マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びその用途
【課題】グリコサミノグリカンオリゴ糖に関連した、マトリックスメタロプロテアーゼを阻害する新たな手段を提供し、慢性閉塞性肺疾患等の治療の途を提供すること。
【解決手段】ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるこれらのグリコサミノグリカンオリゴ糖の塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤乃至阻害方法、エラスターゼ活性阻害剤、及び、慢性閉塞性肺疾患治療剤等を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【解決手段】ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるこれらのグリコサミノグリカンオリゴ糖の塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤乃至阻害方法、エラスターゼ活性阻害剤、及び、慢性閉塞性肺疾患治療剤等を提供することにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤に関連し、より具体的には、MMP−9及びMMP−12活性に対する特性によりスクリーニングされた、ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖等のグリコサミノグリカンの、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びエラスターゼ活性抑制剤としての用途、並びに、慢性閉塞性肺疾患の治療剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
まず、本出願書類において用いる略号を説明する。
MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ
COPD:慢性閉塞性肺疾患
HA:ヒアルロン酸
CS:コンドロイチン硫酸
DS:デルマタン硫酸
GAG:グリコサミノグリカン
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィー
HA4:ヒアルロン酸4糖(GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc)
L4:ケラタン硫酸2糖(Gal6S β1-4 GlcNAc6S)
L4L4:ケラタン硫酸4糖(Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S)
【0003】
動物組織を構成する多様な細胞は、種々の細胞外マトリックス(Extracellular Matrix)分子によって接着・固定されている。細胞の増殖・分化・移動・アポトーシスにも深く関与するMMPは、このような細胞外マトリックスタンパク質を主要な基質とする一群の金属要求性プロテアーゼの総称名である。MMPは現在、MMP−1、MMP−3、ゼラチナーゼA(MMP−2)、好中球コラーゲナーゼ(MMP−18)、ゼラチナーゼB(MMP−9)、マクロファージエラスターゼ(MMP−12)、コラーゲナーゼ(MMP−13)等、数十種類の存在が知られている。これらの共通した性質として、活性ドメイン中に亜鉛を有すること、また、生体内に存在するMMPに特異的な天然の阻害物質(Tissue Inhibitor of Metalloproteinase)によって活性を調整されていること等が挙げられる(非特許文献1)。
【0004】
また、本発明者らの研究により、Fut8ノックアウトマウス(COPD自然発症モデルマウス)において、MMP−9、12、13の遺伝子発現レベルが有意に上昇しており、これらが肺胞の破壊に関連していることが報告されている(非特許文献2)。このことから肺胞破壊を阻止するためには、最終段階に働くMMP活性を抑制することが有効であると考えられる。しかしながらこれまで様々なMMP阻害薬が開発されてきたが、いずれも重篤な副作用のため治療効果を上げるには至っていない。
【0005】
COPDは中高年の喫煙者に多く発症し、慢性かつ持続性の閉塞性換気障害を呈する疾患群であり、世界保健機関の統計では死亡原因の第4位にランクインされている。日本においては、日本呼吸器学会ガイドライン(非特許文献3)により、COPDは、肺気腫、慢性気管支炎又は両者の併発により惹起される閉塞性換気障害を特徴とする疾患、と定義されている。このうち肺気腫は、軽症である人を含めると、約300万人が、肺気腫の患者及び予備軍であると予測されている。
【0006】
肺気腫の病態は終末細気管支以下の気道と肺胞壁の破壊、及び、非可逆的な気腔の拡張を特徴とし、明らかな線維化や気道系の閉塞を伴わない病態、と病理学的に定義されている。肺気腫の発症の機序については「プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡説」や肺胞壁のアポトーシス(非特許文献4及び5)等が考えられているが、いまだ明らかにされていないことも多い。最も確かな内因性危険因子は、遺伝性疾患であるα1−アンチトリプシン欠損症であるが、日本においては非常にまれである(非特許文献3)。
【0007】
また、GAGのMMPに対する作用については、軟骨魚類の軟骨の水抽出物由来の分子量500kDa以上のコンドロイチン硫酸C(コンドロイチン6硫酸)を主成分としたプロテオグリカンが、MMPを阻害することが報告されている(特許文献1)。多硫酸化されたGAGについては、例えば、多硫酸化CSついて、MMP活性への影響が検討されている。しかし、多硫酸化CSは、MMP−3は阻害するが、MMP−1については活性化することが報告されており、多硫酸化CSがMMP阻害剤として、好ましい物質ではないことが示されている(非特許文献6)。また、閉塞性換気障害を抑制する薬剤として、肺におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成又は蓄積を阻害することを特徴とする薬剤が知られている(特許文献2)。また、特許文献3や4には、ケラタン硫酸オリゴ糖及びその誘導体の線維化抑制効果として、肺線維症や間質性肺疾患の治療効果が期待できる旨記載されているが、肺気腫は、明らかな線維化を伴わないため、肺気腫のような、肺線維症や間質性肺疾患以外の肺疾患にケラタン硫酸のオリゴ糖が治療効果を有するかを予測することはできない。特許文献5には、分子量5000〜200万程度の分子量を有するGAGを有効成分とする成長因子誘導剤の適応疾患の例として、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患等が例示されている。
【0008】
しかしながら、特定の構造を有するGAGが有意にMMP活性を阻害すること、及び、COPDの治療剤としてL4が有用であることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/083257
【特許文献2】特許4101276号
【特許文献3】特開平11−269076
【特許文献4】特開2000−256385
【特許文献5】特開2002−3384
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】宮崎香ら,生化学,68,1791-1807,1996
【非特許文献2】Wang, X et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 15791-15796,(2005)
【非特許文献3】日本呼吸器学会COPDガイドライン作製委員会:COPD診断と治療のためのガイドライン1999
【非特許文献4】Hoshino Y, Am. J. Physiol. Lung cell Mol. Physiol. 281 (2) p509-516 (2001)
【非特許文献5】Aoshiba K, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 153(2) p530-534(2003)
【非特許文献6】Andrew Nethery et al., Biochem. Pharmacol., 44, p1549-1553(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑み、GAGに関連した、MMPを阻害する新たな手段を提供し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の治療の途を提供することを課題とする発明である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するGAGが、有意にMMPを阻害する活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害剤(以下、「本発明MMP阻害剤」という)を提供する発明である。なお、上記したGAGオリゴ糖と特定の構造を有するヘパロサン、さらにそれらの薬学的に許容される塩を、以下、「GAGオリゴ糖等」とも総称する。
【0014】
本発明MMP阻害剤は、下記式HA4、L4及びL4L4で示されるGAGオリゴ糖からなる群から選ばれる1種又は2種以上、を有効成分として含有することがより好ましい。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0015】
本発明MMP阻害剤は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害する用途として用いることが好ましく、中でもMMP−9を阻害する用途として用いることが好適である。
【0016】
また本発明は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のMMP活性を抑制する、MMPの阻害方法(以下、「本発明阻害方法」という)を提供する発明である。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0017】
本発明阻害方法は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害するために用いることが好ましく、中でも、MMP−9を阻害するために用いることが好適である。
【0018】
また本発明は、ケラタン硫酸オリゴ糖を少なくとも含むエラスターゼ活性抑制剤(以下、「本発明エラスターゼ抑制剤」という)を提供する発明である。
【0019】
本発明エラスターゼ抑制剤の有効成分であるケラタン硫酸オリゴ糖は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖であることが好ましい。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0020】
また本発明は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖からなる慢性閉塞性肺疾患の治療剤(以下、「本発明肺疾患治療剤」という)を提供する発明である。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0021】
また、上記慢性閉塞性肺疾患は、肺気腫である場合に用いることがさらに好ましい。
【0022】
なお、本発明において「剤」とは、「調剤物」又は「有効成分そのもの」を意味することとする。「調剤物」は、「組成物」と同意義であるが、医薬品分野における慣用表現として「剤」を用いることとする。また、「調剤物」であるか、「有効成分そのもの」であるかは、剤の定義によって明確に区別をすることができる。すなわち、「〜を有効成分として含有する剤」は「調剤物」を意味するものであり、「〜からなる剤」は「有効成分そのもの」を意味するものである。例えば、本発明MMP阻害剤は、「HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害用組成物」とも表現される。これは、本発明エラスターゼ抑制剤と本発明肺疾患治療剤においても同様であり、それぞれの有効成分を含有する「エラスターゼ活性抑制用組成物」と「慢性閉塞性肺疾患治療用組成物」と同意義である。また、上記の各有効成分からなる剤は、それぞれの有効成分自体の用途を示している。
【0023】
加えて、本発明は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上、並びに、被験薬剤を、細胞に接触させ、該被験薬剤における前記GAGオリゴ糖又は塩による該細胞由来のMMP活性の抑制に対する、促進作用あるいは緩和作用を選別する、薬剤の選別方法(以下、「本発明選別方法」という)を提供する発明である。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0024】
本発明選別方法により、上記の本発明の剤のエラスターゼ抑制作用を促進して、本発明の剤と組み合わせて処方することにより、肺気腫等の慢性閉塞性肺疾患に対していっそうの治療効果を上げることが可能な有効成分を選別することが可能となる。逆に、本発明の剤のエラスターゼ抑制作用を緩和して、例えば、本発明の剤による副作用が顕在化した際の緩和剤の有効成分を選別することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、GAGオリゴ糖等を有効成分とするMMP阻害剤、それを用いたMMP阻害方法、エラスターゼ活性抑制剤及び慢性閉塞性肺疾患治療薬が提供される。MMP阻害剤はその他さまざまな疾患に応用できることが期待されることから極めて有用である。さらに、本発明により、上記の剤の作用を促進又は緩和することが可能な有効成分を選別することが可能な選別方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各種GAGオリゴ糖群に応じたMMP活性への影響を示す図である。
【図2】HAオリゴ糖の結合糖鎖数を変化させてMMP−9抑制の度合いを検討した結果を示した図面である。
【図3】ケラタン硫酸オリゴ糖のMMP活性阻害効果の濃度依存性を示す図である。
【図4A】GM6001によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図4B】ケラタン硫酸オリゴ糖L4によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図4C】ケラタン硫酸オリゴ糖L4L4によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図5A】L4による総細胞数の集積抑制効果を検討した図面である。
【図5B】L4による好中球数の集積抑制効果を検討した図面である。
【図5C】L4による好中球数比率への影響を検討した図面である。
【図6A】L4による、エラスターゼ誘導肺気腫の抑制効果を検討した図面である。
【図6B】L4による、エラスターゼ誘導肺気腫の抑制効果を、ホルマリン固定顕微鏡像で示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<1>本発明MMP阻害剤
本発明MMP阻害剤は、HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害剤である。
【0028】
[A]有効成分
本発明MMP阻害剤で用いられる、GAGオリゴ糖は、単一の種からなっていても、混合物であってもよい。
【0029】
また、それぞれのGAGオリゴ糖等は、例えば、WO96/16973やWO02/04471に記載の方法により適宜調整される。その原料として使用されるGAGは、サメ等の軟骨魚類のプロテオグリカンや鶏冠等から取得できる。また、市販されているものを用いることもできる。具体的なGAGオリゴ糖等の製造方法は、実施例の欄にて具体的に開示した。
【0030】
(1)HAオリゴ糖
例えば、公知の手段により入手したHAを、ヒアルロン酸分解酵素によってオリゴ糖に分解し、該オリゴ糖を、常法、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて精製することにより、本発明に用いるHAオリゴ糖を製造することができる。HAオリゴ糖は、下記のHA4であることが好適である。
【0031】
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
(式中、GlcAはグルクロン酸残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0032】
(2)ケラタン硫酸オリゴ糖
ケラタン硫酸オリゴ糖の調製法としては、ケラタン硫酸又は高硫酸化ケラタン硫酸の緩衝溶液にエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素、例えばバチルス属細菌由来のケラタナーゼ(II)、又は、バチルス・サーキュランスKsT202株由来のケラタン硫酸分解酵素を作用させて分解した後、得られた分解物を分画することにより得ることができる。得られたオリゴ糖の画分は、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、目的のケラタン硫酸オリゴ糖を分離精製することが出来る。ケラタン硫酸は、下記のL4又はL4L4であることが好適である。
【0033】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0034】
(3)6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン
6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンは、公知の手段により入手したN−アセチルヘパロサンを蒸留水に溶解した後、触媒の存在下、6−O−硫酸化を行い、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、分離精製することができる。
【0035】
(4)N,6−O−硫酸化ヘパロサン
N,6−O−硫酸化ヘパロサンは、例えば、公知の手段により入手したポリサッカライドを、ヒドラジン分解しN−脱アセチル化を行い、得られた生成物をN−硫酸化し、さらに触媒の存在下、6−O−硫酸化を行い、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、分離精製することができる。
【0036】
(5)薬学的に許容される塩
薬学的に許容される塩とは、上記(1)〜(3)のGAGオリゴ糖の塩、すなわち、HAオリゴ糖の該塩、ケラタン硫酸オリゴ糖の該塩、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの該塩、及び、N,6−O−硫酸化ヘパロサンの該塩である。
【0037】
ここで、薬学的に許容される塩とは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、ジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基塩等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
[B]選択的成分
本発明MMP阻害剤は、MMP阻害効果を損なわない範囲で、上記のGAGオリゴ糖(1)〜(5)以外の成分を、必要に応じて配合することが可能である。例えば、保湿剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、抗酸化剤、美白剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤、活性酸素抑制剤、抗ヒスタミン剤、慣用の賦形剤、安定化剤、結合剤、滑沢剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、その他着色剤、崩壊剤等を適宜配合することができる。
【0039】
[C]投与方法と剤形
本発明MMP阻害剤は、注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内等)、経口、経皮、吸入等により投与することが可能であり、これらの投与方法に応じて適宜製剤化することができる。本発明MMP阻害剤が投与される組織又は細胞は、特に限定されるものではないが、肺または気管支への直接投与は、好適な投与形態の一つである。
【0040】
本発明MMP阻害剤の剤形は、例えば、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等から広く選択することができる。
【0041】
本発明MMP阻害剤を医薬として用いる場合、そのエンドトキシン濃度は、溶液状態の剤とした場合において0.3EU/mL以下であることが好ましい。エンドトキシン濃度は、当業者に周知慣用のエンドトキシン測定法を用いて測定することができるが、カブトガニ・アメボサイト・ライセート成分を用いるリムルス試験法が好ましい。なお、EU(エンドトキシン単位)は、日本工業規格生化学試験通則(JIS K8008)、又は米国薬局方等に従って測定・算出できる。
【0042】
本発明MMP阻害剤の投与量は、投与の目的(予防、悪化防止、症状の改善、又は治療)、疾患の種類、患者の症状、性別、年齢、体重、投与部位、投与方法等によって個別に設定されるものであり、特に限定されないが、成人1人1回あたり概ね、GAGオリゴ糖(1)〜(5)の量として、1ng/投与部位〜30mg/投与部位程度、を投与することが可能である。
【0043】
本発明MMP阻害剤は医薬としての用途としても用いることができる他、実験試薬の用途としても用いることができる。すなわち、本発明MMP阻害剤を医薬としての承認を得るための治験の他、本発明MMP阻害剤が有効な生体臓器や疾患を検証するために、様々な種類の生体細胞に対して本発明MMP阻害剤を共存させて、そのMMP阻害作用の有無や強弱を検証することや、特定の患者に対して、本発明MMP阻害剤の有効性が確認されている臓器(例えば、肺等)に対する生検を行い、MMP阻害効果の有無強弱の確認を行い、本発明MMP阻害剤の使用の是非、投薬量、投薬時期等の判断指標を得ることも可能である。また、MMPの阻害の生体に対する微視的又は巨視的な影響をさらに基礎的に検討するために、in vivo又はin vitroにおける本発明MMP阻害剤の作用を検証することも可能である。
【0044】
また、本発明MMP阻害剤は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害する用途として用いることが好ましく、中でもMMP−9を阻害する用途として用いることが好ましい。
【0045】
<2>本発明阻害方法
本発明阻害方法は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のMMP活性を抑制する、MMPの阻害方法である。
【0046】
HA4:GlcA β1-3 GlcNAcβ1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4;Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4;Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0047】
本発明阻害方法で用いられる、上記のGAGオリゴ糖とそれらの塩を「共存」させる細胞の出所となる生物種、また、その種類は特に限定されない。生物種は、ヒトをはじめ、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ等の哺乳動物を例示することが可能であるが、これらに限定されるものではない。細胞の種類は、MMPの活性を阻害することを試みることに意義がある細胞であれば、特に限定されるものではなく、分離又は非分離の各種の正常細胞の他、腫瘍細胞を用いることができる。また、該細胞は、分離された細胞であることが好適である。
【0048】
本発明阻害方法における、細胞由来のMMP活性を阻害する手段は、特に限定されないが、典型的には、MMP活性を阻害する対象の細胞に、GAGオリゴ糖を接触させることにより行われる。この接触の態様は、例えば、細胞とGAGオリゴ糖の培養初期からの共存培養、増殖期の培養細胞に対するGAGオリゴ糖の添加、定常期の培養細胞に対するGAGオリゴ糖の添加、等が挙げられる。また、MMPの活性を長期にわたり抑制したい場合には、GAGオリゴ糖の濃度が常に高い状態に保たれるよう、細胞の培養系に対し、随時GAGオリゴ糖を添加することも出来る。また、細胞とGAGオリゴ糖の接触に際しての条件も特に限定されず、MMPの阻害が望まれるような細胞にとって好ましい温度やpHを適宜選択して接触させることができる。例えば、温度は、25〜45℃程度の範囲が通常であり、30〜40℃であることが好ましく、35〜38℃であることがより好ましい。また、pHは、6〜8程度の範囲が通常であり、7.0〜7.6であることが好適である。
【0049】
また、細胞と上記GAGオリゴ糖とを接触させる時の、該GAGオリゴ糖の濃度についても特に限定はされないが、0.5mM〜20mM程度の範囲が通常であり、1mM〜5mMであることが好適である。
【0050】
また後述する実施例から、添加するGAGオリゴ糖の濃度依存的にMMPの活性を抑制することができる。
【0051】
本発明阻害方法で用いられるGAGオリゴ糖とそれらの塩については、「本発明MMP阻害剤」と同様であり、本発明阻害方法の目的や構成も、「本発明MMP阻害剤」にて開示した「細胞」を用いる系において開示している。
【0052】
本発明阻害方法は、例えば、GAGオリゴ糖を有効成分とする本発明MMP阻害剤、本発明エラスターゼ阻害剤、又は、本発明肺疾患阻害剤、を投与する対象となる患者(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)において、これらの剤が有効か否かを判定するために行うことができる。すなわち、例えば、生検等により分離された対象患者の細胞、又は、特定の細胞モデルとして確立された細胞株に対して、GAGオリゴ糖を接触させることにより、該GAGオリゴ糖が、該細胞のエラスターゼ活性を、有効性を伴って抑制することができるか否かを判断することができる。該細胞のエラスターゼ活性が有効性をもって抑制されれば、上記の剤は、被験細胞の提供者又は被験細胞株をモデルとした者において、COPDに対して有効であると判断される。
【0053】
<3>本発明エラスターゼ抑制剤
本発明エラスターゼ抑制剤は、ケラタンオリゴ糖を有効成分として含有する、エラスターゼ活性抑制剤である。
【0054】
該ケラタンオリゴ糖は、特に、下記式で示されるケラタン硫酸オリゴ糖であることが好ましい。
【0055】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0056】
本発明エラスターゼ抑制剤の、必須成分、選択的成分、及び、投与方法と剤形は、「本発明MMP阻害剤」と同様である。
【0057】
エラスターゼは、炎症反応における免疫細胞の遊走に関与している可能性があるので、本発明エラスターゼ抑制剤は炎症抑制剤としても有用である。
【0058】
<4>本発明肺疾患治療剤
本発明肺疾患治療剤は、下記式で示されるケラタンオリゴ糖を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤である。
【0059】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0060】
本発明肺疾患治療剤における「治療」には、COPDの発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれる。また、これらの治療については、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合であってもよい。さらに、本発明肺疾患治療剤の治療対象は、肺気腫であることが好適である。
【0061】
本発明肺疾患治療剤の好ましい投与経路としては、本発明MMP阻害剤として例示されているものが好ましいが、中でも静脈注射であることが好ましい。また、本発明肺疾患治療剤の必須成分、選択的成分、及び、投与方法と剤形は、上記のように、静脈注射が特に好適であることを除けば、「本発明MMP阻害剤」と同様である。
【0062】
<本発明選別方法>
本発明選別方法は、被験成分を細胞の培養系に添加することを除けば、上記の本発明阻害方法と実質的には同一の要領で行うことができる。被験成分の添加は、適切な添加濃度を選択して、細胞の培養前、細胞の培養開始時、又は、細胞の培養後、さらには、これらの添加時を適宜組み合わせて行うことが可能である。なお、用いる細胞は、特定の細胞モデルとして確立された細胞株を用いることが、被験薬剤の効果の普遍性をより的確に確認することが可能であり好適である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(試料の調製)
(1)L4、L4L4の調製
各ケラタン硫酸オリゴ糖は、ウシ角膜由来のケラタン硫酸I(生化学工業社製)又はサメ軟骨由来のケラタン硫酸II(生化学工業社製)の1mg/200μl水溶液に、0.1Mの酢酸緩衝液で希釈したケラタナーゼIIを1mU/μl加え、pH5.0、37℃で二時間反応後、分画分子量10000の遠心フィルター(ミリポア社製)にかけて、高分子量成分を取り除き、得られた抽出液をGPCで分離することにより、得られる。生成物の構造は、特開2006−292683号公報に記載の方法で、質量分析計(4000Q Trap、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて確認した。
【0065】
(2)HA4の調製
HA4の調製は、(Tawada、A、et al.、Glycobiology 12、421-426(2002))及び(Blundell、C.D.、et al. Analytical Biochemistry 353、236-247(2006))の方法に従い調製を行った。具体的には、まず、鶏冠由来のHAを羊精巣由来ヒアルロニダーゼ(シグマ社製)によってオリゴ糖に分解し、陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製及びGPCによる精製を経てHA4を調製した。生成物の構造がHA4であることは、上記と同様に質量分析計を用いて確認した。
【0066】
(3)6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの調製
6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの調製は、特開2005−290383号公報に記載の方法に従い調製を行った。具体的には、まず、大腸菌K5株から得られたN−アセチルヘパロサンを蒸留水に溶解した後、カラムにて分画し、n−トリブチルアミン(TBA)を添加し、N−アセチルヘパロサンTBA塩を得た。得られたN−アセチルヘパロサンTBA塩に対しジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、50℃で4時間攪拌した。さらにピリジン−サルフォトリオキサイド複合体(Py−SO3)を添加した後、50℃にて攪拌条件下2時間の反応を進行させた。その後氷冷により、反応を終結させ、蒸留水を添加後、流水透析した。得られた液を生成し、凍結乾燥した後、酢酸ナトリウムに溶解し、カラムにて分画し、脱塩・凍結乾燥により調製を行い6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンを得た。
【0067】
(4)N,6−O−硫酸化ヘパロサンの調製
N,6−O−硫酸化ヘパロサンの調製は、特表2000−517328号公報に記載の方法に従い行った。具体的には、まず、大腸菌K5株から得られたポリサッカライドをヒドラジン分解しN−脱アセチル化を行い、得られた生成物を無水/トリメチルアミンアダクト(TMA/SO3)でN−硫酸化した。その後、蒸留水に溶解しカラムにアプライし、TBAを添加した。過剰のTBAをジエチルエーテルで除去した後、無水ジメチルホルムアミドに溶解し、無水ジメチルホルムアミドに溶解したPy−SO3を加え、0℃で1時間反応させることによりN,6−O−硫酸化ヘパロサンを得た。
【0068】
(5)各種コンドロイチン硫酸
各種コンドロイチン硫酸は生化学工業バイオビジネス株式会社より購入した。低分子化されたコンドロイチン硫酸については、各種コンドロイチン分解酵素を用いて低分子化し入手した。コンドロイチン硫酸Cについては、原料のコンドロイチン硫酸C(重量平均分子量:30kDa、コンドロイチン硫酸Cナトリウム塩(サメ軟骨))を出発原料とし、1gをPBS(pH5.3)50mlに溶解した。この溶液に、ヒツジ睾丸ヒアルロニダーゼ(シグマ社製:type V)10万Uを添加して37℃で酵素反応させた。経時的に反応液の一部を採取し、GPC-HPLCで分析し、低分子化の程度を調べた。目的の分子量に達したところで反応液を煮沸して酵素反応を停止させた。目的の分子量に達しない場合には、同様の反応を目的の分子量になるまで繰り返した。こうして得た目的の分子量画分は、反応終了液に活性炭を添加して50℃で1時間反応させ、その後、反応液をろ過し、次いで酢酸ナトリウムで洗浄後、エタノールを添加して沈殿物を得、得られた沈殿物をエタノールで洗浄後、乾燥することで精製した。以上の方法によって各種低分子化したコンドロイチン硫酸を白色粉末として得た。
【0069】
[実施例1] 活性測定系の樹立
マクロファージ細胞の無血清培養上清と特異的基質を用いた、MMP活性測定系を樹立した。マクロファージ細胞は生体内において主要なMMP産生細胞であることが知られている。培養上清を濃縮し、総タンパク量が14−18 mg/mlのものをMMP酵素液として用いた。培養上清には、MMP−9とMMP−13をそれぞれ約0.01%、0.0006%程度含んでいた。今回は治療薬の開発を念頭に、総MMP活性に対する抑制効果をスクリーニングの目標としたため、汎用型のMMP基質[DNP-Pro-Cha-Gly-Cys(Me)-His-Ala-Lys(N-Me-Abz)-NH2(Cha=β-cyclohexylalanyl、Abz=2-aminobenzoyl (anthraniloyl) (Ex. 365 nm / Em. 450 nm))]を採用することとした。基質はMMP-1、3、7、8、9、11、12、13、14による分解を受け、MMP-9に対するkcat/Km=1.3x104と報告されている。MMP-9精製酵素を用いて検討したところ、本基質を用いた測定感度は0.015ng以上であった。
【0070】
[実施例2]GAGオリゴ糖によるMMP活性の変化
まず、上記で調製した各種GAG糖鎖(終濃度1mg/ml)それぞれ10μlと、ポジティブコントロールとして市販のMMP阻害剤であるGM6001(コスモ・バイオ株式会社より購入:終濃度 25μM)に、ヒト由来のリコンビナントMMP−9(4ng/ml)10μl、精製水20μl及びバッファー(最終濃度50mM Tris-HCL、pH7.6、1.5mM NaCl、0.5 mM CaCl2、1μM ZnCl2、0.01% (v/v) Brij-35)50μlを混合し、37℃で1時間インキュベーションした。なお、ネガティブコントロールは、それぞれの系にて配合するべきGAG糖鎖を無配合としたものを用いた。
【0071】
その後、蛍光標識したMMP基質10μlを添加した後、96−wellプレートにて、分解速度を2分間隔で120分まで蛍光強度を測定し、分解物濃度を求めた。基質は、上記のDNP-Pro-Cha-Gly-Cys(Me)-His-Ala-Lys(N-Me-Abz)-NH2(Cha=β-cyclohexylalanyl、Abz=2-aminobenzoyl (anthraniloyl) (Ex. 365 nm / Em. 450 nm))を、終濃度4μMとして用いた。
【0072】
MMP阻害活性は、阻害剤なしの活性を100%とし、比活性値(%)として計算した。各種GAGオリゴ糖群に応じたMMP活性への影響を検討した。これらの結果から低分子量のHAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、硫酸化ヘパロサン及び6−O−硫酸化−N−アセチルヘパロサンで、有意にMMP活性の抑制効果が認められた(図1)。図1において、縦軸は比活性値であり、横軸の各棒が各々のGAGオリゴ糖におけるこれらの活性を示している。この図1に示された結果と共に、HAオリゴ糖の結合糖鎖数を変化させてMMP−9の抑制度合いを検討した結果を示したものが図2である。図2において、「Medium」がネガティブコントロールであり、「GM6001」がポジティブコントロールである。また、「4」は「HA4」、「6」は「HA6」、「8」は「HA8」、「10」は「HA10」、「12」は「HA12」を示している。また、「5kDa」、「25kDa」及び「200kDa」は、それぞれ、当該分子量のヒアルロン酸であることを示している。この図2の結果より、ヒアルロン酸オリゴ糖の中でも、HA4又はHA6においてMMP阻害活性が認められ、HA4が最も好適であることが明らかになった。
【0073】
さらに、MMP阻害活性が優れていたコンドロイチン硫酸Cオリゴ糖(CS−C)の濃度依存性と糖重合度との関係を、MMP−9精製酵素を用いて検討したところ、L4 及びL4L4で特に抑制効果が高く、濃度依存的にMMP活性を阻害することが分かった(図3)。図3(1)は、L4における濃度依存的なMMP阻害活性を、図3(2)は、L4L4における濃度依存的なMMP阻害活性を示している。図3の縦軸は比活性値(%)であり、横軸は各GAGオリゴ糖の添加濃度である。L4L4について、MMP−9に対する阻害定数Kiを測定したところ、それぞれL4に対しては0.8mM、L4L4に対しては0.6mMであった。陽性コントロールとして用いた市販MMP阻害薬GM6001を同様の方法で測定したところ、そのKiは約4μMであった(図4A〜C)。図4Aは、市販MMP阻害薬GM6001についてのKiを求めた図面であり、図4BはL4の、図4CはL4L4の、Ki値の算出の基となったデータ解析図である。それぞれ、縦軸は勾配であり、横軸はGAGオリゴ糖の添加量である。
【0074】
[実施例3]エラスターゼ惹起モデル
9〜11週齢のC57BL/6マウス(オス:日本クレア株式会社より購入した)に、L4を250μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注した。コントロールとして、生理食塩水を50μl投与した群を用いた。30分後ブタ膵臓由来エラスターゼ3Uを気管内にスプレー投与した。エラスターゼ投与後24時間後に解剖し、肺に対して生理食塩液で3回、気管支肺胞洗浄を行い、気管支肺洗浄液(BALF)を得た。評価項目は気管支肺洗浄液中の総細胞数及び好中球量により評価した。その結果を図5A〜Cに示した。図5Aは、総細胞数に対するL4投与の影響を検討した図面であり、図5Bは、好中球数に対するL4投与の影響を検討した図面である。図5A、Bにおいて、縦軸は細胞数であり、縦軸への棒グラフは、試験系を示している。また、図5Cは、算出した総細胞数における好中球の比率(%:縦軸)を示した図面である。これらの図に示すとおり、エラスターゼを投与する前にL4を投与した群では、有意に好中球の集積を抑制することがわかった。
【0075】
今回の実験においてMMP−9等の活性阻害効果が認められ、エラスターゼ誘発性肺気腫モデルマウスにおいてMMP産生細胞である好中球の遊走能亢進が抑えられたことから、L4をCOPD治療薬として用いることができると考えられる。
【0076】
[実施例4] エラスターゼ誘導肺気腫モデル
9〜11週齢のC57BL/6マウス(オス:日本クレア株式会社より購入した)に、L4を250μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注した。コントロールとして、生理食塩水を50μl投与した群を用いた(1回目のL4投与)。この1回目のL4投与の30分後に、ブタ膵臓由来エラスターゼ5Uを気管内にスプレー投与した。このエラスターゼ投与の24時間後に、1回目と同一内容のL4投与を、コントロール群における50μlの生理食塩水投与と共に行った(2回目のL4投与)。この2回目のL4投与の24時間後に、L4を125μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注し、コントロール群においては、50μlの生理食塩水を投与した(3回目のL4投与)。この3回目のL4投与から21日後に、実験に供したマウスの犠死を行い、常法に従って、肺のホルマリン固定を行い、肺の平均肺胞壁間距離(Lm)を測定した。なお、L4投与群(L4)のマウスのn数は9であり、生理食塩水投与群(PS)のマウスのn数は9であり、未処理群(Untreat)のn数は2、として本試験は行われた。
【0077】
この肺気腫モデル試験の結果を、図6(A,B)に示す。図6Aにおける棒グラフの縦軸は、肺の平均肺胞壁間距離(Lm)を示し、各々の棒の間に跨る数字は、確率上の危険率を示すp値である。ここに示された結果により、L4は、エラスターゼ誘導性肺気腫を有意に抑制することが明らかになった。図6Bは、各々の試験群のマウスの肺のホルマリン固定像が開示されているが、L4群の肺組織は、PS群に比べると稠密になっており、図6Aに示した数値上の結果を裏付けるものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤に関連し、より具体的には、MMP−9及びMMP−12活性に対する特性によりスクリーニングされた、ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖等のグリコサミノグリカンの、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤及びエラスターゼ活性抑制剤としての用途、並びに、慢性閉塞性肺疾患の治療剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
まず、本出願書類において用いる略号を説明する。
MMP:マトリックスメタロプロテアーゼ
COPD:慢性閉塞性肺疾患
HA:ヒアルロン酸
CS:コンドロイチン硫酸
DS:デルマタン硫酸
GAG:グリコサミノグリカン
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィー
HA4:ヒアルロン酸4糖(GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc)
L4:ケラタン硫酸2糖(Gal6S β1-4 GlcNAc6S)
L4L4:ケラタン硫酸4糖(Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S)
【0003】
動物組織を構成する多様な細胞は、種々の細胞外マトリックス(Extracellular Matrix)分子によって接着・固定されている。細胞の増殖・分化・移動・アポトーシスにも深く関与するMMPは、このような細胞外マトリックスタンパク質を主要な基質とする一群の金属要求性プロテアーゼの総称名である。MMPは現在、MMP−1、MMP−3、ゼラチナーゼA(MMP−2)、好中球コラーゲナーゼ(MMP−18)、ゼラチナーゼB(MMP−9)、マクロファージエラスターゼ(MMP−12)、コラーゲナーゼ(MMP−13)等、数十種類の存在が知られている。これらの共通した性質として、活性ドメイン中に亜鉛を有すること、また、生体内に存在するMMPに特異的な天然の阻害物質(Tissue Inhibitor of Metalloproteinase)によって活性を調整されていること等が挙げられる(非特許文献1)。
【0004】
また、本発明者らの研究により、Fut8ノックアウトマウス(COPD自然発症モデルマウス)において、MMP−9、12、13の遺伝子発現レベルが有意に上昇しており、これらが肺胞の破壊に関連していることが報告されている(非特許文献2)。このことから肺胞破壊を阻止するためには、最終段階に働くMMP活性を抑制することが有効であると考えられる。しかしながらこれまで様々なMMP阻害薬が開発されてきたが、いずれも重篤な副作用のため治療効果を上げるには至っていない。
【0005】
COPDは中高年の喫煙者に多く発症し、慢性かつ持続性の閉塞性換気障害を呈する疾患群であり、世界保健機関の統計では死亡原因の第4位にランクインされている。日本においては、日本呼吸器学会ガイドライン(非特許文献3)により、COPDは、肺気腫、慢性気管支炎又は両者の併発により惹起される閉塞性換気障害を特徴とする疾患、と定義されている。このうち肺気腫は、軽症である人を含めると、約300万人が、肺気腫の患者及び予備軍であると予測されている。
【0006】
肺気腫の病態は終末細気管支以下の気道と肺胞壁の破壊、及び、非可逆的な気腔の拡張を特徴とし、明らかな線維化や気道系の閉塞を伴わない病態、と病理学的に定義されている。肺気腫の発症の機序については「プロテアーゼ・アンチプロテアーゼ不均衡説」や肺胞壁のアポトーシス(非特許文献4及び5)等が考えられているが、いまだ明らかにされていないことも多い。最も確かな内因性危険因子は、遺伝性疾患であるα1−アンチトリプシン欠損症であるが、日本においては非常にまれである(非特許文献3)。
【0007】
また、GAGのMMPに対する作用については、軟骨魚類の軟骨の水抽出物由来の分子量500kDa以上のコンドロイチン硫酸C(コンドロイチン6硫酸)を主成分としたプロテオグリカンが、MMPを阻害することが報告されている(特許文献1)。多硫酸化されたGAGについては、例えば、多硫酸化CSついて、MMP活性への影響が検討されている。しかし、多硫酸化CSは、MMP−3は阻害するが、MMP−1については活性化することが報告されており、多硫酸化CSがMMP阻害剤として、好ましい物質ではないことが示されている(非特許文献6)。また、閉塞性換気障害を抑制する薬剤として、肺におけるコンドロイチン硫酸プロテオグリカンの生成又は蓄積を阻害することを特徴とする薬剤が知られている(特許文献2)。また、特許文献3や4には、ケラタン硫酸オリゴ糖及びその誘導体の線維化抑制効果として、肺線維症や間質性肺疾患の治療効果が期待できる旨記載されているが、肺気腫は、明らかな線維化を伴わないため、肺気腫のような、肺線維症や間質性肺疾患以外の肺疾患にケラタン硫酸のオリゴ糖が治療効果を有するかを予測することはできない。特許文献5には、分子量5000〜200万程度の分子量を有するGAGを有効成分とする成長因子誘導剤の適応疾患の例として、肺気腫や慢性閉塞性肺疾患等が例示されている。
【0008】
しかしながら、特定の構造を有するGAGが有意にMMP活性を阻害すること、及び、COPDの治療剤としてL4が有用であることは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】WO2004/083257
【特許文献2】特許4101276号
【特許文献3】特開平11−269076
【特許文献4】特開2000−256385
【特許文献5】特開2002−3384
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】宮崎香ら,生化学,68,1791-1807,1996
【非特許文献2】Wang, X et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102, 15791-15796,(2005)
【非特許文献3】日本呼吸器学会COPDガイドライン作製委員会:COPD診断と治療のためのガイドライン1999
【非特許文献4】Hoshino Y, Am. J. Physiol. Lung cell Mol. Physiol. 281 (2) p509-516 (2001)
【非特許文献5】Aoshiba K, Am. J. Respir. Crit. Care Med. 153(2) p530-534(2003)
【非特許文献6】Andrew Nethery et al., Biochem. Pharmacol., 44, p1549-1553(1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の状況を鑑み、GAGに関連した、MMPを阻害する新たな手段を提供し、慢性閉塞性肺疾患(COPD)等の治療の途を提供することを課題とする発明である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の構造を有するGAGが、有意にMMPを阻害する活性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害剤(以下、「本発明MMP阻害剤」という)を提供する発明である。なお、上記したGAGオリゴ糖と特定の構造を有するヘパロサン、さらにそれらの薬学的に許容される塩を、以下、「GAGオリゴ糖等」とも総称する。
【0014】
本発明MMP阻害剤は、下記式HA4、L4及びL4L4で示されるGAGオリゴ糖からなる群から選ばれる1種又は2種以上、を有効成分として含有することがより好ましい。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0015】
本発明MMP阻害剤は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害する用途として用いることが好ましく、中でもMMP−9を阻害する用途として用いることが好適である。
【0016】
また本発明は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のMMP活性を抑制する、MMPの阻害方法(以下、「本発明阻害方法」という)を提供する発明である。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0017】
本発明阻害方法は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害するために用いることが好ましく、中でも、MMP−9を阻害するために用いることが好適である。
【0018】
また本発明は、ケラタン硫酸オリゴ糖を少なくとも含むエラスターゼ活性抑制剤(以下、「本発明エラスターゼ抑制剤」という)を提供する発明である。
【0019】
本発明エラスターゼ抑制剤の有効成分であるケラタン硫酸オリゴ糖は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖であることが好ましい。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0020】
また本発明は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖からなる慢性閉塞性肺疾患の治療剤(以下、「本発明肺疾患治療剤」という)を提供する発明である。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0021】
また、上記慢性閉塞性肺疾患は、肺気腫である場合に用いることがさらに好ましい。
【0022】
なお、本発明において「剤」とは、「調剤物」又は「有効成分そのもの」を意味することとする。「調剤物」は、「組成物」と同意義であるが、医薬品分野における慣用表現として「剤」を用いることとする。また、「調剤物」であるか、「有効成分そのもの」であるかは、剤の定義によって明確に区別をすることができる。すなわち、「〜を有効成分として含有する剤」は「調剤物」を意味するものであり、「〜からなる剤」は「有効成分そのもの」を意味するものである。例えば、本発明MMP阻害剤は、「HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害用組成物」とも表現される。これは、本発明エラスターゼ抑制剤と本発明肺疾患治療剤においても同様であり、それぞれの有効成分を含有する「エラスターゼ活性抑制用組成物」と「慢性閉塞性肺疾患治療用組成物」と同意義である。また、上記の各有効成分からなる剤は、それぞれの有効成分自体の用途を示している。
【0023】
加えて、本発明は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上、並びに、被験薬剤を、細胞に接触させ、該被験薬剤における前記GAGオリゴ糖又は塩による該細胞由来のMMP活性の抑制に対する、促進作用あるいは緩和作用を選別する、薬剤の選別方法(以下、「本発明選別方法」という)を提供する発明である。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0024】
本発明選別方法により、上記の本発明の剤のエラスターゼ抑制作用を促進して、本発明の剤と組み合わせて処方することにより、肺気腫等の慢性閉塞性肺疾患に対していっそうの治療効果を上げることが可能な有効成分を選別することが可能となる。逆に、本発明の剤のエラスターゼ抑制作用を緩和して、例えば、本発明の剤による副作用が顕在化した際の緩和剤の有効成分を選別することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、GAGオリゴ糖等を有効成分とするMMP阻害剤、それを用いたMMP阻害方法、エラスターゼ活性抑制剤及び慢性閉塞性肺疾患治療薬が提供される。MMP阻害剤はその他さまざまな疾患に応用できることが期待されることから極めて有用である。さらに、本発明により、上記の剤の作用を促進又は緩和することが可能な有効成分を選別することが可能な選別方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】各種GAGオリゴ糖群に応じたMMP活性への影響を示す図である。
【図2】HAオリゴ糖の結合糖鎖数を変化させてMMP−9抑制の度合いを検討した結果を示した図面である。
【図3】ケラタン硫酸オリゴ糖のMMP活性阻害効果の濃度依存性を示す図である。
【図4A】GM6001によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図4B】ケラタン硫酸オリゴ糖L4によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図4C】ケラタン硫酸オリゴ糖L4L4によるMMP−9に対する阻害定数を示す図である。
【図5A】L4による総細胞数の集積抑制効果を検討した図面である。
【図5B】L4による好中球数の集積抑制効果を検討した図面である。
【図5C】L4による好中球数比率への影響を検討した図面である。
【図6A】L4による、エラスターゼ誘導肺気腫の抑制効果を検討した図面である。
【図6B】L4による、エラスターゼ誘導肺気腫の抑制効果を、ホルマリン固定顕微鏡像で示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<1>本発明MMP阻害剤
本発明MMP阻害剤は、HAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩、からなる群から選択される少なくとも1種、を有効成分として含有するMMP阻害剤である。
【0028】
[A]有効成分
本発明MMP阻害剤で用いられる、GAGオリゴ糖は、単一の種からなっていても、混合物であってもよい。
【0029】
また、それぞれのGAGオリゴ糖等は、例えば、WO96/16973やWO02/04471に記載の方法により適宜調整される。その原料として使用されるGAGは、サメ等の軟骨魚類のプロテオグリカンや鶏冠等から取得できる。また、市販されているものを用いることもできる。具体的なGAGオリゴ糖等の製造方法は、実施例の欄にて具体的に開示した。
【0030】
(1)HAオリゴ糖
例えば、公知の手段により入手したHAを、ヒアルロン酸分解酵素によってオリゴ糖に分解し、該オリゴ糖を、常法、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて精製することにより、本発明に用いるHAオリゴ糖を製造することができる。HAオリゴ糖は、下記のHA4であることが好適である。
【0031】
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
(式中、GlcAはグルクロン酸残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0032】
(2)ケラタン硫酸オリゴ糖
ケラタン硫酸オリゴ糖の調製法としては、ケラタン硫酸又は高硫酸化ケラタン硫酸の緩衝溶液にエンド−β−N−アセチルグルコサミニダーゼ型ケラタン硫酸分解酵素、例えばバチルス属細菌由来のケラタナーゼ(II)、又は、バチルス・サーキュランスKsT202株由来のケラタン硫酸分解酵素を作用させて分解した後、得られた分解物を分画することにより得ることができる。得られたオリゴ糖の画分は、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、目的のケラタン硫酸オリゴ糖を分離精製することが出来る。ケラタン硫酸は、下記のL4又はL4L4であることが好適である。
【0033】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0034】
(3)6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン
6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンは、公知の手段により入手したN−アセチルヘパロサンを蒸留水に溶解した後、触媒の存在下、6−O−硫酸化を行い、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、分離精製することができる。
【0035】
(4)N,6−O−硫酸化ヘパロサン
N,6−O−硫酸化ヘパロサンは、例えば、公知の手段により入手したポリサッカライドを、ヒドラジン分解しN−脱アセチル化を行い、得られた生成物をN−硫酸化し、さらに触媒の存在下、6−O−硫酸化を行い、例えば、エタノール沈殿による濃縮、ゲルろ過及び陰イオン交換クロマトグラフィーによる分解精製法等を用いて、分離精製することができる。
【0036】
(5)薬学的に許容される塩
薬学的に許容される塩とは、上記(1)〜(3)のGAGオリゴ糖の塩、すなわち、HAオリゴ糖の該塩、ケラタン硫酸オリゴ糖の該塩、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの該塩、及び、N,6−O−硫酸化ヘパロサンの該塩である。
【0037】
ここで、薬学的に許容される塩とは、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等の無機塩基との塩、ジエタノールアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、アミノ酸塩等の有機塩基塩等が例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
[B]選択的成分
本発明MMP阻害剤は、MMP阻害効果を損なわない範囲で、上記のGAGオリゴ糖(1)〜(5)以外の成分を、必要に応じて配合することが可能である。例えば、保湿剤、細胞賦活剤、抗炎症剤、抗酸化剤、美白剤、ヒアルロニダーゼ阻害剤、活性酸素抑制剤、抗ヒスタミン剤、慣用の賦形剤、安定化剤、結合剤、滑沢剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、その他着色剤、崩壊剤等を適宜配合することができる。
【0039】
[C]投与方法と剤形
本発明MMP阻害剤は、注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内等)、経口、経皮、吸入等により投与することが可能であり、これらの投与方法に応じて適宜製剤化することができる。本発明MMP阻害剤が投与される組織又は細胞は、特に限定されるものではないが、肺または気管支への直接投与は、好適な投与形態の一つである。
【0040】
本発明MMP阻害剤の剤形は、例えば、注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等から広く選択することができる。
【0041】
本発明MMP阻害剤を医薬として用いる場合、そのエンドトキシン濃度は、溶液状態の剤とした場合において0.3EU/mL以下であることが好ましい。エンドトキシン濃度は、当業者に周知慣用のエンドトキシン測定法を用いて測定することができるが、カブトガニ・アメボサイト・ライセート成分を用いるリムルス試験法が好ましい。なお、EU(エンドトキシン単位)は、日本工業規格生化学試験通則(JIS K8008)、又は米国薬局方等に従って測定・算出できる。
【0042】
本発明MMP阻害剤の投与量は、投与の目的(予防、悪化防止、症状の改善、又は治療)、疾患の種類、患者の症状、性別、年齢、体重、投与部位、投与方法等によって個別に設定されるものであり、特に限定されないが、成人1人1回あたり概ね、GAGオリゴ糖(1)〜(5)の量として、1ng/投与部位〜30mg/投与部位程度、を投与することが可能である。
【0043】
本発明MMP阻害剤は医薬としての用途としても用いることができる他、実験試薬の用途としても用いることができる。すなわち、本発明MMP阻害剤を医薬としての承認を得るための治験の他、本発明MMP阻害剤が有効な生体臓器や疾患を検証するために、様々な種類の生体細胞に対して本発明MMP阻害剤を共存させて、そのMMP阻害作用の有無や強弱を検証することや、特定の患者に対して、本発明MMP阻害剤の有効性が確認されている臓器(例えば、肺等)に対する生検を行い、MMP阻害効果の有無強弱の確認を行い、本発明MMP阻害剤の使用の是非、投薬量、投薬時期等の判断指標を得ることも可能である。また、MMPの阻害の生体に対する微視的又は巨視的な影響をさらに基礎的に検討するために、in vivo又はin vitroにおける本発明MMP阻害剤の作用を検証することも可能である。
【0044】
また、本発明MMP阻害剤は、特に、MMP−9、MMP−12及びMMP−13を阻害する用途として用いることが好ましく、中でもMMP−9を阻害する用途として用いることが好ましい。
【0045】
<2>本発明阻害方法
本発明阻害方法は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のMMP活性を抑制する、MMPの阻害方法である。
【0046】
HA4:GlcA β1-3 GlcNAcβ1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4;Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4;Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0047】
本発明阻害方法で用いられる、上記のGAGオリゴ糖とそれらの塩を「共存」させる細胞の出所となる生物種、また、その種類は特に限定されない。生物種は、ヒトをはじめ、イヌ、ネコ、サル、ウマ、ヒツジ、マウス、ラット、ウサギ等の哺乳動物を例示することが可能であるが、これらに限定されるものではない。細胞の種類は、MMPの活性を阻害することを試みることに意義がある細胞であれば、特に限定されるものではなく、分離又は非分離の各種の正常細胞の他、腫瘍細胞を用いることができる。また、該細胞は、分離された細胞であることが好適である。
【0048】
本発明阻害方法における、細胞由来のMMP活性を阻害する手段は、特に限定されないが、典型的には、MMP活性を阻害する対象の細胞に、GAGオリゴ糖を接触させることにより行われる。この接触の態様は、例えば、細胞とGAGオリゴ糖の培養初期からの共存培養、増殖期の培養細胞に対するGAGオリゴ糖の添加、定常期の培養細胞に対するGAGオリゴ糖の添加、等が挙げられる。また、MMPの活性を長期にわたり抑制したい場合には、GAGオリゴ糖の濃度が常に高い状態に保たれるよう、細胞の培養系に対し、随時GAGオリゴ糖を添加することも出来る。また、細胞とGAGオリゴ糖の接触に際しての条件も特に限定されず、MMPの阻害が望まれるような細胞にとって好ましい温度やpHを適宜選択して接触させることができる。例えば、温度は、25〜45℃程度の範囲が通常であり、30〜40℃であることが好ましく、35〜38℃であることがより好ましい。また、pHは、6〜8程度の範囲が通常であり、7.0〜7.6であることが好適である。
【0049】
また、細胞と上記GAGオリゴ糖とを接触させる時の、該GAGオリゴ糖の濃度についても特に限定はされないが、0.5mM〜20mM程度の範囲が通常であり、1mM〜5mMであることが好適である。
【0050】
また後述する実施例から、添加するGAGオリゴ糖の濃度依存的にMMPの活性を抑制することができる。
【0051】
本発明阻害方法で用いられるGAGオリゴ糖とそれらの塩については、「本発明MMP阻害剤」と同様であり、本発明阻害方法の目的や構成も、「本発明MMP阻害剤」にて開示した「細胞」を用いる系において開示している。
【0052】
本発明阻害方法は、例えば、GAGオリゴ糖を有効成分とする本発明MMP阻害剤、本発明エラスターゼ阻害剤、又は、本発明肺疾患阻害剤、を投与する対象となる患者(ヒト又はヒト以外の哺乳動物)において、これらの剤が有効か否かを判定するために行うことができる。すなわち、例えば、生検等により分離された対象患者の細胞、又は、特定の細胞モデルとして確立された細胞株に対して、GAGオリゴ糖を接触させることにより、該GAGオリゴ糖が、該細胞のエラスターゼ活性を、有効性を伴って抑制することができるか否かを判断することができる。該細胞のエラスターゼ活性が有効性をもって抑制されれば、上記の剤は、被験細胞の提供者又は被験細胞株をモデルとした者において、COPDに対して有効であると判断される。
【0053】
<3>本発明エラスターゼ抑制剤
本発明エラスターゼ抑制剤は、ケラタンオリゴ糖を有効成分として含有する、エラスターゼ活性抑制剤である。
【0054】
該ケラタンオリゴ糖は、特に、下記式で示されるケラタン硫酸オリゴ糖であることが好ましい。
【0055】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0056】
本発明エラスターゼ抑制剤の、必須成分、選択的成分、及び、投与方法と剤形は、「本発明MMP阻害剤」と同様である。
【0057】
エラスターゼは、炎症反応における免疫細胞の遊走に関与している可能性があるので、本発明エラスターゼ抑制剤は炎症抑制剤としても有用である。
【0058】
<4>本発明肺疾患治療剤
本発明肺疾患治療剤は、下記式で示されるケラタンオリゴ糖を有効成分として含有する慢性閉塞性肺疾患(COPD)治療剤である。
【0059】
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【0060】
本発明肺疾患治療剤における「治療」には、COPDの発生を予め抑制し得る予防的な効果も含まれる。また、これらの治療については、必ずしも、完全な治療効果を有する場合に限定されず、部分的な効果を有する場合であってもよい。さらに、本発明肺疾患治療剤の治療対象は、肺気腫であることが好適である。
【0061】
本発明肺疾患治療剤の好ましい投与経路としては、本発明MMP阻害剤として例示されているものが好ましいが、中でも静脈注射であることが好ましい。また、本発明肺疾患治療剤の必須成分、選択的成分、及び、投与方法と剤形は、上記のように、静脈注射が特に好適であることを除けば、「本発明MMP阻害剤」と同様である。
【0062】
<本発明選別方法>
本発明選別方法は、被験成分を細胞の培養系に添加することを除けば、上記の本発明阻害方法と実質的には同一の要領で行うことができる。被験成分の添加は、適切な添加濃度を選択して、細胞の培養前、細胞の培養開始時、又は、細胞の培養後、さらには、これらの添加時を適宜組み合わせて行うことが可能である。なお、用いる細胞は、特定の細胞モデルとして確立された細胞株を用いることが、被験薬剤の効果の普遍性をより的確に確認することが可能であり好適である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0064】
(試料の調製)
(1)L4、L4L4の調製
各ケラタン硫酸オリゴ糖は、ウシ角膜由来のケラタン硫酸I(生化学工業社製)又はサメ軟骨由来のケラタン硫酸II(生化学工業社製)の1mg/200μl水溶液に、0.1Mの酢酸緩衝液で希釈したケラタナーゼIIを1mU/μl加え、pH5.0、37℃で二時間反応後、分画分子量10000の遠心フィルター(ミリポア社製)にかけて、高分子量成分を取り除き、得られた抽出液をGPCで分離することにより、得られる。生成物の構造は、特開2006−292683号公報に記載の方法で、質量分析計(4000Q Trap、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて確認した。
【0065】
(2)HA4の調製
HA4の調製は、(Tawada、A、et al.、Glycobiology 12、421-426(2002))及び(Blundell、C.D.、et al. Analytical Biochemistry 353、236-247(2006))の方法に従い調製を行った。具体的には、まず、鶏冠由来のHAを羊精巣由来ヒアルロニダーゼ(シグマ社製)によってオリゴ糖に分解し、陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製及びGPCによる精製を経てHA4を調製した。生成物の構造がHA4であることは、上記と同様に質量分析計を用いて確認した。
【0066】
(3)6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの調製
6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンの調製は、特開2005−290383号公報に記載の方法に従い調製を行った。具体的には、まず、大腸菌K5株から得られたN−アセチルヘパロサンを蒸留水に溶解した後、カラムにて分画し、n−トリブチルアミン(TBA)を添加し、N−アセチルヘパロサンTBA塩を得た。得られたN−アセチルヘパロサンTBA塩に対しジメチルホルムアミド(DMF)を添加し、50℃で4時間攪拌した。さらにピリジン−サルフォトリオキサイド複合体(Py−SO3)を添加した後、50℃にて攪拌条件下2時間の反応を進行させた。その後氷冷により、反応を終結させ、蒸留水を添加後、流水透析した。得られた液を生成し、凍結乾燥した後、酢酸ナトリウムに溶解し、カラムにて分画し、脱塩・凍結乾燥により調製を行い6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサンを得た。
【0067】
(4)N,6−O−硫酸化ヘパロサンの調製
N,6−O−硫酸化ヘパロサンの調製は、特表2000−517328号公報に記載の方法に従い行った。具体的には、まず、大腸菌K5株から得られたポリサッカライドをヒドラジン分解しN−脱アセチル化を行い、得られた生成物を無水/トリメチルアミンアダクト(TMA/SO3)でN−硫酸化した。その後、蒸留水に溶解しカラムにアプライし、TBAを添加した。過剰のTBAをジエチルエーテルで除去した後、無水ジメチルホルムアミドに溶解し、無水ジメチルホルムアミドに溶解したPy−SO3を加え、0℃で1時間反応させることによりN,6−O−硫酸化ヘパロサンを得た。
【0068】
(5)各種コンドロイチン硫酸
各種コンドロイチン硫酸は生化学工業バイオビジネス株式会社より購入した。低分子化されたコンドロイチン硫酸については、各種コンドロイチン分解酵素を用いて低分子化し入手した。コンドロイチン硫酸Cについては、原料のコンドロイチン硫酸C(重量平均分子量:30kDa、コンドロイチン硫酸Cナトリウム塩(サメ軟骨))を出発原料とし、1gをPBS(pH5.3)50mlに溶解した。この溶液に、ヒツジ睾丸ヒアルロニダーゼ(シグマ社製:type V)10万Uを添加して37℃で酵素反応させた。経時的に反応液の一部を採取し、GPC-HPLCで分析し、低分子化の程度を調べた。目的の分子量に達したところで反応液を煮沸して酵素反応を停止させた。目的の分子量に達しない場合には、同様の反応を目的の分子量になるまで繰り返した。こうして得た目的の分子量画分は、反応終了液に活性炭を添加して50℃で1時間反応させ、その後、反応液をろ過し、次いで酢酸ナトリウムで洗浄後、エタノールを添加して沈殿物を得、得られた沈殿物をエタノールで洗浄後、乾燥することで精製した。以上の方法によって各種低分子化したコンドロイチン硫酸を白色粉末として得た。
【0069】
[実施例1] 活性測定系の樹立
マクロファージ細胞の無血清培養上清と特異的基質を用いた、MMP活性測定系を樹立した。マクロファージ細胞は生体内において主要なMMP産生細胞であることが知られている。培養上清を濃縮し、総タンパク量が14−18 mg/mlのものをMMP酵素液として用いた。培養上清には、MMP−9とMMP−13をそれぞれ約0.01%、0.0006%程度含んでいた。今回は治療薬の開発を念頭に、総MMP活性に対する抑制効果をスクリーニングの目標としたため、汎用型のMMP基質[DNP-Pro-Cha-Gly-Cys(Me)-His-Ala-Lys(N-Me-Abz)-NH2(Cha=β-cyclohexylalanyl、Abz=2-aminobenzoyl (anthraniloyl) (Ex. 365 nm / Em. 450 nm))]を採用することとした。基質はMMP-1、3、7、8、9、11、12、13、14による分解を受け、MMP-9に対するkcat/Km=1.3x104と報告されている。MMP-9精製酵素を用いて検討したところ、本基質を用いた測定感度は0.015ng以上であった。
【0070】
[実施例2]GAGオリゴ糖によるMMP活性の変化
まず、上記で調製した各種GAG糖鎖(終濃度1mg/ml)それぞれ10μlと、ポジティブコントロールとして市販のMMP阻害剤であるGM6001(コスモ・バイオ株式会社より購入:終濃度 25μM)に、ヒト由来のリコンビナントMMP−9(4ng/ml)10μl、精製水20μl及びバッファー(最終濃度50mM Tris-HCL、pH7.6、1.5mM NaCl、0.5 mM CaCl2、1μM ZnCl2、0.01% (v/v) Brij-35)50μlを混合し、37℃で1時間インキュベーションした。なお、ネガティブコントロールは、それぞれの系にて配合するべきGAG糖鎖を無配合としたものを用いた。
【0071】
その後、蛍光標識したMMP基質10μlを添加した後、96−wellプレートにて、分解速度を2分間隔で120分まで蛍光強度を測定し、分解物濃度を求めた。基質は、上記のDNP-Pro-Cha-Gly-Cys(Me)-His-Ala-Lys(N-Me-Abz)-NH2(Cha=β-cyclohexylalanyl、Abz=2-aminobenzoyl (anthraniloyl) (Ex. 365 nm / Em. 450 nm))を、終濃度4μMとして用いた。
【0072】
MMP阻害活性は、阻害剤なしの活性を100%とし、比活性値(%)として計算した。各種GAGオリゴ糖群に応じたMMP活性への影響を検討した。これらの結果から低分子量のHAオリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、硫酸化ヘパロサン及び6−O−硫酸化−N−アセチルヘパロサンで、有意にMMP活性の抑制効果が認められた(図1)。図1において、縦軸は比活性値であり、横軸の各棒が各々のGAGオリゴ糖におけるこれらの活性を示している。この図1に示された結果と共に、HAオリゴ糖の結合糖鎖数を変化させてMMP−9の抑制度合いを検討した結果を示したものが図2である。図2において、「Medium」がネガティブコントロールであり、「GM6001」がポジティブコントロールである。また、「4」は「HA4」、「6」は「HA6」、「8」は「HA8」、「10」は「HA10」、「12」は「HA12」を示している。また、「5kDa」、「25kDa」及び「200kDa」は、それぞれ、当該分子量のヒアルロン酸であることを示している。この図2の結果より、ヒアルロン酸オリゴ糖の中でも、HA4又はHA6においてMMP阻害活性が認められ、HA4が最も好適であることが明らかになった。
【0073】
さらに、MMP阻害活性が優れていたコンドロイチン硫酸Cオリゴ糖(CS−C)の濃度依存性と糖重合度との関係を、MMP−9精製酵素を用いて検討したところ、L4 及びL4L4で特に抑制効果が高く、濃度依存的にMMP活性を阻害することが分かった(図3)。図3(1)は、L4における濃度依存的なMMP阻害活性を、図3(2)は、L4L4における濃度依存的なMMP阻害活性を示している。図3の縦軸は比活性値(%)であり、横軸は各GAGオリゴ糖の添加濃度である。L4L4について、MMP−9に対する阻害定数Kiを測定したところ、それぞれL4に対しては0.8mM、L4L4に対しては0.6mMであった。陽性コントロールとして用いた市販MMP阻害薬GM6001を同様の方法で測定したところ、そのKiは約4μMであった(図4A〜C)。図4Aは、市販MMP阻害薬GM6001についてのKiを求めた図面であり、図4BはL4の、図4CはL4L4の、Ki値の算出の基となったデータ解析図である。それぞれ、縦軸は勾配であり、横軸はGAGオリゴ糖の添加量である。
【0074】
[実施例3]エラスターゼ惹起モデル
9〜11週齢のC57BL/6マウス(オス:日本クレア株式会社より購入した)に、L4を250μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注した。コントロールとして、生理食塩水を50μl投与した群を用いた。30分後ブタ膵臓由来エラスターゼ3Uを気管内にスプレー投与した。エラスターゼ投与後24時間後に解剖し、肺に対して生理食塩液で3回、気管支肺胞洗浄を行い、気管支肺洗浄液(BALF)を得た。評価項目は気管支肺洗浄液中の総細胞数及び好中球量により評価した。その結果を図5A〜Cに示した。図5Aは、総細胞数に対するL4投与の影響を検討した図面であり、図5Bは、好中球数に対するL4投与の影響を検討した図面である。図5A、Bにおいて、縦軸は細胞数であり、縦軸への棒グラフは、試験系を示している。また、図5Cは、算出した総細胞数における好中球の比率(%:縦軸)を示した図面である。これらの図に示すとおり、エラスターゼを投与する前にL4を投与した群では、有意に好中球の集積を抑制することがわかった。
【0075】
今回の実験においてMMP−9等の活性阻害効果が認められ、エラスターゼ誘発性肺気腫モデルマウスにおいてMMP産生細胞である好中球の遊走能亢進が抑えられたことから、L4をCOPD治療薬として用いることができると考えられる。
【0076】
[実施例4] エラスターゼ誘導肺気腫モデル
9〜11週齢のC57BL/6マウス(オス:日本クレア株式会社より購入した)に、L4を250μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注した。コントロールとして、生理食塩水を50μl投与した群を用いた(1回目のL4投与)。この1回目のL4投与の30分後に、ブタ膵臓由来エラスターゼ5Uを気管内にスプレー投与した。このエラスターゼ投与の24時間後に、1回目と同一内容のL4投与を、コントロール群における50μlの生理食塩水投与と共に行った(2回目のL4投与)。この2回目のL4投与の24時間後に、L4を125μg/bodyとなるように、5mg/ml水溶液を静注し、コントロール群においては、50μlの生理食塩水を投与した(3回目のL4投与)。この3回目のL4投与から21日後に、実験に供したマウスの犠死を行い、常法に従って、肺のホルマリン固定を行い、肺の平均肺胞壁間距離(Lm)を測定した。なお、L4投与群(L4)のマウスのn数は9であり、生理食塩水投与群(PS)のマウスのn数は9であり、未処理群(Untreat)のn数は2、として本試験は行われた。
【0077】
この肺気腫モデル試験の結果を、図6(A,B)に示す。図6Aにおける棒グラフの縦軸は、肺の平均肺胞壁間距離(Lm)を示し、各々の棒の間に跨る数字は、確率上の危険率を示すp値である。ここに示された結果により、L4は、エラスターゼ誘導性肺気腫を有意に抑制することが明らかになった。図6Bは、各々の試験群のマウスの肺のホルマリン固定像が開示されているが、L4群の肺組織は、PS群に比べると稠密になっており、図6Aに示した数値上の結果を裏付けるものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
【請求項2】
ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、からなるマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
【請求項3】
グリコサミノグリカンオリゴ糖は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるグリコサミノグリカンオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項4】
マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−9、MMP−12及びMMP−13からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項5】
下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるグリコサミノグリカンオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のマトリックスメタロプロテアーゼ活性を抑制する、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害方法。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項6】
マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−9、MMP−12及びMMP−13からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ケラタン硫酸オリゴ糖を有効成分として含有する、エラスターゼ活性抑制剤。
【請求項8】
ケラタン硫酸オリゴ糖からなる、エラスターゼ活性抑制剤。
【請求項9】
ケラタン硫酸オリゴ糖は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖である、請求項7又は8に記載のエラスターゼ活性抑制剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項10】
下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖を有効成分として含有する、慢性閉塞性肺疾患の治療剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項11】
下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖からなる、慢性閉塞性肺疾患の治療剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項12】
慢性閉塞性肺疾患は肺気腫である、請求項10又は11に記載の治療剤。
【請求項13】
下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上、並びに、被験薬剤を、細胞に接触させ、該被験薬剤における前記GAGオリゴ糖又は塩による該細胞由来のMMP活性の抑制に対する、促進作用あるいは緩和作用を選別する、薬剤の選別方法。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項1】
ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、を有効成分として含有するマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
【請求項2】
ヒアルロン酸オリゴ糖、ケラタン硫酸オリゴ糖、6−O−硫酸化N−アセチルヘパロサン及びN,6−O−硫酸化ヘパロサン、並びに、薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上、からなるマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
【請求項3】
グリコサミノグリカンオリゴ糖は、下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるグリコサミノグリカンオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載のマトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項4】
マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−9、MMP−12及びMMP−13からなる群から選択される少なくとも1種又は2種以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の阻害剤。
【請求項5】
下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるグリコサミノグリカンオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上により、細胞由来のマトリックスメタロプロテアーゼ活性を抑制する、マトリックスメタロプロテアーゼの阻害方法。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項6】
マトリックスメタロプロテアーゼは、MMP−9、MMP−12及びMMP−13からなる群から選択される1種又は2種以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ケラタン硫酸オリゴ糖を有効成分として含有する、エラスターゼ活性抑制剤。
【請求項8】
ケラタン硫酸オリゴ糖からなる、エラスターゼ活性抑制剤。
【請求項9】
ケラタン硫酸オリゴ糖は、下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖である、請求項7又は8に記載のエラスターゼ活性抑制剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項10】
下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖を有効成分として含有する、慢性閉塞性肺疾患の治療剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項11】
下記式L4で示されるケラタン硫酸オリゴ糖からなる、慢性閉塞性肺疾患の治療剤。
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【請求項12】
慢性閉塞性肺疾患は肺気腫である、請求項10又は11に記載の治療剤。
【請求項13】
下記式HA4、L4、L4L4でそれぞれ示されるGAGオリゴ糖及び薬学的に許容されるそれらの塩からなる群から選ばれる少なくとも1種又は2種以上、並びに、被験薬剤を、細胞に接触させ、該被験薬剤における前記GAGオリゴ糖又は塩による該細胞由来のMMP活性の抑制に対する、促進作用あるいは緩和作用を選別する、薬剤の選別方法。
HA4:GlcA β1-3 GlcNAc β1-4 GlcA β1-3 GlcNAc
L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S
L4L4:Gal6S β1-4 GlcNAc6S β1-3 Gal6S β1-4 GlcNAc6S
(式中、Galはガラクトース残基を、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン残基を、GlcAはグルクロン酸残基を、6Sは6位に硫酸基が保持されていることを、β1-3はβ1-3グリコシド結合を、β1-4はβ1-4グリコシド結合を、それぞれ示す。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【公開番号】特開2010−260846(P2010−260846A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44643(P2010−44643)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】
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