説明

マスキング装置及びこれを用いた表面処理方法並びに基材

【課題】 マスキング装置を用いて、基材表面の第1領域に選択的に表面処理を行う際に、当該マスキング装置と、当該第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止し、高精度な表面処理を行うことが可能なマスキング装置、及びこのマスキング装置を用いた表面処理方法、並びにこの方法によって形成されてなる基材を提供する。
【解決手段】 基材100の表面の第1領域(M)に表面処理を行うために、第1領域(M)とは異なる第2領域(U)をマスクした際に、第1領域(M)と第2領域(U)との境界近傍に対応する端部に、基材100の表面と対向する対向面14が形成されてなり、この対向面14と、基材100の表面との間に隙間を形成する隙間形成部13を備えてなるマスキング装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面の第1領域に表面処理を行う際にマスクとして用いられるマスキング装置、及びこのマスキング装置を用いた表面処理方法、並びにこの表面処理方法によって所定領域に表面処理が施されてなる基材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、基材表面の所定領域(第1領域)に選択的に所望の膜を形成する際には、当該膜を形成しない領域(第2領域)をマスキング装置でマスクする(覆う)方法が一般的に行われている。このようなマスキング装置を使用して基材表面の所定領域に膜を形成する方法としては、例えば、先ず、基材表面の膜を形成しない領域をマスキングテープで覆い、このマスキングテープで覆われた基材の表面に膜形成用材料(例えば塗料等)を塗装して塗膜を形成し、その後、前記マスキングテープを基材表面から剥がす方法が一般的に行われている。また、マスキングテープの代わりに、金属製の冶具等、種々の形態のマスキング装置も用いられている。
【0003】
また、燃料電池の分野では、セパレータのシール部をマスキング装置によってマスクした後、表面処理を行うセパレータの製造方法が紹介されている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−132913号公報
【特許文献2】特開2003−7958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した従来のマスキング装置を使用した膜形成方法では、マスキング装置と塗膜との境界領域において、当該塗膜の膜厚が厚くなるという現象が生じることがある。また、マスキング装置に塗膜が固着して、マスキング装置を除去する際に、マスキング装置と、塗膜との境界領域付近において塗膜が引き裂かれる等して、前記塗膜に欠落が生じることもある。さらにまた、マスキング装置と基材との間に隙間が形成されていると、毛細管現象によってこの隙間に膜形成用材料(例えば塗料等)が流れ込み、不必要な領域にまで塗膜が形成されることもある。
【0005】
ここで、例えば、前記表面処理が施される基材が燃料電池用セパレータである場合、前記塗膜の膜厚がマスキング装置と塗膜との境界領域、すなわち塗膜の端部の膜厚が、塗膜の他の部の膜厚よりも厚くなると、このセパレータを含む単セルを複数積層して燃料電池スタックとした場合に、前記膜厚が厚くなっている部分に、セル積層方向の荷重がかかることになる。したがって、MEA(膜−電極接合体:Membrane Electrode Assembly)に本来必要な面圧を均一にかけることが困難となる。また、前述したように、マスキング装置と、塗膜との境界領域付近において塗膜が欠落すると、この欠落部分におけるセパレータの耐食性が低下する虞もある。さらにまた、前述したように、不必要な部分にまで塗膜が形成されると、燃料電池を構成した場合に、リーク不良が生じる虞もある。
【0006】
また、前記マスキング装置としてマスキングテープを使用した場合、基材表面からマスキングテープを除去する(剥がす)際に、前述した現象に加え、マスキングテープの粘着剤残りが生じることもある。また、マスキングテープを基材表面に貼る作業や塗膜形成後に剥がす作業等が面倒である。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、マスキング装置を用いて、基材表面の第1領域に選択的に表面処理を行う際に、当該マスキング装置と、当該第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止し、高精度で均一な表面処理を行うことが可能であるマスキング装置、及びこのマスキング装置を用いた表面処理方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明にかかる表面処理方法によって第1領域に表面処理が施されてなる基材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するため本発明は、基材表面の第1領域に表面処理を行う際、当該第1領域とは異なる第2領域をマスクするマスキング装置であって、前記第2領域をマスクした際に、前記第1領域と第2領域との境界近傍に対応する端部に、前記基材表面と対向する対向面が形成されてなり、当該対向面と、前記基材表面との間に隙間を形成する隙間形成部を備えてなるマスキング装置を提供するものである。
【0010】
この構成を備えたマスキング装置は、隙間形成部が形成されているため、基材表面の第2領域をマスクして(覆って)表面処理を行なった際に、当該表面処理が、前記第1領域(表面処理すべき領域)に連続して、当該隙間形成部の先端側(第1領域側)から基端側(第2領域側)の途中に対応する領域まで施されることになる。したがって、前記基材表面の第1領域に表面処理を行った際に、当該基材表面のうち、前記隙間形成部に対向する領域の前記第2領域側に、前記表面処理が施されない部分、すなわち、表面処理に影響されない部分を形成することができる。このため、前記マスキング装置と、当該基材表面の第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止することができる。
【0011】
前記表面処理としては、膜形成処理、エッチング処理、プラズマ処理、ブラスト及び研削等、特に限定されるものではない。そして、前記マスキング装置を構成する材料は、各種表面処理に応じて適宜選択することができる。
【0012】
また、例えば、前記表面処理が、基材表面の第1領域に膜を形成するための膜形成処理である場合、マスキング装置でマスクされた基材表面に膜形成用材料を供給することになるが、この時、当該マスキング装置は、前述したように、前記基材表面のうち、前記隙間形成部に対向する領域の第2領域側に、前記膜形成用材料が供給されない部分を形成することができる。すなわち、マスキング装置が、前記膜形成用材料によって形成された膜に接触しないため、マスキング装置と前記膜との境界領域において、当該膜の膜厚が厚くなるという現象が生じることがない。また、マスキング装置に膜が固着して、マスキング装置を除去する際に、マスキング装置と、膜との境界領域付近において膜が引き裂かれることもない。
【0013】
また、本発明にかかるマスキング装置は、前記基材表面をマスクした際に、当該基材表面と接触する部分に、弾性部材を配設した構成とすることができる。このように構成することで、マスキング装置で基材表面をマスクした際に、前記弾性部材を当該基材表面に密着させることができる。したがって、前記利点に加え、マスキング装置と基材表面との間に隙間が生じることをさらに防止することができ、この部分に表面処理が施されることを抑制することができる。
【0014】
そしてまた、本発明にかかるマスキング装置は、前記対向面の前記第1領域側先端と、当該基材表面との距離(L)が、前記表面処理によって得られる表面処理層の厚さ(t)の10倍〜20倍の範囲となるように構成することができる。
【0015】
さらにまた、本発明にかかるマスキング装置は、前記隙間形成部の前記第2領域側端部から第1領域側端部までの長さ(E)が、前記表面処理によって得られる表面処理層の厚さ(t)の20倍〜40倍の範囲となるように構成することができる。
【0016】
また、隙間形成部は、前記第2領域から第2領域に向けて延出してなり、前記基材表面の第2領域をマスクした際に、前記対向面が当該基材表面に対し略水平であり、前記第1領域側の面が、当該基材表面に対し略垂直であるよう構成することもできる。
【0017】
さらにまた、本発明にかかるマスキング装置は、前記基材表面に接触する部分の前記第1領域側の面が、当該基材表面に対し略垂直であるよう構成することもできる。
【0018】
前記基材は、特に限定されるものではないが、例えば、燃料電池用セパレータ等であってもよい。
【0019】
また、本発明は、マスキング装置を用いて基材表面の第1領域に選択的に表面処理を行う表面処理方法であって、前記基材表面上に、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のマスキング装置の隙間形成部が、前記基材表面の第1領域と第2領域との境界近傍に位置するように、当該マスキング装置を配置する工程と、前記マスキング装置が配置された基材表面に表面処理剤を供給し、当該基材表面を選択的に表面処理する工程と、前記表面処理工程後、前記マスキング装置を当該基材表面から除去する工程と、を含んでなる表面処理方法を提供するものである。
【0020】
この表面処理方法によれば、基材表面にマスキング装置を配置した際に、前記隙間形成部の存在によって、当該基材表面と前記第1領域との境界近傍位置に、当該基材表面とマスキング装置とが接触しない隙間(非接触部分)を形成することができる。このため、前記表面処理を行った際に、前記基材表面のうち、前記隙間形成部の第1領域側から、第2領域側の途中に対応する領域まで、前記表面処理剤が供給されることになる。すなわち、前記隙間形成部に対向する領域の第2領域側は、前記表面処理が施されないため、前記マスキング装置と、当該基材表面の第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止することができる。
【0021】
なお、本発明でいう「表面処理剤」とは、基材表面に所望の表面処理を行うためのものであれば、特に限定されるものではく、例えば、基材表面に膜を形成するための膜形成用材料、基材表面をエッチングするためのエッチング液やエッチングガス、プラズマ、ブラスト剤、研磨材等、種々のものが挙げられる。
【0022】
そしてまた、前記表面処理剤の供給は、当該表面処理剤を噴霧することによって行うこともできる。
【0023】
さらにまた、前記表面処理剤の供給は、表面処理剤供給器を用いて行い、当該表面処理剤供給器を、前記表面処理剤の当該延出部の基端側における前記基材表面に対する入射角度が、当該マスキング装置から離れた側の入射角度よりも鋭角となるよう傾けて、前記表面処理剤を当該基材表面に供給することもできる。
【0024】
また、本発明にかかる表面処理方法では、前記表面処理剤が膜形成用材料であり、前記表面処理工程で、前記基材表面の第1領域に選択的に膜を形成してもよい。この工程によれば、前記基材表面のうち、前記マスキング装置の隙間形成部に対向する領域の第2領域側に、膜形成用材料が供給されない部分を形成することができる。したがって、この部分では、前記膜形成用材料によって形成された膜がマスキング装置に接触しないため、マスキング装置と膜との境界領域において、当該膜の膜厚が厚くなるという現象が生じることがない。また、マスキング装置に膜が固着して、マスキング装置を除去する際に、マスキング装置と、膜との境界領域付近において膜が引き裂かれることもない。さらに、基材表面と接触する部分に弾性部材が配設されてなるマスキング装置を使用すれば、マスキング装置と基材表面との間に隙間が生じることを効果的に防止することができ、この部分に膜形成用材料が浸入することも防止することができる。
【0025】
そしてまた、本発明は、前述した表面処理方法が施されてなる基材を提供するものである。
【発明の効果】
【0026】
本発明にかかるマスキング装置は、隙間形成部の存在によって、基材表面と第1領域との境界近傍位置に、当該基材表面とマスキング装置とが接触しない隙間(非接触部分)を形成することができる。したがって、前記基材表面の第1領域に表面処理を行った際に、当該基材表面のうち、前記隙間形成部に対向する領域の第2領域側に、表面処理が施されない部分を形成することができる。この結果、前記マスキング装置と、当該基材表面の第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止することができ、高精度な表面処理を行うことができる。
【0027】
また、本発明にかかる表面処理方法によれば、基材表面に前記マスキング装置を配置した際に、隙間形成部の存在によって、前記基材表面と第1領域との境界近傍位置に、当該基材表面とマスキング装置とが接触しない隙間(非接触部分)を形成することができる。したがって、前記マスキング装置が配置された基材表面に表面処理剤を供給した際に、前記基材表面のうち、前記隙間形成部に対向する領域の第2領域側に、表面処理剤が供給されない部分を形成することができる。この結果、前記マスキング装置と、当該基材表面の第1領域との境界やその付近に不具合が生じることを防止することができ、高精度な表面処理を行うことができる。
【0028】
そしてまた、本発明にかかる基材は、高精度な表面処理がなされており、当該表面処理によって付与されるべき機能を確実に発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の好適な実施の形態にかかるマスキング装置及びこのマスキング装置を用いた表面処理方法について、図面を参照して説明する。なお、以下に記載される実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこれらの実施の形態にのみ限定するものではない。したがって、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な形態で実施することができる。
【実施例1】
【0030】
図1は、本発明の実施例1にかかるマスキング装置の平面図、図2は、図1に示すII−II線に沿った断面図、図3は、実施例1にかかるマスキング装置を、基台上に配置された基材の表面に配置した状態を示す平面図、図4は、図3に示すIV−IV線に沿った一部を示す断面図、図5は、図3に示す状態の側面図、図6は、実施例1にかかるマスキング装置が配置された基材に表面処理を施している状態を示す断面図、図7は、基材上に膜が形成された状態を示す図4に対応する断面図である。
【0031】
なお、実施例1では、基材の第1領域(表面処理すべき領域)を、基材の中央部に位置する略長方形の領域とし、この領域に、選択的に膜を形成する場合について説明する。また、マスキング装置を基材に配置した際に、基材側を「下」、その反対方向を「上」として説明する。
【0032】
図1及び図2に示すように、実施例1にかかるマスキング装置1は、基材100(図3〜図7参照)表面の膜を形成しない領域である第2領域(U)の全てを覆うことができる形状及びサイズを有しており、その中央部には、膜を形成する領域である第1領域(M)に合わせて開口された開口部10が形成されている。
【0033】
このマスキング装置1は、第2領域(U)に接触して配置される下部11と、下部11に連続して一体的に形成された上部12から構成されており、上部12の開口部10側は、下部11よりも開口部10側に延出した隙間形成部13となっている。この隙間形成部13は、マスキング装置1を基材100に配置した際に、第2領域(U)と、第1領域(M)との境界近傍に位置するように、第1領域(M)に向けて延出しており、この隙間形成部13によって、基材100の表面との間に隙間が形成される。この隙間は、後に詳述するが、マスキング装置1をマスクとして、第1領域(M)に選択的に膜を形成する際に、第1領域(M)と、第2領域(U)との間に位置し、隙間領域(F)を形成する。(図4及び図6参照)。
【0034】
隙間形成部13は、マスキング装置1を基材100に配置した際に、基材100の表面に対向する対向面14を有しており、この対向面14は、基材100の表面に対し略水平に形成されている。また、隙間形成部13の開口部10を画定する第1領域(M)側の面15は、基材100の表面に対し略垂直に形成されている。なお、実施例1では、この隙間形成部13の第2領域(U)側端部から第1領域(M)側端部までの長さ(E)(図4参照)を、基材100上に形成される膜110の厚さ(t)(図7参照)の20倍程度となるように設定した。
【0035】
下部11は、開口部10を画定する第1領域(M)側の面16が、基材100の表面に対し略垂直に形成されている。なお、実施例1では、この下部11の高さ、すなわち、マスキング装置1を基材100に配置した際に、基材100の表面から対向面14までの距離(L)(図4参照)を、基材100上に形成される膜110の厚さ(t)(図7参照)の10倍となるように設定した。
【0036】
マスキング装置1の隙間形成部13よりも外側には、下部11及び上部12を貫通する貫通孔17が2カ所形成されている。これらの貫通孔17は、マスキング装置1を、後に説明する基台200(マスキング用下装置:図4〜図7参照)上に配置された基材100上に配置する際に、基材100とマスキング装置1との位置合わせを行うための基準ピン201が挿入されるピン孔の役割を果たす。
【0037】
なお、基材100にも、基準ピン201が挿入されるピン孔101(図5参照)が形成されている。
【0038】
基台200は、外形がマスキング装置1と同じ形状及びサイズを有しており、基材100とマスキング装置1との位置合わせを行うための基準ピン201が設けられている。
【0039】
次に、このマスキング装置1を用いて、基材100の第1領域(M)に選択的に膜を形成する場合について説明する。
【0040】
先ず、図4に示すように、基台200上に基材100を載置する。この時、基台200に設けられている基準ピン201を、基材100に形成されているピン孔101に挿入させて、基材100を所定位置に位置合わせする。(図5参照)。
【0041】
次に、基台200上に配置された基材100上に、マスキング装置1を配置する。この時、図5に示すように、基台200に設けられている基準ピン201を、マスキング装置1に形成されている貫通孔17に挿入させて、マスキング装置1を所定位置に位置合わせする。この位置合わせにより、マスキング装置1の下部11の下面が、基材100の第2領域(U)上に載置され、この第2領域(U)は、マスキング装置1によってマスクされる。一方、基材100の第1領域(M)は、開口部10によって露出される。
【0042】
次に、図6に示すように、マスキング装置1によって第2領域(U)がマスクされた基材100に対し、表面処理剤供給器としてのエア塗装ガン300を使用して、上方から膜形成用材料301を噴霧する。この時、膜形成用材料301は、広がり角度(θ)で、基材100上に噴霧される。なお、実施の形態1では、広がり角度(θ)は、
長さ(E)>距離(L)/tanθ
を満たすように設定した。
【0043】
また、この時、エア塗装ガン300は、膜形成用材料301を吐出する吐出口の向きが、基材100の表面に垂直な方向に対し角度(α)となるように傾けて設置した。このようにエア塗装ガン300を傾けることで、膜形成用材料301の隙間形成部13側における基材100の表面に対する入射角度が、マスキング装置1から離れた側の入射角度よりも鋭角となる。
【0044】
このような条件で膜形成用材料301を噴霧することにより、膜形成用材料301は、マスキング装置1の隙間形成部13の面15から、距離(L)/tanθの位置まで、マスキング装置1の下部11の面16側に、すなわち、隙間領域(F)に浸入するが、面16に接触することはない。この工程により、図7に示すように、基材100上の第1領域(M)と、隙間領域(F)の途中まで膜厚(t)の膜110が形成される。その後、マスキング装置1を基材100から除去する。
【0045】
このように、マスキング装置1を用いて膜110を形成した場合、形成された膜110のマスキング装置1側の膜厚が厚くなるという現象が生じることがない。また、マスキング装置1に膜110が固着して、マスキング装置1を除去する際に、膜110が引き裂かれることもない。
【0046】
なお、実施例1では、下部11と、下部11に連続して一体的に形成された上部12と、から構成されてなるマスキング装置1について説明したが、これに限らず、例えば、図8に示すように、マスキング装置2の下部21を弾性部材から構成し、この下部21を上部12に、取り付けた構成としてもよい。この構成の場合、図8に示すように、マスキング装置2で基材100の表面をマスクする際に、仮に、基材100が歪んでいたりして、マスキング装置2との間に隙間が形成されるような状況であったとしても、下部21の弾性により、下部21を基材100表面に密着させることができ、マスキング装置2と基材100との間に、膜形成用材料が浸入することを防止することができる。したがって、第2領域(U)に、膜110が形成されることを抑制することができる。
【0047】
なお、マスキング装置2の下部21を構成する弾性部材としては、例えば、ゴム、樹脂、スポンジ等の多孔質部材等、所望により選択することができる。
【0048】
また、弾性部材は、マスキング装置2の第2領域(U)と接触する部分に配設されていれば、マスキング装置2の下部21全体を構成しなくてもよい。
【0049】
また、実施例1では、隙間形成部13の形状を、断面略四角形とした場合について説明したが、これに限らず、隙間形成部13の形状は、第2領域(U)と、第1領域(M)との間に、隙間領域(F)を形成することが可能であれば、特に限定されるものではない。
【0050】
さらにまた、実施例1では、基材100の表面から隙間形成部13の対向面14までの距離(L)(図4参照)を、基材100上に形成される膜110の厚さ(t)(図7参照)の10倍となるように設定した場合について説明したが、これに限らず、基材100の表面から対向面14までの距離(L)は、第2領域(U)と、第1領域(M)との間に、隙間領域(F)を形成することが可能であれば、特に限定されるものではないが、距離(L)は、膜110の厚さ(t)の10倍〜20倍の範囲で設定することが望ましい。
【0051】
そしてまた、実施例1では、隙間形成部13の第2領域(U)側端部から第1領域(M)側端部までの長さ(E)(図4参照)を、基材100上に形成される膜110の厚さ(t)(図7参照)の20倍程度となるように設定した場合について説明したが、これに限らず、前述した隙間領域(F)を形成することが可能であれば、特に限定されるものではないが、長さ(E)は、膜110の厚さ(t)の20倍〜50倍の範囲で設定することが望ましい。
【0052】
そしてまた、実施例1では、膜形成用材料301は、エア塗装ガン300を使用して、上方から膜形成用材料301を噴霧する場合について説明したが、これに限らず、膜形成用材料301は、表面処理剤供給器を用いて行なってもよい。また、エア塗装ガン300は、基材100の表面に垂直な方向に対し角度(α)となるように傾けて設置した場合について説明したが、これに限らず、エア塗装ガン300の設置角度は、所望により決定することができるが、マスキング装置1側の基材100表面に対する入射角度が、マスキング装置1から離れた側の入射角度よりも鋭角となるよう傾けることが望ましい。
【実施例2】
【0053】
次に、本発明の実施例2にかかるマスキング装置及びこのマスキング装置を用いた表面処理方法について、図面を参照して説明する。なお、実施例2では、基材として、燃料電池用セパレータを適用した場合について説明する。
【0054】
図9は、本発明の実施例2にかかるマスキング装置によってマスクされる燃料電池用セパレータの平面図、図10は、図9に示す燃料電池用セパレータが配置される基台の平面図、図11は、図10に示す基台の側面図、図12は、実施例2にかかるマスキング装置の平面図、図13は、図12に示すXIII−XIII線に沿った一部を示す断面図、図14は、図10に示す基台上に、図9に示す燃料電池用セパレータ及び図12に示すマスキング装置を順に配置して位置決めした状態を示す平面図、図15は、図14に示すXV−XV線に沿った一部を省略して示す断面図、図16は、セパレータ上に膜が形成された状態を示す図15に対応する一部拡大断面図である。
【0055】
なお、実施例2では、実施例1で説明した部材と同様の部材には、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0056】
図9に示すように、実施例2にかかるセパレータ150は、その略中央部分が、特に図示しないガス流路が形成されたガス流路形成領域151となっており、このガス流路形成領域151は、燃料電池の発電部に対応している。また、ガス流路形成領域151の両側には、マニホールド152が形成されている。なお、実施例2では、セパレータ150のガス流路形成領域151と、マニホールド152の外周部近傍領域とを、第1領域(M)とした。
【0057】
基台250は、セパレータ150及びマスキング装置3を配置可能な形状を有しており、セパレータ150及びマスキング装置3を配置した際に、これらの位置合わせを行うための基準ピン201が設けられている。また、基台250には、セパレータ150を配置した際に、このセパレータ150のマニホールド152と対応する位置に、マニホールド152と同サイズの開口部251が形成されている。この開口部251は、膜形成用材料301を、セパレータ150の表面に供給する際に、例えば、膜形成用材料301が跳ね返る等して、マスキング装置3とセパレータ150との間に浸入したり、膜形成用材料溜まり等ができることをより確実に防止する役割を果たしている。なお、実施例2では、リサイクルするための強度を考慮し、基台250をSUSで構成し、その板厚を、約1.5mmとした。
【0058】
マスキング装置3は、セパレータ150のガス流路形成領域151に対応した領域が開口部35となっており、マニホールド152及びマニホールド152の外周部近傍領域に対応した領域が開口部36となっている。すなわち、マスキング装置3は、セパレータ150の第1領域(M)に対応した部分(図9及び図16参照)が開口されている。また、このマスキング装置3には、開口部35及び36の外周部分に沿って隙間形成部13が形成されている。すなわち、マスキング装置3は、マスキング装置1と同様に、第2領域(U)に接触して配置される下部11と、下部11に連続して一体的に形成された上部12から構成されており、上部12の開口部35及び36側は、下部11よりも開口部35及び36側に延出した隙間形成部13となっている。(図13参照)。なお、実施例2では、リサイクルするための強度を考慮し、マスキング装置3をSUSで構成し、その板厚を、約1.5mmとした。
【0059】
次に、このマスキング装置3を用いて、セパレータ150の第1領域(M)に選択的に膜を形成する場合について説明する。
【0060】
先ず、基台250上にセパレータ150を載置する。この時、基台250に設けられている基準ピン201を、セパレータ150に形成されているピン孔101に挿入させて、セパレータ150を所定位置に位置合わせする。
【0061】
次に、基台250上に配置されたセパレータ150上に、マスキング装置3を配置する。この時、基台250に設けられている基準ピン201を、マスキング装置3に形成されている貫通孔17に挿入させて、マスキング装置3を所定位置に位置合わせする。この位置合わせにより、マスキング装置3の下部11の下面が、セパレータ150の第2領域(U)に載置され、この第2領域(U)は、マスキング装置3によってマスクされる。一方、セパレータ150の第1領域(M)は、開口部35及び36によって露出される。
【0062】
次に、図14及び図15に示すように、基台250、セパレータ150及びマスキング装置3の所望位置を保持クリップ330で固定し、これらの位置決めをさらに確実なものとする。
【0063】
次に、マスキング装置3によって第2領域(U)がマスクされたセパレータ150に対し、実施例1と同様の方法で膜形成用材料301を噴霧し、図16に示すように、セパレータ150上の第1領域(M)及び隙間領域(F)の途中まで膜厚(t)の膜110を形成する。その後、保持クリップ330を外し、マスキング装置3をセパレータ150から除去する。
【0064】
このように、マスキング装置3を用いて、セパレータ150の第1領域(M)及び隙間領域(F)の途中までの領域に膜110を形成した場合、膜110のマスキング装置3側の膜厚が厚くなるという現象が生じることがなく、均一な膜厚を備えた膜110が形成されたセパレータ150を得ることができる。したがって、このセパレータ150を含む単セルを複数積層して燃料電池スタックとした場合に、セル積層方向の荷重が局所的にかかることがなく、MEAに本来必要な面圧を正確に均等にかけることができる。
【0065】
また、マスキング装置3に膜110が固着して、マスキング装置3を除去する際に、膜110がマスキング装置3に固着する等して引き裂かれることもない。このため、第1領域(M)において、膜110が欠落することがなく、セパレータ150の耐食性を向上させることもできる。さらに、第2領域(U)に膜110が形成されることがないため、燃料電池を構成した場合に、リーク不良の発生を防止することができる。
【0066】
なお、実施例2にかかるマスキング装置3も、実施例1にかかるマスキング装置1と同様に、マスキング装置3の下部11を弾性部材から構成してもよい。なお、この場合も同様に、弾性部材は、マスキング装置3の第2領域(U)と接触する部分に配設されていれば、マスキング装置3の下部11全体を構成しなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施例1にかかるマスキング装置の平面図である。
【図2】図1に示すII−II線に沿った断面図である。
【図3】本発明の実施例1にかかるマスキング装置を、基台上に配置された基材の表面に配置した状態を示す平面図である。
【図4】図3に示すIV−IV線に沿った一部を示す断面図である。
【図5】図3に示す状態の側面図である。
【図6】本発明の実施例1にかかるマスキング装置が配置された基材に表面処理を施している状態を示す断面図である。
【図7】基材上に膜が形成された状態を示す図4に対応する断面図である。
【図8】本発明の他の実施例にかかる図4に対応する断面図である。
【図9】本発明の実施例2にかかるマスキング装置によってマスクされる燃料電池用セパレータの平面図である。
【図10】図9に示す燃料電池用セパレータが配置される基台の平面図である。
【図11】図10に示す基台の側面図である。
【図12】本発明の実施例2にかかるマスキング装置の平面図である。
【図13】図12に示すXIII−XIII線に沿った一部を示す断面図である。
【図14】図10に示す基台上に、図9に示す燃料電池用セパレータ及び図12に示すマスキング装置を順に配置して位置決めした状態を示す平面図である。
【図15】図14に示すXV−XV線に沿った一部を省略して示す断面図である。
【図16】図16は、セパレータ上に膜が形成された状態を示す図15に対応する一部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0068】
1、2、3…マスキング装置、11、21…下部、12…上部、13…隙間形成部、14…対向面、15、16…面、100…基材、110…膜、150…セパレータ、200、250…基台、300…エア塗装ガン、301…膜形成用材料、330…保持クリップ、F…隙間領域、M…第1領域、U…第2領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面の第1領域に表面処理を行う際、当該第1領域とは異なる第2領域をマスクするマスキング装置であって、
前記第2領域をマスクした際に、前記第1領域と第2領域との境界近傍に対応する端部に、前記基材表面と対向する対向面が形成されてなり、当該対向面と、前記基材表面との間に隙間を形成する隙間形成部を備えてなるマスキング装置。
【請求項2】
前記基材表面の第2領域をマスクした際に、当該基材表面と接触する部分に、弾性部材を配設してなる請求項1記載のマスキング装置。
【請求項3】
前記基材表面の第2領域をマスクした際に、前記対向面の前記第1領域側先端と、当該基材表面との距離(L)が、前記表面処理によって得られる表面処理層の厚さ(t)の10倍〜20倍の範囲で設定されてなる請求項1または請求項2記載のマスキング装置。
【請求項4】
前記基材表面の第2領域をマスクした際に、前記隙間形成部の前記第2領域側端部から第1領域側端部までの長さ(E)が、前記表面処理によって得られる表面処理層の厚さ(t)の20倍〜40倍の範囲で設定されてなる請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のマスキング装置。
【請求項5】
前記隙間形成部は、前記第2領域から第2領域に向けて延出してなり、前記基材表面の第2領域をマスクした際に、前記対向面が当該基材表面に対し略水平であり、前記第1領域側の面が、当該基材表面に対し略垂直である請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のマスキング装置。
【請求項6】
前記基材表面に接触する部分の前記第1領域側の面が、当該基材表面に対し略垂直である請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載のマスキング装置。
【請求項7】
前記基材が、燃料電池用セパレータである請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載のマスキング装置。
【請求項8】
マスキング装置を用いて基材表面の第1領域に選択的に表面処理を行う表面処理方法であって、
前記基材表面上に、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載のマスキング装置の隙間形成部が、前記基材表面の第1領域と第2領域との境界近傍に位置するように、当該マスキング装置を配置する工程と、
前記マスキング装置が配置された基材表面に表面処理剤を供給し、当該基材表面を選択的に表面処理する工程と、
前記表面処理工程後、前記マスキング装置を当該基材表面から除去する工程と、
を含んでなる表面処理方法。
【請求項9】
前記表面処理剤の供給は、当該表面処理剤を噴霧することによって行う請求項8載の表面処理方法。
【請求項10】
前記表面処理剤の供給は、表面処理剤供給器を用いて行い、当該表面処理剤供給器を、前記表面処理剤の前記当該延出部の基端側における前記基材表面に対する入射角度が、当該マスキング装置から離れた側の入射角度よりも鋭角となるよう傾けて、前記表面処理剤を当該基材表面に供給する請求項8または請求項9記載の表面処理方法。
【請求項11】
前記表面処理剤が膜形成用材料であり、前記表面処理工程では、前記基材表面の第1領域に選択的に膜を形成する請求項8ないし請求項10のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【請求項12】
請求項8ないし請求項11のいずれか一項に記載の表面処理方法が施されてなる基材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2006−332008(P2006−332008A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−157992(P2005−157992)
【出願日】平成17年5月30日(2005.5.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】