説明

マスタード検出装置

【課題】生物に影響を与える程度の濃度のマスタードを簡便に検出、測定すること。
【解決手段】マスタードを熱分解して水素イオン指示薬及び保湿剤を担体に展開した検知材により検出する装置のおいて、熱分解炉がジュール熱の発生が可能な金属板3の表面にアルマイト層4、4を形成し、金属板3に通電して被検ガスを200乃至300℃に加熱するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、びらん性毒ガスの一種であるマスタードを検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
テロなどの犯罪に使用されるびらん性毒ガスは、程度の極めて低い濃度で人体など生物に重篤な影響を与えるため、高い感度と選択性で、しかも可及的速やかに検出し、対策を施すことが必要となる。
すなわち、原因が分からないまま事態が進展すれば被害が拡大し人命は失われていく。一刻も早く中毒を引き起こす原因物質(中毒起因物質)が何であるかつきとめなければならない。被害者の診断による症状の情報のみからでは、適切な治療は行えない。毒の種類がわかれば解毒薬投与、処置等いくらでも対策が立てられる。極めて低濃度のびらん性毒ガスなどは、クロマトグラフ装置など実験室レベルで使用可能な分析機器により正確に検出できるものの、犯罪現場での使用は困難である。
【0003】
このような0.1mg/立方メートル程度の極めて濃度の低い毒ガスの検出は、ガスクロマトー質量分析装置など実験室レベルでは実用的な分析機器により簡単に検出できるものの、犯罪現場での使用は困難である。
このため、各種ガスセンサーや検知管等の現場で容易に使用できる検出手段の応用が検討されているが、未だ実用に供するのに十分な感度を引き出すまでには至っておらず、現実には現場に毒ガスが存在するか否かを判定するため、カナリアをセンサーとして使用されたこともあったが、濃度や種類、分布状況など、対策に必要となるデータを得ることはとても不可能である。
このような問題を解消するため、本出願人は特許文献1において温度300℃以上に被検ガスを加熱する熱分解炉と、熱分解炉からのガスを検出する検知材と、検知材の光学濃度を検出する光学濃度検知手段とを備えたマスタード検出装置を提案した。
この装置によれば、生物に影響を与える0.1mg/立方メートル程度のマスタードをフィールドで簡単に検出することができるものの、被検ガスを300℃の高温に加熱するため、他のガスをも熱分解してしまい検知材が不要なガスに感応するという不都合に加えて、300℃に加熱するため、電力消費が大きく、携帯用装置に適用しようとすると大容量の電池が必要になるなどの不都合がある。
【特許文献1】特願2003−296433
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、生物に影響を与える濃度が0.1mg/立方メートル程度のマスタードをフィールドで簡単に検出することができる新規なマスタード検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような問題を解消するために本発明においては、ジュール熱の発生が可能な抵抗素材の表面にアルマイト層を形成し、前記抵抗素材に通電して被検ガスを前記アルマイト層で熱分解炉と、前記熱分解炉からのガスを検出する検知材と、前記検知材の光学濃度を検出する光学濃度検知手段とを備え、前記検知材が、水素イオン指示薬及び保湿剤を担体に展開して構成されている。
【発明の効果】
【0006】
マスタードを熱分解して塩酸を発生させ、これを検知材に反応させて光学濃度の変化として検出できるため、特別な分析技術や設備を必要とすることなく、フィールドでの使用が可能となる。
また、熱分解に必要な温度が200乃至300℃程度に抑えることができるため、電力消費を可及的に抑え、携帯性に優れた装置を構成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
そこで以下に本発明の詳細を図示した実施例に基づいて説明する。
図1は、本発明の一実施例を示すものであって、熱分解炉1は、流入口2aがサンプリング領域に接続され、また流出口が後述する検出手段10の測定ヘッド13に接続されている。
【0008】
熱分分解炉1は、図2に示したようにジュール熱の発生が可能な抵抗素材、例えばニッケル−クロム−鉄の合金からなる金属板3の両面にアルミニューム板を冷間圧延したクラッド材を用い、アルミニューム層をシュウ酸、クロム酸、及び硫酸の溶液を用いて陽極酸化によりアルミニューム板全体をアルマイトに変性させて触媒層4、4が形成された板材5により構成されている。
【0009】
この板材に通電すると、発熱層となる金属板3がジュール熱により発熱するため、これに密着している触媒層4、4が効率的に所定温度に加熱される。言うまでも無くアルマイト層は、金属板3に比較して電気抵抗が極めて高いため、金属板3にのみ電流が流れる。
【0010】
好ましくは、図2(B)に示したように帯状に切断して螺旋状に成型し、流路を構成する容器6の中心に配置すると、被検ガスが金属板3の両面の触媒層4、4に接触するため、効率的に熱分解できる反応炉を構成することができる。なお、図中符号7は通電端子を示す。
【0011】
検出手段10は、検知材Sを、発光素子11と受光素子12とを備えた光学濃度検知手段としての測定ヘッド13に、一定時間毎に搬送するテープ搬送機構14と、サンプリングポンプ15からの負圧を受けて、測定ヘッド13と共同して検知材Sに被検ガスを接触させる吸引ヘッド16とから構成されている。なお、図中符号17は、検知材Sの未使用領域を測定領域に一定量送り出すための間欠駆動部を示す。
【0012】
ところで検知材Sは、水素イオン濃度指示薬、例えばメチルレッド0.22wt%、バッファ溶液17.5ミリリットル、及び保湿剤、例えばグリセリンやエチレングリコール等の多価アルコール15mlを、全量が100mlとなるようにメタノール等の易蒸発性有機溶媒に溶解した発色液に、セルロースを素材とするろ紙に含浸させ有機溶媒を揮散させて構成されている。
【0013】
なお、水素イオン指示薬としては、メチルオレンジのほか、メタニールイエロー、アザリンイエロー、ベンジルイエロー、メチルイエロー、メチールレッド、ベンジルオレンジ、トロペオリン、ブロモフェノールブルーを使用することが出来る。
【0014】
この検知材Sは、テープ状に裁断してカセットケースに収容して連続測定用に供したり、また紙片に成形して遮気性の袋に保管し、必要の都度、遮気性袋から取り出してバッチ測定に供したりすることができる。
【0015】
この実施例において、吸引ヘッド16を引き下げて測定ヘッド13との間に検知材Sを挿入し、再び吸引ヘッド16を上昇させて測定ヘッド13に対向する領域にサンプリングポンプ15の吸引圧が作用するようにセットする。
【0016】
ついで、熱分解炉1の温度を250℃程度に維持し、濃度0.1mg/立方メートル程度のマスタードを含むエアを時間30秒だけ吸引すると、マスタードは熱分解炉1により塩酸を生成し、検知材Sの一方の面から他方の面に通過し、検知材Sに担持されている発色剤と反応する。この際、検知材のシリカゲルや保湿剤が反応を促進することになる。
【0017】
このようにしてサンプリング時間が経過した時点で、測定ヘッド13の発光素子11と受光素子12とにより、ガスを通過させる以前の光学濃度との差分を検出すると、図3の線図Aに示したように発色液の光学的飽和濃度の27%程度の検出出力を得ることができた。なお、図3の線図Bは、先の出願により提案した装置の出力特性を示すものである。
【0018】
もとより、熱分解炉1、及び検出手段10を駆動できるに足る電源を商用電源や、バッテリから供給するだけで、特別な分析技術を必要とすることなく、極めて低い濃度のマスタードを検出できるから、犯罪現場などのフィールドで使用可能となる。
特に、本発明においてはヒータとなる金属板3の両面に触媒層4、4が形成され、かつ螺旋状に形成されているため、被検ガスが両面の触媒層4に接触して効率的に熱分解されて熱分解に必要な電力を抑制することができる。
【0019】
なお、上述の実施例においては、サンプリング時間を30秒としたが、緊急性と検出感度との兼ね合いで、緊急性を要する場合には光学濃度の変化が検出できる程度に短縮し、またマスタードの濃度を正確に知る必要がある場合には延長するなど、サンプリング時間を適宜変更すると、用途に合った検出が可能となる。
【0020】
なお、上述の実施例においては熱分解炉1の温度を250℃に設定しているが、図3の(A)に示したように200℃以上であれば検出することが可能であり、また上限の温度は、感度の増加率とエネルギとの関係から300℃程度に制限するのが望ましい。
【0021】
本発明においては、触媒層4は、アルマイト処理時の陽極酸化処理により孔壁が溶出して孔径が拡大されているため、表面積が大きく、被検ガスを効率的に熱分解することができる。
【0022】
なお、熱分解の効率を向上させるため、触媒層の孔に白金などの酸化触媒を充填して熱分解の効率を上げることも考えられるが、白金の触媒能が経時的に変化するため、測定感度に変動を来たす。
これに対して、アルマイト層は化学的に安定しているため、測定感度を安定に維持することがでる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施例を示す構成図である。
【図2】図(A)(B)は、それぞれ同上装置に使用する熱分解炉を構成する板材の断面図、及び熱分解炉の一実施例を示す図である。
【図3】本発明、及び従来の熱分解炉の温度と検出感度との関係を示す線図である。
【符号の説明】
【0024】
1 熱分解炉 3 金属板 4 アルマイトからなる触媒層 10 検出手段 13 測定ヘッド S 検知材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジュール熱の発生が可能な抵抗素材の表面にアルマイト層を形成し、前記抵抗素材に通電して被検ガスを前記アルマイト層で熱分解炉と、前記熱分解炉からのガスを検出する検知材と、前記検知材の光学濃度を検出する光学濃度検知手段とを備え、
前記検知材が、水素イオン指示薬及び保湿剤を担体に展開して構成されているマスタード検出装置。
【請求項2】
前記アルマイト層の温度が200℃乃至300℃である請求項1に記載のマスタード検出装置。
【請求項3】
前記水素イオン指示薬が、前記水素イオン指示薬が、メチールオレンジ、メタニールイエロー、アザリンイエロー、ベンジルイエロー、メチルイエロー、メチールレッド、ベンジルオレンジ、トロペオリン、ブロモフェノールブルーから選ばれた1種であり、また前記担体がセルロースからなる紙葉体である請求項1に記載のマスタード検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−284285(P2006−284285A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102513(P2005−102513)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000250421)理研計器株式会社 (216)
【Fターム(参考)】