説明

マスクされた粒状物

【発明の詳細な説明】
【0001】本発明は、薬物の不快な味がマスクされた粒状物に関する。
【0002】
【従来の技術】医薬品における錠剤、カプセル剤など種々の剤型にあって、顆粒剤あるいは細粒剤などの粒状製剤の果たす役割は、特に小児や老齢者の服用性及びコンプライアンスの向上において極めて重要である。そして近年、患者の高齢化が急速に進む中で益々その需要は高まってきている。しかしながら粒状製剤であっても苦味や酸味あるいは刺激性などの不快な味を有する薬物が含まれている場合においては、必ずしも服用しやすい製剤とはなり得ない。
【0003】このため、一般に不快な味を有する粒状製剤には、不快な味をマスキングするための製剤的工夫がなされるのが通例である。一般に最も多く用いられる製剤手法としては、ワックスや水不溶性高分子など口中で溶解しないコーティング剤を粒状物表面にコーティングする方法がある。この場合、従来ではコーティング剤を有機溶媒に溶かすか、または水に懸濁させてスプレーコーティングを施す方法が用いられていた。しかしながら、有機溶媒を用いることは、作業者への衛生上の悪影響、環境汚染及び製剤中への残留など問題点が多い。このため最近ではコーティング剤を可塑剤とともに水に分散させてコーティングを施す方法が見いだされ、広く用いられるようになった。しかしこの方法もまた、水に不安定な薬物には不適当であり、更には水易溶性の薬物に適用した場合では薬物がコーティング液に溶けやすいため、コーティング時の粒状物同士の付着による凝集物の発生や被膜形成不良等の欠点を有する。また、スプレーコーティングの場合、コーティング速度や温度など製造条件の変動要因が多いため、常に一定品質の製剤を得るための精度の高い条件管理が必要となる。特に、粒状製剤のマスキングにおいては、水不溶性のコーティング剤を用いるため、条件変動による被膜形成性のバラツキや被膜量のわずかな変動により品質上重要となる薬物の溶出特性に大きな影響を及ぼすことを注意しなければならない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、薬物のにがみなどの不快な味を効率的にマスクした粒状物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を達成するための手段】本発明は不快な味を有する薬物と水不溶性高分子を粉粒状の水溶性低融点物質を用いて造粒すると、薬物の不快な味が効率良くマスクできるとの知見に基づいてなされたのである。すなわち、本発明は、粉粒状の薬物及び粉粒状の水不溶性高分子が粉粒状の水溶性低融点物質により溶融造粒されていることを特徴とする粒状物を提供する。ここで、水溶性低融点物質は、融点が40℃〜90℃の、多価アルコール、水溶性界面活性剤およびそれらの混合物から選ばれ、「水不溶性高分子」はアクリル酸系高分子、セルロース系高分子及びそれらの混合物から選ばれる。
【0006】本発明で用いる水溶性低融点物質としては、その融点が40〜90℃、好適には50〜80℃のものが望ましく、例えば、マクロゴール20000、マクロゴール6000、マクロゴール4000などの多価アルコール類、水溶性界面活性剤もしくはこれらの混合物が挙げられる。また、高級脂肪酸などの水不溶性の低融点物質であっても、マクロゴール類などの水溶性低融点物質と共融して得られる混合物も使用することができる。その使用量は粒状物1重量部に対し通常0.15〜0.35重量部である。又、粉粒状のものを使用するのが好ましく、その粒径は目的とする粒状物の粒径に応じて決定すればよく、通常100〜840μm の範囲のものを用いるのがよい。
【0007】上記水溶性低融点物質を用いて溶融造粒される薬物としては、不快な味を有する薬物である塩酸セトラキサート、オフロキサシン、インドメタシン、アスピリン、3−((2−((2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル)アミノ)−2−オキソエチル)アミノ)−N−メチルベンズアミドなどをあげることができ、中でも難溶性の薬物を好適なものとして挙げることができる。これらは通常、粒状物1重量部に対し0.01〜0.5重量部使用するのがよい。上記被コーティング造粒物は水溶性低融点物質と薬物のみで形成することができるが、賦形剤としてとうもろこしデンプン、乳糖等を使用することができ、目的物の重量に応じて、適当量使用すればよい。又、賦形剤としては粒径が通常1〜150μm のものを使用するのがよい。又、分散剤としてタルク、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム等を使用することができ、その使用量は粒状物1重量部に対し通常0.05〜0.3重量部である。又、タルクとしては粒径が10μm 前後のものを使用すればよく、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムとしては20μm 以下のものを使用すればよい。
【0008】本発明の粒状物にかかわる水不溶性の高分子としてはオイドラギットS、オイドラギットL、オイドラギットRS、オイドラギットRLなどのアクリル酸系高分子、セルロースアセテートフタレート、カルボキシメチルエチルセルロースなどのセルロース系高分子等が挙げられ、該基剤の大きさは、一般に20μm 以下に粉砕されて用いられ、その使用量は粒状物1重量部に対し通常0.01〜0.1重量部である。
【0009】本発明の薬物の不快な味がマスクされた粒状物は以下の方法により製造することができる。粉粒状の水溶性低融点物質と薬物粉体及び水不溶性高分子を、場合によっては適当な賦形剤及び分散剤とともに流動混合下、低融点物質の融点以上の温度に加熱しながら造粒し、冷却することにより本願発明の粒状物を得ることができる。得られた粒状物はこのままでも十分なマスキング効果を有するが、場合によってはさらにタルクなどの微粉末状添加物を同様の操作でコーティングすることができる。その場合、タルクなどの使用量は、先の造粒過程で使用した分散剤の使用量と合わせて、コーティングされた粒状物1重量部に対し、通常0.01〜0.3重量部である。
【0010】加熱操作は通常熱風により行われその温度は一般に、用いる水溶性低融点物質の融点より5〜30℃高い温度で操作され、その時間は用いる原材料の種類や製造スケールによって異なるが、通常1〜10kg程度のスケールにおいては10〜30分である。
【0011】
【発明の効果】本発明のマスキング粒状物は、口中における味のマスキング性、溶出性、外観、強度、安定性等粒状製剤として優れた品質を有する。また、その他にも極めて有用な以下の利点を有する。
(1) 一般のマスキング粒状物の製造に比べて、結合液やコーティング液を調製する必要がない上、製造時間が大幅に短縮でき、また複雑な条件設定を必要とせず簡単な装置によって一定品質の製品を収率よく製造できる。
(2) 溶媒を用いる必要がないため、安全面、衛生面、公害面、製品中への残留などの危険性がなく、更に薬物の安定性も損なうことがない。
(3) 水溶性低融点物質の粒度を変えることにより、容易に製品の粒度をコントロールすることができる。例えば、造粒時150〜250μm の水溶性低融点物質を用いると、粒径250〜500μm の細粒剤が得られ、300〜850μm の水溶性低融点物質を用いると、粒径500〜1400μm の顆粒剤を得ることができる。
(4) 水溶性低融点物質及び水不溶性高分子の種類や量を調節することにより、口中におけるマスキングの程度及び体内での溶出性を自由にコントロールすることができる。次に実施例をあげて本発明を具体的に説明する。
【0012】
【実施例】
実施例 1流動層造粒機(グラットWSG−5型)に塩酸セトラキサート(粒径:150μm 以下)2.8kg、タルク0.5kg、粉砕したオイドラギットS100(平均粒径5μm )0.5kg及びマクロゴール6000(150〜250μm 、日本油脂製)1.2kgを入れ、吸気温度80℃で加熱流動させながら造粒したのち冷却し、500μm のふるいにて篩過し、粒状物(細粒剤)を得た。
【0013】実施例 2実施例1と同様にして得られた粒状物4.2kgを、タルク1.56kgとともに再び流動層造粒機に入れ、吸気温度85℃で加熱しながら流動させ、粉末がすべて被コーティング粒状物に付着した(約20分)のち、ダンパー操作により熱風を室内空気に替え試料温度40℃まで冷却して粒状物(細粒剤)を得た。
【0014】実施例 3流動層造粒機にオフロキサシン1.4kg(粒径:10μm 以下)、オイドラギットS100(平均粒径5μm)0.5kg、乳糖1.5kg、タルク0.3kg及びマクロゴール6000(150〜250μm )1.3kgを入れ、吸気温度80℃で実施例1と同様にして粒状物(細粒剤)を得た。
【0015】試験例1実施例1、2及び3で得られた粒状物につき、口中マスキング試験及び溶出試験を実施した。口中マスキング試験は、試料のそれぞれ0.5gを口に含み苦味あるいは酸味を感じるまでの時間を測定しマスキング時間とした。なお試験者は5名とした。
【0016】溶出試験は、日局一般試験法溶出試験法第1法により行い、日局第1液を用いて試験開始後5分おきに30分までの試験液をサンプリングし、塩酸セトラサートまたはオフロキサシンの吸光度を測定しその溶出率75%に達する時間(T75%)を計算により求めた。これらの結果を表1に示した。
【0017】
表1 試験結果──────────────────────────── マスキング時間 溶出時間(T75%)
──────────────────────────── 実施例1 10〜30秒 2.2分 実施例2 30〜50秒 3.5分 実施例3 20〜40秒 1.7分────────────────────────────表1から明らかなように、本発明の粒状物は十分な口中マスキング性を有し、しかも速やかな溶出特性を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 粉粒状の苦みを有する薬物並びに、アクリル酸系高分子、セルロース系高分子およびそれらの混合物から選ばれる粉粒状の水不溶性高分子が、多価アルコール、水溶性界面活性剤およびそれらの混合物から選ばれる融点が40℃〜90℃の粉粒状の水溶性低融点物質と溶融造粒されていることを特徴とする前記薬物の苦みがマスクされた粒状物。

【特許番号】第2915653号
【登録日】平成11年(1999)4月16日
【発行日】平成11年(1999)7月5日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−298966
【出願日】平成3年(1991)11月14日
【公開番号】特開平5−194193
【公開日】平成5年(1993)8月3日
【審査請求日】平成8年(1996)10月16日
【出願人】(000002831)第一製薬株式会社 (129)
【参考文献】
【文献】特開 昭48−5921(JP,A)
【文献】特開 昭58−214333(JP,A)