説明

マルチキャリア信号処理装置

本発明にかかるマルチキャリア信号処理装置は、アナログ処理ブロック14(アナログ回路素子)の周波数特性を補償するよう設定されたフィルタ係数に基づいて、生成されたマルチキャリア信号に対して補正処理を施す。より好ましくは、アナログ回路素子の温度を測定する温度測定部248をさらに設け、FIRフィルタ120は、アナログ回路素子の温度に応じたフィルタ係数に基づいて補正処理を行う。これにより、アナログ回路素子の温度依存性の影響を緩和することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディジタル信号処理およびアナログ信号処理によりマルチキャリア通信方式の伝送信号を生成するマルチキャリア信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、複数の搬送波を用いてデータの伝送を行うマルチキャリア通信方式として、FDM(Frequency Division Multiplex)を併用したCDMA(Code Division Multiple Access)方式等がある。複数のキャリアを一括して送信するため、扱う周波数帯域幅が広がり、アナログRF系の周波数特性をその帯域内で平坦に保つことが困難になる。特許文献1及び特許文献2は、アナログ高周波回路の周波数特性を平坦化する送信機を開示する。
【特許文献1】特開2003−23361号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0228845号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上述した背景からなされたものであり、アナログ信号処理による周波数特性の影響を緩和するマルチキャリア信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
[マルチキャリア信号処理装置]
上記目的を達成するために、本発明にかかるマルチキャリア信号処理装置は、複数のサブキャリア成分を含むディジタル形式のマルチキャリア信号を生成するマルチキャリア信号生成手段と、前記生成されたマルチキャリア信号を、アナログ形式の伝送信号に変換するディジタル/アナログ変換手段と、前記変換された伝送信号に対して、アナログ信号処理を施すアナログ信号処理手段と、前記ディジタル形式のマルチキャリア信号に対して、前記アナログ信号処理手段の周波数特性に応じた補正を施す補正手段とを有する。
【0005】
好適には、前記アナログ信号処理手段は、温度に応じて周波数特性が変化するアナログ回路素子を含み、このアナログ回路素子またはアナログ回路素子の近傍の温度を計測する温度計測手段をさらに有し、前記補正手段は、前記計測された温度に応じて補正量を決定する。
【0006】
好適には、前記補正手段は、前記計測された温度に応じたフィルタ係数を設定する係数設定手段と、前記設定されたフィルタ係数に応じて、マルチキャリア信号を補正するディジタルフィルタとを含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明にかかるマルチキャリア信号処理装置によれば、アナログ信号処理による周波数特性の影響を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】背景を説明するために例示する第1の送信機1の構成を示す図である。
【図2】図1に示したディジタル処理ブロック10における信号の変化を例示する図である。
【図3】図1に示したアナログ処理ブロック14における信号の変化を例示する図である。
【図4】アナログ処理ブロック14の周波数特性が送信信号に与える影響を模式的に説明する図である。
【図5】本発明にかかる第2の送信機2の構成を示す図である。
【図6】図5に示したディジタルフィルタ部120の構成を例示する図である。
【図7】乗算部124(図6)の係数を設定する際に目標となるFIRフィルタ120(図6)のインパルス応答を例示する図である。
【図8】図7に例示したインパルス応答が得られるようFIRフィルタ120の係数を設定した場合の周波数特性を模式的に示した図であって、(A)は、FIRフィルタ120の周波数特性を示し、(B)は、アナログ処理ブロック14の周波数特性を示し、(C)は、送信機2全体の周波数特性を示す。
【図9】本発明にかかる第3の送信機3の構成を示す図である。
【図10】図9に示した係数記録部224が記録する係数テーブルを例示する図である。
【図11】本発明にかかる第5の送信機5の構成を示す図である。
【図12】本発明にかかる第4の送信機4の構成を示す図である。
【図13】本発明にかかる第6の送信機6の構成を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
[本発明の背景]
本発明の理解を助けるために、まず、本発明がなされるに至った背景を説明する。
図1は、本発明の背景の説明のために例示する第1の送信機1の構成を示す図である。マルチキャリア送信は、FDM方式が適用可能であるほとんど全ての通信方式(例えば、PDC、W−CDMA、IS−95(cdma_one)、PHSなど)で行われるものである。なお、W−CDMAでは、4キャリアで20MHzの帯域幅を実現しているが、例えば、1キャリアで20MHzの帯域幅を有する将来の通信方式にも本発明は適用可能である。
本実施形態においては、FDMを併用したCDMA方式の送信機に適用した場合を具体例として以下の説明を行う。
図1に示すように、第1の送信機1は、ディジタル信号処理を行うディジタル処理ブロック10と、ディジタル/アナログ変換回路(D/A)13と、アナログ信号処理を行うアナログ処理ブロック14とから構成される。
ディジタル処理ブロック10は、n個(nは2以上の整数)の帯域制限フィルタ102−1〜102−n、n個の直交変調部104−1〜104−n、及び変調波合成部106から構成され、複数のサブキャリア成分を含むディジタル形式のマルチキャリア信号を生成する。
このディジタル処理ブロック10の各構成要素は、例えば、カスタムLSIなどによって、ハードウェア的に実現されうる。あるいは、例えば、ディジタル処理ブロック10の各構成部分は、ソフトウェア的に実現されうる。ディジタル処理ブロック10がソフトウェア的に実現される場合には、例えば、ディジタル処理ブロック10を実行するハードウェアとして、DSP回路が用いられる。
【0010】
D/A変換器13は、ディジタル処理ブロック10により生成されたディジタル形式のマルチキャリア信号(伝送データ)をアナログ形式に変換する。
アナログ処理ブロック14は、局部発信回路142、アップコンバート部144、アナログフィルタ145及び電力増幅部146から構成され、アナログ形式のマルチキャリア信号に対して搬送波帯域へのアップコンバート処理及び電力増幅処理などのアナログ信号処理を施して、マルチキャリア信号を伝送に適した伝送信号に変換する。
このアナログ処理ブロック14は、抵抗、コンデンサ又はコイル等の受動素子と、ダイオード、トランジスタまたはIC等の能動素子とから構成されており、周波数依存特性を有する。
なお、以下、帯域制限フィルタ102−1〜102−nなど、複数ある構成部分のいずれかを特定せずに示す場合には、単に帯域制限フィルタ102などと略記することがある。
【0011】
次に、図2及び図3を参照して、送信機1の動作を説明する。
図2は、ディジタル処理ブロック10における信号の変化を例示し、図3は、アナログ処理ブロック14における信号の変化を例示する図である。
帯域制限フィルタ102−1〜102−nは、ビット列で示される情報データ(ベースバンドシグナル#1〜ベースバンドシグナル#n)が入力されると、図2(A)に例示するように、0Hz近傍で希望帯域に制限し、直交変調部104−1〜104−nに対して出力する。
なお、サンプリングクロック周波数がfs1である場合、図2(A)の斜線部分で示すように、f1の整数倍の位置に折り返し信号が発生する。
【0012】
直交変調部104−1〜104−nは、帯域制限フィルタ102−1〜102−nから入力された信号を、変調周波数f〜fを用いて変調し、変調波合成部106に対して出力する。
例えば、直交変調部104−1は変調周波数fを用いて変調するため、図2(B)に例示するように、信号の中心周波数は変調周波数fに移動する。
【0013】
変調波合成部106は、直交変調部104−1〜104−nから入力された信号を一括合成して、D/A変換器13に対して出力する。
変調波合成部106から出力される信号は、図2(C)に例示するように、変調周波数f〜fをそれぞれ中心周波数とした信号の合成信号である。D/A変換器13は、変調波合成部106から入力された合成信号(ディジタル形式)をアナログ形式の信号に変換し、アップコンバート部144に対して出力する。
【0014】
アップコンバート部144は、D/A変換器13から入力されたアナログ形式の信号を搬送周波数帯まで上げ、アナログフィルタ145に対して出力する。
アップコンバート部144に設定された搬送周波数帯がfcの場合には、図2(C)に例示した信号(中心周波数f〜fの合成信号)は、図3(A)に例示するように、中心周波数f+f,f+f,f+f及びf+fの合成信号に変換される。
【0015】
アナログフィルタ145は、アップコンバート部144から入力された信号から折り返し信号(図3(A)の斜線部分)を取り除き、電力増幅部146に対して出力する。
アナログフィルタ145が、例えば、図3(B)に例示するような周波数特性を有するバンドパスフィルタである場合には、アナログフィルタ145に入力された信号(図3(A))は、図3(C)に例示するように、不要な折り返し信号が削除されて電力増幅部146に対して出力される。
【0016】
電力増幅部146は、アナログフィルタ145から入力された信号を希望電力まで増幅し、アンテナ148に出力する。アンテナ148に入力された信号は、空間を介して、受信対象システム(不図示)に送信される。なお、電力増幅部146により増幅された信号は、ケーブルを介して受信対象システムに送信されてもよい。
【0017】
以上説明したように、送信機1は、ディジタル処理ブロック10及びアナログ処理ブロック14を用いて信号処理を行う。
このアナログ処理ブロック14は、抵抗、コンデンサ及びコイル等の受動素子と、ダイオード、トランジスタ及びIC等の能動素子とで構成されているため、周波数特性及び温度特性を有し、希望周波数帯域内で信号を減衰させるという問題がある。
【0018】
図4は、アナログ処理ブロック14の周波数特性が送信信号に与える影響を模式的に説明する図である。
図4(A)は、ディジタル処理ブロック10から出力されるマルチキャリア信号を例示し、図4(B)は、アナログ処理ブロック14の周波数特性を例示し、図4(C)は、アナログ処理ブロック14から出力される信号を例示する図である。
図4(A)に示すように、ディジタル処理ブロック10によりほぼ理想的なマルチキャリア信号が生成される。しかしながら、アナログ処理ブロック14の周波数特性は、マルチキャリア信号の搬送波の帯域内で不均一となる。
そのため、ディジタル信号処理により、図4(A)に示すような理想的なマルチキャリア信号が生成されたとしても、その後にアナログ処理ブロック14により処理されると、図4(C)に示すように波形の歪んだ信号に変換されてしまう。
【0019】
このような問題に対して、アナログ処理ブロック14に調整部を設けて、技術者がアナログ処理ブロック14の周波数特性を調整することも可能であるが、アナログ処理ブロック14の調整は、工数がかかりコストの上昇につながる。
また、アナログ処理ブロック14を調整するとしても、できるだけ周波数特性のよいアナログ部品を選択する必要があり、コストが上昇することとなる。
このような状況において、以下に示す本発明にかかる送信機2等によれば、コストを抑えつつ、アナログ処理ブロック14の周波数特性により生じる不具合を有効に解消することができる。
【0020】
[第1の実施形態]
図5は、本発明にかかる第2の送信機2の構成を示す図である。
図5に示すように、第2の送信機2は、図1に示した第1の送信機1に、ディジタルフィルタ部120を追加した構成をとる。
なお、図5に示す送信機2の構成部分の内、図1に示した送信機1の構成部分と実質的に同じものには、同じ符号が付されている。
【0021】
図6は、図5に示したディジタルフィルタ部120の構成を例示する図である。
図6に例示するように、本例のディジタルフィルタ部120は、1つのFIR(Finite Impulse Response)フィルタであり、遅延部122−1〜122−m、乗算部124−1〜124−m、及び、加算部126から構成される。
以下、FIRフィルタ120をディジタルフィルタ部120の具体例として説明する。
遅延部122−1〜122−mは、例えば記憶素子であり、それぞれ変調波合成部106(図5)から入力される信号に対して遅延を与え、乗算部124−1〜124−mに対して出力する。
乗算部124−1〜124−mは、それぞれ遅延部122−1〜122−mから入力された信号に対して、係数a〜aそれぞれを乗算し、加算部126に対して出力する。
なお、係数a〜aは、全キャリアの周波数帯域においてアナログ信号処理による周波数特性の影響を補償するよう設定される。
加算部126は、乗算部124−1〜124−mから入力された信号を加算し、D/A変換器13に対して出力する。
このように、FIRフィルタ120は、変調波合成部106(図5)から入力された信号に対して、アナログ信号処理(アナログ処理ブロック14)の周波数特性を補償するフィルタ処理を施し、D/A変換器13に対して出力する。
【0022】
[フィルタ係数の設定]
次に、上記FIRフィルタ120(図6)の係数a〜aの設定方法について説明する。
FIRフィルタ120において、乗算部124(図6)により乗算される係数a〜aは、アナログ信号処理による信号レベルの減衰量を相殺するように設定される。
図7は、乗算部124(図6)の係数を設定する際に目標となるFIRフィルタ120(図6)のインパルス応答を例示する図である。
また、図8は、図7に例示したインパルス応答が得られるようFIRフィルタ120の係数を設定した場合の周波数特性を模式的に示した図であって、(A)は、FIRフィルタ120の周波数特性を示し、(B)は、アナログ処理ブロック14の周波数特性を示し、(C)は、送信機2全体の周波数特性を示す。
乗算部124により乗算される係数a〜aは、FIRフィルタ120が図7に例示するインパルス応答を示すように設定されることが望ましい。
具体的には、図8(B)に例示するようにアナログ処理ブロック14の周波数特性が搬送周波数帯の中心部で低くなっている場合に、図8(A)に例示するようにFIRフィルタ120の周波数特性が伝送帯域の中心部で高くなるように、係数a〜aが設定される。
このように、周波数特性を有するアナログ処理ブロック14と、この周波数特性を相殺するFIRフィルタ120とを組み合わせることにより、図8(C)に例示するように、送信機2の周波数特性が略均一になる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態における送信機2は、アナログ信号処理における信号の減衰量を補償するようにディジタル形式の信号(マルチキャリア信号)を補正するので、良好な伝送信号を生成することができる。
特に、本実施形態における送信機2は、FIRフィルタ120の係数を調整してアナログ信号処理の周波数特性を補償するので、アナログ部分の調整およびアナログ部品の高精度化が不要となり、コストを抑えることが可能となる。
【0024】
[第2の実施形態]
本実施例では第1の実施形態の送信機2の細部を説明する。
帯域制限フィルタ102は、複素数(I,Q)のベースバンドシグナルを入力し、I、Q成分に対して個別にルートロールオフ特性のフィルタリングを施して出力するFIRフィルタであり、サンプリング周波数を例えばn倍に上げるための補間処理及びイメージリダクションを実施するものとする。
【0025】
直交変調部104は、帯域制限フィルタ102から入力された複素ベースバンドシグナルに対し、cos(2πf),sin(2πf),(i=1..n)で示されるローカル信号を複素乗算した結果を、I成分、Q成分として出力する。つまり、直交変調部104の各出力は、n個の中間周波数fが各ベースバンド信号で変調されたものとなる。
変調波合成部106は、直交変調部104の各出力をI、Q成分に対して個別に加算して出力する。
変調波合成部106は、アップコンバート部144でミキシングのみを実施する構成(以下ミキシング方式)の場合には、I成分あるいはQ成分を出力し、アップコンバート部144で、アナログ直交変調(以下アナログ直交変調方式)する構成の場合には、I成分、Q成分両方を出力する。
【0026】
ディジタルフィルタ部120は、ミキシング方式の場合には、1つ設けられ、アナログ直交変調方式の場合には、同一の構成のディジタルフィルタ120がI、Qそれぞれに設けられる。この場合、I,Qそれぞれのフィルタ係数は通常同一であるが、異ならせることにより、後段のアナログ直交変調器の直交度、位相、或いは遅延差の周波数特性などを高度に補償することができる。
【0027】
D/A変換器13は、ディジタルフィルタ部120の出力を、ミキシング方式の場合には、片側成分に対して、アナログ直交変調方式の場合には、I、Q成分に対して、個別にD/A変換する。変換レートは、例えば122.88MHzである。
D/A変換器13の出力は、図示しないアナログLPFによって66.44MHz以上のイメージ周波数成分が除去されている。
【0028】
アップコンバート部144は、D/A変換器13から入力された複素中間周波信号に対し、ミキシング方式の場合には、その出力にcos(2πf)を乗算して出力し、アナログ直交変調方式の場合には、そのI成分にcos(2πf),Q成分にsin(2πf)を乗算し、その2つの乗算結果を加算して出力する。つまり、アップコンバート部144は、入力信号をミキシングあるいはアナログ直交変調し、例えば1.95GHzの送信周波数帯に周波数変換する。本実施例のようにI、Q成分を個別にD/A変換し、アナログ直交変調する方式では、高いC/N(Carrier−to−Noise Ratio)が得られる。
【0029】
アナログフィルタ145は、相互変調歪などの原因となる送信帯域外の不要な周波数成分を除去する。W−CDMAであれば各キャリアが約5MHzの帯域幅を有するので、そのキャリアの数倍の帯域幅が送信帯域となり、例えば4キャリアならば20MHzである。アナログフィルタ145は、この送信帯域を通過させ、不要な周波数成分を遮断するような通過帯域幅を持ったBPFである。
帯域外の不要な周波数成分として代表的なものに、周波数fcの局部発信信号がアップコンバート部144からその出力に漏れたもの(ローカルリーク)がある。本実施例のように中間周波数がベースバンド周波数と極めて近接している場合、ローカルリークは送信帯域の近傍に現れるので、ローカルリークを除去するためにSAW(Surface Acoustic Wave)あるいはBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタのような急峻な特性を持つBPFを使用する。
一般に急峻な特性を持つフィルタほど、通過帯域における減衰量の変動(リップル)が大きくなる傾向にあり、このリップルがアナログ処理ブロック14の周波数特性の平坦さを悪化させる原因となる。
【0030】
本実施例では、このSAWフィルタの周波数特性も含んだアナログ処理ブロック14全体の周波数特性を補償する。以下その場合のフィルタ係数の決定法を説明する。
まずステップ1として、アナログ処理ブロック14の周波数特性を取得する。
例えばネットワークアナライザを用いる場合には、D/A変換器13の出力端とダミーロードを接続した電力増幅器146の出力端とをネットワークアナライザに接続し、希望周波数範囲を掃引して、振幅、位相情報を得る。
周波数掃引分解能としては、フィルタサンプリング周波数/Nであり、Nはディジタルフィルタ120(FIRフィルタ)のタップ数と同程度かそれ以下でも可能ではあるが、多い方がよい。
【0031】
ステップ2として、ステップ1で取得した周波数特性の逆特性を送信帯域内で実現するようなフィルタの周波数特性をI、Q相それぞれ設計する。フィルタのモデルとしてLow Pass filter、Band Pass filterあるいはAll Pass filterなどがあり、安定的なフィルタを実現できるのであれば何を用いてもよい。採用したモデルの理想特性(カットオフ周波数で振幅が1から0に階段状に変化するもの)に、取得した振幅、位相の周波数特性からI相、Q相ベクトル信号を算出し、その逆特性を合成する。ステップ1で周波数特性を離散的に取得している場合、各測定点を滑らかにあるいは直線的に結んで、目標とする周波数特性とする。またfs1/2以上の周波数においては、fs1/2等を境に折り返した特性とする。
【0032】
ステップ3として、ステップ2で設計した周波数特性のフィルタのインパルス応答をI、Q相それぞれ算出する。例えば離散フーリエ級数法によれば下記の式でインパルス応答C(i,q)が得られる。
【数1】

【0033】
ただし、C(i,q)はnサンプル後のインパルス応答、Nは0からfの間を等間隔に配置した点で周波数特性を代表させたときの点の数、Hi()は測定値から算出したI相の周波数特性、Hq()は測定値から算出したQ相の振幅特性であり、fはディジタルフィルタ部120におけるサンプリング周波数である。
振幅特性のみを補償したい場合には、上述で測定された振幅特性を用い、位相一定としてHi(),Hq()を求め、計算を実施する。
インパルス応答から図6のようなFIRフィルタ(トランスバーサル型)のタップ係数aは、
=c(N−1)−m(0≦m≦N/2)
(N/2)+m=c(N/2<m≦N−1)
により得られる。ただしmはタップ数である。また、タップ係数には必要に応じてハミング、ガウスで代表される窓関数処理を施す場合がある。
【0034】
[第3の実施形態]
アナログ処理ブロック14(図1,図5)は、抵抗、コンデンサ、コイル、ダイオード、トランジスタまたはIC等のアナログ回路素子で構成されているため、周波数依存特性に加えて温度依存性を有する。
そのため、上記第1の実施形態に示したようにアナログ処理ブロック14(図5)の周波数特性の影響を緩和しても、周囲の温度が変化すると、アナログ処理ブロック14の周波数特性も変化してその影響を十分に緩和できない場合もある。
そこで、第3の送信機3は、温度に応じてFIRフィルタ120の係数(フィルタ係数)を設定して、アナログ処理ブロック14の温度依存性の影響を緩和する。
【0035】
図9は、本発明にかかる第3の送信機3の構成を示す図である。
図9に示すように、第3の送信機3は、第2の送信機2(図5)に、係数設定部222、係数記録部224及び温度測定部248を追加した構成をとる。
なお、図9に示す送信機3の構成部分の内、図5に示した送信機2の構成部分と実質的に同じものには、同じ符号が付されている。
【0036】
温度測定部248(図9)は、既定の時間間隔でアナログ処理ブロック14内部の温度を測定し、測定結果を温度データとして係数設定部222に対して出力する。
例えば、温度測定部248は、抵抗、コンデンサ、コイル、ダイオード、トランジスタ又はIC等のアナログ回路素子の表面温度を測定し、温度データとして係数設定部222に対して出力する。
係数設定部222(図9)は、温度測定部248から入力された温度データに対応するフィルタ係数を係数記録部224から読み出してFIRフィルタ120に対して出力する。
FIRフィルタ120の乗算部124(図6)は、係数設定部222から入力されたフィルタ係数を、入力された信号に対して乗じる。
【0037】
図10は、係数記録部224が記録する係数テーブルを例示する図である。
図10に例示するように、係数記録部224は、アナログ処理ブロック14の温度とフィルタ係数とを互いに対応付ける係数テーブルを記録する。
係数記録部224に記録されるフィルタ係数は、各温度領域におけるアナログ処理ブロック14(図9)の周波数特性を補償するように設定された係数a〜aの組である。
【0038】
このように、第3の送信機3は、アナログ処理ブロック14の温度に応じてフィルタ係数を設定し、設定されたフィルタ係数を用いてアナログ処理ブロック14の周波数特性を補償するので、アナログ処理ブロック14の温度依存性の影響も緩和することができる。
【0039】
[第4の実施形態]
アナログ処理ブロック14(図1,図5)は、抵抗、コンデンサ、コイル、ダイオード、トランジスタまたはIC等のアナログ回路素子で構成されているため、周波数依存特性が経年変化する。
そのため、上記第2の実施形態に示したようにアナログ処理ブロック14(図5)の周波数特性の影響を工場出荷時点では緩和できていても、時間が経過すると、アナログ処理ブロック14の周波数特性も変化してその影響を十分に緩和できない場合もある。
そこで、第4の送信機4は、設置後の運用中に自己キャリブレーションを行ってFIRフィルタ120の係数(フィルタ係数)を再設定し、アナログ処理ブロック14の経年変化の影響を緩和する。
【0040】
図12は、本発明にかかる第4の送信機4の構成を示す図である。第4の送信機4は、第2の送信機2(図5)に、係数設定部322、電力算出部324、電力測定部348、ピークリミッタ部308、及びDPD(Digital PreDistortion)326部を追加した構成をとる。
【0041】
ピークリミッタ部308は、特にマルチキャリア送信機において、電力増幅器146の電力効率を改善するために、送信信号の歪の発生を抑えつつピークを抑圧する。
DPD部326は、電力増幅器146の逆の歪特性を発生して、電力増幅器146で発生する非線形歪を補償する。本発明のディジタルフィルタ部120は、線形の周波数特性を補償するものであり、補償する歪がDPD部326とは異なる。
なお、ピークリミッタ部308及びDPD部326は本実施例に必須の構成ではない。
【0042】
電力測定部348は、異なる複数の周波数、例えば各キャリアの周波数f+f等で平均電力を測定する。具体的な構成としては、結合器により電力増幅器146の出力の一部を取り出して入力すると、まず各キャリアの周波数を時分割に出力する局部発振器の信号と混合され、直流付近の1キャリア分の信号だけ通過させるようなLPF処理を行い、包絡線検波することで電力値を各キャリアで時分割に得る。あるいは他の構成としては、入力信号を任意の周波数にダウンコンバートし、送信帯域を通過させるBPF処理を行い、A/D変換し、任意のサンプル数でFFT(Fast Fourier transform)処理し、取り出された各周波数成分をI、Q相の自乗平均により検波して電力値を一括に得る。
【0043】
電力算出部324は、異なる複数の周波数、例えば各キャリアの周波数f+f等で平均電力を算出する。具体的な構成としては、各キャリアのベースバンドシグナル#1〜#nを入力し、I、Q成分の自乗平均により検波して各キャリアの電力値を算出する。あるいは他の構成として、ピークリミッタ部308あるいは変調波合成部106の出力を入力し、任意のサンプル数でFFT処理し、取り出された各周波数成分を同様に検波して電力値を算出する。
【0044】
係数設定部322は、電力算出部324と電力測定部348とで同じ期間に測定された対応する周波数の電力値を比較し、その比が送信帯域内の全ての周波数で一定になるように、ディジタルフィルタ部120のタップ係数を更新する。例えば、その比の周波数特性を現在のディジタルフィルタ部120の周波数特性に重み付き合成して得られる周波数特性を実現するタップ係数を第2の実施形態と同様に再計算して新しいタップ係数とする。更新処理は、経年変化に追従できればよいので非常に遅くてもよく、精度を高めるためには電力算出部324又は電力測定部348で算出あるいは測定する電力を十分長い時間平均したほうがよい。ただし、各キャリアの合成瞬時電力が大きくなる時にはピークリミッタ部308又はDPD部326における非線形性が強くなり、電力値の測定精度つまりアナログ処理ブロック14の周波数特性の測定精度が悪化するので、そのときの電力値は平均計算に採用しないほうがよい。
【0045】
本実施形態は、第3の実施形態と組み合わせてもよい。つまり複数の温度毎にタップ係数を記憶するとともに、温度毎にタップ係数を更新してもよい。
本実施形態によれば、特にDPD部326が電力増幅器146の出力を復調し、本来の送信信号(ピークリミッタ部308の出力)との誤差を最小にするように制御する方式の場合に、アナログ処理ブロック14の線形の周波数特性による歪が補償されているために、その誤差が電力増幅器146の非線形性によるものだけとなり検出精度が高まるので、DPD制御の収束性が良くなることが期待される。
【0046】
[変形例1]
なお、上記第1〜第4の実施形態では、CDMA方式の送信機に本発明を適用した形態を説明したが、本発明は、OFDM(orthogonal frequency division multiplexing)方式の送信機に適用することもできる。
図11は、本発明にかかる第5の送信機5の構成を示す図である。
図11に示すように、第5の送信機5は、図9に示した第3の送信機3について、帯域制限フィルタ102、直交変調部104及び変調波合成部106を、シリアル/パラレル変換部(S/P)112、マッピング部114、IFFT部116及び直交変調部118に置換した構成をとる。
なお、図11に示す送信機5の構成部分の内、図9に示した送信機3の構成部分と実質的に同じものには、同じ符号が付されている。
送信機5は、上記構成により、OFDM方式のマルチキャリア信号を生成し送信する。
【0047】
[変形例2]
図13は、本発明にかかる第6の送信機6の構成を示す図である。
図13に示すように、第6の送信機6は、OFDM方式の送信機に第4の実施形態を適用し、更に電力増幅部の出力が空中に放射されるまでの周波数特性をも補償するためにディジタルフィルタを備えたものであり、地上ディジタルテレビ放送用のISDB−T(Integrated Services Digital Broadcasting−Terrestrial)信号の送信を行うことを想定している。第4の実施形態(図12)又は変形例1(図11)と同一の符号を付した部分は、第4の実施形態又は変形例1と同じ構成である。
【0048】
共用器/結合器147は、電力増幅部146とアンテナ148とを接続する。一般にテレビ放送機は、1つの鉄塔に複数の局のアンテナが近接して設置されるので、他局の送信波がアンテナ148から電力増幅部146に回り込んで混変調を起こすのを防ぐため、他局の周波数を減衰させるノッチフィルタを設けることがある。また、出力アップあるいは信頼性向上のために電力増幅器を複数台備えて合成したり、多面合成アンテナのようなアレイアンテナに分配して給電するためのハイブリッド(3dBカプラ)、故障時に冗長系に切替えるため、あるいは、他局と共用するための同軸切替器(無停波切替器)、あるいは、共用器を設けることがある。
これらの他、また同軸ケーブル自体も周波数特性を有し、共用器/結合器147は、これらの周波数特性を代表させたものである。共用器/結合器147の周波数特性はそれほど顕著ではないが補償されることが望ましい。
【0049】
アンテナ149は、アンテナ148から空中に放射された信号を受信する。アンテナ149で得られる信号は、電力増幅器146から出力された後、共用器/結合器147、アンテナ148及びアンテナ149自身の周波数特性を受けた信号である。よってアンテナ149の周波数特性は無視できるほど小さくするか、あるいは、後段の電力測定部349などで固定値により補償した方がよい。また、アンテナ148の指向性が周波数特性を有する場合、その周波数特性が小さい位置(一例として、アンテナ148が回転対称な形状の場合、その回転軸上)にアンテナ149を取り付けたほうがよい。
【0050】
電力測定部349は、アンテナ149で受信したISDB−T信号を復調し、各キャリアのパイロットシンボル(例えばScattered pilot)のパワーを測定する。
電力測定部349は、電力測定部348と同様の構成でよい。
電力算出部324も、周波数変換、直交検波が不要な点を除いて、電力測定部349と同一の構成でよい。これにより、IFFT部116とディジタルフィルタ121との設置距離に関わらずに各キャリアの電力を算出できる。あるいは、パイロットシンボルの電力が固定で既知なのであれば、電力算出部324は、その固定値を出力し続ければよく、ISDB−T信号の復調も不要である。
【0051】
係数設定部323は、電力算出部324と電力測定部349で対応する期間に測定された各キャリアの電力値を比較し、その比が送信帯域内の全ての周波数で一定になるように、ディジタルフィルタ部120のタップ係数を更新する。この動作は、第4の実施形態の係数設定部322とほぼ同様である。比は、パイロットシンボル毎に算出して平均してもよく、あるいは、複数のパイロットシンボルの平均電力を求めてから比を算出してもよい。平均期間は十分長いほうが精度が良くなるが、系切替時などの応答性を高めるため、系切替などが障害情報を入力するようにし、系切替など外部要因により周波数特性の変化が想定されるときには平均時間(時定数)を一時的に小さくするようにしてもよい。
【0052】
中央局からの放送波又はミリ波帯のIFに変換されたISDB−T信号を受信し、ISDB−Tを復調することなく再送信するサテライト局においては、S/P112、マッピング部114、IFFT部116を備えず、直交検波及びA/D変換された受信信号がディジタルフィルタ部120に入力されることがある。つまり伝送路やそれらの受信系の周波数特性を受けた信号が入力される場合、ディジタルフィルタ部120はそれらの周波数特性を補償してもよい。これは電力算出部324が各キャリアの電力として既知の固定値を出力することで達成される。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ディジタル信号処理およびアナログ信号処理によりマルチキャリア通信方式の伝送信号を生成するマルチキャリア信号処理装置に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブキャリア成分を含むディジタル形式のマルチキャリア信号を生成するマルチキャリア信号生成手段と、
前記生成されたマルチキャリア信号を、アナログ形式の伝送信号に変換するディジタル/アナログ変換手段と、
前記変換された伝送信号に対して、アナログ信号処理を施すアナログ信号処理手段と、
前記ディジタル形式のマルチキャリア信号に対して、前記アナログ信号処理手段の周波数特性に応じた補正を施す補正手段と
を有するマルチキャリア信号処理装置。
【請求項2】
前記アナログ信号処理手段は、温度に応じて周波数特性が変化するアナログ回路素子を含み、
このアナログ回路素子またはアナログ回路素子の近傍の温度を計測する温度計測手段
をさらに有し、
前記補正手段は、前記計測された温度に応じて補正量を決定する
請求項1に記載のマルチキャリア信号処理装置。
【請求項3】
前記補正手段は、
前記計測された温度に応じたフィルタ係数を設定する係数設定手段と、
前記設定されたフィルタ係数に応じて、マルチキャリア信号を補正するディジタルフィルタと
を含む請求項2に記載のマルチキャリア信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【国際公開番号】WO2005/025079
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513620(P2005−513620)
【国際出願番号】PCT/JP2004/012109
【国際出願日】平成16年8月24日(2004.8.24)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】