マルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置
【課題】1つのガスセンサでNOX濃度とアンモニア濃度を測定することができるマルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置を提供する。
【解決手段】第1測定室S1の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層2a上に設けられた一対の第1電極2b、2cを有し、第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセル2と、第1測定室に連通するNOX測定室S2の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層4b上に設けられた一対の第2電極4b、4cを有し、第1測定室からNOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流Ip2が一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセル4とを備えたNOXセンサ部30Aと、少なくとも一対の電極40aを有しNOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部42とを共に設けたマルチガスセンサ200である。
【解決手段】第1測定室S1の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層2a上に設けられた一対の第1電極2b、2cを有し、第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセル2と、第1測定室に連通するNOX測定室S2の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層4b上に設けられた一対の第2電極4b、4cを有し、第1測定室からNOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流Ip2が一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセル4とを備えたNOXセンサ部30Aと、少なくとも一対の電極40aを有しNOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部42とを共に設けたマルチガスセンサ200である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の窒素酸化物濃度及びアンモニア濃度を検出するに適したガスセンサ及びガスセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガス中の特定ガスの濃度を測定するガスセンサとして、固体電解質体を用いつつ被測定ガス中のNOX濃度を検出するNOXセンサや、一対の電極間のインピーダンス変化又は起電力変化を利用して被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサが知られている。
又、被測定ガス中のNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定する技術として、被測定ガスをNH3強酸化触媒に接触させてアンモニアをNOXに変換して全NOX濃度を測定する工程と、被測定ガスをNH3弱酸化触媒に接触させてアンモニアの一部をNOXに変換してNOX濃度を測定する工程とを有し、これらの工程の2つの検出値からNOX濃度とアンモニア濃度を演算する技術が提案されている(特許文献1参照)。
さらに、1つのセンサ内にNOX極、参照極、選択極、アンモニア極を設けて複数セル(multicell)を構成し、ガス導入により生じたNOX極と参照極の間の起電力に応じて(NOXの存在状態に応じて)、アンモニア濃度算出方法を変更することで、正確なアンモニア濃度を計測するアンモニアセンサが提案されている(特許文献2参照)。具体的には、NOXの存在状態に応じ、アンモニア極−参照極間の起電力と、NOX極−アンモニア極間の起電力とのいずれかを検出に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−133447号公報(要約)
【特許文献2】米国特許出願公開2007/80074号明細書(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、触媒能の違いにより測定を行うため、測定環境(温度、流速、圧力等)の変化によって触媒能が変化し、正確な測定ができないことがある。また、自動車の排ガス中のような苛酷な環境にこの装置を設置した場合、触媒能を長期にわたって安定的に維持することは困難である。
また、特許文献2記載の技術は、アンモニアを検知する電極を切り替えて測定を行うものであるが、測定環境が変動すると、当初設定した検知電極の切り替え条件(切り替えタイミングや、基準出力ポイントの設定等)を変更する必要があり、アンモニアの正確な測定がかえって困難になる可能性がある。さらに、検知電極の切り替えという複雑な制御が必要である。
【0005】
さらに、複数種のガス濃度を別個のセンサで測定すると、各センサ毎にガス濃度や温度分布等が異なることが測定に影響を与えることがある。
従って本発明は、1つのガスセンサでNOX濃度とアンモニア濃度を測定可能なマルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のマルチガスセンサは、第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセルと、前記第1測定室に連通するNOX測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセルとを備えたNOXセンサ部と、少なくとも一対の電極を有し前記NOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部とを共に設けている。
このような構成とすると、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部とが1つのセンサ内に設けられ、各センサ部がほぼ同一の測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)下にあるため、測定環境が異なることによるガス検出精度の低下が抑制される。
つまり、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部とを1つのセンサに設けることにより、測定環境の影響を受けずにNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定することができ、NOX濃度とアンモニア濃度の検出精度が向上する。又、1つのセンサに被測定ガスが接触するため、NOXとアンモニアをほぼ同時に検出でき、両者の検出のタイムラグによる検出精度の低下が抑制される。
さらに、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部を別個のセンサとした場合に比べ、センサのコストダウンやコンパクト化が図られる。
【0007】
また、前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、前記NOXセンサ部の90%応答時間と、前記アンモニアセンサ部の90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下であることが好ましい。
このような構成とすると、被測定ガスのアンモニアセンサ部への拡散を遅らせることができ、NOXセンサ部の外表面に位置するアンモニアセンサ部への被測定ガスの拡散速度と、センサ内部にNOX測定室を有するNOXセンサ部への被測定ガスの拡散速度とが同等となり、各センサ部で検出の応答性の差が少なくなるので、測定精度が向上する。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)においても、各センサ部の応答性が異なることに起因する検出タイミングのズレを少なくし、測定精度が低下することを抑制することができる。
【0008】
さらに、前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、前記NOXセンサ部の前記検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の前記検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下であることが好ましい。
このような構成とすると、被測定ガスのアンモニアセンサ部への拡散を遅らせることができ、NOXセンサ部の外表面に位置するアンモニアセンサ部への被測定ガスの拡散速度と、センサ内部にNOX測定室を有するNOXセンサ部への被測定ガスの拡散速度とが同等となり、各センサ部で検出の応答性の差が少なくなるので、測定精度が向上する。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)においても、各センサ部の応答性が異なることに起因する検出タイミングのズレを少なくし、測定精度が低下することを抑制することができる。
【0009】
また、前記拡散層は、アルミナ、スピネル、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種からなってもよい。
【0010】
さらに、前記アンモニアセンサ部は、前記一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出してもよい。
また、前記アンモニアセンサ部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面又は片面に積層された前記一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出してもよい。
【0011】
さらに、本発明のガスセンサ制御装置は、前記マルチガスセンサに接続され、前記アンモニアセンサ部から出力されたアンモニア濃度に基づき、前記NOXセンサ部から出力されたNOX濃度を補正する補正手段を有する。
このような構成とすると、アンモニアとNOXが共に存在する被測定ガスから、アンモニア濃度とNOX濃度とを精度よく測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、1つのガスセンサでNOX濃度とアンモニア濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサの長手方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態におけるアンモニアセンサ部の構成を示す展開図である。
【図4】ガスセンサ制御装置(のマイクロコンピュータ)によるNOX濃度及びアンモニア濃度を検出する処理フローである。
【図5】第2の実施形態のマルチガスセンサのうち、マルチガスセンサ素子部の長手方向に沿う断面図である。
【図6】第2の実施形態におけるアンモニアセンサ部の構成を示す展開図である。
【図7】実施例1のセンサにおける、検出時間に対するNOXセンサ部とアンモニアセンサ部の出力を示す図である。
【図8】実施例2のセンサにおける、検出時間に対するNOXセンサ部とアンモニアセンサ部の出力を示す図である。
【図9】実施例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示す図である。
【図10】アンモニアセンサ部の検知開始時を基点(0秒)とした図9の部分拡大図である。
【図11】比較例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示す図である。
【図12】アンモニアセンサ部の検知開始時を基点(0秒)とした図11の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aの長手方向に沿う断面図を示す。マルチガスセンサ200Aは、アンモニア濃度及びNOX濃度を検出するマルチガスセンサ素子部100Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のマルチガスセンサ素子部100Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、マルチガスセンサ素子部100Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がマルチガスセンサ素子部100Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、マルチガスセンサ素子部100Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0015】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、マルチガスセンサ素子部100Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部80A、82Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、マルチガスセンサ素子部100Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0016】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、マルチガスセンサ素子部100Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0017】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、マルチガスセンサ素子部100Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0018】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、マルチガスセンサ素子部100Aの電極端子部80A,82Aとそれぞれ電気的に接続される複数本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。なお、図では簡単のため、マルチガスセンサ素子部100Aの表面と裏面の電極端子部をそれぞれ符号80A,82Aで代表させたが、実際には、後述するNOXセンサ部30Aやアンモニア検知部40Aが有する電極等の数に応じて、複数の電極端子部が形成されている。
【0019】
また、主体金具138の後端部140より突出されたマルチガスセンサ素子部100Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、マルチガスセンサ素子部100Aの後端側の表裏面に形成される電極端子部80A,82Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、マルチガスセンサ素子部100Aの電極端子部80A,82Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ素子部100A、及びこれに接続されるガスセンサ制御装置(コントロ−ラ)300の構成を示すブロック図である。なお、図2では説明の便宜のため、マルチガスセンサ素子部100Aの長手方向に沿う断面のみを表示している。
マルチガスセンサ200A、及びガスセンサ制御装置300は図示しない内燃機関(以下、エンジンともいう)を備える車両に搭載され、ガスセンサ制御装置300は車両側制御装置(以下、適宜「ECU」という)400に電気的に接続されている。なお、マルチガスセンサ200Aから伸びるリード線146の端はコネクタに接続され、このコネクタをガスセンサ制御装置300側のコネクタに電気的に接続するようになっている。
ECU400は、ガスセンサ制御装置300で算出された排気ガス中のアンモニア濃度及びNOX濃度のデータを受信し、それに基づいてエンジンの運転状態の制御や触媒に蓄積されたNOXの浄化などの処理を実行する。
【0021】
次に、マルチガスセンサ素子部100Aの構成について説明する。マルチガスセンサ素子部100Aは、公知のNOXセンサと同様な構成を有するNOXセンサ部30Aと、公知のアンモニアセンサと同様な構成を有するアンモニアセンサ部40とを備え、詳しくは後述するようにアンモニアセンサ部40はNOXセンサ部30Aの外表面に形成されている。
【0022】
まず、NOXセンサ部30Aは、絶縁層23e、第1固体電解質層2a、絶縁層23d、第3固体電解質層6a、絶縁層23c、第2固体電解質層4a、及び絶縁層23b、23aをこの順に積層した構造を有する。第1固体電解質層2aと第3固体電解質層6aとの層間に第1測定室S1が画成され、第1測定室S1の左端(入口)に配置された第1拡散抵抗体8aを介して外部から被測定ガスが導入される。なお、第1拡散抵抗体8aの外側には多孔質からなる保護層9が配置されている。
第1測定室S1のうち入口と反対端には第2拡散抵抗体8bが配置され、第2拡散抵抗体8bを介して第1測定室S1の右側には、第1測定室S1と連通する第2測定室(本発明の「NOX測定室」に相当)S2が画成されている。第2測定室S2は、第3固体電解質層6aを貫通して第1固体電解質層2aと第2固体電解質層4aとの層間に形成されている。
【0023】
絶縁層23b、23aの間にはマルチガスセンサ素子部100の長手方向に沿って延びる長尺板状のヒータ21が埋設されている。ヒータ21はガスセンサを活性温度に昇温し、固体電解質層の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
各絶縁層23a、23b、23c、23d、23eはアルミナを主体とし、第1拡散抵抗体8a及び第2拡散抵抗体8bはアルミナ等の多孔質物質からなる。又、ヒータ21は白金等からなる。
【0024】
第1ポンピングセル2は、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主体とする第1固体電解質層2aと、これを挟持するように配置された内側第1ポンピング電極2b及び対極となる外側第1ポンピング電極2c(各電極が特許請求の範囲の「第1電極」に相当)とを備え、内側第1ポンピング電極2bは第1測定室S1に面している。内側第1ポンピング電極2b及び外側第1ポンピング電極2cはいずれも白金を主体とし、内側第1ポンピング電極2bの表面は多孔質体からなる保護層11で覆われている。
又、外側第1ポンピング電極2cの上面に相当する絶縁層23eはくり抜かれて多孔質体13が充填され、外側第1ポンピング電極2cと外部とを連通させてガス(酸素)の出入を可能としている。
【0025】
酸素濃度検出セル6は、ジルコニアを主体とする第3固体電解質層6aと、これを挟持するように配置された検知電極6b及び基準電極6cとを備え、検知電極6bは内側第1ポンピング電極2bより下流側で第1測定室S1に面している。検知電極6b及び基準電極6cはいずれも白金を主体としている。
なお、絶縁層23cは、第3固体電解質層6aに接する基準電極6cが内部に配置されるように切り抜かれ、その切り抜き部には多孔質体が充填されて基準酸素室15を形成している。そして、酸素濃度検出セル6にIcp供給回路54を用いて予め微弱な一定値の電流を流すことにより、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、酸素基準とする。
【0026】
第2ポンピングセル4は、ジルコニアを主体とする第2固体電解質層4aと、第2固体電解質層4aのうち第2測定室S2に面した表面に配置された内側第2ポンピング電極4b及び対極となる第2ポンピング対電極4c(各電極が特許請求の範囲の「第2電極」に相当)とを備えている。内側第2ポンピング電極4b及び第2ポンピング対電極4cはいずれも白金を主体としている。
なお、第2ポンピング対電極4cは、第2固体電解質層4a上における絶縁層23cの切り抜き部に配置され、基準電極6cに対向して基準酸素室15に面している。
【0027】
そして、内側第1ポンピング電極2b、検知電極6b、内側第2ポンピング電極4bはそれぞれ基準電位に接続され、ガスセンサ制御装置300が有する後述する制御回路59に接続されている。
【0028】
次にアンモニアセンサ部40は、NOXセンサ部30Aの外表面をなす絶縁層23e上に形成されている。より詳しくは、アンモニアセンサ部40は、絶縁層23e上に形成された櫛歯状の一対の電極40aと、一対の電極40aを覆う感応部40bとを含み、一対の電極40a間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するようになっている。
又、多孔質からなる拡散層44Aが感応部40bを完全に覆うように形成され、詳しくは後述するように、外部から感応部40bに流入する被測定ガスの拡散速度を調整可能になっている。
【0029】
図3は、アンモニアセンサ部40の構成を示す展開図である。絶縁層23e上に一対の櫛歯電極(一対の電極)40aが配置され、櫛歯電極40aから絶縁層23eの長手方向に沿ってそれぞれリード40ax、40ayが延び、リード40ax、40ay上に図示しない絶縁層が被覆されている。但し、リード40ax、40ayの右端はこの絶縁層で被覆されずに露出し、それぞれ所定の電極端子部を形成している。
櫛歯電極40aは、例えば金を主成分とし、それぞれ櫛状の2つの電極が離間して配置されている。また、リード40ax、40ayは、例えば白金を主成分とする材料で構成している。
【0030】
感応部40bはアンモニア濃度に応じてインピーダンス(Z)が変化する感ガス材料であり、固体酸物質を用いることができる。
櫛歯電極40a間に交流を印加することにより、櫛歯電極40a間に埋設された感応部40bのインピーダンス(Z)が変化するので、インピーダンス変化に基づいて排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
固体酸物質としては、特開2005−114355号公報(例えば段落0066)に記載された固体超強酸物質を用いるのが好ましい。固体酸物質として、例えばWO3/ZrO2、WO3/YSZ、SO4/ZrO2、WO3/TiO2、及びWO3/Al2O3の群から選ばれる1種以上を用いることができる。具体的には、10wt%-WO3/90wt%-YSZの組成であって、YSZがイットリウムを4wt%含むものが例示される。
感応部40bを覆う拡散層44Aとしては、例えばアルミナ、スピネル(MgAl2O4)、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種が例示される。そして、拡散層44Aの厚み、粒径、粒度分布、気孔率、配合比等を適宜調整することで、感応部40b、及び櫛歯電極40aに到達するガス拡散時間が任意に調整可能である。
【0031】
なお、この実施形態において、NOXセンサ部30Aの制御温度を600℃としたとき、アンモニアセンサ部40の温度が約400℃となるよう、NOXセンサ部30A上でアンモニアセンサ部40の位置が決められている。すなわち、この実施形態では、NOXセンサ部30Aより低温となるよう、センサ100Aの長手方向に沿って、内側第2ポンピング電極4bよりセンサの後端側にアンモニアセンサ部40が配置されている。アンモニアセンサ部40の温度が約400℃であれば、感応部40bを構成する固体酸物質のアンモニア検出能が高くなるからである。
より具体的には、NOXセンサ部30Aの内側第2ポンピング電極4bの中心部の温度を600℃とし、アンモニアセンサ部40の櫛歯電極40aの中心部の温度を400℃とする。
【0032】
次に、図2に戻り、ガスセンサ制御装置300の構成について説明する。ガスセンサ制御装置300は、回路基板上に(アナログ)制御回路59とマイクロコンピュータ60とを備えている。マイクロコンピュータ60はガスセンサ制御装置300全体を制御し、CPU(中央演算処理装置)61、RAM62、ROM63、信号入出力部64、A/Dコンバータ65、及び図示しないクロックを備え、ROM等に予め格納されたプログラムがCPUにより実行される。
制御回路59は、詳しくは後述する基準電圧比較回路51、Ip1ドライブ回路52、Vs検出回路53、Icp供給回路54、Ip2検出回路55、Vp2印加回路56、ヒータ駆動回路57、アンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58を備える。
制御回路59は、NOXセンサ部30Aを制御し、NOXセンサ部30Aに流れる第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2を検出してマイクロコンピュータ60に出力する。
又、制御回路59は、アンモニアセンサ部40を制御し、アンモニアセンサ部40の電極40a間に所定の交流電圧を印加(たとえば2V、400Hz)し、その際に流れる電流値からインピーダンスを検出し、インピーダンスを電圧に変換後、マイクロコンピュータ60に出力する。
【0033】
詳細には、NOXセンサ部30Aの外側第1ポンピング電極2cはIp1ドライブ回路52に接続され、基準電極6cはVs検出回路53及びIcp供給回路54に並列に接続されている。又、第2ポンピング対電極4cはIp2検出回路55及びVp2印加回路56に並列に接続されている。ヒータ回路57はヒータ21に接続されている。
又、アンモニアセンサ部40の一対の電極40aがそれぞれアンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58に接続されている。
【0034】
各回路51〜57は、以下のような機能を有する。
Ip1ドライブ回路52は、内側第1ポンピング電極2b及び外側第1ポンピング電極2cの間に第1ポンピング電流Ip1を供給しつつ、その際の第1ポンピング電流Ip1を検出する。
Vs検出回路53は、検知電極6b及び基準電極6cの間の電圧Vsを検出し、検出結果を基準電圧比較回路51に出力する。
基準電圧比較回路51は、基準電圧(例えば、425mV)とVs検出回路53の出力(電圧Vs)とを比較し、比較結果をIp1ドライブ回路52に出力する。そして、Ip1ドライブ回路52は、電圧Vsが上記基準電圧に等しくなるようにIp1電流の流れる向き及び大きさを制御し、第1測定室S1内の酸素濃度をNOXが分解しない程度の所定値に調整する。
Icp供給回路54は、検知電極6b及び基準電極6cの間に微弱な電流Icpを流し、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、基準電極6cを基準となる所定の酸素濃度に晒させる。
Vp2印加回路56は、内側第2ポンピング電極4b及び第2ポンピング対電極4cの間に、被測定ガス中のNOXガスが酸素とN2ガスに分解する程度の一定電圧Vp2(例えば、450mV)を印加し、NOXを窒素と酸素に分解する。
Ip2検出回路55は、NOXの分解により生じた酸素が第2測定室S2から第2固体電解質体4aを介して第2ポンピング対電極4c側に汲み出される際に、第2ポンピングセル4に流れる第2ポンピング電流Ip2を検出する。
【0035】
Ip1ドライブ回路52は、検出した第1ポンピング電流Ip1の値をA/Dコンバータ65に出力する。又、Ip2検出回路55は、検出した第2ポンピング電流Ip2の値をA/Dコンバータ65に出力する。
A/Dコンバータ65はこれらの値をデジタル変換し、信号入出力部64を介してCPU61に出力する。
【0036】
次に、制御回路59を用いた制御の一例について説明する。まず、エンジンが始動されて外部電源から電力の供給を受けると、ヒータ回路57を介してヒータ21が作動し、第1ポンピングセル2、酸素濃度検出セル6、第2ポンピングセル4を活性化温度まで加熱する。又、Icp供給回路54は、検知電極6b及び基準電極6cの間に微弱な電流Icpを流し、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、酸素基準とする。
又、ヒータ21によってNOXセンサ部30Aが適温まで加熱されると、それに伴ってNOXセンサ部30A上のアンモニアセンサ部40も所望の温度に昇温される。
【0037】
そして、各セルが活性化温度まで加熱されると、第1ポンピングセル2は、第1測定室S1に流入した被測定ガス(排ガス)中の酸素を内側第1ポンピング電極2bから外側第1ポンピング電極2cへ向かって汲み出す。
このとき、第1測定室S1内の酸素濃度は、酸素濃度検出セル6の電極間電圧(端子間電圧)Vsに対応したものとなるため、この電極間電圧Vsが上記基準電圧になるように、Ip1ドライブ回路52が第1ポンピングセル2に流れる第1ポンピング電流Ip1を制御し、第1測定室S1内の酸素濃度をNOXが分解しない程度に調整する。
【0038】
酸素濃度が調整された被測定ガスは第2測定室S2に向かってさらに流れる。そして、Vp2印加回路56は、第2ポンピングセル4の電極間電圧(端子間電圧)として、被測定ガス中のNOXガスが酸素とN2ガスに分解する程度の一定電圧Vp2(酸素濃度検出セル6の制御電圧の値より高い電圧、例えば450mV)を印加し、NOXを窒素と酸素に分解する。そして、NOXの分解により生じた酸素が第2測定室S2から汲み出されるよう、第2ポンピングセル4に第2ポンピング電流Ip2が流れる。この際、第2ポンピング電流Ip2とNOX濃度の間には直線関係があるため、Ip2検出回路55が第2ポンピング電流Ip2を検出することにより、被測定ガス中のNOX濃度を検出することができる。
【0039】
又、アンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58が一対の電極40aのインピーダンスを検出することにより、被測定ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。なお、電極40a間のインピーダンス(ベースインピーダンス値と、アンモニア存在時のインピーダンス値との変化率(感度)を用いることも可能)に基づくアンモニア濃度換算値をマイコン60に記憶させておくことで、NH3濃度を算出する。
【0040】
図4は、ガスセンサ制御装置300のマイクロコンピュータ60(CPU61)によるNOX濃度及びアンモニア濃度を検出する処理フローである。
まず、マイクロコンピュータ60は、ヒータ回路57を動作させ、ヒータ21によりセンサが活性化温度になったか否かを判定する(ステップS1)。通常、第2ポンピングセル4の第2固体電解質層4aの電気抵抗をモニタすることで、この判定を行う。次に、マイクロコンピュータ60は、上記した一対の電極40a間の電圧に基づき、アンモニア濃度を検出する(ステップS3)。次に、マイクロコンピュータ60は、上記した第2ポンピング電流Ip2に基づき、NOx濃度を検出する(ステップS5)。
【0041】
ここで、NOXセンサ部30Aにおいては、アンモニアも反応(NO:NH3=1:1)するため、NOX濃度とアンモニア濃度の合計濃度を検出することになる。アンモニアセンサ部40Aにおいてはアンモニアのみが選択的に検出される。このため、マイクロコンピュータ60は、NOXセンサ部30Aで検出されたNOX濃度(アンモニア濃度が重畳されている)から、アンモニアセンサ部40Aで検出されたアンモニア濃度を差引くことでNOXとアンモニアそれぞれのガス濃度を計算する(ステップS7)。
なお、マイクロコンピュータ60はステップS7の補正処理(計算処理)を行う点で、請求項の「補正手段」に相当する。
次に、マイクロコンピュータ60は、ステップS7で計算したガス濃度をECU400に出力し(ステップS9)、処理の終了を指示される(ステップS11)まで、ステップS3〜S9を繰り返す。
図7、図8は実施例におけるNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aの出力を示す。NOXガスのみを導入した600-800秒での出力では、アンモニアセンサ部40Aの出力は0であるが、200-400秒ではアンモニアガスのみを導入したにも関わらず、NOXセンサ部30Aから出力が生じていることがわかる。
【0042】
以上のように、本発明においては、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとが1つのマルチガスセンサ200A内に設けられ、各センサ部がほぼ同一の測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)下にあるため、測定環境が異なることによるガス検出精度の低下が抑制される。
つまり、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとを1つのマルチガスセンサ200Aに設けることにより、測定環境の影響を受けずにNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定することができ、NOX濃度とアンモニア濃度の検出精度が向上する。又、1つのマルチガスセンサ200Aに被測定ガスが接触するため、NOXとアンモニアをほぼ同時に検出でき、両者の検出のタイムラグによる検出精度の低下が抑制される。
さらに、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aを別個のセンサとした場合に比べ、本発明においてはセンサのコストダウンやコンパクト化が図られる。
【0043】
本発明のマルチガスセンサ200Aは、例えば、エンジン装置本体の付帯装置として設けられている触媒の劣化検知、尿素SCRシステムでの尿素噴射量の最適化、触媒後流から排出されたガス成分(NOX、アンモニア)の正確な測定、に応用することができる。例えば、NOXセンサのみを装置のセンシングに用いた場合、触媒後流からアンモニアが排出された際に、(i)尿素過剰添加によるアンモニア排出、(ii)尿素過少添加によるNOX排出、(iii)SCR触媒劣化に伴うアンモニア排出のいずれかであるかを明確に区別することができなかったが、本発明のマルチガスセンサを用いれば、これらの判別が可能である。
【0044】
次に、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けることによる作用について説明する。本発明において、NOXセンサ部30Aは内部の測定室(第1測定室S1及びNOX測定室S2)に被測定ガスを導入して検出を行うのに対し、アンモニアセンサ部40Aは外部に露出している。このため、被測定ガスがNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとに拡散する速度が異なり、各センサ部で検出の応答性が異なるという問題がある。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)では、各センサ部の応答性が異なるために検出タイミングにズレが生じ(アンモニアセンサ部が速く応答し)、測定精度が低下する傾向にある。例えば、各センサ部への被測定ガスの拡散速度が異なると、NOXセンサ部30Aで被測定ガスを検出している間に、アンモニアセンサ部40Aでは新たな被測定ガス(NOXセンサ部で検出中の被測定ガスより時間的に後のガス)を次々に検出してしまい、各センサ部が同一状態の被測定ガスを測定することができなくなる。
そこで、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設け、被測定ガスのアンモニアセンサ部40Aへの拡散を遅らせ、NOXセンサ部30Aへの拡散速度に近くすることで、各センサ部の応答性の差を少なくし、測定精度を向上させることができる。
【0045】
各センサ部の応答性の差を少なくする観点から、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、NOXセンサ部30Aの90%応答時間と、アンモニアセンサ部40Aの90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下であることが好ましい。
各センサ部の応答性の差をさらに少なくする点で、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下であると、各センサ部で概ね同等の開始タイミングで検出が可能となり、測定精度がより一層向上する。
【0046】
一方、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けない場合、アンモニアセンサ部40Aへの被測定ガスの拡散速度が高くなり過ぎ、特に過渡的環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等が急減する環境)で測定精度が低下するおそれがある。
なお、アンモニアセンサ部40Aへの被測定ガスの拡散速度を低くして各センサ部の応答性の差を少なくする方法としては、拡散層44Aの空隙を減じたり、拡散層44Aの厚みを厚くして、透気抵抗を高めることが挙げられる。
【0047】
図10、図12は、それぞれ実施例(拡散層あり)、比較例(拡散層なし)の場合のNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aの出力を示す。図12に示すようにアンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けないと、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとで90%応答時間が大幅に異なるが、拡散層44Aを設けることで、図10に示すように各センサ部の90%応答時間を同等にすることができる。
【0048】
本発明のマルチガスセンサ200Aは、公知のNOXセンサやアンモニアセンサと同様にして製造することができる。例えば、公知のNOXセンサと同様にして、NOXセンサ部の固体電解質層をグリーンシートから形成し、各電極、リードや絶縁層をペースト印刷することにより、NOXセンサ部の未焼結体を形成する。次に、NOXセンサ部の未焼結体表面の所定位置に、アンモニアセンサ部の未焼結体を形成する。アンモニアセンサ部の未焼結体は、このセンサ部を構成する電極、リード、感応部、固体電解質層、拡散層等をペースト印刷することにより形成することができる。
そして、アンモニアセンサ部の未焼結体が表面に形成されたNOXセンサ部の未焼結体を、全体として所定温度で焼成することにより、マルチガスセンサのセンサ素子部を製造し、これをハウジングに組み付けてマルチガスセンサが得られる。
【0049】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bについて、図5を参照して説明する。なお、第2の実施形態において、マルチガスセンサ200Bに接続されるガスセンサ制御装置(コントロ−ラ)の構成、及びガスセンサの制御処理については第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。又、第2の実施形態のマルチガスセンサ200Bにおいて、第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aと同一部分については同一の符号を付して説明を省略する。
図5は、第2の実施形態のマルチガスセンサ200Bのうち、マルチガスセンサ素子部100Bの長手方向に沿う断面を表示している。
【0050】
図5において、アンモニアセンサ部42は絶縁層23e上には形成されず、絶縁層23e上には固体電解質層25が形成され、固体電解質層25上には絶縁層23fが形成され、絶縁層23fがNOXセンサ部30Bの表面をなしている。但し、絶縁層23fの一部は矩形状に切り抜かれて固体電解質層25が表出し、この表出部分の上にアンモニアセンサ部42が形成されている。より詳しくは、アンモニアセンサ部42は、固体電解質層25上に形成された一対の電極42aと、一対の電極42aを覆う選択反応層42bとを含み、一対の電極42a間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するようになっている。
又、多孔質からなる拡散層44Bが選択反応層42bを完全に覆うように形成され、外部からアンモニアセンサ部42に流入する被測定ガスの拡散速度を調整可能になっている。
【0051】
図6は、アンモニアセンサ部42の構成を示す展開図である。固体電解質層25上に一対の電極42a1、42a2(これらをまとめて一対の電極42aとする)が配置され、各電極42a1、42a2から固体電解質層25の長手方向に沿ってそれぞれリード42ax、42ayが延び、リード42ax、42ay上下に絶縁層23f(図示せず)が被覆されている。但し、リード42ax、42ayの右端はこの絶縁層で被覆されずに露出し、それぞれ所定の電極端子部を形成している。
電極42a1、42a2は固体電解質層25の短手方向に沿って離間して並び、電極42a1は金を主成分とする材料で構成されて検知電極として作用し、電極42a2は白金を主成分とする材料で構成されて基準電極として作用する。基準電極42a2に比べ、検知電極42a1の方がアンモニアとの反応性が高いため、検知電極42a1と基準電極42a2との間で起電力が生じる。
また、固体電解質層25は例えばZrO2等の酸素イオン伝導性材料で構成され、リード42ax、42ayは、例えば白金を主成分とする材料で構成されている。
【0052】
選択反応層42bは、被測定ガス中のアンモニア以外の可燃性ガス成分を燃焼させる役割を持ち、選択反応層42bが存在すると、可燃性ガス成分の影響を受けずに被測定ガス中のアンモニアを検出することができる。選択反応層42bは通常、金属酸化物を主成分とするが、特に酸化バナジウム(V2O5)及び酸化ビスマス(Bi2O3)を所定比で含む材料(例えば、酸化ビスマスバナジウム:BiVO4)から形成することが好ましい。
なお、選択反応層42bが検知電極42a1のみを覆っていても、上記した効果を発揮することができる。
拡散層44Bとしては、例えばアルミナ、スピネル(MgAl2O4)、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種が例示される。
【0053】
なお、この実施形態において、NOXセンサ部30Aの制御温度を600℃としたとき、アンモニアセンサ部40の温度も同等となるよう、NOXセンサ部30A上でアンモニアセンサ部40の位置が決められている。すなわち、この実施形態では、センサ100Aの長手方向に沿って、ヒータ21の中点近傍(発熱中心)にアンモニアセンサ部40が配置されている。ヒータ21の中点近傍(発熱中心)が制御温度に近く最も温度が高い領域であり、アンモニアセンサ部40の温度も上記制御温度(600℃)に近くなるからである。
【0054】
第2の実施形態においても、アンモニアセンサ部に拡散層を設けることによって上記第1の実施形態と同様な作用を奏する。
【0055】
さらに、第2の実施形態におけるガスセンサ制御装置は、図2記載のガスセンサ制御装置300中のアンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58の代わりに、電極42a間に生じる起電力検出回路に置き換えられ、また、マイクロコンピュータ60に記憶されたインピーダンスに基づくアンモニア濃度換算値の代わりに、起電力に基づくアンモニア濃度換算値に置き換えられ、それぞれ制御される。それ以外の制御機能については、第1の実施形態と同様である。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、NOXセンサ部30Aを構成する固体電解質層を3層としたが、固体電解質層を2層としてもよい。固体電解質層が2層であるNOXセンサ部の素子構造は、例えば特開2004−354400号公報(図3)に記載されている。
この場合、第2測定室S2は、図2における固体電解質層2a、6aの間に画成され、第1測定室S1及び第2測定室S2は拡散律速部8bで区画される。そして、内側第2ポンプ電極4bは固体電解質層6の上面に配置される。又、固体電解質層6の下面は外部に露出し、この露出面に第2ポンプ対電極4cが配置される。
【実施例】
【0057】
(1)センサの作製
実施例1:上記第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aを作製した。このマルチガスセンサ200Aは、アンモニアセンサ部40がインピーダンス式(固体酸式)である。アンモニアセンサ部40の感応部40bに含まれる固体酸を10wt%-WO3/90wt%-YSZとし、YSZがイットリウムを4wt%含むものとした。又、感応部40bを覆う拡散層44Aとしてスピネル(MgAl2O4)の多孔質層を形成した。
実施例2:上記第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bを作製した。このマルチガスセンサ200Bは、アンモニアセンサ部42が起電力式である。アンモニアセンサ部42の一対の電極42aは、それぞれ金を含む検知電極42a1、白金を主成分とする基準電極42a2を用い、選択反応層42bは、BiVO4とした。又、一対の電極42a及び選択反応層42bを覆う拡散層44Bとしてスピネル(MgAl2O4)の多孔質層を形成した。
比較例1:上記第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aにおいて、アンモニアセンサ部40に拡散層44Aを設けなかった。
比較例2:上記第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bにおいて、アンモニアセンサ部42に拡散層44Bを設けなかった。
【0058】
(2)センサの特性評価A(実施例1、実施例2のセンサによる、アンモニア濃度及びNOX濃度の検出と、各濃度の計算)
モデルガス発生装置を使用し、センサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のベースガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=balとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置した。ガス温度を280℃とした。
NOXセンサ部のヒータ制御温度を600℃とした。この時、アンモニアセンサ部の一対の電極の中心部を測温したところ、実施例1、比較例1は約400℃、実施例2、比較例2は約650℃であった。
上記モデルガス発生装置のガス流中に、実施例1、実施例2のマルチガスセンサを配置し、ガス流中の成分を順に、(i)上記ベースガス、(ii)上記ベースガスに100ppmのNH3を加えたもの、(iii)上記ベースガス、(iv)上記ベースガスに100ppmのNOを加えたもの、 (v)上記ベースガス、(vi)上記ベースガスに100ppmのNH3と100ppmのNOを加えたもの、に切り替えたパターンとし、その時の被測定ガス中のNOx、NH3濃度を測定した。
【0059】
図7、図8は実施例1、実施例2の各センサにおけるNOXセンサ部30A、30Bとアンモニアセンサ部40A、42の出力を示す。図7、図8において、200-400秒では100ppm のNH3を含むガスが検知され、600-800秒では100ppm のNOxを含むガスが検知され、1000-1200秒では100ppm のNH3と100ppm のNOxとを含むガスが検知されたことになる。
検知原理上、NOXセンサ部30A、30Bの場合、測定室内に流入したNH3がNOに変化するため、NOx、NH3が共に(両成分の合計濃度として)検出される。一方、アンモニアセンサ部40A、42は、NH3を選択的に検知する。従って、NOxのみを含む600-800秒での出力では、アンモニアセンサ部40A、42の出力は0であるが、200-400秒ではガスがNH3のみを含むにも関わらず、NOXセンサ部30A、30Bから出力が生じていることがわかる。
【0060】
図7の出力に基づき、図4のフローのステップS7によって被検ガス中のNOx、NH3それぞれの濃度を算出した結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1において、アンモニアセンサ部の出力をそのまま採用してアンモニア濃度を計算した。一方、NOXセンサ部30A、30Bにおいては、アンモニアが反応(NO:NH3=1:1)するため、NOx濃度とアンモニア濃度の合計濃度を検出することになる。従って、NOXセンサ部30A、30Bで検出されたNOX濃度(アンモニア濃度が重畳されている)から、アンモニアセンサ部40A、42で検出されたアンモニア濃度を差引くことでNOX濃度を計算した。
【0063】
(3)センサの特性評価B(拡散層の有無による各センサ部の応答性の評価)
上記モデルガス発生装置を使用し、上記ベースガスに50ppm のNH3を加えたガス流中に、実施例1及び比較例1のセンサを配置し、各センサ部の応答性(測定時間に対する出力)を評価した。ガス温度を280℃とし、センサの制御温度は特性評価Aと同様とした。
図9、図10は実施例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示すグラフであり、図9は全測定時間を表し、図10はアンモニアセンサ部40Aの検知開始時を基点(0秒)とした部分拡大図である。
同様に、図11、図12は比較例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示すグラフであり、図11は全測定時間を表し、図12はアンモニアセンサ部40Aの検知開始時を基点とした部分拡大図である。
表2は、それぞれ図10、図12から算出された各センサ部の90%応答時間を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、アンモニアセンサ部に拡散層を設けた実施例1の場合、各センサ部の90%応答時間の差が少なく、又、各センサ部の検知開始時の差が少なかった。
一方、アンモニアセンサ部に拡散層を設けなかった比較例1の場合、各センサ部の90%応答時間の差rが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても20%を超えた。又、比較例1の場合、各センサ部の検出開始時の時間差dが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても10%を超えた。つまり、各センサ部の検出タイミングにズレが生じ、NOXセンサ部が速く応答した。
なお、被測定ガス中のNOX、NH3がほぼ同時に検出することができれば、被測定ガス中のNOX排出抑制のための尿素噴射コントロール、SCR触媒劣化、スリップNH3等の検出精度が著しく高くなる。一方、自動車の各種運転制御やセンサ制御は一般的に数百msec程度毎であり、NOX検出とNH3検知の応答時間の誤差が20%を越えると、高精度な制御が困難となる。このようなことから、各センサ部の90%応答時間の差rが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても20%を超えると好ましくないとみなした。
【0066】
なお、各センサ部での検出精度を向上させ、測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)の変動による測定精度への影響を少なくする点から、上記した90%応答時間の差r、及び検出開始時の時間差dがそれぞれ0であることが最も好ましいが、現実的には困難であり、これらの差r及びdが1秒以内であれば、検出精度への影響が小さく、使用可能であるといえる。
【符号の説明】
【0067】
2a 第1固体電解質層
2b、2c 第1電極(内側第1ポンピング電極、外側第1ポンピング電極)
2 第1ポンピングセル
4a 第2固体電解質層
4b、4c 第2電極(内側第2ポンピング電極、第2ポンピング対電極)
4 第2ポンピングセル
25 (アンモニアセンサ部の)固体電解質層
30A,30B NOXセンサ部
40、42 アンモニアセンサ部
40a、42a 一対の電極
40b 感応部
42b 選択反応層
44A、44B 拡散層
100A、100B マルチガスセンサ素子部
200A マルチガスセンサ
300 ガスセンサ制御装置
S1 第1測定室
S2 NOX測定室
Ip2 第2ポンピング電流
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の窒素酸化物濃度及びアンモニア濃度を検出するに適したガスセンサ及びガスセンサ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガス中の特定ガスの濃度を測定するガスセンサとして、固体電解質体を用いつつ被測定ガス中のNOX濃度を検出するNOXセンサや、一対の電極間のインピーダンス変化又は起電力変化を利用して被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するアンモニアセンサが知られている。
又、被測定ガス中のNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定する技術として、被測定ガスをNH3強酸化触媒に接触させてアンモニアをNOXに変換して全NOX濃度を測定する工程と、被測定ガスをNH3弱酸化触媒に接触させてアンモニアの一部をNOXに変換してNOX濃度を測定する工程とを有し、これらの工程の2つの検出値からNOX濃度とアンモニア濃度を演算する技術が提案されている(特許文献1参照)。
さらに、1つのセンサ内にNOX極、参照極、選択極、アンモニア極を設けて複数セル(multicell)を構成し、ガス導入により生じたNOX極と参照極の間の起電力に応じて(NOXの存在状態に応じて)、アンモニア濃度算出方法を変更することで、正確なアンモニア濃度を計測するアンモニアセンサが提案されている(特許文献2参照)。具体的には、NOXの存在状態に応じ、アンモニア極−参照極間の起電力と、NOX極−アンモニア極間の起電力とのいずれかを検出に用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−133447号公報(要約)
【特許文献2】米国特許出願公開2007/80074号明細書(要約)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1記載の技術の場合、触媒能の違いにより測定を行うため、測定環境(温度、流速、圧力等)の変化によって触媒能が変化し、正確な測定ができないことがある。また、自動車の排ガス中のような苛酷な環境にこの装置を設置した場合、触媒能を長期にわたって安定的に維持することは困難である。
また、特許文献2記載の技術は、アンモニアを検知する電極を切り替えて測定を行うものであるが、測定環境が変動すると、当初設定した検知電極の切り替え条件(切り替えタイミングや、基準出力ポイントの設定等)を変更する必要があり、アンモニアの正確な測定がかえって困難になる可能性がある。さらに、検知電極の切り替えという複雑な制御が必要である。
【0005】
さらに、複数種のガス濃度を別個のセンサで測定すると、各センサ毎にガス濃度や温度分布等が異なることが測定に影響を与えることがある。
従って本発明は、1つのガスセンサでNOX濃度とアンモニア濃度を測定可能なマルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明のマルチガスセンサは、第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセルと、前記第1測定室に連通するNOX測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセルとを備えたNOXセンサ部と、少なくとも一対の電極を有し前記NOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部とを共に設けている。
このような構成とすると、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部とが1つのセンサ内に設けられ、各センサ部がほぼ同一の測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)下にあるため、測定環境が異なることによるガス検出精度の低下が抑制される。
つまり、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部とを1つのセンサに設けることにより、測定環境の影響を受けずにNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定することができ、NOX濃度とアンモニア濃度の検出精度が向上する。又、1つのセンサに被測定ガスが接触するため、NOXとアンモニアをほぼ同時に検出でき、両者の検出のタイムラグによる検出精度の低下が抑制される。
さらに、NOXセンサ部とアンモニアセンサ部を別個のセンサとした場合に比べ、センサのコストダウンやコンパクト化が図られる。
【0007】
また、前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、前記NOXセンサ部の90%応答時間と、前記アンモニアセンサ部の90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下であることが好ましい。
このような構成とすると、被測定ガスのアンモニアセンサ部への拡散を遅らせることができ、NOXセンサ部の外表面に位置するアンモニアセンサ部への被測定ガスの拡散速度と、センサ内部にNOX測定室を有するNOXセンサ部への被測定ガスの拡散速度とが同等となり、各センサ部で検出の応答性の差が少なくなるので、測定精度が向上する。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)においても、各センサ部の応答性が異なることに起因する検出タイミングのズレを少なくし、測定精度が低下することを抑制することができる。
【0008】
さらに、前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、前記NOXセンサ部の前記検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の前記検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下であることが好ましい。
このような構成とすると、被測定ガスのアンモニアセンサ部への拡散を遅らせることができ、NOXセンサ部の外表面に位置するアンモニアセンサ部への被測定ガスの拡散速度と、センサ内部にNOX測定室を有するNOXセンサ部への被測定ガスの拡散速度とが同等となり、各センサ部で検出の応答性の差が少なくなるので、測定精度が向上する。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)においても、各センサ部の応答性が異なることに起因する検出タイミングのズレを少なくし、測定精度が低下することを抑制することができる。
【0009】
また、前記拡散層は、アルミナ、スピネル、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種からなってもよい。
【0010】
さらに、前記アンモニアセンサ部は、前記一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出してもよい。
また、前記アンモニアセンサ部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面又は片面に積層された前記一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出してもよい。
【0011】
さらに、本発明のガスセンサ制御装置は、前記マルチガスセンサに接続され、前記アンモニアセンサ部から出力されたアンモニア濃度に基づき、前記NOXセンサ部から出力されたNOX濃度を補正する補正手段を有する。
このような構成とすると、アンモニアとNOXが共に存在する被測定ガスから、アンモニア濃度とNOX濃度とを精度よく測定することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、1つのガスセンサでNOX濃度とアンモニア濃度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサの長手方向に沿う断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ及びガスセンサ制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態におけるアンモニアセンサ部の構成を示す展開図である。
【図4】ガスセンサ制御装置(のマイクロコンピュータ)によるNOX濃度及びアンモニア濃度を検出する処理フローである。
【図5】第2の実施形態のマルチガスセンサのうち、マルチガスセンサ素子部の長手方向に沿う断面図である。
【図6】第2の実施形態におけるアンモニアセンサ部の構成を示す展開図である。
【図7】実施例1のセンサにおける、検出時間に対するNOXセンサ部とアンモニアセンサ部の出力を示す図である。
【図8】実施例2のセンサにおける、検出時間に対するNOXセンサ部とアンモニアセンサ部の出力を示す図である。
【図9】実施例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示す図である。
【図10】アンモニアセンサ部の検知開始時を基点(0秒)とした図9の部分拡大図である。
【図11】比較例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示す図である。
【図12】アンモニアセンサ部の検知開始時を基点(0秒)とした図11の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aの長手方向に沿う断面図を示す。マルチガスセンサ200Aは、アンモニア濃度及びNOX濃度を検出するマルチガスセンサ素子部100Aを組み付けたアッセンブリである。アンモニアセンサ200Aは、軸線方向に延びる板状のマルチガスセンサ素子部100Aと、排気管に固定されるためのねじ部139が外表面に形成された筒状の主体金具138と、マルチガスセンサ素子部100Aの径方向周囲を取り囲むように配置される筒状のセラミックスリーブ106と、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168の内壁面がマルチガスセンサ素子部100Aの後端部の周囲を取り囲む状態で配置される絶縁コンタクト部材166と、マルチガスセンサ素子部100Aと絶縁コンタクト部166との間に配置される複数個(図1では2つのみ図示)の接続端子110とを備えている。
【0015】
主体金具138は、軸線方向に貫通する貫通孔154を有し、貫通孔154の径方向内側に突出する棚部152を有する略筒状形状に構成されている。また、主体金具138は、マルチガスセンサ素子部100Aの先端側を貫通孔154の先端側外部に配置し、電極端子部80A、82Aを貫通孔154の後端側外部に配置する状態で、マルチガスセンサ素子部100Aを貫通孔154に保持している。さらに、棚部152は、軸線方向に垂直な平面に対して傾きを有する内向きのテーパ面として形成されている。
【0016】
なお、主体金具138の貫通孔154の内部には、マルチガスセンサ素子部100Aの径方向周囲を取り囲む状態で環状形状のセラミックホルダ151、粉末充填層153、156(以下、滑石リング153、156ともいう)、および上述のセラミックスリーブ106がこの順に先端側から後端側にかけて積層されている。また、セラミックスリーブ106と主体金具138の後端部140との間には、加締めパッキン157が配置されており、セラミックホルダ151と主体金具138の棚部152との間には、滑石リング153やセラミックホルダ151を保持し、気密性を維持するための金属ホルダ158が配置されている。なお、主体金具138の後端部140は、加締めパッキン157を介してセラミックスリーブ106を先端側に押し付けるように、加締められている。
【0017】
一方、図1に示すように、主体金具138の先端側(図1における下方)外周には、マルチガスセンサ素子部100Aの突出部分を覆うと共に、複数の孔部を有する金属製(例えば、ステンレスなど)二重の外部プロテクタ142および内部プロテクタ143が、溶接等によって取り付けられている。
【0018】
そして、主体金具138の後端側外周には、外筒144が固定されている。また、外筒144の後端側(図1における上方)の開口部には、マルチガスセンサ素子部100Aの電極端子部80A,82Aとそれぞれ電気的に接続される複数本のリード線146(図1では3本のみ)が挿通されるリード線挿通孔161が形成されたグロメット150が配置されている。なお、図では簡単のため、マルチガスセンサ素子部100Aの表面と裏面の電極端子部をそれぞれ符号80A,82Aで代表させたが、実際には、後述するNOXセンサ部30Aやアンモニア検知部40Aが有する電極等の数に応じて、複数の電極端子部が形成されている。
【0019】
また、主体金具138の後端部140より突出されたマルチガスセンサ素子部100Aの後端側(図1における上方)には、絶縁コンタクト部材166が配置される。なお、この絶縁コンタクト部材166は、マルチガスセンサ素子部100Aの後端側の表裏面に形成される電極端子部80A,82Aの周囲に配置される。この絶縁コンタクト部材166は、軸線方向に貫通するコンタクト挿通孔168を有する筒状形状に形成されると共に、外表面から径方向外側に突出する鍔部167が備えられている。絶縁コンタクト部材166は、鍔部167が保持部材169を介して外筒144に当接することで、外筒144の内部に配置される。そして、絶縁コンタクト部材166側の接続端子110と、マルチガスセンサ素子部100Aの電極端子部80A,82Aとが電気的に接続され、リード線146により外部と導通するようになっている。
【0020】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るマルチガスセンサ素子部100A、及びこれに接続されるガスセンサ制御装置(コントロ−ラ)300の構成を示すブロック図である。なお、図2では説明の便宜のため、マルチガスセンサ素子部100Aの長手方向に沿う断面のみを表示している。
マルチガスセンサ200A、及びガスセンサ制御装置300は図示しない内燃機関(以下、エンジンともいう)を備える車両に搭載され、ガスセンサ制御装置300は車両側制御装置(以下、適宜「ECU」という)400に電気的に接続されている。なお、マルチガスセンサ200Aから伸びるリード線146の端はコネクタに接続され、このコネクタをガスセンサ制御装置300側のコネクタに電気的に接続するようになっている。
ECU400は、ガスセンサ制御装置300で算出された排気ガス中のアンモニア濃度及びNOX濃度のデータを受信し、それに基づいてエンジンの運転状態の制御や触媒に蓄積されたNOXの浄化などの処理を実行する。
【0021】
次に、マルチガスセンサ素子部100Aの構成について説明する。マルチガスセンサ素子部100Aは、公知のNOXセンサと同様な構成を有するNOXセンサ部30Aと、公知のアンモニアセンサと同様な構成を有するアンモニアセンサ部40とを備え、詳しくは後述するようにアンモニアセンサ部40はNOXセンサ部30Aの外表面に形成されている。
【0022】
まず、NOXセンサ部30Aは、絶縁層23e、第1固体電解質層2a、絶縁層23d、第3固体電解質層6a、絶縁層23c、第2固体電解質層4a、及び絶縁層23b、23aをこの順に積層した構造を有する。第1固体電解質層2aと第3固体電解質層6aとの層間に第1測定室S1が画成され、第1測定室S1の左端(入口)に配置された第1拡散抵抗体8aを介して外部から被測定ガスが導入される。なお、第1拡散抵抗体8aの外側には多孔質からなる保護層9が配置されている。
第1測定室S1のうち入口と反対端には第2拡散抵抗体8bが配置され、第2拡散抵抗体8bを介して第1測定室S1の右側には、第1測定室S1と連通する第2測定室(本発明の「NOX測定室」に相当)S2が画成されている。第2測定室S2は、第3固体電解質層6aを貫通して第1固体電解質層2aと第2固体電解質層4aとの層間に形成されている。
【0023】
絶縁層23b、23aの間にはマルチガスセンサ素子部100の長手方向に沿って延びる長尺板状のヒータ21が埋設されている。ヒータ21はガスセンサを活性温度に昇温し、固体電解質層の酸素イオンの伝導性を高めて動作を安定化させるために用いられる。
各絶縁層23a、23b、23c、23d、23eはアルミナを主体とし、第1拡散抵抗体8a及び第2拡散抵抗体8bはアルミナ等の多孔質物質からなる。又、ヒータ21は白金等からなる。
【0024】
第1ポンピングセル2は、酸素イオン伝導性を有するジルコニアを主体とする第1固体電解質層2aと、これを挟持するように配置された内側第1ポンピング電極2b及び対極となる外側第1ポンピング電極2c(各電極が特許請求の範囲の「第1電極」に相当)とを備え、内側第1ポンピング電極2bは第1測定室S1に面している。内側第1ポンピング電極2b及び外側第1ポンピング電極2cはいずれも白金を主体とし、内側第1ポンピング電極2bの表面は多孔質体からなる保護層11で覆われている。
又、外側第1ポンピング電極2cの上面に相当する絶縁層23eはくり抜かれて多孔質体13が充填され、外側第1ポンピング電極2cと外部とを連通させてガス(酸素)の出入を可能としている。
【0025】
酸素濃度検出セル6は、ジルコニアを主体とする第3固体電解質層6aと、これを挟持するように配置された検知電極6b及び基準電極6cとを備え、検知電極6bは内側第1ポンピング電極2bより下流側で第1測定室S1に面している。検知電極6b及び基準電極6cはいずれも白金を主体としている。
なお、絶縁層23cは、第3固体電解質層6aに接する基準電極6cが内部に配置されるように切り抜かれ、その切り抜き部には多孔質体が充填されて基準酸素室15を形成している。そして、酸素濃度検出セル6にIcp供給回路54を用いて予め微弱な一定値の電流を流すことにより、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、酸素基準とする。
【0026】
第2ポンピングセル4は、ジルコニアを主体とする第2固体電解質層4aと、第2固体電解質層4aのうち第2測定室S2に面した表面に配置された内側第2ポンピング電極4b及び対極となる第2ポンピング対電極4c(各電極が特許請求の範囲の「第2電極」に相当)とを備えている。内側第2ポンピング電極4b及び第2ポンピング対電極4cはいずれも白金を主体としている。
なお、第2ポンピング対電極4cは、第2固体電解質層4a上における絶縁層23cの切り抜き部に配置され、基準電極6cに対向して基準酸素室15に面している。
【0027】
そして、内側第1ポンピング電極2b、検知電極6b、内側第2ポンピング電極4bはそれぞれ基準電位に接続され、ガスセンサ制御装置300が有する後述する制御回路59に接続されている。
【0028】
次にアンモニアセンサ部40は、NOXセンサ部30Aの外表面をなす絶縁層23e上に形成されている。より詳しくは、アンモニアセンサ部40は、絶縁層23e上に形成された櫛歯状の一対の電極40aと、一対の電極40aを覆う感応部40bとを含み、一対の電極40a間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するようになっている。
又、多孔質からなる拡散層44Aが感応部40bを完全に覆うように形成され、詳しくは後述するように、外部から感応部40bに流入する被測定ガスの拡散速度を調整可能になっている。
【0029】
図3は、アンモニアセンサ部40の構成を示す展開図である。絶縁層23e上に一対の櫛歯電極(一対の電極)40aが配置され、櫛歯電極40aから絶縁層23eの長手方向に沿ってそれぞれリード40ax、40ayが延び、リード40ax、40ay上に図示しない絶縁層が被覆されている。但し、リード40ax、40ayの右端はこの絶縁層で被覆されずに露出し、それぞれ所定の電極端子部を形成している。
櫛歯電極40aは、例えば金を主成分とし、それぞれ櫛状の2つの電極が離間して配置されている。また、リード40ax、40ayは、例えば白金を主成分とする材料で構成している。
【0030】
感応部40bはアンモニア濃度に応じてインピーダンス(Z)が変化する感ガス材料であり、固体酸物質を用いることができる。
櫛歯電極40a間に交流を印加することにより、櫛歯電極40a間に埋設された感応部40bのインピーダンス(Z)が変化するので、インピーダンス変化に基づいて排ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。
固体酸物質としては、特開2005−114355号公報(例えば段落0066)に記載された固体超強酸物質を用いるのが好ましい。固体酸物質として、例えばWO3/ZrO2、WO3/YSZ、SO4/ZrO2、WO3/TiO2、及びWO3/Al2O3の群から選ばれる1種以上を用いることができる。具体的には、10wt%-WO3/90wt%-YSZの組成であって、YSZがイットリウムを4wt%含むものが例示される。
感応部40bを覆う拡散層44Aとしては、例えばアルミナ、スピネル(MgAl2O4)、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種が例示される。そして、拡散層44Aの厚み、粒径、粒度分布、気孔率、配合比等を適宜調整することで、感応部40b、及び櫛歯電極40aに到達するガス拡散時間が任意に調整可能である。
【0031】
なお、この実施形態において、NOXセンサ部30Aの制御温度を600℃としたとき、アンモニアセンサ部40の温度が約400℃となるよう、NOXセンサ部30A上でアンモニアセンサ部40の位置が決められている。すなわち、この実施形態では、NOXセンサ部30Aより低温となるよう、センサ100Aの長手方向に沿って、内側第2ポンピング電極4bよりセンサの後端側にアンモニアセンサ部40が配置されている。アンモニアセンサ部40の温度が約400℃であれば、感応部40bを構成する固体酸物質のアンモニア検出能が高くなるからである。
より具体的には、NOXセンサ部30Aの内側第2ポンピング電極4bの中心部の温度を600℃とし、アンモニアセンサ部40の櫛歯電極40aの中心部の温度を400℃とする。
【0032】
次に、図2に戻り、ガスセンサ制御装置300の構成について説明する。ガスセンサ制御装置300は、回路基板上に(アナログ)制御回路59とマイクロコンピュータ60とを備えている。マイクロコンピュータ60はガスセンサ制御装置300全体を制御し、CPU(中央演算処理装置)61、RAM62、ROM63、信号入出力部64、A/Dコンバータ65、及び図示しないクロックを備え、ROM等に予め格納されたプログラムがCPUにより実行される。
制御回路59は、詳しくは後述する基準電圧比較回路51、Ip1ドライブ回路52、Vs検出回路53、Icp供給回路54、Ip2検出回路55、Vp2印加回路56、ヒータ駆動回路57、アンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58を備える。
制御回路59は、NOXセンサ部30Aを制御し、NOXセンサ部30Aに流れる第1ポンピング電流Ip1、第2ポンピング電流Ip2を検出してマイクロコンピュータ60に出力する。
又、制御回路59は、アンモニアセンサ部40を制御し、アンモニアセンサ部40の電極40a間に所定の交流電圧を印加(たとえば2V、400Hz)し、その際に流れる電流値からインピーダンスを検出し、インピーダンスを電圧に変換後、マイクロコンピュータ60に出力する。
【0033】
詳細には、NOXセンサ部30Aの外側第1ポンピング電極2cはIp1ドライブ回路52に接続され、基準電極6cはVs検出回路53及びIcp供給回路54に並列に接続されている。又、第2ポンピング対電極4cはIp2検出回路55及びVp2印加回路56に並列に接続されている。ヒータ回路57はヒータ21に接続されている。
又、アンモニアセンサ部40の一対の電極40aがそれぞれアンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58に接続されている。
【0034】
各回路51〜57は、以下のような機能を有する。
Ip1ドライブ回路52は、内側第1ポンピング電極2b及び外側第1ポンピング電極2cの間に第1ポンピング電流Ip1を供給しつつ、その際の第1ポンピング電流Ip1を検出する。
Vs検出回路53は、検知電極6b及び基準電極6cの間の電圧Vsを検出し、検出結果を基準電圧比較回路51に出力する。
基準電圧比較回路51は、基準電圧(例えば、425mV)とVs検出回路53の出力(電圧Vs)とを比較し、比較結果をIp1ドライブ回路52に出力する。そして、Ip1ドライブ回路52は、電圧Vsが上記基準電圧に等しくなるようにIp1電流の流れる向き及び大きさを制御し、第1測定室S1内の酸素濃度をNOXが分解しない程度の所定値に調整する。
Icp供給回路54は、検知電極6b及び基準電極6cの間に微弱な電流Icpを流し、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、基準電極6cを基準となる所定の酸素濃度に晒させる。
Vp2印加回路56は、内側第2ポンピング電極4b及び第2ポンピング対電極4cの間に、被測定ガス中のNOXガスが酸素とN2ガスに分解する程度の一定電圧Vp2(例えば、450mV)を印加し、NOXを窒素と酸素に分解する。
Ip2検出回路55は、NOXの分解により生じた酸素が第2測定室S2から第2固体電解質体4aを介して第2ポンピング対電極4c側に汲み出される際に、第2ポンピングセル4に流れる第2ポンピング電流Ip2を検出する。
【0035】
Ip1ドライブ回路52は、検出した第1ポンピング電流Ip1の値をA/Dコンバータ65に出力する。又、Ip2検出回路55は、検出した第2ポンピング電流Ip2の値をA/Dコンバータ65に出力する。
A/Dコンバータ65はこれらの値をデジタル変換し、信号入出力部64を介してCPU61に出力する。
【0036】
次に、制御回路59を用いた制御の一例について説明する。まず、エンジンが始動されて外部電源から電力の供給を受けると、ヒータ回路57を介してヒータ21が作動し、第1ポンピングセル2、酸素濃度検出セル6、第2ポンピングセル4を活性化温度まで加熱する。又、Icp供給回路54は、検知電極6b及び基準電極6cの間に微弱な電流Icpを流し、酸素を第1測定室S1から基準酸素室15内に送り込み、酸素基準とする。
又、ヒータ21によってNOXセンサ部30Aが適温まで加熱されると、それに伴ってNOXセンサ部30A上のアンモニアセンサ部40も所望の温度に昇温される。
【0037】
そして、各セルが活性化温度まで加熱されると、第1ポンピングセル2は、第1測定室S1に流入した被測定ガス(排ガス)中の酸素を内側第1ポンピング電極2bから外側第1ポンピング電極2cへ向かって汲み出す。
このとき、第1測定室S1内の酸素濃度は、酸素濃度検出セル6の電極間電圧(端子間電圧)Vsに対応したものとなるため、この電極間電圧Vsが上記基準電圧になるように、Ip1ドライブ回路52が第1ポンピングセル2に流れる第1ポンピング電流Ip1を制御し、第1測定室S1内の酸素濃度をNOXが分解しない程度に調整する。
【0038】
酸素濃度が調整された被測定ガスは第2測定室S2に向かってさらに流れる。そして、Vp2印加回路56は、第2ポンピングセル4の電極間電圧(端子間電圧)として、被測定ガス中のNOXガスが酸素とN2ガスに分解する程度の一定電圧Vp2(酸素濃度検出セル6の制御電圧の値より高い電圧、例えば450mV)を印加し、NOXを窒素と酸素に分解する。そして、NOXの分解により生じた酸素が第2測定室S2から汲み出されるよう、第2ポンピングセル4に第2ポンピング電流Ip2が流れる。この際、第2ポンピング電流Ip2とNOX濃度の間には直線関係があるため、Ip2検出回路55が第2ポンピング電流Ip2を検出することにより、被測定ガス中のNOX濃度を検出することができる。
【0039】
又、アンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58が一対の電極40aのインピーダンスを検出することにより、被測定ガス中のアンモニア濃度を検出することができる。なお、電極40a間のインピーダンス(ベースインピーダンス値と、アンモニア存在時のインピーダンス値との変化率(感度)を用いることも可能)に基づくアンモニア濃度換算値をマイコン60に記憶させておくことで、NH3濃度を算出する。
【0040】
図4は、ガスセンサ制御装置300のマイクロコンピュータ60(CPU61)によるNOX濃度及びアンモニア濃度を検出する処理フローである。
まず、マイクロコンピュータ60は、ヒータ回路57を動作させ、ヒータ21によりセンサが活性化温度になったか否かを判定する(ステップS1)。通常、第2ポンピングセル4の第2固体電解質層4aの電気抵抗をモニタすることで、この判定を行う。次に、マイクロコンピュータ60は、上記した一対の電極40a間の電圧に基づき、アンモニア濃度を検出する(ステップS3)。次に、マイクロコンピュータ60は、上記した第2ポンピング電流Ip2に基づき、NOx濃度を検出する(ステップS5)。
【0041】
ここで、NOXセンサ部30Aにおいては、アンモニアも反応(NO:NH3=1:1)するため、NOX濃度とアンモニア濃度の合計濃度を検出することになる。アンモニアセンサ部40Aにおいてはアンモニアのみが選択的に検出される。このため、マイクロコンピュータ60は、NOXセンサ部30Aで検出されたNOX濃度(アンモニア濃度が重畳されている)から、アンモニアセンサ部40Aで検出されたアンモニア濃度を差引くことでNOXとアンモニアそれぞれのガス濃度を計算する(ステップS7)。
なお、マイクロコンピュータ60はステップS7の補正処理(計算処理)を行う点で、請求項の「補正手段」に相当する。
次に、マイクロコンピュータ60は、ステップS7で計算したガス濃度をECU400に出力し(ステップS9)、処理の終了を指示される(ステップS11)まで、ステップS3〜S9を繰り返す。
図7、図8は実施例におけるNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aの出力を示す。NOXガスのみを導入した600-800秒での出力では、アンモニアセンサ部40Aの出力は0であるが、200-400秒ではアンモニアガスのみを導入したにも関わらず、NOXセンサ部30Aから出力が生じていることがわかる。
【0042】
以上のように、本発明においては、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとが1つのマルチガスセンサ200A内に設けられ、各センサ部がほぼ同一の測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)下にあるため、測定環境が異なることによるガス検出精度の低下が抑制される。
つまり、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとを1つのマルチガスセンサ200Aに設けることにより、測定環境の影響を受けずにNOX濃度とアンモニア濃度を同時に測定することができ、NOX濃度とアンモニア濃度の検出精度が向上する。又、1つのマルチガスセンサ200Aに被測定ガスが接触するため、NOXとアンモニアをほぼ同時に検出でき、両者の検出のタイムラグによる検出精度の低下が抑制される。
さらに、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aを別個のセンサとした場合に比べ、本発明においてはセンサのコストダウンやコンパクト化が図られる。
【0043】
本発明のマルチガスセンサ200Aは、例えば、エンジン装置本体の付帯装置として設けられている触媒の劣化検知、尿素SCRシステムでの尿素噴射量の最適化、触媒後流から排出されたガス成分(NOX、アンモニア)の正確な測定、に応用することができる。例えば、NOXセンサのみを装置のセンシングに用いた場合、触媒後流からアンモニアが排出された際に、(i)尿素過剰添加によるアンモニア排出、(ii)尿素過少添加によるNOX排出、(iii)SCR触媒劣化に伴うアンモニア排出のいずれかであるかを明確に区別することができなかったが、本発明のマルチガスセンサを用いれば、これらの判別が可能である。
【0044】
次に、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けることによる作用について説明する。本発明において、NOXセンサ部30Aは内部の測定室(第1測定室S1及びNOX測定室S2)に被測定ガスを導入して検出を行うのに対し、アンモニアセンサ部40Aは外部に露出している。このため、被測定ガスがNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとに拡散する速度が異なり、各センサ部で検出の応答性が異なるという問題がある。
特に、被測定ガス中のNOX濃度やアンモニア濃度が急変するような環境(過渡的環境)では、各センサ部の応答性が異なるために検出タイミングにズレが生じ(アンモニアセンサ部が速く応答し)、測定精度が低下する傾向にある。例えば、各センサ部への被測定ガスの拡散速度が異なると、NOXセンサ部30Aで被測定ガスを検出している間に、アンモニアセンサ部40Aでは新たな被測定ガス(NOXセンサ部で検出中の被測定ガスより時間的に後のガス)を次々に検出してしまい、各センサ部が同一状態の被測定ガスを測定することができなくなる。
そこで、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設け、被測定ガスのアンモニアセンサ部40Aへの拡散を遅らせ、NOXセンサ部30Aへの拡散速度に近くすることで、各センサ部の応答性の差を少なくし、測定精度を向上させることができる。
【0045】
各センサ部の応答性の差を少なくする観点から、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、NOXセンサ部30Aの90%応答時間と、アンモニアセンサ部40Aの90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下であることが好ましい。
各センサ部の応答性の差をさらに少なくする点で、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、NOXセンサ部30Aの検出開始時と、アンモニアセンサ部40Aの検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下であると、各センサ部で概ね同等の開始タイミングで検出が可能となり、測定精度がより一層向上する。
【0046】
一方、アンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けない場合、アンモニアセンサ部40Aへの被測定ガスの拡散速度が高くなり過ぎ、特に過渡的環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等が急減する環境)で測定精度が低下するおそれがある。
なお、アンモニアセンサ部40Aへの被測定ガスの拡散速度を低くして各センサ部の応答性の差を少なくする方法としては、拡散層44Aの空隙を減じたり、拡散層44Aの厚みを厚くして、透気抵抗を高めることが挙げられる。
【0047】
図10、図12は、それぞれ実施例(拡散層あり)、比較例(拡散層なし)の場合のNOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aの出力を示す。図12に示すようにアンモニアセンサ部40Aに拡散層44Aを設けないと、NOXセンサ部30Aとアンモニアセンサ部40Aとで90%応答時間が大幅に異なるが、拡散層44Aを設けることで、図10に示すように各センサ部の90%応答時間を同等にすることができる。
【0048】
本発明のマルチガスセンサ200Aは、公知のNOXセンサやアンモニアセンサと同様にして製造することができる。例えば、公知のNOXセンサと同様にして、NOXセンサ部の固体電解質層をグリーンシートから形成し、各電極、リードや絶縁層をペースト印刷することにより、NOXセンサ部の未焼結体を形成する。次に、NOXセンサ部の未焼結体表面の所定位置に、アンモニアセンサ部の未焼結体を形成する。アンモニアセンサ部の未焼結体は、このセンサ部を構成する電極、リード、感応部、固体電解質層、拡散層等をペースト印刷することにより形成することができる。
そして、アンモニアセンサ部の未焼結体が表面に形成されたNOXセンサ部の未焼結体を、全体として所定温度で焼成することにより、マルチガスセンサのセンサ素子部を製造し、これをハウジングに組み付けてマルチガスセンサが得られる。
【0049】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bについて、図5を参照して説明する。なお、第2の実施形態において、マルチガスセンサ200Bに接続されるガスセンサ制御装置(コントロ−ラ)の構成、及びガスセンサの制御処理については第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。又、第2の実施形態のマルチガスセンサ200Bにおいて、第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aと同一部分については同一の符号を付して説明を省略する。
図5は、第2の実施形態のマルチガスセンサ200Bのうち、マルチガスセンサ素子部100Bの長手方向に沿う断面を表示している。
【0050】
図5において、アンモニアセンサ部42は絶縁層23e上には形成されず、絶縁層23e上には固体電解質層25が形成され、固体電解質層25上には絶縁層23fが形成され、絶縁層23fがNOXセンサ部30Bの表面をなしている。但し、絶縁層23fの一部は矩形状に切り抜かれて固体電解質層25が表出し、この表出部分の上にアンモニアセンサ部42が形成されている。より詳しくは、アンモニアセンサ部42は、固体電解質層25上に形成された一対の電極42aと、一対の電極42aを覆う選択反応層42bとを含み、一対の電極42a間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出するようになっている。
又、多孔質からなる拡散層44Bが選択反応層42bを完全に覆うように形成され、外部からアンモニアセンサ部42に流入する被測定ガスの拡散速度を調整可能になっている。
【0051】
図6は、アンモニアセンサ部42の構成を示す展開図である。固体電解質層25上に一対の電極42a1、42a2(これらをまとめて一対の電極42aとする)が配置され、各電極42a1、42a2から固体電解質層25の長手方向に沿ってそれぞれリード42ax、42ayが延び、リード42ax、42ay上下に絶縁層23f(図示せず)が被覆されている。但し、リード42ax、42ayの右端はこの絶縁層で被覆されずに露出し、それぞれ所定の電極端子部を形成している。
電極42a1、42a2は固体電解質層25の短手方向に沿って離間して並び、電極42a1は金を主成分とする材料で構成されて検知電極として作用し、電極42a2は白金を主成分とする材料で構成されて基準電極として作用する。基準電極42a2に比べ、検知電極42a1の方がアンモニアとの反応性が高いため、検知電極42a1と基準電極42a2との間で起電力が生じる。
また、固体電解質層25は例えばZrO2等の酸素イオン伝導性材料で構成され、リード42ax、42ayは、例えば白金を主成分とする材料で構成されている。
【0052】
選択反応層42bは、被測定ガス中のアンモニア以外の可燃性ガス成分を燃焼させる役割を持ち、選択反応層42bが存在すると、可燃性ガス成分の影響を受けずに被測定ガス中のアンモニアを検出することができる。選択反応層42bは通常、金属酸化物を主成分とするが、特に酸化バナジウム(V2O5)及び酸化ビスマス(Bi2O3)を所定比で含む材料(例えば、酸化ビスマスバナジウム:BiVO4)から形成することが好ましい。
なお、選択反応層42bが検知電極42a1のみを覆っていても、上記した効果を発揮することができる。
拡散層44Bとしては、例えばアルミナ、スピネル(MgAl2O4)、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種が例示される。
【0053】
なお、この実施形態において、NOXセンサ部30Aの制御温度を600℃としたとき、アンモニアセンサ部40の温度も同等となるよう、NOXセンサ部30A上でアンモニアセンサ部40の位置が決められている。すなわち、この実施形態では、センサ100Aの長手方向に沿って、ヒータ21の中点近傍(発熱中心)にアンモニアセンサ部40が配置されている。ヒータ21の中点近傍(発熱中心)が制御温度に近く最も温度が高い領域であり、アンモニアセンサ部40の温度も上記制御温度(600℃)に近くなるからである。
【0054】
第2の実施形態においても、アンモニアセンサ部に拡散層を設けることによって上記第1の実施形態と同様な作用を奏する。
【0055】
さらに、第2の実施形態におけるガスセンサ制御装置は、図2記載のガスセンサ制御装置300中のアンモニアセンサ部インピーダンス検出回路58の代わりに、電極42a間に生じる起電力検出回路に置き換えられ、また、マイクロコンピュータ60に記憶されたインピーダンスに基づくアンモニア濃度換算値の代わりに、起電力に基づくアンモニア濃度換算値に置き換えられ、それぞれ制御される。それ以外の制御機能については、第1の実施形態と同様である。
【0056】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。例えば、上記実施形態では、NOXセンサ部30Aを構成する固体電解質層を3層としたが、固体電解質層を2層としてもよい。固体電解質層が2層であるNOXセンサ部の素子構造は、例えば特開2004−354400号公報(図3)に記載されている。
この場合、第2測定室S2は、図2における固体電解質層2a、6aの間に画成され、第1測定室S1及び第2測定室S2は拡散律速部8bで区画される。そして、内側第2ポンプ電極4bは固体電解質層6の上面に配置される。又、固体電解質層6の下面は外部に露出し、この露出面に第2ポンプ対電極4cが配置される。
【実施例】
【0057】
(1)センサの作製
実施例1:上記第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aを作製した。このマルチガスセンサ200Aは、アンモニアセンサ部40がインピーダンス式(固体酸式)である。アンモニアセンサ部40の感応部40bに含まれる固体酸を10wt%-WO3/90wt%-YSZとし、YSZがイットリウムを4wt%含むものとした。又、感応部40bを覆う拡散層44Aとしてスピネル(MgAl2O4)の多孔質層を形成した。
実施例2:上記第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bを作製した。このマルチガスセンサ200Bは、アンモニアセンサ部42が起電力式である。アンモニアセンサ部42の一対の電極42aは、それぞれ金を含む検知電極42a1、白金を主成分とする基準電極42a2を用い、選択反応層42bは、BiVO4とした。又、一対の電極42a及び選択反応層42bを覆う拡散層44Bとしてスピネル(MgAl2O4)の多孔質層を形成した。
比較例1:上記第1の実施形態に係るマルチガスセンサ200Aにおいて、アンモニアセンサ部40に拡散層44Aを設けなかった。
比較例2:上記第2の実施形態に係るマルチガスセンサ200Bにおいて、アンモニアセンサ部42に拡散層44Bを設けなかった。
【0058】
(2)センサの特性評価A(実施例1、実施例2のセンサによる、アンモニア濃度及びNOX濃度の検出と、各濃度の計算)
モデルガス発生装置を使用し、センサ特性の評価を行った。モデルガス発生装置のベースガス組成は、O2=10% CO2=5% H2O=5% N2=balとした。そして、モデルガス発生装置のガス流中にセンサを配置した。ガス温度を280℃とした。
NOXセンサ部のヒータ制御温度を600℃とした。この時、アンモニアセンサ部の一対の電極の中心部を測温したところ、実施例1、比較例1は約400℃、実施例2、比較例2は約650℃であった。
上記モデルガス発生装置のガス流中に、実施例1、実施例2のマルチガスセンサを配置し、ガス流中の成分を順に、(i)上記ベースガス、(ii)上記ベースガスに100ppmのNH3を加えたもの、(iii)上記ベースガス、(iv)上記ベースガスに100ppmのNOを加えたもの、 (v)上記ベースガス、(vi)上記ベースガスに100ppmのNH3と100ppmのNOを加えたもの、に切り替えたパターンとし、その時の被測定ガス中のNOx、NH3濃度を測定した。
【0059】
図7、図8は実施例1、実施例2の各センサにおけるNOXセンサ部30A、30Bとアンモニアセンサ部40A、42の出力を示す。図7、図8において、200-400秒では100ppm のNH3を含むガスが検知され、600-800秒では100ppm のNOxを含むガスが検知され、1000-1200秒では100ppm のNH3と100ppm のNOxとを含むガスが検知されたことになる。
検知原理上、NOXセンサ部30A、30Bの場合、測定室内に流入したNH3がNOに変化するため、NOx、NH3が共に(両成分の合計濃度として)検出される。一方、アンモニアセンサ部40A、42は、NH3を選択的に検知する。従って、NOxのみを含む600-800秒での出力では、アンモニアセンサ部40A、42の出力は0であるが、200-400秒ではガスがNH3のみを含むにも関わらず、NOXセンサ部30A、30Bから出力が生じていることがわかる。
【0060】
図7の出力に基づき、図4のフローのステップS7によって被検ガス中のNOx、NH3それぞれの濃度を算出した結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
表1において、アンモニアセンサ部の出力をそのまま採用してアンモニア濃度を計算した。一方、NOXセンサ部30A、30Bにおいては、アンモニアが反応(NO:NH3=1:1)するため、NOx濃度とアンモニア濃度の合計濃度を検出することになる。従って、NOXセンサ部30A、30Bで検出されたNOX濃度(アンモニア濃度が重畳されている)から、アンモニアセンサ部40A、42で検出されたアンモニア濃度を差引くことでNOX濃度を計算した。
【0063】
(3)センサの特性評価B(拡散層の有無による各センサ部の応答性の評価)
上記モデルガス発生装置を使用し、上記ベースガスに50ppm のNH3を加えたガス流中に、実施例1及び比較例1のセンサを配置し、各センサ部の応答性(測定時間に対する出力)を評価した。ガス温度を280℃とし、センサの制御温度は特性評価Aと同様とした。
図9、図10は実施例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示すグラフであり、図9は全測定時間を表し、図10はアンモニアセンサ部40Aの検知開始時を基点(0秒)とした部分拡大図である。
同様に、図11、図12は比較例1のセンサの応答性(測定時間に対する出力)を示すグラフであり、図11は全測定時間を表し、図12はアンモニアセンサ部40Aの検知開始時を基点とした部分拡大図である。
表2は、それぞれ図10、図12から算出された各センサ部の90%応答時間を示す。
【0064】
【表2】
【0065】
表2から明らかなように、アンモニアセンサ部に拡散層を設けた実施例1の場合、各センサ部の90%応答時間の差が少なく、又、各センサ部の検知開始時の差が少なかった。
一方、アンモニアセンサ部に拡散層を設けなかった比較例1の場合、各センサ部の90%応答時間の差rが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても20%を超えた。又、比較例1の場合、各センサ部の検出開始時の時間差dが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても10%を超えた。つまり、各センサ部の検出タイミングにズレが生じ、NOXセンサ部が速く応答した。
なお、被測定ガス中のNOX、NH3がほぼ同時に検出することができれば、被測定ガス中のNOX排出抑制のための尿素噴射コントロール、SCR触媒劣化、スリップNH3等の検出精度が著しく高くなる。一方、自動車の各種運転制御やセンサ制御は一般的に数百msec程度毎であり、NOX検出とNH3検知の応答時間の誤差が20%を越えると、高精度な制御が困難となる。このようなことから、各センサ部の90%応答時間の差rが、いずれのセンサ部の90%応答時間(それぞれ、τの下付きで表示)に対しても20%を超えると好ましくないとみなした。
【0066】
なお、各センサ部での検出精度を向上させ、測定環境(被測定ガスの組成、濃度、温度、流速、圧力等)の変動による測定精度への影響を少なくする点から、上記した90%応答時間の差r、及び検出開始時の時間差dがそれぞれ0であることが最も好ましいが、現実的には困難であり、これらの差r及びdが1秒以内であれば、検出精度への影響が小さく、使用可能であるといえる。
【符号の説明】
【0067】
2a 第1固体電解質層
2b、2c 第1電極(内側第1ポンピング電極、外側第1ポンピング電極)
2 第1ポンピングセル
4a 第2固体電解質層
4b、4c 第2電極(内側第2ポンピング電極、第2ポンピング対電極)
4 第2ポンピングセル
25 (アンモニアセンサ部の)固体電解質層
30A,30B NOXセンサ部
40、42 アンモニアセンサ部
40a、42a 一対の電極
40b 感応部
42b 選択反応層
44A、44B 拡散層
100A、100B マルチガスセンサ素子部
200A マルチガスセンサ
300 ガスセンサ制御装置
S1 第1測定室
S2 NOX測定室
Ip2 第2ポンピング電流
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセルと、前記第1測定室に連通するNOX測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセルとを備えたNOxセンサ部と、
少なくとも一対の電極を有し前記NOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部と、
を共に設けたマルチガスセンサ。
【請求項2】
前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、
前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、
前記NOXセンサ部の90%応答時間と、前記アンモニアセンサ部の90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下である請求項1記載のマルチガスセンサ。
【請求項3】
前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、
前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、
前記NOXセンサ部の前記検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の前記検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下である請求項1又は2記載のマルチガスセンサ。
【請求項4】
前記拡散層は、アルミナ、スピネル、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項2又は3記載のマルチガスセンサ。
【請求項5】
前記アンモニアセンサ部は、前記一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1〜4のいずれか記載のマルチガスセンサ。
【請求項6】
前記アンモニアセンサ部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面又は片面に積層された前記一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1〜4のいずれか記載のマルチガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のマルチガスセンサに接続され、前記アンモニアセンサ部から出力されたアンモニア濃度に基づき、前記NOXセンサ部から出力されたNOX濃度を補正する補正手段を有するガスセンサ制御装置。
【請求項1】
第1測定室の内部と外部に位置すると共に、第1固体電解質層上に設けられた一対の第1電極を有し、前記第1測定室に導入される被測定ガス中の酸素の汲み出し又は汲み入れを行う第1ポンピングセルと、前記第1測定室に連通するNOX測定室の内部と外部に位置すると共に、第2固体電解質層上に設けられた一対の第2電極を有し、前記第1測定室から前記NOX測定室に流入した酸素濃度が調整された被測定ガス中のNOX濃度に応じた第2ポンピング電流が前記一対の第2電極間に流れる第2ポンピングセルとを備えたNOxセンサ部と、
少なくとも一対の電極を有し前記NOXセンサ部の外表面に形成されたアンモニアセンサ部と、
を共に設けたマルチガスセンサ。
【請求項2】
前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、
前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、
前記NOXセンサ部の90%応答時間と、前記アンモニアセンサ部の90%応答時間との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても20%以下である請求項1記載のマルチガスセンサ。
【請求項3】
前記アンモニアセンサ部には、前記一対の電極を覆う拡散層が形成され、
前記NOXセンサ部の検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の検出開始時との何れか早い検出開始時を起点としたとき、
前記NOXセンサ部の前記検出開始時と、前記アンモニアセンサ部の前記検出開始時との時間差が、いずれのセンサ部の90%応答時間に対しても10%以下である請求項1又は2記載のマルチガスセンサ。
【請求項4】
前記拡散層は、アルミナ、スピネル、シリカアルミナ、及びムライトの群から選ばれる少なくとも1種からなる請求項2又は3記載のマルチガスセンサ。
【請求項5】
前記アンモニアセンサ部は、前記一対の電極と、該一対の電極に接して設けられた感応部とを含み、前記一対の電極間のインピーダンス変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1〜4のいずれか記載のマルチガスセンサ。
【請求項6】
前記アンモニアセンサ部は、固体電解質層と、該固体電解質層の両面又は片面に積層された前記一対の電極とを含み、前記一対の電極間の起電力変化によって被測定ガス中のアンモニア濃度を検出する請求項1〜4のいずれか記載のマルチガスセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか記載のマルチガスセンサに接続され、前記アンモニアセンサ部から出力されたアンモニア濃度に基づき、前記NOXセンサ部から出力されたNOX濃度を補正する補正手段を有するガスセンサ制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−40959(P2013−40959A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−249602(P2012−249602)
【出願日】平成24年11月13日(2012.11.13)
【分割の表示】特願2008−203910(P2008−203910)の分割
【原出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月13日(2012.11.13)
【分割の表示】特願2008−203910(P2008−203910)の分割
【原出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]