説明

マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤及びこれに用いるピリジルアゾベンゼン誘導体

【課題】ヒドロキサム酸活性部位を有さず、活性中心である亜鉛イオンを選択的に阻害することのできる副作用の少ないMMP阻害剤を提供する。
【解決手段】下記〔化1〕,〔化2〕または〔化3〕の一般式の構造を有するアゾベンゼン誘導体を有効成分とするMMP阻害剤とすること。なお〔化1〕及び〔化2〕は本発明のために新規に合成した化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテイナーゼ阻害剤およびこれに用いる新規なピリジルアゾベンゼン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(以下「MMP」という。)は、コラーゲン、ゼラチンのような高分子蛋白質の加水分解に関わっている酵素であり、現在までに23種類確認されている。MMPは様々な病気に関わっており、癌においてはMMPの過剰発現が知られている。なかでもMMP−2(血管新生)、MMP−9(転移)、MMP−14(proMMP−2の活性化)が重要な役割を果たしているとされている。そのため、MMPは新たな抗がん剤のターゲットとして注目されている(非特許文献1)。
【0003】
ところで、MMPは亜鉛を含む酵素であるため、これまでに開発されてきた低分子MMP阻害剤の多くは、亜鉛とキレートする官能基をその分子内に有している。官能基の具体例としては、カルボン酸、ヒドロキサム酸、リン酸、チオール、ジチオールなどがある。その中でもヒドロキサム酸は亜鉛と強く作用するため,最も多く用いられている基である。第3相試験まで進んだ代表的なMMP阻害剤を以下〔化33〕〜〔化36〕に示す。
【0004】
【化33】

【0005】
【化34】

【0006】
【化35】

【0007】
【化36】

【0008】
しかしヒドロキサム酸はサブタイプ選択性が乏しいために、MMP−1を同時に阻害することにより関節痛を引き起こしてしまうこと、並びに体内動態が悪いこと等の欠点を有している。そのため、ヒドロキサム酸に変わる亜鉛結合グループ(Zn-binding group:ZBG)を有する、新たなMMP阻害剤が求められている。
【0009】
ヒドロキサム酸以外の活性部位に関する阻害活性評価に関しては、前述のカルボン酸、ヒドロキサム酸、リン酸、チオール、ジチオール以外にもアミノ基、ヒドロキシル基、カルボニル基等が提案され、検証されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Faith. E. Jacobson, ChemBioChem., 2008, 9, 2087-2095
【0011】
【非特許文献2】P. J. Hajduk, J. Am. Chem. Soc.,1997, 119, 5818-5827
【0012】
【非特許文献3】Philip. J. Hajduk, J. Med. Chem.,2002, 45, 5628-5639
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、これら報告されているMMP阻害剤においても、不安定な活性部位を有するため、MMP−1を阻害することなくMMP−2のみを阻害するという選択性(MMP−2選択性)において満足できるものが得られていないのが現状である。
【0014】
また薬の適合性は被験者によって異なり、ある被験者には、有効成分が化合物Aである薬品が最も効果が認められるが、別の被験者には大きく構造の異なる化合物Bを有効成分とする薬品が最も効果が認められる現象はしばしば見受けられる。このことからは、従来の化合物の構造と大きく異なる構造を持つ化合物を有効成分とするMMP阻害剤が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明では下記〔化1〕、〔化2〕または〔化3〕で示される一般式で示されるアゾベンゼン誘導体をMMP阻害剤の有効成分として用いることを最も主要な特徴とする。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基であり、R〜Rは、それぞれに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基(いずれの位置で枝分かれしているものを含む)である。
【0020】
なかでも、下記〔化4〕の一般式で示される前記アゾベンゼン誘導体を含むMMP阻害剤であることが好ましい。
【0021】
【化4】


ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基である。
【0022】
具体的には、前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化17〕,〔化18〕〔化19〕または〔化20〕で示されるMMP阻害剤である。
【0023】
【化17】

【0024】
【化18】

【0025】
【化19】

【0026】
【化20】

【0027】
もしくは、下記〔化5〕の一般式で示される前記アゾベンゼン誘導体を含むMMP阻害剤であることが好ましい。
【0028】
【化5】

【0029】
ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基である。
【0030】
具体的には、前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化25〕または〔化26〕で示されるMMP阻害剤である。
【0031】
【化25】

【0032】
【化26】

【0033】
また本発明は、上記MMP阻害剤に用いる新規化合物である上記〔化1〕及び〔化2〕のピリジルアゾベンゼン誘導体の発明でもある。
【0034】
具体的には下記〔化6〕〜〔化20〕で示されるピリジルアゾベンゼン誘導体である。
【0035】
【化6】

【0036】
【化7】

【0037】
【化8】

【0038】
【化9】

【0039】
【化10】

【0040】
【化11】

【0041】
【化12】

【0042】
【化13】

【0043】
【化14】

【0044】
【化15】

【0045】
【化16】

【0046】
【化17】

【0047】
【化18】

【0048】
【化19】

【0049】
【化20】

【発明の効果】
【0050】
本発明の化合物は、構造が安定しておりMMP−1よりもMMP−2に対して大きな阻害活性を示す活性部位として有用である。また構造上、体内で代謝されにくく、従来のヒドロキサム酸活性部位と比較して安定であるので体内動態においても優れていると考えられる。
【0051】
本発明のMMP阻害剤は、その活性部位として2-ニトロフェニルアゾピリジンという従来知られているヒドロキサム酸のような活性部位とは大きく構造の異なる部位を持つ化合物である。かかる活性部位がMMP阻害効果、なかでもMMP−1に対するMMP−2選択性を持つことは本発明によって初めて明らかにされた。これにより、MMP阻害剤という薬品として提供できる種類の幅が広がり、従来のMMP阻害剤では効果を得にくかった、或いは得られなかった患者に対し、新たなMMP阻害剤を提供できる可能性を広げた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明実施例で合成した化合物1aのFT-IRチャートである。
【図2】本発明実施例で合成した化合物1bのFT-IRチャートである。
【図3】本発明実施例で合成した化合物1cのFT-IRチャートである。
【図4】本発明実施例で合成した化合物1dのFT-IRチャートである。
【図5】本発明実施例で合成した化合物1eのFT-IRチャートである。
【図6】本発明実施例で合成した化合物1fのFT-IRチャートである。
【図7】本発明実施例で合成した化合物1gのFT-IRチャートである。
【図8】本発明実施例で合成した化合物1hのFT-IRチャートである。
【図9】本発明実施例で合成した化合物1iのFT-IRチャートである。
【図10】本発明実施例で合成した化合物1jのFT-IRチャートである。
【図11】本発明実施例で合成した化合物1lのFT-IRチャートである。
【図12】本発明実施例で合成した化合物1mのFT-IRチャートである。
【図13】本発明実施例で合成した化合物1nのFT-IRチャートである。
【図14】本発明実施例で合成した化合物1oのFT-IRチャートである。
【図15】本発明実施例で合成した化合物2aのFT-IRチャートである。
【図16】本発明実施例で合成した化合物2cのFT-IRチャートである。
【図17】本発明実施例で合成した化合物2dのFT-IRチャートである。
【図18】本発明実施例で合成した化合物2eのFT-IRチャートである。
【図19】本発明実施例で合成した化合物2gのFT-IRチャートである。
【図20】本発明実施例で合成した化合物2hのFT-IRチャートである。
【図21】本発明実施例で合成した化合物2iのFT-IRチャートである。
【図22】本発明実施例で合成した化合物2jのFT-IRチャートである。
【図23】本発明実施例で合成した化合物2kのFT-IRチャートである。
【図24】本発明実施例で合成した化合物2lのFT-IRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明は下記〔化1〕〔化2〕及び/または〔化3〕の3種の一般式によって示されるピリジルアゾベンゼン誘導体を有効成分とするMMP阻害剤である。このうち〔化1〕及び〔化2〕の一般式で表されるピリジルアゾベンゼン誘導体は、本発明のMMP阻害剤に用いるために、はじめて合成された新規化合物である。
【0054】
【化1】

【0055】
【化2】

【0056】
【化3】

【0057】
なお上記各一般式中において式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基であり、R〜Rは、それぞれに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基(いずれの位置で枝分かれしているものを含む)である。
【0058】
具体的には、各任意の置換基としてRは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基、カルボキシル基やそのエステルなどである。
【0059】
また各任意の置換基としてR〜Rは、それぞれに独立して水素原子、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、ヒドロキシル基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、iso−ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、iso-ペンチル基、n-ヘキシル基、iso-ヘキシル基、n-ヘプチル基、iso-ヘプチル基、n-オクチル基、iso-オクチル基、tert-オクチル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ヘキシルオキシ基、iso-ヘキシルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、iso-ペンチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基、tert-オクチルオキシ基などである。
【0060】
(合成方法)
一般式〔化1〕,〔化2〕で示される化合物は、例えば下記〔化32〕に示した反応式を経て合成することが出来る。
【0061】
【化32】

【0062】
水の中にニトロアニリン誘導体などを分散させ、塩酸や硫酸等で酸性塩化する。酸としては酢酸等も使用することができる。亜硝酸ソーダを低温下で滴下してジアゾニウム塩とし、これをピリジノール誘導体などのカップラーに徐々に加えることでカップリング反応が生じ、赤色もしくは暗赤色のモノアゾ体が生成する。これを濾し取り、アルコールやベンゼン、トルエン等にて一旦溶解させて不溶解分を取り除き、再結晶すれば目的の精製物が得られる。なお3-ピリジノールのように反応段階で異性体を生成する場合は、さらにカラムクロマトグラフィーにより分割する。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は実施例の様態のみに限られるものではない。
【0064】
(化合物1a,1bの合成)
化合物1a:3-ヒドロキシ-2-(2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
3-Hydroxy-2-(2-nitrophenylazo)pyridine 〔化6〕
【化6】


化合物1b:5-ヒドロキシ-2-(2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
5-Hydroxy-2-(2-nitrophenylazo)pyridine 〔化7〕
【化7】

【0065】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、o-ニトロアニリン(o-nitroaniline) 20.72g(0.150mol)、水95.6mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.1gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸30.0g(0.300mol)を少しずつ加えた後、70℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液31.1g(0.162mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応のo-ニトロアニリンと重合物を除去し、約200mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0066】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、3-ピリジノール(3-pyridinol) 15.0g (0.158mol)、水210mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)1.5g及びトルエン6mLを加えて撹拌し、3-ピリジノール溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを28.06g (0.702mol)加えて水125mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を51g測りとって、前記3-ピリジノール溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーはアイスバスにて0℃まで冷却した。
【0067】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は26.1g、粗収率71.3%で、化合物1aと化合物1bの混合物を得た。HPLCにて混合比を確認したところ、3−ヒドロキシ誘導体(化合物1a):5−ヒドロキシ誘導体(化合物1b)=約2:8であった。
【0068】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、上記Cの工程で得た混合物であるアゾ色素3.0g(0.0123mol)、トルエン100mLを加えて100℃まで加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、トルエンを減圧留去し、n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒30mlを加えて析出した結晶を濾取した。前記結晶は、さらにn-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒50mlで洗浄し、恒温乾燥機で乾燥させて精製したところ、暗赤色の混合物結晶1.28gを得た。o-ニトロアニリンからの収率は30.4%であった。
【0069】
E.混合物の分割
フラッシュクロマトグラフィー(移動層:n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.))で各々の成分を分画し、溶媒を回収して乾燥後、化合物1aおよび化合物1bをそれぞれ得た。
【0070】
化合物1aは、濃赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた混合体結晶0.5gから45mgを得られた。o-ニトロアニリンからの収率は2.74%であった。HPLCによる純度は97.3%であった。なお、HPLCによる測定条件は次のとおりである。
装置:LC−6A (株)島津製作所製
使用カラム:SUMIPAX ODS A−212 5μm 6mmφ×15cm
カラム温度:30℃
移動相:メタノール/水:70/30 、 測定方法:面積百分率法による
【0071】
H NMR(300MHz, DMSO-d6)で測定されたピークは次のとおりである。
δ11.2 (s,OH), 8.28 (d, 1H, J=3 Hz, pyridine-H),8.12 (d, 1H, J=8.1 Hz, Ph-H),7.85 (dd, 1H, J=7.2 Hz, Ph-H),7.78 (dd, 1H, J=8.1 Hz,Ph-H),7.71 (dd, 1H, J=8.1 Hz, J=1.5 Hz, Ph-H),7.67 (d, 1H, J=8.7 Hz, pyridine-H),7.40 (dd, 1H, J=2.7 Hz, J=8.7 Hz, pyridine-H),
【0072】
また、FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2920(C−H)、1520(C=C)、1430(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)
【0073】
化合物1bは、微褐赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた精製混合体結晶0.5gから170mgを得られた。o-ニトロアニリンからの収率は10.3%であった。HPLCによる純度は96.9%であった。なお測定条件は化合物1aの条件と同じである。
【0074】
H NMR (300 MHz, DMSO-d6)で測定されたピークは次のとおりである。δ11.2 (s,OH),8.21 (m, 1H, J=4.2 Hz, pyridine-H), 8.16 (d, 1H, J=7.5 Hz, Ph-H),7.91 (t, 1H, J=8.1 Hz, J=7.5 Hz, Ph-H),7.86 (dd, 1H, J=1.2 Hz, J=7.5 Hz, Ph-H),7.59 (m, 1H, J=8.1 Hz, pyridine-H),7.52 (q, 1H, J=4.2 Hz, J=8.7 Hz, pyridine-H)
【0075】
また、FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2890(C−H)、1520(C=C)、1480(NO)、1260(NO)、1240(Ph−O)
【0076】
(化合物1c,1dの合成)
化合物1c:3-ヒドロキシ-2-(4-メチル-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
3-Hydroxy-2-(4-methyl-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化8〕
【化8】


化合物1d:5-ヒドロキシ-2-(4-メチル-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
5-Hydroxy-2-(4-methyl-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化9〕
【化9】

【0077】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-メチル-2-ニトロアニリン(4-methyl-2-nitroaniline) 22.82g(0.150mol)、水136mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.1gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸30.6g(0.306mol)を少しずつ加えた後、30〜40℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液29.7g(0.155mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の4-メチル-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約200mLの濃黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0078】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、3-ピリジノール(3-pylidinol)14.61g(0.154mol)、水217mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)3.24g及びトルエン3mLを加えて撹拌し、3-ピリジノール溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを20.44g(0.511mol)加えて水146mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を56g測りとって、前記3-ピリジノール溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーはアイスバスにて0℃まで冷却した。
【0079】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。
ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は36.9g、粗収率95.3%で化合物1cと化合物1dの混合物を得た。HPLCにて混合比を確認したところ、3−ヒドロキシ誘導体(化合物1c):5−ヒドロキシ誘導体(化合物1d)=23:76であった。
【0080】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、上記Cの工程で得た混合物であるアゾ色素3.0g(0.0123mol)、トルエン100mLを加えて100℃まで加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、トルエンを減圧留去しn-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒30mlを加えて析出した結晶を濾取した。前記結晶は、さらにn-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒50mlで洗浄し、恒温乾燥機で乾燥させて精製したところ、暗赤色の混合物結晶1.6gを得た。5-メチル-2-ニトロアニリンからの収率は53.3%であった。
【0081】
E.混合物の分割
フラッシュクロマトグラフィー(移動層:n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.))で各々の成分を分画し、溶媒を回収して乾燥後、化合物1cおよび化合物1dをそれぞれ得た。
【0082】
化合物1cは、濃赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた混合体結晶0.5gから120mgが得られた。4-メチル-2-ニトロアニリンからの収率は12.8%であった。
HPLCによる純度は83.5%であった。なお測定条件は化合物1aの条件と同じである。
【0083】
H NMR (300 MHz, DMSO-d6)で測定されたピークは次のとおりである。δ11.2 (s,OH), 8.21 (d, 1H, J=3.0Hz, pyridine-H),8.0 (s, 1H, Ph-H), 7.84 (d, 1H, J=8.4 Hz, Ph-H), 7.70 (d, 1H, J=8.1 Hz, Ph-H),7.58 (d, 1H, J=8.1 Hz, pyridine-H),7.52 (dd, 1H, J=4.2 Hz, J=8.4 Hz, pyridine-H),3.34 (s, 3H, CH3)
【0084】
また、FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2920(C−H)、1560、1520(C=C)、1430(NO)、1300(NO)、1260(Ph−O)
【0085】
化合物1dは、濃赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた混合体結晶0.5gから110mgが得られた。4-メチル-2-ニトロアニリンからの収率は11.7%であった。HPLCによる純度は98.9%であった。
測定条件は1aに同じ。
H NMR (300 MHz, DMSO-d6)で測定されたピークは次のとおりである。δ11.0 (s, OH),8.27 (d, 1H, J=2.4 Hz, pyridine-H),7.95 (s, 1H, Ph-H), 7.64 (d, 1H, J=9Hz,
pyridine-H),7.39 (dd, 1H, J=2.7 Hz, J=8.7 Hz, pyridine-H),3.34 (s, 3H, CH3),
【0086】
また、FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2900(C−H)、1560、1520(C=C)、1480(NO)、1300(NO)、1260(Ph−O)
【0087】
(化合物1e,1fの合成)
化合物1e: 2-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)-3-ヒドロキシピリジン
2-(4-Chloro-2-nitrophenylazo)-3-hydroxypyridine 〔化10〕
【化10】


化合物1f:2-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)-5-ヒドロキシピリジン
2-(4-Chloro-2-nitrophenylazo)-5-hydroxypyridine 〔化11〕
【化11】

【0088】
A.ジアゾニウム塩の合成
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-クロロ-2-ニトロアニリン(4-chloro-2-nitroaniline)51.77g(0.300mol)、水292mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.2gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸88.2g(0.882mol)を少しずつ加えた後、30〜40℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液62.4g(0.0.326mol)を0〜5℃に保ちながら1時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸2.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の4-クロロ-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約500mLの濃黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0089】
B.カップラーの調製
2000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、3-ピリジノール(3-pyridinol)30.0g(0.316mol)、炭酸ナトリウム47.8g(0.250mol)、水167mL、2-プロパノール220mL,1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt) 9.0gを加えて撹拌し、3-ピリジノール溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを40.0g(1.00mol)加え、水140mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を60g測りとって、前記3-ピリジノール溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーは氷浴にて0℃まで冷却した。
【0090】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、2000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は55.4g、粗収率66.3%で化合物1eと化合物1fの混合物を得た。HPLCにて混合比を確認したところ、3−ヒドロキシ誘導体(化合物1e):5−ヒドロキシ誘導体(化合物1f)=1:3であった。
【0091】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、Cの工程で得た混合物であるアゾ色素15.0g(0.054mol)、メタノール150mLを加えて沸点まで加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、メタノールを減圧留去し、n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒30mlを加えて析出した結晶を濾取した。前記結晶は、さらにn-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.)の混合溶媒50mlで洗浄し、恒温乾燥機で乾燥させて精製したところ、暗赤色の混合物結晶5.6gを得た。4-クロロ-2-ニトロアニリン(4-chloro-2-nitroaniline)からの収率は24.8%であった。
【0092】
E.混合物の分割
フラッシュクロマトグラフィー(移動層:n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.))で各々の成分を分画し、溶媒を回収して乾燥後、化合物1eおよび化合物1fをそれぞれ得た。
【0093】
化合物1eは、暗赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた混合体結晶0.5gから160mgが得られた。4-クロロ-2-ニトロアニリンからの収率は7.92%であった。HPLCによる純度は98.2%であった。なお測定条件は化合物1aの条件と同じである。
【0094】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3080(C−H)、1560、1520(C=C)、1470(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)
【0095】
化合物1fは、赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた混合体結晶0.5gから320mgが得られた。4-クロロ-2-ニトロアニリンからの収率は15.8%であった。HPLCによる純度は88.0%であった。なお測定条件は化合物1aの条件と同じである。
【0096】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2920(C−H)、1570、1520(C=C)、1470(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)
【0097】
(化合物1gの合成)
化合物1g:5-ヒドロキシ-2-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
5-Hydroxy-2-(4-methoxy-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化12〕
【化12】

【0098】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-メトキシ-2-ニトロアニリン(4-methoxy-2-nitroaniline 25.22g(0.150mol)、水 136mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.11gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸30.6g(0.306mol)を少しずつ加えた後、30〜40℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液29.7g(0.155mol)を0〜5℃に保ちながら1時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の4-メトキシ-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約200mLの濃黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0099】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、3-ピリジノール(3-pyridinol)14.6g(0.154mol)、炭酸ナトリウム17.8g(0.168mol)、水85mL、2-プロパノール110mL、トルエン1mL,1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)4.5gを加えて撹拌し、3-ピリジノール溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを14.9g(0.372mol)加え、水70mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を29g測りとって、前記3-ピリジノール溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーは氷浴にて0℃まで冷却した。
【0100】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は32.0g、粗収率77.8%で3-ヒドロキシ-2-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン 3-Hydroxy-2-(4-methoxy-2-nitrophenylazo)pyridineと5-ヒドロキシ-2-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン5-Hydroxy-2-(4-methoxy-2-nitrophenylazo)pyridineの混合物を得た。
【0101】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、Cの工程で得た混合物であるアゾ色素3.0g(0.011mol)、メタノール150mLを加えて沸点まで加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、メタノールを減圧留去し、さらに蒸発乾固させて析出ところ、暗赤色結晶1.6gを得た。4-メトキシ-2-ニトロアニリン(4-methoxy-2-nitroanilineからの収率は41.5%であった。
【0102】
E.混合物の分割
フラッシュクロマトグラフィー(移動層:n-ヘキサン/酢酸エチル=1/1(vol./vol.))で各々の成分を分画し、溶媒を回収して乾燥後、化合物1gを得た。
【0103】
化合物1gは、濃赤色の粉末状結晶であり、上記Cの工程で得られた精製混合体結晶0.5gから120mgが得られた。4-メトキシ-2-ニトロアニリンからの収率は9.96%であった。HPLCによる純度は92.8%であった。なお測定条件は化合物1aの条件と同じである。
【0104】
H NMR (300 MHz, DMSO-d6)で測定されたピークは次のとおりである。δ11.3 (b, OH), 8.19 (dd, 1H, J=4.2 Hz, J=1.5 Hz, Ph-H),8.02 (dd, 1H, J=9.0Hz, J=0.9Hz, pyridine-H),7.73 (d, 1H, J=2.7 Hz, Ph-H),7.47 (dd, 1H, J=8.4 Hz, J=4.2 Hz, Ph-H),7.43 (dd, 1H, J=8.7 Hz, J=3.0 Hz, Ph-H),3.96 (s, 3H, OCH3)
【0105】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2920(C−H)、1610、1560(C=C)、1450(NO)、1280(NO
【0106】
(化合物1hの合成)
化合物1h:2,3-ジヒドロキシ-6-(2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2,3-Dihydroxy-6-(2-nitrophenylazo)pyridine 〔化13〕
【化13】

【0107】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、o-ニトロアニリン(o-nitroaniline)15.19g(0.11mol)、水 70mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.2gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸22.0g(0.22mol)を少しずつ加えた後、70℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム22.8g(0.119mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応のo-ニトロアニリンと重合物を除去し、約130mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0108】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、2,3-ジヒドロキシピリジン(2,3-dihydroxypyridine)12.83g(0.116mol)、水154mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic
acid sodium salt)1.1gとトルエン4.4mLを加えて撹拌し、2,3-ジヒドロキシピリジン溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを20.53g(0.513mol)加え、水91.4mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を37.3g測りとって、前記2,3-ジヒドロキシピリジン溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーはアイスバスにて0℃まで冷却した。
【0109】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は調製した残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH7〜8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。得られた化合物1hは、濃赤色粉末状結晶であり、収量は23.5g、粗収率82.1%であった。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率62.0%で得た。
【0110】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3590(OH)、3260(OH)、3070(C−H)、1560(C=C)、1440(NO)、1280(NO
【0111】
(化合物1iの合成)
化合物1i:6-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)-2,3-ジヒドロキシピリジン
6-(4-Chloro-2-nitrophenylazo)-2,3-dihydroxypyridine 〔化14〕
【化14】

【0112】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-クロロ-2-ニトロアニリン(4-chloro-2-nitroaniline)18.98g(0.11mol)、水107mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.3gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸32.3g(0.323mol)を少しずつ加えた後、撹拌しながら氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム22.9g(0.119mol)を0〜5℃を保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の4-クロロ-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約180mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0113】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、2,3-ジヒドロキシピリジン(2,3-dihydroxypyridine)12.85g(0.116mol)、炭酸ナトリウム17.52g(0.165mol)、水61mL、2-プロパノール80.7mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)3.3gを加えて撹拌し、2,3-ジヒドロキシピリジン溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを14.66g(0.367mol)加え、水51.3mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を22g測りとって、前記2,3-ジヒドロキシピリジン溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーは氷浴にて0℃まで冷却した。
【0114】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。得られた化合物1iは、暗赤色粉末状結晶であり、収量は33.0g、粗収率101.8%であった。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率79.9%で得た。
【0115】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3580(OH)、3430(OH)、3080(C−H)、1560(C=C)、1430(NO)、1300(NO)、1250(Ph−O)
【0116】
(化合物1jの合成)
化合物1j: 2,3-ジヒドロキシ-6-(4-メチル-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2,3-Dihydroxy-6-(4-methyl-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化15〕
【化15】

【0117】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-メチル-2-ニトロアニリン(4-methyl-2-nitroaniline)15.22g(0.100mol)、水97.4mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.3gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸30.0g(0.300mol)を少しずつ加えた後、撹拌しながら氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム20.82g(0.109mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸1.0gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の5-メチル-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約170mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0118】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、2,3-ジヒドロキシピリジン(2,3-dihydroxypyridine)11.68g(0.105mol)、炭酸ナトリウム15.93g(0.150mol)、水55.6mL、2-プロパノール73.4mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)3.0gを加えて撹拌し、2,3-ジヒドロキシピリジン溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを14.66g(0.367mol)加え、水51.3mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を22g測りとって、前記2,3-ジヒドロキシピリジン溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーは氷浴にて0℃まで冷却した。
【0119】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。得られた化合物1jは、濃赤色粉末状結晶であり、収量は27.34g、粗収率99.66%であった。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率82.9%で得た。
【0120】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3610(OH)、3400(OH)、3070(C−H)、1560(C=C)、1400(NO)、1310(NO)、1260(Ph−O)
【0121】
(化合物1kの合成)
化合物1k:2,3-ジヒドロキシ-6-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2,3-Dihydroxy-6-(4-methoxy-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化16〕
【化16】

【0122】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-メトキシ-2-ニトロアニリン(4-methoxy-2-nitroaniline)16.82g(0.100mol)、水97.4mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.3gを加えて室温で撹拌した。濃硫酸30.0g(0.300mol)を少しずつ加えた後、撹拌しながら氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム20.82g(0.109mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させ、スルファミン酸0.5gを加えて過剰の亜硝酸イオンを消失させた。ブフナーロートで濾過して未反応の4-メトキシ-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約170mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0123】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、2,3-ジヒドロキシピリジン(2,3-dihydroxypyridine)11.68g(0.105mol)、炭酸ナトリウム
15.93g(0.150mol)、水55.6mL、2-プロパノール73.4mL、1−ナフタレンスルホン酸ナトリウム(1-naphthalenesulfonic acid sodium salt)3.0gを加えて撹拌し、2,3-ジヒドロキシピリジン溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを14.66g(0.367mol)加え、水51.3mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を22g測りとって、前記2,3-ジヒドロキシピリジン溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーは氷浴にて0℃まで冷却した。
【0124】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに滴下することでカップリング反応させた。ジアゾニウム塩水溶液の滴下は残りの水酸化ナトリウム水溶液とともに2時間をかけてゆっくりと滴下し、赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、その後室温下で一夜放置し、さらに反応を進行させた。濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液は、希硫酸でPH8まで中和し、ブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。得られた化合物は、濃赤色粉末状結晶であり、収量は28.5g、粗収率 98.3%であった。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率67.5%で得た。
【0125】
(化合物1lの合成)
化合物1l:2-クロロ-3-ヒドロキシ-6-(2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2-Chloro-3-hydroxy-6-(2-nitrophenylazo)pyridine 〔化17〕
【化17】

【0126】
o-ニトロアニリン(o-nitroaniline)の9.67g(0.07mol)スケールにおいて、2,3-ジヒドロキシピリジンの替わりに2-クロロ-3-ヒドロキシピリジン(2-chloro-3-hydroxypyridine)を9.52g(0.0735mol)使用したこと以外は、化合物1hの合成と同様の方法で化合物1lの合成を行った。得られた化合物1lは、渇赤色粉末状結晶であり、収量は16.6g、粗収率は85.1%であった。これをさらに精製して赤色粉末状結晶を収率69.8%で得た。
【0127】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3620(OH)、2960(C−H)、1530(C=C)、1430(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)、1080(Ph−Cl)
【0128】
(化合物1mの合成)
化合物1m:2-クロロ-6-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)-3-ヒドロキシピリジン
2-Chloro-6-(4-chloro-2-nitrophenylazo)-3-hydroxypyridine 〔化18〕
【化18】

【0129】
4-クロロ-2-ニトロアニリン(4-chloro-2-nitroaniline)の12.08g(0.07mol)スケールにおいて、2,3-ジヒドロキシピリジンの替わりに2-クロロ-3-ヒドロキシピリジン(2-chloro-3-hydroxypyridine)を9.54g(0.074mol)使用したこと以外は、化合物1iの合成と同様の方法で化合物1mの合成を行った。得られた化合物1mは、渇赤色粉末状結晶であり、収量は16.6g、粗収率は85.3%であった。これをさらに精製して、暗赤色粉末状結晶を収率78.9%で得た。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率60.5%で得た。
【0130】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3080(OH)、2880(C−H)、1530(C=C)、1430(NO)、1280(NO)、1260(Ph−O)、1070(Ph−Cl)
【0131】
(化合物1nの合成)
化合物1n:2-クロロ-3-ヒドロキシ-6-(4-メチル-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2-Chloro-3-hydroxy-6-(4-methyl-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化19〕
【化19】

【0132】
4-メチル-2-ニトロアニリン(4-methyl-2-nitroaniline)の7.61g(0.05mol)スケールにおいて、2,3-ジヒドロキシピリジンの替わりに2-クロロ-3-ヒドロキシピリジン(2-chloro-3-hydroxypyridine)を6.80g(0.0525mol)使用したこと以外は化合物1jの合成と同様の方法で化合物1nの合成を行った。得られた化合物1nは、渇赤色粉末状結晶であり、収量は12.1g、粗収率は82.7%であった。これをさらに精製して濃赤色粉末状結晶を収率65.8%で得た。
【0133】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2960(C−H)、1530(C=C)、1420(NO)、1300(NO)、1240(Ph−O)、1080(Ph−Cl)
【0134】
(化合物1oの合成)
化合物1o:2-クロロ-3-ヒドロキシ-6-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)ピリジン
2-Chloro-3-hydroxy-6-(4-methoxy-2-nitrophenylazo)pyridine 〔化20〕
【化20】

【0135】
4-メトキシ-2-ニトロアニリン(4-methoxy-2-nitroaniline)の8.41g(0.05mol)スケールにおいて、2,3-ジヒドロキシピリジンの替わりに2-クロロ-3-ヒドロキシピリジン(2-chloro-3-hydroxypyridine)を6.80g(0.0525mol)使用したこと以外は化合物1nの合成と同様の方法で化合物1oの合成を行った。得られた結晶を単離し、そのまま2-プロパノールにて再結晶法で精製した。得られた化合物1oは暗赤色粉末状結晶であり、収率は63.9%であった。これをさらに精製して赤色粉末状結晶を収率52.1%で得た。
【0136】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2960(C−H)、1610(Ph−O−CH3)、1560(C=C)、1420(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)、1040(Ph−Cl)
【0137】
(化合物2aの合成)
化合物2a:4-メチル-2-(2-ニトロフェニルアゾ)フェノール
4-Methyl-2-(2-nitrophenylazo)phenol 〔化21〕
【化21】

【0138】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、o-ニトロアニリン(o-nitroaniline) 27.6g(0.200mol)、水 95.6mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.2gを加えて室温で撹拌した。62.5%硫酸47.0g(0.300mol)を少しずつ加えた後、70℃で1時間撹拌し、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液41.4g(0.216mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させて透明の水溶液となった後、ブフナーロートで濾過して未反応のo-ニトロアニリンと重合物を除去し、約350mLの黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0139】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、p-クレゾール(p-cresol) 22.6g(0.209mol)、水120mL、48%水酸化ナトリウム12.3gを加えて撹拌し、p-クレゾール溶液とした。得られたp-クレゾール溶液をアイスバスにて0℃まで冷却し、炭酸ナトリウム30.7g(0.290mol)と水100mLを加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。
【0140】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これを、チューブポンプを用いて前記カップラーに2時間で滴下することでカップリング反応させた。赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液からブフナーロートで赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は47.5g、粗収率92.5%で化合物2aを得た。
【0141】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、Cの工程で得たアゾ色素のクルード3.0g(0.012mol)、2-プロパノール150mLを加えて加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、2-プロパノールを120mL減圧留去し、析出した暗赤色結晶1.8gを濾過紙取った。o-ニトロアニリンからの収率は60.0%であった。
【0142】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2920(C−H)、1570、1520(C=C)、1490(NO)、1280(NO
【0143】
(化合物2bの合成)
化合物2b: 2-tert-ブチル-6-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)-4-メチルフェノール
2-tert-Butyl-6-(4-chloro-2-nitrophenylazo)-4-methylphenol 〔化22〕
【化22】

【0144】
A.ジアゾニウム塩の合成
500mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-クロロ-2-ニトロアニリン(4-chloro-2-nitroaniline)33.0g(0.191mol)、水40mLおよび分散剤(商品名「リパール860K」ライオン社製)0.2gを加えて室温で撹拌した。62.5%硫酸89.8g(0.573mol)を少しずつ加えた後、氷水で0℃まで冷却し、36%亜硝酸ナトリウム水溶液39.2g(0.204mol)を0〜5℃に保ちながら0.5時間かけて滴下した。同じ温度を保ちながら2時間反応させて透明の水溶液となった後、ブフナーロートで濾過して未反応の4-クロロ-2-ニトロアニリンと重合物を除去し、約350mLの濃黄色透明であるジアゾニウム塩水溶液を得た。
【0145】
B.カップラーの調製
1000mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、4-メチル-2-tert-ブチルフェノール(4-methyl-2-tert-butylphenol)33.0g(0.201mol)、トルエン5mL,水10mL加え、4-メチル-2-tert-ブチルフェノール溶液とした。一方、ビーカーに水酸化ナトリウムを49.0g(1.225mol)加え、203mLで溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を84gを測りとって、前記4-メチル-2-tert-ブチルフェノール溶液に加え、カップリング反応に用いるカップラーを得た。前記カップラーはアイスバスにて0℃まで冷却した。
【0146】
C.カップリング反応
上記Aの工程で合成したジアゾニウム塩水溶液も0〜10℃に冷却して保存しておき、これと残りの水酸化ナトリウム水溶液をチューブポンプにて0〜10℃において2時間で滴下し、カップリング反応させた。赤色のアゾ色素が徐々に生成されるのが確認できた。滴下終了後、0〜10℃で2時間撹拌し、濾紙上でR酸と赤く反応しないことによってジアゾニウム塩が消失しているのを確認し、反応終了とした。反応生成液からブフナーロートで暗赤色結晶を濾過し取り、1000mLの水で洗浄して無機塩を除去した後、恒温乾燥機で乾燥させた。収量は61.8g、粗収率93%で化合物2bを得た。
【0147】
D.再結晶による精製
200mLの四つ口フラスコに温度計と還流冷却管および攪拌機をとりつけ、Cの工程で得たアゾ色素の粗生成物3.0g(0.009mol)、2-プロパノール150mLを加えて加熱して溶解させ、1μmのメンブランフィルターで不溶解物を濾過して除き、2-プロパノールを120mL減圧留去し、析出した暗赤色結晶2.0gを濾過し取った。4-クロロ-2-ニトロアニリンからの収率は66.6%であった。
【0148】
(化合物2cの合成)
化合物2c:2,4-ジネオペンチル-6-(2-ニトロフェニルアゾ)フェノール
2,4-Dineopentyl-6-(2-nitrophenylazo)phenol 〔化23〕
【化23】

【0149】
3-ピリジノールの替わりに2,4-ジネオペンチルフェノール(2,4-dineopentylphenol)49.38g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1e,1fの工程A〜Cまでと同様の条件で化合物2cの合成を行った。収量72.0g(収率96%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1e,1fの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、2.5gの暗赤色精製結晶を得た。
【0150】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2960(C−H)、1540、1530(C=C)、1470(NO)、1290(NO
【0151】
(化合物2dの合成)
化合物2d:2,4-ジ-tert-ブチル-6-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)フェノール
2,4-Di-tert-butyl-6-(4-chloro-2-nitrophenylazo)phenol 〔化24〕
【化24】

【0152】
3-ピリジノールの替わりに2,4-ジ-tert-ブチルフェノール(2,4-di-tert-butylphenol)40.36g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1e,1fの工程A〜Cまでと同様の条件にて合成を行った。収量52.6g (収率89.5%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1e,1fの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、2.1gの暗赤色精製結晶を得た。
【0153】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2960(C−H)、1570、1530(C=C)、1470(NO)、1300(NO
【0154】
(化合物2eの合成)
化合物2e:4-(4-クロロ-2-ニトロフェニルアゾ)レソルシノール
4-(4-Chloro-2-nitrophenylazo)resorcinol 〔化25〕
【化25】

【0155】
3-ピリジノールの替わりにレソルシノール(resorcinol)23.23g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1e,1fの工程A〜Cまでと同様の条件で合成を行った。収量52.6g (収率89.5%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1e,1fの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、2.1gの暗赤色精製結晶を得た。
【0156】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3100(C−H)、1600、1530(C=C)、1450(NO)、1280(NO
【0157】
(化合物2fの合成)
化合物2f:4-(2-ニトロフェニルアゾ)レソルシノール
4-(2-Nitrophenylazo)resorcinol 〔化26〕
【化26】

【0158】
3-ピリジノールの替わりにレソルシノール(resorcinol)23.23g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件で合成を行った。収量46.7g(収率90%)の濃赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、1.9gの暗赤色精製結晶を得た。
【0159】
(化合物2gの合成)
化合物2g:2-イソプロピル-4-(2-ニトロフェニルアゾ)レソルシノール
2-Isopropyl-4-(2-nitrophenylazo)resorcinol 〔化27〕
【化27】

【0160】
3-ピリジノールの替わりに2-イソプロピルレソルシノール(2-isopropylresorcinol) 32.11g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件で合成を行った。収量50.0g (収率83%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、2.2gの赤色精製結晶を得た。
【0161】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3280(OH)、2960(C−H)、1520(C=C)、1430(NO)、1280(NO
【0162】
(化合物2hの合成)
化合物2h:4-(4-ヒドロキシ-2-ニトロフェニルアゾ)レソルシノール
4-(4-Hydroxy-2-nitrophenylazo)resorcinol 〔化28〕
【化28】

【0163】
3-ピリジノールの替わりにレソルシノール(resorcinol)23.23g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件で合成を行った。収量41.3g(収率75%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、1.8gの赤色精製結晶を得た。
【0164】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、3080(C−H)、1610、1500(C=C)、1450(NO)、1310(NO
【0165】
(化合物2jの合成)
化合物2j:3-ニトロ-4-(2-ヒドロキシ-4-tert-オクチルフェン-2-イルアゾ)安息香酸
3-Nitro-4-(2-hydroxy-4-tert-octylphen-2-ylazo)benzoic Acid 〔化29〕
【化29】

【0166】
3-ピリジノールの替わりに4-tert-オクチルフェノール(4-tert-octylphenol)43.53g(0.211mol)、o-ニトロアニリンの替わりに4-アミノ-3-ニトロ安息香酸(4-amino-3-nitrobenzoic acid) 36.43gにて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件にて合成を行った。収量75.9g (収率95%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、1.5gの暗赤色精製結晶を得た。
【0167】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2960(C−H)、1680(C=O)、1520(C=C)、1420(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)
【0168】
(化合物2kの合成)
化合物2k:4-(4-メトキシ-2-ニトロフェニルアゾ)レソルシノール
4-(4-Methoxy-2-nitrophenylazo)resorcinol 〔化30〕
【化30】

【0169】
3-ピリジノールの替わりにレソルシノール(resorcinol)23.23g(0.211mol)、o-ニトロアニリンの替わりに4-メトキシ-2-ニトロアニリン(4-methoxy-2-nitroaniline)33.63gにて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件にて合成を行った。収量52.06g (収率90%)の赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、3.7gの暗赤色精製結晶を得た。
【0170】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2970(C−H)、1530(C=C)、1430(NO)、1280(NO)、1240(Ph−O)
【0171】
(化合物2lの合成)
化合物2l:2-ヒドロキシメチル-4-メチル-6-(2-ニトロフェニルアゾ)フェノール
2-Hydroxymethyl-4-methyl-6-(2-nitrophenylazo)phenol 〔化31〕
【化31】

【0172】
3-ピリジノールの替わりに2-ヒドロキシメチル-4-メチルフェノール(2-hydroxymethyl-4-methylphenol)35.49g(0.211mol)にて実施した以外は、化合物1a,1bの工程A〜Cまでと同様の条件にて合成を行った。収量48.8g(収率85%)の暗赤色結晶であった。得られた粗生成物5.0gより化合物1a,1bの工程Dの条件と同様に再結晶を行い、3.2gの暗赤色精製結晶を得た。
【0173】
FTIRの測定結果を以下に示す。
IR(KBr)cm−1 、2950(C−H)、1600、1520(C=C)、1470(NO)、1310(NO
【0174】
〔MMP阻害活性の評価方法〕
市販されているMMP Inhibitor Profiling Kit,「Fluorimetric」(BIOMOL社製)を用いて活性評価を行った。活性評価の作業手順は以下に示す。
(1)凍っている測定用緩衝液, バイアルに入っているN-イソブチル-N-(4-メトキシフェニルスルホニル)グリコールヒドロキサム酸(以下「NNGH」という。:positive control)を解凍し、NNGH 1μLに対して測定用緩衝液を200 μLを加えて希釈液を別の容器に作る。
(2)96 穴マイクロプレートを用い,測定用緩衝液をその内の検定用の3穴に99μLを加え、Control用の穴に79μL,NNGH用の穴に59μL,残りの穴は評価したい化合物用に用い、評価する濃度によって加える測定用緩衝液の量を変化させる。
(3)MMPを解凍した後に下に示す比率で希釈する。

(3)MMPを解凍した後に下に示す比率で希釈する。
MMP-1: 1/40 MMP-9: 1/60
MMP-2: 1/70 MMP-10: 1/100
MMP-3: 1/70 MMP-12: 1/285
MMP-7: 1/70 MMP-13: 1/50
MMP-8: 1/100 MMP-14: 1/100
(4)上記(3)で希釈した酵素を20μLずつcontrol,NNGH,評価したい化合物の穴に加えていく。
(5)上記(1)で希釈したNNGH溶液をNNGH用穴のみに加える。
(6)control用の穴のみDMSO 5μL加える。
(7)評価したい化合物を評価したい濃度になるように計算した溶液を所定の穴に加える。
(8)酵素と評価化合物とを反応させるため1時間、37℃でインキュベートする。
(9)1時間後、まず、検定用の3穴に蛍光ペプチド基質を1μL加えて蛍光を測定し、値が一定になるまで測定する。このときの値をブランクとして使う。
(10)ブランクの測定が終わったら、残りの穴全てに蛍光ペプチド基質を1μLずつ加えて、蛍光を測定する。2分ごとに測定し,測定ポイントは10点取る。
(11)(10)で得られた結果を時間、蛍光強度を軸とした座標軸上にプロットし,最小自乗法にて得られた近似直線及びその傾きをcontrol,NNGH,評価したい化合物のそれぞれについて求める。
(12)得られた傾きから阻害率を計算する。その計算式は、次の〔式1〕で求められる。
〔1−(評価したい化合物の傾き)/(controlの傾き)〕×100(%) 〔式1〕
【0175】
上記測定キットの作業手順にしたがって合成した化合物のMMP阻害活性を測定した。〔表1〕及び〔表2〕にその結果を示す。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
表1、表2に表記の数値は、2回のアッセイ評価における平均値で示した。表1より、原料のカップラーとしてピリジン系化合物を用いた化合物のうちでは、カップラーとして2-クロロ-3-ヒドロキシピリジンを用いた、化合物1l,1m,1n,1oについて特にMMP2選択阻害活性が高いことが分かる。また表2より、原料のカップラーとしてピリジン誘導体以外を用いた化合物のうちでは、レソルシノールを用いた化合物2e,2fについて特にMMP2選択阻害性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0179】
本発明の化合物は、MMP−1に対するMMP−2の阻害活性が強く、また構造上、従来のヒドロキサム酸活性部位と比較して安定であるので体内動態においても優れていると考えられる。より快適な生活の質(Quality of Life)を踏まえた副作用の少ない抗癌剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記〔化1〕,〔化2〕または〔化3〕で示される一般式で示されるアゾベンゼン誘導体を有効成分として含むマトリックスメタロプロテイナーゼ(以下、「MMP」という。)阻害剤。
【化1】


【化2】


【化3】


(ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基であり、R〜Rは、それぞれに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基(いずれの位置で枝分かれしているものを含む)である。)
【請求項2】
前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化4〕の一般式で示される請求項1記載のMMP阻害剤。
【化4】



(ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基である。)
【請求項3】
前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化17〕,〔化18〕〔化19〕または〔化20〕で示される請求項2記載のMMP阻害剤。
【化17】


【化18】


【化19】


【化20】

【請求項4】
前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化5〕の一般式で示される請求項1記載のMMP阻害剤。
【化5】


(ただし、式中Rは、水素原子またはハロゲン原子である。)
【請求項5】
前記アゾベンゼン誘導体が下記〔化25〕または〔化26〕で示される請求項4記載のMMP阻害剤。
【化25】


【化26】

【請求項6】
下記〔化1〕または〔化2〕で示される一般式で示されるアゾベンゼン誘導体。
【化1】


【化2】


(ただし、式中Rは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、メチル基、メトキシ基またはカルボキシル基であり、R〜Rは、それぞれに独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、または炭素数1〜8のアルキル基もしくはアルコキシ基(いずれの位置で枝分かれしているものを含む)である。)
【請求項7】
下記一般式で示されるアゾベンゼン誘導体が下記〔化6〕〜〔化20〕いずれかである請求項6記載のアゾベンゼン誘導体。
【化6】


【化7】


【化8】


【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【化13】


【化14】


【化15】


【化16】


【化17】


【化18】


【化19】


【化20】





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−32210(P2011−32210A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179931(P2009−179931)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(301000675)シプロ化成株式会社 (33)
【Fターム(参考)】