説明

マスター情報担体および磁気記録媒体の製造方法

【課題】磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれ、繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数が十分に多い耐久性に優れたマスター情報担体を提供する。
【解決手段】磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれた磁性層101と、最表面に配置された親水性樹脂からなる防汚層103とを備えるマスター情報担体Mとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーボ信号等の磁気記録媒体に磁気転写する情報信号の書き込まれたマスター情報担体および、このマスター情報担体を用いて磁気記録媒体に情報信号の磁気転写を行う磁気記録媒体の製造方法に関し、特に、繰り返し磁気転写に使用できる回数の多いマスター情報担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、磁気記録再生装置の一種であるハードディスク装置(ハードディスクドライブ)においては、記録密度が年1.5倍以上増えており、今後もその増加傾向が続くと言われている。ハードディスク装置の記録密度の増大に伴って、高記録密度化に適した磁気ヘッド及び磁気記録媒体の開発が進められている。最新の磁気記録媒体においては、トラック密度は320kTPIにも達している。
【0003】
高いトラック密度を有する磁気記録媒体では、磁気ヘッドをトラック上で正確に走査するために、磁気ヘッドのトラッキングサーボ技術が重要な役割を果たしている。現在のハードディスクドライブには、ディスクの1周中、一定の角度間隔でトラッキング用のサーボ信号や、アドレス情報信号、再生クロック信号などのサーボ信号等の情報信号が記録されている。そして、磁気ヘッドから一定間隔の時間で再生されるこれらの情報信号によって、磁気ヘッドの位置を検出しながら、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するように磁気ヘッドの位置を修正する制御が行われている。
【0004】
上述したサーボ信号等は、磁気ヘッドが正確にトラック上を走査するための基準信号となる。このため、サーボ信号等の書き込みには高い位置決め精度が求められる。
従来のハードディスクドライブの製造現場では、高精度の位置検出装置を組み込んだサーボ信号記録装置(以下、サーボライタという。)を用いて、磁気記録媒体に対するサーボ信号の書き込みを行っている。サーボライタは、一般に、生産性を高めるために、一つのスピンドルに多数枚の磁気記録媒体をチャッキングして、多数枚の磁気記録媒体に対して同時にサーボ信号等を書き込む構造となっている。
【0005】
サーボライタを用いてサーボ信号を書き込む場合、磁気ヘッドを高精度に位置決めしながら多数のトラックに亘って信号を書き込むため、長い時間が必要であり、生産性が低いという課題がある。この課題を解決するためには、同時にサーボ信号を書き込む磁気記録媒体の枚数を多くすればよい。
しかしながら、同時にサーボ信号を書き込む磁気記録媒体の枚数を増やすためにサーボライタの数を増やすと、サーボライタの維持管理に多額のコストがかかる。また、サーボライタのスピンドルを長くして、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やすと、サーボ信号を書き込む際の磁気記録媒体にブレが生じ易くなり、磁気記録媒体に対するサーボ信号の書き込み精度が低下する。このため、1つのスピンドルにチャッキングできる磁気記録媒体の枚数に限界があり、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やすことは困難であった。
【0006】
さらに、上述したサーボライタの数を増やす場合の問題や、同時にチャッキングできる磁気記録媒体の枚数を増やす場合の問題は、磁気記録媒体のトラック密度が向上し、トラック数が多くなるほど深刻となる。
そこで、サーボライタを用いることなく、磁気記録媒体にサーボ信号等の書き込みを行う技術が提案されている。具体的には、サーボ信号等の情報信号の書き込まれたマスター情報担体と磁気記録媒体とを重ね合わせ、外部から転写用のエネルギーを与えることにより、マスター情報担体に書き込まれた情報信号を磁気記録媒体に磁気転写する技術が提案されている。
【0007】
例えば、特許文献1および特許文献2には、基体の表面に情報信号に対応する凹凸形状が形成されたマスター情報坦体表面を磁気記録媒体の表面に接触させることにより、マスター情報坦体表面の凹凸形状に対応する磁化パターンを磁気記録媒体に記録する技術が記載されている。
磁気記録媒体に磁気転写されるサーボ信号等の情報信号が書き込まれたマスター情報担体を用いて、磁気記録媒体に情報信号の磁気転写を行う場合、サーボライタを用いる場合と比較して、磁気記録媒体に対する情報信号の書き込み作業を短時間で行うことができる。
また、特許文献1には、磁気記録媒体の表面に存在する突起を除去する技術として、バーニッシュ処理が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−006169号公報
【特許文献2】特開平10−40544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気転写に用いられる情報信号の書き込まれたマスター情報担体は、非常に高価なものであるが、磁気記録媒体に情報信号を転写する際に繰り返し使用できるものである。このため、マスター情報担体の繰り返し磁気転写に使用できる回数(使用可能回数)をより多くして、磁気記録媒体の製造単価を低下させ、情報信号の書き込まれた磁気記録媒体の商業生産にマスター情報担体を適用できるようにすることが要求されている。
マスター情報担体の使用可能回数をより多くする方法としては、磁気転写を行う前に、磁気記録媒体の表面の突起物や埃等を除去しておくことにより、マスター情報担体の表面の摩耗を抑制する方法が考えられる。磁気記録媒体の表面の突起物や埃等を除去する方法としては、バーニッシュ処理や織布等を用いたワイピング処理、湿式洗浄などがある。
【0010】
しかしながら、磁気転写を行う前に、磁気記録媒体の表面の突起物や埃等を除去しても、マスター情報担体が摩耗によって破損に至る前に、転写パターンが不完全となる場合があった。このため、従来の技術では、マスター情報担体の使用可能回数を、商業生産に適用するのに十分な回数まで多くすることは困難であった。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みて提案されたものであり、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれ、繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数が十分に多い耐久性に優れたマスター情報担体を提供することを目的とする。
また、本発明は、使用可能回数が十分に多い本発明のマスター情報担体を用いて、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する工程を備える磁気記録媒体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、磁気記録媒体に繰り返し磁気転写を行うことによって、マスター情報担体の表面に少しずつ汚れが蓄積されて、磁気記録媒体に転写された転写パターンが不完全となる場合があることが分かった。
さらに、本発明者は、マスター情報担体の表面に蓄積された汚れの原因について検討を重ねた。その結果、汚れの主な原因は、磁気記録媒体の表面に塗布されている潤滑剤が、磁気記録媒体に磁気転写を行う度に、磁気記録媒体からマスター情報担体の表面に少しずつ転写されて蓄積されたものであることが分かった。
【0013】
磁気記録媒体の表面に塗布されている潤滑剤に起因するマスター情報担体の汚れの問題を解決するためには、磁気記録媒体の表面に潤滑剤を塗布する前に、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写すればよい。しかしながら、表面に潤滑剤を塗布する前の磁気記録媒体に情報信号を磁気転写したとしても、以下に示すように、繰り返し磁気転写に使用できるマスター情報担体の使用可能回数を多くすることは困難であった。
【0014】
すなわち、磁気記録媒体は、通常、基板上に磁性層と保護層と潤滑層とが順に積層された構造を有している。したがって、表面に潤滑剤を塗布して潤滑層を形成する前に、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する場合、情報信号の磁気転写される表面には、磁性層の損傷を防ぐために設けられた硬質炭素膜などからなる硬い保護層が露出されていることになる。このため、磁気記録媒体に情報信号を磁気転写する際に、磁気記録媒体の表面に露出されている保護層とマスター情報担体とが接触して、マスター情報担体の摩耗を促進させてしまう。したがって、表面に潤滑剤を塗布する前に磁気記録媒体に情報信号を磁気転写した場合、潤滑剤に起因するマスター情報担体の汚れの問題は解決できるが、表面に潤滑剤を塗布した後の磁気記録媒体に情報信号を磁気転写した場合と比較して、繰り返し磁気転写に使用できるマスター情報担体の使用可能回数を多くすることは困難であった。
【0015】
そこで、本発明者らは、表面に汚れが蓄積されにくいマスター情報担体とするべく、鋭意検討を行った。
その結果、マスター情報担体の最表面に親水性樹脂からなる防汚層を設ければよいことを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の手段を提供する。
【0016】
(1) 磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれた磁性層と、最表面に配置された親水性樹脂からなる防汚層とを備えることを特徴とするマスター情報担体。
(2) 前記親水性樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリジエチルアミノエチルアクリレート、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリグリセリルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリジアセトンアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ〔2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸(塩)〕およびこれらの部分架橋体であることを特徴とする(1)に記載のマスター情報担体。
(3) 前記磁性層と前記防汚層との間に、保護層を備えるものであることを特徴とする(1)または(2)に記載のマスター情報担体。
(4) 前記磁性層が、前記情報信号に対応する形状の凸部を備えるものであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のマスター情報担体。
【0017】
(5) 基板上に磁性層と保護層と潤滑層とを順に積層する工程と、前記磁性層に情報信号を書き込む情報信号書き込み工程とを備え、前記情報信号書き込み工程において、前記磁性層の形成された複数枚の前記基板の前記磁性層に対し、(1)〜(4)のいずれかに記載のマスター情報担体を用いて、繰り返し前記情報信号を磁気転写することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
(6) 前記情報信号書き込み工程において1枚以上の前記基板の前記磁性層に対して前記情報信号を磁気転写してから、次の前記基板の前記磁性層に対して前記情報信号を磁気転写するまでの間、または前記情報信号書き込み工程を行う前に、前記マスター情報担体を洗浄する工程を行うことを特徴とする(5)に記載の磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明のマスター情報担体は、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれた磁性層と、最表面に配置された親水性樹脂からなる防汚層とを備えるものであるので、表面に汚れが蓄積されにくいものとなる。したがって、情報信号が書き込まれる磁気記録媒体が、最表面に潤滑剤を塗布してなる潤滑層が形成されているものであったとしても、潤滑剤がマスター情報担体の最表面に転写されにくく、マスター情報担体に潤滑剤に起因する汚れが蓄積されにくい。よって、本発明のマスター情報担体は、繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数が十分に多く、耐久性に優れたものとなる。
【0019】
また、本発明の磁気記録媒体の製造方法は、本発明のマスター情報担体を用いて、磁性層の形成された複数枚の前記基板の前記磁性層に対し、繰り返し前記情報信号を磁気転写する方法であるので、1枚のマスター情報担体の使用可能回数が十分に多くなる。その結果、本発明の磁気記録媒体の製造方法によれば、磁気記録媒体の生産コストを大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、本発明のマスター情報担体の一例の一部を拡大して示した拡大断面図である。
【図2】図2は、本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体の一例を示す断面図である。
【図3】図3は、本発明の磁気記録媒体の製造方法において磁気記録媒体の磁性層に情報信号を書き込む工程を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明のマスター情報担体および磁気記録媒体の製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を模式的に示している場合があり、各部の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0022】
「マスター情報担体」
図1は、本発明のマスター情報担体の一例の一部を拡大して示した拡大断面図である。図1に示すマスター情報担体Mは、基材100と、基材100上に形成された磁性層101と、磁性層101上に形成された保護層102と、保護層102上に形成された防汚層103とを備えている。図1に示すように、防汚層103は、マスター情報担体Mの最表面に配置されている。
【0023】
基材100は、Ni、Ni合金、または樹脂などの精密加工、精密成形可能な金属などの材料からなるものであり、Niからなるものであることが好ましい。基材100は、図1に示すように、表面に基材凸部100aと基材凹部100bとを備えるものである。
また、基材100と磁性層101との間には、磁性層101を構成する磁性粒子を転写面に対して垂直に配向させるためRu膜などからなる下地層が設けられていてもよい。
【0024】
磁性層101は、図1に示すように、基材100の表面に形成された基材凸部100aおよび基材凹部100bの形状に沿って形成されている。このことにより、磁性層101は、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれたものとされている。基材100上に形成された磁性層101のうち、基材100の基材凸部100a上に形成された磁性層凸部101aは、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号に対応する形状のものであり、磁気記録媒体の磁気転写に用いられる。また、磁性層101のうち、基材100の基材凹部100b上に形成された磁性層凹部101bは、磁気記録媒体に磁気転写する際に磁気記録媒体と接触しない部分であり、磁気記録媒体の磁気転写には用いられない。
磁性層101としては、従来公知の材料を用いることができ、具体的には、後述する磁気記録媒体の磁性層に用いることのできる材料などを使用することができる。
【0025】
保護層102は、磁性層101と防汚層103との間に設けられている。保護層102は、マスター情報担体Mの磁性層101の腐食を防ぐとともに、マスター情報担体Mの耐摩耗性を高め、マスター情報担体Mの繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数を増やすためのものである。保護層102としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、数nm程度の厚さの硬質炭素膜などを用いることができる。
【0026】
本願発明の防汚層103は、親水性樹脂から構成する。親水性樹脂とは、その構造中にOH、NH、SOH等の親水基を有する樹脂である。磁気記録媒体の表面に形成される潤滑剤としては、一般的にはパーフルオロポリエーテル等のフッ素系の潤滑剤が用いられる。フッ素系の潤滑剤は、親水性樹脂の表面に対して接触角が高い特性を有する。このため、情報信号が書き込まれる磁気記録媒体の表面に形成された潤滑層と、親水性樹脂からなる防汚層103とが接触しても、潤滑剤が防汚層103に転写されにくく、マスター情報担体Mに潤滑剤に起因する汚れが蓄積されることが防止される。
【0027】
防汚層103に用いられる親水性樹脂としては、親水性を有する合成高分子、天然高分子、半合成高分子等が挙げられ、これらの何れであってもよい。
合成高分子としては、親水性であれば特に制限はないが、カルボン酸(塩)含有ポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリ(メタ)アクリルアミド、スルホン酸(塩)含有ポリマーおよび、これらの部分架橋体等が挙げられる。特にカルボキシル基またはその塩を有する化合物が好ましく挙げられ、具体的には下記する化合物等が例示できる。
【0028】
ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリイタコン酸(塩)、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリジエチルアミノエチルアクリレート、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリグリセリルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリジアセトンアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ〔2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸(塩)〕およびこれらの部分架橋体等。このうちポリアクリル酸(塩)およびその部分架橋体が好ましい。
【0029】
また、この他、例えばポリピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアルコールのような水溶性高分子も使用可能である。
合成高分子は1種または2種以上の混合物として使用することができる。また、上述した合成高分子からなるポリマーユニットの2種以上の共重合体あるいは上述した合成高分子からなるポリマーユニット1種以上とその他の非水溶性ポリマーユニットを含有してなる親水性共重合体(交互、ブロック、ランダム、グラフト)も用いることができる。
【0030】
天然高分子としては、特に制限はないが、アルギン酸(塩)、カラギナン、ファーセルラン、寒天、ペクチン(塩)、アミロース、アミロペクチン、パストラン、フルクタン、ラーチガム、ローカストビーンガム、グアシードガム、サイリュウムシードガム、キンスシードガム、タマリンドシードガム、コーンスターチ、セルロース、ゼラチン、ケラチン、コラーゲン、ニカワ、カゼイン、アルブミン、グロブリン、グルテン、グルテリン、グリアジン、キチン、キトサン、デキストラン、ザンタンガム、ヒアルロン酸(塩)、グリコーゲン、ヘパリン、コンドロイチン酸(塩)、コンドロイチン硫酸(塩)、レバン、ガラクトカロロース、マンノカロロース、ルグロース、カプレオラン、ルテイン酸(塩)、スクレロチオース、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)等を例示することができる。また、上記天然高分子としては、多糖類が好ましく、該多糖類としては、上述したペクチン(塩)、ヒアルロン酸(塩)、コンドロイチン酸(塩)、コンドロイチン硫酸(塩)及びアルギン酸(塩)が挙げられる。
【0031】
半合成高分子としては、特に制限はないが、アルギン酸プロピレングリコール(塩)、メトキシペクチン、カルボキシメチル化澱粉(塩)、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロース(塩)、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロースおよび上記天然高分子の部分架橋体等が挙げられる。
【0032】
防汚層103に用いられる親水性樹脂としては、上記の親水性樹脂の中でも特に、薄膜形成が容易で耐摩耗性の良好なポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリジエチルアミノエチルアクリレート、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリグリセリルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリジアセトンアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ〔2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸(塩)〕およびこれらの部分架橋体を用いるのが好ましい。
【0033】
防汚層103に用いられる親水性樹脂として、上記のものを用いることで、防汚層103の潤滑層を反発する性質がより優れたものとなり、表面に汚れが蓄積されにくく、より一層優れた防汚効果を有するものとなる。
【0034】
図1に示すマスター情報担体を製造するには、まず、マスター情報担体Mを作製するための原盤を形成する。
原盤は、公知の方法によって製造できる。例えば、シリコンウェハの表面にスピンコート法によりレジストを塗布した後、電子線露光装置を用いてレジストに電子ビームを照射し、レジストの露光・現像を行う。その後、レジストの未露光部分を除去することによって、シリコンウェハ上に、磁気記録媒体に磁気転写される情報信号に対応したレジストパターンを形成する。
【0035】
次に、このレジストパターンをマスクにして、シリコンウェハに対して反応性エッチング処理を行い、レジストパターンでマスクされていない箇所を掘り下げる。その後、シリコンウェハ上に残存するレジストを溶剤で除去し、シリコンウェハを乾燥させることによって、マスター情報担体Mを作製するための原盤とする。
【0036】
次に、この原盤上に、スパッタ法などによりNiからなる導電層を10nm程度の厚みで形成する。続いて、導電層の形成された原盤を母型として用い、電鋳法により原盤上に数ミクロン厚のNi層を形成する。その後、原盤からNi層を外し、洗浄等を行うことにより、図1に示すように、表面に基材凸部100aと基材凹部100bとを備えるNiからなる基材100とする。
【0037】
次に、図1に示すように、基材100上に、スパッタ法など公知の方法を用いて、基材100の表面に形成された基材凸部100aおよび基材凹部100bの形状に沿って磁性層101を形成する。
続いて、磁性層101上に、CVD法など公知の方法を用いて保護層102を形成する。
その後、保護層102上に、スピンコート法などを用いて親水性樹脂を塗布して硬化させる方法などによって防汚層103を形成する。
以上の工程を経ることによって、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号の書き込まれたマスター情報担体Mが得られる。
【0038】
本実施形態のマスター情報担体Mは、磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれた磁性層101と、最表面に配置された防汚層103とを備えるものであるので、表面に汚れが蓄積されにくいものとなる。したがって、情報信号の書き込まれる磁気記録媒体が、最表面に潤滑剤を塗布してなる潤滑層が形成されているものであったとしても、潤滑剤がマスター情報担体Mの最表面に転写されにくく、マスター情報担体Mの潤滑剤に起因する汚れが蓄積されにくい。よって、本実施形態のマスター情報担体Mは、繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数が十分に多く、耐久性に優れたものとなる。
【0039】
「磁気記録媒体」
図2は、本発明の磁気記録媒体の製造方法を用いて製造された磁気記録媒体の一例を示す断面図である。図2に示す磁気記録媒体Wは、非磁性基板31上に、軟磁性下地層32と、配向制御層33と、垂直磁性層34と、保護層35と、潤滑層36とが順次積層されたものである。磁気記録媒体Wの垂直磁性層34には、サーボ信号等に対応した磁化パターンからなる情報信号が磁気転写により書き込まれている。
【0040】
非磁性基板31としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属材料からなる金属基板や、ガラス、セラミック、シリコン、シリコンカーバイド、カーボンなどの非金属材料からなる非金属基板などを用いることができる。また、非磁性基板31としては、金属基板や非金属基板の表面に、例えばメッキ法やスパッタ法などを用いて、NiP層やNiP合金層などが形成されたものを用いることもできる。
【0041】
非磁性基板31として用いられるガラス基板としては、例えば、アモルファスガラスや結晶化ガラスなどを用いることができる。アモルファスガラスとしては、例えば、汎用のソーダライムガラスや、アルミノシリケートガラスなどを用いることができる。また、結晶化ガラスとしては、例えば、リチウム系結晶化ガラスなどを用いることができる。
非磁性基板31として用いられるセラミック基板としては、例えば、汎用の酸化アルミニウムや、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体、又はこれらの繊維強化物などを用いることができる。
【0042】
非磁性基板31は、平均表面粗さ(Ra)が1nm(10Å)以下、好ましくは0.5nm以下であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。また、端面のチャンファー部の面取り部と側面部との少なくとも一方の表面平均粗さ(Ra)が10nm以下、より好ましくは9.5nm以下のものを用いることが、磁気ヘッドの飛行安定性にとって好ましい。
また、非磁性基板31は、表面の微小うねり(Wa)が0.3nm以下、より好ましくは0.25nm以下であることが、磁気ヘッドを低浮上させた高記録密度記録に適している点から好ましい。なお、微少うねり(Wa)は、例えば、表面荒粗さ測定装置P−12(KLM−Tencor社製)を用い、測定範囲80μmでの表面平均粗さとして測定することができる。
【0043】
また、非磁性基板31と軟磁性下地層32の間には、密着層を設けることが好ましい。非磁性基板31は、Co又はFeが主成分となる軟磁性下地層32と接することで、表面の吸着ガスや水分の影響、基板成分の拡散などにより、腐食が進行する可能性がある。非磁性基板31と軟磁性下地層32の間に密着層を設けることにより、非磁性基板31の腐食を抑制できる。密着層の材料としては、例えば、Cr、Cr合金、Ti、Ti合金などを適宜選択できる。また、密着層の厚みは特に限定されないが、非磁性基板31の腐食を効果的に抑制するために、2nm(20Å)以上であることが好ましい。
【0044】
軟磁性下地層32は、図2に示すように、スペーサ層32bにより反強磁性結合させた2層の軟磁性層32aを含むものであことが好ましい。
軟磁性層32aとしては、Fe:Coを40:60〜70:30(原子比)の範囲で含む材料を用いることが好ましい。また、軟磁性層32aは、透磁率および耐食性を高めるために、Ta、Nb、Zr、Crの中から選ばれる何れか1種を1〜8原子%の範囲で含有するものであることが好ましい。
スペーサ層32bとしては、Ru、Re、Cu等を用いることができるが、中でも特にRuを用いることが好ましい。
【0045】
配向制御層33は、垂直磁性層34の結晶粒を微細化して、記録再生特性を改善するものである。配向制御層33としては、特に限定されるものではないが、hcp構造、fcc構造、アモルファス構造を有する材料を用いることが好ましい。特に、配向制御層33として、Ru系合金、Ni系合金、Co系合金、Pt系合金、Cu系合金からなるものを用いることが好ましい。また、配向制御層33は、これらの合金を多層化してなるものであってもよく、例えば、基板側からNi系合金とRu系合金とを積層した多層構造や、Co系合金とRu系合金とを積層した多層構造、Pt系合金とRu系合金とを積層した多層構造などを採用することが好ましい。
【0046】
本実施形態の磁気記録媒体Wにおいては、図2に示すように、配向制御層33と垂直磁性層34との間に非磁性下地層38が設けられている。配向制御層33直上に垂直磁性層34が配置されている場合、配向制御層33直上の垂直磁性層34にノイズの原因となる結晶成長の乱れが生じやすい。本実施形態においては、配向制御層33と垂直磁性層34との間に非磁性下地層38が設けられているので、配向制御層33の直上の結晶成長の乱れが生じやすい部分が、垂直磁性層34から非磁性下地層38に置き換えられたものとなり、垂直磁性層34の結晶成長の乱れに起因するノイズの発生を抑制できる。
【0047】
非磁性下地層38としては、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料からなるものを用いることが好ましい。Crの含有量は、25原子%以上、50原子%以下とすることが好ましい。非磁性下地層38に含まれる酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、中でも特に、TiO、Cr、SiOなどを用いることが好ましい。非磁性下地層38に含まれる酸化物の含有量としては、例えばCo、Cr、Pt等の合金を1つの化合物として算出したmol総量に対して、3mol%以上、18mol%以下とすることが好ましい。
なお、図2に示すように、配向制御層33と垂直磁性層34の間に非磁性下地層38が設けられていることが好ましいが、設けられていなくてもよい。
【0048】
本実施形態の磁気記録媒体Wにおいて、垂直磁性層34は、下層の磁性層34aと、中層の磁性層34bと、上層の磁性層34cの3層を含み、磁性層34aと磁性層34bの間に非磁性層37aが挟み込まれ、磁性層34bと磁性層34cの間に非磁性層37bが挟み込まれることにより、磁性層34a〜34cと非磁性層37a,37bとが交互に積層された構造を有している。
【0049】
磁性層34a,34bは、グラニュラー構造のものであることが好ましく、Coを主成分とし、更に酸化物を含んだ材料を用いることが好ましい。磁性層34a,34bに含まれる酸化物としては、例えばCr、Si、Ta、Al、Ti、Mg、Coなどの酸化物を用いることが好ましく、中でも特に、TiO、Cr、SiOなどが好適に用いられる。
また、下層の磁性層34aは、酸化物を2種類以上添加した複合酸化物を含むものであることが好ましい。中でも特に、Cr−SiO、Cr−TiO、Cr−SiO−TiOなどを好適に用いることができる。
【0050】
磁性層34a,34bに適した材料としては、例えば、90(Co14Cr18Pt)−10(SiO){Cr含有量14原子%、Pt含有量18原子%、残部Coからなる磁性粒子を1つの化合物として算出したモル濃度が90mol%、SiOからなる酸化物組成が10mol%}、92(Co10Cr16Pt)−8(SiO)、94(Co8Cr14Pt4Nb)−6(Cr)の他、(CoCrPt)−(Ta)、(CoCrPt)−(Cr)−(TiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)、(CoCrPt)−(Cr)−(SiO)−(TiO)、(CoCrPtMo)−(TiO)、(CoCrPtW)−(TiO)、(CoCrPtB)−(Al)、(CoCrPtTaNd)−(MgO)、(CoCrPtBCu)−(Y)、(CoCrPtRu)−(SiO)などの基本組成を挙げることができる。
【0051】
また、上層の磁性層34cは、酸化物を含まない磁性層とすることが好ましい。上層の磁性層34cに適した材料としては、具体的には、上述した磁性層34a,34bに適した材料から酸化物を除いた材料などが挙げられる。
【0052】
なお、垂直磁性層34は、4層以上の磁性層で構成してもよい。例えば、グラニュラー構造の磁性層を上記磁性層34a,34bに1層加えて3層で構成し、その上に、酸化物を含まない磁性層34cを設けた4層構造の垂直磁性層としてもよいし、グラニュラー構造の磁性層34a,34bの上に、酸化物を含まない磁性層34cを2層構造として設けた4層構造の垂直磁性層34としてもよい。
【0053】
また、垂直磁性層34を構成する3層以上の磁性層間には、非磁性層37a、37bが設けられていることが好ましい。非磁性層37a、37bを適度な厚みで設けることで、個々の膜の磁化反転が容易になり、磁性粒子全体の磁化反転の分散を小さくすることができる。その結果S/N比をより向上させることが可能である。非磁性層37a、37bには、従来公知の材料を用いることができ、例えばRu、Re、Pd、Cuなどを用いることが可能である。
【0054】
保護層35は、垂直磁性層34の腐食を防ぐと共に、磁気ヘッドが磁気記録媒体Wに接触したときの表面の損傷を防ぐためのものである。保護層35には、従来公知の材料を用いることができ、例えばC、SiO、ZrOなどを含むものを用いることが可能である。保護層35の厚みは、1〜10nmとすることが、磁気ヘッドと磁気記録媒体Wとの距離を小さくできるので高記録密度の点から好ましい。
【0055】
潤滑層36は、磁気記録媒体に磁気記録再生ヘッドが偶発的に接触した際に磁気記録媒体を保護する機能を有するが、加えて、マスター情報担体Mを用いて、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を書き込む際に、保護層35がマスター情報担体Mに接触して、マスター情報担体Mの摩耗を促進させることを防止するものである。潤滑層36としては、従来公知の材料を用いることができ、例えば、本願発明のマスター情報担体の防汚層を構成する親水性樹脂に対して接触角の大きいパーフルオロポリエーテルなどの潤滑剤を保護層35上に塗布することによって形成できる。
【0056】
「磁気記録媒体の製造方法」
図2に示す磁気記録媒体Wを製造するには、まず、非磁性基板31上に、密着層と、軟磁性下地層32と、配向制御層33と、非磁性下地層38と、垂直磁性層34と、保護層35と、潤滑層36とを順次積層する積層構造形成工程を行う。その後、本実施形態においては、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を書き込む情報信号書き込み工程を行う。
【0057】
積層構造形成工程は、公知の方法によって行うことができる。例えば、非磁性基板31上に、スパッタ法などを用いて、密着層、軟磁性層32aとスペーサ層32bと軟磁性層32aとからなる軟磁性下地層32、配向制御層33、非磁性下地層38、下層の磁性層34aと非磁性層37aと中層の磁性層34bと非磁性層37bと上層の磁性層34cとからなる垂直磁性層34を下から順に積層する。その後、CVD法などを用いて保護層35を成膜する。次いで、保護層35上に潤滑剤を塗布する方法などによって潤滑層36を形成する。
【0058】
本実施形態においては、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を書き込む情報信号書き込み工程を行う前に、マスター情報担体Mを洗浄する工程を行う。
本実施形態では、情報信号書き込み工程において、マスター情報担体Mとして、最表面に防汚層103が配置された図1に示すマスター情報担体Mを用いる。防汚層103が最表面に設けられていることにより、マスター情報担体Mの表面に汚れが蓄積されにくくなるだけでなく、表面に付着した汚れが落ちやすくなる。したがって、情報信号書き込み工程を行う前に、マスター情報担体Mを洗浄することで、容易に非常に清浄な表面を有するマスター情報担体Mが得られる。また、マスター情報担体Mを洗浄してから情報信号書き込み工程を行う場合、非常に清浄な表面を有するマスター情報担体Mを用いて、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を書き込むので、マスター情報担体の表面に汚れが蓄積されることによって、磁気記録媒体Wに転写された転写パターンが不完全となることをより効果的に抑制できる。したがって、マスター情報担体Mの繰り返し磁気転写に使用できる使用可能回数をより一層多くすることができる。
【0059】
本実施形態のマスター情報担体Mは、表面に付着した汚れが落ちやすいものであるので、公知のいかなる方法であっても、容易に効果的に洗浄でき、清浄な表面が得られる。このため、マスター情報担体Mを洗浄する工程において用いる洗浄方法は、特に限定されない。例えば、マスター情報担体Mを洗浄する方法として、洗浄液が層流の状態で流れる洗浄槽内にマスター情報担体Mを浸漬する方法や、ワイピング処理、バーニッシュ処理、スピン洗浄などから選ばれる1種または2種以上の方法を1回以上用いることができる。
【0060】
中でも特に、洗浄液が層流の状態で流れる洗浄槽内にマスター情報担体Mを浸漬する方法は、金属腐食物に代表されるイオン性の不純物等が汚れとして磁気記録媒体からマスター情報担体に転写されている場合に、これらをマスター情報担体の表面から効率よく除去することが可能であるため好ましい。
また、マスター情報担体Mを、洗浄液が層流の状態で流れる洗浄槽内に浸漬して洗浄する方法では、洗浄槽内で洗浄液を横方向に流しながら、マスター情報担体Mを洗浄することが好ましい。この場合、汚染物質を含む洗浄液を浸漬槽の外へと速やかに排出することができるため、マスター情報担体Mの表面に汚染物質が再付着することを防止できる。その結果、従来の方法では得られない清浄な表面を有するマスター情報担体Mが得られる。
【0061】
マスター情報担体Mを洗浄する工程において、洗浄液を用いてマスター情報担体Mを洗浄する場合、洗浄液として、水素水を含む洗浄液を用いることが好ましい。水素水とは、超純水又は純水に高純度の水素ガスを溶解したものであり、水のクラスターを小さくして洗浄能力を高めたものである。洗浄液として、水素水を含む洗浄液を用いた場合、洗浄液によるマスター情報担体Mの腐食が発生しにくく、磁気記録媒体からマスター情報担体Mに転写された金属腐食物等からなる汚れを高い洗浄力で除去できる。特に、水素水中の溶存水素濃度を0.1ppm〜5ppmの範囲とし、水素水の酸化還元電位を−200mV〜−800mVの範囲とすることによって、その機能を高めることが可能となる。
【0062】
また、マスター情報担体Mを洗浄する工程は、多段工程であってもよい。多段工程としては、例えば、マスター情報担体Mを、水素水とアルカリとを含む洗浄液を用いて洗浄した後、水素水を含み且つアルカリを含まない洗浄液を用いて洗浄する方法が挙げられる。マスター情報担体Mを、水素水と、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア、またはテトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドのうち少なくとも1種を含む洗浄液を用いて洗浄した場合、洗浄液として水素水のみを用いた場合と比較して、洗浄力を高めることができる。
【0063】
しかしながら、洗浄後のマスター情報担体Mの表面にアルカリが残留すると、マスター情報担体Mの汚染原因となる。
洗浄後のマスター情報担体Mへのアルカリの残留を防ぐためには、洗浄液に含有されるアルカリの含有濃度を0.05ppm〜5ppmの範囲とすることが好ましい。また、マスター情報担体Mをアルカリと水素水とを含む洗浄液を用いて洗浄した後に、アルカリを含まずに水素水を含む洗浄液を用いて洗浄することが好ましい。このような多段工程を行うことで、マスター情報担体Mへのアルカリの残留を防止しつつ、マスター情報担体Mに対する洗浄力を高めることが可能である。
【0064】
また、マスター情報担体Mを洗浄する方法としてワイピング処理を行う場合、例えば、布製などのワイピングテープを磁気記録媒体Wの表面に対して相対走行させつつ、ゴム製のコンタクトロール又はパッドによってワイピングテープの表面を磁気記録媒体Wの表面に押し当てることにより、媒体表面を軽く拭く方法を用いることができる。このようなワイピング処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面に付着したスパッタダスト等の汚れを除去できる。
【0065】
また、マスター情報担体Mを洗浄する方法としてバーニッシュ処理を行う場合、例えば、研磨テープを用いてその表面を研磨する方法を用いることができる。このようなバーニッシュ処理を行うことにより、磁気記録媒体Wの表面にある突起物を除去でき、情報信号書き込み工程において磁気記録媒体Wとマスター情報担体Mとの間に隙間が生じて転写パターンが不鮮明になるとともに、マスター情報担体Mが損傷を受けることを防止できる。
【0066】
マスター情報担体Mを洗浄する工程は、上述したように、情報信号書き込み工程を行う前に行ってもよいが、後述する情報信号書き込み工程において、1枚以上の基板の磁性層(本実施形態においては、積層構造形成工程において形成された潤滑層36までの各層を備える非磁性基板31の磁性層34)に対して、情報信号を磁気転写してから、次の基板の磁性層に対して情報信号を磁気転写するまでの間に行ってもよい。この場合、マスター情報担体Mを洗浄する工程は、以下に示すように、定期的に行うことが好ましい。
【0067】
すなわち、マスター情報担体Mの汚れは、情報信号書き込み工程を繰り返し行うことにより、情報信号を磁気転写される非磁性基板31からマスター情報担体Mに少しずつ転写されて蓄積される。蓄積された汚れは、徐々にマスター情報担体Mの転写面に浸食して、マスター情報担体Mによる転写精度を低下させる。したがって、マスター情報担体Mを洗浄する工程は、汚れの蓄積によってマスター情報担体Mの転写精度が低下する前に、定期的に行うことが好ましい。具体的には、5000〜50000枚の基板に対して情報信号を磁気転写する毎に、マスター情報担体Mを洗浄する工程を行うことが好ましい。
【0068】
次に、磁気記録媒体Wの磁性層34が設けられている側の面である信号記録面を初期磁化する。信号記録面の初期磁化は、面内磁気記録媒体を製造する場合は、トラック方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行い、垂直磁気記録媒体を製造する場合は、媒体表面に対して垂直な方向の一方向に初期直流磁界を印加することにより行う。初期磁化に用いられる初期直流磁界は、永久磁石や電磁石を用いて磁気記録媒体Wに印加することが可能である。初期直流磁界の印加は、磁気記録媒体Wと非接触の状態で行うことが、磁気記録媒体Wの表面の清浄性を維持する上で好ましい。また、永久磁石としては、より安定で磁力の強いNdFeB系の焼結磁石を用いることが好ましい。
【0069】
次に、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を書き込む情報信号書き込み工程を行う。
情報信号書き込み工程においては、マスター情報担体Mを用いて、磁気記録媒体Wの磁性層34に情報信号を磁気転写することにより、磁気記録媒体Wにサーボ信号等に対応した情報信号を書き込む。
図3は、本発明の磁気記録媒体の製造方法において磁気記録媒体の磁性層に情報信号を書き込む工程を説明するための断面図である。なお、図3においては、図面を見やすくするために、磁気記録媒体Wにおいては非磁性基板31と磁性層34のみを図示し、磁気記録媒体Wを構成するそれ以外の部材についての図示を省略する。また、図3において符号105は、マスター情報担体Mの基材100側から順に配置された磁性層101と保護層102と防汚層103とを示している。
【0070】
情報信号書き込み工程においては、まず、初期磁化の終わった磁気記録媒体Wの信号記録面(磁性層34側の面)と、洗浄済のマスター情報担体Mの磁性層101側の面とを接触させた状態で、所定の押圧力で密着させる。そして、図3に示すように、マスター情報担体Mの基材100側の面から、磁界生成手段Gを用いて、磁界生成手段Gを相対的にトラック方向Xに移動させながら、マスター情報担体Mおよび磁気記録媒体Wに転写用の外部磁界を印加する。
【0071】
情報信号書き込み工程において用いられる磁界生成手段Gは、電磁石や永久磁石によって構成されるものである。磁界生成手段Gは、磁気記録媒体Wの半径方向において同一方向の外部磁界を発生させながら、磁気記録媒体Wの中心にトラック方向Xに回転移動させることが可能となっているものである。
面内磁気記録媒体に情報信号を書き込む場合は、トラック方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させる。また、垂直磁気記録媒体に情報信号を書き込む場合は、媒体表面に対して垂直な方向の他方向に転写用の外部磁界を発生させる。なお、転写用の外部磁界は、磁気記録媒体Wを初期磁化する際に印加した初期直流磁界とは逆方向となる磁界である。
【0072】
このように、マスター情報担体Mおよび磁気記録媒体Wに転写用の外部磁界を印加することにより、図3に示すように、磁気記録媒体Wの磁性層34における、マスター情報担体Mの転写パターンを構成する磁性層凸部101aおよび磁性層凹部101bと対向する箇所で磁化反転が生じる。その結果、マスター情報担体Mに書き込まれたサーボ信号等に対応する情報信号である磁化パターンが、磁気記録媒体Wの磁性層34に磁気転写されて書き込まれる。
【0073】
なお、本実施形態においては、磁気記録媒体Wとして、図2に示すように、非磁性基板31の一方の面にのみ磁性層34を含む各層が設けられているものを例に挙げて説明したが、図2に示す非磁性基板31上に設けられている各層は、非磁性基板31の両面に設けられていてもよい。
【0074】
磁気記録媒体Wが、非磁性基板31の両面に磁性層34を含む各層が設けられているものである場合、情報信号書き込み工程は、磁気記録媒体Wの両面を一対のマスター情報担体Mで挟み込み、各マスター情報担体Mの基材100側の面から、磁界生成手段Gを用いてマスター情報担体Mおよび磁気記録媒体Wに転写用の外部磁界を印加する方法によって行うことが好ましい。これにより、磁気記録媒体Wの両面に容易に効率よくサーボ信号等に対応する情報信号を書き込むことができる。
【0075】
本実施形態の磁気記録媒体Wの製造方法は、最表面に配置された防汚層103を備えるマスター情報担体Mを用いて、非磁性基板31の磁性層34に情報信号を磁気転写する方法であるので、1枚のマスター情報担体Mの使用可能回数を十分に多くすることができる。その結果、本実施形態の磁気記録媒体Wの製造方法によれば、磁気記録媒体Wの生産コストを大幅に低減できる。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施できる。
(実施例1)
<マスター情報担体の製造>
表面に271kトラック/インチのサーボ信号等の転写パターンに対応する形状を有する基材凸部と基材凹部とを備えるNiからなる基材を用意した。なお、基材の磁気記録媒体Wに磁気転写される情報信号に対応するトラックは幅120nm、トラック間隔は60nmであり、基材凸部と基材凹部との段差(転写パターンの段差)は45nmであった。
【0077】
このような基材上に、DCスパッタリング法を用いて、層厚10nmのRu膜からなる下地層を基材凸部および基材凹部の形状に沿って形成した。その後、下地層上に基材凸部および基材凹部の形状に沿って、DCスパッタリング法を用いて、層厚20nmの70Co−5Cr−15Pt−10SiO合金膜と、層厚15nmの80Co−5Cr−15Pt合金膜とからなる磁性層とを順次積層し、磁気記録媒体Wに磁気転写される情報信号が書き込まれた磁性層を形成した。
【0078】
次に、磁性層上に、CVD法により、層厚20nmの炭素膜からなる保護層を形成した。
その後、保護層上に、スピンコート法を用いて樹脂を塗布し、硬化させて防汚層を形成することによって、実施例1のマスター情報担体Mを得た。
具体的には樹脂としてアクリルアミドを使用し、ビームセット371(荒川化学工業社製)を50質量部、イルガキュア127(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)の25質量%アセトン溶液を6.0質量部、酢酸エチル(希釈溶剤)を残部配合して、紫外線硬化性の親水性樹脂材料の溶液を調製した。これをマスター情報担体の保護層上に塗布後、その表面に照度が30mW/cmに設定された紫外線照射装置(波長365nmのLEDランプ)により紫外線を20秒間照射して樹脂を硬化させ、防汚層とした。防汚層の層厚は10nmとした。
【0079】
<磁気記録媒体の製造>
非磁性基板として、洗浄済みのガラス基板(コニカミノルタ社製、外形2.5インチ)を用意し、DCマグネトロンスパッタ装置(アネルバ社製C−3040)の成膜チャンバ内に収容して、到達真空度1×10−5Paとなるまで成膜チャンバ内を排気した。
その後、ガラス基板の上に60Cr−40Tiターゲットを用いて層厚10nmの密着層を成膜した。
【0080】
次に、密着層の上に46Fe−46Co−5Zr−3B{Fe含有量46原子%、Co含有量46原子%、Zr含有量5原子%、B含有量3原子%}のターゲットを用いて100℃以下の基板温度で、層厚34nmの軟磁性層、層厚0.76nmのRu層、層厚34nmの46Fe−46Co−5Zr−3Bの軟磁性層を成膜し、これを軟磁性下地層とした。
次に、軟磁性下地層の上に、Ni−6W{W含有量6原子%、残部Ni}ターゲット、Ruターゲットを用いて、それぞれ5nm、20nmの層厚で順に成膜し、これを配向制御層とした。
【0081】
次に、配向制御層の上に、スパッタ法を用いて91(Co9Cr16Pt)−9(TiO)(膜厚3nm)からなる磁性層と、Ru(膜厚1nm)からなる非磁性層と、92(Co17Cr16Pt)−8(SiO)(膜厚5nm)からなる磁性層と、Co21Cr14Pt1B(膜厚5nm)からなる磁性層とを下から順に積層した。
【0082】
次に、CVD法により層厚2.5nmの炭素膜からなる保護層を成膜した。
次に、保護層上に、ディッピング法によりパーフルオロポリエーテルからなる潤滑剤を塗布することによって、厚さ15オングストローム(1.5nm)の潤滑層を形成した。以上の工程により、磁気記録媒体Wを得た。
【0083】
次に、磁気記録媒体Wの磁性層が設けられている側の面である信号記録面を初期磁化した。具体的には、磁気記録媒体の両データ面に対し、磁気記録媒体を貫通する10kOeの磁界を、NdFeB系焼結磁石を用いて加えた。
次に、磁気記録媒体Wの磁性層に情報信号を書き込む磁気転写工程を行った。
磁気転写工程においては、初期磁化の終わった磁気記録媒体Wの信号記録面と、マスター情報担体Mの磁性層側の面とを接触させた状態で、98mNの押圧力で密着させ、マスター情報担体Mの基材側の面から、4kOeの磁界生成手段を用いて、磁界生成手段Gを相対的にトラック方向Xに移動させながら、マスター情報担体Mおよび磁気記録媒体Wに転写用の外部磁界を印加し、マスター情報担体Mに書き込まれたサーボ信号等に対応する情報信号である磁化パターンを、磁気記録媒体Wの磁性層に磁気転写して書き込んだ。転写時間は10秒間とした。
【0084】
このような磁気転写工程を複数回行って、繰り返し磁気転写に使用できるマスター情報担体の使用可能回数を調べた。その結果、実施例1では、234000回の磁気転写が可能であった。
【0085】
(比較例1)
防汚層を設けないこと以外は、実施例1と同様にして、磁気記録媒体の製造を行った。その結果、比較例1では、151000回の磁気転写が可能であった。
【符号の説明】
【0086】
31…非磁性基板 32…軟磁性下地層 32a…軟磁性層 32b…スペーサ層 33…配向制御層 34…垂直磁性層 34a,34b,34c…磁性層 35…保護層 36…潤滑層 37a,37b…非磁性層 38…非磁性下地層 100…基材 100a…基材凸部 100b…基材凹部 101…磁性層 101a…磁性層凸部 101b…磁性層凹部 102…保護層 103…防汚層 W…磁気記録媒体 M…マスター情報担体 G…磁界生成手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気記録媒体に磁気転写する情報信号が書き込まれた磁性層と、最表面に配置された親水性樹脂からなる防汚層とを備えることを特徴とするマスター情報担体。
【請求項2】
前記親水性樹脂が、ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ポリジエチルアミノエチルアクリレート、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリグリセリルメタクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、ポリジアセトンアクリルアミド、ポリ(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)、ポリ〔2−アクリルアミド−2−プロパンスルホン酸(塩)〕およびこれらの部分架橋体であることを特徴とする請求項1に記載のマスター情報担体。
【請求項3】
前記磁性層と前記防汚層との間に、保護層を備えるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマスター情報担体。
【請求項4】
前記磁性層が、前記情報信号に対応する形状の凸部を備えるものであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のマスター情報担体。
【請求項5】
基板上に磁性層と保護層と潤滑層とを順に積層する工程と、前記磁性層に情報信号を書き込む情報信号書き込み工程とを備え、
前記情報信号書き込み工程において、前記磁性層の形成された複数枚の前記基板の前記磁性層に対し、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のマスター情報担体を用いて、繰り返し前記情報信号を磁気転写することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項6】
前記情報信号書き込み工程において1枚以上の前記基板の前記磁性層に対して前記情報信号を磁気転写してから、次の前記基板の前記磁性層に対して前記情報信号を磁気転写するまでの間、または前記情報信号書き込み工程を行う前に、前記マスター情報担体を洗浄する工程を行うことを特徴とする請求項5に記載の磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−248939(P2011−248939A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118338(P2010−118338)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】