マトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料の製造方法
【課題】
マトリックス支援レーザー脱離(MALDI)質量分析法において、従来より強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法を提供する
【解決手段】
分析対象サンプル物質とマトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料の製造方法。
マトリックス支援レーザー脱離(MALDI)質量分析法において、従来より強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法を提供する
【解決手段】
分析対象サンプル物質とマトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス支援レーザー脱離(以下、「MALDI」と称する。)質量分析用試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成高分子を分析対象としたマトリックス支援レーザー脱離質量分析におけるMALDI質量分析用試料の製造方法においては、従来一般的に、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液をターゲットと呼ばれる測定用試料台上(以下、「ターゲット」と称する。)に滴下し、乾燥させる方法が用いられていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、生体高分子を分析対象としたMALDI質量分析法において、分析対象サンブル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いてターゲット上に塗布することによるMALDI質量分析用試料の製造方法が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、シグナル強度が十分ではなかった。
【0004】
MALDI質量分析法においては、検出されるシグナルの強度をさらに高めることが求められており、従来よりさらに強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)、2001年、Vol.101、p.527−569
【非特許文献2】ラピッド・コミュニケーション・イン・マススペクトロメトリ(RAPID COMMUNICATION IN MASS SPECTROMETRY)、1995年、Vol.9、p.180−187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、MALDI質量分析法において、従来より強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく、MALDI質量分析用試料の製造方法について鋭意検討を続け、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート装置の回転速度を一定以上としてターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥して分析用試料を製造すると、驚くべきことに、MALDI質量分析におけるシグナル強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするMALDI質量分析用試料の製造方法を提供する。
さらに本発明は、上記の分析用試料の製造方法により製造したMALDI質量分析用試料を用いることを特徴とするMALDI質量分析方法を提供する。
さらに本発明は、上記の分析方法を用いることを特徴とする合成高分子の品質管理方法を提供する。
さらに本発明は、上記の質量分析方法または品質管理方法を用い、スピンコート装置とマトリックス支援レーザー脱離質量分析装置とを含むことを特徴とする分析システムを提供する。
さらに本発明は、1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として上記の分析方法を用いる合成高分子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いれば、MALDI質量分析において高いシグナル強度が得られ、特に合成高分子の開発や品質管理に好適に用いることができる分析方法となるので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明のMALDI質量分析用試料の製造方法においては、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液(以下、「試料液」ということがある。)を、スピンコート法により3000rpm以上の回転速度としてターゲット上に塗布して乾燥させる。
【0011】
本発明の分析用試料の製造方法においては、スピンコート法を用いる。スピンコート法は、液体を物体に塗布する方法の一つであって、塗布される対象の物体を、回転盤上に固定して回転可能とし、該物体の上に該液体を付着させてから該物体を回転させるかまたは、該物体を回転させたうえで該物体上に該液体を滴下することにより、遠心力を利用して該物体上に該液体を広げて塗布して膜を形成する方法であり、回転速度は回転盤の回転速度を示す。
【0012】
スピンコート法による塗布を行う前に、試料液をターゲット上に付着させるには、試料液をマイクロピペッター、マイクロシリンジ等で採取してターゲット上に微量の液を吐出させて付着(「添着」という。)させてもよいし、ターゲット上に試料液を直接滴下してもよい。
【0013】
次いで、スピンコート装置により試料台を回転させて膜を形成する。スピンコート装置としては試料台を固定することができ5000rpm程度まで回転が可能な装置であればよく、具体的には、ミカサ株式会社製1H−D7型等を挙げることができる。本発明におけるスピンコートにおける回転速度は、3000rpm以上であり、4000rpm以上が好ましい。また、スピンコートの回転速度は、10000rpm以下であることが好ましい。
ターゲットを先に回転させる場合は、ターゲット上に試料液を直接滴下すればよい。添着または滴下後に、速やかにターゲットの回転を開始させることが好ましい。
【0014】
このスピンコートにより得られた膜は、ターゲットをMALDI質量分析装置の分析室に挿入する前に乾燥させる。乾燥はスピンコートを行っている間に行ってもよく、例えば30℃〜110℃に加熱しながら行ってもよく、真空中乾燥機を用いて行ってもよく、これらを組み合わせて行ってもよい。
【0015】
ここで、本発明の分析用試料の製造方法において用いるターゲットとしては、スピンコート装置に装着できる大きさ・重さであり、揮発性の無い物質からなる物体であれば特に限定されないが、通常用いられているターゲットは、ステンレス、銅、ニッケル等の金属からなり、試料液を塗布するための平面部を有するものが用いられる。特にスピンコート装置が小さい場合は、ターゲットとして厚さが0.005mm〜10mmの板を用い、試料液をスピンコート法により塗布した後、別の物体に装着してMALDI質量分析装置内に挿入してもよい。
【0016】
本発明に用いる試料液の作製方法としては、MALDI質量分析用マトリックスを含む液と、分析対象サンプル物質を含む液を混合して作製してもよいし、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象サンプル物質をこれらを溶解する溶剤に溶解させて作製してもよい。また、MALDI質量分析用マトリックスを含む液体に分析対象サンプル物質を加えて作製してもよいし、分析対象サンプル物質を含有する液体にMALDI質量分析用マトリックスを加えて作製してもよい。
【0017】
本発明の分析用試料の製造方法で用いる分析対象サンプル物質としては、揮発性が低ければいかなる物質でもよいが、MALDI質量分析法は分子量の高い物質の分析に適しており、MALDI質量分析用マトリックスの影響を避けられる程度に分子量が高い方が好ましいので分析対象試料の分子量が500以上であることが好ましく、分子量が1000以上であることがより好ましい。分析対象試料の分子量に分布を有する場合は、サイズ排除クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算による重量平均分子量で500以上であるものがさらに好ましく、重量平均分子量1000以上の化合物であるものがよりさらに好ましい。
【0018】
MALDI質量分析法は合成高分子を分析対象サンプル物質とする場合に好適に適用できる分析方法である。合成高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエステル、ポリフェニレン等が挙げられる。
【0019】
本発明の分析用試料の製造方法において用いることができるMALDI質量分析用マトリックスとしては、例えば具体的には、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、トランス−3−インドールアクリル酸、ジスラノール、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)、全トランスレチノール(例えば、非特許文献1参照)、1,4−ジフェニルブタジエン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン等が挙げられ、純度が90%以上であるものが好ましく、分子量が1000以上の成分が5%以下であるものがより好ましい。本発明の効果が顕著に現れるので、MALDI質量分析用マトリックスとしてはジスラノールおよび/または1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0020】
分析対象試料、MALDI質量分析用マトリックスの量比については、特に限定されないが、分析対象サンプル物質:MALDI質量分析用マトリックス=1:1(重量比)から1:2000000(重量比)が好ましく、1:2(重量比)から1:100000(重量比)がさらに好ましい。
【0021】
本発明の分析用試料の製造方法においてMALDI質量分析用マトリックス、分析対象サンプル物質を含む液を作製するために用いることができる溶剤としては、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象サンプル物質により適宜選ぶことができるが、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象試料を溶解させることのできるものが望ましい。また溶剤の沸点が高く、乾燥することが困難なものは適当ではなく、一方、沸点が低く揮発性が高すぎると、スピンコート法の操作が行いにくいという問題がある。液体の沸点は25℃以上80℃以下の範囲が好ましい。具体的には、テトラヒドロフラン、n−プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等を挙げることができる。また、これらの液体は、単独でも、あるいは2種以上混合して用いることもできる。これらのMALDI質量分析用マトリックスあるいは分析対象サンプル物質を溶剤に溶解させたときの濃度は、1〜100mg/ml程度が好ましい。
【0022】
MALDI質量分析用マトリックスには、イオン化開始剤を含有させることができる。イオン化開始剤としては、具体的には、トリフルオロ酢酸銀や硝酸銅、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の金属塩やアンモニウム塩、有機塩等を挙げることができる。
含有させるイオン化開始剤とMALDI質量分析用マトリックスの量比については、イオン化開始剤:MALDI質量分析用マトリックス=1:2(重量比)から1:4000000(重量比)が好ましく、1:4(重量比)から1:200000(重量比)がさらに好ましい。
イオン化開始剤を溶剤に溶解させた後に、MALDI質量分析用マトリックスと混合させることもでき、その場合、溶剤に溶解させた時のイオン化開始剤の濃度は、1〜100mg/ml程度が好ましい。
【0023】
このようにして本発明の分析用試料の製造方法により製造したMALDI質量分析用試料は、高いシグナル強度を与えるので、本発明の分析用試料の製造方法により製造されたMALDI質量分析用試料を用いて行うMALDI質量分析方法は、合成高分子の品質管理に好適に用いることができる。
【0024】
本発明の分析方法により合成高分子の品質管理を行うには、生産された合成高分子から無作為にサンプリングし、サンプリングされて得られた合成高分子試料を用いて本発明の分析用試料の製造方法によりMALDI質量分析用試料を製造し、それをMALDI質量分析装置に挿入して各試料を順次質量分析を行うことによりデータを得る。得られたm/z毎のシグナル強度データから、統計的品質管理の手法を用いた母集団の標準偏差の推定、母集団の平均値の推定等を行い、また、以前に製造した合成高分子との差の検定を行うことができる。また、管理図を作成して工程を安定な状態に保つよう管理することができる。また、得られたデータが分子量を示すデータであれば、該データと分子量の管理値とを比較し、該データが該管理値であれば、生産された合成高分子を合格品とし、該データが該管理値でなければ、生産された合成高分子を不合格品とすることができる。本発明の合成高分子の品質管理方法の一実施形態のフロー図を、図9に示す。
【0025】
このように本発明の分析方法を行うためには、特に本発明の分析方法を用いた前記の合成高分子の品質管理を行うには、スピンコート装置とMALDI質量分析装置とを含む分析システムを用いることが好ましい。この本発明の分析システムによれば、合成高分子試料からMALDI質量分析の高いシグナル強度が得られるので、合成高分子の品質管理を効率的に行うことができる。本発明の分析システムの一実施形態を図10に示す。図10における乾燥機は、スピンコートにより得られた膜を乾燥するものである。
【0026】
また、本発明の合成高分子の製造方法は、1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として上記の分析方法を用いる合成高分子の製造方法である。上記の原料モノマーとしては、例えば、重合反応により、上記に挙げたようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエステル、ポリフェニレン等の合成高分子となり得る原料モノマーを挙げることができ、具体的にはプロピレン、スチレン、メタアクリル酸、メタアクリル酸メチル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、ビスフェノール−S、ハイドロキノン、4,4’−ジフルオロベンゾイル、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコール、無水マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、等を挙げることができる。また、該データに基づき該重合反応を制御する工程としては、具体的には、分析により得られるデータが分子量を示すデータであれば、該データと分子量の管理値とを比較し、該データが該管理値であるときは、合成高分子の製品とし、該データが該管理値でないときは、重合反応を制御する工程が挙げられる。また、該重合反応の制御因子としては、例えば、温度、圧力、原料モノマー濃度、触媒濃度、重合時間等が挙げられる。本発明の合成高分子の製造方法においては、分子量分布が狭い合成高分子を製造することができる。本発明の合成高分子の製造方法の一実施形態のフロー図を、図11に示す。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬、純度98%以上、分子量1000以上の成分は2重量%未満)をMALDI質量分析用マトリックスとし、東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(商品名、分子量10000)を試料とし、これにトリフルオロ酢酸銀をイオン化開始剤として用いた。MALDI質量分析用マトリックス、分析対象試料、イオン化開始剤の混合比は、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996,7,11−24やRapid Commun.Mass Spectrom.2001,15,675−678を参考に、MALDI質量分析用マトリックスを20mg/ml、分析対象サンプル物質を10mg/ml、トリフルオロ酢酸銀を10mg/mlの濃度で調製したそれぞれのTHF溶液を5:2:1(容量比)で混合した。MALDI質量分析用マトリックス、分析対象サンプル物質、イオン化開始剤混合溶液をMALDI質量分析用ターゲット上にマイクロピペッターで7.5μl添着し、スピンコート装置にて10秒間4500rpmの速度で回転させた後、そのターゲットをブルカー・ダルトニクス製ReflexIII型MALDI質量分析装置内に挿入した。その後、加速電圧25.0kV、レーザーショット300回積算の正イオン化モードにて測定を行った。シグナル強度の評価は、得られたマススペクトルにおけるスチレンモノマーの97量体、98量体を示すm/z=10268および10372のシグナル強度を用いることとした。実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ1954、1912カウントであった。
【0029】
比較例1
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いずに試料液をターゲットに添着後そのまま溶剤を蒸発させた以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ797、838カウントであった。
【0030】
実施例1および比較例1の結果を表1にまとめて示す。実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると、比較例1で用いた従来のMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0031】
比較例2
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を500rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ813、774カウントであった。
【0032】
実施例1および比較例2の結果を表1にまとめて示す。実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると、比較例2のように非特許文献に記載されている回転数を用いたスピンコート法によるMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例3
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を3000rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ2174、2104カウントであった。
【0035】
比較例5
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を2000rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ797、762カウントであった。
【0036】
実施例2
実施例1で用いたMALDI質量分析用マトリックスについて、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)をジスラノール(アルドリッチ社製試薬、純度98%以上、分子量1000以上の成分は、2重量%未満)に変えたこと以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例2の方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ653、644カウントであった。
【0037】
比較例3
実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶剤を蒸発させた以外は実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ239、208カウントであった。
【0038】
実施例2および比較例3の結果を表2にまとめて示す。実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると比較例3で用いた従来のMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0039】
比較例4
実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を500rpmにした以外は実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例4のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ224、228カウントであった。
【0040】
実施例2および比較例4の結果を表2にまとめて示す。実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると比較例4のように非特許文献に記載されている回転数を用いたスピンコート法によるMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0041】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとして1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)を使用し、回転速度を4500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位である。
【図2】比較例1の結果を示すチャートであり、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶媒を蒸発させたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図1と同じ表示範囲である。
【図3】比較例2の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとして1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)を使用し、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図1と同じ表示範囲である。
【図4】実施例2の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとしてジスラノール(アルドリッチ社製試薬)を使用し、回転速度を4500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位である。
【図5】比較例3の結果を示すチャートであり、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶媒を蒸発させたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図4と同じ表示範囲である。
【図6】比較例4の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとしてジスラノール(アルドリッチ社製試薬)を使用し、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図4と同じ表示範囲である。
【図7】実施例3の結果を示すチャートである。
【図8】比較例5の結果を示すチャートである。
【図9】本発明の合成高分子の品質管理方法の一実施形態を示すフロー図。
【図10】本発明の分析システムの一実施形態を示す図。
【図11】本発明の合成高分子の製造方法の一実施形態を示すフロー図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックス支援レーザー脱離(以下、「MALDI」と称する。)質量分析用試料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成高分子を分析対象としたマトリックス支援レーザー脱離質量分析におけるMALDI質量分析用試料の製造方法においては、従来一般的に、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液をターゲットと呼ばれる測定用試料台上(以下、「ターゲット」と称する。)に滴下し、乾燥させる方法が用いられていた(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、生体高分子を分析対象としたMALDI質量分析法において、分析対象サンブル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いてターゲット上に塗布することによるMALDI質量分析用試料の製造方法が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。しかしながら、シグナル強度が十分ではなかった。
【0004】
MALDI質量分析法においては、検出されるシグナルの強度をさらに高めることが求められており、従来よりさらに強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法が求められていた。
【0005】
【非特許文献1】ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)、2001年、Vol.101、p.527−569
【非特許文献2】ラピッド・コミュニケーション・イン・マススペクトロメトリ(RAPID COMMUNICATION IN MASS SPECTROMETRY)、1995年、Vol.9、p.180−187
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、MALDI質量分析法において、従来より強度の高いシグナルが得られるMALDI質量分析用試料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく、MALDI質量分析用試料の製造方法について鋭意検討を続け、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート装置の回転速度を一定以上としてターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥して分析用試料を製造すると、驚くべきことに、MALDI質量分析におけるシグナル強度が高くなることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするMALDI質量分析用試料の製造方法を提供する。
さらに本発明は、上記の分析用試料の製造方法により製造したMALDI質量分析用試料を用いることを特徴とするMALDI質量分析方法を提供する。
さらに本発明は、上記の分析方法を用いることを特徴とする合成高分子の品質管理方法を提供する。
さらに本発明は、上記の質量分析方法または品質管理方法を用い、スピンコート装置とマトリックス支援レーザー脱離質量分析装置とを含むことを特徴とする分析システムを提供する。
さらに本発明は、1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として上記の分析方法を用いる合成高分子の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いれば、MALDI質量分析において高いシグナル強度が得られ、特に合成高分子の開発や品質管理に好適に用いることができる分析方法となるので、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明のMALDI質量分析用試料の製造方法においては、分析対象サンプル物質とMALDI質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液(以下、「試料液」ということがある。)を、スピンコート法により3000rpm以上の回転速度としてターゲット上に塗布して乾燥させる。
【0011】
本発明の分析用試料の製造方法においては、スピンコート法を用いる。スピンコート法は、液体を物体に塗布する方法の一つであって、塗布される対象の物体を、回転盤上に固定して回転可能とし、該物体の上に該液体を付着させてから該物体を回転させるかまたは、該物体を回転させたうえで該物体上に該液体を滴下することにより、遠心力を利用して該物体上に該液体を広げて塗布して膜を形成する方法であり、回転速度は回転盤の回転速度を示す。
【0012】
スピンコート法による塗布を行う前に、試料液をターゲット上に付着させるには、試料液をマイクロピペッター、マイクロシリンジ等で採取してターゲット上に微量の液を吐出させて付着(「添着」という。)させてもよいし、ターゲット上に試料液を直接滴下してもよい。
【0013】
次いで、スピンコート装置により試料台を回転させて膜を形成する。スピンコート装置としては試料台を固定することができ5000rpm程度まで回転が可能な装置であればよく、具体的には、ミカサ株式会社製1H−D7型等を挙げることができる。本発明におけるスピンコートにおける回転速度は、3000rpm以上であり、4000rpm以上が好ましい。また、スピンコートの回転速度は、10000rpm以下であることが好ましい。
ターゲットを先に回転させる場合は、ターゲット上に試料液を直接滴下すればよい。添着または滴下後に、速やかにターゲットの回転を開始させることが好ましい。
【0014】
このスピンコートにより得られた膜は、ターゲットをMALDI質量分析装置の分析室に挿入する前に乾燥させる。乾燥はスピンコートを行っている間に行ってもよく、例えば30℃〜110℃に加熱しながら行ってもよく、真空中乾燥機を用いて行ってもよく、これらを組み合わせて行ってもよい。
【0015】
ここで、本発明の分析用試料の製造方法において用いるターゲットとしては、スピンコート装置に装着できる大きさ・重さであり、揮発性の無い物質からなる物体であれば特に限定されないが、通常用いられているターゲットは、ステンレス、銅、ニッケル等の金属からなり、試料液を塗布するための平面部を有するものが用いられる。特にスピンコート装置が小さい場合は、ターゲットとして厚さが0.005mm〜10mmの板を用い、試料液をスピンコート法により塗布した後、別の物体に装着してMALDI質量分析装置内に挿入してもよい。
【0016】
本発明に用いる試料液の作製方法としては、MALDI質量分析用マトリックスを含む液と、分析対象サンプル物質を含む液を混合して作製してもよいし、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象サンプル物質をこれらを溶解する溶剤に溶解させて作製してもよい。また、MALDI質量分析用マトリックスを含む液体に分析対象サンプル物質を加えて作製してもよいし、分析対象サンプル物質を含有する液体にMALDI質量分析用マトリックスを加えて作製してもよい。
【0017】
本発明の分析用試料の製造方法で用いる分析対象サンプル物質としては、揮発性が低ければいかなる物質でもよいが、MALDI質量分析法は分子量の高い物質の分析に適しており、MALDI質量分析用マトリックスの影響を避けられる程度に分子量が高い方が好ましいので分析対象試料の分子量が500以上であることが好ましく、分子量が1000以上であることがより好ましい。分析対象試料の分子量に分布を有する場合は、サイズ排除クロマトグラフィーで測定されるポリスチレン換算による重量平均分子量で500以上であるものがさらに好ましく、重量平均分子量1000以上の化合物であるものがよりさらに好ましい。
【0018】
MALDI質量分析法は合成高分子を分析対象サンプル物質とする場合に好適に適用できる分析方法である。合成高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエステル、ポリフェニレン等が挙げられる。
【0019】
本発明の分析用試料の製造方法において用いることができるMALDI質量分析用マトリックスとしては、例えば具体的には、2,5−ジヒドロキシ安息香酸、トランス−3−インドールアクリル酸、ジスラノール、2−(4−ヒドロキシフェニルアゾ)安息香酸(HABA)、全トランスレチノール(例えば、非特許文献1参照)、1,4−ジフェニルブタジエン、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン等が挙げられ、純度が90%以上であるものが好ましく、分子量が1000以上の成分が5%以下であるものがより好ましい。本発明の効果が顕著に現れるので、MALDI質量分析用マトリックスとしてはジスラノールおよび/または1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンが好ましく、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンがより好ましい。
【0020】
分析対象試料、MALDI質量分析用マトリックスの量比については、特に限定されないが、分析対象サンプル物質:MALDI質量分析用マトリックス=1:1(重量比)から1:2000000(重量比)が好ましく、1:2(重量比)から1:100000(重量比)がさらに好ましい。
【0021】
本発明の分析用試料の製造方法においてMALDI質量分析用マトリックス、分析対象サンプル物質を含む液を作製するために用いることができる溶剤としては、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象サンプル物質により適宜選ぶことができるが、MALDI質量分析用マトリックスと分析対象試料を溶解させることのできるものが望ましい。また溶剤の沸点が高く、乾燥することが困難なものは適当ではなく、一方、沸点が低く揮発性が高すぎると、スピンコート法の操作が行いにくいという問題がある。液体の沸点は25℃以上80℃以下の範囲が好ましい。具体的には、テトラヒドロフラン、n−プロピルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ヘキサフルオロイソプロピルアルコール、ジエチルエーテル、エチルプロピルエーテル等を挙げることができる。また、これらの液体は、単独でも、あるいは2種以上混合して用いることもできる。これらのMALDI質量分析用マトリックスあるいは分析対象サンプル物質を溶剤に溶解させたときの濃度は、1〜100mg/ml程度が好ましい。
【0022】
MALDI質量分析用マトリックスには、イオン化開始剤を含有させることができる。イオン化開始剤としては、具体的には、トリフルオロ酢酸銀や硝酸銅、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の金属塩やアンモニウム塩、有機塩等を挙げることができる。
含有させるイオン化開始剤とMALDI質量分析用マトリックスの量比については、イオン化開始剤:MALDI質量分析用マトリックス=1:2(重量比)から1:4000000(重量比)が好ましく、1:4(重量比)から1:200000(重量比)がさらに好ましい。
イオン化開始剤を溶剤に溶解させた後に、MALDI質量分析用マトリックスと混合させることもでき、その場合、溶剤に溶解させた時のイオン化開始剤の濃度は、1〜100mg/ml程度が好ましい。
【0023】
このようにして本発明の分析用試料の製造方法により製造したMALDI質量分析用試料は、高いシグナル強度を与えるので、本発明の分析用試料の製造方法により製造されたMALDI質量分析用試料を用いて行うMALDI質量分析方法は、合成高分子の品質管理に好適に用いることができる。
【0024】
本発明の分析方法により合成高分子の品質管理を行うには、生産された合成高分子から無作為にサンプリングし、サンプリングされて得られた合成高分子試料を用いて本発明の分析用試料の製造方法によりMALDI質量分析用試料を製造し、それをMALDI質量分析装置に挿入して各試料を順次質量分析を行うことによりデータを得る。得られたm/z毎のシグナル強度データから、統計的品質管理の手法を用いた母集団の標準偏差の推定、母集団の平均値の推定等を行い、また、以前に製造した合成高分子との差の検定を行うことができる。また、管理図を作成して工程を安定な状態に保つよう管理することができる。また、得られたデータが分子量を示すデータであれば、該データと分子量の管理値とを比較し、該データが該管理値であれば、生産された合成高分子を合格品とし、該データが該管理値でなければ、生産された合成高分子を不合格品とすることができる。本発明の合成高分子の品質管理方法の一実施形態のフロー図を、図9に示す。
【0025】
このように本発明の分析方法を行うためには、特に本発明の分析方法を用いた前記の合成高分子の品質管理を行うには、スピンコート装置とMALDI質量分析装置とを含む分析システムを用いることが好ましい。この本発明の分析システムによれば、合成高分子試料からMALDI質量分析の高いシグナル強度が得られるので、合成高分子の品質管理を効率的に行うことができる。本発明の分析システムの一実施形態を図10に示す。図10における乾燥機は、スピンコートにより得られた膜を乾燥するものである。
【0026】
また、本発明の合成高分子の製造方法は、1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として上記の分析方法を用いる合成高分子の製造方法である。上記の原料モノマーとしては、例えば、重合反応により、上記に挙げたようなポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメタアクリル酸、ポリメタアクリル酸メチル、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエステル、ポリフェニレン等の合成高分子となり得る原料モノマーを挙げることができ、具体的にはプロピレン、スチレン、メタアクリル酸、メタアクリル酸メチル、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、ビスフェノール−S、ハイドロキノン、4,4’−ジフルオロベンゾイル、テレフタル酸ジメチル、エチレングリコール、無水マレイン酸、フマル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、等を挙げることができる。また、該データに基づき該重合反応を制御する工程としては、具体的には、分析により得られるデータが分子量を示すデータであれば、該データと分子量の管理値とを比較し、該データが該管理値であるときは、合成高分子の製品とし、該データが該管理値でないときは、重合反応を制御する工程が挙げられる。また、該重合反応の制御因子としては、例えば、温度、圧力、原料モノマー濃度、触媒濃度、重合時間等が挙げられる。本発明の合成高分子の製造方法においては、分子量分布が狭い合成高分子を製造することができる。本発明の合成高分子の製造方法の一実施形態のフロー図を、図11に示す。
【実施例】
【0027】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬、純度98%以上、分子量1000以上の成分は2重量%未満)をMALDI質量分析用マトリックスとし、東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(商品名、分子量10000)を試料とし、これにトリフルオロ酢酸銀をイオン化開始剤として用いた。MALDI質量分析用マトリックス、分析対象試料、イオン化開始剤の混合比は、J.Am.Soc.Mass Spectrom.1996,7,11−24やRapid Commun.Mass Spectrom.2001,15,675−678を参考に、MALDI質量分析用マトリックスを20mg/ml、分析対象サンプル物質を10mg/ml、トリフルオロ酢酸銀を10mg/mlの濃度で調製したそれぞれのTHF溶液を5:2:1(容量比)で混合した。MALDI質量分析用マトリックス、分析対象サンプル物質、イオン化開始剤混合溶液をMALDI質量分析用ターゲット上にマイクロピペッターで7.5μl添着し、スピンコート装置にて10秒間4500rpmの速度で回転させた後、そのターゲットをブルカー・ダルトニクス製ReflexIII型MALDI質量分析装置内に挿入した。その後、加速電圧25.0kV、レーザーショット300回積算の正イオン化モードにて測定を行った。シグナル強度の評価は、得られたマススペクトルにおけるスチレンモノマーの97量体、98量体を示すm/z=10268および10372のシグナル強度を用いることとした。実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ1954、1912カウントであった。
【0029】
比較例1
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いずに試料液をターゲットに添着後そのまま溶剤を蒸発させた以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ797、838カウントであった。
【0030】
実施例1および比較例1の結果を表1にまとめて示す。実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると、比較例1で用いた従来のMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0031】
比較例2
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を500rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。比較例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ813、774カウントであった。
【0032】
実施例1および比較例2の結果を表1にまとめて示す。実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると、比較例2のように非特許文献に記載されている回転数を用いたスピンコート法によるMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例1のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例3
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を3000rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ2174、2104カウントであった。
【0035】
比較例5
実施例1で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を2000rpmにした以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ797、762カウントであった。
【0036】
実施例2
実施例1で用いたMALDI質量分析用マトリックスについて、1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)をジスラノール(アルドリッチ社製試薬、純度98%以上、分子量1000以上の成分は、2重量%未満)に変えたこと以外は実施例1と同一の条件で測定および評価を行った。実施例2の方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ653、644カウントであった。
【0037】
比較例3
実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶剤を蒸発させた以外は実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例3のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ239、208カウントであった。
【0038】
実施例2および比較例3の結果を表2にまとめて示す。実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると比較例3で用いた従来のMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0039】
比較例4
実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法について、スピンコート法を用いる時の回転速度を500rpmにした以外は実施例2と同一の条件で測定および評価を行った。比較例4のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いた場合のシグナル強度はそれぞれ224、228カウントであった。
【0040】
実施例2および比較例4の結果を表2にまとめて示す。実施例2で用いたMALDI質量分析用試料の製造方法を用いると比較例4のように非特許文献に記載されている回転数を用いたスピンコート法によるMALDI質量分析用試料の製造方法と比べて強いシグナル強度が得られたことから、実施例2のMALDI質量分析用試料の製造方法を用いたほうが強いシグナル強度が得られることがわかった。
【0041】
【表2】
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとして1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)を使用し、回転速度を4500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位である。
【図2】比較例1の結果を示すチャートであり、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶媒を蒸発させたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図1と同じ表示範囲である。
【図3】比較例2の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとして1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエン(PFALTZ & BAUER社製試薬)を使用し、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図1と同じ表示範囲である。
【図4】実施例2の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとしてジスラノール(アルドリッチ社製試薬)を使用し、回転速度を4500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位である。
【図5】比較例3の結果を示すチャートであり、スピンコーターを用いずにターゲットに添着後そのまま溶媒を蒸発させたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図4と同じ表示範囲である。
【図6】比較例4の結果を示すチャートであり、MALDI質量分析用マトリックスとしてジスラノール(アルドリッチ社製試薬)を使用し、回転速度を500rpmとしたスピンコート法を用いたMALDI質量分析用試料の製造方法により得られた東ソー株式会社製ポリスチレン標準品F−1(分子量10000)の測定結果を示す。縦軸のスケールは任意単位であるが、図4と同じ表示範囲である。
【図7】実施例3の結果を示すチャートである。
【図8】比較例5の結果を示すチャートである。
【図9】本発明の合成高分子の品質管理方法の一実施形態を示すフロー図。
【図10】本発明の分析システムの一実施形態を示す図。
【図11】本発明の合成高分子の製造方法の一実施形態を示すフロー図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象サンプル物質とマトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料の製造方法。
【請求項2】
マトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスとして、ジスラノールおよび/または1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンを用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造したマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料を用いることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析方法を用いることを特徴とする合成高分子の品質管理方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法を用い、スピンコート装置とマトリックス支援レーザー脱離質量分析装置とを含むことを特徴とする分析システム。
【請求項6】
1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として請求項3記載の分析方法を用いる合成高分子の製造方法。
【請求項1】
分析対象サンプル物質とマトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスと溶剤とを含有する液を、スピンコート法により回転速度3000rpm以上の条件でターゲット上に塗布して膜を形成し、乾燥することを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料の製造方法。
【請求項2】
マトリックス支援レーザー脱離質量分析用マトリックスとして、ジスラノールおよび/または1,1,4,4−テトラフェニル−1,3−ブタジエンを用いる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により製造したマトリックス支援レーザー脱離質量分析用試料を用いることを特徴とするマトリックス支援レーザー脱離質量分析方法。
【請求項4】
請求項3に記載の分析方法を用いることを特徴とする合成高分子の品質管理方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載の方法を用い、スピンコート装置とマトリックス支援レーザー脱離質量分析装置とを含むことを特徴とする分析システム。
【請求項6】
1種以上の原料モノマーを重合反応し、得られる合成高分子を分析対象サンプル物質として分析する分析方法によりデータを得て、該データに基づき該重合反応を制御する工程を含む合成高分子の製造方法であって、該分析方法として請求項3記載の分析方法を用いる合成高分子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−10681(P2006−10681A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149040(P2005−149040)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】
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