説明

マスク用ノーズクリップ及びマスク

【課題】樹脂製ノーズクリップにおいて、着装者の鼻の多様な形状に追従し得る三次元的変形能力と、変形後の形状を長時間に渡って保持し得る形状保持能力とを確保する。
【解決手段】ノーズクリップ10は、容易に変形可能な可撓性及び変形後の形状を保持し得る形状保持性を有する樹脂製の帯状部材である。ノーズクリップ10は、表面12a及び表面12aの反対側の裏面12bを有するとともに長手方向へ延びる一対の縁12cを有する帯状のクリップ本体12と、クリップ本体12の表面12aに形成され、各々がクリップ本体12の両縁12cに交差する方向へ延びる複数の線形溝14とを備える。複数の線形溝14は、クリップ本体12の両縁12cに略直角αを成して交差する複数の第1線形溝14aと、同両縁12cに鋭角βを成して交差する複数の第2線形溝14bと、同両縁12cに鋭角γを成して交差する複数の第3線形溝14cとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスク用のノーズクリップに関する。本発明はまた、ノーズクリップを備えたマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用や安全衛生用のマスクにおいて、着装者の口及び鼻を覆うフィルタ素材のマスク本体と、マスク本体の縁部分に取り付けられ、着装者の鼻及び頬に沿って変形してマスク本体の縁部分と顔面との密着性を向上させるノーズクリップ(ノーズフィッタとも称する)とを備えたものが知られている。ノーズクリップは、容易に変形可能な可撓性及び変形後の形状を保持し得る形状保持性を有する帯状部材であり、その材料として従来、金属や合成樹脂等が使用されている。
【0003】
例えば特許文献1は、樹脂製の形状保持性材料からなるノーズクリップ、及び同ノーズクリップを備えた顔面マスクを開示する。形状保持性材料は、圧延倍率5〜16倍、延伸倍率1.3〜2.5倍及び総延伸倍率10〜40倍の延伸ポリオレフィン系樹脂から形成される。特許文献1には、上記形状保持性材料からなるノーズクリップは、顔面マスクに好適な形状保持性を有する、と記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−35148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
マスク用のノーズクリップは、着装者の鼻の多様な形状に追従可能な曲げや捩りを含む三次元的変形能力と、変形した自己形状を少なくとも自重や自己復元力に抗して保持する形状保持能力との双方を、併せ持つことが要求されている。特に、樹脂製のノーズクリップにおいて、金属製ノーズクリップと同等の三次元的変形能力及び形状保持能力を有することが望まれている。
【0006】
また、ノーズクリップを備えたマスクは、ノーズクリップにより、着装者の感覚としてのフィット感(特に鼻翼から両頬に沿って位置するマスク外縁部分が着装者に与える接触感覚)を改善すること(例えば一般用途)や、マスク本体が有する濾過機能を最大限に発揮するべくマスク本体外縁(ノーズクリップを有する縁部分に限らず外縁全体)と顔面との密着状態を長時間に渡り維持すること(例えば産業用途)が要求されている。
【0007】
本発明の目的は、ノーズクリップにおいて、着装者の鼻の多様な形状に追従し得る三次元的変形能力と、変形後の形状を長時間に渡って保持し得る形状保持能力とを有するノーズクリップを提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、ノーズクリップを備えたマスクにおいて、ノーズクリップにより、着装者の感覚としてのフィット感を改善すること、又はマスク本体が有する濾過機能を最大限に発揮するべくマスク本体外縁と顔面との密着状態を長時間に渡り維持することができるマスクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、表面及び表面の反対側の裏面を有するとともに長手方向へ延びる縁を有する帯状のクリップ本体と、クリップ本体の表面及び裏面の少なくとも一方に形成され、各々がクリップ本体の縁に交差する方向へ延びる複数の線形溝と、を具備するノーズクリップを提供する。
【0010】
本発明は他の態様として、マスク本体と、マスク本体に取り付けられるノーズクリップとを具備するマスクにおいて、ノーズクリップが、上記構成を有するノーズクリップであることを特徴とするマスクを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係るノーズクリップは、曲げや捩りを含む多様な三次元的変形能力と、変形した自己形状を少なくとも自重や自己復元力に抗して保持する形状保持能力との双方を、併せ持つものである。したがってノーズクリップは、マスクの縁部分に取り付けて使用したときに、マスク着装者の鼻の多様な形状に追従して、マスク縁部分と着装者の顔面との密着性を向上させることができる。
【0012】
本発明の他の態様に係るマスクは、上記したノーズクリップを備えているから、着装者の感覚としてのフィット感を改善したものであり、或いは、マスク本体が有する濾過機能を最大限に発揮するべくマスク本体外縁と顔面との密着状態を長時間に渡り維持できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1及び図2は、本発明の一実施形態によるノーズクリップ10を示す。ノーズクリップ(ノーズフィッタとも称する)10は、後述するように、容易に変形可能な可撓性及び変形後の形状を保持し得る形状保持性を有する帯状部材であり、全体として合成樹脂材料から形成される。ノーズクリップ10は、医療用や安全衛生用のマスクにおいて、マスクの縁部分と着装者の顔面との密着性を向上させる目的で、マスク縁部分に取り付けて使用できる。
【0014】
ノーズクリップ10は、表面12a及び表面12aの反対側の裏面12bを有するとともに長手方向へ延びる一対の縁12cを有する帯状のクリップ本体12と、クリップ本体12の表面12aに形成され、各々がクリップ本体12の両縁12cに交差する方向へ延びる複数の線形溝14とを備える。クリップ本体12は、線形溝14の領域を除いて略一様な厚みTと、厚みTの数倍で全体に略一様な幅Wと、幅Wの数倍〜数十倍で全体に略一様な長さLとを有し、それ自体、図1の平板状の形態から他の所望の形態に変形可能な可撓性と、変形後の形態を保持し得る形状保持性とを有する。
【0015】
複数の線形溝14は、クリップ本体12の互いに略平行な両縁12cに略直角αを成して交差する複数の第1線形溝14aと、クリップ本体12の両縁12cに鋭角βを成して交差する複数の第2線形溝14bと、クリップ本体12の両縁12cに鋭角γ(図ではβの鏡像)を成して交差する複数の第3線形溝14cとを含む。各線形溝14a〜14cは、クリップ本体12の両縁12cの間で直線状に延びる。複数の第1線形溝14aは、互いに平行かつ等間隔に配置され、複数の第2線形溝14bは、第1線形溝14aと同じ間隔で互いに平行かつ等間隔に配置され、複数の第3線形溝14cは、第1及び第2線形溝14a、14bと同じ間隔で互いに平行かつ等間隔に配置される。1つの第1線形溝14aの一端は、クリップ本体12の一方の縁12cにおいて、1つの第2線形溝14b及び1つの第3線形溝14cのそれぞれの一端に交わり、同第1線形溝14aの他端は、クリップ本体12の他方の縁12cにおいて、他の1つの第2線形溝14b及び他の1つの第3線形溝14cのそれぞれの他端に交わる。このようにして、複数の線形溝14(14a、14b、14c)は、クリップ本体12の表面12aに繰返しパターンで一様に形成される。
【0016】
ノーズクリップ10においては、クリップ本体12の表面12aに形成した複数の線形溝14(14a、14b、14c)が、クリップ本体12が本質的に有する可撓性及び形状保持性を一層向上させるように作用する。具体的には、複数の第1線形溝14aは、クリップ本体12の表面12aに直角な曲げ方向への可撓性を向上させ、複数の第2及び第3線形溝14b、14cは、クリップ本体12の左右両捻り方向への可撓性を向上させる。ここで、各線形溝14a〜14cによる可撓性向上作用は、クリップ本体12の表面12aにおいて局所的に生じるものであるから、クリップ本体12の全体の可撓性が増加する(つまり全体が柔らかくなる)構成に比べて、クリップ本体12が有する形状保持性を損なうことは防止される。しかも、個々の線形溝14a〜14cの領域において、クリップ本体12の自己復元力が低下すると考えられるので、全体としての形状保持性が向上する。
【0017】
このように、ノーズクリップ10は、曲げや捩りを含む多様な三次元的変形能力と、変形した自己形状を少なくとも自重や自己復元力に抗して保持する形状保持能力との双方を、高水準で併せ持つものとなる(変形後の形状の一例を図2に示す)。したがってノーズクリップ10は、マスク(図示せず)の縁部分に取り付けて使用したときに、マスク着装者の鼻の多様な形状に追従して、マスク縁部分と着装者の顔面との密着性を向上させることができる。
【0018】
ノーズクリップ10において、クリップ本体12は、適度な塑性変形性を有する材料から作製される(実施例の組成は後述する)。また、そのような塑性変形性の材料を適当に延伸することにより、所望の形状保持性を得ることもできる。クリップ本体12は、図示の矩形輪郭の平板形状に限らず、所望部位で幅Wや厚みTが変化する形状とすることもできる。それにより、ノーズクリップ10の可撓性及び形状保持性に、その変形位置に応じた適当な差異を付与することができる。クリップ本体12の材料は、特に限定されないが、例えば、樹脂、エラストマー、プラストマー、又はこれらの混合物を挙げることができる。具体的には例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィン樹脂;ポリカーボネート(PC);スチレンエチレンブチレンスチレン共重合体(SEBS);ポリスチレン;エポキシポリエチレン等のエポキシ樹脂;又はこれら樹脂を適宜混合したものを挙げることができる。また、クリップ本体12の長さL、幅W及び厚みTは、ノーズクリップ10を取り付けるマスクの大きさ、形状、素材等に合わせて適宜選択でき、特に限定されない。例えば長さLは、約30mm以上、約50mm以上又は約70mm以上に設定でき、また約250mm以下、約200mm以下又は約150mm以下に設定できる。例えば幅Wは、約2mm以上に設定でき、また約20mm以下に設定できる。例えば厚みTは、約0.1mm以上又は約0.3mm以上に設定でき、また約5mm以下又は約3mm以下に設定できる。
【0019】
ノーズクリップ10において、複数の線形溝14は、例えば、線形溝14の雄型としての複数の突起を外周面に有する加工ローラと、平坦な外周面を有する支持ローラとを、外周面同士を所定距離だけ離間させて対向配置し、それらローラの間のニップに、帯状ないし平板状に成形したクリップ本体12又はその素材を送給することにより、所望の繰返しパターンで形成できる(このような加工法を、本明細書でエンボス加工と称する)。この場合、各線形溝14は、図3(a)に示すようなV字状の断面形状を有することができる。或いは、U字状、矩形、極小幅のスリット状等の、他の断面形状を有する線形溝14を形成することもできる。線形溝14の深さは、クリップ本体12の厚みT、幅W、長さL、素材等に応じて適宜選択でき、特に限定されないが、例えば、クリップ本体12の厚みTの約20分の1以上又は約10分の1以上に設定でき、また約2分の1以下又は約3分の1以下に設定できる。具体的には例えば、約0.1mm以上又は約0.2mm以上に設定でき、また約2.5mm以下又は約2mm以下に設定できる。
【0020】
複数の線形溝14は、ノーズクリップ10に要求される可撓性及び形状保持性の水準に応じて、様々な構成を有することができる。例えば、クリップ本体12の表面12aだけでなく、同裏面12bにも複数の線形溝14を形成することができる。この場合、表面12aと裏面12bとで、複数の線形溝14を、互いに同じ位置に同じパターンで形成(図3(b))したり、互いに異なる位置に異なる又は同じパターンで形成(図3(c))したりすることができる。また、線形溝14のパターンは、上記した第1〜第3線形溝14a〜14cの組合せパターン(図4(a))以外にも、例えば、第1〜第3線形溝14a〜14cがそれぞれの中央で互いに交差する組合せパターン(図4(b))、(a)と(b)とを合体したパターン(図4(c))、(a)において第1線形溝14aを省略したパターン(図4(d))、(a)において第2及び第3線形溝14b、cを省略したパターン(図4(e))、(e)において第1線形溝14aの間隔を縮小したパターン(図4(f))、(f)において第1線形溝14aの間隔を局所的に拡大したパターン(図4(g))等を採用できる。さらに、図4(a)〜(d)のパターンにおいても、対応する線形溝14の間隔(例えば第1線形溝14a同士の間隔)が広い部分と狭い部分とを形成できる。例えば、ノーズクリップ10を比較的大きく屈曲させることが要求される部分では溝間隔を密にし、そうでない部分は溝間隔を疎にすることができる。線形溝14の間隔は特に限定されないが、例えば、約0.5mm以上又は約1mm以上に設定でき、また約20mm以下、約10mm以下又は約5mm以下に設定できる。
【0021】
なお、個々の線形溝14は、両端がクリップ本体12の両縁12cに達する図示構成に限らず、少なくとも一端がクリップ本体12の縁12cから離れて終端する構成とすることもできる。いずれの場合も、各線形溝14は、クリップ本体12の縁12cに交差する方向へ延びるものである。
【0022】
複数の線形溝14が奏する作用効果を、それら線形溝14の構成に対応させて、以下に整理して記載する。
複数の線形溝14が、クリップ本体12の縁12cに鋭角に交差する方向へ延びる少なくとも1つの線形溝14(例えば線形溝14b又は14c)を含む構成では、そのような斜行する線形溝14により、クリップ本体12の1つの捻り方向への可撓性及び形状保持性が向上する。
【0023】
複数の線形溝14が、クリップ本体12の縁12cに直角に交差する方向へ延びる少なくとも1つの線形溝14(例えば線形溝14a)を含む構成では、そのような鉛直な線形溝14により、クリップ本体12の表面12aに直角な曲げ方向への可撓性及び形状保持性が向上する。
【0024】
複数の線形溝14が、クリップ本体12の縁12cに互いに異なる角度で交差する方向へ延びる少なくとも2つの線形溝14(例えば線形溝14b及び14c)を含む構成では、異なる角度で斜行する2以上の線形溝14により、クリップ本体12の2以上の捻り方向(又は捻り角度)への可撓性及び形状保持性が向上する。
【0025】
複数の線形溝14が、互いに平行な少なくとも2つの線形溝14(例えば2以上の線形溝14a、14b又は14c)を含む構成では、それら2以上の平行な線形溝14により、クリップ本体12の所定の方向への可撓性及び形状保持性が向上する。
【0026】
複数の線形溝14が、等間隔に配置される少なくとも3つの線形溝14(例えば3以上の線形溝14a、14b又は14c)を含む構成では、それら3以上の等間隔の線形溝14により、クリップ本体12の所定の方向への可撓性及び形状保持性が向上する。
【0027】
複数の線形溝14が、クリップ本体12の表面12a又は裏面12bに繰返しパターンで一様に形成される構成(例えば図4(a)〜(f)の構成)では、それら一様な線形溝14により、クリップ本体12の変形位置に係わらず、一様な可撓性及び形状保持性が得られる。特にこの構成は、ノーズクリップ10をマスク(図示せず)の縁部分に取り付けて使用したときに、マスク着装者の鼻の形状によらず、マスク縁部分と着装者の顔面との高度な密着性を確保できる。
【0028】
図5は、ノーズクリップ10を備えた本発明の一実施形態によるマスク20を示す。マスク20は、着装者の口及び鼻(図示せず)を覆うフィルタ素材(例えば不織布)のマスク本体22と、マスク本体22の縁部分24に取り付けられ、着装者の鼻及び頬(図示せず)に沿って変形してマスク本体22の縁部分24と顔面との密着性を向上させるノーズクリップ10とを備える。
【0029】
マスク本体22は、上縁22a、下縁22b及び両側縁22cを有するとともに、内面22d及び外面22eを有する。マスク20の適正な使用状態で、マスク本体22の上縁22aは着装者の鼻及び両頬に沿って横方向に配置され、下縁22bは着装者の下顎に沿って横方向に配置され、両側縁22cは着装者の両頬に沿って縦方向に配置され、内面22dは着装者の鼻及び口に対向して配置され、外面22eは着装者の顔面に対し外向きに配置される。
【0030】
マスク本体22には、上縁22aに沿って、ノーズクリップ10を取り付ける縁部分24が形成され、両側縁22cのそれぞれに、耳掛け用のひも26が設置される。マスク本体22にはさらに、両側縁22cの間に延びる複数のプリーツ28が形成される。それらプリーツ28は、マスク保管時にマスク本体22を平坦に畳む(図5(a))ことを可能にする一方、マスク使用時にマスク本体22を上下方向へ広げてマスク本体22と着装者の口との間に所望の空間を形成する(図5(b))ことを可能にする。このようなプリーツ構造を有するマスク本体22は、一般用途のマスクにおいて公知のものである。
【0031】
マスク20においては、ノーズクリップ10は、クリップ本体12の、複数の線形溝14を形成した面(図示実施形態では表面12a)が、着装者の鼻に対向する側に向くように、マスク本体22に取り付けられる。図示実施形態では、マスク本体22の縁部分24は、上縁22aに沿って袋状に形成され、ノーズクリップ10の全体が、クリップ本体12の表面12aをマスク本体22の内面22e側に向けて、縁部分24に収容されている。この状態で、ノーズクリップ10は、例えばクリップ本体12の長手方向両端で、マスク本体22に固定される。このような構成は、ノーズクリップ10の全体がクリップ本体12の表面12aをマスク本体22の外面22d側に向けて縁部分24に収容される構成に比べて、着装者の感覚としてのフィット感(特に鼻翼から両頬に沿って位置するマスク上縁22aが着装者に与える接触感覚)に優れるものである(フィット感の定量的考察については後述する)。なお、ノーズクリップ10がクリップ本体12の表裏両面12a、12bに線形溝14を有する場合(例えば図3(b)、(c))には、表面12a及び裏面12bのいずれを着装者の鼻に対向する側に配置しても良い。
【0032】
図6は、ノーズクリップ10を備えた本発明の他の実施形態によるマスク30を示す。マスク30は、着装者の口及び鼻(図示せず)を覆うフィルタ素材(例えば不織布)のマスク本体32と、マスク本体32の縁部分34に取り付けられ、着装者の鼻及び頬(図示せず)に沿って変形してマスク本体32の縁部分34と顔面との密着性を向上させるノーズクリップ10とを備える。
【0033】
マスク本体32は、上縁32a、下縁32b及び両側縁32cを有するとともに、内面(図示せず)及び外面22dを有する。マスク30の適正な使用状態で、マスク本体32の上縁32aは着装者の鼻及び両頬に沿って横方向に配置され、下縁32bは着装者の下顎に沿って横方向に配置され、両側縁32cは着装者の両頬に沿って縦方向に配置され、内面は着装者の鼻及び口に対向して配置され、外面32dは着装者の顔面に対し外向きに配置される。
【0034】
マスク本体32には、上縁32aに沿って、ノーズクリップ10を取り付ける縁部分34が形成され、両側縁22cの上縁近傍位置及び下縁近傍位置に、頭掛け用の一対のひも36の両端がそれぞれ固定される。マスク本体32は、マスク使用時にマスク本体32と着装者の口との間に所望の空間を形成可能な予め成形されたカップ形状を有する。このようなカップ形状のマスク本体32は、産業用途のマスク(例えば防塵マスク)において公知のものである。
【0035】
マスク30においては、ノーズクリップ10は、クリップ本体12の、複数の線形溝14を形成した面(図示実施形態では表面12a)が、着装者の鼻に対向しない側に向くように、マスク本体32に取り付けられる。図示実施形態では、マスク本体32の縁部分34は、上縁32aに沿って外面32d上に形成され、ノーズクリップ10の全体が、クリップ本体12の表面12aをマスク本体32の外面32d上で露出する外側に向けて、縁部分34に設置されている。この状態で、ノーズクリップ10は、例えばクリップ本体12の長手方向両端で、マスク本体32に固定される。このような構成は、ノーズクリップ10の全体がクリップ本体12の表面12aをマスク本体32の外面32d上で露出しない内側に向けて縁部分34に設置される構成に比べて、マスク本体32が有する濾過機能を最大限に発揮するべくマスク本体32の外縁(ノーズクリップ10を有する縁部分34に限らず外縁(上縁32a、下縁32b及び両側縁32c)全体)と顔面との密着状態をより長時間に渡り維持できるものである(密着状態維持能力の定量的考察については後述する)。
【実施例】
【0036】
(実験1)
本発明に係る一般用途のマスク(例えばマスク20)におけるフィット感を評価するために、ノーズクリップの特性に関する下記の実験を行った。
【0037】
ノーズクリップの実施例1として、PET(ポリエチレンテレフタレート)とPC(ポリカーボネート)とSEBS(スチレンエチレンブチレンスチレン共重合体)とPE(ポリエチレン)とEpxPE(エポキシポリエチレン)とを重量比PET/PC/SEBS/PE/EpxPE=55/15/15/12.5/2.5で含有する樹脂材料からなる厚みT=0.5mm、幅W=4mmの帯状素材に、エンボス加工により複数の線形溝14を繰返しパターンで連続的に形成し、次いで、線形溝14を形成した帯状素材を長さL=90mmの個片に切断して、ノーズクリップ10(図1)を作製した。得られたノーズクリップ10において、第1線形溝14aの間隔D(図4(a))は18mm、各線形溝14の深さは約0.1mm〜約0.2mm、各線形溝14の断面形状は、幅約0.5mm〜約1mmの略U字形(先の丸まったV字形)であった。
【0038】
ノーズクリップの実施例2として、興和株式会社(東京都中央区)の製品である「クリーンラインコーワ三次元型マスク」で使用されている樹脂性ノーズクリップに、実施例1のノーズクリップ10の第1〜第3線形溝14a〜14cと同じ線形溝をエンボス加工により形成したものを用意した。
【0039】
ノーズクリップの比較例1として、実施例1のノーズクリップ10と同じ材料及び同じ寸法で、第1〜第3線形溝14a〜14cを有さないものを用意した。
ノーズクリップの比較例2として、実施例2で用いた「クリーンラインコーワ三次元型マスク」の樹脂性ノーズクリップ(線形溝無し)を用意した。
【0040】
図7に示すように、底面の一辺が3cmの正三角柱Pを用意し、この正三角柱Pの側面Sの一辺E(内角60度)に、上記した実施例1のノーズクリップ10を、クリップ本体裏面12bの長手方向中央を辺Eに位置合せして当接させた(図7(a))。この状態で、ノーズクリップ10に適当な押圧力Fを加えて、クリップ本体裏面12bが正三角柱Pの一対の側面Sに接触するまでノーズクリップ10を撓曲した(図7(b))。その後、押圧力を解除してノーズクリップ10を放置し、15分後のノーズクリップ10の撓曲部分の内角θ(度)を測定した(図7(c))。同様の実験を、実施例2並びに比較例1及び2のノーズクリップに対しても実施した。実験は、同一構造の複数の試料に対して行った。それぞれの内角θの測定結果を、下表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から明らかなように、線形溝14を有するノーズクリップ(実施例1及び2)は、線形溝を有さないノーズクリップ(比較例1及び2)に比べて、60度曲げ後に15分間放置した状態での撓曲部分の内角θが小さく、すなわち形状保持能力に優れている。また、上記実験の対象としたノーズクリップ(特に実施例1)は、厚みTが0.5mmと比較的薄いので、線形溝14を備えたことの相乗効果で、可撓性に富むものとなっている。このようなノーズクリップの特性は、一般用途のマスク(例えばマスク20)におけるフィット感を左右するものであり、ノーズクリップが可撓性に富み、かつその形状保持能力が優れているほど、着装者に良好なフィット感を与えるものとなる。
【0043】
(実験2)
次に、本発明に係る産業用途のマスク(例えばマスク30)における密着状態維持能力を評価するために、マスクの特性に関する下記の実験を行った。
【0044】
マスクの実施例1として、PET(ポリエチレンテレフタレート)とPC(ポリカーボネート)とSEBS(スチレンエチレンブチレンスチレン共重合体)とPE(ポリエチレン)とEpxPE(エポキシポリエチレン)とを重量比PET/PC/SEBS/PE/EpxPE=55/15/15/12.5/2.5で含有する樹脂材料からなる厚みT=2mm、幅W=5mmの帯状素材に、エンボス加工により複数の線形溝14を繰返しパターンで連続的に形成し、次いで、線形溝14を形成した帯状素材を長さL=90mmの個片に切断して、ノーズクリップ10(図1)を作製し、このノーズクリップ10を、不織布製のマスク本体32の縁部分34に取り付けて、マスク30(図6)を作製した。得られたノーズクリップ10において、第1線形溝14aの間隔D(図4(a))は18mm、各線形溝14の深さは約0.2mm〜約0.3mm、各線形溝14の断面形状は、幅約0.5mm〜約1mmの略U字形(先の丸まったV字形)であった。
【0045】
マスクの実施例2として、積水成型工業株式会社(大阪市)の製品である「フォルテ(登録商標)」(高倍率延伸ポリエチレンシート)を用いて、マスクの実施例1と同様にして、厚みT=1mm、幅W=4mm、長さL=90mm、第1線形溝14aの間隔D(図4(a))=18mm、各線形溝14の深さ約0.2mm〜約0.3mm、幅約0.5mm〜約1mm、断面形状略U字形(先の丸まったV字形)のノーズクリップ10(図1)を作製し、このノーズクリップ10を、不織布製のマスク本体32の縁部分34に取り付けて、マスク30(図6)を作製した。
【0046】
マスクの比較例1として、実施例1のマスク30のノーズクリップ10と同じ材料及び同じ寸法で、第1〜第3線形溝14a〜14cを有さないノーズクリップを、不織布製のマスク本体32の縁部分34に取り付けたものを用意した。
マスクの比較例2として、実施例2のマスク30のノーズクリップ10と同じ材料及び同じ寸法で、第1〜第3線形溝14a〜14cを有さないノーズクリップを、不織布製のマスク本体32の縁部分34に取り付けたものを用意した。
マスクの比較例3として、実施例1のマスク30においてノーズクリップ10を取り外したものを用意した。
【0047】
上記した実施例1のマスク30を顔面に適正使用状態で着装した被験者に対し、密閉室内で、柴田科学株式会社(東京都台東区)の製品である漏れ率試験機「MT−9000」を用いて、塩化ナトリウムの粉塵に対するマスク30の漏れ率Qを測定した。漏れ率Qは以下の式により計算した。
漏れ率Q(%)=二次側(マスク内)粉塵濃度(mg/m)/一次側(密閉室内)粉塵濃度(mg/m)×100
同様の実験を、実施例2並びに比較例1〜3のマスクに対しても実施した。実験は、同一構造の複数の試料に対して行った。それぞれの漏れ率Qの測定結果を、下表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2から明らかなように、線形溝14を有するノーズクリップを備えたマスク30は、線形溝を有さないノーズクリップを備えたマスクに比べて、漏れ率Qが小さい。このようなマスクの特性は、産業用途のマスク(例えばマスク30)における密着状態維持能力を左右するものであり、漏れ率Qが小さいほど密着状態維持能力が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態によるノーズクリップの斜視図である。
【図2】図1のノーズクリップの撓曲変形後の形状の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態によるノーズクリップの側面図で、(a)図1のノーズクリップ、(b)変形例によるノーズクリップ、及び(c)他の変形例によるノーズクリップを、それぞれ示す。
【図4】本発明の一実施形態によるノーズクリップの線形溝のパターンを示す図で、(a)図1の線形溝、(b)変形例による線形溝、(c)他の変形例による線形溝、(d)さらに他の変形例による線形溝、(e)さらに他の変形例による線形溝、(f)さらに他の変形例による線形溝、及び(g)さらに他の変形例による線形溝を、それぞれ示す。
【図5】本発明の一実施形態によるマスクの図で、(a)平面図、及び(b)使用時の形状を示す斜視図である。
【図6】本発明の他の実施形態によるマスクの図で、(a)平面図、及び(b)使用時の形状を示す斜視図である。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の一実施形態によるノーズクリップの特性を評価する実験の一手法を説明する図である。
【符号の説明】
【0051】
10 ノーズクリップ
12 クリップ本体
14 線形溝
20、30 マスク
22、32 マスク本体
24、34 縁部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面及び該表面の反対側の裏面を有するとともに長手方向へ延びる縁を有する帯状のクリップ本体と、
前記クリップ本体の前記表面及び前記裏面の少なくとも一方に形成され、各々が前記クリップ本体の前記縁に交差する方向へ延びる複数の線形溝と、
を具備するノーズクリップ。
【請求項2】
前記複数の線形溝は、前記縁に鋭角に交差する方向へ延びる少なくとも1つの線形溝を含む、請求項1に記載のノーズクリップ。
【請求項3】
前記複数の線形溝は、前記縁に直角に交差する方向へ延びる少なくとも1つの線形溝を含む、請求項1又は2に記載のノーズクリップ。
【請求項4】
前記複数の線形溝は、前記縁に互いに異なる角度で交差する方向へ延びる少なくとも2つの線形溝を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のノーズクリップ。
【請求項5】
前記複数の線形溝は、互いに平行な少なくとも2つの線形溝を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のノーズクリップ。
【請求項6】
前記複数の線形溝は、等間隔に配置される少なくとも3つの線形溝を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のノーズクリップ。
【請求項7】
前記複数の線形溝は、前記クリップ本体の前記表面又は前記裏面に繰返しパターンで一様に形成される、請求項1〜6のいずれか1項に記載のノーズクリップ。
【請求項8】
マスク本体と、該マスク本体に取り付けられるノーズクリップとを具備するマスクにおいて、
前記ノーズクリップが、請求項1〜7のいずれか1項に記載のノーズクリップであることを特徴とするマスク。
【請求項9】
前記ノーズクリップは、前記クリップ本体の、前記複数の線形溝を形成した面が、着装者の鼻に対向する側に向くように、前記マスク本体に取り付けられる、請求項8に記載のマスク。
【請求項10】
前記ノーズクリップは、前記クリップ本体の、前記複数の線形溝を形成した面が、着装者の鼻に対向しない側に向くように、前記マスク本体に取り付けられる、請求項8に記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−254418(P2009−254418A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103987(P2008−103987)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】