説明

マメ科植物の害虫による摂食を阻害する方法

【課題】本発明は農業上有用なマメ科植物に、害虫摂食阻害性を付与し、生長を促進させ、着莢数を増加させ、根粒数を増加させ、かつ、収量を増加させる手段を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌(具体的にはVariovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95) もしくは Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96))を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規細菌エンドファイト、これを用いた、マメ科植物の害虫による摂食を阻害する方法、並びにこの方法により作出された植物に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の作物栽培において、優れた病虫害防除効果を発揮する化学合成農薬は、高品質な農作物を高収量で収穫することを可能とし、効率的な食料生産に重要な役割を果たしている。ところが近年、地球規模での環境問題が深刻になっており、化学合成農薬使用量の削減による環境保全型農業への転換が望まれている。そこで、安心・安全な作物の供給と環境保全型農業を可能とする新たな防除技術(例えば微生物農薬)の開発が望まれている。植物は本来、様々な病虫害等の刺激に対し、免疫的に全身に抵抗性を誘導することが知られている。その一つとして誘導抵抗性が知られている。本発明はこのような植物が本来持つ能力を人為的に誘導し、農業に利用する技術である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は農業上有用なマメ科植物に、害虫摂食阻害性を付与し、生長を促進させ、着莢数を増加させ、根粒数を増加させ、かつ、収量を増加させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は以下の発明を包含する。
(1) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物に害虫摂食阻害性を付与する方法。
(2) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の生長を促進させる方法。
【0005】
(3) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の着莢数を増加させる方法。
(4) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物における根粒数を増加させる方法。
【0006】
(5) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の収量を増加させる方法。
(6) 前記細菌がVariovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又はその変異株である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) 前記細菌がMethylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、又はその変異株である、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【0007】
(8) Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を有効成分として含有する、マメ科植物用の微生物製剤。
(9) 前記細菌がVariovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又はその変異株である、(8) 記載の微生物製剤。
(10) 前記細菌がMethylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、又はその変異株である、(9) 記載の微生物製剤。
(12)(11) Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95) 又はその変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株。
【0008】
(12) Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96) 又はその変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株。
(13) Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、及び Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、並びにこれらの変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株からなる群から選択される少なくとも1種が人為的に感染されたマメ科植物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌、該細菌を用いて、マメ科植物に害虫摂食阻害性を付与する方法、マメ科植物の生長を促進させる方法、マメ科植物の着莢数を増加させる方法、マメ科植物における根粒数を増加させる方法、および、マメ科植物の収量を増加させる方法、並びに、該方法により作出されたマメ科植物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の細菌の感染により、害虫による摂食に対する抵抗性が付与され、生長が促進され、着莢数が増加され、根粒数が増加され、かつ収量が増加されるマメ科植物としては、例えば、ダイズ、アズキ、ツルアズキ、ソラマメ、インゲン、エンドウ、ササゲ、ラッカセイ、リョクトウ、レンゲ、アルファルファ、クローバー類、ベッチ類が挙げられる。特に、ダイズが好ましい。
【0011】
本発明はまた、本発明の細菌が人為的に感染された、害虫摂食阻害性が高く、生長しやすく、着莢数が多く、根粒数が多く、かつ高収量であるマメ科植物に関する。
【0012】
本発明によりマメ科植物の摂食が阻害され得る害虫としては、鱗翅目、アブラムシ類、ヨコバイ類、カメムシ類、コオロギ類、ハムシ類、ゾウムシ類、オサゾウムシ類、ゴミムシダマシ類、コガネムシ類、ガガンボ類、ウンカ類、バッタ類、イナゴ類、トビムシ類、アザミウマ類等に属する昆虫が挙げられる。本発明による摂食阻害は特に鱗翅目に属する昆虫、とりわけその幼虫に対して有効であり、具体的にはメイガ科(例えばテンスジツトガ、ツトガ、シバツトガ、コブノメイガ、ワモンノメイガ、アワノメイガ、アカフツヅリガ)、ドクガ科(例えばスゲドクガ)、ヒトリガ科(例えばオビヒトリ、キハラゴマダラヒトリ、シロヒトリ)又はヤガ科(例えばハンモンヨトウ、エゾチャイロヨトウ、シロシタヨトウ、フタオビキヨトウ、タンポキヨトウ、クサシロキヨトウ、イネヨトウ、スジギリヨトウ、イネキンウワバ)に属する昆虫(特にその幼虫)に対して有効である。
【0013】
本発明に用いることができる細菌としては、Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌であれば特に限定されない。具体例を挙げれば、Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、及びMethylobacterium sp.
M143R1 (受託番号NITE P-96)が挙げられる。また、Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又はMethylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)と同等の能力を有する細菌、例えば、Variovorax属に属し、実施例1に示すVariovorax sp. M30P3と同一の炭素源の資化能力を有する細菌や、Variovorax属に属し、配列番号1に示す塩基配列を少なくとも一部分に含む16S rDNAを有する細菌や、Methylobacterium属に属し、実施例2に示すMethylobacterium sp. M143R1と同一の炭素源の資化能力を有する細菌や、Methylobacterium属に属し、配列番号2に示す塩基配列を少なくとも一部分に含む16S rDNAを有する細菌が挙げられるがこれらには限定されない。Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又は Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96) が変異誘発処理されて作出された変異株であって、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株もまた、本発明に好適に使用することができる。変異誘発処理は任意の適当な変異原を用いて行われ得る。ここで、「変異原」なる語は広義の意味を有し、例えば変異原効果を有する薬剤のみならずUV照射のごとき変異原効果を有する処理をも含むものと理解すべきである。適当な変異原の例としてエチルメタンスルホネート、UV照射、N−メチル−N′−ニトロ−N−ニトロソグアニジン、ブロモウラシルのようなヌクレオチド塩基類似体及びアクリジン類が挙げられるが、他の任意の効果的な変異原もまた使用され得る。
【0014】
本発明に用いられる細菌は、振とう培養等の通常の培養法により、通常の条件下で培養されうる。培養に用いる培地としては炭素源としてグルコース、シュークロース、デンプン、デキストリンなどの糖類を、窒素源として硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム等のアンモニウム塩、硝酸塩等の無機窒素源、または、酵母エキス、コーン・スティープ・リーカー、肉エキス、小麦胚芽、ポリペプトン、サトウキビ絞り粕(バカス)、ビールカス、大豆粉、米糠、魚粉等の有機窒素源を、無機塩としてリン酸一カリ、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄等の、リン、カリウム、マンガン、マグネシウム、鉄等を含む塩類を、それぞれ含有する合成または天然の培地が挙げられる。
【0015】
本発明はまた、本発明の細菌を有効成分として含有する、マメ科植物に害虫摂食阻害性を付与し、生長を促進させ、着莢数を増加させ、根粒数を増加させ、かつ、収量を増加させるための、マメ科植物用の微生物製剤に関する。微生物製剤の製造のためには、本発明の細菌の培養液をそのまま使用することができるが、好ましくはより効果を高めることを目的として培養液を膜分離、遠心分離、濾過分離等の方法により分離した高濃度物が使用され得る。
【0016】
本発明の微生物製剤としてはまた、本発明の細菌の培養液を乾燥させたものを使用することができる。また、本発明の細菌の培養液を活性炭粉末、珪藻土、タルク等の多孔吸着体に吸着させ乾燥させたものを使用することができる。乾燥方法は通常の方法でよく、例えば凍結乾燥、減圧乾燥でよい。これらの乾燥物は乾燥後さらにボールミル等の粉砕手段で粉砕されてもよい。
【0017】
本発明の細菌は上述の培養液、高濃度物または乾燥物としてそれ自体単独で本発明に用いることができるが、更なる他の任意成分と組み合わせて通常の微生物製剤と同様の形態(例えば粉剤、水和剤、乳剤、液剤、フロアブル剤、塗布剤等の形態)に製剤化してもよい。組み合わせて使用することができる任意成分としては例えば固体担体、補助剤が挙げられる。
【0018】
本発明の細菌の植物への感染は、種子、育苗期、または植物の栄養成長期に行われることが好ましい。
【0019】
本発明の細菌の植物体への施用方法としては、噴霧、潅注、どぶ漬け、植物体への塗布、人為的に付けた傷への接触、シリンジによる注入、土壌への混合、水耕液への混入、砂等へ混合してサンドブラストのように吹きつける方法などが考えられる。また組織培養植物においては培地への混入も可能である。
【実施例1】
【0020】
Variovorax sp. M30P3の選抜
(材料)
長野県、静岡県朝霧高原周辺及び沖縄県石垣島周辺でマメ科とアブラナ科植物を採集した。得られた植物のうち、長野県及び静岡県朝霧高原周辺で収集したマメ科52株、及びアブラナ科47株の植物を用い、耐虫性評価試験とエンドファイトの分離をおこなった。摂食阻害作用を評価する鱗翅目は広食性のハスモンヨトウ (Spodoptera litura) を用いた。
【0021】
(方法)
摂食阻害作用の評価はリーフディスク検定でおこなった。植物体の葉をコルクボーラーで直径12mmにくり抜きリーフディスクを作成した。葉が小さい等、くり抜くことが困難なものは同程度の面積になるように葉数枚を用いて一処理区とした。ハスモンヨトウは孵化1日目から4日目の1齢幼虫を用いた。リーフディスク16枚に対しハスモンヨトウを250個体加え、25℃暗条件で約2日間摂食させた。評価は摂食程度が5%未満のものを強度阻害、70%未満のものを中程度阻害とした。これを1次スクリーニングとした。次に1次スクリーニングで中程度以上の阻害を示した植物のみを集め、同様の方法で2次スクリーニングをおこなった。
【0022】
2次スクリーニングを経て選抜された、ハスモンヨトウに対して摂食阻害作用を示すマメ科植物及びアブラナ科植物からエンドファイトの単離を試みた。植物体を70%エタノールと2.5%次亜塩素酸を用いて表面殺菌しNA培地及びPDA培地上で単離をおこなった。
【0023】
(結果)
1次スクリーニングにより、マメ科植物52株中で強度阻害を示したもの5株、中程度阻害を示したもの13株を選抜した。さらに選抜された株のみで2次スクリーニングをおこなったところ、強度阻害を示すものが3株、中程度阻害を示すものが6株見られた(表1)。
【0024】
アブラナ科も同様に選抜したところ1次スクリーニングにおいて47株中で強度阻害1株、中程度阻害8株が選抜され、2次スクリーニングで中程度阻害3株が選抜できた(表2)。
【0025】
また、マメ科では選抜された7系統の植物から、アブラナ科では1系統の植物から、それぞれエンドファイトとして細菌や糸状菌が分離された。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
(実証検定1)
(目的)
上記で分離されたエンドファイトのなかから、ダイズに共生して宿主ダイズに害虫による摂食に対する抵抗性を付与することができるものを選抜する。
【0029】
(材料と方法)
上記で摂食阻害が認められたマメ科及びアブラナ科自生植物の系統から単離した菌(M30N2, M30P1, M30P2, M30P3, M30P5, M71N1, M72N4)を、ダイズの栽培品種エンレイへ接種した。接種方法は次の通りである。すなわち、70% EtOH 20秒間、2.5% 次亜塩素酸ナトリウム水溶液5分間で滅菌処理したダイズ種子に菌懸濁液を1 x 108 cells/種子の量で接種し、接種後の種子を栽培して個体を得た。それぞれの菌について3個体ずつ作成した。対照として菌無接種区も1処理区作成し同様に供試した。
【0030】
接種個体の栽培は、上記接種種子を、121℃で30分間滅菌処理した土壌を200mL充填したマジェンタボックス中で無菌条件で播種し栽培した後、地上部を開放し、12時間日長条件下のインキュベータ内で、滅菌水で10日間生育させ、最終的にポット移植し、ポット中で更に栽培することによりおこなった。
【0031】
ポット栽培30日目の個体にハスモンヨトウ若齢虫を10個体/ダイズ個体接種し、接種後20日目に摂食被害程度を測定した。摂食試験中、栽培ポットはハスモンヨトウが植物間を自由に移動できるよう、隣接させた。また追試として、M30P1, M30P2, M30P3については幼虫が外部へ逃げ出さないように植物を不織布で覆い、ハスモンヨトウ若齢虫を20個体/ダイズ個体接種する試験も試みた。
【0032】
摂食被害程度の測定は次の手順でおこなった。すなわち、目視で指数 (1: 摂食面積10%以下; 2: 摂食面積10〜30%; 3: 摂食面積30〜50%; 4: 摂食面積50〜70%; 5: 摂食面積70%以上)をカウントし、その指数に罹病葉数をかけて、合計したものを摂食被害程度として算出した。
【0033】
(結果)
それぞれの摂食被害程度を、無接種個体の摂食被害程度との最小有意差法により検定したところ、M30P1、M30P2及びM30P3の接種個体が1%水準で有意に摂食被害程度が低くなるという結果が得られた(表3及び図1)。試験区全体で植物体が 24 本であることとから、ハスモンヨトウは計 240 個体放した事になるが、摂食試験終了時(20 日目)に植物上に生息していた幼虫数は試験開始時の 4.1 % (10個体) にまで減少していた。有意に摂食が抑制されたM30P1、M30P2及びM30P3の3系統の接種個体には幼虫は存在していなかった。幼虫が外部へ逃げ出さないように不織布で覆いをした試験では、M30P2接種個体が最も摂食被害程度が低かったが、有意差は得られなかった。
【0034】
【表3】

【0035】
(実証検定2)
(目的)
上記で選抜したM30P1、M30P2及びM30P3の3株の追証検定をおこなった。
【0036】
(材料と方法)
エンドファイト:M30P1株、M30P2株及びM30P3株
対照区:無接種個体
ダイズ品種:エンレイ
虫:ハスモンヨトウ1齢虫
栽培:ポット栽培、4個体/ポット/処理区
検定:ポット栽培60日目にハスモンヨトウ1齢虫を10個体/ダイズ個体接種し、温室内で摂食させた。
測定方法:被害指数として評価した。
被害指数:指数(1: 摂食面積10%以下; 2: 摂食面積10〜30%; 3: 摂食面積30〜50%; 4: 摂食面積50〜70%; 5: 摂食面積70%以上)を目視によりカウントし、以下の式で被害指数を算出した。
被害指数=100×[1×(被害指数1の葉数)+2×(被害指数2の葉数)+3×(被害指数3の葉数)+4×(被害指数4の葉数)+5×(被害指数5の葉数)]/[5×(全葉数)]
【0037】
(結果)
追証検定の結果、3株のうちM30P3株を接種したダイズ個体が有意に被害程度を抑制することが証明された(表4)。
【0038】
また、このとき試験区全体がハダニによる被害を受けたがM30P3を接種したダイズ個体はその被害も少なかった。
【0039】
【表4】

【0040】
(M30P3株の同定)
バイオログシステム(微生物同定システム)を用いてM30P3株の同定をおこなった。その結果、Variovorax paradoxus(グラム陰性、非腸内細菌)が最も相同性が高いという結果を得た。
【0041】
M30P3株及びVariovorax paradoxus ATCC 17713 株で資化が確認された炭素源を表5にまとめる。表5に示される通り両者は資化できる炭素源が異なる。
【0042】
【表5】


【0043】
M30P3 株の 16S rDNAの塩基配列を配列番号1に示す。
当該菌株をNutrient Brothで培養し、菌体からゲノムDNAを単離した。単離したDNAを鋳型に、16S rDNA領域の前半約 500 bp の塩基配列を、dyeプライマー法で決定した(配列番号 1 )。相同性検索プログラムFASTAを利用し、決定した塩基配列と、DDBJ/EMBL/GenBank
国際塩基配列データベースとの相同性検索を行った。
【0044】
相同性検索の結果、M30P3 株の16S rDNAの塩基配列は、Variovorax paradoxus ATCC17713 株(標準菌DSM66と同一菌株)の16S rDNAの塩基配列と高い相同性を示すことが明らかとなった。M30P3 株と、Variovorax paradoxus DSM66株との 16S rDNAの塩基配列を塩基配列多重整列プログラムCLASTAL W を用いた比較結果を図2に示す。比較できる塩基配列は487bpであり、そのうち7塩基が異なっていた。すなわち相同性は約98.6%であった。
【0045】
以上の結果から、M30P3 株はVariovorax属に属する新規株であると結論づけた。M30P3 株は、Variovorax sp. M30P3として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2005年3月31日付けで寄託されている(受託番号NITE P-95)。
【実施例2】
【0046】
Methylobacterium sp. M143R1の選抜
(材料及び方法)
野菜の害虫に対して高い抵抗性を示すエンドファイトを探索するため、平成15年3月4日から7日にかけて沖縄県石垣島内6ヶ所、与那国島内6ヶ所、西表島内4ヶ所においてマメ科及びアブラナ科自生植物の採取をおこなった。
【0047】
採取された植物より鱗翅目に対する抵抗性を有する植物の選抜をおこなった。実施例1と同様に、ハスモンヨトウ (Spodoptera litura) を用い、摂食に対し抵抗性を有する植物を2段階でスクリーニングした。
【0048】
次にハスモンヨトウによる摂食に対し抵抗性を有する植物からエンドファイトの単離を試みた。可能なものは植物の地際領域の茎を用い、植物が一株しかない等の理由で地際を使用できない植物では茎及び葉を用いた。単離の際にはNA、PDA、レニーの3種類の寒天培地を用い、資化能力の異なる様々な菌株を単離することを試みた。70%エタノールに10秒間、次に2.5%次亜塩素酸に8〜10分間浸し、表面殺菌をおこなった。その後乳鉢にて磨砕し、磨砕液を寒天培地に塗布した。生育したコロニーから、さらにシングルコロニーの単離をおこなった。その後、RAPD PCRによる同一菌株の選抜、除去をおこなった。
【0049】
(結果)
沖縄県での植物採集の結果、形態からマメ科と推定される植物75株、アブラナ科と推定される植物18株を採集した。ハスモンヨトウ1齢幼虫を用いた摂食試験の結果、摂食率5%以下の強度の抵抗性を示す株をマメ科、アブラナ科から各1植物、50%程度までの中程度の抵抗性を示す株をマメ科より4植物選抜することができた。
【0050】
エンドファイトの単離を試みた結果、マメ科5植物から細菌が47株、アブラナ科1植物から糸状菌が1株単離された。
【0051】
【表6】

【0052】
(実証検定1)
(目的)
上記で分離されたエンドファイトのなかから、ダイズに共生して宿主ダイズに害虫による摂食に対する抵抗性を付与することができるものを選抜する。
【0053】
(方法)
上記で分離されたエンドファイトをダイズ (Glycine max cv. Enrei) に接種し、定着性の評価と、ポット栽培個体のハスモンヨトウ摂食試験をおこなった。細菌エンドファイトは1種類ずつ殺菌したダイズ種子に接種した。各接種区のダイズは原則として6個体(ただし6個体実験ができなかったものもある)とし、播種40〜50日目に孵化直後のハスモンヨトウを1植物に25個体放し、そのまま栽培してハスモンヨトウ幼虫に対するダイズ葉の摂食を観察した。栽培ポットを隣接させ、ハスモンヨトウが植物間を自由に移動できる状態で摂食試験を行った。結果の評価は、上記M30P1、M30P2及びM30P3の3株の追証検定被害評価と同様に、被害指数を出すことで行った。
被害指数:指数(1: 摂食面積10%以下; 2: 摂食面積10〜30%; 3: 摂食面積30〜50%; 4: 摂食面積50〜70%; 5: 摂食面積70%以上)を目視によりカウントし、以下の式で被害指数を算出した。
被害指数=100×[1×(被害指数1の葉数)+2×(被害指数2の葉数)+3×(被害指数3の葉数)+4×(被害指数4の葉数)+5×(被害指数5の葉数)]/[5×(全葉数)]
【0054】
(結果)
表7に、植物M143から分離された13種類の菌株について、摂食試験の結果を示す。その結果、M143R1株がダイズの摂食を抑制しており、宿主ダイズに摂食阻害作用を付与する細菌エンドファイトとしてM143R1が選抜された。植物M143から分離されたその他の12菌株については無接種区と大きな差がなかった。
【0055】
【表7】

【0056】
(M143R1株の同定)
M143R1株が資化可能であることが確認された炭素源を表8に示す。
【0057】
【表8】

【0058】
M143R1株の 16S rDNAの塩基配列を配列番号2に示す。
当該菌株をNutrient Brothで培養し、菌体からゲノムDNAを単離した。単離したDNAを鋳型に、16S rDNA領域の前半約500bp塩基配列をdyeプライマー法で決定した(配列番号2)。相同性検索プログラムFASTAを利用し、決定した塩基配列と、DDBJ/EMBL/GenBank 国際塩基配列データベースとの相同性検索を行った。
【0059】
相同性検索の結果、M143R1株の16S rDNAの塩基配列は、Methylobacterium sp. (Accession No. AY468371) (Accession No. とは、DNAデータバンクに塩基配列を登録した際に、それぞれの塩基配列に与えられる登録番号である。) の16S rDNAの塩基配列と高い相同性を示すことが明らかとなった。M143R1株と、Methylobacterium sp. (AY468371)との 16S rDNAの塩基配列を比較した比較結果を図3に示す。相同性は99.362%であった。
【0060】
以上の結果から、M143R1株はMethylobacterium属に属する新規株であると結論づけた。M143R1株は、Methylobacterium sp. M143R1として独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに2005年3月31日付けで寄託されている(受託番号NITE P-96)。
【実施例3】
【0061】
ダイズ生育促進と収量の増加、根粒着生増加について
1.目的
Variovorax sp. M30P3 (NITE P-95)及びMethylobacterium sp. M143R1 (NITE P-96)のダイズに対する生育促進と収量増加に対する効果について調査するとこを目的とした。
【0062】
2.実験方法
2−1.供試作物
ダイズ品種:トヨホマレ 各処理区200本
2−2.圃場
水田転換初年目圃場
【0063】
2−3.供試菌
Variovorax sp. M30P3 (NITE P-95)
Methylobacterium sp. M143R1 (NITE P-96)
【0064】
2−4.試験方法
ダイズは種子を圃場に蒔き、路地栽培を行った。本葉が1〜3枚程度になったところで、108CFU/mlになるように調製した菌液を噴霧器を用いて噴霧した。通常の管理を行い、栽培途中(播種後57日目)および収穫期(播種後135日目)に生育調査および収量調査を行った。生育調査項目は、葉数及び茎長、株立数を、収量調査では着莢数(大≧8mm、中8−7mm、屑7mm≦)及び子実重を測定した。
解析は、上記の収量調査結果より、総収量を算出した。
【0065】
3.結果
3−1.生育調査結果
播種後57日目及び、135日目の生育調査結果を表9に示した。57日目の結果より、葉数および茎長に関して本発明のエンドファイト接種区で対照区より若干生育促進が見られた。また、135日目の収穫期調査結果でも、全ての項目で対照区よりも本発明のエンドファイト接種区で生育促進が見られた。
【0066】
また、収穫物調査結果並びに総収量を表10に示した。着莢数においては本発明のエンドファイト接種区で対照区よりも多かった。また、総子実重に関しても、本発明のエンドファイト接種区の方が対照区よりも重かった。また、根粒数に関しては、本発明のエンドファイト接種区の方が対照区よりも多かった(表11)。
【0067】
最終的な総収量の結果より、2種類の本発明のエンドファイト接種区の両方において収量の増加が見られた。
【0068】
【表9】

【0069】
【表10】

【0070】
【表11】

【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1における各細菌エンドファイトの共生と宿主ダイズの摂食阻害程度との関係を示す図である。
【図2−1】M30P3 株と、Variovorax paradoxus ATCC17713 株(標準菌DSM66と同一)との 16S rDNAの塩基配列を比較した比較結果を示す図である。
【図2−2】M30P3 株と、Variovorax paradoxus ATCC17713 株(標準菌DSM66と同一)との 16S rDNAの塩基配列を比較した比較結果を示す図である。
【図3】M143R1株と、Methylobacterium sp.菌株 (Accession No. AY468371)との 16S rDNAの塩基配列を比較した比較結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物に害虫摂食阻害性を付与する方法。
【請求項2】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の生長を促進させる方法。
【請求項3】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の着莢数を増加させる方法。
【請求項4】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物における根粒数を増加させる方法。
【請求項5】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を、マメ科植物に人為的に感染させる工程を含む、マメ科植物の収量を増加させる方法。
【請求項6】
前記細菌がVariovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又はその変異株である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記細菌がMethylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、又はその変異株である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
Variovorax属又はMethylobacterium属に属し、マメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する細菌を有効成分として含有する、マメ科植物用の微生物製剤。
【請求項9】
前記細菌がVariovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、又はその変異株である、請求項8記載の微生物製剤。
【請求項10】
前記細菌がMethylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、又はその変異株である、請求項8記載の微生物製剤。
【請求項11】
Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95) 又はその変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株。
【請求項12】
Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96) 又はその変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株。
【請求項13】
Variovorax sp. M30P3 (受託番号NITE P-95)、及び Methylobacterium sp. M143R1 (受託番号NITE P-96)、並びにこれらの変異株であってマメ科植物体内に共生して該植物に害虫摂食阻害性を付与する能力、該植物の生長を促進させる能力、該植物の着莢数を増加させる能力、該植物における根粒数を増加させる能力、及び該植物の収量を増加させる能力を有する変異株からなる群から選択される少なくとも1種が人為的に感染されたマメ科植物。

【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−67717(P2009−67717A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−236842(P2007−236842)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】