説明

マトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤

【課題】
マトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤を提供すること、さらに詳しくは、表皮細胞からの伝達物質TNF−α、IL−6などの放出を抑制、及び/又はTGF−βを促進することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤を提供すること。
【解決手段】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールは、表皮細胞における紫外線による伝達物質TNF−α、IL−6などの放出を抑制、及び/又はTGF−βを促進することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲンの産生促進剤、及びそれらを含む化粧料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、常に外界にさらされており、加齢とともにしわ、タルミ、くすみ、色素沈着などが生じる。外界にさらされた皮膚に生じるこれらの変化は主に光老化によるものであるといわれている。
【0003】
紫外線は、マトリックス線維の分解を促進するマトリックスメタロプロテアーゼなどのコラゲナーゼと病態との関係について多くの知見が得られている。真皮においては紫外線照射により線維芽細胞においてマトリックスメタロプロテアーゼの産生が誘導され、その結果、真皮マトリックスの主成分であるコラ−ゲンやエラスチンなどの分解が促進され、皮膚の老化が進行することが知られている。
【0004】
このような紫外線による皮膚の光老化を抑制するために種々の研究がなされてきた。全トランス型のレチノイン酸の塗布が光老化の症状の改善に有効であることが広く知られているほか、アニリン誘導体等や特定の植物エキスを利用して紫外線露光に起因するDNA損傷を防止する方法(特許文献1及び2)、スルフヒドリル基を有する化合物及びジスルフィド結合を有する化合物を利用する方法(特許文献3)、乳清タンパク質を利用する方法(特許文献4)活性酸素消去作用を有する柿蒂抽出物を利用する方法(特許文献5)などが見出されてきた。
【0005】
ところで、従来、紫外線照射による線維芽細胞における機能低下に関するメカニズムについては、真皮の線維芽細胞に対して紫外線が直接ダメージを与えることにより、コラ−ゲン合成能が低下するとともに、マトリックスメタロプロテアーゼなどのコラゲナーゼの発現が誘導され、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックス成分の分解が促進されるとされてきた。
【0006】
近年は、表皮細胞と線維芽細胞の相互の情報伝達の重要性が提示されている。例えば、光老化に係わる報告ではないが、角化細胞、線維芽細胞及び他の皮膚細胞などの間の細胞対細胞の連絡を仲介する成長及び分化ホルモン、放出ホルモン、神経伝達物質などの内因性化学物質の合成を促す信号発信化合物としてアンドログラホリドという物質がある。アンドログラホリド及び/又はその誘導体等を含有するスキンケア組成物及び/又は美容組成物(特許文献6)が内因性化学物質の生合成及び/又はバイオ活性を誘発及び促進することが報告されている。また、ヨクイニンエキス、クロレラエキス、トルメンチラエキス及びフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールは表皮細胞での成長因子の一つである血管内皮細胞増殖因子(VEGF)の過剰な産生を抑制し、血管新生を抑制することによって種々の皮膚疾患を予防すること(特許文献7および8)が報告されている。
【0007】
表皮細胞と線維芽細胞のクロストークの一つとして、紫外線照射された表皮細胞が線維芽細胞に対してマトリックスメタロプロテアーゼ−1発現を亢進すること、また、マトリックスメタロプロテアーゼ−1を活性化する因子を分泌することが強く示唆されたという報告がある(非特許文献1)。
【0008】
一方、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールについては、皮膚外用剤に配合された例が報告されているが(特許文献8〜11)、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールについて、紫外線に照射された表皮細胞からの伝達物質の放出が抑制及び/又は促進され、その結果、線維芽細胞でのマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生が効果的に阻害される効果及び/又は線維芽細胞でのコラーゲン産生が促進される効果についての報告はこれまでにない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平09−235256号公報
【特許文献2】特開2008−247854号公報
【特許文献3】特開2002−047178号公報
【特許文献4】特表2002−529387号公報
【特許文献5】特開2006−083070号公報
【特許文献6】特開2003−516950号公報
【特許文献7】特開2007−077104号公報
【特許文献8】特開2008−001623号公報
【特許文献9】特開2010−209023号公報
【特許文献10】特許第3770588号公報
【特許文献11】特許第4569312号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J Invest Dermatol. (2008) 128 Suppl 1:S1−284,poster 1177.
【非特許文献2】Photochemistry and Photobiology(1994) 159:550−556
【非特許文献3】Eur Food Res Technol. (2010) 231:163−169
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
1)表皮細胞からのマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生を抑制する伝達物質の放出を抑制するマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤を提供することを目的とする。
2)表皮細胞からのコラーゲン合成を促進する伝達物質の産製を促進するコラーゲン合成促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤。
【0013】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とすることにより、表皮細胞からの伝達物質TNF−α、及び/又はIL−6の放出を抑制することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤。
【0014】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とすることにより、表皮細胞からの伝達物質TGF−βを促進することを特徴とするコラーゲン産生促進剤。
【0015】
マトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン合成促進剤を用いたしわ改善用の化粧料組成物。
【0016】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを0.000001〜10重量%含有する化粧料組成物。
【発明の効果】
【0017】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを利用することで、優れたマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤とコラーゲン産生促進剤が得られる。また、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを配合することで、皮膚のシワ、たるみ、シミ等の予防及び改善等の予防及び改善等皮膚に対して美肌効果及び抗老化効果を発揮する化粧料組成物、皮膚外用剤が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明におけるフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールによる紫外線照射後の伝達物質を介したマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生、コラーゲン産生の仕組み。通常時と表記している部分以下の流れフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを含まない場合であり、フコキサンナン添加時と表記している部分以下の流れはフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを含む場合
【図2】紫外線照射後の表皮細胞における炎症性サイトカインTNF−αのmRNA発現
【図3】紫外線照射後の表皮細胞における炎症性サイトカインIL−6のmRNA発現
【図4】紫外線照射後の表皮細胞におけるコラーゲン産生に関わるサイトカインTGF−βのmRNA発現
【図5】紫外線照射後の表皮−真皮間相互作用による線維芽細胞が放出したマトリックスメタロプロテアーゼ−1前駆体(proMMP−1)産生量
【図6】線維芽細胞におけるフコキサンチン添加時のコラーゲン産生量
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、伝達物質とは細胞から分泌されることにより生理活性を示すサイトカインであり、具体的にはリンパ球が産生するリンホカイン、単球・マクロファ−ジが産生するモノカイン、白血球の細胞間伝達物質としてのインターロイキン(以下IL)、造血に働くコロニ−刺激因子(CSF)、その他腫瘍壊死因子(以下TNF)や上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、血小板由来細胞成長因子(PDGF)、インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(以下TGF)など、血球系細胞、上皮細胞、線維芽細胞を含む種々の細胞から分泌される液性因子の総称である。これらは、細胞種の系列ごとに独立して機能するのではなく、種々の細胞間でサイトカインネットワ−クを形成し、相互に作用して機能している。その中で、組織に炎症刺激が加わるとIL−1が産生され、引き続いてTNF−α、IL−6、IL−8などの炎症性サイトカインが誘導される。また、IL−1に正のフィ−トバック機構が働き、IL−1自身の産生が促進される。このカスケ−ドに対して、IL−4、IL−10、IL−13は、単球・マクロファ−ジの炎症性サイトカイン産生を抑制したり、IL−1受容体アンタゴニスト(IL−1ra)の産生を促進することが知られている。TGF−βは、細胞の分化・遊走・接着に密接に関与し、個体発生や組織再構築、創傷治癒、炎症・免疫、癌の浸潤・転移などの幅広い領域で重要な役割を果たしている。
【0020】
図1は、本発明におけるフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールによる紫外線照射後の伝達物質を介したマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生、コラーゲン産生の仕組みを示す。図1の中で、通常時と表記している部分以下の流れはフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを含まない場合、フコキサンチン添加時と表記している部分以下の流れはフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを含む場合である。
本発明者らはこれら伝達物質の中でも、紫外線照射により表皮細胞から放出される炎症性サイトカインのうち、特にTNF−α、IL−6に対して、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールによる産生抑制効果を確認した。
具体的には、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールは、紫外線照射した表皮細胞の培養上清による線維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制作用を見出し、紫外線ダメージによるコラーゲンの分解を顕著に抑制する効果が期待できることがわかった。
【0021】
またコラーゲン産生において主要なサイトカインであるTGF−βに関してフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールによる産生促進効果を確認した。具体的には、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを取り込ませた表皮細胞に紫外線照射すると、TGF−βのmRNA発現を有意に亢進することが明らかになった。このことからフコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを配合することで、優れたコラーゲン産生促進剤が得られる。
【0022】
以上の知見から、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを配合することで、皮膚のしわ、たるみ等の予防及び改善等皮膚に対して美肌効果及び抗老化効果を発揮する皮膚外用剤が得られる。
【0023】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及びコラーゲン産生促進剤は、フコキサンチン及び//又はフコキサンチノールを有効成分とする。
【0024】
本発明において使用されるフコキサンチンは、天然物由来のものであることが望ましく、フコキサンチンを多く含む褐藻類、微細藻類等の藻類を用いることが好ましい。褐藻類、微細藻類の種類は、その盤状体中もしくは糸状体中にフコキサンチンが含まれているものであれば特に制限されず、このような藻類としては、例えば、コンブ科(Laminariaceae)、チガイソ科(Alariaceae)等のコンブ目(Laminariales)に属する褐藻類; ナガマツモ科(Chordaceae)、モズク科(Spermatochnaceae)等のナガマツモ目(Chordariales)に属する褐藻類;珪藻等の微細藻類が挙げられ、これらの藻類の盤状体もしくは糸状体が好ましい。前記褐藻類の盤状体もしくは糸状体の中でも、ナガマツモ科のオキナワモズク(Cladosiphonokamuranus)の盤状体又はモズク科のモズク(Nemacystusdecipiens)の糸状体、コンブ科のコンブの盤状体もしくは糸状体、チガイソ科のワカメの盤状体もしくは糸状体、珪藻等が好ましい。本発明において、これらの植物を1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。また、フコキサンチンを含有するこれらの植物をそのまま使用することもできるが、抽出物を本発明の有効成分として用いることができる。フコキサンチンを含む植物は乾燥、細切、破砕、粉砕等の処理に供されたものであってもよい。
【0025】
フコキサンチンを含む抽出物は、前記する植物(又は動物)を抽出原料として、これを、そのまま或いは必要に応じて、乾燥、細切、破砕、粉砕、圧搾、煮沸或いは発酵処理したものを溶媒で抽出処理することにより取得することができる。
【0026】
フコキサンチンを含む植物(又は動物)の抽出物の抽出処理に使用される溶媒としては、例えば、極性有機溶媒、水と極性有機溶媒の混合液等の極性溶媒を挙げることができる。また、当該極性有機溶媒としては、例えばメタノ−ル、エタノ−ル、ブタノ−ル、イソプロパノ−ル等の炭素数1〜5の低級アルコ−ル;プロピレングリコ−ル;アセトン;酢酸エチル;ヘキサン;ジクロロメタン;クロロホルム等の単独或いは2種以上の組み合わせを挙げることができる。上記極性溶媒の中で、人体への安全性と取扱性の観点から、好ましくはエタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル等の炭素数2〜4の低級アルコ−ル;アセトン;ヘキサン又はこれらの混合物が挙げられる。さらに好ましくはエタノ−ル、アセトン、ヘキサン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
フコキサンチンは脂溶性である。従って、例えば、抽出溶媒として炭素数1〜5の低級アルコ−ルと水を混合して用いる場合、該混合溶液の総重量に対する炭素数1〜5の低級アルコ−ルの含有割合は、50〜99.9重量%程度、好ましくは70〜99.9重量%程度、より好ましくは90〜99.9重量%程度が望ましいが、フコキサンチンが抽出される限り特に限定されない。
【0028】
抽出処理は、例えば、褐藻類等の抽出原料1重量部に対して、約5〜100重量部の抽出溶媒を用いて行われる。また、当該抽出処理方法としては、通常用いられている植物抽出物の抽出処理方法を採用することができ、具体的には、冷浸、温浸等の浸漬法;低温、室温又は高温下で攪拌する方法;パ−コレ−ション法等が例示される。フコキサンチンを含む植物の抽出物の抽出処理の具体例として、例えば、乾燥した褐藻類の抽出原料を粉砕し、当該乾燥粉砕物1重量部に対して約5〜100重量部の抽出溶媒を添加し、室温で撹拌しながら1〜5時間抽出を行った後、濾過や遠心分離等の常法の固液分離手段により固形分を取り除き、溶液画分を収得する方法を例示することができる。
【0029】
上記方法で得られるフコキサンチンを含有する抽出物は液状であり、本発明には該抽出物をそのままの状態で用いることもできるが、有機溶媒が含まれている場合には減圧蒸留等により有機溶媒を取り除くことが好ましい。また必要に応じて、更に、減圧乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の乾燥処理に供することにより水分を取り除き、乾燥品として用いることもできる。また、簡便には、上記フコキサンチンを含む抽出物として、商業的に入手できるものを使用することもできる。
【0030】
フコキサンチノールは、フコキサンチンが加水分解されたものである。従って、本発明において使用されるフコキサンチノールは、前記の方法によって得られたフコキサンチンを従来公知の方法に従って、加水分解して得ることができる。例えば、リパ−ゼ(J.Nutr.132,946−951,2002)やコレステロ−ルエステラ−ゼ(DrugMetab.Dispos.32,205−211,2004)などの脂質分解酵素によってフコキサンチンをフコキサンチノールに分解することができる。
【0031】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤の有効成分として、フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールのいずれか一方を使用することもでき、またこれらを併用することもできる。
【0032】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤は、上記有効成分からなるものであっても良いが、薬学的に許容される従来公知の担体、希釈剤、賦形剤等と組み合わせて各種剤型に調製することもできる。
【0033】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及びコラーゲン産生促進剤における有効成分の総量は、0.01〜99重量%程度、好ましくは0.1〜99重量%程度、より好ましくは1〜99重量%程度である。
【0034】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤を含む外用剤には、既存のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤、コラーゲン合成促進剤、抗炎症剤、肌荒れ予防/改善剤、色素沈着予防/改善剤を配合することができる。これらの成分を併用することは、本効果の相乗効果をもたらし、本効果を損なうものではない。
【0035】
既存の抗炎症剤としては、ステロイド系抗炎症剤(ヒドロコルチゾンなど)、非ステロイド系抗炎症剤(アスピリンなど)、消炎酵素剤(キモトリプシン)、ε−アミノカプロン酸及びその誘導体、アラントイン、塩化リゾチ−ム、グアイアズレン、グリチルレチン酸やグリチルリチン酸及びそれらの誘導体、コンドロイチン硫酸及びその誘導体、コンフリ−、各種ポリフェノ−ルなど、また、甘草エキス、アルニカエキス、オトギリソウエキス、カモミラエキス、ティ−ツリ−オイル、シコンエキス、シソエキス、シラカバエキス、ソウハクヒエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、ニワトコエキス、モモ葉エキス、ヨモギエキスなどの植物エキス等が挙げられる。
【0036】
既存の肌荒れ予防/改善剤としては、保湿剤、細胞間脂質及びその類似体、ビタミン類などが挙げられる。保湿剤としては、グリセリン、ブチレングリコ−ル、ポリエチレングリコ−ルなどの多価アルコ−ル、トレハロ−ス類、混合異性化糖、プルラン、マルト−スなどの糖類、ヒアルロン酸ナトリウム、コラ−ゲン、エラスチン、コンドロイチン硫酸ナトリウムなどの生態高分子、アミノ酸、乳酸ナトリウム、尿素、ベタイン、カモミラエキスなどの各種植物・海藻エキス等が、細胞間脂質及びその類似体としては、スフィンゴ脂質、セラミド、擬似セラミド、コレステロ−ル及びその誘導体、リン脂質及びそれらの誘導体が、ビタミン類としては、ビタミンA群、ビタミンD群、ビタミンE群、パントテン酸カルシウム、ビオチン、ビタミンC群、ニコチン酸アミド、ビタミンB6群及びそれらの誘導体が、トラネキサム酸及びその誘導体、カルニチン及びその誘導体などが挙げられる。
【0037】
既存の色素沈着予防/改善剤としては、前記のビタミンC及びその誘導体、アルキルグリセリルエ−テル、アルブチン、イオウ、エラグ酸、カモミラエキス、コウジ酸、プラセンタエキス、ルシノ−ル、リノ−ル酸及びリノレン酸およびそれらの誘導体、ニコチン酸アミド、トラネキサム酸およびその誘導体、ビタミンEフェルラ酸エステルなどが挙げられる。
【0038】
本発明品の線維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤を配合した外用剤には、本発明の効果を損なわない範囲で化粧品、医薬部外品等に配合される成分として流動パラフィンなどの炭化水素、植物油脂、ロウ類、合成エステル油、シリコ−ン系の油相成分、フッ素系の油相成分、高級アルコ−ル類、脂肪酸類、増粘剤、紫外線吸収剤、粉体、顔料、色材、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、多価アルコ−ル、糖、高分子化合物、生理活性成分、経皮吸収促進剤、溶媒、抗酸化剤、香料、防腐剤等を配合することができる。
【0039】
抗酸化剤としては、ビタミンEおよびその誘導体、ビタミンCおよびその誘導体が挙げられる。
【0040】
上記マトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤の外用剤への配合量は、用途、剤型、配合目的等によって異なり、特に限定されるものではないが、一般的には、フコキサンチンの原体として、外用剤中0.0001〜10.0質量%が好ましく、より好ましくは0.0001〜0.001質量%である。また、本発明の化粧料組成物におけるフコキサンチノールの配合量は、剤型によって異なるが、例えば、0.000001〜10重量%程度、好ましくは0.00001 〜5重量%程度、より好ましくは0.00001〜2重量%程度、より好ましくは0.00001〜0.1重量%程度、より好ましくは0.00001〜0.0005重量%程度である。
【0041】
以上の内容を踏まえ、以下、3つの実施例について検証を行った。
(実施例1)は紫外線の中でも表皮に影響を与えるといわれている紫外線B波(以下UVB)照射により表皮細胞に情報伝達物質として炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6)が発現し、それをフコキサンチンが抑制するかどうかについて検証を行った。さらに、コラーゲン産生において主要なサイトカインであるTGF−βが、紫外線照射によって減少し、あらかじめフコキサンチンを細胞に添加しておくことでそれが抑制されるかどうかの確認を行った。
(実施例2)では、(実施例1)でUVB照射により表皮に発現した情報伝達物質である炎症性サイトカイン(TNF−α、IL−6)が放出された培地を回収し、真皮の線維芽細胞に添加することで、表皮細胞と線維芽細胞のクロストークを擬似的に再現し、その結果線維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ−1の産生を抑制するかどうかを検証した。
(実施例3)では、真皮の線維芽細胞にフコキサンチンを添加することで、コラーゲンそのものの量が増加するかどうかの検証を行った。コラーゲンは、ヒトの皮膚では真皮に恒常的に存在している。
以下、試験結果では、横軸は該当行項目の有無を表している。また、図6においてフコキサンチンの行の横にμM単位で示しているものは、フコキサンチン添加時の終濃度を示している。なお、吸光度をABSと表記する。図2〜5のグラフ横軸に記載のUVBに関しては、UVBを未照射の場合は−と示し、本文中ではUVB−と表記した。また照射した場合は+で示し、本文中ではUVB+と表記した。図2〜5のグラフ横軸に記載のフコキサンチンに関しては、未添加の場合は−、添加した場合は+で示した。
【実施例1】
【0042】
UVB照射表皮細胞からの伝達物質TNF−α、IL−6産生抑制作用と、TGF−βの産生促進作用
【0043】
1.試験の概要
構成タンパクや脂質、あるいはDNAが紫外線や活性酸素によって損傷を受けた表皮細胞では、多岐に渡る伝達物質が産生されることが広く知られている。
そこで、フコキサンチンがこうした伝達物質の産生を抑制するかを評価した。
【0044】
2.実験方法
フコキサンチンが、終濃度5μMになるように表皮細胞に添加して24時間培養し、さらに20mJ/cmのUVBを照射して24時間後の表皮細胞から放出された伝達物質(TNF−α、IL−6、TGF−β)のmRNA発現を測定した。
【0045】
3.結果
図2は、紫外線照射後の表皮細胞における炎症性サイトカインTNF−αのmRNA発現、図3は、紫外線照射後の表皮細胞における炎症性サイトカインIL−6のmRNA発現、図4は紫外線照射後の表皮細胞におけるコラーゲン産生に関わるサイトカインTGF−βのmRNA発現を示す。
縦軸はmRNA発現量を示している。あらゆる細胞に恒常的に発現しているタンパクであるGAPDHを内部標準として補正し、コントロールであるUVB−の数値を1として表した。横軸は、各群を略語で示す。UVB+はUVB−よりもTNF−α、IL−6のmRNA発現を有意に亢進させた一方で、フコキサンチンはUVB+に対してTNF−α、IL−6のmRNA発現を有意に抑制した。また、TGF−βに関しては、UVB+がUVB−に対してmRNA発現を有意に減少させた一方で、フコキサンチンはUVB+に対してmRNA発現の減少を有意に抑制した。
【実施例2】
【0046】
UVB照射表皮細胞培養上清による線維芽細胞のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生亢進に対する抑制作用
【0047】
1.試験の概要
表皮が紫外線によってダメージを受けると、数種の炎症性サイトカインが発現する。それらのサイトカインは真皮へと分泌され、線維芽細胞内に発現するマトリックスメタロプロテアーゼ−1のmRNA発現を促進し、マトリックスメタロプロテアーゼ−1前駆体(以下proMMP−1)を産生する(非特許文献2及び3)。proMMP−1はその後、セリンプロテアーゼ群を中心としたさまざまな酵素により活性化され、活性型のマトリックスメタロプロテアーゼ−1となるが、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の活性化には種々のプロテアーゼが複雑に関わっており、サイトカインからの直接的な影響を受けたマトリックスメタロプロテアーゼ−1の産生を確認するには、proMMP−1を測定するのが適していると考えられる。
そこで、こうした損傷を受けた表皮細胞からの伝達物質の産生抑制を経由した、間接的な線維芽細胞からのマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制について評価すべく、その前駆体であり、紫外線照射後に産生されたサイトカインからの影響を受けて産生が亢進されるproMMP−1をフコキサンチンが抑制するかどうかの評価を行った。
【0048】
2.実験方法
フコキサンチンが、終濃度5μMになるように表皮細胞に添加して24時間培養し、さらに20mJ/cmのUVBを照射して24時間後に回収した表皮細胞培養上清を線維芽細胞に添加した。24時間培養後における線維芽細胞からのproMMP−1産生量は、ELISAキットを用いて測定した。
【0049】
3.結果
図5は、紫外線照射後の表皮−真皮間相互作用による線維芽細胞が放出したマトリックスメタロプロテアーゼ−1前駆体(proMMP−1)産生量を示す。
縦軸は、proMMP−1濃度を示している。(ng/mL)UVB+はUVB−に対してproMMP−1の産生量が有意に亢進され、フコキサンチンはUVB+に対してproMMP−1の産生量を有意に抑制された。このことから、フコキサンチンは、UVB照射した表皮細胞培養上清による線維芽細胞のproMMP−1の産生亢進に対する抑制作用が認められ、フコキサンチンが表皮細胞からの伝達物質の産生抑制を経由した、間接的な線維芽細胞からのマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生を抑制することが示唆された。
【実施例3】
【0050】
真皮線維芽細胞を用いたコラーゲン産生試験
【0051】
1.試験の概要
シリウスレッドは、コラーゲンに特異的に結合する。その性質を利用して、線維芽細胞の培養上清に産生されたコラーゲン量を、フコキサンチン添加時および未添加時において測定した。
【0052】
2.実験方法
線維芽細胞に終濃度1μM、5μMになるようにフコキサンチンを添加して72時間培養した。培養上清を回収し、25%硫酸アンモニウムで3倍量にした後、さらに24時間、4℃で培養した。40000gで30分間室温にて超遠心分離し、上清を捨て、0.5M酢酸で溶かしたものをコラーゲンペレットとした。エッペンチューブに100μLのコラーゲン溶液を採り、0.5M酢酸に溶かした50μMシリウスレット溶液で全量1mLにして振とう後、30分間室温でインキュベートした。これを30000gで30分間室温にて超遠心分離し、上清を捨てた後、ペレットを0.1NのKOH 1mLに溶かして15分間室温でインキュベートしたものをサンプルとして、540nmで吸光度(ABS)を測定した。コラーゲンの存在量が多いほどより高い吸光度を示す。
【0053】
3.結果
図6は線維芽細胞におけるフコキサンチン添加時のコラーゲン産生量を示す。
縦軸は吸光度(ABS)、横軸は各群を示しており、未添加群、フコキサンチン1μM添加群、5μM添加群を示している。未添加群に対してフコキサンチンは、濃度依存的にコラーゲン産生を促進し、1μM添加時には約4.5%、5μM添加時には約18.6%コラーゲン産生を促進した。
【0054】
値は平均値±標準誤差で示しone−way ANOVAとFisher’s PLSD testを用いて有意差の判定を行った。有意水準はp<0.05もしくはp<0.01とし、図中に示した。(異なる記号(a、b、c)のついた条件間に有意差あり)
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明品を配合した外用剤に係る化粧料の剤型は任意であり、化粧水、ロ−ション、乳液、クリ−ム、パック、軟膏、分散液、固形物、ム−ス等の任意の剤型をとることができる。また、用途としては、化粧料の他、皮膚外用剤、医薬用軟膏等に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とすることにより、表皮細胞からの伝達物質TNF−α、及び/又はIL−6の放出を抑制することを特徴とする請求項1に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤。
【請求項3】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを有効成分とすることにより、表皮細胞からの伝達物質TGF−βを促進することを特徴とする請求項1に記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載のマトリックスメタロプロテアーゼ−1産生抑制剤及び/又はコラーゲン産生促進剤を用いたしわ改善用の化粧料組成物。
【請求項5】
フコキサンチン及び/又はフコキサンチノールを0.000001〜10重量%含有する請求項4に記載の化粧料組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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