説明

マッサージ装置

【課題】適切な押し圧で良好なマッサージを行ないうるマッサージ装置を提供する。
【解決手段】内部に乾電池20が収納された本体部11と、本体部11と分離されており振動子30,31が振動することにより施術部をマッサージする振動体12と、一端が本体部11に固定されると共に他端が振動体12に固定されたコイルばね13とを有する。そして、振動体12の重量を本体部11の重量よりも小さく設定すると共に、コイルばね13のバネ定数を施術部の皮膚の応力に基づき設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマッサージ装置に係り、特に目元のマッサージに好適なマッサージ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から種々のマッサージ装置が提案されている。その中には、マッサージ装置を手に把持した状態で目元等に対してマッサージを行うものがある。
【0003】
この種のマッサージ装置は、使用者に把持されるケース内部に振動子となる偏心錘を設けたモータ、電源となる乾電池、モータを始動及び停止を行うためのスイッチ等を配設した構成とされている。(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−024408号公報
【特許文献2】特開2004−358088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来のマッサージ装置は、一のケース内に乾電池,振動子,スイッチ等が全て収納された構成とされていた。このため、振動子が振動すると、ケース全体が振動してしまい、施術部に十分な振動が伝わらないという問題点があった。これは、特に目元等の顔に対してマッサージを行うような、微弱な振動の場合には顕著な問題となる。
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、適切な押し圧で良好なマッサージを行いうるマッサージ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は、第1の観点からは、
内部に電源が収納された本体部と、
前記本体部と分離されており、前記電源から給電されて振動子が振動することにより施術部をマッサージする振動体と、
一端が前記本体部に固定されると共に他端が前記振動体に固定されたばね部材と、
前記振動体の重量を前記本体部の重量よりも小さく設定し、
前記バネ部材のバネ定数を、前記施術部の皮膚の応力に基づき設定したことを特徴とするマッサージ装置により解決することができる。
【発明の効果】
【0008】
開示のマッサージ装置によれば、重量が大きい本体部と、本体部に対して重量が小さい振動体とを分離し、これをばね部材で接続したことにより、振動体で発生する振動で本体部が振動することはなく、振動体の振動を施術部に確実に伝えることができる。
【0009】
更に、バネ部材のバネ定数を施術部の皮膚の応力に基づき設定したことにより、施術部の皮膚の応力に適合したマッサージを行うことができ、マッサージ効果の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の一実施形態であるマッサージ装置の分解斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態であるマッサージ装置の全体構成を概略的に示す要部構成図である。
【図3】図3は、本発明の一実施形態であるマッサージ装置に設けられる振動数可変装置を説明するための図である。
【図4】図4は、皮膚に対するマッサージ装置の押圧力とモータ回転数(振動)との関係を示す図である。
【図5】図5は、フロントキャップに対する振動体の動作を説明するための図である。
【図6】図6は、振動体と施術部(皮膚)を弾性体として示したモデル図である。
【図7】図7は、真皮をマッサージする場合と表皮をマッサージする場合におけるばね定数の選定を説明するための図である。
【図8】図8は、コイルばねのばね定数及びばね定数と皮膚応力の相関関係を示す図である。
【図9】図9は、目元における皮膚の応力の測定位置を示す図である。
【図10】図10は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その1)。
【図11】図11は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その2)。
【図12】図12は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その3)。
【図13】図13は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その4)。
【図14】図14は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その5)。
【図15】図15は、目元の皮膚の応力を測定した結果の一例を示す図である(その6)。
【図16】図16は、変形例であるマッサージ装置を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施の形態について図面と共に説明する。
【0012】
図1及び図2は、本発明の一実施形態であるマッサージ装置10の全体構成を示す図である。図1は、本発明の一実施形態であるマッサージ装置10の分解斜視図である。また、図2はマッサージ装置10の概略構成図である。
【0013】
本実施形態に係るマッサージ装置10は、使用者に把持されて使用されるペンタイプのマッサージ装置であり、例えば使用者の目元を施術部(マッサージする位置)とするものである。目元に対してマッサージを行うことにより、この部位における血流上昇を図ることができ、いわゆる目元のくまを解消すること等ができる。
【0014】
このマッサージ装置10は、大略すると本体部11、振動体12、及びコイルばね13を有した構成とされている。
【0015】
本体部11は、いずれも樹脂成型品であるケース14とシャーシ15を有している。先ず、シャーシ15について説明する。シャーシ15は図中矢印X2方向側に電池収納部19が形成されると共に、矢印X1方向側にスイッチ収納部21が形成されている。
【0016】
電池収納部19は、電源となる乾電池20を収納する部位である。本実施形態では、電源として単4の乾電池20を用いる例を示すが、電源はこれに限定されるものではなく、ボタン電池或いは充電可能な充電池等を用いることも可能である。
【0017】
スイッチ収納部21は、シャーシ15の電池収納部19に対してX1方向側に形成されている。この電池収納部19の内部には、メインスイッチ22及び振動数可変装置23が配設されている。また、シャーシ15の矢印X1方向の先端部には、コイルばね13を装着するためのばね装着部28が形成されている。
【0018】
一方、ケース14はメインボディ16、リアキャップ17,及びフロントキャップ18等を有している。上記構成とされたシャーシ15は、このケース14内に収納される。メインボディ16は略筒状の形状を有しており、スイッチ収納部21を内部に収納した状態でシャーシ15に固定される。
【0019】
リアキャップ17は、有底筒状の形状を有している。このリアキャップ17の開口側(X1方向側)の端部には、装着部17Aが形成されている。この装着部17Aは、メインボディ16のX2方向端部に着脱可能な構成とされている。
【0020】
上記構成とされたリアキャップ17は、メインボディ16に装着された状態でシャーシ15に形成された電池収納部19を覆うよう構成されている。よって、乾電池20の交換を行う際、リアキャップ17はメインボディ16から着脱される。
【0021】
また、メインボディ16のX1方向の端部には、装着部16Aが形成されている。この16Aには、フロントキャップ18が装着される。フロントキャップ18は、先端部18Bに開口部18Aが形成されている。そして、この開口部18Aから、後述する振動体12の振動子33が進退可能に突出するよう構成されている。
【0022】
振動体12は、振動モータ30,モータホルダ32,及び振動子33等を有した構成とされている。
【0023】
振動モータ30は、前記した乾電池20を電源として駆動される。また、偏心ウエイト31は、振動モータ30の回転軸に取り付けられている。偏心ウエイト31はその重心が振動モータ30の回転軸からずれているため、振動モータ30が回転することにより振動が発生する。なお、振動モータ30は図示しない配線により、前記した振動数可変装置23に接続されている。
【0024】
モータホルダ32は、振動モータ30を保持するホルダである。このモータホルダ32のX2方向端部には、コイルばね13を装着するためのばね装着部34が形成されている。また、モータホルダ32のX1方向端部には、振動子33が固定される。
【0025】
更に、ばね装着部34には、X2方向延出する操作レバー24が設けられている(図1には現れず。図3参照)。この操作レバー24は振動数可変装置23の一部を構成するものであり、コイルばね13を挿通してシャーシ15のスイッチ収納部21内まで延出するよう構成されている。なお、操作レバー24の詳細については、後述するものとする。
【0026】
振動子33は、使用者の施術部に直接接触する部位である。よって、振動モータ30が回転することにより振動が発生すると、この振動は振動子33に伝達されて振動し、これにより施術部に対するマッサージが実施される。
【0027】
コイルばね13は、そのX2方向側の端部がシャーシ15のばね装着部28に接続されている。また、コイルばね13のX1方向側の端部は、モータホルダ32のばね装着部34に接続されている。このように本実施形態に係るマッサージ装置10は、本体部11と振動体12が分離された構成とされており、この分離された本体部11と振動体12をコイルばね13により接続した構成とされている(図2参照)。
【0028】
上記構成とされたマッサージ装置10を組み立てるには、先ずシャーシ15にメインスイッチ22、振動数可変装置23、及び乾電池20用の配線35等を配設することにより本体部11を作製する。次に、振動モータ30に偏心ウエイト31を取り付け、この振動モータ30をモータホルダ32に配設する。なお、モータホルダ32のX2方向端部には、操作レバー24が予め設けられている。
【0029】
次に、シャーシ15のばね装着部28とモータホルダ32のばね装着部34との間に、コイルばね13を配設する。これにより、シャーシ15とモータホルダ32は、コイルばね13を介して接続された状態となる。
【0030】
次に、シャーシ15にメインボディ16を固定する。具体的には、筒形状とされたメインボディ16の貫通孔16Bに振動モータ30、モータホルダ32、及びコイルばね13を挿入し、その上でメインボディ16をシャーシ15に接着剤等を用いて固定する。
【0031】
メインボディ16がシャーシ15に固定された状態で、モータホルダ32の先端部(偏心ウエイト31が位置する部位)は、メインボディ16のX1方向の先端部から突出した状態となる。振動子33は、モータホルダ32のメインボディ16の先端部から突出した部分に取り付けられる。
【0032】
次に、メインボディ16の装着部16Aには、振動子33を覆うようにフロントキャップ18が装着される。フロントキャップ18は開口部18Aが形成されており、フロントキャップ18をメインボディ16に装着した状態で、振動子33はこの開口部18Aから突出した状態となる。
【0033】
振動子33は、外周に鍔部33Aが形成されている。そして、この鍔部33Aがフロントキャップ18に形成された先端部18Bの背面側と当接することより、振動子33のフロントキャップ18からの離脱が防止されている。
【0034】
なお、リアキャップ17はシャーシ15の電池収納部19に乾電池20を装着後、乾電池20を覆うようにメインボディ16に装着される。
【0035】
以上の工程を行うことにより、マッサージ装置10は組み立てられる。この組み立て状態において振動子33がX2方向に押圧されると、コイルばね13は圧縮変形して振動子33はフロントキャップ18に対してX2方向に変位する。また、この押圧が解除されることにより、コイルばね13は弾性復元し、これにより振動子33は再び先端部18Bの背面と当接する位置(以下、この位置をイニシャライズ位置という)に戻る。
【0036】
ここで、本体部11の重量M1と振動体12の重量M2とを比較する。前記のように、本体部11は、ケース14(メインボディ16,リアキャップ17)とシャーシ15とを有し、電池収納部19には重量物である乾電池20が収納される。これに対し、振動体12は、モータホルダ32内に振動モータ30と偏心ウエイト31を設けた構成である。このため、本体部11の重量M1は振動体12の重量M2に比べて数倍の重量となっている(M1≫M2)。
【0037】
本実施形態では、本体部11と振動体12を分離すると共に、振動体12の重量M2を本体部11の重量M1に比べて小さく設定している。よって、施術部をマッサージする(振動を印加する)には、軽量の振動体12のみを振動させればよい。このため、低出力の振動モータ30で所望の振動を生成させることが可能となる。また、振動モータ30の消費電力を低減でき、乾電池20の長寿命化を図ることができる。
【0038】
更に、本体部11と振動体12の間には重量差があり、また本体部11と振動体12の間にコイルばね13が配設されている。このため、振動体12で振動を発生させても、この振動により本体部11が振動するようなことはない。よって、振動体12で発生した振動をマッサージを行う施術に作用させることができ、効率の高いマッサージを実施することができる。
【0039】
次に、マッサージ装置10の電気回路について説明する。前記のように、マッサージ装置10は乾電池20を電源として、振動モータ30を駆動することにより振動を発生させる構成とされている。このため本実施形態では、乾電池20と振動モータ30とを電気的に接続するためのメインスイッチ22及びモータ30で発生する振動を可変する振動数可変装置23を有している。
【0040】
メインスイッチ22は、マッサージ装置10を使用する際に使用者により操作されるスイッチである。このメインスイッチ22をONにすることによりマッサージ装置10は使用可能な状態となり、逆にメインスイッチ22をOFFとすることによりマッサージ装置10は停止状態となる。なお、メインスイッチ22をONにしても、マッサージ装置10は直ちに振動を開始しない構成となっている。
【0041】
振動数可変装置23は、操作レバー24、フォトインタラプタ25、及び可変抵抗器26等により構成されている。操作レバー24は、振動体12(具体的には、モータホルダ32)に接続されている。この操作レバー24は、振動体12からX2方向に延出しており、その先端部はコイルばね13を挿通してフォトインタラプタ25の形成位置まで延出するよう構成されている。
【0042】
フォトインタラプタ25は、発光素子25Aと受光素子25Bとにより構成されている。発光素子25Aから受光素子25Bに向け光が照射されており、この光が操作レバー24により遮られることにより、フォトインタラプタ25はOFF/ONされる構成となっている。本実施形態では、振動子33(振動体12)がイニシャライズ位置にあるとき、操作レバー24はフォトインタラプタ25から離間するよう構成されている。
【0043】
このイニシャライズ位置から振動子33(振動体12)が押圧されてX2方向に変位すると、操作レバー24は発光素子25Aと受光素子25Bとの間に進行し、発光素子25Aから受光素子25Bへの光を遮るよう構成されている。フォトインタラプタ25は、これを検出して振動モータ30を起動する。本実施形態では、振動子33(振動体12)が約1mm変位することにより、振動モータ30が起動されるよう操作レバー24及びフォトインタラプタ25の配設位置を調整している。
【0044】
また、操作レバー24には操作部27が設けられており、この操作部27と対向する位置には可変抵抗器26が配設されている。可変抵抗器26の電気抵抗は、操作部27がX1,X2方向に移動することにより可変される構成となっている。
【0045】
具体的には、振動子33(振動体12)がイニシャライズ位置にあるときの可変抵抗器26は低抵抗Rとなっている。これに対し、操作部27がX2方向に移動するに従い、可変抵抗器26の抵抗値は漸次大きくなるよう構成されている。そして、図3(B)に示す振動子33(振動体12)がX2方向に最も移動した状態で、可変抵抗器26の抵抗値が最大抵抗値Rとなる位置まで操作部27が移動するよう構成されている。
【0046】
上記構成とされた可変抵抗器26を振動モータ30の駆動回路に組み込むことにより、振動子33(振動体12)のX1,X2方向の移動に伴い、振動モータ30に印加する電圧を可変することが可能となる。振動モータ30に印加する電圧は、偏心ウエイト31を設けた振動モータ30が発生する振動数と相関する。よって、本実施形態に係るマッサージ装置10は、振動子33(振動体12)のX1,X2方向の移動に伴い、発生する振動の振動数を可変することができる。
【0047】
本実施形態では、振動子33(振動体12)をX2方向に押し込むに従い、振動モータ30の回転数が漸次減少するよう構成されている。前記のように、振動モータ30には偏心ウエイト31が取り付けられており、この偏心ウエイト31が回転することにより振動が発生する。よって、振動モータ30の回転数の増減に伴い、発生する振動の振動数も増減することになる。
【0048】
ここで、本発明者がマッサージ装置10を用いて実施した、血流上昇効果(血行促進効果)を測定した実験結果について説明する。
【0049】
本実験では20代〜30代の女性4名を被験者とし、この各被験者にマッサージ装置10を用いて目元を2分間マッサージしてもらい、マッサージ実施前の血流とマッサージ後の血流の変化を血流測定機で測定した。
【0050】
また、マッサージを実施するに際し、施術部に対する振動子33の押圧力の大きさ(N)と、振動モータ30の回転数(rpm)とをパラメータとし、この二つのパラメータの組み合わせを変化させ、それぞれについて血流変化を求めると共に被験者の使用感の官能検査(アンケートによる)も実施した。
【0051】
図4は、本実験の実験結果を示している。先ず押圧力に注目すると、同図に示されるように押圧力が1.2Nを越えると、押圧が強くて痛いと感じる人が出てくることが判った。よってマッサージ装置10の使用感を良好とするためには、押圧力を1.2N以下とすることが望ましい。
【0052】
一方、振動モータ30の回転数に注目すると、回転数が7500rpmを超えると振動が強く、使用感が悪いと感じる人が出てくることが判った。よって、マッサージ装置10の使用感を良好とするためには、振動モータ30の回転数を7500rpm以下とすることが望ましい。
【0053】
また、押圧力及びモータの回転数を低く設定すると、マッサージ効果が低減してしまう。押圧力に関しては、0.6N未満の押圧力ではマッサージ効果を実感できない人が出てきた。同様に、振動モータ30の回転数では4000rpm未満ではマッサージ効果を実感できない人が出てきた。
【0054】
よって、本実験より押圧力を0.6N以上1.2N以下とし、かつ、振動モータ30の回転数を4000rpm以上7500rpm以下とすることにより、マッサージ装置10の使用性を高めることができると共に、被験者が確実なマッサージ効果を実感できることが判明した。
【0055】
以上の実験結果に基づき、前記した振動数可変装置23は、振動体12のX1,X2方向の移動に伴い、振動モータ30の回転数を4000rpm〜7500rpmの範囲で変更されるよう構成した。前記のように、振動モータ30の回転数は、偏心ウエイト31の回転により発生する振動数に相関している。よって、押圧力に応じて振動モータ30の回転数を4000rpm〜7500rpmの範囲で変更することにより、施術部に対して心地よい振動を印加することができる。特に、図4に矢印Aで示す領域内において、高い使用性及びマサージ効果を得ることができた。
【0056】
また、図4には押圧力と回転数を変化させた場合の血流上昇率も合わせて記載しているが、上記した領域A内においては血流上昇率が高まっており、これにより押圧力を0.6N以上1.2N以下とし、かつ、振動モータ30の回転数を4000rpm以上7500rpm以下とすることにより、高いマッサージ効果を得られることが実証された。
【0057】
一方、マッサージ装置10は使用者に把持されて使用されるものであるため、誤って強く施術部を押圧してしまうことがある。この場合、使用感が不良となると共に、施術部が赤くなってしまうことが考えられる。
【0058】
そこで、本実施形態に係るマッサージ装置10は、1.2Nを越える押圧力がされた場合、振動子33がフロントキャップ18内に入り込むよう設定した。これについて、図5を用いて説明する。図5は、フロントキャップ18の先端近傍を拡大して示す概略構成図である。
【0059】
図5(A)は、振動子33に対して加圧が全くない状態を示している。この時、振動体12に設けられた操作レバー24はフォトインタラプタ25から離間しており、よって振動モータ30は停止した状態となっている(図3(A)参照)。
【0060】
図5(B)は、振動子33が押圧(1.2N以下の押圧力で押圧)されて距離ΔX(1mm以上)だけX2方向に移動した状態を示している。これにより、操作レバー24は発光素子25Aと受光素子25Bとの間に進行し、振動モータ30が起動される(図3(B)参照)。通常は、この状態において施術部に対してマッサージが実施される。
【0061】
図5(C)は、振動子33が1.2Nを越す押圧力(図中、図中矢印Fで示す)で押圧された状態を示している。マッサージ装置10は、コイルばね13の伸縮に伴い振動子33がフロントキャップ18に対して進退可能な構成となっている。本実施形態では、振動子33が施術部を押圧する押圧力が1.2N(請求項に記載の既定値)以上となったとき、振動子33がフロントキャップ18内に入り込むよう構成している。
【0062】
この状態では、振動子33はフロントキャップ18の先端部18Bと略面一の状態となっている。このため、それ以上の負荷で施術部が押圧されることを防止でき、施術部が赤くなったり、また使用者に不快な使用感を与えたりすることを防止できる。
【0063】
次に、コイルばね13の選定方法について説明する。
【0064】
マッサージ装置10の施術部となる皮膚(以下、皮膚AAと示す)は、一種の弾性体として考えられる。図6は、マッサージ装置10を構成する振動体12と皮膚AAを弾性体として示したモデル図である。
【0065】
使用者の皮膚AA(施術部)は、例えば顔を例に挙げると骨格上に真皮,表皮等が積層された構造を有し、またこの真皮,表皮等は弾性的に変形が可能なものである。よって、皮膚AAは、ばね定数(K2)を有した一種のばねと等価なものと考えることができる。従って、これをばねのモデルとして描くと、図6に示すように、振動モータ30(接触部17)の一方にばね定数K1のコイルばね13が接続し、他方にばね(ばね定数K2)としての皮膚AAが接続したモデルが形成される。
【0066】
ここで、図6に示すモデルにおいて、皮膚AAのばね定数が所定値であると仮定し(K2=一定)、この条件の下でコイルばね13のばね定数(K1)を変化させることを考える。先ず、皮膚AAのばね定数K2に対してコイルばね13のばね定数K1が大きい場合(K1>K2)を想定する。図7(A)はこの状態を示している。
【0067】
コイルばね13のばね定数K1が皮膚AAのばね定数K2よりも大きい(K1>K2)場合、振動モータ30は強く皮膚AAに対して押圧されることとなる。また、振動モータ30で発生する振動は、コイルばね13で減衰されることなく皮膚AAに伝達され、よって皮膚AAの奥まで振動が印加されることとなる。よって、皮膚AAの深層まで振動モータ30の振動は作用し、血管拡張が増大しマッサージ効果の向上を図ることができる。
【0068】
一方、コイルばね13のばね定数K1が皮膚AAのばね定数K2よりも小さい(K1<K2)場合、振動モータ30の皮膚AAに対する押圧力は小さくなる。図7(B)は、この状態を示している。またこの状態では、振動モータ30で発生する振動は、コイルばね13のばね定数K1が小さいことによりコイルばね13で減衰され、皮膚AAへの伝達は小さくなる。よって振動モータ30の振動は、皮膚AAの表層のみに作用することとなり、皮膚AAの深層に対する作用は少ないが、皮膚AAの表層における血管拡張の増大は期待することができる。
【0069】
なお、近年の研究(Jouranal of Investigative Dermotology 2009 Ikeyama ら)において、皮膚AAの表皮に対して圧刺激を行うことにより、皮膚AAの表皮から血管拡張因子(NO)が産生され、表皮直下の血管やリンパ管を拡張させることが明らかになった。よって、コイルばね13のばね定数K1を皮膚AAのばね定数K2よりも小さく設定することにより、表層付近に圧を負荷し、血管拡張因子産生を促し血行促進などの美容効果の増進を期待することができる。
【0070】
ところで、上記の説明では皮膚AAのばね定数K2を一定であると仮定して説明を行ってきたが、実際に使用者Aの皮膚AAの状態は各部位で異なり、それぞれの物理特定(上記のばね定数も含む)も異なる。そこで本発明者は、マッサージ装置10Aを使用する使用者Aの皮膚AAの物理特性を測定し、その測定結果に基づきコイルばね13のばね定数K1を求めることを試みた。
【0071】
図6及び図7に示したモデル図からすると、使用者Aの皮膚AAのばね定数K2を直接測定することができることが望ましい。しかしながら、実際は使用者Aの皮膚AAのばね定数K2を直接測定することは困難である。そこで、本発明者は皮膚AAの物理特性として皮膚AAの応力を測定し、この皮膚の応力に基づきコイルばね13のばね定数K1を設定することとした。具体的には、本実施形態において「皮膚の応力」とは、1秒間に10mm皮膚を押したときに得られる応力と定義する。
【0072】
一般に、皮膚AAが柔らかい部分は皮膚の応力が小さく、よって皮膚AAのばね定数K2は小さい。逆に皮膚AAが硬い部分は皮膚の応力が大きく、よって皮膚AAのばね定数K2は大きい。このように、皮膚AAの皮膚の応力と皮膚AAのばね定数K2は相関関係があるため、皮膚AAの皮膚の応力に基づきコイルばね13のばね定数K1を設定することが可能である。
【0073】
図8は、本発明者が実験により求めた、皮膚の応力とコイルばねの線径との関係、及び皮膚の応力とコイルばねのばね定数との関係を示している。
【0074】
本発明者は、皮膚の応力とコイルばねの線径との関係を求めるため、次のような実験を行った。皮膚の応力については、フォースケージを所定の顔の測定点に押し当てて皮膚の応力の測定を行った。
【0075】
一方、外径及び自由長を一定値とした上で、線径を変化させた各種コイルばねを用意し、皮膚の応力を測定するのと同様の方法で各種コイルばねを押圧したときに発生する応力をフォースケージで測定した。
【0076】
具体的には、各種コイルばねをフォースケージで1秒間に10mm押し、この時にフォースケージで測定される応力を求めた。この際、本実施形態で、コイルばねの外径を10mmとし、自由長を20mmとして応力測定を行った。
【0077】
本実施形態では、皮膚の応力を0.1g未満(柔らかい)、0.1g以上0.2g未満(やや柔らかい)、0.2g以上0.3g未満(やや硬い)、0.3g以上(硬い)の四分類に区分した。そこで、コイルばねの線径と応力との関係についても、測定されたコイルばねの応力を皮膚の応力の四分類に対応するよう分類したところ、図8に示すように線径が分類された。
【0078】
即ち、皮膚の応力が0.1g未満(柔らかい)に対応するコイルばねの線径は0.53mm未満であった。また、皮膚の応力が0.1g以上0.2g未満(やや柔らかい)に対応するコイルばねの線径は0.53mm以上0.65mm未満であった。また、皮膚の応力が0.2g以上0.3g未満(やや硬い)に対応するコイルばねの線径は0.65mm以上0.75mm未満であった。更に、皮膚の応力が0.3g以上(硬い)に対応するコイルばねの線径は0.75mm以上であった。
【0079】
ところで、上記した皮膚の応力とばね線径との相関関係では、コイルばねの外径及び自由長が一定に規定されたものであるため、コイルばね選定に際し一般化されていないため使用し難い面がある。このため本実験者は、コイルばねの線径とばね定数との相関についても求めることとした。周知のようにばね定数と線径は相関しているため、この相関関係に基づき線径からばね定数を求めることができる。このようにして求めたばね定数の値を、図8に皮膚の応力の分類に対応するよう記載した。
【0080】
その結果、皮膚の応力が0.1g未満(柔らかい)に対応するコイルばねのばね定数は0.2N/mm未満であった。また、皮膚の応力が0.1g以上0.2g未満(やや柔らかい)に対応するコイルばねのばね定数は0.2N/mm以上0.4N/mm未満であった。また、皮膚の応力が0.2g以上0.3g未満(やや硬い)に対応するコイルばねのばね定数は0.4N/mm以上1.0N/mm未満であった。更に、皮膚の応力が0.3g以上(硬い)に対応するコイルばねのばね定数は1.0N/mm以上であった。
【0081】
図8を用いて、マッサージ装置10に配設されるコイルばね13のばね定数K2(線径)を設定する具体的な方法について説明する。
【0082】
コイルばね13のばね定数を設定するに際し、先ず本発明者は目元領域(以下、目元領域EKと示す)の皮膚の応力を測定した。測定位置は、図9に示すように、目Eの下部で目頭から目の中心位置との間の中間位置(図中、P1で示す位置)と、目尻の下(図中、P2で示す位置)とを測定した。また皮膚の応力の測定方法は、図10(A)〜図15(A)に示す被験者に対し、目元領域EKの皮膚の応力を測定する実験を行った。この皮膚の応力の測定は、フォースケージを用いて行った。
【0083】
その結果を図10(B)〜図15(B)に示す。各図において測定値は、上記と同様に0.1g未満(柔らかい)、0.1g以上0.2g未満(やや柔らかい)、0.2g以上0.3g未満(やや硬い)、0.3g以上(硬い)の四分類に区分し、それぞれを濃淡を分けて付すことにより表示している。
【0084】
本実施形態では、図10〜図15に示す各被験者の皮膚の応力の平均値を取り、この平均値に基づきコイルばね13のばね定数を選定するものとする。なお、図8に示した皮膚の応力とコイルばねの線径及びばね定数との相関図は、顔を対象としたものであり目元その測定結果に対しても適用可能なものである。
【0085】
図10〜図15に示す各被験者の皮膚の応力の平均値は、約0.31gであった。よって、図8より目元付近のばね定数は約1N/mm以上である。よって本実施形態では、コイルばね13は、ばね定数として1N/mm未満のものを選定した。このように設定することにより、コイルばね13のばね定数K1は目元領域EKのばね定数よりも小さくすることができ、目元領域EKにおける表皮近傍における血行の促進を図ることができ、目にくまが発生してもこれを確実に療養することが可能となる。
【0086】
なお、図1に示したマッサージ装置10では、本体部11にフロントキャップ18を設け、振動子33が所定値以上の押圧力で押圧された際、振動子33がフロントキャップ18内に入り込むよう構成した(図5参照)。しかしながら、フロントキャップ18は必ずしも設ける必要はなく、例えば図16に示すマッサージ装置40のように、本体部11にフロントキャップを設けず、よって振動体12(振動子33)が本体部11内に張り込まない構成とすることも可能である。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は上記した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能なものである。
【符号の説明】
【0088】
10,40 マッサージ装置
11 本体部
12 振動体
13 コイルばね
14 ケース
15 シャーシ
16 メインボディ
17 リアキャップ
18 フロントキャップ
18A 開口部
18B 先端部
20 乾電池
21 スイッチ収納部
22 メインスイッチ
23 振動数可変装置
24 操作レバー
25 フォトインタラプタ
26 可変抵抗器
27 操作部
30 振動モータ
31 偏心ウエイト
32 モータホルダ
33 振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電源が収納された本体部と、
前記本体部と分離されており、前記電源から給電されて振動子が振動することにより施術部をマッサージする振動体と、
一端が前記本体部に固定されると共に他端が前記振動体に固定されたばね部材と、
前記振動体の重量を前記本体部の重量よりも小さく設定し、
前記バネ部材のバネ定数を、前記施術部の皮膚の応力に基づき設定したことを特徴とするマッサージ装置。
【請求項2】
前記本体部にキャップを設け、
前記振動体を前記ばね部材の伸縮に伴い前記キャップに対して進退可能な構成としたことを特徴とする請求項1記載のマッサージ装置。
【請求項3】
前記施術部に対する押圧力が既定値以上となったとき、前記振動体が前記キャップ内に入り込むよう構成したこと特徴とする請求項2記載のマッサージ装置。
【請求項4】
前記振動体の移動に応じて、前記振動子の振動数を可変する振動数可変手段を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のマッサージ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図16】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−13548(P2013−13548A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148249(P2011−148249)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000001959)株式会社 資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】