説明

マスキング成膜方法

【課題】成膜用ワークの形状、構造に拘わらず、必要な面のみを安価に成膜できるマスキング成膜方法を提供する。
【解決手段】成膜用ワーク(W)を固定側金型(10)と可動側金型(15)とにより成形するとき、成膜する面は、固定側金型(10)と可動側金型(15)とで構成されるキャビテイ(C)により直接成形し、マスキングする面はキャビテイ(C)内に挿入したマスキング治具(1)により成形する。成膜不要な面にはマスキング治具(1)が付着して覆われているので、そのまま成膜室に搬入して成膜を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製の基板のような成膜用ワークの所定箇所をマスキングして成膜室に搬入し、そして搬入したワークの所定面のみに薄膜を形成するマスキング成膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成膜用ワークの表面の一部に数μmオーダの薄膜を有する製品として、例えば自動車に装備されるフロントランプを挙げることがきる。このフロントランプは蒸着装置あるいは成膜装置により製造されるが、成膜装置は磁気デイスクの生成、CD/DVDの記録面の金属膜の生成、液晶表示装置の透明電極の生成、光触媒膜の生成にも適用されている。このような薄膜を有する製品は、射出成形により基板が成形され、そして成膜しない部分はマスキングされ、そして成膜室にセットされ、次いで後述するような成膜要素により必要な面に薄膜が形成されている。また、基板上の有機発光層を保護する保護膜も同様な成膜装置により形成されている。
【0003】
成膜用ワークの表面に薄膜を形成する蒸着方法あるいは成膜方法は、従来周知で、例えば成膜用ワークの表面とターゲット材料とを対向させておき、数Pa〜数10Pa程度のアルゴンガス雰囲気中でターゲット材料に数kVの負の電圧を印加し、そして放電させて薄膜を形成するスパッタリング方法、真空室中で電子銃から発生する電子ビームをターゲット材料に照射して、加熱蒸発させ、ワークの表面に成膜する電子ビーム蒸着方法、ワークに数kVの負の電圧を印加し数Paのアルゴンガスの圧力下で真空蒸着するイオンプレーティング方法、プラズマ成膜方法等が知られ、また化学蒸着法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−221575号公報
【特許文献2】特開平11−80927号公報
【0005】
特許文献1には、固定側型と移動金型とにより成形される一対の半中空体の一方の半中空体の内表面すなわち成膜用ワークの表面を、固定側金型に残した状態で、ターゲット電極、基板電極、真空吸引管等の蒸着要素が設けられている蒸着用チャンバーで覆って、固定側金型内で蒸着する成膜装置が示されている。特許文献2には、成膜室の壁面がマスキング機能を兼ねたアースシールド材(防着体)で覆われた成膜装置が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に示されている蒸着装置によると、必要な箇所が成膜されるので、格別に問題はない。また、特許文献2に記載されている成膜装置によると、成膜室の壁面を覆う防着体を備え、この防着体が樹脂により一体成形されているので、複数枚の防着板から構成されている場合に比較して作業性は良好である。しかしながら、成膜用ワークの所要箇所のみに成膜するマスキング成膜方法の実施には適用できない。すなわち、図1の(ア)に示されているような略立方体を呈する成膜用ワークの頂面Aと前側面Cは全ての面が成膜される部分で、底面Bと両側面E、Eは、前側面Cとワークを横切る略中間点あるいは中間線「b」との間が成膜される部分となり、後側面Dと、底面Bと両側面E、Eの、後側面Dと中間線「b」との間は非成膜部分となっているワークに成膜する場合を考えると、上記特許文献2に記載の成膜装置により効率的に成膜することはできない。マスキングする面は異なる4面からなっているからである。成膜室に搬入する前のマスキング作業に時間がかかる。また、マスキング材を取り除き、製品に仕上げるのにも手間がかかり、全体としてコスト高になる。
したがって、本発明は、成膜用ワークの形状、構造に拘わらず、必要な面のみを安価に成膜できるマスキング成膜方法を提供することを目的としている。換言すると、簡単にマスキングして安価に高品質の薄膜を有する製品を製造できるマスキング成膜方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、成膜用ワークは、一般に射出成形により成形する。この射出成形には、従来周知のように、固定側金型と可動側金型とを適用し、成膜する面あるいは部分は、前記固定側金型と可動側金型とで構成されるキャビテイにより直接成形し、マスキングする面あるいは箇所はキャビテイ内に挿入したマスキング部材あるいはマスキング治具により成形する。
【0008】
このようにして形成された成膜用ワークを金型から取り出すと、成膜用ワークの成膜不要な面にはマスキング治具が付着して覆われているので、そのまま成膜室に搬入し、直ちに成膜要素を起動して成膜を開始する。成膜終了後、成膜室から取り出す。必要に応じてマスキング治具を切り離す。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、上記目的を達成するために、固定側金型と可動側金型とのパーティング面間に構成されるキャビテイに溶融樹脂を射出して成膜用ワークを成形する成形工程と、前記成形工程で成形された成膜用ワークを成膜室に搬入して成膜する成膜工程とから表面に薄膜を有する製品を製造するとき、前記成形工程時には、成膜用ワークの非成膜部は前記キャビテイに装着したマスキング治具により成形し、前記成膜工程時には前記マスキング治具が付いた状態で前記成膜室に搬入して成膜するように構成される。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の成膜方法において、前記成形工程時には、非成膜部を成形する部分の他に、前記部分から延長した部分を有するマスキング治具を使用するように、請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の成膜方法において、表面に微細な凹凸が付けられたマスキング治具を使用するように、そして請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記成膜工程後、前記マスキング治具を製品から切り離すように構成される。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によると、成膜用ワークの成形時に、非成膜部分はマスキング治具により成形し、マスキング治具が付いた状態で成膜室に搬入して成膜するので、換言すると成膜用ワークを成形するときにマスキングを施すので、マスキングする部分が複雑でも安価にマスキングすることができる。また、他の発明によると、非成膜部を成形する部分の他に、前記部分から延長した部分を有するマスキング治具を使用するので、延長した部分を利用して成膜台に載置することも、さらに他の発明によると、表面に微細な凹凸が付けられているマスキング治具を使用するので、成膜粉すなわちターゲット材料が剥離して成膜室に浮游することがなく、高品位の製品を形成できる。また、他の発明によると、マスキング治具を製品から切り離すこともできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す図で、その(ア)は成膜するワークの例を示す斜視図、その(イ)はマスキング治具の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の成膜用ワークの成形の実施に使用される成形金型の例を模式的に示す図で、その(ア)は第1の実施の形態を型閉じ状態で示す断面図、その(イ)は第2の実施の形態を同様に型閉じ状態で示す断面図である。
【図3】第1の実施の形態に係る金型により成形された成膜用ワークを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態によると、成膜用ワークWは、図1の(ア)に示されているように、略方形を呈する頂面Aと、該頂面Aと対をなす底面Bと、これらの面A、Bに略直角の前側面Cと、該前側面Cと対をなす後側面Dと,両側面E、Eとからなり、全体として立方体の形状をしている。そして、多数の点、点で示されている部分すなわち頂面Aと前側面Cは全ての面が成膜される部分で、底面Bと両側面E、Eは、前側面Cとワークを横切る略中間点あるいは中間線「b」との間が成膜される部分となっている。残りの面すなわち後側面Dと、底面Bと両側面E、Eの、後側面Dと中間線「b」との間は非成膜部分となっている。
【0014】
すなわち、後側面Dと、底面Bと両側面E、Eの、後側面Dと中間線「b」との間がマスキングする部分で、第1の実施の形態に係るマスキング治具1は、図1の(イ)の斜視図に示されているように略「塵取り箱」状をしている。さらに詳しくは、マスキング治具1は、ワークWの底面Bの、後側面Dと中間線「b」との間を覆う、あるいは成形する底壁2と、両側面E、Eの、後側面Dと中間線「b」との間を成形する両側壁3、3と、後側面Dを成形する後壁4とからなっている。このマスキング治具1は、成膜用ワークに付いた状態で成膜室に搬入されて成膜されるので、マスキング治具1の表面にも成膜される。成膜粉すなわちターゲット材料が剥離して成膜室に浮游すると成膜に支障を来すので、マスキング治具1の表面は、簡単には剥がれないようにサンドブラスト処理などにより微細な凹凸が付けられている。
【0015】
上記の成膜用ワークWは、従来周知の金型により成形することができるので、図2には詳しくは示されていないが、成形装置は固定側金型10と、該固定側金型10に対して型開閉される可動側金型15とを備えている。固定側金型10にはパーティング面Pに開口したゲート11に連なったスプル12が形成されている。このスプル12に射出機のノズルがタッチするようになっている。可動側金型15のパーティング面Pには、成膜用ワークWを成形するための凹部16が形成されている。さらに、凹部16には、上記したマスキング治具1が着脱自在に装着される凹部がさらに形成されている。この凹部は、ワークW成形用の凹部16の外側に、マスキング治具1の底壁2が着脱自在に嵌る凹部13と、後壁4が同様に着脱自在に嵌る凹部14とからなっている。
【0016】
成膜装置には、前述もしたように、従来周知のスパッタリング成膜装置、電子ビーム蒸着装置、イオンプレーティング成膜装置、プラズマ成膜装置等が適用できるので、説明は省略する。
【0017】
次に、上記実施の形態による成膜例について説明する。可動側金型15を開く。そうしてマスキング治具1を可動側金型15の凹部13、14に装着する。図示されない型締装置により型締めする。型締した状態が図2の(ア)に示されている。型締すると、固定側金型10のパーティング面Pと、可動側金型15の凹部16と、マスキング治具1の底壁2と、両側壁3、3と、後壁4とにより成形用ワークWを成形するためのキャビティCが構成される。溶融樹脂をスプル12およびゲート11を介してキャビティCに充填する。冷却固化を待って可動側金型15を開く。図3に示されているように、マスキング治具1が付いた状態で成膜用ワークWは突き出る。
【0018】
成膜室の扉を開いて、例えば多関節ロボットなどにより成膜室に搬入して成膜台に載せる。このとき、マスキング治具1の後壁4を成膜台に載せて立てる。そうすると、成膜用ワークWの、マスキング治具1で覆われている面以外の、頂面A、前側面C、底面Bと両側面E、Eの、前側面Cと中間線「b」との間の面にターゲット粒子が到達するようになる。扉を閉める。成膜要素を起動する。例えば、真空源と、不活性ガス供給源とを適宜駆動して成膜室内を数Pa〜数10Pa程度の不活性ガス雰囲気にする。そして、ターゲット材料を予め装着していたターゲット装着台には負の電圧を、成膜台には正の電圧を印加して、放電させる。そうすると、成膜用ワークWの、マスキング治具1で覆われている面以外の面にターゲット粒子が到達し、従来周知のようにして薄膜が形成される。
【0019】
成膜動作が終了したら、成膜要素を停止して扉を開け、上記したロボットのようなハンドリング装置により取り出す。マスキング治具1が製品として支障を来すときは、成膜用ワークWから切り離す。
【0020】
上記実施の形態によると、マスキング治具1の後壁4を成膜台上に載せるようになっているが、このとき成膜用ワークWがより安定するように、マスキング治具1の後壁4に延長壁4’を一体的に形成することもできる。図1の(イ)および図2の(ア)に示されている実施の形態と同様な部材には、同じ参照数字を付けて重複説明はしないが、延長壁4’を設けたマスキング治具1’を装着して型締した状態が図2の(イ)に示されている。延長壁4’の代わりに棒状部材で実施できることは明らかである。また、成膜用ワークあるいはマスキング治具の形状により延長壁を他の壁に設けることができることも明らかである。延長壁4’は、マスキング治具1’を製品から切り離すとき利用することもできる。
【0021】
マスキング治具を製品から切り離すときは、成膜用ワークが充分に冷えて体積が減少してから実施すると、比較的容易にワークから切り離すことができるが、マスキング治具の内面を抜き勾配に形成することもできる。また、離型剤等を適宜使用することもできる。なお、図示の実施の形態によると、マスキング治具は1個の部材から構成されているが、分割された複数個の部材から構成することもできる。
【符号の説明】
【0022】
W 成膜用ワーク
A 頂面 B 底面
C 前側面 D 後側面
E 側面
1 マスキング治具 2 底壁
3 側壁 4 後壁
4’ 延長壁 10 固定側金型
12 スプル 15 可動側金型
16 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定側金型と可動側金型とのパーティング面間に構成されるキャビテイに溶融樹脂を射出して成膜用ワークを成形する成形工程と、前記成形工程で成形された成膜用ワークを成膜室に搬入して成膜する成膜工程とから表面に薄膜を有する製品を製造するとき、
前記成形工程時には、成膜用ワークの非成膜部は前記キャビテイに装着したマスキング治具により成形し、前記成膜工程時には前記マスキング治具が付いた状態で前記成膜室に搬入して成膜することを特徴とするマスキング成膜方法。
【請求項2】
請求項1に記載の成膜方法において、前記成形工程時には、非成膜部を成形する部分の他に、前記部分から延長した部分を有するマスキング治具を使用する、マスキング成膜方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の成膜方法において、表面に微細な凹凸が付けられたマスキング治具を使用する、マスキング成膜方法
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法において、前記成膜工程後、前記マスキング治具を製品から切り離す、マスキング成膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−87321(P2013−87321A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228172(P2011−228172)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000004215)株式会社日本製鋼所 (840)
【Fターム(参考)】