説明

マスターモールドの製造方法

【課題】マスターモールドの製造方法において、金属盤からマスター基板を切取る際に生じるマスター基板の反りや歪みを低減することにより、平坦性の高いマスターモールドの製造を可能とする。
【解決手段】表面に転写情報に対応する凹凸パターンPを有するマスターモールド10の製造方法において、凹凸パターンPを一方の面に有する金属盤1であって、この金属盤1のモールド領域20の外周に外側から接する非モールド外周領域25を有する金属盤1を用意し、非モールド外周領域25を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、金属盤1の他方の面上に、モールド領域20の外周に外側から接する外周切取り領域22を露出させかつモールド領域20全体を被覆するフォトレジスト5を設け、フォトレジスト5をマスクとして金属盤1のエッチングを行い、フォトレジスト5を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の磁化パターンに対応した凹凸パターンを表面に有するマスターモールドの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、2次元的または3次元的なパターン転写を効率的に行う磁気転写方法およびナノインプリント方法が開発されている。磁気転写は、磁気記録媒体の製造で行われる転写技術であり、微細な磁化パターンを表面に有する磁気転写用マスターディスクをスレーブ媒体(被転写媒体ともいう。)に密着させた状態で、転写用磁界を印加して、磁化パターンに対応した情報(例えばサーボ信号)をスレーブ媒体に転写する技術である。一方、ナノインプリントは、ディスクリートトラックメディア(DTM)やビットパターンドメディア(BPM)等の製造で行われる転写技術であり、微細な凹凸パターンを表面に有するナノインプリント用マスター担体を熱可塑性樹脂、光硬化樹脂等に押し当て、その凹凸パターンを樹脂に転写する技術である。このような技術によれば、上記のようなマスターモールド(上記マスターディスクや上記マスター担体を含む)をスレーブ媒体に押し付けて、2次元的または3次元的なパターンを一括的に転写することができ、ナノレベルの微細パターンを容易にかつ低コストに形成することが可能である。
【0003】
例えば、磁気転写方法に使用されるマスターディスクとしては、表面に転写情報に対応する凹凸パターンが形成されたマスター基板と、この凹凸パターンの表面に形成された磁性層とを備えるものが通常使用されている。そして、このマスターディスクは、転写情報を凹凸パターンで形成した原版上に、電鋳により形成された金属盤を積層して、表面に凹凸パターンを有する金属盤を形成する電鋳工程、金属盤を原版上から剥離する剥離工程、並びに、剥離した金属盤から所定のサイズおよび形状のマスター基板を打ち抜きする切取り工程を経た後、凹凸パターンの面に磁性層を被覆することにより製造されるのが一般的である。
【0004】
しかし、上記のような工程によって製造された従来のマスターモールドにおいて、上記のような打ち抜きによる切取り加工時に発生した局所的な変形により、反りや歪みを生じてしまうという問題がある。そして、マスターモールドに反りや歪みがありその平坦性が低いと、マスターモールドとスレーブ媒体との良好な密着状態を実現できず、高精度なパターン転写を行えないという密着性の問題を引き起こす。
【0005】
例えばマスターディスクの平坦性が低い場合には、マスターディスクをスレーブ媒体に押し付けても、適切にスレーブ媒体に接触することができない凸部が存在することになり、磁化パターンを正常に転写することができないという問題が生じる。
【0006】
したがって、上記のような一括転写する方法において、パターン転写を精度良く行うためには、マスターモールドの平坦性が極めて重要である。
【0007】
そこで、かかる問題を解決する方法として、例えば特許文献1および2に開示された方法が挙げられる。特許文献1では、金属盤および原版が密着したものを所望のサイズに打ち抜き、金属盤を原盤より剥離した後、金属盤の受けた変形を修正する歪み除去工程をさらに実施することにより平坦性を確保する方法が開示されている。また、特許文献2では、金属盤の電鋳工程における電鋳条件を工夫することにより、金属盤の反りや歪みを低減する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−327004号公報
【特許文献2】特開2006−221692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1の方法では、金属盤の受けた変形を修正する際に、別の変形が生じる場合がある。また、特許文献2の方法では、電鋳工程後の打ち抜きによる切取り工程で変形が生じる場合がある。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、マスターモールドの製造方法において、金属盤からマスター基板を切り取る際に生じるマスター基板の反りや歪みを低減することにより、平坦性の高いマスターモールドの製造を可能とするマスターモールドの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る第1のマスターモールドの製造方法は、
表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、
凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有する金属盤を用意し、
非モールド外周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、
金属盤の他方の面上に、モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、
フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行い、
フォトレジストを除去することを特徴とするものである。
【0012】
本明細書において、「モールド領域」とは、マスターモールドの構成要素として残る金属盤の部分領域を意味する。
【0013】
「非モールド外周領域」とは、マスターモールドの構成要素として残らない金属盤の部分領域であってモールド領域の外周側の部分領域を意味する。
【0014】
「非モールド外周領域を保持しながら」とは、保持具が非モールド外周領域と直接接触して保持する場合の他、保持具が非モールド外周領域と直接接触していなくても非モールド外周領域を間接的に保持していると認められる場合も含む意味である。
【0015】
「外周切取り領域」とは、金属盤からモールド領域にある部分を切り取るためにエッチングされる領域として設定された非モールド外周領域内の少なくとも一部の領域を意味する。
【0016】
そして、本発明に係る第1のマスターモールドの製造方法において、金属盤は、モールド領域の内周に内側から接する非モールド内周領域を有するものであり、フォトレジストは、モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域をさらに露出させるものであることが好ましい。
【0017】
「非モールド内周領域」とは、マスターモールドの構成要素として残らない金属盤の部分領域であってモールド領域の内周側の部分領域を意味する。
【0018】
「内周切取り領域」とは、金属盤からモールド領域にある部分を切り取るためにエッチングされる領域として設定された非モールド内周領域内の少なくとも一部の領域を意味する。
【0019】
さらに、本発明に係る第2のマスターモールドの製造方法は、
表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、
凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の内周に内側から接する環状の非モールド内周領域を有する金属盤を用意し、
非モールド内周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、
金属盤の他方の面上に、モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、
フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行い、
フォトレジストを除去することを特徴とするものである。
【0020】
「非モールド内周領域を保持しながら」とは、保持具が非モールド内周領域と直接接触して保持する場合の他、保持具が非モールド内周領域と直接接触していなくても非モールド内周領域を間接的に保持していると認められる場合も含む意味である。
【0021】
そして、本発明に係る第2のマスターモールドの製造方法において、金属盤は、モールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有するものであり、フォトレジストは、モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域をさらに露出させるものであることが好ましい。
【0022】
そして、本発明に係る第1および第2のマスターモールドの製造方法において、エッチングの実施条件は、被覆層についてのエッチング速度が金属盤についてのエッチング速度よりも遅くなるように設定されたものであることが好ましい。
【0023】
そして、本発明に係る第1および第2のマスターモールドの製造方法において、エッチングはウェットエッチングであり、この場合において、エッチング溶液として塩化鉄(III)溶液を用いるものであることが好ましい。
【0024】
そして、本発明に係る第1および第2のマスターモールドの製造方法において、被覆層は、磁性材料からなる磁性層であることが好ましい。
【0025】
そして、本発明に係る第1および第2のマスターモールドの製造方法において、被覆層を形成した後エッチングを行う前に被覆層が形成された上記一方の面上にエッチング保護膜を設け、エッチングを行った後にエッチング保護膜を剥離することが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る第1のマスターモールドの製造方法は、表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有する金属盤を用意し、非モールド外周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、金属盤の他方の面上に、モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行っている。これにより、金属盤からマスター基板を切り取る際に、従来行われている打ち抜き加工に比べて、マスター基板に与える物理的な外力を低減することができるため、金属盤からマスター基板を切り取る際に発生しやすい変形を抑えることができる。この結果、マスター基板の反りや歪みを低減し、平坦性の高いマスターモールドの製造が可能となる。
【0027】
また、本発明に係る第2のマスターモールドの製造方法は、表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の内周に内側から接する環状の非モールド内周領域を有する金属盤を用意し、非モールド内周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、金属盤の他方の面上に、モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行っている。これにより、金属盤からマスター基板を切り取る際に、従来行われている打ち抜き加工に比べて、マスター基板に与える物理的な外力を低減することができるため、金属盤からマスター基板を切り取る際に発生しやすい変形を抑えることができる。この結果、マスター基板の反りや歪みを低減し、平坦性の高いマスターモールドの製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】磁気転写用のマスターディスクの第1の実施形態の製造方法の一部の工程を示す概略断面図である。
【図2】磁気転写用のマスターディスクの部分拡大斜視図である。
【図3】磁気転写用のマスターディスクの全体構成を示す平面図である。
【図4】電鋳によって金属盤を形成する工程を示す概略断面図である。
【図5】電鋳されたままの状態の金属盤および一次的に切取り加工が施された金属盤を示す概略断面図である。
【図6】第1の実施形態に関して、金属盤におけるモールド領域、内周切取り領域および外周切取り領域の位置関係およびそれらの形状、並びに、被覆層を形成する際に保持する位置を示す概念図である。
【図7】第2の実施形態に関して、金属盤におけるモールド領域、内周切取り領域および外周切取り領域の位置関係およびそれらの形状、並びに、被覆層を形成する際に保持する位置を示す概念図である。
【図8】実施例におけるマスターディスクの断面プロファイルを示すグラフである。
【図9】比較例2におけるマスターディスクの断面プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0030】
「マスターモールドの製造方法の第1の実施形態」
図1は、磁気転写用のマスターモールド(マスターディスク)の本実施形態の製造方法の一部の工程を示す概略断面図である。本実施形態のマスターディスク10の製造方法は、図1に示すように、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤1であって、この金属盤1のモールド領域20の外周に外側から接する非モールド外周領域25(符号22の領域を含む領域である。)およびモールド領域20の内周に内側から接する非モールド内周領域23(符号21の領域を含む領域である。)を有する金属盤1を用意し、非モールド外周領域25を保持しながら、上記一方の面上に磁性層14を形成し、磁性層14が形成された金属盤1の上記一方の面上にエッチング保護膜2を設け(図1a)、金属盤1の他方の面上にフォトレジスト5を設け、金属盤1の内周切取り領域21および外周切取り領域22に対応する部分のフォトレジスト5を電子線により露光し、露光した部分のフォトレジスト5を現像により除去し(図1b)、残ったフォトレジスト5をマスクとしてウェットエッチングにより、内周切取り領域21および外周切取り領域22の金属盤1をエッチングし、その後、フォトレジスト5をすべて除去し(図1d)、エッチング保護膜2を剥離するものである(図1e)。ただし、実際にマスターディスク10の製造および切取り加工を行う場合には、ハンドリング操作の便宜を考慮して、金属盤1はハンドリング用の部材に固定するのが通常であるが、図1においてはこのハンドリング用の部材の図示は省略している。また、便宜上、モールド領域20にある凹凸パターンについては、図示を省略している。
【0031】
(マスターディスク)
図2に示すように、本実施形態の製造方法により製造されるマスターディスク10は、金属製のマスター基板12と磁性層14とで構成されている。マスター基板12は表面に磁気転写情報に対応した微細な凹凸パターンPを有しており、この凹凸面に磁性層14が被覆形成されている。磁性層14は、本発明における被覆層に相当する。なお、被覆層は複数の層から構成されてもよい。例えば、磁性層の他に、磁性層14の上に保護層や潤滑層を設ける態様や磁性層14の下に下地層を設ける態様が考えられる。
【0032】
微細な凹凸パターンPの凸部は、平面視で長方形であり、トラック方向(ディスクの円周方向であり、図2の白抜きの矢印方向)の長さAと、トラック幅方向(ディスクの半径方向)の長さL、並びに突起の高さ(厚さ)Hの値は、記録密度や記録信号波形等により適宜設計される。例えば、長さAが80nmに、長さLが200nmに設定される。ハードディスク装置に用いられる磁気ディスクのサーボ信号の場合、この微細な凹凸パターンPは、トラック方向の長さAに比べてトラック幅方向の長さLの方が長く形成される。例えば、トラック幅方向の長さLが0.05〜20μm、トラック方向の長さAが0.05〜5μmであることが好ましい。この範囲でトラック幅方向の方が長いパターンを選ぶことが、サーボ信号の情報を担持するパターンとしては好ましい。凸部パターンの高さH(凹部パターンの深さ)は、20〜800nmの範囲が好ましく、30〜600nmの範囲がより好ましい。
【0033】
また、図3に示すように、マスターディスク10の全体形状は、中心孔16を有する円盤状のディスクに形成されており、内周部17aおよび外周部17bを除く片面の円環状領域18に図2のような凹凸パターンPが形成される。
【0034】
(金属盤)
金属盤1は、その一方の面に磁気転写情報に対応した凹凸パターンを有し、当該凹凸パターンを含む部分を所定のサイズおよび形状に切り取ることによりマスターディスクを製造するための原盤である。
【0035】
金属盤1は、例えば表面に凹凸パターンを有する石英基板或いはSiウェハを用いて、当該凹凸パターンのある面に電鋳によって電鋳層を形成し、この電鋳層を剥離することにより得られる。例えば以下の通りである。図4は電鋳によって金属盤を形成する工程を示す概略断面図である。陽極プレート41上にSiウェハ40をリング42で押さえ、さらにリング42を樹脂製の押さえ蓋43で固定する(図4a)。そして、Siウェハ40上にNiの電鋳層44を形成する(図4b)。最後に、Siウェハ40とその電鋳層44を剥離すれば、Niからなる金属盤が得られる。ここで、Siウェハ40の表面(図4中における上面)には、金属盤1に形成する所望の凹凸パターンと相補的な凹凸パターンが形成されている。また、Siウェハ40の凹凸パターンはNiのスパッタ膜によって充填されている。このNiのスパッタ膜は、Siウェハ40とNiの電鋳層44を剥離する際に、電鋳層44と共にSiウェハ40から剥離され、金属盤1の凹凸パターンPを形成する部分となる。さらに、具体的には金属盤1として例えばNi電鋳層を用いることが好ましい。金属盤1の2次元的な形状は、特に限定されず、例えば円形状、矩形状等である。
【0036】
図5は、電鋳されたままの状態の金属盤(図5a)および一次的に切取り加工が施された金属盤(図5b)を示す概略断面図である。一次的に切取り加工が施された金属盤(図5b)は、電鋳されたままの状態の金属盤(図5a)を図5のCの線で打ち抜いて形成されたものである。この場合の打ち抜きは、モールド領域20に変形が生じない程度に離れた部分で実施される。後述する磁性層14の形成工程では、電鋳されたままの状態の金属盤(図5a)、或いは、一次的に切取り加工が施された金属盤(図5b)を用いて磁性層14が形成される。金属盤1から最終形態のマスター基板12を切り取ってから磁性層14を形成する場合には、マスター基板12の端部を直接保持具で保持しなければならず、この保持具による物理的な外力によりマスター基板12が変形してしまう。したがって、電鋳されたままの状態の金属盤(図5a)、或いは、一次的に切取り加工が施された金属盤(図5b)のような少なくとも保持具により保持される部分について、非モールド領域(非モールド外周領域25および非モールド内周領域23)を残しておくことが好ましい。例えば、電鋳されたままの状態の金属盤(図5a)の場合には、保持具でリング42を保持する態様が考えられる。このような場合は、保持具が非モールド外周領域を間接的に保持していると認められる。一方、一次的に切取り加工が施された金属盤(図5b)の場合には、保持具で非モールド外周領域を直接保持することになる。磁性層等の被覆層の形成工程が終わってから、非モールド領域をエッチングにより除去することにより、マスター基板12に物理的な外力が働くことを低減し、金属盤1からマスター基板12を切り取ることが可能となる。
【0037】
金属盤1をNi電鋳で製造する場合には、応力の小さなマスター基板12が得られ易いスルファミン酸ニッケル浴を使用することが好ましい。スルファミン酸ニッケル浴は、例えば、スルファミン酸ニッケルを400〜800g/L、ホウ酸を20〜50g/L(過飽和)をベースとして界面活性剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等の添加物を必要に応じて添加したものである。メッキ浴の浴温度は40〜60°Cが好適である。電鋳時の対極にはチタンケースに入れたニッケルボールを使用することが好ましい。
【0038】
(磁性層)
磁性層14は、金属盤1から最終的な形態のマスター基板12を切り取る前に、金属盤1の凹凸パターン上に形成される。また、その他の被覆層についても、金属盤1から最終的な形態のマスター基板12を切り取る前に形成する。
【0039】
磁性層14の形成は、磁性材料を真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の真空成膜手段、メッキ法、塗布法等により実施される。磁性層14の磁性材料としては、Co、Co合金(CoNi、CoPt、CoNiZr、CoNbTaZr等)、Fe、Fe合金(FeCo、FeCoNi、FeNiMo、FeAlSi、FeAl、FeTaN等)、NiおよびNi合金(NiFe等)を用いることができる。特にCoPt、FeCo、FeCoNiを好ましく使用することができる。磁性層14の厚みは50〜500nmの範囲が好ましく、100〜400nmの範囲が更に好ましい。
【0040】
なお、磁性層14の上に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、スパッターカーボン等の保護層を設けることが好ましく、保護層の上に更に潤滑層を設けても良い。この場合、保護層として厚さが3〜30nmのDLC膜と潤滑層とする構成が好ましい。また、磁性層と保護層との間に、Si等の密着強化層を設けるようにしても良い。潤滑層は、スレーブ媒体との接触過程で生じるずれを補正する際の、摩擦による傷の発生などの耐久性の劣化を改善する効果を有する。
【0041】
(エッチング保護膜)
エッチング保護膜2は、金属盤1を用いてマスターディスク10を製造する工程或いは金属盤1の切取り加工を行う工程中、金属盤1の表面に形成された凹凸パターンを破損やゴミの付着から保護するものである。エッチング保護膜2は、図1に示すように、例えば金属盤1に接着する部分の接着層3とエッチング保護膜に所望の強度または厚さを付与する支持層4とから構成することができる。エッチング保護膜2または接着層3の材料は、樹脂等から適宜選択することが好ましい。例えばエッチング保護膜2の材料はウレタン樹脂を用いることができる。エッチング保護膜2の成膜方法としては、空気中に材料を霧化するスプレー法、スピンコート法および既成のシート状のエッチング保護膜2を貼り付ける方法等を用いることができる。
【0042】
(フォトレジストの成膜)
フォトレジストの成膜は、特に限定されず、スピンコート、インクジェット、バーコートを用いて液状のレジストを塗布する方法、およびフィルム状のレジストシートを貼り付ける方法等により行うことができる。その際、変形リスクとなる外力を排除するため、より好ましくは液状のレジストを塗布する方法を選択することが好ましい。フィルム状のレジストシートを貼り付ける方法を選択するときは、レジストシートに細かいスジの発生が生じないようラミネート装置を使用することが好ましい。
【0043】
なお、磁性層14およびエッチング保護膜2を形成する工程とフォトレジスト5を成膜する工程とについては、どちらを先に実施しても構わない。
【0044】
(フォトレジストの露光及び現像)
フォトレジストの露光及び現像については、特に限定されず、通常行われる手法によって実施することができる。フォトレジストの露光は、設定された内周切取り領域21および外周切取り領域22に対応する部分のフォトレジストに対して行われる。その際、金属盤の変形リスクとなる外力を排除するための露光方式として、より好ましくは非接触露光方式を用いることが好ましい。例えば、プロキシミティ露光方式、プロジェクション露光方式およびレーザーによる直接描画方式などである。接触露光方式を選択するときは、露光ステージ、天板およびマスク等に付着する異物による金属盤の変形を抑制するため、露光ステージ等をハンドクリーナーやエタノール拭きによりクリーニングを行うことが好ましい。さらに、カバーマスク露光を省くこと、および露光直前まで保護シートにより金属盤への異物の付着を抑制することが好ましい。
【0045】
また、天板は、例えばマイラー(帝人デュポンフィルム株式会社製)等、フィルム製の柔らかい天板を用いることが好ましい。これは、フィルム製の柔らかい天板を用いた場合にはアクリル性の硬い天板を用いた場合と比べ、金属盤上に異物があったときに異物へかかる圧力を分散し、異物咬みによる金属盤の変形への影響を若干ながら低減することが出来るためである。
【0046】
なお、フォトレジストの成膜及び露光を行うときに、金属盤1とフォトレジスト5の間や金属盤1上のフォトレジスト5とフォトマスクの間等に異物が挟まることによる変形を抑制するため、成膜及び露光直前まで必要に応じて保護シートを金属盤等に貼り付けることが好ましい。保護シートは、搬送中に剥がれず、糊残りなく剥離ができるものであればよい。
【0047】
(内周切取り領域および外周切取り領域)
図6は、第1の実施形態に関して、金属盤におけるモールド領域、内周切取り領域および外周切取り領域の位置関係およびそれらの形状、並びに、被覆層を形成する際に保持する位置を示す概念図である。モールド領域20とは、最終的にマスター基板12となるように設定された金属盤1の領域を意味する。また、内周切取り領域21および外周切取り領域22は、図6に示すように、金属盤1からマスター基板12を切り取るためエッチングされるように設定された金属盤1の領域である。或いは、内周切取り領域21および外周切取り領域22とは、モールド領域20とその他の非モールド領域23および25との境界に沿って、当該その他の非モールド領域23および25内において所定の幅を持って伸びた領域ということもできる。詳細には、マスターディスクが図3のような円環状である場合には、例えば図1および図6中の内周切取り領域21は、モールド領域20(マスターディスク)の円環状を規定する内周円30に内側から接する円環状の領域であり、当該内周円30からその内側に所定の幅を有している。一方、例えば図1および図6中の外周切取り領域22は、モールド領域20(マスターディスク)の円環状を規定する外周円31に外側から接する円環状の領域であり、当該外周円31からその外側に所定の幅を有している。この場合、内周切取り領域21の外径L1がモールド領域20の内径Ri(図3)と一致し、外周切取り領域22の内径L2がモールド領域20の外径Ro(図3)と一致することになる。なお、ここで、「一致」とは、概念的な意味であり、実際はエッチングの等方的な広がりにより、外径L1と内径Ri、および内径L2と外径Roは、わずかにずれる場合がある。しかし、実際にはこのようなわずかなずれも考慮された上で内周切取り領域21および外周切取り領域22が設定されるため、このようなわずかなずれは、本発明の課題を解決する上で本質的な問題ではない。また、モールド領域20の円環状並びに内周切取り領域21および外周切取り領域22の円環状は同心となる。内周切取り領域21は非モールド内周領域23の全体であってよく、外周切取り領域22は非モールド外周領域25の全体であってよい。
【0048】
内周切取り領域21および外周切取り領域22に対応する部分のフォトレジストを当該部分だけ除去し(図1b)、当該内周切取り領域21および外周切取り領域22の金属盤1をエッチングすることにより(図1c)、金属盤1からマスターディスク10が切り取られる。切取り領域の位置、形状および幅(環状のリング部分の幅)は、製造するマスターディスクのサイズおよび形状並びにエッチング条件等により適宜設定される。例えば、2.5インチの磁気記録媒体に磁気転写を行うためのマスターディスクを製造する場合には、内周切取り領域21の外径L1は約24mmと設定され、外周切取り領域22の内径L2は約65mmと設定される。また、これら切取り領域の幅は、0.5〜10mmであることが好ましい。当該幅の下限値は、露光・現像プロセスの不安定性(マージン不足)によるレジスト非除去部(ブリッジ)の発生を抑制する観点から決まり、当該幅の上限値は、エッチング後のエッチング保護膜の接着面の露出面積が多い場合、機械的強度不足によるエッチング保護膜の剥離が発生することがあり、これを防止する観点から決まる。
【0049】
エッチングにより金属盤1からマスターディスク10を切り取ることにより、マスターディスク10に与える外力を低減することができて、製造時或いは加工時に発生しやすい変形を抑えることができる。
【0050】
さらに、本実施形態の場合には、金属盤1のフォトレジストを形成した面と反対側の面上に磁性層14が形成されている。したがって、エッチング条件を上手く設定すれば、この磁性層14がエッチストップ層として機能するため(図1c)、エッチング保護膜2の接着側の面が露出するまでエッチングが進行してしまうことを防止することができる。「エッチストップ層として機能する」とは、エッチングガスまたはエッチング液に対して耐性を有することにより、金属盤1よりもエッチングされにくいことまたは全くエッチングされないことを意味する。このような場合、エッチング保護膜2の接着側の露出した面にエッチング液が浸透し、金属盤1または磁性層14がエッチング液によって汚染されることを防止することができる。このことは、一般に被覆層が形成されている場合に同様のことが言える。被覆層が複数の層から構成される場合には、必ずしも磁性層14がエッチストップ層として機能する必要はなく、他の層がエッチストップ層として機能すれば充分である。なお、内周切取り領域21および外周切取り領域22に残った被覆層は、エッチング保護膜2の剥離時に一緒に除去されるため、エッチング時に被覆層が残ることはマスターディスク10を製造する上で特に支障はない。
【0051】
(エッチング)
エッチングは、ドライエッチングでもウェットエッチングでもよいが、加工時間低減の観点から、ウェットエッチングが好ましい。さらに、ウェットエッチングの場合にはエッチングが等方的に進みやすいため、エッチング液に指向性を付与したスプレー式のウェットエッチングであることが好ましい。エッチング条件は、エッチング対象である金属盤1の材質等に基づいて適宜設定される。例えば、金属盤1がNi電鋳物である場合には、ウェットエッチングは、エッチング溶液として塩化鉄(III)溶液を用いることが好ましい。また、磁性層14等の被覆層をエッチストップ層と有効に機能させるために、エッチングの実施条件は、被覆層についてのエッチング速度が金属盤1についてのエッチング速度よりも遅くなるように設定されることが好ましい。例えば、被覆層を構成する材料と金属盤1を構成する材料とに基づいて、エッチング液の種類や温度、エッチング時間が適宜設定される。
【0052】
また、金属盤の切取り加工を行う工程および金属盤の搬送中には、金属盤の折れ等の変形が生じないよう保護し、ハンドリングを容易にするため、外枠治具および連結シートを使用することが好ましい。具体的には、金属盤の外周形状より1〜2mm大きい内形状を有する外枠治具内に、磁性層や前述した保護層が形成された金属盤が填め込まれ、外枠治具と連結シート等によりこれらが連結するため、保護及びハンドリングが容易となる。金属盤の外形状より1mm未満の外形状を有する外枠治具の場合、外枠治具の取り外し時に、連結シートのみの切断が難しくなること及び基板を填め込むことが出来なくなる場合がある。金属盤の外形状より2mm以上大きい内形状を有する外枠治具の場合、連結シート部に生じる緩みをきっかけにエッチング液の染み込みが発生する懸念がある。連結シートは、現像液、エッチング液および剥離液等に耐性のあるもの、並びに、UVや熱等に反応し粘着力を変えられるものを用いるのが好ましい。
【0053】
以上のように、本実施形態に係るマスターモールドの製造方法は、表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有する金属盤を用意し、非モールド外周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、金属盤の他方の面上に、モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行っている。これにより、金属盤からマスター基板を切り取る際に、従来行われている打ち抜き加工に比べて、マスター基板に与える物理的な外力を低減することができるため、金属盤からマスター基板を切り取る際に発生しやすい変形を抑えることができる。この結果、マスター基板の反りや歪みを低減し、平坦性の高いマスターモールドの製造が可能となる。
【0054】
さらに、本実施形態では、金属盤から最終形態のマスター基板12を切り取るためのエッチングを実施する前に金属盤上に磁性層等の被覆層を形成していることに起因して以下の2つの利点がある。
【0055】
1つは、被覆層の形成工程において、少なくとも保持具により保持される部分について、非モールド領域(非モールド外周領域および非モールド内周領域)を残しておくことが可能となった点である。磁性層等の被覆層の形成工程が終わってから、非モールド領域をエッチングにより除去することにより、マスター基板12に物理的な外力が働くことを低減し、金属盤1からマスター基板12を切り取ることが可能となる。この結果、マスターディスクの平坦性がより確保される。
【0056】
もう1つは、被覆層がエッチストップ層として機能し、エッチング保護膜の接着側の面が露出するまでエッチングが進行してしまうことを防止することができる点である。これにより、金属盤または被覆層がエッチング液によって汚染されることを防止することができる。
【0057】
上記2つの利点は、本願出願時に未公開の特願2010−203961の特許出願に係る発明にはないものである。
【0058】
<第1の実施形態の設計変更>
第1の実施形態では、フォトエッチングの際に内周切取り領域21および外周切取り領域22の両方を設定した場合について説明したが、これに限られるものではない。つまり、用途に応じてマスター基板12を環状にする必要がなければ、外周切取り領域22のみを設定してモールド領域の外周のみをエッチングによって除去するようにしてもよい。また、外周をフォトエッチングで切り取り、内周を他の方法により切り取るようにしてもよい。
【0059】
「マスターモールドの製造方法の第2の実施形態」
次に、本発明のマスターモールドの製造方法の第2の実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、磁性層を形成する際に金属盤の非モールド内周領域を保持する点で第1の実施形態の製造方法と異なる。したがって、第1の実施形態の製造方法と同様な構成要素については同じ符号を付し、その詳細な説明は特に必要がない限り省略する。
【0060】
本実施形態のマスターディスクの製造方法は、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の内周に内側から接する円環状の非モールド内周領域を有する金属盤を用意し、非モールド内周領域を保持しながら、上記一方の面上に磁性層を形成し、磁性層が形成された金属盤の上記一方の面上にエッチング保護膜を設け、金属盤の他方の面上にフォトレジストを設け、金属盤の内周切取り領域および外周切取り領域に対応する部分のフォトレジストを電子線により露光し、露光した部分のフォトレジストを現像により除去し、残ったフォトレジストをマスクとしてウェットエッチングにより、内周切取り領域および外周切取り領域の金属盤をエッチングし、その後、フォトレジストをすべて除去し、エッチング保護膜を剥離するものである。
【0061】
(磁性層)
本実施形態においても、磁性層は、金属盤1から最終的な形態のマスター基板を切り取る前に、金属盤1の凹凸パターン上に形成される。また、その他の被覆層についても、金属盤1から最終的な形態のマスター基板を切り取る前に形成することが好ましい。
【0062】
図7は、第2の実施形態に関して、金属盤におけるモールド領域、内周切取り領域および外周切取り領域の位置関係およびそれらの形状、並びに、被覆層を形成する際に保持する位置を示す概念図である。本実施形態では、非モールド内周領域が円環状となっており、当該円環状の部分から挿入された保持具36が金蔵板1を保持する。そして、その状態で被覆層が形成される。被覆層(磁性層)の材料、形成方法等は第1の実施形態と同様である。
【0063】
磁性層を形成した後、エッチングまでの工程についても第1の実施形態と同様である。
【0064】
以上のように、本実施形態に係るマスターモールドの製造方法は、表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、この金属盤のモールド領域の内周に内側から接する環状の非モールド内周領域を有する金属盤を用意し、非モールド内周領域を保持しながら、上記一方の面上に被覆層を形成し、金属盤の他方の面上に、モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域を露出させかつモールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、フォトレジストをマスクとして金属盤のエッチングを行っている。これにより、金属盤からマスター基板を切り取る際に、従来行われている打ち抜き加工に比べて、マスター基板に与える物理的な外力を低減することができるため、金属盤からマスター基板を切り取る際に発生しやすい変形を抑えることができる。この結果、マスター基板の反りや歪みを低減し、平坦性の高いマスターモールドの製造が可能となる。
【0065】
さらに、本実施形態でも、金属盤から最終形態のマスター基板12を切り取るためのエッチングを実施する前に金属盤上に磁性層等の被覆層を形成していることに起因して、第1の実施形態の場合と同様の理由により前述した2つの利点がある。
【0066】
<第2の実施形態の設計変更>
第2の実施形態では、フォトエッチングの際に内周切取り領域および外周切取り領域の両方を設定した場合について説明したが、これに限られるものではない。つまり、内周をフォトエッチングで切り取り、外周を他の方法により切り取るようにしてもよい。
【0067】
「実施例」
マスターディスクを次のように製造した。まず、内径約24mmおよび外径約65mmの円環状のモールド領域の一方の面に凹凸パターンが形成されたSiウェハのパターン側表面を熱処理し、その後Siウェハ上に厚さ9nmのNi導電層をスパッタリング法により形成した。そして、Ni導電層を有するSiウェハ上に、Ni電鋳を施して厚さ150μmのNi金属盤を形成した後、このNi金属盤をSiウェハから剥離した。このようにして、凹凸パターンを一方の面に有するNi金属盤であって、このNi金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域およびモールド領域の内周に内側から接する非モールド内周領域を有するNi金属盤を用意した。
【0068】
次に、上記で形成したNi金属盤に対して、モールド領域と同心でかつ直径100mmの領域に対して、打ち抜きによる一次的な切取り加工を実施した。その後、ハンドリングしやすくするためにNi金属盤を外枠治具に填め込み、連結シート(厚さ150μm)でNi金属盤および外枠治具を連結した。
【0069】
次に、非モールド外周領域を保持具で保持しながら、上記一方の面上にTaからなる第1の下地層(厚さ3nm)、Ptからなる第2の下地層(厚さ3nm)、Ruからなる第3の下地層(厚さ12nm)、CoPtからなる第1の磁性層(厚さ9nm)、Coからなる第2の磁性層(厚さ15nm)、Ptからなる保護層(厚さ2.5nm)をこの順にスパッタリング法により成膜して、被覆層を形成した。そして、被覆層が形成されたNi金属盤の上記一方の面上にウレタン樹脂からなるエッチング保護膜(厚さ150μm)をスピンコート法により設けた。
【0070】
次に、Ni金属盤の他方の面上にラミネート装置を用いてレジストシート(厚さ40μm)を貼り付け、Ni金属盤の内周切取り領域および外周切取り領域に対応する部分のレジストシートのみを電子線により露光した。そして、露光した部分のレジストシートをスプレー現像により除去した。そして、塩化鉄(III)と塩酸との混合溶液からなるエッチング液を使用して、残ったレジストシートをマスクとしてスプレーエッチングにより、内周切取り領域および外周切取り領域のNi金属盤をエッチングした。その後、レジストシートをすべて除去し、エッチング保護膜を剥離した。以上の工程により、図3に示されるようなマスターディスクが製造された。
【0071】
そして、このマスターディスクについて、マスターディスクの端部の断面プロファイルを測定した。測定は、接触式表面段差測定計(ケーエルエー・テンコール株式会社製)で行った。測定の結果、図8に示されるようにマスターディスクに変形はなかった。また、光学顕微鏡でマスターディスクの端部を観察した結果、エッチング液の染み込みも発生していなかった。
【0072】
「比較例1」
比較例1のマスターディスクを次のように製造した。まず、内径約24mmおよび外径約65mmの円環状のモールド領域に凹凸パターンが形成されたSiウェハのパターン側表面を熱処理し、その後Siウェハ上に厚さ9nmのNi導電層をスパッタリング法により形成した。そして、Ni導電層を有するSiウェハ上に、Ni電鋳を施して厚さ150μmのNi金属盤を形成した後、このNi金属盤をSiウェハから剥離した。このようにして、凹凸パターンを一方の面に有するNi金属盤であって、このNi金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域およびモールド領域の内周に内側から接する非モールド内周領域を有するNi金属盤を用意した。つまり、以上の工程は実施例と同じである。
【0073】
そして、内径約24mmおよび外径約65mmの円環状のモールド領域(つまりマスター基板)を、フォトエッチングではなく、打ち抜きで上記Ni金属盤から切り取った。
【0074】
そして、実施例と同様の測定を実施した。測定の結果、マスターディスク全体に変形が生じた。
【0075】
「比較例2」
比較例2のマスターディスクを次のように製造した。まず、一次的な切取り加工を実施する工程までは、実施例と同様に実施した。
【0076】
そして、Ni金属盤の上記一方の面上にウレタン樹脂からなるエッチング保護膜(厚さ150μm)をスピンコート法により設け、Ni金属盤の他方の面上にラミネート装置を用いてレジストシート(厚さ40μm)を貼り付けた。その後、Ni金属盤の内周切取り領域および外周切取り領域に対応する部分のレジストシートのみを電子線により露光した。そして、露光した部分のレジストシートをスプレー現像により除去した。そして、塩化鉄(III)と塩酸との混合溶液からなるエッチング液を使用して、残ったレジストシートをマスクとしてスプレーエッチングにより、内周切取り領域および外周切取り領域のNi金属盤をエッチングした。その後、レジストシートをすべて除去し、エッチング保護膜を剥離した。上記の工程によりマスター基板を得た。
【0077】
次に、マスター基板の外周を保持具で保持しながら、上記一方の面上にTaからなる第1の下地層(厚さ3nm)、Ptからなる第2の下地層(厚さ3nm)、Ruからなる第3の下地層(厚さ12nm)、CoPtからなる第1の磁性層(厚さ9nm)、Coからなる第2の磁性層(厚さ15nm)、Ptからなる保護層(厚さ2.5nm)をこの順にスパッタリング法により成膜して、被覆層を形成した。
【0078】
そして、実施例と同様の測定を実施した。測定の結果、図9に示されるように、保持具で保持したマスターディスクの端部に最大7μmの塑性変形が生じた。また、光学顕微鏡でマスターディスクの端部を観察した結果、エッチング液の染み込みがエッチング保護膜の接着面を伝って発生していた部分もあり、場所によっては染み込みが凹凸パターンのある領域にまで到達している部分もあった。
【0079】
「評価」
上記の実施例、比較例1および比較例2から、本発明によれば、金属盤からマスター基板を切り取る際に、従来行われている打ち抜き加工に比べて、マスター基板に与える物理的な外力を低減することができるため、金属盤からマスター基板を切り取る際に発生しやすい変形を抑えることができることが立証された。また、エッチング液の染み込みの問題も防止することができることが分かった。
【符号の説明】
【0080】
1 金属盤
2 エッチング保護膜
3 接着層
4 支持層
5 フォトレジスト
10 マスターディスク
12 マスター基板
14 磁性層
16 中心孔
17a マスターディスクの内周部
17b マスターディスクの外周部
18 マスターディスクの円環状領域(データ記録領域)
20 モールド領域
21 内周切取り領域
22 外周切取り領域
23 非モールド内周領域
25 非モールド外周領域
30 モールド領域の内周円
31 モールド領域の外周円
L1 内周切取り領域の外径
L2 外周切取り領域の内径
Ri マスターディスクの内径
Ro マスターディスクの外径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、
前記凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、該金属盤のモールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有する前記金属盤を用意し、
前記非モールド外周領域を保持しながら、前記一方の面上に被覆層を形成し、
前記金属盤の他方の面上に、前記モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域を露出させかつ前記モールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、
前記フォトレジストをマスクとして前記金属盤のエッチングを行い、
前記フォトレジストを除去することを特徴とするマスターモールドの製造方法。
【請求項2】
前記金属盤が、前記モールド領域の内周に内側から接する非モールド内周領域を有するものであり、
前記フォトレジストが、前記モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域をさらに露出させるものであることを特徴とする請求項1に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項3】
前記エッチングの実施条件が、前記被覆層についてのエッチング速度が前記金属盤についてのエッチング速度よりも遅くなるように設定されたものであることを特徴とする請求項1または2に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項4】
前記エッチングがウェットエッチングであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項5】
前記ウェットエッチングがエッチング溶液として塩化鉄(III)溶液を用いるものであることを特徴とする請求項4に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項6】
前記被覆層が、磁性材料からなる磁性層であることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項7】
前記被覆層を形成した後前記エッチングを行う前に前記被覆層が形成された前記一方の面上にエッチング保護膜を設け、
前記エッチングを行った後に前記エッチング保護膜を剥離することを特徴とする請求項1から6いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項8】
表面に転写情報に対応する凹凸パターンを有するマスターモールドの製造方法において、
前記凹凸パターンを一方の面に有する金属盤であって、該金属盤のモールド領域の内周に内側から接する環状の非モールド内周領域を有する前記金属盤を用意し、
前記非モールド内周領域を保持しながら、前記一方の面上に被覆層を形成し、
前記金属盤の他方の面上に、前記モールド領域の内周に内側から接する内周切取り領域を露出させかつ前記モールド領域全体を被覆するフォトレジストを設け、
前記フォトレジストをマスクとして前記金属盤のエッチングを行い、
前記フォトレジストを除去することを特徴とするマスターモールドの製造方法。
【請求項9】
前記金属盤が、前記モールド領域の外周に外側から接する非モールド外周領域を有するものであり、
前記フォトレジストが、前記モールド領域の外周に外側から接する外周切取り領域をさらに露出させるものであることを特徴とする請求項8に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項10】
前記エッチングの実施条件が、前記被覆層についてのエッチング速度が前記金属盤についてのエッチング速度よりも遅くなるように設定されたものであることを特徴とする請求項8または9に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項11】
前記エッチングがウェットエッチングであることを特徴とする請求項8から10いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項12】
前記ウェットエッチングが、エッチング溶液として塩化鉄(III)溶液を用いるものであることを特徴とする請求項11に記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項13】
前記被覆層が、磁性材料からなる磁性層であることを特徴とする請求項8から12いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。
【請求項14】
前記被覆層を形成した後前記エッチングを行う前に前記被覆層が形成された前記一方の面上にエッチング保護膜を設け、
前記エッチングを行った後に前記エッチング保護膜を剥離することを特徴とする請求項8から13いずれかに記載のマスターモールドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−30258(P2013−30258A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167371(P2011−167371)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)