線を前記ターゲット表面に押し付ける磁界と、前記コイルを貫通する磁界とを形成する外部磁界形成部をさらに備えることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
基板にマグネトロンスパッタによって膜を形成してなる電子部品の製造方法であって、
ターゲットに電界と磁界とを作用させてマグネトロン放電を行わせると共に、
基板に負の電圧と正の電圧とを交互に印加することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電子部品の製造方法において、
前記負の電圧を印加する時間の方が前記正の電圧を印加する時間よりも長いことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電子部品の製造方法において、
前記負の電圧の最小値の絶対値の方が前記正の電圧の最大値の絶対値よりも大きいことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項1】
ターゲットから放出させた粒子を基板上に付着させて膜を形成するためのマグネトロンスパッタ装置であって、
内部に気密な処理室が形成された容器と、
前記処理室内に配設され、前記基板を保持する基板保持部と、
前記処理室内に配設され、前記ターゲットを保持すると共に該ターゲットの表面側に磁界を形成するマグネトロン電極と、
前記基板に電圧を印加する基板側電源と、
前記マグネトロン電極を介して前記ターゲットに電圧を印加するターゲット側電源とを備え、
前記基板側電源は、前記基板に対して、負の電圧と正の電圧とを交互に印加することを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板側電源は、負の電圧を印加する時間の方が正の電圧を印加する時間よりも長いことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板側電源は、負の電圧の最小値の絶対値の方が正の電圧の最大値の絶対値よりも大きいことを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1つに記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記基板と前記ターゲットとの間において、該基板と該ターゲットとを結ぶ方向に延びる軸回りに巻回されたコイルと、
前記コイルに高周波電力を供給する高周波電源とをさらに備えることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項5】
請求項4に記載のマグネトロンスパッタ装置において、
前記ターゲットと前記コイルとの間において、前記マグネトロン電極からの磁力線を前記ターゲット表面に押し付ける磁界と、前記コイルを貫通する磁界とを形成する外部磁界形成部をさらに備えることを特徴とするマグネトロンスパッタ装置。
【請求項6】
基板にマグネトロンスパッタによって膜を形成してなる電子部品の製造方法であって、
ターゲットに電界と磁界とを作用させてマグネトロン放電を行わせると共に、
基板に負の電圧と正の電圧とを交互に印加することを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電子部品の製造方法において、
前記負の電圧を印加する時間の方が前記正の電圧を印加する時間よりも長いことを特徴とする電子部品の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の電子部品の製造方法において、
前記負の電圧の最小値の絶対値の方が前記正の電圧の最大値の絶対値よりも大きいことを特徴とする電子部品の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図13】
【公開番号】特開2010−229428(P2010−229428A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74857(P2009−74857)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月25日 社団法人電子情報通信学会中国支部発行の「平成20年度 電気・情報関連学会中国支部 第59回連合大会 講演論文集」(CD−ROM)に発表
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月25日 社団法人電子情報通信学会中国支部発行の「平成20年度 電気・情報関連学会中国支部 第59回連合大会 講演論文集」(CD−ROM)に発表
【出願人】(595115592)学校法人鶴学園 (39)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】
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