説明

マスクブランク収納容器、マスクブランクの収納方法及びマスクブランク収納体

【課題】外気の進入に伴う化学物質などの異物による汚染を防止でき、清浄な雰囲気を保ったままマスクブランク等を保管でき、しかも外光の進入を防止できるマスクブランク収納容器を提供する。
【解決手段】上方が開口した容器本体と、該容器本体に被せる蓋とを備えて、内部に、レジスト膜を有するマスクブランクを収納する。蓋のコーナーに外気との通気孔を形成し、この通気孔の容器内側にフィルター部材6を設ける。通気孔から外気が進入しても、外気に含まれる化学物質等の異物はフィルター部材6によって除去され、また通気孔から外光が進入しても、フィルター部材6内での光路を直線状とならないようにずらせたことにより収納容器の内部に入ることを防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造に使用されるフォトマスクやこのフォトマスクの製造に用いられるマスクブランクを収納する容器及びその収納方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子デバイス、特に半導体素子や液晶モニター用のカラーフィルター或いはTFT素子等は、IT技術の急速な発達に伴い、一層の微細化が要求されている。このような微細加工技術を支える技術の一つが、転写マスクと呼ばれるフォトマスクを用いたリソグラフィー技術である。このリソグラフィー技術においては、露光用光源の電磁波乃至光波を転写マスクを通じてレジスト膜付きシリコンウエハー等に露光することにより、シリコンウエハー上に微細なパターンを形成している。この転写マスクは通常、透光性基板上に遮光性膜を形成したマスクブランクにリソグラフィー技術を用いて原版となるパターンを形成して製造される。ところで、マスクブランクの表面にパーティクル等の異物があると、形成されるパターンの欠陥の原因となるので、マスクブランクの表面には異物等が付着しないように清浄に保管される必要がある。
【0003】
このようなマスクブランクを収納保管し運搬するための容器としては、従来では例えば下記特許文献1に記載されているようなマスク運搬用ケースが知られている。
すなわち、従来のマスクブランクを収納保管する容器は、キャリアなどと呼ばれている内ケースにマスクブランクを数枚乃至数十枚並べて保持させ、このマスクブランクを保持した内ケースを外箱(ケース本体)内に収容し、さらに外箱上に蓋を被せて、マスクブランクを収納する構造となっていた。そして、外箱と蓋との接合部上には粘着テープを貼付することにより、ケースを密封するとともに、外気や異物等の進入を防ぐようにしていた。
【特許文献1】特開2001−154341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の電子デバイスの高性能化に伴って、転写マスクに形成されるパターンも一段と微細化が要求されており、このような微細化パターンを形成するためにもマスクブランクの清浄度は極めて高いものでないと許容できなくなってきている。従って、マスクブランクに異物等が付着するのを出来るだけ抑制することにより、特にマスクブランクの保管中は出来るだけ高い清浄度に維持する必要がある。
ところで、最近、フォトマスク用のレジストとして化学増幅型レジストが着目されている。この化学増幅型レジストに関しては例えば特開2000−66380号公報等に記載がある。この化学増幅型レジストは、感度やコントラストなどの特性が従来のフォトレジストに比べて優れているため、微細化パターンを形成するのに有利であると言える。但し、この化学増幅型レジストは、その反応メカニズム上、化学成分のコンタミによる影響を受けやすいことが指摘されている。つまり、ある種の化学成分のコンタミがあると、化学増幅反応の触媒となる物質の機能を抑制乃至阻害させ(例えば、失活)、所望の性能が得られなくなる場合が生じる。このため、化学増幅型レジスト膜が形成されたマスクブランクの場合は、単にパーティクル等の異物を排除するだけでは足りず、化学成分のコンタミの影響をも排除するため特に清浄な雰囲気で保管する必要がある。
【0005】
従来のマスクブランクの収納容器では、たとえば外箱と蓋との接合部を粘着テープで一応密封していたが、マスクブランクの収納梱包時にテープを貼り付け、開封時にはテープを剥離するという二重の手間が掛かる上に、その封止状態も完全ではなかった。つまり、一般的に使用される粘着テープの場合、多少の通気性を有しているため、たとえば、収納容器を保管する雰囲気の温度変化によっては内気が膨張或いは収縮する場合があるが、このときテープを貼り付けた接合部を通して外気と内気との間での出入りが生じる。また、マスクブランクを航空機に搭載して輸送する場合のように雰囲気の気圧が変動する場合がある。航空機で輸送する場合は、気圧の変化は相当大きいものになるので、この時にも外気と内気との間での通気が生じる。従って、クリーンルームのような清浄雰囲気内でマスクブランクを容器内に収納梱包したとしても、その後の保管の雰囲気によっては、経時的に外気が進入し、その外気に含まれる何らかの成分により収納容器内が汚染される場合がある。
さらには、収納容器の材質として何らかの化学成分等が放出され難いプラスチック等を用いたとしても、粘着テープの基材や粘着剤に使用されている化学成分が経時的に収納容器内に進入して汚染する場合がある。特に、上述の温度変化や気圧変化などの雰囲気の変動があった場合は、テープから発生する化学成分による汚染が加速的に進行する恐れがある。
【0006】
特に、前述の化学増幅型レジスト膜を形成したマスクブランクの場合は、化学成分等のコンタミによる汚染は致命的な欠陥となるため、絶対に避けなければならないことである。
このように、クリーンルーム等でマスクブランクを容器に収納梱包し、外箱と蓋との接合部を粘着テープで封止するという方法は、一見、外気の進入を阻止して、マスクブランクを清浄な雰囲気で保管できるように思われるが、実際には、外気の進入による汚染や、粘着テープの化学成分等による汚染を回避することは困難であった。
【0007】
そこで、本出願人らの一人は、先に、このような問題点を解消し、外気中の異物が収納容器内に進入するのを阻止する手段を備えることにより、外気の進入に伴う化学物質などの異物による汚染を防止でき、清浄な雰囲気を保ったままマスクブランク等を保管できる収納容器を提案した(特開2005−43796)。外気中の異物が収納容器内に進入するのを阻止する手段は、収納容器に設けられた通気孔と、該通気孔に設けた外気中の異物を除去するためのフィルター部材からなる。また、レジスト膜を有するマスクブランクを収納保管する収納容器は遮光性の材料で構成する必要があるが、本発明者らは、このようなフィルター部材を設けた場合、外光が上記通気孔からフィルター部材を通過して収納容器内部に入るのを防止する必要があるとの観点から、更なる検討を行った結果、一定の知見を得た。
本発明は、外気の進入に伴う化学物質などの異物による汚染を防止でき、清浄な雰囲気を保ったままマスクブランク等を保管でき、しかも外光の進入を防止できるマスクブランク収納容器及び収納方法並びにマスクブランク収納体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は前記課題を解決するために、以下の構成を有するものである。
(構成1)少なくとも容器本体と該容器本体に被せる蓋体とを備えて、内部にマスクブランクを収納するマスクブランク収納容器であって、外気中の異物が収納容器内に進入するのを阻止するフィルター手段を備えるとともに、外光が前記フィルター手段を透過して収納容器内に進入するのを阻止する手段を設けたことを特徴とするマスクブランク収納容器である。
(構成2)外光が前記フィルター手段を透過して収納容器内に進入する光路が直線状とならないように構成したことを特徴とする構成1に記載のマスクブランク収納容器である。
(構成3)前記フィルター手段の収納容器内方へ向いた端部を光遮蔽部材で覆うことを特徴とする構成1又は2に記載のマスクブランク収納容器である。
(構成4)前記フィルター手段は、収納容器に設けた外気と内気との通気孔と、該通気孔に設けた外気中の異物を除去するためのフィルター部材とからなることを特徴とする構成1乃至3の何れか一に記載のマスクブランク収納容器である。
(構成5)構成1乃至4の何れか一に記載のマスクブランク収納容器に、少なくとも一枚のレジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法である。
(構成6)構成1乃至4の何れか一に記載のマスクブランク収納容器と、該収納容器の内部に収納された少なくとも一枚のマスクブランクとからなることを特徴とするマスクブランク収納体である。
(構成7)前記マスクブランクは、レジスト膜を有するマスクブランクであることを特徴とする構成6に記載のマスクブランク収納体である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、上方が開口した容器本体と該容器本体に被せる蓋体とを備えたマスクブランクの収納容器において、外気中の異物が収納容器内に進入するのを阻止するフィルター手段として、たとえば収納容器に外気と内気との通気孔を設けると同時に該通気孔に外気中の異物を除去するためのフィルター部材を設けることにより、保管中に外気がそのまま収納容器内に進入することを防止できるので、外気中の異物、例えばパーティクルや、外気中に含まれる何らかの化学物質等が収納容器内に進入してマスクブランクを汚染することを有効に防止することが出来る。つまり、保管中に収納容器内に外気が進入してもその外気に含まれる化学物質等の異物はフィルター部材により除去されて清浄化され、その外気を清浄化することで、収納容器の内部を清浄な雰囲気に保ったままマスクブランクを長期間でも保管することが可能である。しかも、本発明によれば、外光が上記フィルター手段を透過して収納容器内に進入するのを阻止することが可能である。このため、保管中にマスクブランクが化学物質等の異物に汚染されたり、マスクブランクのレジスト膜が外光の進入により感光されることを防止できるので、収納保管されたマスクブランクを用いて高品質の転写マスクを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
図5乃至図8は本発明に係わるマスクブランクの収納容器の一実施形態を示すもので、図5は収納容器の蓋を示す斜視図、図6はマスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図、図7は収納容器の容器本体(外ケース)を示す斜視図、図8は収納容器にマスクブランクを収納した状態の縦方向の断面図である。
本実施形態の収納容器は、主表面が正方形のガラス基板の一主表面上にクロム膜等の遮光性薄膜を成膜し、その上に例えば前述の化学増幅型レジスト膜を形成したマスクブランク1を中ケース2に収納し、この中ケース2を容器本体3に収納し、この容器本体3の開口部側に蓋4を被せる構造である(図8参照)。
なお、上記中ケース2を使用せずに、マスクブランク1を容器本体3に直接溝等を設けて収納する形態とすることもできる。但し、本実施形態のように中ケース2を使用すると、数枚乃至数十枚のマスクブランクをまとめて中ケース2に入れた状態で取り扱えるので便利である。この場合、複数枚のマスクブランクを収納する場合は、マスクブランクを垂直方向乃至傾斜方向とするのが好ましい。また、1枚のマスクブランクを収納する場合は1枚入りケースの中にマスクブランクを水平方向となるように収納するのが好ましい。
【0011】
本実施形態の中ケース2は、開口部側(上方)から底面側(下方)に向けて複数の溝21,22を一方の互いに対向する内側面に所定間隔をおいて一対をなして形成し、その溝21,22の底面側の底部と中ケース底面にはそれぞれ開口窓23,24と開口部27が設けられ、さらに中ケース底面側には基板支持部26が形成され、この基板支持部26でマスクブランク1の下方端面を支持している(図6、図8参照)。そして、この中ケース2を容器本体3に収納して固定するための凹面部28,29がそれぞれ中ケースの他方の互いに対向する外側面に底面側から開口部側の途中まで形成されている(図6参照)。なお、中ケース2の開口部側の上端面25から前記基板支持部26までの高さ寸法は、収納するマスクブランク1の高さ寸法の主要部分に相当し、マスクブランク1を中ケース2に収納したとき、マスクブランク1の上方部分が中ケース2の上端面25からとび出る構造となっている(図8参照)。数枚のマスクブランク1を中ケース2の一対の溝21,22に沿って入れると、これらのマスクブランクは所定間隔をおいて互いに平行に林立する。本実施形態では垂直方向に林立するが、傾斜方向にしてもよい。
【0012】
本実施形態の容器本体3は、前述した中ケース2の凹面部28,29と当接するに適合した突出部31,32を、互いに対向する内側面に形成し、その突出部31,32の底部は容器本体3底面とも接合している(図7参照)。また、一方の対向する外側面の開口部側には凸部33,34が形成されている。そして、容器本体3の開口縁35のやや下方の位置に続く外周面36と上記凸部33,34の凸面とは略同一面に形成されている。
本実施形態の蓋4は、その一方の対向する下方縁(容器本体へ差し込む開口部側の縁であって、図5では上方へ向いている)47から延びた係合片41,42に凹部43,44を形成している。これにより、蓋4を容器本体3に被せたときに、上記凹部43,44が前記容器本体3の凸部33,34とそれぞれ係合することで、蓋4と容器本体3とが固定される(図8参照)。また、中ケース2の開口部側上端面25と当接して中ケース2を垂直方向において支持固定するストッパー45,46を一方の内側面に互いに対向させて形成している(図5参照)。なお、蓋4の凹部43,44と容器本体3の凸部33,34を設けないで、蓋4を容器本体3にそのまま被せる構成としてもよい。また、蓋4の凹部と容器本体3の凸部とを係合させる構成とする場合においても、対向する一方の側だけでなく、四方にそれぞれこのような係合手段を形成してもよい。
【0013】
以上の中ケース2、容器本体3及び蓋4の材質は、例えばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチルサルファイト等の樹脂から適宜選択される。これらの中でも、ポリカーボネート或いはポリエステルが好ましい。また、容器本体3及び蓋4の材質としてはポリカーボネートが好ましく、中ケース2の材質としてはポリエステルが好ましい。このポリエステルとしては、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が好ましい。また、アクリロニトリルとブタジエンとスチレンの共重合樹脂(ABS樹脂)なども好ましく用いることができる。なお、マスクブランクの保管中にチャージが溜まると、マスク製造過程において放電破壊を起こし、パターン欠陥となる場合があるので、たとえば容器本体3の構成樹脂にカーボン等を混ぜ込んで導電性を付与することが好ましい。
容器本体3の上から蓋4を被せて、蓋4の凹部43,44を容器本体3の凸部33,34と係合させて蓋4と容器本体3とを固定すると、蓋4の下方縁に続く外周面48と容器本体3の開口縁に続く外周面36とが前後に重なり合って接合される。
【0014】
本実施の形態では、蓋4のコーナーの一箇所に外気と内気との通気孔49が穿設されており、この通気孔49にフィルター部材5が蓋4の内側に向けて取り付けられている(図5、図8参照)。フィルター部材5は、内部にフィルターを保持する鍔状のフィルター保持部52の両側に気体の流路であるパイプ51と53がそれぞれ一体で形成された構成となっており、本実施形態では、パイプ51側が蓋4の通気孔49に取り付けられ、パイプ53側が蓋4の内方へ向いている。フィルター保持部52は分割できて、内部のフィルターの装着、取外しが可能なように構成されている。なお、通気孔49を設けた蓋4のコーナー部は内方に凹んでおり、その凹面に上記フィルター保持部52を当接させている。
従って、本実施形態に係る収納容器にマスクブランクを収納保管した状態で、上記通気孔49を通して外気の進入があっても、その外気に含まれている化学物質等の異物はフィルター部材5によって除去され、清浄化された外気のみがそのまま容器内に入るため、容器内部の清浄度は保たれる。
【0015】
ところで、上述のフィルター部材5の断面図を図10に示したが、外光が上記通気孔49からフィルター部材5の中を通過して収納容器の内部に至る光路が直線状であると、外光が収納容器の内部に入る可能性がある。この場合、フィルター部材5の内部にはフィルター54が装着されており、光はこのフィルター54を透過するおそれも考えられる。フィルター54の材質によっては特定の波長域の光を遮蔽することが可能であるものの、マスクブランク上のレジスト膜の感光波長域を完全に遮光できるとは限らない。
【0016】
そこで、本発明では、上記フィルター部材を例えば図1に示すような構造とした。すなわち、図1は本発明に用いるフィルター部材の一実施の形態を断面図で示したものであるが、これによると、フィルター部材6は、内部にフィルターを保持する鍔状のフィルター保持部62の両側に気体の流路であるパイプ61と63がそれぞれ対応する位置とは異なる位置に一体で形成された構成となっており、パイプ61の内孔61aとパイプ63の内孔63aとはフィルター保持部62の空隙部62cを介して連通しており、外気と内気との通気を行えるようにしている。そして、例えばパイプ61側が蓋4の通気孔49に取り付けられ、パイプ63側が蓋4の内方へ向けられる。また、フィルター保持部62は62aの部分と62bの部分とに分割できて、内部のフィルター64の装着、取外しが可能なように構成されている。フィルター部材6の材質は光を遮蔽できる材質であれば特に限定されないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリメチルメタアクリレート(PMMA)等で形成することができる。
【0017】
このように構成されたフィルター部材6によれば、外光が蓋4の通気孔49からフィルター部材6を通過して収納容器内部に進入する光路を直線状とならないようにずらしたため、外気と内気の通気には何ら支障を来たすことなく、光の直進性により、たとえばパイプ61側から入った光はフィルター部材6内部でその光路を阻まれるので、さらにパイプ63側から収納容器内部に入るのを阻止することができる。
図2の(a)は、上記フィルター部材6の外観斜視図である。また、図2の(b)と(c)はそれぞれフィルター部材6の他の実施の形態を示したもので、(b)はフィルター保持部62に対してその両側のパイプ64とパイプ65を同じ側へ斜めに向けて一体で形成された構成を示し、(c)はフィルター保持部62に対してその両側のパイプ66とパイプ67を反対側へ斜めに向けて一体で形成された構成を示している。これらフィルター部材の他の実施の形態によっても、光路を直線状とならないようにずらしたことにより、外光の収納容器内への進入を好適に阻止することができる。
【0018】
また、上記フィルター部材の収納容器内方へ向いた端部を光遮蔽部材で覆うようにしてもよい。例えば、図3に示すようなキャップ部材7を用いることができる。図3の(a)は、鍔状の本体71の内側に互いに平行に穿設された2つの円孔72,73を有する構造のキャップ部材を示し、(b)は、鍔状の本体71の内側に互いに斜めに穿設された2つの円孔74,75を有する構造のキャップ部材を示したものである。(a)に示すものは上述の図2(a)のフィルター部材に被せるのに好適であり、(b)に示すものは上述の図2(b)、(c)のフィルター部材に被せるのに好適である。
また、前述の図10に示す構造のフィルター部材5の場合においても、図4に示すように、フィルター部材5の収納容器内方へ向いたパイプ53の端部を覆うような光遮蔽材料(例えばPMMAなど)でできたキャップ部材8を被せるようにしてもよい。これによっても、外光の収納容器内への進入を好適に阻止することが可能になる。なお、この場合、図4の(a)に示すように、フィルター部材5のパイプ53側からキャップ部材8を被せるようにしてもよいし、あるいは同図(b)に示すように、フィルター部材5のパイプ51側からキャップ部材8を被せるようにしてもよい。
【0019】
なお、上記フィルター部材6に使用するフィルターとしては、例えば通常、クリーンルームで用いられるエアーフィルターを用いることができる。このようなフィルターとしては、HEPAフィルター(high efficiency particulate air filter)やULPAフィルター(ultra low penetration particulate air filter)を好ましく挙げることができる。HEPAフィルターは、高効率のエアーフィルターで、主にクリーンルームの空気浄化に用いられ、材質は主にガラス繊維製である。また、ULPAフィルターは、超LSI製造の微細化に伴って開発された超々高性能フィルターで、材質はガラス繊維製、フッ素系樹脂製が主である。フィルターの能力は、0.05μm以上のパーティクルを捕捉できるフィルターであることが好ましい。HEPAフィルターやULPAフィルター等のエアーフィルターの選択は費用対効果などを勘案して適宜選択することができる。実用上はHEPAフィルターを用いることができる。
【0020】
また、特に化学物質による汚染を排除する必要がある化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクを収納保管する場合は、化学物質を吸着させるフィルター(ケミカルフィルター)を単独で或いは上記エアーフィルターと組み合わせて用いることが好ましい。このようなケミカルフィルターとしては、例えば活性炭フィルターやイオン交換型フィルターを好ましく用いることができる。活性炭フィルターやイオン交換型フィルター等のケミカルフィルターの選択は費用対効果などを勘案して適宜選択することができる。実用上は活性炭フィルターを用いることができる。
このような化学増幅型レジストを汚染する、つまり化学増幅型レジストの所望の化学増幅効果を阻害(化学増幅効果が所望に比べて増進してしまい、或いは抑制されてしまい、所定のレジストパターンが形成されなくなること)する化学物質としては、酸性化学物質や塩基性化学物質が挙げられる。酸性化学物質としては、塩素イオンを含む物質、硫酸イオンを含む物質、リン酸イオンを含む物質、硝酸イオンを含む物質等が挙げられる。また、塩基性化学物質としては、化学増幅反応の触媒となる酸の機能を抑制乃至阻害(例えば失活)させるアンモニア、アミン類、アニリン類、ニトリル類などの窒素を含む化合物等が挙げられる。
なお、上記フィルターの樹脂としては、光遮蔽の観点からは、黒色のものであることがより望ましい。
【0021】
以上のように、本発明の収納容器によれば、マスクブランク等の収納保管中に上記通気孔49から外気の侵入があっても、外気に含まれている化学物質等の異物はフィルター部材6(5)によって容器内への進入が阻止されるため、マスクブランクを収納した時の清浄な雰囲気をそのまま長期間でも維持しながら保管することが出来、外気がそのまま容器内に進入してそれに含まれる化学物質等の異物によって汚染される恐れがない。従って、保管される環境の影響を受けやすく、特に清浄な雰囲気で保管することを要求される化学増幅型レジスト膜を有するマスクブランクの収納保管に本発明は好適である。しかも、本発明の収納容器によれば、外光がたとえ上記通気孔からフィルター部材内に入ったとしても、フィルター部材を透過して収納容器内に進入するのを阻止することが可能であるため、マスクブランクのレジスト膜が外光の進入により感光されることを防止することができる。
【0022】
なお、蓋4と容器本体3との接合部、つまり蓋4を容器本体3に被せたときの蓋4の下方縁に続く外周面48と容器本体3の開口縁に続く外周面36とが前後に重なり合った接合部からの外気の進入も通常は考えられるが、本実施の形態のように、容器に通気孔49を設けたことにより、外気の進入があってもこの通気孔49から優先的に進入するため、容器内の汚染は十分に防止することができる。
また、本実施の形態では、通気孔49及びフィルター手段6(5)を蓋4のコーナーの一箇所に設けているが、これに限定される必要は全くなく、収納するマスクブランク等に接触しないような箇所であればコーナーでなくてもよく、また、一箇所でなく複数箇所に設けてもよい。また、本実施形態のような蓋4の天板ではなく、容器本体3側に設けてもよい。
【0023】
また、図9は本発明に係わるマスクブランクの収納容器の他の実施の形態を示すもので、1枚のマスクブランクを水平方向に収納保管できる1枚入りケースである。
かかるマスクブランク収納容器100は、大きく分けると2つの部材、すなわち蓋101と本体ケース102とからなり、内部に1枚の四角形状のマスクブランク1が水平状態に収納されている。
上記蓋101は、収納されるマスクブランクの形状に合わせて、全体が四角形状に形成され、下方が開口している。蓋101の上面の対向する一側には、蓋101を手で持ち上げるのに便利なように鍔部103,103が水平方向に張り出すように蓋101と一体に延設されている。また、蓋101の内方の一コーナーには、前述のフィルター部材6が取り付けられている。一方、上記本体ケース102は、上記蓋101よりも一回り大きな四角形状に形成されている。蓋101と本体ケース102とは、蓋101の側壁に一体に形成された左右2つのヒンジ板105,105に回転自在に保持された固定部材106を本体ケース102の切り欠き部(凹部)104に嵌め込むことにより一体的に固定できるように構成されている。
【0024】
本実施の形態の収納容器100においても、マスクブランク等の収納保管中に通気孔から外気の侵入があっても、外気に含まれている化学物質等の異物はフィルター部材6によって容器内への進入が阻止されるため、マスクブランクを収納した時の清浄な雰囲気をそのまま長期間でも維持しながら保管することが出来る。しかも、外光がたとえ上記通気孔からフィルター部材6内に入ったとしても、フィルター部材6を透過して収納容器内に進入するのを阻止することが可能であるため、マスクブランクのレジスト膜が外光の進入により感光されることを防止することができる。
【0025】
また、本発明が適用されるマスクブランクは、ガラス基板などの透光性基板上にCr等の遮光性膜を形成したマスクブランク、基板上にハーフトーン(半透光性)膜を形成した位相シフト型マスク用のマスクブランク、基板上に、露光光を反射する例えばMo/Si多層反射膜と露光光を吸収する例えばTa系吸収体膜を形成した反射型マスク用のマスクブランク等が含まれる。また、本発明は、レジスト膜を有するマスクブランクの収納保管に特に好適である。また、本発明は、正方形状のマスクブランク等に限らず、その他の形状、例えば円盤状の基板を収納する場合にも適用できることは言うまでもない。
以下、具体的な実施例により本発明を説明する。
【実施例】
【0026】
石英基板(大きさ152mm×152mm)上に、クロムターゲットを用いてスパッタ法でクロム(Cr)からなる遮光膜を1000Åの厚さに形成した。次いで、その遮光膜上にスピンコート法でレジスト膜を5700Åの厚さに形成してレジスト膜付きマスクブランクを製造した。上記レジストとしてはポジ型レジストTHMR−IP1700(東京応化工業株式会社製)を用いた。
このようにして製造した100枚のマスクブランクを前述の図5乃至図8に示す実施形態の収納容器10箱に分けて収納した。なお、蓋と容器本体の材質はポリカーボネート、中ケースの材質はポリブチレンテレフタレートを用いた。また、容器に取り付けるフィルター部材は前述の図1に示す実施形態のフィルター部材6を用いた。またこのフィルター部材6に装着するフィルターとしては、活性炭フィルターとHEPAフィルターを組み合わせて使用した。収納作業は活性炭フィルター及びULPAフィルターで清浄化されたクリーンルーム内で行った。
【0027】
この収納容器を更に梱包袋に梱包して、航空機でカーゴ輸送を行った。そして、輸送された収納容器を上記と同様のクリーンルーム内で開封し、取り出したマスクブランクに所定の電子線描画を行い、続いて所定の現像、エッチングを行って、転写マスクを製造した。製造した転写マスクの品質を走査型電子顕微鏡で詳細に検査したところ、100枚の何れからも特に問題となる欠陥は発見されなかった。
【0028】
(比較例)
上述の実施例において、図10に示す構造のフィルター部材(外光がフィルター部材5の中を通過して収納容器の内部に至る光路が直線状となるものを使用)を取り付けた収納容器(蓋、容器本体及び中ケースの材質は実施例と同じ材質を用いた)を使用したこと以外は、実施例と同様にしてマスクブランクを製造し、収納し、輸送を行った。
輸送後のマスクブランクを用いて実施例と同様にして製造された転写マスクの品質を走査型電子顕微鏡で詳細に検査したところ、一部のマスクには、パターン描画の前にレジスト膜が感光していたことによるパターンの線幅に乱れが生じていることが発見された。これは、クリーンルーム内の蛍光灯の光が収納容器の通気孔からフィルター部材を透過して内部に入って、マスクブランクのレジスト膜が感光されてしまったものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に用いるフィルター部材の一実施の形態を示す断面図である。
【図2】本発明に用いるフィルター部材の一実施の形態及び他の実施の形態を示す外観斜視図である。
【図3】本発明に用いるキャップ部材の一実施の形態及び他の実施の形態を示す外観斜視図である。
【図4】フィルター部材にキャップ部材を被せて使用する場合を説明する断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る収納容器の蓋を示す斜視図である。
【図6】マスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図である。
【図7】上記収納容器の容器本体(外ケース)を示す斜視図である。
【図8】上記収納容器にマスクブランクを収納した状態の縦方向の断面図である。
【図9】本発明の他の実施の形態に係る収納容器の外観斜視図である。
【図10】フィルター部材の断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 マスクブランク
2 中ケース
3 容器本体
4 蓋
5、6 フィルター部材
7,8 キャップ部材
49 通気孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも容器本体と該容器本体に被せる蓋体とを備えて、内部にマスクブランクを収納するマスクブランク収納容器であって、
外気中の異物が収納容器内に進入するのを阻止するフィルター手段を備えるとともに、外光が前記フィルター手段を透過して収納容器内に進入するのを阻止する手段を設けたことを特徴とするマスクブランク収納容器。
【請求項2】
外光が前記フィルター手段を透過して収納容器内に進入する光路が直線状とならないように構成したことを特徴とする請求項1に記載のマスクブランク収納容器。
【請求項3】
前記フィルター手段の収納容器内方へ向いた端部を光遮蔽部材で覆うことを特徴とする請求項1又は2に記載のマスクブランク収納容器。
【請求項4】
前記フィルター手段は、収納容器に設けた外気と内気との通気孔と、該通気孔に設けた外気中の異物を除去するためのフィルター部材とからなることを特徴とする請求項1乃至3の何れか一に記載のマスクブランク収納容器。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一に記載のマスクブランク収納容器に、少なくとも一枚のレジスト膜を有するマスクブランクを収納することを特徴とするマスクブランクの収納方法。
【請求項6】
請求項1乃至4の何れか一に記載のマスクブランク収納容器と、該収納容器の内部に収納された少なくとも一枚のマスクブランクとからなることを特徴とするマスクブランク収納体。
【請求項7】
前記マスクブランクは、レジスト膜を有するマスクブランクであることを特徴とする請求項6に記載のマスクブランク収納体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−91296(P2007−91296A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285293(P2005−285293)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】