説明

マラリア原虫のGPIの生合成を阻害する化合物をスクリーニングする方法

本発明者らは、熱帯熱マラリア原虫のGPI生合成酵素の一つであるGWT1(PfGWT1)の単離に成功した。さらに、本発明者らは、PfGWT1蛋白質をコードするDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAがGWT1欠失酵母の表現型を相補できることを見出した。これらの知見に基き、本発明は、マラリア原虫のGWT1蛋白質および抗マラリア剤のスクリーニング方法における該蛋白質の利用法を提供する。また本発明は、もとのGPI生合成蛋白質をコードするDNAと比較して、AT含率が低下したGPI生合成蛋白質をコードする縮重変異DNAを提供する。さらに、本発明は、該縮重変異DNAを利用した抗マラリア剤のスクリーニング方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、マラリア原虫のGPIの生合成を阻害する化合物をスクリーニングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
マラリアは、寄生原虫による最大の感染性のヒト疾患である。この疾患は、マラリア原虫がハマダラ蚊を媒介として感染することにより引き起こされる。毎年の推定マラリア感染者数は5億人であり、そのうち死亡者数は200万人以上にのぼる(Gardner, et al, Nature 2003, 419:498-511)。世界人口の40%はマラリア流行地に住んでいるのが現状であり、そのような地域では、乳幼児の3人に1人がマラリアによって死亡するといわれている。
【0003】
マラリア原虫を含む寄生虫では、グリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol:GPI)がその生育や感染に重要な役割を担っていることが知られている。マラリア原虫の細胞表面には、GPIアンカー蛋白質が多く存在する。GPIアンカー蛋白質には、MSP-1など、寄生虫が赤血球へ侵入する際に機能する蛋白質が含まれる。GPI蛋白質は寄生虫抗原として作用し、宿主免疫反応を惹起する。従って、古くからワクチン開発を目指した研究が行われている。
【0004】
GPIは、タンパク質を細胞膜につなぎ止めるアンカーとしてだけではなく、マラリア原虫細胞膜の糖脂質成分として豊富に存在している。最近の研究で、GPI自身が毒素として致死的症状を引き起こすことが明らかとなってきた。GPIはTNF-α等の炎症性サイトカインおよび接着分子の発現を誘導する。この結果、特に脳血管において、感染赤血球の毛細血管への付着が起こり血管が閉塞する(sequestration)。これにより、脳症に至ると考えられるさらなる炎症反応が誘導される。Schofieldらはごく最近、抗GPI抗体がネズミのマラリア原虫であるネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)のインビボ感染モデル系においてその致死性を減弱させること、およびインビトロにおいて熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)による後期炎症反応を抑制することを報告した(Schofield L, et al., Nature 418:785-789, 2002)。これらの発現は、GPIがマラリア感染症による致死性の主要な因子であることを示唆している。
【0005】
また、イノシトールのアシル化がGPIへのマンノースの結合に必須であり(Gerold, P. et al., Biochem. J. 344:731-738, 1999)、過剰のグルコサミンによりイノシトールのアシル化が阻害されると、マラリア原虫である熱帯熱マラリア原虫の成熟が抑制される(Naik, R. S. et al., J. Biol. Chem. 278:2036-2042, 2003)ことが報告されている。従ってGPIの生合成、特にイノシトールのアシル化を選択的に阻害することができる化合物は、非常に有用な抗マラリア剤となる可能性がある。
【発明の開示】
【0006】
発明の開示
本発明の目的は、GPIの生合成を阻害する抗マラリア剤を提供することにある。より詳細には、本発明は、GPIの生合成に関与する蛋白質(GPI生合成酵素)の一つであるGWT1蛋白質をコードするマラリア原虫DNAを提供する。また、本発明は、抗マラリア剤のスクリーニング方法における該DNAの利用法を提供する。さらに本発明は、マラリア原虫のGPI生合成蛋白質をコードするDNAの縮重変異DNAを提供する。これらの縮重変異DNAは、もとのDNAと比較してAT含率が低下している。本発明はまた、抗マラリア剤のスクリーニング方法における該縮重変異DNAの使用法も提供する。
【0007】
GWT1遺伝子は、当初、真菌のGPIアンカー蛋白質の合成酵素をコードするものとして見出された(国際公開公報第02/04626号)。この遺伝子は、酵母からヒトまで生物において保存されている。本発明者らは、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum(P. falciparum))およびネズミマラリア原虫(Plasmodium yoelii yoelii(P. yoelii yoelii))の全ゲノム配列中にもGWT1ホモログ(P. falciparum GWT1について、PfGWT1; P. yoelii yoelii GWT1について、PyGWT1)が存在することを確認した(Gardner, et al, Nature 2003, 419:498-511; Carlton et al, Nature 2003, 419:512-519)。本発明者らは更に、GWT1遺伝子産物がGPI生合成経路において1つGlcN-PIアシル-トランスフェラーゼとして作用することを見出した。PfGWT1遺伝子産物も同様な活性を有すると考えられ、その活性を抑制する化合物は有望な抗マラリア剤となり得る。
【0008】
本発明者らは国際公開公報第02/04626号で、真菌のGWT1遺伝子産物の活性を阻害する化合物群を見出した。PfGWT1遺伝子産物の活性を抑制する化合物は抗マラリア剤としても期待された。
【0009】
本発明者らは、本発明においてPfGWT1のほぼ全長と考えられる領域の単離に成功した。熱帯熱マラリア原虫などのマラリア原虫のGWT1遺伝子産物を利用した、結合アッセイ系、グルコサミニル(アシル)ホスファチジルイノシトール(PI-GlcN)アシル-トランスフェラーゼアッセイ系及びGPIアンカー蛋白質の検出系により、抗マラリア剤のスクリーニングが可能である。本スクリーニング系で得られた化合物は有望な抗マラリア剤になり得る。さらに、本発明者らは、もとのDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNA(マラリア原虫のGPI生合成蛋白質をコードするDNAの縮重変異体)が、GWT1遺伝子欠失真菌の表現型を相補することを見出した。従って、(マラリア原虫のGPI生合成蛋白質をコードするDNAと比較して)AT含率が低下した縮重変異DNAが導入されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型を指標として、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質の活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。
【0010】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[25]を提供するものである。
【0011】
[1] GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性を有するマラリア原虫の蛋白質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
[2] [1]に記載のDNAによりコードされる蛋白質。
[3] [1]に記載のDNAが挿入されたベクター。
[4] [1]に記載のDNAまたは[3]に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
[5] [2]に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物を有効成分として含有する抗マラリア剤。
[6] [2]に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物が、下記式





からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、[5]に記載の抗マラリア剤。
[7] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[2]に記載の蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(2)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(3)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
[8] 該蛋白質に結合活性を有する標識化合物が、[6]に記載の化合物(1)〜(5)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を標識することによって産生される、[7]に記載の方法。
[9] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[2]に記載の蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(2)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、および
(3)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。
[10] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[2]に記載の蛋白質が過剰発現している細胞に被検試料を接触させる工程、
(2)該細胞におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
[11] [2]に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物を投与する工程を含む、マラリアを治療する方法。
[12] [2]に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物が、[5]に記載の化合物である、[11]に記載の方法。
[13] GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つもとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA。
[14] GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つAT含率が70%低下したDNA。
[15] 以下の(a)から(d)からなる群より選択される、[13]または[14]に記載のDNA:
(a)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
[16] 配列番号:5に記載の塩基配列を含むDNA。
[17] [13]〜[16]のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
[18] [13]〜[16]のいずれかに記載のDNAまたは[17]に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
[19] GPI合成酵素遺伝子欠失真菌である、[18]に記載の形質転換体。
[20] GPI合成酵素遺伝子欠失酵母である、[18]に記載の形質転換体。
[21] [18]〜[20]のいずれかに記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させた蛋白質を回収する工程を含む、[13]〜[16]のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質の製造方法。
[22] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[13]〜[16]のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌の増殖を測定する工程、および
(3)該真菌の増殖を阻害する被検化合物を選択する工程、を含む方法。
[23] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[13]〜[16]のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
[24] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)[13]〜[16]のいずれかに記載のDNAをGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に導入し、該DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(4)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(5)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
[25] 抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)(i) GWT1遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、もとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA、または(ii) 該縮重変異DNAが挿入されたベクターを、GWT1遺伝子欠失真菌に導入し、該縮重変異DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(4)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、ならびに
(5)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【0012】
本発明により、熱帯熱マラリア原虫のGWT1蛋白質(PfGWT1)をコードするDNAが初めて単離された。PfGWT1蛋白質をコードするDNAの塩基配列を配列番号:1に、PfGWT1蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:2に示す。また、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)のGWT1蛋白質(PvGWT1)をコードするDNAの塩基配列を配列番号:3に、PvGWT1蛋白質のアミノ酸配列を配列番号:4に示す。
【0013】
GWT1蛋白質は、マラリア原虫の生育や感染に重要であるグリコシルホスファチジルイノシトール(glycosylphosphatidylinositol:GPI)の生合成に関与する。従って、マラリア原虫のGWT1蛋白質の活性を抑制する化合物は抗マラリア剤として使用できる。さらに、マラリア原虫のGWT1蛋白質を利用することで、このような抗マラリア剤のスクリーニングが可能となる。
【0014】
本発明は、マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAを提供する。このようなDNAとしては、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、および配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNA、が挙げられる。
【0015】
本発明は、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNAも提供する。ここで「機能的に同等」とは、対象となる配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質(PfGWT1蛋白質またはPvGWT1蛋白質)と同等の生物学的特性を有していることを意味する。PfGWT1蛋白質またはPvGWT1蛋白質の生物学的特性としては、GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性が含まれる。GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性は、CostelloおよびOrlean(J. Biol. Chem. (1992) 267:8599-8603)、またはFranzotおよびDoering(Biochem. J.(1999) 340:25-32)に報告されている方法により測定可能である。
【0016】
配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質と機能的に同等な蛋白質をコードするDNAとしては、配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNAが含まれる。
【0017】
本発明のDNAは、当業者においては、一般的に公知の方法により単離することが可能である。例えば、ハイブリダイゼーション技術(Southern, E.M., J. Mol. Biol., 1975, 98:503-517)およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術(Saiki, R.K. et al., Science, 1985, 230:1350-1354;Saiki, R.K. et al., Science, 1988, 239:487-491)を利用する方法が挙げられる。より具体的には、配列番号:1もしくは3に記載の塩基配列を含むDNAもしくはその一部をプローブとして、または配列番号:1もしくは3に記載の塩基配列を含むDNAに特異的にハイブリダイズするDNAをプライマーとして使用し、マラリア原虫から配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNAと高い相同性を有するDNAを単離することは、当業者にとって通常行い得ることである。このように、ハイブリダイゼーション技術およびPCR技術によって単離し得る、配列番号:1もしくは3に記載の塩基配列を含むDNAとハイブリダイズするDNAもまた本発明のDNAに含まれる。このようなDNAには、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質のマラリア原虫ホモログをコードするDNAが含まれる。マラリア原虫ホモログには、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、および卵型マラリア原虫(Plasmodium ovale)などに存在する配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質のホモログが含まれる。
【0018】
上記DNAは、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイゼーション反応を行うことによって単離される。本発明において「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」とは、例えば65℃ 4 x SSCにおけるハイブリダイゼーション、次いで65℃で1時間0.1 x SSC中での洗浄を意味する。別のストリンジェントな条件は、50%ホルムアミド中42℃ 4 x SSCにおけるハイブリダイゼーションである。さらに別のストリンジェントな条件は、PerfectHyb(商標)(TOYOBO)溶液中65℃2.5時間ハイブリダイゼーション、次いで(1) 0.05% SDSを含む2xSSCで、25℃5分、(2) 0.05% SDSを含む2xSSCで、25℃15分、および(3) 0.1% SDSを含む0.1xSSCで、50℃20分の洗浄である。こうして単離されたDNAは、アミノ酸レベルにおいて、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列と高い相同性を有するポリペプチドをコードすると考えられる。本明細書において、「高い相同性」とは、アミノ酸配列全体で少なくとも70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列の同一性を指す。
【0019】
アミノ酸配列または塩基配列の同一性レベルは、KarlinおよびAltschulによるアルゴリズムBLAST(Karlin, S. & Altschul, S.F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1990, 87,:2264-2268、Karlin, S. & Altschul, S.F., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1993, 90:5873-5877)を用いて決定できる。BLASTのアルゴリズムに基づいたBLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul, S.F. et al., J. Mol. Biol., 1990, 215:403)。BLASTNを用いて塩基配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTXを用いてアミノ酸配列を解析する場合は、パラメーターは、例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(National Institute of Biotechnology Informationのウエブサイト、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/を参照のこと)。
【0020】
本発明のDNAには、ゲノムDNA、cDNAおよび化学合成DNAが含まれる。ゲノムDNAおよびcDNAの調製は、当業者にとって常套手段により行うことが可能である。ゲノムDNAは、例えば、(i) マラリア原虫からゲノムDNAを抽出し、(ii) ゲノミックライブラリー(ベクターとして、例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、BACまたはPACを利用)を作製し、(iii) このライブラリーを展開して、(iv) 本発明のマラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNA(例えば、配列番号:1または3)を基に調製したプローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーションを行うことで調製できる。または、ゲノムDNAを、本発明のマラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNA(例えば、配列番号:1または3)に特異的なプライマーを利用したPCRによって調製することも可能である。一方、cDNAは、例えば、(i) マラリア原虫から抽出したmRNAを基にcDNAを合成し、(ii) 合成cDNAをλZAPなどのベクターに挿入してcDNAライブラリーを作製し、(iii) cDNAライブラリーを展開して、(iv) 上記と同様にコロニーハイブリダイゼーションまたはプラークハイブリダイゼーションを行うことで調製できる。または、PCRにより調製できる。
【0021】
本発明はまた、配列番号:2もしくは4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質と構造的に類似しているタンパク質をコードするDNAも提供する。このようなDNAとしては、該タンパク質において1もしくは複数のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする塩基配列を含むDNAが挙げられる。上記タンパク質におけるアミノ酸の変異数や変異部位は、変異した蛋白質の機能(例えば、以下の文献に記載の機能: Mark, D. F. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1984) 81:5662-5666;Zoller, M. J. & Smith, M., Nucleic Acids Research (1982) 10:6487-6500;Wang, A. et al., Science 224:1431-1433;Dalbadie-McFarland, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1982) 79:6409-6413)が保持される限り制限はない。変異するアミノ酸数の割合としては、典型的には、全アミノ酸残基の10%以内であり、好ましくは全アミノ酸の5%以内であり、さらに好ましくは全アミノ酸の1%以内である。また、変異するアミノ酸数は、通常、30アミノ酸以内であり、好ましくは15アミノ酸以内であり、より好ましくは5アミノ酸以内、さらに好ましくは3アミノ酸以内であり、さらにより好ましくは2アミノ酸以内である。
【0022】
変異が導入されるアミノ酸残基は、変異後のアミノ酸と側鎖の性質が保持されることが好ましい(アミノ酸の保存的置換として知られる工程)。アミノ酸側鎖の性質としては、例えば、疎水性(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、および親水性(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)のものを挙げることができる。また、アミノ酸の側鎖としては、脂肪族の側鎖(G、A、V、L、I、P)、水酸基を含む側鎖(S、T、Y)、硫黄原子を含む側鎖(C、M)、カルボン酸およびアミドを含む側鎖(D、N、E、Q)、塩基性側鎖(R、K、H)、ならびに芳香族側鎖(H、F、Y、W)が挙げられる。
【0023】
1もしくは複数のアミノ酸残基が付加したタンパク質の例としては、マラリア原虫のGWT1蛋白質を含む融合タンパク質が挙げられる。融合タンパク質は、当業者に周知の方法によって作製することができる。例えば、本発明のマラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAと、他のペプチドまたは蛋白質をコードするDNAとを、読み枠が合うように結合させることができるが、特定の方法には制限されない。本発明の蛋白質は、公知の種々のペプチドと融合蛋白質を形成させることができる。このようなペプチドには、FLAG (Hopp, T. P. et al., Biotechnology (1988) 6:1204-1210)、6x His、10x His、インフルエンザ アグルチニン(Influenza agglutinin (HA))、ヒトc-myc断片、VSP-GP断片、p18HIV断片、T7-tag、HSV-tag、E-tag、SV40T抗体断片、lck tag、α-チューブリン断片、B-tag、およびプロテインC断片が含まれる。本発明の蛋白質と融合させることのできる蛋白質の例としては、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、HA、イムノグロブリン定常領域、β-ガラクトシダーゼ、およびマルトース結合蛋白質(MBP)を挙げることができる。
【0024】
上記したハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用する他に、当業者は、例えば、該DNAに対し、部位特異的変異誘発法(Kramer, W. & Fritz, H.J., Methods Enzymol., 1987, 154:350)を含む方法により変異を導入する方法により上記DNAを調製することができる。また、自然界においても、蛋白質をコードする塩基配列の変異により、蛋白質のアミノ酸配列が変異することは起こり得ることである。また、塩基配列が変異していても、その変異が蛋白質中のアミノ酸の変異を伴わない場合(縮重変異)があり、このような縮重変異DNAも本発明に含まれる。また、本発明の上記DNAによりコードされる蛋白質もまた本発明に含まれる。
【0025】
本発明は、本発明のDNAを含むベクター、本発明のDNAまたはベクターを保持する形質転換体、および該形質転換体を利用した本発明の蛋白質の製造方法を提供する。
【0026】
本発明のベクターは、ベクターを挿入したDNAを安定に保持するものであれば特に制限されない。例えば、宿主として大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescript(登録商標)ベクター(Stratagene社製)が好ましい。本発明の蛋白質を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、インビトロ、大腸菌内、培養細胞内、およびインビボで蛋白質を発現する限り特に制限されない。発現ベクターの好ましい例として、インビトロ発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌発現であればpETベクター(Novagen社製)、培養細胞内発現であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、およびインビボであればpME18Sベクター(Mol. Cell Biol., 8:466-472(1988))が挙げられる。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編、1987、John Wiley & Sons.、Section 11.4-11.11)。
【0027】
本発明のベクターが導入される宿主細胞としては特に制限はなく、本発明の目的に応じて種々の宿主細胞を用いることができる。蛋白質を発現させるために用いることができる細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)、および植物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology、Ausubel et al.編、1987、Publish. John Wiley & Sons, Inc.、Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCO-BRL社製)、およびマイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0028】
適当な分泌シグナルを目的の蛋白質に組み込むことによって、宿主細胞において発現した蛋白質を、小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させることができる。これらのシグナルは目的の蛋白質に対して内因性であっても、外因性であってもよい。
【0029】
本発明の蛋白質の回収は、本発明の蛋白質が培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明の蛋白質が細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後に蛋白質を回収する。
【0030】
本発明の蛋白質は、組換え細胞培養物から、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含むがこれらに限定されない公知の方法を用いることによって、回収され、精製されることができる。
【0031】
本発明におけるDNAを含む化合物は、単離された状態の化合物である。ここで、「単離」とは、本来の環境(たとえば自然に発生するのであればその自然環境)から取り出されることを指す。対象化合物に実質的に富む試料中に存在する化合物および/または対象化合物が部分的もしくは実質的に精製されている試料中に存在する化合物は、「単離」された化合物である。ここで「実質的に精製した」という用語は、その天然の環境から切り離されて、共存する天然の他の成分を少なくとも60%、好ましくは75%、および最も好ましくは90%含まない状態を指す。
【0032】
本発明は、マラリア原虫のGWT1遺伝子産物の活性を抑制する抗マラリア剤を提供する。マラリア原虫のGWT1遺伝子産物の活性を抑制する化合物は、好ましくは国際公開公報第02/04626号に記載されている化合物であり、化合物(1)〜(5)が含まれる。

化合物(1):1-(4-ブチルベンジル)イソキノリン

化合物(2):4-[4-(1-イソキノリルメチル)フェニル]-3-ブチン-1-オール

化合物(3):5-ブチル-2-(1-イソキノリルメチル)フェノール

化合物(4):2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-3-メトキシピリジン

化合物(5):N-[2-(4-ブチルベンジル)-3-ピリジル]-N-メチルアミン
【0033】
マラリア原虫のGWT1遺伝子産物の活性を抑制する化合物もしくはその塩またはそれらの水和物は、それ自体を哺乳動物(好ましくはヒト)に投与することもできる。それらは慣用されている方法により、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤、ローション剤等として製剤化して投与することもできる。
【0034】
製剤化には、通常用いられる製剤化助剤(例えば賦形剤、結合剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤、ならびに必要により安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調製剤、防腐剤および抗酸化剤)を使用することができる。製剤は、一般に医薬品製剤の原料として用いられる成分を配合して常法により製剤化され得る。
【0035】
例えば経口製剤は、本発明における化合物またはその薬理学的に許容される塩と賦形剤、さらに必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味矯臭剤などを加えた後、この混合物を常法により散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤等に製剤化することによって製造される。
【0036】
これらの成分としては例えば、大豆油、牛脂および合成グリセライド等の動物脂肪および植物油;流動パラフィン、スクワランおよび固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシルおよびミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコールおよびベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油およびポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドンおよびメチルセルロースなどの水溶性高分子;エタノールおよびイソプロパノールなどの低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびソルビトールなどの多価アルコール;グルコースおよびショ糖などの糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウムおよびケイ酸アルミニウムなどの無機粉体;ならびに精製水などがあげられる。賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロースおよび二酸化ケイ素が挙げられる。結合剤としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、メグルミンなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチンおよびカルボキシメチルセルロース・カルシウムが挙げられる。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、硬化植物油等が挙げられる。着色剤としては、例えば医薬品に添加することが許可されているものである。矯味矯臭剤としては、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等である。これらの錠剤・顆粒剤には糖衣、その他必要によりコーティングすることはもちろん差支えない。
【0037】
また、シロップ剤および注射用製剤等の液剤を常法により製造することができる。このような方法において、本発明に係る化合物またはその薬理学的に許容される塩にpH調整剤、溶解剤、等張化剤などと、必要に応じて溶解補助剤、安定化剤などを加える。
【0038】
外用剤を製造する際の方法は限定されず、常法により製造することができる。すなわち製剤化にあたり使用する基剤原料は、医薬品、医薬部外品、化粧品等に通常使用される各種原料から選択することが可能である。使用する基剤原料として具体的には、例えば動物脂肪および植物油、鉱物油、エステル油、ワックス類、高級アルコール類、脂肪酸類、シリコン油、界面活性剤、リン脂質類、アルコール類、多価アルコール類、水溶性高分子類、粘土鉱物類および精製水などの原料が挙げられる。さらに必要に応じ、pH調整剤、抗酸化剤、キレート剤、防腐抗真菌剤、着色料、香料などを添加することができる。しかし、本発明にかかる外用剤の基剤原料はこれらに限定されない。また必要に応じて、分化誘導作用を有する成分、血流促進剤、殺菌剤、消炎剤、細胞賦活剤、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤および角質溶解剤等の成分を配合することもできる。なお上記基剤原料は、通常外用剤の製造にあたり使用される濃度になる量で添加される。
【0039】
本発明に記載される「塩」には、例えば、無機酸との塩、有機酸との塩、無機塩基との塩、有機塩基との塩、または酸性もしくは塩基性アミノ酸との塩などが挙げられる。特に、薬理学的に許容される塩が好ましい。酸および塩基は、当該化合物1分子に対し0.1〜5分子の適宜な比で塩を形成する。
【0040】
無機酸との塩の好ましい例としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸およびリン酸との塩が挙げられる。有機酸との塩の好ましい例としては、酢酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ステアリン酸、安息香酸、メタンスルホン酸およびp-トルエンスルホン酸との塩が挙げられる。
【0041】
無機塩基との塩の好ましい例としては、ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩;カルシウム塩およびマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、およびアンモニウム塩などが挙げられる。有機塩基との塩の好ましい例としては、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、メグルミンおよびN,N’-ジベンジルエチレンジアミンとの塩が挙げられる。
【0042】
酸性アミノ酸との塩の好ましい例としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸との塩が挙げられ、塩基性アミノ酸との塩の好ましい例としては、アルギニン、リジンおよびオルニチンとの塩が挙げられる。
【0043】
本発明おける化合物もしくはその塩またはそれらの水和物は、その形態は特に限定されず、通常用いられる方法により経口投与されても非経口投与されてもよい。例えば錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、坐剤、注射剤、軟膏剤、眼軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤およびローション剤などの投与形態として製剤化することができる。本発明にかかる医薬組成物の投与量は、症状の程度、年齢、性別、体重、投与形態、塩の種類、疾患の具体的な種類等に応じて適宜選ぶことができる。
【0044】
本発明における化合物は、患者に対して治効量投与される。ここで「治効量」とは、意図される薬理学的結果を生じさせ、処置されるべき患者の症状を回復または軽減するために有効な薬剤の量である。投与量は、疾患の種類、症状の程度、患者の体重、患者の年齢、性差、薬剤に対する感受性差などにより著しく異なる。通常成人として1日あたり、約0.03〜1000mg、好ましくは0.1〜500mg、さらに好ましくは0.1〜100mgを1日1〜数回、または数日に1〜数回に分けて投与する。注射剤の場合は、通常約1μg/kg〜3000μg/kgであり、好ましくは約3μg/kg〜1000μg/kgである。
【0045】
さらに本発明は、マラリア原虫のGWT1遺伝子産物を用いた抗マラリア剤のスクリーニング法に関する。本スクリーニング法としては、これらに限定されないが、[1] マラリア原虫のGWT1遺伝子産物と結合する標識した化合物と競合する化合物をスクリーニングする結合アッセイ法、[2] マラリア原虫のGWT1遺伝子産物のGlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性を阻害する化合物をスクリーニングするGlcN-PIアシル-トランスフェラーゼアッセイ系、および[3] マラリア原虫のGWT1遺伝子産物を細胞、好ましくは真菌細胞に発現させて細胞表面のGPIアンカー蛋白質を検出するGPIアンカー蛋白質検出系が挙げられる。本発明はこれらの方法に限られず、マラリア原虫のGWT1遺伝子産物を使う抗マラリア剤の任意のスクリーニング方法が本発明に含まれる。上記[1]〜[3]に記載の方法を以下に詳細に記載する。
【0046】
[1] マラリア原虫のGWT1遺伝子産物と結合する標識した化合物に競合して結合する化合物をスクリーニングする結合アッセイ法
以下に本発明に記載された2つの方法、即ち、(1) マラリア原虫のGWT1遺伝子産物(以下マラリア原虫のGWT1蛋白質と記載する)を調製する方法、(2) 標識化合物の結合実験(以下結合アッセイと記載する)の方法について開示する。
【0047】
(1) マラリア原虫のGWT1蛋白質を調製する方法
マラリア原虫のGWT1蛋白質は、マラリア原虫のGWT1蛋白質(配列番号:2)をコードするDNAを導入した細胞、好ましくは真菌細胞、更に好ましくはS.セレビシエ(S. cerevisiae)に由来の細胞の膜画分から調製する。GWT1遺伝子を欠失している細胞にそのようなDNAを導入することが好ましい。結合アッセイは、調製した膜画分をそのまま使用してもよいし、使用の前に更に精製して用いてもよい。以下にS.セレビシエを使用した方法について具体的に説明する。
【0048】
(a) マラリア原虫のGWT1遺伝子の導入
本発明に使用されるマラリア原虫GWT1遺伝子は、天然型の遺伝子であってもよいが、好ましくは、配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を元に合成することができる。マラリア原虫GWT1遺伝子は非常にアデニンもしくはチミンに富んでいる。そのため、通常の遺伝子組換え操作の困難なこと、および、酵母や細胞等での遺伝子発現が十分ではないことが予想された。したがって、各アミノ酸に対応するコドンを、酵母もしくは細胞等において効率よく発現すると考えられるものに変換した塩基配列を設計し、これをもとにDNA合成を行い人工マラリア原虫GWT1遺伝子を作製する配列を設計し、以下の実験に用いることが好ましい。
【0049】
マラリア原虫のGWT1をS.セレビシエ発現ベクター、例えば発現ベクターYEp352のマルチクローニングサイトに適当なプロモーター・ターミネーター、例えばpKT10(Tanaka et al, Mol. Cell Biol., 10:4303-4313, 1990)由来のGAPDHプロモーター及びGAPDHターミネーターを挿入した発現ベクターに挿入してマラリア原虫のGWT1発現プラスミドを作製する。S.セレビシエ(例えばG2-10株)を、適当な培地(例えばYPD培地(Yeast extract-Polypeptone-Dextrose培地))にて、適当な温度(例えば30℃)で振とう培養し、対数増殖後期の時点で集菌する。洗浄後、例えば酢酸リチウム法によりGWT1発現プラスミドをS.セレビシエの細胞に導入する。この方法は、YEAST MAKER(商標) Yeast Transformation System (Biosciences Clonetech社製) User Manualに記載されている。SD(ura-)培地で30℃、2日間培養することによりマラリア原虫のGWT1過剰発現株および陰性の対照ベクター導入株を得ることができる。
【0050】
S.セレビシエ以外の真菌の発現ベクター及び遺伝子導入法は、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)(S.ポンベ)の発現ベクターpcL等及びその導入法についてIgarashi et al, Nature 353:80-83, 1991に、C.アルビカンス(C. albicans)の発現ベクターpRM10等及びその導入法についてPla J. et al, Yeast, 12: 1677-1702, 1996に、A.フミガーツス(A. fumigatus)の発現ベクターpAN7-1等及びその導入法についてPunt P.J. et al, GENE, 56: 117-124, 1987に、C.ネオフォルマンス(C. neoformans)の発現ベクターpPM8等及びその導入法についてMonden P. et al, FEMS Microbiol. Lett., 187: 41-45, 2000に記載されている。
【0051】
(b) 膜画分の調製法
マラリア原虫のGWT1遺伝子を導入したS.セレビシエ細胞を、適当な培地(例えばSD(ura-)液体培地)にて、適当な温度(例えば30℃)で振とうしながら培養する。この真菌細胞を、対数増殖中期の時点で集菌し、洗浄した後、適量(例えば真菌細胞量の3倍量)のホモジナイゼーション(Homogenization)緩衝液(例えば50 mM Tris-HCl, pH 7.5, 10 mM EDTA, Complete(商標)(Roche社製))に懸濁する。適量(例えば真菌細胞量の4倍量)のガラスビーズを懸濁液に加える。この混合物をボルテックスしては氷上に置く。この操作を数回繰り返して真菌細胞を破砕する。
【0052】
得られた溶解液に1 mlのホモジナイゼーション緩衝液を加える。これを、例えば2,500 rpmで5分間遠心して、ガラスビーズおよび未破砕の真菌細胞を沈殿させる。上清を別のチューブに移す。チューブを、例えば13,500 rpmで10分間遠心することにより、オルガネラを含む膜画分(Total membrane fraction)を沈殿させる。沈殿を1 mlの結合緩衝液(例えば0.1 M Phosphate 緩衝液, pH 7.0, 0.05% Tween 20, Complete(商標)(Roche社製))に懸濁し、例えば2,500 rpmで1分間遠心することにより懸濁されなかった材料を取り除く。上清を、例えば15,000 rpmで5分間遠心する。沈殿を150〜650μlの結合緩衝液に再懸濁して膜画分とする。
【0053】
S.セレビシエ以外の真菌の膜画分調製は、S.ポンベについてはYoko-o et al, Eur. J. Biochem. 257:630-637, 1998)に、C.アルビカンスについてはSentandreu M. et al, J. Bacteriol., 180: 282-289, 1998に、A.フミガーツスについてはMouyna I. et al, J. Biol. Chem., 275: 14882-14889, 2000に、C.ネオフォルマンスについてはThompson J.R. et al, J. Bacteriol., 181: 444-453, 1999に記載の方法により行うことができる。
【0054】
別法としてマラリア原虫のGWT1蛋白質は、真菌細胞以外の細胞、例えば大腸菌、昆虫細胞および哺乳類細胞等で発現させることによって、調製することができる。
【0055】
哺乳類細胞を使用する場合、マラリア原虫のGWT1遺伝子を、例えばCMVプロモーターを持つ過剰発現用ベクターにつないだ後、これを哺乳類細胞に導入する。Petaja-Repo et al., J. Biol. Chem., 276:4416-23, 2001に記載の方法により膜画分を調製することができる。
【0056】
マラリア原虫のGWT1遺伝子を発現する昆虫細胞(例えばSf9細胞)を、例えばBAC-TO-BAC(登録商標)Baculovirus Expression system(Invitrogen社製)等のバキュロウイルス発現キットを用いて作製することができる。その後、Okamoto et al., J. Biol. Chem., 276:742-751, 2001に記載の方法により膜画分を調製することができる。
【0057】
大腸菌からは、例えばpGEXベクター(Pfizer社製)等の大腸菌発現用ベクターにマラリア原虫のGWT1遺伝子をつなぎ、BL21などの大腸菌にこの構築物を導入することによって、マラリア原虫のGWT1蛋白質を調製することができる。
【0058】
(2) 結合アッセイの方法
(a) 標識化合物の合成
標識化合物は、GWT1蛋白質と結合することが確認された化合物から調製される。GWT1蛋白質と結合することができるいかなる化合物も使用することができる。好ましくは国際公開公報第02/04626号に記載の化合物、更に好ましくは、上記化合物(1)〜(5)の化合物である。
【0059】
いかなる標識の方法も使用することができる。化合物は、好ましくは放射性同位元素により標識され、更に好ましくは3Hにより標識される。放射性標識化合物を一般製造法によって、出発原料として放射性化合物を用いることにより調製することができる。あるいは、3H標識の場合は、3Hの交換反応により行うことが可能である。
【0060】
(b) 特異的結合の確認
調製した膜画分に標識化合物を加え、氷上にて適当な時間、例えば1〜2時間静置して、標識化合物と膜画分との結合反応を行う。その後、混合物を、例えば15,000 rpm, 3分間遠心して、膜画分を沈殿させる。沈殿を結合緩衝液に再度懸濁し、懸濁液を遠心する。この操作を適宜(2回)繰り返して、結合していない標識化合物を除去する。沈殿を結合緩衝液に再び懸濁する。得られた懸濁液を放射能測定用バイアルに移してシンチレーターを加える。液体シンチレーションカウンターにて放射活性を測定する。
【0061】
大過剰(10倍以上)の標識していない同化合物を加えることにより、標識化合物の結合が抑制されるか否か、および化合物とGWT1蛋白質を発現させていない真菌細胞から調製した膜画分との結合が無視しうる程度であるか否かを調べることによって、標識化合物がGWT1蛋白質に特異的に結合していることを確かめることができる。
【0062】
(c) 被検試料による標識化合物の結合阻害
調製した膜画分に被検試料及び標識化合物を加え、混合物を氷上にて適当な時間、例えば1〜2時間静置して、膜画分との結合反応を行う。本発明のスクリーニング方法に用いる被検試料としては、単一の天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質またはペプチド、並びに化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等が挙げられる。
【0063】
混合物を、例えば15,000 rpm, 3分間遠心して膜画分を沈殿させる。沈殿を結合緩衝液に再度懸濁し、遠心する。この操作を適宜(2回)繰り返して、結合していない標識化合物を除去する。沈殿を結合緩衝液に懸濁する。懸濁液を放射能測定用バイアルに移してシンチレーターを加える。液体シンチレーションカウンターにて放射活性を測定する。
【0064】
被検試料が存在する場合に、標識化合物の膜画分への結合が抑制されれば、被検試料はマラリア原虫のGWT1蛋白質に結合する活性があると判断される。
【0065】
[2] マラリア原虫のGWT1蛋白質のGlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性を阻害する化合物をスクリーニングするGlcN-PIアシル-トランスフェラーゼアッセイ系
GPIへのアシル基の転移は、Costello L.C. and Orlean P., J. Biol. Chem. (1992) 267:8599-8603; またはFranzot S.P. and Doering T.L., Biochem. J.(1999) 340:25-32に報告されている方法により検出可能である。以下に具体的な方法の例を挙げる。以下の実験条件は、使用する各々のマラリア原虫のGWT1蛋白質に合わせて最適化することが好ましい。
【0066】
マラリア原虫のGWT1蛋白質は[1]の節に記載される方法に従って調製される。適当な金属イオン(Mg2+、Mn2+)、ATP、コエンザイムA、及び好ましくはUDP-GlcNAcが他の反応に使われるのを阻害する阻害剤、例えばキチンの合成阻害剤としてニッコウマイシンZ(nikkomycin Z)またはアスパラギン結合型糖鎖形成の合成阻害剤としてツニカマイシン(tunicamycin)を含む緩衝液に、マラリア原虫のGWT1蛋白質を含む膜画分を加える。更に被検試料を加えて適当な温度で適当な時間(例えば24℃で15分間)保温する。
【0067】
適当に標識した、好ましくは放射性標識したGlcN-(アシル)PIの前駆体(例えばUDP-GlcNAc、Acyl-コエンザイムA、好ましくはUDP-[14C]GlcNAc)を混合物に加える。得られた混合物を適当な時間(例えば24℃で1時間)保温する。クロロホルム:メタノール(1:2)の混合物を添加し、得られた混合物を攪拌して反応を止め脂質を抽出する。抽出した反応産物を適当な溶媒、好ましくはブタノールに溶解する。その後、HPLCまたは薄層クロマトグラフィー(TLC)等の方法、好ましくはTLCにより、反応で生成したGlcN-(アシル)PIを分離する。TLCを使用する場合、展開溶媒は、例えばCHCl3/CH3OH/H2O(65:25:4)、CHCl3/CH3OH/1M NH4OH(10:10:3)、およびCHCl3/ピリジン/HCOOH(35:30:7)等から適宜選択することができる。好ましい展開溶媒は、CHCl3/CH3OH/H2O(65:25:4)である。分離したGlcN-(アシル)PIを、使用する標識に対応した方法により定量する。放射性同位元素で標識したのであれば、分離したGlcN-(アシル)PIは、この放射活性により定量される。
【0068】
被検試料が存在する場合に、生成するGlcN-(アシル)PIの量が減少すれば、被検試料にマラリア原虫のGWT1蛋白質によるアシル基転移を抑制する活性があると判断される。
【0069】
[3] マラリア原虫のGWT1蛋白質を細胞に発現させて細胞膜表面のGPIアンカー蛋白質を検出する工程を含むGPIアンカー蛋白質検出系
マラリア原虫のGWT1蛋白質の活性を阻害する被検試料の能力は、マラリア原虫のGWT1蛋白質を細胞、好ましくは真菌細胞に発現させて細胞膜表面のGPIアンカー蛋白質を検出する工程を含むGPIアンカー蛋白質検出系によっても決定することができる。本発明における真菌は、接合菌、子嚢菌、担子菌および不完全菌門に属する菌種であり、好ましくは病原性真菌、ケカビ属(Mucor)、サッカロミセス属(Saccharomyces)、カンジダ属(Candida)、クリプトコッカス属(Cryptococcus)、トリコスポロン属(Trichosporon)、マラセジア属(Malassezia)、アスペルギルス属(Aspergillus)、白癬菌属(Trichophyton)、小胞子菌属(Microsporum)、スポロトリクス属(Sporothrix)、ブラストミセス属(Blastomyces)、コクシジオイデス属(Coccidioides)、パラコクシジオイデス属(Paracoccidioides)、ペニシリウム属(Penicillinium)およびフザリウム属(Fusarium)であり、より好ましくはC.アルビカンス、C.グラブラタ(C. glabrata)、C.ネオフォルマンスおよびA.フミガーツスであり、さらに好ましくは酵母である。酵母としては、S.セレビシエ及びS.ポンベが挙げられる。マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAが挿入された発現ベクターを上記真菌細胞へ導入する方法は、当業者に周知である。
【0070】
マラリア原虫のGWT1蛋白質を真菌細胞に発現させた場合、(1)レポーター酵素を用いる方法、(2)真菌細胞壁の表層糖蛋白質と反応する抗体を用いる方法、(3)動物細胞に対する蛋白質の付着能を用いる方法、または(4)真菌細胞を光学顕微鏡もしくは電子顕微鏡で観察する方法により、GPIアンカー蛋白質の真菌細胞壁への輸送量を検定できる。
【0071】
(1)〜(4)の方法は国際公開公報第02/04626号に開示されており、発明の実施例に具体的に記載されている。(1)〜(4)の方法により、好ましくは(1)〜(4)の方法を組み合わせて用いることにより、被検試料がGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送を阻害するか否か、またはGPIアンカー蛋白質の真菌細胞表層への発現を阻害するか否かをを判定することができる。
【0072】
以下、(1)〜(4)の方法を説明する。
【0073】
(1) レポーター酵素を用いる方法
GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程は、GPIアンカー蛋白質を放射性同位元素で標識し、真菌細胞壁画分を得た後、GPIアンカー蛋白質に対する抗体による免疫沈降を行うといったトレーサー実験により定量することが可能である。または、下記のように、より容易に定量することができる。即ち、GPIアンカー蛋白質に共通して見られ、輸送のシグナルとして機能すると考えられるC末端配列を、測定の容易な酵素(レポーター酵素)との融合蛋白質として発現させ、真菌細胞壁画分を得て、各画分の酵素活性を測定するレポーター系を使用することができる。(Van Berkel MAA et al, FEBS Letters, 349: 135-138, 1994)。以下にレポーター酵素を用いた方法について説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0074】
先ず、レポーター遺伝子を構築し真菌に導入する。レポーター遺伝子は、真菌で機能するプロモーター配列と、それぞれシグナル配列、レポーター酵素およびGPIアンカー蛋白質C末端配列をコードするDNAとを、リーディングフレームを合わせてつなぎ合わせて構築する。プロモーター配列としては、例えばGAL10、ENO1のプロモーターの配列等が挙げられる。シグナル配列としては、例えばα-ファクター、インべルターゼ、およびリゾチームが挙げられる。レポーター酵素としては、例えばβラクタマーゼ、リゾチーム、アルカリホスファターゼ、およびβガラクトシダーゼが挙げられる。酵素活性は持たないが容易に検出が可能な緑色蛍光蛋白質(Green Fluorescence Protein)(GFP)を用いても良い。GPIアンカー蛋白質C末端配列としては、α-アグルチニンC末端配列、CWP2C末端配列等が挙げられる。また、構築したレポーター遺伝子を含むベクター中に、適当な選択マーカー、例えばLEU2、URA3等を挿入しておくことが好ましい。
【0075】
構築したレポーター遺伝子を、適当な方法、例えば酢酸リチウム法(Gietz D. et al, Nucl. Acids Res. 20: 1425, 1992)により真菌に導入する。必要であれば選択マーカーに適した方法を用いて(例えば、LEU2であればLeu-の培地、URA3であればUra-の培地を用いて)培養し、DNAが導入された真菌を選択する。
【0076】
GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送における被検試料の効果は、以下の方法により検定される。
【0077】
レポーター遺伝子を導入した真菌を、被検試料の存在下、適当な条件、例えば30℃で48時間培養する。培養後、培養上清を遠心分離し、培養上清画分のレポーター酵素の活性を測定する。残された細胞画分は、洗浄後、適当な方法、例えばグルカナーゼで細胞壁グルカンを分解することにより、細胞壁成分を分離し、細胞壁画分及び細胞質画分のレポーター酵素の活性を測定する。アッセイは、遠心分離後、細胞の洗浄は行わずに、細胞画分中に残る培養上清画分由来のレポーター酵素量を比例計算により求め、細胞画分のレポーター酵素量からこれを差し引いて細胞画分中のレポーター酵素量を決定することにより、簡便に行うことができる。
【0078】
被検試料に、培養上清画分中のレポーター酵素活性を上昇させる活性、あるいは細胞壁画分中のレポーター酵素活性を低下させる活性が示されれば、該被検試料はGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程に影響を与えたと判断される。
【0079】
(2) 真菌細胞壁の表層糖蛋白質と反応する抗体を用いる方法
GPIアンカー蛋白質の真菌表層での発現に影響を与える被検試料の能力は、真菌細胞壁中のGPIアンカー蛋白質と反応する抗体によって定量することが可能である。
【0080】
抗体としては、例えば、α-アグルチニン、Cwp2pまたはAls1p等のGPIアンカー蛋白質のアミノ酸配列より抗原決定基を予想して(Chen M.H. et al, J. Biol. Chem., 270:26168-26177, 1995;Van Der Vaat J.M. et al, J. Bacteriol., 177:3104-3110, 1995;Hoyer L.L. et al, Mol. Microbiol., 15:39-54, 1995)、その領域のペプチドを合成し、異種蛋白質等の抗原性のある物質に結合させて、家兎等に免疫してポリクローナル抗体を得るか、またはマウス等に免疫してモノクローナル抗体を得ることが可能である。Als1pペプチドに対する家兎ポリクローナル抗体が好ましい。
【0081】
また別法として真菌、好ましくはGPIアンカー蛋白質、例えばα-アグルチニン、Cwp2pおよびAls1p等を過剰発現させた真菌(場合によっては更に部分精製したGPIアンカー蛋白質)を、マウス等に免疫し、得られたクローンを、その産生する抗体をELISA、ウエスタンブロット解析等で選択することにより、GPIアンカー蛋白質に対するモノクローナル抗体を得ることが可能である。
【0082】
以下の方法は、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程における被検試料の影響、および細胞壁中のGPIアンカー由来蛋白質由来の蛋白質量における被検試料の影響を検定できる。
【0083】
真菌を、被検試料の存在下、適当な条件、例えば30℃、48時間培養する。培養した真菌を遠心により集菌し、細胞を好ましくはガラスビーズを用いて破砕する。洗浄した破砕細胞を、好ましくはSDSで抽出遠心後、沈殿を洗浄する。抽出後の破砕細胞を、グルカンを分解する酵素、好ましくはグルカナーゼで処理し、その遠心上清をGPIアンカー蛋白質試料とする。
【0084】
抗Als1pペプチド抗体を、96ウェルプレートに4℃で一晩インキュベーションしてコーティングする。洗浄液、好ましくは0.05% Tween 20含有PBS(PBST)で洗浄後、96ウェルプレートの非特異的吸着部位をブロックする試薬、好ましくはBSA、ゼラチン等の蛋白質、更に好ましくはブロックエース(大日本製薬)でブロッキングする。プレートを再度洗浄液好ましくはPBSTで洗浄後、適当に希釈したGPIアンカー蛋白質試料を加える。適当な時間、例えば室温で2時間反応させる。洗浄液、好ましくはPBSTで洗浄後、酵素標識したC.アルビカンスに対する抗体、好ましくはHRP標識抗カンジダ抗体を、適当な時間、例えば室温で2時間反応させる。標識の方法は、酵素標識であっても、放射性同位元素による標識であってもよい。洗浄液、好ましくはPBSTで洗浄後、標識の種類に適した方法、即ち、酵素標識であれば基質溶液を加え、反応停止後490 nmの吸光度を測定することにより、GPIアンカー蛋白質試料中のAls1p量を算出する。
【0085】
(3) 動物細胞に対する付着能による方法
GPIアンカー蛋白質の真菌表層での発現における被検試料の影響を、真菌細胞壁中のGPIアンカー蛋白質の活性、好ましくは真菌の動物細胞への付着能等を測定することにより、検定可能である。GPIアンカー蛋白質の活性としては、動物細胞への付着に関与するAls1p、Hwp1等の他に、接合(mating)に関与するα-アグルチニン、酵母の凝集に関与するFlo1p等が含まれる。以下に、真菌の動物細胞への付着能による方法について詳細に記載するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0086】
真菌としては、細胞に対する付着能を有する真菌を使用し、真菌はC.アルビカンスであることが好ましい。哺乳類細胞としては、真菌が接着する細胞、好ましくは腸管上皮細胞であることが好ましい。哺乳類細胞を培養し、適当な方法、例えばエタノール固定により固定する。被検試料と真菌を適当な時間、例えば30℃で48時間インキュベートし、一定時間、例えば30℃で1時間培養する。培養上清を除去し、細胞を緩衝液で洗浄して寒天培地、例えばサブロー・デキストロース寒天培地(Becton Dickinson)を重層する。30℃一晩培養後、コロニー数をカウントし、付着率を計算する。
【0087】
被検試料に、化合物処理を行わなかった真菌と比較して、細胞に付着することにより形成されたコロニー数を低下させる活性が認められれば、該被検試料はGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程に影響を与えたと判断される。
【0088】
(4) 真菌を電子顕微鏡または光学顕微鏡で観察する方法
GPIアンカー蛋白質の真菌表層での発現における被検試料の影響は、真菌細胞壁の構造を電子顕微鏡により観察することにより検定が可能である。
【0089】
被検試料の存在下で、C.アルビカンス等の真菌を、一定時間、例えば30℃で48時間培養し、透過型電子顕微鏡を用いて超微形態学的構造を観察する。ここで、透過型電子顕微鏡による観察は、例えば電子顕微鏡チャートマニュアル(医学出版センター)に記載の方法により行うことができる。真菌細胞の最外層の綿状線維構造は、電子密度が高く、透過型電子顕微鏡で見ることができる。この構造は、既存の他の抗真菌剤では影響を受けず、GPIアンカー蛋白質を構成成分として含む表層糖蛋白質層であると考えられる。この構造が、無処置の細胞と比較して、僅かな高電子密度の層を残して消失している場合は、該被検試料が、GPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送過程に影響を与えたと判断される。
【0090】
また透過型電子顕微鏡と光学顕微鏡下での観察で、真菌細胞が大きく膨化し出芽(分裂)が阻害されていることが観察される場合、該被検試料が細胞壁に対して影響を与えていると判断される。
【0091】
また、本発明は、マラリアを治療する方法であって、マラリア原虫のGWT1蛋白質の活性を阻害する化合物を投与する工程を含む方法を提供する。このような化合物には、国際公開公報第02/04626号に記載されている化合物(例えば、本明細書に記載されている化合物(1)〜(5))が含まれる。
【0092】
天然型PfGWT1蛋白質の塩基配列は、AT含率が非常に高い(80.41%)という特徴を有し、使用コドンに偏りがみられる。また遺伝子には、6個以上連続したAの残基を23箇所で含む配列ストレッチが含まれ、これらの配列ストレッチは偽Poly(A)サイトとして機能して短い蛋白質が産生される可能性がある。上記の特性から、酵母内での遺伝子発現は少なく、またPCRによる増幅、又は大腸菌内での複製は非常に困難であった。また、塩基配列決定が非常に困難であった。しかし、本発明者らは、PfGWT1蛋白質をコードするDNAと比較して、AT含率が低下した縮重変異DNA(配列番号:5)を利用することで、PfGWT1蛋白質を効率よく発現させることに成功した。さらに、本発明者らは、この縮重変異DNAをGWT1欠失酵母に導入することで、該酵母の表現型が相補されることを見出した。この知見は、酵母等の真菌のGPI合成とマラリア原虫のGPI合成酵素が代替可能であることを示唆している。
【0093】
マラリア原虫のGPI合成酵素をコードする遺伝子におけるAT含率は、例えば熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)GPI8では79.35%であり、熱帯熱マラリア原虫GPI13では77.89%である。これらのAT含率は、PfGWT1と同様に高い。また熱帯熱マラリア原虫ゲノムの翻訳領域の平均AT含率は76.3%であることから、ほとんどの熱帯熱マラリア原虫遺伝子は他生物種での発現が困難であると考えられる。本発明者らは、PfGWT1蛋白質をコードするDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAの酵母内発現に成功した。したがって、このような縮重変異DNAを利用することで、マラリア原虫以外の宿主で、マラリア原虫のGPI合成酵素を発現できる。また、GPI欠失酵母およびGWT1欠失酵母は、致死性等の特徴を含むことが知られている。よって、上記縮重変異DNAを利用することで、GPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型を相補可能である。
【0094】
上記縮重変異DNAが導入されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型は、マラリア原虫のGPI合成酵素の活性に依存している。よって、該GPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型を指標として、マラリア原虫のGPI合成酵素の活性を阻害する化合物をスクリーニングすることができる。これにより、マラリア原虫を実際に用いることなくGPI生合成経路をターゲットとした抗マラリア剤を選択することが可能となる。
【0095】
本発明は、GPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードする縮重変異DNAであって、GPI生合成に関与する蛋白質をコードする本来のDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAを提供する。このようなDNAは本発明のスクリーニング方法に利用できる。
【0096】
本明細書において、「AT含率」とはGPI合成酵素遺伝子コード領域の全塩基配列中に占めるアデニンおよびチミンの含有率を指す。本発明の縮重変異DNAにおけるAT含率は、好ましくは50%から70%以下であり、より好ましくは53%から65%以下、さらにより好ましくは55%から62%以下である。
【0097】
GPI合成酵素遺伝子欠失真菌の表現型としては、温度感受性(好ましくは高温感受性)および致死性が含まれる。
【0098】
本発明における蛋白質としては、GWT1, GPI1, GPI8, GPI3/PIG-A, GPI10/PIG-B, YJR013W/PIG-M, GPI13/PIG-O, GAA1/GAA-1, DPM1, GPI2, GPI15, YDR437W, GPI12, MCD4, GPI11, GPI7, GPI17, GPI16, CDC91, DPM2, DPM3, SL15が挙げられる。これらの蛋白質のGPI1およびGPI8はマラリア原虫において存在することが見出されており、GPI3/PIG-A, GPI10/PIG-B, YJR013W/PIG-M, GPI13/PIG-O, GAA1/GAA-1,およびDPM1はマラリア原虫においてその存在が示唆されている(Delorenzi et al, Infect. Immun. 70: 4510-4522, 2002)。熱帯熱マラリア原虫のGWT1, GPI1, GPI8, GPI3/PIG-A, GPI10/PIG-B, YJR013W/PIG-M, GPI13/PIG-O, GAA1/GAA-1およびDPM1の塩基配列をそれぞれ配列番号:1および配列番号:6〜21の偶数番号に示す。それぞれに対応するアミノ酸配列を配列番号:2および配列番号:6〜21の奇数番号に示す。また、三日熱マラリア原虫のGWT1の塩基配列を配列番号:3に示し、対応するアミノ酸配列を配列番号:4に示す。その他のマラリア原虫のGWT1, GPI1, GPI8, GPI3/PIG-A, GPI10/PIG-B, YJR013W/PIG-M, GPI13/PIG-O, GAA1/GAA-1またはDPM1は、配列番号:1および3ならびに配列番号:6〜21の偶数番号に記載の塩基配列のいずれか1つを含むDNAを利用することで、当業者に周知の方法(例えば、ハイブリダイゼーション技術やPCR技術を利用する方法)によりクローニングできる。
【0099】
また、GWT1, GPI1, GPI8, GPI3/PIG-A, GPI10/PIG-B, YJR013W/PIG-M, GPI13/PIG-O, GAA1/GAA-1およびDPM1以外のマラリア原虫GPI合成酵素遺伝子は、酵母またはヒト由来のGPI合成酵素遺伝子を利用することでクローニングできる。酵母(S.セレビシエ)のGPI2, GPI15, YDR437W, GPI12, MCD4, GPI11, GPI7, GPI17, GPI16およびCDC91の塩基配列をそれぞれ配列番号:22〜41の偶数番号に示し、対応するアミノ酸配列を配列番号:22〜41の奇数番号に示す。また、ヒトのDPM2, DPM3およびSL15の塩基配列をそれぞれ配列番号:42〜47の偶数番号に示し、対応するアミノ酸配列を配列番号:42〜47の奇数番号に示す。
【0100】
マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードする本来のDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAを製造は、設計と合成の2つの工程からなる。まず、設計工程においては、目的とする蛋白質のアミノ酸配列をもとに逆翻訳をおこない各アミノ酸残基の取り得るコドンをリストアップする。逆翻訳は、市販の遺伝子解析ソフトウエア(例えば、DNASIS-Pro、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社)を用いることにより可能である。リストアップしたコドンの中から、目的に合致したもの(例えば、AT含率の低いコドン、および遺伝子発現のため使用される宿主において使用頻度の高いコドン)をそれぞれのアミノ酸について選択する。目的とする蛋白質のアミノ酸配列を再構成することにより、縮重変異DNAを設計することが可能である。
【0101】
設計したDNAは、当業者に周知の方法で合成することができる。本発明の縮重変異DNAは、例えば、設計した塩基配列を基に、市販のDNA合成機を使用して合成することができる。
【0102】
本発明はまた上記縮重変異DNAが挿入されたベクター、該DNAまたは該ベクターを発現可能に保持する形質転換体(好ましくはGPI合成酵素遺伝子欠失真菌)を提供する。ベクターや宿主は上述のものを使用できる。
【0103】
本明細書において、「GPI合成酵素遺伝子を欠失する」とは、機能を持った該遺伝子の産物の発現が無い、あるいは発現レベルが減少することを意味する。本発明のGPI合成酵素遺伝子欠失真菌は、該GPI遺伝子を破壊することで製造できる。例えば相同組換えの技術を使って、該遺伝子に無関係なDNA、例えば選択マーカー等を挿入することにより、破壊することができる。より具体的には、S.ポンベのhis5遺伝子またはカナマイシン耐性遺伝子(Longtine et al, Yeast, 14: 953-961, 1998)を該遺伝子の部位に相同の塩基配列(50塩基から70塩基)を含むプライマーで増幅した選択マーカーカセットを酵母に導入することで製造できる。
【0104】
本発明のGPI合成酵素遺伝子欠失真菌には、例えばGWT1温度感受性変異株gwt1-20、GPI7破壊株、GPI8変異株gpi8-1、およびGPI10温度感受性変異株per13-1が含まれる。
【0105】
本発明の縮重変異DNAで形質転換されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌は、該縮重変異DNAが挿入されたベクターを該真菌に導入することで作製できる。ベクターとしては、S.セレビシエではpRS316、YEp351など、S.ポンベではpcL、pALSKなどを用いることができる。
【0106】
さらに、本発明は、上記のGPI合成酵素遺伝子欠失真菌を用いた抗マラリア剤のスクリーニング方法を提供する。
【0107】
このような方法として、第1の工程は、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAで形質転換されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させることを含む。「接触」は、上記真菌の培養液に被検試料を添加することにより行うことができる。被検試料がタンパク質の場合には、該タンパク質をコードするDNAを含むベクターを、上記真菌へ導入することが可能である。
【0108】
本発明の方法において、次の工程は、上記真菌の増殖を測定することを含む。より具体的には、通常の培養条件下すなわち酵母エキス-ポリペプトン-デキストロース(Yeast extract-polypeptone-dextrose)培地(YPD培地)等の液体培地中または寒天培地上に真菌を接種し、25℃から37℃で4時間から72時間程度培養する。本発明の縮重変異DNAで形質転換されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌の増殖を測定することができる。また、増殖の程度は、培養液の濁度、寒天培地上に形成されたコロニー数またはスポットの大きさもしくは色を指標に測定できる。本発明の方法において、次の工程は、上記真菌の増殖を阻害する化合物を選択することを含む。
【0109】
別の方法として、第1の工程は、上記縮重変異DNAが導入されたGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させることを含む。次の工程では、GPIアンカー蛋白質の酵母細胞壁への輸送量を検出することが含まれる。検出方法としては、(1) レポーター酵素を用いる方法、(2) 真菌細胞壁の表層糖蛋白質と反応する抗体を用いる方法、(3) 動物細胞に対する付着能による方法、および(4) 真菌を光学顕微鏡または電子顕微鏡で観察する方法が挙げられる。本発明の方法において、次の工程は、検出されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる試料を選択することを含む。
【0110】
本発明は、本発明の縮重変異DNAを利用して調製したGPI生合成に関与する蛋白質を利用して、抗マラリア剤をスクリーニングする方法を提供する。このような方法として、例えば、スクリーニング工程が、GPI生合成に関与する蛋白質と結合する標識した化合物に競合して結合する化合物を選択することで実施される結合アッセイ系が挙げられる。具体的には、本発明の縮重変異DNAをGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に導入し、該DNAによりコードされる蛋白質を該真菌で発現させ、発現させた蛋白質を調製する。次いで、調製した蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合可能な標識化合物を接触させる。次の工程において、該蛋白質に結合する標識化合物を検出し、該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する。
【0111】
また、本発明は、GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼアッセイ系も提供する。このような系は、GWT1遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードする本来のDNAと比較してAT含率が低下した縮重変異DNAを利用して調製したGWT1蛋白質の使用を含む。具体的には、該縮重変異DNAをGWT1遺伝子欠失真菌に導入し、該縮重変異DNAによりコードされる蛋白質を真菌で発現させ、発現させた蛋白質を調製する。次いで、この蛋白質と被検試料とを接触させ、GlcN-(アシル)PIを検出し、GlcN-(アシル)PIの量を減少させる被検試料を選択する。
【0112】
本明細書で引用するあらゆる特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0113】
発明を実施するための最良の形態
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0114】
実施例1.熱帯熱マラリア原虫GWT1(P.falciparum GWT1)(PfGWT1)
(1)熱帯熱マラリア原虫GWT1(PfGWT1)の塩基配列(配列番号:1)は、熱帯熱マラリア原虫ゲノムデータベース(PlasmoDB database, http://plasmodb.org/) 上に公開されている。PfGWT1遺伝子は、熱帯熱マラリア原虫(3D7 strain)より精製したゲノムDNAを鋳型としたPCRによってクローニングされた。PfGWT1遺伝子の5'側半分と3'側半分が分割して調製され、この両者はXbaI(TCTAGA)制限酵素切断部位にて結合された。このようにして全長のPfGWT1遺伝子を作製した。また、コード領域の外側に制限酵素切断部位が含まれるため、発現ベクターへの挿入が可能になった。
【0115】
(2)PfGWT1遺伝子の5'側半分は、熱帯熱マラリア原虫ゲノムDNAを鋳型とし、pf152F(配列番号:48)及びpf136R(配列番号:49)をプライマーに用いたPCRにより増幅させた。また、3'側半分は、pf137F(配列番号:50)及びpf151R(配列番号:51)を用いて、上記と同様の方法によって増幅させた。増幅DNA断片は、pT7-Blueベクター(Novagen)にサブクローニングし、インサートの塩基配列を決定し、配列番号:1と相同であることを確認した。PfGWT1遺伝子の5'側半分を含むクローンをPF15-5と名付けた。3'側半分を含むクローンをPF20-9と名付けた。
【0116】
(3)PfGWT1遺伝子を発現ベクターに挿入することができるように、PCRによってコード領域外に制限酵素切断部位の付加をおこなった。5'側半分におけるEcoRI酵素切断部位の付加は、PF15-5を鋳型として、pf154FE(配列番号:52)及びpf157R(配列番号:53)をプライマーに用いたPCRによっておこなった。増幅DNA断片をpT7-Blueベクター(Novagen)にサブクローニングすることにより、クローンpT7-plasmN2を得た。同様に、3'側半分については、PF20-9を鋳型に、pf168BK(配列番号:54)およびpf155RK(配列番号:55)をプライマーに用いたPCRによって増幅した。増幅したDNAをサブクローニングして、クローンpT7-plasmBK5を調製した。
【0117】
(4)全長PfGWT1遺伝子の作製は、以下の方法でおこなった。酵母用発現ベクターYEp352GAPIIを制限酵素EcoRIとKpnIで切断した。このベクター切断部位にpT7-plasmN2由来のEcoRI-XbaI断片(約1500bp)と、pT7-plasmBK5由来のXbaI−KpnI断片(約1100bp)を挿入した。全長のPfGWT1を含む発現ベクターYEp352GAPII-PfGWT1が完成した。
[pf152F] ATGACAATGTGGGGAAGTCAACGGg (配列番号:48)
[pf136R] TGTGTGGTTACCGTTCTTTGAATACATAGA (配列番号:49)
[pf137F] ATAGAAAATGATTTATGGTACAGCTCAAA (配列番号:50)
[pf151R] AGACCAAATTAATTATGCCTTTACATGTAC (配列番号:51)
[pf154FE] agaattcaccATGAGCAACATGAATATACTTGCGTATCTT (配列番号:52)
[pf157R] GAAATTCCAATGTATTCCATATTCACTTAT (配列番号:53)
[pf168BK] AAGATCTAATACATTAAAACATTTTAGATTAATGAATATGTG (配列番号:54)
[pf155RK] aggtaccGTACACTCCACTCTATGATGATCATTC (配列番号:55)
【0118】
実施例2.全合成PfGWT1遺伝子
熱帯熱マラリア原虫のDNAはアデニンおよびチミン(AT)の割合が非常に高く(80%またはそれ以上)、一般的な分子生物学的手法(PCR、大腸菌を用いた遺伝子操作、組換え蛋白質の発現系など)を適用できない場合が多い(Sato and Horii, 蛋白質核酸酵素Vol.48, 149-155, 2003)。PfGWT1のDNAのAT含率も80.41%であり、しかもAまたはTが連続している箇所が多く含まれる。そのため、酵母内での複製および蛋白質発現は困難であることが予想された。実際に過剰発現型の酵母ベクターに天然型のPfGWT1をつなぎ、GWT1を破壊した酵母細胞株に導入したところ、PfGWT1はgwt1破壊株の致死性を全く相補できなかった。そこで、AT含率を下げる目的で本来のアミノ酸配列と変わらない形で、コドンを同等のコドンに置換した。
【0119】
熱帯熱マラリア原虫ゲノムデータベース(PlasmoDB database, http://plasmodb.org/) 上に公開されている熱帯熱マラリア原虫GWT1の塩基配列(配列番号:1)をもとにコドン置換を行った。得られた塩基配列を「optimized PfGWT1(opfGWT1)」(配列番号:5)と名付けた。
【0120】
上記の塩基配列を、コード領域の外側に付加的な配列、即ちEcoRIによる切断配列(GAATTC, 5’側)、Kozac配列(ACC, 5’側)およびKpnIによる切断配列(GGTACC, 3’側)を含むように設計した。これらの配列は、米国Blue Heron社に合成委託した。全合成されたopfGWT1を、付加した制限酵素部位を用いてYEp352GAPIIベクターにつなぐことによりopfGWT1過剰発現プラスミドを作製した。この構築物をGWT1遺伝子が1コピーのみ破壊されている2倍体細胞(WDG2)に導入した。得られた形質転換体を胞子形成培地上で培養することにより胞子を形成させ四分子分析を行った。
【0121】
コドン改変により新規に設計されたopfGWT1におけるAT含率は61.55%にまで低下した。四分子分析の結果を図1に示す。opfGWT1過剰発現プラスミドが導入された後、gwt1破壊株は生育可能となった。以上のことから、PfGWT1遺伝子は、コドン改変によりAT含率を低下させた場合、酵母細胞内で発現できることが明らかとなった。
【0122】
実施例3.opfGWT1発現酵母を用いた抗マラリア剤のアッセイ
opfGWT1発現酵母を用いて、抗マラリア活性を持つ化合物をスクリーニングする系を構築した。
【0123】
S.セレビシエGWT1ターミネーター、およびシングルコピーベクターpRS316のSacI-KpnI部位間にS.セレビシエGAPDHプロモーターとマルチクローニングサイトを挿入し発現カセットを構築した。このマルチクローニングサイトにS.セレビシエGWT1およびopfGWT1を挿入し、pGAP-ScGWT1およびpGAP-opfGWT1プラスミドを得た。これらのプラスミドをGWT1破壊株に導入した。化合物(1)を最終の最高濃度が50μg/mlとなるようYPADにて2倍系列希釈した。希釈化合物を96穴プレートに50μl/ウェルとなるように各ウェルに添加した。ここにそれぞれのプラスミドを持った酵母細胞の一晩培養液を1000分の一希釈したものを50μl/ウェルずつ添加した。プレートを30℃にて2日間保温した後、660nmで培養液の濁度を測定した(図2および表1)。
【0124】
【表1】

【0125】
GWT1破壊株は生育不能であるが、それぞれのプラスミドを導入した株は生育が可能となった(化合物濃度0μg/mlのポイント)。ScGWT1を発現させた酵母の増殖はGWT1特異的阻害剤である化合物(1)によって阻害された。25μg/mlの化合物を使用した場合には、約85%の増殖抑制効果が認められた。50μg/mlの化合物を使用した場合は、酵母は完全に生育不能であった。同様に、opfGWT1を発現させた酵母の増殖も化合物(1)によって阻害された。25μg/mlの化合物を使用した場合には、約50%の増殖抑制効果が認められた。50μg/mlの化合物を使用した場合は、酵母は完全に生育不能となった。opfGWT1発現酵母の増殖は導入したopfGWT1活性に依存しているため、この増殖阻害効果は化合物(1)がopfGWT1の機能を阻害したことによると考えられる。以上のことから、このアッセイ系を用いて化合物スクリーニングを行うことにより、熱帯熱マラリア原虫GWT1に対して特異的な阻害活性を示す化合物が同定できることが示唆された。
【0126】
実施例4.抗マラリア活性
酵母GWT1阻害作用を示す代表化合物(1)〜(5)について赤血球培養系を用いた抗マラリア活性の測定を行った。

化合物(1):1-(4-ブチルベンジル)イソキノリン

化合物(2):4-[4-(1-イソキノリルメチル)フェニル]-3-ブチン-1-オール

化合物(3):5-ブチル-2-(1-イソキノリルメチル)フェノール

化合物(4):2-(4-ブロモ-2-フルオロベンジル)-3-メトキシピリジン

化合物(5):N-[2-(4-ブチルベンジル)-3-ピリジル]-N-メチルアミン
【0127】
具体的には、100%DMSOに溶解した披検化合物を培地で希釈し、96穴培養プレートの各ウェルに該希釈物を80μlずつ加えた。熱帯熱マラリア原虫FCR3株は、10%ヒト血清含有RPMI1640培地中37℃で前培養され、20μlの培養細胞(赤血球10%を含有)を各ウェルに添加した。このとき、0.47%の赤血球が感染されていた。5%O2、5%CO2および90%N2中、37℃で48時間培養後、ギムザ染色にてマラリア原虫を染色した。原虫感染赤血球数を測定し、感染率を算出した(図3)。この結果、化合物(3)に強い抗マラリア活性を見出した。残りの4化合物にも抗マラリア活性が認められた。化合物(4)が最も弱い活性を示した。このことから酵母GWT1阻害化合物の中に熱帯熱マラリア原虫GWT1を阻害する活性を持つ化合物が含まれ、これらの化合物をもとに抗マラリア剤を合成することが可能であることが示唆された。
【0128】
産業上の利用可能性
本発明により、マラリア原虫のGWT1を発現する真菌の作製に成功した。これを用いることにより、マラリア原虫を用いることなくGPI生合成経路をターゲットとした抗マラリア剤をスクリーニングすることが可能である。
【0129】
これまで真菌の中でマラリア原虫の遺伝子を発現させ、その遺伝子の機能を阻害する物質をスクリーニングする試みはされていない。本発明は、実際にマラリア原虫そのものを用いないため、ポストゲノム時代の比較ゲノミクスを応用した全く新しい創薬スクリーニング法の可能性を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】四分子分析の結果を示す写真である。opfGWT1過剰発現プラスミドが導入されたgwt1破壊株は生育可能となった。1つの2倍体細胞由来の胞子4つを縦にスポットした。GWT1遺伝子が1コピー破壊されている場合は、胞子の生育率は2分の1になる。したがって、このような場合、[生育コロニーのスポット]:[非生育コロニーのスポット]=2:2となる。矢印で示した列では、導入したopfGWT1によりgwt1破壊株の致死性が相補されているので4つ全てのスポットがそれぞれのコロニーを形成している。
【図2】opfGWT1遺伝子を発現する酵母の増殖に対する化合物の阻害活性を示す図である。GWT1遺伝子を破壊した酵母に、酵母GWT1遺伝子またはopfGWT1遺伝子を発現させた。酵母GWT1依存的増殖を阻害する活性を有する化合物は、opfGWT1が発現されopfGWT1依存的に増殖している酵母に対しても阻害活性を示した。
【図3】抗マラリア活性を示す図である。熱帯熱マラリア原虫(P. falciparum)をヒト赤血球に感染させた。これらの赤血球にGWT1阻害化合物を添加し、マラリア原虫の感染阻害を測定した。抗真菌活性を示す5種類全ての化合物は、実際のマラリア原虫の赤血球感染を阻害した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性を有するマラリア原虫の蛋白質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAによりコードされる蛋白質。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
【請求項5】
請求項2に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物を有効成分として含有する抗マラリア剤。
【請求項6】
請求項2に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物が、下記式





からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項5に記載の抗マラリア剤。
【請求項7】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(2)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(3)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項8】
該蛋白質に結合活性を有する標識化合物が、請求項6に記載の化合物(1)〜(5)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を標識することによって産生される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(2)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、および
(3)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項10】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質が過剰発現している細胞に被検試料を接触させる工程、
(2)該細胞におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項11】
請求項2に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物を投与する工程を含む、マラリアを治療する方法。
【請求項12】
請求項2に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物が、請求項5に記載の化合物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つもとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA。
【請求項14】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つAT含率が70%低下したDNA。
【請求項15】
以下の(a)から(d)からなる群より選択される、請求項13または14に記載のDNA:
(a)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
【請求項16】
配列番号:5に記載の塩基配列を含むDNA。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項18】
請求項13〜16のいずれかに記載のDNAまたは請求項17に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
【請求項19】
GPI合成酵素遺伝子欠失真菌である、請求項18に記載の形質転換体。
【請求項20】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母である、請求項18に記載の形質転換体。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれかに記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させた蛋白質を回収する工程を含む、請求項13〜16のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質の製造方法。
【請求項22】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌の増殖を測定する工程、および
(3)該真菌の増殖を阻害する被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項23】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項24】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAをGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に導入し、該DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(4)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(5)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項25】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)(i) GWT1遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、もとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA、または(ii) 該縮重変異DNAが挿入されたベクターを、GWT1遺伝子欠失真菌に導入し、該縮重変異DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(4)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、ならびに
(5)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
GlcN-PIアシル-トランスフェラーゼ活性を有するマラリア原虫の蛋白質をコードする、下記(a)から(d)のいずれかに記載のDNA:
(a)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1または3に記載の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
【請求項2】
請求項1に記載のDNAによりコードされる蛋白質。
【請求項3】
請求項1に記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項4】
請求項1に記載のDNAまたは請求項3に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
【請求項5】
請求項2に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物を有効成分として含有する抗マラリア剤。
【請求項6】
請求項2に記載の蛋白質の活性を抑制する化合物が、下記式





からなる群より選択される少なくとも1つの化合物である、請求項5に記載の抗マラリア剤。
【請求項7】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(2)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(3)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項8】
該蛋白質に結合活性を有する標識化合物が、請求項6に記載の化合物(1)〜(5)からなる群より選択される少なくとも1つの化合物を標識することによって産生される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(2)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、および
(3)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項10】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項2に記載の蛋白質が過剰発現している細胞に被検試料を接触させる工程、
(2)該細胞におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項11】
請求項2に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物を投与する工程を含む、マラリアを治療する方法。
【請求項12】
請求項2に記載の蛋白質の活性を阻害する化合物が、請求項5に記載の化合物である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つもとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA。
【請求項14】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGPI生合成に関与する蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、且つAT含率が70%以下であるDNA。
【請求項15】
以下の(a)から(d)からなる群より選択される、請求項13または14に記載のDNA:
(a)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA、
(b)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNA、
(c)配列番号:1および3、ならびに6〜47の偶数番号に記載のいずれかの塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNA、および
(d)配列番号:2および4、ならびに6〜47の奇数番号に記載のいずれかのアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が付加、欠失、置換および/または挿入されたアミノ酸配列を含む蛋白質をコードするDNA。
【請求項16】
配列番号:5に記載の塩基配列を含むDNA。
【請求項17】
請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが挿入されたベクター。
【請求項18】
請求項13〜16のいずれかに記載のDNAまたは請求項17に記載のベクターを発現可能に保持する形質転換体。
【請求項19】
GPI合成酵素遺伝子欠失真菌である、請求項18に記載の形質転換体。
【請求項20】
GPI合成酵素遺伝子欠失酵母である、請求項18に記載の形質転換体。
【請求項21】
請求項18〜20のいずれかに記載の形質転換体を培養し、該形質転換体またはその培養上清から発現させた蛋白質を回収する工程を含む、請求項13〜16のいずれかに記載のDNAによりコードされる蛋白質の製造方法。
【請求項22】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌の増殖を測定する工程、および
(3)該真菌の増殖を阻害する被検化合物を選択する工程、を含む方法。
【請求項23】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAが発現しているGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に被検試料を接触させる工程、
(2)該真菌におけるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を決定する工程、および
(3)工程(2)において決定されるGPIアンカー蛋白質の細胞壁への輸送量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項24】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)請求項13〜16のいずれかに記載のDNAをGPI合成酵素遺伝子欠失真菌に導入し、該DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料及び該蛋白質に結合活性を有する標識化合物を接触させる工程、
(4)該蛋白質に結合する標識化合物を検出する工程、および
(5)該蛋白質に結合する標識化合物の量を減少させる被検試料を選択する工程、を含む方法。
【請求項25】
抗マラリア作用を有する化合物をスクリーニングする方法であって、
(1)(i) GWT1遺伝子欠失酵母の表現型の相補活性を有する蛋白質をコードするDNAであって、マラリア原虫のGWT1蛋白質をコードするDNAの縮重変異体であり、もとのDNAと比較してAT含率が低下したDNA、または(ii) 該縮重変異DNAが挿入されたベクターを、GWT1遺伝子欠失真菌に導入し、該縮重変異DNAによりコードされる蛋白質を発現させる工程、
(2)工程(1)で発現させた蛋白質を調製する工程、
(3)調製した蛋白質と、被検試料とを接触させる工程、
(4)GlcN-(アシル)PIを検出する工程、ならびに
(5)GlcN-(アシル)PIレベルを減少させる被検化合物を選択する工程、を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公表番号】特表2006−506996(P2006−506996A)
【公表日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−555010(P2004−555010)
【出願日】平成15年11月21日(2003.11.21)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014920
【国際公開番号】WO2004/048567
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】