説明

マスク

【課題】アレルゲンやウィルスを効率よく不活化することができ、且つ、着用時に呼吸がしやすいマスクを提供すること。
【解決手段】本発明のマスク10は、着用者の鼻及び口を覆うマスク本体部11と、このマスク本体部11の両側に設けられる一対の耳掛け部12,12とを有するマスクであり、マスク本体部11は、アレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を捕捉する濾過層14と、吸湿性を有する基材の構成繊維に酵素18が添着してなるシート状を成し、濾過層14の少なくとも一方の面に隣接して配置されることにより、濾過層14で捕捉したアレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を酵素18により不活化する酵素層15と、を備える。酵素層15の基材の目付量は、10〜30g/mの範囲とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の鼻及び口を覆うマスクに関し、特に、捕集したアレルゲンやウィルスを不活化する機能を有するマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、アレルギー性疾患やウィルス感染の予防などに用いられるマスクの需要が増加している。しかしながら、従来のマスクはアレルゲンやウィルスを物理的に捕集するのみであり、捕集したアレルゲンやウィルスはマスク内に付着したままである。このため、マスクを取り外すときなどに、マスクに付着したアレルゲンやウィルスが再飛散するという問題があった。
【0003】
一方、マスクに捕集されたアレルゲンやウィルスを不活化するマスクが種々提案されている。例えば特許文献1及び特許文献2には、アレルゲン及びウィルスを不活化する不活化剤として茶の抽出成分である茶ポリフェノールを用いたマスクが示されている。また、特許文献3には、アレルゲン及びウィルスを不活化する酵素としてプロテアーゼを用いたマスクが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−136615号公報
【特許文献2】特開2000−5531号公報
【特許文献3】特開2005−206547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1〜3に開示されるようなアレルゲン及びウィルスを不活化する機能を有するマスクでは、アレルゲンやウィルスの捕集能力を高めるためにメッシュの細かい濾過材が用いられ、この濾過材上に上記の不活化剤が添着された構成を有している。そのため、不活化機能をもたない従来のマスクと比べて通気抵抗が大きくなり、マスク着用時に息苦しいという問題がある。特に、マスク着用者が呼吸器疾患等を患っている場合においても呼吸がしやすいマスクの開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、アレルゲンやウィルスを効率よく不活化することができ、且つ、着用時に呼吸がしやすいマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係るマスクは、着用時において鼻及び口を覆う本体部と、この本体部の両側に設けられる一対の耳掛け部とを有するマスクにおいて、前記本体部は、アレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を捕捉する濾過層と、吸湿性を有する基材の構成繊維に酵素が添着してなるシート状を成し、前記濾過層の少なくとも一方の面に隣接して配置されることにより、前記濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を前記酵素により不活化する酵素層と、を備え、前記酵素層の基材の目付量が10〜30g/mの範囲であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項2に係るマスクは、上記請求項1において、前記基材の構成繊維の繊維径が40μm以下であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項3に係るマスクは、上記請求項1又は2において、前記酵素が空気中で温度30℃以上、かつ湿度70%RH以上の条件で機能することを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項4に係るマスクは、上記請求項1から3のいずれか一つにおいて、前記酵素がプロテアーゼであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項5に係るマスクは、上記請求項1から4のいずれか一つにおいて、前記酵素層の基材がレーヨンであることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項6に係るマスクは、上記請求項1から5のいずれか一つにおいて、前記酵素層が尿素を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のマスクは、吸湿性を有する基材の構成繊維に酵素を添着させたシート状の酵素層を濾過層の少なくとも一方の面に隣接して配置することにより、濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を酵素により不活化するように構成されている。上記構成としたことで、使用者の呼気に含まれる水分が酵素層に保持され、基材中の酵素に水分が補給された状態が維持される。その結果、使用者の呼気のみで効率的に酵素が活性化されるため、酵素層に隣接する濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスを効率よく不活化させることができる。特に、酵素層の目付量を10〜30g/mの範囲としたことで、アレルゲン及びウィルスの所望の不活化効率を確保しつつ、従来の不活化機能を有するマスクと比べて呼吸がしやすく、快適な使用感を得ることができる。
【0014】
また、本発明のマスクによれば、前記基材の構成繊維の繊維径を40μm以下としたので、アレルゲン及びウィルスの所望の不活化特性と呼吸性を満たすことができる。
【0015】
また、本発明のマスクによれば、前記酵素として、空気中で温度30℃以上、かつ湿度70%RH以上の条件で機能するものを用いたので、マスク着用者の呼気によって効率的にプロテアーゼを活性化させることができる。
【0016】
また、本発明のマスクによれば、アレルゲン及びウィルスを不活化する酵素として、温度や湿度等の活性条件が人間の呼気とほぼ一致するプロテアーゼを用いたので、マスク着用者の呼気によってさらに効率的にプロテアーゼを活性化させることができる。その結果、濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスをさらに効率よく不活化することができる。
【0017】
また、本発明のマスクによれば、酵素層の基材として、特に吸湿性に優れ且つ酵素の添着性のよいレーヨン繊維を用いたので、使用者の呼気に含まれる水分を十分に吸湿し、酵素に水分を補給することができる。その結果、マスク着用者の呼気のみで確実に酵素を活性化させることができる。
【0018】
また、本発明のマスクによれば、酵素層に尿素を含ませることで、酵素をより活性化させることができるため、より効率的にアレルゲンやウィルスの不活化を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本実施の形態に係るマスクの一部を破断させた斜視図である。
【図2】図2は、図1に示したマスクにおける本体部の分解斜視図である。
【図3】図3は、図1に示したマスクの作用を説明するための概念図である。
【図4】図4は、酵素層における雰囲気温度と不活化率との関係を表すグラフである。
【図5】図5は、酵素層における相対湿度と不活化率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための形態(以下実施の形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施の形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0021】
また、本発明に係るマスクで不活化することの可能な物質は、インフルエンザ等のウィルス、及び、ダニや花粉粒子等のアレルゲンのいずれか一方あるいは両方である。本発明においてウィルスの不活化とは、ウィルスの感染力が失われることを意味する。また、アレルゲンの不活化とは、アレルギー疾患を引き起こす抗原としての性質が失われることを意味する。
【0022】
図1は、本実施の形態に係るマスクの一部を破断させた斜視図であり、図2は、図1に示したマスクにおける本体部の分解斜視図である。図1に例示されるマスク10は、着用者の鼻及び口を含む顔面を覆うマスク本体部11と、このマスク本体部11の左右両側縁に設けられ、着用者の両耳に掛け止められる一対の耳掛け部12とから構成されている。マスク本体部11は、外側被覆層13aと内側被覆層13bとの間に濾過層14及び酵素層15を介在させた四層構造を成している。以下、マスク本体部11を構成する各層について説明する。
【0023】
外側被覆層13aは、マスク着用時に最も外側に位置する層であり、適度な通気性とフィルタ機能を有する材質から構成されたものである。外側被覆層13aの材質は特に限定されないが、材質の一例としては、ポリプロピレン製の不織布が挙げられる。また、内側被覆層13bは、マスク着用時に最も内側に位置し、マスク着用者の顔面に接触する層であり、外側被覆層13aと同じ材質で構成されたものである。なお、マスク本体部11は必ずしも4層構造とする必要はなく、この外側被覆層13a及び内側被覆層13bのいずれか一方又は両方を省略することも可能である。
【0024】
濾過層14は、通気性を維持しつつ外気中のウィルスやアレルゲンを捕捉して、これらの有害物質がマスク着用者の体内に侵入するのを防ぐフィルタ機能を有するシートである。濾過層14の材質としては、たとえば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド等の不織布や、ガラス繊維等が挙げられる。濾過層14を構成する不織布内部は、繊維同士が三次元的に交絡したラビリンス構造となっており、ウィルス及びアレルゲンは、慣性力により流線から外れて繊維表面に衝突捕集される。
【0025】
酵素層15は、基材を構成する繊維の表面に酵素を添着させることにより形成されたシート状の部材である。ここで、繊維に酵素を「添着」させるとは、繊維に物理的に酵素を付着させる形態と、化学反応により繊維に酵素を担持させる形態のいずれかを意味している。この酵素層15は、図2に示すように、濾過層14の外側(マスク着用者の顔面と反対側)の面に隣接して配置されることにより(すなわち、外側被覆層13aと濾過層14との間に配置されることにより)、濾過層14で捕捉したウィルス及びアレルゲンを酵素により不活化するいわゆる「バイオクリアフィルター」としての機能を有している。
【0026】
酵素層15は、マスク本体部11を構成する4層のうちメッシュの寸法が最も大きく、圧力損失が低い構造を有している。このため、図2に示すように、ウィルスを含む飛沫物やアレルゲンは、酵素層15を通過して濾過層14の表面においてほぼ捕捉されることになる。
【0027】
酵素層15の基材の材質としては、空気中の水分を吸着する性質(吸湿性)を有する繊維が用いられる。吸湿性を有する繊維としては、例えばレーヨンや酢酸セルロースなどの再生繊維,綿、羊毛、麻や絹などの天然繊維,ポリアミド、ナイロンなどの合成繊維の不織布または編織物、アクリル酸系、アクリルアミド系、ポリビニルアルコール系などの合成樹脂等が挙げられる。上記繊維の中でも特に、吸湿性に加えて酵素の添着性がよいという観点から、レーヨンが好ましく用いられる。
【0028】
上記の基材には、酵素が直接添着されるか又は担持体を介して添着される。担持体の材質としては、例えばポリアクリル酸系,ポリアクリルアミド系,ポリビニルアルコール系などの合成材料、あるいは綿,羊毛,アルギン酸ナトリウム,マンナン,寒天などの天然材料、あるいはレーヨンなどの再生材料等が挙げられる。
【0029】
上記の基材の目付量は、10〜30g/mの範囲とするのが好ましく、特に、15〜25g/mの範囲とするのが好ましい。ここで、目付量とは、単位面積あたりの繊維の重さである。目付量を上記範囲とする理由は以下のとおりである。マスクの呼吸性(マスク着用者の呼吸しやすさ)は、基材を構成する繊維のメッシュの大きさで決まり、繊維への酵素の添着量は、繊維の表面積で決まる。繊維のメッシュの大きさと繊維の表面積は、目付量と繊維径とに関係している。たとえばレーヨンの繊維径は、通常、約40μm(約9〜38μm:0.9〜17Dtex)程度が一般的である。そこで本発明者らは、目付量が上記範囲であれば、不活化特性と呼吸性の両方を満たすことを見出した。基材の目付量が10g/m未満の場合、ウィルスやアレルゲンを不活化するのに十分な量の酵素を繊維に添着することができないため、濾過層14で捕捉したウィルスやアレルゲンの不活化効率が低下する。一方、基材の目付量が30g/mを超えた場合、基材のメッシュが細かくなり過ぎ、通気抵抗が大きくなるため(すなわち圧力損失が高くなるため)、呼吸性が十分に確保されず、マスク着用者が息苦しくなる。
【0030】
上記のように構成される基材に添着される酵素としては、ウィルスやアレルゲンを構成するタンパク質を分解もしくは変性できるものであり、空気中で温度30℃以上、かつ湿度70%RH以上の条件で機能するものが好ましく用いられ、具体的にはプロテアーゼやペプチターゼ等のタンパク質分解酵素が挙げられるが、特にプロテアーゼが好ましく用いられる。その理由は、プロテアーゼが活性する条件が、温度が30℃以上、湿度が60%以上であるのに対して、人体の呼気は、温度約34℃、湿度約95%であり、プロテアーゼが活性する条件を満たしているからである。
【0031】
プロテアーゼは、タンパク質分子のペプチド結合を加水分解する酵素で、タンパク質はペプトン化される。本実施の形態で使用できるプロテアーゼは、酸性、中性及び塩基性のいずれであってもよい。例えば、トリプシンなどのセリンプロテアーゼ、パパイン、カルパイン、カテプシンBおよびカテプシンLなどのシステインプロテアーゼ、ペプシン、レニンおよびカテプシンDなどのアスパラギン酸プロテアーゼおよびメタロプロテアーゼ等が挙げられる。
【0032】
上記のタンパク質分解酵素に加えて、タンパク質変性剤を基材に添着させることにより、より効率的にアレルゲンの不活性を行うことが可能である。タンパク質変性剤としては、例えば尿素を用いることができる。プロテアーゼと尿素を併用することによってアレルゲンを不活化する効率が上がることについては、特開2003−180865号公報に記載されている。
【0033】
プロテアーゼ単独でウィルス及びアレルゲンを不活化させる場合、プロテアーゼの濃度は2%程度とするのが好ましい。また、プロテアーゼと尿素を共存させた状態でウィルス及びアレルゲンを不活化させる場合には、プロテアーゼの濃度が0.2%程度で十分な不活化効果を得ることができる。
【0034】
上記酵素を基材の繊維に添着させる方法としては、繊維に物理的に酵素を付着させる方法や、化学反応により繊維に酵素を担持させる方法がある。繊維に物理的に酵素を付着させる方法の一例としては、基材を酵素液に浸ける方法、スプレーを用いて酵素液を基材へ噴霧する方法などがある。このような手段で繊維に酵素を接触させ、保持と乾燥を経て強固な付着状態をつくる。繊維と酵素液が接触した状態での保持時間と乾燥させる速度を最適に制御することで、必要な機能を確保することができる。また、化学反応により繊維に酵素を担持させる方法の一例としては、基材のカルボキシル基をアジト化し、アミド結合により酵素と化学結合させることで、酵素を基材に担持させることができる。なお、カルボキシル基に限らず、水酸基やアミノ基等の官能基であっても、化学結合に利用することができる。このように、化学的に酵素を担持させる方法は、従来から知られている(新実験化学講座 生物化学(I),p.363〜409,丸善(1978))。
【0035】
一般に、酵素は絶乾状態においてはその活性を持たないものであり、酵素を活性状態にするには水分を補給する必要がある。酵素層15では、吸湿性を有する基材がマスク着用者の呼気に含まれる水分を吸湿することで、基材中の酵素に水分が補給された状態が維持される。同時に、酵素層15は、マスク着用者の呼気によって、酵素が活性化するのに適した温度状態に維持される。その結果、マスク着用者の呼気のみで効率的に酵素を活性化させることができ、濾過層14で捕捉したウィルス及びアレルゲンを効率よく不活化させることができる。特に、活性条件が人体の呼気とほぼ一致するプロテアーゼを用いることで、プロテアーゼを効率的に活性化させることができ、濾過層14で捕捉したアレルゲン及びウィルスをさらに効率よく不活化することができる。
【0036】
次に、本実施の形態に係るマスク10の作用について説明する。図3は、マスク10の作用を説明するための図であり、濾過層14及び酵素層15を概念的に示した一例である。なお、図3において、符号18は酵素層15に添着される酵素、符号21はウィルス、符号22はアレルゲンを模式的に示したものである。また、図3の(a)〜(c)においては、濾過層14の右側にマスク着用者の顔面が位置し、酵素層15の左側が外気に接した状態とする。
【0037】
図3の(a)に示すように、外気中を浮遊するウィルス21やアレルゲン22は、マスク着用者が呼吸するのに伴いマスク10の内部に吸い込まれる。次いで、図3の(b)に示すように、マスク10内に侵入したウィルス21及びアレルゲン22は、酵素層15のメッシュを通過して、濾過層14の表面に捕捉される。このとき、酵素層15は、マスク着用者の呼気により温度約34℃、湿度約95%に保たれており、酵素層15に添着されている酵素18は、その効力を発揮できる活性な状態にある。このため、図3の(c)に示すように、濾過層14の表面に捕捉されたウィルス21やアレルゲン22は、隣接して存在する酵素18によって不活化される。同時に、酵素層15の目付量は10〜30g/mの範囲としてあるため、酵素層15によりマスク10の通気抵抗が高くなるといったことはなく、マスク着用者の呼吸性が確保され、快適な使用感が得られる。
【0038】
ここで、図1〜図3に示した例では、酵素層15を濾過層14の外側(マスク着用者の顔面と反対側)の面に隣接して配置することで、外気に含まれるウィルスやアレルゲンを濾過層14で捕捉し、これらを酵素層15の酵素によって不活化することにより、マスク着用者の体内に侵入するのを防ぐ構成としたが、酵素層15の配置位置はこれに限定されるものではない。たとえば、図示は省略するが、マスク着用者が既にウィルスに感染している場合の対応のために、他者への感染を防止するために、酵素層15を濾過層14の内側(マスク着用者の顔面側)の面に隣接して配置してもよい。
【0039】
酵素層15を濾過層14と内側被覆層13bとの間に配置した場合、マスク着用者の口から放出されたウィルスは、酵素層15を通過して濾過層14の表面でほぼ捕捉される。酵素層15は、マスク着用者の呼気により温度約34℃、湿度約95%に保たれており、酵素層15に添着されている酵素は、その効力を発揮できる活性な状態にある。このため、濾過層14の表面に捕捉されたウィルス21やアレルゲン22は酵素18によって不活化される。同時に、酵素層15の目付量は10〜30g/mの範囲としてあるため、マスク10の通気抵抗が高くなることはなく、マスク着用者の呼吸性が確保され、快適な使用感が得られる。
【0040】
さらに、酵素層15を濾過層14の両側(マスク着用者の顔面側及び反対側)の面に隣接して配置してもよい。すなわち、外側被覆層13aと濾過層14との間、及び、濾過層14と内側被覆層13bとの間に、酵素層15をそれぞれ配置してもよい。上記構成とすることで、外気中からマスク10に取り込まれるウィルス及びアレルゲンと、マスク着用者の呼気に含まれるウィルスの両方を、酵素層15によって不活化することができる。
【0041】
(試験例)
上述したマスク10におけるアレルゲンの不活化特性を確認するために、以下の測定を行った。
【0042】
濾過層:縦 4cm×横 4cmのポリプロピレン不織布を用いた。この濾過層の表面に所定量のダニアレルゲンを付着させた。
【0043】
酵素層:酵素層の基材として、アクリル系樹脂でレーヨン繊維を結合させたレーヨンケミカルボンド不織布(目付量:20g/m2、レーヨン繊維径:約16.8μm(=3.3Dtex))を用いた。基材の寸法は濾過層と同じである。タンパク質分解酵素として、PfuプロテアーゼS(タカラバイオ株式会社製)を使用し、生理食塩リン酸緩衝液(PBS)の溶液を調製した。酵素溶液に尿素水溶液を混合し、不活化剤を調製した。調製した不活化剤を基材に付着、乾燥させて、酵素層を作製した。
【0044】
濾過層におけるダニアレルゲンを付着させた面を酵素層と接触させた状態で、濾過層及び酵素層を相対湿度80%RHに保持された雰囲気中に配置した。雰囲気温度を25℃、27℃、30℃、40℃に設定した場合における濾過層のダニアレルゲンの不活化率をそれぞれ測定した。測定結果を図4に示す。
【0045】
濾過層におけるダニアレルゲンを付着させた面を酵素層と接触させた状態で、濾過層及び酵素層を温度40℃に保持された雰囲気中に配置した。雰囲気相対湿度を50%RH、60%RH、70%RH、80%RHに設定した場合における濾過層のダニアレルゲンの不活化率をそれぞれ測定した。測定結果を図5に示す。
【0046】
図4に示すように、雰囲気相対湿度が80%RHの場合、雰囲気温度が30℃を超えると不活化率は90%を超え、十分な不活化率が得られることが分かる。一方、図5に示すように、雰囲気温度が40℃の場合、雰囲気相対湿度が70%を超えると不活化率は90%を超え、十分な不活化率が得られることが分かる。
【0047】
図4及び図5の結果から、温度が30℃以上、かつ、湿度が70%以上であれば、十分な不活化効率が得られることが分かる。そして、人間の呼気は温度約34℃、湿度約95%であり、マスク着用時にはこれが助長されるので、人間の呼気がダニアレルゲンを効率的に不活化する条件を満たしていることを確認することができた。
【0048】
また、上記の濾過層及び酵素層を用いて、図1に示したような4層構造のマスクを作製し、圧力損失を測定した。その結果、圧力損失は2mmHO/cmであり、マスク着用者が息苦しさを感じることのないレベルに抑えることができた。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態に係るマスク10は、吸湿性を有する基材の構成繊維に酵素を添着させたシート状の酵素層15を濾過層14の少なくとも一方の面に隣接して配置することにより、濾過層14で捕捉したアレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を酵素により不活化するように構成されている。上記構成としたことで、使用者の呼気に含まれる水分が酵素層15に保持され、基材中の酵素に水分が補給された状態が維持される。その結果、使用者の呼気により効率的に酵素を活性化させることができるため濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスを、濾過層14に隣接する酵素層15で効率よく不活化させることができる。さらに、酵素層15の目付量を10〜30g/mの範囲としたことで、アレルゲン及びウィルスの所望の不活化効率を確保しつつ、従来の不活化機能を有するマスクと比してマスク着用者が呼吸しやすくなり、快適な使用感を得ることができる。
【0050】
また、本実施の形態に係るマスク10によれば、アレルゲン及びウィルスを不活化する酵素として、温度や湿度等の活性条件が人間の呼気とほぼ一致するプロテアーゼを用いたので、マスク着用者の呼気のみでさらに効率的にプロテアーゼを活性化させることができる。その結果、濾過層14で捕捉したアレルゲン及びウィルスをさらに効率よく不活化することができる。
【0051】
また、本実施の形態に係るマスク10によれば、酵素層15の基材として、特に吸湿性に優れ、かつ、酵素の添着性のよいレーヨン繊維を用いたので、使用者の呼気に含まれる水分を十分に吸湿することができる。その結果、マスク着用者の呼気のみで確実に酵素を活性化させることができる。
【0052】
また、本実施の形態に係るマスク10によれば、酵素層15に尿素を含ませることで、プロテアーゼをより活性化させることができるため、より効率的にアレルゲンやウィルスの不活化を行うことができる。
【0053】
なお、上記実施の形態では、濾過層14の少なくとも一方の面に酵素層15を隣接して配置し、濾過層14で捕捉したウィルスやアレルゲンを、酵素層15の酵素で不活化する構成について説明したが、以下の構成とすることにより酵素層15を省略することも可能である。例えば、濾過層14を、ウィルスを含む飛沫物やアレルゲンの大きさよりも大きなメッシュを有する第1層と、ウィルスを含む飛沫物やアレルゲンの大きさよりも小さなメッシュを有する第2層との2層構造とし、上記第1層に上述した酵素や尿素を添着させてもよい。この場合、ヒアルロン酸等の保湿材を第1層に含ませることにより、第1層に吸湿性をもたせるのが好ましい。上記のように構成されるマスクでは、外気中からマスクの内部に取り込まれたウィルスやアレルゲンは、濾過層14の第1層のメッシュを通過して、第2層の表面で捕捉される。濾過層14の第1層は、マスク着用者の呼気により温度約34℃、湿度約95%に保たれているため、第1層に添着されている酵素は、その効力を発揮できる活性な状態にある。このため、濾過層14の第2層に捕捉されたウィルスやアレルゲンは、第1層中の酵素によって不活化される。また、第1層のメッシュの大きさは第2層のメッシュの大きさよりも大きく形成されているため、第1層に酵素を添着させても濾過層14の通気抵抗が高くなることはない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明のマスクは、ウィルスやアレルゲンを効果的に不活化することができるため、一般のウィルス感染・花粉症予防用のマスクやサージカルマスクなど、あらゆるマスク用途に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 マスク
11 マスク本体部
12 耳掛け部
13a 内側被覆層
13b 外側被覆層
14 濾過層
15 酵素層
18 酵素
21 ウィルス
22 アレルゲン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の鼻及び口を覆うマスク本体部と、このマスク本体部の両側に設けられる一対の耳掛け部とを有するマスクにおいて、
前記マスク本体部は、
アレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を捕捉する濾過層と、
吸湿性を有する基材の構成繊維に酵素が添着してなるシート状を成し、前記濾過層の少なくとも一方の面に隣接して配置されることにより、前記濾過層で捕捉したアレルゲン及びウィルスのいずれか一方又は両方を前記酵素により不活化する酵素層と、を備え、
前記酵素層の基材の目付量が、10〜30g/mの範囲であることを特徴とするマスク。
【請求項2】
前記基材の構成繊維の繊維径が40μm以下であることを特徴とする請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記酵素が空気中で温度30℃以上、かつ湿度70%RH以上の条件で機能することを特徴とする請求項1又は2に記載のマスク。
【請求項4】
前記酵素がプロテアーゼであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載のマスク。
【請求項5】
前記酵素層の基材がレーヨンであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載のマスク。
【請求項6】
前記酵素層が尿素を含むことを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載のマスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−103924(P2011−103924A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259079(P2009−259079)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】