説明

マット

【課題】 足踏み又は歩行運動機能の維持向上を目的とした、広い温度域で筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供すること。
【解決手段】 本発明は、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的として使用される、ポリウレタンフォームを含むマットであって、前記ポリウレタンフォームは、セル膜の一部に孔が空いているセルを有し、以下の条件をすべて満たすマットに係る。前記ポリウレタンフォームのガラス転位点は、−10°C以下である。0〜40°Cにおける、前記ポリウレタンフォームの衝撃力の最大値の差は、10kgf以下である。前記ポリウレタンフォームの通気性(JIS L1096 A法)は、0.1以上10.0cm3/cm2・秒以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マットに関し、特に、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的として使用されるマットに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、運動機能の疾患で介護老人になる比率が4人に1人という老人社会に日本はなりつつある。加齢でやや運動機能の低下が認識される年代の方について、社団法人日本整形外科学会ではこうした現象をロコモーティブシンドローム(略してロコモ)と称して啓蒙活動を推進している。そこで、こうしたロコモ予備軍の高齢者の運動機能の維持向上をして、介護患者を少なくするために、各種用具が提供されており、ポリウレタンフォームをカバー材料で被覆した介護予防用のマットも提案されている。
【0003】
このような提案の一つに、先行技術として特許文献1と2がある。特許文献1では、体操用着地マットであって、単体としては、全体が同一の物性素材で形成されている少なくとも二個以上の偶数の、異なる物性の粘性素材のマット片を、積層することなく、縦方向或いは横方向に適宜組み合わせ配列して、袋体に収容するマットが開示されている。
また、特許文献2では、スポーツ及び治療的な目的のための、連続気泡構造を有する発泡材料から形成される立位及び歩行のためのフィットネス及び治療用マットが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実用新案登録第3146951号公報
【特許文献2】特表2010−516323号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記の従来技術では、ポリウレタンフォームなどの弾性体の硬さや粘弾性などの特性を生かして不安定さを発現しているが、もともとバランス感覚及び脚部の筋力が低下した状態で様々な硬度のマットの上を歩けば、不安定すぎて歩行に負担を感じたり、足を捻ったり、転倒して怪我をしてしまう可能性がある。
【0006】
また、標準的な粘弾性ポリウレタンフォームもしくは低反発ポリウレタンフォームを使用すると、常温では使用感が快適で適度な負荷を生じるものの、常温付近にガラス転位点を有することから温度依存性が大きいため、冬期には硬くなって、膝への衝撃力が上昇し、軟骨を減らしてしまう虞がある。逆に、夏期には柔らかくなりすぎて、床への底付きをしやすくなり、これも衝撃力が上昇してしまう。
【0007】
ガラス転位点の低い、高弾性若しくは高硬度のウレタンフォームでは、もともと膝への衝撃力が強く、また、弾む為に床面歩行よりも足を持ち上げる筋力増強効果が低くなり、繰り返し足踏み運動するマットとしては適していない。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、足踏み又は歩行運動機能の維持向上を目的とした、広い温度域で筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的として使用される、ポリウレタンフォームを含むマットであって、前記ポリウレタンフォームは、セル膜の一部に孔が空いているセルを有し、以下の条件をすべて満たすマットが提供される。前記ポリウレタンフォームのガラス転位点は、−10°C以下であること。0〜40°Cにおける、前記ポリウレタンフォームの衝撃力の最大値の差は、10kgf以下であること。前記ポリウレタンフォームの通気性(JIS L1096 A法)は、0.1以上10.0cm3/cm2・秒以下であること。
この構成によれば、使用者が通常使用する常温域で一定して、圧縮時に強い荷重が必要であると共に、圧力を解放するとゆっくり元に戻るので、常に筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0010】
また、さらに、以下の条件をすべて満たすことを特徴としてもよい。前記ポリウレタンフォームのセルの数は、58個/25mm以上であること。前記ポリウレタンフォームの硬さ(JIS K6400−2 6.7 D法)は、100以上300N以下であること。
これによれば、筋力増強効果の高い緩衝効果を発現すると共に、使用者の膝等への負担を軽減できるポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0011】
また、さらに、以下の条件をすべて満たすことを特徴としてもよい。前記ポリウレタンフォームのヒステリシスロス率(JIS K6400−2)は、60%以上であること。0〜40°Cにおける、前記ポリウレタンフォームの衝撃力の最大値は、70kgf以下であること。
これによれば、さらにスローリカバリ性が良く、使用者の膝等への負担を軽減できるポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0012】
また、前記ポリウレタンフォームは、ポリオール類とポリイソシアネート類を触媒および発泡剤、整泡剤、添加剤の存在下反応させて得られ、前記ポリオール類にポリエーテルエステル系ポリオールを含むことを特徴としてもよい。
これによれば、ポリエステル系ポリオールとポリエーテル系ポリオールの両者の性質を併せ持つポリエーテルエステル系ポリオールを使用することで、筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的とした、広い温度域で筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施例のポリウレタンフォームの顕微鏡写真である。
【図2】比較例1のポリウレタンフォームの顕微鏡写真である。
【図3】比較例2のポリウレタンフォームの顕微鏡写真である。
【図4】比較例3のポリウレタンフォームの顕微鏡写真である。
【図5】本発明に係る実施例及び比較例1〜3のポリウレタンフォームにおけるガラス転位点を示す。
【図6】本発明に係る実施例の衝撃力(左図は150mmの落下高さ、右図は250mmの落下高さ)を示す。
【図7】比較例1の衝撃力(左図は150mmの落下高さ、右図は250mmの落下高さ)を示す。
【図8】比較例2の衝撃力(左図は150mmの落下高さ、右図は250mmの落下高さ)を示す。
【図9】比較例3の衝撃力(左図は150mmの落下高さ、右図は250mmの落下高さ)を示す。
【図10】本発明に係る実施例及び比較例1〜3のポリウレタンフォームにおけるヒステリシスロス率(左図は30kgfまでの荷重、右図は50kgfまでの荷重)を示す。
【図11】実施例の使用者に対して行ったアンケート表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
本発明は、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的として使用される、ポリウレタンフォームを含むマットに係る。高齢者や体力が減退した人が、運動機能の低下を防止したり、向上を目指したりする場合、まず歩行訓練を行うことが推奨され、その歩行訓練の第一歩として、その場における足踏み運動やスクワットなどを行う。さらには、重心移動や、前進、後進、横歩きといった歩行などの運動を行う。本発明に係るマットは、このような運動を硬い床の上で行うと膝などへの負担が大きくなるので、かかる負担を軽減し、さらにはその効果を最大化するために、下半身特に脚部の筋力低下防止やリハビリ用(筋力向上目的)に使用されるマットである。もちろん、筋力向上を目的として、通常の健常者が、フィットネスやトレーニングに使用してもよいことは言うまでもない。
【0016】
マットは、後述するポリウレタンフォームを、その保護のため、通常生地・シート類により被覆するが、一部を被覆するだけでもよいし、全く被覆しなくともよい。マットの厚さは、通常30〜100mmであり、好ましくは50〜80mmである。高齢者にとっては、100mmを超えるマットは不安定になりすぎて危険であり、30mm未満では緩衝効果が低減し、膝や足首への負担となってしまう上、運動の負荷が低減して筋力強化の効果が低減してしまう。
【0017】
マットに含まれるポリウレタンフォームは、多面体構造を備えるセルからなり、連続気泡構造を備える軟質ポリウレタンフォームである。この軟質ポリウレタンフォームは、ポリオール類、イソシアネート類の他、発泡剤、整泡剤及び触媒等を原料とし、常法によって製造され、上記原料は、通常ポリウレタンフォーム等の製造に使用されるものを特に制限することなく使用できる。
【0018】
本発明に係るポリウレタンフォームのセルは、平均で12程度の面数を有する多面体構造であり、その多面体構造はセル骨格とセル膜からなる。そのセル膜の一部には、孔が空いている。この孔を通して、セルの内部と外部の間を空気が移動し、ポリウレタンフォームの通気性、粘弾性等の物性値に影響を与える。
【0019】
本発明に係るポリウレタンフォームの物性値は、ポリウレタンフォームのガラス転位点は、−10°C以下であり、0〜40°Cにおけるポリウレタンフォームの衝撃力の最大値の差は、10kgf以下であり、かつ、ポリウレタンフォームの通気性(JIS L1096 A法)は、0.10以上10.00cm3/cm2・秒以下である。これらを満たすことにより、温度依存性が少なく、スローリカバリ性のあるポリウレタンフォームを備えたマットを提供でき、即ち、使用者が通常使用する常温域で一定して、圧縮時に強い荷重が必要であると共に、圧力を解放するとゆっくり元に戻るので、常に筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0020】
好ましくは、本発明に係るポリウレタンフォームの物性値は、さらに、ポリウレタンフォームのセルの数は、58個/25mm以上であり、ポリウレタンフォームの硬さ(JIS K6400−2 6.7 D法)は、100以上300N以下である。これらを満たすことにより、セルが細かいことで通気性が小さくなり、かつ適度の硬さを有することで、踏込みが可能であって踏み込むのに力を要し、しかも底付きしないポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。即ち、高い筋力増強効果を発現すると共に、使用者の膝等への負担を軽減できる緩衝効果を有するポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0021】
より好ましくは、本発明に係るポリウレタンフォームの物性値は、さらに、ポリウレタンフォームのヒステリシスロス率は、60%以上であり、0〜40°Cにおけるポリウレタンフォームの衝撃力の最大値は、70kgf以下である。これらを満たすことにより、さらにスローリカバリ性が良く、使用者の膝等への負担を軽減できるポリウレタンフォームを含むマットを提供することができる。
【0022】
本発明に係るポリウレタンフォームは、ポリオール類とポリイソシアネート類を触媒および発泡剤、整泡剤、添加剤の存在下反応させて得られ、そのポリオール類にポリエーテルエステル系ポリオールを含むことを特徴としてもよい。ポリエステル系ポリオールのみを使用すると、形成されたウレタンの樹脂強度が増すので、セル膜が破れ難くなって通気性は低下するが、ウレタンフォームの硬度が硬くなる。またポリエーテル系ポリオールのみでは、ウレタンフォームの硬度は減少するが、セル膜も弱くなって破泡しやすくなる。両者の性質を併せ持つポリエーテルエステル系ポリオールを使用することで、適切な樹脂強度を有するウレタンフォームが形成される。また、公知の整泡剤又は添加剤として破泡剤の添加量を調整することによってセル膜の破泡状態を調整して、セル膜の一部に小孔を形成させることができる。また前記ポリオールに相溶性の低いオイルなどを添加することでもセル膜の破泡状態を調整して、セル膜の一部に小孔を形成させることができる。
【0023】
<実施例及び比較例>
本発明に係る実施例と比較例のポリウレタンフォームの物性値を表1に示す。
実施例のポリウレタンフォームは、ポリエーテルポリエステルポリオールに、該ポリオールに相溶性の低いオイルを添加して製造され、その結果セル膜に小孔ができる。比較例1のポリウレタンフォームは、ポリエーテルポリオール高分子量と同低分子量を組み合わせて製造され、その結果粘弾性を特性として有する。比較例2のポリウレタンフォームは、官能基数7のポリエーテルポリオールを基に製造され、その結果高弾性を特性として有する。比較例3のポリウレタンフォームは、ポリエーテルポリオールと一部にアクリロニトリルやスチレン変性のポリマーポリオールを使用して製造され、その結果高硬度を特性として有する。
【表1】

【0024】
本実施例のポリウレタンフォームは、ポリオール類とポリイソシアネート類との反応を常法に従って行い、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させる公知のワンショット法で製造された。この製造方法は、他の製造方法(例えば、プレポリマー法)に比べて製造工程が一工程で済み、製造条件の制約も少ないことから好ましい方法であり、製造コストを低減させることができる。
【0025】
本発明に係るマットは、軟質ポリウレタンフォームとして、スラブ発泡法により得られる軟質スラブポリウレタンフォームが好ましい。スラブ発泡法では、上記ワンショット法により混合攪拌された反応原料(反応混合液)をベルトコンベア上に吐出し、そのベルトコンベアが移動する間に反応原料を常温、大気圧下で自然発泡させ、硬化させることで当軟質ポリウレタンフォームが得られ、その後、乾燥炉内で硬化し、所定形状のマットに裁断される。
【0026】
実施例のセル数は60個/25mmであり、比較例1〜3と比べ、細かいセルを有しており、この細かいセルのセル膜の一部に孔が空いていることで孔自体も小さくなるので、通気性が抑えられ、さらに繰り返し圧縮による圧縮強度の低下が少ない。特に、比較例1は43個/25mm、比較例3は50個/25mmとは大きく異なり、1つのセルの大きさが大きくなるとセル膜も大きくなる傾向にある。
【0027】
また、比較例2は55個/25mmと比較的近い値であるが、実施例と比較例2との中間の値である58個/25mmであれば、小さなセル膜を有することができる。なお、スラブ発泡による軟質ポリウレタンフォームのセル数の上限は、通常100個/25mmであり、汎用においては、80個/25mmである。セル数が100個/25mmより多いと、通気性が低下しすぎて開放時の戻り速度が遅すぎて、歩行運動時に、ほぼ圧縮された状態になってしまう。
【0028】
図1〜4を見れば、上記がより明確になる。図1は実施例の、図2〜3は比較例1〜3の、画面垂直方向に発泡したポリウレタンフォームの顕微鏡写真である。これらの図を見ると、セルの大きさとセル膜の一部に孔が開いている状態が分かる。図1が示す実施例のセルは、図2が示す比較例1や図4が示す比較例3のセルに比べ、明らかに小さなセルからなり、図3に示す比較例2のセルに比べても小さい。さらに、実施例のセル膜には、大孔はほとんどない代わりに小孔を有するが、他の比較例においては、ほとんどすべてのセル膜に大孔があり、特に比較例2と3では、大孔がいくつも空いている状態が分かる。
【0029】
より具体的には、実施例のポリウレタンフォームは、セル10個中に3個以下の割合で長径100μm以上の大孔が開口しているセルを有するが、それ以外の各セルには長径10μm以下の小孔を複数個(10個以上)有するのみである。そうすると、上記大孔を有するセル間は空気の流出入は容易であるものの、ポリウレタンフォーム全体に通孔していないため、ポリウレタンフォーム全体を圧縮および開放した際に、上記小孔を通じて流出入する単位時間当たりの空気量が、ポリウレタンフォーム全体の通気量を律速することになる。その結果、実施例のポリウレタンフォームは、通気量が少なく、すなわち通気抵抗が大きくなって、スローリカバリ性を有する。
【0030】
図5は、実施例及び比較例1〜3のポリウレタンフォームにおけるガラス転位点(Tg)を示す。実施例のガラス転位点のピーク温度は−17°Cであり、常温域でのTanδはほぼ一定しており、温度依存性が低いことを示している。比較例2と3においても、温度依存性は低いと言えるが、比較例1においては、常温域でTanδが大きく変化しており、温度依存性が高い。従って、比較例1のポリウレタンフォームを使用したマットは、温度の高い時には柔らかく低い時には硬くなってしまい、一定した使用感は望めない。なお、寒冷地を想定しても、ガラス転位点のピーク温度が−10°C以下のポリウレタンフォームであれば、常温域での温度依存性が低いと言える。
【0031】
図6は実施例の衝撃力、図7〜9は比較例1〜3の衝撃力を示す。なお、衝撃力の測定方法は後述するが、各図の左側のグラフは150mmの落下高さ、右側のグラフは250mmの落下高さから質量5.88kgの衝突子を落下させたときの衝撃力を示す。また、それぞれのグラフにおいて、0°C、23°C、40°Cで測定された衝撃力を示す。
【0032】
図6によれば、実施例のポリウレタンフォームは、すべての温度において、ほぼ同じ衝撃力を示すことが分かる。従って、本実施例では、常温域において一定した使用感が得られる。一方、図7が示す実施例1では、0°Cにおける衝撃力は他の温度での衝撃力とは大きく異なり、これは0°Cという低温になると、衝撃力が大きくなることを表わし、従って、このようなポリウレタンフォームでは使用者の膝などに大きな負担がかかってしまう。
【0033】
また、図8が示す実施例2では、特に250mmの落下高さの時に、23°Cにおける衝撃力は他の温度での衝撃力とは大きく異なり、常温域において一定した使用感が得られない。なお、比較例3においては、比較的すべての温度において一定した傾向を示しており、また最大値が小さいので、衝撃力の観点では優れていると言える。
【0034】
表2は、実施例と比較例1〜3における、それぞれの衝撃力の最大値を示す。広い温度域で筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供するという本発明の目的の観点を鑑みれば、これらの良好な衝撃力を有するポリウレタンフォームにおいては、0〜40°Cにおける衝撃力の最大値の差は、10kgf以下であることが好ましく、より好ましくは、8.6kgf(落下高さ250mm)であると言うことができる。
【表2】

【0035】
また、同様に、0〜40°Cにおけるポリウレタンフォームの衝撃力の最大値は、70kgf以下であることが好ましく、より好ましくは、150mm落下高さでは43kgf以下、250mm落下高さでは65kgf以下であると言うことができる。かかるものであれば、使用者の膝等への負担はかなり軽減される。
【0036】
ポリウレタンフォームの通気性(JIS L1096 A法)は、表1に示すように、実施例では1.7cm3/cm2・秒であり、比較的通気性の小さい比較例1においては、9.8cm3/cm2・秒である。一方、比較例2と3では、64.2cm3/cm2・秒と107.0cm3/cm2・秒であり、通気性が高い、即ち、通気抵抗が低いので、踏み込んだ後に開放した際の戻りが速くなる。そのため足裏面に対して上方向への反力がはたらくため、足を持ち上げる筋力について、筋力増強効果の高いポリウレタンフォームとは言えない。
【0037】
筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供するという本発明の目的の観点を鑑みれば、低通気性を有することにより、変形に力と時間を要するし、スローリカバリ性を有する。これらのポリウレタンフォームにおいては、通気性は、0.1以上10.0cm3/cm2・秒以下である。また、好ましくは、0.1以上6.0cm3/cm2・秒であると言える。なお、6.0cm3/cm2・秒は、実施例と比較例1の間の値である。また、さらに好ましくは0.1以上2.0cm3/cm2・秒である。また、0.1cm3/cm2・秒は測定限界の数字であって、これ未満では開放時の戻り速度が遅すぎて、歩行運動時に、ほぼ圧縮された状態になってしまうか、完全に独立気泡となってほとんど沈まなくなってしまう。
【0038】
表1によれば、実施例の硬さ(JIS K6400−2 6.7 D法)は200Nであり、比較例1〜3の硬さはそれぞれ77、135、420Nである。420Nの比較例3は、高硬度であり、ここまで硬いとウレタンフォームの変形量が少なくなり、足を持ち上げる高さが減少することで運動負荷が減ってしまい、適切ではない。
【0039】
筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供するという本発明の目的の観点を鑑みれば、ポリウレタンフォームとして特に柔らかくも硬くもなく、踏込みが可能でかつ底付きしない程度の硬さは、100以上300N以下であることが好ましい。より好ましくは、実施例の硬さ200Nを中心とした150以上250N以下であると言える。
【0040】
表1の最右欄及び図10は、実施例及び比較例1〜3のポリウレタンフォームにおけるヒステリシスロス率(JIS K6400−2)を示す。ヒステリシスロス率とは、変形及び回復の1サイクルにおける機械的エネルギー損失を示し、圧縮荷重たわみ試験を行って得られる力―たわみ曲線から求められる。ヒステリシスロス率の大きいものほどスローリカバリとなって、押し込んだ後反発力が低下するので、足上げ方向の補助力が低下する。即ち、自力で足を持ち上げる必要があるために筋力への負荷が増大する。
【0041】
圧縮荷重たわみ試験は、圧縮速度を500mm/分にて、30kgfと50kgfまでの2条件で全面圧縮を行い、保持時間を0秒で、圧縮戻りのヒステリシスロス率を測定した。
実験データからは、常温でのヒステリシスロス率は、標準的な粘弾性フォームである比較例1が平均で74.7%と最も大きく、次に実施例が平均で69.6%と、ほぼ比較例1に匹敵する程度に大きい。従って、この2つが、ヒステリシスロス率の観点からは良好であると言える。比較例2と比較例3は、ヒステリシスロス率の観点では劣っている。
【0042】
従って、筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供するという本発明の目的の観点を鑑みれば、ポリウレタンフォームのヒステリシスロス率は、60%以上であることが好ましい。なお、60という値は、実施例と比較例3との間の値である。より好ましくは、67%以上であるとよいと言える。
【0043】
なお、反発弾性は、実施例においては25%、比較例1〜3においてはそれぞれ5、56、38%であり、密度は、それぞれ、45、45、45、50kg/m3である。
【0044】
膝の軟骨は一度摩耗すると、ほとんど自己修復できないと言われており、高齢者にとって、運動時膝等への衝撃は極力低減することが望ましい。反発弾性の高いポリウレタンフォーム(比較例2)では踏込み時の衝撃が大きくなり、足踏み又は歩行運動機能の向上を目的として使用されるマットのポリウレタンフォームとしては適していない。
【0045】
上述のように、本実施例では、セル数が60個/25mm、硬さが15N、通気性が1.7cm3/cm2・秒、ガラス転位点のピーク温度が−17°C、最大衝撃力の最大値の差が8.6kgf(落下高さ250mm)、最大衝撃力の最大値が65.9kgf(落下高さ250mm)、ヒステリシスロスが71.9%(50kgfまで)であり、広い温度域で筋力増強効果の高い緩衝効果を発現するポリウレタンフォームを含むマットを提供するという本発明の目的の観点からみて、多くの物性値において他の比較例に比べて優れている。
【0046】
温度依存性の少ない比較例2と比較して、0°Cから40°Cまでにおける最大衝撃力が平均59%低下している。また、0°Cと40°Cにおける最大衝撃力の差が6.2kgfとなっており、踏込み時の膝への最大衝撃力は、この温度域では常に安定している。温度依存性のある比較例1と比較すると、23°Cにおける最大衝撃力は比較例1の方が低いが、0°Cにおける最大衝撃力については、実施例の方が46%低減されている。また、実施例のマットは、温度変化による硬さ等の特性の変化が少ないことから、年間を通じて常に一定の使用感を提供できる。
【0047】
<筋力増強効果>
実施例のマットを使用した際の、標準的な床材との運動負荷の違いを、最大酸素摂取量を基に測定した。「JAEGER OXICON DELTA LABORATORY」の呼吸ガス計測器を用い、心電図モニター下でこの呼吸ガス計測器用マスクを被験者に装着し、被験者は、実施例のマット及び床材上で、膝先端が遊脚時に床上60cmの高さまで挙上し、60歩/分の速さでその場足踏み動作を行う。立位安静時から開始し心拍数の上昇が見られなくなってから、30秒後に足踏み動作を終了する。測定は開始後30秒毎と最高値の両者を記録し、判定は最高値で示す。なお、21人の被験者の平均年齢は62.7歳であった。
【0048】
表3は、その結果を示す。なお、単位のMETsとは、代謝当量(Metabolic Equivalents)をいい、運動時のエネルギー代謝量(酸素消費量)/安静時のエネルギー代謝量(酸素消費量)により算出される。例えば、1METsとは安静時、3METsとは、普通歩行、屋内の掃除、ボーリング、バレーボール等の運動に相当し、4METsとは、速歩、屋根の雪下ろし、水中運動、卓球、アクアビクス等の運動に相当する。
【0049】
これによれば、実施例のマットは、標準的な床材に対して、酸素消費量、即ち、エネルギー代謝量が平均で1.31倍となっている。被験者の年齢が異なり、年齢による代謝率の低下がそれぞれの被験者で異なるので、単純にMETsの数値を比較することはできないが、同一の被験者では明らかな代謝量、即ち、運動量が増加している。従って、実施例のマットを使用し運動することにより、硬い床材上と比較した場合、同じ運動でも運動量が増加し、筋力の増強に効果があることが分かる。
【表3】

【0050】
<使用者アンケート結果>
実施例と標準的な床材に対して、社団法人日本整形外科学会が定義するロコモティブシンドローム(運動器症候群)の7つ項目において、5段階基準により評価を行った。具体的には、54歳から68歳までの9人の被験者に、1日10分間程度の足踏み運動を2カ月間行ってもらい、アンケートに回答いただいた。
【0051】
実施例のマットの使用者に、実施例のマットを使用した後アンケートに答えてもらい、表4に示す結果を得た。なお、アンケート表は図11に示す。これによれば、実施例のマットを使用することにより、歩行時脚を上げる習慣がつき、つまずきが減っていることが分かる。また、使用者からは、「足の運びが少しスムーズになった」、「ズリ足、つまずきが減少した」、「ひざの負担が無く、床を足踏みするより少ない気がする」、「毎日1時間の散歩を続けていたが、これを使用後、早足での歩行が少し楽になった」、「少しの段差でよくつまずいていましたが、これを使うようになってから、つまずきがほとんどなくなりました」などの感想があった。以上から、実施例のマットを使用すれば、転倒防止の効果が期待できる。さらに、「田植え時の泥田を歩く」、「砂浜を歩く感触」などコメントもあり、精神的なリラックス感を呼び起こす効果もあることが分かる。
【表4】

【0052】
<衝撃力の測定方法>
衝撃力の測定は、吉田精機製の落下衝撃試験機改造型を、歪ゲージタイプ加速度変換器(共和電業製AS−A200G)を、加速度波形処理は、メモリハイコーダー(日置電機(株)製) ローパスフィルター1000Hzを使用して、実施例、比較例1〜3に対して、以下の要領で行った。
【0053】
それぞれの試料を、100×100×60mmとし、アルミブロック(140×140mm)の上に置き、100mm角平板の衝突子先端を衝突させ、試料の全面圧縮を行う。衝突子の全体質量は5.88kgである。衝突子の減速度(G)を測定し、質量(5.88)を掛けることにより反力を計算する。落下高さは、150mmと250mmの2条件で行う。これは、落下高さが150mmの場合は、最大衝撃力が50kgf程度を想定したものであり、250mmの場合は、最大衝撃力が100kgf程度を想定したものである。なお、試料は、それぞれ0°C、23°C、40°Cの恒温槽中に約1時間入れ、取出し直後室温にて本測定を行った。
【0054】
尚、本発明は、例示した実施の形態に限定するものではなく、特許請求の範囲の各項に記載された内容から逸脱しない範囲の構成による実施が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足踏み又は歩行運動機能の維持向上を目的として使用される、ポリウレタンフォームを含むマットであって、
前記ポリウレタンフォームは、セル膜の一部に孔が空いているセルを有し、
以下の条件をすべて満たすマット。
・前記ポリウレタンフォームのガラス転位点は、−10°C以下である。
・0〜40°Cにおける、前記ポリウレタンフォームの衝撃力の最大値の差は、10kgf以下である。
・前記ポリウレタンフォームの通気性(JIS L1096 A法)は、0.1以上10.0cm3/cm2・秒以下である。
【請求項2】
さらに、以下の条件をすべて満たすことを特徴とする請求項1に記載のマット。
・前記ポリウレタンフォームのセルの数は、58個/25mm以上である。
・前記ポリウレタンフォームの硬さ(JIS K6400−2 6.7 D法)は、100以上300N以下である。
【請求項3】
さらに、以下の条件をすべて満たすことを特徴とする請求項1又は2に記載のマット。
・前記ポリウレタンフォームのヒステリシスロス率(JIS K6400−2)は、60%以上である。
・0〜40°Cにおける、前記ポリウレタンフォームの衝撃力の最大値は、70kgf以下である。
【請求項4】
前記ポリウレタンフォームは、ポリオール類とポリイソシアネート類を触媒および発泡剤、整泡剤、添加剤の存在下反応させて得られ、前記ポリオール類にポリエーテルエステル系ポリオールを含むことを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載のマット。

【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−100830(P2012−100830A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251172(P2010−251172)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)