説明

マスターバッチ

【課題】 樹脂組成物、特にポリアリーレンスルフィド組成物とした際に、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さく、特に電気・電子部品又は自動車電装部品等の電気部品用途に期待される組成物となりうる樹脂用マスターバッチを提供する。
【解決手段】 測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜300ポイズである低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともカーボンナノチューブ(B)20〜150重量部を含んでなる樹脂用マスターバッチ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィドに電気伝導性、熱伝導性等を付与するための樹脂用マスターバッチとして使用することができるカーボンナノチューブ配合マスターバッチ及びそれを配合してなる樹脂組成物、特にポリアリーレンスルフィド組成物に関するものであり、本発明の樹脂用マスターバッチは、樹脂にカーボンナノチューブを効率よく分散することが可能となり、該樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物は、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい組成物となるものであり、該樹脂組成物は、電気・電子部品或いは自動車電装部品などの電気部品用途に特に有用なものとなるものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアリーレンスルフィドは、耐熱性、耐薬品性、成形性等に優れた特性を示す樹脂であり、その優れた特性を生かし、電気・電子機器部材、自動車機器部材およびOA機器部材等に幅広く使用されている。
【0003】
従来より、ポリアリーレンスルフィドに電気伝導性や熱伝導性を付与するためには、電気伝導性フィラーや熱伝導性フィラーを配合することが一般的に行われていた。この際の電気伝導性フィラーとしては、例えば炭素繊維、金属繊維、カーボンブラック、金属粉末等が挙げられ、また、熱伝導性フィラーとしては、例えば炭素繊維、金属繊維、カーボンブラック、金属粉末、窒化物或いは炭化物セラミックス(窒化アルミニウム、窒化ホウ素、炭化ケイ素等)、金属酸化物(酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム等)、金属炭酸塩(炭酸マグネシウム等)等が挙げられている。しかしながら、これらフィラーを使用し、所望の電気伝導性や熱伝導性を付与するには、高充填とすることが必要となるため、ポリアリーレンスルフィドの機械的強度、溶融流動性等を極端に低下させてしまうという課題を生じていた。また、これらフィラーは、成形品間、或いは成形品中においてフィラーの片寄りを生じることがあり、成形品間、或いは成形品中に電気伝導性や熱伝導性にバラツキを生じるという課題もあった。
【0004】
これら課題を解決する手法として、ポリアリーレンスルフィドにカーボンナノチューブと言われる様な微細炭素材料を配合することが提案されており、これまでにもいくつかの検討がなされてきた。例えば、(a)合成樹脂、(b)特定構造の直径3.5〜75nmの微細糸状の炭素フィブリル材料を配合する樹脂組成物(例えば特許文献1参照。)、(a)ポリマー、(b)単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維又はこれら充填材を1種以上を含む混合物からなる導電性充填材、及び(c)多環式芳香族化合物を配合するポリマー複合材組成物(例えば特許文献2参照。)、また、(a)熱可塑性樹脂、(b)カーボンナノチューブ、及び(c)エチレン共重合体を配合する樹脂組成物(例えば特許文献3参照。)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許2862578号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献2】特許4361873号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【特許文献3】特開2006−016553号公報(例えば特許請求の範囲参照。)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜3に提案された樹脂組成物においては、得られる樹脂組成物の電気伝導性や熱伝導性が十分でない上に、成形後の成形品間、又は成形品中の電気伝導性や熱伝導性のバラツキも大きいものであった。また、これらの樹脂組成物において、充分に高い電気伝導性や熱伝導性を得るためには、カーボンナノチューブの含有量を高いものとすることが必須となり、このため樹脂組成物の溶融流動性の低下も課題となっていた。即ち、これらの提案方法はおしなべて、高い電気伝導性、高い熱伝導性、優れた溶融流動性、電気伝導性や熱伝導性のバラツキの小さいことを同時に得ることは難しいものであった。
【0007】
そこで、本発明は、樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィドに電気伝導性、熱伝導性等を付与するための樹脂用マスターバッチ及びそれを配合する樹脂組成物、特にポリアリーレンスルフィド組成物を提供するものであり、樹脂組成物、特にポリアリーレンスルフィド組成物とした際に、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい組成物となる樹脂用マスターバッチを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、低溶融粘度ポリアリーレンスルフィドに少なくともカーボンナノチューブを配合した樹脂用マスターバッチ、該樹脂用マスターバッチを樹脂に配合した樹脂組成物が、高い電気伝導性、高い熱伝導性を有すると共に、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい組成物となりうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明は、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜300ポイズである低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともカーボンナノチューブ(B)20〜150重量部を含んでなることを特徴とする樹脂用マスターバッチ、及び該マスターバッチを樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィドに配合してなる樹脂組成物に関するものである。
【0010】
以下、本発明に関し詳細に説明する。
【0011】
本発明の樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィドに配合するに適した樹脂用マスターバッチは、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜300ポイズである低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともカーボンナノチューブ(B)20〜150重量部を含んでなるものである。
【0012】
本発明の樹脂用マスターバッチを構成する低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)としては、測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜300ポイズのポリアリーレンスルフィドであり、好ましくは溶融粘度が60〜200ポイズのポリアリーレンスルフィドである。該条件を満足する限りにおいて低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)は特に制限されるものでない。ここで、溶融粘度が50ポイズ未満のポリアリーレンスルフィドである場合、溶融粘度が低すぎるためカーボンナノチューブの分散不良が発生しやすくマスターバッチとして製造することが困難となる。一方、溶融粘度が300ポイズを超えるポリアリーレンスルフィドである場合、マスターバッチとして樹脂に配合し、調製した樹脂組成物は、溶融流動性に劣るものとなるとともに、電気伝導性、熱伝導性が低くそのバラツキも大きいものとなる。
【0013】
該低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)としては、その構成単位として、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位等からなるものを挙げることができ、その中でもp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0014】
該低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られ、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調製されても、また系外で調製されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=0.9〜1の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.91〜0.99である。
【0015】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0016】
さらに、該低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0017】
本発明の樹脂用マスターバッチを構成するカーボンナノチューブ(B)は、炭素六角網面が円筒状に閉じた単層構造あるいはこれらの円筒構造が入れ子状に配置された多層構造を有する材料のことである。単層構造のみから構成されていても多層構造のみから構成されていても良く、単層構造と多層構造が混在していてもかまわない。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有している炭素材料も使用できる。また、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。
【0018】
該カーボンナノチューブ(B)の製造方法としては、例えば炭素電極間にアーク放電を発生させ、放電用電極の陰極表面に成長させる方法(アーク放電法)、シリコンカーバイドにレーザービームを照射して加熱・昇華させる方法(レーザー蒸発法)、遷移金属系触媒を用いて炭化水素を還元雰囲気下の気相で炭化する方法(気相成長法)等が挙げられるが、これら製法に制限されるものではない。また、製造方法の違いによって得られる該カーボンナノチューブ(B)の平均単繊維直径、平均単繊維長、形態(針状、コイル状、チューブ状等)等が変化するが、いずれのものも使用できる。
【0019】
該カーボンナノチューブ(B)の平均単繊維直径としては、該樹脂用マスターバッチを樹脂に配合し樹脂組成物とした際に、該樹脂組成物が電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に特に優れるものとなることから、1〜100nmであることが好ましく、1〜70nmであることが特に好ましい。また、該カーボンナノチューブ(B)の平均単繊維長は、樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物が電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に特に優れるものとなることから、1〜200μmであることが好ましく、5〜100μmであることが特に好ましい。
【0020】
本発明の樹脂用マスターバッチを構成するカーボンナノチューブ(B)の配合量は、低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、20〜150重量部であり、樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物が、特に電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れるものとなることから、30〜120重量部であることが好ましく、40〜100重量部であることが特に好ましい。該カーボンナノチューブ(B)の配合量が20重量部未満である場合、マスターバッチを配合し樹脂組成物とした際に、電気伝導性、熱伝導性に劣るものとなる。一方、該カーボンナノチューブ(B)の配合量が150重量部を越える場合、マスターバッチを配合してなる樹脂組成物とした際に流動性に劣るのみならず、電気伝導性や熱伝導性のバラツキも大きなものとなる。
【0021】
本発明の樹脂用マスターバッチは、該樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物が、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に特に優れるとともに、電気伝導性や熱伝導性のバラツキがより小さくなることから、さらに多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)を配合してなることが好ましい。
【0022】
該多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)は、多価アルコールと縮合ヒドロキシ脂肪酸とを反応して得られるエステルである。該多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)としては、例えばポリグリセリン縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、ジペンタエリスリトール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、トリペンタエリスリトール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、ショ糖縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、ソルビトール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル、マンニトール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステルなどが挙げられ、より具体的には、例えばテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、テトラグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、オクタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、オクタグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、デカグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、ペンタエリスリトール縮合リシノレイン酸エステル、ペンタエリスリトール縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、ジペンタエリスリトール縮合リシノレイン酸エステル、ジペンタエリスリトール縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、トリペンタエリスリトール縮合リシノレイン酸エステル、トリペンタエリスリトール縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル等を挙げることができ、これらの1種又は2種以上の混合物として利用される。なかでも縮合リシノレイン酸又は縮合12−ヒドロキシステアリン酸と重合度が2〜10のポリグリセリンとのエステルが好ましく、例えばテトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、テトラグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ヘキサグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、オクタグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、オクタグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル、デカグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、デカグリセリン縮合12−ヒドロキシステアリン酸エステル等を挙げることができる。
【0023】
該多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)の配合量は、樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物が、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に特に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキがより小さくなることから、該低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対して、0.5〜5重量部であることが好ましい。
【0024】
本発明の樹脂用マスターバッチは、樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィド(D)に配合することにより、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい樹脂組成物を提供することが可能となる。その際の該樹脂用マスターバッチの配合量としては、特に電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性が優れるとともに、電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい樹脂組成物を提供することが可能となることから、樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィド(D)100重量部に対して、10〜100重量部であることが好ましい。
【0025】
その際の樹脂としては、樹脂の範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ウレア樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアリーレンスルフィド、ポリエーテルスルスルフォン、ポリサルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂、等を挙げることができ、その中でも、特に本発明の樹脂用マスターバッチとの親和性に優れることからポリアリーレンスルフィド(D)であることが好ましい。
【0026】
ポリアリーレンスルフィド(D)としては、ポリアリーレンスルフィドと称される範疇に属するものであれば如何なるものを用いてもよく、その中でも、得られるポリアリーレンスルフィド組成物が機械的強度、成型加工性に優れたものとなることから測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターで測定した溶融粘度が50〜5000ポイズのポリアリーレンスルフィドが好ましく、特に350〜3000ポイズであるものが好ましい。その構成単位としては、例えばp−フェニレンスルフィド単位、m−フェニレンスルフィド単位、o−フェニレンスルフィド単位、フェニレンスルフィドスルホン単位、フェニレンスルフィドケトン単位、フェニレンスルフィドエーテル単位、ジフェニレンスルフィド単位、置換基含有フェニレンスルフィド単位、分岐構造含有フェニレンスルフィド単位等からなるものを挙げることができ、その中でもp−フェニレンスルフィド単位を70モル%以上、特に90モル%以上含有しているものが好ましく、さらにポリ(p−フェニレンスルフィド)であることが好ましい。
【0027】
該ポリアリーレンスルフィド(D)の製造方法としては、特に制限はなく、例えば一般的に知られている重合溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応する方法により製造することが可能であり、アルカリ金属硫化物としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びそれらの混合物が挙げられ、これらは水和物の形で使用しても差し支えない。これらアルカリ金属硫化物は、水硫化アルカリ金属とアルカリ金属塩基とを反応させることによって得られ、ジハロ芳香族化合物の重合系内への添加に先立ってその場で調製されても、また系外で調製されたものを用いても差し支えない。また、ジハロ芳香族化合物としては、p−ジクロロベンゼン、p−ジブロモベンゼン、p−ジヨードベンゼン、m−ジクロロベンゼン、m−ジブロモベンゼン、m−ジヨードベンゼン、1−クロロ−4−ブロモベンゼン、4,4’−ジクロロジフェニルスルフォン、4,4’−ジクロロジフェニルエーテル、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロジフェニル等が挙げられる。また、アルカリ金属硫化物及びジハロ芳香族化合物の仕込み比は、アルカリ金属硫化物/ジハロ芳香族化合物(モル比)=0.9〜1.1の範囲とすることが好ましい。
【0028】
重合溶媒としては、極性溶媒が好ましく、特に非プロトン性で高温でのアルカリに対して安定な有機アミドが好ましい溶媒である。該有機アミドとしては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチル−ε−カプロラクタム、N−エチル−2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素及びその混合物、等が挙げられる。また、該重合溶媒は、重合によって生成するポリマーに対し150〜3500重量%で用いることが好ましく、特に250〜1500重量%となる範囲で使用することが好ましい。重合は200〜300℃、特に220〜280℃にて0.5〜30時間、特に1〜15時間攪拌下にて行うことが好ましい。
【0029】
さらに、該ポリアリーレンスルフィド(D)は、直鎖状のものであっても、酸素存在下高温で処理し、架橋したものであっても、トリハロ以上のポリハロ化合物を少量添加して若干の架橋または分岐構造を導入したものであっても、窒素等の非酸化性の不活性ガス中で加熱処理を施したものであってもかまわないし、さらにこれらの構造の混合物であってもかまわない。
【0030】
本発明の樹脂用マスターバッチ及び該樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物を製造する際には、従来使用されている加熱溶融混練方法を用いることができる。例えば単軸または二軸押出機、ニーダー、ミル、ブラベンダー等による加熱溶融混練方法が挙げられ、特に混練能力に優れた二軸押出機による溶融混練方法が好ましい。また、この際の混練温度は特に限定されるものではなく、通常280〜400℃の中から任意に選ぶことが出来る。また、本発明の樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物は、射出成形機、押出成形機、トランスファー成形機、圧縮成形機等を用いて任意の形状に成形することができる。
【0031】
本発明の樹脂用マスターバッチ及び該樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、繊維状又は非繊維状の補強材を使用できる。繊維状の補強材としては、例えばガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等を挙げることができる。また、非繊維状の補強材としては、例えば炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、タルク、硫酸カルシウム、カオリン、クレー、ワラステナイト、ゼオライト、ガラスビーズ、ガラスパウダー等が挙げられる。これらの補強材は2種以上を併用することができ、必要によりシラン系、チタン系カップリング剤で表面処理をして使用することができる。より好ましい非繊維状補強材としては炭酸カルシウム、タルクである。
【0032】
さらに、本発明の樹脂用マスターバッチ及び該樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物は、本発明の目的を逸脱しない範囲で、従来公知の滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、発泡剤、金型腐食防止剤、難燃剤、難燃助剤、染料、顔料等の着色剤、帯電防止剤等の添加剤を1種以上併用しても良い。
【0033】
本発明の樹脂用マスターバッチを配合してなる樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物は、優れた電気伝導性を有することから、燃料電池セパレータ、電気伝導性や帯電防止機能が要求されるパレット、トレイ、基板等に特に好適であり、一方、優れた熱伝導性を有することから発熱性の高い半導体素子、抵抗などの封止用樹脂、あるいは高い摩擦熱が発生する部品に特に好適である。その他、発電機、電動機、変圧器、変流器、電圧調整器、整流器、インバーター、継電器、電力用接点、開閉器、遮断機、ナイフスイッチ、多極ロッド、電気部品キャビネット、ソケット、抵抗器、リレーケースなどの電気機器部品用途に特に適している他、センサー、LEDランプ、コネクター、小型スイッチ、コイルボビン、コンデンサー、バリコンケース、光ピックアップ、発振子、各種端子板、変成器、プラグ、プリント基板、チューナー、スピーカー、マイクロフォン、ヘッドフォン、小型モーター、磁気ヘッドベース、パワーモジュール、半導体、液晶、FDDキャリッジ、FDDシャーシ、ハードディスクドライブ部品(ハードディスクドライブハブ、アクチュエーター、ハードディスク基板など)、DVD部品(光ピックアップなど)、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、コンピューター関連部品などに代表される電子部品;VTR部品、テレビ部品、アイロン、ヘアードライヤー、炊飯器部品、電子レンジ部品、音響部品、オーディオ・レーザーディスク(登録商標)・コンパクトディスクなどの音声機器部品、照明部品、冷蔵庫部品、エアコン部品、タイプライター部品、ワードプロセッサー部品などに代表される家庭、事務電気製品部品;オフィスコンピューター関連部品、電話器関連部品、ファクシミリ関連部品、複写機関連部品、洗浄用治具、モーター部品、ライター、タイプライターなどに代表される機械関連部品;顕微鏡、双眼鏡、カメラ、時計などに代表される光学機器、精密機械関連部品;オルタネーターターミナル、オルタネーターコネクター,ICレギュレーター、ライトディヤー用ポテンシオメーターベース、排気ガスバルブなどの各種バルブ、燃料関係・排気系・吸気系各種パイプ、エアーインテークノズルスノーケル、インテークマニホールド、燃料ポンプ、エンジン冷却水ジョイント、キャブレターメインボディー、キャブレタースペーサー、排気ガスセンサー、冷却水センサー、油温センサー、ブレーキパットウェアーセンサー、スロットルポジションセンサー、クランクシャフトポジションセンサー、エアーフローメーター、ブレーキパッド摩耗センサー、エアコン用サーモスタットベース、暖房温風フローコントロールバルブ、ラジエーターモーター用ブラッシュホルダー、ウォーターポンプインペラー、タービンベイン、ワイパーモーター関係部品、デュストリビューター、スタータースイッチ、スターターリレー、トランスミッション用ワイヤーハーネス、ウィンドウォッシャーノズル、エアコンパネルスイッチ基板、燃料関係電磁気弁用コイル、ヒューズ用コネクター、ホーンターミナル、電装部品絶縁板、ステップモーターローター、ランプソケット、ランプリフレクター、ランプハウジング、ブレーキピストン、ソレノイドボビン、エンジンオイルフィルター、点火装置ケースなどの自動車・車両関連部品などの各種用途にも適用できる。
【発明の効果】
【0034】
本発明は、樹脂、好ましくはポリアリーレンスルフィドに電気伝導性、熱伝導性等を付与するための樹脂用マスターバッチ及びそれを配合する樹脂組成物、ポリアリーレンスルフィド組成物に関するものであり、本発明の樹脂用マスターバッチを配合する樹脂組成物は、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さい樹脂組成物を提供するものであり、特に電気・電子部品又は自動車電装部品等の電気部品用途に有用なものである。
【実施例】
【0035】
以下に、本発明を実施例及び比較例によって説明するが、本発明はこれらの例になんら制限されるものではない。
【0036】
以下に、実施例及び比較例において用いた低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)、カーボンナノチューブ(B)、多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)、及びポリアリーレンスルフィド(D)を示す。
【0037】
<低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)>
低溶融粘度ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−1)(以下、単に低溶融粘度PPS(A−1)と記す。):溶融粘度80ポイズ。
低溶融粘度ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−2)(以下、単に低溶融粘度PPS(A−2)と記す。):溶融粘度180ポイズ。
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(A−3)(以下、単にPPS(A−3)と記す。):溶融粘度400ポイズ。
【0038】
<カーボンナノチューブ(B)>
カーボンナノチューブ(B−1);保土谷化学工業(株)製、(商品名)MWNT−7;平均単繊維直径65nm、平均単繊維長40μm、多層カーボンナノチューブ。
【0039】
<多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)>
多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C−1)(以下、単に縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C−1)と記す。);太陽化学(株)製、(商品名)チラバゾールH−818、ヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステル。
【0040】
<ポリアリーレンスルフィド(D)>
ポリ(p−フェニレンスルフィド)(D−1)(以下、単にPPS(D−1)と記す。):溶融粘度2500ポイズ。
【0041】
実施例及び比較例で用いた評価・測定方法を以下に示す。
【0042】
〜体積固有抵抗率の測定〜
射出成形により長さ70mm、幅70mm、厚み2mmの平板を10枚作製し、内3枚を無作為に選択して、その3枚について体積固有抵抗率を測定した。更に3枚の体積固有抵抗率の測定値から、その平均値及びその標準偏差を算出し体積固有抵抗率のバラツキを評価した。体積固有抵抗率の測定は、測定装置((株)ダイアインスツルメンツ製、(商品名)Loresta AP MCP−T400)を用い、23℃の条件下にて測定した。
【0043】
〜熱伝導率の測定〜
射出成形により長さ70mm、幅70mm、厚み2mmの平板を10枚作製し、内3枚を無作為に選択して、その3枚について熱伝導率を測定した。更に3枚の熱伝導率の測定値から、その平均値及びその標準偏差を算出し熱伝導率のバラツキを評価した。熱伝導率の測定は、測定装置(アルバック社製、(商品名)TC7000;ルビーレーザー)を用い、23℃の条件下で、レーザーフラッシュ法にて測定した。熱伝導率は平面方向で測定し、平面方向の熱伝導率は、熱容量Cpと平面方向の熱拡散率αを求め、次式より熱伝導率を算出した。
平面方向の熱伝導率=ρ×Cp×α
ここで、密度ρは、ASTM D−792 A法(水中置換法)に準じ測定した。
【0044】
〜バーフロー長さの測定〜
溶融流動性の指標としてバーフロー長さ(以下、BFLと記す。)を測定した。射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)に、深さ1mm、幅10mmの溝がスパイラル状に掘られた金型を装着し、次いで、シリンダー温度を310℃、射出圧力を190MPa、射出速度を最大、射出時間を1.5秒、及び金型温度を135℃に設定した該射出成形機のホッパーにポリアリーレンスルフィド組成物を投入し、射出した。そして金型内のスパイラル状の溝を溶融流動した長さをBFLとして測定した。
【0045】
合成例1(低溶融粘度PPS(A−1)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1814g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、396gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。
【0046】
得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(低溶融粘度PPS(A−1))の溶融粘度は80ポイズであった。
【0047】
合成例2(低溶融粘度PPS(A−2)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1884g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、411gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を、窒素雰囲気下245℃で加熱硬化処理を行った。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(低溶融粘度PPS(A−2))の溶融粘度は180ポイズであった。
【0048】
合成例3(PPS(A−3)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1966g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、430gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を、窒素雰囲気下245℃で加熱硬化処理を行った。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(A−3))の溶融粘度は400ポイズであった。
【0049】
合成例4(PPS(D−1)の合成)
攪拌機を装備する15リットルオートクレーブに、NaS・2.8HO1958g及びN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと記す。)5リットルを仕込み、窒素気流下攪拌しながら徐々に205℃まで昇温して、427gの水を溜出させた。この系を140℃まで冷却した後、p−ジクロロベンゼン2280gとNMP1500gを添加し、窒素気流下に系を封入した。この系を225℃に昇温し、225℃にて2時間重合を行った。重合終了後、室温まで冷却し、ポリマーを遠心分離器により単離した。温水でポリマーを繰り返し洗浄し、100℃で一昼夜乾燥し、ポリ(p−フェニレンスルフィド)を得た。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)を、空気雰囲気下250℃で加熱硬化処理を行った。得られたポリ(p−フェニレンスルフィド)(PPS(D−1))の溶融粘度は2500ポイズであった。
【0050】
実施例1
低溶融粘度PPS(A−1)100重量部をシリンダー温度330℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、カーボンナノチューブ(B−1)25重量部を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のマスターバッチ(1)を作製した。
【0051】
実施例2〜6、比較例1〜3
低溶融粘度PPS(A−1、2)、PPS(A−3)、カーボンナノチューブ(B−1)及び縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C−1)を表1に示す割合で配合した以外は、実施例1と同様の方法でペレット状のマスターバッチ(2)〜(9)を作製した。
【0052】
【表1】

実施例7
PPS(D−1)100重量部をシリンダー温度330℃に加熱した二軸押出機(東芝機械製、(商品名)TEM−35−102B)のホッパーに投入した。一方、実施例1により得られたマスターバッチ(1)を該二軸押出機のサイドフィーダーのホッパーに投入し、スクリュー回転数200rpmにて溶融混練し、ダイより流出する溶融組成物を冷却後裁断し、ペレット状のポリアリーレンスルフィド組成物を作製した。尚、該ポリアリーレンスルフィド組成物におけるカーボンナノチューブの含有率が6.7wt%となるように、マスターバッチ(1)の配合割合を50重量部とした。
【0053】
該ポリアリーレンスルフィド組成物を、シリンダー温度310℃に加熱した射出成形機(住友重機械工業製、(商品名)SE75)のホッパーに投入し、体積固有抵抗率、熱伝導率を測定するための平板を成形した。更にBFLを測定した。これらの結果を表2に示した。
【0054】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、体積固有抵抗率が低く、熱伝導率は高かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも小さかった。さらにBFLも大きく優れた溶融流動性を示した。
【0055】
実施例8〜12
PPS(D−1)、マスターバッチ(2)〜(6)を表2に示す割合で配合した以外は、実施例7と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例7と同様の方法により評価した。尚、該ポリアリーレンスルフィド組成物におけるカーボンナノチューブの含有率が6.7wt%となるように、マスターバッチ(2)〜(6)の配合割合を表2に示す割合とした。評価結果を表2に示した。
【0056】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド組成物は、体積固有抵抗率が低く、熱伝導率は高かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも小さかった。さらにBFLも大きく優れた溶融流動性を示した。
【0057】
比較例4〜5
PPS(D−1)、マスターバッチ(7)、(8)を表2に示す割合で配合した以外は、実施例7と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例7と同様の方法により評価した。尚、該ポリアリーレンスルフィド組成物におけるカーボンナノチューブの含有率が6.7wt%となるように、マスターバッチ(7)、(8)の配合割合を表2に示す割合とした。評価結果を表2に示した。
【0058】
比較例4により得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、マスターバッチ(7)のカーボンナノチューブ(B−1)が含有量が多いことから、体積固有抵抗率は高く、熱伝導率は低かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも大きかった。さらにBFLも小さく溶融流動性が劣っていた。比較例5により得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、マスターバッチ(8)に用いたPPS(A−3)の溶融粘度が高いことから、体積固有抵抗率は高く、熱伝導率は低かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも大きかった。さらにBFLも小さく溶融流動性が劣っていた。
【0059】
比較例6
PPS(D−1)、カーボンナノチューブ(B−1)を表2に示す割合で配合する以外は、実施例7と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例7と同様の方法により評価した。尚、該ポリアリーレンスルフィド組成物におけるカーボンナノチューブの含有率が6.7wt%となるように、カーボンナノチューブ(B−1)の配合割合を表2に示す割合とした。評価結果を表2に示した。
【0060】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、カーボンナノチューブを含有するマスターバッチを用いず、ポリアリーレンスルフィドとカーボンナノチューブとを直接に溶融混練したことから、体積固有抵抗率は高く、熱伝導率は低かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも大きかった。さらにBFLも小さく溶融流動性が劣っていた。
【0061】
【表2】

実施例13〜14
PPS(D−1)、マスターバッチ(1)を表3に示す割合で配合した以外は、実施例7と同様の方法によりポリアリーレンスルフィド組成物を作製し、実施例7と同様の方法により評価した。評価結果を表3に示した。
【0062】
得られた全てのポリアリーレンスルフィド組成物は、体積固有抵抗率が低く、熱伝導率は高かった。また、体積固有抵抗率、及び熱伝導率のバラツキも小さかった。さらにBFLも大きく優れた溶融流動性を示した。
【0063】
比較例7
PPS(D−1)、マスターバッチ(9)を表3に示す割合で配合した以外は、実施例7と同様の方法により樹脂組成物を作製し、実施例7と同様の方法により評価した。評価結果を表3に示した。
【0064】
得られたポリアリーレンスルフィド組成物は、マスターバッチ(9)のカーボンナノチューブ(B−1)の配合量が少ないことから、体積固有抵抗率は高く、熱伝導率は低かった。
【0065】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の樹脂用マスターバッチを配合する樹脂組成物は、電気伝導性、熱伝導性、溶融流動性に優れ、かつ電気伝導性や熱伝導性のバラツキが小さいものであり、特に電気・電子部品又は自動車電装部品等の電気部品用途に期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定温度315℃、荷重10kgの条件下、直径1mm、長さ2mmのダイスを装着した高化式フローテスターにて測定した溶融粘度が50〜300ポイズである低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、少なくともカーボンナノチューブ(B)20〜150重量部を含んでなることを特徴とする樹脂用マスターバッチ。
【請求項2】
さらに低溶融粘度ポリアリーレンスルフィド(A)100重量部に対し、多価アルコール縮合ヒドロキシ脂肪酸エステル(C)0.5〜5重量部を含んでなることを特徴とする請求項1に記載の樹脂用マスターバッチ。
【請求項3】
樹脂100重量部に対して、少なくとも請求項1又は2に記載の樹脂用マスターバッチ10〜100重量部を配合してなることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項4】
樹脂が、ポリアリーレンスルフィド(D)であることを特徴とする請求項3に記載の樹脂組成物。

【公開番号】特開2013−23579(P2013−23579A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−159677(P2011−159677)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】