説明

マスタシリンダ

【課題】ピストンとスプリングとの摺動音を抑制しつつ、安定したスプリング取付荷重であるマスタシリンダを提供する。
【解決手段】有底筒状の第1ピストン及び第2ピストン4と第1コイルばね及び第2コイルばね13との間には樹脂材16が設けられている。樹脂材は第1コイルばね及び第2コイルばねに嵌合しているため、第1ピストン及び第2ピストンの摺動によって第1コイルばね及び第2コイルばねに対して固定されたままである。樹脂材は第1コイルばねと第1ピストン及び第2コイルばねと第2ピストンとの間に設けられるため、コイルばねとピストンとの直接の接触は防がれ、そのため、コイルばねとピストンとの当接音ひいては異音が防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスタシリンダに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にマスタシリンダは、シリンダ孔を有するボディと、ボディに摺動するピストンとを備えており、両者は一端が開口部で、他端が底部を有した有底筒状である。ピストンの開口部がボディの底部と対向するようにシリンダ孔内にピストンが配置されている。シリンダ孔内にはピストンを非作動の復帰位置に戻すためのコイルばねが備えられており、コイルばねの一端が筒状のピストンに収容されている。
【0003】
運転者の操作によってピストンがシリンダの底部側に摺動されるときは、コイルばねは収縮する。通常は、コイルばね及びピストンは金属材料で構成されているため、コイルばねの収縮に伴った径方向の変位によってコイルばねの外周部分とピストンの内周部分とが当接し、異音が発生する。そうした異音は運転者や乗員に不安感を与える恐れがあるため、従来は筒状のピストンの底部に当接するように筒状の樹脂材を設けて、コイルばねとピストンとの接触を防ぎ、異音の発生を抑制させようとしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−337680
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の異音対策では、コイルばねの軸方向の荷重を樹脂材が受けることとなるため、マスタシリンダの使用により樹脂材の変形や磨耗が生じてしまう。それによってピストンの取付荷重が減少してしまい、ピストンの戻り不良となってしまう恐れがある。
【0006】
上記問題を鑑みて、本発明は、ピストンとスプリングとの摺動音を抑制しつつ、安定したスプリング取付荷重であるマスタシリンダを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために請求項1に記載の発明は、軸線方向の一端が閉じ他端が開口したシリンダ孔を含むシリンダ本体と、シリンダ本体のシリンダ孔の内部に位置し、軸線方向に移動可能であり、シリンダの一端側が開口し、他端側が閉じたピストンと、一部がピストンの内部に収容され、ピストンの内部の他端側壁とシリンダ孔内の一端側内壁とに支持されるとともにピストンの閉側部をシリンダ本体の他端方向に付勢するコイルばねと、ピストンの内周壁とコイルばねとの間のみに設けられた樹脂材とを備えている。
【0008】
上記構成によると、コイルばねはピストンの他端側壁とシリンダ孔内の一端側内壁とに支持されているため、コイルばねによる軸方向荷重はシリンダ孔内の一端側内壁とピストンとにかかる。樹脂材は軸方向荷重を受けることなくコイルばねとピストンとの当接による異音を防ぐことができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、樹脂材が前記コイルばねに嵌合されている。
【0010】
上記構成によると、ピストンの摺動によって樹脂材はピストンに追随せず、コイルばねに固定される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、樹脂材が前記コイルばねのばね間に配置させている。
【0012】
上記構成によると、樹脂材はコイルばねに対して容易に取り付けることができるため、生産性がよい。
【0013】
請求項4に記載の発明は、コイルばねが樽型のコイルばねであり、樽型のコイルばねの最大径部に設けられている。
【0014】
上記構成によると、樽型のコイルばねであるため、コイルばねに小径部と大径部が生じる。コイルばねの大径部とピストンとが当接することが容易に想定することができ、大径部に樹脂材を設けることで当接音を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マスタシリンダ1の概略図
【図2】第2ピストン4の開口部4Bの拡大図
【図3】樹脂材19の概略図
【図4】別形態の樹脂材を用いた図
【図5】別形態の樹脂材を示した図
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、マスタシリンダ全体の断面図であり、図2は、ピストンとコイルばねとの周辺の拡大図、図3は、樹脂材の周辺の拡大図である。図1及び図2のピストンの位置は、ブレーキ非作動時における位置(以下、初期位置とする)を示している。
【0017】
図1に示されるように、マスタシリンダ1は底部2Aと開口部2Bとを有した有底筒状のシリンダボディ2を備えており、シリンダボディ2の内部にはシリンダ孔2Cが形成されている。また、シリンダ孔2Cの内部にはシリンダ孔2Cを摺動する第1ピストン3及び第2ピストン4が備えられている。第1ピストン3及び第2ピストン4は底部3A及び4Aと開口部3B及び4Bとを有した有底筒状のピストンであり、シリンダボディ2の底部2A側に第1ピストン3及び第2ピストン4の開口部3B及び4Bが向けられている。この時、第2ピストン4は第1ピストン3に対してシリンダボディ2の底部2A側に配置されており、第2ピストン4はシリンダ孔2Cに収容され、第1ピストン3の一部はシリンダ孔2Cに収容され、一部はシリンダボディ2の開口部2Bから外部に突出している。
【0018】
シリンダボディ2内にはシリンダボディ2と第1ピストン3と第2ピストン4とによって区画される第1液圧室6及び、第2ピストン4とシリンダボディ2とによって区画される第2液圧室7を有している。シリンダボディ2にはリザーバ5が接続されており、リザーバ5に蓄えられたブレーキ液がシリンダボディ2に設けられた第1連通路8及び第2連通路9を経由して第1液圧室6及び第2液圧室7に送られる。
【0019】
また、マスタシリンダ1にはピストンとシリンダ孔2Cとの間に設けられたカップシール10が設けられており、シリンダボディ2に、ゴム製で環状のプライマリカップ10B、10D、セカンダリカップ10A、プレッシャカップ10Cが収容されている収容溝11A、11B、11C、11Dが形成されている。プライマリカップ10B及び10Dは、第1ピストン3及び第2ピストン4に設けられたピストンポート3C及び4Cがプライマリカップ10B及び10Dよりも前方(シリンダ孔2Cの開口部2Bに対して底部2A側)に達すると第1液圧室6及び第2液圧室7のブレーキ液を液密に保持する。セカンダリカップ10Aは第1連通路8と大気側との連通を遮断し、プレッシャカップ10Cは第1液圧室6と第2連通路9との連通を遮断する。
【0020】
第1液圧室6には第1コイルばね12、第2液圧室7には第2コイルばね13が設けられており、第1ピストン3及び第2ピストン4を初期位置へ復帰させる力を第1ピストン3及び第2ピストン4に付与している。
【0021】
次に図2を用いて第2ピストン4と第2コイルばね13との関係を説明する。なお、第1ピストン3と第1コイルばね12との関係も同様であるため省略する。
【0022】
前述のとおり、第2ピストン4は有底筒状のピストンであり、底部4Aと開口部4Bとを備えている。第2ピストン4の開口部4Bはシリンダボディ2の底部2A側に配置され、第2ピストン4の底部4Aはシリンダボディ2の開口部2B側に配置される。
【0023】
第2ピストン4の筒内部4Cには、第2コイルばね13の一端が収容されている。第2コイルばね13の一端が第2ピストン4の筒内部4Cの底部4Aにリテーナ14を介して、第2コイルばね13の他端がシリンダボディ2の底部2Aにストッパ15を介して配置され、第2液圧室7に設けられている。
【0024】
第2コイルばね13は、金属材料(ばね鋼)を螺旋状に巻いたばねであり、図2に示す状態は、マスタシリンダ1が初期位置の状態であり、そのとき、第2コイルばね13はセット長の状態である。この第2コイルばね13の径は、第2ピストン4の筒内部4Cの内径にほぼ近い大きさに設定される。そのために、マスタシリンダ1の作動時、第2コイルばね13は変形に伴って第2ピストン4の筒内部4Cに当たる可能性が高く、前述のような、第2コイルばね13と第2ピストンとの当接に起因する異音が生じやすい。
【0025】
ここでは、第2ピストン4の筒内部4Cに樹脂材16を入れることにより、金属製の第2コイルばね13と金属製の第2ピストン4との直接の接触を避けるようにしている。
【0026】
ここで、第2コイルばね13と第2ピストン4との間に樹脂材16と設ける。樹脂材16は、第2コイルばね13に嵌合する嵌合部16Aを有しており、第2コイルばね13の螺旋形状に沿うように第2コイルばね13の一周程度に嵌合することができる。嵌合部をばね鋼の径と同程度にすることで第2コイルばね13に固定することができる。また、樹脂材16は第2ピストン4の筒内部4Cの内周に当接する当接面16Bを有しており、第2ピストン4がシリンダ孔2Cを摺動するとともに、樹脂材の当接面16Bが第2ピストン4の筒内部4Cの内周を摺動する。
【0027】
そこで、第2ピストン4に対し、樹脂材16および第2コイルばね13を組み付けるとき、しかもまた、マスタシリンダ1の作動に伴って、金属製の第2コイルばね13が樹脂材16の内周に当たりあるいは擦過するが、それによって生じる音は非常に小さい。したがって、樹脂材16がない場合における異音の発生を未然に防止することができる。また、第2コイルばね13の軸方向の荷重は、第2ピストン4の底部4Aとシリンダボディ2の底部2Aとで受けるため、樹脂材16は軸方向荷重を受けることなく異音の発生を防ぐことができる。
【0028】
なお、図4,図5に示すようにT字状の樹脂材を円形状に巻いた樹脂材16を第2コイルばね13のばね間で挟持するようにしてもよい。また、第2コイルばね13はばねの中央付近の径がばねの両側の径よりも大きい樽型であってもよい。この時樹脂材16は、中央付近の径が大きい部分に設けることで、第2コイルばね13と第2ピストン4との当接を防ぐことができる。樽型のコイルばねであるため、第2ピストン4と当接する箇所が最大径部であると容易に想定できるため、樹脂材16を第2コイルばね13への装着箇所が特定しやすい。
【符号の説明】
【0029】
1・・・マスタシリンダ
2・・・シリンダボディ
3・・・第1ピストン
4・・・第2ピストン
5・・・リザーバ
6・・・第1液圧室
7・・・第2液圧室
8・・・第1連通路
9・・・第2連通路
10・・・カップシール
11A,11B,11C,11D・・・収容溝
12・・・第1コイルばね
13・・・第2コイルばね
14・・・リテーナ
15・・・ストッパ
16・・・樹脂材



【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向の一端が閉じ他端が開口したシリンダ孔を含むシリンダ本体と、
前記シリンダ本体の前記シリンダ孔の内部に位置し、前記軸線方向に移動可能であり、前記シリンダの一端側が開口し、他端側が閉じたピストンと、
一部が前記ピストンの内部に収容され、前記ピストンの内部の他端側壁と前記シリンダ孔内の一端側内壁とに支持されるとともに前記ピストンの前記閉側部を前記シリンダ本体の他端方向に付勢するコイルばねと、
前記ピストンの内周壁と前記コイルばねとの間のみに設けられた樹脂材と
を備えたことを特徴とするマスタシリンダ。
【請求項2】
前記樹脂材は、前記コイルばねに嵌合していることを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項3】
前記樹脂材は前記コイルばねのばね間に配置させたことを特徴とする請求項1に記載のマスタシリンダ。
【請求項4】
前記コイルばねは樽型のコイルばねであり、前記コイルばねは前記樽型のコイルばねの最大径部に設けられたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマスタシリンダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−214095(P2012−214095A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80007(P2011−80007)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】