説明

マスキング用粘着テープ又はシート

【課題】高温で養生させた場合や、表面酸化等が生じている被着体に貼着させた場合でも、剥離させる際には容易に、かつ、のり残りを抑制又は防止して剥離させることができるマスキング用粘着テープ又はシートを提供すること。
【解決手段】基材と、基材の片面に形成された粘着剤層とを有するマスキング用粘着テープ又はシートであって、前記粘着剤層を形成するための粘着剤が、乳化重合によるアクリル系共重合体をベースポリマーとして含有し、該粘着テープ又はシートをステンレス(SUS304BA)板上に貼付後、150℃で1時間加熱した後の粘着力変化率が150%以下であることを特徴とするマスキング用粘着テープ又はシート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の塗装の際に好適に用いられるマスキング用粘着テープ又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
車両塗装用のマスキング用粘着テープは、非塗装部分をマスキングする時に用いられ、塗装終了後に剥がされる。通常、塗装された車両は、塗料の乾燥、硬化を目的として一定時間養生される。しかし、その間に粘着剤と被着体との親和性が高まり、被着体への粘着力が上昇する現象が起こりやすいことが知られている。その結果、剥離作業に時間を要し、剥離後の被着体表面に、のり残りや汚染が生じることがある。
これまでに、粘着力の上昇の問題を解決すべく、リン酸エステル系化合物の添加等、種々の検討が行われている(特許文献1〜3)。しかしながら、従来、塗装された塗料を常温〜80℃で乾燥させるのが一般的であるところ、近年塗料の速乾を目的に80℃以上の高温で加熱される傾向もあり、マスキング用粘着テープに要求される機能は高度化してきており、これらの要望に幅広く対応する機能性が求められている。
また、中古車両の補修時にマスキング用粘着テープが使用される場合、新車と異なり太陽光、酸性雨、夏場の高温等の環境に塗装面は曝され、その塗装表面には酸化等の変質による劣化が生じており、粘着力は新車の場合に比べてより大きく、養生した場合の粘着力変化率は一段と大きなものとなる。
【特許文献1】特許第3571460号公報
【特許文献2】特開平7−157741号公報
【特許文献3】特開2006−45411号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は被着体への貼着後高温で養生させた場合や、表面酸化等が生じている被着体に貼着させた場合でも、剥離させる際には容易に剥離させることができるマスキング用粘着テープ又はシートを提供することを目的とする。本発明の他の目的は、さらに、のり残りを抑制又は防止して剥離させることができるマスキング用粘着テープ又はシートを提供することにある。本発明の更に他の目的は、さらに、剥離の際には、のり残りだけでなく、被着体の汚染も抑制又は防止することができるマスキング用粘着テープ又はシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意検討の結果、乳化重合によるアクリル系重合体をベースポリマーとした粘着剤を用いたマスキング用粘着テープ又はシートにおいて、その粘着力変化率(対ステンレス(SUS304BA)板、150℃で1時間加熱処理)を規定すると、実際に適用する被着体の種類や表面状態に関わらずに、剥離させる際には容易に剥離させることができること、および被着体表面へののり残りや汚染も抑制又は防止することができることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、以下の通りである。
〔1〕基材と、基材の片面に形成された粘着剤層とを有するマスキング用粘着テープ又はシートであって、前記粘着剤層を形成するための粘着剤が、乳化重合によるアクリル系重合体をベースポリマーとして含有し、該粘着テープ又はシートをステンレス(SUS304BA)板上に貼付後、150℃で1時間加熱した後の粘着力変化率が150%以下であることを特徴とするマスキング用粘着テープ又はシート。
〔2〕塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートである上記〔1〕記載のマスキング用粘着テープ又はシート。
〔3〕車両塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートである上記〔1〕又は〔2〕記載のマスキング用粘着テープ又はシート。
【発明の効果】
【0005】
本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、所定の方法で測定された粘着力の変化率が規定されているため、被着体への貼着後に高温で養生させた場合や、表面酸化等が生じている被着体に貼着させた場合でも、剥離させる際には容易に剥離させることができる。また、のり残りを抑制又は防止して剥離させることができる。さらに、剥離の際には、のり残りだけでなく、被着体の汚染も抑制又は防止することができる。
従って、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、被着体の種類や表面状態に関わらずに、通常温度での使用はもちろん、80℃以上での高温で塗料が加熱乾燥される使用環境にも対応できる。すなわち、本発明のマスキング用テープ又はシートによると、貼着させる個々の被着体に対して粘着力の変化を測定する必要がなく、ステンレス(SUS304BA)板を用いて、150℃で1時間加熱処理を施すという方法で粘着力の変化を評価することにより、高温での養生や、表面酸化等が生じている被着体への使用にも対応できるマスキング用粘着テープ又はシートとすることができる。
よって、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、塗装時に用いられるマスキング用粘着テープ又はシートとして有用であり、特に、新車のみならず、表面酸化等が生じている中古車の車両塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートとしても極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、基材の片面に粘着剤層が形成された構成を有しており、該マスキング用粘着テープ又はシートが、ステンレス(SUS304BA)板に貼付後、150℃で1時間加熱した後の粘着力変化率(単に「粘着力変化率」と称する場合がある)が150%以下であることを特徴としている。
【0007】
(粘着力変化率の測定方法)
マスキング用粘着テープ又はシート(18mm幅)をステンレス(SUS304BA)板に、23℃および65%RHの条件下で、2kgのローラーで1往復して貼り合わせる。貼付した後、20分後(すなわち、23℃および65%RHの条件下で20分間経過後)に、23℃および65%RHの条件下で、引張試験機(島津製作所のオートグラフ)を用いて、180°方向に引張速度:300mm/minで剥離したときの剥離力(「初期粘着力」と称する場合がある)(N/18mm)を測定する。
【0008】
また、マスキング用粘着テープ又はシート(18mm幅)を上記初期粘着力の測定と同一の条件で、ステンレス(SUS304BA)板に貼付した後、150℃(150℃±2℃)に加熱したオーブンに投入して、150℃で1時間加熱処理を行った後、オーブンより取り出し、23℃および65%RHの条件下で、1時間冷却した後、上記と同様に180°方向に引張速度:300mm/minで剥離したときの剥離力(「加熱後の粘着力」と称する場合がある)(N/18mm)を測定する。
【0009】
そして、これら測定された粘着力(初期粘着力、加熱後の粘着力)と、下記式(1)より、ステンレス(SUS304BA)板に貼付後、150℃で1時間加熱した後のマスキング用粘着テープ又はシートの粘着力変化率(%)を求める。
粘着力変化率(%)=[(加熱後の粘着力)/(初期粘着力)]×100(%) (1)
【0010】
本発明では、マスキング用粘着テープ又はシートの粘着力変化率(対ステンレス板、150℃で1時間加熱後)は、150%以下(例えば、0%〜150%)であることが重要であり、好ましくは125%以下(例えば、70%〜125%)、更に好ましくは120%以下(例えば、80%〜120%)である。
【0011】
本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、粘着力変化率が150%以下であるので、被着体への貼着後に高温で養生させた場合や、表面酸化等が生じている被着体に貼着させた場合でも、剥離させる際には容易に剥離させることができる。しかも、被着体表面へののり残りを抑制又は防止して剥離させることができる。ここで、「のり残り」とは、粘着性や接着性を発揮するポリマー成分(粘着成分・接着成分)の被着体表面への残留を意味しており、手で触れることによる感触や、目視、顕微鏡観察等により確認することができる。
さらに、剥離の際には、のり残りだけでなく、被着体の汚染も抑制又は防止することが可能である。ここで、「被着体の汚染」とは、リン酸エステル系化合物や乳化剤等の低分子量成分の被着体表面への残留を意味しており、目視や顕微鏡観察等により確認することができる。
【0012】
本発明のマスキング用粘着テープ又はシートにおいて、粘着剤層は、乳化重合によるアクリル系重合体をベースポリマーとして含有している。該アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステルを主モノマー成分として、乳化重合により調製されたものである。(メタ)アクリル酸エステルは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
(メタ)アクリル酸エステルとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル、(メタ)アクリル酸アリールエステルなどを例示できる。(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、特に、アルキル基の炭素数が4〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適である。
【0013】
アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アクリル系重合体における単量体主成分として含有されていることが好ましい。そのため、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アクリル系重合体における単量体成分全量に対して50重量%以上の割合であることが重要であり、好ましくは60重量%以上であり、さらに好ましくは70重量%以上である。なお、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合の上限は、特に制限されず、例えば、アクリル系重合体における単量体成分全量に対して100重量%(好ましくは99重量%、さらに好ましくは98重量%)であってもよい。従って、例えば、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、単量体成分全量に対して50〜100重量%の割合であってもよく、50〜99重量部であることがより好ましい。アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有割合が単量体成分全量に対して50重量%未満であると、良好な剥離力および凝集力を発揮する粘着剤が得られない場合がある。
なお、アルキル基の炭素数4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとして、好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸イソノニル、アクリル酸ドデシル(アクリル酸ラウリル)、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ドデシル(メタクリル酸ラウリル)であり、より好ましくはアクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシルである。
【0015】
本発明において、アルキル基の炭素数が4〜12である(メタ)アクリル酸アルキルエステルの他に必要に応じて共重合可能なモノマー(共重合性単量体)を併用してもよい。共重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピルなどのアルキル基の炭素数が1〜3の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどのアルキル基の炭素数が13〜18の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸脂環式炭化水素エステル;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イソクロトン酸などのカルボキシル基含有単量体又はその無水物;ビニルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有単量体;スチレン、置換スチレンなどの芳香族ビニル化合物;アクリロニトリルなどのシアノ基含有単量体;エチレン、ブタジエンなどのオレフィン類;酢酸ビニルなどのビニルエステル類;塩化ビニル;アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル、グリセリンジメタクリレートなどの水酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリロイルモルホリンなどのアミノ基含有単量体;シクロヘキシルマレイミド、イソプロピルマレイミドなどのイミド基含有単量体;(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのエポキシ基含有単量体;2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有単量体などが挙げられる。
また、共重合性単量体としては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性の共重合性単量体(多官能モノマー)が用いられていてもよい。共重合性単量体は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。これらの共重合性単量体の配合割合は、モノマー成分全量に対して50重量%以下の範囲が好ましく、モノマーの種類に応じてその適宜使用量を選択できる。
これらの共重合可能な共重合性単量体としては、アルキル基の炭素数が1〜3の(メタ)アクリル酸アルキルエステルや、カルボキシル基含有単量体又はその無水物を好適に用いることができる。
アルキル基の炭素数が1〜3の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、(メタ)アクリル酸メチルが好ましく、特にメタクリル酸メチルが好適である。また、カルボキシル基含有単量体又はその無水物としては、(メタ)アクリル酸が好ましく、特にメタクリル酸が好適である。
本発明では、共重合性単量体として(メタ)アクリル酸が用いられていることが重要であり、(メタ)アクリル酸の配合割合としては、全モノマー成分100重量部中、1〜5重量部であり、好ましくは1〜3重量部である。(メタ)アクリル酸の配合割合が全モノマー成分100重量部に対して1重量部未満であると、粘着性又は接着性が低下し、5重量部を超えると高温等での養生後に、粘着力又は接着力の上昇が大きくなる場合がある。
【0016】
従って、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートでは、粘着剤層を形成するための粘着剤は、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを50〜99重量部、および(メタ)アクリル酸を1〜5重量部を含む単量体混合物の乳化重合によるアクリル系共重合体をベースポリマーとして含有していることが好適である。
【0017】
粘着剤として良好な粘着性を得るためには、得られるポリマーのガラス転移点が通常−20℃以下となるようにモノマーの種類(組成)と使用量(配合割合)を調整することが望ましい。なお、アクリル系重合体の重量平均分子量は、特に限定されないが、20万以上(20万〜150万)、好ましくは30万〜100万、さらに好ましくは40万〜90万程度であってもよい。なお、アクリル系重合体の重量平均分子量は、次のようにして測定される。
アクリル系重合体又はアクリル系粘着剤を、2.0g/Lの濃度となるようにテトラヒドロフラン(THF)に溶解させてTHF溶液を調製し、該THF溶液を一晩静置させる。その後、THF溶液を0.45μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液をゲルパーミェーションクロマトグラフィー(GPC)により、下記の条件で測定を行う。
(GPC測定条件)
・ カラム:TSKgel GM−H(S)×2
・ カラムサイズ:7.8mmI.D.×300mm
・ 溶離液:THF
・ 流量:0.5mL/min
・ 検出器:R1(示差屈折計)
・ カラム温度:40℃
・ 注入量:100μL
・ 分子量はポリスチレン換算で算出する
【0018】
アクリル系重合体は、乳化重合により調製されており、該乳化重合方法としては、一括仕込み方法、モノマー滴下方法、モノマーエマルジョン滴下方法などの公知の重合方法を採用することができる。モノマーなどを滴下する場合は、連続的に滴下してもよく、分割して滴下してもよい。なお、重合温度は、重合開始剤の種類などに応じて適宜選択することができ、例えば、20〜90℃、好ましくは40〜80℃の範囲から選択できる。
【0019】
アクリル系重合体を調製するための乳化重合では、重合開始剤を用いることができる。重合開始剤としては、水溶性でも油溶性でもよく、特に限定されないが例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)ジヒドロクライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクライド、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩等のアゾ系;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルハイドロパーオキシド等の過酸化物系;過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムとの組み合わせ等の過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系等が挙げられる。
重合開始剤の使用量は、通常モノマー100重量部に対して0.01〜1重量部程度の範囲から選択できる。
【0020】
重合には連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤を用いることにより、アクリル系重合体の分子量を調整することができる。連鎖移動剤としては、特に限定されないが慣用の連鎖移動剤として例えば、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0021】
連鎖移動剤の使用量は、通常モノマー100重量部に対して0.001〜0.5重量部程度の範囲から選択できる。
【0022】
アクリル系重合体を調製するための乳化重合では、乳化剤を用いることができる。乳化剤は、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤、カチオン系乳化剤あるいは両性乳化剤が挙げられる。
【0023】
アニオン系乳化剤としては、具体的には、ノニルベンゼンスルホン酸塩、デシルベンゼンスルホン酸塩、ウンデシルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩、トリデシルベンゼンスルホン酸塩、テトラベンゼンスルホン酸塩、ペンタデシルスルホン酸塩、ヘキサデシルスルホン酸塩、オクタデシルベンゼンスルホン酸塩等のアルキルアリールスルホン酸塩型アニオン系乳化剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩型アニオン系乳化剤等);ドデシルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等のナフタレンスルホン酸塩類;ドデシルフェニルエーテルジスルホン酸塩等のアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、オクタデシル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸塩等のアルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンドデシルエーテル硫酸トリ(2−ヒドロキシエチル)アンモニウム、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸塩等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ジドデシルナトリウム、スルホコハク酸ジオクタデシルナトリウム、スルホコハク酸ラウリルニナトリム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等のスルホコハク酸型アニオン系乳化剤などが挙げられる。アニオン系乳化剤が塩の形態を有している場合、塩の形態としては金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。
【0024】
ノニオン系乳化剤としては、具体的には、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル型ノニオン系乳化剤;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンヘキサデカン酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンオクタデカン酸トリエステル、エステル、ポリオキシエチレンソルビタン(9−オクタデセン酸)トリエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックポリマー等のポリオキシアルキレンブロックポリマー型ノニオン系乳化剤等が挙げられる。
【0025】
カチオン系乳化剤としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジテトラデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジヘキサデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロライド、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド、パルミチルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルトリメチルアンモニウムクロライド、ジバルミチルベンジルメチルアンモニウムクロライド、ジオレイルベンジルメチルアンモニウムクロライド、メチル硫酸デシルアンモニウム、メチル硫酸ドデシルアンモニウム、メチル硫酸テトラデシルアンモニウム、メチル硫酸ヘキサデシルアンモニウム、臭化N−メチルドデシルアンモニウム、臭化N−エチルドデシルアンモニウム、臭化N−ヘキサデシルアンモニウム、塩化N,N−ジメチルドデシルアンモニウム、塩化N,N−ジメチルステアリルアンモニウム、塩化N−ラウリルピリジニウム、ドデシルアミン塩酸塩、テトラデシルアミン塩酸塩、ヘキサデシルアミン塩酸塩、オクタデシルアミン塩酸塩、ドデシルアミン酢酸塩、テトラドデシルアミン酢酸塩、ヘキサデシルアミン酢酸塩、オクタデシルアミン酢酸塩、硬化牛脂アミン酢酸塩、ポリオキシエチレンドデシルアミン、ポリオキシエチレンテトラデシルアミン、ポリオキシエチレンヘキサデシルアミン、ポリオキシエチレンオクタデシルアミンや、フッ素系カチオン系乳化剤、反応性カチオン系乳化剤等を挙げることができる。
【0026】
両性乳化剤としては、ジメチルラウリルベタイン、ジメチルステアリルベタイン、ラウリルベタイン、ステアリルベタイン等のベタイン誘導体;ラウリルアミンエチルスルホン酸塩、ステアリルアミンエチルスルホン酸塩等のアルキルアミンアルキルスルホン酸塩類;ラウリルアミンエチレンオキシド硫酸エステル塩、ステアリルアミンエチレンオキシド硫酸エステル塩等のアルキルアミンエチレンオキシド硫酸エステル塩類等を挙げることができる。
これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。なお、乳化剤は重合時に添加するだけではなく、重合後に添加することもできる。乳化剤としては、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤を好適に用いることができ、アニオン系乳化剤がより好ましい。乳化剤としては、アニオン系乳化剤の中でも、アルキルアリールスルホン酸塩型アニオン系乳化剤が好ましく、その中でもアルキルベンゼンスルホン酸塩型アニオン系乳化剤(特にドデシルベンゼンスルホン酸塩)が好適である。
【0027】
乳化剤の使用量は、特に限定されないが、例えば、モノマー成分100重量部に対して0.5〜6重量部の範囲から選択でき、好ましくは1〜5重量部であり、さらに好ましくは1〜4重量部である。乳化剤の使用量が、モノマー成分100重量部に対して0.5重量部未満であると重合安定性が低下し、重合中または攪拌、輸送等の際に凝集物が発生する場合があり、一方、6重量部を超えると、剥離後に被着体の表面に汚染が生じる場合がある。
【0028】
なお、本発明では、架橋剤が用いられていても良い。架橋剤を用いることにより、粘着剤の凝集力を向上させることができる。架橋剤は、通常、アクリル系重合体の重合後で且つ基材又はセパレータに塗工する前に粘着剤中に添加して用いられる。架橋剤は水溶性でも油溶性でもよい。水溶性架橋剤としては、例えば、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ系、水分散型イソシアネート系、オキサゾリン系、アジリジン系、親水化処理カルボジイミド系、活性メチロール系、活性アルコキシメチル系、金属キレート系、メラミン樹脂系、過酸化物系等が挙げられる。油溶性架橋剤としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン等のエポキシ系、ヘキサメチレンジイソシアネート等のイソシアネート系、油溶性カルボジイミド系等を用いることができる。架橋剤の使用量は、一般的にアクリル系粘着剤で使用されている量でよい。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0029】
リン酸エステル系化合物としては、リン酸アルキルエステル、リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルエーテル)エステル、リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルアリールエーテル)エステルを好適に用いることができ、より好ましくは、リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルエーテル)エステル、リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルアリールエーテル)エステルである。
その他、リン酸シクロアルキルエステル、リン酸アリールエステル、リン酸(ポリオキシアルキレン−アリールエーテル)エステル等のリン酸エステル、またはこれらの塩等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、リン酸エステル系化合物は、モノエステル体(リン酸モノエステル)、ジエステル体(リン酸ジエステル)等のいずれの形態を有していてもよい。なお、リン酸エステル系化合物がジエステル体である場合、リン酸とエステル結合を介して結合している2つの基は同一でも異なっていてもよい。
【0030】
リン酸アルキルエステルとしては、例えば、リン酸モノメチルエステル、リン酸モノエチルエステル、リン酸モノプロピルエステル、リン酸モノブチルエステル、リン酸モノペンチルエステル、リン酸モノヘキシルエステル、リン酸モノヘプチルエステル、リン酸モノオクチルエステル、リン酸モノノニルエステル、リン酸モノデシルエステル、リン酸モノウンデシルエステル、リン酸モノドデシルエステル、リン酸モノトリデシルエステル、リン酸モノテトラデシルエステル、リン酸モノペンタデシルエステル、リン酸モノヘキサデシルエステル、リン酸モノヘプタデシルエステル、リン酸モノオクタデシルエステル等のリン酸モノアルキルエステルや、これらのリン酸モノアルキルエステルに対応したリン酸ジアルキルエステルなどが挙げられる。
【0031】
リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルエーテル)エステルには、リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステル、リン酸(ポリオキシプロピレン−アルキルエーテル)エステル、リン酸(ポリオキシエチレン−オキシプロピレン−アルキルエーテル)エステルなどが含まれる。
リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルとしては、例えば、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘキシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘプチルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−オクチルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ノニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−デシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ウンデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ドデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−トリデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−テトラデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ペンタデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘキサデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘプタデシルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ステアリルエーテル)エステル等のリン酸モノ(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルや、これらのリン酸モノ(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルに対応したリン酸ジ(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルなどが挙げられる。また、リン酸(ポリオキシプロピレン−アルキルエーテル)エステルや、リン酸(ポリオキシエチレン−オキシプロピレン−アルキルエーテル)エステルの具体例としては、前記リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルとして例示の具体例に対応したものが挙げられる。
これらのリン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルエーテル)エステル中で、リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルエーテル)エステルが好ましく、中でもリン酸(ポリオキシエチレン−ステアリルエーテル)エステルが好適である。
【0032】
リン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルアリールエーテル)エステルには、リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステル、リン酸(ポリオキシプロピレン−アルキルアリールエーテル)エステル、リン酸(ポリ(オキシエチレン−オキシプロピレン)−アルキルアリールエーテル)エステルなどが含まれ、リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルが好適である。リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルとしては、例えば、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−デシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ウンデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ドデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−トリデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−テトラデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ペンタデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘキサデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−ヘプタデシルフェニルエーテル)エステル、リン酸モノ(ポリオキシエチレン−オクタデシルフェニルエーテル)エステル等のリン酸モノ(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルや、これらのリン酸モノ(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルに対応したリン酸ジ(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルなどが挙げられる。また、リン酸(ポリオキシプロピレン−アルキルアリールエーテル)エステルや、リン酸(ポリオキシエチレン−オキシプロピレン−アルキルアリールエーテル)エステルの具体例としては、前記リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルアリールエーテル)エステルとして例示の具体例に対応したものが挙げられる。これらのリン酸(ポリオキシアルキレン−アルキルアリールエーテル)エステル中では、リン酸(ポリオキシエチレン−アルキルフェニルエーテル)エステルが好ましく、中でもリン酸(ポリオキシアルキレン−ノニルフェニルエーテル)エステルが好適である。
【0033】
リン酸エステル系化合物の使用量は、特に限定されないが、アクリル系重合体又はアクリル系粘着剤の固形分100重量部中0.5〜4重量部(好ましくは0.8〜2重量部)である。リン酸エステル系化合物の使用量がアクリル系重合体又はアクリル系粘着剤の固形分0.5重量部より少ないと、粘着剤の被着体に対する粘着力の上昇を抑制又は防止する効果が低下する場合があり、一方、4重量部よりも多いと、被着体に汚染が生じる場合がある。
【0034】
上記以外にも、本発明の粘着テープ又はシートにおける粘着剤層には必要に応じて剥離調整剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、顔料、染料、老化防止剤等の添加剤が配合されていてもよい。
【0035】
本発明の粘着テープ又はシートにおける基材は特に限定されないが、例えば、ポリオレフィンフィルム(ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、エチレン−プロピレン共重合体フィルム等)、ポリエステルフィルム、ポリイミドフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ酢酸ビニルフィルム等のプラスチックフィルム、金属箔および多孔性基材等が挙げられる。基材としては、なかでも多孔性基材が好ましく、多孔性基材としては、例えば、和紙、クラフト紙、クレープ紙、不織布等が挙げられる。基材としては和紙が好適であり、特に叩解された木材パルプまたはこれに1種以上の合成短繊維が混抄された和紙が好適である。合成短繊維の材料としては、例えば、ビニロン、ナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等が挙げられる。
【0036】
多孔性基材の秤量は特に限定されないが、例えば5〜200g/m程度の範囲から選択することができ、通常20〜100g/mであり、好ましくは25〜50g/mの範囲である。基材の厚みとしては、適宜選択することができ、例えば、5〜300μm程度であってもよい。より具体的には、基材が和紙の場合、和紙の厚みとしては、強度やコシ等の観点から40〜200μm、特に、50〜100μmが好ましい。基材は必要に応じて含浸処理、目止め処理および剥離処理等の公知の処理を施されていてもよい。なお、基材は単層および複層のいずれの形態を有していてもよい。
【0037】
本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、例えば、通常の粘着テープの製造方法に従い、例えば、上記基材に下塗り処理、バックサイズ処理及び/または背面処理を行い、所定の面に、粘着剤を、乾燥後の厚さが5〜80μmとなるよう塗工、乾燥させることにより、またはセパレータ上に、粘着剤を乾燥後の厚さが5〜80μmとなるように塗工、乾燥させた後、上記基材に転写することにより製造することができる。
【0038】
自動車等の車両の場合、マスキング用粘着テープ又はシートが貼着される面は、被着体の最上層の組成が異なる(車両の種類により異なる)ことに加えて、その表面は、風雨、日光、自動車の排気ガス、洗車等により経時的に酸化等により大きく変化している。すなわち、中古車の表面は、新車の際の表面とは大きく異なっており、そのため、マスキング用粘着テープ又はシートの粘着力又は接着力も、新車時と、使用以降とでは異なり、通常、中古車の方が、新車時よりも大きくなっている。しかも、マスキング用粘着テープ又はシートの粘着力又は接着力は、経時的に増大する傾向があり、特に高温で養生した場合、倍以上に増大する場合がある。
このように、マキング用粘着テープ又はシートの粘着力又は接着力の経時的な変化は、車両等の被着体の種類や、被着体の使用状態・環境状態等により大きく異なっており、千差万別である。そのため、マスキング用粘着テープ又はシートの被着体への粘着力又は接着力の経時的変化は、個々の被着体に対して測定する必要があり、従来、被着体を限定した特定の測定方法で、広範囲な被着体について判断又は類推することができなかった。
しかしながら、本発明では、ステンレス(SUS304BA)板を用いて、150℃で1時間加熱処理を行い、その際の粘着力の変化率を求め、その値を150%以下に制御することにより、マキング用粘着テープ又はシートは、被着体の種類やその表面状態、被着体貼着後の高温での養生などに関わらずに、粘着力の変化が抑制又は防止されており、塗装等の後に剥離させる際には、容易に剥離させることができるものである。すなわち、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートでは、150℃で加熱処理した際の粘着力の変化率の測定の際の加熱条件や被着体などについては実際に使用される条件とは異なるが、実際に使用する被着体や外的条件等に関係なく、広範囲な個々の被着体に対して、剥離させる際には、粘着力の上昇がほとんどなく、優れた再現性で容易に剥離させることができる。そのため、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートでは、個々の被着体に対する粘着力の変化を評価しなくてもよい。
従って、本発明のマスキング用粘着テープ又はシートは、塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートとして有用であり、特に車両塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートとして極めて有用である。車両としては、自動車などの四輪車の他、電車や、二輪車などであってもよい。また、被着体の車両は、特に自動車の場合、新品の車両(新車)のみならず、使用後又は中古の車両(中古車)でも有効に本発明の効果を発揮させることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下文中で部とあるのは全て重量部を意味する。
【0040】
〔粘着剤Aの調製〕
温度計、攪拌機、窒素導入菅および還流冷却管を備えた反応器に水50部を仕込み、攪拌下1時間窒素置換した。その後、過硫酸カリウム0.3部を仕込み、アクリル酸2−エチルヘキシル92部、アクリル酸ブチル5部、メタクリル酸メチル2部、メタクリル酸1部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.0部(モノマー合計で100重量部)を水50部で乳化したモノマー乳化物を70℃で3時間かけて連続的に滴下し、その後75℃で2時間熟成して重合反応を終了した。室温まで冷却した後、10重量%のアンモニア水で中和し、粘着剤Aを調製した。
【0041】
〔粘着剤Bの調製〕
前記粘着剤Aの調製と同様にして、粘着剤Aを調製した後、該粘着剤Aに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをさらに2.0部添加して、粘着剤Bを調製した。すなわち、粘着剤Bには、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが4.0部含まれている。
【0042】
〔粘着剤Cの調製〕
前記粘着剤Aの調製と同様にして、粘着剤Aを調製した後、該粘着剤Aに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムをさらに4.0部添加して、粘着剤Cを調製した。すなわち、粘着剤Cには、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが6.0部含まれている。
【0043】
〔粘着剤Dの調製〕
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えてドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムを4部添加した以外は粘着剤Aと同様の条件で重合し、粘着剤Dを調製した。
【0044】
〔粘着剤Eの調製〕
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えてラウリル硫酸アンモニウムを4部添加した以外は粘着剤Aと同様の条件で重合し、粘着剤Eを調製した。
【0045】
〔粘着剤Fの調製〕
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えてラウリル硫酸ナトリウムを4部添加した以外は粘着剤Aと同様の条件で重合し、粘着剤Fを調製した。
【0046】
実施例1
粘着剤Aにリン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステル1.0部と、エポキシ系架橋剤(商品名:テトラッドC「三菱瓦斯化学社製」)0.3部を添加し、坪量30g/m、厚み70μmの多孔性基材である和紙の片面に、乾燥後厚みが20μmとなるように塗布し、乾燥させて、マスキング用粘着テープを得た。
【0047】
実施例2
リン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステルの添加量を2.0部とした以外は、実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0048】
実施例3
リン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステルの添加量を4.0部とした以外は、実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0049】
実施例4
リン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステルに代えてリン酸(ポリオキシエチレン−ステアリルエーテル)を1.0部添加した以外は、実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0050】
実施例5
粘着剤Aに代えて粘着剤Bを使用した以外は実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0051】
実施例6
粘着剤Aに代えて粘着剤Cを使用した以外は実施例2と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0052】
実施例7
粘着剤Aに代えて粘着剤Dを使用した以外は実施例2と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0053】
実施例8
リン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステルを10部添加した以外は実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0054】
実施例9
リン酸(ポリオキシエチレン−ノニルフェニルエーテル)エステルを10部添加した以外は実施例6と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0055】
比較例1
リン酸エステルを添加しない以外は実施例1と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0056】
比較例2
リン酸エステルを添加しない以外は実施例6と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0057】
比較例3
粘着剤Aに代えて粘着剤Fを使用した以外は実施例2と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0058】
比較例4
粘着剤Aに代えて粘着剤Fを使用した以外は実施例2と同様にしてマスキング用粘着テープを得た。
【0059】
〔粘着力変化率の測定方法〕
マスキング用粘着テープ又はシート(18mm幅)をステンレス(SUS304BA)板に、23℃および65%RHの条件下で、2kgのローラーで1往復して貼り合わせる。貼付した後、20分後(すなわち、23℃および65%RHの条件下で20分間経過後)に、23℃および65%RHの条件下で、引張試験機(島津製作所のオートグラフ)を用いて、180°方向に引張速度:300mm/minで剥離したときの剥離力(初期粘着力)(N/18mm)を測定する。
【0060】
また、マスキング用粘着テープ又はシート(18mm幅)を上記初期粘着力の測定と同一の条件で、ステンレス(SUS304BA)板に貼付した後、150℃(150℃±2℃)に加熱したオーブンに投入して、150℃で1時間加熱処理を行った後、オーブンより取り出し、23℃および65%RHの条件下で、1時間冷却した後、上記と同様に180°方向に引張速度:300mm/minで剥離したときの剥離力(加熱後の粘着力)(N/18mm)を測定する。
【0061】
そして、これら測定された粘着力(初期粘着力、加熱後の粘着力)と、下記式(1)より、ステンレス(SUS304BA)板に貼付後、150℃で1時間加熱した後のマスキング用粘着テープ又はシートの粘着力変化率(%)を求める。
粘着力変化率(%)=[(加熱後の粘着力)/(初期粘着力)]×100(%) (1)
【0062】
〔のり残りの評価方法〕
150℃で1時間加熱した後、サンプルを手で高速で剥がしたときの、のり残りを目視にて観察し、のり残りについて、下記の基準で評価した。
<のり残りの評価基準>
○:粘着剤成分ののり残りが目視で観察されなかった
×:粘着剤成分ののり残りが目視で観察された
【0063】
〔被着体汚染の評価方法〕
粘着力変化率の測定方法により粘着力の変化率を測定後の被着体であるステンレス板の表面において、粘着テープが貼着していた部位(テープ貼付跡)を目視にて観察し、その汚染について、下記の基準で評価した。
<被着体汚染の評価基準>
○:リン酸エステル系化合物などの低分子量成分の汚染が目視で観察されなかった
×:リン酸エステル系化合物などの低分子量成分の汚染が目視で観察された
【0064】
実施例1〜9ならびに比較例1〜4のマスキング用粘着テープ又はシートについて、粘着剤の組成および評価結果を下記表1に示す。
【0065】
表1に示すように、実施例1〜9の粘着テープは、ステンレス(SUS304BA)板上での粘着力の変化が少なく、粘着テープ剥離後のステンレス板上での「のり残り」も生じなかった。特に、実施例1〜7の粘着テープについては、のり残りが解消されたことに加えて、「被着体汚染」も生じておらず、マスキング用粘着テープとして優れた性能を有することが確認された。一方、比較例1〜4の粘着テープは、粘着力の上昇が極端に大きかったため、テープ剥離に大きな力が必要であり、かつ、剥離後のステンレス板上には「のり残り」が観察された。
なお、実施例1に係るマスキング用粘着テープを用いて、中古車の自動車の補修の際に使用し、塗装後に、80℃〜90℃で養生して、塗面を乾燥させた後、マスキング用粘着テープを剥離させたところ、容易に剥離させることができた。しかも、マスキング用粘着テープを貼着していた部分(面)を目視で観察したところ、のり残りや汚染は見られなかった。
一方、比較例1で得られたマスキング用粘着テープを、同じ自動車に対して同様にして貼着して塗装を行い、80℃〜90℃で養生して、塗面を乾燥させた後、マスキング用粘着テープを剥離させたところ、剥離させることが難しく、容易に剥離させることができなかった。しかも、マスキング用粘着テープを貼着していた部分(面)を目視で観察したところ、のり残りが見られた。
【0066】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の片面に形成された粘着剤層とを有するマスキング用粘着テープ又はシートであって、
前記粘着剤層を形成するための粘着剤が、乳化重合によるアクリル系重合体をベースポリマーとして含有し、
該粘着テープ又はシートをステンレス(SUS304BA)板上に貼付後、150℃で1時間加熱した後の粘着力変化率が150%以下であることを特徴とするマスキング用粘着テープ又はシート。
【請求項2】
塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートである請求項1記載のマスキング用粘着テープ又はシート。
【請求項3】
車両塗装用のマスキング用粘着テープ又はシートである請求項1又は2記載のマスキング用粘着テープ又はシート。

【公開番号】特開2010−126650(P2010−126650A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303442(P2008−303442)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】