説明

マタニティドクターコート

【課題】妊娠時に着用できるドクターコートを提供すること。
【解決手段】 腹囲を除き、仕上がりが女性の上着ないしコートとして寸法どりされたマタニティドクターコート1であって、左前身頃11L、右前身頃11R、左脇身頃12L、および、右脇身頃12Rを有し、左前身頃11Lおよび右前身頃11Rは同一の生地であるとともに左脇身頃12Lおよび右脇身頃12Rより厚手であって、左前身頃11Lと左脇身頃12Lとの境界および右前身頃11Rと右脇身頃12Rとの境界に腹囲調整用ベルト16の片端がそれぞれ縫着されていることを特徴とするマタニティドクターコート1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、女性医師や女性研究者が妊娠時に使用するマタニティドクターコートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、妊娠中の医療系業務従事者、特に、女性看護師には、通常の白衣の他、体型が大きく変化する臨月近くでも着用できるマタニティ白衣があった。
【0003】
一般に、女性看護師用白衣は、就業中常時着用するいわゆる作業着であって、下着の上もしくは薄着の状態から着用し、また、医療機器への不用意な接触を避ける等の作業性の確保の観点から、寸法はボディラインに合わせただぶつかないものである。
【0004】
このような事情から、マタニティ白衣についても、腹部には余裕を持たるものの、比較的体に密着する寸法で縫製されている。
【0005】
しかしながら、従来では以下の問題点があった。
女性看護師と異なり、女性医師の場合は男性医師と同様に、診療時にいわゆるドクターコートを着用し、また、会議・外出・授業等の他の業務をおこなうときには、必要に応じて通常の上着に着替える。つまり、ドクターコートは下着や薄着からでなく、着衣した状態から着用し、就業中も適宜着替えが必要なものである。そして、ドクターコートとは、近年の女性の社会進出以前に完成されたものであり、男性医師の診療時の背広という位置づけであった。
【0006】
すなわち、看護師用白衣は女性用であって体にフィットし長時間連続着用するものであるのに対し、ドクターコートは男性用であって着衣した上にはおり適時着替えるもの、という裁縫思想から寸法決めがされていた。
【0007】
従って、女性医師のドクターコートは、実のところ、男性医師用のサイズの小さなものであるか、上記ドクターコートの裁縫思想の下に女性用の寸法を部分的に採用した改良版に過ぎず、これまで、妊娠時に着用するもの、すなわち、腹囲の増加に対応できるドクターコートは存在しなかった。
【0008】
そこで、女性医師は、妊娠時に腹囲が大きくなると、ダブルのドクターコートのボタンを部分的に外して着用したり、男性用の大きめのドクターコートを着たりしていた。また、女性看護師用のマタニティ白衣を着用する場合もあった。
【0009】
このため、ボタンを外した着用では、患者を含め周囲からはだらしなく映り、大きめのドクターコートでは、腹囲以外がだぶつき、見た目に悪いばかりでなく、作業性にも機能性にも劣るという問題点があった。同様に、看護師用のマタニティ白衣の場合は、女性医師は上述したように着衣の上から着用する必要があるため、そもそも寸法が合わない大きなサイズのものでなければ袖が通らないなど、着用そのものに無理があり、作業性や機能性が劣るのはもちろんのこと、看護師に間違われたりするなどの問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平07−042003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記に鑑みてなされたものであって、妊娠時に着用できるドクターコートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載のマタニティドクターコートは、
腹囲を除き、仕上がりが女性の上着ないしコートとして寸法どりされたマタニティドクターコートであって、左前身頃、右前身頃、左脇身頃、および、右脇身頃を有し、左前身頃および右前身頃は同一の生地であるとともに左脇身頃および右脇身頃より厚手であって、左前身頃と左脇身頃との境界および右前身頃と右脇身頃との境界に腹囲調整用ベルトの片端がそれぞれ縫着されていることを特徴とする。
【0013】
すなわち、請求項1にかかる発明は、上着と同様に着衣した上からの着脱が容易であって、前身頃を厚めとして腹部を保護しつつ前身頃にシワを寄りにくくし、かつ、脇身頃にギャザー設けて腹囲を調整可能としこれをベルトで覆って目立たなくする。これにより、全体的なシルエットは通常のドクターコートと同様となり、見栄えが劣ることのない作業性のよいドクターコートを提供することができる。
【0014】
なお、本願において、ドクターコートとは、必ずしも医師用に限定されず、薬剤師、技師等の医療従事者、その他女性研究者等が実験等で用いてもよく、この意味で白衣ないし実験着と表現することもできる。また、ドクターコートは、シングル仕様であってもダブル仕様であってもよく、場合により、ファスナー仕様とすることもできる。なお、脇身頃は必ずしも一枚物に限定されず、前脇身頃および後ろ脇身頃といった、複数に分かれて構成されていても良い。また、厚手とは、生地を重ねたり、芯を適宜入れるなどして、全体として厚みと張りが出ていれば良く、必ずしも布単体の厚みを異ならせる必要はない。
【0015】
ベルトは、バックル留めする態様であっても良く、また、バックルを設けずベルトどうしを紐結びするような帯状としても良い。また、ベルト留めは後ろ1箇所である態様の他、請求項2で述べるように、腰脇の二箇所としても良い。
【0016】
請求項2に記載のマタニティドクターコートは、請求項1に記載のマタニティドクターコートにおいて、左脇身頃と後ろ身頃との境界および右脇身頃と後ろ身頃との境界に、もう一つの腹囲調整用ベルトの片端をそれぞれ縫着し、腹囲調整用ベルトが、胴の左右を組としてその長さをそれぞれ調整するものであることを特徴とする。
【0017】
すなわち、請求項3にかかる発明は、ベルトを目立たなくすることができ、着用場面の選択肢を増やすことができる。
【0018】
請求項3に記載のマタニティドクターコートは、請求項1または2に記載のマタニティドクターコートにおいて、左脇身頃および右脇身頃の腹囲調整用ベルトで捲回被覆される位置に伸縮素材を縫着したことを特徴とする。
【0019】
すなわち、請求項3にかかる発明は、体側、特に胴回りないし腰の位置に積極的にギャザーを設けて腹囲の増加に容易に対応できるとともに、前面(前身頃)にシワが寄りにくく、シルエットを保ち、着崩れを防止できる。
【0020】
請求項4に記載のマタニティドクターコートは、請求項1、2または3に記載のマタニティドクターコートにおいて、前ヨークを有し、左前身頃および右前身頃は、上部にタックを入れてヨーク切り替えにより前ヨークに縫着されていることを特徴とする。
【0021】
すなわち請求項4にかかる発明は、胸囲も考慮したシルエットのドクターコートを容易に制作可能となる。
【0022】
請求項5に記載のマタニティドクターコートは、請求項1〜4のいずれか一つに記載のマタニティドクターコートにおいて、襟を、テーラードカラーとしたことを特徴とする。
【0023】
すなわち、請求項5にかかる発明は、看護師と区別でき、男性医師と同様な医師らしい身だしなみを有するドクターコートを提供可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、妊娠時に着用できるドクターコートを提供可能となる。近年、地域における医師不足が社会問題となる中、全国の大学医学部における女子学生の増加とともに女性医師数も増加し、これらの女性医師が妊娠・出産を機に離職して復職しないことが医師不足の原因の一つであると言われている。すなわち、女性医師には、妊娠中から出産後に至る生理的に困難な時期でも医療者としてのキャリアを継続することが社会的に要求されていることになる。本発明のドクターコートによれば、妊娠初期から後期までの体型の急激な変化にも適切に順応する診察衣を提供することで妊娠中の女性医師のストレスを緩和し、仕事へのモチベーションを上げてキャリア継続への意欲を保つことが可能となる。このことは、女性医師の離職を防ぐことで医療現場における必要な医師数の確保を行い、医療の質の向上と地域医療の崩壊を食い止めることに大きく貢献する。また、本発明は、医療分野のみならず、同様な仕事着が必要とされる薬剤師、医療技術系職はもちろんのこと、実験系の研究職や技術職など広範囲の職種で利用できる。よって、理工農分野の研究職・技術職への女性の進出とキャリア継続が求められている社会ニーズにも合致し、様々な理系女性研究者増加策・支援策が実施されている国策の現況とも合致する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のマタニティドクターコートの前側の外観構成図である(腹囲が大きくない状態)。
【図2】本発明のマタニティドクターコートの後ろ側の外観構成図である(腹囲が大きくない状態)。
【図3】本発明のマタニティドクターコートの斜視部分図である(腹囲が大きくない状態)。
【図4】本発明のマタニティドクターコートの脇身頃部分に設けたベルトの様子を示した部分拡大図である(腹囲が大きくなった状態)。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明のマタニティドクターコートの前側の外観構成図である。図2は、本発明のマタニティドクターコートの後ろ側の外観構成図である。図3は、本発明のマタニティドクターコートの斜視部分図である。マタニティドクターコート1は、図示したように、医師が診療時に通常着用しているドクターコートと略同形であり、前身頃11(左前身頃11L、右前身頃11R)、脇身頃12(左脇身頃12L、右脇身頃12R)、前ヨーク13(左前ヨーク13L、右前ヨーク13R)、テーラードカラー14、後ろ身頃15、ベルト16(左ベルト16L、右ベルト16R)、バックルBとを有する。各パーツの各寸法は、腹囲を除き、仕上がりが女性の上着ないしコートと同じであり、着衣した上から着用できる寸法である。
【0027】
この他、特に説明しないが、袖、ボタン、ポケット等は、図示した如く、通常の白衣ないしドクターコートと同様に備えている。
【0028】
マタニティドクターコート1は、前身頃11が、脇身頃12より厚手で張りのある素材を用い、これにより前身頃11でシワの寄りにくくしている。逆に脇身頃12は比較的薄手とし、腹囲の周りは幅を広くし、また、ちょうどベルト16で隠れる場所に平ゴム17を内側から縫いつけ、ギャザーを設けるようにしている。これにより、シワが前面(前身頃11)側にできにくくなり、通常のドクターコートと同様のシルエットが形成される。
【0029】
詳述すると、平ゴム17により、腹回りがまだ大きくないときは、脇身頃12の実質的な幅は細く、腹回りが大きくなるのに追従して脇身頃12の実質的な幅が広くなる。また、次に説明するようにベルト16で平ゴム17部分、すなわち、ギャザーを形成する部分が被覆されるので、見栄えが損なわれることがなくなる。
【0030】
ベルト16は、腹囲を調整する際に使用する。図示した例では、左ベルト16Lの片端は、左前身頃11Lと左脇身頃12Lとの境界に縫着し、他端にはバックルBを設けている。右ベルト16Rの片端は、右前身頃11Rと右脇身頃12Rとの境界に縫着し、バックル留めするベルト穴を複数設けている。ベルト16の幅は特に限定されないが、5cm〜10cm程度であれば、ギャザーの被覆の観点および全体の見栄え(バランス)の観点から好適である。
【0031】
また、平ゴム17の縫着方向(胴回り方向)の脇身頃12と後ろ身頃15の境界付近には、ベルトループ18がそれぞれ設けてあり、ここにベルト16が挿通されている。これにより、少なくとも脇身頃12上のベルト16の位置が決定され、平ゴム17による脇身頃のギャザーが適切に覆い隠される。
【0032】
なお、ベルト16は、体の後ろでベルト留めし、マタニティドクターコート1の胴囲が調整される。椅子に座るときなど、バックルBが邪魔になる場合があるので、左ベルト16Lは短く、右ベルト16Rは長くして、腰の左側にバックルが位置するようにしても良い。
【0033】
マタニティドクターコート1は、また、前ヨーク13を設け、ヨーク切り替えをして前身頃11にタックをつけて縫合している。タックにより、胸囲に余裕をもたせつつ腹囲の変化が生じ前身頃11の腹囲幅が相対的に小さくなっても、脇身頃12とのバランスが保たれる。すなわち、脇身頃12の胴回りが広がり、前身頃11が突き出るようになっても、タックにより前身頃の幅を広くとれるので、脇身頃12が前側にせり出しても前身頃11が狭まりすぎたような印象を与えなくすることが可能となる。
【0034】
以上説明したように、マタニティドクターコート1は、着衣の上から着用することができ、また、容易に着脱ができるものであって、腹囲の増大に追従しつつ見た目を損ねない妊娠時の女性に適したドクターコートである。
【0035】
なお、マタニティドクターコートは上記の態様に限定されない。例えば、ベルトを分離し、左右の脇身頃部分のみに設けるようにしても良い。図4は、脇身頃部分に設けたベルトの様子を示した部分拡大図である(袖は省略している)。図示したように、対となるベルト16が、脇身頃12と後ろ身頃15との境界に縫着されており、両脇で腹囲の調整ができるようにしている。
【0036】
これによれば、背中にベルト16が位置しないので、着用者の趣味感に合わせることや、男性医師と同様なドクターコートとして着用することができる。
【0037】
この他、ベルト16は、ベルト穴を設けずバックル留めのみする態様であっても良い。また、背中をまわる一本のベルトを後ろ身頃15と左右の脇見頃12との境界で縫いつけ、延伸させた両端部が、前身頃11と脇見頃12に逢着したベルトと組となり両脇でバックル留めするようにしても良い(後ろ身頃15に位置するベルトは飾りベルトとなる)。また、前ヨーク13はなく、後ろ身頃15との縫合部分にタックを設けるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、ドクターコートを着用する女性医師のみならず、医療分野における薬剤師や医療技術系職はもちろんのこと、白衣を必要とする全ての実験系の研究職や技術職、理系の教職など、幅広い分野の職種における女性従事者の妊娠中の業務遂行能力の向上、ひいては一層の社会進出及びキャリアアップが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 マタニティドクターコート
11 前身頃
11L 左前身頃
11R 右前身頃
12 脇身頃
12L 左脇身頃
12R 右脇身頃
13 前ヨーク
13L 左前ヨーク
13R 右前ヨーク
14 テーラードカラー
15 後ろ身頃
16 ベルト
16L 左ベルト
16R 右ベルト
17 平ゴム
18 ベルトループ
B バックル


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腹囲を除き、仕上がりが女性の上着ないしコートとして寸法どりされたマタニティドクターコートであって、
左前身頃、右前身頃、左脇身頃、および、右脇身頃を有し、
左前身頃および右前身頃は同一の生地であるとともに左脇身頃および右脇身頃より厚手であって、
左前身頃と左脇身頃との境界および右前身頃と右脇身頃との境界に腹囲調整用ベルトの片端がそれぞれ縫着されていることを特徴とするマタニティドクターコート。
【請求項2】
左脇身頃と後ろ身頃との境界および右脇身頃と後ろ身頃との境界に、もう一つの腹囲調整用ベルトの片端をそれぞれ縫着し、
腹囲調整用ベルトは、胴の左右を組としてその長さをそれぞれ調整するものであることを特徴とする請求項1に記載のマタニティドクターコート。
【請求項3】
左脇身頃および右脇身頃の腹囲調整用ベルトで捲回被覆される位置に伸縮素材を縫着したことを特徴とする請求項1または2に記載のマタニティドクターコート。
【請求項4】
前ヨークを有し、
左前身頃および右前身頃は、上部にタックを入れてヨーク切り替えにより前ヨークに縫着されていることを特徴とする請求項1、2または3に記載のマタニティドクターコート。
【請求項5】
襟を、テーラードカラーとしたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のマタニティドクターコート。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−246584(P2012−246584A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119862(P2011−119862)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(504155293)国立大学法人島根大学 (113)
【Fターム(参考)】