説明

マスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物、施工方法及び部材

【課題】表面が複雑な形状の部材に対しても、部材とマスキング材との間に隙間が生じず、密着性が良好で、剥がす際には各種構成部材から容易に剥離する性質を有し、更に加熱やUV照射などの煩雑な工程を必要としない、室温により硬化する、マスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物をマスキング材として用いたマスキング施工方法、並びに該施工方法によって施工された部材を提供する。
【解決手段】(A)分子鎖両末端がヒドロキシシリル基、アルコキシシリル基又はアルコキシアルコキシシリル基で封鎖された25℃の粘度が20〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物、
(C)硬化促進触媒、
(D)(C)成分とは異なる遷移金属化合物
を含有するマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーリング材等の施工に関連し、構成部材の汚染を防止するためのマスキング材として使用し得る室温硬化性の液状オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物をマスキング材として用いたマスキング施工方法、並びに該施工方法によって施工された部材に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、建築業界においては、シーリング材の施工の際に、シーリング材が構成材を汚染してしまうことを防止するためにマスキングテープが用いられている。近年の傾向として、サイディングボードには外観の高級感が求められ、表面が特殊なボードや、凹凸が多いボードが増えつつある。しかし、マスキングテープでは、それらのボードには接着しにくい場合や、模様によっては構成材との間にわずかな隙間が生じてしまい、シーリング材が構成材を汚染してしまう場合があるという致命的な欠点があった。
【0003】
液体マスキング材として、石膏と炭酸カルシウム、水を配合した材料を塗布し、温風器を使用して加熱し、硬化させることでマスキングを表面に施す方法(特許文献1:米国特許第5562766号明細書参照)や、プレポリマーポリウレタンをマスキング材として使用する方法(特許文献2:米国特許第6623805号明細書参照)が提案されている。しかし、いずれの方法においても、硬化のために50℃程度の加熱が必要であった。加熱を行うことは、エネルギーを必要とするばかりか余計な工程が増えるため、経済的に非常に不利であった。
【0004】
一方、自動車塗装の際のマスキング材として、ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及び(メタ)アクリレートを主成分とする紫外線硬化型マスキング組成物が提案されている(特許文献3:特開2002−12634号公報参照)。しかし、硬化には紫外線の照射が必要であるため、工程上不利である。また、暴露による健康被害という問題があり、特に屋外での使用は、通行人への配慮から困難であった。また、各種電子部品のマスキング材としてマスキング用硬化性フルオロポリエーテルゴム組成物が提案されている(特許文献4:特開2008−138071号公報参照)。しかし、この方法においても、硬化には加熱が必要である上に、高価な白金触媒やフルオロポリエーテルを含むため、経済的に非常に不利であった。
【0005】
従来、縮合反応を利用した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は公知である。当該組成物は、ガラス、金属、化成処理、塗装、被覆などの加工が施された金属系被着体に対し、硬化後速やかに接着することが知られている。また、縮合反応は高価な白金触媒を必要とせず、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は経済的に製造できるという優れた特徴がある。上記の理由により、縮合反応を利用した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、シーリング材、電気部品用もしくは電子部品用接着剤等として用いられてきた。しかし、建築土木用途におけるシーリング用マスキング材として使用されることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5562766号明細書
【特許文献2】米国特許第6623805号明細書
【特許文献3】特開2002−12634号公報
【特許文献4】特開2008−138071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、表面が複雑な形状の部材に対しても、部材とマスキング材との間に隙間が生じず、密着性が良好で、剥がす際には各種構成部材から容易に剥離する性質を有し、更に、経済的に実施可能とするために、加熱やUV照射などの煩雑な工程を必要としない、室温により硬化する、マスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物をマスキング材として用いたマスキング施工方法、並びに該施工方法によって施工された部材を提供することを目的とする。
なお、ここで記述される室温とは、特別な加熱や冷却の必要のない温度であり、通常0℃〜40℃のことを意味し、好ましい条件としては5℃〜30℃である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、以下に示すオルガノポリシロキサン組成物が、各種構成部材への良好な密着性を有し、使用後は各種構成部材から容易に剥離可能であり、室温にて硬化するという性質を兼ね備えた優れたマスキング材となり得ることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記に示すマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物、施工方法及び部材を提供する。
〔請求項1〕
(A)分子鎖両末端がヒドロキシシリル基、アルコキシシリル基又はアルコキシアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1〜40質量部、
(C)硬化促進触媒:0.001〜20質量部、及び
(D)(C)成分とは異なる遷移金属化合物:0.01〜30質量部
を必須成分として含有することを特徴とするマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項2〕
(A)成分のジオルガノポリシロキサンが、下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1は独立に水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基であり、R2は独立に一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基及びシアノアルキル基から選択される炭素原子数1〜10の基である。aはR1が水素原子の場合は2であり、R1が炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基の場合は0又は1である。Yは独立に酸素原子、炭素原子数1〜6の二価炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】

(式中、R2は上記の通り、Zは炭素原子数1〜6の二価炭化水素基である。)
で示される基である。nはこのジオルガノポリシロキサンの25℃の粘度を20〜1,000,000mPa・sとする数である。]
で示されるものである請求項1に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項3〕
(C)成分が、有機錫化合物である請求項1又は2に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項4〕
(D)成分が、亜鉛、銅、鉄、ニッケル、コバルト及びマンガンから選ばれる金属の化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
〔請求項5〕
所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去することを特徴とするマスキング施工方法。
〔請求項6〕
所用箇所に塗装を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所に塗装を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去することを特徴とするマスキング施工方法。
〔請求項7〕
請求項5又は6に記載の施工方法によって施工された部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、各種構成部材に対する優れた密着性を有しながら、剥がす際には容易に各種構成部材から剥離させることができるマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を得ることができる。該組成物は、室温で硬化する性質を有するため、硬化のための特別な工程を必要としないので、経済性において優れている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物は、
(A)分子鎖両末端がヒドロキシシリル基、アルコキシシリル基又はアルコキシアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1〜40質量部、
(C)硬化促進触媒:0.001〜20質量部、及び
(D)(C)成分とは異なる遷移金属化合物:0.01〜30質量部
を必須成分とすることを特徴とする。
【0012】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、本組成物の主成分であり、これは分子鎖両末端がヒドロキシシリル基、アルコキシシリル基もしくはアルコキシアルコキシシリル基で封鎖されたジオルガノポリシロキサンである。このオルガノポリシロキサンの分子構造は、実質的に直鎖状であるが、分子鎖の一部が少し分岐していてもよい。
【0013】
また、その粘度は低すぎると(B)成分のシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物が多量に必要であるため、経済的に不利となり、高すぎると作業性が低下するので、25℃における粘度が20〜1,000,000mPa・sの範囲内にあることが必要であり、100〜100,000mPa・sの範囲内にあることが好ましい。なお、この粘度は回転粘度計による測定値である(以下、同じ)。
【0014】
好ましい(A)成分は、下記一般式(1):
【化3】

で表されるジオルガノポリシロキサンである。
【0015】
式中、R1は水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等の炭素原子数1〜10のアルキル基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基等の炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基から選択される基であり、水素原子、メチル基、又はエチル基であることが好ましい。R2は一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基及びシアノアルキル基から選ばれる炭素原子数1〜10の基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリフルオロプロピル基、クロロプロピル基等のハロゲン化一価炭化水素基;β−シアノエチル基、γ−シアノプロピル基等のシアノアルキル基が例示される。中でもメチル基であることが好ましい。なお、R1がアルキル基又はアルコキシアルキル基である場合は、aは0又は1であり、R1が水素原子である場合は、aは2である。
【0016】
また、Yは独立に酸素原子、炭素原子数1〜6の二価炭化水素基又は下記一般式(2):
【化4】

(式中、R2は上記の通り、Zは炭素原子数1〜6の二価炭化水素基である。)
で示される基である。
【0017】
ここで、炭素原子数1〜6の二価炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキセン基等の炭素原子数1〜6のアルキレン基であることが好ましく、特にエチレン基が好ましい。アルキレン基の水素原子はメチル基等の一価炭化水素基により置換されていてもよい。nは25℃における粘度が20〜1,000,000mPa・sとなるような数である。
(A)成分は周知の方法により製造することができる。
【0018】
本発明の(B)成分であるケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物は、架橋剤として機能するものである。
【0019】
上記加水分解性基としては、例えば、それぞれ炭素原子数1〜10である、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等のアルコキシアルコキシ基;アセトキシ基、オクタノイルオキシ基等のアシロキシ基;ビニロキシ基、イソプロペノキシ基、1−エチル−2−メチルビニルオキシ基等のアルケノキシ基;ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等のケトオキシム基;ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等のアミノキシ基;N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基等のアミド基が挙げられ、ケトオキシム基、アルコキシ基、アミノキシ基、アミド基が好ましく、特にケトオキシム基、アルコキシ基が好ましい。
【0020】
上記加水分解性基以外のケイ素原子に結合する基としては、炭素原子数1〜10の非置換又は置換一価炭化水素基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、オクタデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基等のハロゲン化アルキル基等が挙げられる。これらの中でメチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基、フェニル基が好ましい。
【0021】
上記(B)成分としては、例えば、メチルトリス(ジメチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、エチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン、メチルトリス(メチルイソブチルケトオキシム)シラン、ビニルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン等のケトオキシムシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のアルコキシシラン;メチルトリス(N,N−ジエチルアミノキシ)シラン等のアミノキシシラン;メチルトリス(N−メチルアセトアミド)シラン、メチルトリス(N−ブチルアセトアミド)シラン、メチルトリス(N−シクロヘキシルアセトアミド)シラン等のアミドシラン;メチルトリイソプロペノキシシラン、ビニルトリイソプロペノキシシラン、フェニルトリイソプロペノキシシラン等のアルケノキシシラン;メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン等のアセトキシシラン;及び上記シラン化合物の部分加水分解縮合物が挙げられる。
これらは、1種単独でも2種以上組み合わせても使用することができる。また、目的に応じ、加水分解性基を2個有するものを併用してもよい。
【0022】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1〜40質量部であり、好ましくは0.5〜20質量部であるが、(A)成分を示す一般式(1)中、R1が水素原子である場合は、(B)成分中のアルコキシ基のモル数が(A)成分中のヒドロキシル基のモル数を上回るような量とすることが好ましい。(B)成分の配合量が上記範囲の下限値未満であると硬化性や保存性の低下を招く場合があり、上記範囲の上限値を超えると価格的に不利になるばかりか、伸びの低下や耐久性の悪化を招く場合がある。
【0023】
(C)成分の硬化促進触媒は、速硬化性の付与のために配合される。(C)成分として、具体的には、錫、チタン、ジルコニウム、ビスマス等の金属の有機カルボン酸塩、アルコキサイド;有機チタン酸エステル、有機チタンキレート化合物等が例示され、より具体的には、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレートエステル、ジメチル錫ジネオデカノエート、ジブチル錫ジメトキサイド、ジオクチル錫ジネオデカノエート、スタナスオクトエート等の錫化合物;テトラブチルチタネート、ジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)等のチタン化合物、ジブチルアミン、ラウリルアミン、テトラメチルグアニジン、テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン等のアミン化合物及びその塩等が例示される。本発明組成物の速硬化性等の硬化特性が優れることから、有機錫化合物が好ましく、中でも、ジアルキル錫ジアルコキサイド、ジアルキル錫ジカルボン酸塩が好ましい。
これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0024】
(C)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.001〜20質量部であり、好ましくは0.01〜5質量部である。(C)成分の配合量が上記範囲の下限値未満であると、所望の特性が向上しないことがあり、一方、上記範囲の上限値を超えると、硬化が速すぎるために、作業性が損なわれたりすることがある。
【0025】
(D)成分の(C)成分とは異なる遷移金属化合物は、剥離性の付与のために配合される。(D)成分の遷移金属化合物としては、亜鉛、銅、鉄、ニッケル、コバルト、マンガン等の金属の有機カルボン酸塩(例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸塩;オレイン酸、リノール酸等の不飽和カルボン酸塩;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸塩;シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸塩、乳酸、クエン酸等のヒドロキシ酸塩等)、アルコキサイド等(例えば、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸塩;オレイン酸、リノール酸等の不飽和カルボン酸塩;安息香酸、フタル酸等の芳香族カルボン酸塩;シュウ酸、マロン酸等のジカルボン酸塩、乳酸、クエン酸等のヒドロキシ酸塩等)が例示される。
【0026】
なお、(D)成分は、分散性を向上させるため、溶液にて添加してもよい。ここで、溶液として添加する場合、溶剤を用いることができるが、該溶剤としては、例えば、炭素原子数5以上の飽和又は不飽和炭化水素類(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等);芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等);ハロゲン系溶剤(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、モノクロロエタン、トリクロロエチレン等);エステル系溶剤(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル等);ケトン系溶剤(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等);アルコール系溶剤(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、2−メトキシメタノール、2−ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等);シリコーン系溶剤(例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等)が挙げられる。これらの溶剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。
この溶剤に上記遷移金属化合物を0.1〜95質量%となる量で配合させることが好ましい。
【0027】
(D)成分の添加量は、(A)成分100質量部に対して0.01〜30質量部の範囲であり、好ましくは0.1〜20質量部の範囲である。(D)成分の配合量が上記範囲の下限値未満であるとマスキング膜の剥離性が低下することがあり、上記範囲の上限値を超えると硬化性が低下することがある。
【0028】
[その他の成分]
本発明の組成物には、前記した(A)〜(D)成分に加えて、(E)炭酸カルシウムを配合することが好ましい。(E)成分は、本組成物のたれ防止性を向上し、本発明組成物の硬化物に良好な機械的特性を付与する。(E)成分は、重質(又は粉砕法)炭酸カルシウム、コロイダル(又は沈降法)炭酸カルシウム、これらの炭酸カルシウムを脂肪酸や樹脂酸等の有機酸、有機酸アルカリ金属塩、有機酸エステル等で表面処理した粉末が例示される。
【0029】
(E)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0〜400質量部の範囲内であることが好ましく、より好ましくは20〜200質量部の範囲内である。(E)成分の配合量が多すぎると、本発明組成物の取り扱い作業性が損なわれることがある。
【0030】
また、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、前記した成分以外に一般に知られている添加剤を使用しても差し支えない。添加剤としては、乾式法シリカ、湿式法シリカ、石英微粉末、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤が挙げられる。
【0031】
本発明のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物は、上述した(A)〜(D)成分、及び必要に応じてその他の任意成分を均一に混合することにより得ることができる。得られた本発明のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物は、室温にて硬化させて使用することができる。
【0032】
以上のように、本発明のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物は、各種構成部材に対し優れた密着性を有しながら、剥離が容易に可能である。更に、本発明のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物は、室温で硬化するため、硬化工程において特別な器具を必要とせずに、作業が容易であるため、マスキング用途として好適に使用される。
【0033】
本発明の液状オルガノポリシロキサン組成物をマスキング材として用いる施工方法としては、例えば、所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に上記で得られたマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去する方法や、所用箇所に塗装を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に上記で得られたマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所に塗装を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去する方法などが挙げられる。
ここで、本発明組成物によりマスキングを行う部材としては、例えば、サイディングボード、木材、モルタル、レンガなどが挙げられる。
【0034】
上記方法において、液状オルガノポリシロキサン組成物により部材のマスキングを行う方法としては、液状オルガノポリシロキサン組成物を部材に塗布し、ヘラなどによって液状オルガノポリシロキサン組成物の厚さ及び/又は形状を整える方法が挙げられる。
また、液状オルガノポリシロキサン組成物の部材へのマスキング厚みは0.01〜10mmの範囲が好ましく、特に好ましくは0.1〜3mmの範囲である。厚さが薄すぎるとオルガノポリシロキサン組成物の硬化物の強度が不十分なため剥離性の悪化を招く場合があり、厚すぎると部材との接触面において未硬化部分が生じる場合がある。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例と比較例を説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、実施例中の部及び%はいずれも質量部及び質量%を意味する。
【0036】
下記例において、密着性及び剥離性の評価に使用した部材は、建築用途において一般的に使用されているフッ素樹脂塗装アルミニウム板及びアクリル電着塗装鋼板とした。密着性は、上記の2種類の部材に対して、マスキング材の厚みを2mmとし、JASS8に記載されている簡易接着性試験に使用される試験体と同様の試験体を作製し、2種類の部材のどちらもマスキング材が脱落しない場合を密着性が良好と評価し、どちらかでもマスキング材が脱落する場合を密着性が悪いと評価した。剥離性は、上記の2種類の部材に対して、マスキング材の厚みを2mmとし、JASS8に記載されている簡易接着性試験に使用される試験体と同様の試験体を作製し、2種類の部材に対して全て接着破壊である場合を剥離性が良好と評価し、一部であっても凝集破壊が起こる場合を剥離性が悪いと評価した。
【0037】
また、室温での硬化性と硬化工程の作業容易性についても評価した。室温での硬化性は、23℃,50%RHで24時間養生後における表面の粘性(タック)の有無によって評価した。指触法において、タックが残存せずにタックフリーである場合を硬化性が良好と評価し、指触法において、タックが残存している場合を硬化性が悪いと評価した。硬化工程の作業容易性は、加熱機器やUV照射装置などの電源を必要とする器具を使用せずに硬化工程を行うことが可能である場合を作業容易性が良好と評価し、加熱機器やUV照射装置などの電源を必要とする器具を使用しなければ硬化工程を行うことができない場合を作業容易性が悪いと評価した。
これらの結果を表1に示す。
【0038】
[実施例1]
粘度5,0000mPa・sの両末端水酸基封鎖ポリジメチルシロキサン60部に、コロイダル炭酸カルシウム粉末(白艶華CCR:白石カルシウム株式会社製)40部を加えて均一に混合した。その後、メチルトリス(メチルエチルケトオキシム)シラン8部を加えて均一に混合した。更に、ジメチル錫ジネオデカノエート0.05部を均一に混合した。その後に、オクタン酸亜鉛2部を加えて均一に混合した。以上のように調製した液状オルガノポリシロキサン組成物を、マスキング材として使用した。23℃,50%RHで24時間養生後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0039】
[実施例2]
実施例1のオクタン酸亜鉛2部のかわりに、ナフテン酸マンガン2部を加えて均一に混合した。以上のように調製した液状オルガノポリシロキサン組成物を、マスキング材として使用した。23℃,50%RHで24時間養生後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0040】
[実施例3]
実施例1のオクタン酸亜鉛2部のかわりに、2−エチルヘキサン酸鉄(70%)ミネラルスピリット溶液(8%オクトープFe:ホープ製薬株式会社製)2.9部を加えて均一に混合した。以上のように調製した液状オルガノポリシロキサン組成物を、マスキング材として使用した。23℃,50%RHで24時間養生後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0041】
[比較例1]
オクタン酸亜鉛2部を配合しないこと以外は、実施例1と同様にして組成物を調製し、マスキング材として使用した。23℃,50%RHで24時間養生後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0042】
[比較例2]
石膏3部、炭酸カルシウム4部、水2部を混合し、マスキング材として使用した。50℃で1時間加熱した後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0043】
[比較例3]
フルオロポリエーテルゴム組成物(SIFEL3590−N:信越化学工業株式会社製)をマスキング材として使用した。150℃で10分間加熱した後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0044】
[比較例4]
ウレタンアクリレート系UV硬化性樹脂(DYMAXグレード 9−318−F:ユーヴィックス株式会社製)をマスキング材として使用した。中心波長が254nmである水銀ランプを有する紫外線殺菌装置にて90μW/cm2の紫外線(UV)を24時間照射した後に、密着性及び剥離性の評価を行った。
【0045】
【表1】

【0046】
表1から分かるように、実施例1〜3で得られた液状オルガノポリシロキサン組成物は、各種被着体に対する密着性及び剥離性に優れる。更に、室温硬化性を有するため、硬化工程において特別な器具を必要とせずに、容易にマスキング作業を行うことができるため、建築土木用途などのマスキング材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖両末端がヒドロキシシリル基、アルコキシシリル基又はアルコキシアルコキシシリル基で封鎖された25℃における粘度が20〜1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)ケイ素原子に結合した加水分解性基を分子中に3個以上有するシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1〜40質量部、
(C)硬化促進触媒:0.001〜20質量部、及び
(D)(C)成分とは異なる遷移金属化合物:0.01〜30質量部
を必須成分として含有することを特徴とするマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項2】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンが、下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1は独立に水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基であり、R2は独立に一価炭化水素基、ハロゲン化一価炭化水素基及びシアノアルキル基から選択される炭素原子数1〜10の基である。aはR1が水素原子の場合は2であり、R1が炭素原子数1〜10のアルキル基又は炭素原子数2〜10のアルコキシアルキル基の場合は0又は1である。Yは独立に酸素原子、炭素原子数1〜6の二価炭化水素基又は下記一般式(2)
【化2】

(式中、R2は上記の通り、Zは炭素原子数1〜6の二価炭化水素基である。)
で示される基である。nはこのジオルガノポリシロキサンの25℃の粘度を20〜1,000,000mPa・sとする数である。]
で示されるものである請求項1に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項3】
(C)成分が、有機錫化合物である請求項1又は2に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項4】
(D)成分が、亜鉛、銅、鉄、ニッケル、コバルト及びマンガンから選ばれる金属の化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所にプライマーの塗布及び/又はシーリング材もしくはコーキング材の充填を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去することを特徴とするマスキング施工方法。
【請求項6】
所用箇所に塗装を行うべき部材に対し、上記所用箇所以外の箇所に請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスキング用液状オルガノポリシロキサン組成物を施工し、硬化してマスキングを行った後、上記所用箇所に塗装を行い、その後、上記マスキング膜を剥離除去することを特徴とするマスキング施工方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の施工方法によって施工された部材。

【公開番号】特開2013−1880(P2013−1880A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136934(P2011−136934)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】