説明

マスクドライ洗浄装置及び洗浄方法並びに製造装置

【課題】本発明は、ドライ洗浄方法において、スループット向上し処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄装置または洗浄方法を提供すること、あるいは上記マスクドライ洗浄装置を蒸着装置に隣接して設けることで短時間に洗浄できる稼働率の高い製造装置を提供することである。
【解決手段】本発明はレーザ光源から出射されるレーザ光をマスクに付着した付着蒸着材料に照射し該マスクを洗浄する際に、前記レーザ光を円形状から楕円形状に変更し、該楕円形状のレーザ光を前記マスクの前記付着蒸着材料に照射し洗浄することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着マスクを使用した成膜一般に関し、特にレーザで蒸着マスクを洗浄するマスクドライ洗浄装置及び洗浄方法並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
表示デバイスとして有機ELデバイスが注目されており、製造する方法として真空蒸着法がある。真空蒸着法はマスクを用いて素子パターンを形成する方法である。素子パターンは真空チャンバ内で蒸着材料を加熱蒸発(昇華)させ、図3に示すように蒸着したい場所に設けたマスクの開口部を通して蒸着材料を表示基板に蒸着することで形成される。マスクの開口部以外の場所には、蒸着材料が堆積し、やがて開口部が塞がれるため、一定枚数成膜後にマスクの洗浄を行なっている。
【0003】
現在、マスクの洗浄方法はウエット洗浄方法が用いられているが、有機材料を用いるため環境負荷が増加する、微細な構造でできているパターンにダメージが生じる、蒸着材料の回収再利用が困難という理由で、レーザ光源を用いたドライ洗浄方法(以下、単にレーザ洗浄方法という)が開発されている。特許文献1には、蒸着を行なう成膜室(真空チャンバ)内でドライ洗浄を行ない、マスクにレーザ光が透過する粘着のあるフィルムを貼り付け、マスクから蒸着材料の堆積物を剥離し、剥離した蒸着材料の堆積物をフィルムに回収することが開示されている。
なお、以下においてマスクに堆積し、又は開口部を塞ぐ蒸着材料の付着物を付着蒸着材料Fという。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4236632号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機ELデバイス製造工程の中で、マスクは画素を構成する重要なキーポイントである。マスクの変形、付着蒸着材料Fによるマスク開口部の寸法変化、マスクに付着した異物によるパターニング欠陥、マスクにある異物が基板に再付着する事による表示欠陥など、有機ELデバイスの品質にはマスクの寸法維持と洗浄度がとても重要である。
【0006】
一方、有機ELデバイス製造工程の成膜工程においてはタクトアップの要求が高い。そのために、レーザ洗浄方法においても、微細パターンにダメージがなく、洗浄度を維持しつつ、如何にスループットを向上し処理枚数を増やすかが重要な課題である。
【0007】
そこで、タクトアップを目的にレーザ光径を広げる検討を行ってきた。レーザ光径を広くするためにはレーザ光をパワーアップし、デフォーカスを広く取る等の方法が考えられるがレーザのパワー分布にムラができ、レーザの中心部にエネルギーパワーが集中し、マスクにダメージを与える虞があった。また同時に、デフォーカスを広く取ってもパワー分布のムラが大きく、剥離面積を稼ぐことができず、最終的に剥離率の低下を招くという結果を得た。
【0008】
また、マスク全面を洗浄するためには、レーザ光を全面に亘って走査する必要がある。そのためには一般的には一方向にライン走査し、停止し、次のライン走査のために移動させ、再度停止し、次のライン走査をするというシーケンスを辿る。ライン走査間の移動には停止、移動、停止というシーケンスを伴う。その為ライン走査に比べ時間を要しタクトダウンの大きな要因であり、ライン間の走査回数を減らすなどライン走査間の移動時間を如何に短縮するかが課題である。
特許文献1は、レーザ洗浄方法において、微細パターンにダメージがなく洗浄する方法が開示しているが、上記の課題についての認識がなく、勿論、それに対する開示もない。
【0009】
従って、本発明の第1の目的は、ドライ洗浄方法において、スループットを向上し処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄装置または洗浄方法を提供することである。
また、本発明の第2の目的は、上記マスクドライ洗浄装置を蒸着装置に隣接して設け、短時間で洗浄することで稼働率の高い製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記第1の目的を達成するために、レーザ光源から出射されるレーザ光をマスクに付着した付着蒸着材料に照射し該マスクを洗浄する際に、前記レーザ光を楕円形状に変更し、該楕円形状のレーザ光を前記マスクの前記付着蒸着材料に照射し洗浄することを第1の特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記レーザ光の照射洗浄は前記楕円形状のレーザ光をライン走査して行なわれることを第2の特徴とする。
さらに、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第1または第2の特徴に加え、前記楕円変更は前記楕円形状の長軸方向が前記ライン間の走査方向となるように変更することを第3の特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第2または第3の特徴に加え、前記走査はガルバノミラーで行なうことを第4の特徴とする。
さらに、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第4の特徴に加え、前記楕円変更は前記ガルバノミラーの出力側で行なわれることを第5の特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第4の特徴に加え、前記楕円変更は前記ガルバノミラーと前記レーザ光源との間で行なわれることを第6の特徴とする。
さらに、本発明は、上記第1の目的を達成するために、第1または第2あるいは第3の特徴に加え、前記楕円変更は蒲鉾型の平凸シリンドリカルレンズと該平凸シリンドリカルレンズの前記レーザ光源との光軸結合を前記レーザ光源の光軸から偏心させるように平凸シリンドリカルレンズを少なくとも移動あるいは回転させることを第7の特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記第2の目的を達成するために、蒸着材料をマスクを介して被処理対象に蒸着し成膜する真空蒸着チャンバと、第1乃至第7のいずれかの特徴を有するマスクドライ洗浄装置と、前記真空蒸着チャンバと前記マスクドライ洗浄装置との接続部に設けられた真空隔離手段と、前記真空蒸着チャンバと前記マスクドライ洗浄装置間を前記真空隔離手段を介して前記マスクを搬送する搬送手段とを有することを第9の特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ドライ洗浄方法において、スループットを向上し処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄装置または洗浄方法を提供できる。
また、本発明によれば、上記マスクドライ洗浄装置を蒸着装置に隣接して設け、短時間で洗浄することで稼働率の高い製造装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態である有機ELデバイス製造装置を示す図である。
【図2】本発明の実施形態である搬送チャンバと処理チャンバの構成の模式図と動作説明図である。
【図3】マスクの一例を示す図である
【図4】本発明の第1の実施形態であるマスクドライ洗浄装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態であるマスクドライ洗浄装置に用いる楕円変換集光手段の実施例を示す図である。
【図6】第1の実施形態におけるマスクに照射されるレーザ光をY方向(図4に示す縦方向)に長円とする楕円形状とし、その状態で走査する様子を示す図である。図6(a)はマスク全体におけるレーザ光の走査方法を主体に示す図で、図6(b)は図6(a)の一部拡大図である。
【図7】本実施形態における洗浄フローを示す図である。
【図8】本発明の第2の実施形態であるマスクドライ洗浄装置の構成を模式的に示した図である。
【図9】本発明の第2の実施形態であるマスクドライ洗浄装置に用いる楕円変換手段の実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態として、蒸着材料に有機材料を用いる有機ELデバイス製造装置を例に図を用いて説明する。図1は本発明の一実施形態である有機ELデバイス製造装置100を示す。有機ELデバイス製造装置は、単に発光材料層(EL層)を形成し電極で挟むだけの構造ではなく、陽極の上に正孔注入層や輸送層、陰極の上に電子注入層や輸送層をなど様々な材料が薄膜としてなる多層構造を形成したり、基板を洗浄したりする。図1はその製造装置の一例を示したものである。
【0018】
本実施形態における有機ELデバイス製造装置100は、大別して処理対象の基板6を搬入するロードクラスタ13、基板6を処理する4つのクラスタ(A〜D)、各クラスタ間又はクラスタとロードクラスタ13あるいは次工程(封止工程)との間の設置された5つの受渡室14及びこれら全体の動きを監視し制御する制御装置20から構成されている。本実施形態では、基板の蒸着面を上面にして搬送し、蒸着するときに基板を立てて蒸着する。
【0019】
ロードクラスタ13は、前後に真空を維持するためにゲート弁10を有するロードロック室13Rとロードロック室13Rから基板を受取り、旋回して受渡室14aに基板6を搬入する搬送ロボット15Rからなる。各ロードロック室13R及び各受渡室14は前後にゲート弁10を有し、当該ゲート弁10の開閉を制御し真空を維持しながらロードクラスタ13あるいは次のクラスタ等へ基板を受け渡しする。
【0020】
各クラスタ(A〜D)は、一台の搬送ロボット15を有する搬送チャンバ2と、搬送ロボット15から基板を受取り、所定の処理をする図面上で上下に配置された2つの処理チャンバ1(第1の添え字a〜dはクラスタを示し、第2の添え字u、dは上側下側を示す)を有する。搬送チャンバ2と処理チャンバ1の間にはゲート弁10を設けている。
【0021】
処理チャンバ1の構成は処理内容によって異なるが、蒸着材料である発光材料を真空中で蒸着しEL層を形成する真空蒸着チャンバ1buを例にとって説明する。図2は、そのとき搬送チャンバ2bと真空蒸着チャンバ1buの構成の模式図と動作説明図である。図2における搬送ロボット15は、全体を上下に移動可能(矢印159参照)で、左右に旋回可能なリンク構造のアーム157を有し、その先端には基板搬送用の櫛歯状ハンド158を有する。
【0022】
本実施形態では、図2に示すように、1台の真空蒸着チャンバに処理ラインを2つ設け、一方のライン(例えばRライン)で蒸着している間に、他方のLラインでは基板を搬出入し、基板6とマスク8とのアライメントをして蒸着する準備を完了させることである。この処理を交互に行なうことによって、基板に蒸着させずに無駄に蒸発(昇華)している時間を減少させることができる。
【0023】
上記を実現するために、真空蒸着チャンバ1buは、搬送ロボット15bと基板6の受け渡し行なう受渡部9と、受渡部の櫛歯状ハンド91をハンド旋回駆動手段93で旋回させて直立した基板6とアライメントするマスク8と、マスクを介して基板に蒸着材料を蒸着させる蒸着部7とを有する。蒸着部7は蒸着源71をレール76上に沿って上下方向に移動させる上下駆動手段76と蒸発源71をレール75上に沿って左右のマスク間を移動させる左右駆動ベース74とを有する。蒸発源71は内部に蒸着材料である発光材料を有し、前記蒸着材料を加熱制御(図示せず)することによって安定した蒸発速度が得られ、図2の引出し図に示すように、蒸発源71に並んだ複数の穴73から噴射する構造となっている。
【0024】
図1の引出し図に示すように、マスクドライ洗浄装置60は真空蒸着チャンバ1buなどの真空蒸着チャンバ1に隣接して設けられたマスク洗浄室4に設けられている。マスク洗浄室4は真空チャンバであるマスク洗浄チャンバ5と大気中のレーザ室3とに分れている。マスクドライ洗浄装置60は基本的にはレーザ室に設置されている。マスク洗浄チャンバ5と真空蒸着チャンバ1とは真空隔離手段であるゲート弁10Bを介して接続しており、マスク8はゲート弁10Bを介して両者の間をマスク搬送手段によって移動可能である。
【0025】
図3は本実施形態におけるマスク8の一例を示す。マスク8は大別してマスク部8Mとマスク部を支持するフレーム8Fからなる。蒸着に用いられるマスク部8Mはインバー材からなり、厚さは50μm程度が一般的である。マスク部は頑丈なフレーム8Fにテンションを掛けられ平面や開口部形状を維持している。引出し図に示すように、マスク部8Mには基板6に蒸着する部分に対応した箇所に開口部8hを有する。本例では赤(R)、緑(G)、青(B)の発光材料を蒸着するマスク部のうち赤に対応する開口部を示している。
【0026】
薄く作られているマスク部は外力や温度によって変形させられ、結果各開口部間のピッチやクリアランスに狂いが生じ再生不能になってしまう(現状では十数回が使用限界である)。なお、マスクの寸法は基板の大型化に伴い約1800mm×1500mmになり、その重量も300kg超にも及ぶ。なお、以下の説明では、紛らわしさを避けるために、特別に区別を必要としない限り、マスク部8Mを代表してマスク8と表す。
【0027】
課題で説明したように、ただ単にレーザ光をパワーアップしレーザ光径を広げても、レーザ光のパワー分布にムラができ、レーザの中心部のエネルギー密度が高くなり、マスクにダメージを与える虞がある。またその周辺のエネルギー密度はあまり高くならないので大きく剥離面積を稼ぐことができず、結局スループットを上げることができない。
【0028】
そこで、種々の実験の結果、円形状をしたレーザ光をあえて崩し楕円形状にすることで、エネルギーパワーの集中が緩和され、エネルギー密度が均一化の方向へ向かうことが分かった。その結果、レーザ光を楕円形状にすることでマスクへのダメージを軽減でき、付着蒸着材料を剥離洗浄できる洗浄範囲を広げることができた。
【0029】
図4は上記の課題を解決する本発明の第1の実施形態であるマスクドライ洗浄装置60の構成を模式的に示した図である。図4は真空蒸着チャンバ1から真空隔離手段であるゲート弁10Bを開閉し、搬送手段(図示せず)によってマスク8をマスク洗浄ステージ45にセットした状態を示す。
【0030】
マスクドライ洗浄装置60は大気中のレーザ室3に設けられたレーザ光走査手段30とこれを制御する制御部50とから構成される。マスクドライ洗浄装置は真空中のマスク洗浄チャンバ室5に設けられたマスク8を両室を隔離する透過窓35を介して洗浄する。
レーザ光走査手段30はレーザ光33を出射するレーザ光源31、レーザ光33をマスク8表面に向けて水平(X)方向、垂直(Y)方向及びに奥行き(Z)方向に走査するガルバノミラー32、レーザ光をガルバノミラーへ導く反射ミラー36、ガルバノミラーからの円形状のレーザ光を楕円形状のレーザ光に変換しマスク上に集光させる楕円変換集光手段34及び透過窓35を有する。レーザ光源31の光源としてはYAGレーザ、Arレーザ、COレーザ等を用いる。
【0031】
以上説明した実施形態ではマスク8とガルバノミラー32の間に楕円変換集光手段34を設置し、楕円形状を可能な限り最適な剥離条件となるように制御する。
【0032】
図5は楕円変換集光手段34の実施例を示す図である。楕円変換集光手段34は蒲鉾型の平凸シリンドリカルレンズ34dと、前記平凸シリンドリカルレンズをY方向の軸を中心に回転させるレンズ回転手段37とを有する。レンズ回転手段は平凸シリンドリカルレンズ34dに連結された連結棒37bと連結棒を回転させるモータ37mとを有する。この構成によって、レーザ光の円形状33eから楕円形状33dへの変換は、前記レンズ回転手段により平凸シリンドリカルレンズ34dのレーザ光源31との光軸結合をレーザ光源31の光軸から偏心させて行なう。偏心量はその回転角によって制御され所望の楕円の長辺/短辺に比である楕円比率を設定することができる。本実施例では、平凸シリンドリカルレンズ34dを回転させたが、左右に移動させてもよい。
【0033】
また、平凸シリンドリカルレンズ34dは被処理対象であるマスク上にデフォーカス像を形成する役目も果たす。そのデフォーカス量はガルバノミラー32のZ軸方向の移動によって行なわれる。
ここで本実施形態における円形状、楕円形状を定義する。楕円形状と定義するに当たり、真円(円)の一辺に対し90度方向の辺の長さの差が10%以内のものを円形状とし、ある一辺に対し90度方向の辺の長さの差が10%以上のものを楕円形状と定義する。
【0034】
ある最適な剥離条件(デフォーカス・電流・周波数)を単位面積あたりのレーザパワーから算出・比較すると、真円(真円の辺の長さをaとする)から楕円に変化させる中で、ある一辺(aとする)の長さはそのままで、もう一辺(楕円形状の長径)の長さを2倍の長さ(2aとする)に変更した場合、単位面積あたりのレーザパワーは減少するが、円形状の場合と同様に剥離現象を起こさせるのに十分なパワーは得ることができる。一方、同じように2.5倍の楕円形状にすると、単位面積あたりのレーザパワーは剥離現象を起こさせるパワーを下回る。よって、真円(円)のレーザ径に対し、一辺の長さを2倍〜2.3倍の長さが剥離可能な剥離限界値であり、最大剥離幅を得られる最適な楕円形状と考えられる。
しかし、レーザ出力パワーの変動により、最適なレーザ形状、限界値も変化する為、場合によってはそれ以上の大きな楕円形状や楕円比率の変動も可能である。
【0035】
以上説明した実施形態によれば、マスクを洗浄するレーザ光の形状を楕円形状とすることによって、微細パターンにダメージを与えることがなく、洗浄度を維持しつつ、剥離洗浄できる範囲を拡大できる。その結果、スループットを向上でき、また処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄装置を提供できる。
【0036】
本実施形態では、マスクを真空蒸着チャンバ1とマスク洗浄チャンバ室5との間でマスクを搬入出するときに、真空蒸着チャンバの真空度低下を抑えるためにマスク洗浄チャンバ室も真空チャンバとしている。従って、短時間でマスクを洗浄し、再度真空を得る時間を必要とせず、洗浄後のマスクを直ちに真空蒸着チャンバに搬入できるので稼働率の高い有機ELデバイス製造装置を提供できる。
【0037】
図6は、第1の実施形態におけるマスクに照射されるレーザ光をY方向(図4に示す縦方向)に前述した剥離限界を有する楕円形状のレーザ光33dを走査する様子を示す図である。図6(a)はマスク8全体におけるレーザ光の走査方法を主体に示す図で、楕円形状のレーザ光33dの照射位置をマスク部8Mの左端上端(若しくは左端上端)の原点位置から走査している例である。図6(b)は図6(a)の一部拡大図である。図6(b)に示すように、円形状のレーザ光33eの径Drをaとすると剥離限界における楕円形状のレーザ光33dの長径は2a〜2.3aである。走査はマスクの全面を洗浄するために楕円形状の剥離領域Hの一部を重なるように行なわれる。
【0038】
課題で説明したように、Y方向のライン走査間の移動には停止、移動、停止というシーケンスを要する。40KHzでの周波数で照射したとすると1/40000秒毎にパルスを照射するX方向のライン走査に比べ時間を要しタクトダウンの大きな要因である。特に、Y方向の位置ズレを防ぐために、Y方向の移動を位置フィードバック制御で行なうと走査間の移動時間Tが大きくなり、タクトダウンの影響は大きい。そこで、如何にY方向の走査回数を少なくするかがキーポイントとなる。そこで、本実施形態では、楕円形状の長円をY方向とすることでY方向の移動回数を低減し、全体の走査時間を低減しスループットを向上させる。
【0039】
レーザ光源から出射された円形状のレーザ光径Drに対し楕円形状のレーザ光の長径の長さDcが2倍〜2.3倍の最大剥離幅Hcで剥離洗浄することにより、円状のレーザ径Drで走査するのに比べてY方向の走査回数を1/2.3〜1/2に低減できる。
【0040】
以上説明した実施形態では洗浄レーザ光33dをライン走査間方向に長くすることでライン走査間の移動回数を低減でき、その結果、マスク全体の洗浄時間を短縮することができるマスクドライ洗浄装置を提供できる。
【0041】
次に本実施形態における洗浄フローを図7を用いて説明する。図7に示す洗浄を行う前に、制御部5に予め内蔵された最適剥離条件に基づき、平凸シリンドリカルレンズ34dの偏心量、デフォーカス量を設定する。
その後まず、洗浄されるマスク8が真空蒸着チャンバ1から開かれたゲート弁10Bを通過し、マスク洗浄チャンバ室5に搬入されマスク洗浄台45にセットされる(Step(1))。次に、ガルバノミラー32を図4に示す水平(X)方向及び垂直(Y)方向に駆動し、レーザ光源31のレーザ光33eの照射位置をマスク部8Mの右端上端若しくは左端上端(どちらでも良い)の原点位置に移動する(Step(2))。その後、図4に示したガルバノミラー32によりレーザ光33eを水平方向に1走査し、洗浄を開始する(Step(3))。次に、ガルバノミラーによるレーザ光のY方向へ所定量を下方にシフトする(Step(4))。Step(3)、(4)をマスク8のY方向の高さ分だけ繰り返し洗浄を行なう(Step(5))。
【0042】
以上説明した処理フローの実施形態によれば、楕円形状のレーザ光を走査することで、微細パターンにダメージを与えることなく、剥離洗浄できる範囲を拡大できる。その結果、スループットを向上でき、また処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄方法を提供できる。
【0043】
図8は本発明の第2の実施形態であるマスクドライ洗浄装置60の構成を模式的に示した図である。図4に示す第1の実施形態と異なる第1の点は、図5(a)に示す集光レンズ34dを楕円変換集光手段34から分離し、楕円変換集光手段34を楕円変更手段38とした点である。
また、異なる第2の点は、楕円変更手段38を第1の実施形態ではガルバノミラー32を後に設けたが、本実施形態ではガルバノミラーの前、即ちレーザ光源31とガルバノミラー32との間に設けた点である。
【0044】
さらに、異なる第3の点は、ゲート弁10Bの代わりに真空/大気雰囲気を実現できるロードロック室40を設け、真空蒸着チャンバ1とマスク洗浄室4の間のマスク搬送をロードロック室を介して行なう。その結果、図4に示すように真空雰囲気のマスク洗浄チャンバ室5と大気雰のレーザ室に分ける必要なく、マスク洗浄室4を一つの大気雰囲気の室とすることができる。
【0045】
図9は第2の実施形態に用いる楕円変換手段38の2つの実施例を示す図である。図9(a)に示す楕円変換手段38Aは、レーザ光源31から射出される円形状のレーザ光33eを一方向にのみ共焦点34cを有する2個の蒲鉾型の平凸シリンドリカルレンズ34a、34bを有し、一定方向のみの径が変わる楕円形状のレーザ光33dを出射する。楕円の長辺/短辺に比である楕円比率は、2つの平凸シリンドリカルレンズの焦点距離比で変えることができる。
図9(b)の楕円変換手段38Bは、レーザ光源31から射出される円形状のレーザ光33eを斜め入射し、前記レーザ光の屈折度合いに応じて楕円形状を変化させるプリズム39を有する。
【0046】
本第2の実施形態では集光レンズ34dをガルバノミラーの出力側に残したが、集光レンズ34dも楕円変換手段38A,38Bと一緒に移動させて楕円変換集光手段34A、34Bとしてもよい。また、第1の実施形態で用いた楕円変換集光手段34を第2の実施形態に用いることができる。さらに、集光レンズを設けず、レーザ光源の最終段にある凸レンズによってマスク上のデフォーカス位置を調節してもよい。
【0047】
第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様に、マスクを洗浄するレーザ光の形状を楕円形状とすることによって、微細パターンにダメージを与えることなく、洗浄度を維持しつつ、剥離洗浄できる範囲を拡大できる。その結果、スループットを向上でき、また処理枚数を増やすことができるマスクドライ洗浄装置を提供できる。
【0048】
また、第2の本実施形態においても、マスクドライ洗浄装置を有するマスク洗浄室を真空蒸着チャンバに隣接して設け、短時間でマスクを洗浄することで、稼働率の高い製造装置を提供できる。
【0049】
また、第1の実施形態で説明した種々の施策を第2の実施形態に適用することによって第1の実施形態で得られた効果を奏することができる。
また、第1、第2の実施形態では、レーザ光源を1台としたが、スループット向上のために、複数台設け、洗浄する領域を分担してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1:処理チャンバ 1bu:真空蒸着チャンバ
2:搬送チャンバ 3:レーザ室
4:マスク洗浄室 5:マスク洗浄チャンバ
6:基板 7:蒸着部
8:マスク 8M:マスク部
8F:マスクフレーム 8h:マスク開口部
10、10B:ゲート弁 14:受渡室
15:搬送ロボット 20:制御装置
30:レーザ光走査手段 31:レーザ光源
32:ガルバノミラー 33:レーザ光
33d:楕円形状したレーザ光
33e:レーザ光源から出射されたレーザ光
34、34A,34B:楕円変換集光手段
34a,34b、34d:平凸シリンドリカルレンズ
35:透過窓 36:反射ミラー
37:レンズ回転手段 38、38A,38B:楕円変更手段
39:プリズム 40:ロードロック室
45:マスク洗浄台 50:制御部
60:マスクドライ洗浄装置 100:有機ELデバイスの製造装置
A〜D:クラスタ Dc:楕円形状のレーザ光の長径の長さ
Dr:レーザ光源から出射された円状のレーザ光径
H:剥離領域 Hc最大剥離幅。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源から出射されるレーザ光をマスクに付着した付着蒸着材料に照射し該マスクを洗浄するマスクドライ洗浄装置において、
前記レーザ光を楕円形状に変更する楕円変更手段を具備し、該楕円形状のレーザ光を前記マスクの前記付着蒸発材料に照射し洗浄するレーザ光走査手段を有することを特徴とするマスクドライ洗浄装置。
【請求項2】
前記レーザ光走査手段は前記楕円形状のレーザ光をライン走査することを特徴とする請求項1に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項3】
前記楕円変更手段は前記楕円形状の長軸方向が前記ライン間の走査方向となるように変更することを特徴とする請求項1または2に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項4】
前記走査はガルバノミラーで行なうことを特徴とする請求項2または3に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項5】
前記楕円変更手段は前記ガルバノミラーの出力側に設けられたことを特徴とする請求項4に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項6】
前記楕円変更手段は前記ガルバノミラーと前記レーザ光源との間に設けられたことを特徴とする請求項4に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項7】
前記楕円変更手段は蒲鉾型の平凸シリンドリカルレンズと該平凸シリンドリカルレンズの前記レーザ光源との光軸結合を前記レーザ光源の光軸から偏心させるように平凸シリンドリカルレンズを少なくとも移動あるいは回転させるレンズ駆動手段とを有することを特徴とする請求項1または2あるいは3に記載のマスクドライ洗浄装置。
【請求項8】
レーザ光源から出射されるレーザ光をマスクに付着した付着蒸着材料に照射し該マスクを洗浄するマスクドライ洗浄方法において、
前記レーザ光を楕円形状に変更する楕円変更ステップと、該楕円形状のレーザ光を前記マスクの前記付着材料を照射し洗浄するレーザ光走査ステップとを有することを特徴とするマスクドライ洗浄方法。
【請求項9】
前記走査はガルバノミラーで行なうことを特徴とする請求項8に記載のマスクドライ洗浄方法。
【請求項10】
前記楕円変更ステップは蒲鉾型の平凸シリンドリカルレンズと該平凸シリンドリカルレンズの前記レーザ光源との光軸結合を前記レーザ光源の光軸から偏心させるように平凸シリンドリカルレンズを少なくとも移動あるいは回転させることを特徴とする請求項8または9に記載のマスクドライ洗浄方法。
【請求項11】
蒸着材料をマスクを介して被処理対象に蒸着し成膜する真空蒸着チャンバと、請求項1乃至7のいずれかに記載のマスクドライ洗浄装置と、前記真空蒸着チャンバと前記マスクドライ洗浄装置との接続部に設けられた真空隔離手段と、前記真空蒸着チャンバと前記マスクドライ洗浄装置間を前記真空隔離手段を介して前記マスクを搬送する搬送手段とを有することを特徴とする製造装置。
【請求項12】
前記真空隔離手段はゲート弁であり、前記マスクドライ洗浄装置内のマスクの洗浄が真空雰囲気で行われることを特徴とする請求項11に記載の製造装置。
【請求項13】
前記真空隔離手段はロードロック室であり、前記マスクドライ洗浄装置内のマスクの洗浄が大気圧雰囲気で行われることを特徴とする請求項11に記載の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−219808(P2011−219808A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89399(P2010−89399)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】