マコーレート様構造を有する機能性微粒子
【課題】質量分析法などに使用される新規微粒子を提供する。
【解決手段】(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
【解決手段】(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性微粒子およびその作製法並びにレーザー光を試料(以下、「サンプル」と称することがある)に照射してイオン化を行う際のイオン源として該機能性微粒子を用いる質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、生化学、医療、ゲノム創薬などの分野において、分析対象物質の質量、構造情報を得られるため、非常に有益な手法である。質量分析装置は、試料に微小径のレーザーを照射し、その試料に分布する生体分子をイオン化し、発生したイオンの質量を分析するものである(非特許文献1)。
【0003】
こうした質量分析装置では分析を行うために試料を何らかの方法でイオン化する必要があるが、試料が生体試料であることを考えると、イオン化時の試料に与えるダメージを極力小さくすることが望ましい。また、分析対象のイオンが開裂しないような、いわゆるソフトなイオン化を行う必要がある。そうした点から、イオン化法としては、2次イオン質量分析法(SIMS)やマトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)の利用が考えられるが、一般にSIMSでは高いS/Nが得られるもののイオン化可能な質量数がたかだか1000程度である。また、生体分子の構造を決定するタンデム質量分析(MSn)も困難である。以上より、プロテオミクスなど分子量が大きな生体試料を対象とする分析では利用しにくい。
【0004】
一方、MALDIは、レーザー光を吸収しにくい試料やタンパク質などレーザー光で損傷を受けやすい試料を分析するために、レーザー光を吸収し易くイオン化し易い物質をマトリクス(イオン化支援剤)として試料に予め混合しておき、これにレーザー光を照射することで試料をイオン化するものである。マトリクスの種類には、金属酸化物(コバルト系)とグリセリンを混合したものや、化学合成物質(以下、ケミカル)マトリクスなどがある。ケミカルマトリクスには、1,8-dihydroxy-9(10H)-anthracenone (Dithranol)、2-(4-hydroxy phenylazo) benzoic acid (HABA)、2,5-dihydroxybenzoic acid (DHB)、α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)、sinapinic acid (SA)が挙げられ、解析したい物質(タンパク質、ペプチド、合成高分子)により選択して使用する。MSnも容易であり、構造解析に適している手法である。しかしながら、MALDIを用いて質量分析を行う場合には次のような問題がある。
【0005】
一般に、マトリクスは液体状態で滴下或いは噴射されることで試料上に塗布され、試料上の分析対象物質を取り込む。そして、乾燥されると分析対象物質を含んだ結晶粒が形成される。この結晶粒にレーザーを照射することでマトリクスにエネルギーが授受され、その余剰エネルギーが分析対象物質にエネルギー転移することで分析対象物質がイオン化する。この際、マトリクスも当然のことながらイオン化する。分析対象物質はこのマトリクスの結晶粒の間に分散しているため、イオン化のためのレーザー光の照射径を小さくしても、このマトリクスの結晶粒径よりも高い空間分解能を得ることはできない。また、取り込まれなかった分析対象物質はイオン化されない。そのため、多数のマトリクスが分析対象物質の性質に合わせて開発されているが、そのような取捨選択は分析を煩雑にし、有効な質量分析を行うことができなくなる。
また、マトリクスはナトリウム、カリウムなどの塩成分が混在しているとイオン化効率が低下するという問題を有していた。このことは、塩を含むサンプル、さらには細胞や組織などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルの分析に適さないことを指す。
【0006】
塩を含むサンプル、さらには、組織、細胞などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルをそのまま分析できれば、情報が多く得られ、手技の簡便化に繋がる。このためには塩存在下においても分析対象物質のイオン化効率を下げずに分析できることが重要である。一般的に用いられるMALDI法は、上記マトリクスの結晶粒問題とは別に、マトリクスがバックグラウンドノイズとなるため、検出信号のS/N比を高くするのが難しいという問題を有している。マトリクスと分析対象物質が共結晶体を形成せずに、効率よく分析対象物質をイオン化することができれば分析がより一般的に容易に行うことが可能になる。その解決法の一つとして、マトリクスを利用しないレーザー脱離イオン化法が提案されている。例えば、特許文献2には多孔質シリコン(ポーラスシリコン)を基板としたDIOS(Desorption/ionization on silicon)と呼ばれるイオン化法が開発されている。この方法は、基板表面のナノレベルの微細な凹凸構造がイオン化に寄与していると考えられている。しかし、上記のようなマトリクスを使用せずにナノレベルの凹凸構造基板作製の際に制御する因子が多く存在するために、再現性良く均一な構造と性能を持ったものを得ることが困難である。また、細胞など生体サンプルを基板に貼り付けて分析を行うようなことは考慮されていない。
【0007】
発明者らは、既に直径1.3〜3nmの超ナノサイズの磁気超ナノ微粒子を機能化し、生きた細胞、組織内に導入する技術を有している(特許文献1、非特許文献1,2)。本願では、以下、平均粒子径がナノメートルオーダーの微粒子を「ナノ微粒子」と称し、特に平均粒子径が10nm以下のナノ微粒子を「超ナノ微粒子」と称することがある。また、発明者らはこの微粒子をレーザー照射用イオン化支援剤として使用することを既に見いだしている(特許文献3)。しかし、組織など塩存在下サンプルにおいてイオン化効率の改善が課題であった。
一方、マコーレート自体の構造は公知(非特許文献3、4、5)であったが、表面に官能基が露出したマコーレート(様)微粒子の製作法も、材料も知られておらず、それがイオン化支援剤として機能することも知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特願 2006-311611
【特許文献2】米国特許第6288390号公報
【特許文献3】特願2007-004614
【非特許文献1】平ほか5名「Cellular Recognition of Functionalized with Folic acid Nanoparticles」e-Journal of Surface Science and Nanotechnology誌(2007年) Vol.5 23−28
【非特許文献2】森竹、平ほか6名「Functionalized Nano Magnetic Particles foran in vivo Delivery System」Journal of Nanoscience and Nanotechnology誌(2007年) Vol.7 937−944
【非特許文献3】Wilson, 他4名 「Macaulayite, a new mineral from North-East Scotland」 M ineral. Mag誌 (1984年) Vol.48, 127-129.
【非特許文献4】Sawcer, 他3名 「A Mossbauer effect study of the mineral macaulayite」 Phys. Chem. Miner. 16, (1988年) 73-77.
【非特許文献5】Wilson, 他5名 「A swelling hematite/layer-silicate complex inweathered granite」 Cray Minerals誌 (1981年) Vol.16, 261-278.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤などとして有用な新規材料を提供すること、および、これまで、2段階以上かけて合成してきた機能性微粒子を1段階で合成する新規方法の提供にある。また、既存マトリクスを用いずに分析対象物質を高効率でイオン化でき、既存マトリクスの結晶粒径よりも高い空間分解能で以て生細胞や組織などの試料に含まれる分析対象物質の解析を行うことができる、新規材
料を用いた質量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、微粒子の構造において、コランダム単位胞がc軸方向に二つ並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のシートで覆われた構造単位がa,b軸方向に配列したマコーレート様鉱物構造をとり、その二酸化ケイ素に官能基が結合している形を成している新規機能性微粒子を、金属塩化物水溶液と一般に用いられるシラン化剤とを混合しアルカリ条件にするという簡便な方法で作製することに成功し、この微粒子が、これまでの微粒子よりもイオン化支援剤としての性質に優れていることを見出した。
【0011】
また、得られた微粒子は、室温で超常磁性であることを見いだした。
また、極小の微粒子を質量分析に用いた場合、既存マトリクス結晶粒のように空間分解能の制約が実質的になくなることを見出した。
さらにまた、この微粒子自体はレーザー照射によりイオン化されることなく、分析対象物質のみをイオン化することを支援するため、バックグラウンドを上げることなく検出信号のS/N比を高くできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
(2)前記官能基が水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)の機能性微粒子。
(3)コランダム単位胞が、FeとOから構成される、(1)または(2)の機能性微粒子。
(4)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子の製造方法。
(5)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させて得られた機能性微粒子をさらに焼結することを特徴とする、(4)の方法。
(6)(i) (1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子と分析対象物質を近接させる工程、および
(ii)レーザー照射を行うことにより前記機能性微粒子の近傍の分析対象物質のイオン化を機能性微粒子に支援させる工程、を含むことを特徴とする質量分析法。
(7)工程(i)を塩存在下で行うことを特徴とする、(6)の方法。
(8)(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子を有効成分とする、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤。
(9)(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子が修飾されている質量分析用試料プレート。
(10)レーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するための質量分析用キットであって、(9)のプレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、プレート上面に付着した試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキット。
(11)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、機能性微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明に係る微粒子は、シラン化剤を材料として得ることができるため、表面が任意の官能基で被覆された形態を有する。また、このためシラノール基も有するために、表面が親水的であり、分析対象物質との相互作用が良い。このことは、マトリクスと分析対象物質が接触しやすくなるため、分析対象物質のイオン化に必要なエネルギーを効率よくマトリクスから分析対象物質に転送できる。また、この官能基がアルキル基、またはフェニル基である場合、コアから分析対象物質へのエネルギー転移効率は向上すると考えられる。MALDI質量分析法において必須の材料となるマトリクスとしての使用に非常に適している。さらにまた、当該微粒子は、塩を含むサンプル、さらには細胞や組織などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルの分析ができる。さらに、マトリクス由来のピークが出ないので、検出信号のS/N比や感度が向上し、目的物質の検出の精度を高めることもできる。
【0014】
通常、塩などの混入によりケミカルマトリクスなどは機能しなくなる。これに対し、本発明の微粒子は塩存在下でも分析対象物質のイオン化効率が低下しないため、生体細胞由来の特定物質の分析なども可能となり、特に生命科学の分野において有用な情報を収集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
本発明の微粒子は、
(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b)構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合している、ことを特徴とする。本願では、官能基が結合している微粒子を「機能性微粒子」と称することがある。
【0017】
この微粒子の単位胞は、コランダムである。図1Aにコランダム単位胞の構造を示した。この構造はX線回折などによって確認できる。ここで、コランダム単位胞は、遷移金属または稀土類金属の酸化物で形成されることが好ましく、より好ましくはMn、Ni、Fe、Co、GdまたはSmの酸化物であり、さらに好ましくはFeまたはCoの酸化物であり、特に好ましくはFeの酸化物である。
【0018】
このコランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークで覆われた構造単位を有し、これがa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとっており、その二酸化ケイ素に官能基が結合している。
構造単位(a)の構造を図1Bに示した。
なお、マコーレート様構造とは、金属、酸素、ケイ素の配置がマコーレートと同様である構造を意味し、金属原子はFeに限定されないことを意味する。
【0019】
二酸化ケイ素に結合して微粒子表面に露出される官能基の種類は特に制限されないが、具体的には、水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基が挙げられる。
このような官能基は以下のようなシリカ化合物を微粒子の調製に使用することで導入することができる。
シリカ化合物としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド,50%メタノール溶液、ジアリルジメチルシラン、n-オクチルジメチルクロロシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n-オクチルメトキシシロキサン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、テトラエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルシラノール、トリフルオロプロピルトリメトキシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、メチルエトキシシロキサン、メチルメトキシシロキサン、メチルメトキシシロキサン、ジメチル、フェニルメトキシシロキサン、ビニルトリメトキシシラン混合物、ビニルトリメトキシシラン混合物、オルガノシラン混合物、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、スルフィドシラン/CaCO3、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられるが、特に3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。カルボキシル基の導入については、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基シラン化剤を用いて微粒子を調製した後、グルタル酸・無水を用いる。
また、微粒子表面に水酸基を導入するための処理としては、エタノールなどの有機溶媒による洗浄、UV洗浄(特開平1-146330号公報)、プラズマ処理、オートクレーブ処理等が挙げられる。
【0020】
微粒子のサイズは質量分析に使用しうるサイズであればよいが、通常、粒径が1〜1000nmのナノ微粒子であり、好ましくは1〜30nmであり、より好ましくは1〜7nmであり、さらに好ましくは1.3〜3.7nmの超ナノ微粒子が望ましい。
また、微粒子の形状は、球状、針状、円盤状、楕円球状、棒状など、いかなる形状でもかまわないが、球状が好ましい。
【0021】
本発明の微粒子は官能基が二酸化ケイ素に結合しており、これによって分析対象物質との親和性が向上している。これら露出された官能基を介して、任意の物質(例えば、化学合成物質、ペプチド、タンパク質)が修飾可能である。
【0022】
本発明の微粒子は、室温で超常磁性であるため、磁場をかけることで、磁化されるが、
磁場を取り除くと、磁化は再び消滅する。この性質を利用して、本発明の微粒子を標的部位にターゲッティングすることも可能である。
また、MRIのエンハンサーとしても使用可能である。
【0023】
本発明の微粒子は、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって調製することができる。アルカリ条件下とはpH7を超えるpHであればよいが、好ましくはpH10〜12である。
水溶性金属塩としては、コア金属の塩であって水に溶解して金属イオンを生じさせるものであればよく、金属の塩化物塩、FeCl2・4H2O、CoCl2・6H2O、NiCl2・6H2O、GdCl3・6H2O、SmCl3・6H2O、MnCl2・4H2Oなどが挙げられる。
シラン化剤を上述したようなものから選択することによって、任意の官能基を導入することができる。また、各シラン化剤が有する各官能基に加えて全てのシラン化剤はシラノール基を有するため、水酸基も導入される。なお、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、または3-アミノプロピルトリメトキシシランなどは、それ自体が水中でアルカリ性を示すために金属塩水溶液に混ぜるだけで良い。
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって得られた微粒子をさらに焼結することによって、微粒子の粒径を調節することができる。
【0024】
なお、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって、上記のようなマコーレート様構造以外の構造を有する微粒子を調製することも可能である。したがって、本発明は、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする機能性微粒子の製造方法を提供する。
【0025】
(2)官能基露出型マコーレート様微粒子を用いた質量分析
本発明の質量分析方法においては、まず、上記微粒子に分析対象物質を近接させる工程を行う。
ここで、微粒子と分析対象物質はレーザー照射により分析対象物質がイオン化される程度に近接させればよく、例えば、微粒子の溶液を分析対象物質またはこれを含む試料の溶液と混合すること、あるいは、微粒子を担体に固定化し、そこに分析対象物質またはこれを含む試料を添加することにより近接させることができる。質量分析に供する場合の微粒子と分析対象物質の比は特に限定されないが、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは1:3〜3:1の重量比になるように調整することが望ましい。
【0026】
分析対象物質の種類は特に制限されず、タンパク質、ペプチド、核酸、糖、脂質などの生体物質や、合成低分子化合物、合成ポリマーなどが挙げられる。
また、分析対象物質は必ずしも精製された物質である必要はなく、分析対象物質を含む試料をそのまま微粒子に添加することによって分析対象物質と微粒子を近接させてもよい。分析対象物質を含む試料としては、分析対象物質を含む、動物、植物または微生物などに由来する細胞や組織や体液、またはこれらからの抽出物などの生体試料が挙げられる。また、土壌や排水などから単離された試料であってもよい。なお、細胞や組織を分析に使用する時は、細胞や組織の表面に微粒子を効率よく集積させるために外部磁場をかけることが好ましい。
例えば、微粒子に細胞や組織の抽出物を添加し、細胞や組織中に含まれる分析対象物質の質量分析を行ってもよい。また、非ヒト検体に微粒子を投与した後に、微粒子と分析対象物質を含む抽出物を回収して質量分析を行ってもよい。ここで、非ヒト検体としては、例えば、マウスやラットなどの実験動物が挙げられる。
【0027】
本発明の質量分析方法においては、微粒子が修飾(固定化)された試料プレートを使用し、これに分析対象物質またはそれを含む試料を付着させることにより分析対象物質を微粒子に近接させる工程を行ってもよい。例えば、膜などのシート上に用意した試料を試料
プレートの上面に付着させ、試料を転写によりシートからプレートに移動させてプレート上に薄く付着させることが好ましい。このようにすれば、試料中に含まれる多くの分析対象物質を網羅的に質量分析することが可能である。なお、微粒子が修飾された試料プレート上に分析対象物質を塗布してもよい。
試料プレートへの微粒子の修飾は化学的結合による修飾であってもよいし、物理的結合による修飾であってもよい。例えば、ITO(インジゥムシンオキサイド)シートなどにはDisuccinimidyl Glutarateなどの架橋剤を用いて修飾することができる。
【0028】
本発明の質量分析方法においては、次に、微粒子に近接させた分析対象物質、または微粒子と分析対象物質が付着したプレートにレーザー照射して分析対象物質のイオン化を微粒子に支援させる工程を行う。
レーザー照射装置は、通常のMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)質量分析に使用される装置を使用することができ、例えば、TOF2(島津製作所)、UltraFlex(Bruker Daltonics社)、ABI4800(ABI社)などが使用できる。
【0029】
本発明の微粒子材料では、微粒子に接触した試料にレーザー光が当たると、微粒子がレーザー光を吸収し、その金属酸化物から構成されている微粒子のコアと試料との相互作用(エネルギー転移)により試料分子をイオン化させる。その際、マコーレート様構造と、露出した官能基がコアから分析対象物質へのエネルギー転移を円滑にし、分析対象物質のイオン化を完了させる。したがって、この微粒子材料によれば、分析対象物質に応じて材料の選択が必要であった既存のマトリクスを使用することなく質量分析を実行することができ、その分析対象物質のみのイオン化を支援することができる。
なお、イオン化された分子の検出は通常の質量分析に使用される検出装置を使用することができ、例えば、TOF2(島津製作所)、UltraFlex(Bruker Daltonics社)、ABI4800(ABI社)などが使用できる。
【0030】
本発明の質量分析方法によれば、ペプチド、タンパク質、化学合成物質などの分析対象物質を既存のマトリクスを用いずにとらえることができる。また、分析対象物質が塩を含む未精製または粗精製サンプルに含まれている場合、さらに、分析対象物質が細胞や組織などの塩が混在しているような未精製または粗精製の生体サンプルに含まれている場合でも、分析対象物質をとらえることができる。それによって、分析者が本当に解析したい物質のみの存在情報を得ることができ、既存の様々なマトリクス群から分析対象物質に合った物を探索する必要もなくなるため、測定に要する時間も節約することができる。
【0031】
本発明の微粒子は通常最も用いられる質量分析条件(塩非存在下)において分析対象物質を水素付加体としてイオン化することも可能である。また、塩存在下でも分析対象物質をイオン化することも可能であり、そのイオン化効率が低下しない。したがって、質量分析を塩存在下で行うことも可能である。これにより、精製物質だけでなく、細胞や組織などの生体試料を直接分析することも可能となり、特に生命科学の分野において有用な情報を収集することができる。
なお、この場合、イオン化された分析対象物質は塩付加体として検出される。これは、表面に露出した、水酸基、及び他の官能基(例えばアミノ基)が塩と包接体を形成する結果、質量分析を行う際に、塩が微粒子表面に存在する状態になる。故に、分析対象物質は優先的に塩付加体としてイオン化され、検出されると考えられる。
【0032】
本発明のレーザー照射用のイオン化支援剤は、上記本発明の微粒子を有効成分とし、質量分析に使用される。
本発明の試料プレートは、上記の金属酸化物からなるコアにマコーレート様構造と表面に任意の官能基を持った微粒子が修飾されている質量分析用試料プレートである。試料プレートの材質はレーザー照射に耐えうるものであれば特に制限されないが、例えば、チタ
ン、金コートされたスチール、ITOシートなどが挙げられる。特にITOシートが好ましい。
本発明のレーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するためのキットは、上記試料プレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、該試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキットである。ここで、「転写により付着させ」とは、例えば、試料を膜などのシート上に用意し、それをプレートの上面に付着させてシートからプレートに移動させることなどの態様が挙げられる。本発明のキットは質量分析に好適に使用され、質量分析用のその他の試薬を含むものであってもよい。
【実施例】
【0033】
次に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1:官能基露出型マコーレート様微粒子の調製(露出される官能基;水酸基、アミノ基)
微粒子は単分散に微粒子が得られる湿式沈殿法を用いて調製した。調製に際して、FeCl2・4H2Oと3-アミノプロピルトリエトキシシランを材料として採用しマコーレート様微粒子を調製した。4.97gのFeCl2・4H2O(25 mM)を秤量し250mlの蒸留水に溶解させて、水溶液を得た。室温で約10分、充分攪拌したのち250mlの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と混合させ反応を完結させた後、20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、蒸留水を注いで再分散させてから遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を数回繰り返し、沈殿物を洗浄した。ついで、約353Kに保持した恒温槽で乾燥後、乳鉢で微粉砕しアミノ基導入マコーレート様微粒子を得た。なお、この微粒子においては、アミノ基の他に水酸基も導入されている。
【0035】
実施例2:微粒子の粉末X線回折測定
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート微粒子の粉末X線回折測定(RINT2000:Rigaku)をおこなった(図2)。得られたピークは粉末X線回折パターン総合解析ソフト (JADE 7:Rigaku)を用い、コランダム単位胞を基本骨格とするマコーレート鉱物とほぼ同様のピークを表すことを確認した。さらに詳細に述べると、用いた材料が塩化鉄・6水和物であるので、α-Fe2O3のコランダム単位胞を基本骨格とするマコーレート様構造であると予想される。
【0036】
実施例3: 官能基露出型マコーレート様微粒子の磁化測定
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート様微粒子を超伝導磁束量子干渉計(SQUID:Quantum Design)により室温(300K)で磁化測定をおこなった(図3)。測定結果から官能基露出型マコーレート様微粒子は室温で超常磁性を示した。非特許文献3,4より、マコーレート鉱物自体はマクロな状態では室温で強磁性的だが、微小結晶片では室温で超常磁性を示す。
【0037】
実施例4: 微粒子の赤外分光測定
HORIBA社製のIR測定装置(HORIBA機種)を用いて、実施例1で得られた微粒子の測定を行った。用いた測定方法はAttenuated Total Refraction法(ATR法)である。IRの結果を図5に示す。Si-O (1000−800cm-1)、N-H (1658−1489)、C-H(2973−2822cm-1、1369−1334cm-1)、C-N(1481−1427cm-1)、O-H (3700−3000 cm-1)のピークが観察された。
【0038】
実施例5:微粒子像の撮影
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート様微粒子像を電子顕微鏡(JEM-1230:日本電子)により撮影した。加速電圧100kVでおこなった。
官能基露出型マコーレート微粒子の場合 (図4)、粒子径は、3.7 nm (変動係数(C.V.)40%)であった。単位胞の長さは理論的に3.6nmである。
【0039】
本該当物質構造は、実施例2,3の結果から微粒子コアはc軸方向にα-Fe2O3のコランダム単位胞が2重に並ぶマコーレート様構造が予想される。実施例4よりシリカと官能基(アミノ基)が存在していることを決定できた。実施例5から微粒子形態であることとその直径が決定できた。つまり、実施例2〜5の結果を総合的にふまえると、α-Fe2O3のコランダム単位胞がc軸方向に二つ並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のシートで覆われているおり、その二酸化ケイ素にプロピルアミノが結合している形を成している。この構造を便宜的にマコーレート様単位胞とする。このマコーレート様単位胞のc軸長さは理論的に3.6nmであり、実施例5の結果(3.7nm)をふまえると、このマコーレート様単位胞が複数 a,b軸で並ぶような形をとりナノ微粒子を形成していると考えられる。
【0040】
実施例6:官能基露出型マコーレート様微粒子のマトリクス化(実施例1で得られた水酸基、アミノ基露出型微粒子をAPTESマコーレート様微粒子とする。)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液とペプチドサンプル(Substance P acetate salthydrate;分子量 1346.7;1.4nmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で2:1の割合で混合した物を(2)(コントロール1)、APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で1:2の割合で混合した物を(3)(コントロール2)、水とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で1:2の割合で混合した物を(4)(ネガティブコントロール)とした。
なお、APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液は、実施例1で得られたAPTES マコーレート様微粒子(1mg)をメタノール(100μL)(溶媒)に懸濁し、超音波をかけて凝集した微粒子を分散させた。その後、遠心分離(8KG 30秒)で分散しきらなかった微粒子凝集物を分離した。その上澄みを用いることによりAPTES マコーレート様微粒子懸濁溶液を得た。
また、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)はFeCl2・4H2OとNa2SiO3・9H2Oを材料として湿式沈殿法(特開2003−252618号公報)により得られた粒径3 nmの微粒子であり、APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)はさらにγ−APTESをシラン化により導入したものである。それぞれ、APTES マコーレート様微粒子と同様の条件により懸濁溶液を得た。
各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Substance P:1347.7(プロトン付加体[H+])、1369.6(ナトリウム付加体[Na+])1385.7
(カリウム付加体[K+])の質量電荷比(m/z)が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Substance P+[H+]で742:1614:615:1、Substance P+[Na+]で2748:130:552:1、Substance P+[K+]で590:1:1:1(APTESマコーレート様微粒子:γ-Fe2O3微粒子:APTESγ-Fe2O3微粒子:微粒子無し)であることから、本発明のマコーレート様微粒子がサンプルのイオン化を支援することに適していることが認められた。(図6)
【0041】
実施例7:APTES マコーレート様微粒子のマトリクス化(塩含有条件下)
APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7;1.4nmol)と酢酸ナトリウム水溶液(終濃度:10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(1)、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(2)(コントロール1)、ペプチドサンプル
(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(3)(コントロール2)、水とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で1:2の割合で混合した物を(4)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Substance P:1369.6(ナトリウム付加体[Na+])の質量電荷比(m/z)が得られた。APTESマコーレート様微粒子以外ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Substance P+[Na+]で2978:1:1:1 (APTESマコーレート様微粒子存在下:γ-Fe2O3微粒子存在下:APTESγ-Fe2O3微粒子存在下:微粒子無し)であることから、高濃度の塩存在下でもAPTESマコーレート様微粒子はサンプルのみイオン化を支援することが認められた。(図7)
【0042】
実施例8:官能基露出型マコーレート様微粒子のマトリクス化(実施例1で得られた水酸基、アミノ基露出型微粒子をAPTESマコーレート様微粒子とする。)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液とタンパク質サンプル(Insulin Bovine;分子量 5733.5;200pmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とタンパク質サンプル(Insulin Bovine;分子量 5733.5;200pmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。
各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に4μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりLiner Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Insulin Bovine(プロトン付加体[H+])、の質量電荷比(m/z)5734.9が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Insulin Bovine +[H+]で56:1 (APTESマコーレート様微粒子存在下:APTESマコーレート様微粒子無し)であることから、本発明のマコーレート様微粒子がサンプルのイオン化を支援することが認められた。(図8)
【0043】
実施例9:APTESマコーレート様微粒子のマトリクス化(サンプル:薬剤化合物)
APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液と薬剤サンプル(Vinblastine; 分子量 811.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とペプチドサンプル(Vinblastine; 分子量811.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、APTESマコーレート様微粒子を使用したときに、Vinblastine+[K+]の質量電荷比(m/z)849.3が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Vinblastine+[ K+]で 672:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)であることから、本発明の微粒子はサンプルのイオン化を支援することが認められた。(図9)
【0044】
実施例10:APTES マコーレート様微粒子のマトリクス化(サンプル:薬剤化合物)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液と薬剤サンプル(Vincristine; 分子量 825.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とペプチドサンプル(Vinblastine; 分子量 825.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、APTESマコーレート様微粒子を使用したときに、Vinblastine+[Na+]の質量電荷比(m/z)847.3とVinblastine+[K+]の質量電荷比(m/z)863.3が得られた。微粒子非存在下では
サンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Vinblastine+[Na+]で 1596:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)、 Vinblastine+[K+]で869:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)であることから、本発明の微粒子はサンプルのイオン化を支援することが認められた(図10)。これで、ペプチドなど生体物質以外の化学物質の質量分析も行えることを確認した。
【0045】
実施例11:外部磁場によるAPTESマコーレート様微粒子の細胞表面への集積
外部磁場によりAPTESマコーレート様微粒子を生きた細胞の表面へ集積し、質量分析を行った。用いた細胞はラットカンガルー腎臓由来のPtK2細胞である。
ITOコートスライドガラス(Bruker Daltonics社)上にフレキシパーム(greiner bio-one)を吸着させ、細胞を培養するためのウェルを作製した。その中にPtK2細胞を24時間培養させた後、APTESマコーレート様微粒子20 mgを1mLのPtK2用培養液に懸濁し、5 krpm、5秒で遠心して上澄み60 μLを、フレキシパームを吸着させたITOコートスライドガラス上で培養した3つのPtK2細胞のうち2つに滴下した。そのうち1つのウェルはITOコートスライドガラスの底に磁石(表面磁束密度:340 mT)を固定した。APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液を滴下し磁石をITOコートスライドガラスの底に固定しなかったウェルを「コントロール1」とした。最後に微粒子、磁石ともに非存在下のウェルを「コントロール2」をとした。3時間後それぞれのウェルを培養液で1回洗浄し、30分真空乾燥した後、質量分析装置によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。
結果より、磁石を固定したウェルからのみ脂質領域からスペクトルが得られた(図11A上)。828.5の質量電荷比(m/z)に着目すると(図11B)フォスファチジルコリン(PC)の一つであるPC(1-acyl 16:0/22:6)と予想される。一方、コントロール1(図11A中)とコントロール2(図11A下)からはスペクトルは得られなかった。つまり、外部磁場によりAPTESマコーレート様微粒子(イオン化支援剤)を細胞上に集積させると、そのまま細胞表層の構成成分のイオン化を支援することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の微粒子は、既存の微粒子と全く違う構造を有しており、新規である。また、質量分析において必須のマトリクスとしての機能を有し、分析対象物質の種類によらずそのイオン化を支援する。さらにまた、高塩濃度下においてもイオン化を支援するので、生細胞や組織などの試料に含まれる分析対象物質の解析に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】コランダム単位胞の構造予想図。
【図1B】マコーレートの構造予想図。
【図2】官能基露出型マコーレート様微粒子の粉末X線回折測定のグラフ。横軸は回折角度であり、縦軸は回折強度である。
【図3】官能基露出型マコーレート様微粒子の磁化測定のグラフ。横軸は外部磁場であり、縦軸は試料の磁化の値である。
【図4】APTESマコーレート様微粒子の電子顕微鏡図(写真)。
【図5】APTESマコーレート様微粒子の赤外分光測定グラフ。
【図6】APTESマコーレート様微粒子とペプチドサンプルとの混合物のMSスペクトル。
【図7】APTESマコーレート様微粒子とペプチドサンプルとの混合物の高塩濃度化でのMSスペクトル。
【図8】APTESマコーレート様微粒子とタンパク質サンプル(Insulin Bovine)との混合物のMSスペクトル。
【図9】APTESマコーレート様微粒子と薬剤サンプル(Vinblastine)との混合物のMSスペクトル。
【図10】APTESマコーレート様微粒子と薬剤サンプル(Vincristine)との混合物のMSスペクトル。
【図11】APTESマコーレート様微粒子の細胞表面への集積を示すMSスペクトル。BのグラフはAのグラフの上段の828.5m/z近辺を拡大したものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性微粒子およびその作製法並びにレーザー光を試料(以下、「サンプル」と称することがある)に照射してイオン化を行う際のイオン源として該機能性微粒子を用いる質量分析法に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析は、生化学、医療、ゲノム創薬などの分野において、分析対象物質の質量、構造情報を得られるため、非常に有益な手法である。質量分析装置は、試料に微小径のレーザーを照射し、その試料に分布する生体分子をイオン化し、発生したイオンの質量を分析するものである(非特許文献1)。
【0003】
こうした質量分析装置では分析を行うために試料を何らかの方法でイオン化する必要があるが、試料が生体試料であることを考えると、イオン化時の試料に与えるダメージを極力小さくすることが望ましい。また、分析対象のイオンが開裂しないような、いわゆるソフトなイオン化を行う必要がある。そうした点から、イオン化法としては、2次イオン質量分析法(SIMS)やマトリクス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)の利用が考えられるが、一般にSIMSでは高いS/Nが得られるもののイオン化可能な質量数がたかだか1000程度である。また、生体分子の構造を決定するタンデム質量分析(MSn)も困難である。以上より、プロテオミクスなど分子量が大きな生体試料を対象とする分析では利用しにくい。
【0004】
一方、MALDIは、レーザー光を吸収しにくい試料やタンパク質などレーザー光で損傷を受けやすい試料を分析するために、レーザー光を吸収し易くイオン化し易い物質をマトリクス(イオン化支援剤)として試料に予め混合しておき、これにレーザー光を照射することで試料をイオン化するものである。マトリクスの種類には、金属酸化物(コバルト系)とグリセリンを混合したものや、化学合成物質(以下、ケミカル)マトリクスなどがある。ケミカルマトリクスには、1,8-dihydroxy-9(10H)-anthracenone (Dithranol)、2-(4-hydroxy phenylazo) benzoic acid (HABA)、2,5-dihydroxybenzoic acid (DHB)、α-cyano-4-hydroxycinnamic acid (CHCA)、sinapinic acid (SA)が挙げられ、解析したい物質(タンパク質、ペプチド、合成高分子)により選択して使用する。MSnも容易であり、構造解析に適している手法である。しかしながら、MALDIを用いて質量分析を行う場合には次のような問題がある。
【0005】
一般に、マトリクスは液体状態で滴下或いは噴射されることで試料上に塗布され、試料上の分析対象物質を取り込む。そして、乾燥されると分析対象物質を含んだ結晶粒が形成される。この結晶粒にレーザーを照射することでマトリクスにエネルギーが授受され、その余剰エネルギーが分析対象物質にエネルギー転移することで分析対象物質がイオン化する。この際、マトリクスも当然のことながらイオン化する。分析対象物質はこのマトリクスの結晶粒の間に分散しているため、イオン化のためのレーザー光の照射径を小さくしても、このマトリクスの結晶粒径よりも高い空間分解能を得ることはできない。また、取り込まれなかった分析対象物質はイオン化されない。そのため、多数のマトリクスが分析対象物質の性質に合わせて開発されているが、そのような取捨選択は分析を煩雑にし、有効な質量分析を行うことができなくなる。
また、マトリクスはナトリウム、カリウムなどの塩成分が混在しているとイオン化効率が低下するという問題を有していた。このことは、塩を含むサンプル、さらには細胞や組織などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルの分析に適さないことを指す。
【0006】
塩を含むサンプル、さらには、組織、細胞などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルをそのまま分析できれば、情報が多く得られ、手技の簡便化に繋がる。このためには塩存在下においても分析対象物質のイオン化効率を下げずに分析できることが重要である。一般的に用いられるMALDI法は、上記マトリクスの結晶粒問題とは別に、マトリクスがバックグラウンドノイズとなるため、検出信号のS/N比を高くするのが難しいという問題を有している。マトリクスと分析対象物質が共結晶体を形成せずに、効率よく分析対象物質をイオン化することができれば分析がより一般的に容易に行うことが可能になる。その解決法の一つとして、マトリクスを利用しないレーザー脱離イオン化法が提案されている。例えば、特許文献2には多孔質シリコン(ポーラスシリコン)を基板としたDIOS(Desorption/ionization on silicon)と呼ばれるイオン化法が開発されている。この方法は、基板表面のナノレベルの微細な凹凸構造がイオン化に寄与していると考えられている。しかし、上記のようなマトリクスを使用せずにナノレベルの凹凸構造基板作製の際に制御する因子が多く存在するために、再現性良く均一な構造と性能を持ったものを得ることが困難である。また、細胞など生体サンプルを基板に貼り付けて分析を行うようなことは考慮されていない。
【0007】
発明者らは、既に直径1.3〜3nmの超ナノサイズの磁気超ナノ微粒子を機能化し、生きた細胞、組織内に導入する技術を有している(特許文献1、非特許文献1,2)。本願では、以下、平均粒子径がナノメートルオーダーの微粒子を「ナノ微粒子」と称し、特に平均粒子径が10nm以下のナノ微粒子を「超ナノ微粒子」と称することがある。また、発明者らはこの微粒子をレーザー照射用イオン化支援剤として使用することを既に見いだしている(特許文献3)。しかし、組織など塩存在下サンプルにおいてイオン化効率の改善が課題であった。
一方、マコーレート自体の構造は公知(非特許文献3、4、5)であったが、表面に官能基が露出したマコーレート(様)微粒子の製作法も、材料も知られておらず、それがイオン化支援剤として機能することも知られていなかった。
【0008】
【特許文献1】特願 2006-311611
【特許文献2】米国特許第6288390号公報
【特許文献3】特願2007-004614
【非特許文献1】平ほか5名「Cellular Recognition of Functionalized with Folic acid Nanoparticles」e-Journal of Surface Science and Nanotechnology誌(2007年) Vol.5 23−28
【非特許文献2】森竹、平ほか6名「Functionalized Nano Magnetic Particles foran in vivo Delivery System」Journal of Nanoscience and Nanotechnology誌(2007年) Vol.7 937−944
【非特許文献3】Wilson, 他4名 「Macaulayite, a new mineral from North-East Scotland」 M ineral. Mag誌 (1984年) Vol.48, 127-129.
【非特許文献4】Sawcer, 他3名 「A Mossbauer effect study of the mineral macaulayite」 Phys. Chem. Miner. 16, (1988年) 73-77.
【非特許文献5】Wilson, 他5名 「A swelling hematite/layer-silicate complex inweathered granite」 Cray Minerals誌 (1981年) Vol.16, 261-278.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的とするところは、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤などとして有用な新規材料を提供すること、および、これまで、2段階以上かけて合成してきた機能性微粒子を1段階で合成する新規方法の提供にある。また、既存マトリクスを用いずに分析対象物質を高効率でイオン化でき、既存マトリクスの結晶粒径よりも高い空間分解能で以て生細胞や組織などの試料に含まれる分析対象物質の解析を行うことができる、新規材
料を用いた質量分析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、微粒子の構造において、コランダム単位胞がc軸方向に二つ並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のシートで覆われた構造単位がa,b軸方向に配列したマコーレート様鉱物構造をとり、その二酸化ケイ素に官能基が結合している形を成している新規機能性微粒子を、金属塩化物水溶液と一般に用いられるシラン化剤とを混合しアルカリ条件にするという簡便な方法で作製することに成功し、この微粒子が、これまでの微粒子よりもイオン化支援剤としての性質に優れていることを見出した。
【0011】
また、得られた微粒子は、室温で超常磁性であることを見いだした。
また、極小の微粒子を質量分析に用いた場合、既存マトリクス結晶粒のように空間分解能の制約が実質的になくなることを見出した。
さらにまた、この微粒子自体はレーザー照射によりイオン化されることなく、分析対象物質のみをイオン化することを支援するため、バックグラウンドを上げることなく検出信号のS/N比を高くできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
(2)前記官能基が水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、(1)の機能性微粒子。
(3)コランダム単位胞が、FeとOから構成される、(1)または(2)の機能性微粒子。
(4)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子の製造方法。
(5)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させて得られた機能性微粒子をさらに焼結することを特徴とする、(4)の方法。
(6)(i) (1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子と分析対象物質を近接させる工程、および
(ii)レーザー照射を行うことにより前記機能性微粒子の近傍の分析対象物質のイオン化を機能性微粒子に支援させる工程、を含むことを特徴とする質量分析法。
(7)工程(i)を塩存在下で行うことを特徴とする、(6)の方法。
(8)(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子を有効成分とする、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤。
(9)(1)〜(3)のいずれかの機能性微粒子が修飾されている質量分析用試料プレート。
(10)レーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するための質量分析用キットであって、(9)のプレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、プレート上面に付着した試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキット。
(11)水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、機能性微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明に係る微粒子は、シラン化剤を材料として得ることができるため、表面が任意の官能基で被覆された形態を有する。また、このためシラノール基も有するために、表面が親水的であり、分析対象物質との相互作用が良い。このことは、マトリクスと分析対象物質が接触しやすくなるため、分析対象物質のイオン化に必要なエネルギーを効率よくマトリクスから分析対象物質に転送できる。また、この官能基がアルキル基、またはフェニル基である場合、コアから分析対象物質へのエネルギー転移効率は向上すると考えられる。MALDI質量分析法において必須の材料となるマトリクスとしての使用に非常に適している。さらにまた、当該微粒子は、塩を含むサンプル、さらには細胞や組織などの塩を含む未精製または粗精製の生体サンプルの分析ができる。さらに、マトリクス由来のピークが出ないので、検出信号のS/N比や感度が向上し、目的物質の検出の精度を高めることもできる。
【0014】
通常、塩などの混入によりケミカルマトリクスなどは機能しなくなる。これに対し、本発明の微粒子は塩存在下でも分析対象物質のイオン化効率が低下しないため、生体細胞由来の特定物質の分析なども可能となり、特に生命科学の分野において有用な情報を収集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明を詳細に説明するが、これらの記載は本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0016】
本発明の微粒子は、
(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b)構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合している、ことを特徴とする。本願では、官能基が結合している微粒子を「機能性微粒子」と称することがある。
【0017】
この微粒子の単位胞は、コランダムである。図1Aにコランダム単位胞の構造を示した。この構造はX線回折などによって確認できる。ここで、コランダム単位胞は、遷移金属または稀土類金属の酸化物で形成されることが好ましく、より好ましくはMn、Ni、Fe、Co、GdまたはSmの酸化物であり、さらに好ましくはFeまたはCoの酸化物であり、特に好ましくはFeの酸化物である。
【0018】
このコランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークで覆われた構造単位を有し、これがa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとっており、その二酸化ケイ素に官能基が結合している。
構造単位(a)の構造を図1Bに示した。
なお、マコーレート様構造とは、金属、酸素、ケイ素の配置がマコーレートと同様である構造を意味し、金属原子はFeに限定されないことを意味する。
【0019】
二酸化ケイ素に結合して微粒子表面に露出される官能基の種類は特に制限されないが、具体的には、水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基が挙げられる。
このような官能基は以下のようなシリカ化合物を微粒子の調製に使用することで導入することができる。
シリカ化合物としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(トリメトキシシリル)プロピルジメチルオクタデシルアンモニウムクロライド,50%メタノール溶液、ジアリルジメチルシラン、n-オクチルジメチルクロロシラン、イソブチルトリメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-デシルトリメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、n-オクチルメトキシシロキサン、エチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、テトラエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ジフェニルジメトキシシラン、トリフェニルシラノール、トリフルオロプロピルトリメトキシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、1,1,1,3,3,3-ヘキサメチルジシラザン、メチルエトキシシロキサン、メチルメトキシシロキサン、メチルメトキシシロキサン、ジメチル、フェニルメトキシシロキサン、ビニルトリメトキシシラン混合物、ビニルトリメトキシシラン混合物、オルガノシラン混合物、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、特殊アミノシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリエトキシシリル)プロピル)テトラスルフィド、スルフィドシラン/CaCO3、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが挙げられるが、特に3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。カルボキシル基の導入については、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ基シラン化剤を用いて微粒子を調製した後、グルタル酸・無水を用いる。
また、微粒子表面に水酸基を導入するための処理としては、エタノールなどの有機溶媒による洗浄、UV洗浄(特開平1-146330号公報)、プラズマ処理、オートクレーブ処理等が挙げられる。
【0020】
微粒子のサイズは質量分析に使用しうるサイズであればよいが、通常、粒径が1〜1000nmのナノ微粒子であり、好ましくは1〜30nmであり、より好ましくは1〜7nmであり、さらに好ましくは1.3〜3.7nmの超ナノ微粒子が望ましい。
また、微粒子の形状は、球状、針状、円盤状、楕円球状、棒状など、いかなる形状でもかまわないが、球状が好ましい。
【0021】
本発明の微粒子は官能基が二酸化ケイ素に結合しており、これによって分析対象物質との親和性が向上している。これら露出された官能基を介して、任意の物質(例えば、化学合成物質、ペプチド、タンパク質)が修飾可能である。
【0022】
本発明の微粒子は、室温で超常磁性であるため、磁場をかけることで、磁化されるが、
磁場を取り除くと、磁化は再び消滅する。この性質を利用して、本発明の微粒子を標的部位にターゲッティングすることも可能である。
また、MRIのエンハンサーとしても使用可能である。
【0023】
本発明の微粒子は、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって調製することができる。アルカリ条件下とはpH7を超えるpHであればよいが、好ましくはpH10〜12である。
水溶性金属塩としては、コア金属の塩であって水に溶解して金属イオンを生じさせるものであればよく、金属の塩化物塩、FeCl2・4H2O、CoCl2・6H2O、NiCl2・6H2O、GdCl3・6H2O、SmCl3・6H2O、MnCl2・4H2Oなどが挙げられる。
シラン化剤を上述したようなものから選択することによって、任意の官能基を導入することができる。また、各シラン化剤が有する各官能基に加えて全てのシラン化剤はシラノール基を有するため、水酸基も導入される。なお、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、または3-アミノプロピルトリメトキシシランなどは、それ自体が水中でアルカリ性を示すために金属塩水溶液に混ぜるだけで良い。
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって得られた微粒子をさらに焼結することによって、微粒子の粒径を調節することができる。
【0024】
なお、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることによって、上記のようなマコーレート様構造以外の構造を有する微粒子を調製することも可能である。したがって、本発明は、水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする機能性微粒子の製造方法を提供する。
【0025】
(2)官能基露出型マコーレート様微粒子を用いた質量分析
本発明の質量分析方法においては、まず、上記微粒子に分析対象物質を近接させる工程を行う。
ここで、微粒子と分析対象物質はレーザー照射により分析対象物質がイオン化される程度に近接させればよく、例えば、微粒子の溶液を分析対象物質またはこれを含む試料の溶液と混合すること、あるいは、微粒子を担体に固定化し、そこに分析対象物質またはこれを含む試料を添加することにより近接させることができる。質量分析に供する場合の微粒子と分析対象物質の比は特に限定されないが、好ましくは1:10〜10:1、より好ましくは1:3〜3:1の重量比になるように調整することが望ましい。
【0026】
分析対象物質の種類は特に制限されず、タンパク質、ペプチド、核酸、糖、脂質などの生体物質や、合成低分子化合物、合成ポリマーなどが挙げられる。
また、分析対象物質は必ずしも精製された物質である必要はなく、分析対象物質を含む試料をそのまま微粒子に添加することによって分析対象物質と微粒子を近接させてもよい。分析対象物質を含む試料としては、分析対象物質を含む、動物、植物または微生物などに由来する細胞や組織や体液、またはこれらからの抽出物などの生体試料が挙げられる。また、土壌や排水などから単離された試料であってもよい。なお、細胞や組織を分析に使用する時は、細胞や組織の表面に微粒子を効率よく集積させるために外部磁場をかけることが好ましい。
例えば、微粒子に細胞や組織の抽出物を添加し、細胞や組織中に含まれる分析対象物質の質量分析を行ってもよい。また、非ヒト検体に微粒子を投与した後に、微粒子と分析対象物質を含む抽出物を回収して質量分析を行ってもよい。ここで、非ヒト検体としては、例えば、マウスやラットなどの実験動物が挙げられる。
【0027】
本発明の質量分析方法においては、微粒子が修飾(固定化)された試料プレートを使用し、これに分析対象物質またはそれを含む試料を付着させることにより分析対象物質を微粒子に近接させる工程を行ってもよい。例えば、膜などのシート上に用意した試料を試料
プレートの上面に付着させ、試料を転写によりシートからプレートに移動させてプレート上に薄く付着させることが好ましい。このようにすれば、試料中に含まれる多くの分析対象物質を網羅的に質量分析することが可能である。なお、微粒子が修飾された試料プレート上に分析対象物質を塗布してもよい。
試料プレートへの微粒子の修飾は化学的結合による修飾であってもよいし、物理的結合による修飾であってもよい。例えば、ITO(インジゥムシンオキサイド)シートなどにはDisuccinimidyl Glutarateなどの架橋剤を用いて修飾することができる。
【0028】
本発明の質量分析方法においては、次に、微粒子に近接させた分析対象物質、または微粒子と分析対象物質が付着したプレートにレーザー照射して分析対象物質のイオン化を微粒子に支援させる工程を行う。
レーザー照射装置は、通常のMALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)質量分析に使用される装置を使用することができ、例えば、TOF2(島津製作所)、UltraFlex(Bruker Daltonics社)、ABI4800(ABI社)などが使用できる。
【0029】
本発明の微粒子材料では、微粒子に接触した試料にレーザー光が当たると、微粒子がレーザー光を吸収し、その金属酸化物から構成されている微粒子のコアと試料との相互作用(エネルギー転移)により試料分子をイオン化させる。その際、マコーレート様構造と、露出した官能基がコアから分析対象物質へのエネルギー転移を円滑にし、分析対象物質のイオン化を完了させる。したがって、この微粒子材料によれば、分析対象物質に応じて材料の選択が必要であった既存のマトリクスを使用することなく質量分析を実行することができ、その分析対象物質のみのイオン化を支援することができる。
なお、イオン化された分子の検出は通常の質量分析に使用される検出装置を使用することができ、例えば、TOF2(島津製作所)、UltraFlex(Bruker Daltonics社)、ABI4800(ABI社)などが使用できる。
【0030】
本発明の質量分析方法によれば、ペプチド、タンパク質、化学合成物質などの分析対象物質を既存のマトリクスを用いずにとらえることができる。また、分析対象物質が塩を含む未精製または粗精製サンプルに含まれている場合、さらに、分析対象物質が細胞や組織などの塩が混在しているような未精製または粗精製の生体サンプルに含まれている場合でも、分析対象物質をとらえることができる。それによって、分析者が本当に解析したい物質のみの存在情報を得ることができ、既存の様々なマトリクス群から分析対象物質に合った物を探索する必要もなくなるため、測定に要する時間も節約することができる。
【0031】
本発明の微粒子は通常最も用いられる質量分析条件(塩非存在下)において分析対象物質を水素付加体としてイオン化することも可能である。また、塩存在下でも分析対象物質をイオン化することも可能であり、そのイオン化効率が低下しない。したがって、質量分析を塩存在下で行うことも可能である。これにより、精製物質だけでなく、細胞や組織などの生体試料を直接分析することも可能となり、特に生命科学の分野において有用な情報を収集することができる。
なお、この場合、イオン化された分析対象物質は塩付加体として検出される。これは、表面に露出した、水酸基、及び他の官能基(例えばアミノ基)が塩と包接体を形成する結果、質量分析を行う際に、塩が微粒子表面に存在する状態になる。故に、分析対象物質は優先的に塩付加体としてイオン化され、検出されると考えられる。
【0032】
本発明のレーザー照射用のイオン化支援剤は、上記本発明の微粒子を有効成分とし、質量分析に使用される。
本発明の試料プレートは、上記の金属酸化物からなるコアにマコーレート様構造と表面に任意の官能基を持った微粒子が修飾されている質量分析用試料プレートである。試料プレートの材質はレーザー照射に耐えうるものであれば特に制限されないが、例えば、チタ
ン、金コートされたスチール、ITOシートなどが挙げられる。特にITOシートが好ましい。
本発明のレーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するためのキットは、上記試料プレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、該試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキットである。ここで、「転写により付着させ」とは、例えば、試料を膜などのシート上に用意し、それをプレートの上面に付着させてシートからプレートに移動させることなどの態様が挙げられる。本発明のキットは質量分析に好適に使用され、質量分析用のその他の試薬を含むものであってもよい。
【実施例】
【0033】
次に本発明の具体的な実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0034】
実施例1:官能基露出型マコーレート様微粒子の調製(露出される官能基;水酸基、アミノ基)
微粒子は単分散に微粒子が得られる湿式沈殿法を用いて調製した。調製に際して、FeCl2・4H2Oと3-アミノプロピルトリエトキシシランを材料として採用しマコーレート様微粒子を調製した。4.97gのFeCl2・4H2O(25 mM)を秤量し250mlの蒸留水に溶解させて、水溶液を得た。室温で約10分、充分攪拌したのち250mlの3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)と混合させ反応を完結させた後、20分間遠心分離器に掛け上澄み液を捨て、蒸留水を注いで再分散させてから遠心分離器に掛け上澄み液を捨てる操作を数回繰り返し、沈殿物を洗浄した。ついで、約353Kに保持した恒温槽で乾燥後、乳鉢で微粉砕しアミノ基導入マコーレート様微粒子を得た。なお、この微粒子においては、アミノ基の他に水酸基も導入されている。
【0035】
実施例2:微粒子の粉末X線回折測定
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート微粒子の粉末X線回折測定(RINT2000:Rigaku)をおこなった(図2)。得られたピークは粉末X線回折パターン総合解析ソフト (JADE 7:Rigaku)を用い、コランダム単位胞を基本骨格とするマコーレート鉱物とほぼ同様のピークを表すことを確認した。さらに詳細に述べると、用いた材料が塩化鉄・6水和物であるので、α-Fe2O3のコランダム単位胞を基本骨格とするマコーレート様構造であると予想される。
【0036】
実施例3: 官能基露出型マコーレート様微粒子の磁化測定
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート様微粒子を超伝導磁束量子干渉計(SQUID:Quantum Design)により室温(300K)で磁化測定をおこなった(図3)。測定結果から官能基露出型マコーレート様微粒子は室温で超常磁性を示した。非特許文献3,4より、マコーレート鉱物自体はマクロな状態では室温で強磁性的だが、微小結晶片では室温で超常磁性を示す。
【0037】
実施例4: 微粒子の赤外分光測定
HORIBA社製のIR測定装置(HORIBA機種)を用いて、実施例1で得られた微粒子の測定を行った。用いた測定方法はAttenuated Total Refraction法(ATR法)である。IRの結果を図5に示す。Si-O (1000−800cm-1)、N-H (1658−1489)、C-H(2973−2822cm-1、1369−1334cm-1)、C-N(1481−1427cm-1)、O-H (3700−3000 cm-1)のピークが観察された。
【0038】
実施例5:微粒子像の撮影
実施例1で得られた官能基露出型マコーレート様微粒子像を電子顕微鏡(JEM-1230:日本電子)により撮影した。加速電圧100kVでおこなった。
官能基露出型マコーレート微粒子の場合 (図4)、粒子径は、3.7 nm (変動係数(C.V.)40%)であった。単位胞の長さは理論的に3.6nmである。
【0039】
本該当物質構造は、実施例2,3の結果から微粒子コアはc軸方向にα-Fe2O3のコランダム単位胞が2重に並ぶマコーレート様構造が予想される。実施例4よりシリカと官能基(アミノ基)が存在していることを決定できた。実施例5から微粒子形態であることとその直径が決定できた。つまり、実施例2〜5の結果を総合的にふまえると、α-Fe2O3のコランダム単位胞がc軸方向に二つ並び、その2重コランダム単位胞のc軸方向の両面が二酸化ケイ素のシートで覆われているおり、その二酸化ケイ素にプロピルアミノが結合している形を成している。この構造を便宜的にマコーレート様単位胞とする。このマコーレート様単位胞のc軸長さは理論的に3.6nmであり、実施例5の結果(3.7nm)をふまえると、このマコーレート様単位胞が複数 a,b軸で並ぶような形をとりナノ微粒子を形成していると考えられる。
【0040】
実施例6:官能基露出型マコーレート様微粒子のマトリクス化(実施例1で得られた水酸基、アミノ基露出型微粒子をAPTESマコーレート様微粒子とする。)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液とペプチドサンプル(Substance P acetate salthydrate;分子量 1346.7;1.4nmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で2:1の割合で混合した物を(2)(コントロール1)、APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で1:2の割合で混合した物を(3)(コントロール2)、水とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)を重量比で1:2の割合で混合した物を(4)(ネガティブコントロール)とした。
なお、APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液は、実施例1で得られたAPTES マコーレート様微粒子(1mg)をメタノール(100μL)(溶媒)に懸濁し、超音波をかけて凝集した微粒子を分散させた。その後、遠心分離(8KG 30秒)で分散しきらなかった微粒子凝集物を分離した。その上澄みを用いることによりAPTES マコーレート様微粒子懸濁溶液を得た。
また、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)はFeCl2・4H2OとNa2SiO3・9H2Oを材料として湿式沈殿法(特開2003−252618号公報)により得られた粒径3 nmの微粒子であり、APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)はさらにγ−APTESをシラン化により導入したものである。それぞれ、APTES マコーレート様微粒子と同様の条件により懸濁溶液を得た。
各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Substance P:1347.7(プロトン付加体[H+])、1369.6(ナトリウム付加体[Na+])1385.7
(カリウム付加体[K+])の質量電荷比(m/z)が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Substance P+[H+]で742:1614:615:1、Substance P+[Na+]で2748:130:552:1、Substance P+[K+]で590:1:1:1(APTESマコーレート様微粒子:γ-Fe2O3微粒子:APTESγ-Fe2O3微粒子:微粒子無し)であることから、本発明のマコーレート様微粒子がサンプルのイオン化を支援することに適していることが認められた。(図6)
【0041】
実施例7:APTES マコーレート様微粒子のマトリクス化(塩含有条件下)
APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7;1.4nmol)と酢酸ナトリウム水溶液(終濃度:10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(1)、γ-Fe2O3微粒子(3 nm)とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(2)(コントロール1)、ペプチドサンプル
(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と APTESγ-Fe2O3微粒子(3 nm)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で2:1:1の割合で混合した物を(3)(コントロール2)、水とペプチドサンプル(Substance P acetate salt hydrate;分子量 1346.7)と酢酸ナトリウム水溶液(10 mM)とを重量比で1:2の割合で混合した物を(4)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Substance P:1369.6(ナトリウム付加体[Na+])の質量電荷比(m/z)が得られた。APTESマコーレート様微粒子以外ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Substance P+[Na+]で2978:1:1:1 (APTESマコーレート様微粒子存在下:γ-Fe2O3微粒子存在下:APTESγ-Fe2O3微粒子存在下:微粒子無し)であることから、高濃度の塩存在下でもAPTESマコーレート様微粒子はサンプルのみイオン化を支援することが認められた。(図7)
【0042】
実施例8:官能基露出型マコーレート様微粒子のマトリクス化(実施例1で得られた水酸基、アミノ基露出型微粒子をAPTESマコーレート様微粒子とする。)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液とタンパク質サンプル(Insulin Bovine;分子量 5733.5;200pmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とタンパク質サンプル(Insulin Bovine;分子量 5733.5;200pmol)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。
各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に4μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりLiner Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、Insulin Bovine(プロトン付加体[H+])、の質量電荷比(m/z)5734.9が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Insulin Bovine +[H+]で56:1 (APTESマコーレート様微粒子存在下:APTESマコーレート様微粒子無し)であることから、本発明のマコーレート様微粒子がサンプルのイオン化を支援することが認められた。(図8)
【0043】
実施例9:APTESマコーレート様微粒子のマトリクス化(サンプル:薬剤化合物)
APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液と薬剤サンプル(Vinblastine; 分子量 811.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とペプチドサンプル(Vinblastine; 分子量811.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、APTESマコーレート様微粒子を使用したときに、Vinblastine+[K+]の質量電荷比(m/z)849.3が得られた。微粒子非存在下ではサンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Vinblastine+[ K+]で 672:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)であることから、本発明の微粒子はサンプルのイオン化を支援することが認められた。(図9)
【0044】
実施例10:APTES マコーレート様微粒子のマトリクス化(サンプル:薬剤化合物)
APTES マコーレート様微粒子懸濁溶液と薬剤サンプル(Vincristine; 分子量 825.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(1)、水とペプチドサンプル(Vinblastine; 分子量 825.0)を重量比で1:2の割合で混合した物を(2)(ネガティブコントロール)とした。各サンプルを質量分析専用プレート(MTP 384 target plate ground steel T F; Bruker Daltonics社)に2μL滴下し真空乾燥させた。乾燥後、質量分析装置(Ultraflex; Bruker Daltonics)によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。結果より、APTESマコーレート様微粒子を使用したときに、Vinblastine+[Na+]の質量電荷比(m/z)847.3とVinblastine+[K+]の質量電荷比(m/z)863.3が得られた。微粒子非存在下では
サンプルをイオン化することはできなかった。S/N比は、Vinblastine+[Na+]で 1596:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)、 Vinblastine+[K+]で869:1(微粒子存在下:微粒子非存在下)であることから、本発明の微粒子はサンプルのイオン化を支援することが認められた(図10)。これで、ペプチドなど生体物質以外の化学物質の質量分析も行えることを確認した。
【0045】
実施例11:外部磁場によるAPTESマコーレート様微粒子の細胞表面への集積
外部磁場によりAPTESマコーレート様微粒子を生きた細胞の表面へ集積し、質量分析を行った。用いた細胞はラットカンガルー腎臓由来のPtK2細胞である。
ITOコートスライドガラス(Bruker Daltonics社)上にフレキシパーム(greiner bio-one)を吸着させ、細胞を培養するためのウェルを作製した。その中にPtK2細胞を24時間培養させた後、APTESマコーレート様微粒子20 mgを1mLのPtK2用培養液に懸濁し、5 krpm、5秒で遠心して上澄み60 μLを、フレキシパームを吸着させたITOコートスライドガラス上で培養した3つのPtK2細胞のうち2つに滴下した。そのうち1つのウェルはITOコートスライドガラスの底に磁石(表面磁束密度:340 mT)を固定した。APTESマコーレート様微粒子懸濁溶液を滴下し磁石をITOコートスライドガラスの底に固定しなかったウェルを「コントロール1」とした。最後に微粒子、磁石ともに非存在下のウェルを「コントロール2」をとした。3時間後それぞれのウェルを培養液で1回洗浄し、30分真空乾燥した後、質量分析装置によりReflector Positiveモードでサンプル解析を行った。
結果より、磁石を固定したウェルからのみ脂質領域からスペクトルが得られた(図11A上)。828.5の質量電荷比(m/z)に着目すると(図11B)フォスファチジルコリン(PC)の一つであるPC(1-acyl 16:0/22:6)と予想される。一方、コントロール1(図11A中)とコントロール2(図11A下)からはスペクトルは得られなかった。つまり、外部磁場によりAPTESマコーレート様微粒子(イオン化支援剤)を細胞上に集積させると、そのまま細胞表層の構成成分のイオン化を支援することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の微粒子は、既存の微粒子と全く違う構造を有しており、新規である。また、質量分析において必須のマトリクスとしての機能を有し、分析対象物質の種類によらずそのイオン化を支援する。さらにまた、高塩濃度下においてもイオン化を支援するので、生細胞や組織などの試料に含まれる分析対象物質の解析に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1A】コランダム単位胞の構造予想図。
【図1B】マコーレートの構造予想図。
【図2】官能基露出型マコーレート様微粒子の粉末X線回折測定のグラフ。横軸は回折角度であり、縦軸は回折強度である。
【図3】官能基露出型マコーレート様微粒子の磁化測定のグラフ。横軸は外部磁場であり、縦軸は試料の磁化の値である。
【図4】APTESマコーレート様微粒子の電子顕微鏡図(写真)。
【図5】APTESマコーレート様微粒子の赤外分光測定グラフ。
【図6】APTESマコーレート様微粒子とペプチドサンプルとの混合物のMSスペクトル。
【図7】APTESマコーレート様微粒子とペプチドサンプルとの混合物の高塩濃度化でのMSスペクトル。
【図8】APTESマコーレート様微粒子とタンパク質サンプル(Insulin Bovine)との混合物のMSスペクトル。
【図9】APTESマコーレート様微粒子と薬剤サンプル(Vinblastine)との混合物のMSスペクトル。
【図10】APTESマコーレート様微粒子と薬剤サンプル(Vincristine)との混合物のMSスペクトル。
【図11】APTESマコーレート様微粒子の細胞表面への集積を示すMSスペクトル。BのグラフはAのグラフの上段の828.5m/z近辺を拡大したものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
【請求項2】
前記官能基が水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の機能性微粒子。
【請求項3】
コランダム単位胞が、FeとOから構成される、請求項1または2に記載の機能性微粒子。
【請求項4】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性微粒子の製造方法。
【請求項5】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させて得られた機能性微粒子をさらに焼結することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(i) 請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子と分析対象物質を近接させる工程、および
(ii)レーザー照射を行うことにより前記機能性微粒子の近傍の分析対象物質のイオン化を機能性微粒子に支援させる工程、を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項7】
工程(i)を塩存在下で行うことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子を有効成分とする、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子が修飾されている質量分析用試料プレート。
【請求項10】
レーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するための質量分析用キットであって、請求項9に記載のプレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、プレート上面に付着した試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキット。
【請求項11】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、機能性微粒子の製造方法。
【請求項1】
(a)コランダム単位胞がc軸方向に二重に並び、c軸方向の両面が二酸化ケイ素のネットワークに覆われた構造単位を有し、
(b) 前記構造単位(a)がa,b軸方向に周期的に配列したマコーレート様構造をとり、
(c)前記二酸化ケイ素に官能基が結合していることを特徴とする、機能性微粒子。
【請求項2】
前記官能基が水酸基、アミノ基、イソシアネート基、メルカプト基、ビニル基、エポキシ基、メタクリロキシ基、ウレイド基、クロロプロピル基、カルボキシル基、アクリロキシ基、ケチミノ基、アルキル基、アルコキシ基、フェニル基、フルオロ基、メチル基、アリル基およびスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1つである、請求項1に記載の機能性微粒子。
【請求項3】
コランダム単位胞が、FeとOから構成される、請求項1または2に記載の機能性微粒子。
【請求項4】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の機能性微粒子の製造方法。
【請求項5】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させて得られた機能性微粒子をさらに焼結することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
(i) 請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子と分析対象物質を近接させる工程、および
(ii)レーザー照射を行うことにより前記機能性微粒子の近傍の分析対象物質のイオン化を機能性微粒子に支援させる工程、を含むことを特徴とする質量分析法。
【請求項7】
工程(i)を塩存在下で行うことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子を有効成分とする、質量分析用のレーザー照射用イオン化支援剤。
【請求項9】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の機能性微粒子が修飾されている質量分析用試料プレート。
【請求項10】
レーザー照射による分析対象物質のイオン化を支援するための質量分析用キットであって、請求項9に記載のプレートを含み、該プレート上面で分析対象物質を含む試料を転写により付着させ、プレート上面に付着した試料にレーザーを照射して分析対象物質を検出するためのキット。
【請求項11】
水溶性金属塩の水溶液とシラン化剤をアルカリ条件下で混合させることを特徴とする、機能性微粒子の製造方法。
【図1A】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図1B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−261837(P2008−261837A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262193(P2007−262193)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】
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