説明

マリンバイオマスを用いた大規模CO2削減システム

【課題】地球環境が直面する難問である本格的な地球的規模でのCO固定を実現するため、気象等の環境条件に左右されず生育密度を安定に向上し、船舶航行・漁業への障害を最小限に抑えた大規模な藻場を造成・運営し、収穫した海藻の輸送と処理を短時間で可能にし、水素・メタノール等化石燃料代替製品を得ると共に、COの海洋隔離を可能にする、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供する。
【解決手段】海洋で海藻を生育する海洋プランテーションと、これに近接して移動又は停泊し、海藻を収穫し、所定のプロセスにより部分燃焼処理して所定の製品を得ると共にCOを回収・液化する洋上プラント船と、海洋プランテーション及び洋上プラント船の運営を支援する、複数種の衛星システムと地上集中支援システムとを含む海洋産業インフラと、好ましくは、さらに回収・液化したCOを海洋に固定する海洋隔離システムからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マリンバイオマス(海洋資源作物)を用いた大規模CO(二酸化炭素)削減システムに係り、海洋で大規模な人工藻場(海洋プランテーション)を造成し、生育させた海藻を資源としてメタノール、水素などを製造し、さらにCOを回収・液化する、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、COをはじめとする温室効果ガスの大気中濃度が増加して、地球上の気候や生態系に大きな影響を与えることが懸念されている。
すなわち、地球上の炭素は大気圏、海洋圏、陸上生物圏に分布してこれらの間でバランスが保たれてきたが、地球上に人間が出現して以来、火を使い、森林を伐採し、さらに産業革命以降の化石燃料の消費など人間の活動により大量のCOが排出されているにもかかわらず海洋へのCOの溶け込みがそれほど増えず、大気中に毎年30億トン−CのCOが蓄積され続けている。
【0003】
これは、海洋の中・深層域には十分なCOの溶解能力があるにもかかわらず、表層水と中・深層水が温度躍層に阻まれて海水交換しないこと、および有光層で発生した有機物(植物プランクトンなどの死骸)が沈降途中でバクテリアや溶存酸素により酸化分解され、90%以上が再度COとして大気中に放散されてしまうのがその主な理由である。
【0004】
そこで、世界的なレベルでCOの排出を抑制して大気中のCO濃度を減らそうと、人間の活動を規制し、陸地の植物の保護を図る一方で、海洋への貯留量を上げることが望まれるようになった。
大気中へのCO排出抑制策として、COを発生する装置毎にCOを固定化させる装置を設けて大気への放出を抑えることが行われているが、特定設備によるだけでは問題の解決に限界があり、積極的に大気中のCOを減らす方法が探索されている。
【0005】
例えば、海洋に鉄を散布して植物プランクトンの生育を活発にしてCOの取込み量を増す方法〔例えば、非特許文献1参照〕、海洋深層水を汲み上げ空中から海面に散布して深層水の持つ溶解力によりCOを吸着させる方法〔例えば、特許文献1参照〕、藻類を培養する事により、大気中のCOを減少させるCO減少装置〔例えば、特許文献2参照〕、海洋生態系等の水中の生態系を有効利用するために太陽光線集光装置を内部に保持して水中にて散光する水中光合成装置〔例えば、特許文献3参照〕などの提案がある。
【0006】
しかし、COを海水に溶解させるだけでは、再び大気中に放散され、海藻類による取り込みもバクテリアや溶存酸素による酸化分解により大気に放散してしまうので、長期的な広い視野からみれば温室効果ガスの削減の解決策にはなっていない。しかも、海中生物の培養を行う方法は地球規模でみればその能力に限界があり、逆に赤潮など別の問題を起こす原因となった。
【0007】
【非特許文献1】宗林由樹、バイオサイエンスとインダストリー、60巻、8号、527−530頁、バイオサイエンス協会、2002年8月
【特許文献1】特開2000−262888号公報
【特許文献2】特開平11−89555号公報
【特許文献3】特開平5−219935号公報
【0008】
上記の諸方法のうち、海藻培養は太古以来の自然のサイクルに則り、しかもCOの固定密度が比較的高い。従って、生育した海藻を放置せず収穫して何らかの処理を行うならば、地球生態系のバランスを壊さず、しかも効率的に新たな資源を産出するのに好都合である。
従来この立場からも各種の実験的試みが行われて来た。しかしながら、それらは一般に沿岸域において係留式の人工藻場で海藻を培養し、収穫した海藻を陸上に輸送し、発酵処理を行って製品としてメタンなどを産出するものであった。
【0009】
これらの技術では、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムとして見た場合、製品としての最終資源(メタンなど)を得るまでに、収穫した海藻の輸送と発酵処理の各々に長時間を要し、処理効率と転換効率が低かった。
【0010】
また、人工藻場を経済的に係留できるのは沿岸域に限られるので、本格的なCO固定に必要な大規模な藻場造成ができない上、船舶航行、沿岸漁業への障害になる場合が多かった。
【0011】
また、係留式では海藻の生育密度と生育速度が相反し、単位面積・年当たりの生育総量が限られる上に、気象状況やその他の環境次第で生育総量が不安定になる場合があるという問題があった。
【0012】
さらに、これらのマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、たとえば、海藻の生育状況を監視する手段、海藻にとって最適の生育環境になるよう制御する手段、気象・海流などの自然状況と航行・漁業などの人為的状況を監視し、最も安全且つ効率的に収穫〜処理できるよう制御する手段、航行・漁業などの障害にならないように適切な情報を発信する手段などが必要になるが、従来の技術では、これらの手段を統合したシステムとして備えていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
かかる問題点に鑑み、本発明の目的は、地球規模での本格的なCO固定に必要な大規模な藻場の造成が可能である上、船舶航行、漁業への障害を最小限に抑えた、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、製品としての最終資源(水素やメタノールなど)を得るまでに、収穫した海藻の輸送と処理の各々が短時間で可能になり、処理効率が高い、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、単位面積・年当たりの生育総量を向上でき、気象状況やその他の環境状況に係らず安定な生育総量を得ることができる、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、海藻の生育状況を監視する手段、海藻にとって最適の生育環境になるよう制御する手段、気象・海流などの自然状況と航行・漁業などの人為的状況を監視し、最も安全且つ効率的に収穫〜処理できるよう制御する手段、外部の航行・漁業などの障害にならないように適切な情報を発信する手段などを統合したシステムとして備えた、マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供することにある。
【0017】
本発明の他の目的は、海藻の光合成を利用して大気中のCOを吸収し、それを洋上プラント船で回収・液化したものを、十分に溶解能力のある中・深層域に強制的に放流して、大気中に過剰に排出されたCOを海中隔離することができる、バイオマスを用いた大規模CO削減システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決すべく請求項1の発明は、海洋で海藻を生育する海洋プランテーションと;前記海洋プランテーションに近接して移動又は停泊し、前記海藻を収穫し、部分燃焼処理する洋上プラント船と;前記海洋プランテーション及び前記洋上プラント船の運営を支援し、複数種の衛星システムと、地上集中支援システムとを含む海洋産業インフラと;からなることを特徴とする。
【0019】
請求項2の発明は請求項1記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに係り、前記海洋プランテーションが浮遊体であり、前記浮遊体の形状及び/又は位置を制御する動力が、前記浮遊体に設置され、前記海洋産業インフラにより遠隔制御される帆システムによる推進力又はタグボートによる牽引力を含むことを特徴とする。
【0020】
請求項3の発明は請求項1記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに係り、前記複数種の衛星システムが、宇宙空間で太陽からのエネルギーを集束し、海藻の生育を促進する波長域のレーザ光に変換して前記海洋プランテーションの領域を照射するレーザ衛星システムを含むことを特徴とする。
また、飛行船にレーザ発生装置を搭載して、上空からレーザを照射してもよい。
【0021】
請求項4の発明は請求項1記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに係り、前記複数種の衛星システムが、GPS衛星、通信衛星、海洋観測衛星、及び気象衛星を含み、前記地上集中支援システムが、遠隔支援センタと、前記遠隔支援センタをバックアップする、海洋変動予測システム、海洋生態系影響評価システム、及び船舶航行安全支援システムを含んでなることを特徴とする。
【0022】
請求項5の発明は請求項1記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに係り、前記洋上プラント船において、前記海藻を収穫、脱水、粉砕し、塩分を洗浄するステップと;前記洗浄した海藻を部分燃焼処理する際に、ソーダ回収ボイラに投入して、炉内で落下中に乾燥させながら、前記ボイラに吹き込まれた流量調整された空気と酸素により、前記ボイラの炉下部では還元反応燃焼処理し、炉上部では部分酸化燃焼処理することによりCO(二酸化炭素)とCO(一酸化炭素)を得るステップと;前記COを回収・液化するステップと;前記ソーダ回収ボイラの発熱により水を加熱して得た水蒸気によりタービン発電機を駆動するステップと;前記発電機により得られる電力を含む電力の一部を用いて海水淡水化装置を稼動して淡水を得るステップと;電気分解装置により前記淡水を電気分解して水素と前記酸素を得るステップと;前記COと前記水素を原料とする合成ガス(Syn Gas)から、メタノール及び/又はエタノールを含むBTL(Biomass To Liquid)を得て製品とするステップと;を含むことを特徴とする。
【0023】
請求項6の発明は請求項1記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムに係り、さらに、前記洋上プラント船で回収・液化したCOをCO輸送船に積載してCO放流船に積み替えたものを海洋の中・深層域に放流して海中に固定するCO海洋隔離システムを備えることを特徴とする。
また、海洋プランテーションの運用海域によっては、洋上プラント船に放流装置を設置して直接放流してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、海藻の収穫が海藻を生育する海洋プランテーションに近接して移動又は停泊する洋上プラント船上で実行されるので、海藻の陸上プラントなどへの輸送を実質的に省略でき、海藻の処理が発酵ではなく、部分燃焼処理により行われるので、海藻の処理を高速化できる。
【0025】
さらに、これら、海洋プランテーションと洋上プラント船が、複数種の衛星システムによりバックアップされた地上集中支援システムを通じて運営されるので、海洋プランテーションにおける海藻の生育状況を監視することから、外部の航行・漁業などの障害にならないように適切な情報を発信することまでを統合的に実行できる。
【0026】
本発明の請求項2に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、海洋プランテーションが係留式ではなく、浮遊体であって錨類を要しないので、大洋の深海洋上を実質的に面積制限をうけることなく活用できるので、地球規模での本格的なCO固定に必要な大規模な藻場の運営が可能になる。
【0027】
しかも、海洋プランテーションは浮遊体であり、海流、海上風などにより、通常はその位置がドリフトし易く、その形状が変形し易いが、前記海洋産業インフラにより遠隔制御される帆システムを備えているので、帆システムによる推進力を使って、元の位置・元の形状に戻すことができ、さらには、海流、風の強さと方向の予報情報に基づき、位置・形状の変動量を事前に予測して、ドリフト・変形を予防するように動かすことができる。
また、帆システムの代わりにタグボートで牽引してもよい。
【0028】
本発明の請求項3に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、複数種の衛星システムの1つであるレーザ衛星が、宇宙空間で太陽からのエネルギーを集束し、海藻の生育に適した所定の波長帯のレーザ光に変換して海洋プランテーションの所定の領域を照射するので、海藻の生長を促進することができ、単位面積・年当たりの生育総量を向上できる。
【0029】
本発明の請求項4に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、例えば、GPS衛星を使って、海洋プランテーションの各部を代表する標識点の正確な位置を同定し、プラットフォームの形状の歪み程度を割り出し、海洋観測衛星を使って、海洋プランテーションにおける海藻の生育状況と周辺海域の波浪状況、栄養状況などを監視し、気象衛星による天候、風速、海流速度などの気象状況データ(現状と予測値)と合わせて、海藻にとって最適の生育環境を時系列的に選べるように海洋プランテーションの位置、形状を決定し、通信衛星を使って、洋上プラント船を介してもしくは海洋プランテーションの推進系(請求項2に係る場合は「帆システム」又は「タグボート」であってもよい)に伝え、海洋プランテーションの位置、形状を制御する。
【0030】
さらには、気象・海流などの自然状況と航行・漁業などの人為的状況の監視し、洋上プラント船に対して最も安全且つ効率的に海藻を収穫〜処理できるように制御を支援し、一方外部の航行・漁業などの障害にならないように適切な情報を発信する。
このようにこれらの諸機能は統合的に実行することができる。
【0031】
本発明の請求項5に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、海藻を部分燃焼処理する際に、木材のパルプ残渣処理で実績のあるソーダ回収ボイラを使うことができるので、BTLとCOを効率的に得ることができる。
【0032】
本発明の請求項6に係るマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムでは、中・深層域ではCOの十分な溶解能力があるにもかかわらず、海洋の炭素循環プロセスでは海洋に吸収できる量が少ないので、CO放流船を用いて大量の二酸化炭素を海洋隔離するものである。
この技術は、従来、火力発電所などから発生するCOを回収・液化して海洋隔離や地中貯留するために技術開発されたものである。
【0033】
本発明では、大気中のCOを海藻に吸収させたものを海洋隔離するというCOの吸収源対策として用いる点で発想が異なる。
大量のCOを中・深層域に海洋隔離すると弱アルカリ性の海水が中性化されてしまうという意見もあるが、海中の炭酸イオンが不足すると炭酸カルシウムが溶解してそれを補填するのでその心配はない。
【0034】
このようにして、本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムは、大洋上の大規模なプラットフォームで海藻を生育して空気中のCOを取り込んだものを、炉下部では還元反応燃焼処理し、炉上部では部分酸化燃焼処理するソーダ回収ボイラにより自然のエネルギーを利用して部分燃焼させて、一部は再びCOとして回収・液化して海中に海洋隔離することにより大気中のCO濃度を減少させる吸収源対策に寄与するとともに、残りはメタノールなどのBTL、及び/又は水素を製造し、エネルギー変換によるCOの発生を抑制する排出抑制対策にも寄与することができるので、地球が直面している温室効果ガス削減対策の本質的な解決策を提供することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムは、海洋中で自然のエネルギーを利用して大規模に大型海藻を生育させ、これを収穫してバイオマス原料として集中的に制御された部分燃焼処理を行って、水素や、メタノールなどのBTL(Biomass−To−Liquid)製品を製造し、途中で付随的に発生するCOを回収・液化したものを海洋隔離することで、海洋中にCOを固定し、直接間接に地球規模でのCOの削減に資するものであり、(1)大型海藻を生育させる海洋プランテーション、(2)海藻を収穫して部分燃焼処理する洋上プラント船、(3)海洋プランテーションと洋上プラント船の活動を支援する海洋産業インフラ、(4)洋上プラント船で回収・液化されたCOを海中に放流する海洋隔離システム、の4つのサブシステムからなる。
【0036】
以下に図を参照して、概ね上記(1)(2)(3)(4)の順に本発明の様々な実施形態を詳細に説明し、最後に(5)で、本マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム全体のCO固定量と、自己発生電力を用いて水素などを製造した場合の生産量を試算する。
図1は本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける海洋プランテーションを示す図であり、(A)は海洋プランテーションの全体構成を、(B)は海洋プランテーションの詳細な構成を示す図である。
図2は本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおけるレーザ衛星システムの構成を示す図である。
図3は本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける海洋産業インフラの構成を示す図である。
図4は本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける洋上プラント船での海藻の処理プロセスを示す図である。
図5は本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおけるCO海洋隔離システムの構成と運用イメージを示す図である。
【実施例1】
【0037】
(1)大型海藻を生育させる海洋プランテーション
図1に示すように、本実施例における海洋プランテーション10は、全体で120km四方に及ぶ広大なものであり、沿岸部に設置することは事実上不可能である。しかしながら錨による係留方式ではなく浮遊方式であるので、錨の重量を支える堅牢な構造を要せず、簡素で柔軟な低コスト構造ですみ、大洋の任意の場所に設置することができる。
【0038】
海洋プランテーション10全体は、10個のセット11からなり、各々のセット11は60km×24kmの海域を占め、各々10個のプラットフォーム12からなる。
各セットに対して、1隻の洋上プラント船40と、2機のヘリコプタ18、40艘の小型作業船19が対応し、小型作業船は、無人で動作し、海藻の収穫に当たり、ヘリコプタは種になる海藻の切片の散布などと設備の保守・修理に当たる。
【0039】
各々のプラットフォーム12は10km×10kmの海域を占め、幅2kmの開水路を隔てて互いに隣接し、プラットフォームの内部は100個の1km×1kmサイズのユニット13に間仕切られている。
各ユニット13の漁網状の間仕切り体にはブイをつけて海面に浮かせ、浮遊している海藻が外部に流出することを防止する。
ユニット13の4隅には帆システム15を設置する。
この他、プラットフォームの4隅、又は4隅と中心には、海水温度、塩分濃度計測器、及びGPS受信機と、衛星通信装置を設置する。
ユニット13には、さらに細かい間仕切りを入れて、例えば100m×100mのモジュールを100個形成し、各々のモジュ−ルには、漁網面と開水面を半分ずつ持たせる。
この場合、海洋プランテーション全体の有効海藻生育面積は5000kmになる。なお、各セット内のプラットフォームの数や配置形状は任意でよく、例えば、洋上プラント船からの作業距離が最小になるように円環状に配置してもよい。またセット毎に別々の海域に離れて設置しても良い。
【0040】
海洋における光が届く「表層域」の海中では、植物プランクトンの光合成活動が活発に行われて繁殖し、この植物プランクトンを餌にしてさまざまな動物プランクトンが、さらに食物連鎖によって魚などの動物が繁殖している。
植物プランクトンは、溶存している栄養塩(硝酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩など)を使い尽くすまで増殖するので、表層域では栄養塩の濃度がほとんどゼロとなっている海域があり、この状況は「海の砂漠」と呼ばれている。
【0041】
一方、それより下層の中層域では、表層域での動物プランクトンの死骸、さらに魚などの動物の糞や死骸が沈降してその有機物が微生物により分解されて、所謂栄養塩が豊富な状態になっている。
特に、上記「海の砂漠」と呼ばれている海域では、有光層下部に温度躍層が発達しており、栄養塩に富んだ中層域の海水が表層域の海水と交換できない状態になっている。
【0042】
表層域、中層域の水深区分は、地球上の海洋域、季節によっても変り厳密なものではないが、本発明においての表層域は、海洋表面〜水深約200mの、有光層領域であり、中層域は、水深約200〜1500mの、光はないが酸素を含みバクテリアが有機物を酸化分解できる領域である。
【0043】
従って、「海の砂漠」に海洋プランテーションを設置する場合には、豊富な栄養塩をもつ有光層下部にある中層域の海水を表層に汲み上げて表層域に栄養塩を供給し、鉄及び/又は鉄化合物、さらに必要によりカルシウム化合物、ケイ素化合物を添加し、かつ海藻類生育用網を設置して海藻類を生育させるのがよい。
また、栄養塩に富んでいるが鉄分が不足する海域に海洋プランテーションを設置しても良い。その場合、少量の鉄分を補給するだけで済むので、設置はより容易になる。
【0044】
中層域の海水を表層域に汲み上げる方法は、海上での実施であること、COの削減を考慮すれば自然のエネルギー、例えば太陽熱、風力、海水温度差などを利用するのが好ましい。
このうち、特に好ましい形態は、海水温度差を利用したもので、特許文献〔特開2001−336479号公報〕に記載されている方法であり、熱伝導性材質でできた中空パイプを揚水管として用い、最初に中空パイプを中層域の海水で満たし、中空パイプの少なくとも一端を封止してから、一端を表層域に、他端は中層域にあるように略鉛直に配置し、中空パイプ内外の海水温度が平衡になるまで放置し、然る後封止部を解除する方法で設置する。
【0045】
このようにして設置した以後は、周囲の相対的に温度の高い海水と熱交換して揚水管内部にある中層域の海水の温度が上昇する。即ち、中層域の海水は、表層域の海水より塩分濃度が低いので表層域の海水と同じ温度であれば比重が小さくなるので、浮力が生じて上昇し、揚水管上端部より表層域の海水中に拡散して、中層域の海水が汲み上げられることになる。
この中層域の海水汲み上げは、太陽光による熱エネルギーを駆動エネルギーとしているので、それ以外の動力なしで続けることができる。
【0046】
このような揚水管による富栄養中層域海水の汲み上げの具体的方法、及び、鉄及び/又は鉄化合物、カルシウム化合物、ケイ素化合物などの無機栄養物の海水への添加の具体的方法については、本願の発明者による別の特許文献(特願2003−338805、出願日:平成15年9月29日)に詳しく述べたので、この説明では省く。
【0047】
富栄養中層域海水を活用する他の方法として本実施例では、海流の衝突、撹拌によって中層域海水が海表に現れている海域を探して、そこに海洋プランテーションを設置する方法を採用する。さらに、絶えず新鮮な富栄養海水を供給するためには、海流がさらに大きく回流していることが望ましい。我が国の排他的経済水域内では、例えば三陸沖合いが該当する。
【0048】
このような海域では、海洋プランテーションを長期間放置すれば、プラットフォームの形状が著しく歪んでしまい、海藻の生育に不適となる場合が発生することが予測される。
そこで、各プラットフォームの4隅、又は4隅と中心に設置した前記GPS受信機により、GPS衛星から得た位置情報を通信衛星経由で地上集中支援システムの遠隔支援センタに伝送し、遠隔支援センタでは、それらの流線ベクトルを算出し、拘束条件付外挿法により4隅、又は4隅と中心の各々の将来位置を予測する。
【0049】
一方、遠隔支援センタでは、海水温度、塩分濃度計測器で取得した海洋情報および海洋観測衛星情報をもとに海洋変動予測システムを用いて、対象海域の大局的な潮流の変動を予測し、これら2種類の予測結果を考慮して、4隅又は4隅と中心の各々の流れ方向を予測計算する。
プラットフォーム全体又は一部の形状が著しく歪むことが予測される場合、その形状が歪まないようにタグボートや洋上プラント船40等で牽引し修正する。ただし、4隅の牽引方向と距離は、予め遠隔支援センタにおいて算出されるものとする。
【0050】
さらに、三陸沖合いの海洋変動予測シミュレーションによると、海洋プランテーションを3ヶ月以上放置すると回流海域を逸脱する確率が高まる結果が得られた。その場合でも、本実施例によれば、海洋プランテーションの軌道を常時微調整して回流領域に留まらせるように、予め定めた海域内を人工的に回遊させることができる。
【0051】
その原理的方法はヨットの帆走原理に基づくものであり、各ユニットの4隅にそれぞれ設置した前記帆システム15を活用する。帆システムは、一体的に取り付けられた、遠隔操作が可能なキール&セール(帆)と、同じく4隅に設置された風向、風速、風力計測装置からなり、その観測データを通信衛星経由で遠隔支援センタに伝送し、常時モニタする。
【0052】
遠隔支援センタでは、潮流関係データと風況関係データを総合的に把握し、海洋プランテーションを人工的に回遊させるために必要な、各ユニットの4隅の帆システムのキールとセール各々の操作量を算出し、その結果を通信衛星を経由して各帆システムに伝送して遠隔操作する。
この方法は、上述の当該プラットフォーム全体の形状維持に利用してもよい。
また帆システムの代わりにタグボートで牽引しても良い。
【0053】
即ち、海洋変動予測システムなどの予測手法を用いることにより、各プラットフォームの2ヶ月程度先までの位置が予測できるので、必要に応じて早めに軌道修正することにより少ないエネルギー消費で海洋プランテーションを所定の海域に回遊させたり、各プラットフォームの形状の著しい歪を防止できる。
【実施例2】
【0054】
次に図2を参照すると、海藻の生育を促進するための、本発明によるレーザ衛星システムである。
太陽21からのエネルギー22の一部は、レーザ衛星23の集光部(太陽電池)で電力に変換された後、レーザ光発射部(レーザ発振装置)で、海藻の生育を促進する所定の波長域(例えば、300nm及び700nm)のレーザ光24に変換され、地球20上の特定の領域である前記海洋プランテーション10の全体又は所定の領域を照射する。
【0055】
レーザ衛星が地上36000kmの静止衛星軌道上にある場合でも、レーザ光のビーム発散角度は120km/36000km、即ち0.003ラジアン程度になり、マイクロ波による地上への送電などに比べて、許容発散角度が格段に大きいので、大容量のレーザ発振装置の製造が低コストで容易になる。
【0056】
レーザ光照射による海藻の成長促進効果としては、常時最適照射の場合、理論的には照射しない場合の10倍の成長速度が期待でき、実際的な間欠照射の場合でも数倍の成長速度が期待できる。
【0057】
ここで成長速度が大きく丈夫な海藻として例えばホンダワラ類(季節、海域、などによって選択する)を選び、十分な太陽光と栄養を与えるならば、海藻の平均的な成長速度は15g/m/日である。
従って、上記のように富栄養海水域を選んで回遊させる場合、レーザ照射は必須ではないが、さらに上記のように所定の波長域のレーザ光を照射するならば、15g/m/日は確実な成長速度の下限とすることができる。
【0058】
本実施例の場合、海洋プランテーションの実効面積は5000kmであるので、海藻の年間収穫量Wは、
W= 15×5000×106×365g/年≒ 2700万トン/年
これを実働300日で処理するには、1日当たりドライベースで最小9万トンとなり、これらを10隻の洋上プラント船40を用いて処理すると、1隻当たりの処理量は最小9000トン/日となる。ウェットベースでは最大10倍の9万トンになる。
そこで、小型作業船(大型の海藻採取船)19により海藻を収穫する際に、小型作業船上で海藻の水分を、物理的方法を用いて脱水した後、海藻を細かく破砕して洋上プラント船40に移送する。
【実施例3】
【0059】
(2)海藻を収穫して部分燃焼処理する洋上プラント船
図4を参照すると、本発明による洋上プラント船40での海藻の処理プロセスを示す図である。
第1ステップでは、破砕した海藻を小型作業船から洋上プラント船へ吸い上げ、塩化ナトリウム洗浄装置に投入し、海水淡水化装置82から供給される淡水で塩化ナトリウムなどの塩分などを洗浄し、抽気背圧タービンから背圧排気した水蒸気を加え脱水・予熱し、有用物質抽出装置42に送る。
【0060】
第2ステップでは、上述の洗浄水をNaCl水溶液として電解ソーダ製造装置81に送り、海水淡水化装置82から供給される淡水と合わせてイオン交換法により水酸化ナトリウムを製造する。この他に後述するように、洗浄水を食用・工業用塩製造システム(図示せず)に送水してもよい。
【0061】
第3ステップでは、有用物質抽出装置42において、細かく破砕した海藻を、前記水酸化ナトリウム及び後述のソーダ回収ボイラ43で回収された水酸化ナトリウムを添加した淡水を溶媒として液状にした後、抽気した高温・高圧の蒸気を使って溶解し、アルギン酸やヨウ素などの有用物質を抽出し、藻体残渣をソーダ回収ボイラ43へ送る。
ソーダ回収ボイラはパルプ工業において、パルプ残渣である黒液からのエネルギー回収の際の黒液燃焼に用いられている実績がある。
【0062】
第4ステップでは、藻体残渣をソーダ回収ボイラ43の中段から炉内へ噴霧する。
ソーダ回収ボイラの炉下部における還元反応燃焼から上昇する燃焼ガスの熱により藻体残渣は炉内を落下中に乾燥される。
ソーダ回収ボイラの炉下部に到達した藻体残渣は還元反応燃焼により分解される。
【0063】
即ち、溶媒の水酸化ナトリウム中のナトリウムなどを媒介とする不完全燃焼反応により、藻体残渣有機物中の炭素分は全部完全に酸化されてCOとならずに、大部分はCOを含む燃焼ガスとなってソーダ回収ボイラ上部に向かって上昇し、溶媒として使用した水酸化ナトリウムはスメルトとなってソーダ回収ボイラの底部に溜まる。
【0064】
上昇する燃焼ガスは、ソーダ回収ボイラの上段に吹き込まれる空気と酸素により、部分酸化燃焼される。即ち、さらに酸化(燃焼)され、高次化合物は分解されてCOになり、COの一部はCOになる。
最終的に発生するCOとCOの比率は、下段と上段に吹き込まれた空気と酸素の流量比率などにより調節される。
これらの酸素は、水電気分解装置83から供給される。
また、ソーダ回収ボイラの起動時や残存水分が多いなどの理由で藻体残渣の分解が不十分な場合は、重油などの添加により火力を増強してもよい。
【0065】
第5ステップでは、ソーダ回収ボイラの底部に溜まったスメルト中の溶媒分である水酸化ナトリウムは、溶媒回収装置86により回収され、再び有用物質抽出装置に供給される。
【0066】
第6ステップでは、燃焼ガスはエコノマイザ44を通過後スクラバで灰分が分離され、灰分処理装置87に集められる。燃焼ガスの本体はCOとCOからなり、CO回収・液化装置45に送られる。
【0067】
第7ステップでは、ソーダ回収ボイラ及びソーダ回収ボイラとエコノマイザの接続部には、海水淡水化装置82からの淡水が供給される水冷壁管が巻かれており、燃焼ガスの冷却熱により、水冷壁管中の水は加熱されて高温水蒸気となり、抽気背圧タービン(T)84に導かれ、タービンを回転して発電機により電力を発生する。
【0068】
発電機85で発生した電力は、本洋上プラント船の主電源であり、海水淡水化装置82や、CO回収・液化装置45を始めとする上述の各種装置、及び各種ユーティリティ(個別記載せず)に供給される。
【0069】
COを回収・液化するために発生電力を消費してもさらに余剰電力が生じる場合は、水電気分解装置83を稼動し過剰水素を蓄積するか、電解ソーダ製造装置81を稼動し過剰ソーダを蓄積するか、及び/又は、海水淡水化装置82の副産物である濃縮塩を精製して塩を製造する。
【0070】
一方、抽気した高温・高圧水蒸気は有用物質抽出装置42に供給され、背圧排気した低温・低圧の水蒸気は、復水器(コンデンサ)の役割を果たす塩化ナトリウム洗浄装置41に導かれる。
【0071】
第8ステップでは、燃焼ガスの本体からCOがCO回収装置45において回収された後、CO分離装置46においてCOが精製され、BTL製造装置47に送られる。
CO回収装置において回収されたCOは、直ちに液化されて蓄積される。
【0072】
第9ステップでは、BTL製造装置47において、CO分離装置46から送られたCOと、水電気分解装置83から送られた水素により合成ガスを生成し、これを原料にして、BTLを製造する。BTLとしては、触媒を含む反応条件を適切に選択することにより、メタノール、エタノール、又はその他のアルコールなどが得られる。
なお、BTL製造装置で発生する反応熱を電力の形で回収することができるし、製造したBTLは洋上プラント船や小型作業船の燃料として用いることができる。
【実施例4】
【0073】
(3)海洋プランテーションと洋上プラント船の活動を支援する海洋産業インフラ
図3を参照すると、本発明による、上記の海洋プランテーション10と洋上プラント船40の活動を支援する海洋産業インフラ30のブロック図である。
海洋産業インフラ30は、5種の衛星システムと地上集中支援システム31からなる。
【0074】
5種の衛星システムは、レーザ衛星システム33、GPS衛星システム34、通信衛星システム35、海洋観測衛星システム36、及び気象衛星システム37からなり、これらのうちレーザ衛星システム33は、上記のレーザ衛星23を備えた本マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム専用のものであるが、他の4システムは汎用のものである。
【0075】
地上集中支援システム31は、遠隔支援センタ32と、遠隔支援センタ32をバックアップする、海洋変動予測システム91、海洋生態系影響評価システム92、及び船舶航行安全支援システム93からなる。
【0076】
レーザ衛星システム33は、遠隔支援センタからの指示に基づき、レーザ照射ターゲットの位置、範囲、レーザ強度を調整して、上述のとおりレーザ衛星から所定の波長域のレーザを照射する。
【0077】
GPS衛星システム34は、海洋プランテーション10の複数箇所に設置された上記GPS受信機に、汎用のGPS電波信号を送る。
【0078】
通信衛星システム35は、海洋プランテーションに設置された、上記GPS受信機から発信される位置情報、海水温度・塩分濃度計測装置、及び上記帆システム15の風向、風速、風力計測装置から発信される観測データを中継して遠隔支援センタに送り、また逆に、遠隔支援センタから発信される上記帆システムのキールとセールの操作情報を中継して海洋プランテーションに送る。
この他に、海洋プランテーションの形状修正牽引を含め、遠隔支援センタと洋上プラント船40の間の海藻処理運営に関係する殆どすべての情報交換を中継する。
【0079】
海洋観測衛星システム36は海洋プランテーションの設置海域を含む大域的海洋情報を、そして気象衛星システム37は海洋プランテーションの設置海域を含む大域的気象情報を遠隔支援センタと、必要に応じ洋上プラント船に伝える。
【0080】
遠隔支援センタ32は、本マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムを制御する頭脳であり、上述のように各種衛星システムを通じて得た、海洋プランテーションに関係する位置情報、気象情報、海洋情報などの主に短期的データを、海洋変動予測システム91及び海洋生態系影響評価システム92において長期的情報データベースと照合してより確実な長期的予測情報を得、これに基づき、安全に、海洋生態系への影響を限定しながら、その範囲で最も効率的に海洋プランテーション及び洋上プラント船を運営する。さらに、船舶航行安全支援システム93において、周辺を航行又は周辺で操業する第3者の船舶に対し適切な安全支援情報を発信する。
【実施例5】
【0081】
(4)洋上プラント船で回収・液化したCOを海中に放流するCO海洋隔離システム
図5を参照すると、本発明による、上記洋上プラント船40で回収・液化されたCOを海中に放流して重炭酸イオンの形で固定する海洋隔離システム94のブロック図である。
【0082】
CO海洋隔離システム94は、CO輸送船とCO放流船からなる。CO輸送船95は、洋上プラント船で回収・液化されたCOを積載して放流海域に輸送する。
そして、CO放流船96に積み換え中・深層域に放流する。中・深海域に放流されたCOは炭酸イオンと反応して中性の重炭酸イオンとなり海水中に溶解する。
【0083】
気体として海中に溶け込むCOは微々たるものであるので、大気中に排出された過剰なCOを回収・液化して重炭酸イオンの形態で海洋隔離することは温室効果ガスの吸収源対策として大きな効果が期待できる。
【0084】
(5)本海洋プランテーション全体のCO固定量とメタノールの生産量
洋上プラント船1隻あたり、海藻残渣9000トン/日をソーダ回収ボイラに供給すると、255MWの発生電力が得られると推定する。
これはパルプ黒液をソーダ回収ボイラで燃焼した場合の、北越製紙株式会社の実績報告(1基で乾重量2900トン/日の黒液を処理して85MWの電力を得ている)を海藻に準用して、洋上プラント船1隻あたり3基のボイラを搭載して処理すると仮定した場合である。
【0085】
本マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムで、海藻残渣の炭素分を完全燃焼によりCOの形で全量回収する場合を想定すると、海藻の分子式をCHOとして、CHOとCOの分子量は各々、30、44であるので、洋上プラント船1隻あたりのCO回収量WCO2は、
CO2= 3×2900トン×(44/30)×300日
= 3.8Mトン/年。
【0086】
洋上プラント船40でCOを回収・液化する電力の原単位を、0.23kWh/kgとすると、回収・液化に必要な電力WCO2は、
CO2= 0.23×3.8×10/(300×24)kW
=121MW。
これは上記発生電力で十分賄うことができ、134MWの余剰電力が発生する。
【0087】
そこで、上記余剰電力134MWのうち、100MWを水電気分解装置に用いることができると想定すると、現状の工業的水素発生電力効率は5kWh/mであるので、得られる水素生産量NH2は、
H2= 100MW/(5kWh/m)= 2×10/h。
従って、1隻あたりの年間水素生産量WH2は、
H2= 2×10/h×24h×300日= 144×10/年
= 1.3万トン/年。
【0088】
なお、これだけの水素を製造するためには、海水淡水化装置を稼動して相応量の淡水を製造しなければならない。しかしながら、現状の工業的海水淡水化電力効率は、5kWh/m=5kWh/トンであるので、淡水化に要する電力PWTは、
WT= 1.3万トン×(18/2)×(5kWh/トン)/(24h×300日)
= 80kW、
程度であり、総電力量255MWに比べて殆ど負担にならない。
【0089】
この水素(H)を全量使い対応する量のCOと混合して合成ガスを形成してメタノール(CHOH)を製造する場合、基本反応式は、
CO+2H → CHOH
である。水素、メタノールの分子量は各々、2、32であるので、メタノールの、1隻あたりの生産量WMHは、
MH= 1.3万トン×(32/(2×2))= 10.2万トン。
ただし、その場合、ソーダ回収ボイラでの部分燃焼率を調節して相応量のCOを製造するので、COの回収量の減少量WCO2−は、
CO2−= 10.2万トン×(44/32)= 14万トン。
これは、上記CO全量回収の4%程度である。
なお、これに伴いソーダ回収ボイラの発熱量、従って発電電力量は6%程度減少する。
【0090】
以上の生産量は洋上プラント船1隻当たり、即ち、1セット当たりのものであるので、本マリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム全体では、すべて10倍になり、例えば全量回収の場合のCO固定量3800万トンは、京都議定書に定める我が国の削減目標(基準年比で、−6%)の半分強に相当し、これを排出権取引市場で販売することができる。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムは、大気中のCO濃度を減少させる吸収源対策に寄与するとともに、自然の力を利用してメタノール、水素を製造してCOの発生を抑制する排出抑制対策にも寄与することができ、温室効果ガス削減対策の本質的な解決策となり、さらに未利用の広大な排他的経済水域(451万km)を有効活用して設置することにより、自前の化石燃料代替エネルギー資源を確保することができることになるので、エネルギー安全保障政策上も重要な意義を持つことになる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける海洋プランテーションを示す図であり、(A)は海洋プランテーションの全体構成を、(B)は海洋プランテーションの詳細な構成を示す図である。
【図2】本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおけるレーザ衛星システムの構成を示す図である。
【図3】本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける海洋産業インフラの構成を示す図である。
【図4】本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける洋上プラント船での海藻の処理プロセスを示す図である。
【図5】本発明によるマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システムにおける海洋隔離システムの構成と運用イメージを示す図である。
【符号の説明】
【0093】
10 海洋プランテーション
11 セット
12 プラットフォーム
13 ユニット
15 帆システム(キール&セールシステム)
18 ヘリコプタ
19 小型作業船
20 地球
21 太陽
22 太陽エネルギー
23 レーザ衛星
24 レーザ光
30 海洋産業インフラ
31 地上集中支援システム
32 遠隔支援センタ
33 レーザ衛星システム
34 GPS衛星システム
35 通信衛星システム
36 海洋観測衛星システム
37 気象衛星システム
40 洋上プラント船
41 NaCl洗浄装置
42 有用物質抽出装置
43 ソーダ回収ボイラ
44 エコノマイザ
45 CO回収・液化装置
46 CO分離装置
47 BTL製造装置
81 電解ソーダ製造装置
82 海水淡水化装置
83 水電気分解装置
84 抽気背圧タービン(T)
85 発電機
86 溶媒回収装置
87 灰分処理装置
91 海洋変動予測システム
92 海洋生態系影響評価システム
93 船舶航行安全支援システム
94 CO海洋隔離システム
95 CO輸送船
96 CO放流船

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海洋で海藻を生育する海洋プランテーションと;
前記海洋プランテーションに近接して移動又は停泊し、前記海藻を収穫し、部分燃焼処理する洋上プラント船と;
前記海洋プランテーション及び前記洋上プラント船の運営を支援し、複数種の衛星システムと、地上集中支援システムとを含む海洋産業インフラと;
からなることを特徴とするマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。
【請求項2】
前記海洋プランテーションが浮遊体であり、前記浮遊体の形状及び/又は位置を制御する動力が、前記浮遊体に設置され、前記海洋産業インフラにより遠隔制御される帆システムによる推進力又はタグボートによる牽引力を含むことを特徴とする請求項1に記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。
【請求項3】
前記複数種の衛星システムが、宇宙空間で太陽からのエネルギーを集束し、海藻の生育を促進する波長域のレーザ光に変換して前記海洋プランテーションの領域を照射するレーザ衛星システムを含むことを特徴とする請求項1に記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。
【請求項4】
前記複数種の衛星システムが、GPS衛星、通信衛星、海洋観測衛星、及び気象衛星を含み、前記地上集中支援システムが、遠隔支援センタと、前記遠隔支援センタをバックアップする、海洋変動予測システム、海洋生態系影響評価システム、及び船舶航行安全支援システムを含んでなることを特徴とする請求項1に記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。
【請求項5】
前記洋上プラント船において、
前記海藻を収穫、脱水、粉砕し、塩分を洗浄するステップと;
前記洗浄した海藻を部分燃焼処理する際に、ソーダ回収ボイラに投入して、炉内で落下中に乾燥させながら、前記ボイラに吹き込まれた流量調整された空気と酸素により、前記ボイラの炉下部では還元反応燃焼処理し、炉上部では部分酸化燃焼処理することによりCO(二酸化炭素)とCO(一酸化炭素)を得るステップと;
前記COを回収・液化するステップと;
前記ソーダ回収ボイラの発熱により淡水を加熱して得た水蒸気によりタービン発電機を駆動するステップと;
前記発電機により得られる電力を含む電力の一部を用いて海水淡水化装置を稼動して淡水を得るステップと;
電気分解装置により前記淡水を電気分解して水素と前記酸素を得るステップと;
前記COと前記水素を原料とする合成ガス(Syn Gas)から、メタノール及び/又はエタノールを含むBTL(Biomass To Liquid)を得て製品とするステップと;
を含むことを特徴とする請求項1に記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。
【請求項6】
さらに、前記洋上プラント船で回収・液化したCOをCO輸送船に積載してCO放流船に積み替えたものを海洋の中・深層域に放流して海中に固定するCO海洋隔離システムを備えることを特徴とする請求項1に記載のマリンバイオマスを用いた大規模CO削減システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−204264(P2006−204264A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24166(P2005−24166)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(591115475)株式会社三菱総合研究所 (12)
【Fターム(参考)】