説明

マラリア原虫類の感染治療剤

【課題】化学療法によりヒト感染性マラリア原虫類として、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫の増殖抑制をプベルリン酸 (puberulic acid) で行うことによって、ヒト感染性マラリア原虫類の感染治療剤として臨床応用できることが提供する。
【解決手段】下記式


で示されるプベルリン酸 (puberulic acid) を有効成分として含有する、マラリア原虫類の感染治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト感染性マラリア原虫類として、例えば熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫及び卵形マラリア原虫の増殖を既知のトロポロン系抗生物質プベルリン酸 (puberulic acid) で抑制することによりマラリア原虫類の感染治療に有効なマラリア原虫類の感染治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトに寄生するマラリア原虫類には熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫 (Plasmodium vivax) 、四日熱マラリア原虫 (Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫 (Plasmodium ovale) の4 種類に分類される。これらの中で、最も厄介なものはマラリア感染者の80% を占める熱帯熱マラリア原虫であり、重症の場合には脳性マラリアになって死に至る。
【0003】
これらのマラリア原虫類に対する既存の抗マラリア剤としては、古典薬と呼ばれ、主に1930年〜1960年代に開発された化学合成医薬品であるクロロキンやファンシダール (ピリメサミンとスルファドキシンとの合剤) 等、および新薬と呼ばれ1980年以降に開発された生薬青蒿の有効成分であるアルテミシニン等が用いられていた。しかしながら、現在クロロキンやファンシダールに対する薬剤耐性マラリア原虫がマラリア流行地域に広く蔓延し、さらに、両者の多剤耐性株も出現しており、これらの抗マラリア剤としての有用性はマラリア流行地域で著しく低下している。また、アルテミシニンは作用として速効性であり、一時治療薬として注目されたが、完治せずに再燃し易いという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、既存の抗マラリア剤に対する薬剤耐性株はマラリアが再興感染症として流行している一因でもあり、薬剤耐性株に有効な抗マラリア薬の開発が地球規模で望まれている。特に熱帯熱マラリア原虫の流行地域は、熱帯・亜熱帯と多岐にわたっており、これらの地域に属する開発途上国では極めて深刻な問題であり、寄生虫感染症による死亡原因の第一位がマラリアによるとされている。さらに、最近における地球規模での温暖化によりマラリア原虫類の流行地域が開発途上国のみならず温帯地域をも含む先進国へと拡大傾向の様相を呈しているのが実情である。
【0005】
本発明者らは、クロロキンやファンシダール等の既存の抗マラリア剤に耐性のマラリア原虫にin vitro及びin vivo で有効な化合物を微生物代謝産物より探索すべく鋭意研究したところ、意外にもグラム陽性菌に対して効力を有するプベルリン酸 (puberulic acid) がマラリア原虫類の増殖抑制に対して優れた有効性を有することを見出した。
【0006】
ペニシリュウム・エスピーより生産されるプベルリン酸 (puberulic acid) 自体は既に知られている。例えばバイオケミカル・ジャーナル (Biochem. J.) 第26巻、 441〜453 頁 (1932年) 、第28巻、11〜15頁 (1934年) に製造法および性状ならびに誘導化による構造解析が報告され、ある種のグラム陽性菌に対して抗菌作用を有することが開示されていたが、抗マラリア剤としての有効性の開示はなされていなかった。
【0007】
そこで、本発明者らは、上記の如く種々の問題点を解決すべく、微生物代謝産物中に該活性を示す生理活性物質を広範囲に探索した結果、土壌から採取した糸状菌FKI-4410株が生産する物質が抗マラリア活性を有することを見出した。そこで、本物質の物理化学的性質を検討したところ、本物質は、既に報告されたトロポロン系抗生物質プベルリン酸 (puberulic acid)(ジャーナル・ケミカル・ソサエティ・トランスアクション・1 (J. Chem.Soc. Perkin Trans 1)第16巻、1913〜1920頁 (1993年) /全合成研究) と一致する化合物であると同定し、本発明を完成するに至った。
【0008】
本発明の目的は、化学療法によりヒト感染性マラリア原虫類、例えば、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫の感染治療および増殖抑制をプベルリン酸 (puberulic acid) で行うことによって、臨床に有効なヒト感染性マラリア原虫類の感染治療剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の如く課題を解決すべく、微生物代謝産物中に該活性を示す生理活性物質を広範囲に探索した結果、本発明は見出されたものである。すなわち、下記式
【0010】
【化1】

で表されるプベルリン酸 (puberulic acid) を有効成分として含有する、マラリア原虫類の感染治療剤に関する。
【0011】
本発明はさらに、マラリア原虫類の増殖を抑制することからなるマラリア原虫類の感染治療剤に関し、マラリア原虫類がヒト感染性マラリア原虫であって、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫の群から選ばれた一つであり、該マラリア原虫類の感染治療剤が、経口投与形態または注射剤、点滴剤等の非経口投与形態で用いられる。
【0012】
本発明はさらに、感染治療剤が薬剤耐性マラリア原虫および薬剤感受性マラリア原虫に対して有効であり、かつまた、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫の群から選ばれた疾患の感染治療用の医薬の製造に用いられるマラリア原虫類の感染治療剤に関する。
【0013】
前記の式で表されるプベルリン酸 (puberulic acid) は糸状菌FKI-4410株が生産する物質であり、その製造法およびNMR スペクトルデータはBirkinshaw, J. H. & Raistrick H.: Studies in the biochemistry of micro-organisms : Puberulic acid C8H6O6 and an acid C8H4O6, new products of the metabolism of glucose by Penicllium puberulum bainler and Penicillium aurantiovirens biourge, with an appendix on certain dihydroxybenzenecarboxylic acids. Biochem. J.,26:441〜453, 1932, Barger,J. & Dorrer,O.: Chemical properties of puberulic acid, C8H6O6, and a yellow acid, C8H4O6. Biochem. J., 28: 11 〜15, 1934および Martin, G. B.; Maree, P. C.; Maureen, F. M. &Sharon, L/ R.: cis-Dihydrocatechols as precursors to highly oxygenated troponoids. Part 2. Regiocontrolled syntheses of stipitatic and puberulic acids. J. Chem.Soc. Perkin Trans 1, 16: 1913 〜1920, 1993に詳細に記載されている。そして、その作用は抗細菌剤として開示されていた。
【0014】
プベルリン酸 (puberulic acid) の製造法について説明すると、適量の組成の炭素源、窒素源、無機塩類等を含む種培地100 mLにプベルリン酸 (puberulic acid) 生産菌を接種し、27℃で72時間振盪培養を行い、種母とする。この種母を500 mL容三角フラスコ10本の中に各々100 mL入ったプベルリン酸 (puberulic acid) 生産液体培地に1%植菌し、27℃で72時間振盪培養した後、240 時間静置培養する。このようにして得られる培養液1 L にエタノール1 L を加えて抽出した後、減圧濾過する。このろ液よりエタノールを留去した後、得られた水溶液をpH 6に調製し酢酸エチルで抽出する。この抽出液を減圧濃縮し、抽出物を得る。
【0015】
上記の抽出物をアセトニトリル−水を溶出溶媒とするODS ゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、プベルリン酸 (puberulic acid) を含む溶出画分を濃縮し粗精製物を得る。この粗精製物を逆相系カラムを用いた高速液体カラムクロマトグラフィー分取し、対応するピークを減圧下濃縮することでプベルリン酸 (puberulic acid) を得る。
【0016】
上記において用いられる炭素源としては、例えばブドウ糖、ショ糖、糖蜜、澱粉、デキストリン、セルロース、グリセリン等が単独または組み合わせて用いられ、窒素源としては、例えばペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粉、コーン・スティ−プ・リカー、綿実粕、カゼイン等が単独または組み合わせて用いられ、更に無機塩類としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、リン酸塩等が挙げられ、必要に応じて添加される。
【0017】
本化合物を各種疾患の治療剤として投与する場合、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤等として経口投与してもよいし、また注射剤、点滴剤として非経口的に投与してもよい。投与量は症状の程度、年齢、疾患の種類等により異なるが、通常成人1日当たり50 mg 〜500 mgを1 日1 〜数回に分けて投与する。
【0018】
製剤化の際は通常の製剤担体を用い、常法により製造する。経口用固形製剤を調製する場合は、主薬に賦形剤、更に必要に応じて、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えた後、常法により溶剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等とする。注射剤を調製する場合には、主薬に必要によりpH調整剤、緩衝剤、安定化剤、可溶化剤等を添加し、常法により皮下、静脈内用注射剤とする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
実施例1
【0020】
種培地100 mL(グルコース 2% 、ポリペプトン 0.5% 、イースト・エキス 0.2% 、リン酸二水素カリウム 0.2% 、硫酸マグネシウム・7 水和物 0.05%、寒天 0.1% 、オートクレーブ前にpH 6に調製)にプベルリン酸 (puberulic acid) 生産糸状菌FKI-4410株を接種し、27℃で72時間振盪培養を行い、種母とした。この種母を500 mL容三角フラスコ10本の中に各々100 mL入ったプベルリン酸 (puberulic acid) 生産液体培地(スクロース 3% 、水溶性でんぷん 3% 、モルト・エキス 1 %、エビオス 0.3% 、リン酸二水素カリウム 0.5% 、硫酸マグネシウム・7 水和物 0.05%、オートクレーブ前にpH 6に調製)に1%ずつ植菌し、27℃で72時間振盪培養した後、240 時間静置培養した。
【0021】
このようにして得られる培養液1 L にエタノール1 L を加えて抽出した後、減圧濾過した。このろ液よりエタノールを留去した後、得られた水溶液をpH 6に調製し酢酸エチルで抽出した。この抽出液を減圧濃縮し、抽出物760 mgを得た。
【0022】
上記の抽出物をアセトニトリル−水を溶出溶媒とするODS ゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、プベルリン酸 (puberulic acid) を含む20% アセトニトリル水溶液画分を濃縮し、精製物70 mg を得た。この精製物を高速液体カラムクロマトグラフィー(カラム:Waters XBridge C18 (10f x 250 mm) 、移動相:20 %メタノール/0.1%トリフルオロ酢酸水溶液、流速:4 mL/min、検出:270 nm)で保持時間 8分のピークを分取し、減圧下濃縮することで5 mgのプベルリン酸 (puberulic acid) を得た。
【0023】
熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodium falciparum)の薬剤耐性のK1株 (東京大学大学院医学系研究科の北潔教授より分与可能) および薬剤感受性のFCR3株 (東京大学大学院医学系研究科の北潔教授より分与可能) に対するin vitroでのプベルリン酸 (puberulic acid) の抗マラリア活性の測定は、乙黒らの方法 [Otoguro, K., Kohana, A., Manabe, C., Ishiyama, A., Ui, H., Shiomi, K., Yamada, H. & Omura, S.: Potent antimalarial activity of polyether antibiotic, X-206. J. Antibiot., 54: 658-663, (2001)]に従って行った。
【0024】
試験原虫としては Trager と Jensen の方法 [Trager, W and Jensen, J.: Human malaria parasites in continuous culture, Science, 193: 673-677, (1976)] を若干改変し、維持、継代を行ったものを用いた。すなわち、培養シャーレ内で、10 %ヒト血漿を添加したRPMI1640培地と新鮮なヒト赤血球を用いて継代した原虫感染赤血球を希釈し (ヘマトクリット値:2 〜 5% 、原虫感染赤血球率:0.25〜1 %)、37℃にて3%O2-4%CO2-93%N2の混合ガス下で培養を行い、2 〜3 日毎に培地交換と新鮮な赤血球を添加して連続培養を行った。
【0025】
薬剤感受性試験は、Desjardinsらの方法 [Desjardins, R. E., Canfield, C. J., Haynes, D. E. and Chulay, J. D.: Quantitative assessment of antimalarial activity invitro by a semiautomated microdilution technique. Antimicrob. Agents Chemother.,16: 710-718 (1979)] を改変し、96 well plate の各wellに前培養された原虫浮遊液 (ヘマトクリット値:2%、原虫感染赤血球率:0.5 または1%) 190 μl と化合物の溶液 (50% エタノール溶液) 10μl を添加し、混和後、前述の混合ガス下で72時間培養を行った。
【0026】
原虫増殖の測定はMaklerらの方法[Makler, M. T., Rise, J. M., Williams, J. A., Bancroft, J. E., Piper, R. C., Gibbins, B. L. and Hinrichs, D. J.: Parasite lactate dehydrogenase as an assay for Plasmodium falciparum drug sensitivity, Am. J. Med. Hyg., 48: 739-741 (1993)] を改変し、Malstat 試薬(Flow社製、米国)にて原虫の乳酸脱水素酵素 (p-LDH)を比色定量する方法で行った。
【0027】
すなわち、72時間の培養を終了した96 well plate を直接−20℃下で18時間凍結後、37℃下で融解することにより、原虫感染赤血球を溶血及び原虫を破壊させ粗酵素液を調製した。新たな96 well plate の各wellにMalstat 試薬100 μl と粗酵素液20μl を添加、混和し、15分間室温にて反応後、ニトロブルーテトラゾリウム (nitroblue tetrazolium) 2mg/ml : フェナジンエトサルフェート(phenazine ethosulfate) 0.1 mg/ml = 1:1 溶液20μl を各wellに添加し、遮光条件下、室温にて2 時間反応させた。
【0028】
反応により生じたブルーフォルマザン (blue formazan)生成物をマイクロプレートリーダー (Labosystems 社製、フィンランド国) にて測定波長655 nmでの吸光度を測定することにより、原虫の増殖の有無を比色定量した。化合物の50% 原虫増殖阻止濃度 (IC50値) は化合物濃度作用曲線より求めた。本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) と既知の抗マラリア剤の培養熱帯熱マラリア原虫に対する抗マラリア活性は下記に示す通りであった。
【0029】
培養熱帯熱マラリア原虫に対する既知の抗マラリア剤としては、アルテミシニン (Aldrich 社製、米国) 、アルテスネート(Cerbios Pharma 社製、スイス国) 、クロロキン (Sigma 社製、米国) がそれぞれ用いられた。
【0030】
─────────────────────────────────────
IC50値 ng/ml)
化合物 K1株 FCR3 株
─────────────────────────────────────
プベルリン酸 (puberulic acid) 10.0 10.0
アルテミシニン 6.0 6.0
アルテスネート 4.2 1.0
クロロキン 300.0 20.0
─────────────────────────────────────
【0031】
本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) は、熱帯熱マラリア原虫 (Plasmodiumfalciparum) の薬剤耐性のK1株に対して10 ng/mlのオーダーで有効であり、既存の抗マラリア剤アルテミシニンやアルテスネートの1/2.4 〜1/1.7 倍程度の抗マラリア活性を示し、クロロキンの30倍の強い抗マラリア活性を示した。さらに、薬剤感受性のFCR3株に対しても10 ng/mlのオーダーで有効であり、アルテミシニンやアルテスネートの1/2.4 〜1/10倍程度の抗マラリア活性を示し、クロロキンの2 倍の強い抗マラリア活性を示した。
【0032】
このことから、プベルリン酸 (puberulic acid) は薬剤耐性のK1株と薬剤感受性のFCR3株に対して同程度の活性があり、しかも既存のマラリア剤アルテミシニンとほぼ同程度の優れた強い活性を示し、プベルリン酸 (puberulic acid) は薬剤耐性マラリア原虫におけるクロロキンの作用メカニズムと異なる作用メカニズムで抗マラリア活性をK1株及びFCR3株の両株に作用していることを示すものである。
実施例2
【0033】
本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) の細胞毒性試験は乙黒らの方法 [Otoguro, K., Kohana, A., Manabe, C., Ishiyama, A., Ui, H., Shiomi, K., Yamada, H. and Omura, S.: Potent antimalarial activity of polyether antibiotic, X-206. J. Antibiot., 54: 658-663, (2001)]に準じて行った。すなわち、宿主細胞のモデルとしてヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC-5 細胞 [Dr. L. Maes (Tibotec NV, Mechelen,ベルギー) より分与可能] を10% 牛胎児血清 (FCS)及び抗生物質添加MEM 培地にて維持、継代培養を行ったものを用いた。
【0034】
ヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC-5 細胞を10 % FCS-MEMにて1 x 103 cell/well になるように浮遊液を調整し、96 well plate に100 μl を添加し混和後、37℃にて5%CO2-95%air下で24時間培養を行った後、各wellに10%FCS-MEM 90 μl と化合物の溶液 (50 %エタノール溶液) 10μl を添加し、混和後、前述のガス下で7 日間培養を行った。MRC-5 細胞の増殖の有無はMTT 法にて比色定量した。化合物の50 %原虫増殖阻止濃度 (IC50値) は化合物濃度作用曲線より求めた。その結果は下記の通りであった。
【0035】
─────────────────────────────────
培養ヒト細胞に対するプベルリン酸 (puberulic acid) の細胞毒性
IC50 値 (ng/ml)
化合物 MRC-5細胞
───────────────────────────────
プベルリン酸 (puberulic acid) 57,200
─────────────────────────────────
【0036】
本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) のヒト胎児肺由来正常繊維芽細胞MRC-5 細胞に対する細胞毒性 (IC50値) は57,200 ng/mlであり、抗マラリア活性との選択毒性比 細胞毒性のIC50値/ 抗マラリア活性のIC50値) は薬剤耐性のK1株および薬剤感受性のFCR3株で5,720 であり、高い選択毒性を示した。
実施例3
【0037】
本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) のネズミマラリア原虫 P. berghei N 株( 薬剤感受性株) [Dr. W. Peters (Northwick Park Institute for Medical Research,Meddlesex,英国) より分与可能] 感染実験モデルに対するin vivo での治療効果の測定は乙黒らの方法 [Otoguro, K., Kohana, A., Manabe, C., Ishiyama, A., Ui, H., Shiomi,K., Yamada, H. and Mura, S.: Potent antimalarial activity of polyether antibiotic, X-206. J. Antibiotics, 54: 658-663, (2001)]およびPetersらの方法 [Peters, W.; Portus, J. H. and Robinson, B. L.: The chemotherapy of rodent malaria. XXII. Thevalue of drug-resistant strains of P. berghei in screening for blood schizonticidal activity. Ann. Trop. Med. Parasitol., 69: 155-171, (1975)]を若干改変して行った。
【0038】
すなわち、供試動物としてはICR マウス (日本チャールス・リバー社) の雄、体重18〜20gの一群5 匹を用い、in vivo passage にて維持・継代した原虫を2 x 106 個の寄生虫感染赤血球に調整し、尾静脈接種にて感染させた。治療実験は4 days suppressive test で行った。感染日をday 0 とすると、感染2 時間後に化合物の溶液 (10% ジメチルスルホキサイド溶液-Tween 80)を皮下 (s.c.) で投与し、以後1 日1 回3 日間連続投与し(days 1 〜3)、day 4 で尾静脈より血液塗末標本を作成し、原虫感染赤血球率 (parasitaemia) を観察し、化合物非投与群の感染率より治療効果 (inhibition %) を判定した。
【0039】
────────────────────────────────────
プベルリン酸 (puberulic acid) 皮下投与における治療効果
化合物 投与量 治療効果(Inhibition %)
────────────────────────────────────
プベルリン酸 (puberulic acid) 2 mg/kg x 4 69.0%
アルテスネート 10 mg/kg x 4 90.6%
アルテスネート 1 mg/kg x 4 36.7%
────────────────────────────────────
【0040】
本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) を皮下投与した場合、ネズミマラリア原虫 P. berghei N 株感染実験モデルに対して、プベルリン酸 (puberulic acid) は2 mg/kg の低用量で薬剤無添加の対照群と比べ 69.0%の原虫感染赤血球率の抑制あり、感染治療効果が認められた。薬剤添加の対照として用いた既存の抗マラリア剤のアルテスネートは 1〜10 mg/kgの用量で36.7〜90.6% の原虫感染赤血球率の抑制が認められ、アルテスネートの50% 有効濃度 (ED50) は1.7 mg/kg であった。このことより、プベルリン酸 (puberulic acid) はアルテスネートと同程度の低用量での治療効果があることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明に用いたプベルリン酸 (puberulic acid) は、ヒト感染性熱帯熱マラリア原虫類に対して抗マラリア活性を示し、マラリア原虫感染モデルに対して治療効果を示し、抗マラリア剤として臨床応用できることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式
【化2】

で表されるプベルリン酸 (puberulic acid) を有効成分として含有する、マラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項2】
マラリア原虫類の増殖を抑制することからなる、請求項1記載のマラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項3】
マラリア原虫類が、ヒト感染性マラリア原虫であって、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫から選ばれた一つである、請求項1または2記載のマラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項4】
マラリア原虫類の感染治療剤が薬剤耐性マラリア原虫に対して有効である、請求項1ないし3いずれかに記載のマラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項5】
マラリア原虫類の感染治療剤が薬剤感受性マラリア原虫に対して有効である、請求項1ないし3のいずれかに記載のマラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項6】
マラリア原虫類の感染治療剤が経口投与形態または非経口的投与形態である、請求項1ないし5のいずれかに記載のマラリア原虫類の感染治療剤。
【請求項7】
ヒト感染性マラリア原虫であって、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫および卵形マラリア原虫から選ばれた疾患の感染治療のための医薬の製造に用いられるマラリア原虫類の感染治療剤。

【公開番号】特開2011−84534(P2011−84534A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−240229(P2009−240229)
【出願日】平成21年10月19日(2009.10.19)
【出願人】(598041566)学校法人北里研究所 (180)
【Fターム(参考)】