説明

マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びシワ防止用皮膚外用剤

【課題】 ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)の抽出物を含有することを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びシワ防止用皮膚外用剤を提供する。
【解決手段】 本発明はヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)の抽出物を含有することを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤及び皮膚外用剤である。本発明のマンリョウ抽出物は優れたマトリックスメタロプロテアーゼ阻害作用、エラスターゼ阻害作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有し、これらの作用を応用した皮膚外用剤は、安全性が高く、優れたシワ予防作用を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の植物の抽出物を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びシワ防止用皮膚外用剤に関する。さらに詳しくは、ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)を、水若しくは有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られる抽出物を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs:Matrix metalloprotenases)阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤及びシワ防止用皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚の老化は、シワの増加と弾力の減少、色素沈着など様々な形で現れてくる。その最も代表的な老化現象がシワである。シワが発生する皮膚の老化の原因は大きく二つに分けることができる。加齢による自然老化の内的要因と外的要因による老化である。外的要因としては、紫外線、公害、病気、飲酒、喫煙などがあり、内的要因としては、フリーラジカルと炎症の発生、ストレス、細胞活性の低下及び突然変異化、細胞の代謝の不均衡などがある(非特許文献1参照)。皮膚は大まかに表皮と真皮に分けることができる。表皮のシワの発生原因としては、表皮細胞のターンオーバーの減少により、角質層が厚くなり、角質層の水分の含有能力が減少により、角質全体が硬化してシワが生成される。表皮と真皮の境界部位は、表皮細胞の支持、接着、栄養物質の移動、表皮の分化の調節などに関与する。様々な老化の要因から、真皮支持機能が減少し、選別透過機能が弱化して有害な成分が容易に皮膚に影響を及ぼすために、シワが生成されるのである。(非特許文献2参照)これらの変化を誘導する因子として、コラーゲン、エラスチンなどの繊維状のタンパク質と、ヒアルロン酸等の多糖類からなる、細胞外マトリックス(ECM:extracellular matrix)成分の減少、変性が関与することが知られている。
【0003】
また、近年研究が進み、これらの変化を誘導する因子として、MMPsの関与が指摘されている。MMPsは、ECMを主要な基質とする一群の金属プロテアーゼの総称名である。MMPsは現在20種類あることが知られており、その構造や作用は様々である。例えば、コラゲナーゼ、即ち、MMP−1は皮膚の真皮マトリックスの主な構成成分であるコラーゲンI型、III型を分解している酵素として知られている。また、MMP−2、MMP−9は、基底膜成分であるタイプIV型コラーゲンやラミニン、真皮マトリックス成分のエラスチン等を分解する酵素として知られている。
【0004】
さらにこれらの各酵素の発現は、紫外線照射によって促進され、皮膚のシワの形成等の大きな要因になることも考えられる。従って、MMPs阻害、エラスターゼ阻害及びヒアルロニダーゼ阻害は、皮膚の老化を防止する上で重要である。
【0005】
なお、本発明に係わるヤブコウジ科(Myrsinaceae)植物の従来の技術としては、安定性の高い美白作用、抗炎症作用を合わせ持つ山豆根を含有することを特徴とする化粧料(特許文献1参照)、活性酸素消去による老化防止効果、抗炎症効果及び美白効果を合わせ持つ、ヤブコウジ科植物であるヤブコウジ(Ardisia japonica Blume)、シシアクチ(A. pusilla Blume)、及びモクタチバナ(Ardisia Sieboldi Miq)の抽出物より選ばれる1種又は2種以上を含有することを特徴とする皮膚外用剤(特許文献2参照)、上記記載のヤブコウジ科植物3種の抽出物より選ばれる1種又は2種以上を含有することにより細胞賦活作用及び抗酸化作用を合わせ持つ皮膚外用剤(特許文献3参照)、上記記載のヤブコウジ科植物3種の抽出物より選ばれる1種又は2種以上と、構成糖であるグルコースの2位又は6位を硫酸化したβ‐1、3‐グルカンより選ばれる1種又は2種以上を含有することにより、抗炎症作用、創傷治癒促進作用及び抗アレルギー作用を有することを特徴とする皮膚外用剤(特許文献4参照)が開示されている。しかし、これらの文献公知発明には、ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)植物抽出物のMMPs阻害作用、エラスターゼ阻害作用、ヒアルロニダーゼ作用について記載はなく、知られていない。また、これらの作用を利用したシワ防止用皮膚外用剤への利用は想定されていなかった。
【0006】
【非特許文献1】 Physiology Of The Skin,Allured Publishi ng Corporation,Peter T.Puglise MD,p61−72
【非特許文献2】 Keene,J.Cell Biol,104,p611−612,1987
【特許文献1】 特開平4−34912号公報
【特許文献2】 特開平10−1438号公報
【特許文献3】 特許公報3734222号
【特許文献4】 特開平11−171784号公報
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
天然由来成分は、様々は薬理作用や美容効果を有することが知られ、これまでにも数多くの植物が皮膚外用剤に幅広く応用されている。しかし、天然由来成分の中には未だその効果が知られていないものも数多く存在し、中でも優れたECM保護作用などを有する天然由来の成分開発が期待されていた。しかし、従来のシワ予防皮膚外用剤には、ECMに対するMMPsの活性阻害剤に着目したものは数限られ、未だ十分満足し得るものが提供されていない。またその他、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤を含んだこれらの作用を利用した天然由来成分の提供が強く望まれているが、未だ十分満足し得るものが提供されていないのが現状である。
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、皮膚の老化によるシワと密接に関係する、MMPs、エラスターゼ及びヒアルロニダーゼの活性を確実に阻害する作用を有し、これらの作用を通じて、ECM成分の減少、変性を抑制し、シワの防止に有用なシワ防止用皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、広く種々物質についてそれぞれECM分解阻害作用を検討した結果、驚くべきことに、ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)植物を、水若しくは親水性有機溶媒またはこれらの混合溶媒から得られる抽出物を含有させることにより、MMPs、エラスターゼ及びヒアルロニダーゼの活性を確実に阻害することができ、MMPs阻害作用、エラスターゼ阻害作用、及びヒアルロニダーゼ阻害作用を通じて、シワ予防作用を持つ皮膚外用剤が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。本発明に用いられるマンリョウ(Ardisia crenata Sims)は、ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属(Myrsinaceae)に属する植物種である。日本、朝鮮半島、韓国、台湾、中国などの暖地の山林内に生息する高さ50〜60cmの常緑小低木である。これらの抽出物は、これらの植物の葉、樹皮、花、果実、根、いずれの部位も使用することができるが、葉を使用することが好ましい。
【0011】
抽出溶媒としては、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒を使用するのが好ましい。好適な抽出溶媒の具体例としては、水、エタノール、メタノール、プロパノール、ブタノール、プロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、含水アルコール類、アセトン、エチルアセテート等の有機溶媒等を用いることができる。好ましくは、エタノールが良い。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合しても良い。
【0012】
マンリョウの抽出物は常法により得ることができ、例えば、マンリョウの抽出溶媒とともに浸漬または加熱還流した後、濾過して濃縮して得ることができる。
【0013】
例えば、マンリョウの全草を乾燥させて重量(KG)の5倍から20倍、好ましくは8〜10倍の重量比の水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒によって、20〜200℃、好ましくは50ないし100℃で、30分〜20時間、好ましくは2〜5時間抽出して得る、あるいは5〜37℃、好ましくは常温で2時間から15日間、好ましくは1〜3日間抽出して、収得することができる。
【0014】
以上のようにして得られる抽出物は、MMPs阻害作用、エラスターゼ阻害作用、ヒアルロニダーゼ阻害作用を有する。また、皮膚に適用した場合、上記作用により、シワ防止用皮膚外用剤に配合するのに好適である。
【0015】
本発明のマンリョウ抽出物は多様な製剤形態で投与できる。製剤中の有効成分の量は特に限定されるものではないが、0.0001〜20重量%、好ましくは0.0001〜1重量%である。0.0001重量%未満では本発明効果が十分に発揮され難く、一方、20重量%を越えて配合してもさほど大きな効果の向上は認められず、また製剤化が難しくなるのであまり好ましくない。
【0016】
製剤化の際は、効果を損なわない範囲内で、通常化粧料や医薬部外品や医薬品に配合可能な成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、洗浄剤、増粘剤、薬剤、アルコール類、香料、樹脂、アルコール類、粉末成分、色材、色素、水性成分、水、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。また、本発明の効果を損なわない範囲において、これ以外に、他のMMPs阻害剤、エラスターゼ阻害剤、ヒアルロニターゼ阻害剤の併用も可能である。
添加してもよい配合成分は、これに限定されるわけではなく、また、上記のどの成分も、本発明の目的や効果を損傷させない範囲で配合可能である。
【0017】
本発明の皮膚外用剤とは、医薬品、医薬部外品、化粧品等の分野にて、皮膚に適用される組成物を意味する。その剤型は本発明の効果が発揮される限り限定されない。溶液、可溶化系、乳化系、粉末分散系、水−油二相系、水−油−粉末三相系、固形、軟膏、ゲル、エアゾール、ムースなど、任意の剤型が適用される。また、その使用形態も任意であり、例えば、ローション、乳液、パック、美容液、ジェル、クリームなどの基礎化粧料や、ファンデーションなどのメーキャップ化粧料、毛髪用化粧料、芳香化粧料、浴用剤などとすることができるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0019】
実施例に先立ち、本発明に用いられるマンリョウ抽出物の製造方法について説明する。
【0020】
(調整例1)マンリョウ葉エチルアセテート抽出物
乾燥したマンリョウ(Ardisia crenata Sims)の葉を、95%(v/v)エタノール水溶液で、室温で24時間かけて2回抽出した。得られたマンリョウ抽出液をろ過、60℃真空下で溶媒を留去した後、水に再溶解し、エチルアセテート抽出物を得た。これを調整例1とした。
【0021】
(調整例2)マンリョウ葉ヘキサン抽出物
乾燥したマンリョウ(Ardisia crenata Sims)の葉を、95%(v/v)エタノール水溶液で、室温で24時間かけて2回抽出した。得られたマンリョウ抽出液をろ過、60℃真空下で溶媒を留去した後、水に再溶解し、ヘキサン抽出物を得た。これを調整例2とした。
【実施例1】
【0022】
MMP−1、MMP−3阻害試験
調整例1で得られた抽出物について、MMP−1、MMP−3阻害試験を行った。具体的には、以下のように試験を行った。
【0023】
上記マンリョウの抽出物について、MMP−1、3遺伝子の発現程度を測定するために、RT−PCR(Reverse Transcription−Polymerase Chain Reaction)を実施し、下記のようにMMP−1、MMP−3のmRNA発現量を測定した。
【0024】
上記の実施例で得られたマンリョウの抽出物について、正常ヒト繊維芽細胞(human fibroblast cell line:ATCC、CRL−2076)を60mm培養皿に1×10個の10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル培地(Gibco/BRL、invitrogen社)で37℃、5%COの条件下で培養した。翌日、培地を除去したのち細胞をHBSSで洗い、生理食塩水に置換した。6J/cmのUVAを照射した後、無血清培地で24時間培養した。その後、細胞からグアニジウムチオシアネート−フェノール−クロロホルム抽出方法で全RNAを抽出した。上記の方法で得られたRNAにDNA分解酵素(RNase‐free DNase、Promega社)を37℃で30分間処理し、フェノール/クロロホルム抽出法とエタノール沈殿法により、純粋なRNAを得て、RT−PCRを実施した。MMP−1の反応条件は、95℃1分、48℃1分、72℃1分を1セットとして、29サイクル行い、MMP−3の反応条件は、95℃30秒、55℃30秒、72℃45秒を1セットとして、30サイクル行い、β−アクチンの反応条件は、95℃1分、62℃1分、72℃1分を1セットとして、22サイクル行った。PCR産物は、1.5%(w/v)アガロース(Sigma社)ゲルに電気泳動し、ゲルイメージアナライザー(BIO−RAD社)で定量した。対照群にβ−アクチンを使用し、RT−PCRに使用されたプライマーは、下記表1の序列番号に示した塩基配列のものを使用した。
【0025】
マンリョウ抽出物を含まない反応系(コントロール UVA照射しMMP発現させたもの)、マンリョウ抽出物を含む反応系(UVA照射しMMP発現させ、試料添加したもの)のMMP−1、MMP−3発現率(%)を算出した。結果を表2、表3に示す。
【0026】
また参考例として、MMPS発現阻害作用が良く知られている成分であるエピガロカテキンガラート(EGCG:epigallo catechin gallate)についても、上記と同様の試験を行った。結果を併せて表2、3に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】


【0029】
【表3】

【0030】
表2、3の結果から、マンリョウ抽出物が、優れたMMP−1、MMP−3阻害作用を有することが確認された。また、マンリョウ抽出物濃度が50μg/mlの時、ポジティブコントロールのEGCG2.29μg/mlと同程度であり、その効果は極めて高かった。
【実施例2】
【0031】
MMP−2、MMP−9阻害試験
調整例1で得られた抽出物について、MMP−2、MMP−9阻害試験を行った。具体的には、以下のように試験を行った。
【0032】
正常ヒト線維芽細胞(human fibroblast cell line:ATCC、CRL−2076)を60mm培養皿に1×10個になるよう播種し、37℃、5%CO条件下で培養した。翌日、培地を除去したのち、細胞をHBSSで2回洗い、無血清培地に交換し10ng/mlTNF−αと試料を加え24時間曝露させた。培地を回収し、タンパク質量をBCA法にて決定した。その試料を非還元条件下で10%ゼラチンを含むポリアクリルアミドゲルにアプライし、SDS−PAGEを行った。電気泳動後のゲルを、2.5% Triton−X 100(pH 7.5)で洗い、更に37℃で16時間、再生バッファー(50mM Tris−HCl 200mM、NaCl 5mM、CaCl 0.0006%、Triton−X 100)で反応させ、0.1%クーマシーブリリアントブルーで染色後、10%酢酸/50%メタノールで脱色し、脱色後に現れるバンドの強度をイメージアナライザー(BIO−RAD社)で定量化した。
【0033】
マンリョウ抽出物を含まない反応系(コントロール TNF−α10μg/mlのみ添加したもの)、マンリョウ抽出物を含む反応系(TNF−α10μg/mlと試料添加したもの)のMMP−2、MMP−9発現率(%)を算出した。結果を表4、5に示す。
【0034】
参考例として、MMPs活性阻害作用で良く知られている成分であるEGCGについても、上記と同様の試験を行った。結果を併せて表4、5に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
【表5】

【0037】
表4、5の結果から、マンリョウ抽出物が、優れたMMP−2、MMP−9活性阻害作用を有することが確認された。
また、その作用の強さは、MMP−2において、マンリョウ抽出物濃度が50μg/mlの時、ポジティブコントロールのEGCG2.29μg/mlと同程度、かつMMP−9において、マンリョウ抽出物濃度が50μg/mlの時、ポジティブコントロールのEGCG2.29μg/mlと同程度であり、その効果は極めて高かった。
【実施例3】
【0038】
エラスターゼ阻害作用の試験
調整例1〜2で得られた抽出物について、エラスターゼ阻害作用を試験した。具体的には、以下のように試験を行った。
【0039】
基質(N−SUCCINYL−ALA−ALA−ALA−p−NITROANILIDE、Sigma社)濃度が1.015mMになるように0.1232M Tris‐HClバッファーで調製し、この溶液1300μlと終濃度100,50,10μg/mlになるように調製した試料とを混合した。
それらを25℃で10分間ボルテックスしながらプレインキュベートした。ブタ由来膵臓エラスターゼ5μl(0.025units/ml Sigma社)をこの溶液100μlに加えた。ボルテックスした後、25℃の水浴に10分間静置し、410nmの吸光度を測定した。
【0040】
試料濃度を300、150、50μg/mlに減少させて上記の阻害率の測定を行い、エラスターゼの活性を50%阻害する試料溶液濃度を内挿法により求めた。結果を表6に示す。
【0041】
【表6】

【0042】
表6の結果から、マンリョウ抽出物が、エラスターゼ阻害作用を有することが確認された。
【実施例4】
【0043】
ヒアルロニダーゼ阻害試験
調整例1〜2で得られた抽出物について、ヒアルロニダーゼ阻害作用を試験した。具体的には、以下のように試験を行った。
【0044】
ヒアルロン酸ナトリウムの主構成成分であるN−アセチルグルコサミンの量を分光光度計で測定することにより、ヒアルロニダーゼ活性を決定した。0.1M酢酸バッファー(pH3.5)に溶解したウシ由来ヒアルロニダーゼ50ml(7900units/ml)を決められた濃度の試料100mlと混合し、37℃の湯浴で20分間インキュベートした。試料の代わりに40%BGを100ml加えて同処理したものをコントロールと設定した。12.5mM CaCl水溶液100mlを反応溶液に加え、37℃の湯浴で20分間インキュベートした。250mlのヒアルロン酸ナトリウム水溶液(1.2mg/ml)を加え、37℃の湯浴で40分間インキュベートした。0.4N NaOH 100mlと0.4N ホウ酸カリウムをさらに加え、3分間熱湯につけインキュベートした。室温まで冷やした後、3ml DMAB溶液を加え37℃の湯浴に20分間インキュベートした。分光光度計にて585nmにおける吸光度を測定し、反応混合液の濃度を決定した。
【0045】
阻害率の計算式は、
阻害率(%)=[(ODc‐ODs)/ODc×100]
ここでODcはコントロールの585nmにおけるOD、ODsはサンプルの585nmにおけるODである。
【0046】
【表7】

【0047】
表7の結果から、マンリョウ抽出物が、優れたヒアルロニダーゼ阻害作用を有することが確認された。
【0048】
以上の結果から、本発明に用いられるマンリョウ抽出物のMMP−1、MMP−2、MMP−3、MMP−9活性阻害効果、エラスターゼ及びヒアルロニダーゼ活性効果は極めて優れたものであった。したがってマンリョウ抽出物を用いて、シワを効果的に予防することができる。
【0049】
続いて、さらに本発明の処方例を実施例5〜9として挙げる。
【実施例5】
【0050】
皮膚用ゲル剤
(1)1,3−ブチレングリコール 1.0(重量%)
(2)シクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸
ビスエトキシジグリコール 3.8
(3)カルボキシビニルポリマー(2重量%水溶液 28.0
(4)水酸化カリウム(10%量水溶液) 3.0
(5)メチルパラベン 0.1
(6)精製水 63.9
(7)ジプロピレングリコール 0.2
(8)マンリョウ葉エチルアセテート抽出物(調整剤1) 0.2
製法:(1)〜(6)まで混合を均一に溶解したあと、(7)に(8)をよく溶解したものを入れ、製品とする。
【実施例6】
【0051】
皮膚用クリーム
(1)流動パラフィン 6.0(重量%)
(2)ミリスチン酸イソプロピル 3.0
(3)シクロヘキサン 2.5
(4)ジメチコン 2.0
(5)ベヘニルアルコール 3.4
(6)ワセリン 2.0
(7)ステアリン酸ソルビタン 1.5
(8)セテス‐20 3.4
(9)トコフェロール 0.02
(10)クエン酸 0.05
(11)1,3−ブチレングリコール 1.0
(12)メチルパラベン 0.15
(13)プロピルパラベン 0.07
(14)精製水 72.91
(15)マンリョウ葉エチルアセテート抽出物(調整例1) 0.1
(16)ジプロピレングリコール 1.9
製法:(1)〜(9)の油相成分を80℃にて加熱溶解する。一方(10)〜(16)の水相成分を80℃にて加熱溶解する。これに上記油相成分に攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却を開始し、(16)に(15)を加えた溶液を加え、混合する。
【実施例7】
【0052】
皮膚用クリーム
(1)セチルジメチコンポリオール 3.0(重量%)
(2)ラウリルPEG−9ポリジメチルシロキシエチル
ジメチコン 1.0
(3)流動パラフィン 7.44
(4)水添ヒマシ油 1.0
(5)マイクロクロスタインワックス 0.56
(6)ジエチルヘキサン酸ネオペンチレングリコール 11.8
(7)マンリョウ葉エチルアセテート抽出物(調整例1) 0.1
(8)ジプロピレングリコール 0.1
(9)塩化ナトリウム 1.0
(10)精製水 68.9
(11)1,3−ブチレングリコール 5.0
(12)メチルパラベン 0.1
製造:(1)〜(6)の油相成分を混合し、80℃にて加熱溶解する。一方(7)〜(12)の水相成分を混合し、80℃にて加熱溶解する。上記油相成分に水相成分を攪拌しながら加え、ホモジナイザーにより均一に乳化する。乳化終了後、冷却する。
【実施例8】
【0053】
化粧水
(1)マンリョウ葉エチルアセテート抽出物(調整例1) 0.1(重量%)
(2)ジプロピレングリコール 0.1
(3)1,3−ブチレングリコール 1.0
(4)メチルパラベン 0.2
(5)キサンタンガム 0.2
(6)精製水 98.4
製造:(2)に(1)を溶解する。溶解後、(3)〜(6)を順次添加した後、十分に攪拌し、均一に混合する。
【0054】
実施例6について使用試験を行い、シワの予防効果を評価した。その際、実施例6において、配合したマンリョウ葉エチルアセテート抽出物を精製水に代替し、比較例1として同時に使用試験を行った。
具体的には以下のように試験を行った。
【0055】
シワの予防効果を評価するため、何もしなければ悪化するであろう、水分量の少ない冬に実施した。実施例6は、マンリョウ葉エチルアセテート抽出物以外の成分の効果が出ないように、保湿剤はほとんど入れないようにした。20〜50代の男女パネラー8名を一群とし、各群に実施例2及び比較例1をそれぞれブラインドにて1日2回ずつ12週使用させ、4週、8週、12週後の目尻のシワの状況を観察し、使用前の値と比較した。シワの症状は表8に示す判定基準に従って点数化した。各グレードの標準に当てはまらない場合は、その中間値のスコアとした。
【0056】
4週、8週、12週のシワスコアの変化度の平均値を表9にまとめた。また、12週の8名のシワ改善度を図1にまとめた。なお、シワスコアの変化度については、「−」はよりしわ形成が認められ、「+」はしわ改善が認められることを意味する。
【0057】
シリコーンレプリカ(Silflo,FLEXICO DE VELOPMENTS社製)で目尻のレプリカを採取、シワの体積、シワの数を測定し、図2にまとめて示した。
【0058】
【表8】

【0059】
【表9】

【0060】
表9及び図1〜2の結果から、マンリョウ抽出物を配合した皮膚化粧料は、シワの予防作用に極めて顕著な効果を有することが確認できた。また、皮膚トラブルもなく、安全であった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によるマンリョウ抽出物には、優れたMMPs阻害作用、エラスターゼ阻害作用、ヒアルロニターゼ阻害作用を有し、これらを応用した本発明のシワ防止用皮膚外用剤は、シワ予防に極めて顕著な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明によるマンリョウ抽出物配合クリームによるシワスコア変化度を示す図である。
【図2】本発明によるマンリョウ抽出物配合クリームによるシワ面積率及びシワの数の変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)を、水若しくは親水性有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られる抽出物を含有することを特徴とする、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)阻害剤。
【請求項2】
ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)を、水若しくは有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られる抽出物を含有することを特徴とするエラスターゼ阻害剤。
【請求項3】
ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)を、水若しくは有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られる抽出物を含有することを特徴とするヒアルロニターゼ阻害剤。
【請求項4】
ヤブコウジ科(Myrsinaceae)のヤブコウジ属マンリョウ(Ardisia crenata Sims)を、水若しくは有機溶媒またはこれらの混合溶媒で抽出して得られる抽出物を含有することを特徴とするシワ防止用皮膚外用剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−6815(P2013−6815A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152290(P2011−152290)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(302009590)バイオランド・リミテッド (8)
【出願人】(595048544)株式会社ちふれ化粧品 (3)
【Fターム(参考)】