説明

マッハツェンダ型変調器および光通信装置

【課題】 バイアス電圧を低減することを目的とする。
【解決手段】 本発明にかかるマッハツェンダ型変調器は、入力された光を分岐する光分岐導波路と、PN接合構造またはPIN接合構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第1のアーム光導波路と、量子井戸構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第2のアーム光導波路と、前記第1のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第1の位相電極と、前記第2のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第2の位相電極と、を備え、 前記第1の位相電極に順方向電圧を印加し、前記第2の位相電極に0Vまたは逆方向電圧を印加することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体を用いたマッハツェンダ型変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光通信の分野において光伝送方式の高速・大容量化が進んでおり、低チャーピングで高速動作が可能なマッハツェンダ型の外部変調器が実用化されている。一般的なマッハツェンダ型変調器では、大きな電気光学効果を有する材料であるニオブ酸リチウムなどの強誘電体が用いられる。
【0003】
また、ニオブ酸リチウムを用いたマッハツェンダ型変調器に比べて、小型化、低コスト化、低消費電力化が期待できるデバイスとして、InPやGaAsなどの半導体を用いたマッハツェンダ型変調器がある。このようなマッハツェンダ型変調器の中では、量子井戸構造に電界を印加したときに屈折率が変化する量子閉じ込めシュタルク効果を利用したものが注目を集めている。
【0004】
量子閉じ込めシュタルク効果を利用する方法では、動作波長と量子井戸の遷移波長の離調を大きくして導波損失を低減させることが一般的である。しかし、同時に位相変化量まで低減されてしまうため、所望の位相変化を得るには高いバイアス電圧が必要となる。このため、低いバイアス電圧で動作可能なマッハツェンダ型変調器が求められている。
【0005】
従来の技術では、電界印加時に、屈折率変化が光を遮断する電界よりも光の電界吸収が発生する電界を小さくするように量子井戸構造を設計し、量子閉じ込めシュタルク効果の屈折率変化と電界吸収効果の両方を用いて光を変調することにより、光変調に要するバイアス電圧を低減する技術が開示されている(例えば、下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−83473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献に記載の従来技術では、バイアス電圧を下げるために、量子井戸の遷移波長と動作波長を近づけて動作させているので、電界吸収効果による導波損失が大きくなってしまうことから、バイアス電圧の低減が制限されるという問題があった。
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、半導体を用いたマッハツェンダ型変調器において、バイアス電圧を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかるマッハツェンダ型変調器は、入力された光を分岐する光分岐導波路と、PN接合構造またはPIN接合構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第1のアーム光導波路と、量子井戸構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第2のアーム光導波路と、前記第1のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第1の位相電極と、前記第2のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第2の位相電極と、を備え、 前記第1の位相電極に順方向電圧を印加し、前記第2の位相電極に0Vまたは逆方向電圧を印加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半導体を用いたマッハツェンダ型変調器において、バイアス電圧を低減できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】この発明の実施の形態1にかかるマッハツェンダ型変調器の構成例を示す図である。
【図2】この発明の実施の形態1にかかるマッハツェンダ型変調器の位相電極に印加するバイアス電圧とアーム光導波路を伝播する光に与えられる位相差の関係についての一例を示す図である。
【図3】この発明の実施の形態1、2にかかるマッハツェンダ型変調器の構成例を示す図である。
【図4】この発明の実施の形態3にかかる光通信装置の構成例を示す図である。
【図5】この発明の実施の形態3にかかる変調器制御部の構成例を示す図である。
【図6】この発明の実施の形態4にかかる変調器制御部の構成例を示す図である。
【図7】この発明の実施の形態5にかかる変調器制御動作のフローチャートの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、それぞれが本発明を具体化する際の一形態であって、本発明をその範囲内に限定するものではない。
【0013】
実施の形態1.
図1は本実施の形態にかかるマッハツェンダ型変調器の構成例を示す図である。本実施の形態にかかるマッハツェンダ型変調器は半導体基板1上に形成されており、光入力導波路11と、光分岐導波路12と、アーム光導波路131、132と、アーム電極141、142と、位相電極151、152と、光合波導波路16と、光出力導波路17とによって構成される。
【0014】
マッハツェンダ型変調器の導波路を透過する光は光入力導波路11から入力される。入力された光は光分岐導波路12によって分岐され、分岐された光はそれぞれアーム光導波路131とアーム光導波路132を伝播する。アーム電極141は、アーム光導波路131上またはその近傍に形成される。また、位相電極151は、アーム電極141とは絶縁され、アーム光導波路131上またはその近傍に形成される。同様に、アーム電極142は、アーム光導波路132上またはその近傍に形成される。また、位相電極152は、アーム電極142とは絶縁され、アーム光導波路132上またはその近傍に形成される。アーム電極141、142には変調信号に対応したRF電圧が印加され、アーム光導波路131、132を伝播する光が変調される。位相電極151、152には位相調整のためのバイアス電圧が印加され、アーム光導波路131、132を伝播する光に、変調方式に依存する位相差が与えられる。アーム光導波路131、132を伝播する光は光合波導波路16によって合波される。光合波導波路16により合波された光は光出力導波路17から出力される。なお、マッハツェンダ型変調器は光通信装置内に配置され、位相電極151、152に印加されるバイアス電圧は図示していない1つまたは複数の制御回路から導入される。以下の実施の形態においても同様とする。
【0015】
アーム電極141、142と位相電極151、152の下または近傍にあるアーム光導波路131、132には、量子井戸構造が形成される。量子井戸構造は、マッハツェンダ型変調器に入力される光の波長に対して、量子閉じ込めシュタルク効果による吸収係数が十分小さく、屈折率変化が生じるように設計される。
【0016】
次に、本実施の形態にかかるマッハツェンダ型変調器の構造の一例を説明する。この例のアーム光導波路は、ノンドープ量子井戸構造がp型、n型のクラッド層に挟まれたPIN接合構造を有する。n−InP基板上にクラッド層としてn−InP層を成膜し、その上にi−InGaAsP/i−InPを多重に積層した量子井戸構造を形成する。量子井戸構造の上にはクラッド層としてp−InP層を積層させる。p−InP層の上にはコンタクト層としてP型不純物を高濃度に拡散させたInGaAs層を形成する。その後、エッチングによって、量子井戸構造と、それよりも上側の層をメサ形状に加工し、図1に示すマッハツェンダ型変調器の導波路形状を形成する。次に、半導体基板1の裏面にはAuGeNi/AuによりN電極を形成し、コンタクト層のInGaAs層の上に、Ti/Pt/Auを蒸着した後に、Auメッキ層を形成してP電極を形成する。このP電極がアーム電極141、142と位相電極151、152の一例に相当する。
【0017】
上記の構造および形成方法は一例であり、本実施の形態を実現するマッハツェンダ型変調器はこの例に限られない。例えば、量子井戸構造には、上記の膜種以外にも従来から知られているInGaAs、InAlAs、InAlAsP、InGaAlAsなどを用いてもよい。また、InP基板上に形成した例について述べたが、GaAs系、Si系、Ge系などの他の素材を用いた場合であっても、従来から知られている量子井戸構造、PN接合構造やPIN接合構造などを用いることにより、本実施の形態を実現するマッハツェンダ型変調器を得ることができる。
【0018】
図2は、本実施の形態にかかるマッハツェンダ型変調器の位相電極に印加するバイアス電圧とアーム光導波路を伝播する光に与えられる位相差の関係についての一例を示す図である。図2は、上述したInP基板上に形成されたマッハツェンダ型変調器についての例であり、横軸は位相電極151に印加されるバイアス電圧、縦軸はアーム光導波路131、132を透過する光の間に生じる位相差を示す。
【0019】
図示するように、位相電極151に逆方向のバイアス電圧を印加した場合は、量子閉じ込めシュタルク効果により量子井戸構造の屈折率が変化し、位相差がバイアス電圧に応じて線形に増加していく。一方、順方向のバイアス電圧を印加した場合は、アーム光導波路131において、PIN接合に電流が流れ、キャリアプラズマ効果による屈折率変化が支配的となる。この場合、いわゆるダイオードの電流−電圧特性のような特性変化が生じ、量子閉じ込めシュタルク効果よりも急激な屈折率変化が起こる。
【0020】
従来の技術では、位相差がバイアス電圧に対して線形に変化することから、位相電極151と位相電極152には、逆方向のバイアス電圧が印加されていた。本実施の形態では、バイアス電圧を位相電極151、152に対し、順方向と逆方向の双方にまたがるように印加する。これにより、アーム光導波路131、132を伝播する光に与えられる位相差の調整範囲は、従来の逆方向のバイアス電圧領域のみを用いる場合に比べて2倍に拡大される。なお、順方向と逆方向の双方にまたがって印加するとしているが、位相電極151に順方向のバイアスを印加し、位相電極152は0Vとすることも可能である。この場合でも、キャリアプラズマ効果による急激な屈折率変化によってバイアス電圧を低減することができる。
【0021】
なお、前述のマッハツェンダ型変調器の例においては、アーム光導波路131、132が両方とも量子井戸構造を有する構成とした。しかし、量子閉じ込めシュタルク効果を利用する側のアーム光導波路では量子井戸構造が必要であるが、キャリアプラズマ効果を利用する側のアーム光導波路では量子井戸構造は必ずしも必要ではない。量子シュタルク効果を利用する側のアーム光導波路は、前述のPIN接合構造に限られず、従来から知られているNPIN接合構造またはNIN接合構造などを有する構成であってもよい。また、キャリアプラズマ効果を利用する側のアーム光導波路は、PN接合構造またはPIN接合構造(ノンドープ層は量子井戸構造でなくてもよい。)を有する構成であってもよい。
【0022】
次に、本実施の形態の適用例として図1のマッハツェンダ型変調器においてアーム光導波路131、132を伝播する光に0(0deg)またはπ(180deg)の位相差を与えて強度変調を行う場合について説明する。位相電極151、152に逆方向のバイアス電圧領域から印加する場合は、πの位相差を得るために、5V以上のバイアス電圧が必要となる。一方、位相電極151に順方向のバイアス電圧、位相電極152に逆方向のバイアス電圧を印加した場合は、順方向のバイアス電圧の値によっては、位相電極152に印加する逆方向のバイアス電圧を2V程度まで下げることが可能である。さらに、従来技術と異なり、量子井戸の共鳴波長と動作波長を大きく離調して動作させることも可能であるため、量子閉じ込めシュタルク効果による導波損失を回避することもできる。
【0023】
上記では強度変調の例を挙げたが、位相変調でも同様の効果を奏する。例えば、二相位相偏移変調(BPSK:Binary Phase Shift Keying)では、アーム光導波路131、132を伝播する各光の位相をπだけ変化させるバイアス電圧をVπとすると、通常は逆方向のバイアス印加領域において、位相電極151にVπ、位相電極152に−Vπのバイアス電圧を印加して位相πの変調信号が生成される。本実施の形態によれば、片側の位相電極には順方向のバイアス電圧を印加するので、逆方向に印加するバイアス電圧を低減し、バイアス電圧の制御幅増大を抑制することができる。
【0024】
バイアス電圧の増大は、マッハツェンダ型変調器に印加するバイアス電圧を制御する制御回路への制約を課すことになる。このため、本願発明によりバイアス電圧を低減することができれば、制御回路基板の設計を簡易にし、制御回路基板を低コスト化することができる。
【0025】
以上のように、本実施の形態では、マッハツェンダ型変調器において、PN接合構造またはPIN接合構造を有するアーム光導波路の位相電極に順方向のバイアスを印加し、量子井戸構造を有するアーム光導波路の位相電極に0Vまたは逆方向のバイアスを印加する構成とした。これにより、バイアス電圧を低減できるという効果を奏する。
【0026】
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1の構成に加え、バイアス電圧0V付近に見られる、バイアス電圧を印加しても位相差が生じない領域(以下、不感帯と称する。)をバイアス電圧の選択範囲から除外する構成とする。
【0027】
本実施の形態にかかるマッハツェンダ型変調器は、図1の構成と同じであり、位相電極151、152にバイアス電圧を印加した時の位相差の変化も図2のようになる。図2において、バイアス電圧0V付近の変曲点1と、順方向にバイアス電圧を印加した場合に、ダイオード特性のように位相変化が急激に増加する電圧に対応する変曲点2との間の領域を不感帯とする。変曲点1、2となるバイアス電圧は、バイアス電圧に対する位相差の変化が所定の閾値以上となる電圧値により決定され、マッハツェンダ型変調器の構成や閾値の定め方に応じて適宜調整することができる。
【0028】
位相電極151、152には閾値以上のバイアス電圧(変曲点1、2よりも高いバイアス電圧)が印加される。図2の例では不感帯の幅は0.6V程度である。予め不感帯を調べておき、マッハツェンダ型変調器を光通信装置内で実際に動作させる際に、最適なバイアス電圧を選択する範囲から、不感帯を除外する設定とする。なお、順方向のバイアス電圧だけ不感帯を用いないようにするなど、片側だけに上記構成を適用する設定としてもよい。
【0029】
以上のように、本実施の形態では、実施の形態1の構成に加え、不感帯を用いないようにバイアス制御する構成とした。これにより、実施の形態1の構成で得られる効果に加え、バイアス電圧に対する位相変化が大きな効率の良い領域を使用することができ、マッハツェンダ型変調器の制御を簡易にすることができる。
【0030】
なお、図1の例では、アーム光導波路が2つの構造であったが、マッハツェンダ型変調器の構成はこれに限られない。例えば、図3に示すような実施の形態1、2にかかるマッハツェンダ型変調器を入れ子にした構成も可能である。光入力導波路21から入力された光は、光分岐導波路22によって分岐される。分岐された光の間には、位相電極231、232により位相差π/2が与えられる。その後、分岐された光の一方は入れ子構造241を伝播し、分岐された光の他方は入れ子構造242を伝播する。入れ子構造241、242の光変調において実施の形態1、2と同様のマッハツェンダ型変調器の制御が適用される。上記の位相差π/2を与える構成は入れ子構造241、242の後段にあってもよい。
【0031】
図3に示すマッハツェンダ型光変調器は、四相位相偏移変調(QPSK:Quadrature Phase Shift Keying)や差動四相位相偏移変調(DQPSK:Differencial Quadrature Phase Shift Keying)、直交位相振幅変調(QAM:Quadrature amplitude modulation)といった、より高い伝送レートを実現する変調方式に対応する。図3の構成よりも入れ子構造が増えたマッハツェンダ型光変調器においても同様に実施の形態1、2を適用してもよい。
【0032】
実施の形態3.
量子閉じ込めシュタルク効果を利用する側は印加する電圧に比例して屈折率が変化する。一方、キャリアプラズマ効果を利用する側は印加する電流に比例して屈折率が変化する。順方向のバイアス電圧印加時と逆方向のバイアス電圧印加時でバイアス電圧に対する屈折率の変化が異なるため、マイコンなどを用いてバイアス電圧を制御する場合、順方向と逆方向のバイアス電圧の制御精度が異なる。上記のようなマッハツェンダ型変調器を用いた光通信装置の伝送特性は外部変調器に印加されているバイアス電圧に応じて変化する。最良の伝送特性を実現するバイアス電圧の条件は、送信する光信号の波長や変調器の温度などに依存して変化するため、順方向と逆方向のバイアス電圧を異なる制御精度で制御する必要がある。
【0033】
図4は、本実施の形態にかかる光通信装置の構成例を示す図である。図示するように、光通信装置1000は、光変調部3、光出力モニタ部4、変調器制御部5を備える。
【0034】
光変調部3は、実施の形態1、2で示したマッハツェンダ型変調器を含み、光信号を送信する。光出力モニタ部4は光変調部3から出力される光信号の光出力をモニタリングしており、送信された光信号の一部を受信して光出力モニタ値を出力する。光出力モニタ部4の一例としては、光検出器とトランスインピーダンスアンプを有し、受信した光信号の強度をモニタ電圧として検出し、これを光出力モニタ値として出力する。この例に限られず、例えば、光出力モニタ部4は電圧に変換せずにモニタ電流として検出し、これを光出力モニタ値として出力してもよい。変調器制御部5は光出力モニタ部4からの出力に基づき、バイアス電圧制御量を算出する。変調器制御部5は算出したバイアス電圧制御量に基づいて光変調部3に含まれるマッハツェンダ型変調器のバイアス電圧の制御を行う。
【0035】
図5は、本実施の形態にかかる変調器制御部の構成例を示す図である。図示するように、変調器制御部5は制御信号入力部51、駆動信号出力部52、オペアンプ53、抵抗54、55、56、スイッチ57、利得切り替え部58を備える。
【0036】
変調器制御部5はオペアンプ53を用いた反転増幅回路を備える。マッハツェンダ型変調器を駆動するための電気信号は制御信号入力部51から入力される。入力された電気信号はオペアンプ53によって変調器制御部5の利得に応じて増幅される。増幅された電気信号は駆動信号出力部52から出力される。駆動信号出力部52から出力された電気信号は光変調部3内のマッハツェンダ型変調器の位相電極に印加される。利得切り替え部58はスイッチ57の制御により合成抵抗を変化させることで、電気信号の利得を変更する。スイッチ57は利得制御信号に基づいてオンオフを制御する。なお、スイッチはオンオフの制御ができればよく,たとえばアナログスイッチによって実現される。
【0037】
抵抗54の抵抗値をR1、抵抗55の抵抗値をR2、抵抗56の抵抗値をR3としたとき、スイッチ57をオフしたときの変調器制御部5の利得G1は、式(1)のようになる。
【0038】
G1=R2/R1 ・・・(1)
【0039】
スイッチ57をオンしたときの変調器制御部5の利得G2は、式(2)のようになる。
【0040】
G2=((R2×R3)/(R2+R3))/R1 ・・・(2)
【0041】
変調器制御部は電圧印加方向(順方向または逆方向)に応じて利得G1とG2の切り替えを行う。例えば、逆方向のバイアス電圧を印加する場合はG1の状態で制御し、順方向のバイアス電圧を印加する場合はG2の状態で制御を行う。G1>G2であれば、G2の状態で制御される順方向のバイアス電圧の制御幅はG1の状態で制御される逆方向のバイアス電圧の制御幅に比べて狭くなる。これにより順方向のバイアス電圧は逆方向のバイアス電圧よりも細かな精度で設定することができる。以上のように、電圧印加方向に応じてG1とG2を切り替えることによって順方向と逆方向のバイアス電圧を異なる制御精度で制御することができる。
【0042】
実施の形態4.
実施の形態3では利得切り替え部58が抵抗55、56とスイッチ57により構成されているが、本実施の形態では可変抵抗61により構成される。
【0043】
図6は本実施の形態にかかる変調器制御部の構成例を示す図である。図5と同一の構成は同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示するように、本実施の形態の変調器制御部6の利得切り替え部68は可変抵抗61を有する。利得切り替え部68は利得制御信号に基づいて可変抵抗61の抵抗値を変化させることで、変調器制御部6の利得を切り替える。変調器制御部6では順方向または逆方向のバイアス条件に応じて可変抵抗61の抵抗値が制御される。なお、可変抵抗61は、利得制御信号に応じて抵抗値を制御できればよく、例えば、DPM(Digital PotentioMeter)により実現することができる。
【0044】
抵抗54の抵抗値をR1、可変抵抗61の抵抗値をR4としたとき、変調器制御部6の利得G1は、式(3)のようになる。
【0045】
G1=R4/R1 ・・・(3)
【0046】
実施の形態3と同様に、電圧印加方向に応じて、可変抵抗61の抵抗値を調整して利得を制御する。順方向のバイアス電圧を印加する場合は、逆方向のバイアス電圧を印加する場合に比べて、R4の値を下げて利得を小さくする。これにより、順方向のバイアス電圧の制御幅は逆方向のバイアス電圧の制御幅に比べて狭くなり、順方向のバイアス電圧は逆方向のバイアス電圧よりも細かな精度で設定される。以上のように、電圧印加方向に応じて可変抵抗値を調整して利得を設定することによって、順方向と逆方向のバイアス電圧を異なる制御精度で制御することができる。また、可変抵抗で制御することにより、最良の伝送特性を実現するバイアス電圧の条件が、送信する光信号の波長や変調器の温度などに依存して変化した場合でも、柔軟にバイアス条件を変更することが可能となる。
【0047】
なお、実施の形態3、4では変調器制御部の電圧増幅回路にある抵抗値の制御によって利得を変えるとしていたが、抵抗値の切り替え以外の他の方法で利得を切り替えてもよい。例えば、テーブルに利得の情報を予め格納しておき、光出力モニタ値に応じてテーブルから利得の設定値を引き出すことによって、利得の値を切り替えてもよい。また、実施の形態3、4では変調器制御部の電圧増幅回路の一例として反転増幅回路を示したが、これに限定されない。例えば、非反転増幅回路などの他の既知の電圧増幅回路を実施の形態3、4に適用して利得を切り替えても同様の効果を得ることができる。
【0048】
実施の形態5.
本実施の形態では、実施の形態1〜4の構成に加え、バイアス電圧の順方向(正)と逆方向(負)が逆転する場合にバイアス電圧制御がされないようにする。
【0049】
図7は本実施の形態にかかる変調器制御動作のフローチャートの一例を示す図である。バイアス電圧制御が開始されると、変調器制御部は光出力モニタ値を読み取る(ステップS701)。変調器制御部は読み取った光出力モニタ値に基づき、バイアス電圧制御量を算出する(ステップS702)。算出されたバイアス電圧制御量に基づいて制御を行った場合と、制御を行わなかった場合を比較して、制御後のバイアス電圧の正負が逆転するか判断する(ステップS703)。ここで、正負が逆転している場合はバイアス電圧の制御を行わない(ステップS704)。一方、正負が逆転していない場合は、算出したバイアス電圧によって制御を行う(ステップS705)。例えば、マッハツェンダ型変調器の位相電極に順方向のバイアス電圧が印加されており、この位相電極のバイアス電圧が順方向から逆方向に逆転する場合には、電圧印加方向を逆転させるバイアス制御を行わずに現状の電圧印加方向を維持する。同様に、位相変調器に逆方向のバイアス電圧が印加されており、この位相電極のバイアス電圧が逆方向から順方向に逆転する場合には、電圧印加方向を逆転させるバイアス制御を行わずに現状の電圧印加方向を維持する。ステップS704、S705の後は再度ステップS701に戻る。
【0050】
以上のような動作フローを含むことにより、実施の形態1〜4において、マッハツェンダ型変調器に印加されるバイアス電圧の電圧印加方向を維持することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 半導体基板
11 光入力導波路
12 光分岐導波路
131、132 アーム光導波路
141、142 アーム電極
151、152 位相電極
16 光合波導波路
17 光出力導波路
1000 光通信装置
241、242 入れ子構造
3 光変調部
4 光出力モニタ部
5、6 変調器制御部
51 制御信号入力部
52 駆動信号出力部
53 オペアンプ
54、55、56 抵抗
57 スイッチ
58、68 利得切り替え部
61 可変抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された光を分岐する光分岐導波路と、
PN接合構造またはPIN接合構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第1のアーム光導波路と、
量子井戸構造を有し、前記光分岐導波路から入力される光を伝播させる第2のアーム光導波路と、
前記第1のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第1の位相電極と、
前記第2のアーム光導波路を伝播する光の位相を調整する第2の位相電極と、を備え、 前記第1の位相電極に順方向電圧を印加し、前記第2の位相電極に0Vまたは逆方向電圧を印加することを特徴とするマッハツェンダ型変調器。
【請求項2】
前記第1の位相電極に印加する順方向電圧は、前記第1のアーム光導波路を伝播する光の位相の変化が所定の閾値以上となる範囲内で設定されることを特徴とする請求項1に記載のマッハツェンダ型変調器。
【請求項3】
前記第2の位相電極に印加する逆方向電圧は、前記第2のアーム光導波路を伝播する光の位相の変化が所定の閾値以上となる範囲内で設定されることを特徴とする請求項1または2に記載のマッハツェンダ型変調器。
【請求項4】
請求項1乃至3に記載のマッハツェンダ型変調器のうち、少なくとも1つを入れ子構造として有するマッハツェンダ型変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載のマッハツェンダ型変調器を備えた光通信装置。
【請求項6】
請求項1乃至4に記載のマッハツェンダ型変調器のうち、少なくとも1つを有する光変調部と、
前記光変調部から出力される光信号をモニタする光出力モニタ部と、
前記光出力モニタ部からの出力に基づき、前記マッハツェンダ型変調器に印加する電圧を制御する変調器制御部と、を備え、
前記変調器制御部は、前記マッハツェンダ型変調器の位相電極に対する電圧印加方向に応じて利得の切り替えを行うことを特徴とする光通信装置。
【請求項7】
前記変調器制御部は、電圧増幅回路を備え、該電圧増幅回路の利得の切り替えを行うことを特徴とする請求項6に記載の光通信装置。
【請求項8】
前記変調器制御部は、電圧増幅回路を備え、該電圧増幅回路の可変抵抗の抵抗値を調整することにより利得の切り替えを行うことを特徴とする請求項6に記載の光通信装置。
【請求項9】
前記変調器制御部は、前記光出力モニタ部からの出力に基づいて算出された電圧印加条件が電圧印加方向を逆転させる場合に、電圧印加方向を変えない制御をすることを特徴とする請求項6乃至8のいずれか1つに記載の光通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−7987(P2013−7987A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224628(P2011−224628)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】