説明

マラリア原虫(Plasmodium)属の寄生原虫に感染した赤血球の硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法、赤血球を濾過する方法、およびこれらの適用

本発明は、マラリア原虫 (Plasmodium)属の寄生原虫、特に、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)に感染した赤血球(RBC)の硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法に関する。本発明はまた、脾臓の濾過機能の代替法として、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCの濾過ユニット内での貯留を可能とする、RBCを濾過する方法にも関する。前記方法は、特に、患者に由来する血液試料からマラリア原虫に感染したRBC、または後天性もしくは遺伝性の球状赤血球症と関連する球状赤血球を単離および/もしくは検出すること、または患者の脾臓機能をin vitroで解析することを可能とする。本発明はまた、iRBCと選択的に相互作用するか、もしくは輪状体iRBCと選択的に相互作用し、それらの硬直性を上昇させるのに適する化合物を選択するための前記方法の適用、または変形能が異常であり、とりわけ変形能が低下したRBCを単離および/もしくは検出するための、RBCを濾過する方法の適用にも関する。この新規の濾過方法はまた、自動化にも適し、硬直したRBCのクリアランスまたは濃縮も可能とし、先天性または後天性のRBC障害(マラリアを含めた)における広い実験および医学的適用をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア原虫属の寄生原虫、特に熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)に感染した赤血球(RBC)の硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法に関する。
【0002】
本発明はまた、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCの濾過ユニット内での貯留を可能とする、RBCを濾過する方法にも関する。前記方法は、特に、患者に由来する血液試料からマラリア原虫に感染したRBC、または後天性もしくは遺伝性の球状赤血球症、敗血症、異常ヘモグロビン症(アルファサラセミアまたはベータサラセミア、鎌状赤血球症、および鎌状赤血球形質)、自己免疫性溶血性貧血、他の溶血性貧血、酵素欠損(グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、他の赤血球酵素)、および脾腫を伴う他の赤血球障害と関連する異常なRBCを単離および/もしくは検出すること、または患者の脾臓機能をin vitroで解析することを可能とする。
【0003】
本発明はさらに、マラリア原虫属の寄生原虫に感染した赤血球と選択的に相互作用し、それらの硬直性を上昇させるのに適する化合物を選択するための前記方法の適用に関する。
【背景技術】
【0004】
マラリア原虫属の寄生原虫は、ヒトおよび多くの動物種において疾患(マラリア)を引き起こす。ヒトにおいて、マラリアは主に、熱帯熱マラリア原虫、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)、二日熱マラリア原虫(Plasmodium knowlesi)、および三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)により引き起こされる。熱帯熱マラリア原虫は、疾患の最も一般的な原因であり、すべてのマラリア症例のうちの約80%の原因であり、また、ヒトにおけるマラリアに起因する死亡の約90%の原因でもある。寄生マラリア原虫種はまた、鳥類、爬虫類、および哺乳類、特に、サル、チンパンジー、およびげっ歯動物を含めた動物にも感染する。マラリア原虫の複数のサル種、すなわち、二日熱マラリア原虫、プラスモジウム・イヌイー(Plasmodium inui)、サルマラリア原虫(Plasmodium cynomolgi)、プラスモジウム・セミオバーレ(Plasmodium semiovale)、プラスモジウム・ブラジリアーヌム(Plasmodium brasilianum)、プラスモジウム・シュウェツィー(Plasmodium schwetzi)、およびプラスモジウム・シミウム(Plasmodium simium)によるヒト感染もまた記録されている。
【0005】
熱帯熱マラリア寄生虫は、まず肝臓に感染するが、次いで血液中へと移動し、そこで増殖し、赤血球(red blood cells)(RBC、赤血球(haematidsまたはerythrocytes)としても知られる)内における無性複製サイクルを介して存続する。赤血球への侵入後、熱帯熱マラリア原虫は、連続的な表現型の変化、および複数の有糸分裂ラウンドを経る。約48時間後、感染した赤血球が破裂して遊離原虫(メロゾイト)を放出し、これが別の赤血球に侵入するか、または各種の機構により血流から速やかに(30分間以内に)除去される。
【0006】
マラリアの発症機序は、複数の寄生虫因子および宿主因子を伴う1。実験モデルでは、脾臓における濾過および免疫機能が、マラリア原虫感染の経過に対して大きな影響を及ぼす2、3。マラリア流行地域では、脾臓摘出が、発熱、より頻繁でより高度の寄生虫血状態(寄生虫の循環成熟形態を含めた)の素因となり、潜在的なマラリア原虫感染を再活性化させうる4、5。公表されたデータが比較的少ない(5において総説されている)にもかかわらず、医師らは、マラリアを感染性疾患のリスト内に含め、脾臓を摘出された非免疫患者に対する意識の高まりを正当化している6。マラリア原虫感染の重要な特徴は動物とヒトとで異なる場合があり、また、ヒト脾臓に対する詳細な探索は倫理的および技術的な制約により制限されているため7、熱帯熱マラリア原虫に感染した赤血球(iRBC)と、ヒト脾臓の微小循環構造との微細な相互作用に対する探索は、間接的な形で8、9、または死後に10行われるに過ぎない。したがって、ヒトマラリアにおいて推定される脾臓の保護作用または発症作用の根本にある機構は、本質的に思弁的なままである。
【0007】
ヒト脾臓は、RBCの変形能における中程度の変化を感知するが、この機構により、老化したかまたは異常なRBCに対する選択的な生理学的貯留/破壊がもたらされる11、48。複数の病理学的状態において、RBCの貯留は、脾腫と関連する。同じ関係により、脾臓摘出は、先天性のRBC障害である遺伝性球状赤血球症を含めた各種の赤血球障害を有する患者における貧血を軽減する49。遺伝性球状赤血球症は、RBC膜(その表層細胞骨格も含めた)の構造的組織化の変化により特徴づけられ、脾臓滞留が、RBC (球状赤血球)の寿命短縮の原因となる主要な機構である。遺伝性球状赤血球症における疾患重症度は、膜表面積の減少度に直接関連し、このため、変形能の低下に関連する50
【0008】
RBC変形能の脾臓特異的な感知は、その赤脾髄(RP)に特異的な微小循環構造を介して機能する。最もよく知られる変形能感知構造は、赤脾髄の脾洞壁内における内皮細胞間隙(IES)である。これは、2本の糸様の内皮細胞間における動的な幅0.2〜2μm (ヒト脾臓試料に由来する超微細構造についての光学顕微鏡写真上で推定される)、長さ0.5〜3μmの間隙であり、赤脾髄の脾索を離れるRBCは、この間隙内において圧迫されて洞内腔および静脈循環に到達する11、21、51。IESはおそらく、体内で最も厳密なRBC変形能感知構造である。静脈洞の壁内における狭小なIESを超えるために、RBCは、大幅な変形を受ける:十分に変形可能でない場合、RBCは、静脈洞壁の上流において貯留される11。マラリア原虫を宿すRBCに対しては、このようなRBC処理機能が作用すると予測されている12
【0009】
RBCは、熱帯熱マラリア原虫の主要な宿主細胞(無性および有性の赤内期)である52。メロゾイトは、RBCに侵入し、その中で48時間にわたり発育した後、新世代のメロゾイトを生み出す。RBC内における寄生虫発育の結果、宿主細胞膜が変化し、これにより、新たな構造特性、機能特性、および抗原特性が示され、これらの一部は、熱帯マラリア原虫感染に独特の重症度と関連する13、14。広く受容されている枠組みによれば、熱帯マラリア原虫(P. falciparum)の無性形態を宿すRBC (iRBC)は、侵入後16〜20時間にわたり循環し(輪状体期)、次いで、赤血球内サイクル(栄養体期および分裂体期)の最後の28〜32時間において血管系で滞留する36。したがって、細胞接着性の成熟iRBCの組織滞留と対照的に、輪状体iRBCが、循環内において見出される熱帯熱マラリア原虫の主要な形態である。成熟iRBCの変形能は顕著に低下し、この結果、「古典的な」血管床での滞留を逃れるRBCは、脾内において貯留される15。加えて、マラリアを有する患者の血液から得(熱帯熱マラリア原虫に感染し)、次いで、ex vivoで熱硬化させ、標識し、同じ患者へと再注射したRBCは、脾臓により急速に排除された39
【0010】
この関連において、定量的な脾臓の循環フレームワークが、マラリア発症機序の一貫した理解の本質的な前提条件である。動物における開放循環の濾過床へと誘導される脾臓血流の割合は、90%16〜10%11の範囲にあることが過去の実験で決定されており、ヒトのin vivoにおける直接の外挿を保証する。
【0011】
本明細書において(また、54において)、本発明者らは、以下の2つの概念的に関連する手法:健康なボランティア被験者におけるin vivoの画像化、および培養iRBCによる、ex vivoにおけるヒト脾臓灌流システムに対する負荷に従い、ヒトの脾臓生理学と、マラリアの発症機序との相補的次元について報告する。本明細書において、本発明者らはまず、より緩徐なコンパートメントが流量の10%を占める、ヒト脾臓における2コンパートメントの血液循環をin vivoにおいて確認する。in vitroにおける培養物に由来する、熱帯熱マラリア原虫の輪状体に感染したRBC (輪状体)の50%超が、単離灌流されたヒト脾臓により貯留され、脾洞壁の脾臓実質側に沿って(すなわち、内皮細胞間隙の上流において)蓄積される54。本発明者らは、脾臓通過のたびに、ほぼ確実に力学的な過程を介して、かつて無視された輪状体iRBCの10%の部分集団が、ヒト脾臓RPの緩徐な開放循環構造内に貯留されることを示す。これらの結果は、輪状体期にある寄生虫の異種性を明らかにし、脾臓によるRBC濾過に対する新たな視点を提供し、マラリア患者における寄生虫増殖およびRBC喪失の制御に対して新たな光を投げかける。
【0012】
未成熟生殖母細胞を宿すRBC (これらは付着性である)と異なり、成熟生殖母細胞を宿すRBC (以後、成熟生殖母細胞と称する)は、末梢血中を循環する53。成熟生殖母細胞は循環するので、吸血性のハマダラカ(Anopheles)属種に吸血可能である。成熟生殖母細胞がハマダラカ属の吸血中に含有される場合、これにより、他のヒトに対する熱帯熱マラリア原虫伝染への決定的な段階である、該寄生虫の有性期の完全な発育が開始される52
【0013】
したがって、ヒト末梢血中における輪状体または成熟生殖母細胞を宿すRBCの存在は、脾臓における、これらの熱帯熱マラリア原虫の発育段階を宿すRBCの自発的貯留が部分的であるかまたは不在であることを示す。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
RBCの変形能(また、したがって、脾内におけるRBCの貯留)は、(少なくとも)3つの因子:膜の粘稠可撓性、細胞質の粘稠度、および細胞の形状(そのマーカーが容量に対するその表面積の比である)に依存する28、50。RBCの変形能は、浸透圧の変化を伴う/伴わない、せん断応力下にあるRBC集団の伸び指数から推定することができる(エクタサイトメトリー、Lorca)50。フィルター内の移動時間もまた、集団レベルにおけるRBCの変形能を反映する。したがって、これらのツールは、全体の10%未満を占める部分集団(これが、臨床試料または培養試料中におけるPf-iRBCの場合であることが極めて多い)を研究するには使用が限定される。先行技術において開示されるマイクロピペットおよびマイクロ流体デバイスは、限定的な表面上において変形するRBCの能力、または1μm (しかし通常は、>5μmの長さである)の狭小なチャネル内を流過するRBCの能力の測定を可能とする55。それらの測定値が単一細胞レベルなので、これらのツールは、大規模な(細胞>103個) RBC集団に対する迅速な解析にはあまり適さない。おおよそのところであれ、利用可能なツールにより、in vivoにおけるIESを超えるRBCおよびPf-iRBCの変形能に対する独特の負荷が模倣されることはないので、脾内貯留を予測するRBC変形能の検証されたマーカー(厳密な「内皮細胞間隙を超える負荷」を含めた)は得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCの濾過ユニット内での貯留を可能とする、RBCを濾過する方法を提供することにより、上述の困難を克服する。この方法は、患者に由来する血液試料からの、マラリア原虫に感染したRBC、もしくは変形能が変化したRBC (例えば、球状赤血球)の存在の検出、または患者におけるin vitroの脾臓生理を解析することに用いることができる。
【0016】
加えて、ビーズ層から硬直したRBCを回収することもでき、これにより、入手可能な異なる部分集団に対して、細胞レベル、細胞内レベル、および分子レベルにおけるさらなる比較解析を行うことが可能となる。それはまた、自動化にも適し、硬直したRBCのクリアランスまたは濃縮も可能とし、先天性または後天性のRBC障害における広い潜在的な実験および医学的適用を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ヒト脾臓実質内における血液循環のコントラスト超音波解析を示す図である。(a) Sonovue微小気泡による一定の灌流を受けるヒトボランティア被験者の脾内における、超音波シグナル強度の増強。(b1)被膜下帯[(a)における白線部]内における、超音波により誘導されるシグナル強度の低下43について、≧8秒間にわたり調べた。この典型例において示される通り、結果として得られる、実験によるシグナル-時間曲線(EC)に対する最良の近似は、2成分指数関数曲線(TC)により得られた(ボランティア被験者全16例における相関係数R2は、>0.96であった)。(b2)シグナル強度対時間についての2成分指数関数による数学的モデルであるN(t)=V1(C0exp(-β1t))+V2(B+(C0-B)exp(-β2t)) [式中、第1項および第2項は、それぞれ、緩徐流過コンパートメント、および急速流過コンパートメントに対応する]のグラフ表示である。(c)これらの観察に由来する、ヒト脾臓実質内における血液循環の図式的表示。
【図2】単離灌流されたヒト脾臓によるiRBCのクリアランスを示す図である。(a)単離灌流されたヒト脾臓による6回の個別の実験(図7a1〜6に示される全6回の実験)のうちの1回の120分間の灌流時における、熱帯熱マラリア原虫FUP株の分裂体iRBC(△)および輪状体iRBC(●)の寄生虫血状態。(b)赤脾髄の脾洞内腔(SL、b1)における突起(b2、矢印)のある分裂体iRBC [S、b1〜2 (バー=10μm)]、および脾索内(Co、b1)における無突起輪状体iRBC (R、b1〜3)を示す、実験終了時における脾臓試料の透過電子顕微鏡写真。貯留された輪状体iRBCの別の例を、図4 (d1〜2)に示す。
【図3A】「循環」実験および「循環-再循環」実験における輪状体iRBCクリアランスについてのモデリングを示す図であり、輪状体iRBCの2つの部分集団を明らかにする。理論的な実例:残留寄生虫血状態を伴わない1コンパートメント(a1)、残留寄生虫血状態を伴わない2コンパートメント(a2、実線は2成分指数関数曲線に対応し、点線は1成分指数関数曲線に対応する)、および残留寄生虫血状態(プラトー相)を伴う1コンパートメント(a3)によりグラフ表示される、灌流物中における輪状体iRBCの寄生虫血状態についてのモデル化。近似の良好さおよび推定されたパラメータの評価は、赤池情報量基準(AIC)、パラメータ推定値のばらつき(VC) (AIC値およびVC値がより低値であるほど、モデルが簡素化される)、および時間に対する濃度の測定値と予測値との重みづけ残差のランダム分布に基づいた。個々の値をTable I (表1)に示す。AICは、残留寄生虫血状態を伴わない1コンパートメントモデルの場合より、残留寄生虫血状態を伴う2コンパートメントモデルおよび1コンパートメントモデルの場合により低値であった。しかし、2コンパートメントモデルの場合、第2の半減期パラメータのばらつき係数が有意でなかった(>100%)。こうして、残留寄生虫血状態を伴う1コンパートメントモデルが、最良のモデルであった。
【図3B】「循環」実験および「循環-再循環」実験における輪状体iRBCクリアランスのモデリングを示す図であり、輪状体iRBCの2つの部分集団を明らかにする。「循環-再循環」実験。脾臓負荷用に調製されたiRBC集団およびRBC集団の一部(「脾臓未通過」集団)を灌流培地中37℃に保つ一方で、他の部分には脾内を灌流させた(b1)。灌流開始の40分後、循環する灌流物からiRBCおよびRBCを回収した(「脾臓通過」集団、b1)。PKH-26またはPKH-76を用いて両方の集団を差別的に標識し、次いで、これらをプールし、初期灌流ステップの110〜120分後に灌流物中へと再導入した。フローサイトメトリーを用いて確立されたiRBCの各部分集団のクリアランス動態は、脾臓「未通過」輪状体iRBCが排除されたのに対し、あらかじめ≒40回脾臓を通過させたiRBCは排除されなかったことを示す。「脾臓未通過」集団の動態についての最も簡素なモデルもまた、残留寄生虫血状態を伴う1コンパートメントモデルであった。2つの個別の実験に由来する平均(個別値による)のAICおよび半減期は、先行する6回の「循環」実験において観察された平均と同様であった(b2)。「脾臓通過」集団についての最も簡素なモデルは、除去されない残留寄生虫血状態であった(Table I (表1)を参照されたい)。
【図4A】ヒト脾内における熱帯熱マラリア原虫iRBC沈着の解析を示す図である。(a1〜2)輪状体iRBC (R; PFZ内、RP内)による部分集団、分裂体iRBC (S; PFZ内、RP内)による部分集団、または赤外期寄生虫の残渣(EER; PFZ内、RP内)による部分集団についての、濾胞周囲帯(PFZ)または赤脾髄(RP)内における、iRBC/100 RBC数の平均(SEM) (単離灌流されたヒト脾臓による6回の実験に由来する平均で、切片はギムザ染色した; WP=白脾髄、バー=50μm)。各寄生虫発育期の典型的な外観を挿入図に示す(中欄)。(a3) PFZまたはRP内における、輪状体iRBC (R)または分裂体iRBC (S)の貯留指数[RI=(a2における「iRBC/100 RBC数」)/(対応する実験の終了時における循環寄生虫血状態)]。貯留指数1 (黒色点線)とは、貯留の不在に対応する。パネルaについて:***、#は、それぞれ、p < 0.05、p≦0.01、およびp < 0.0001による統計学的な有意差を意味する。
【図4B】ヒト脾内における熱帯熱マラリア原虫iRBC沈着の解析を示す図である。(b1〜2) PAS染色を使用したが、a1〜2と同じ手法(a=中心動脈)。(c1)赤脾髄静脈洞の基底膜を示す、紫色にPAS染色した切片(バー=5μm)。赤脾髄内におけるRBC沈着の作業分類:脾洞内腔(SL)における沈着、脾洞壁基底膜と直接的に接触する脾索内(脾索内の脾臓実質側、CoA)における沈着、または脾索内ではあるが基底膜には接触しない(狭義の脾索内における、Co)沈着。(c2) c1において定義されたRP内におけるRBC沈着の作業分類を用いる、輪状体iRBCの貯留指数。(d1〜d2)内皮細胞間隙(黒色矢印)の上流および下流において、それぞれ輪状体iRBC (白色星印)および未感染RBC (黒色星印)を示す、単離灌流されたヒト脾臓試料の透過電子顕微鏡写真。この沈着は、赤脾髄内における、脾索(Co)から脾洞内腔(SL)へのRBC循環を反映する。輪状体iRBCの無突起膜は、脾洞壁の基底膜に対して極めて近接している(白色矢印)。パネルbおよびcについて:***、#は、それぞれ、p < 0.05、p≦0.01、およびp < 0.0001による統計学的な有意差を意味する。
【図5A】iRBCの変形能を示す図である。異なるせん断応力において測定された赤血球の伸び指数(EI)。
【図5B】iRBCの変形能を示す図である。(a3) 30パスカルで寄生虫血状態を増強したときの、培養された輪状体iRBCおよび分裂体iRBCのEI (4回にわたる個別の実験による平均および標準偏差(SD))。100%の寄生虫血状態に外挿された輪状体iRBCのEIの平均[95%信頼区間(Cl)]は、0.47 [0.43〜0.51]である。(b)灌流の終了時において処理された、脾臓試料の走査電子顕微鏡写真。脾洞壁の内腔画像は、内皮細胞に典型的な糸様の外観を示し、それらの核(N)は、脾洞内腔において突出している。細胞は、内皮細胞間隙から現出している(矢印、バー=3μm)。左上挿入図:内皮細胞間隙内で圧迫されるRBCの顕著な変形。
【図6】灌流されたヒト脾臓の急速循環コンパートメントおよび緩徐循環コンパートメントを介する、熱帯熱マラリア原虫に感染したRBCを示す図である。フレームワークとして、ヒトボランティア被験者におけるin vivo造影から抽出された循環特徴(図1)を用いる、培養iRBCによる負荷を受けたex vivoのヒト脾臓モデル(図2〜5を参照されたい)における観察の概略表示。輪状体iRBCおよび分裂体iRBCは、それらの主要な表現型特徴において異なり、輪状体iRBCは、in vitroにおける細胞接着特性、および観察可能な表面変化を示さない。組織学的切片における濾胞周囲帯に対応する急速コンパートメントでは、分裂体iRBCだけが貯留されたのに対し、赤脾髄に対応する緩徐コンパートメントでは、輪状体iRBCおよび分裂体iRBCの両方が貯留された(b)。この結果、著明に異なるクリアランス速度がもたらされた。緩徐コンパートメントへと流入する血液の比率(10.2%)と、同コンパートメント内に貯留される、貯留可能な輪状体iRBCの比率(11%)との類似は顕著であった。脾臓のマイクロ循環フレームワークの定量的次元が重要である。心拍出量の5%が脾臓へと拍出されるので、所与のRBCは、20分ごとに脾臓に侵入する。緩徐コンパートメントは、脾内血漿流量の10%を占めるに過ぎず、これは、脾内赤血球流量の10〜20% (血漿分離効果の強度に依存する11)に対応する。したがって、所与のRBCに対する変形能の品質管理は、100〜200分ごとに生じる。これは、かつて健康な対照において観察された、加熱されて硬直したRBCの半減期である60分間39と符合する。これらのかつての臨床的観察の大きさのオーダーは、本発明者らのフレームワークと完全に符合する。
【図7A】120分間の灌流時における、熱帯熱マラリア原虫FUP株の分裂体iRBC(△三角)および輪状体iRBC(●丸)の寄生虫血状態を示す図である。
【図7B】120分間の灌流時における、熱帯熱マラリア原虫FUP株の分裂体iRBC(△三角)および輪状体iRBC(●丸)の寄生虫血状態を示す図である。
【図7C】120分間の灌流時における、熱帯熱マラリア原虫FUP株の分裂体iRBC(△三角)および輪状体iRBC(●丸)の寄生虫血状態を示す図である。
【図8】アフリカ系成人患者に由来する高免疫性血清のプール(1/100希釈)を用いる、実験用に調製され、Hoechstにより対比染色された、培養分裂体iRBC (a1)集団および培養輪状体iRBC (a2)集団の表面免疫蛍光法を示す図である。挿入図では、典型的な、ギムザ染色された外観が示される。大半の分裂体iRBCが強く染色されたのに対し、輪状体iRBCは染色されなかった(バー=10μm)。(a3)表面をヨード化した培養分裂体iRBC (S)および培養輪状体iRBC (R)からのTriton-SDSによる抽出物に対するPAGEによるオートラジオグラフを示す図である。おそらくPfEMP1に対応する290kDaのバンド(矢印)は、分裂体iRBCの抽出物中だけにおいて観察された。
【図9】熱帯熱マラリア原虫の輪状体に感染したRBCの硬直性を上昇させる化合物をスクリーニングするために実施することができる実験ステップの概略表示である。
【図10】チャネル穿孔膜による重力駆動式濾過:一般的なセットアップおよび実験ステップを示す図である。1.カラムへの濾過媒体(4%アルブミンおよび5% Plasmion (登録商標)を補充したRPMI、または1%ヒトアルブミンを補充したPBS)の充填; 2.濾過前の10分間にわたる濾過ユニットのブロッキング(可溶化アルブミンを補充した懸濁培地による); 3.カラムへの試料(濾過媒体中2%〜2.5%のヘマトクリット)の投入; 4.濾過ステップ; 5.濾過ユニットの上流および下流における試料の回収; 6. Pf-iRBC濃度および溶血を定量化するための試料の処理。
【図11】チャネル穿孔膜による濾過を示す図である。A〜C、E:用いられる濾過ユニットの外観; A.用いられるポリカーボネート膜の種類; B.膜キャスト; C.膜; E.カラムに接続された濾過ユニット(進行中の濾過); D. Sterlitech (登録商標)ポリカーボネート膜を超えるときの、RBCの理論的な変形; F.幅2μmおよび3μmのチャネルを有する膜の下流からそれぞれ回収された試料上清の色。2μmの試料は、軽度〜中程度の溶血を示す。
【図12】ビーズ層による濾過を示す図である。A.ビーズ供給源; B.ビーズ層を維持するのに用いられるチップ(Barrier tips 1000; Neptune社製); C.デカンテーションの前(C1)および後(C2)において、チップにビーズを、サイズを小さくしながら充填する; D.チップ内におけるビーズ層の概略図。
【図13】ビーズ層による濾過を示す図である。A.ビーズ供給源; B.ビーズ層を維持するのに用いられるチップ(Barrier tips 1000; Neptune社製); C.デカンテーションの前(C1)および後(C2)において、チップにビーズを、サイズを小さくしながら充填する; D.チップ内におけるビーズ層の概略図; E. 5〜25μmずつ7mmにわたるビーズ層の写真。
【図14】天然および人工の内皮細胞間隙内におけるRBCの変形を示す図である。A1.赤脾髄内における脾索(co)および脾洞内腔(sl); A2〜3.脾洞壁を超えるときのRBCの圧迫(矢印) (単離灌流されたヒト脾臓に由来する、ギムザ染色されたスライド)。BおよびC.単離灌流されたヒト脾内における脾索から脾洞内腔への、内皮細胞間隙内におけるRBCの圧迫(矢印)を示す図(透過電子顕微鏡写真および走査電子顕微鏡写真)。D1〜2.ポリカーボネート膜のチャネル内(D1)またはビーズ間腔(D2)内におけるRBCの圧迫の概略表示。
【図15】天然および人工の内皮細胞間隙内におけるRBCの変形を示す図である。A.ヒト膵臓の赤脾髄における内皮細胞間隙内におけるRBCおよび内皮細胞(EC;点線)の形状観察を示す図(透過電子顕微鏡写真); B.ビーズ間腔内における最も狭小な直線路の最大直径についての幾何学的計算 (等しいサイズのビーズの混合物)。
【図16】シリンジベースの密閉回路による基準の濾過方法:原理を示す図である。
【図17】シリンジベースの密閉回路による基準の濾過方法: 3連における濾過のためのセットアップを示す図である。1.流量(単位: ml/分)、最終容量(単位: ml)、および圧力についての制御スクリーン(左から右へ)を伴う電動式シリンジポンプ; 2. 3ウェイの配管; 3.フィルター(矢印); 4.回収チューブ。
【図18】遠心分離ベースの濾過を示す図である。1.エッペンドルフ管内における濾過ユニットのセットアップ; 2.遠心分離前における濾過ユニット内の上流試料; 3.遠心分離時における濾過ユニットおよびエッペンドルフ管; 4.遠心分離の第1ラウンド終了時における濾過ユニットの外観; 5.遠心分離の第1ラウンド後における回収チューブ (下流試料)。
【図19】寄生虫血状態についての液相蛍光ベース定量化法:ギムザ染色されたスメア上において、または液相蛍光発光により並行して決定される、蛍光強度と寄生虫血状態との直線的相関関係を示す図である。10%の寄生虫血状態にある培養試料の2倍の段階希釈液に対する3連の解析。
【図20】寄生虫血状態についての液相蛍光ベース定量化法:寄生虫が寄生したRBCの濃度の低下(または上昇)についてのギムザ染色ベースの推定値と、蛍光ベースの推定値との直線的な相関関係を示す図である。上流から下流へ(下部)または上流からビーズ層へ(上部)の解析。X軸:ギムザ染色されたスメア上において評価された、フィルター内における貯留率; Y軸:液相蛍光発光により評価された、フィルター内における貯留率。
【図21】図20に由来する部分集団:寄生虫血状態についての液相蛍光ベース定量化法:上流から下流への貯留率についての詳細な解析により、フィルター内貯留への寄生虫発育期の強い依存が確認されることを示す図である。X軸:ギムザ染色されたスメア上において評価された、フィルター内における貯留率; Y軸:液相蛍光発光により評価された、フィルター内における貯留率。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、マラリア原虫属の寄生原虫に感染した赤血球(RBC)の硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法であって、
a)前記寄生虫に感染したRBCを培養し、場合によって、別々に未感染RBCを培養するステップであって、iRBCの硬直性を上昇させるその能力について調べる化合物の存在下および不在下の両方において各培養を実施するステップと、
b)前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数のiRBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数のiRBCの変形能を測定するステップと、
c)場合によって、前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数の未感染RBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数の未感染RBCの変形能を測定するステップと
を含むかまたはこれらからなり、
化合物の存在下において培養されたiRBCの変形能が、同化合物の不在下において培養されたiRBCの変形能と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下(特に、硬直性が、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%上昇)することにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させることが可能であることが示される方法に関する。
【0019】
特定の実施形態において、前記スクリーニングする方法は、
a)前記寄生虫に感染したRBCを培養し、別々に未感染RBCを培養するステップであって、iRBCの硬直性を上昇させる、特に選択的に上昇させるその能力について調べる化合物の存在下および不在下の両方において各培養を実施するステップと、
b)前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数のiRBC、
前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数のiRBC、
前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数の未感染RBC、および
前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数の未感染RBC
の変形能を測定するステップと
を含むかまたはこれらからなり、
化合物の存在下において培養されたiRBCの変形能が、同化合物の不在下において培養されたiRBCの変形能と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下することにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させることが可能であることが示される。
【0020】
本明細書で用いられる「化合物」とは、iRBCの硬直性を上昇させることが可能な任意の化合物、免疫グロブリン(Ig)、ポリペプチド、ペプチド、または他の生物学的治療剤でありうる。当技術分野において「低分子」化合物と称する化学的薬剤は、分子量が最大10,000、好ましくは最大5,000、より好ましくは最大1,000、また最も好ましくは最大500ドルトンの有機非ペプチド分子であることが典型的である。Igは、既知の方法を用いて作製することができ、また、例えば、ポリクローナル抗体の場合もあり、モノクローナル抗体の場合もあり、ヒト化抗体またはキメラ抗体の場合もあり、一本鎖抗体の場合もあり、Fabフラグメントの場合もある。「ペプチド」または「ポリペプチド」は、翻訳後修飾(例えば、グリコシル化またはリン酸化)に関わらず、天然のアミノ酸残基または非天然のアミノ酸残基およびアミノ酸残基類似体を含めた、2つ以上のアミノ酸(「ペプチド」の場合が2〜20アミノ酸であり、「ポリペプチド」の場合が20アミノ酸を超える)の任意の鎖である。このような化合物は、天然であれ非天然であれ、任意の適切な供給源から得ることもでき、これにより作製することもできる。適切な場合、前記の化合物は、任意の化学的な合成法によって合成することもでき、任意の生物学的な合成法によって合成することもできる。
【0021】
特定の実施形態によれば、一連の化合物がスクリーニングされる。特に、Sanofi Aventis社製の化合物をスクリーニングすることができる。
【0022】
特定の実施形態によれば、スクリーニングされた化合物は、その表層細胞骨格を含めたRBC膜(少なくともその表層細胞骨格を含めたiRBC膜)と相互作用すること、および/またはRBC内に(少なくともiRBC内に)侵入すること、特に、RBCの脂質二重層(少なくともiRBCの脂質二重層)を超えるか、もしくは修飾された二重層そのものと相互作用することが可能である。
【0023】
特定の実施形態によれば、スクリーニングされた化合物は、iRBCの硬直性を上昇させることにより、これらと選択的に相互作用する。本明細書において、「iRBCと選択的に相互作用する」とは、選択された化合物がiRBCと相互作用し、それらの硬直性を上昇させる一方で、それらが未感染RBCの硬直性は上昇させず、また、好ましくは、他の種類の細胞の硬直性も上昇させないことを意味する。これは、化合物の存在下において培養された未感染RBCの変形能が、化合物の不在下において培養された未感染RBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満の場合をスクリーニングすることを意味する。
【0024】
本明細書の特定の実施形態において、「iRBC」または「マラリア原虫に感染したiRBC」とは、輪状体RBC (または輪状体を宿すRBC)および/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCを意味する。
【0025】
特定の実施形態によれば、スクリーニングされた化合物は、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCの硬直性を上昇させることにより、これらと選択的に相互作用する。本明細書において、「輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCと選択的に相互作用する」とは、選択された化合物が、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCと相互作用して、これらの硬直性を上昇させる一方で、それらが未感染RBCの硬直性は上昇させず、好ましくは、他の種類の細胞の硬直性も上昇させないことを意味する。これは、(i)化合物の存在下において培養された分裂体iRBCの変形能が、化合物の不在下において培養された分裂体iRBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満の場合、および(ii)化合物の存在下において培養された未感染RBCの変形能が、化合物の不在下において培養された未感染RBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満である場合をスクリーニングすることを意味する。
【0026】
特定の実施形態によれば、スクリーニングされた化合物は、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCの硬直性を上昇させることにより、これらと選択的に相互作用する。本明細書において、「輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCと選択的に相互作用する」とは、選択された化合物が、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCと相互作用して、これらの硬直性を上昇させる一方で、それらが分裂体期にあるiRBC (分裂体iRBC)の硬直性は上昇させず、未感染RBCの硬直性も上昇させず、好ましくは、他の種類の細胞の硬直性も上昇させないことを意味する。これは、(i)化合物の存在下において培養された分裂体iRBCの変形能が、化合物の不在下において培養された分裂体iRBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満の場合、および(ii)化合物の存在下において培養された未感染RBCまたは他の種類の細胞の変形能が、化合物の不在下において培養された未感染RBCまたは他の種類の細胞の変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満である場合をスクリーニングすることを意味する。
【0027】
本明細書において、「iRBCの硬直性を上昇させる能力」とは、iRBCの硬直性を少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%上昇させる能力を意味する。iRBCの硬直性を上昇させる化合物の能力は、特に、前記化合物の存在下および不在下において培養されたiRBCの変形能を測定することにより評価することができる。したがって、特定の実施形態によれば、「硬直性を上昇させる」とは、「変形能を低下させる」こと、特に「変形能を少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下させる」ことを意味する。
【0028】
本明細書において、「マラリア原虫属の寄生原虫に感染する」とは、少なくとも1つの寄生虫[すなわち、無性生殖の結果である、マラリア原虫属の前記寄生原虫の娘細胞]を含有する赤血球を意味する。
【0029】
一実施形態により、寄生虫は、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、プラスモジウム・イヌイー、サルマラリア原虫、プラスモジウム・セミオバーレ、プラスモジウム・ブラジリアーヌム、プラスモジウム・シュウェツィー、およびプラスモジウム・シミウムからなる群、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、および四日熱マラリア原虫からなる群、より好ましくは、熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫からなる群において選択される。
【0030】
特定の実施形態において、前記寄生虫は、熱帯熱マラリア原虫、特に、熱帯熱マラリア原虫のパロアルトI株である。
【0031】
特定の実施形態によれば、寄生虫、特に、RBCに感染したメロゾイトは、輪状体の形態へと発育しており、したがって、感染RBCは、輪状体期にある。特に、新鮮な、輪状体に感染したRBC (輪状体iRBC)、すなわち、14時間未満の輪状体iRBC、8日齢以下の輪状体iRBC (8日齢未満の輪状体iRBCが好ましい)を回収することができる。
【0032】
代替的または重複的に、RBCは、生殖母細胞を宿すRBC、また好ましくは、成熟生殖母細胞を宿すRBCでありうる。
【0033】
マラリア原虫の寄生虫の発育を人為的に同期させることにより、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCを選択することができる。例えば、ソルビトールまたはマンニトールによる処理など、当技術分野では複数の方法が知られており、5%ソルビトールによるiRBC処理(例えば、37℃で5分間)は、後期寄生虫を含有するiRBCの溶解を引き起こし、初期輪状体を伴うiRBCを優先的に選択する。例えば、34時間後に処理を繰り返して(少なくとも2回、例えば、2、3、4、もしくは5回、または5回を超える)、幼齢期寄生虫をさらに選択し、同期性について改善することができる。他の技法は、後期寄生虫の分離、例えば、Plasmagelまたはゼラチン中における沈殿を伴う。したがって、一実施形態では、本発明によるスクリーニング方法のステップa)の前に、iRBC培養物の寄生虫の同期化ステップを行う。
【0034】
一実施形態によれば、RBC (未感染RBCおよび/または感染RBC)は、ヒトRBCである。類人猿霊長類に由来するRBCもまた用いうるが、ヒトRBCを用いることがより好ましい。すべての血液型のヒトRBCがマラリア原虫の成長、特に、熱帯熱マラリア原虫の成長に適する。他のすべての血液型のヒト血清またはヒト血漿とのそれらの適合性のために、O型のRBCがとりわけ有用である。
【0035】
実施されるスクリーニングは、ロースループットスクリーニングの場合もあり、ハイスループットスクリーニングの場合もある。代替的に、本発明のスクリーニング方法は、1つまたは複数ステップのロースループットスクリーニング、および1つまたは複数ステップのハイスループットスクリーニングを含みうる。
【0036】
RBCまたはiRBCの変形能は、マイクロ循環時においてフラグメント化または完全性の喪失なしに実質的な変形を受ける能力、および動脈循環のせん断応力に耐える能力として定義することができる。
【0037】
したがって、RBCおよびiRBCの変形能の測定とは、表現型の測定である。それは、集団的な細胞スケールおよび/または個別の細胞スケールにおいて実施することができる。したがって、本発明のスクリーニング方法は、集団的な細胞スケールにおける変形能解析の1つもしくは複数のステップ、および/または個別の細胞スケールにおける変形能解析の1つもしくは複数のステップを含む。
【0038】
iRBC、特に、輪状体iRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCの変形能の評価を可能とするためには、一般に、RBCおよびiRBCを、完全培地(RPMI 1640培地、重炭酸塩、25mMグルタミン、0.2%グルコース、100μMヒポキサンチン、10μg/mlゲンタマイシン、および10% AB+型不活化ヒト血清プール)など、RPMI 1640培地または栄養補充型RPMI 1640培地中において37℃または38℃で培養する。加えて、これらの細胞は、低酸素圧(低p02)条件(一般に1〜5% O2)下において、例えば、1% O2、3% CO2、および96% N2による雰囲気中において培養することが好ましい。
【0039】
RBCおよびiRBCは、調べる化合物と共に、0.1〜10時間、好ましくは1〜6時間、より好ましくは1〜3時間、例えば、1、2、または3時間にわたりインキュベートすることができる。したがって、本発明のスクリーニング方法では、ステップa)の後の0.1〜10時間、好ましくは1〜6時間、より好ましくは1〜3時間、例えば、1、2、または3時間にわたり、ステップb)を実施することができる。
【0040】
変形能解析は一般に、(i)培養物上清の除去(例えば、1分間当たり1500回転で5分間にわたる遠心分離による)、および(ii) PBS中1%のアルブミンまたはRPMI中1%のアルブミン中におけるペレットの懸濁の後に実施される。
【0041】
RBCの変形能を測定する各種の技法、特に、エクタサイトメトリー、レオスコピー、マイクロ流体解析、マイクロピペット吸引、および光ピンセットの使用が提起されている。したがって、一実施形態によれば、RBCおよびiRBCの変形能は、レオスコープ、エクタサイトメーター、マイクロ流体デバイス(特に、毛細管マイクロ流体系)、マイクロピペット、および/または光ピンセットにより測定される。
【0042】
エクタサイトメトリーは、様々なせん断応力レベル下にあるRBCに対するレーザー回折解析を用いる。この技法は、実施が比較的容易であり、許容可能な精度を有し、様々なせん断応力で実施することができ、極めて少量の血液(50μl未満)を用いる迅速な細胞変形能の測定を可能とする点で、他の技法と比較して複数の利点を有する。自動式エクタサイトメーターは、市販されている。本発明のスクリーニング方法において用いうるモデルには、LORCA (オランダ、ホールン、Mechatronics社製、Laser-assisted Optical Rotational Cell Analyzer)およびRHEODYN-SSD(ドイツ、レートゲン、Myrenne社製)が含まれる。エクタサイトメトリーは、レーザー回折および画像解析を用いて、流体のせん断応力下にある細胞の伸び指数値を決定することにより、細胞変形能の測定値をもたらす。せん断応力を増大させながらRBCをこれに曝露し、懸濁液を介するレーザー回折パターンを記録する。せん断応力値が増大するにつれて、レーザー回折パターンは、円形から楕円形へと変化する。これらの測定値から、細胞の伸び指数を導出することができる。
【0043】
特定の実施形態によれば、RBCおよびiRBCの変形能を測定するのに用いられるエクタサイトメーターは、市販の回転式エクタサイトメーターであるLORCAである。このようなエクタサイトメーターを用いて、2つの同心円筒間においてRBCの粘稠性懸濁液をせん断する。実施例部分において示される通り、円筒のうちの1つが回転することにより、RBCの変形(伸び)が引き起こされる。ビデオカメラによりレーザービームの回折パターンを検出し、それをデジタル値である伸び指数(EI)へと変換するコンピュータにより解析する。
【0044】
したがって、一実施形態において、特にエクタサイトメーターを用いる場合、変形能の測定は、伸び指数(EI)を参照することにより実施される。楕円形の回折パターンの2本の軸長の差と、2本の軸長の和との比率として一般に定義されるこの測定値は通常、楕円近似プログラムを用いる回折パターン内における強度曲線から決定される。RBCの変形能を測定する技法は、集団的な細胞スケールで変形能を解析する場合の平均値の指標を結果としてもたらすことが多い。
【0045】
加えて、一実施形態において、とりわけエクタサイトメーターを用いる場合、RBCおよびiRBCの変形能、特に伸び指数は通常、0〜35パスカル(Pa)、好ましくは0.3〜30 Pa、例えば、1.7Pa〜30Pa、特に1.7Paおよび/または30Paのせん断力の範囲にわたり測定される。
【0046】
特定の実施形態によれば、iRBCの寄生虫血レベルは、細胞集団の少なくとも20%または30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは細胞集団の少なくとも70%である。
【0047】
「寄生虫血状態」とは、培養物中において少なくとも1つの輪状体または生殖母細胞を含有するRBCの百分率で表わされる定量的な寄生虫含量を意味する。寄生虫数は、例えば、薄い血液スメア(高寄生虫血状態の場合)または厚い血液スポット(低寄生虫血状態の場合)上において光学顕微鏡を用いてカウントすることができる。
【0048】
一般に、とりわけ集団的な細胞スケールでRBCおよびiRBCの変形能を測定する場合(例えば、エクタサイトメーターを用いる場合)、異なる寄生虫血状態(少なくとも2つの異なる寄生虫血状態)において、例えば、輪状体iRBCの場合4〜76%の寄生虫血状態においてEIが測定され、100%の寄生虫血状態に外挿される。
【0049】
一実施形態によれば、30Paで100%の寄生虫血状態に外挿する場合、調べる化合物の存在下において培養したiRBCについて、0.43未満のEI、より好ましくは0.42未満のEIにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させうることが示される。
【0050】
RBC (未感染RBCまたは既感染RBC)にiRBCの培養物、特に、分裂体期にあるiRBCを含有する培養物を感染(または再感染)させることにより、前記RBCの培養物中において寄生虫血状態を誘導または増強することができる。分裂体期にあるiRBCは、例えば、ゼラチン溶液中における懸濁(plasmion (登録商標)処理)により、または当技術分野で知られる他の任意の技法により、特に、パーコール勾配を用いて、iRBC培養物中において濃縮することができる。
【0051】
特定の実施形態によれば、未感染RBC、特に、新鮮な未感染RBC (すなわち、8日齢以下のRBC、好ましくは、8日齢未満のRBC)に、例えば、plasmion (登録商標)処理により分裂体期のiRBCが濃縮された培養物を感染させることにより、本発明のスクリーニング方法のステップa)で用いられるiRBC集団が得られている。したがって、特定の実施形態において、変形能は、培養にかけただけであり、他の処理にはかけていないiRBCを用いて測定される。
【0052】
したがって、特定の実施形態によれば、本発明のスクリーニング方法は、
1)例えば、plasmion (登録商標)処理により、または当技術分野で知られる他の任意の技法により、iRBCの培養物中における分裂体期iRBCを濃縮するステップと、
2)RBC、特に、新鮮なRBC (すなわち、8日齢以下のRBC、好ましくは、8日齢未満のRBC)に、ステップ1)の分裂体を濃縮したiRBC培養物を感染させるステップ(この第2のステップにより、輪状体期にあるiRBCを得ることが可能となる)と、
3)ステップ2)で得られたiRBCを培養し、場合によって、別々に未感染RBCを培養するステップであって、iRBCの硬直性を上昇させるその能力について調べる化合物の存在下および不在下の両方において各培養を実施するステップと、
4)前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数のiRBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数のiRBCの変形能を測定するステップと、
5)場合によって、前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数の未感染RBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数の未感染RBCの変形能を測定するステップと
を含むかまたはこれらからなり、
化合物の存在下において培養されたiRBCの変形能が、同化合物の不在下において培養されたiRBCの変形能と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下することにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させることが可能であることが示される。
【0053】
このようなスクリーニング方法の例は、実施例の部(例えば、実施例Bを参照されたい)において与えられている。
【0054】
加えて、上述の特定の実施形態において、iRBC培養物の寄生虫、特に、分裂体を濃縮したiRBC培養物の寄生虫は、当技術分野で知られる任意の方法により、特に、本明細書で引用される任意の同期化方法により、例えば、1回または複数回(2、3、4、もしくは5回、または5回を超える)のソルビトール処理により同期化させることができる。前記同期化ステップ、または少なくとも1つの同期化ステップは、分裂体濃縮ステップの前に実施することが好ましい。
【0055】
一実施形態によれば、本発明のスクリーニング方法は、スクリーニングされた化合物を、単離灌流されたヒト脾臓モデル、および/または単離灌流されたブタ脾臓モデルにより検証するステップをさらに含む。前記さらなるステップは一般に、変形能解析のステップの後で実施される。
【0056】
本発明の特定の実施形態によれば、上記で開示されたスクリーニング方法において、RBCまたはiRBCの変形能の測定は、本明細書で定義されるRBCを濾過する方法を用いて、好ましくは、RBCまたはiRBCの貯留率または貯留比(以下で説明される)を参照することにより実施される。
【0057】
本発明はまた、iRBCと選択的に相互作用するか、または輪状体iRBCおよび/もしくは生殖母細胞を宿すRBCと(特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCと)選択的に相互作用し、それらの硬直性を上昇させるのに適する化合物を選択するための、本発明のスクリーニング方法の適用にも関する。
【0058】
本発明はまた、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCの濾過ユニット内での貯留を可能とする、RBCを濾過する方法であって、
a) RBCを含む試料に、濾過ユニット内を流過させるステップと、
b)濾過ユニット内を流過する前における前記試料のアリコート(上流アリコート)、また、濾過ユニット内を流過した後における前記試料のアリコート(下流アリコート)を回収するステップと、
c)場合によって、濾過ユニット内へと貯留されたRBC (貯留アリコート)を回収するステップと、
d)場合によって、上流アリコートおよび下流アリコート、また場合によって、貯留アリコートを解析し、特に、上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の濃度または密度を決定するステップと
を含むかまたはこれらからなる方法にも関する。
【0059】
本発明のRBCを濾過する方法は、in vivoの脾臓において通常貯留されるRBCを濾過ユニット内に貯留することを可能とし、したがって、in vivo、とりわけ、ヒトにおいて生じる脾臓による濾過機能を再現する。
【0060】
本明細書において、「変形能の低下」(または硬直性もしくは硬直化の上昇)とは、変形能の部分的または全体的な喪失を意味する。変形能は一般に、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下する。本発明の特定の実施形態において、「変形能の低下」とは、「硬直性の上昇」を意味する。
【0061】
上流アリコート、下流アリコート、および貯留アリコートは一般に、マイクロプレート内に回収される。密度の決定は、自動的な方法により、上流アリコートおよび下流アリコートについて同時に実施することができる。
【0062】
特定の実施形態において、RBCを濾過する方法のステップd)は、例えば、以下の式:
(下流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度-上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度)/上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度
を用いて、濾過ユニット内におけるRBCまたはRBC部分集団の貯留率(すなわち、貯留されるRBCまたはRBC部分集団の百分率)を計算するステップをさらに含む。
【0063】
代替的に、方法は、例えば、貯留率(下流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度/上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度)を決定することにより、下流アリコートおよび上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度を比較するステップも含みうる。
【0064】
特定の実施形態において、ステップd)は、例えば、遠心分離した上流アリコートおよび下流アリコート、また場合によって、遠心分離した貯留アリコートからの上清中におけるヒト乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)濃度を定量化することにより、上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中における溶血を決定するステップを含む。
【0065】
本発明の特定の実施形態において、RBCはヒトRBCである。
【0066】
本発明のRBCを濾過する方法では、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCを含む試料を用いることが好ましい。これらのRBCには、マラリア原虫属の寄生原虫に感染したRBC、加熱されたRBC、先天性または後天性の免疫機能不全のほか、先天性または後天性のRBC障害を有しうる患者に由来するRBC、また好ましくは、遺伝性または後天性の疾患、例えば、遺伝性または後天性の球状赤血球症、楕円赤血球症、敗血症、異常ヘモグロビン症(アルファサラセミアまたはベータサラセミア、鎌状赤血球症、および鎌状赤血球形質)、自己免疫性溶血性貧血、他の溶血性貧血、酵素欠損(グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、他の赤血球酵素)を有しうる患者に由来するRBC 1が含まれる。
【0067】
特定の実施形態において、ステップd)で解析されるRBC、または少なくとも、ステップd)で解析される少なくとも1つのRBC部分集団は、異常なRBCまたはマラリア原虫に感染したRBC (iRBC)、特に輪状体を宿すiRBCまたは生殖母細胞を宿すiRBC、例えば、成熟生殖母細胞を宿すiRBCである。
【0068】
iRBC、特に、輪状体を宿すiRBCまたは生殖母細胞を宿すRBCを解析する場合、ステップd)は一般に、
・上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中における寄生虫血状態の百分率を決定するステップと、
・場合によって、(i)以下の式: (下流アリコート中における寄生虫血状態の百分率-上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率)/上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率を用いる、濾過ユニット内におけるRBC貯留率、または(ii)貯留率(下流アリコート中における寄生虫血状態の百分率/上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率)を決定するステップと
を含むかまたはこれらからなる。
【0069】
本発明の特定の実施形態において、寄生虫は、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、プラスモジウム・イヌイー、サルマラリア原虫、プラスモジウム・セミオバーレ、プラスモジウム・ブラジリアーヌム、プラスモジウム・シュウェツィー、およびプラスモジウム・シミウムからなる群、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、および四日熱マラリア原虫からなる群、より好ましくは、熱帯熱マラリア原虫(Pf)三日熱マラリア原虫からなる群、例えば、パロアルトI株の熱帯熱マラリア原虫において選択される。
【0070】
本発明の特定の実施形態において、試料のRBCは、(既知または新規の)化合物、特に、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させることが可能でありうる化合物、例えば、iRBCの硬直性を特異的に調節し、好ましくはこれを上昇させうる化合物(特に、輪状体を宿すiRBCおよび/または生殖母細胞を宿すiRBCに対して特異的に作用する化合物)にあらかじめ曝露されている。
【0071】
本発明の濾過方法では、小容量の試料、例えば、密封された1〜100マイクロリットルの赤血球試料を一般に用いる。
【0072】
試料は一般に、4%アルブミンおよび5% Plasmion (登録商標)を補充するか、もしくは1% albumax II (登録商標)を補充したPBSもしくはRPMIを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる懸濁培地中において懸濁させることが好ましい。
【0073】
本明細書において、「本質的に〜からなる」とは、さほどの影響を及ぼすことなく、副次的成分を試料中に添加しうることを意味する。
【0074】
本発明の特定の実施形態において、RBCは、あらかじめ患者から得られた血液試料(例えば、全血液試料)から、また好ましくは、あらかじめ患者から得られた末梢血試料から回収されている。
【0075】
本発明の別の特定の実施形態において、RBCは、あらかじめ患者から得られた血液試料から回収されておらず、あらかじめ患者から得られた血液試料(例えば、全血液試料)を希釈することにより得られたものであり、また好ましくは、あらかじめ患者から得られた末梢血試料を希釈することにより得られたものである。
【0076】
本発明の濾過方法において用いられるRBC、特にiRBCは、本明細書で定義される、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させる能力を有しうる化合物により治療された患者に由来する血液試料から回収することができる。例えば、前記RBCは、前記化合物による数時間の治療後に回収することができる。
【0077】
代替的に、または重複的に、本発明の濾過方法において用いられるRBC、特にiRBCは、in vitroにおける培養を介して得ることができる。
【0078】
特に、薬物に曝露されたRBCは、本明細書で定義される、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させる能力を有しうる化合物にin vitroで曝露した後に、特に、前記化合物の存在下においてRBC、特にiRBC (例えば、輪状体を宿すiRBCおよび/または生殖母細胞を宿すiRBC)をin vitroで培養した後に回収することができる。
【0079】
iRBCを含む試料を用いる場合、RBC、好ましくは8日齢未満のRBCにiRBC、特に、分裂体期のiRBCが濃縮されたiRBC培養物を感染させることにより、in vitroでiRBC培養物を調製することができ、前記濃縮は、例えば、plasmion (登録商標)処理により実施する。
【0080】
本発明の特定の実施形態において、濾過ユニットの小孔(またはチャネル)の直径は、1〜10μm、また好ましくは1.85〜9.4μmの範囲、または1〜3もしくは1〜2μmの範囲にあり、例えば、直径は2μmである。
【0081】
本発明の特定の実施形態において、濾過ユニットのチャネルの厚さは、24μm未満、また好ましくは5μm未満である。
【0082】
本発明の特定の実施形態において、濾過ユニット内の流過は、重力、フラッシュ(例えば、一定の圧力を加えることによる)、吸引、または遠心分離により駆動される。
【0083】
濾過ユニットは通常、カラム内(例えば、濾過ユニット内の流過が、重力またはフラッシュにより駆動される場合)、または試験管内(例えば、濾過ユニット内の流過が、遠心分離により駆動される場合)に設置される。
【0084】
本発明の特定の実施形態において、試料のヘマトクリットは低値、例えば5%未満、より好ましくは2%〜2.5%の範囲内にある。
【0085】
本発明の特定の実施形態において、濾過ユニットは、チャネル穿孔膜、例えば、ポリカーボネート製チャネル穿孔膜を含むかまたはこれらからなる。チャネルの直径が1〜3μmの範囲にあり、チャネルの長さが24μmである、Sterlitech社製チャネル穿孔膜が特に適切である。例えば、幅2μmで厚さ24μmのSterlitech社によるポリカーボネート製チャネル穿孔膜を用いることができる。
【0086】
チャネル穿孔膜を用いる場合、濾過ユニット内の流過は一般的に、重力により駆動される。特に、ステップa)は重力により駆動することができ、一定圧力下、例えば、80〜85cmの水による一定圧力下において、また好ましくは約34〜37℃の温度で実施することができる。
【0087】
代替的に、濾過ユニットは、1つまたは複数のビーズ層、また好ましくはスズビーズ層を含むかまたはこれらからなる場合があり、濾過ユニット内に存在するビーズの直径は、2〜25μmまたは5〜25μmの範囲内にあり、濾過ユニット内におけるビーズ間腔により形成されるチャネル(孔)は、0.74〜9.4μmまたは1.85〜9.4μmの間で変化することが好ましい。
【0088】
本発明の特定の実施形態において、濾過ユニット内に存在する各ビーズ層は、少なくとも0.5〜10μmの厚さであり、濾過ユニット内におけるビーズの厚さの合計は、少なくとも5mm、好ましくは7mmである。例えば、その直径が5〜15μmの範囲の等重量のビーズと、その直径が15〜25μmの範囲の等重量のビーズとの混合物からなる、少なくとも5mm、また好ましくは7mmの厚さの層を用いることができる。特定の実施形態では、その直径が5〜25μmの範囲の厚さ7mmのビーズ層が用いられる。別の特定の実施形態において、濾過ユニットは、その直径が5〜25μmの範囲の厚さ7mmのビーズ層と、直径が5μm未満のビーズを含む上層とを含む。濾過ユニットにおいて、ビーズ層は、ビーズを維持するのに適し、濾過ユニットの貯留能には関与しないフィルター上において支持される。
【0089】
ビーズ層を用いる場合、濾過ユニット内の流過は一般に、シリンジにより加圧された流過を用いて、または遠心分離により(例えば、1500〜2500gで1〜2分間にわたり遠心分離することにより)得られる。例えば、電動ポンプを用いて、8分間にわたり、層中における懸濁培地(例えば、PBS+1% Albumax II)の1ml/分で一定の流過(すなわち、8mlの最終容量)を発生させることができる。圧力の上限は、例えば、999ミリバールでありうる。代替的に、濾過ユニット内の流過はまた、他の技法を用いて得ることもでき、例えば、重力により駆動することができる。
【0090】
本発明の特定の実施形態では、ビーズ層が用いられ、ステップa)は、一定圧力下、例えば、80〜85cmの水による一定圧力下において、また好ましくは、約20〜25℃の温度で実施される。
【0091】
本発明のRBCを濾過する方法が、ビーズ層中に貯留されたRBCを回収するステップc)を含む場合、このステップは、例えば、分別デカンテーションにより(例えば、重力による1〜3分間にわたる複数のデカンテーションステップ後に)実施することができる。
【0092】
本発明のRBCを濾過する方法を用いると、集団的な細胞スケールでRBC解析、特にiRBC解析が実施される。
【0093】
本発明の特定の実施形態において、ステップd)、特にRBCの密度または寄生虫血状態の決定は、液相蛍光ベース定量化法により、またはギムザ染色後に実施される。加熱されたRBCまたは寄生虫が寄生したRBCに対する蛍光ベースの定量化は、それぞれ、PKH-26またはSYBR-lでRBCを染色することにより実施することができる。蛍光強度は一般に、カウンター、例えば、FLX-800カウンターを用いて定量化される。
【0094】
本明細書で開示される方法は、いずれもin vitroで実施することができる。
【0095】
別の態様において、本発明は、とりわけ例えば本明細書で開示されるマラリア原虫属iRBCの硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法における、RBCマラリア原虫属の寄生原虫に感染したRBCの変形能を調節する能力、特に硬直性を誘導するかまたは上昇させる能力について化合物をスクリーニングするための、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法の適用に関する。好ましい実施形態では、感染RBCの貯留率または貯留比を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする。本発明の濾過方法により、ロースループットスクリーニングまたはミドルスループットスクリーニングもしくはハイスループットスクリーニングの実施が可能となる。
【0096】
このスクリーニング方法の特定の実施形態において、スクリーニングされた化合物は、その表層細胞骨格を含めたRBC膜(少なくともその表層細胞骨格を含めたiRBC膜)と相互作用すること、および/またはRBC内に(少なくともiRBC内に)侵入すること、特に、RBCの脂質二重層(少なくともiRBCの脂質二重層)を超えるか、もしくは修飾された二重層そのものと相互作用することが可能である。
【0097】
本発明の特定の実施形態において、化合物をスクリーニングするこの方法は、
本発明の赤血球を濾過する方法を、RBCを含む2つの試料アリコートに適用するステップであって、1つのアリコートだけが、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させるその能力について調べる化合物にあらかじめ曝露されている(曝露されていないアリコートは、内部対照を構成する)ステップと、
両方の試料アリコートについて決定されたRBC貯留率またはRBC貯留比を比較し、絶対値における両方のRBC貯留率または両方のRBC貯留比の間の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%の変化により、前記化合物がRBCの硬直性/変形能を調節しうることが示され、また、化合物に曝露されていない試料アリコートについて得られたRBC貯留率またはRBC貯留比と比較して、化合物に曝露された試料アリコートについて得られたRBC貯留率(絶対値における)またはRBC貯留比が、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%上昇することにより、前記化合物がRBCの硬直性を上昇させうる/RBCの変形能を低下させうることが示されるステップと
を含むかまたはこれからなる。
【0098】
さらなる態様において、本発明は、マラリア原虫属の寄生原虫に感染した赤血球(iRBC)と選択的に相互作用し、特に、輪状体期にあるiRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCと選択的に相互作用し、それらの硬直性を調節し、特に、これを上昇させる(それらの変形能を低下させる)のに適し、また、本発明による濾過ユニット内におけるこれらのiRBCの貯留率または貯留比を上昇させるのにも適する化合物を選択するための、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法の適用に関する。
【0099】
したがって、本発明の濾過方法は、輪状体を宿すRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC (とりわけ、成熟生殖母細胞を宿すRBC)の変形能を特異的に低下させ(すなわち、硬直性を特異的に上昇させ)、したがって、脾内におけるこれらの細胞の貯留、またおそらくは、脾臓に依存する、循環血液からのこれらの細胞のクリアランスを誘導し、増大させ、かつ/または速めることが可能な化合物のスクリーニングにも用いることができる。したがって、このようにしてスクリーニングされた化合物は、マラリアの治療に有用である。活性とは、化合物が、濾過を介するiRBCの貯留を誘導するかまたは増大させる能力として定義される。
【0100】
別の態様において、本発明は、変形能が異常であり、特に変形能が低下したRBCの単離および/または検出、例えば、RBCの変形能の異常、特にRBCの変形能の低下と関連する臨床状態のin vitroにおける診断/検出に対する、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法の適用に関する。
【0101】
本発明の特定の一実施形態では、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法が、マラリア原虫属の寄生原虫(例えば、熱帯熱マラリア原虫)に感染した可能性がある患者に由来する血液試料中において、iRBC、特に輪状体を宿すRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC (例えば、成熟生殖母細胞を宿すRBC)を単離および/または検出するのに用いられる。
【0102】
本発明の別の特定の実施形態では、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法が、後天性または先天性の疾患と関連するRBCの単離および/または検出、RBCの変形能に影響を及ぼす後天性または先天性の障害、例えば、後天性または先天性の球状赤血球症(すなわち球状赤血球の単離および/または検出)、楕円赤血球症、敗血症、異常ヘモグロビン症(アルファサラセミアまたはベータサラセミア、鎌状赤血球症、および鎌状赤血球形質)、自己免疫性溶血性貧血、他の溶血性貧血、酵素欠損(グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、他の赤血球酵素)の診断または予後診断に用いられる。
【0103】
本発明の別の特定の実施形態では、本明細書で開示されるRBCを濾過する方法が、変形能が異常であり、とりわけ変形能が低下したRBCを実験研究用に単離するのに用いられる。
【0104】
本発明のRBCを濾過する方法はまた、RBCの部分集団、特にiRBC、とりわけ輪状体を宿すRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBCを解析および/または単離するのにも用いることができる。
【0105】
本発明の別の特定の実施形態では、本明細書で説明されるRBCを濾過する方法が、患者に投与される抗マラリア薬の有効性を調べるのに用いられる。濾過する方法は、薬物投与の数時間または数日後における患者から回収した、薬物に曝露された、マラリア原虫に感染したRBCと共に用いられ、薬物に対する曝露の前および後に試料採取されたマラリア原虫iRBCの貯留率または貯留比の観察された変化により、薬物が、脾臓によるマラリア原虫iRBCの変形能に依存した貯留または破壊を低下させることが示される。
【0106】
最後に、実験的なRBC濾過は、脾臓の濾過機能に適用可能な最良の代替法であるため、それは、患者における、特に先天性または後天性の免疫機能不全のほか、先天性または後天性のRBC障害を有する患者における脾臓機能をin vitroで解析するのに有用な検査のための基盤をもたらしうる。
【0107】
(実施例)
(実施例A)
ヒト脾臓の緩徐な開放マイクロ循環における、熱帯熱マラリア原虫の輪状体に感染した赤血球の貯留
患者、材料、および方法
ヒトボランティア被験者におけるコントラスト増強超音波検査:以下の組入れ基準:アテロームの危険因子がなく(すなわち、動脈圧が正常であり、現在または過去において喫煙の習慣がなく、血清コレステロールレベルが正常であること)、腹部手術の既往歴がなく、現在または過去において著明な健康問題がなく(健康診断で正常であり、血清クレアチニンレベル、血清ASTレベル、および血清ビリルビンレベルが正常であり、HIV、HBV、およびHCVに対する抗体が不在であり)、従来の超音波検査およびドップラー検査により評価された脾臓の大血管構造が正常であり、また、血球カウント、血清ハプトグロビン、およびヘモグロビン電気泳動が正常であることを含め、赤血球疾患の臨床的または生物学的徴候が見られないことに従い、18〜50歳の健康な男性ボランティア被験者16例を登録した。試験は、ネッカー病院の治験審査委員会により承認され、すべての被験者から書面によるインフォームドコンセントを得た。一定の注入速度1ml/分で超音波検査用造影剤(イタリア、ミラノ、Bracco社製、Sonovue (登録商標))を静脈内注射した。Phillips HDI 5000 (米国、ワシントン州、ボセル、Philips US社製)を用いて、コントラスト増強超音波検査を実施した。注入開始の2分後から、微小気泡による破壊を最小化するため、低メカニカルインデックスのパルスインバージョン造影を用いるリニアトランスデューサー(L10-5型)により、脾臓を画像化した17。各回の画像収集は3回ずつ繰り返し、生データをPCへと伝送し、さらなる定量化を行った。圧縮マップを考慮に入れ、線形ユニットにおける定量化を可能とするソフトウェアであるHDI Lab (米国、ワシントン州、ボセル、Philips US社製)を用いて、各シネループを定量化した。被膜下領域内に位置する対象領域(ROI)からのシグナル強度を計算した。ROIの位置は、呼吸運動および皮下におけるアーチファクトを補正するように移動させた。時間-強度曲線を、Deltagraph (米国、ユタ州、ソルトレークシティ、Red Rock software社製)にエクスポートした。2成分指数関数モデルを用いて、データを近似した。データとモデルとの相関係数を用いて、近似の質を評価した。
【0108】
ヒト脾臓の回収:説明される通りに7、脾臓を回収および処理した。内外科によるケアは変更せず、患者の書面による同意書を得た。プロジェクトは、イルドフランスII治験審査委員会により承認された。外科手術と連関する、30〜90分間の温熱虚血状態の間に、病理学者により脾臓の外観が目視観察され、必要なすべての実験前生検が実施されたら、脾臓中心動脈をカニューレ処理した。脾臓を低温のクレブス-アルブミン液によりフラッシュし、実験室へと移送した。
【0109】
寄生虫:説明される通りに19、熱帯熱マラリア原虫パロアルト(FUP-CB 13)株、D10株18、およびFCR-3株を培養した。無色素性のヒト黒色腫細胞(C32細胞) 1個当たり5個を超えるiRBCの細胞接着速度が得られるまで、C32細胞に対するパニング20を繰り返した。16時間未満の間に完全な再侵入が生じるまで、細胞接着性iRBCを増幅し、ゲル浮遊により大まかに同期化させ、次いで、>3mlのアリコートとして液体窒素中で保存した。脾臓負荷の7日未満前にアリコートを融解させ、寄生虫に、未感染RBCへと再侵入させた。脾臓負荷の14時間未満前において、ゲル浮遊法により輪状体を除去し、灌流物中への導入前にRPMI中で1回洗浄された、2〜7%の寄生虫血状態にある7〜40mlの濃厚RBCを得るように、近日中(<7日間)に、回収および洗浄されたRBC内へと成熟形態を再侵入させた。
【0110】
ex vivoにおける脾臓の灌流:説明される通りに7、調節された温熱気流により37℃に維持されたPlexiglas社製チャンバー内において、脾臓の分離灌流実験を実施した。略述すると、実験室内において(低温虚血時間である60〜90分間にわたり)、脾臓を灌流デバイスに接続してから、40〜60分間にわたり、1ml/分から50〜150ml/分へとクレブス-アルブミン培地の流量を増大させることにより、6〜10℃から37℃への漸進的温熱化を実施した。この適合化時間において、患者のRBCを脾臓からフラッシュした(温熱化時間の終点におけるヘマトクリット<0.1%)。脾臓の温度が35℃に達したら、未感染のO+型RBCを添加し(5〜10%の最終ヘマトクリットレベル)、30〜60分間にわたり循環させた。10〜30分間ごとに、iStatデバイス(米国、イリノイ州、アボットパーク、Abbott laboratories社製)を用いて、静脈、動脈、および容器内におけるグルコース濃度、Na濃度、およびK濃度、O2分圧およびCO2分圧、ならびにpHをモニタリングした。定常状態において、重要な生理学的マーカーは、以下の範囲:灌流物の流量:0.8〜1.2 ml/灌流される脾臓実質グラム/分、脾臓被膜の温度:36.7〜37.2℃、Na: 135〜148mEq/l、K: 4〜5mEq/L、グルコース: 4〜12ミリモル/l、pH 7.2〜7.35、ヘマトクリット: 4〜10%、および動脈-静脈間における酸素分圧の低下: 60〜120mmHg内に維持された。最後に、5〜10分間にわたって清浄なRBCをすすぎ出した(iRBC導入前のヘマトクリット<0.2%)後、2時間にわたり、0.2〜6%の寄生血状態にある、>32時間の分裂体iRBC (侵入後40±8時間)と、<14時間の輪状体iRBC (侵入後7±7時間)との混合物を循環システム内に導入した。寄生虫血状態は、ギムザ染色された薄いスメア上において、またはHoechst 33342(1:1000に希釈; Molecular Probes社製)によるiRBCの染色後におけるフローサイトメトリー解析(フランス、Becton-Dickinson社製、LSR型)を介して定量化した。CELLQuestソフトウェア(フランス、Becton-Dickinson社製)を用いて、データを解析した。
【0111】
寄生虫の発育期決定およびカウンティング:説明される通り1正確に、脾臓組織を固定および処理した。脾臓組織内では、個々の寄生虫の核、細胞質、およびマラリア色素が容易に同定された。以下の基準に従い、iRBCの発育期を識別した。輪状体iRBC:薄青色の細胞質または青白い円形帯<赤血球サイズの1/2を伴う、<1μmの明るい褐色の点(核)。分裂体iRBC:濃青色の細胞質≧赤血球サイズの1/2を伴う、>1μmの明るい褐色の点または>1μmの褐色の点。赤外期寄生虫の残渣:赤色染色により取り囲まれない褐色の点。各脾臓スライドについて、濾胞周囲帯内および≧3個の濾胞に隣接する赤脾髄内の両方においてiRBCをカウントした。カウンティングには、白脾髄、隣接する濾胞周囲帯、および赤脾髄が明確に識別された濾胞を選択した。輪状体iRBCおよび分裂体iRBCをカウントし、各脾臓につき約150枚ずつの写真上において位置特定した(少なくとも4000個のRBC)。
【0112】
透過電子顕微鏡法および走査電子顕微鏡法:灌流の終了時において、CaCl2 (0,05%)を補充した0.08Mカコジル酸緩衝液中における2.5%グルタルアルデヒドおよび1%パラホルムアルデヒド中、4℃で一晩にわたり脾臓試料(1mm3)を固定した。TEMの場合、固定された試料を、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液により3回にわたりすすぎ、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中1%の四酸化オスミウム、1.5%のフェリシアン化カリウムにより、室温で1時間にわたり後固定し、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液により再度洗浄した。段階希釈されたエタノール浴(25%〜100%)により試料を脱水し、Epon 812/酸化プロピレン混合物中において、室温で一晩にわたり試料を静置した。Epon 812中に包埋した後、60℃で48時間にわたり試料を重合化させた。Leica ultracut UCTマイクロカッターを用いて超薄型切片を調製し、80kVで作動するJEOL 1200 EX電子顕微鏡により観察した。SEMの場合、固定された試料片を、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中で10分間ずつ3回にわたり洗浄し、0.1Mカコジル酸ナトリウム緩衝液中1% (w/v)の四酸化オスミウム、1.5%のフェリシアン化カリウム中において、1時間にわたり後固定した。段階希釈された25%、50%、75%、および95%のアセトン溶液により(各回) 10分間にわたり脾臓切片を脱水した。次いで、100%アセトン中において10分間ずつ3回にわたり試料を脱水した後で、CO2による臨界温度乾燥を行った。乾燥した検体に、22nmの金パラジウムをスパッタリングし、5kVまたは7kVで作動するJEOL JSM 6700F電界放射型走査電子顕微鏡により観察および撮影した。上面SE検出器(SEI)および下面副次検出器(LEI)により画像を収集した。
【0113】
RBC変形能の測定:既に説明されている通り21、レーザー支援光学的回転細胞解析装置(laser-assisted optical rotational cell analyzer) (LORCA (登録商標);オランダ、ホールン、Mechatronics社製)を用いるエクタサイトメトリーにより、RBCおよびiRBCの変形能を測定した。RBC変形能の単位、すなわち、伸び指数(E.I.)は、楕円形の回折パターンの2本の軸長の差と、2本の軸長の和との比率として定義した。赤血球の変形能は、循環の動脈側に対する静脈内応力にほぼ対応する1.7Pa、14Pa、また、RBCが狭小な細胞間隙内において圧迫されなければならない、脾類洞内において生じる30Paを含めた、せん断応力の範囲(0.3〜30パスカル)にわたり評価した。
【0114】
赤血球表面における免疫蛍光アッセイ:説明される通り、このアッセイは、表面におけるiRBCの寄生虫タンパク質を検出する目的で実施された。PBS中の懸濁液中におけるiRBCは、培養物から調製した。高免疫性のアフリカ系成人に由来する血清(P. Druilhe氏からのご恵与; PBS/1% BSA中1:100の血清希釈率)の後、Alexafluor 488をコンジュゲートさせ、アフィニティー精製した、ヤギ抗ヒトIgG (1:200に希釈;オレゴン州、ユージン、Molecular Probes社製)によりRBC表面の寄生虫抗原に対する標識化を実施した。寄生虫核は、Hoechst 33342 (1:1000に希釈; Molecular Probes社製)により染色した。スライドには、Vectashield培地(カリフォルニア州、バーリンガム、Vector laboratories社製)をマウントした。画像は、Zeiss Axiovisionソフトウェアにより制御されるAxiocam HRcカメラを用いて、Zeiss Axiovert 200 M顕微鏡(すべて、ドイツ、ハイデルベルク、Carl Zeiss社製)上において収集された。
【0115】
iRBCの表面ヨード化:パニング手順によりC32細胞上において既に選択された、高度に同期化した成熟期iRBCを、ゼラチン浮遊法により80%まで濃縮し、次いで、新鮮な赤血球(すなわち、8日齢以下の赤血球、好ましくは、8日齢未満の赤血球)により希釈して、次のサイクルにおける約20%の輪状体iRBCを得た。ラクトペルオキシダーゼ法22を用いて、表面ヨード化を行った。再侵入の14時間後に培養を停止させた。1% Triton X-100、2% SDSにより、タンパク質を逐次抽出した。説明される通りに22、試料のプロテアーゼ処理(TPCKで処理したトリプシンおよびTLCKで処理したα-キモトリプシン(Sigma社製))を実施した。5〜17.5%の勾配によるアクリルアミドゲル上において、ヨード化した試料を分離した。Kodak Bio Max MS1フィルムを用いて、オートラジオグラフィーを行った。Life Technologies社(メリーランド州、ゲティスバーグ)およびNew England BioLabs社(マサチューセッツ州、ビバリー)から、あらかじめ染色されたタンパク質マーカーを購入した。
【0116】
細胞接着アッセイ:既に説明した通りに20、推定の受容体分子であるCD36、および細胞間接着分子1 (ICAM-1)の両方を発現するC32細胞に対するiRBCの細胞接着について調べた。略述すると、25cm3の細胞培養フラスコ(米国、Corning社製)内において、単層のC32細胞を調製した。pH6.8の細胞接着培地中におけるiRBC濃度5×106個/mlで懸濁させたRBCを細胞培養フラスコに添加し、15秒間にわたり曝気(1% O2、3% CO2、および96% N2)し、これを、5分ごとに静かに振とうしながら、37℃で15分間にわたりインキュベートした。インキュベーションの終了時において、RPMI 1640培地中で4回にわたり、細胞培養フラスコを静かにすすいだ。単層をメタノール中で固定し、2%ギムザ色素により染色し、顕微鏡観察した。1000個の黒色腫細胞に接着したiRBCの数をカウントした。100個のC32細胞に接着したiRBCの数として結果を表わした。
【0117】
統計学的解析:本発明者らは、統計学的解析にスチューデントの対応のあるt検定を用い、p値<0.05を有意であると考えた。WinNonLinソフトウェア(バージョン5.1;米国、カリフォルニア州、マウンテンビュー、Pharsight社製)を用いて、コンパートメントデータの解析を実施した。
【0118】
結果
ヒト脾臓における循環コンパートメント
16例のボランティア被験者におけるコントラスト増強超音波検査を用いて、ヒト脾臓の循環パターンを探索した。造影剤注入から2分後に(すなわち、微小気泡の安定的な濃度が達成されたら)、低メカニカルインデックスのパルスインバージョン造影を用いて脾臓を調べた。この低音響エネルギーを用いるにも関わらず、超音波ビームに対する脾臓の連続的な曝露の間中、ある量の微小気泡が破壊された。時間-強度曲線は、シグナル強度の低下を反映した(図1;材料および方法の節)。16例のボランティア被験者における指数関数的減衰に対する最良の近似を示したモデルでは、2つの指数関数成分が組み合わされた(全例において相関係数R2>0.96)。2成分指数関数は、N(t)=V1(C0exp(-β1t))+V2(B+(C0-B)exp(-β2t)) [式中、第1項および第2項は、それぞれ、緩徐流過コンパートメント、および急速流過コンパートメントに対応する。C0は、初期(t=0)の微小気泡濃度を指し、両方のコンパートメントにおいて同一であると考えられた。V1およびV2は、相対容量分率(V1+V2=1)を指し、β1およびβ2は、それぞれ、各コンパートメント内における微小気泡の平均速度を指す]として表わすことができる。実験曲線の解析により、以下の値がもたらされる:各1コンパートメントの指数関数曲線のY切片(Y10およびY20)がC0V1およびC0V2に対応するのに対し、1/β1および1/β2は、指数関数の特性時間に対応する。緩徐コンパートメントでは、緩徐コンパートメントの平均(SD、範囲)相対容量分率は70.6% (9.6、51.5〜84.4)であり、平均(SD、範囲)相対流量分率は10.12% (4.40、3.99〜16.47)であった(図1)。まとめると、これらの観察は、血液流入量の約10%が、緩徐コンパートメント内を流過する(図1および6)、ヒト脾臓による二重のマイクロ循環機構の存在を強く裏付ける(図1)。
【0119】
分離灌流されたヒト脾臓によるiRBCのクリアランス
分裂体期(侵入後40±8時間)または輪状体期(侵入後7±7時間)にある高度に同期性の寄生虫培養物により、分離灌流されたヒト脾臓を灌流した。灌流物に対して逐次ギムザ染色した薄膜により、循環する分裂体iRBCおよび(予測外ではあるが)輪状体iRBCによる寄生虫血状態は、急速に低下することが示された。分裂体iRBCおよび輪状体iRBCによる寄生虫血状態が、それぞれ、それらの初期値の4.5% (範囲: 0〜12.9)および26.3% (範囲: 22.9〜35.4%)へと低下したのは、10および20分間以内であった(図2a)。分裂体iRBCの完全なクリアランスが急速であったのに対し、輪状体iRBCの寄生虫血状態はより緩徐な速度で低下し、プラトーに達した(図2a)。分裂体iRBCと対照的に、輪状体iRBCは、それらの表面上において突起も、ヨード化可能な寄生虫タンパク質も示さず(図8)、また、C32ヒト黒色腫細胞上においても(データは示さない)、脾臓の組織学的検査においても(図4)、細胞接着は認められなかった。
【0120】
脾臓負荷により示される輪状体iRBCの異種性
輪状体iRBCのクリアランスが部分的であるなら、それは脾内におけるそれらのより緩徐な循環、または脾内におけるそれらの安定的な貯留を反映しうるであろう。この問題を明らかにするため、輪状体iRBC調製物を分割し、1つの部分には脾内を即座に灌流させ、第2の部分はクレブス-アルブミン培地(対照の「脾臓未通過」細胞)中37℃で保持した。灌流開始の40分後(すなわち、40回の脾臓通過後)、未貯留細胞を灌流物から回収した。これらの「脾臓通過」集団、および「脾臓未通過」集団を、各々異なるPKHにより標識し、プールし、脾内に再導入した。次に、フローサイトメトリーを用いて、灌流システムに由来する逐次的な試料を解析した(図3)。「脾臓未通過」輪状体iRBCの平均(SD)半減期(5.7±3.1分間; 2つの個別実験)は、過去の6回の実験(次節「iRBCクリアランスのモデル化」の結果を参照されたい)において観察された半減期と同様であった。これに対して、「脾臓通過」輪状体iRBCは排除されなかった(図3b、c)。これは、輪状体iRBCが、実のところ、1つは脾内に貯留され、1つは流過する、2つの異なる部分集団からなることを示す。脾内貯留に関する輪状体iRBCのこの異種性は、本発明者らの培養条件における時間経過では安定的であり、灌流された脾内に導入された初期の寄生虫血状態からはかなりの程度独立していた(図2a)。D10寄生虫株についても同様の結果が得られたので、それはまた、寄生虫株からも独立であった。
【0121】
【表1】

【0122】
iRBCクリアランスのモデル化
残留寄生虫血状態(プラトー相)を伴わないかまたは伴う、1コンパートメントモデルまたは2コンパートメントモデルを用いて、灌流物中におけるiRBCによる寄生虫血状態の動態をモデル化した(図3a1〜3)。残留寄生虫血状態を伴わない1コンパートメントモデルは、分裂体iRBCの動態を説明するのに最良のパフォーマンスを示した。灌流物中における輪状体iRBCの動態は、「流過する」部分集団(流入量の約26%)の自由循環を伴う、「貯留可能な」部分集団(流入量の約74%)の1次クリアランス相により最もよく説明された(図3およびTable I (表1))。
【0123】
このモデルは、循環-再循環観察(前節を参照されたい)と符合し、さらに、貯留されたiRBCの比率の単純な決定も可能とした。これは、上記で証拠立てられた、負荷に用いられた輪状体iRBC集団の初期の異種性と符合する。「貯留可能な」輪状体iRBC部分集団の平均クリアランス半減期(5.9分間、Cl95%: 2.0〜9.4分間)が、分裂体iRBCのクリアランス半減期(2.8分間、Cl95%: 1.5〜3.9分間)より約2倍高値であることは、少なくとも部分的に異なるそれぞれのクリアランス機構を示唆する。貯留可能な輪状体iRBCの5.9分間のクリアランス半減期が、各回の脾臓通過における貯留可能な流入量の約11%の除去と符合することから、各RBCが、1分間ごとに単離灌流されたヒト脾臓を流過したことが仮定される7
【0124】
ヒト脾臓における輪状体iRBCの貯留
実験の終了時には、脾臓組織を処理して組織学的解析を行い、RPおよび濾胞周囲帯(PFZ)における輪状体iRBCおよび分裂体iRBCの分布を定量化した(図4)。輪状体iRBCによる組織寄生虫血状態は、ギムザ染色された切片(2.8%対1.1%、p=0.00009、図4a1〜2)および過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色された切片(3.0%対1.1%、p=0.007、図4b 1〜2)の両方において、PFZ内よりRP内において有意に高度であった。比率(「組織における寄生虫血状態」)/(実験終了時点の循環における寄生虫血状態)として定義される、輪状体iRBCによる平均(Cl95%)貯留指数は、PFZ内(1.4; 0.8〜2.0、p=0.002,図4a3)よりRP内(3.7; 1.9〜5.4)の方が有意に高値であった。脾臓(両方の領域を含めた)内における輪状体iRBC全体の平均貯留指数は2.5であった。興味深いことに、PFZ内における輪状体iRBCの貯留指数は1に近かったが、これは、アーテスネートに曝露されたiRBCについて既に観察された通り7、PFZが、輪状体iRBCにとって、貯留/処理領域であるより流過領域であることを示唆する。分裂体iRBCの平均貯留指数は、いずれの領域においても高値(>8)であり、RP内におけるより強力な貯留への傾向を伴った。静脈洞に固有の螺旋形の基底膜を強力に染色したPAS23を用いることにより、RPの部分コンパートメント内、とりわけ、脾索、脾洞内腔、および脾洞壁の脾臓実質側における輪状体iRBCの分布についての解析が可能となった(図4c1)。大半(86.0±6.9%)の輪状体iRBCが脾索において観察されたのに対し、14.0±6.9%は、脾洞内腔において観察された。RPの他の部分コンパートメント内より著明に多くの輪状体iRBCが、静脈洞のPAS染色された基底膜(すなわち、狭小な内皮細胞間隙のすぐ上流)と直接接触した(図4c2)。透過電子顕微鏡法により、脾洞基底膜および内皮細胞間隙に対する、無突起輪状体iRBCの極めて緊密な近接性が確認された(図2b3および図4d1〜2)。
【0125】
iRBCの変形能
LORCAを用いて、輪状体iRBC集団または分裂体iRBC集団の伸び指数(EI)を測定した。単一iRBCレベルにおける変形能を推定するため、本発明者らは、異なる寄生虫血状態にある、同期化した集団のEIを測定し(分裂体の場合が3%〜80%、輪状体の場合が4%〜76%、図5A)、100%の寄生虫血状態に外挿した。予測される通り、分裂体iRBCは、すべてのせん断応力にわたり、伸び指数が極めて低値であった(30パスカル、80%の寄生虫血状態において<0.1)。30パスカルのとき(脾類洞内において遭遇するせん断応力と同様である24)、輪状体iRBCの変形能は、中程度ではあったが、共培養および共灌流された未感染RBCより著明に低度であった(図4A)。100%のiRBC集団へと外挿したところ、輪状体iRBCの平均(Cl95%) EIは、対照未感染RBCの0.58に対して0.47 (0.43〜0.51)であった(p<0.0001;図4A3)。
【0126】
考察
本明細書で用いられる安全な手法は、ヒト脾臓の生理学およびマラリアの病態生理学に対する新規で相互に関連し合う洞察をもたらし、これにより、輪状体期にある集団は異種であり、変形能がより低度の部分集団は脾内で貯留されるという新たなフレームワークが提起される。コントラスト増強超音波検査は、血液流入量の10%が緩徐コンパートメントを流過する、2コンパートメントのマイクロ循環機構を示した。輪状体iRBCの実質的部分は、単離灌流されたヒト脾臓により急速に排除された。貯留可能な輪状体iRBC集団の5.9分間のクリアランス半減期は、各回の脾臓通過時における流入量の約10%の除去と符合し、緩徐な循環コンパートメント内におけるそれらの貯留と符合する。輪状体iRBCが、脾洞壁の脾臓実質側と共に、RP内だけにおいて蓄積されたことは、この解釈と符合する。輪状体iRBCの変形能は、中程度ではあったが、著明に低下した。これらの輪状体は、小型であり、突起を欠き、in vitroで細胞接着せず、任意の観察可能な、寄生虫により誘導される表面変化を示さず、PfEMP1を介する貯留機構は除外された。全体像は、狭小な内皮間隙(すなわち、RBCの変形能に対して厳密な負荷を与える緩徐コンパートメントのマイクロ循環構造11、25)の上流における、変形能が低下した輪状体RBCの貯留を示し、これはおそらく、宿主細胞の新たな生物物理的特性に基づく、微生物独自のクリアランス機構を反映する。
【0127】
いくつかの例外を除き20、26、輪状体iRBCは、ヒト熱帯熱マラリア原虫感染における全身の寄生虫バイオマスのうち、もっぱら循環成分であると考えられている27。それらの変形能の低下は、数十年間にわたって知られている15、28が、脾内貯留を誘発するには至らない軽度のものとみなされている。しかし、実験的観察および臨床的観察は、この現象が、急性のヒトマラリアの経過において生じるという仮説を裏付ける。ex vivoの脾臓モデルは、患者におけるクリアランス速度と同様の速度で、薬物に曝露されたiRBCを濾過するが7、本明細書で観察された分裂体iRBCの効率的なクリアランスにより、この実験セットアップの妥当性がさらに確認される。熱帯熱マラリア原虫により誘導された重度のマラリアで死亡した患者に由来する死後試料についての近年の研究により、無突起iRBCが説明のつかない形で脾内貯留されていることが報告され、脾内における平均滞留指数2.19 (肝内における0.63と比較される)29が、本明細書で決定された2.5の貯留指数と符合する数字であったことは重要である。したがって、本発明者らは、これらの死後観察を、これらの患者における、幼齢の輪状体iRBCによる脾内貯留の証拠として解釈する。マラリア発症機序の別の複雑な側面は、本発明者らの知見に照らして捉えなおすことができる。循環する輪状体iRBCから計算された、熱帯熱マラリア原虫に感染した患者における寄生虫バイオマスは、成熟iRBCにより放出される寄生虫タンパク質であるHRP-2の血漿レベルから計算されたバイオマスの2分の1であった27。循環する輪状体期寄生虫から推定される寄生虫バイオマスの相対的な不足は、脾内に貯留される未検出の輪状体iRBCのプールにより説明することができる。特に、変形能が低い輪状体iRBCの脾内貯留は、RBCの力学的変形能の低下と、RBCの遺伝的障害を有する患者における脾内クリアランスとを連関させる、入手可能なデータと符合する。実際、脾臓未摘出のサラセミア患者および脾臓を摘出したサラセミア患者におけるLORCAベースの測定では、それを下回ると脾内においてRBC貯留が生じるEIの概数、すなわち、30パスカルにおいて0.45がもたらされたに過ぎない30。これは、本明細書における輪状体iRBCの推定値に極めて近い(30パスカルにお
いて0.47)。
【0128】
LORCAは、RBC集団のEIを測定するので、個々の輪状体iRBCのEI分布(一元モデルまたは多元モデル)、および個々のばらつきの程度については未知である。単一細胞ツールを用いる変形能研究により、同じ培養物に由来する未感染RBCと比較した、輪状体iRBCの変形能の低下15、19、28、31が記録され、さらに、個々の細胞間における大きなばらつきが裏付けられている。寄生虫および/または宿主細胞における複数の因子が、輪状体iRBCにおける変形能低下の異種性に寄与しうるであろう。赤血球集団は異種性であり、循環する赤血球は、異なるレベルの成熟および老化を示すことが知られている32。寄生虫に関しては、個々のメロゾイトによる、リガンド-受容体間相互作用に関与する一連の表面分子の異種性発現、また、RBCへのメロゾイトの侵入時において放出される分子の異種性発現についての証拠が増加しつつある18、33。これらの一部は、赤血球骨格と相互作用し、幼齢期における宿主膜のリモデリングに寄与し、侵入後における赤血球膜の硬直化に寄与する13、19。輪状体表面タンパク質2など他の分子20は、主に未感染RBCの表面と会合し18、輪状体iRBCの脾内貯留に対するそれらの直接的な関与は起こりにくい。
【0129】
脾臓のRP内に貯留された輪状体iRBCの最終的な帰趨はどのようなものであろうか:増殖であろうか、または破壊であろうか。理論的には、脾内再侵入をもたらす、輪状体iRBCの脾内における完全成熟化過程も起こりうるが、RP脾索内の微小環境は、RBCにとって厳しいものであると考えられている34。in vitroにおける静態的実験では、輪状体iRBCに対する固有の貪食が観察されているので、脾内貯留された輪状体iRBCが最終的に貪食される可能性はある35。脾内における輪状体iRBCの破壊は、in vivoにおける1サイクル当たりの増殖指数(IMF)に対して影響を及ぼすことが予測され、これは、理論的な再侵入率に基づいて予測される場合(すなわち、18〜24)36より、循環する輪状体iRBCをカウントすることにより評価される患者において(すなわち、3〜16)36、37低値であったことが興味深い。通常はin vivoにおける侵入が不十分であるものとして解釈されるこのような齟齬はまた、輪状体iRBCの脾内貯留/クリアランス分率から生じるものとして見ることもできる。脾内における環状iRBCの帰趨がどのようなものであれ、それらの局所的な貯留は、数時間後に脳または肺などの致命的な臓器で滞留する寄生虫バイオマスを低減する。
【0130】
さらに、脾内における潜在的な輪状体iRBCの貯留により、急性マラリアにおいて、観察される総RBC喪失のうち、累積的なiRBC喪失に帰しうる比率がごく低値であった38理由は、累積的なiRBC喪失が、脾内貯留された輪状体iRBCのプールを無視して、循環する輪状体iRBCのカウントに基づいていたためであると説明することができる。
【0131】
脾臓による輪状体iRBCの処理/クリアランス、および未感染RBCの処理/クリアランスは、いずれも変形能感知機構に関与するので、これらは連関し合っている。脾臓のRBC濾過と、寄生虫増殖速度との連関が推測されている15、39、40が、熱帯熱マラリア原虫に感染したヒトにおいて、脾臓濾過過程にかけられたiRBC集団は、依然として同定されないままであった。実際、成熟iRBCが、滞留を介して脾臓濾過を回避することは知られているが、患者の末梢血中において目視される、循環する輪状体iRBCは、脾内貯留を受けないと考えられていた。侵入後まもなく、熱帯熱マラリア原虫の輪状体iRBCの部分集団が脾内貯留にかけられるという本発明者らの発見により、RBC濾過と寄生虫増殖とのこの連関に新たな強度が付加される。したがって、本発明者らは、RBC変形能における後天性または遺伝性のシフトのほか、脾臓のRBC貯留についての閾値の後天性または遺伝性のばらつきが、熱帯熱マラリア原虫感染の臨床的転帰に対して潜在的な影響を及ぼすと推論する。輪状体iRBCに対する低レベルの脾内貯留は、寄生虫負荷の急速な増大を結果としてもたらす可能性があり、これは、貧血および脾腫が発生しうる以前に、脳マラリアまたは多臓器不全をもたらす。これに対し、RBCおよび輪状体iRBCの高レベルの脾内貯留は、脾内溶血を伴う亜急性感染を発生させる可能性があり、触診可能な脾腫を伴うことが多い、重度の貧血の発生を促進しうる。これにより、重度の貧血と脳マラリアとが同じ患者において同時に起こることがまれである理由を説明することができる。この新たな概念は、感染動態のモデル化、寄生虫負荷の推定、RBC変形能を標的とするアジュバント療法41、重度の臨床形態の危険因子の解析42 (患者の年を含めた)、またはヘモグロビンの先天性障害に連関する生得的防御の研究など、マラリアの研究分野におけるシフトの契機となる。
【0132】
(実施例B)
熱帯熱マラリア原虫の輪状体に感染した赤血球(輪状体iRBC)の硬直性を増大させる化合物をスクリーニングする方法の例
寄生虫の培養:熱帯熱マラリア原虫のパロアルト株(FUP株)44を用いる。既に説明されている通りに45、熱帯熱マラリア原虫の輪状体iRBCを培養する。略述すると、4時間以内にそれらの完全な再侵入が得られるように、5% (w/v)ソルビトールによる(37℃で5分間にわたる)連続処理(少なくとも2回の連続処理)を介して輪状体期寄生虫を選択することにより、寄生虫を同期化させる。次いで、輪状体に感染したRBCを、75cm2のフラスコ内において、1% O2、3% CO2、および96% N2の雰囲気により30秒間にわたり処理した、O+型RBCを含有する完全培地(RPMI 1640培地、重炭酸塩、25mMグルタミン、0.2%グルコース、100μMヒポキサンチン、10μg/mlゲンタマイシン、および10% AB+型不活化ヒト血清プール)中37℃でインキュベートする。
【0133】
in vitro試験:ゼラチン溶液(Plasmion (登録商標))中における懸濁により、分裂体(44〜48時間)を濃縮する。次いで、それらを、37℃の完全培地中において、新鮮なO+型RBC (すなわち、8日齢以下のO+型RBC、好ましくは、8日齢未満のO+型RBC)に再侵入させる。インキュベーション開始の10時間後(輪状体期RBC齢の80〜90%)において、調べる化合物を培養物に添加し、次いで、これを37℃で2時間にわたりさらにインキュベートする。培養物上清の除去(1分間当たり1500回転で5分間にわたる遠心分離による)後、ペレットをPBS中に再懸濁させ(50%のヘマトクリットレベル)、これを用いて輪状体iRBCの変形能を解析する。
【0134】
輪状体iRBCの変形能の解析
変形能の評価は、複数のステップにおいて実施される(図9を参照されたい):
1.平均EIの低下についてのスクリーニング閾値を10%とする、LORCAの使用。
2.LORCA法により輪状体iRBCの硬直性を上昇させることが可能であると同定された化合物に対する、輪状体iRBCの変形能を個々の細胞スケールで評価することを可能とする(LORCAの場合、解析は、集団的な細胞スケールで実施される)より精密な技法、例えば、マイクロピペット、光ピンセット、またはマイクロ流体デバイスによる解析。これらの技法により、EIの分散、また、したがって、スクリーニングされた化合物への曝露後に脾内貯留されうる輪状体iRBCの百分率をより正確に評価することが可能となる。
3.場合によって、単離灌流されたヒト脾臓モデルを用いて、少数の候補化合物を調べる。
【0135】
既に説明されている通りに46、LORCA法を実施する。この方法の原理は、粘稠性の溶液(PBS中に5%のポリビニルピロリドン;37℃における粘稠度=30ミリパスカル秒)中に懸濁され、2つの同心円筒間に位置する間隙内に導入される、iRBC集団および未感染RBC集団を、せん断力および一定温度にかけるステップにある。円筒のうちの1つ(外側の円筒)の回転から生じるせん断力により、楕円形であるRBCの伸びがもたらされる。レーザーダイオードから発せられるレーザービームがRBC懸濁液またはiRBC懸濁液を横切り、容量内におけるこれらの細胞により回折される。投影スクリーン上に投影されるレーザービームによる回折パターンが、デジタル式ビデオカメラにより取り込まれ、コンピュータへと送信される。次いで、ソフトウェアにより、楕円形の回折パターンがデジタル値:伸び指数(EI)へと変換される。こうして、変形能の単位が、[楕円形の高さ+幅]に対する楕円形の高さの比率として定義される46、47。この値は、懸濁液中に含有されるRBC集団(感染RBC集団または未感染RBC集団)の平均IE値である。感染RBCおよび未感染RBCの変形能は、1.7パスカル(深部組織の微小血管内におけるせん断力)および30Pa (赤脾髄の脾洞内におけるせん断力)を含めた、せん断力の範囲(0.3〜30Pa)にわたり評価される。寄生虫調製のステップおよび作製されたデータの保管ステップを考慮に入れると、1回のLORCAを用いて1人の試験者が1日当たりに調べることが可能な化合物は30、すなわち、1週間当たり少なくとも100化合物である。
【0136】
(実施例C)
脾臓の濾過機能の代替法としてのRBCおよび熱帯熱マラリア原虫に感染したRBC (Pf-iRBC)の濾過
材料および方法
寄生虫が寄生したRBC:臨床試料および培養物:説明される通りに61、熱帯熱マラリア原虫(D10株、3D7株、またはFUP/パロアルト株)をin vitroで培養した。RBCを洗浄し、4〜8℃で1〜10日間にわたり保存した。患者の血中に存在するPf-iRBCを、回収後24時間未満にわたり4〜8℃で保管した。
【0137】
正常RBCの供給源および保管: RBCは、健康な血液ドナー(フランス、ランジス、血液バンク製)に由来した。遠心分離により白血球を除去した。4℃でRBCを保管し、保管の8日後以内に用いた。
【0138】
チャネル穿孔膜による濾過
Pf-iRBCの導入前15分間にわたり、懸濁培地(RPMI+4%アルブミン+5% Plasmion (登録商標))によりカラム表面および膜をブロッキングした。4%アルブミンおよび5% Plasmion (登録商標)を補充したRPMI中2%〜2.5%のヘマトクリットで懸濁させた後、培養Pf-iRBCまたは「臨床」Pf-iRBCに、幅0.8〜8μmのチャネルを穿孔した、厚さ24μmのポリカーボネート膜(Sterlitech社製;図10および11を参照されたい)内を流過させた。濾過は、一定の圧力(80〜85cmの水圧)下において、34〜37℃で実施した。予備実験は、チャネル直径が≧3μmの場合は流過が妨げられないのに対し、その直径値が≦1μmである小孔内では流過が観察されないことを示した。幅2μmのチャネルにより後続の実験を行った。チャネル幅が≧3μmである場合は、Pf-iRBCの貯留が観察されなかった。幅2μmのチャネル膜からの流出量は、0.1〜1ml/分であった。
【0139】
「上流」および「下流」のRBC部分集団を回収し(図10に示す通り)、遠心分離し(1500gで2分間)、得られたRBCペレットを用いて定量化した。
【0140】
ビーズによる濾過
1% albumax II (登録商標) (Gibco社製)を補充したPBSまたはRPMI中2%〜2.5%のヘマトクリットで懸濁させた後、培養Pf-iRBCまたは「臨床」Pf-iRBCに、直径を増大させる(2〜12μm、5〜15μm、15〜25μm、および40μmを超える;図12および13を参照されたい)スズビーズ(フランス、アンヌマス、Industrie des poudres spheriques (IPS)社製)による厚さ0.5〜2mmの層内を流過させた。濾過は、一定の圧力(80〜85cmの水圧)下において、20〜25℃で実施した。Pf-iRBCの導入前15分間にわたり、懸濁培地(PBS+1% Albumax II (登録商標))によりカラム表面および膜をブロッキングした。予備実験は、5〜15μm、15〜25μm、および40μmを超える直径のビーズからなるスズビーズ層、またはビーズ層を維持するのに用いられるチップ内のフィルターだけでは、Pf-iRBCが貯留されないことを示した。さらなる実験は、層の厚さが>5mmである場合は、5〜15μmおよび15〜25μmの等重量による混合物(以後、「5〜25μm層」と称する)により、iRBCの貯留が誘導されることを示した。次いで、直径5〜25μmのビーズによる厚さ7mmの層を用いることにより、濾過プロトコールを改変した。
【0141】
直径5〜25μmのビーズを用いると、チャネル幅(すなわち、ビーズ間腔)は、1.85μm (隣接して配置された直径5μmのビーズ3個により形成されるチャネル幅)〜9.4μm (隣接して配置された直径25μmのビーズ3個により形成されるチャネル幅)の間で変化する。隣接して配置された直径7μmのビーズ3個により形成されるチャネル幅は、2.6μmである(図15Bを参照されたい)。直径の異なる各ビーズクラスが等量ずつを占める場合、直径5〜7μmのビーズは、用いられるビーズの10%を占める。したがって、チャネルの(0.1)3=0.1%は、幅1.85〜2.6μmである。また、長く(>4μm)、かつ狭い(<2.6μm)チャネルを作製する可能性は低い。
【0142】
ヘマトクリットが2〜2.5%の試料600μl (12〜15μlのペレットに対応する)を、3ウェイのストップコックを介して、ビーズ層から上流の密閉回路内へと導入した(図16を参照されたい)。次いで、電動式ポンプを用いて、8分間にわたり、層内に1ml/分で一定のPBS-Albumax II流を発生させた(8mlの最終容量)。圧力上限は999ミリバールであった。
【0143】
遠心分離ベースの濾過:代替的に、濾過ユニットとして用いられるビーズ含有チップを、1.5〜2mlのエッペンドルフ管にはめ込み(図18を参照されたい)、次いで、1500〜2000gで1〜2分間にわたり(全試料が流過するまで)遠心分離した。同じ遠心分離法を介して、600〜800μlの懸濁培地により、ビーズ層を2回にわたりすすいだ。以下で説明する通り、上流のRBC部分集団、下流のRBC部分集団、および貯留されたRBC部分集団を回収および処理して、定量化した。
【0144】
「上流」のRBC部分集団、「下流」のRBC部分集団、および「貯留」されたRBC部分集団の回収:
濾過前に少なくとも300μlの「上流」試料を取り置き、遠心分離し(1500gで5分間)、得られたRBCペレットを用いて定量化した;
ビーズ層内を流過したRBCを含有する8mlの「下流」試料を、1500gで5分間にわたり遠心分離し、このようにして得られた10〜14μlのRBCペレットを用いて定量化した。
濾過過程の終了時には、1.5mlのエッペンドルフ管内にビーズ層を回収した。1〜3分間ずつの3ステップからなる重力を介するデカンテーションにより、ビーズの含有が3%未満である1〜5μlのRBCペレットの回収が可能となった。
【0145】
溶血の対照:選択された実験では、遠心分離された「上流」試料、「下流」試料、および「貯留」試料に由来する上清中においてヒト乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)濃度を定量化して、溶血を決定した。ヘマトクリットが2〜2.5%のRBCを0.2%サポニンにより溶血させた同様の容量の懸濁培地を、100%の溶血対照として用いた。
【0146】
試料中におけるマラリア原虫を宿すRBCまたは異常なRBCの定量化
ギムザ染色:メタノールで固定した薄いスメアを、10%ギムザにより10分間にわたり染色し、RBC 2000個に対する、寄生虫が寄生したRBCの比率を計算した。結果は、発育期特異的な寄生虫血状態として表わされた。
【0147】
異常な(加熱された) RBCに対する蛍光ベースの定量化: 50℃で5〜20分間にわたり加熱する前に、PKH-26 (Sigma社製、Red Fluorescent Cell Linkerキット)により、RBCを染色した。盲検処理された画像上におけるPKH陽性RBCの比率を計算することにより、定量化を実施した。
【0148】
寄生虫が寄生したRBCに対する蛍光ベースの定量化: 寄生虫が寄生したRBCの濃度(したがって、ギムザ染色されたスメア上における寄生虫血状態と等価である)として結果を表わすため、4μlずつ3連のペレット試料(上流試料、下流試料、または貯留試料に由来する)を注意深く吸引し、0.1%のSYBR-I (SYBR green I;カリフォルニア州、カールスバード、Invitrogen社、Molecular Probes社製)を含有する溶解緩衝液(20mMトリス(pH7.5)、5mM EDTA、0.008%サポニン、0.08% Triton-X100)中で希釈した。室温で30分間のインキュベーション後、FLX-800カウンター(米国、バーモント州、ウィヌースキー、Biotek instruments社製、FLX-800マイクロプレート蛍光リーダー)により蛍光強度を定量化した。予備実験は、寄生虫血状態と蛍光強度との直線的な相関関係を示した(図19を参照されたい)。この新たな蛍光法により、上流から下流にかけて(または上流からビーズ層にかけて)、寄生虫が寄生したRBCの濃度が低下(または上昇)することを推定する、ギムザ染色による基準の定量化法による結果と同様の結果がもたらされた(図20および21を参照されたい)。
【0149】
結果
異なる2つの濾過方法が用いられた(図10〜18を参照されたい):
チャネル穿孔膜による重力駆動型濾過、および
ビーズ層による濾過。
【0150】
実験的な濾過は、Pf-iRBCの著明な貯留を伴った(Table II (表2)を参照されたい)。
【0151】
濾過と関連するPf-iRBCの貯留は、単離灌流されたヒト脾臓および患者の脾臓の両方における貯留を強く想起させる特徴を示した。実際、本発明者らは、
(i)栄養体/分裂体(成熟形態)を宿すRBCの完全な/ほぼ完全な貯留(Table II (表2)および図21を参照されたい);
(ii)輪状体を宿すRBCの部分的な貯留(Table II (表2)および図21を参照されたい);
(iii)成熟生殖母細胞を宿すRBCの貯留の不在または部分的な貯留(Table II (表2)を参照されたい);
(iv)患者の末梢血に由来する輪状体を宿すRBCの貯留と比較して、in vitroの培養物に由来する輪状体を宿すRBCの貯留が大量であること(患者の血中に存在する輪状体を宿すRBCは、(i)いまだ「IES負荷」にかけられていない(平均すると、RBCは、2〜3時間ごとに1回IESを超える54)か、または(ii)この付加にかけられたにもかかわらず、循環を維持するのに十分な程度に変形可能/フィルター流過可能であった) (Table II (表2)および図21を参照されたい);ならびに
(v)ビーズ層(その形状が、チャネル穿孔膜より良好に、赤脾髄の循環床を模倣する(図14および15を参照されたい)により、脾臓濾過、とりわけ、溶血の不在(Table II (表2)を参照されたい)およびRBC形態のより良好な保存をより良好に模倣する貯留特徴が示されたこと
を観察した。
【0152】
ビーズ層を介する実験的な濾過は、加熱されたRBCの著明な貯留(完全な貯留)と関連し(Table II (表2)を参照されたい)、方法の潜在的な適用が、複数のRBC異常にわたって広がることを示した。
【0153】
本発明の方法に従う(特に、図10〜18において示される)RBCおよびPf-iRBCの実験的な濾過は、生理学的/病態生理学的な脾臓濾過の代替法として適用可能な最良のものである。
【0154】
ビーズ層内に貯留されたRBCは、極めて単純な分別デカンテーション法による濾過過程の終点において回収することができ、これにより、規定された表現型のRBC部分集団の分子的解析への道が開かれる。
【0155】
患者の末梢血中を循環するPfを宿すRBCの2つの発育期寄生虫、すなわち、輪状体を宿すRBCと成熟生殖母細胞を宿すRBCが、潜在的に脾内貯留にかけられる。したがって、循環するPf-iRBCの変形能を低下させる薬物は、それらの脾内貯留を誘発/増大させるはずである。
【0156】
ハイスループットスクリーニング方法は、Pf-iRBCの変形能を特異的に低下させる活性化合物発見への道であり、実験的濾過により、このミドルスループット/ハイスループットスクリーニングシステムを準備する方法がもたらされる。活性とは、化合物が、濾過を介するPf-iRBC貯留(Pf-iRBCのフィルター流過性の低下)を誘導する/増大させる能力として定義される。3つの本質的なスクリーニングステップ、すなわち、(i)化合物に対する曝露、(ii)濾過、および(iii)濾過の前および後における寄生虫密度のカウンティングが、ミドルスループット〜ハイスループットのスクリーニング条件に適合化される。
【0157】
【表2】

【0158】
短時間の遠心分離(1500〜2500gで1〜2分間;図18を参照されたい)による濾過は、密閉回路内における基準のシリンジ圧流濾過により得られる場合と同様の、Pfを宿すRBCの貯留率を誘導した(Table III (表3)を参照されたい)。この結果により、この実験ステップの自動化への道が開かれる。
【0159】
寄生虫核酸のSYBR-I染色に基づく液相蛍光定量化法56〜60を介して決定される貯留率は、ギムザ染色されたスメア上におけるカウンティングによる基準の寄生虫密度定量化法を介して決定される貯留率と相関する(図19および20を参照されたい)。フィルター(例えば、チャネル穿孔膜またはビーズ層)の上流および下流における寄生虫密度に対するこの蛍光ベースの定量化法により、この実験ステップの自動化への道が開かれる。
【0160】
【表3】

【0161】
特定の実施形態において、本明細書で開示される濾過方法を用いる本発明のスクリーニング方法は、以下の特徴:
a.濾過ユニットの小孔が、狭小(0.2〜2μm)で、短い(好ましくは<5μm)こと;
b.測定値が、試料中に含有される検査中の赤血球(例えば、異なる発育期にあるPf感染赤血球)の濃度のばらつきに基づくこと;
c.少量(1〜100マイクロリットルの濃厚赤血球)の試料を用いること;
d.濾過ユニット内の流過が、重力に駆動されるか、またはフラッシュ、もしくは吸引、もしくは遠心分離により実施されるか、または、好ましくは、低ヘマトクリット(<5%)の試料にフィルター内を流過させる任意の方法により実施されること;
e.スクリーニングが、3つの主要なステップ過程:
培養された輪状体を宿すRBCまたは成熟生殖母細胞を宿すRBCを、マイクロプレート内のライブラリーに由来する、既知であるかまたは新規の化学的実体に曝露する過程;
薬物に曝露されたRBC容量の一部を濾過ユニット内へと吸引し、下流試料を別のマイクロプレート内に入れる過程;
上流プレートおよび下流プレート内における寄生虫濃度の定量化を、自動化法により同時に実施する。結果は、下流濃度/上流濃度の比率として表わす。次いで、非曝露の内部対照と比較して、この比率の著明な低下を包含する化合物を、ヒット化合物と考える過程;
に従い実施されること;
f.濾過ユニットの性質は改変しうるが、その構造が、1μl〜1mlの貯留RBCの回収に適すること
を示すものとする。
【0162】
考察
成熟雄生殖母細胞および成熟雌生殖母細胞を宿すRBCが吸血中に存在した場合に限り、ハマダラカ属種は、マラリア原虫属種の宿主および媒介動物として活動しうる。伝染が低度である地域では、他の方法およびツールと併せて、治癒をもたらす抗マラリア療法(アルテミシニンベースの組合せ療法; ACT)が、血液感染性の低下を結果としてもたらすことが示されている。ACTは、生殖母細胞をもたらす寄生虫の数を低減し、循環しない未成熟の生殖母細胞を直接的に死滅させる。しかし、ACTは、循環する成熟生殖母細胞に対しては有効でない1。高度な流行地域では、多くのヒト対象が成熟生殖母細胞を保有するが、症状を示さない:これらの対象は、治療されたわけではないので、伝染に対するACTの効果は限定される。プリマキンが、成熟生殖母細胞に対して有効な、利用可能な唯一の抗マラリア薬である。選択された地域では、プリマキンの大量投与が有効であるが、その投与スケジュール、また、G6PD欠損対象におけるその毒性により、アフリカの高度な流行地域における大規模使用には適さない1。したがって、成熟生殖母細胞に対して有効であり、大量投与に適する新たな薬物を開発することが極めて重要である。
【0163】
脾臓に依存する、循環血からの、成熟生殖母細胞を宿すRBCのクリアランスを誘導する化合物は、伝染遮断薬としての開発候補化合物となるであろう。実際、この薬物は、生殖母細胞がハマダラカに吸血されないようにし、これにより、生殖母細胞を伝染サイクルから除去する。
【0164】
脾臓に依存する、循環血からの、輪状体を宿すRBDのクリアランスを誘導する薬物は、臨床的発作を治療し、疾患の重度の症状への進行を防止するのに有用な、即効性の薬物となるであろう。輪状体期にある(すなわち、Pf-EMP1を発現する栄養体期へと成熟する前の)Pf-iRBCの除去は、それらが、細動脈、毛細血管、細静脈で滞留することを防止する。栄養体および分裂体を宿すRBCの滞留は、ヒトにおける熱帯熱マラリア原虫感染の重度の臨床症状と強く関連する。
【0165】
上述の特性の両方を示す薬物ならば、大きな効果を及ぼしうるであろう。
【0166】
治療の数時間後に、またはin vitroの薬物に対する曝露後に回収される、薬物に曝露されたPf-iRBCの実験的濾過は、薬物感受性の表現型決定の基盤でありうる。既存の抗マラリア薬(例えば、アルテミシニン誘導体)に曝露されたPf-iRBCのクリアランスの加速化は、部分的には、脾内におけるそれらの変形能に依存する貯留または破壊(例えば、孔食)に起因しうる。
【0167】
輪状体を宿すRBCの濃縮を可能とするので、本明細書で開示される実験的濾過は、マラリアの診断のほか、実験的研究にも有用な、廉価で使用者本位のツールをもたらしうる。
【0168】
より広い視野において、とりわけ、遺伝子型/表現型の相関関係により、RBC変形能に影響を及ぼす先天性RBC障害の診断または予後推定が容易とならない場合、実験的濾過は、これを容易としうる。
【0169】
実験的なRBC濾過は、脾臓の濾過機能に適用可能な最良の代替法であるため、それは、先天性または後天性の免疫機能不全のほか、先天性または後天性のRBC障害を有する患者における脾臓機能を推定するのに有用な検査のための基盤をもたらしうる。
【0170】
硬直したRBCは、ビーズ層から回収することができるので、回収可能な異なる部分集団(上流の部分集団=「親寄生虫」、下流の部分集団=「変形可能な寄生虫」、およびビーズ層内に貯留された部分集団=「変形不可能な寄生虫」)について、細胞レベル、細胞内レベル、および分子レベルにおける比較解析を実施することができる。この新たな濾過方法はまた、自動化にも適し、硬直化したRBCのクリアランスまたは濃縮を可能とし、先天性または後天性のRBC障害(マラリアを含めた)における広い実験および医学的適用を有する。
(参考文献)








【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラリア原虫 (Plasmodium)属の寄生原虫に感染した赤血球(RBC)の硬直性を上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法であって、
a)前記寄生虫に感染したRBCを培養し、場合によって、別々に未感染RBCを培養するステップであって、感染したRBC(iRBC)の硬直性を上昇、特に選択的に上昇させるその能力について調べる化合物の存在下および不在下の両方において各培養を実施するステップと、
b)前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数のiRBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数のiRBCの変形能を測定するステップと、
c)場合によって、前記化合物の存在下において培養された1つまたは複数の未感染RBC、および前記化合物の不在下において培養された1つまたは複数の未感染RBCの変形能を測定するステップと
を含むかまたはこれらからなり、
化合物の存在下において培養されたiRBCの変形能が、同化合物の不在下において培養されたiRBCの変形能と比較して、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%低下することにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させることが可能であることが示される方法。
【請求項2】
前記iRBCが、輪状体を宿すRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップa)で用いられるiRBCが、
RBC、好ましくは、8日齢未満のRBCにiRBC、特に、分裂体期のiRBCが濃縮されたiRBCの培養物を感染させ、前記濃縮を、例えば、ゼラチン溶液、例えば、plasmion (登録商標)処理により実施するステップ
により得られる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップa)および/または請求項3に記載のステップの前に、
例えば、1回または複数回のソルビトール処理による、iRBCの寄生虫、または分裂体を濃縮したiRBC培養物の寄生虫の同期化ステップ
を行う、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
化合物の存在下において培養された未感染RBCの変形能が、化合物の不在下において培養された未感染RBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満の場合をスクリーニングし、
場合によって、化合物の存在下において培養された分裂体iRBCの変形能が、化合物の不在下において培養された未感染の分裂体iRBCの変形能とほぼ同じであるか、またはこれとの差違が5%未満の場合をスクリーニングする、
請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
実施されるスクリーニングが、ロースループットスクリーニングまたはハイスループットスクリーニングである、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
RBCおよびiRBCの変形能が、集団的な細胞スケールおよび/または個別の細胞スケールにおいて測定される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
RBCおよびiRBCの変形能が、レオスコープ、エクタサイトメーター、マイクロ流体デバイス、マイクロピペット、および/または光ピンセットにより測定される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
エクタサイトメーターが市販の自動式装置であり、Laser-assisted Optical Rotational Cell Analyzer (LORCA;オランダ、ホールン、Mechatronics社製)、またはRHEODYN-SSD(ドイツ、レートゲン、Myrenne社製)が好ましく、LORCAがより好ましい、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
RBCおよびiRBCの変形能が、1.7パスカル(Pa)および30Paを含めた0.3〜30Paのせん断応力の範囲にわたり測定される、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
iRBCの寄生虫血レベルが、細胞集団の少なくとも20%または30%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは細胞集団の少なくとも70%である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
変形能の測定が、伸び指数(EI)を参照することにより実施される、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
30Paで100%の寄生虫血状態に外挿する場合、化合物の存在下において培養したiRBCについて、0.43未満のEI、より好ましくは0.42未満のEIにより、前記化合物がiRBCの硬直性を上昇させうることが示される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記未感染RBCおよび感染RBCがヒトRBCである、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記寄生虫が、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)、三日熱マラリア原虫(Plasmodium vivax)、卵形マラリア原虫(Plasmodium ovale)、四日熱マラリア原虫(Plasmodium malariae)、二日熱マラリア原虫(Plasmodium knowlesi)、プラスモジウム・イヌイー(Plasmodium inui)、サルマラリア原虫(Plasmodium cynomolgi)、プラスモジウム・セミオバーレ(Plasmodium semiovale)、プラスモジウム・ブラジリアーヌム(Plasmodium brasilianum)、プラスモジウム・シュウェツィー(Plasmodium schwetzi)、およびプラスモジウム・シミウム(Plasmodium simium)からなる群、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、および四日熱マラリア原虫からなる群、より好ましくは、熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫からなる群において選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記寄生虫が、熱帯熱マラリア原虫、特に、熱帯熱マラリア原虫のパロアルトI原虫株である、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
スクリーニングされた化合物を、単離灌流されたヒト脾臓モデル、および/または単離灌流されたブタ脾臓モデルにより検証するステップをさらに含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
スクリーニングされた化合物が、その表層細胞骨格を含めたiRBC膜と相互作用し、かつ/またはiRBC内に侵入する、特に、iRBCの脂質二重層を越えるか、もしくは修飾された二重層そのものと相互作用することが可能である、請求項1から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
マラリア原虫属の寄生原虫に感染した赤血球(iRBC)と選択的に相互作用するか、または輪状体期にあるiRBCおよび/または生殖母細胞を宿すRBC、特に、成熟生殖母細胞を宿すRBCと選択的に相互作用し、それらの硬直性を上昇させるのに適する化合物を選択するための、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項20】
変形能が異常であり、特に変形能が低下した赤血球(RBC)の濾過ユニット内での貯留を可能とする、RBCを濾過する方法であって、
a) RBCを含む試料に、濾過ユニット内を流過させるステップと、
b)濾過ユニット内を流過する前における前記試料のアリコート(上流アリコート)、また、濾過ユニット内を流過した後における前記試料のアリコート(下流アリコート)を回収するステップと、
c)場合によって、濾過ユニット内へと貯留されたRBC (貯留アリコート)を回収するステップと、
d)場合によって、上流アリコートおよび下流アリコート、また場合によって、貯留アリコートを解析し、特に、上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度を決定するステップと
を含むかまたはこれらからなる方法。
【請求項21】
ステップd)が、(i)例えば、以下の式: (下流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度-上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度)/上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度を用いる、濾過ユニット内におけるRBC貯留率、または(ii)以下の式:下流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度/上流アリコート中におけるRBCまたはRBC部分集団の密度を用いる、濾過ユニット内におけるRBC貯留率を計算するステップをさらに含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
ステップd)が、例えば、遠心分離した上流アリコートおよび下流アリコート、また場合によって、遠心分離した貯留アリコートからの上清中におけるヒト乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)濃度を定量化することにより、上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中における溶血を決定するステップを含む、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
試料が、変形能が低下したRBC、特に:
寄生虫、好ましくは、マラリア原虫属の寄生原虫に感染したRBC、特に輪状体を宿すiRBCまたは生殖母細胞を宿すiRBC、例えば、成熟生殖母細胞を宿すiRBC
加熱されたRBC、および
先天性または後天性の免疫機能不全のほか、先天性または後天性のRBC障害を有しうる患者に由来するRBC、また好ましくは、遺伝性または後天性の球状赤血球症、楕円赤血球症、敗血症、異常ヘモグロビン症(アルファサラセミアまたはベータサラセミア、鎌状赤血球症、および鎌状赤血球形質)、自己免疫性溶血性貧血、他の溶血性貧血、酵素欠損(グルコース6リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ、他の赤血球酵素)を有しうる患者に由来するRBC
のうちから選択されるRBCを含む、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記寄生虫が、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、四日熱マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、プラスモジウム・イヌイー、サルマラリア原虫、プラスモジウム・セミオバーレ、プラスモジウム・ブラジリアーヌム、プラスモジウム・シュウェツィー、およびプラスモジウム・シミウムからなる群、好ましくは、熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫、二日熱マラリア原虫、および四日熱マラリア原虫からなる群、より好ましくは、熱帯熱マラリア原虫および三日熱マラリア原虫からなる群、例えば、パロアルトI株の熱帯熱マラリア原虫において選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
ステップd)で解析されるRBC、またはステップd)で解析される少なくとも1つのRBC部分集団が、異常なRBCまたはマラリア原虫に感染したRBC (iRBC)であり、特に、輪状体を宿すiRBCまたは生殖母細胞を宿すiRBC、例えば、成熟生殖母細胞を宿すiRBCである、請求項20から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
ステップd)が、
上流アリコート中および下流アリコート中、また場合によって、貯留アリコート中における寄生虫血状態の百分率を決定するステップと、
場合によって、(i)以下の式: (下流アリコート中における寄生虫血状態の百分率−上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率)/上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率を用いる、濾過ユニット内におけるRBC貯留率、または(ii)以下の式:下流アリコート中における寄生虫血状態の百分率/上流アリコート中における寄生虫血状態の百分率を用いる、濾過ユニット内におけるRBC貯留率を計算するステップと
を含むかまたはこれらからなる、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
RBCがヒトRBCである、請求項20から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
試料のRBCが、化合物、特に、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させることが可能でありうる化合物、例えば、iRBCの硬直性を特異的に調節し、好ましくはこれを上昇させうる化合物にあらかじめ曝露されている、請求項20から27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
RBCが、あらかじめ患者から得られた血液試料から、また好ましくは末梢血試料から回収されている、請求項20から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
例えば、化合物の存在下においてRBCをin vitroで培養することにより、RBCが、in vitroで前記化合物にあらかじめ曝露されている、請求項28または29に記載の方法。
【請求項31】
濾過ユニットのチャネルの直径が、1〜10μm、また好ましくは1.85〜9.4μmまたは1〜3μmの範囲にあり、例えば、直径が2μmである、請求項20から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
濾過ユニットのチャネルの厚さが、24μm未満、また好ましくは5μm未満である、請求項20から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
濾過ユニット内の流過が、重力、フラッシュ、吸引、または遠心分離により駆動される、請求項20から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
試料のヘマトクリットが低値、例えば5%未満、より好ましくは2%〜2.5%の範囲内にあり、前記試料が、好ましくは4%アルブミンおよび5% Plasmion (登録商標)を補充するか、もしくは1% albumax II (登録商標)を補充したPBSもしくはRPMIを含むか、これらからなるか、またはこれらから本質的になる懸濁培地中に懸濁されることが好ましい、請求項20から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
濾過ユニットが、チャネル穿孔膜、例えば、ポリカーボネート製チャネル穿孔膜を含むかまたはこれらからなる、請求項20から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
ステップa)が重力により駆動し、一定圧力下、例えば、80〜85cmの水による一定圧力下において、また好ましくは約34〜37℃の温度で実施される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
濾過ユニットが、1つまたは複数のビーズ層、また好ましくはスズビーズ層を含むかまたはこれらからなり、濾過ユニット内に存在するビーズの直径が、2〜25μmまたは5〜25μmの範囲内にあり、濾過ユニット内におけるビーズ間腔により形成されるチャネルが、0.74〜9.4μmまたは1.85〜9.4μmの間で変化することが好ましい、請求項20から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
濾過ユニット内に存在する各ビーズ層が、少なくとも0.5〜10μmの厚さであり、濾過ユニット内におけるビーズの厚さの合計が、少なくとも5mm、好ましくは7mmである、請求項20から35または37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
濾過ユニット内の流過が、シリンジにより加圧された流過であるか、または遠心分離により誘導された流過である、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
ステップa)が、一定圧力下、例えば、80〜85cmの水による一定圧力下において、また好ましくは約20〜25℃の温度で実施される、請求項37から39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
ステップd)、特に密度または寄生虫血状態の決定が、液相蛍光ベース定量化法により、またはギムザ染色後に実施される、請求項20から40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
赤血球(RBC)、とりわけマラリア原虫属の寄生原虫に感染したRBCの変形能を調節する能力、特にこれらの硬直性を誘導するかまたは上昇させる能力について化合物をスクリーニングする方法における、例えば請求項1から18のいずれか一項に記載の方法における、請求項20から41のいずれか一項に記載の方法の適用。
【請求項43】
化合物のスクリーニングが、
請求項20から41のいずれか一項に記載のRBCを濾過する方法を、RBCを含む2つの試料アリコートに適用するステップであって、1つのアリコートだけが、RBCの硬直性を調節し、好ましくはこれを上昇させるその能力について調べる化合物にあらかじめ曝露されているステップと、
両方の試料アリコートについて決定されたRBC貯留率またはRBC貯留比を比較し、両方のRBC貯留率または両方のRBC貯留比の間の少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%の変化により、前記化合物がRBCの硬直性を調節しうることが示され、また、化合物に曝露されていない試料アリコートについて得られたRBC貯留率(絶対値における)またはRBC貯留比と比較して、化合物に曝露された試料アリコートについて得られたRBC貯留率(絶対値における)またはRBC貯留比が、少なくとも5%、好ましくは少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%上昇することにより、前記化合物がRBCの硬直性を上昇させうることが示されるステップと
を含むかまたはこれからなる、請求項42に記載の適用。
【請求項44】
RBCまたはiRBCの変形能の測定が、請求項20から41のいずれか一項に記載のRBCを濾過する方法を用いて、好ましくは、RBCまたはiRBCの貯留率または貯留比を参照することにより実施される、請求項1から18のいずれか一項に記載のスクリーニング方法。
【請求項45】
特に実験研究ならびに/またはマラリア原虫に感染したRBC、例えば輪状体を宿すRBCおよび/もしくは生殖母細胞を宿すRBCの存在の診断もしくは検出のために、またはRBCの変形能に影響を及ぼす後天性もしくは先天性の障害、例えば後天性もしくは遺伝性の球状赤血球症の診断もしくは予後診断のために、変形能が異常であり、とりわけ変形能が低下したRBCを単離および/または検出するための、請求項20から41のいずれか一項に記載のRBCを濾過する方法の適用。
【請求項46】
患者における、特に先天性または後天性の免疫機能不全のほか、先天性または後天性のRBC障害を有する患者における脾臓機能をin vitroで解析するための、請求項20から41のいずれか一項に記載のRBCを濾過する方法の適用。

【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公表番号】特表2012−528298(P2012−528298A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511110(P2011−511110)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際出願番号】PCT/IB2009/006194
【国際公開番号】WO2009/144586
【国際公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(508029653)
【出願人】(500531141)セントレ・ナショナル・デ・ラ・レシェルシェ・サイエンティフィーク (84)
【出願人】(509074014)ユニヴェルシテ・ピエール・エ・マリ・キュリ・(パリ・6) (4)
【出願人】(507240336)
【Fターム(参考)】