説明

マッシュルーム由来の有効成分の製造方法

【課題】マッシュルームから核内受容体であるPPARγを活性化し、脂肪細胞への分化を促進する有効成分を効率よく抽出する方法を提供する。
【解決手段】(1)マッシュルームに、マッシュルームの質量に対して0.5〜50倍の質量の水を加えた後、マッシュルームを破砕して、マッシュルーム破砕物を得、次いで前記マッシュルーム破砕物を加熱することにより、殺菌を行うと共に、マッシュルームの組織を部分的に分解し、マッシュルーム破砕加熱物を得る工程;(2)前記マッシュルーム破砕加熱物を、40〜60℃の温度でセルラーゼまたはヘミセルラーゼを用いて酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得る工程;(3)前記マッシュルーム破砕酵素処理物を、40〜121℃に加熱して熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得る工程、を有し、前記(1)または(2)の工程のいずれかにおいて、マッシュルーム破砕物のpHが3〜6になるように、酸を添加する、脂肪細胞分化促進物質の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マッシュルームから脂肪細胞分化促進物質を製造する方法に関する。特に、本発明は、マッシュルームから核内受容体であるPPARγ(peroxisome proliferator-activated receptor γ:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ)を活性化し、脂肪細胞への分化を促進する脂肪細胞分化促進物質を有効成分として、効率よく抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、暮らしが豊かになったことによる飽食、および高脂肪食摂取への食生活の欧米化、また社会環境の変化による肉体労働の減少、それに伴う運動量の減少、そしてストレスが引き金の一つとされる暴飲暴食により、現代人は肥満になりやすい状態にある。
【0003】
肥満は増加の一途を辿っており、WHO(世界保健機関)は肥満に関わる糖尿病、高脂血症、高血圧、動脈硬化、脂肪肝などの生活習慣病に対するリスクの増大に対して世界各国に警告を発している。肥満による内臓脂肪の蓄積が元となって、糖代謝異常(糖尿病)、脂質代謝異常(高脂血症)、高血圧などの動脈硬化の危険因子が複数重なった状態をメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)という。
【0004】
メタボリックシンドロームは、日本では、平成16年の国民健康・栄養調査において、該当者は、940万人いると推計され、予備軍も合わせると1,960万人にのぼり、とりわけ40歳から74歳の中年男性に多く、その4分の1を占めている。平成20年4月からは、医療保険者(国保・被用者保険)において、40歳以上の被保険者・被扶養者を対象とする、内蔵脂肪型肥満に着目した検診および保健指導の事業実施が義務付けられるなど、国をあげて対策に取り組んでいる。
【0005】
メタボリックシンドロームにおいて、糖尿病を例にすると、原因の一つにインスリン抵抗性(グルコース代謝の異常)が挙げられる。インスリン抵抗性とは、インスリンの作用効果が低下している状態である。インスリン抵抗性は、肥満体の人に比較的多く見られる。基礎代謝を上回る栄養分が継続的に細胞に取り込まれると脂肪細胞が肥大化し、インスリンの働きを向上させる物質(アディポネクチン)の分泌量が減る一方、インスリンの働きを阻害する物質(TNA−αや遊離脂肪酸)が多く分泌されるようになる。その結果、インスリンの作用効果が低下していくことにより、やがて糖尿病を疾患しうる。このインスリン抵抗性を改善する治療薬の成分として、チアゾリジン誘導体が知られている(例えば、特許文献1)。該治療薬の作用機序は、該誘導体が核内受容体であるPPARγに結合し、PPARγの活性を上昇させ、前駆脂肪細胞を肥大化していない正常な脂肪細胞に分化誘導すると同時に、肥大化した脂肪細胞のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖および脂質代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。このような脂肪細胞の働きで糖尿病のみならず、高脂血症の予防に繋がることになる。このような効果は、薬用ニンジンに含まれるサポニンでも確認されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1によるように、合成化合物を使用する場合には、人体に対して有害な副作用を引き起こす可能性があり、食品のように日常的に摂取することは難しい。このため、人体に対して有害な副作用を生じさせることなく、優れた分化促進効果を発揮する物質の開発が待望されている。
【0007】
このような問題をかんがみて、経口での摂取が可能な食品由来の抽出物であって脂肪細胞への分化を促進する効果を有するものの研究がなされている。例えば、アブラナ科植物のスプラウト由来の組成物(例えば、特許文献2)、グルカゴン分泌亢進作用を有するアミノ酸類の少なくとも1種、キサンチン誘導体の少なくとも1種、イソフラボン類の少なくとも1種、およびカルニチン類もしくはカルニチン前駆体の少なくとも1種を含有してなるメタボリックシンドロームの予防、改善または治療組成物(例えば、特許文献3)などが報告されている。特許文献2の組成物は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への細胞分化促進活性を有し、糖尿病や関連疾患の進行防止や改善に期待できる。また、特許文献3の組成物は、生体内における脂肪の合成を抑制し、脂肪の分解を促進し、さらには効果的に脂肪を燃焼する作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−143556号公報
【特許文献2】特開2007−70271号公報
【特許文献3】特開2008−291002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、上記したような経口での摂取が可能な食素材について、前駆脂肪細胞を脂肪細胞へと分化促進させる活性を広範にスクリーニングした。その結果、マッシュルームの抽出物にPPARγ活性化能があり、前駆脂肪細胞を脂肪細胞へと分化促進させる活性があることを見出した。この際、従来では、マッシュルームを水抽出、特に熱水抽出することによって、PPARγ活性化能を有するマッシュルーム抽出物を得ていた。
【0010】
しかしながら、当該方法では、目的とする有効成分のマッシュルームからの収率(特に抽出効率)が十分でなかった。このため、マッシュルームから目的とする有効成分を効率よく抽出する方法が希求されていた。
【0011】
すなわち、本発明の目的は、マッシュルームから核内受容体であるPPARγを活性化し、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進する有効成分を効率よく抽出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。その結果、従来までの熱水抽出に、殺菌(前殺菌)をかねての加熱(煮沸)操作および植物組織崩壊酵素であるセルラーゼまたはヘミセルラーゼを所定のpHで作用させる酵素処理操作を組み合わせることで、抽出効率を上げることができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0013】
本発明の方法によれば、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化を促進する作用のある有効成分を、マッシュルームから効率よく製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例2のヒトモニター試験における空腹時血糖値の測定試験の総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図2】実施例2のヒトモニター試験における空腹時血糖値の測定試験の検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【図3A】実施例2のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図3B】実施例2のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、300mg/dL以上の群についての総合的な推移の結果を示すグラフである。
【図4A】実施例2のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【図4B】実施例2のヒトモニター試験における空腹時中性脂肪の測定試験のうち、300mg/dL以上の群についての検体ごとの推移の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、マッシュルームから脂肪細胞の分化を促進する有効成分を効率よく製造(抽出)する方法に関するものである。なお、本明細書中では、「有効成分」と「脂肪細胞分化促進物質」とを、同じ意味で相互に使用される。詳細には、(1)マッシュルームに、マッシュルームの質量に対して0.5〜50倍の質量の水を加えた後、マッシュルームを破砕して、マッシュルーム破砕物を得、次いで前記マッシュルーム破砕物を加熱することにより、殺菌を行うと共に、マッシュルームの組織を部分的に分解し、マッシュルーム破砕加熱物を得る工程;(2)前記マッシュルーム破砕加熱物を、40〜60℃の温度でセルラーゼまたはヘミセルラーゼを用いて酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得る工程;(3)前記マッシュルーム破砕酵素処理物を、40〜121℃に加熱して熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得る工程、を有し、前記(1)または(2)の工程のいずれかにおいて、マッシュルーム破砕物のpHが3〜6になるように、酸を添加することを特徴とする脂肪細胞分化促進物質の製造方法である。なお、本明細書において、「マッシュルーム破砕物」とは、(1)の工程中のマッシュルーム、マッシュルーム破砕物、マッシュルーム破砕加熱物および(2)の工程で得られるマッシュルーム破砕酵素処理物を包含することを意図して使用される。すなわち、pHが3〜6になるように、酸が添加される被pH処理物が、マッシュルーム破砕物である。
【0016】
このような方法によると、目的とする有効成分のマッシュルームからの抽出効率(収率)を上げることができる。
【0017】
また、上記方法によって製造される有効成分は、高いPPARγ活性化能を有し、前駆脂肪細胞を脂肪細胞へと分化促進させる活性に優れる。ここで、「PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)」とは、ステロイド受容体スーパーファミリーに属する核内受容体タンパク質であり、現在までにα,γ,δの三つのサブタイプが報告されている。このうち、PPARαは、肝臓、膵臓、骨格筋に多く発現し、脂肪酸燃焼を調節し、PPARγは、脂肪細胞の分化に重要な役割を果たしている。PPARγの活性が上昇すると、前駆脂肪細胞を肥大化していない正常な脂肪細胞に分化誘導すると同時に、肥大化した脂肪細胞のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖および脂質代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。このような脂肪細胞の働きで糖尿病のみならず、高脂血症の予防に繋がることになる。
【0018】
したがって、本発明の方法によって製造される有効成分としての脂肪細胞分化促進物質は、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への細胞分化促進を目的とする医薬品、食品(健康食品)、飲料(健康飲料)などへの利用が期待できる。
【0019】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
1.工程(1)
本工程では、マッシュルームに、マッシュルームの質量に対して0.5〜50倍の質量の水を加えた後、マッシュルームを破砕して、マッシュルーム破砕物を得る。
【0021】
本発明で用いられるマッシュルームは、生物学的分類でいえば、ハラタケ科(Agaricaceae)ハラタケ属(Agaricus)に属するAgaricus bisporusまたはAgaricus campestrisと表される。
【0022】
品種に関しては、特に限定されることなく、ホワイト種、オフホワイト種、クリーム種、ブラウン種、Agaricus bitorquis種などが例示され、いずれも好ましく使用することができる。
【0023】
また、前記マッシュルームの利用可能な部位についても特に限定されることはなく、傘、ひだ、管孔、柄、肉、つば、つぼ、石突き、グレバ等よりなる部位から選択される一種以上が挙げられる。すなわち、一部位を単独で用いてもよく、また、複数の部位を混合して用いてもよい。
【0024】
さらに、マッシュルームは、生、乾燥、冷凍、凍結乾燥したもののいずれであっても好ましく使用される。
【0025】
使用するマッシュルームは、そのままでも使用することができるが、水洗することが好ましい。水洗することによりマッシュルームに付着した不純物を取り除くことができ、抽出物の純度を向上させることができる。このような場合には、マッシュルームの水洗後、マッシュルームを乾燥してもよい。
【0026】
本工程では、マッシュルームに、マッシュルームの質量に対して、0.5〜50倍の質量の水を加え、破砕し、マッシュルーム破砕物を得る。上記水の添加量は、上記範囲であれば特に制限されないが、マッシュルームの状態によって適宜調節されることが好ましい。例えば、マッシュルームを生や冷凍状態で使用する場合には、マッシュルームは水をある程度含んでいる。このため、このような場合には、水は比較的少量添加すれば十分であり、具体的には、水を、マッシュルームの質量に対して、0.5〜10倍の質量で、より好ましくは1〜5倍の質量で、添加することが好ましい。また、マッシュルームを乾燥物や凍結乾燥物の形態で使用する場合には、マッシュルームは水を少量しか含んでいないあるいはほとんど含んでいない。このため、このような場合には、水を、生や冷凍状態で使用する場合に比して、比較的多量添加する必要があり、具体的には、水を、マッシュルームの質量に対して、5〜50倍の質量で、より好ましくは10〜30倍の質量で、添加することが好ましい。このような範囲であれば、マッシュルームを効率よく破砕できる。なお、本明細書において、「マッシュルームの質量に対して」とは、工程(1)の出発原料であるマッシュルームの質量を基準とすることを意味する。
【0027】
また、本工程で使用される水は、特に制限されず、水道水、蒸留水、純水、イオン交換水など、いずれを使用してもよい。
【0028】
また、本工程の破砕は、特に制限されず、公知の方法によって行われる。例えば、ブレンダー、石臼式破砕機、ローラーミル、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、ハンマーミル等の破砕機を使用できる。または、マッシュルームを予め上記したような粉砕機を用いて機械的処理して、マッシュルームの粗片を得た後、当該粗片をさらに超音波による破砕を行うことによって、マッシュルーム破砕物を得てもよい。後者の場合に機械的処理されるマッシュルームは、10μm以下程度の大きさになるように破砕されることが好ましい。超音波破砕条件は、マッシュルームが適度な大きさになるような条件であれば特に制限されないが、5〜20分間、処理することが好ましい。本工程で得られるマッシュルーム破砕物の大きさは、特に制限されない。好ましくは、マッシュルーム破砕物の大きさが、0.001〜2mm、より好ましくは0.005〜1mm程度である。このような大きさであれば、後の工程(2)で酵素処理が効率よく行われ、さらに工程(3)での熱水抽出操作による有効成分の抽出効率の向上が期待できる。
【0029】
上記操作において、加熱処理や酵素処理等の効率の向上を目的として、破砕後に、必要であれば、さらに水を添加してもよい。この際、水の添加量は、特に制限されず、所望の効果によって適宜選択される。好ましくは、工程(1)中、マッシュルームに添加される水の全量が、マッシュルームの質量に対して上記範囲となるような量である。
【0030】
次に、得られたマッシュルーム破砕物を加熱(殺菌)する。マッシュルームには、多数の微生物が付着しているため、殺菌処理を行わないと、次工程(2)において、これら微生物が増殖し、微生物そのものあるいは微生物からの分泌物が次工程における酵素処理を阻害する可能性がある。また、次工程(2)もしくは(3)において繁殖した微生物が抽出成分を資化する、もしくは食品としては好ましくない毒素等を分泌する可能性があるため、このような加熱(殺菌)操作により、マッシュルームに付着している細菌の繁殖を以降の製造工程において防ぐことができる。また、マッシュルーム破砕物の組織(例えば、細胞壁)を更に部分的に熱分解することもできるため、得られるマッシュルーム破砕加熱物は次の工程(2)で酵素処理を受けやすくなり、その結果、工程(3)での抽出効率を上げることができる。
【0031】
マッシュルーム破砕物の加熱条件は、上記したような効果が達成できるような条件であれば、特に制限されない。例えば、マッシュルーム破砕物を、80〜121℃で5〜60分間、加熱することが好ましく、80〜121℃で10〜30分間、加熱することがより好ましい。
【0032】
2.工程(2)
本工程では、上記工程(1)で得られたマッシュルーム破砕加熱物を、40〜60℃程度まで冷却後、セルラーゼまたはヘミセルラーゼを添加して酵素処理し、マッシュルーム破砕酵素処理物を得る。酵素処理を行うことにより、マッシュルームの細胞壁を分解し、細胞から有効成分を効率よく放出させて、次工程(3)による抽出効率を向上することが可能となる。
【0033】
ここで、セルラーゼまたはヘミセルラーゼは、植物組織崩壊酵素である。また、セルラーゼ及びヘミセルラーゼは、一方を単独で使用してもあるいは双方を組み合わせて使用してもよい。ここで、セルラーゼやヘミセルラーゼは、セルラーゼ活性やヘミセルラーゼ活性を有するいずれの源由来であってもよく、特に制限されない。例えば、Aspergillus niger、Trichoderma reesei、Trichoderma viride、Trichoderma longibrachiatum、Streptomyces lividans、Bacillus subtilis、Pyrococcus horikoshii、Clostridium thermocellum、Humicola、Pyrococcus horikoshii等の細菌由来;アワビ、エゾボラ、ヒメエゾボラ、エゾバイ、サザエ、タマキビ等の巻き貝、二枚貝等の貝由来;マツノザイセンチュウ等の線虫由来;ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)、タカサゴシロアリ(Nasutitermes takasagoensis)、イエシロアリ(Coptotermes formosanus)および豪州産イエシロアリ近縁種(C. acinaciformis)等のシロアリ由来などが挙げられる。また、セルラーゼやヘミセルラーゼは、上記適当な源から公知の方法によって製造してもよいが、市販品を使用してもよい。セルラーゼの市販品としては、例えば、セルラーゼ A「アマノ」3、セルラーゼ T「アマノ」4(いずれも天野エンザイム(株)製);スペザイム CP、GC220、マルチフェクト CL、プリマファースト、インディエイジ、インディエイジ ニュートラ、アクセレラーゼ、オプチマッシュ、マルチフェクトCX10L、オプチマーゼCX40L、ピュラダックス HA(いずれもジェネンコア協和(株)製);GODO−TCF、GODO−TCL、GODO TCD−H3(いずれも合同酒精(株)製);ソフィターゲン・C−1(タイショーテクノス(株)製);超耐熱性セルラーゼ((株)耐熱性酵素研究所製);セルライザー、セルラーゼ XL−522、セルチーム C、セルライザー HT コンク、セルラーゼ SS、セルラーゼ XL−531(いずれもナガセケムテックス(株)製);ベイクザイム XE(日本シイベルヘグナー(株)製);セルソフト、デニマックス、ケアザイム、セルザイム、セルクラスト(いずれもノボザイムズジャパン(株)製);セルロシン AC40、セルロシン AL、セルロシンT3、セルロシンTF(A飼料)(いずれもエイチビイアイ(株)製);セルラーゼ ”オノズカ” 3S、セルラーゼY−NC、パンセラーゼ br(いずれもヤクルト薬品工業(株)製);CellSEB Ts((株)樋口商会製);スミチームAC、スミチームC(いずれも新日本化学工業(株)製);スクラーゼ C(三菱化学フーズ(株)製);エンチロンCM、エンチロンMCH、バイオヒット、バイオスター、フェドラーゼ(いずれも洛東化成工業(株)製)などが挙げられる。また、ヘミセルラーゼの市販品としては、例えば、ヘミセルラーゼ 「アマノ」90(天野エンザイム(株)製);ベイクザイム HS2000、ベイクザイム l Conc(いずれも日本シイベルヘグナー(株)製);エンチロンLQ(洛東化成工業(株)製)などが挙げられる。なお、上記セルラーゼまたはヘミセルラーゼは、上記に限定されるものではない。また、上記セルラーゼまたはヘミセルラーゼは、それぞれ、単独で使用されてももしくは2種以上を組み合わせて使用されてもよく、またはセルラーゼとヘミセルラーゼとを適宜組み合わせて使用してもよい。
【0034】
また、上記セルラーゼまたはヘミセルラーゼの添加量は、上記工程(1)で得られたマッシュルーム破砕加熱物を十分酵素処理できる量であれば特に制限されず、また、使用する酵素の種類などによって適宜選択できる。例えば、セルラーゼまたはヘミセルラーゼの添加量は、工程(1)の出発原料であるマッシュルームの質量に対して、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.02〜5質量%であることがより好ましい。このような範囲であれば、マッシュルーム破砕加熱物を十分酵素処理できる。なお、酵素処理中は、マッシュルーム破砕加熱物と酵素(セルラーゼやヘミセルラーゼ)とが均一にかつ十分混合できるように、攪拌機等で混合することが好ましい。
【0035】
酵素処理条件もまた、上記工程(1)で得られたマッシュルーム破砕加熱物を十分酵素処理できる条件であれば特に制限されない。例えば、酵素処理温度は、30〜60℃、より好ましくは35〜55℃の範囲が好ましく、酵素処理時間は、0.1〜16時間、より好ましくは1〜8時間の範囲が好ましい。なお、2種以上の酵素を併用する場合には、同時に添加して酵素処理を行っても、あるいは各酵素を単独で使用して酵素処理を繰り返し行ってもよい。このうち、各酵素の至適条件が異なる場合には、後者の処理を行うことが好ましい。なお、酵素処理を繰り返し行う場合には、各酵素処理間にも酵素失活処理を行うことが好ましい。
【0036】
本発明では、上記(1)または(2)の工程のいずれかにおいて、マッシュルーム破砕物またはマッシュルーム破砕加熱物のpHが3〜6になるように、酸を添加する。本明細書中では、簡略して、「酸は、マッシュルーム破砕物に添加される」と一括して記載することもある。
【0037】
このように酸の添加によりマッシュルーム、マッシュルーム破砕物、マッシュルーム破砕加熱物またはマッシュルーム破砕酵素処理物のpHを酵素が作用しやすいpHにすることで、有効成分のマッシュルーム破砕加熱物からの抽出効率を更に高めることができる。ここで、酸の添加(pH調整)時期は、上記工程(1)または工程(2)の工程いずれかにおいてなされればよい。具体的には、(ア)破砕を行う前に酸をマッシュルームに添加する;(イ)破砕後加熱を行う前に酸をマッシュルーム破砕物に添加する;(ウ)工程(1)終了後酵素処理前に酸をマッシュルーム破砕加熱物に添加する;(エ)工程(2)終了後工程(3)開始前に酸をマッシュルーム破砕酵素処理物に添加する、などが挙げられる。上記(ア)〜(エ)は、単独で実施されてもあるいは2種以上を組み合わせて実施されてもよい。
【0038】
当該pH調整工程において、好ましくは、マッシュルーム破砕物またはマッシュルーム破砕加熱物のpHが3〜6、より好ましくは3.5〜5.5になるように酸が添加される。このようなpH範囲であると、酵素の活性が高まり有効成分のマッシュルーム破砕加熱物からの抽出効率を更により高めることができる。
【0039】
ここで、酸としては、マッシュルーム破砕物またはマッシュルーム破砕加熱物のpHを所定のレベルに調節して有効成分の抽出効率を高められるものであれば特に制限されず、無機酸または有機酸のいずれも使用されうる。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸、フッ化水素酸等の無機酸;およびリンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、フタル酸、グルコン酸、アジピン酸、食酢、ギ酸、シュウ酸、安息香酸、パラトルエンスルホン酸等の有機酸などが挙げられる。これらのうち、安全性、pHの調節しやすさ、などを考慮すると、有機酸が好ましく使用される。また、例えば、医薬品、食品(健康食品)または飲料(健康飲料)に使用される場合には、安全性などを考慮して、食品添加物として認められているものが好ましい。この点を考慮すると、食品添加物として認められている塩酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、フタル酸、グルコン酸、アジピン酸、食酢等が好ましい。リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、フタル酸、グルコン酸、アジピン酸、食酢等がより好ましい。この際、酸は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、酸は、pH調整を目的として、そのままの形態で添加されてもよいが、水溶液等の他の形態で添加されてよい。後者の場合、溶液中の酸濃度は、マッシュルーム破砕物/マッシュルーム破砕加熱物のpHを所定のレベルに調節できる濃度であれば特に制限されず、取り扱いのしやすさ、酸の種類などによって適宜調節されうる。
【0040】
3.工程(3)
本工程では、前記(2)で得られたマッシュルーム破砕酵素処理物を、40〜121℃に加熱して熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得る。当該工程によって、マッシュルーム破砕酵素処理物から、有効成分を高い効率で抽出することができる。
【0041】
本工程において、熱水抽出条件は、マッシュルーム破砕酵素処理物から有効成分を効率よく抽出できる条件であれば特に制限されない。前述したように、工程(1)において、水を添加しているため、本工程で別途水を添加しなくとも、マッシュルーム破砕酵素処理物を十分熱水抽出できる。しかし、本工程において、水を別途添加してもよく、このような場合の水の添加量は、特に制限されないが、通常、マッシュルーム破砕酵素処理物の質量に対して、1.5〜3倍の質量の水を加えることもできる。
【0042】
また、熱水抽出温度は、40〜121℃であり、好ましくは40〜90℃である。ここで、熱水抽出温度が40℃未満であると、水の温度が低すぎて、抽出効率が十分でなく、逆に、121℃を超えると、温度が高すぎて、有効成分が分解する可能性がある。また、熱水抽出時間は、1〜16時間、より好ましくは1〜8時間の範囲であることが好ましい。上記抽出操作中は、マッシュルーム破砕酵素処理物を攪拌していてもよい。攪拌により、熱がマッシュルーム破砕酵素処理物に均一にいきわたり、熱水抽出が均等に行える。なお、上記抽出工程は、1回行ってもよいが、抽出効率が低い場合には、2回以上、繰り返し行ってもよい。
【0043】
本発明の方法は、上記工程(1)〜(3)を有するが、上記工程(3)後に、前記工程(3)で得られたマッシュルーム抽出物をさらに遠心分離または濾過して、残渣を分離して、抽出液を得る(工程(4))ことが好ましい。これにより、水不溶性部分が固液分離される。ここで、残渣を分離するために、遠心分離または濾過を行うが、遠心分離及び濾過双方を行ってもよい。
【0044】
4.工程(4)
遠心分離条件は、水不溶性部分を分離できる条件であれば特に制限されない。具体的には、マッシュルーム抽出物を、4〜50℃で、3000〜12000rpm、5〜30分間、遠心分離することが好ましく、4〜30℃で、4000〜10000rpm、5分〜30分間、遠心分離することがより好ましい。
【0045】
濾過操作は、水不溶性部分を分離できれば特に制限されず、公知の方法が採用できる。例えば、濾紙、ミクロフィルター、などが使用される。また、上記フィルターの孔径は、有効成分は残しつつ水不溶性部分を分離できれば特に制限されない。具体的には、フィルターの孔径は、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは0.2〜3μmである。
【0046】
なお、上記遠心分離または濾過操作は、それぞれ、1回行われてももしくは2回以上繰り返し行われてもよく、または上記遠心分離及び濾過操作を適宜組み合わせて行ってもよい。また、繰り返し行う場合には、各操作条件は、それぞれ、同一であってもあるいは異なる条件であってもよい。
【0047】
上記工程(3)後に、さらに、前記(4)で得られた抽出液を濃縮して、濃縮液を得る(工程(5))ことが好ましい。
【0048】
5.工程(5)
濃縮方法は、特に制限されず、減圧濃縮、限外濾過、真空濃縮、凍結濃縮、膜濃縮等、公知の方法が使用できる。また、濃縮条件は、特に制限されないが、通常、80℃以下、より好ましくは30〜70℃で、濃縮装置により減圧下濃縮することが好ましい。また、濃縮後の液量もまた、特に制限されず、使用する状況により適当な質量とすればよい。
【0049】
上記工程(5)後に、濃縮液を80℃以上で滅菌して、滅菌抽出液を得る(工程(6))ことが好ましい。このような操作により、安全性が確保され、医薬品、食品(健康食品)または飲料(健康飲料)などに好適に使用される。
【0050】
6.工程(6)
滅菌条件は、80℃以上であれば、十分濃縮液を滅菌できるが、好ましくは80〜121℃、より好ましくは90〜121℃の温度で、好ましくは10〜60分間、より好ましくは10〜30分間、濃縮液を滅菌する。このような温度および時間範囲であれば、濃縮液中の有効成分の活性は維持しつつ、滅菌を十分行うことができる。なお、上記滅菌操作は、1回行われてもあるいは2回以上繰り返し行われてもよく、また、繰り返し行う場合には、各操作条件は、同一であってもあるいは異なる条件であってもよい。
【0051】
上記工程(6)後に、さらに、前記工程(6)で得られた滅菌抽出液を乾燥する(工程(7))ことが好ましい。当該工程(7)によって得られた乾燥粉末は、水が存在しないため、保存(貯蔵)安定性に優れ、また、軽質量であるため、運搬などにも便利である。
【0052】
7.工程(7)
濃縮液の乾燥方法は、特に制限されず、公知の方法が使用できる。例えば、凍結乾燥、スプレードライ乾燥、熱風乾燥、真空乾燥、蒸気乾燥、バレル乾燥、スピン乾燥、吸引乾燥、赤外線乾燥、対流伝熱乾燥、気流乾燥、流動層乾燥、過熱水蒸気乾燥、回転ドラム乾燥、マイクロ波乾燥、超臨界乾燥等の方法によって、濃縮液を乾燥粉末化することもできる。
【0053】
上記本発明の方法によると、高い抽出効率を達成しうるため、目的とする有効成分を、その活性を維持しつつ高い収率で得ることができる。また、上記本発明の方法に従って製造された有効成分は、PPARγ活性化能を有し、前駆脂肪細胞の分化誘導促進作用(脂肪細胞分化促進作用)を有する。このため、上記本発明の方法に従って製造された有効成分は、糖尿病の予防や治療ならびに高脂血症の予防や治療への使用が期待できる。すなわち、本発明の方法に従って製造された有効成分は、前駆脂肪細胞から正常な脂肪細胞への分化を促進することにより、肥大化した脂肪細胞のアポトーシスを誘導する。分化した脂肪細胞は、アディポネクチンを積極的に分泌するため、糖および脂質代謝が活発になり、血液中からの糖の取り込みが促進され、インスリン抵抗性を改善する。このような脂肪細胞の働きで糖尿病のみならず、高脂血症の予防に繋がることになる。
【0054】
さらに、上記本発明の方法では、食品等での安全性に問題のある溶媒、条件などを使用していないため、得られる有効成分(脂肪細胞分化促進物質)は、医薬品、食品(健康食品)または飲料(健康飲料に、そのままの形態(濃縮・乾燥した粉末形態)で、あるいは上記形態を適宜加工して、使用できる。
【0055】
すなわち、本発明の方法によって得られた有効成分(脂肪細胞分化促進物質)は、医薬品、食品(健康食品)または飲料(健康飲料)の有効成分となり、乾燥、濃縮または希釈などにより適宜調製し、場合によってはさらに精製することによって、多様な剤型や形態などを有する医薬品および食品が得られる。以下、本態様による医薬品および食品について説明する。
【0056】
本態様の医薬品としては、インスリン抵抗性に起因する疾病に対する予防剤若しくは治療剤であれば特に制限されることはなく、例えば、糖尿病、高血圧、動脈硬化症などに対する予防剤または治療剤などが挙げられる。
【0057】
前記医薬品の剤型は、錠剤、丸剤、散剤、粉剤、顆粒剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤またはカプセル剤などがありえ、これらを患者に経口投与することができる。また、前記医薬品は、軟膏、クリーム、粉状もしくは液状の塗布剤、または貼付剤などの外用剤として経皮的に投与されてもよい。本態様による医薬品の好ましい剤型や投与形態などは、患者の年齢、性別、体質、症状や処置時期などに応じて、医師によって適宜選択される。
【0058】
一方、前記医薬品のローション剤、クリーム剤及び軟膏などの半固形製剤は、前記医薬品を、脂肪、脂肪油、ラノリン、ワセリン、パラフィン、蝋、硬膏剤、樹脂、プラスチック、グリコール類、高級アルコール、グリセリン、水、乳化剤及び懸濁化剤などよりなる群から選択される一種以上と適宜混和することにより得られる。
【0059】
前記医薬品に含まれる、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)の含有量は、抽出方法・条件、投与形態、重篤度や目的とする投与量などによって様々であるが、製剤の全質量に対して、乾燥物換算で、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましい。
【0060】
また、前記医薬品の投与量は、患者の年齢、体重及び症状、目的とする投与の形態及び方法、治療効果、並びに処置期間などによって異なり、正確な量は医師により決定されるものである。例を挙げるならば、前記医薬品が経口投与される場合には、前記有効成分(脂肪細胞分化促進物質)の投与量換算(乾燥物換算)で、成人に対し1日当り0.05〜1,000mgを1回または数回に分けて投与されうる。
【0061】
次に、本態様の食品の種類などについては、特に限定されることはない。すなわち、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)には、インスリン抵抗性を改善し、かつ、肝機能障害などの副作用を引き起こすリスクを従来よりも顕著に低減できる脂肪細胞分化促進作用を有している。そこで、本態様の食品による食事療法は、インスリン抵抗性を改善し、高インスリン血症を調節するのに重要な役割を果たしうる。さらには、インスリン抵抗性があり、将来的にメタボリックシンドロームに罹患するであろう人間に対しても、前記食品がメタボリックシンドローム疾患への予防に貢献しうる。
【0062】
前記食品に含まれる、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)の含有量は、各食品の組成などによって様々であるため特に限定されることはないが、前記食品の全質量に対して、乾燥物換算で、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましい。上記した範囲内の場合、上記した食事療法などの効果が有意に向上しうる。
【0063】
前記食品の具体例としては、飴、チューインガム、牛乳、ヨーグルト、乳清飲料、乳酸菌飲料、ジュース、お茶、飲料、アイスクリーム、プディング、水ようかん等が挙げられる。前記食品は、以下に限定されることはないが、前記有効成分に、通常の食品原料として使用されているもの、すなわち、デキストリン、セルロース、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、L−アスコルビン酸、dl−α−トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、アラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料及び保存剤よりなる群から選択される1種以上を適宜配合することによっても得られる。
【0064】
次に、本態様の飲料の種類などについては、特に限定されることはない。すなわち、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)には、インスリン抵抗性を改善し、かつ、肝機能障害などの副作用を引き起こすリスクを従来よりも顕著に低減できる脂肪細胞分化促進作用を有している。そこで、本態様の飲料による食事療法は、上記食品による食事療法と同様、インスリン抵抗性を改善し、高インスリン血症を調節するのに重要な役割を果たしうる。さらには、インスリン抵抗性があり、将来的にメタボリックシンドロームに罹患するであろう人間に対しても、前記食品がメタボリックシンドローム疾患への予防に貢献しうる。
【0065】
前記飲料に含まれる、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)の含有量は、各飲料の組成などによって様々であるため特に限定されることはないが、前記飲料の全質量に対して、乾燥物換算で、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.05〜20質量%であることがより好ましい。上記した範囲内の場合、上記した食事療法などの効果が有意に向上しうる。
【0066】
前記飲料の具体例としては、ジュース、清涼飲料、茶、コーヒー、紅茶、炭酸飲料、スポーツ飲料、スープ、栄養ドリンク等が挙げられる。前記飲料には、本発明に係る有効成分(脂肪細胞分化促進物質)以外には、従来と同様の他の成分が含まれてもよく、これらの他の成分は特に制限されることなく、従来公知の成分と同様である。
【0067】
なお、本発明の範囲は、上記した実施態様に限定されるものではなく、当業者であれば、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0068】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
【0069】
実施例1
市販の生のマッシュルーム165gを測り採り、水洗したものに、等量の蒸留水165mlを加え、ブレンダーで破砕し、約1mm以下の大きさのマッシュルーム破砕物を得た。得られたマッシュルーム破砕物に、マッシュルーム破砕物の細胞壁を部分的に分解すること、および殺菌を目的として、100℃で10分間、煮沸を行い、マッシュルーム破砕加熱物を得た。次に、このマッシュルーム破砕加熱物に蒸留水330gを加えた。その後、生マッシュルームの質量に対して、1.05質量%のクエン酸を加え、pHを4に調節し、40℃まで冷却した。さらに、この冷却したマッシュルーム破砕加熱物に、生マッシュルームの質量に対して、0.1質量%の植物組織崩壊酵素であるセルラーゼ製剤を加え、緩やかに攪拌させながら、40℃で1時間、酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得た。
【0070】
次に、このマッシュルーム破砕酵素処理物を60℃まで加温し、ゆるやかに攪拌させながら2時間、熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得た。得られたマッシュルーム抽出物を、8000rpm、10分間、遠心分離を行った後、ろ紙で濾過し、残渣を除いて、抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、濃縮液を得た。その後、100℃で10分間、煮沸を行い、滅菌して、滅菌抽出液を得た。得られた滅菌抽出液に対し、凍結乾燥を行い、乾燥粉末を約11.1g得た。
【0071】
比較例1
市販の生のマッシュルーム150gを測り採り、水洗したものに、等量の蒸留水150gを加えブレンダーで破砕し、約1mm以下の大きさのマッシュルーム破砕物を得た。得られたマッシュルーム破砕物に、蒸留水300gを加えた。
【0072】
次に、このマッシュルーム破砕物を60℃まで加温し、ゆるやかに攪拌させながら2時間、熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得た。得られたマッシュルーム抽出物を、8000rpm、10分間、遠心分離を行った後、ろ紙で濾過し、残渣を除いて、抽出液を得た。この抽出液をエバポレーターを用いて減圧濃縮し、濃縮液を得た。得られた濃縮液に対し、凍結乾燥を行い、乾燥粉末を約8.14g得た。
【0073】
実施例2:マッシュルーム抽出物のPPARγ活性化能の評価
本実施例では、以下の方法に従って、上記実施例1及び比較例1で調製した乾燥粉末について、脂肪細胞分化誘導促進活性としてPPARγ活性化能を測定した。
【0074】
1.被検試料の調製法
実施例1および比較例1で調製した乾燥粉末を、それぞれ、滅菌水で100mg/ml(w/v溶液)の濃度となるように溶解し、被検試料を調製した。
【0075】
また、Troglitazoneをジメチルスルホキシド(DMSO)で100μMとなるように溶解し、Troglitazone溶液を調製した。
【0076】
2.COS−1細胞の形質転換および被検試料の添加
COS−1細胞をトリプシン処理により回収し、1000rpm、4℃で、3分間遠心分離した後、上清を除去した。得られた細胞を、2mlの培地に分散して、60mm培養シャーレ(Corning社)に5×10cell/wellの密度で播いた後、37℃、5% CO存在下にて、24時間、培養した。
【0077】
形質転換には、Effectene Transfection Reagent(QIAGEN 社)を使用した。即ち、1.5mlのチューブに、Buffer EC 150μl、pM−hPPARγ−GAL4 1μg、pUASg−tk−Luc 1μg、pSEAP−control vector 1μg、及び最後にEnhancer 24μlを入れ、ボルテックス(vortex)で1秒間攪拌した。25℃で3分間放置した後、Effecteneを25μl加え、ボルテックス(vortex)で10秒間攪拌した後、25℃で7分間放置した。この間に、60mm培養シャーレの培地を除去し、新しく培地を4ml入れて培地交換をした。7分後、1.5mlのチューブに培地を1ml加え、2回、ピペッティングにより懸濁して60mm培養シャーレに全量を滴下し、37℃、5% CO存在下にて、16時間、培養した。
【0078】
形質転換した細胞をトリプシン処理により回収し、1000rpm、4℃で、3分間、遠心分離した後、上清を除去した。得られた細胞を、10mlの培地に懸濁して96well plate(NUNC)に125μl/well播き、37℃、5% CO存在下にて、1〜2時間、培養した。その後、上記1.で調製した被検試料を1.25μl/wellとなるように添加し、穏やかに攪拌して、37℃、5% CO存在下にて、24時間培養した。
【0079】
3.Luciferase活性測定
上記2.において、被検試料添加から24時間後、96well plateから培地を25μl/well回収し、96well white plateに移した。その後、残りの100μl/wellに、37℃にて融解したルシフェラーゼ(Luciferase)活性測定用溶液を100μl/well添加し、暗所にて35分間反応させた後、それぞれのLuciferaseの発光強度(下記式中の、「抽出物のLuciferase発光強度」)を測定した。なお、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりに滅菌水を添加する以外は、同様の実験を行った(下記式中の、「滅菌水のLuciferase発光強度」)。同様にして、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりに、上記1.で調製したTroglitazone溶液及びDMSOを添加する以外は、同様の実験を行った(それぞれ、下記式中の、「TroglitazoneのLuciferase発光強度」及び「DMSOのLuciferase発光強度」)。また、Luciferase活性測定用溶液は、下記5.に従って調製された。
【0080】
4.Secreted alkaline phosphatase(SEAP)活性の測定
上記2.において、被検試料添加から24時間後、96well plateから回収した培地25μl/wellに、1×Dillution Buffer 25μl/wellを添加した。セロハンテープで蓋をした後、穏やかに攪拌し、65℃で30分間、放置した。その後、4℃に冷却し、25℃に戻してから、Assay Buffer 90μl/wellを添加して、穏やかに攪拌した。25℃で5分間放置し、MUP solution 10μl/wellを添加して、穏やかに攪拌した。暗所にて25℃で60分間反応させた後、4−methyl umbelliferoneに基づくSEAPの蛍光強度(Ex=360nm、Em=460nm)(下記式中の、「抽出物のSEAP蛍光強度」)を測定した。なお、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりに滅菌水を添加する以外は、同様の実験を行った(下記式中の、「滅菌水のSEAP蛍光強度」)。同様にして、上記方法において、比較対照として、被検試料を添加する代わりに、上記1.で調製したTroglitazone溶液及びDMSOを添加する以外は、同様の実験を行った(それぞれ、下記式中の、「TroglitazoneのSEAP蛍光強度」及び「DMSOのSEAP蛍光強度」)。また、1×Dillution Buffer、Assay Buffer及びMUP solutionは、下記5.に従って調製された。
【0081】
5.試薬の調製法
上記3.で使用されるLuciferase活性測定用溶液は、以下のようにして調製した。すなわち、60mM Tricine−NaOH(pH7.8)、16mM (MgCOMg(OH)・5HO(塩基性MgCO)、0.4mM EDTA、10% Surfact−Amps X−100(Thermo)、0.5mM D−Luciferin potassium salt(ナカライテスク)、1.5mM Adenosine 5’−triphosphate(SIGMA)、0.5mM Coenzyme A(SIGMA)、及び0.1mM β−Mercaptethanolを超純水で調製し、10ml程度ずつ分注して使用直前まで−20℃に保存した。
【0082】
また、上記4.で使用される1×Dillution Bufferは、以下のようにして調製した。すなわち、使用直前に、5×Dillution BufferをHOで希釈した。ここで、5×Dillution Bufferは、NaCl 4.38g、Tris 2.42gを90mlの超純水で溶解することによって調製した。12N HClを加えてpH7.2に調整し、使用直前まで4℃に保存した。
【0083】
また、上記4.で使用されるAssay Bufferは、以下のようにして調製した。すなわち、L−homoarginine 0.9g、MgCl0.04gを超純水158mlに溶解し、diethanolamine 42mlを加えた。12N HClを加えてpH9.8に調整し、使用直前まで4℃に保存した。
【0084】
また、上記4.で使用されるMUP solutionは、以下のようにして調製した。すなわち、1×Dillution Buffer 2.7μl/well、Assay Buffer 7μl/well、10×MUP 0.3μl/wellを混ぜた。10×MUP、4−methylumbelliferyl phosphate(MUP)2.56mgを超純水1000μlで溶解し、使用直前まで−20℃にて保存した。
【0085】
6.PPARγ活性化能の評価
上記3.で測定されたLuciferaseの発光強度、および上記4.で測定されたSEAPの蛍光強度から、Troglitazoneに対するRelative luciferase activity/SEAP activityをPPARγ活性化能とし、下記式(1)に従い求めた。
【0086】
【数1】

【0087】
上記式中、(A)及び(B)は、下記式(2)及び(3)に従って、算出した。
【0088】
【数2】

【0089】
実施例1および比較例1の、収量、収率およびPPARγ活性化能を下記表1に要約する。
【0090】
【表1】

【0091】
上記表1に示した結果より、実施例1の乾燥粉末は、比較例1の乾燥粉末に対し、高い収率およびPPARγ活性化能を達成することができ、効率よく有効成分を抽出することができることが示される。
【0092】
実施例3:ヒトを用いたマッシュルーム抽出物の効果試験(臨床実験)
<ヒトのモニター試験用の抽出物の調製方法>
市販の生マッシュルーム70kgを測り採り、水洗したものに、等量の水道水70kgを加え、マスコロイダーにて破砕し、マッシュルーム破砕物を得た。得られたマッシュルーム破砕物に、水道水140kgを加えた。その後、生マッシュルームの質量に対して、1.05質量%となるようにクエン酸735g添加し、pHを4とした。その後、マッシュルーム破砕物の細胞壁を部分的に分解し、且つ殺菌工程として85℃で10分間加熱して、マッシュルーム破砕加熱物を得た。
【0093】
次に、マッシュルーム破砕加熱物を40℃まで冷却した後、マッシュルーム破砕加熱物に、生マッシュルームの質量に対して、0.1質量%となるようにセルラーゼ製剤70gを水道水200mlに懸濁させながら添加し、40℃で1時間緩やかに攪拌させながら酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得た。
【0094】
次に、マッシュルーム破砕酵素処理物を60℃まで加温し、2時間、緩やかに攪拌させながら熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得た。
【0095】
その後、多板式遠心分離機にて遠心分離を行った後、濾紙及びセライト#2000で濾過を行い、残渣を除いて抽出液を得た。
【0096】
得られた抽出液を減圧濃縮機にて60℃で濃縮して濃縮液を得た。その後、110℃で5分間滅菌処理を行い、滅菌抽出液を得た。そして、滅菌抽出液のBrixを測定し、固形物換算値に対してデキストリンを30%添加し、スプレードライ処理により抽出物の乾燥粉末5.49kgを得た。
【0097】
<ヒトモニター試験方法>
下記の表2に試験項目及び試験内容を纏める。
【0098】
【表2】

【0099】
さらに、表3に対象者の内訳を示し、表4に評価項目等を示す。
【0100】
【表3】

【0101】
【表4】

【0102】
<空腹時血糖値の測定試験及びその推移の結果>
空腹時血糖値は、ヘキソキナーゼUV法を用いて測定した。その際、機器としてJCA−BMシリーズ 自動分析装置 クリナライザ(JCA−BM9020、日本電子株式会社)を用い、試薬としてクイックオート ネオGLU−HK(シノテスト社)を用いた。
【0103】
試験前の空腹時血糖値が100mg/dL以上の群(7人)において、試験前の血糖値は111.0±14.1mg/dLであったのに対し、試験後の血糖値は107.0±14.8mg/dLとなった。かかる結果より、試験前の血糖値と比較して、試験後の血糖値は平均値として約96%となり、血糖値が低下することが分かった。なお、各個体及び全体の試験前後での結果を下記表5に示す(Glu(mg/dL))。
【0104】
【表5】

【0105】
ここで、表5に示した結果を図1及び図2に示す。
【0106】
<空腹時の中性脂肪値の測定及びその推移の結果>
中性脂肪(TG)は、酵素法(GK−GPO・遊離グリセロール)を用いて測定した。その際、機器として日立7600を用い、試薬としてピュアオートS TG−N(積水メディカル株式会社)を用いた。
【0107】
試験前の空腹時血糖値が150mg/dL以上300mg/dL未満の群(8人)において、試験前の中性脂肪値は204.9±42.0mg/dLであったのに対し、試験後の中性脂肪値は134.1±43.1mg/dLであった(p<0.01 vs 試験前、t検定)。一方、300mg/dL以上の群(3人)において、試験前の中性脂肪値は430.3±47.0mg/dLであったのに対し、試験後の中性脂肪値は275±60.8mg/dLであった。かかる結果より、試験前の中性脂肪値と比較して、試験後の中性脂肪値は平均値として、それぞれ約65%(150mg/dL以上300mg/dL未満の群)及び約64%(300mg/dL以上の群)となり、試験前後で顕著に中性脂肪値が低下することが分かった。なお、各個体及び全体の試験前後での結果を下記表6に示す(単位:mg/dL)。
【0108】
【表6】

【0109】
ここで、表6に示した結果を図3A及び図3B、並びに図4A及び4Bに示す。なお、図3A及び図4Aは150mg/dL以上300mg/dL未満の群についての結果を表し、図3B及び図4Bは300mg/dL以上の群についての結果を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)マッシュルームに、マッシュルームの質量に対して0.5〜50倍の質量の水を加えた後、マッシュルームを破砕して、マッシュルーム破砕物を得、次いで前記マッシュルーム破砕物を加熱することにより、殺菌を行うと共に、マッシュルームの組織を部分的に分解し、マッシュルーム破砕加熱物を得る工程;
(2)前記マッシュルーム破砕加熱物を、40〜60℃の温度でセルラーゼまたはヘミセルラーゼを用いて酵素処理を行い、マッシュルーム破砕酵素処理物を得る工程;
(3)前記マッシュルーム破砕酵素処理物を、40〜121℃に加熱して熱水抽出を行い、マッシュルーム抽出物を得る工程、を有し、
前記(1)または(2)の工程のいずれかにおいて、マッシュルーム破砕物のpHが3〜6になるように、酸を添加する、脂肪細胞分化促進物質の製造方法。
【請求項2】
前記工程(1)において、加熱は、80〜121℃で5〜30分間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸は、有機酸である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記(3)の後に、(4)前記マッシュルーム抽出物を、遠心分離または濾過し、残渣を分離して、抽出液を得る工程をさらに有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記工程(4)後に、(5)前記抽出液を濃縮して、濃縮液を得る工程をさらに有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(5)後に、(6)前記濃縮液を80℃以上で滅菌して、滅菌抽出液を得る工程;および(7)前記滅菌抽出液を乾燥する工程を有する、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【公開番号】特開2010−220526(P2010−220526A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70568(P2009−70568)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000106771)シーシーアイ株式会社 (245)
【Fターム(参考)】