説明

マットレス

【課題】体圧分散性を向上させると共に、各セルを所定位置に安定して保持することができる、新規な構造のマットレスを提供すること。
【解決手段】人体を支持する基体としての底部マット20の体圧作用面上に複数のセル16が整列配置されていると共に、セル16の流体室60の圧力を調節してセル16の高さを変更設定する圧力調節手段74が設けられているマットレス10において、セル16の流体室60に流体が送入されてセル16が膨張されるに従って、セル16の高さ寸法が上昇すると共にセル16の整列方向における幅寸法が減少する。一方、セル16の膨張前において、整列方向で隣接するセル16の周縁部64が相互に重なり合うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護用ベッド等に用いられるマットレスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、介護用ベッド等における人体の支持部分には、クッション作用を有するマットレスが採用されており、人体を弾性的に支持することで寝心地の改善が図られている。このマットレスは、例えば、ウレタンフォーム等の弾性材によって形成されている。
【0003】
ところで、寝返りをすることが困難な使用者等が、一般的なマットレスを長期に亘って連続的に使用すると、体圧(人体の荷重による圧力)の反力が使用者の局所に連続して作用することから、血流の悪化等に起因する褥瘡が生じるおそれがある。そこで、褥瘡の発生を防止するために、流体の圧力を利用して使用者の体圧の作用位置を変化させて、実質的に使用者に作用する体圧の反力を分散させることが可能な可動式のマットレスも提案されている。
【0004】
この可動式のマットレスは、体圧の作用部分(人体の支持部分)が整列配置された複数のセルで構成されており、各セルの流体室に外部から空気等の流体が送入/排出されてセルの内圧が調節されることにより、セルの高さが変更設定されるようになっている。これにより、実質的に使用者の体を支持するセルと支持しないセルを所定時間毎に入れ替えて、使用者の体の一部が体圧の作用で長期に亘って圧迫されるのを防ぐようにすることが可能となる。また、セルの高さを各所で適切に調節することでマットレス表面の形状を人体の凹凸に合わせることが可能となり、体圧の分散化を促進して使用者の体の凸部(臀部等)に荷重が集中的に作用するのを防ぐことも可能となる。例えば、特許第2615206号公報(特許文献1)に記載のものがそれである。
【0005】
ところが、このように各セルの流体室に外部から空気等の流体を送入/排出してセルの高さを調節する構造においては、各セルに流体を送入して各セルを膨張させるに連れて、各セルの整列方向における幅寸法が当然に小さくなる。それ故、特許文献1に示すように、セルが膨張した状態では各セルの間に大きな隙間が生ずることとなり、これにより、使用者を支持する支持面の面積が減少して、体圧の分散化が十分に図れないおそれがあった。また、各セル間の隙間が大きくなることにより、各セルが必要以上に傾いて所望の高さ位置にセルを設定できない場合もあった。その結果、マットレス表面の形状を人体の凹凸に上手く沿わせることができず、局所的な圧迫を生じさせて使用者に不快感を与えるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2615206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題は、体圧分散性を向上させると共に、各セルを所定位置に安定して保持することができる、新規な構造のマットレスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様は、人体を支持する基体の体圧作用面上に複数のセルが整列配置されていると共に、該セルの内部に形成された流体室の圧力を調節して該セルの高さを変更設定する圧力調節手段が設けられているマットレスにおいて、前記セルの前記流体室に流体が送入されて前記セルが膨張されるに従って、前記セルの高さ寸法が上昇すると共に前記セルの整列方向における幅寸法が減少するようになっている一方、前記セルの膨張前において、前記整列方向で隣接する前記セルの周縁部が相互に重なり合っていることを、特徴とする。
【0009】
このような第1の態様に従う構造とされたマットレスによれば、セルの膨張前において、セルの整列方向で隣接するセルの周縁部が、相互に重なり合うようになっている。すなわち、セルの膨張に伴う幅寸法の減少を見越してセルの幅寸法を設定し、セルの膨張前には隣接するセルの周縁部同士が重なり合うようになっていることから、セルが膨張して高さ寸法が上昇しても、十分な幅寸法が確保されて、隣接するセル間に大きな隙間が生じることを防止することができる。これにより、各セルの受圧面積を大きく設定すると共に各セル間の隙間を減少乃至は解消することができて、体圧の分散化を向上させることができる。
【0010】
また、セルの膨張により高さ寸法が上昇した各セル間の隙間が減少乃至は解消されていることから、セルの整列方向で隣接するセル同士が当接して支持し合うことにより各セルの立設状態を安定して保持することができる。これにより、各セルの過度な傾斜や倒れを防止することが可能となり、各セルの所望の高さ位置への設定が高度に安定して実現されることとなる。それ故、各セルの大きな受圧面積とセルの高さ位置の高精度な制御の実現により、マットレス表面の形状を人体の凹凸に上手く沿わせることができて、局所的な圧迫を防止しつつ使用者に快感な寝心地を提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載されたマットレスにおいて、前記セルの膨張前における前記周縁部の重なり代が、前記整列方向における前記幅寸法の5−20%とされているものである。
【0012】
第2の態様によれば、隣接するセルの周縁部同士が、膨張前に5−20%の重なり代をもって重なり合うようにされていることから、膨張後の各セル間の隙間を確実に低減乃至は解消できる。また、膨張後に隣接するセル同士が重なり合ってマットレスの支持面に局所的な凹凸が形成されたり、セルの人体の形状に沿った傾動を阻害することも防止でき、一層安定した体圧分散の向上や寝心地の良さを実現できるのである。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1又は第2の態様に記載されたマットレスにおいて、前記セルの最大膨張時の前記整列方向における最大幅寸法が、前記整列方向における前記セルのピッチ寸法の90−100%とされているものである。
【0014】
第3の態様によれば、各セルの最大膨張時の幅寸法がセルの整列方向のピッチ寸法の90−100%に設定されていることから、膨張時のセル間の隙間を極めて小さくするか、無くすことができる。これにより、各セルの受圧面積を一層確実に大きく設定することができ、体圧の分散化を有利に図ることができる。なお、各セルの最大膨張時の幅寸法がピッチ寸法を超えないように設定されていることから、最大膨張時に隣接するセルが重なり合って、マットレスの支持面に局所的な凹凸を形成したり、セルの人体の形状に沿った傾動を阻害することを確実に防止できる。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1〜第3の何れか1つの態様に記載されたマットレスにおいて、前記セルが、少なくとも1組のシートを相互に重ね合わせて周縁部において流体密に固着することにより構成されたセル体を含んで構成されているものである。
【0016】
第4の態様によれば、1組のシートを相互に重ね合わせて周縁部で流体密に固着したセル体を含んで各セルが構成されていることから、流体の排出時には各セルがシート状に重なり合うように基体上に配設されて、コンパクトな収納が可能となる。また、流体が送入されて各セルが膨張する際には、何れのセルも相互に離隔する方向に幅方向が収縮して高さが増大されるように変形することから、隣接するセル同士が干渉することなく、各セルの膨張動作を速やかに行うことができる。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1〜第4の何れか1つの態様に記載されたマットレスにおいて、前記セル体を2段に重ね合わせると共に、各前記セル体の重ね合わせ面の中央部分に設けられた連通孔を相互に流体密に固着することにより、2段に重ね合された前記セル体により前記セルを構成すると共に、固着された連通孔によって該セルの高さ方向中間部分に形成された括れ部を挟んだ両側で、各セル体が相互に傾動可能とされているものである。
【0018】
第5の態様によれば、各セルの高さ方向中間部分に括れ部が形成されていることから、括れ部を挟んだ両側のセル体が、括れ部を中心とする首振り状の傾動が許容されている。これにより、各セルが大きな受圧面積でマットレスの表面を支持すると共に、人体表面の凹凸に沿うような傾動が一層有利に可能となって、体圧の分散化と寝心地の向上の何れをも一層有利に実現できるのである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、セルの膨張前において、セルの整列方向で隣接するセルの周縁部が相互に重なり合うようになっていることから、セルの膨張後における隣接するセル間の大きな隙間の発生を防止することができる。これにより、各セルの受圧面積を大きく設定して体圧の分散化を向上させることができる。さらに、セル間の隙間の減少により、各セルの過度な傾斜や倒れを防止することが可能となり、マットレス表面の形状を人体の凹凸に上手く沿わせて、使用者に快感な寝心地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の1実施形態としてのマットレスを示す平面図。
【図2】図1のII−II断面図。
【図3】図1に示されたマットレスを構成するセルの最膨張状態での平面図。
【図4】図3のIV−IV断面図。
【図5】図1に示されたマットレスを構成するセルの最収縮状態での平面図。
【図6】図5のVI−VI断面図。
【図7】図1に示されたマットレスとそれを支持するベッドの斜視組立図。
【図8】図2に示された断面拡大図。
【図9】本発明の他の実施形態としての断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0022】
図1,図2には、本発明の1実施形態としてのマットレス10が示されている。マットレス10は、マットレス本体12を含んで構成されており、そのマットレス本体12が、箱状の筐体部14と、筐体部14に収容された複数のセル16とを、備えている。なお、以下の説明において、上下方向とは、原則として、鉛直上下方向である図2中の上下方向を言う。
【0023】
より詳細には、筐体部14は、全体が弾性を有するクッション材で形成されており、枠体18の下側開口部に基体としての底部マット20が嵌め込まれていると共に、枠体18の上側開口部にクッション層としての天部マット22が嵌め込まれて形成されている。
【0024】
枠体18は、全体が多孔質のウレタンフォームで形成された弾性を有する部材であって、互いに平行をなすように配置された頭部側ブロック24と脚部側ブロック26が一対の側方ブロック28,28で連結された構造とされて、上下方向視で矩形枠状を呈している。なお、枠体18の形成材料は、特に限定されるものではなく、発泡性材料にも限定されないが、人体への接触や後述する背上げ時の変形追従性等を考慮すると、ウレタンフォームのような弾性を有する材料で形成されていることが望ましい。
【0025】
底部マット20は、枠体18に比して上下方向で薄肉とされた矩形板状の部材であって、本実施形態では多孔質のウレタンフォームによって形成されている。また、底部マット20は、上下方向視の形状が枠体18の開口部と対応しており、枠体18の下側開口部に嵌め込まれている。
【0026】
天部マット22は、底部マット20よりも厚肉の矩形板状を有する部材であって、それぞれが多孔質のウレタンフォームで形成された第1クッション層としての表層部30と、第2クッション層としての裏層部32とを有する2層構造とされている。また、天部マット22は、上下方向視の形状が底部マット20と略同一とされており、枠体18の上側開口部に嵌め込まれている。なお、表層部30と裏層部32は同一の材料で形成されていても良いが、弾性係数等が異なる材料で形成することで、より優れた寝心地が発揮され得る。
【0027】
また、天部マット22には、体圧センサ34が配設されている。体圧センサ34は、柔軟なシート状とされて、天部マット22の表層部30と裏層部32との間に挟み込まれて配設されており、それら表層部30と体圧センサ34と裏層部32が上下に重ね合わされている。体圧センサ34の具体的な構造は、特に限定されるものではないが、例えば、特開2010−043881号公報や特開2010−043880号公報に示されているような、シート状の静電容量型センサが好適に採用される。体圧センサ34は、寝心地に悪影響を及ぼさないために、薄肉であると共に、柔軟性を有することが望ましい。尤も、体圧センサ34としては、静電容量型センサの他、歪ゲージや磁歪体を用いたロードセル等を用いることも可能である。
【0028】
なお、特開2010−043881号公報では、縦16×横16で配置された検出部によって、256箇所の荷重を測定可能とされているが、本実施形態では、体圧センサ34の検出部の数は、後述するセル16の数に応じて設定されており、検出部が縦21×横7で配置されて、147箇所の荷重を測定可能とされる。この体圧センサ34の検出部の数は、必ずしもセル16の数と同数に限定されるものではなく、例えば、セル16よりも多くの検出部を設けて、より高精度に体荷重を検出することもでき得る。
【0029】
このような構造とされた筐体部14には、複数のセル16が収容配置されている。セル16は、図3〜図6に示されているように、平面視(高さ方向視)で角部が円弧上に丸められた略矩形(角丸矩形状)を呈する袋状乃至は風船状とされており、セル体たる上側袋状部36とセル体たる下側袋状部38を 2段に重ね合わせて組み合わせた構造とされている。より詳細には、上側袋状部36は、角丸矩形シート状の天部40と、角丸矩形シート状で中央部分に開口部42が形成された上側中間部44とからなる一組のシートを、外周縁部46で相互に溶着することにより形成されている。更に、下側袋状部38は、角丸矩形シート状で中央部分にポート48が取り付けられた底部50と、角丸矩形シート状で中央部分に開口部52が形成された下側中間部54とを、外周縁部56で相互に溶着することにより形成されている。そして、上側中間部44と下側中間部54を各開口部42,52の周縁部で相互に溶着することによりセル16が形成され、セル16の高さ方向中間部分に形成された括れ部58を挟んだ両側で、上側袋状部36と下側袋状部38が相互に傾動可能とされている。
【0030】
上記セル16を構成するシートの材質として代表的なものとして、熱可塑性エラストマーが挙げられ、より詳細にはポリウレタン系のエラストマーやそれ以外にもオレフィン系やスチレン系やポリアミド系のエラストマー等がある。なお、本実施形態では、セル16の縦方向寸法と横方向寸法が略等しくなっているが、何れかが長くなっていても良い。また、本実施形態では、上側袋状部36と下側袋状部38の大きさと形状は略等しくされているが、相互に異ならされていても良い。
【0031】
このような構造とされたセル16の内部には、流体室60が形成されている。この流体室60は、上側袋状部36の内側空間と、下側袋状部38の内側空間が、それら袋状部36,38の開口部42,52を利用した連通部62を通じて相互に連通されることによって、形成されている。また、流体室60は、外部から略密閉されており、セル16の底部に貫設された筒状のポート48を通じて外部に連通されている。そして、ポート48を通じて流体室60内に空気等の流体が給排されることにより、流体室60の圧力が調節されて、セル16が、図3,図4に示された膨張状態や、図5,図6に示された収縮状態、或いはそれらの中間状態に、切り替えられるようになっている。
【0032】
すなわち、図5,図6に示す膨張前である最収縮状態のセル16の流体室60に対して流体が送入されるに連れてセル16が膨張されて、図3,図4に示す最膨張状態となる。膨張状態のセル16は収縮状態のセル16に比して、中央部分の高さ寸法が大きくなる(H1>H2)と共に、セル16の整列方向(図3,図5の左右および上下方向)における幅寸法となる外周縁部46における縦横の長さ寸法が小さくなる(Lhw1<Lhw2,Lvw1<Lvw2)。換言すれば、膨張状態のセル16は収縮状態のセル16に比して、セル16の高さ方向での投影面積が小さくなる。そして、セル16の内圧は、図4に示された最膨張状態と図6に示された最収縮状態の2段階にのみ設定されるものではなく、最膨張状態と最収縮状態の間で連続的に或いは段階的に設定されるようになっている。なお、セル16に給排される流体は、空気に限定されるものではなく、例えば、水等の液体を用いることもできる。
【0033】
図3,図4から明らかなように、最膨張状態のセル16は、隣接する最膨張状態のセル16との間に殆ど隙間を設けないように整列配置されている。即ち、最膨張状態のセル16は、整列方向(図3の左右および上下方向)における最大幅寸法:Lhw1,Lvw1が、整列方向のセル16のピッチ寸法:Lhp,Lvpと略等しいもしくは僅かに短く形成されている。具体的には、最膨張状態のセル16の整列方向における最大幅寸法:Lhw1,Lvw1は、同整列方向におけるセル16のピッチ寸法:Lhp,Lvpの90−100%とされていることが好ましい。最大幅寸法:Lhw1,Lvw1が前記ピッチ寸法:Lhp,Lvpの90%未満だと、膨張状態における隣接するセル16間の隙間が大きくなってしまい、体圧分散性が良好に図れないおそれがある。また、セル16間の隙間が大きいことにより、各セル16が過度に傾斜したり倒れてしまうおそれがあり、セル16を安定した立設状態に保持することが難しく、支持面の形状がいびつになるおそれがあるからである。一方、最大幅寸法Lhwがピッチ寸法Lhpの100%を超えると、膨張状態における隣接するセル16同士が重なり合って各セル16の傾動が阻害されると共に、人体表面の凹凸に沿った支持面の形成ができないおそれがあるからである。本実施形態では、セル16の最大幅寸法::Lhw1,Lvw1は、整列方向のセル16のピッチ寸法:Lhp,Lvpと略同一とされている。
【0034】
また、図5,図6から明らかなように、最収縮状態においては、最膨張状態に比べて縦横の長さ寸法(最大幅寸法)Lhw2,Lvw2が大きくなるため、隣接する最収縮状態のセル16との間に、周縁部において重なり代64が生じる。具体的には、最収縮状態のセル16の整列方向(図5の左右および上下方向)における隣接する最収縮状態のセル16との重なり代64の長さ:Lht,Lvtは、整列方向のセル16の最大幅寸法:Lhw2,Lvw2の5−20%、となるように設定されることが好ましい。即ち、重なり代64の比率(Lht/Lhw2,Lvt/Lvw2)が5%未満だと、膨張状態における隣接するセル16間の隙間が大きくなってしまい、体圧分散性が良好に図れないと共に、各セル16の過度の傾斜や倒れが制御できず、各セルの安定した立設状態が保てないおそれがあるからである。一方、重なり代64の比率(Lht/Lhw2)が20%を超えると、膨張状態における隣接するセル16同士が重なり合って各セル16の傾動が阻害されると共に、人体表面の凹凸に沿った支持面の形成ができないおそれがあるからである。従って、より好ましくは重なり代64の比率(Lht/Lhw)が10−20%とされ、本実施形態では略20%に設定されている。なお、重なり代64における、重なりの順番については一例を示しただけであり、これに限定するものではない。
【0035】
かくの如き構造とされたセル16は、図7に示されているように、複数が筐体部14に収容されている。即ち、枠体18の内周側において、底部マット20の上面に複数のセル16が略隣接して整列配置されており、各セル16の底面が中央部分(ポート48の周囲)において底部マット20に固着されて、セル16が底部マット20に対して傾動可能に支持されている。具体的には、図8に示されているように、複数のセル16の下側には取付シート66が配設されている。この取付シート66は、下側袋状部38の底部50よりも僅かに小さな角丸矩形シート状を呈している。各取付シート66には、各セル16のポート48に対応する位置に貫通穴が設けられており、該貫通穴に各セル16のポート48が挿通配置されると共に、各貫通穴の周縁部が各ポート48の周囲に溶着されることにより、取付シート66と各セル16が一体化に連結されている。また、取付シート66の四角部には、一対の凹凸部材からなるスナップ等の取付部材68の一方が設けられている。取付部材68の他方は、底部マット20上面の略全体に亘って配設されている固定シート67の適所に配設されており、取付部材68を介して、取付シート66が固定シート67に装着固定されるようになっている。ここで、固定シート67は、必要に応じて適所で底部マット20に固定されている。そして、各セル16のポート48は、底部マット20を貫通して配設されている。さらに、セル16の上面には、天部マット22が非固着で重ね合わされて、枠体18の上側開口部に嵌着されている。なお、本実施形態では、図1に示されているように、縦に21行、横に7列となるように、147個のセル16が配設されている。
【0036】
各ポート48は、筐体部14の外で給排路70に接続されており、セル16の流体室60が給排路70を通じてポンプ72と大気の何れかに選択的に連通されるようになっている。なお、流体室60のポンプ72への接続と大気への開放は、給排路70上に設けられた三方弁等の弁手段74によって切り替えられるようになっている。また、各セル16の流体室60は、実質的に相互に独立しており、セル16間で空気が流動することはない。このような流体室60の独立性は、給排路70を各セル16毎に独立させる等して実現される。
【0037】
そして、流体室60がポンプ72に接続されて流体室60に空気が送入されることにより、流体室60の圧力が高められて、セル16が図3,図4に示されているような膨張状態とされる。一方、流体室60が大気に開放されて流体室60の空気が大気中に放出されることにより、流体室60の圧力が低下して、セル16が図5,図6に示されているような収縮状態とされる。これによって、図4,図6からも明らかなように、セル16の上下方向での高さ寸法が、流体室60の圧力を調節することで変更されるようになっている。なお、流体室60の圧力を調節する手段としては、弁手段74を用いる上記手段の他に、流体室60とポンプ72を常時接続すると共に、ポンプ72として空気の送出運転と吸引運転を切替え可能なものを採用して、ポンプ72の運転を制御することによっても実現される。
【0038】
さらに、ポンプ72および弁手段74は、制御手段76によって制御されている。この制御手段76は、天部マット22の体圧センサ34から入力される検出信号に基づいて制御信号を生成して、その制御信号をポンプ72および弁手段74に出力することで、ポンプ72の送風量や弁手段74の切替え等を制御するようになっている。また、本実施形態では、複数のセル16に対してそれぞれ異なる空気圧を設定することができるようになっており、例えば、各セル16毎に送風量を異ならせることが可能なポンプ72を採用しても良いし、弁手段74の切替タイミングを各セル16毎に調節することで空気圧を個別に設定することもできる。以上より明らかなように、流体室60の圧力を個別に調節してセル16の高さを変更設定するための圧力調節手段78が、体圧センサ34、給排路70、ポンプ72、弁手段74、制御手段76を含んで構成されている。
【0039】
このような構造とされたマットレス10は、図7に示されているように、マットレス本体12がベッド80の人体支持部82上に重ね合わされている。そして、マットレス10上に使用者が横たわると、天部マット22と複数のセル16と底部マット20に使用者の体圧が作用して、ベッド80の人体支持部82で支持されるようになっている。また、給排路70やポンプ72、弁手段74、制御手段76は、ベッド80の人体支持部82内やその下方等に設けられる収容スペースに配設される。なお、使用者に作用する重力に基づいた体荷重(体圧)が、下方に向かって作用することから、天部マット22、セル16、底部マット20、人体支持部82の各上面を、それぞれの体圧作用面と称する。
【0040】
このような構造とされた本実施形態のマットレス10では、天部マット22上に使用者が臥した場合に、マットレス本体12から使用者に及ぼされる体圧の反力が、局所的に大きくなるのを抑えることができる。
【0041】
具体的には、先ず、使用者が天部マット22上に横たわる前に、予め全てのセル16の流体室60にポンプ72から空気が送り込まれており、セル16の高さ寸法が最大に設定されている。これによって、使用者が横たわる際にセル16の底付きが防止されて、充分な緩衝性をもって使用者が支持されるようになっている。
【0042】
また、天部マット22上に横たわった使用者の体荷重が天部マット22の体圧センサ34に及ぼされることから、体圧センサ34が使用者の体表面の凹凸等に基づいた体圧分布を検出して、体圧分布の検出結果が検出信号として制御手段76に出力される。なお、体圧センサ34は、各セル16に作用する圧力(体圧)の大きさを個別に検出可能とされており、本実施形態では、体圧センサ34が147個のセル16についてそれぞれ検出信号を得るようになっている。
【0043】
また、制御手段76は、体圧センサ34から送られた検出信号に基づいて制御信号をポンプ72および弁手段74に出力する。そして、ポンプ72の送風量や、弁手段74による流体室60のポンプ72と大気の何れかへの選択的な接続の切替えが、制御信号に基づいて制御されることにより、セル16の流体室60の圧力が調節されて、セル16の高さが変更設定される。
【0044】
そして、作用する体圧が大きいセル16において、流体室60の圧力が低く調節されて、セル16の高さ寸法が小さくされると共に、作用する体圧が小さいセル16において、流体室60の圧力が高く調節されて、セル16の高さ寸法が大きくされる。これにより、セル16の高さが人体表面の凹凸に沿うように調節されて、局所的に大きな体圧が作用するのを防ぐことで、体圧の分散化が図られる。
【0045】
ここで、セル16は、最収縮状態において、隣接する最収縮状態のセル16との間に、周縁部において重なり代64が生じており、前述のとおり、重なり代64の長さ:Lht,Lvtは、整列方向のセル16の幅寸法:Lhw2,Lvw2の5−20%(本実施形態では略20%)となるように形成されている。それ故、各セル16の膨張状態において、各セル16間の隙間が減少乃至は解消されており、各セル16による受圧面積を大きく確保して、体圧の分散性を高めることができる。また、セル16の整列方向で隣接するセル16同士が相互に当接して支持し合うことにより各セル16の立設状態、即ち高さ位置を安定して保持することができる。従って、各セル16の大きな受圧面積と高さ位置の高精度な制御が可能となり、天部マット22表面の形状を人体の凹凸に上手く沿わせつつ、局所的な圧迫を防止して、使用者に快感な寝心地を提供することができるのである。
【0046】
また、最膨張状態のセル16の整列方向(図3の左右および上下方向)における最大幅寸法:Lhw1,Lvw1は、整列方向のセル16のピッチ寸法:Lhp,Lvpの90−100%(本実施形態では略100%)となるように形成されている。それ故、各セル16の膨張状態において、各セル16間の隙間が確実に減少乃至は解消されており、上述のとおり、セル16の大きな受圧面積と高さ位置の高精度な制御の実現による、快適な寝心地の提供が可能となるのである。特に、各セル16が平面視において角丸矩形を呈していることにより、隣接する各セル16の間の隙間の発生を一層有利に防止することができて、各セル16の支持面積を大きく確保することができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、各セル16が、高さ方向中間部分に形成された括れ部58を挟んだ両側で、上側袋状部36と下側袋状部38が相互に傾動可能な2段構造とされている。従って、各セル16が括れ部58において首振り状に傾動することで、その上面(体圧作用面)が天部マット22の変形(変位)に追従して傾斜するようになる。これにより、天部マット22の凹凸に対応する形状の支持面が、複数のセル16の上面によって構成されて、マットレス10の表面が人体表面の凹凸に沿った形状に高い追従性をもって変形可能とされている。従って、セル16の上面が使用者の体表面に対してより広い面積で当接されて、体圧の分散化が一層有利に実現される。これにより、使用者の体が局所的に強く圧迫されるのを防いで、褥瘡の発生を抑えることができる。
【0048】
また、各セル16は、角丸矩形の一組のシートを周縁部において流体密に固着したセル体を重ね合わせて構成したものである。このように、各セル16を平面的な部材を重ね合わせて構成したことにより、図6に示す収縮状態でのセル16を非常にコンパクトに構成することができ、セル16の取扱性に優れていると共に、セル16の製造の容易化・低コスト化も実現できる。また、シートの重ね合わせ構造であるセル16は、膨張時の高さ増大に伴う幅方向の収縮が隣接するセル16間で相互に離隔する方向となることから、各セル16の膨張動作を隣接するセル16同士の干渉なく速やかに行うことができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、セル16の平面視形状は、実施形態の如く角丸矩形状に限定されず、円形、各種の多角形やその角部を丸めた角丸多角形、異形等、任意の形状が採用され得る。
【0050】
また、上記実施形態では、各セル16のポート48が固定シート67や底部マット20を貫通して延出するように配設されていたが、図9に示すように、各セル16のポート48は、底部マット20を貫通することなく、固定シート67上をマットレス本体12の側方に向かって延出するように配設されていても良い。このようにすれば、マットレス本体12の側方に、各セル16の流体室60に接続する複数の弁手段74やそれらの制御手段76を集約して配設することができ、メンテナンス性の向上等を図ることができる。なお、各セル16のポート48およびそこから延び出す配管は、取付シート66の四角部に設けられた取付部材68の間を挿通されて側方に向かって延び出すことができる。これにより、取付シート66がポート48およびそこから延び出す配管の位置決め保持手段としても機能することができるのである。
【0051】
また、前記実施形態では、使用者がマットレス本体12上に横たわる前に、全てのセル16が高さ寸法を最大にする初期状態に設定されるようになっていたが、例えば、使用者が横たわった後、使用者が寝たままの状態で内圧を調整して、セル16を初期状態に設定しても良いし、使用者が体位を変換した後(寝返りの後等)、セル16を初期状態に設定しても良い。なお、セル16の初期状態は、必ずしも高さ寸法を最大にした状態に限定されるものではなく、各セル16の高さ寸法が予め設定されて任意の高さに調整された状態をいう。
【0052】
また、セル16は、必ずしも1組のシートを重ね合わせて周縁部を流体密に固着して構成したセル体で構成される必要はなく、セル16の膨張に伴い、セル16の整列方向における幅寸法が減少するものであれば、単一のシートからなる袋状のセル体や、3枚以上のシートを密着して袋状にしたセル体などいずれも採用可能である。さらに、セル16の平面視における形状と、括れ部58(連通部62)の形状は、必ずしも略相似形状である必要はなく、例えば、角丸矩形状を呈するセル16に円形の括れ部58(連通部62)が設けられていても良い。
【0053】
加えて、本実施形態では、セル16が上側袋状部36と下側袋状部38を有する2段構造とされて、1つの括れ部58だけが形成されていたが、セル16は、3段構造以上であっても良く、その場合には2つ以上の括れ部58が形成され得る。
【符号の説明】
【0054】
10:マットレス、14:筐体部、16:セル、18:枠体、20:底部マット(基体)、34:体圧センサ、36:上側袋状部、38:下側袋状部、40:天部、42:開口部、44:上側中間部、46:外周縁部、48:ポート、50:底部、52:開口部、54:下側中間部、56:外周縁部、58:括れ部、60:流体室、62:連通部、64:重なり代、70:給排路、72:ポンプ、74:弁手段、76:制御手段、78:圧力調節手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体を支持する基体の体圧作用面上に複数のセルが整列配置されていると共に、該セルの内部に形成された流体室の圧力を調節して該セルの高さを変更設定する圧力調節手段が設けられているマットレスにおいて、
前記セルの前記流体室に流体が送入されて前記セルが膨張されるに従って、前記セルの高さ寸法が上昇すると共に前記セルの整列方向における幅寸法が減少するようになっている一方、
前記セルの膨張前において、前記整列方向で隣接する前記セルの周縁部が相互に重なり合っていることを特徴とするマットレス。
【請求項2】
前記セルの膨張前における前記周縁部の重なり代が、前記整列方向における前記幅寸法の5−20%とされている請求項1に記載のマットレス。
【請求項3】
前記セルの最大膨張時の前記整列方向における最大幅寸法が、前記整列方向における前記セルのピッチ寸法の90−100%とされている請求項1又は2に記載のマットレス。
【請求項4】
前記セルが、少なくとも1組のシートを相互に重ね合わせて周縁部において流体密に固着することにより構成されたセル体を含んで構成されている請求項1〜3の何れか1項に記載のマットレス。
【請求項5】
前記セル体を2段に重ね合わせると共に、各前記セル体の重ね合わせ面の中央部分に設けられた連通孔を相互に流体密に固着することにより、2段に重ね合された前記セル体により前記セルを構成すると共に、固着された連通孔によって該セルの高さ方向中間部分に形成された括れ部を挟んだ両側で、各セル体が相互に傾動可能とされている請求項4に記載のマットレス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−27534(P2013−27534A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165309(P2011−165309)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】